国立国会図書館 書籍
(論語一),
(二),
(三),
(四)
検索:(「論語」の読み方)
(古の人は男女七歳から孝経、論語を誦した-小学より-)ー温故知新ー
論語 (朱熹集註)
論語序説
史記世家曰、孔子名丘、字仲尼、其先宋人。父叔梁紇、母顏氏。以魯襄公二十二年、庚戌之歳十一月庚子、生孔子於魯昌平郷陬邑。爲兒嬉戯、常陳俎豆、設禮容。及長爲委吏。料量平。委吏、本作季氏史。索隱云、一本作委吏。與孟子合。今從之。
【読み】
史記の世家に曰く、孔子、名は丘、字は仲尼、其の先は宋人。父は叔梁紇、母は顏氏。魯の襄公二十二年、庚戌の歳十一月庚子を以て、孔子を魯の昌平郷の陬邑に生めり。兒爲りしときの嬉戯、常に俎豆を陳ね、禮容を設く。長[ひととなる]に及んで委吏と爲る。料量平かなり。委吏は、本に季氏の史に作る。索隱に云う、一本に委吏に作る、と。孟子と合う。今之に從う。
爲司職吏。畜蕃息。職、見周禮牛人。讀爲樴。義與杙同。蓋繋養犧牲之所。此官卽孟子所謂乘田。
【読み】
司職の吏と爲る。畜[けもの]蕃息す。職は周禮の牛人に見ゆ。讀みは樴とす。義は杙と同じ。蓋し犧牲を繋養する所なり。此の官卽ち孟子謂う所の乘田なり。
適周、問禮於老子。旣反、而弟子益進。昭公二十五年甲申、孔子年三十五、而昭公奔齊。魯亂。於是適齊。爲高昭子家臣、以通乎景公。有聞韶・問政二事。
【読み】
周に適いて、禮を老子に問う。旣に反って、弟子益々進む。昭公二十五年甲申、孔子年三十五にして、昭公齊に奔る。魯亂る。是に於て齊に適く。高昭子が家臣と爲って、以て景公に通ず。韶を聞き、政を問うの二事有り。
公欲封以尼谿之田。晏嬰不可。公惑之。有季孟吾老之語。
【読み】
公、封ずるに尼谿の田を以てせんと欲す。晏嬰可[き]かず。公之に惑う。季孟、吾老いたりの語有り。
孔子遂行、反乎魯。定公元年壬辰、孔子年四十三、而季氏強僭。其臣陽虎作亂專政。故孔子不仕而退、修詩書禮樂。弟子彌衆。九年庚子、孔子年五十一、公山不狃以費畔季氏。召孔子。欲往而卒不行。有答子路東周語。
【読み】
孔子遂に行[さ]って、魯に反る。定公元年壬辰、孔子年四十三にして、季氏強僭す。其の臣陽虎亂を作して政を專[ほしいまま]にす。故に孔子仕えずして退き、詩書禮樂を修む。弟子彌々衆し。九年庚子、孔子年五十一、公山不狃[ふじゅう]費を以[ひきい]て季氏に畔[そむ]く。孔子を召[よ]ぶ。往かまく欲して卒に行かず。子路に答うる東周の語有り。
定公以孔子爲中都宰。一年四方則之。遂爲司空。又爲大司寇。十年辛丑、相定公、會齊侯于夾谷。齊人歸魯侵地。十二年癸卯、使仲由爲季氏宰、墮三都、收其甲兵。孟氏不肯墮成。圍之不克。十四年乙巳、孔子年五十六、攝行相事。誅少正卯。與聞國政三月、魯國大治。齊人歸女樂、以沮之。季桓子受之。郊又不致膰俎於大夫。孔子行。魯世家以此以上、皆爲十二年事。
【読み】
定公孔子を以て中都の宰とす。一年にして四方之に則る。遂に司空と爲る。又大司寇と爲る。十年辛丑、定公に相として、齊侯と夾谷に會す。齊人魯に侵[おか]せる地を歸す。十二年癸卯、仲由をして季氏が宰として、三都を墮[こぼ]ちて、其の甲兵を收めしむ。孟氏肯[あえ]て成を墮たず。之を圍んで克たず。十四年乙巳、孔子年五十六、相の事を攝[か]ね行う。少正卯を誅す。國政を聞くに與ること三月、魯國大いに治まる。齊人女樂を歸[おく]って、以て之を沮む。季桓子之を受く。郊に又膰俎を大夫に致さず。孔子行る。魯の世家、此れ以上を以て、皆十二年の事と爲す。
適衛、主於子路妻兄顏濁鄒家。孟子、作顏讐由。
【読み】
衛に適いて、子路が妻の兄顏濁鄒が家を主とす。孟子、顏讐由に作る。
適陳、過匡。匡人以爲陽虎而拘之。有顏淵後、及文王旣沒之語。
【読み】
陳に適かんとして匡を過[よぎ]る。匡人以て陽虎なりとして之を拘[とら]う。顏淵後る、及び文王旣に沒すの語有り。
旣解、還衛、主遽伯玉家。見南子。有矢子路、及未見好德之語。
【読み】
旣に解けて衛に還り、遽伯玉が家を主とす。南子に見[あ]う。子路に矢[ちか]い、及び未だ德を好むものを見ずの語有り。
去適宋。司馬桓魋欲殺之。有天生德語、及微服過宋事。
【読み】
去って宋に適く。司馬桓魋之を殺さまく欲す。天德を生ぜりの語、及び微服して宋を過ぐの事有り。
又去適陳、主司城貞子家。居三歳、而反于衛。靈公不能用。有三年有成之語。
【読み】
又去って陳に適き、司城貞子が家を主とす。居ること三歳にして衛に反る。靈公用うること能わず。三年にして成すこと有らんの語有り。
晉趙氏家臣佛肸、以中牟畔。召孔子。孔子欲往、亦不果。有答子路堅白語、及荷蕢過門事。
【読み】
晉の趙氏が家臣佛肸[ひつきつ]、中牟[ちゅうぼう]を以て畔く。孔子を召ぶ。孔子往かまく欲して亦果たさず。子路に答うる堅白の語、及び蕢を荷いて門を過ぐの事有り。
將西見趙簡子、至河而反。又主蘧伯玉家。靈公問陳。不對而行。復如陳。據論語、則絶糧當在此時。
【読み】
將に西のかた趙簡子に見わんとして、河に至って反る。又蘧伯玉が家を主とす。靈公陳を問う。對えずして行る。復陳に如[ゆ]く。論語に據るに、則ち糧を絶つは當に此の時に在るべし。
季桓子卒。遺言謂康子、必召孔子。其臣止之。康子乃召冉求。史記以論語歸與之歎、爲在此時。又以孟子所記歎詞、爲主司城貞子時語。疑不然。蓋語・孟所記、本皆此一時語、而所記有異同耳。
【読み】
季桓子卒す。遺言して康子に謂う、必ず孔子を召べ、と。其の臣之を止む。康子乃ち冉求を召ぶ。史記、論語歸んなんの歎を以て、此の時に在りとす。又孟子記す所の歎詞を以て、司城貞子を主とする時の語とす。疑うらくは然らず。蓋し語・孟の記す所、本皆此れ一時の語にして、記す所異同有るのみ。
孔子如蔡及葉。有葉公問答、子路不對、沮溺耦耕、荷蓧丈人等事。史記云、於是楚昭王使人聘孔子。孔子將往拜禮。而陳蔡大夫、發徒圍之。故孔子絶糧於陳蔡之閒。有慍見、及告子貢一貫之語。按是時、陳蔡臣服於楚。若楚王來聘孔子、陳蔡大夫安敢圍之。且據論語、絶糧當在去衛如陳之時。
【読み】
孔子蔡及び葉に如く。葉公の問答、子路對えず、沮溺耦耕、荷蓧丈人等の事有り。史記に云う、是に於て楚の昭王、人をして孔子を聘せしむ。孔子將に往きて禮を拜せんとす。而して陳蔡の大夫、徒を發して之を圍む。故に孔子糧を陳蔡の閒に絶つ。慍見、及び子貢に告ぐる一貫の語有り、と。按ずるに是の時、陳蔡楚に臣服す。若し楚王來て孔子を聘せば、陳蔡の大夫安んぞ敢えて之を圍まんや。且[また]論語に據るに、糧を絶つは當に衛を去りて陳に如く時に在るべし。
楚昭王將以書社地封孔子。令尹子西不可。乃止。史記云、書社地七百里。恐無此理。時則有接輿之歌。
【読み】
楚の昭王將に書社の地を以て孔子を封ぜんとす。令尹子西可かず。乃ち止む。史記に云う、書社の地は七百里、と。恐らくは此の理無からん。時に則ち接輿の歌有り。
又反乎衛。時靈公已卒。衛君輒欲得孔子爲政。有魯衛兄弟、及答子貢伯夷叔齊、子路正名之語。
【読み】
又衛に反る。時に靈公已に卒す。衛君輒[ちょう]、孔子を得て政をせまく欲す。魯衛は兄弟、及び子貢に答うる伯夷叔齊、子路名を正さんの語有り。
而冉求爲季氏將、與齊戰有功。康子乃召孔子。而孔子歸魯。實哀公之十一年丁巳、而孔子年六十八矣。有對哀公及康子語。
【読み】
而して冉求季氏が將と爲り、齊と戰って功有り。康子乃ち孔子を召ぶ。而して孔子魯に歸る。實に哀公の十一年丁巳にして、孔子年六十八なり。哀公及び康子に對うる語有り。
然魯終不能用孔子。孔子亦不求仕。乃敍書傳禮記、有杞宋、損益、從周等語。
【読み】
然れども魯終に孔子を用うること能わず。孔子も亦仕えんことを求めず。乃ち書傳禮記を敍[つい]で、杞宋、損益、周に從わん等の語有り。
刪詩正樂、有語大師、樂正之語。
【読み】
詩を刪[けず]り樂を正し、大師に語り、樂正しの語有り。
序易彖・繋・象、說卦・文言。有假我數年之語。
【読み】
易の彖・繋・象、說卦・文言を序[つい]ず。我に數年を假さばの語有り。
弟子蓋三千焉。身通六藝者七十二人。弟子顏囘最賢蚤死。後唯曾參得傳孔子之道。
【読み】
弟子蓋し三千。身六藝に通ずる者七十二人。弟子の顏囘最も賢にして蚤死す。後唯曾參のみ孔子の道を傳うるを得。
十四年庚申、魯西狩獲麟。有莫我知之歎。
【読み】
十四年庚申、魯、西のかた狩して麟を獲たり。我を知るもの莫しの歎有り。
孔子作春秋。有知我罪我等語。論語請討陳恆事、亦在是年。
【読み】
孔子春秋を作る。我を知り我を罪する等の語有り。論語、陳恆を討つを請う事も、亦是の年に在り。
明年辛酉、子路死於衛。十六年壬戌、四月己丑、孔子卒。年七十三。葬魯城北泗上。弟子皆服心喪三年而去。惟子貢廬於冢上凡六年。孔子生鯉。字伯魚。先卒。伯魚生伋。字子思。作中庸。子思學於曾子、而孟子受業子思之門人。
【読み】
明年辛酉、子路衛に死んぬ。十六年壬戌、四月己丑、孔子卒す。年七十三。魯の城北の泗上に葬る。弟子皆心喪を服すること三年にして去る。惟子貢のみ冢上に廬すること凡て六年。孔子、鯉を生む。伯魚と字す。先ず卒す。伯魚、伋を生む。子思と字す。中庸を作る。子思曾子に學び、而して孟子業を子思の門人に受く。
何氏曰、魯論語二十篇、齊論語別有問王・知道、凡二十二篇。其二十篇中、章句頗多於魯論。古論出孔氏壁中。分堯曰下章子張問以爲一篇。有兩子張。凡二十一篇、篇次不與齊・魯論同。
【読み】
何氏曰く、魯の論語二十篇、齊の論語別に問王・知道有り、凡て二十二篇。其の二十篇の中、章句頗る魯の論よりも多し。古論は孔氏の壁中より出づ。堯曰の下の章、子張問うというを分けて以て一篇とす。兩つの子張有り。凡て二十一篇、篇次、齊・魯の論と同じからず。
程子曰、論語之書、成於有子・曾子之門人。故其書獨二子以子稱。
【読み】
程子曰く、論語の書は、有子・曾子の門人に成る。故に其の書獨[ただ]二子のみ子を以て稱す。
程子曰、讀論語、有讀了全然無事者。有讀了後、其中得一兩句喜者。有讀了後、知好之者。有讀了後、直有不知手之舞之、足之蹈之者。
【読み】
程子曰く、論語を讀み、讀み了って全然無事なる者有り。讀み了って後、其の中一兩句を得て喜ぶ者有り。讀み了って後、之を好むことを知る者有り。讀み了って後、直ちに手の之を舞い、足の之を蹈むことを知らざること有る者有り。
程子曰、今人不會讀書。如讀論語、未讀時、是此等人、読了後、又只是此等人。便是不曾讀。
【読み】
程子曰く、今の人、書を讀むことを會さず。論語を讀むが如き、未だ讀まざる時、是れ此れ等の人、読み了って後も又只是れ此れ等の人なるは、便ち是れ曾て讀まざるなり。
程子曰、頤自十七八讀論語。當時已曉文義。讀之愈久、但覺意味深長。
【読み】
程子曰く、頤、十七八より論語を讀む。當時已に文義を曉る。之を讀むこと愈々久しうして、但意味の深長なることを覺う。
論語卷之一
學而第一 此爲書之首篇。故所記多務本之意。乃入道之門、積德之基、學者之先務也。凡十六章。
【読み】
學而第一 此れ書の首篇爲り。故に記す所、本を務むるの意多し。乃ち道に入るの門、德を積むの基にして、學者の先務なり。凡て十六章。
學而1
○子曰、學而時習之、不亦說乎。說、悦同。○學之爲言效也。人性皆善。而覺有先後。後覺者必效先覺之所爲、乃可以明善而復其初也。習、鳥數飛也。學之不已、如鳥數飛也。說、喜意也。旣學而又時時習之、則所學者熟、而中心喜說、其進自不能已矣。程子曰、習、重習也。時復思繹、浹洽於中、則說也。又曰、學者將以行之也。時習之、則所學者在我。故說。謝氏曰、時習者、無時而不習。坐如尸、坐時習也。立如齊、立時習也。
【読み】
○子曰く、學んで時[よりより]之を習わす、亦說ばしからざらんや。說は悦に同じ。○學の言爲るは效なり。人の性は皆善。而して覺るに先後有り。後覺者は、必ず先覺のする所を效えば、乃ち以て善を明らかにして其の初に復る可し。習うは、鳥の數々飛ぶなり。之を學びて已まざる、鳥の數々飛ぶが如し。說は、喜ぶ意なり。旣に學びて又時時之を習うときは、則ち學ぶ所の者熟して、中心喜說し、其の進むこと自ら已むこと能わざるなり。程子曰く、習は重習なり。時復思繹し、中に浹洽するときは、則ち說ぶなり、と。又曰く、學者は將に以て之を行わんとす。時之を習うときは、則ち學ぶ所の者我に在り。故に說ぶ、と。謝氏曰く、時習うは、時として習わざること無し。坐するに尸の如しは、坐す時の習いなり。立つに齊の如しは、立つ時の習いなり、と。
有朋自遠方來、不亦樂乎。樂、音洛。○朋、同類也。自遠方來、則近者可知。程子曰、以善及人、而信從者衆。故可樂。又曰、說在心。樂主發散在外。
【読み】
朋有り遠方より來る、亦樂しからざらんや。樂の音は洛。○朋は同類なり。遠方より來るときは、則ち近き者は知る可し。程子曰く、善を以て人に及ぼして、信じ從う者衆し。故に樂しむ可し、と。又曰く、說は心に在り。樂は發散して外に在るを主とす、と。
人不知而不慍。不亦君子乎。慍、紆問反。○慍、含怒意。君子、成德之名。尹氏曰、學在己。知不知在人。何慍之有。程子曰、雖樂於及人、不見是而無悶、乃所謂君子。愚謂、及人而樂者、順而易。不知而不慍者、逆而難。故惟成德者能之。然德之所以成、亦由學之正、習之熟、說之深、而不已焉耳。○程子曰、樂由說而後得。非樂不足以語君子。
【読み】
人知らざれども慍[いきどお]らず。亦君子ならざらんや。慍は紆問の反。○慍は怒を含む意。君子は成德の名。尹氏曰く、學ぶは己に在り。知ると知らざるとは人に在り。何ぞ慍ることか之れ有らん、と。程子曰く、人に及ぶを樂しむと雖も、是とされずして悶ること無きは、乃ち所謂君子なり、と。愚謂えらく、人に及んで樂しむは、順にして易し。知られずして慍らざるは、逆にして難し。故に惟成德なる者のみ之を能くす。然れども德の成る所以も、亦學の正、習の熟、說の深くして、已まざるに由るのみ、と。○程子曰く、樂しむは說ぶに由りて後に得。樂しむに非ざれば以て君子を語るに足りず、と。
學而2
○有子曰、其爲人也孝弟、而好犯上者鮮矣。不好犯上、而好作亂者未之有也。弟・好、皆去聲。鮮、上聲。下同。○有子、孔子弟子、名、若。善事父母爲孝、善事兄長爲弟。犯上、謂干犯在上之人。鮮、少也。作亂、則爲悖逆爭鬭之事矣。此言人能孝弟、則其心和順、少好犯上、必不好作亂也。
【読み】
○有子曰く、其の爲人[ひととなり]孝弟にして、上を犯すことを好む者鮮し。上を犯すことを好まずして、亂を作すことを好む者未だ之れ有らず。弟・好は皆去聲。鮮は上聲。下も同じ。○有子は孔子の弟子、名は若。善く父母に事うるを孝とし、善く兄長に事うるを弟とす。上を犯すは、上に在る人を干犯するを謂う。鮮は少なり。亂を作すは、則ち悖逆爭鬭の事を爲すなり。此れ言うこころは、人能く孝弟なるときは、則ち其の心和順、上を犯すを好むこと少なければ、必ず亂を作すを好まざるなり、と。
君子務本。本立而道生。孝弟也者、其爲仁之本與。與、平聲。○務、專力也。本、猶根也。仁者、愛之理、心之德也。爲仁、猶曰行仁。與者、疑辭、謙退不敢質言也。言君子凡事專用力於根本。根本旣立、則其道自生。若上文所謂孝弟、乃是爲仁之本。學者務此、則仁道自此而生也。○程子曰、孝弟、順德也。故不好犯上。豈復有逆理亂常之事。德有本。本立則其道充大。孝弟行於家、而後仁愛及於物。所謂親親而仁民也。故爲仁以孝弟爲本、論性則以仁爲孝弟之本。或問、孝弟爲仁之本、此是由孝弟可以至仁否。曰、非也。謂行仁自孝弟始。孝弟是仁之一事。謂之行仁之本則可。謂是仁之本則不可。蓋、仁是性也。孝弟是用也。性中只有箇仁義禮智四者而已。曷嘗有孝弟來。然仁主於愛。愛莫大於愛親。故曰、孝弟也者、其爲仁之本與。
【読み】
君子は本を務む。本立って道生[な]る。孝弟は、其れ仁を爲[おこな]うの本か。與は平聲。○務は力を專らにするなり。本は猶根のごとし。仁は愛の理、心の德なり。仁を爲うは、猶仁を行うと曰うがごとし。與は疑辭、謙退して敢えて質言せざるなり。言うこころは、君子は凡事、專ら力を根本に用う。根本旣に立つときは、則ち其の道自ら生る。上文謂う所の孝弟の若き、乃ち是れ仁を爲うの本なり。學者此を務むれば、則ち仁道此より生るなり、と。○程子曰く、孝弟は順德なり。故に上を犯すを好まず。豈復理に逆い常を亂す事有らんや。德に本有り。本立つときは則ち其の道充大す。孝弟家に行われて後仁愛物に及ぶ。所謂親に親しみて民に仁するなり。故に仁を爲うは孝弟を以て本とし、性を論ずるときは則ち仁を以て孝弟の本とす。或ひと問う、孝弟は仁を爲うの本なれば、此は是れ孝弟に由りて以て仁に至る可きや否や、と。曰く、非なり。仁を行うは孝弟より始むるを謂う。孝弟は是れ仁の一事なり。之を仁を行うの本と謂うは則ち可なり。是れ仁の本と謂うは則ち不可なり。蓋し、仁は是れ性なり。孝弟は是れ用なり。性の中は只箇の仁義禮智の四つの者有るのみ。曷[なん]ぞ嘗て孝弟有り來らん。然れども仁は愛を主とす。愛は親を愛するより大なるは莫し。故に曰く、孝弟なる者は、其れ仁を爲うの本かと、と。
學而3
○子曰、巧言令色、鮮矣仁。巧、好。令、善也。好其言、善其色、致飾於外、務以悦人、則人欲肆、而本心之德亡矣。聖人辭不迫切。專言鮮、則絶無可知。學者所當深戒也。○程子曰、知巧言令色之非仁、則知仁矣。
【読み】
○子曰く、言[こと]を巧[よ]くし色を令[よ]くするは、鮮いかな仁。巧は好。令は善なり。其の言を好み、其の色を善くし、外を致飾し、努めて以て人を悦ばすときは、則ち人欲肆[ほしいまま]にして、本心の德亡ぶ。聖人の辭迫切ならず。專ら鮮しと言うときは、則ち絶えて無きことと知る可し。學者の當に深く戒むべき所なり。○程子曰く、巧言令色の仁に非ざるを知るときは、則ち仁を知るなり、と。
學而4
○曾子曰、吾日三省吾身。爲人謀而不忠乎。與朋友交而不信乎。傳不習乎。省、悉井反。爲、去聲。傳、平聲。○曾子、孔子弟子、名參、字子輿。盡己之謂忠、以實之謂信。傳、謂受之於師。習謂熟之於己。曾子以此三者、曰省其身、有則改之、無則加勉。其自治誠切如此。可謂得爲學之本矣。而三者之序、則又以忠信爲傳習之本也。○尹氏曰、曾子守約、故動必求諸身。謝氏曰、諸子之學、皆出於聖人。其後愈遠、而愈失其眞。獨曾子之學、專用心於内。故傳之無弊。觀於子思・孟子可見矣。惜乎其嘉言善行、不盡傳於世也。其幸存而未泯者、學者其可不盡心乎。
【読み】
○曾子曰く、吾日に三たび吾が身を省みる。人の爲に謀って忠ならざるか。朋友と交わって信ならざるか。傳えて習わざるか、と。省は悉井の反。爲は去聲。傳は平聲。○曾子は孔子の弟子、名は參、字は子輿。己を盡くすを之れ忠と謂い、實を以てするを之れ信と謂う。傳うは、之を師より受くるを謂う。習うは之を己に熟すを謂う。曾子此の三つの者を以て、曰に其の身を省み、有るときは則ち之を改め、無いときは則ち勉を加う。其の自ら治むることの誠切、此の如し。學を爲すの本を得たりと謂う可し。而して三つの者の序は、則ち又忠信を以て傳習の本とするなり。○尹氏曰く、曾子守約、故に動くに必ず諸を身に求む、と。謝氏曰く、諸子の學は、皆聖人より出づ。其の後愈々遠くして、愈々其の眞を失う。獨[ただ]曾子の學のみ、專ら心を内に用う。故に之を傳うるに弊[ついえ]無し。子思・孟子を觀て見る可し。惜しいかな、其の嘉言善行、盡くは世に傳わらず。其の幸にも存して未だ泯びざる者は、學者、其れ心を盡くさざることある可けんや、と。
學而5
○子曰、道千乘之國、敬事而信、節用而愛人、使民以時。道・乘、皆去聲。○道、治也。千乘、諸侯之國、其地可出兵車千乘者也。敬者、主一無適之謂。敬事而信者、敬其事而信於民也。時、謂農隙之時。言治國之要、在此五者。亦務本之意也。○程子曰、此言至淺。然當時諸侯果能此、亦足以治其國矣。聖人言雖至近、上下皆通。此三言者、若推其極、堯舜之治、亦不過此。若常人之言近、則淺近而已矣。楊氏曰、上不敬則下慢、不信則下疑。下慢而疑、事不立矣。敬事而信、以身先之也。易曰、節以制度、不傷財、不害民。蓋侈用則傷財、傷財必至於害民。故愛民必先於節用。然使之不以其時、則力本者不獲自盡。雖有愛人之心、而人不被其澤矣。然此特論其所存而已。未及爲政也。苟無是心、則雖有政不行焉。胡氏曰、凡此數者、又皆以敬爲主。愚謂、五者反復相因、各有次第。讀者宜細推之。
【読み】
○子曰く、千乘の國を道「おさ」むるには、事を敬んで信あり、用を節して人を愛し、民を使うに時を以てす。道・乘は皆去聲。○道は治むるなり。千乘は諸侯の國、其の地、兵車千乘を出す可き者なり。敬は主一無適の謂なり。事を敬んで信は、其の事を敬んで民に信あるなり。時は農隙の時を謂う。言うこころは、國を治むるの要は、此の五つの者に在り、と。亦本を務むるの意なり。○程子曰く、此の言至って淺し。然れども當時の諸侯果たして此を能くせば、亦以て其の國を治むるに足るなり。聖人の言至近と雖も、上下皆通ず。此の三つの言は、若し其の極を推せば、堯舜の治も亦此に過ぎず。常人の近きを言うが若きは、則ち淺近のみ、と。楊氏曰く、上敬せずんば則ち下慢り、信ぜずんば則ち下疑う。下慢りて疑えば、事立たず。事を敬んで信は、身を以て之に先んずるなり。易に曰く、節するに制度を以てすれば、財を傷[そこな]わず、民を害さず、と。蓋し用を侈せば則ち財を傷い、財を傷えば必ず民を害するに至らん。故に民を愛するには必ず用を節するを先にす。然れども之を使うに其の時を以てせざるときは、則ち本を力むる者自ら盡くすことを獲ず。人を愛するの心有りと雖も、人其の澤を被らず。然れども此れ特に其の存する所を論ずるのみ。未だ政を爲すに及ばざるなり。苟に是の心無きときは、則ち政有りと雖も行われず、と。胡氏曰く、凡そ此の數者、又皆敬を以て主と爲す、と。愚謂えらく、五つの者反復相因りて、各々次第有り。讀者宜しく細かに之を推すべし。
學而6
○子曰、弟子入則孝、出則弟、謹而信、汎愛衆而親仁、行有餘力、則以學文。弟子之弟、上聲。則弟之弟、去聲。○謹者、行之有常也。信者、言之有實也。汎、廣也。衆、謂衆人。親、近也。仁、謂仁者。餘力、猶言暇日。以、用也。文、謂詩書六藝之文。○程子曰、爲弟子之職、力有餘則學文。不修其職而先文、非爲己之學也。尹氏曰、德行、本也。文藝、末也。窮其本末、知所先後、可以入德矣。洪氏曰、未有餘力而學文、則文滅其質。有餘力而不學文、則質勝而野。愚謂、力行而不學文、則無以考聖賢之成法、識事理之當然、而所行或出於私意。非但失之於野而已。
【読み】
○子曰く、弟子入りては則ち孝あり、出ては則ち弟あり、謹んで信[まこと]あり、汎く衆を愛して仁あるに親[ちか]づき、行って餘力有るときは、則ち以[もちい]て文を學ぶ。弟子の弟は上聲。則弟の弟は去聲。○謹むは、行に之れ常有るなり。信は、言に之れ實有るなり。汎は廣なり。衆は衆人を謂う。親は近づくなり。仁は仁者を謂う。餘力は、猶暇日と言うがごとし。以は用いるなり。文は詩書六藝の文を謂う。○程子曰く、弟子の職とするところは、力餘り有るときは則ち文を學ぶ。其の職を修めずして文を先にするは、己が爲の學に非ざるなり、と。尹氏曰く、德行は本なり。文藝は末なり。其の本末を窮め、先後する所を知れば、以て德に入る可し、と。洪氏曰く、未だ餘力有らずして文を學ぶときは、則ち文其の質を滅す。餘力有りて文を學ばざるときは、則ち質勝ちて野なり、と。愚謂えらく、力行して文を學ばざるときは、則ち以て聖賢の成法を考え、事理の當然を識ること無くして、行く所或は私意に出づ。但之を野に失するのみに非ず。
學而7
○子夏曰、賢賢易色、事父母能竭其力、事君能致其身、與朋友交言而有信、雖曰未學、吾必謂之學矣。子夏、孔子弟子、姓卜、名商。賢人之賢、而易其好色之心、好善有誠也。致、猶委也。委致其身、謂不有其身也。四者皆人倫之大者、而行之必盡其誠。學求如是而已。故子夏言、有能如是之人、苟非生質之美、必其務學之至、雖或以爲未嘗爲學、我必謂之已學也。○游氏曰、三代之學、皆所以明人倫也。能是四者、則於人倫厚矣。學之爲道、何以加此。子夏以文學名。而其言如此、則古人之所謂學者可知矣。故學而一篇、大抵皆在於務本。吳氏曰、子夏之言、其意善矣。然辭氣之閒、抑揚太過。其流之弊、將或至於廢學。必若上章夫子之言、然後爲無弊也。
【読み】
○子夏曰く、賢を賢として色に易え、父母に事[つかまつ]って能く其の力を竭くし、君に事って能く其の身を致し、朋友と交わり言[ものい]って信[まこと]有らば、未だ學びずと曰うと雖も、吾は必ず之を學びたりと謂わん。子夏は孔子の弟子、姓は卜、名は商。人の賢を賢として、其の色を好むの心に易えるは、善を好みて誠有るなり。致は猶委のごとし。其の身を委致するは、其の身有らざるを謂うなり。四つの者は皆人倫の大いなる者にて、之を行うに必ず其の誠を盡くせり。學は是の如きを求むるのみ。故に子夏の言、能く是の如き人有らば、苟[も]し生質の美に非ざれば、必ず其れ學を務むるの至りにて、或は以て未だ嘗て學を爲さずとすると雖も、我は必ず之を已に學びたりと謂うなり。○游氏曰く、三代の學は皆人倫を明らかにする所以なり。是の四つの者を能くせば、則ち人倫に於て厚し。學の道爲る、何を以て此に加えん。子夏、文學を以て名あり。而して其の言此の如くば、則ち古人の謂う所の學を知る可し。故に學而の一篇は、大抵皆本を務むるに在り、と。吳氏曰く、子夏の言、其の意善し。然れども辭氣の閒、抑揚太だ過ぐ。其の流の弊、將に或は學を廢[す]つるに至るべし。必ず上章夫子の言の若くして、然る後弊無きとするなり、と。
學而8
○子曰、君子不重則不威。學則不固。重、厚重。威、威嚴。固、堅固也。輕乎外者、必不能堅乎内。故不厚重、則無威嚴、而所學亦不堅固也。
【読み】
○子曰く、君子重からずんば則ち威あらず。學も則ち固からず。重は厚重。威は威嚴。固は堅固なり。外に輕き者は、必ず内に堅きこと能わず。故に厚重ならざるときは、則ち威嚴無くして、學ぶ所も亦堅固ならざるなり。
主忠信、人不忠信、則事皆無實。爲惡則易、爲善則難。故學者必以是爲主焉。程子曰、人道唯在忠信。不誠則無物。且出入無時、莫知其郷者、人心也。若無忠信、豈復有物乎。
【読み】
忠信を主とし、人忠信ならざるときは、則ち事は皆實無し。惡を爲すは則ち易く、善を爲すは則ち難し。故に學者は必ず是を以て主とす。程子曰く、人の道は唯忠信に在り。誠ならざれば則ち物無し。且出入に時無く、其の郷を知ること莫きは人心なり。若し忠信無くば、豈復物有らんや。
無友不如己者。無、毋通。禁止辭也。友所以輔仁。不如己、則無益而有損。
【読み】
己に如かざる者を友とすること無かれ。無と毋は通ず。禁止の辭なり。友は仁を輔くる所以なり。己に如かざるときは、則ち益無くして損有り。
過則勿憚改。勿亦禁止之辭。憚、畏難也。自治不勇、則惡日長。故有過則當速改。不可畏難而苟安也。程子曰、學問之道無他也。知其不善、則速改以從善而已。○程子曰、君子自修之道、當如是也。游氏曰、君子之道、以威重爲質、而學以成之。學之道、必以忠信爲主、而以勝己者輔之。然或吝於改過、則終無以入德、而賢者亦未必樂告以善道。故以過勿憚改終焉。
【読み】
過つときは則ち改むるに憚ること勿かれ。勿も亦禁止の辭。憚は畏難なり。自ら治むること勇ならざるときは、則ち惡日に長ず。故に過有るときは則ち當に速かに改むべし。畏難して苟安す可からず。程子曰く、學問の道は他無し。其の不善を知るときは、則ち速かに改め以て善に從うのみ、と。○程子曰く、君子の自ら修むる道は、當に是の如くあるべし、と。游氏曰く、君子の道は、威重を以て質と爲し、學以て之を成す。學の道は、必ず忠信以て主とし、己に勝る者を以て之を輔く。然れども或は過を改むるに吝なれば、則ち終に以て德に入ること無くして、賢者も亦未だ必ずしも善道を以て告ぐるを樂しまず。故に過ちては改むるに憚ること勿かれを以て終う、と。
學而9
○曾子曰、愼終追遠、民德歸厚矣。愼終者、喪盡其禮。追遠者、祭盡其誠。民德歸厚、謂下民化之、其德亦歸於厚也。蓋終者、人之所易忽也。而能謹之。遠者、人之所易忘也。而能追之。厚之道也。故以此自爲、則己之德厚、下民化之、則其德亦歸於厚也。
【読み】
○曾子曰く、終わりを愼み遠きを追えば、民の德厚きに歸[おもむ]く。終わりを愼むは、喪に其の禮を盡くすなり。遠きを追うは、祭に其の誠を盡くすなり。民の德厚きに歸くは、下民之に化し、其の德も亦厚きに歸くを謂うなり。蓋し終わりは、人の忽せにし易き所なり。而して能く之を謹む。遠きは、人の忘れ易き所なり。而して能く之を追う。厚の道なり。故に此を以て自ら爲むるときは、則ち己の德厚く、下民之に化すときは、則ち其の德も亦厚きに歸くなり。
學而10
○子禽問於子貢曰、夫子至於是邦也、必聞其政。求之與、抑與之與。之與之與、平聲。下同。○子禽、姓陳、名亢。子貢、姓端木、名賜。皆孔子弟子。或曰、亢、子貢弟子。未知孰是。抑、反語辭。
【読み】
○子禽子貢に問うて曰く、夫子の是の邦に至れるときに、必ず其の政を聞く。之を求むるか、抑々之を與うるか。之與の與は平聲。下も同じ。○子禽は、姓は陳、名は亢。子貢は、姓は端木、名は賜。皆孔子の弟子。或ひと曰く、亢は子貢の弟子、と。未だ孰か是なるを知らず。抑は反語の辭。
子貢曰、夫子温良恭儉讓以得之。夫子之求之也、其諸異乎人之求之與。温、和厚也。良、易直也。恭、莊敬也。儉、節制也。讓、謙遜也。五者夫子之盛德光輝接於人者也。其諸、語辭也。人、他人也。言夫子未嘗求之、但其德容如是。故時君敬信、自以其政就而問之耳。非若他人必求之而後得也。聖人過化存神之妙、未易窺測。然卽此而觀、則其德盛禮恭、而不願乎外、亦可見矣。學者所當僭心而勉學也。○謝氏曰、學者觀於聖人威儀之閒、亦可以進德矣。若子貢、亦可謂善觀聖人矣。亦可謂善言德行矣。今去聖人千五百年、以此五者想見其形容、尙能使人興起。而況於親炙之者乎。張敬夫曰、夫子至是邦、必聞其政。而未有能委國而授之以政者。蓋見聖人之儀刑、而樂告之者、秉彝好德之良心也。而私欲害之。是以終不能用耳。
【読み】
子貢曰く、夫子温良恭儉讓以て之を得。夫子の之を求むるは、其諸[そ]れ人の之を求むるに異なるか。温は和厚なり。良は易直なり。恭は莊敬なり。儉は節制なり。讓は謙遜なり。五つの者、夫子の盛德光輝、人に接する者なり。其諸は語の辭なり。人は他人なり。言うこころは、夫子未だ嘗て之を求めず、但其の德容是の如し。故に時君敬信し、自ら其の政を以て就きて之を問うのみ。他人の必ず之を求めて後得るが若きに非ざるなり、と。聖人の過化存神の妙、未だ窺測し易からず。然れども此に卽いて觀れば、則ち其の德盛んに禮恭しくして、外を願わざるも亦見る可し。學者の當に心を僭めて勉學すべき所のものなり。○謝氏曰く、學者、聖人の威儀の閒を觀れば、亦以て德に進む可し。子貢の若きも亦善く聖人を觀ると謂う可し。亦善く德行を言うと謂う可し。今聖人を去ること千五百年、此の五つの者を以て其の形容を想い見れば、尙能く人をして興起せしむ。而して況や之に親炙する者に於てや、と。張敬夫曰く、夫子の是の邦に至るや、必ず其の政を聞く。而して未だ能く國を委ねて之に授くるに政を以てする者有らず。蓋し聖人の儀刑を見て、之に告ぐるを樂しむは、彝[い]を秉[と]り德を好むの良心なり。而して私欲之を害す。是を以て終に用いること能わざるのみ、と。
學而11
○子曰、父在觀其志、父沒觀其行。三年無改於父之道、可謂孝矣。行、去聲。○父在、子不得自專。而志則可知。父沒、然後其行可見。故觀此足以知其人之善惡。然又必能三年無改於父之道、乃見其孝。不然、則所行雖善、亦不得爲孝矣。○尹氏曰、如其道、雖終身無改可也。如其非道、何待三年。然則三年無改者、孝子之心、有所不忍故也。游氏曰、三年無改、亦謂在所當改而可以未改者耳。
【読み】
○子曰く、父在すときは其の志を觀、父沒[お]わるときは其の行いを觀る。三年父の道を改むる無きを、孝と謂いつ可し。行は去聲。○父在せば、子自ら專[ほしいまま]にするを得ず。而して志は則ち知る可し。父沒わりて、然る後其の行いを見る可し。故に此を觀れば以て其の人の善惡を知るに足る。然れども又必ず能く三年父の道を改むること無くして、乃ち其の孝を見る。然らざれば、則ち行う所善と雖も、亦孝とするを得ず。○尹氏曰く、其れ道の如きは、終身改むること無きと雖も可なり。其れ道に非ざるの如きは、何ぞ三年を待たん。然れば則ち三年改むること無しは、孝子の心、忍びざる所有る故なり、と。游氏曰く、三年改むること無しは、亦當に改むべき所在りて以て未だ改めざる可き者を謂うのみ、と。
學而12
○有子曰、禮之用、和爲貴。先王之道斯爲美、小大由之。禮者、天理之節文、人事之儀則也。和者、從容不迫之意。蓋禮之爲體、雖嚴、然皆出於自然之理。故其爲用、必從容而不迫。乃爲可貴。先王之道、此其所以爲美、而小事大事、無不由之也。
【読み】
○有子曰く、禮の用は、和することを貴しと爲す。先王の道斯れを美[よし]と爲して、小大之に由る。禮は、天理の節文、人事の儀則なり。和は、從容として迫らざるの意なり。蓋し禮の體爲るは嚴と雖も、然れども皆自然の理に出づ。故に其の用爲るは、必ず從容として迫らず。乃ち貴ぶ可しとす。先王の道は、此れ其の美と爲す所以にして、小事大事、之に由らざること無し。
有所不行、知和而和、不以禮節之、亦不可行也。承上文而言。如此而復有所不行者、以其徒知和之爲貴、而一於和、不復以禮節之、則亦非復禮之本然矣。所以流蕩忘反、而亦不可行也。○程子曰、禮勝則離。故禮之用、和爲貴。先王之道、以斯爲美。而小大由之。樂勝則流。故有所不行者。知和而和、不以禮節之、亦不可行。范氏曰、凡禮之體主於敬、而其用則以和爲貴。敬者、禮之所以立也。和者、樂之所由生也。若有子、可謂達禮樂之本矣。愚謂嚴而泰、和而節、此理之自然、禮之全體也。毫釐有差、則失其中正、而各倚於一偏。其不可行均矣。
【読み】
行われざる所有り、和を知って和するのみにして、禮を以て之を節せざれば、亦行わる可からず。上文を承けて言う。此の如くして復行れざる所有る者は、其れ徒[ただ]和の貴きと爲すを知るのみを以て、和に一にして、復禮を以て之を節せざるときは、則ち亦、復禮の本然に非ざるなり。流蕩して反るを忘れて、亦行う可からざる所以なり。○程子曰く、禮勝てば則ち離る。故に禮の用は、和を貴しと爲す。先王の道は、斯れを以て美と爲す。而して小大之に由る。樂勝てば則ち流る。故に行われざる所の者有り。和を知りて和せども、禮を以て之を節せざれば、亦行う可からず、と。范氏曰く、凡そ禮の體は敬を主として、其の用は則ち和を以て貴しと爲す。敬は、禮の立つ所以なり。和は、樂の由りて生ずる所なり。有子の若きは、禮樂の本に達すと謂う可し、と。愚謂えらく、嚴にして泰、和にして節は、此れ理の自然、禮の全體なり。毫釐も差[たが]うこと有らば、則ち其の中正を失いて、各々一偏に倚る。其れ行う可からざるに均し。
學而13
○有子曰、信近於義、言可復也。恭近於禮、遠恥辱也。因不失其親、亦可宗也。近・遠、皆去聲。○信、約信也。義者、事之宜也。復、踐言也。恭、致敬也。禮、節文也。因、猶依也。宗、猶主也。言約信而合其宜、則言必可踐矣。致恭而中其節、則能遠恥辱矣。所依者、不失其可親之人、則亦可以宗而主之矣。此言人之言行交際、皆當謹之於始、而慮其所終。不然、則因仍苟且之閒、將有不勝其自失之悔者矣。
【読み】
○有子曰く、信義に近づくときは、言復[ふ]んず可し。恭禮に近づくときは、恥辱に遠ざかる。因ること其の親しむべきを失わざるときは、亦宗としつ可し。近・遠は皆去聲。○信は約信なり。義は事の宜しきなり。復むは言を踐むなり。恭は敬を致すなり。禮は節文なり。因るは猶依るのごとし。宗は猶主のごとし。言うこころは、約信して其の宜しきに合うときは、則ち言は必ず踐む可し。恭を致して其の節に中るときは、則ち能く恥辱に遠ざかる。依る所の者、其の親しむ可き人を失わざるときは、則ち亦以て宗にして之を主とす可し、と。此れ言うこころは、人の言行交際、皆當に之を始めに謹みて、其の終わる所を慮るべし。然らずば、則ち因仍苟且の閒、將に其の自失の悔に勝ざる者有らん、と。
學而14
○子曰、君子食無求飽、居無求安、敏於事、而愼於言、就有道而正焉。可謂好學也已。好、去聲。○不求安飽者、志有在、而不暇及也。敏於事者、勉其所不足。愼於言者、不敢盡其所有餘也。然猶不敢自是、而必就有道之人、以正其是非、則可謂好學矣。凡言道者、皆謂事物當然之理、人之所共由者也。○尹氏曰、君子之學、能是四者、可謂篤志力行者矣。然不取正於有道、未免有差。如楊・墨、學仁義而差者也。其流至於無父無君。謂之好學可乎。
【読み】
○子曰く、君子は食飽かんことを求むること無く、居安からんと求むること無く、事を敏くして、言を愼み、有道に就いて正す。學を好むと謂いつ可からくのみ。好は去聲。○安飽を求めざる者は、志在ること有りて、及ぶに暇あらざるなり。事を敏くは、其の足らざる所を勉むるなり。言を愼むは、敢えて其の餘り有る所を盡くさざるなり。然るに猶敢えて自ら是とせずして、必ず有道の人に就き、以て其の是非を正すがごときは、則ち學を好むと謂う可し。凡そ道と言う者は、皆事物當然の理、人の共に由る所の者を謂うなり。○尹氏曰く、君子の學、是の四つの者を能くせば、篤志力行の者と謂う可し。然れども正を有道に取らざれば、未だ差[たが]うこと有るを免れず。楊・墨の如き、仁義を學びて差う者なり。其の流は父を無みし君を無みするに至る。之を學を好むと謂う可けんや。
學而15
○子貢曰、貧而無諂、富而無驕何如。子曰、可也。未若、貧而樂、富而好禮者也。樂、音洛。好、去聲。○諂、卑屈也。驕、矜肆也。常人溺於貧富之中、而不知所以自守。故必有二者之病。無諂無驕、則知自守矣。而未能超乎貧富之外也。凡曰可者、僅可而有所未盡之辭也。樂則心廣體胖、而忘其貧。好禮則安處善、樂循理、亦不自知其富矣。子貢貨殖。蓋先貧後富、而嘗用力於自守者。故以此爲問。而夫子答之如此。蓋許其所已能、而勉其所未至也。
【読み】
○子貢曰く、貧しうして諂うこと無く、富んで驕ること無くば何如。子曰く、可なり。未だ若ず、貧しうして樂しみ、富んで禮を好む者には。樂は音洛。好は去聲。○諂うは卑屈なり。驕るは矜肆なり。常人貧富の中に溺れて、自ら守る所以を知らず。故に必ず二つの者の病有り。諂うこと無く驕ること無きは、則ち自ら守るを知るなり。而して未だ能く貧富の外に超えざるなり。凡そ可と曰うは、僅かに可にして未だ盡くさざる所有るの辭なり。樂しむときは則ち心廣く體胖かにて、其の貧を忘る。禮を好むときは則ち善に處るに安んじ、理に循うを樂しみ、亦自ら其の富を知らざるなり。子貢貨殖す。蓋し先に貧しく後に富み、嘗て力を自ら守るに用いる者なり。故に此を以て問いとす。而して夫子之に答うること此の如し。蓋し其の已に能くする所を許して、其の未だ至らざる所を勉むるなり。
子貢曰、詩云、如切如磋、如琢如磨、其斯之謂與。磋、七多反。與、平聲。○詩、衛風淇澳之篇。言治骨角者、旣切之、而復磋之、治玉石者、旣琢之、而復磨之。治之已精、而益求其精也。子貢自以無諂無驕爲至矣。聞夫子之言、又知義理之無窮、雖有得焉、而未可遽自足也。故引是詩以明之。
【読み】
子貢曰く、詩に云う、切るが如く磋[す]るが如く、琢[うが]つが如く磨くが如しとは、其れ斯れを謂うか。磋は七多の反。與は平聲。○詩は衛風の淇澳の篇。言うこころは、骨角を治むる者は、旣に之を切りて復之を磋り、玉石を治むる者は、旣に之を琢ちて復之を磨く。之を治むること已に精にして益々其の精を求むるなり、と。子貢自ら諂うこと無く驕ること無きを以て至れりとす。夫子の言を聞き、又義理の窮まり無く、得ること有りと雖も、而して未だ遽かに自ら足れりとす可からざるを知るなり。故に是の詩を引きて以て之を明らかにす。
子曰、賜也、始可與言詩已矣。告諸往而知來者。往者、其所已言者。來者、其所未言者。○愚按、此章問答、其淺深高下、固不待辨說而明矣。然不切則磋無所施、不琢則磨無所措。故學者雖不可安於小成、而不求造道之極致、亦不可騖於虛遠、而不察切己之實病也。
【読み】
子曰く、賜、始めて與に詩を言う可からくのみ。諸に往を告ぐるに而も來を知る者なり。往は其の已に言う所の者なり。來は、其の未だ言わざる所の者なり。○愚按ずるに、此の章の問答、其の淺深高下、固より辨說を待たずして明らかなり。然れども切らざるときは則ち磋の施す所無く、琢たざるときは則ち磨の措く所無し。故に學者は小成に安んじて道の極致に造[いた]るを求めざる可からずと雖も、亦虛遠に騖せて己に切なるの實病を察せざることある可からざるなり。
學而16
○子曰、不患人之不己知、患不知人也。尹氏曰、君子求在我者。故不患人之不己知。不知人、則是非邪正、或不能辨。故以爲患也。
【読み】
○子曰、人の己を知らざることを患えず、人を知らざることを患う。尹氏曰く、君子は我に在る者を求む。故に人の己を知らざるを患えず。人を知らざるときは、則ち是非邪正、或は辨ずること能わず。故に以て患いとす、と。
爲政第二 凡二十四章
爲政1
○子曰、爲政以德、譬如北辰居其所、而衆星共之。共、音拱、亦作拱。○政之爲言正也。所以正人之不正也。德之爲言得也。得於心而不失也。北辰、北極、天之樞也。居其所、不動也。共、向也。言衆星四面旋繞而歸向之也。爲政以德、則無爲而天下歸之。其象如此。○程子曰、爲政以德、然後無爲。范氏曰、爲政以德、則不動而化、不言而信、無爲而成。所守者至簡、而能御煩、所處者至靜、而能制動、所務者至寡、而能服衆。
【読み】
○子曰く、政をするに德を以てするときは、譬えば北辰の其の所に居て、衆星之に共[むか]うが如し。共は音拱、亦拱にも作る。○政の言爲るは正なり。人の正しからざるを正す所以なり。德の言爲るは得なり。心に得て失わざるなり。北辰は北極、天の樞なり。其の所に居るは動かざるなり。共うは向かうなり。言うこころは、衆星の四面に旋繞して之に歸向するなり。政を爲すに德を以てせば、則ちすること無くして天下之に歸す。其の象此の如し、と。○程子曰く、政をするに德を以てせば、然る後すること無し、と。范氏曰く、政をするに德を以てするときは、則ち動かずして化し、言わずして信じ、すること無くして成る。守る所の者至簡にして、能く煩を御し、處る所の者至靜にして、能く動を制し、務むる所の者至寡にして、能く衆を服す、と。
爲政2
○子曰、詩三百、一言以蔽之。曰、思無邪。詩三百十一篇。言三百者、擧大數也。蔽、猶蓋也。思無邪、魯頌駉篇之辭。凡詩之言、善者可以感發人之善心、惡者可以懲創人之逸志。其用歸於使人得其情性之正而已。然其言微婉、且或各因一事而發。求其直指全體、則未有若此之明且盡者。故夫子言、詩三百篇、而惟此一言、足以盡蓋其義。其示人之意、亦深切矣。○程子曰、思無邪者、誠也。范氏曰、學者必務知要。知要則能守約。守約則足以盡博矣。經禮三百、曲禮三千、亦可以一言以蔽之。曰、毋不敬。
【読み】
○子曰く、詩三百、一言以て之を蔽う。曰く、思い邪無し。詩は三百十一篇。三百と言うは、大數を擧ぐるなり。蔽は猶蓋のごとし。思い邪無しは、魯頌の駉篇の辭。凡そ詩の言は、善き者は人の善心を感發す可く、惡き者は以て人の逸志を懲創す可し。其の用は人に其の情性の正しきを得さしむるに歸すのみ。然れども其の言微婉にて、且或は各々一事に因りて發す。其の全體を直指するを求むるときは、則ち未だ此の若く明らかに且盡くす者有らず。故に夫子言う、詩三百篇、而して惟此の一言のみ、以て其の義を盡くし蓋う、と。其の人に示すの意も亦深切なり。○程子曰く、思い邪無しは誠なり、と。范氏曰く、學者は必ず要を知るを務む。要を知るときは則ち能く守ること約。守ること約なるときは則ち以て博を盡くすに足る。經禮三百、曲禮三千、亦以て一言以て之を蔽う可し。曰く、敬せざる毋かれ、と。
爲政3
○子曰、道之以政、齊之以刑、民免而無恥。道、音導。下同。○道、猶引導。謂先之也。政、謂法制禁令也。齊、所以一之也。道之而不從者、有刑以一之也。免而無恥、謂苟免刑罰而無所羞愧。蓋雖不敢爲惡、而爲惡之心、未嘗亡也。
【読み】
○子曰く、之を道[みちび]くに政を以てし、之を齊[ととの]うるに刑を以てするときは、民免るるのみにして恥ずること無し。道は音導。下も同じ。○道は猶引導のごとし。之に先だつを謂うなり。政は、法制禁令を謂うなり。齊は、之を一にする所以なり。之を道き從わざる者は、刑以て之を一にすること有るなり。免れて恥ずること無しは、苟も刑罰を免れて羞愧する所無きを謂う。蓋し敢えて惡を爲さずと雖も、而して惡を爲すの心、未だ嘗て亡びざるなり。
道之以德、齊之以禮、有恥且格。禮、謂制度品節也。格、至也。言躳行以率之、則民固有所觀感而興起矣。而其淺深厚薄之不一者、又有禮以一之、則民恥於不善、而又有以至於善也。一說、格、正也。書曰、格其非心。○愚謂、政者、爲治之具、刑者、輔治之法。德禮則所以出治之本、而德又禮之本也。此其相爲終始、雖不可以偏廢、然政刑能使民遠罪而已。德禮之效、則有以使民日遷善而不自知。故治民者、不可徒恃其末、又當深探其本也。
【読み】
之を道くに德を以てし、之を齊うるに禮を以てするときは、恥じて且[また]格[いた]ること有り。禮は、制度品節を謂うなり。格は至るなり。言うこころは、躳行して以て之を率いるときは、則ち民固より觀感する所有りて興起するなり。而して其の淺深厚薄の一ならざる者も、又禮以て之を一にすること有るときは、則ち民不善に恥じて、又以て善に至ること有るなり。一說に、格は正しなり。書に曰く、其の非心を格す、と。○愚謂えらく、政は治を爲すの具、刑は治を輔くるの法。德禮は則ち治を出す所以の本にして、德も又禮の本なり。此れ其の終始を相爲し、以て偏廢す可からざると雖も、然れども政刑は能く民を罪に遠ざけしむるのみ。德禮の效は、則ち以て民を日に善に遷らせて自ら知らざしむる有り。故に民を治むる者は、徒[ただ]に其の末を恃む可からず、又當に深く其の本を探るべきなり。
爲政4
○子曰、吾十有五而志于學、古者十五而入大學。心之所之謂之志。此所謂學、卽大學之道也。志乎此、則念念在此、而爲之不厭矣。
【読み】
○子曰く、吾十有五にして學に志し、古は十五にして大學に入る。心の之く所を之れ志と謂う。此れ謂う所の學は、卽ち大學の道なり。此に志すときは、則ち念念此に在りて、之を爲して厭わざるなり。
三十而立、有以自立、則守之固、而無所事志矣。
【読み】
三十にして立ち、以て自ら立つこと有らば、則ち之を守ること固くして、志を事とする所無し。
四十而不惑、於事物之所當然、皆無所疑、則知之明、而無所事守矣。
【読み】
四十にして惑わず、事物の當に然るべき所に於て、皆疑う所無きときは、則ち之を知ること明らかにして、守るを事とする所無し。
五十而知天命、天命、卽天道之流行而賦於物者。乃事物所以當然之故也。知此、則知極其精、而不惑、又不足言矣。
【読み】
五十にして天命を知り、天命は、卽ち天道の流行にして物に賦す者なり。乃ち事物の當に然るべき所以の故なり。此を知るときは、則ち知は其の精を極めて惑わざること、又言うに足りず。
六十而耳順、聲入心通、無所違逆。知之之至、不思而得也。
【読み】
六十にして耳順い、聲入りて心通じ、違逆する所無し。之を知るの至りは、思わずして得るなり。
七十而從心所欲、不踰矩。從、如字。○從、隨也。矩、法度之器、所以爲方者也。隨其心之所欲、而自不過於法度、安而行之、不勉而中也。○程子曰、孔子生而知者也。言亦由學而至、所以勉進後人也。立、能自立於斯道也。不惑、則無所疑矣。知天命、窮理盡性也。耳順、所聞皆通也。從心所欲不踰矩、則不勉而中矣。又曰、孔子自言其進德之序如此者、聖人未必然、但爲學者立法、使之盈科而後進、成章而後達耳。胡氏曰、聖人之敎亦多術。然其要使人不失其本心而已。欲得此心者、惟志乎聖人所示之學、循其序而進焉、至於一疵不存、萬理明盡之後、則其日用之閒、本心瑩然、隨所意欲、莫非至理。蓋心卽體、欲卽用。體卽道、用卽義。聲爲律、而身爲度矣。又曰、聖人言此、一以示學者當優游涵泳、不可躐等而進、二以示學者當日就月將、不可半塗而廢也。愚謂、聖人生知安行、固無積累之漸。然其心未嘗自謂已至此也。是其日用之閒、必有獨覺其進、而人不及知者。故因其近似以自名、欲學者以是爲則而自勉。非心實自聖、而姑爲是退託也。後凡言謙辭之屬、意皆放此。
【読み】
七十にして心の欲する所に從えども、矩を踰えず。從は字の如し。○從うは隨うなり。矩は法度の器、方を爲る所以の者なり。其の心の欲する所に隨いて、自ら法度に過たず、安んじて之を行い、勉めずして中るなり。○程子曰く、孔子は生まれながらにして知る者なり。亦學に由りて至ると言うは、後人を勉進する所以なり。立つは、能く自ら斯の道に立つなり。惑わずは、則ち疑う所無きなり。天命を知るは、理を窮め性を盡くすなり。耳順うは、聞く所皆通ずるなり。心の欲する所に從えども矩を踰えずは、則ち勉めずして中るなり、と。又曰く、孔子自ら其の德に進むの序を言うこと此の如きは、聖人未だ必ずしも然らず、但學者の爲に法を立て、之に科[あな]に盈ちて後進み、章を成して後達せしむるのみ、と。胡氏曰く、聖人の敎も亦術多し。然れども其の要、人に其の本心を失わざらしむのみ。此の心を得んと欲する者は、惟聖人の示す所の學に志し、其の序に循いて進み、一疵も存せず、萬理明盡の後に至れば、則ち其の日用の閒、本心瑩然として、意の欲する所に隨いて、至理に非ざるは莫し。蓋し心は卽ち體、欲は卽ち用なり。體は卽ち道、用は卽ち義なり。聲は律と爲りて、身は度と爲る、と。又曰く、聖人此を言うは、一以て學者當に優游涵泳すべく、等を躐え進む可からざるを示し、二以て學者當に日に就[な]り月に將[すす]むべく、半塗にして廢す可からざるを示すなり、と。愚謂えらく、聖人生知安行、固より積累の漸無し。然れども其の心未だ嘗て自ら已に此に至ると謂わざるなり。是れ其の日用の閒、必ず獨[ただ]其の進むを覺りて、人知るに及ばざる者有り。故に其の近似に因りて以て自ら名づけ、學者是を以て則として自ら勉めんことを欲す。心實に自ら聖として、姑く是の退託を爲すに非ざるなり。後の凡そ謙辭と言うの屬は、意皆此に放え。
爲政5
○孟懿子問孝。子曰、無違。孟懿子、魯大夫仲孫氏、名何忌。無違、謂不背於理。
【読み】
○孟懿子孝を問う。子曰く、違うこと無し。孟懿子は魯の大夫の仲孫氏、名は何忌。違うこと無しは、理に背かざるを謂う。
樊遲御。子告之曰、孟孫問孝於我。我對曰、無違。樊遲、孔子弟子、名須。御、爲孔子御車也。孟孫、卽仲孫也。夫子以懿子未達而不能問、恐其失指、而以從親之令爲孝。故語樊遲以發之。
【読み】
樊遲御たり。子之に告げて曰く、孟孫孝を我に問う。我對えて曰く、違うこと無し、と。樊遲は孔子の弟子、名は須。御は、孔子の爲に車を御すなり。孟孫は卽ち仲孫なり。夫子、懿子の未だ達せずして問うこと能わざるを以て、其の指を失いて、親の令に從うを以て孝と爲すを恐る。故に樊遲に語[つ]げ、以て之を發す。
樊遲曰、何謂也。子曰、生事之以禮、死葬之以禮、祭之以禮。生事葬祭、事親之始終具矣。體、卽理之節文也。人之事親、自始至終、一於禮而不苟。其尊親也至矣。是時三家僭禮。故夫子以是警之。然語意渾然、又若不專爲三家發者。所以爲聖人之言也。○胡氏曰、人之欲孝其親、心雖無窮、而分則有限。得爲而不爲、與不得爲而爲之、均於不孝。所謂以禮者、爲其所得爲者而已矣。
【読み】
樊遲曰く、何と謂うことぞ。子曰く、生けるときは之に事るに禮を以てし、死せるときは之を葬るに禮を以てし、之を祭るに禮を以てす。生事葬祭は、親に事うるの始終具われり。體は卽ち理の節文なり。人の親に事るは、始めより終わりに至るまで、禮を一にして苟もせず。其れ親を尊ぶの至りなり。是の時三家禮を僭せり。故に夫子是を以て之を警む。然れども語意渾然として、又專ら三家の爲に發せざる者の若し。聖人の言爲る所以なり。○胡氏曰く、人の其の親に孝をせんと欲すること、心窮まり無しと雖も、而して分は則ち限り有り。することを得てせざると、することを得ずして之をするは、不孝に均し。所謂禮を以てするは、其のすることを得る所の者をするのみ、と。
爲政6
○孟武伯問孝。子曰、父母唯其疾之憂。武伯、懿子之子、名彘。言父母愛子之心、無所不至。唯恐其有疾病、常以爲憂也。人子體此、而以父母之心爲心、則凡所以守其身者、自不容於不謹矣。豈不可以爲孝乎。舊說、人子能使父母不以其陷於不義爲憂、而獨以其疾爲憂、乃可謂孝。亦通。
【読み】
○孟武伯孝を問う。子曰く、父母は唯其の疾[やみ]なんことを憂う。武伯は懿子の子、名は彘[てい]。言うこころは、父母の子を愛するの心、至らざる所無し。唯其の疾病有るを恐れ、常に以て憂いとす。人の子此を體して、父母の心を以て心とせば、則ち凡そ其の身を守る所以は、自ら謹まざる容[べ]からず。豈以て孝とする可からざるや、と。舊說に、人の子の能く父母をして其の不義に陷らんことを以て憂いとせしめず、獨[ただ]其の疾を以て憂いとせしめば、乃ち孝と謂う可し。亦通ず。
爲政7
○子游問孝。子曰、今之孝者、是謂能養。至於犬馬、皆能有養。不敬何以別乎。養、去聲。別、彼列反。○子游、孔子弟子、姓言、名偃。養、謂飮食供奉也。犬馬待人而食、亦若養然。言人畜犬馬、皆能有以養之。若能養其親、而敬不至、則與養犬馬者何異。甚言不敬之罪、所以深警之也。○胡氏曰、世俗事親、能養足矣。狎恩恃愛、而不知其漸流於不敬、則非小失也。子游、聖門高弟、未必至此。聖人直恐其愛踰於敬。故以是深警發之也。
【読み】
○子游孝を問う。子曰く、今の孝とは、是れ能く養うを謂う。犬馬に至るまでも、皆能く養うこと有り。敬せざれば何を以てか別んや。養は去聲。別は彼列の反。○子游は孔子の弟子、姓は言、名は偃。養は飮食供奉を謂うなり。犬馬人を待ちて食すも、亦養う若く然り。言うこころは、人犬馬を畜えば、皆能く以て之を養うこと有り。若し能く其の親を養いて、敬至らざれば、則ち犬馬を養う者と何ぞ異らん。甚だ不敬の罪を言うは、深く之を警む所以なり、と。○胡氏曰く、世俗の親に事うる、能く養うは足れり。恩に狎れ愛を恃みて、其の漸く不敬に流れるを知らざるは、則ち小失に非ざるなり。子游は聖門の高弟にて、未だ必ずしも此に至らず。聖人直に其の愛の敬を踰ゆるを恐る。故に是を以て深く之を警發するなり。
爲政8
○子夏問孝。子曰、色難。有事、弟子服其勞、有酒食先生饌。曾是以爲孝乎。食、音嗣。○色難、謂事親之際、惟色爲難也。食、飯也。先生、父兄也。饌、飮食之也。曾、猶嘗也。蓋孝子之有深愛者、必有和氣、有和氣者、必有愉色、有愉色者、必有婉容。故事親之際、惟色爲難耳。服勞奉養、未足爲孝也。舊說、承順父母之色爲難。亦通。○程子曰、告懿子、告衆人者也。告武伯者、以其人多可憂之事。子游能養、而或失於敬。子夏能直義、而或少温潤之色。各因其材之高下、與其所失而告之。故不同也。
【読み】
○子夏孝を問う。子曰く、色難し。事有るときは、弟子其の勞を服し、酒食有れば先生饌す。曾て是を以て孝と爲せんや。食は音嗣。○色難しは、親に事るの際、惟色を難しとするを謂うなり。食は飯なり。先生は父兄なり。饌は之に飮食するなり。曾は猶嘗のごとし。蓋し孝子の深愛有る者は必ず和氣有り、和氣有る者は必ず愉色有り、愉色有る者は必ず婉容有り。故に親に事るの際、惟色を難しと爲すのみ。勞に服し養に奉ずるは、未だ孝とするに足らざるなり。舊說に、父母の色に承順するを難しとす。亦通ず。○程子曰く、懿子に告ぐは、衆人に告ぐ者なり。武伯に告ぐは、其の人の憂う可き事多きを以てなり。子游能く養えども、而して或は敬を失す。子夏能く義を直くすれども、而して或は温潤の色少なし。各々其の材の高下と、其の失する所とに因りて之に告ぐ。故に同じからず、と。
爲政9
○子曰、吾與囘言終日、不違如愚。退而省其私、亦足以發。囘也不愚。囘、孔子弟子、姓顏、字子淵。不違者、意不相背、有聽受而無問難也。私、謂燕居獨處、非進見請問之時。發、謂發明所言之理。愚聞之師。曰、顏子深潛純粹、其於聖人、體段已具。其聞夫子之言、默識心融、觸處洞然、自有條理。故終日言、伹見其不違如愚人而已。及退省其私、則見其日用動靜語默之閒、皆足以發明夫子之道、坦然由之而無疑。然後知其不愚也。
【読み】
○子曰く、吾と囘と言[ものい]うこと終日[ひねもす]、違わざること愚なるが如し。退いて其の私を省[みそなわ]すれば、亦以て發するに足れり。囘や愚ならず。囘は孔子の弟子、姓は顏、字は子淵。違わずは、意相背かず、聽受有りて問難すること無きなり。私は燕居獨處を謂い、進見請問の時に非ず。發するは言う所の理を發明するを謂う。愚之を師に聞く。曰く、顏子深潛純粹、其の聖人に於て、體段已に具わる。其の夫子の言を聞くや、默識心融し、觸處洞然として、自ら條理有り。故に終日言いて、伹其の違わざること愚人の如きを見るのみ。退くに及びて其の私を省すれば、則ち其の日用動靜語默の閒、皆以て夫子の道を發明するに足り、坦然として之に由りて疑うこと無きを見る。然る後其の愚ならざるを知るなり、と。
爲政10
○子曰、視其所以、以、爲也。爲善者爲君子、爲惡者爲小人。
【読み】
○子曰く、其の以[す]る所を視、以は爲なり。善をする者は君子、惡をする者は小人なり。
觀其所由、觀、比視爲詳矣。由、從也。事雖爲善、而意之所從來者、有未善焉、則亦不得爲君子矣。或曰、由、行也。謂所以行其所爲者也。
【読み】
其の由る所を觀、觀は視に比せば詳らかと爲す。由は從なり。事善をすると雖も、而して意の從りて來る所の者、未だ善ならざること有るときは、則ち亦君子爲るを得ず。或ひと曰く、由は行なり、と。其のする所を行う所以の者を謂うなり。
察其所安、察、則又加詳矣。安、所樂也。所由雖善、而心之所樂者、不在於是、則亦僞耳。豈能久而不變哉。
【読み】
其の安んずる所を察せば、察は則ち又詳らかを加うなり。安んずは、樂しむ所なり。由る所善と雖も、而して心の樂しむ所の者、是に在らざれば、則ち亦僞のみ。豈能く久しくして變らざらんや。
人焉廋哉。人焉廋哉。焉、於虔反。廋、所留反。○焉、何也。廋、匿也。重言以深明之。○程子曰、在己者能知言窮理、則能以此察人如聖人也。
【読み】
人焉んぞ廋[かく]さんや。人焉んぞ廋さんや。焉は於虔の反。廋は所留の反。○焉は何なり。廋は匿なり。重ね言いて以て深く之を明らかにす。○程子曰く、己に在る者能く言を知り理を窮むれば、則ち能く此を以て人を察すること聖人の如し、と。
爲政11
○子曰、温故而知新、可以爲師矣。温、尋繹也。故者、舊所聞。新者、今所得。言學能時習舊聞、而每有新得、則所學在我、而其應不窮。故可以爲人師。若夫記問之學、則無得於心、而所知有限。故學記譏其不足以爲人師。正與此意互相發也。
【読み】
○子曰く、故きを温ねて新しきを知るは、以て師爲る可し。温は尋繹なり。故は舊聞く所。新は今得る所。言うこころは、學びて能く時に舊聞を習いて、每に新しきを得ること有れば、則ち學ぶ所我に在りて、其の應窮まらず。故に以て人の師爲る可し、と。夫の記問の學の若き、則ち心に得ること無くして、知る所限り有り。故に學記に、其の以て人の師爲るに足らずと譏るは、正に此の意と互いに相發するなり。
爲政12
○子曰、君子不器。器者、各適其用、而不能相通。成德之士、體無不具。故用無不周、非特爲一材一藝而已。
【読み】
○子曰く、君子は器[うつわもの]ならず。器は、各々其の用に適[かな]いて、相通ずること能わず。成德の士は、體具わらざること無し。故に用周ねからざる無く、特に一材一藝を爲すのみに非ず。
爲政13
○子貢問君子。子曰、先行其言、而後從之。周氏曰、先行其言者、行之於未言之前。而後從之者、言之於旣行之後。○范氏曰、子貢之患、非言之難、而行之難。故告之以此。
【読み】
○子貢君子を問う。子曰く、先ず其の言うことを行って、而して後に之に從う。周氏曰く、先ず其の言を行うは、之を未だ言わざるの前に行うなり。而る後に之に從うは、之を旣に行うの後に言うなり、と。○范氏曰く、子貢の患い、之を言うこと難きに非ずして、之を行うこと難し。故に之に告ぐるに此を以てす、と。
爲政14
○子曰、君子周而不比、小人比而不周。比、必二反。○周、普徧也。比、偏黨也。皆與人親厚之意。伹周公而比私耳。○君子小人所爲不同、如陰陽晝夜每每相反。然究其所以分、則在公私之際、毫釐之差耳。故聖人於周比・和同・驕泰之屬、常對擧而互言之、欲學者察乎兩閒、而審其取舍之幾也。
【読み】
○子曰く、君子は周して比ならず、小人は比して周ならず。比は必二の反。○周は普徧なり。比は偏黨なり。皆人と親厚するの意。伹周は公にして比は私のみ。○君子小人の所爲同じからざること、陰陽晝夜の每每相反するが如し。然れども其の分るる所以を究むれば、則ち公私の際に在り、毫釐の差のみ。故に聖人の周比・和同・驕泰の屬に於て、常に對し擧げて互に之を言うは、學者、兩つの閒を察して其の取舍の幾を審らかにせんと欲すればなり。
爲政15
○子曰、學而不思則罔。思而不學則殆。不求諸心、故昏而無得。不習其事、故危而不安。○程子曰、博學・審問・愼思・明辨・篤行。五者廢其一非學也。
【読み】
○子曰く、學んで思わざるときは則ち罔[くら]し。思って學びざるときは則ち殆[あやう]し。諸を心に求めざる、故に昏くして得ること無し。其の事を習わざる、故に危くして安からず。○程子曰く、博學・審問・愼思・明辨・篤行。五つの者、其の一を廢つれば學に非ざるなり、と。
爲政16
○子曰、攻乎異端、斯害也已。范氏曰、攻、專治也。故治木石金玉之工曰攻。異端、非聖人之道而別爲一端。如楊・墨是也。其率天下至於無父無君。專治欲精之、爲害甚矣。○程子曰、佛氏之言、比之楊・墨、尤爲近理。所以其害爲尤甚。學者當如淫聲美色以遠之。不爾、則駸駸然入於其中矣。
【読み】
○子曰く、異端を攻[おさ]むるは、斯れ害ならんのみ。范氏曰く、攻は專ら治むるなり。故に木石金玉を治むるの工を攻と曰う。異端は、聖人の道に非ずして別に一端を爲す。楊・墨の如き是れなり。其の天下を率いて父を無みし君を無みするに至る。專ら治めて之に精ならんと欲せば、害を爲すこと甚だし、と。○程子曰く、佛氏の言、之を楊・墨に比ぶれば、尤も理に近きと爲す。其の害尤も甚だしきと爲す所以なり。學者、當に淫聲美色の如く以て之を遠ざくべし。爾らずば、則ち駸駸然として其の中に入らん、と。
爲政17
○子曰、由、誨女知之乎。知之爲知之、不知爲不知。是知也。女、音汝。○由、孔子弟子、姓仲、字子路。子路好勇。蓋有強其所不知以爲知者。故夫子告之曰、我敎女以知之之道乎。但所知者、則以爲知、所不知者、則以爲不知。如此則雖或不能盡知、而無自欺之蔽、亦不害其爲知矣。況由此而求之、又有可知之理乎。
【読み】
○子曰く、由、女に之を知ることを誨えん。之を知るをば之を知るとし、知らざるをば知らざるとす。是れ知れるなり。女の音は汝。○由は孔子の弟子、姓は仲、字は子路。子路勇を好む。蓋し其の知らざる所を強いて以て知るとする者有り。故に夫子之に告げて曰く、我女に以て之を知るの道を敎えん。但知る所の者は、則ち以て知るとし、知らざる所の者は、則ち以て知らずとす、と。此の如くなれば、則ち或は盡く知ること能わずと雖も、而して自ら欺くの蔽無く、亦其の知るとするを害さず。況や此に由りて之を求むれば、又知る可きの理有らんや。
爲政18
○子張學干祿。子張、孔子弟子、姓顓孫、名師。干、求也。祿、仕者之奉也。
【読み】
○子張祿を干[もと]めんことを學ぶ。子張は孔子の弟子、姓は顓孫[せんそん]、名は師。干は求むるなり。祿は仕うる者の奉なり。
子曰、多聞闕疑、愼言其餘、則寡尤。多見闕殆、愼行其餘、則寡悔。言寡尤、行寡悔、祿在其中矣。行寡之行、去聲。○呂氏曰、疑者、所未信。殆者、所未安。程子曰、尤、罪自外至者也。悔、理自内出者也。愚謂、多聞見者、學之博、闕疑殆者、擇之精、愼言行者、守之約。凡言在其中者、皆不求而自至之辭。言此以救子張之失而進之也。○程子曰、修天爵則人爵至。君子言行能謹、得祿之道也。子張學干祿、故告之以此、使定其心而不爲利祿動。若顏・閔則無此問矣。或疑、如此亦有不得祿者。孔子蓋曰、耕也餒在其中。惟理可爲者爲之而已矣。
【読み】
子曰く、多く聞いて疑わしきを闕き、愼んで其の餘りを言うときは、則ち尤[とが]寡し。多く見て殆きを闕き、愼んで其の餘りを行うときは、則ち悔い寡し。言尤寡く、行悔い寡きときは、祿其の中に在り。行寡の行は去聲。○呂氏曰く、疑わしきは、未だ信ぜざる所。殆きは、未だ安んぜざる所なり、と。程子曰く、尤は、罪外より至る者なり。悔いは、理内より出づる者なり、と。愚謂えらく、聞見多き者は學ぶこと博、疑殆を闕く者は擇ぶこと精、言行を愼む者は守ること約。凡て其の中に在りと言うは、皆求めずして自ら至るの辭なり。此を言いて以て子張の失を救い、之を進むるなり。○程子曰く、天爵を修むれば則ち人爵至る。君子の言行を能く謹むは、祿を得るの道なり。子張祿を干むるを學ぶ、故に之に告ぐるに此を以てし、其の心を定めて利祿の爲に動かざらしむ。顏・閔の若きは則ち此の問い無し。或ひと疑わん、此の如くして亦祿を得ざる者有らん、と。孔子蓋し曰く、耕えすにも餒[うえ]其の中に在り、と。惟理として爲す可き者、之を爲すのみ、と。
爲政19
○哀公問曰、何爲則民服。孔子對曰、擧直錯諸枉、則民服。擧枉錯諸直、則民不服。哀公、魯君、名蔣。凡君問皆稱孔子對曰者、尊君也。錯、捨置也。諸、衆也。程子曰、擧錯得義、則人心服。○謝氏曰、好直而惡枉、天下之至情也。順之則服、逆之則去、必然之理也。然或無道以照之、則以直爲枉、以枉爲直者多矣。是以君子大居敬、而貴窮理也。
【読み】
○哀公問うて曰く、何[いかん]かすれば則ち民服す。孔子對えて曰く、直きを擧げて諸々の枉れるを錯[お]くときは、則ち民服す。枉れるを擧げて諸々の直きを錯くときは、則ち民服せず。哀公は魯の君、名は蔣。凡て君の問に皆孔子對えて曰くと稱するは、君を尊べばなり。錯は捨て置くなり。諸は衆なり。程子曰く、擧錯義を得るときは、則ち人心服す、と。○謝氏曰く、直きを好みて枉れるを惡むは、天下の至情なり。之に順えば則ち服し、之に逆えば則ち去るは、必然の理なり。然れども、或は道を以て之を照らすこと無きときは、則ち直きを以て枉れると爲し、枉れるを以て直きと爲す者多し。是を以て君子敬に居るを大となし、理を窮むるを貴ぶなり、と。
爲政20
○季康子問、使民敬忠以勸、如之何。子曰、臨之以莊則敬。孝慈則忠。擧善而教不能、則勸。季康子、魯大夫季孫氏、名肥。莊、謂容貌端嚴也。臨民以莊、則民敬於己。孝於親、慈於衆、則民忠於己。善者擧之、而不能者敎之、則民有所勸、而樂於爲善。○張敬夫曰、此皆在我所當爲。非爲欲使民敬忠以勸而爲之也。然能如是、則其應蓋有不期然而然者矣。
【読み】
○季康子問う、民をして敬忠あって以て勸ましめんこと、如之何[いかんか]せん。子曰く、之に臨むに莊を以てするときは則ち敬なり。孝慈なるときは則ち忠あり。善を擧げて不能を教うるときは、則ち勸む。季康子は魯の大夫季孫氏、名は肥。莊は、容貌の端嚴なるを謂うなり。民に臨むに莊を以てせば、則ち民己を敬す。親に孝に、衆に慈なるときは、則ち民己に忠。善者は之を擧げて、不能者は之を敎うるときは、則ち民勸む所有りて、善をするを樂しむ。○張敬夫曰く、此れ皆我に在りて當にすべき所なり。民を敬忠にして以て勸めしめんと欲するが爲に之をするに非ざるなり。然れども能く是の如くなれば、則ち其の應、蓋し然りと期せずして然る者有り、と。
爲政21
○或謂孔子曰、子奚不爲政。定公初年、孔子不仕。故或人疑其不爲政也。
【読み】
○或ひと孔子に謂って曰く、子奚ぞ政をせざる。定公の初年、孔子仕えず。故に或人其の政をせざるを疑うなり。
子曰、書云孝乎。惟孝友于兄弟、施於有政。是亦爲政。奚其爲爲政。書、周書、君陳篇。書云孝乎者、言書之言孝如此也。善兄弟曰友。書言君陳能孝於親、友於兄弟、又能推廣此心、以爲一家之政。孔子引之、言如此則是亦爲政矣。何必居位乃爲爲政乎。蓋孔子之不仕、有難以語或人者。故託此以告之。要之至理亦不外是。
【読み】
子曰く、書孝を云えり。惟れ孝は兄弟に友にして、有政に施す、と。是も亦政をするなり。奚ぞ其のするしも政をするならん。書は周書の君陳の篇。書孝を云えりは、書に孝を言えるは此の如きと言うなり。兄弟に善きを友と曰う。書に言う、君陳能く親に孝あり、兄弟に友ありて、又能く此の心を推し廣め、以て一家の政を爲す、と。孔子之を引くは、言うこころは、此の如きときは則ち是れ亦政をするなり。何ぞ必ずしも位に居るを乃ち政をするとせんや、と。蓋し孔子の仕えざるは、以て或人に語り難き者有り。故に此に託し以て之を告ぐ。之を要せば至理も亦是に外ならず。
爲政22
○子曰、人而無信、不知其可也。大車無輗、小車無軏、其何以行之哉。輗、五兮反。軏、音月。○大車、謂平地任載之車。輗、轅端橫木、縛軛以駕牛者。小車、謂田車・兵車・乘車。軏、轅端上曲、鉤衡以駕馬者。車無此二者、則不可以行。人而無信、亦猶是也。
【読み】
○子曰く、人として信無くば、其の可ならんことを知らず。大車輗[げい]無く、小車軏[げつ]無くば、其れ何を以てか行かんや。輗は五兮の反。軏は音月。○大車は、平地任載の車を謂う。輗は、轅端の橫木、軛を縛り以て牛を駕す者。小車は、田車・兵車・乘車を謂う。軏は、轅端の上曲がり、衡を鉤し以て馬を駕する者。車に此の二つの者無くば、則ち以て行く可からず。人にして信無くば、亦猶是のごとし。
爲政23
○子張問、十世可知也。陸氏曰、也、一作乎。○王者易姓受命爲一世。子張問、自此以後、十世之事、可前知乎。
【読み】
○子張問う、十世知んぬ可けんや。陸氏曰く、也は一に乎に作る、と。○王者姓を易え、命を受くを一世と爲す。子張問う、此より以後、十世の事、前知す可きか、と。
子曰、殷因於夏禮、所損益可知也。周因於殷禮、所損益可知也。其或繼周者、雖百世可知也。馬氏曰、所因、謂三綱五常、所損益、謂文質三統。愚按、三綱、謂君爲臣綱、父爲子綱、夫爲妻綱。五常、謂仁義禮智信。文質、謂夏尙忠、商尙質、周尙文。三統、謂夏正建寅爲人統、商正建丑爲地統、周正建子爲天統。三綱五常、禮之大體、三代相繼、皆因之而不能變。其所損益、不過文章制度小過不及之閒。而其已然之迹、今皆可見、則自今以往、或有繼周而王者、雖百世之遠、所因所革、亦不過此。豈但十世而已乎。聖人所以知來者、蓋如此、非若後世讖緯術數之學也。○胡氏曰、子張之問、蓋欲知來、而聖人言其旣往者以明之也。夫自修身以至於爲天下、不可一日而無禮。天敍天秩、人所共由、禮之本也。商不能改乎夏、周不能改乎商。所謂天地之常經也。若乃制度文爲、或太過、則當損。或不足、則當益。益之損之、與時宜之、而所因者不壞、是古今之通義也。因往推來、雖百世之遠、不過如此而已矣。
【読み】
子曰く、殷、夏の禮に因り、損益する所知んぬ可し。周、殷の禮に因り、損益する所知んぬ可し。其れ周に繼ぐ者或[あ]らば、百世と雖も知んぬ可し。馬氏曰く、因る所は、三綱五常を謂い、損益する所は、文質三統を謂う、と。愚按ずるに、三綱は、君は臣の綱爲り、父は子の綱爲り、夫は妻の綱爲るを謂う。五常は、仁義禮智信を謂う。文質は、夏は忠を尙び、商は質を尙び、周は文を尙ぶを謂う。三統は、夏正[さ]は寅を建[さ]して人統と爲し、商正は丑を建して地統と爲し、周正は子を建して天統と爲すを謂う。三綱五常は禮の大體にて、三代相繼ぎ、皆之に因りて變ずること能わず。其の損益する所は、文章制度の小過不及の閒に過ぎず。而して其の已に然るの迹は、今皆見る可く、則ち今より以往、或は周に繼ぎて王たる者有れば、百世の遠きと雖も、因る所革むる所、亦此に過ぎず。豈但十世のみならんや。聖人の來を知る所以の者は、蓋し此の如く、後世の讖緯術數の學の若きに非ざるなり。○胡氏曰く、子張の問いは、蓋し來を知るを欲して、聖人は、其の旣往の者を言いて以て之を明らかにす。夫れ身を修むるより以て天下を爲むるに至るまで、一日として禮無きことある可からず。天敍天秩は人の共に由る所にて、禮の本なり。商は夏を改むること能わず、周は商を改むること能わず。所謂天地の常經なり。乃ち制度文爲の若き、或は太だ過ぎるときは、則ち當に損すべし。或は足らざるときは、則ち當に益すべし。之を益し之を損し、時と之を宜しくして、因る所の者壞れざるは、是れ古今の通義なり。往に因りて來を推せば、百世の遠きと雖も、此の如きに過ぎざるのみ、と。
爲政24
○子曰、非其鬼而祭之諂也。非其鬼、謂非其所當祭之鬼。諂、求媚也。
【読み】
○子曰く、其の鬼に非ずして之を祭るは諂えるなり。其の鬼に非ずは、其の當に祭るべき所の鬼に非ざるを謂う。諂うは媚を求むるなり。
見義不爲無勇也。知而不爲、是無勇也。
【読み】
義を見てせざるは勇無きなり。知ってせざるは、是れ勇無きなり。
論語卷之二
八佾第三 凡二十六章。通前篇末二章、皆論禮樂之事。
【読み】
八佾第三 凡て二十六章。前篇の末二章を通じ、皆禮樂の事を論ず。
八佾1
○孔子謂季氏、八佾舞於庭、是可忍也、孰不可忍也。佾、音逸。○季氏、魯大夫季孫氏也。佾、舞列也。天子八、諸侯六、大夫四、士二、每佾人數、如其佾數。或曰、每佾八人。未詳孰是。季氏以大夫而僭用天子之禮樂。孔子言、其此事尙忍爲之、則何事不可忍爲。或曰、忍、容忍也。蓋深疾之之辭。○范氏曰、樂舞之數、自上而下、降殺以兩而已。故兩之閒、不可以毫髪僭差也。孔子爲政、先正禮樂、則季氏之罪、不容誅矣。謝氏曰、君子於其所不當爲、不敢須臾處、不忍故也。而季氏忍此矣。則雖弑父與君、亦何所憚而不爲乎。
【読み】
○孔子季氏が八佾庭に舞うことを謂く、是をも忍ぶ可くば、孰れをか忍ぶ可からざらん。佾の音は逸。○季氏は魯の大夫、季孫氏なり。佾は舞の列なり。天子八、諸侯六、大夫四、士二、佾每の人數は、其の佾の數の如し。或ひと曰く、佾每に八人、と。未だ孰れが是か詳らかならず。季氏大夫を以て僭して天子の禮樂を用う。孔子言う、其れ此の事すら尙忍びて之を爲せば、則ち何事もすること忍ぶ可からず、と。或ひと曰く、忍は容忍なり、と。蓋し深く之を疾[にく]むの辭なり。○范氏曰く、樂舞の數、上よりして下り、降殺に兩を以てするのみ。故に兩の閒、以て毫髪も僭差す可からざるなり。孔子政をして、先ず禮樂を正せば、則ち季氏の罪、誅す容[べ]からざらんや、と。謝氏曰く、君子其の當に爲すべからざる所に於て、敢えて須臾も處[お]らざるは、忍びざる故なり。而して季氏此を忍ぶ。則ち父と君とを弑すと雖も、亦何ぞ憚りてせざる所あらんや、と。
八佾2
○三家者以雍徹。子曰、相維辟公、天子穆穆、奚取於三家之堂。徹、直列反。相、去聲。○三家、魯大夫孟孫・叔孫・季孫之家也。雍、周頌篇名。徹、祭畢而收其俎也。天子之宗廟之祭、則歌雍以徹。是時三家僭而用之。相、助也。辟公、諸侯也。穆穆、深遠之意、天子之容也。此雍詩之辭。孔子引之、言三家之堂、非有此事。亦何取於此義而歌之乎。譏其無知妄作、以取僭竊之罪。○程子曰、周公之功固大矣。皆臣子之分所當爲。魯安得獨用天子禮樂哉。成王之賜、伯禽之受、皆非也。其因襲之弊、遂使季氏僭八佾、三家僭雍徹。故仲尼譏之。
【読み】
○三家者は雍を以て徹す。子曰く、相[たす]くる維れ辟公あり、天子穆穆たりというを、奚ぞ三家の堂に取らん。徹は直列の反。相は去聲。○三家は、魯の大夫、孟孫・叔孫・季孫の家なり。雍は周頌の篇の名。徹は、祭畢わりて其の俎を收むるなり。天子の宗廟の祭は、則ち雍を歌い以て徹す。是の時三家僭して之を用う。相は助なり。辟公は諸侯なり。穆穆は深遠の意、天子の容なり。此れ雍詩の辭なり。孔子之を引くは、言うこころは、三家の堂、此の事有るに非らず。亦何ぞ此の義を取りて之を歌うか、と。其の無知妄作、以て僭竊の罪を取るを譏るなり。○程子曰く、周公の功、固[まこと]に大いなり。皆臣子の分にて當に爲すべき所なり。魯のみ安んぞ獨り天子の禮樂を用うるを得んや。成王の賜、伯禽の受、皆非なり。其の因襲の弊、遂に季氏をして八佾を僭し、三家をして雍徹を僭せしむ。故に仲尼之を譏る、と。
八佾3
○子曰、人而不仁、如禮何。人而不仁、如樂何。游氏曰、人而不仁、則人心亡矣。其如禮樂何哉、言雖欲用之、而禮樂不爲之用也。○程子曰、仁者天下之正理。失正理、則無序而不和。李氏曰、禮樂待人而後行。苟非其人、則雖玉帛交錯、鐘鼓鏗鏘、亦將如之何哉。然記者序此於八佾雍徹之後、疑其爲僭禮樂者發也。
【読み】
○子曰く、人として仁ならずば、禮を如何。人として仁ならずば、樂を如何。游氏曰く、人にして不仁ならば、則ち人の心亡ぶ。其れ禮樂を如何は、言うこころは、之を用いんと欲すと雖も、而して禮樂は用を爲さざるなり、と。○程子曰く、仁は天下の正理なり。正理を失えば、則ち序無くして和せず、と。李氏曰く、禮樂人を待ちて後行わる。苟に其の人に非ざれば、則ち玉帛交錯、鐘鼓鏗鏘と雖も、亦將に之を如何せん。然れども記す者此を八佾雍徹の後に序するは、疑うらくは其れ禮樂を僭する者の爲に發するなり、と。
八佾4
○林放問禮之本。林放、魯人。見世之爲禮者、專事繁文、疑其本之不在是也。故以爲問。
【読み】
○林放禮の本を問う。林放は魯の人。世の禮を爲す者、專ら繁文を事とするを見て、其の本、是に在らざらんことを疑うなり。故に以て問いを爲す。
子曰、大哉問。孔子以時方逐末、而放獨有志於本、故大其問。蓋得其本、則禮之全體、無不在其中矣。
【読み】
子曰く、大なるかな問えること。孔子、時方に末を逐うに、放獨り本を志すこと有るを以て、故に其の問いを大いなりとす。蓋し其の本を得ば、則ち禮の全體、其の中に在らざること無し。
禮與其奢也寧儉。喪與其易也寧戚。易、去聲。○易、治也。孟子曰、易其田疇。在喪禮、則節文習熟、而無哀痛慘怛之實者也。戚、則一於哀、而文不足耳。禮貴得中。奢・易則過於文、儉・戚則不及而質。二者皆未合禮。然凡物之理、必先有質而後有文、則質乃禮之本也。○范氏曰、夫祭與其敬不足、而禮有餘也、不若禮不足而敬有餘也。喪與其哀不足而禮有餘也、不若禮不足而哀有餘也。禮失之奢、喪失之易、皆不能反本、而隨其末故也。禮奢而備、不若儉而不備之愈也。喪易而文、不若戚而不文之愈也。儉者物之質、戚者心之誠。故爲禮之本。楊氏曰、禮始諸飮食。故汙尊而抔飮、爲之簠簋・籩豆・罍爵之飾、所以文之也。則其本儉而已。喪不可以徑情而直行。爲之衰麻・哭踊之數、所以飾之也。則其本戚而已。周衰、世方以文滅質。而林放獨能問禮之本。故夫子大之、而告之以此。
【読み】
禮は其の奢らんよりは寧ろ儉[つつまやか]ならん。喪は其の易[おさ]まらんよりは寧ろ戚[いた]まん。易は去聲。○易むは治むなり。孟子曰く、其の田疇を易む、と。喪禮に在るは、則ち節文習熟して、哀痛慘怛の實無き者なり。戚むは、則ち哀に一にして、文足らざるのみ。禮は中を得るを貴ぶ。奢・易は則ち文に過ぎ、儉・戚は則ち及ばずして質なり。二つの者は皆未だ禮に合わず。然れども凡て物の理は、必ず先に質有りて後に文有れば、則ち質は乃ち禮の本なり。○范氏曰く、夫れ祭は其の敬足らずして禮餘り有らんよりは、禮足らずして敬餘り有あるに若かず。喪は其の哀足らずして禮餘り有らんよりは、禮足らずして哀餘り有るに若かず。禮の奢に失し、喪の易まるに失するは、皆本に反ること能わずして、其の末に隨うが故なり。禮奢りて備わるは、儉にして備わざるの愈[まさ]れるに若かず。喪易まり文なるは、戚みて文ならざるの愈れるに若かず。儉は物の質、戚は心の誠なり。故に禮の本爲り、と。楊氏曰く、禮は諸れ飮食より始まる。故に汙尊して抔飮し、之れ簠簋[ほき]・籩豆[へんとう]・罍爵[らいしゃく]の飾を爲[つく]るは、之を文[かざ]る所以なり。則ち其の本は儉のみ。喪は以て徑情にして直行す可からず。之れ衰麻・哭踊の數を爲るは、之を飾る所以なり。則ち其の本は戚のみ。周衰え、世方に文を以て質を滅す。而して林放獨り能く禮の本を問う。故に夫子之を大いとして、之に告ぐるに此を以てす、と。
八佾5
○子曰、夷狄之有君、不如諸夏之亡也。吳氏曰、亡、古無字、通用。程子曰、夷狄且有君長。不如諸夏之僭亂、反無上下之分也。○尹氏曰、孔子傷時之亂而歎之也。亡、非實亡也。雖有之、不能盡其道爾。
【読み】
○子曰く、夷狄にして君有り、諸夏の亡きが如くならず。吳氏曰く、亡は古の無の字、通用す、と。程子曰く、夷狄すら且つ君長有り。諸夏の僭亂し、反って上下の分無きが如くならず、と。○尹氏曰く、孔子、時の亂れを傷みて之を歎ずるなり。亡は、實に亡きに非ざるなり。之れ有りと雖も、其の道を盡くすこと能わざるのみ、と。
八佾6
○季氏旅於泰山。子謂冉有曰、女弗能救與。對曰、不能。子曰、嗚呼、曾謂泰山不如林放乎。女、音汝。與、平聲。○旅、祭名。泰山、山名、在魯地。禮、諸侯祭封内山川。季氏祭之、僭也。冉有、孔子弟子、名求。時爲季氏宰。救、謂救其陷於僭竊之罪。嗚呼、歎辭。言神不亨非禮。欲季氏知其無益而自止、又進林放、以厲冉有也。○范氏曰、冉有從季氏。夫子豈不知其不可告也。然而聖人不輕絶人、盡己之心。安知冉有之不能救、季氏之不可諫也。旣不能正、則美林放以明泰山之不可誣。是亦敎誨之道也。
【読み】
○季氏泰山に旅せんとす。子冉有に謂いて曰く、女救うこと能うまじきか。對えて曰く、能わじ。子曰く、嗚呼、曾[すなわ]ち泰山は林放にだも如かずと謂[おも]わんか。女の音は汝。與は平聲。○旅は祭の名。泰山は山の名、魯の地に在り。禮に、諸侯封内の山川を祭る、と。季氏之を祭るは僭なり。冉有は孔子の弟子、名は求。時に季氏の宰爲り。救うは、其の僭竊の罪に陷るを救う謂う。嗚呼は歎辭。言うこころは、神は非禮を亨けず。季氏其の益無きを知って自ら止めんことを欲し、又林放を進め、以て冉有を厲ますなり、と。○范氏曰く、冉有季氏に從う。夫子豈其の告ぐ可からざるを知らざらんや。然りして聖人輕々しく人を絶たず、己の心を盡くす。安んぞ冉有の救うこと能わず、季氏の諫むことある可からざるを知らんや。旣に正すこと能わざれば、則ち林放を美[ほ]め、以て泰山の誣う可からざるを明らかにす。是も亦敎誨の道なり、と。
八佾7
○子曰、君子無所爭。必也射乎。揖讓而升、下而飮。其爭也君子。飮、去聲。○揖讓而升者、大射之禮、耦進三揖而後升堂也。下而飮、謂射畢揖降、以俟衆耦皆降、勝者乃揖不勝者升、取觶立飮也。言君子恭遜、不與人爭。惟於射而後有爭。然其爭也、雍容揖遜乃如此、則爭也君子、而非若小人之爭矣。
【読み】
○子曰く、君子は爭う所無し。必ず射にしてか。揖讓[いつじょう]して升り、下って飮ましむ。其の爭いは君子なり。飮は去聲。○揖讓して升るは、大射の禮、耦進し三揖して後堂に升るなり。下りて飮ましむは、射畢わり揖して降り、以て衆耦の皆降りるを俟ち、勝者乃ち勝たざる者に揖し升らせ、觶[さかずき]を取り立飮するを謂うなり。言うこころは、君子恭遜、人と爭わず。惟射に於て而る後爭うこと有り。然れども其の爭や、雍容揖遜乃ち此の如く、則ち爭いや君子にして、小人の爭いの若くには非ざるなり、と。
八佾8
○子夏問曰、巧笑倩兮、美目盼兮、素以爲絢兮、何謂也。倩、七練反。盼、普莧反。絢、呼縣反。○此逸詩也。倩、好口輔也。盼、目黑白分也。素、粉地、畫之質也。絢、采色、畫之飾也。言人有此倩盼之美質、而又加以華采之飾、如有素地而加采色也。子夏疑其反謂以素爲飾。故問之。
【読み】
○子夏問うて曰く、巧みに笑うこと倩[せん]たり、美[かおよき]目[めもと]盼[へん]たり、素以て絢[いろえ]を爲すとは、何と謂うことぞ。倩は七練の反。盼は普莧の反。絢は呼縣の反。○此れ逸詩なり。倩は、口輔好きなり。盼は、目の黑白分かるなり。素は、粉地、畫の質なり。絢は、采色、畫の飾なり。言うこころは、人此の倩盼の美質有りて、又以て華采の飾を加うるは、素地有りて采色を加うるが如きなり、と。子夏其れ反って素を以て飾と爲すと謂うかと疑う。故に之を問う。
子曰、繪事後素。繪、胡對反。○繪事、繪畫之事也。後素、後於素也。考工記曰、繪畫之事、後素功。謂先以粉地爲質、而後施五采。猶人有美質、然後可加文飾。
【読み】
子曰く、繪の事は素より後にす。繪は胡對の反。○繪事は繪畫の事なり。後素は、素より後にするなり。考工記に曰く、繪畫の事、素功より後にす、と。先ず粉地を以て質と爲し、而して後五采を施すを謂う。猶人に美質有りて、然る後文飾を加うる可きがごとし。
曰、禮後乎。子曰、起予者商也。始可與言詩已矣。禮必以忠信爲質。猶繪事必以粉素爲先。起、猶發也。起予、言能起發我之志意。謝氏曰、子貢因論學而知詩、子夏因論詩而知學。故皆可與言詩。○楊氏曰、甘受和、白受采。忠信之人、可以學禮。苟無其質、禮不虛行。此繪事後素之說也。孔子曰繪事後素、而子夏曰禮後乎、可謂能繼其志矣。非得之言意之表者能之乎。商・賜可與言詩者以此。若夫玩心於章句之末、則其爲詩也固而已矣。所謂起予、則又相長之義也。
【読み】
曰く、禮は後か。子曰く、予を起こす者は商なり。始めて與に詩を言う可からくのみ。禮は必ず忠信を以て質と爲す。猶繪事の必ず粉素を以て先と爲すがごとし。起こすは猶發するのごとし。予を起こすは、言うこころは、能く我の志意を起發するなり、と。謝氏曰く、子貢は學を論ずるに因りて詩を知り、子夏は詩を論ずるに因りて學を知る。故に皆與に詩を言う可し、と。○楊氏曰く、甘は和を受け、白は采を受く。忠信の人、以て禮を學ぶ可し。苟も其の質無くば、禮は虛行せず。此れ繪事の素を後にするの說なり。孔子、繪事は素より後にすと曰いて、子夏、禮は後かと曰うは、能く其の志を繼ぐと謂う可し。言意の表に得た者に非ざれば、之を能くせんや。商・賜の與に詩を言う可き者は此を以てなり。夫の心を章句の末に玩ぶが若きは、則ち其の詩を爲[おさ]むるや固のみ。所謂予を起こすは、則ち又相長ずるの義なり、と。
八佾9
○子曰、夏禮吾能言之、杞不足徴也。殷禮吾能言之、宋不足徴也。文獻不足故也。足則吾能徴之矣。杞、夏之後。宋、殷之後。徴、證也。文、典籍也。獻、賢也。言二代之禮、我能言之。而二國不足取以爲證。以其文獻不足故也。文獻若足、則我能取之以證吾言矣。
【読み】
○子曰く、夏の禮吾能く之を言えども、杞徴[しるし]とするに足らず。殷禮吾能く之を言えども、宋徴とするに足らず。文獻足らざる故なり。足んなば則ち吾能く之を徴とせん。杞は夏の後。宋は殷の後。徴は證なり。文は典籍なり。獻は賢なり。言うこころは、二代の禮、我能く之を言う。而して二國は取って以て證と爲すに足りず。其の文獻の足らざるを以て故なり。文獻若し足らば、則ち我能く之を取り以て吾が言を證とするなり、と。
八佾10
○子曰、禘自旣灌而往者、吾不欲觀之矣。禘、大計反。○趙伯循曰、禘、王者之大祭也。王者旣立始祖之廟、又推始祖所自出之帝、祀之於始祖之廟、而以始祖配之也。成王以周公有大勲勞、賜魯重祭。故得禘於周公之廟、以文王爲所出之帝、而周公配之。然非禮矣。灌者、方祭之始、用鬱鬯之酒、灌地以降神也。魯之君臣、當此之時、誠意未散、猶有可觀。自此以後、則浸以懈怠、而無足觀矣。蓋魯祭非禮、孔子本不欲觀。至此而失禮之中、又失禮焉。故發此歎也。○謝氏曰、夫子嘗曰、我欲觀夏道。是故之杞而不足徴也。我欲觀商道。是故之宋而不足徴也。又曰、我觀周道、幽厲傷之。吾舍魯何適矣。魯之郊禘、非禮也。周公其衰矣。考之杞・宋已如彼、考之當今如此。孔子所以深歎也。
【読み】
○子曰く、禘旣に灌してより往[のち]は、吾之を觀まく欲せず。禘は大計の反。○趙伯循曰く、禘は王者の大祭なり。王者旣に始祖の廟を立て、又始祖の自りて出る所の帝を推し、之を始祖の廟に祀りて、始祖を以て之を配すなり。成王、周公の大勲勞有るを以て、魯に重祭を賜う。故に周公の廟に禘するを得て、文王を以て出づる所の帝と爲して、周公を之に配す。然れども禮に非ざるなり。灌は、祭の始めに方[あた]り、鬱鬯の酒を用い、地に灌ぎ以て神を降ろすなり。魯の君臣、此の時に當り、誠意未だ散せず、猶觀る可き有るがごとし。此より以後、則ち浸[ようや]く以て懈怠して、觀るに足ること無し。蓋し魯の祭禮に非ず、孔子本より觀ることを欲せず。此に至りて禮を失するの中、又禮を失す。故に此の歎を發するなり、と。○謝氏曰く、夫子嘗て曰く、我夏の道を觀んことを欲す。是の故に杞に之きて徴するに足らざるなり。我商の道を觀んことを欲す。是の故に宋に之きて徴するに足らざるなり、と。又曰く、我周の道を觀るに、幽厲之を傷[やぶ]る。吾魯を舍てて何くに適かん。魯の郊禘は禮に非ざるなり。周公其れ衰えたり、と。之を杞・宋に考えれば已に彼の如く、之を當今に考えれば此の如し。孔子の深く歎ずる所以なり、と。
八佾11
○或問禘之說。子曰、不知也。知其說者之於天下也、其如示諸斯乎。指其掌。先王報本追遠之意、莫深於禘。非仁孝誠敬之至、不足以與此。非或人之所及也。而不王不禘之法、又魯之所當諱者。故以不知答之。示、與視同。指其掌、弟子記夫子言此而自指其掌。言其明且易也。蓋知禘之說、則理無不明、誠無不格、而治天下不難矣。聖人於此、豈眞有所不知也哉。
【読み】
○或ひと禘の說を問う。子曰く、知らず。其の說を知る者の天下に於けること、其れ諸れ斯れを示[み]るが如しといって、其の掌を指す。先王の本を報じ遠きを追うの意、禘より深きは莫し。仁孝誠敬の至りに非ざれば、以て此に與るに足りず。或人の及ぶ所に非ざるなり。而して王にあらざれば禘せずの法も、又魯の當に諱むべき所の者なり。故に知らざるを以て之に答う。示は視と同じ。其の掌を指すは、弟子、夫子の此を言って自ら其の掌を指すを記す。其の明らかに且易きを言うなり。蓋し禘の說を知れば、則ち理明らかならざること無く、誠格らざること無く、而して天下を治むるも難からず。聖人此に於て、豈眞に知らざる所有らんや。
八佾12
○祭如在。祭神如神在。程子曰、祭、祭先祖也。祭神、祭外神也。祭先主於孝、祭神主於敬。愚謂、此門人記孔子祭祀之誠意。
【読み】
○祭ること在[いま]すが如くす。神を祭ること神在すが如くす。程子曰く、祭は、先祖を祭るなり。神を祭るは、外神を祭るなり。先を祭るは孝を主とし、神を祭るは敬を主とす、と。愚謂えらく、此れ門人の、孔子の祭祀の誠意を記すなり。
子曰、吾不與祭、如不祭。與、去聲。○又記孔子之言以明之。言己當祭之時、或有故不得與、而使他人攝之、則不得致其如在之誠。故雖已祭、而此心缺然如未嘗祭也。○范氏曰、君子之祭、七日戒、三日齊、必見所祭者。誠之至也。是故郊則天神格、廟則人鬼享。皆由己以致之也。有其誠則有其神、無其誠則無其神。可不謹乎。吾不與祭、如不祭、誠爲實、禮爲虛也。
【読み】
子曰く、吾祭に與らざれば、祭らざるが如し。與は去聲。○又孔子の言を記して以て之を明らかにす。言うこころは、己祭の時に當り、或は故有りて與るを得ずして、他人をして之を攝せしめば、則ち其の在すが如くするの誠を致すことを得ず。故に已に祭ると雖も、而して此の心缺然として未だ嘗て祭らざるが如し、と。○范氏曰く、君子の祭、七日戒し、三日齊し、必ず祭る所の者を見る。誠の至りなり。是の故に郊すれば則ち天神格り、廟すれば則ち人鬼享[う]く。皆己に由りて以て之を致すなり。其の誠有れば則ち其の神有り、其の誠無くんば則ち其の神無し。謹まざる可けんや。吾祭に與らざれば、祭らざるが如しは、誠は實爲り、禮は虛爲ればならり、と。
八佾13
○王孫賈問曰、與其媚於奧、寧媚於竈、何謂也。王孫賈、衛大夫。媚、親順也。室西南隅爲奥。竈者、五祀之一、夏所祭也。凡祭五祀、皆先設主而祭於其所、然後迎尸而祭於奥。略如祭宗廟之儀。如祀竈、則設主於竈陘、祭畢而更設饌於奥、以迎尸也。故時俗之語、因以奥有常尊、而非祭之主、竈雖卑賤而當時用事、喩自結於君、不如阿附權臣也。賈、衛之權臣。故以此諷孔子。
【読み】
○王孫賈問うて曰く、其の奧に媚びんよりは、寧ろ竈に媚びんとは、何と謂うことぞ。王孫賈は衛の大夫。媚は、親しみ順うなり。室の西南の隅を奥と爲す。竈は、五祀の一、夏に祭る所なり。凡て五祀を祭るに、皆先ず主を設けて其の所に祭り、然る後尸を迎えて奥に祭る。略宗廟を祭るの儀の如し。竈を祀るが如きは、則ち主を竈陘に設け、祭畢わりて更に饌を奥に設け、以て尸を迎う。故に時俗の語、因りて奥は常尊有りて、祭の主に非ず、竈卑賤と雖も時に當りて事を用うるを以て、君に結ぶより、權臣に阿附するに如かずと喩すなり。賈は衛の權臣。故に此を以て孔子を諷す。
子曰、不然。獲罪於天、無所禱也。天、卽理也。其尊無對、非奥・竈之可比也。逆理、則獲罪於天矣。豈媚於奥・竈、所能禱而免乎。言但當順理。非特不當媚竈。亦不可媚於奥也。○謝氏曰、聖人之言、遜而不迫。使王孫賈而知此意、不爲無益、使其不知、亦非所以取禍。
【読み】
子曰く、然はあらず。罪を天に獲るときは、禱る所無し。天は卽ち理なり。其の尊きこと對するもの無く、奥・竈の比ぶる可きに非ず。理に逆えば、則ち罪を天に獲る。豈奥・竈に媚び、能く禱して免れる所ならんや。言うこころは、但當に理に順うべくして、特[ただ]當に竈に媚びるべからざるのみに非ず、亦奥に媚びる可からざるなり、と。○謝氏曰く、聖人の言は、遜にして迫らず。王孫賈をして此の意を知らしむるは、益無しと爲さず、其の知れずとしむるも、亦以て禍を取る所に非ず、と。
八佾14
○子曰、周監於二代、郁郁乎文哉。吾從周。郁、於六反。○監、視也。二代、夏・商也。言其見二代之禮而損益之。郁郁、文盛貌。○尹氏曰、三代之禮、至周大備。夫子美其文而從之。
【読み】
○子曰く、周は二代を監みて、郁郁乎として文なるかな。吾は周に從わん。郁は於六の反。○監は視なり。二代は夏・商なり。言うこころは、其の二代の禮を見て之を損益す、と。郁郁は文盛んの貌。○尹氏曰く、三代の禮、周に至りて大いに備わる。夫子其の文を美して之に從わん、と。
八佾15
○子入大廟、每事問。或曰、孰謂鄹人之子知禮乎。入大廟、每事問。子聞之曰、是禮也。大、音泰。鄹、側留反。○大廟、魯周公廟。此蓋孔子始仕之時、入而助祭也。鄹、魯邑名。孔子父叔梁紇、嘗爲其邑大夫。孔子自少、以知禮聞。故或人因此而譏之。孔子言是禮者、敬謹之至、乃所以爲禮也。○尹氏曰、禮者敬而已矣。雖知亦問、謹之至也。其爲敬莫大於此。謂之不知禮者、豈足以知孔子哉。
【読み】
○子大廟に入りて、事每に問う。或ひと曰く、孰れか鄹人の子を禮を知れりと謂うや。大廟に入りて、事每に問う。子之を聞いて曰く、是れ禮なり。大の音は泰。鄹は側留の反。○大廟は魯の周公の廟。此れ蓋し孔子始めて仕えるの時、入りて祭を助くなり。鄹は魯の邑の名。孔子の父叔梁紇、嘗て其の邑の大夫爲り。孔子少[わか]きより、禮を知るを以て聞こゆ。故に或人此に因りて之を譏る。孔子是れ禮なりと言うは、敬謹の至り、乃ち禮爲る所以なり。○尹氏曰く、禮は敬のみ。知ると雖も亦問うは、謹みの至りなり。其の敬爲ること此より大なるは莫し。之を禮を知らざると謂う者は、豈以て孔子を知るに足らんや、と。
八佾16
○子曰、射不主皮、爲力不同科。古之道也。爲、去聲。○射不主皮、郷射禮文。爲力不同科、孔子解禮之意如此也。皮、革也。布侯而棲革於其中、以爲的。所謂鵠也。科、等也。古者射以觀德。但主於中、而不主於貫革。蓋以人之力有強弱不同等也。記曰、武王克商、散軍郊射、而貫革之射息。正謂此也。周衰禮廢、列國兵爭、復尙貫革。故孔子歎之。○楊氏曰、中可以學而能、力不可以強而至。聖人言古之道、所以正今之失。
【読み】
○子曰く、射して皮を主とせざるは、力科[しな]を同じうせざるが爲なり。古の道なり。爲は去聲。○射は皮を主とせずは、郷射禮の文。力科を同じくせざるが爲なりは、孔子の禮の意を解すること此の如きなり。皮は革なり。布侯して革を其の中に棲ませ、以て的と爲す。所謂鵠なり。科は等なり。古は射以て德を觀る。但中るを主として、革を貫くを主とせず。蓋し人の力に強弱、等を同じくせざること有るを以てなり。記に曰く、武王商に克ち、軍を散じて郊射し、而して貫革の射息む、と。正に此を謂うなり。周衰え禮廢れ、列國兵爭し、復貫革を尙ぶ。故に孔子之を歎ず。○楊氏曰く、中るは以て學びて能くす可く、力は以て強[つと]めて至る可からず。聖人、古の道を言うは、今の失を正す所以なり、と。
八佾17
○子貢欲去告朔之餼羊。去、起呂反。告、古篤反。餼、許氣反。○告朔之禮、古者天子常以季冬頒來歳十二月之朔于諸侯、諸侯受而藏之祖廟、月朔、則以特羊告廟、請而行之。餼、生牲也。魯自文公始不視朔。而有司猶供此羊。故子貢欲去之。
【読み】
○子貢告朔の餼羊を去[す]てまく欲す。去は起呂の反。告は古篤の反。餼は許氣の反。○告朔の禮、古は天子常に季冬を以て來歳十二月の朔を諸侯に頒ち、諸侯受けて之を祖廟に藏め、月朔には、則ち特羊を以て廟に告げ、請うて之を行う。餼は生牲なり。魯、文公より始め朔を視ず。而して有司は猶此の羊を供す。故に子貢之を去てんと欲す。
子曰、賜也、爾愛其羊。我愛其禮。愛、猶惜也。子貢蓋惜其無實而妄費。然禮雖廢羊存、猶得以識之而可復焉。若倂去其羊、則此禮遂亡矣。孔子所以惜之。○楊氏曰、告朔、諸侯所以稟命於君親、禮之大者。魯不視朔矣。然羊存則告朔之名未泯。而其實因可擧。此夫子所以惜之也。
【読み】
子曰く、賜、爾は其の羊を愛[お]しむ。我は其の禮を愛む。愛しむは猶惜しむのごとし。子貢蓋し其の實無くして妄費を惜しむ。然れども禮廢ると雖も羊存せば、猶以て之を識るを得て復す可べし。若し倂せて其の羊を去てれば、則ち此の禮遂に亡びん。孔子の之を惜しむ所以なり。○楊氏曰く、告朔は、諸侯の命を君親より稟くる所以にて、禮の大なる者なり。魯、朔を視ず。然れども羊存せば則ち告朔の名未だ泯びず。而して其の實因りて擧ぐる可し。此れ夫子の之を惜しむ所以なり、と。
八佾18
○子曰、事君盡禮、人以爲諂也。黄氏曰、孔子於事君之禮、非有所加也。如是而後盡爾。時人不能、反以爲諂。故孔子言之、以明理之當然也。○程子曰、聖人事君盡禮、當時以爲諂。若他人言之、必曰我事君盡禮、小人以爲諂。而孔子之言、止於如此。聖人道大德宏、此亦可見。
【読み】
○子曰く、君に事って禮を盡くせば、人以て諂えりとす。黄氏曰く、孔子の君に事うるの禮に於て、加うる所有るに非ざるなり。是の如くして後に盡くすのみ。時人能わず、反って以て諂えりとす。故に孔子之を言い、以て理の當然を明らかにするなり、と。○程子曰く、聖人の君に事うるに禮を盡くせば、當時以て諂えりとす。若し他人之を言わば、必ず我君に事うるに禮を盡くせば、小人以て諂えりとすと曰わん。而して孔子の言、此の如くに止まる。聖人の道の大きく德の宏きこと、此れ亦見る可し、と。
八佾19
○定公問、君使臣、臣事君如之何。孔子對曰、君使臣以禮、臣事君以忠。定公、魯君、名宋。二者皆理之當然、各欲自盡而已。○呂氏曰、使臣不患其不忠、患禮之不至。事君不患其無禮、患忠之不足。尹氏曰、君臣以義合者也。故君使臣以禮、則臣事君以忠。
【読み】
○定公問う、君臣を使い、臣君に事ること如之何[いかん]。孔子對えて曰く、君臣を使うに禮を以てし、臣君に事るに忠を以てす。定公は魯の君、名は宋。二者は皆理の當然にて、各々自ら盡くさんことを欲するのみ。○呂氏曰く、臣を使うに其の忠ならざるを患えず、禮の至らざるを患う。君に事るに其の禮無きを患えず、忠の足らざるを患う、と。尹氏曰く、君臣は義を以て合う者なり。故に君臣を使うに禮を以てすれば、則ち臣君に事るに忠を以てす、と。
八佾20
○子曰、關雎樂而不淫、哀而不傷。樂、音洛。關雎、周南國風詩之首篇也。淫者、樂之過而失其正者也。傷者、哀之過而害於和者也。關雎之詩、言后妃之德、宜配君子、求之未得、則不能無寤寐反側之憂。求而得之、則宜其有琴瑟鐘鼓之樂。蓋其憂雖深、而不害於和、其樂雖盛、而不失其正。故夫子稱之如此。欲學者玩其辭、審其音、而有以識其性情之正也。
【読み】
○子曰く、關雎[かんしょ]は樂しんでも淫[おぼ]れず、哀しんでも傷[やぶ]らず。樂の音は洛。關雎は、周南國風の詩の首篇なり。淫は、樂しみの過ぎて其の正を失う者なり。傷は、哀しみの過ぎて和を害う者なり。關雎の詩、言うこころは、后妃の德、宜しく君子に配すべく、之を求めて未だ得ざれば、則ち寤寐反側の憂い無きこと能わず。求めて之を得れば、則ち宜しく其の琴瑟鐘鼓の樂しみ有るべし、と。蓋し其の憂い深きと雖も、和を害わず、其の樂しみ盛んなりと雖も、其の正を失わず。故に夫子之を稱すること此の如し。學者其の辭を玩び、其の音を審らかにし、以て其の性情の正を識ること有るを欲するなり。
八佾21
○哀公問社於宰我。宰我對曰、夏后氏以松。殷人以柏。周人以栗。曰、使民戰栗。宰我、孔子弟子、名予。三代之社不同者、古者立社、各樹其土之所宜木以爲主也。戰栗、恐懼貌。宰我又言、周所以用栗之意如此。豈以古者戮人於社、故附會其說與。
【読み】
○哀公社を宰我に問う。宰我對えて曰く、夏后氏は松を以てす。殷人は柏を以てす。周人は栗を以てす。曰く、民をして戰栗ならしめんとなり。宰我は孔子の弟子、名は予。三代の社同じからざるは、古は社を立てるに、各々其の土の宜しき所の木を樹え以て主とするなり。戰栗は恐懼の貌。宰我又言う、周の栗を用うる所以の意此の如し、と。豈古は人を社に戮するを以て、故に其の說を附會せんか。
子聞之曰、成事不說、遂事不諫、旣往不咎。遂事、謂事雖未成、而勢不能已者。孔子以宰我所對、非立社之本意、又啓時君殺伐之心、而其言已出、不可復救、故歴言此以深責之、欲使謹其後也。○尹氏曰、古者各以所宜木名其社。非取義於木也。宰我不知而妄對。故夫子責之。
【読み】
子之を聞いて曰く、成りし事をば說かじ、遂げし事は諫めじ、旣に往[い]にしをば咎めじ。遂事は、事未だ成らざると雖も、勢い已むこと能わざる者を謂う。孔子、宰我の對えし所は、社を立てるの本意に非ず、又時君の殺伐の心を啓くも、其の言已に出で、復救う可からざるを以て、故に此を歴言し以て深く之を責め、其の後を謹ましめんと欲するなり。○尹氏曰く、古は各々宜しき所の木を以て其の社を名づく。義を木に取るに非ざるなり。宰我知らずして妄りに對う。故に夫子之を責む、と。
八佾22
○子曰、管仲之器小哉。管仲、齊大夫、名夷吾。相桓公霸諸侯。器小、言其不知聖賢大學之道、故局量褊淺、規模卑狹、不能正身修德、以致主於王道。
【読み】
○子曰く、管仲が器[うつわもの]小しきなるかな。管仲は齊の大夫、名は夷吾。桓公を相けて諸侯に霸たらしむ。器小は、言うこころは、其の聖賢大學の道を知らざる、故に局量褊淺、規模卑狹にして、身を正し德を修め、以て主を王道に致すこと能わず、と。
或曰、管仲儉乎。曰、管氏有三歸。官事不攝、焉得儉。焉、於虔反。○或人蓋疑器小之爲儉。三歸、臺名。事見說苑。攝、兼也。家臣不能具官、一人常兼數事。管仲不然。皆言其侈。
【読み】
或ひと曰く、管仲は儉なりや。曰く、管氏三歸有り。官事攝[か]ねず、焉んぞ儉なることを得ん。焉は於虔の反。○或人蓋し器小は之れ儉爲るかと疑う。三歸は臺の名。事說苑に見ゆ。攝ぬは兼ぬなり。家臣官を具うること能わず、一人常に數事を兼ぬ。管仲然らず。皆其の侈なるを言う。
然則管仲知禮乎。曰、邦君樹塞門。管氏亦樹塞門。邦君爲兩君之好、有反坫。管氏亦有反坫。管氏而知禮、孰不知禮。好、去聲。坫、丁念反。○或人又疑不儉爲知禮。屛謂之樹。塞、猶蔽也。設屛於門、以蔽内外也。好、謂好會。坫、在兩楹之閒。獻酬飮畢、則反爵於其上。此皆諸侯之禮、而管仲僭之、不知禮也。○愚謂、孔子譏管仲之器小、其旨深矣。或人不知而疑其儉。故斥其奢以明其非儉。或又疑其知禮。故又斥其僭以明其不知禮。蓋雖不復明言小器之所以然、而其所以小者、於此亦可見矣。故程子曰、奢而犯禮、其器之小可知。蓋器大則自知禮、而無此失矣。此言當深味也。蘇氏曰、自修身正家、以及於國、則其本深、其及者遠。是謂大器。揚雄所謂大器猶規矩準繩。先自治而後治人者。是也。管仲三歸反坫、桓公内嬖六人、而霸天下、其本固已淺矣。管仲死、桓公薨、天下不復宗齊。楊氏曰、夫子大管仲之功而小其器。蓋非王佐之才、雖能合諸侯正天下、其器不足稱也。道學不明、而王霸之略混爲一途。故聞管仲之器小、則疑其爲儉、以不儉告之、則又疑其知禮。蓋世方以詭遇爲功、而不知爲之範。則不悟其小宜矣。
【読み】
然るときは則ち管仲は禮を知れりや。曰く、邦君樹して門を塞[おお]う。管氏も亦樹して門を塞う。邦君兩君の好[よしみ]を爲すときに、反坫[はんてん]有り。管氏も亦反坫有り。管氏にして禮を知らば、孰か禮を知らざらん。好は去聲。坫は丁念の反。○或人又儉ならざるは禮を知ると爲すかと疑う。屛を之れ樹と謂う。塞うは猶蔽うのごとし。屛を門に設けて、以て内外を蔽うなり。好は好會を謂う。坫は兩楹の閒に在り、獻酬し飮み畢われば、則ち爵を其の上に反す。此れ皆諸侯の禮にして、管仲之を僭すれば、禮を知らざるなり。○愚謂えらく、孔子管仲の器小なるを譏る、其の旨深し。或人知らずして其の儉なるかと疑う。故に其の奢を斥[さ]して以て其の儉に非ざるを明らかにす。或ひと又其の禮を知るかと疑う。故に又其の僭を斥して以て其の禮を知らざるを明らかにす。蓋し復小器の然る所以を明言せずと雖も、其の小なる所以の者、此に於て亦見る可し。故に程子曰く、奢にして禮を犯せば、其の器の小なること知る可し。蓋し器大なれば則ち自ら禮を知って、此の失無し、と。此の言當に深く味う可し。蘇氏曰く、身を修め家を正すより、以て國に及べば、則ち其の本深く、其の及ぶ者遠し。是を大器と謂う。揚雄謂う所の、大器は猶規矩準繩のごとし。先ず自ら治めて後人を治むる者なり。是れなり。管仲の三歸反坫、桓公の内嬖六人、而して天下に霸たるは、其の本固より已に淺し。管仲死し、桓公薨じ、天下復齊を宗とせず、と。楊氏曰く、夫子管仲の功を大なりとして其の器を小なりとす。蓋し王佐の才に非ずして、能く諸侯を合わせ天下を正すと雖も、其の器は稱するに足らざるなり。道學明らかならずして、王霸の略混じて一途と爲る。故に管仲の器小なりと聞かば、則ち其の儉たるかと疑い、儉ならざるを以て之に告ぐれば、則ち又其の禮を知るかと疑う。蓋し世方に詭遇を以て功と爲して、之が爲にの範するを知らず。則ち其の小を悟らざること宜なり、と。
八佾23
○子語魯大師樂曰、樂其可知也。始作、翕如也。從之純如也。皦如也。繹如也。以成。語、去聲。大、音泰。從、音縱。○語、告也。大師、樂官名。時音樂廢缺。故孔子敎之。翕、合也。從、放也。純、和也。皦、明也。繹、相續不絶也。成、樂之一終也。○謝氏曰、五音六律不具、不足以爲樂。翕如、言其合也。五音合矣。淸濁高下、如五味之相濟而後和、故曰純如。合而和矣。欲其無相奪倫、故曰皦如。然豈宮自宮、而商自商乎。不相反而相連、如貫珠可也。故曰繹如也、以成。
【読み】
○子魯の大師に樂を語げて曰く、樂は其れ知んぬ可し。始め作[おこ]しなすときに、翕如[きゅうじょ]たり。之を從[はな]つときに純如たり。皦如[きょうじょ]たり。繹如たり。以て成る。語は去聲。大は音泰。從は音縱。○語ぐは告ぐるなり。大師は樂官の名。時に音樂廢缺す。故に孔子之を敎う。翕は合うなり。從つは放つなり。純は和なり。皦は明なり。繹は相續いて絶えざるなり。成るは、樂の一たび終わるなり。○謝氏曰く、五音六律具わらざれば、以て樂と爲すに足りず。翕如は、其の合うことを言う。五音合うなり。淸濁高下、五味の相濟けて後和すが如し、故に純如と曰う。合して和すなり。其の倫を相奪うこと無きを欲する、故に皦如と曰う。然れども豈宮は自ら宮にして、商は自ら商ならんや。相反せずして相連なること、貫珠の如くあれば可なり。故に繹如たり、以て成ると曰うなり、と。
八佾24
○儀封人請見。曰、君子之至於斯也、吾未嘗不得見也。從者見之。出曰、二三子何患於喪乎。天下之無道也久矣。天將以夫子爲木鐸。請見・見之之見、賢遍反。從・喪、皆去聲。○儀、衛邑。封人、掌封疆之官。蓋賢而隱於下位者也。君子、謂當時賢者。至此皆得見之、自言其平日不見絶於賢者、而求以自通也。見之、謂通使得見。喪、謂失位去國。禮曰、喪欲速貧、是也。木鐸、金口木舌、施政敎時、所振以警衆者也。言亂極當治。天必將使夫子得位設敎。不久失位也。封人一見夫子、而遽以是稱之。其所得於觀感之閒者深矣。或曰、木鐸所以徇於道路。言天使夫子失位、周流四方以行其敎、如木鐸之徇於道路也。
【読み】
○儀封人見えんことを請う。曰く、君子の斯に至れるときに、吾未だ嘗て見[あ]うことを得ずんばあらず。從者之を見えしむ。出でて曰く、二三子何ぞ喪[うしな]えることを患えんや。天下の道無きこと久し。天將に夫子を以て木鐸とせんとす。請見・見之の見は賢遍の反。從・喪は皆去聲。○儀は衛の邑。封人は、封疆を掌るの官。蓋し賢にして下位に隱れる者なり。君子は、當時の賢者を謂う。此に至れるときに皆之に見うことを得るは、自ら其の平日賢者に絶れざることを言いて、以て自ら通ずるを求むなり。之を見えしむは、通じて見えることを得せしむを謂う。喪うは、位を失い國を去るを謂う。禮に曰う、喪いては速やかに貧ならんことを欲す、是れなり。木鐸は、金口木舌、政敎を施す時、振って以て衆を警むる所の者なり。言うこころは、亂極まれば當に治まるべし。天は必ず將に夫子をして位を得て敎を設けせしめんとす。久しく位を失わざるなり、と。封人一たび夫子を見て、遽かに是を以て之を稱す。其の觀感の閒に得る所の者深し。或ひと曰く、木鐸は以て道路に徇[ふれめぐ]る所なり。言うこころは、天の夫子に位を失わせ、四方に周流し以て其の敎を行わせること、木鐸の道路に徇えるが如くさせしむ、と。
八佾25
○子謂韶、盡美矣。又盡善也。謂武、盡美矣。未盡善也。韶、舜樂。武、武王樂。美者、聲容之盛。善者、美之實也。舜紹堯致治、武王伐紂救民。其功一也。故其樂皆盡美。然舜之德、性之也。又以揖遜而有天下。武王之德、反之也。又以征誅而得天下。故其實有不同者。○程子曰、成湯放桀。惟有慙德。武王亦然。故未盡善。堯舜湯武、其揆一也。征伐非其所欲、所遇之時然爾。
【読み】
○子韶を謂く、美を盡くせり。又善を盡くせり。武を謂く、美を盡くせり。未だ善を盡くさず。韶は舜の樂。武は武王の樂。美は、聲容の盛ん。善は、美の實なり。舜は堯に紹[つ]いで治を致し、武王は紂を伐って民を救う。其の功一なり。故に其の樂皆美を盡くす。然れども舜の德は之を性にす。又揖遜を以てして天下を有[たも]つ。武王の德は之に反る。又征誅を以て天下を得る。故に其の實同じからざる者有り。○程子曰く、成湯、桀を放つ。惟れ德に慙ずること有り。武王も亦然り。故に未だ善を盡くさず。堯舜湯武、其の揆一なり。征伐は其れ欲する所に非ず、遇う所の時然るのみ、と。
八佾26
○子曰、居上不寬、爲禮不敬、臨喪不哀、吾何以觀之哉。居上主於愛人。故以寬爲本。爲禮以敬爲本。臨喪以哀爲本。旣無其本、則以何者而觀其所行之得失哉。
【読み】
○子曰く、上に居て寬[ゆたか]ならず、禮を爲して敬まず、喪に臨んて哀しまざれば、吾何を以てか之を觀ん。上に居ては人を愛するを主とす。故に寬を以て本と爲す。禮を爲すは敬を以て本と爲す。喪に臨んでは哀を以て本と爲す。旣に其の本無ければ、則ち何者を以て其の行う所の得失を觀んや。
里仁第四 凡二十六章。
里仁1
○子曰、里仁爲美。擇不處仁、焉得知。處、上聲。焉、於虔反。知、去聲。○里有仁厚之俗爲美。擇里而不居於是焉、則失其是非之本心、而不得爲知矣。
【読み】
○子曰く、里は仁なるを美[よし]とす。擇ぶとして仁に處らざれば、焉んぞ知を得ん。處は上聲。焉は於虔の反。知は去聲。○里は仁厚の俗有るを美とす。里を擇びて是に居らざれば、則ち其の是非の本心を失いて、知と爲すを得ず。
里仁2
○子曰、不仁者不可以久處約。不可以長處樂。仁者安仁。知者利仁。樂、音洛。知、去聲。○約、窮困也。利、猶貪也。蓋深知篤好、而必欲得之也。不仁之人、失其本心。久約必濫、久樂必淫。惟仁者則安其仁、而無適不然。知者則利於仁、而不易所守。蓋雖深淺之不同、然皆非外物所能奪矣。○謝氏曰、仁者心無内外・遠近・精粗之閒。非有所存而自不亡。不有所理而自不亂。如目視而耳聽、手持而足行也。知者謂之有所見則可。謂之有所得則未可。有所存斯不亡、有所理斯不亂、未能無意也。安仁則一、利仁則二。安仁者、非顏・閔以上、去聖人爲不遠、不知此味也。諸子雖有卓越之才、謂之見道不惑則可。然未免於利之也。
【読み】
○子曰く、不仁者は以て久しく約[せわしき]に處る可からず。以て長く樂しきに處る可からず。仁者は仁に安んず。知者は仁を利とす。樂は音洛。知は去聲。○約は窮困なり。利は猶貪のごとし。蓋し深く知り篤く好みて、必ず之を得んと欲するなり。不仁の人は、其の本心を失う。久しく約なれば必ず濫[みだ]れ、久しく樂なれば必ず淫す。惟仁者のみ則ち其の仁に安んじて、適くとして然らざること無し。知者は則ち仁を利して、守る所を易えず。蓋し深淺は之れ同じからずと雖も、然れども皆外物の能く奪う所に非ざるなり。○謝氏曰く、仁者は心に内外・遠近・精粗の閒無し。存する所有るに非ずして自ら亡びず。理[おさ]むる所有らずして自ら亂れず。目の視て耳の聽き、手の持って足の行くが如きなり。知者、之を見る所有りと謂うは則ち可なり。之を得る所有りと謂うは則ち未だ可ならず。存する所有りて斯に亡びず、理むる所有りて斯に亂れざるは、未だ意無きこと能わざるなり。仁に安んずるは則ち一、仁を利するは則ち二。仁に安んずる者は、顏・閔以上、聖人を去ること遠からずと爲すに非ざれば、此の味を知らざるなり。諸子卓越の才有りと雖も、之を道を見て惑わずと謂うは則ち可なり。然れども未だ之を利するを免れざるなり、と。
里仁3
○子曰、惟仁者能好人、能惡人。好・惡、皆去聲。○惟之爲言獨也。蓋無私心、然後好惡當於理。程子所謂得其公正、是也。○游氏曰、好善而惡惡、天下之同情。然人每失其正者、心有所繋、而不能自克也。惟仁者無私心。所以能好惡也。
【読み】
○子曰く、惟仁者のみ能く人を好[よ]みんじ、能く人を惡みんず。好・惡は皆去聲。○惟の言爲るは獨りなり。蓋し私心無くして、然る後に好惡理に當たる。程子謂う所の其の公正を得る、是れなり。○游氏曰く、善を好みて惡を惡むは、天下の同情なり。然れども人每に其の正を失う者は、心繋がる所有りて、自ら克つこと能わざればなり。惟仁者のみ私心無し。能く好惡する所以なり、と。
里仁4
○子曰、苟志於仁矣、無惡也。惡、如字。○苟、誠也。志者、心之所之也。其心誠在於仁、則必無爲惡之事矣。○楊氏曰、苟志於仁、未必無過擧也。然而爲惡則無矣。
【読み】
○子曰く、苟[まこと]に仁に志すときは、惡しきこと無し。惡は字の如し。○苟は誠なり。志は、心の之く所なり。其の心誠に仁に在らば、則ち必ず惡を爲す事無し。○楊氏曰く、苟に仁に志せども、未だ必ずしも過擧無くんばあらざるなり。然り而して惡を爲すことは則ち無し、と。
里仁5
○子曰、富與貴、是人之所欲也。不以其道得之不處也。貧與賤、是人之惡也。不以其道得之不去也。惡、去聲。○不以其道得之、謂不當得而得之。然於富貴則不處、於貧賤則不去。君子之審富貴而安貧賤也如此。
【読み】
○子曰く、富と貴きとは、是れ人の欲する所なり。其の道を以てせずして之を得るとも處らず。貧しきと賤しきとは、是れ人の惡みんずる所なり。其の道を以てせずして之を得るとも去らず。惡は去聲。○其の道を以てせずして之を得るは、當に得べからずして之を得るを謂う。然れども富貴に於ては則ち處らず、貧賤に於ては則ち去らず。君子の富貴に審らかにして貧賤に安んずること此の如し。
君子去仁、惡乎成名。惡、平聲。○言君子所以爲君子、以其仁也。若貪富貴而厭貧賤、則是自離其仁而無君子之實矣。何所成其名乎。
【読み】
君子仁を去っては、惡[いずく]んぞ名を成さん。惡は平聲。○言うこころは、君子の君子爲る所以は、其の仁を以てなり。若し富貴を貪りて貧賤を厭わば、則ち是れ自ら其の仁を離れて君子の實無し。何ぞ其の名を成す所あらんや、と。
君子無終食之閒違仁。造次必於是、顚沛必於是。造、七到反。沛、音貝。○終食者、一飯之頃。造次、急遽苟且之時。顚沛、傾覆流離之際。蓋君子之不去乎仁如此、不但富貴貧賤取舍之閒而已也。○言君子爲仁、自富貴貧賤取舍之閒、以至於終食造次顚沛之頃、無時無處而不用其力也。然取舍之分明、然後存養之功密。存養之功密、則其取舍之分益明矣。
【読み】
君子は食を終わるの閒も仁に違うこと無し。造次にも必ず是に於てし、顚沛にも必ず是に於てす。造は七到の反。沛は音貝。○終食は、一飯の頃。造次は、急遽苟且の時。顚沛は、傾覆流離の際なり。蓋し君子の仁を去らざること此の如く、但富貴貧賤取舍の閒のみにあらざるなり。○言うこころは、君子の仁を爲す、富貴貧賤取舍の閒より、以て終食造次顚沛の頃に至るまで、時無く、處として其の力を用いざること無し、と。然れども取舍の分明らかにして、然る後存養の功密なり。存養の功密なれば、則ち其の取舍の分益々明らかなり。
里仁6
○子曰、我未見好仁者、惡不仁者。好仁者、無以尙之。惡不仁者、其爲仁矣、不使不仁者加乎其身。好・惡、皆去聲。○夫子自言、未見好仁者、惡不仁者。蓋好仁者、眞知仁之可好。故天下之物、無以加之。惡不仁者、眞知不仁之可惡。故其所以爲仁者、必能絶去不仁之事、而不使少有及於其身。此皆成德之事、故難得而見之也。
【読み】
○子曰く、我未だ仁を好む者、不仁を惡む者を見ず。仁を好む者には、以て之に尙[くわ]うること無し。不仁を惡む者、其の仁をすること、不仁なることをして其の身に加えしめず。好・惡は皆去聲。○夫子自ら言う、未だ仁を好む者、不仁を惡む者を見ず、と。蓋し仁を好む者は、眞に仁の好む可きを知る。故に天下の物、以て之に加うる無し。不仁を惡む者は、眞に不仁の惡む可きを知る。故に其の仁を爲すの所以の者は、必ず能く不仁の事を絶ち去って、少しも其の身に及ぼすこと有らしめず。此れ皆成德の事、故に得て之を見難きなり。
有能一日用其力於仁矣乎、我未見力不足者。言好仁惡不仁者、雖不可見、然或有人果能一旦奮然用力於仁、則我又未見其力有不足者。蓋爲仁在己。欲之則是。而志之所至、氣必至焉。故仁雖難能、而至之亦易也。
【読み】
能く一日其の力を仁に用うること有れば、我未だ力を足らざる者を見ず。言うこころは、仁を好み不仁を惡むは、見る可からざると雖も、然れども或は人果たして能く一旦奮然として力を仁に用うる有らば、則ち我又未だ其の力足らざること有る者を見ず、と。蓋し仁を爲すは己に在り。之を欲すれば則ち是なり。而して志の至る所、氣必ず至る。故に仁能し難しと雖も、而して之に至るは亦易し。
蓋有之矣、我未之見也。蓋、疑辭。有之、謂有用力而力不足者。蓋人之氣質不同。故疑亦容或有此昏弱之甚、欲進而不能者。但我偶未之見耳。蓋不敢終以爲易、而又歎人之莫肯用力於仁也。○此章言、仁之成德、雖難其人、然學者苟能實用其力、則亦無不可至之理。但用力而不至者、今亦未見其人焉。夫子所以反覆而歎息之也。
【読み】
蓋し之れ有らん、我未だ之を見ず。蓋は疑いの辭。之れ有らんは、力を用いて力足らざる者有るを謂う。蓋し人の氣質同じからず。故に疑うらくは亦或は此の昏弱の甚だしく、進まんと欲して能わざる者有る容[べ]し。但我偶々未だ之を見ざるのみ。蓋し敢えて終に以て易きと爲さずして、又人の肯えて力を仁に用うること莫きを歎くなり。○此の章、言うこころは、仁の成德は、其の人を難しとすと雖も、然れども學者、苟も能く實に其の力を用うれば、則ち亦至る可からざるの理無し。但力を用いて至らざる者すら、今亦未だ其の人を見ず、と。夫子反覆して之を歎息するの所以なり。
里仁7
○子曰、人之過也、各於其黨。觀過斯知仁矣。黨、類也。程子曰、人之過也、各於其類。君子常失於厚、小人常失於薄。君子過於愛、小人過於忍。尹氏曰、於此觀之、則人之仁・不仁可知矣。○吳氏曰、後漢吳祐謂、掾以親故受汙辱之名。所謂觀過知仁、是也。愚按、此亦但言人雖有過、猶可卽此而知其厚薄。非謂必俟其有過、而後賢否可知也。
【読み】
○子曰く、人の過は、各々其の黨[たぐい]に於てす。過を觀ても斯に仁を知る。黨は類なり。程子曰く、人の過は、各々其の類に於てす。君子は常に厚きに失し、小人は常に薄きに失す。君子は愛に過ぎ、小人は忍に過ぐ、と。尹氏曰く、此に於て之を觀れば、則ち人の仁・不仁知る可し、と。○吳氏曰く、後漢の吳祐謂う、掾は親の故を以て汙辱の名を受く、と。所謂過を觀ても仁を知るは是れなり、と。愚按ずるに、此も亦但人に過有りと雖も、猶此に卽きて其の厚薄を知る可きがごときを言うのみ。必ずしも其の過有るを俟ちて、後に賢否を知る可しと謂うに非ざるなり。
里仁8
○子曰、朝聞道、夕死可矣。道者、事物當然之理。苟得聞之、則生順死安、無復遺恨矣。朝夕、所以甚言其時之近。○程子曰、言人不可以不知道。苟得聞道、雖死可也。又曰、皆實理也。人知而信者爲難。死生亦大矣。非誠有所得、豈以夕死爲可乎。
【読み】
○子曰く、朝に道を聞いて、夕べに死すとも可なり。道は、事物當然の理なり。苟も之を聞くことを得ば、則ち生きては順い死しては安くして、復遺恨無し。朝夕は、其の時の近きを甚だしく言う所以なり。○程子曰く、言うこころは、人以て道を知らざる可からず。苟も道を聞くを得ば、死すと雖も可なり、と。又曰く、皆實理なり。人知って信ずるを難しと爲す。死生も亦大なり。誠に得る所有るに非ざれば、豈夕べに死するを以て可と爲さんや、と。
里仁9
○子曰、士志於道、而恥惡衣惡食者、未足與議也。心欲求道、而以口體之奉不若人爲恥、其識趣之卑陋甚矣。何足與議於道哉。○程子曰、志於道而心役乎外、何足與議也。
【読み】
○子曰く、士道に志して、惡衣惡食を恥ずる者は、未だ與に議[はか]るに足らず。心道を求めんと欲して、口體の奉人に若かざるを以て恥と爲すは、其の識趣の卑陋甚だし。何ぞ與に道を議るに足らんや。○程子曰く、道に志して心外に役せらるるは、何ぞ與に議るに足らんや、と。
里仁10
○子曰、君子之於天下也、無適也、無莫也、義之與比。適、丁歴反。比、必二反。○適、專主也。春秋傳曰、吾誰適從、是也。莫、不肯也。比、從也。○謝氏曰、適、可也。莫、不可也。無可無不可、苟無道以主之、不幾於猖狂自恣乎。此老佛之學、所以自謂心無所住而能應變、而卒得罪於聖人也。聖人之學不然。於無可無不可之閒、有義存焉。然則君子之心、果有所倚乎。
【読み】
○子曰く、君子の天下に於る、適も無く、莫も無くして、義と與に比[したが]う。適は丁歴の反。比は必二の反。○適は專主なり。春秋傳に曰く、吾誰にか適從せん、と。是れなり。莫は肯えてせざるなり。比うは從うなり。○謝氏曰く、適は可なり。莫は不可なり。可も無く不可も無く、苟も道を以て之を主たること無くば、猖狂自恣するに幾[ちか]からんや。此れ老佛の學、自ら心住[とど]まる所無くして能く變に應ずと謂いて、卒に罪を聖人に得る所以なり。聖人の學は然らず。可も無く不可も無きの閒に於て、義有りて存ず。然れば則ち君子の心、果たして倚る所有らんや、と。
里仁11
○子曰、君子懷德。小人懷土。君子懷刑。小人懷惠。懷、思念也。懷德、謂存其固有之善。懷土、謂溺其所處之安。懷刑、謂畏法。懷惠、謂貪利。君子小人趣向不同、公私之閒而已矣。○尹氏曰、樂善惡不善、所以爲君子。苟安務得、所以爲小人。
【読み】
○子曰く、君子は德を懷[おも]う。小人は土を懷う。君子は刑を懷う。小人は惠を懷う。懷は思念なり。德を懷うは、其の固有の善を存するを謂う。土を懷うは、其の處る所の安きに溺るるを謂う。刑を懷うは、法を畏るるを謂う。惠を懷うは、利を貪るを謂う。君子小人の趣向同じからざるは、公私の閒のみ。○尹氏曰く、善を樂しみ不善を惡むは、君子爲る所以なり。苟も安んじ得るを務むるは、小人爲る所以なり、と。
里仁12
○子曰、放於利而行、多怨。放、上聲。○孔子曰、放、依矣。多怨、謂多取怨。○程子曰、欲利於己、必害於人。故多怨。
【読み】
○子曰く、利に放[よ]って行うときは、怨多し。放は上聲。○孔子曰く、放は依なり。怨多しは、多く怨を取るを謂う、と。○程子曰く、己を利せんと欲せば、必ず人に害あり。故に怨多し、と。
里仁13
○子曰、能以禮讓爲國乎、何有。不能以禮讓爲國、如禮何。譲者、禮之實也。何有、言不難也。言有禮之實以爲國、則何難之有。不然、則其禮文雖具、亦且無如之何矣。而況於爲國乎。
【読み】
○子曰く、能く禮讓を以て國を爲[おさ]めば、何か有らん。禮讓を以て國を爲むること能わざれば、禮を如何。譲は、禮の實なり。何か有らんは、難からざるを言うなり。言うこころは、禮の實有りて以て國を爲むれば、則ち何ぞ難きこと之れ有らん。然らざれば、則ち其の禮文具わると雖も、亦且つ之を如何ともすること無し。況や國を爲むるに於てや、と。
里仁14
○子曰、不患無位、患所以立。不患莫己知、求爲可知也。所以立、謂所以立乎其位者。可知、謂可以見知之實。○程子曰、君子求其在己者而已矣。
【読み】
○子曰く、位無きを患えず、以て立つ所を患えよ。己を知ること莫きことを患えず、求めて知らる可きををせよ。以て立つ所は、其の位に立つ所以の者を謂う。知らる可きは、以て知らる可きの實を謂う。○程子曰く、君子は其の己に在る者を求むるのみ、と。
里仁15
○子曰、參乎、吾道一以貫之。曾子曰、唯。參、所金反。唯、上聲。○參乎者、呼曾子之名而告之。貫、通也。唯者、應之速而無疑者也。聖人之心、渾然一理、而泛應曲當、用各不同。曾子於其用處、蓋已隨事精察而力行之。但未知其體之一爾。夫子知其眞積力久、將有所得。是以呼而告之。曾子果能默契其指。卽應之速而無疑也。
【読み】
○子曰く、參や、吾が道は一以て之を貫く。曾子曰く、唯。參は所金の反。唯は上聲。○參やは、曾子の名を呼びて之に告ぐ。貫は通なり。唯は、應ずることの速やかにして疑い無き者なり。聖人の心は、渾然一理にして泛く應じ曲[つぶさ]に當り、用各々同じからず。曾子其の用處に於て、蓋し已に事に隨い精察して力めて之を行う。但未だ其の體の一なるを知らざるのみ。夫子其の眞に積み力むること久しくして、將に得る所有らんとするを知る。是を以て呼びて之に告ぐ。曾子果たして能く其の指を默契す。卽ち應ずることの速やかにして疑い無きなり。
子出。門人問曰、何謂也。曾子曰、夫子之道、忠恕而已矣。盡己之謂忠、推己之謂恕。而已矣者、竭盡而無餘之辭也。夫子之一理渾然、而泛應曲當、譬則天地之至誠無息、而萬物各得其所也。自此之外、固無餘法、而亦無待於推矣。曾子有見於此、而難言之。故借學者盡己推己之目、以著明之、欲人之易曉也。蓋至誠無息者、道之體也。萬殊之所以一本也。萬物各得其所者、道之用也。一本之所以萬殊也。以此觀之、一以貫之之實可見矣。或曰、中心爲忠、如心爲恕。於義亦通。○程子曰、以己及物仁也。推己及物恕也。違道不遠。是也。忠恕一以貫之、忠者天道、恕者人道。忠者無妄、恕者所以行乎忠也。忠者體、恕者用。大本達道也。此與違道不遠異者、動以天爾。又曰、維天之命、於穆不已、忠也。乾道變化、各正性命、恕也。又曰、聖人敎人、各因其才。吾道一以貫之、惟曾子爲能達此。孔子所以告之也。曾子告門人曰、夫子之道、忠恕而已矣、亦猶夫子之告曾子也。中庸所謂忠恕違道不遠、斯乃下學上達之義。
【読み】
子出でぬ。門人問うて曰く、何と謂うことぞ。曾子曰く、夫子の道は、忠恕ならくのみ。己を盡くすを忠と謂い、己を推すを恕と謂う。而已矣は、竭盡して餘すこと無きの辭なり。夫子の一理渾然にして泛く應じ曲に當るは、譬えば則ち天地の至誠息むこと無くして、萬物各々其の所を得るがごときなり。此より外、固より餘法無くして、亦推すを待つこと無し。曾子此に見ること有りて、而して之を言い難し。故に學者己を盡くし己を推すの目を借り、以て之を著明にし、人の曉り易からんことを欲す。蓋し至誠息む無きは、道の體なり。萬殊の一本なる所以なり。萬物各々其の所を得るは、道の用なり。一本の萬殊なるの所以なり。此を以て之を觀れば、一以て之を貫くの實、見る可し。或ひと曰く、中心を忠と爲し、如心を恕と爲す、と。義に於て亦通ず。○程子曰く、己を以て物に及ぼすは仁なり。己を推して物に及ぼすは恕なり。道を違[さ]ること遠からず。是れなり。忠恕一以て之を貫くは、忠は天道、恕は人道なり。忠は無妄、恕は忠を行う所以なり。忠は體、恕は用なり。大本達道なり。此れ道を違ること遠からずと異なる者は、動くに天を以てするのみ、と。又曰く、維れ天の命、於[ああ]穆として已まずは、忠なり。乾道變化して、各々性命を正すは、恕なり、と。又曰く、聖人人を敎うるは、各々其の才に因る。吾が道は一以て之を貫くは、惟曾子のみ能く此を達すると爲す。孔子の之に告ぐる所以なり。曾子門人に告げて、夫子の道、忠恕のみと曰うは、亦猶夫子の曾子に告ぐるがごときなり。中庸謂う所の忠恕道を違ること遠からずは、斯れ乃ち下學して上達の義なり、と。
里仁16
○子曰、君子喩於義。小人喩於利。喩、猶曉也。義者、天理之所宜。利者、人情之所欲。○程子曰、君子之於義、猶小人之於利也。惟其深喩、是以篤好。楊氏曰、君子有舍生取義者。以利言之、則人之所欲、無甚於生、所惡無甚於死。孰肯舍生取義哉。其所喩者義而已。不知利之爲利故也。小人反是。
【読み】
○子曰、君子は義を喩[さと]る。小人は利を喩る。喩るは猶曉るのごとし。義は、天理の宜しき所。利は、人情の欲する所なり。○程子曰く、君子の義に於るは、猶小人の利に於るがごとし。惟其の深く喩る、是を以て篤く好む、と。楊氏曰く、君子は生を舍て義を取る者有り。利を以て之を言わば、則ち人の欲する所、生より甚だしきは無く、惡む所、死より甚だしきは無し。孰か肯えて生を舍て義を取らんや。其の喩る所は義のみ。利の利爲るを知らざるが故なり。小人は是に反す、と。
里仁17
○子曰、見賢思齊焉、見不賢而内自省也。省、悉井反。○思齊者、冀己亦有是善。内自省者、恐己亦有是惡。○胡氏曰、見人之善惡不同、而無不反諸身者、則不徒羨人而甘自棄、不徒責人而忘自責矣。
【読み】
○子曰く、賢を見ては齊しからんことを思い、不賢を見ては内に自ら省みる。省は悉井の反。○齊しからんことを思うは、己も亦是の善有らんと冀うなり。内に自ら省みるは、己も亦是の惡有らんかと恐るなり。○胡氏曰く、人の善惡の同じからざるを見て、諸の身に反さざる無ければ、則ち徒に人を羨みて自ら棄つるに甘んずること無く、徒に人を責めて自ら責むるを忘れざるなり、と。
里仁18
○子曰、事父母幾諫。見志不從、又敬不違、勞而不怨。此章與内則之言相表裏。幾、微也。微諫、所謂父母有過、下氣怡色、柔聲以諫也。見志不從、又敬不違、所謂諫若不入、起敬起孝、悦則復諫也。勞而不怨、所謂與其得罪於郷黨州閭、寧熟諫。父母怒不悦、而撻之流血、不敢疾怨、起敬起孝也。
【読み】
○子曰く、父母に事るには幾[ようやく]に諫む。志の從うまじきを見るときは、又敬して違わず、勞しても怨みず。此の章、内則の言と相表裏す。幾は微なり。微諫は、謂う所の父母過有らば、氣を下し色を怡ばし、聲柔らかにして以て諫むなり。志の從うまじきを見るときは、又敬して違わずは、謂う所の諫め若し入れられざれば、敬を起こし孝を起こし、悦べば則ち復諫むなり。勞して怨みずは、謂う所の其の罪を郷黨州閭に得んよりは、寧ろ熟諫せよ。父母怒りて悦ばず、而して之を撻ちて血流るとも、敢えて疾怨せず、敬を起こし孝を起こすなり。
里仁19
○子曰、父母在、不遠遊。遊必有方。遠遊、則去親遠、而爲日久。定省曠而音問疎。不惟己之思親不置、亦恐親之念我不忘也。遊必有方、如已告云之東、則不敢更適西。欲親必知己之所在而無憂、召己則必至無失也。范氏曰、子能以父母之心爲心、則孝矣。
【読み】
○子曰く、父母在すときは、遠く遊ばず。遊ぶときは必ず方有り。遠く遊ぶときは、則ち親を去ること遠くして、日爲ること久し。定省曠[むな]しくして音問疎なり。惟れ己の親を思いて置かざるのみにあらず、亦親の我を念いて忘れざるを恐るなり。遊ぶときは必ず方有りは、已に告げて東へ之くと云わば、則ち敢えて更に西に適かざるが如し。親の必ず己の在る所を知りて憂い無く、己を召せば則ち必ず至りて失うこと無きを欲するなり。范氏曰く、子能く父母の心を以て心と爲せば、則ち孝なり、と。
里仁20
○子曰、三年無改於父之道、可謂孝矣。胡氏曰、已見首篇。此蓋複出、而逸其半也。
【読み】
○子曰く、三年父の道を改むる無きを、孝と謂う可し。胡氏曰く、已に首篇に見ゆ。此れ蓋し複出して、其の半ばを逸するなり。
里仁21
○子曰、父母之年、不可不知也。一則以喜、一則以懼。知、猶記憶也。常知父母之年、則旣喜其壽、又懼其衰。而於愛日之誠、自有不能已者。
【読み】
○子曰く、父母の年をば、知らずんばある可からず。一つには則ち以て喜び、一つには則ち以て懼る。知は猶記憶のごとし。常に父母の年を知るときは、則ち旣に其の壽を喜び、又其の衰うを懼る。而して日を愛しむの誠に於て、自ら已むこと能わざる者あり。
里仁22
○子曰、古者言之不出、恥躳之不逮也。言古者、以見今之不然。逮、及也。行不及言、可恥之甚。古者所以不出其言、爲此故也。○范氏曰、君子之於言也、不得已而後出之。非言之難、而行之難也。人惟其不行也。是以輕言之。言之如其所行、行之如其所言、則出諸其口、必不易矣。
【読み】
○子曰く、古言を出さざるは、躳の逮[およ]ばざらんことを恥てなり。古者と言い、以て今の然らざるを見[あら]わすなり。逮ぶは及ぶなり。行い、言に及ばざれば、恥ず可きの甚だしきなり。古其の言の出でざる所以は、此が爲故なり。○范氏曰く、君子の言に於るや、已むことを得ずして後之を出す。之を言うこと難きに非らずして、而して之を行うこと難きなり。人惟其れ行わざるのみなり。是を以て輕く之を言う。之を言うこと其の行う所の如く、之を行うこと其の言う所の如くば、則ち諸を其の口より出すは、必ず易からざるなり、と。
里仁23
○子曰、以約失之者鮮矣。鮮、上聲。○謝氏曰、不侈然以自放、之謂約。尹氏曰、凡事約則鮮失。非止謂儉約也。
【読み】
○子曰く、約を以て之を失する者は鮮し。鮮は上聲。○謝氏曰く、侈然として以て自放せず、之を約と謂う、と。尹氏曰く、凡そ事約なれば則ち失うこと鮮し。止[ただ]に儉約を謂うに非ざるなり、と。
里仁24
○子曰、君子欲訥於言而敏於行。行、去聲。○謝氏曰、放言易。故欲訥。力行難。故欲敏。○胡氏曰、自吾道一貫至此十章、疑皆曾子門人所記也。
【読み】
○子曰く、君子は言に訥[おそ]うして行に敏からまく欲す。行は去聲。○謝氏曰く、言を放つは易し。故に訥を欲す。行を力むるは難し。故に敏を欲す、と。○胡氏曰く、吾が道一貫より此に至るの十章、疑うらくは皆曾子門人の記す所ならん、と。
里仁25
○子曰、德不孤、必有鄰。鄰、猶親也。德不孤立、必以類應。故有德者、必有其類從之。如居之有鄰也。
【読み】
○子曰く、德は孤[ひとり]ならず、必ず鄰有り。鄰は猶親のごとし。德は孤立せず、必ず類を以て應ず。故に德有る者は、必ず其の類有りて之に從う。居に鄰有るが如きなり。
里仁26
○子游曰、事君數、斯辱矣。朋友數、斯疏矣。數、色角反。○程子曰、數、煩數也。胡氏曰、事君諫不行、則當去。導友善不納、則當止。至於煩瀆、則言者輕、聽者厭矣。是以求榮而反辱、求親而反疏也。范氏曰、君臣・朋友、皆以義合。故其事同也。
【読み】
○子游曰く、君に事って數々するときは、斯[すなわ]ち辱しめらる。朋友に數々するときは、斯ち疏[うと]んぜらる。數は色角の反。○程子曰く、數は煩數なり、と。胡氏曰く、君に事りて諫め行わざるときは、則ち當に去るべし。友を導きて善納れられざるときは、則ち當に止むべし。煩瀆するに至れば、則ち言う者輕く、聽く者厭う。是を以て榮を求めて反って辱しめられ、親を求めて反って疏んぜらるるなり、と。范氏曰く、君臣・朋友は皆義を以て合う。故に其の事同じなり、と。
論語卷之三
公冶長第五 此篇、皆論古今人物賢否得失。蓋格物窮理之一端也。凡二十七章。胡氏以爲、疑多子貢之徒所記云。
【読み】
公冶長第五 此の篇は、皆古今の人物の賢否得失を論ず。蓋し格物窮理の一端なり。凡て二十七章。胡氏以爲らく、疑うらくは子貢の徒の記す所多しと云う。
公冶長1
○子謂公冶長、可妻也。雖在縲絏之中、非其罪也、以其子妻之。妻、去聲、下同。縲、力追反。絏、息列反。○公冶長、孔子弟子。妻、爲之妻也。縲、黑索也。絏、攣也。古者獄中以黑索拘攣罪人。長之爲人、無所考。而夫子稱其可妻、其必有以取之矣。又言、其人雖嘗陷於縲絏之中、而非其罪、則固無害於可妻也。夫有罪無罪、在我而已。豈以自外至者、爲榮辱哉。
【読み】
○子、公冶長を謂く、妻[めあ]わす可し。縲絏[るいせつ]の中に在りと雖も、其の罪に非ずといって、其の子を以て之に妻わす。妻は去聲、下も同じ。縲は力追の反。絏は息列の反。○公冶長は孔子の弟子。妻は之の妻とするなり。縲は黑索なり。絏は攣[れん]なり。古は獄中黑索を以て罪人を拘攣す。長の爲人[ひととなり]や、考う所無し。而して夫子其れ妻わす可しと稱せば其れ必ず以て之を取るもの有らん。又言う、其の人嘗て縲絏の中に陷ると雖も、其の罪に非ざれば、則ち固より妻わす可きに害無きなり。夫れ罪有り罪無きは、我に在るのみ。豈外より至る者を以て、榮辱と爲さんや、と。
子謂南容、邦有道不廢。邦無道免於刑戮、以其兄之子妻之。南容、孔子弟子、居南宮。名縚、又名适、字子容、諡敬叔。孟懿子之兄也。不廢、言必見用也。以其謹於言行、故能見用於治朝、免禍於亂世也。事又見第十一篇。○或日、公冶長之賢、不及南容。故聖人以其子妻長、而以兄子妻容。蓋厚於兄、而薄於己也。程子曰、此以己之私心窺聖人也。凡人避嫌者、皆内不足也。聖人自至公、何避嫌之有。況嫁女必量其才而求配。尤不當有所避也。若孔子之事、則其年之長幼、時之先後、皆不可知。惟以爲避嫌、則大不可。避嫌之事、賢者且不爲。況聖人乎。
【読み】
子南容を謂く、邦に道有るときは廢[すて]られじ。邦に道無きときは刑戮[けいりく]に免れんといって、其の兄の子を以て之に妻わず。南容は孔子の弟子、南宮に居る。名は縚、又名は适、字は子容、諡は敬叔。孟懿子の兄なり。廢られずは、言うこころは、必ず用いらるるなり、と。其の言行を謹むを以て、故に能く治朝に用いられ、禍を亂世に免るるなり。事は又第十一篇に見ゆ。○或ひと日く、公冶長の賢、南容に及ばず。故に聖人其の子を以て長に妻わせ、兄の子を以て容に妻わす。蓋し兄に厚くして、己に薄くするなり、と。程子曰く、此れ己の私心を以て聖人を窺うなり。凡て人の嫌を避く者は、皆内足らざるなり。聖人自ら至公、何ぞ嫌を避くること有らん。況や女を嫁するに必ず其の才を量りて配を求む。尤も當に避くる所有るべからざるなり。孔子の事の若き、則ち其の年の長幼、時の先後、皆知る可からず。惟以て嫌を避くると爲すは、則ち大いに可からず。嫌を避くるの事、賢者も且爲さず。況や聖人をや、と。
公冶長2
○子謂子賤、君子哉若人。魯無君子者、斯焉取斯。焉、於虔反。○子賤、孔子弟子、姓宓、名不齊。上斯、斯此人、下斯、斯此德。子賤蓋能尊賢取友、以成其德者。故夫子旣歎其賢、而又言、若魯無君子、則此人何所取以成此德乎。因以見魯之多賢也。○蘇氏曰、稱人之善、必本其父兄師友、厚之至也。
【読み】
○子子賤を謂く、君子なるかな若[かくのごと]き人。魯に君子者無くば、斯れ焉んぞ斯れを取らん。焉は於虔の反。○子賤は孔子の弟子、姓は宓[ふく]、名は不齊。上の斯は、此の人を斯れとし、下の斯は、此の德を斯れとす。子賤蓋し能く賢を尊び友を取り、以て其の德と成す者なり。故に夫子旣に其の賢を歎じて、又言う、若し魯に君子無くんば、則ち此の人何ぞ取り以て此の德を成す所あらんや、と。因りて以て魯の賢多きを見[あらわ]すなり。○蘇氏曰く、人の善を稱するに、必ず其の父兄師友に本づくるは、厚きの至りなり、と。
公冶長3
○子貢問曰、賜也何如。子曰、女器也。曰、何器也。曰、瑚璉也。女、音汝。瑚、音胡。璉、力展反。○器者、有用之成材。夏曰瑚、商曰璉、周曰簠簋。皆宗廟盛黍稷之器、而飾以玉。器之貴重而華美者也。子貢見孔子以君子許子賤。故以己爲問。而孔子告之以此。然則子貢雖未至於不器、其亦器之貴者歟。
【読み】
○子貢問うて曰く、賜は何如。子曰く、女は器なり。曰く、何の器ぞ。曰く、瑚璉なり。女の音は汝。瑚の音は胡。璉は力展の反。○器は、用有るの成材。夏は瑚と曰い、商は璉と曰い、周は簠簋と曰う。皆宗廟に黍稷を盛る器にして、飾は玉を以てす。器の貴重にして華美なる者なり。子貢、孔子の君子を以て子賤を許すを見る。故に己を以て問いと爲す。而して孔子之に告ぐるに此を以てす。然れば則ち子貢未だ器ならずに至らずと雖も、其れ亦器の貴き者か。
公冶長4
○或曰、雍也仁而不佞。雍、孔子弟子、姓冉、字仲弓。佞、口才也。仲弓爲人、重厚簡默。而時人以佞爲賢。故美其優於德、而病其短於才也。
【読み】
○或ひと曰く、雍は仁あって佞ならず。雍は孔子の弟子、姓は冉、字は仲弓。佞は口才なり。仲弓の爲人[ひととなり]、重厚簡默。而して時の人佞を以て賢と爲す。故に其の德に優かなるを美[ほ]めて、其の才に短きを病とす。
子曰、焉用佞。禦人以口給、屢憎於人。不知其仁。焉用佞。焉、於虔反。○禦、當也。猶應答也。給、辨也。憎、惡也。言何用佞乎。佞人所以應答人者、但以口取辨、而無情實、徒多爲人所憎惡爾。我雖未知仲弓之仁、然其不佞乃所以爲賢。不足以爲病也。再言焉用佞、所以深曉之。○或疑、仲弓之賢、而夫子不許其仁、何也。曰、仁道至大。非全體而不息者、不足以當之。如顏子亞聖、猶不能無違於三月之後。況仲弓雖賢、未及顏子。聖人固不得而輕許之也。
【読み】
子曰く、焉ぞ佞を用いん。人に禦[あた]るに口給を以てして、屢々人に憎まる。其の仁を知らず。焉んぞ佞を用いん。焉は於虔の反。○禦るは當るなり。猶應答のごときなり。給は辨なり。憎むは惡むなり。言うこころは、何ぞ佞を用いんや。佞人の人に應答する所以は、但口を以て辨を取りて、情實無く、徒多く人の憎惡する所とするのみ。我未仲弓の仁を知らずと雖も、然れども其の佞ならざるは乃ち賢爲る所以にて、以て病とするに足らざるなり、と。再び焉んぞ佞を用いんと言うは、深く之を曉す所以なり。○或ひと疑うらくは、仲弓の賢にして、夫子其の仁を許さざるは、何ぞや、と。曰く、仁道は至大なり。全體にして息まざる者に非ざれば、以て之に當るに足りず。顏子亞聖の如きも、猶三月の後に違い無きこと能わず。況や仲弓賢なりと雖も、未だ顏子に及ばず。聖人固より得て輕々しく之を許さざるなり、と。
公冶長5
○子使漆雕開仕。對曰、吾斯之未能信。子說。說、音悦。○漆雕開、孔子弟子、字子若。斯、指此理而言。信、謂眞知其如此、而無毫髪之疑也。開自言、未能如此、未可以治人。故夫子說其篤志。○程子曰、漆雕開已見大意。故夫子說之。又曰、古人見道分明。故其言如此。謝氏曰、開之學無可考。然聖人使之仕、必其材可以仕矣。至於心術之微、則一毫不自得、不害其爲未信。此聖人所不能知、而開自知之。其材可以仕、而其器不安於小成。他日所就、其可量乎。夫子所以說之也。
【読み】
○子漆雕開を仕えしむ。對えて曰く、吾斯れを未だ信ずること能わず。子說ぶ。說の音は悦。○漆雕開は孔子の弟子、字は子若。斯は、此の理を指して言う。信は、眞に其の此の如くなるを知りて、毫髪の疑い無きを謂うなり。開自ら言う、未だ此の如きこと能わず、未だ以て人を治む可からず、と。故に夫子其の篤志を說ぶ。○程子曰く、漆雕開已に大意を見る。故に夫子之を說ぶ、と。又曰く、古人道を見ること分明なり。故に其の言此の如し、と。謝氏曰く、開の學考う可き無し。然れども聖人之をして仕えしめば、必ず其の材以て仕う可し。心術の微に至りては、則ち一毫も自得せざるあれば、其の未だ信ぜずと爲すを害さず。此れ聖人の知ること能わざる所にて、開自ら之を知る。其の材は以て仕う可くして、其の器は小成に安んぜず。他日就[な]る所、其れ量る可けんや。夫子の之を說ぶ所以なり、と。
公冶長6
○子曰、道不行、乘桴浮于海。從我者、其由與。子路聞之喜。子曰、由也好勇過我。無所取材。桴、音孚。從・好、竝去聲。與、平聲。材與裁同。古字借用。○桴、筏也。程子曰、浮海之歎、傷天下之無賢君也。子路勇於義。故謂其能從己。皆假設之言耳。子路以爲實然。而喜夫子之與己。故夫子美其勇、而譏其不能裁度事理以適於義也。
【読み】
○子曰く、道行われず、桴[いかだ]に乘って海に浮ばん。我に從わん者は、其れ由か。子路之を聞いて喜ぶ。子曰く、由勇を好むこと我に過ぎたり。取り材[はか]る所無し。桴の音は孚。從・好は竝去聲。與は平聲。材は裁と同じ。古字借用す。○桴は筏なり。程子曰く、海に浮ばんの歎は、天下の賢君無きを傷むなり。子路義に勇めり。故に其の能く己に從わんと謂う。皆假り設くるの言のみ。子路以爲らく、實に然り、と。而して夫子の己に與するを喜ぶ。故に夫子其の勇を美めて、其の事理を裁り度り以て義に適[かな]うこと能わざるを譏るなり、と。
公冶長7
○孟武伯問、子路仁乎。子曰、不知也。子路之於仁、蓋日月至焉者、或在或亡。不能必其有無。故以不知告之。
【読み】
○孟武伯問う、子路は仁ありや。子曰く、知らず。子路の仁に於る、蓋し日月至る者にて、或は在り或は亡し。其の有無を必とすること能わず。故に知らざるを以て之に告ぐ。
又問。子曰、由也千乘之國、可使治其賦也。不知其仁也。乘、去聲。○賦、兵也。古者以田賦出兵。故謂兵爲賦。春秋傳、所謂悉索敝賦、是也。言子路之才可見者如此。仁則不能知也。
【読み】
又問う。子曰く、由は千乘の國、其の賦を治めつ可し。其の仁を知らず。乘は去聲。○賦は兵なり。古は田賦を以て兵を出す。故に兵を謂いて賦と爲す。春秋傳に謂う所の悉く敝賦を索[つ]くす、是れなり。言うこころは、子路の才見る可き者此の如し。仁は則ち知ること能わざるなり、と。
求也何如。子曰、求也千室之邑、百乘之家、可使爲之宰也。不知其仁也。千室、大邑。百乘、卿大夫之家。宰、邑長家臣之通號。
【読み】
求は何如。子曰く、求は千室の邑、百乘の家、之が宰爲らしめつ可し。其の仁を知らず。千室は大邑。百乘は卿大夫の家。宰は邑長家臣の通號なり。
赤也何如。子曰、赤也束帶立於朝、可使與賓客言也。不知其仁也。朝、音潮。○赤、孔子弟子、姓公西、字子華。
【読み】
赤は何如。子曰く、赤は束帶して朝に立てて、賓客と言[ものいわ]しめつ可し。其の仁を知らず。朝の音は潮。○赤は孔子の弟子、姓は公西、字は子華。
公冶長8
○子謂子貢曰、女與囘也孰愈。女、音汝。下同。○愈、勝也。
【読み】
○子子貢に謂いて曰く、女と囘と孰れか愈[まさ]れる。女の音は汝。下も同じ。○愈るは勝るなり。
對曰、賜也何敢望囘。囘也聞一以知十。賜也聞一知二。一、數之始。十、數之終。二者、一之對也。顏子明睿所照、卽始而見終。子貢推測而知。因此而識彼、無所不說。告往知來、是其驗矣。
【読み】
對えて曰く、賜何ぞ敢えて囘を望まん。囘は一を聞いて以て十を知る。賜は一を聞いて二を知る。一は數の始め。十は數の終わり。二は一の對なり。顏子は明睿の照らす所、始めに卽きて終わりを見る。子貢推測して知る。此に因りて彼を識り、說ばざる所無し。往を告げて來を知る、是れ其の驗なり。
子曰、弗如也。吾與女弗如也。與、許也。○胡氏曰、子貢方人。夫子旣語以不暇。又問其與囘孰愈、以觀其自知之如何。聞一知十、上知之資、生知之亞也。聞一知二、中人以上之資、學而知之之才也。子貢平日以己方囘、見其不可企及。故喩之如此。夫子以其自知之明、而又不難於自屈、故旣然之、又重許之。此其所以終聞性與天道。不特聞一知二而已也。
【読み】
子曰く、如かず。吾女が如かざるとするを與[ゆる]す。與すは許すなり。○胡氏曰く、子貢人を方[くら]ぶ。夫子旣に語るに暇あらざるを以てす。又其の囘と孰れか愈れるかを問い、以て其の自ら知るの如何を觀る。一を聞いて十を知るは、上知の資、生まれながらに知るの亞[つぎ]なり。一を聞いて二を知るは、中人以上の資、學びて之を知るの才なり。子貢平日己を以て囘に方べ、其の企て及ぶ可からざるを見る。故に之を喩ること此の如し。夫子其の自ら知ることの明らかにして、又自ら屈するを難しとせざるを以て、故に旣に之を然りとして、又重ねて之を許す。此れ其の終に性と天道とを聞く所以なり。特[ひと]り一を聞いて二を知るのみならざるなり、と。
公冶長9
○宰予晝寢。子曰、朽木不可雕也。糞土之牆不可杇也。於予與何誅。朽、許久反。杇、音汙。與、平聲、下同。○晝寢、謂當晝而寢。朽、腐也。雕、刻畫也。杇、鏝也。言其志氣昏惰、敎無所施也。與、語辭。誅、責也。言不足責、乃所以深責之。
【読み】
○宰予晝寢たり。子曰く、朽ちたる木をば雕[え]る可からず。糞土の牆をば杇[ぬ]る可からず。予に於て何ぞ誅[せ]めん。朽は許久の反。杇の音は汙。與は平聲、下も同じ。○晝寢は、晝に當りて寢ぬるを謂う。朽は腐なり。雕は刻み畫くなり。杇は鏝[こて]なり。言うこころは、其の志氣昏惰にして、敎え施す所無きなり、と。與は語の辭。誅むは責むなり。責むるに足らざると言うは、乃ち深く之を責むる所以なり。
子曰、始吾於人也、聽其言而信其行。今吾於人也、聽其言而觀其行。於予與改是。行、去聲。○宰予能言、而行不逮。故孔子自言、於予之事、而改此失。亦以重警之也。胡氏曰、子曰、疑衍文。不然則非一日之言也。○范氏曰、君子之於學、惟日孜孜、斃而後已。惟恐其不及也。宰予晝寢、自棄孰甚焉。故夫子責之。胡氏曰、宰予不能以志帥氣、居然而倦。是宴安之氣勝、儆戒之志惰也。古之聖賢、未嘗不以懈惰荒寧爲懼、勤勵不息自彊。此孔子所以深責宰予也。聽言觀行、聖人不待是而後能、亦非緣此而盡疑學者。特因此立敎、以警羣弟子、使謹於言而敏於行耳。
【読み】
子曰く、始め吾が人に於る、其の言を聽いて其の行を信じき。今吾が人に於る、其の言を聽いて其の行を觀る。予に於て是を改む。行は去聲。○宰予能く言いて、行逮ばず。故に孔子自ら言う、予の事に於て、此の失を改む、と。亦以て重く之を警むなり。胡氏曰く、子曰は、疑うらくは衍文ならん。然らずんば則ち一日の言に非ざるなり、と。○范氏曰く、君子の學に於る、惟日々に孜孜として、斃れて後已む。惟其の及ばざらんことを恐るるなり。宰予晝寢ぬ、自ら棄つること孰れか焉より甚だしからん。故に夫子之を責む、と。胡氏曰く、宰予志を以て氣を帥いること能わず、居然として倦む。是れ宴安の氣勝ち、儆戒の志惰るなり。古の聖賢、未だ嘗て懈惰荒寧を以て懼れと爲し、勤勵息まずして自ら彊めずんばあらず。此れ孔子の深く宰予を責むる所以なり。言を聽き行を觀るは、聖人是を待ちて後能くするにあらず、亦此に緣りて盡く學者を疑うに非ず。特[こと]に此に因りて敎を立てて、以て羣弟子を警め、言を謹みて行を敏くせしめむるのみ。
公冶長10
○子曰、吾未見剛者。或對曰、申棖。子曰、棖也慾。焉得剛。焉、於虔反。○剛、堅強不屈之意。最人所難能者。故夫子歎其未見。申棖、弟子姓名。慾、多嗜慾也。多嗜慾、則不得爲剛矣。○程子曰、人有慾則無剛。剛則不屈於慾。謝氏曰、剛與慾正相反。能勝物之謂剛。故常伸於萬物之上。爲物揜之謂慾。故常屈於萬物之下。自古有志者少、無志者多。宜夫子之未見也。棖之慾、不可知。其爲人、得非悻悻自好者乎。故或者疑以爲剛。然不知此其所以爲慾爾。
【読み】
○子曰く、吾未だ剛者を見ず。或ひと對えて曰く、申棖[しんとう]あり。子曰く、棖は慾あり。焉んぞ剛なることを得ん。焉は於虔の反。○剛は、堅強不屈の意。最も人の能くし難き所の者なり。故に夫子其の未だ見ざることを歎ず。申棖は、弟子の姓名。慾は、嗜慾多きなり。嗜慾多ければ、則ち剛爲ることを得ず。○程子曰く、人慾有れば則ち剛なること無し。剛なれば則ち慾に屈せず、と。謝氏曰く、剛と慾とは正に相反す。能く物に勝つ、之を剛と謂う。故に常に萬物の上に伸ぶ。物に揜わるる、之を慾と謂う。故に常に萬物の下に屈す。古より志有る者少く、志無き者多し。宜なり、夫子の未だ見ざること。棖の慾は知る可からず。其の爲人[ひととなり]、悻悻として自ら好みする者に非ざるを得んや。故に或ひと疑いて以て剛と爲す。然れども此れ其の慾爲る所以を知らざるのみ、と。
公冶長11
○子貢曰、我不欲人之加諸我也、吾亦欲無加諸人。子曰、賜也非爾所及也。子貢言、我所不欲人加於我之事、我亦不欲以此加之於人。此仁者之事、不待勉強。故夫子以爲非子貢所及。○程子曰、我不欲人之加諸我、吾亦欲無加諸人、仁也。施諸己而不願、亦勿施於人、恕也。恕則子貢或能勉之。仁則非所及矣。愚謂、無者、自然而然。勿者、禁止之謂。此所以爲仁・恕之別。
【読み】
○子貢曰く、我人の諸を我に加えまく欲せざることを、吾も亦諸を人に加うること無からまく欲す。子曰く、賜、爾の及ぶ所に非ず。子貢言う、我人の我に加えんと欲せざるの事、我も亦此を以て之を人に加えんと欲せず、と。此れ仁者の事にて、勉強を待たず。故に夫子以て子貢の及ぶ所に非ずとす。○程子曰く、我人の諸を我に加えんと欲せざることを、吾も亦諸を人に加えんこと無きを欲するは、仁なり。諸を己に施して願わざることを、亦人に施すこと勿かれは、恕なり。恕は則ち子貢或は能く之を勉むことあらん。仁は則ち及ぶ所に非ざるなり。愚謂えらく、無は、自然にして然り。勿は、禁止の謂なり。此れ仁・恕の別を爲す所以なり、と。
公冶長12
○子貢曰、夫子之文章、可得而聞也。夫子之言性與天道、不可得而聞也。文章、德之見乎外者、威儀・文辭皆是也。性者、人所受之天理。天道者、天理自然之本體、其實一理也。言夫子之文章、日見乎外。固學者所共聞。至於性與天道、則夫子罕言之。而學者有不得聞者。蓋聖門敎不躐等。子貢至是、始得聞之、而歎其美也。○程子曰、此子貢聞夫子之至論、而歎美之言也。
【読み】
○子貢曰く、夫子の文章は、得て聞いつ可し。夫子の性と天道とを言うは、得て聞いつ可からず。文章は、德の外に見われたる者、威儀・文辭皆是れなり。性は、人の受くる所の天理。天道は、天理自然の本體、其の實一理なり。言うこころは、夫子の文章は、日々に外に見わる。固より學者の共に聞く所なり。性と天道とに至りては、則ち夫子罕に之を言う。而して學者聞くを得ざる者有り、と。蓋し聖門の敎等を躐えず。子貢是に至りて、始めて之を聞くを得て、其の美を歎ずるなり。○程子曰く、此れ子貢夫子の至論を聞いて、歎美するの言なり、と。
公冶長13
○子路有聞、未之能行。唯恐有聞。前所聞者、旣未及行。故恐復有所聞而行之不給也。○范氏曰、子路聞善、勇於必行。門人自以爲弗及也。故著之。若子路、可謂能用其勇矣。
【読み】
○子路聞くこと有りて、未だ之を行うこと能わざれば、唯聞くこと有らんことを恐る。前に聞く所の者、旣に未だ行うこと及ばず。故に復聞く所有りて之を行うこと給[た]らざるを恐るるなり。○范氏曰く、子路善を聞かば、必ず行わんと勇む。門人自ら以て及ばずと爲すなり。故に之を著す。子路の若きは、能く其の勇を用うと謂う可し、と。
公冶長14
○子貢問曰、孔文子何以謂之文也。子曰、敏而好學、不恥下問。是以謂之文也。好、去聲。○孔文子、衛大夫、名圉。凡人性敏者、多不好學。位高者、多恥下問。故諡法有以勤學好問爲文者。蓋亦人所難也。孔圉得諡爲文、以此而已。○蘇氏曰、孔文子、使太叔疾出其妻而妻之。疾通於初妻之娣。文子怒、將攻之。訪於仲尼。仲尼不對。命駕而行。疾奔宋。文子使疾弟遺室孔姞。其爲人如此。而諡曰文。此子貢之所以疑而問也。孔子不沒其善。言能如此、亦足以爲文矣。非經天緯地之文也。
【読み】
○子貢問うて曰く、孔文子何を以てか之を文と謂う。子曰く、敏にして學を好み、下問に恥じず。是を以て之を文と謂う。好は去聲。○孔文子は衛の大夫、名は圉[ぎょ]。凡そ人性の敏なる者は、多く學を好まず。位高き者は、多く下問に恥ず。故に諡法に學を勤め問うを好むを以て文と爲す者有り。蓋し亦人の難き所なり。孔圉の諡を文と爲すを得るは、此を以てのみ。○蘇氏曰く、孔文子、太叔疾に其の妻を出でしめて之を妻る。疾、初めの妻の娣に通ず。文子怒り、將に之を攻めんとす。仲尼を訪う。仲尼對えず。駕を命じて行[さ]る。疾、宋に奔る。文子、疾の弟遺をして孔姞を室とす。其の爲人[ひととなり]や此の如し。而して諡を文と曰う。此れ子貢の疑いて問う所以なり。孔子其の善を沒せず。言うこころは、能く此の如くんば、亦以て文と爲すに足るなり。天を經し地を緯するの文に非ざるなり、と。
公冶長15
○子謂子產、有君子之道四焉。其行己也恭、其事上也敬、其養民也惠、其使民也義。子產、鄭大夫、公孫僑。恭、謙遜也。敬、謹恪也。惠、愛利也。使民義、如都鄙有章、上下有服、田有封洫、盧井有伍之類。○吳氏曰、數其事而責之者、其所善者多也。臧文仲不仁者三、不知者三、是也。數其事而稱之者、猶有所未至也。子產有君子之道四焉、是也。今或以一言蓋一人、一事蓋一時、皆非也。
【読み】
○子子產を謂く、君子の道四つ有り。其の己を行うこと恭あり、其の上に事ること敬あり、其の民を養うこと惠あり、其の民を使うこと義あり。子產は鄭の大夫、公孫僑。恭は謙遜なり。敬は謹恪なり。惠は愛利なり。民を使うこと義ありは、都鄙に章有り、上下に服有り、田に封洫有り、盧井に伍有るの類の如し。○吳氏曰く、其の事を數えて之を責むるは、其の善なる所の者多きものなり。臧文仲、不仁なる者三つ、不知なる者三つは、是れなり。其の事を數えて之を稱するは、猶未だ至らざる所有るなり。子產に君子の道四つ有りは、是れなり。今或は一言を以て一人を蓋い、一事一時を蓋うは、皆非なり、と。
公冶長16
○子曰、晏平仲善與人交。久而敬之。晏平仲、齊大夫、名嬰。程子曰、人交久則敬衰。久而能敬、所以爲善。
【読み】
○子曰く、晏平仲善く人と交わる。久しうして之を敬す。晏平仲は齊の大夫、名は嬰。程子曰く、人交わりて久しければ則ち敬衰う。久しくして能く敬すは、善を爲す所以なり、と。
公冶長17
○子曰、臧文仲居蔡、山節藻梲。何如其知也。梲、章悦反。知、去聲。○臧文仲、魯大夫、臧孫氏、名辰。居、猶藏也。蔡、大龜也。節、柱頭斗栱也。藻、水草名。梲、梁上短柱也。蓋爲藏龜之室、而刻山於節、畫藻於梲也。當時以文仲爲知。孔子言、其不務民義、而諂瀆鬼神如此。安得爲知。春秋傳所謂作虛器、卽此事也。○張子曰、山節藻梲、爲藏龜之室、祀爰居之義。同歸於不知、宜矣。
【読み】
○子曰く、臧文仲蔡[かめ]を居[おさ]むるに、節[とがた]に山[やま]えり梲[うだち]に藻[も]がけり。何如してか其れ知ならん。梲は章悦の反。知は去聲。○臧文仲は魯の大夫、臧孫氏、名は辰。居は猶藏のごとし。蔡は大龜なり。節は柱頭の斗栱なり。藻は水草の名。梲は梁上の短柱なり。蓋し龜を藏するの室を爲りて、山を節に刻み、藻を梲に畫すなり。當時文仲を以て知と爲す。孔子言う、其の民の義を務めずして、鬼神に諂瀆すること此の如し。安んぞ知と爲すを得ん、と。春秋傳で謂う所の虛器を作るは、卽ち此の事なり。○張子曰く、節に山し梲に藻して、龜を藏するの室を爲るは、爰居を祀るの義なり。同じく不知に歸すは、宜なるかな。
公冶長18
○子張問曰、令尹子文、三仕爲令尹無喜色、三已之無慍色。舊令尹之政、必以告新令尹。何如。子曰、忠矣。曰、仁矣乎。曰、未知、焉得仁。知、如字。焉、於虔反。○令尹、官名、楚上卿、執政者也。子文、姓鬭、名穀於莬、其爲人也、喜怒不形。物我無閒。知有其國、而不知有其身。其忠盛矣。故子張疑其仁。然其所以三仕三已而告新令尹者、未知其皆出於天理、而無人欲之私也。是以夫子但許其忠、而未許其仁也。
【読み】
○子張問うて曰く、令尹子文、三たび仕えて令尹と爲れども喜べる色も無く、三たび之を已めらるれども、慍[いか]れる色も無し。舊令尹の政、必ず以て新令尹に告ぐ。何如。子曰く、忠あり。曰く、仁ありや。曰く、未だ知らず、焉んぞ仁を得んことを。知は字の如し。焉は於虔の反。○令尹は官名、楚の上卿、政を執る者なり。子文、姓は鬭、名は穀於莬[とうおと]、其の爲人[ひととなり]や、喜怒形わさず。物我の閒[へだ]て無し。其の國有るを知りて、其の身有るを知らず。其の忠盛んなり。故に子張其の仁ならんかと疑う。然れども其の三たび仕えて三已められて新令尹に告ぐる所以の者、未だ其の皆天理より出でて、人欲の私無きを知らざるなり。是を以て夫子但其の忠を許して、未だ其の仁を許さざるなり。
崔子弑齊君。陳文子有馬十乘、棄而違之。至於他邦、則曰、猶吾大夫崔子也、違之。之一邦、則又曰、猶吾大夫崔子也、違之。何如。子曰、淸矣。曰、仁矣乎。曰、未知、焉得仁。乘、去聲。○崔子、齊大夫、名杼。齊君、莊公、名光。陳文子、亦齊大夫、名須無。十乘、四十匹也。違、去也。文子潔身去亂。可謂淸矣。然未知其心果見義理之當然、而能脱然無所累乎、抑不得已於利害之私、而猶未免於怨悔也。故夫子特許其淸、而不許其仁。○愚聞之師。曰、當理而無私心、則仁矣。今以是而觀二子之事、雖其志行之高、若不可及、然皆未有以見其必當於理、而眞無私心也。子張未識仁體、而悦於苟難、遂以小者信其大者。夫子之不許也宜哉。讀者於此、更以上章不知其仁、後篇仁則吾不知之語、幷與三仁・夷齊之事觀之、則彼此交盡、而仁之爲義可識矣。今以他書考之、子文之相楚、所謀者無非僭王猾夏之事。文子之仕齊、旣失正君討賊之義、又不數歳、而復反於齊焉。則其不仁亦可見矣。
【読み】
崔子齊の君を弑す。陳文子馬十乘有り、棄てて之を違[さ]んぬ。他邦に至りても、則ち曰く、猶吾が大夫崔子がごとしというて、之を違る。一邦に之いても、則ち又曰く、猶吾が大夫崔子がごとしというて、之を違る。何如。子曰く、淸[いさぎよ]し。曰く、仁ありや。曰く、未だ知らず、焉んぞ仁を得んことを。乘は去聲。○崔子は齊の大夫、名は杼。齊の君は莊公、名は光。陳文子も亦齊の大夫、名は須無。十乘は四十匹なり。違るは去るなり。文子身を潔くして亂を去る。淸と謂う可し。然れども未だ其の心果たして義理の當然を見て、能く脱然として累う所無きか、抑々利害の私に已むことを得ずして、猶未だ怨み悔いることを免れざるがごときかを知らざるなり。故に夫子特[ただ]其の淸を許して、其の仁を許さず。○愚之を師に聞けり。曰く、理に當りて私心無くば、則ち仁なり、と。今是を以て二子が事を觀れば、其の志行の高きこと、及ぶ可からざるが若しと雖も、然れども皆未だ以て其の必ず理に當りて、眞に私心無きを見ること有らず。子張未だ仁の體を識らずして、苟も難きをするを悦び、遂に小なる者を以て其の大いなる者を信ず。夫子の許さざるは宜なるかな。讀者此に於て、更に上章の其の仁を知らず、後篇の仁は則ち吾知らずの語、幷びに三仁・夷齊の事を以て之を觀れば、則ち彼此交々盡くして、仁の義爲るを識る可し。今他書を以て之を考えるに、子文の楚に相たりしとき、謀る所は王を僭し夏を猾[みだ]すの事非ざるは無し。文子の齊に仕うるや、旣に君を正し賊を討つの義を失い、又數歳ならずして、復齊に反る。則ち其の不仁も亦見る可し。
公冶長19
○季文子三思而後行。子聞之曰、再斯可矣。三、去聲。○季文子、魯大夫、名行父。每事必三思而後行。若使晉而求遭喪之禮以行、亦其一事也。斯、語辭。程子曰、爲惡之人、未嘗知有思。有思則爲善矣。然至於再則已審。三則私意起、而反惑矣。故夫子譏之。○愚按、季文子慮事如此。可謂詳審而宜無過擧矣。而宣公簒立、文子乃不能討。反爲之使齊而納賂焉。豈非程子所謂私意起而反惑之驗與。是以君子務窮理而貴果斷。不徒多思之爲尙。
【読み】
○季文子三たび思うて而して後に行う。子之を聞いて曰く、再びして斯れ可なり。三は去聲。○季文子は魯の大夫、名は行父。事每に必ず三たび思うて而して後に行う。晉に使いして喪に遭うの禮を求めて以て行くが若き、亦其の一事なり。斯は語の辭。程子曰く、惡を爲すの人は、未だ嘗て思うこと有るを知らず。思うこと有れば則ち善を爲す。然れども再びするに至れば則ち已に審らかなり。三たびすれば則ち私意起きて、反って惑う。故に夫子之を譏る、と。○愚按ずるに、季文子事を慮ること此の如し。詳審にして宜しく過擧無からるべしと謂う可し。而して宣公簒って立ち、文子乃ち討つこと能わず。反って之が爲に齊に使いして賂を納るる。豈程子謂う所の私意起きて反って之に惑うの驗に非ずや。是を以て君子は理を窮むるを務めて果斷を貴ぶ。徒に多く思うを尙しと爲さず、と。
公冶長20
○子曰、寗武子、邦有道則知。邦無道則愚。其知可及也。其愚不可及也。知、去聲。○寗武子、衛大夫、名兪。按春秋傳、武子仕衛、當文公・成公之時。文公有道、而武子無事可見。此其知之可及也。成公無道、至於失國而武子周旋其閒、盡心竭力、不避艱險。凡其所處、皆知巧之士、所深避而不肯爲者、而能卒保其身、以濟其君。此其愚之不可及也。○程子曰、邦無道、能沈晦以免患。故曰不可及也。亦有不當愚者。比干是也。
【読み】
○子曰く、寗武子[ねいぶし]、邦道有るときは則ち知あり。邦道無きときは則ち愚なり。其の知は及ぶ可し。其の愚は及ぶ可からず。知は去聲。○寗武子は衛の大夫、名は兪。春秋傳を按ずるに、武子衛に仕うるは、文公・成公の時に當る。文公道有りて、武子事を見る可き無し。此れ其の知の及ぶ可きなり。成公道無く、國を失うに至りて武子其の閒に周旋し、心を盡くし力を竭くして、艱險を避けず。凡そ其の處す所は、皆知巧の士の、深く避けて爲すを肯ざる所の者にして、能く卒に其の身を保ち、以て其の君を濟う。此れ其の愚の及ぶ可からざるなり。○程子曰く、邦に道無ければ、能く沈晦して以て患を免がる。故に及ぶ可からざると曰う。亦當に愚なるべからざる者有り。比干是れなり、と。
公冶長21
○子在陳曰、歸與歸與。吾黨之小子狂簡、斐然成章、不知所以裁之。與、平聲。斐、音匪。○此孔子周流四方、道不行而思歸之歎也。吾黨小子、指門人之在魯者。狂簡、志大而略於事也。斐、文貌。成章、言其文理成就、有可觀者。裁、割正也。夫子初心、欲行其道於天下。至是而知其終不用也。於是始欲成就後學、以傳道於來世、又不得中行之士、而思其次。以爲狂士志意高遠、猶或可與進於道也。但恐其過中失正、而或陷於異端耳。故欲歸而裁之也。
【読み】
○子陳に在して曰く、歸んなん歸んなん。吾が黨の小子の狂簡なる、斐然として章を成せるが、以て之を裁せん所を知らず。與は平聲。斐の音は匪。○此れ孔子四方を周流し、道行われずして歸らんことを思うの歎なり。吾が黨の小子は、門人の魯に在る者を指す。狂簡は、志大にして事を略するなり。斐は文ある貌。章を成すは、其の文理成就して、觀る可き者有るを言う。裁は割正なり。夫子、初心に其の道を天下に行わんと欲す。是に至りて其の終に用いられざるを知るなり。是に於て始めて後學を成就して、以て道を來世に傳えんと欲す。又中行の士を得ずして其の次を思う。以爲らく、狂士の志意高遠にして、猶或は與に道に進む可し。但恐らくは其の中を過ぎ正を失いて、或は異端に陷らんのみ、と。故に歸りて之を裁せんことを欲するなり。
公冶長22
○子曰、伯夷・叔齊、不念舊惡。怨是用希。伯夷・叔齊、孤竹君之二子。孟子稱其不立於惡人之朝、不與惡人言、與郷人立、其冠不正、望望然去之、若將浼焉。其介如此。宜若無所容矣。然其所惡之人、能改卽止。故人亦不甚怨之也。○程子曰、不念舊惡、此淸者之量。又曰、二子之心、非夫子孰能知之。
【読み】
○子曰く、伯夷・叔齊、舊惡を念[おも]わず。怨是を用[もっ]て希[すくな]し。伯夷・叔齊は孤竹の君の二子。孟子其の惡人の朝に立たず、惡人と言わず、郷人と立ち、其の冠正しからざれば、望望然として之を去ること、將に浼れんとするが若しと稱す。其の介此の如し。宜しく容るる所無きが若し。然れども其の惡む所の人、能く改むれば卽ち止む。故に人も亦甚だしくは之を怨まず。○程子曰く、舊惡を念わざるは、此れ淸なる者の量、と。又曰く、二子の心、夫子に非ざれば孰か能く之を知らん、と。
公冶長23
○子曰、孰謂、微生高直。或乞醯焉。乞諸其鄰而與之。醯、呼西反。○微生、姓。高、名。魯人。素有直名者。醯、醋也。人來乞時、其家無有。故乞諸鄰家以與之。夫子言此、譏其曲意徇物、掠美市恩、不得爲直也。○程子曰、微生高所枉雖小、害直爲大。范氏曰、是曰是、非曰非、有謂有、無謂無、曰直。聖人觀人、於其一介之取予、千駟萬鐘、從可知焉。故以微事斷之。所以敎人不可不謹也。
【読み】
○子曰く、孰か謂う、微生高を直なり、と。或ひと醯[す]を乞う。諸を其の鄰に乞うて之に與う。醯は呼西の反。○微生は姓。高は名。魯の人。素より直の名有る者なり。醯は醋[さく]なり。人來て乞う時、其の家に有る無し。故に諸を鄰家に乞うて以て之に與う。夫子の此を言いて、其の意を曲げて物に徇い、美を掠め恩を市[う]る、直と爲すを得ざるを譏るなり。○程子曰く、微生高の枉ぐる所小なりと雖も、直を害すること大なりと爲す、と。范氏曰く、是を是と曰い、非を非と曰い、有るを有りと謂い、無きを無しと謂うを、直と曰う。聖人の人を觀る、其の一介の取予に於て、千駟萬鐘も、從って知る可し。故に微事を以て之を斷ず。人の謹まざる可からざるを敎うる所以なり、と。
公冶長24
○子曰、巧言令色足恭、左丘明恥之。丘亦恥之。匿怨而友其人、左丘明恥之。丘亦恥之。足、將樹反。○足、過也。程子曰、左丘明、古之聞人也。謝氏曰、二者之可恥、有甚於穿窬也。左丘明恥之、其所養可知矣。夫子自言丘亦恥之。蓋竊比老彭之意。又以深戒學者、使察乎此而立心以直也。
【読み】
○子曰く、言を巧[よ]くし色を令[よ]くし恭を足すこと、左丘明之を恥ず。丘も亦之を恥ず。怨を匿して其の人に友[ともなう]こと、左丘明之を恥ず。丘も亦之を恥ず。足は將樹の反。○足は過なり。程子曰く、左丘明は古の聞人なり、と。謝氏曰く、二者の恥ず可き、穿窬より甚だしきこと有るなり。左丘明之を恥ず、其の養う所を知る可し。夫子自ら丘も亦之を恥ずと言う。蓋し竊かに老彭に比すの意なり。又以て深く學者を戒め、此に察して心を立つるに直を以てせしむるなり、と。
公冶長25
○顏淵季路侍。子曰、盍各言爾志。盍、音合。○盍、何不也。
【読み】
○顏淵季路侍り。子曰く、盍ぞ各々爾の志を言わざる。盍の音は合。○盍は何不なり。
子路曰、願車馬衣輕裘、與朋友共、敝之而無憾。衣、去聲。○衣、服之也。裘、皮服。敝、壞也。憾、恨也。
【読み】
子路曰く、願わくは車馬輕裘を衣ること、朋友と共にし、之を敝[やぶ]るとも憾[うら]むこと無けん。衣は去聲。○衣は之を服すなり。裘は皮服。敝は壞なり。憾は恨なり。
顏淵曰、願無伐善、無施勞。伐、誇也。善、謂有能。施、亦張大之意。勞、謂有功。易曰、勞而不伐。是也。或曰、勞、勞事也。勞事非己所欲。故亦不欲施之於人。亦通。
【読み】
顏淵曰く、願わくは善に伐[ほこ]ること無く、勞を施[おお]いにすること無けん。伐るは誇るなり。善は能有るを謂う。施も亦張大の意。勞は功有るを謂う。易に曰く、勞して伐らず、と。是れなり。或ひと曰く、勞は勞事なり。勞事は己の欲する所に非ず。故に亦之を人に施すことを欲せず、と。亦通ず。
子路曰、願聞子之志。子曰、老者安之、朋友信之、少者懷之。老者養之以安、朋友與之以信、小者懷之以恩。一說、安之、安我也。信之、信我也。懷之、懷我也。亦通。○程子曰、夫子安仁、顏淵不違仁、子路求仁。又曰、子路・顏淵・孔子之志、皆與物共者也。但有小大之差爾。又曰、子路勇於義者。觀其志、豈可以勢利拘之哉。亞於浴沂者也。顏子不自私己。故無伐善。知同於人。故無施勞。其志可謂大矣。然未免出於有意也。至於夫子、則如天地之化工、付與萬物、而己不勞焉。此聖人之所爲也。今夫覊靮以御馬、而不以制牛。人皆知覊靮之作、在乎人、而不知覊靮之生、由於馬。聖人之化、亦猶是也。先觀二子之言、後觀聖人之言、分明天地氣象。凡看論語、非但欲理會文字。須要識得聖賢氣象。
【読み】
子路曰く、願わくは子の志を聞なん。子曰く、老者は之を安んじ、朋友は之を信じ、少者は之を懷けん。老者は之を養うに安きを以てし、朋友は之と與にするに信を以てし、小者は之を懷くるに恩を以てす。一說に、之を安んずは、我に安んずるなり。之を信ずは、我を信ずるなり。之を懷くは、我を懷くなり、と。亦通ず。○程子曰く、夫子は仁に安んじ、顏淵は仁に違わず、子路は仁を求む、と。又曰く、子路・顏淵・孔子の志、皆物と共にする者なり。但小大の差有るのみ、と。又曰く、子路は義に勇む者なり。其の志を觀るに、豈勢利を以て之を拘する可けんや。沂に浴するに亞[つ]ぐ者なり。顏子は自ら己に私せず。故に善を伐ること無し。人に同じきを知る。故に勞を施すこと無し。其の志大なりと謂う可し。然れども未だ意有るを出づるを免れざるなり。夫子に至りては、則ち天地の化工、萬物に付與して、己勞せざるが如し。此れ聖人の爲す所なり。今夫れ覊靮[きてき]は以て馬を御し、以て牛を制せず。人皆覊靮の作の、人に在るを知りて、覊靮の生ずること、馬に由るを知らず。聖人の化も亦猶是のごとし。先ず二子の言を觀て、後聖人の言を觀れば、分明なる天地の氣象なり。凡そ論語を看るは、但文字を理會せんと欲するのみに非ず。須く聖賢の氣象を識り得んことを要すべし、と。
公冶長26
○子曰、已矣乎。吾未見能見其過、而内自訟者也。已矣乎者、恐其終不得見而歎之也。内自訟者、口不言而心自咎也。人有過而能自知者鮮矣。知過而能内自訟者、爲尤鮮。能内自訟、則其悔悟深切、而能改必矣。夫子自恐終不得見而歎之。其警學者深矣。
【読み】
○子曰く、已んなんや。吾未だ能く其の過を見て、内に自ら訟[せ]むる者を見ず。已んなんやは、其の終に見るを得ざらんことを恐れて之を歎くなり。内に自ら訟むは、口言わずして心自ら咎むるなり。人過有りて能く自ら知る者鮮し。過を知りて能く内に自ら訟むる者は、尤も鮮しと爲す。能く内に自ら訟むれば、則ち其の悔悟深く切にて、能く改むることも必せり。夫子自ら終に見るを得ざるを恐れて之を歎ず。其の學者を警むこと深し。
公冶長27
○子曰、十室之邑、必有忠信如丘者焉。不如丘之好學也。焉、如字。屬上句。好、去聲。○十室、小邑也。忠信如聖人、生質之美者也。夫子生知而未嘗不好學。故言此以勉人。言美質易得、至道難聞。學之至、則可以爲聖人。不學、則不免爲郷人而已。可不勉哉。
【読み】
○子曰く、十室の邑、必ず忠信丘が如き者有らん。丘が學を好むに如かじ。焉は字の如し。上句に屬す。好は去聲。○十室は小邑なり。忠信聖人の如きは、生質の美なる者なり。夫子生まれながら知り、而も未だ嘗て學を好まずんばあらず。故に此を言いて以て人を勉めしむ。言うこころは、美質は得易く、至道は聞き難し。學の至りは、則ち以て聖人と爲る可し。學ばざれば、則ち郷人爲るを免れざるのみ。勉めざる可けんや、と。
雍也第六 凡二十八章。篇内第十四章以前、大意與前篇同。
【読み】
雍也第六 凡て二十八章。篇内の第十四章以前は、大意前篇と同じ。
雍也1
○子曰、雍也可使南面。南面者、人君聽治之位。言仲弓、寬洪簡重、有人君之度也。
【読み】
○子曰く、雍は南面せしめつ可し。南面は、人君の治を聽くの位なり。言うこころは、仲弓、寬洪簡重にて、人君の度有り、と。
仲弓問子桑伯子。子曰、可也簡。子桑伯子、魯人。胡氏以爲、疑卽莊周所稱子桑戶者。是也。仲弓以夫子許己南面、故問伯子如何。可者、僅可而有所未盡之辭。簡者、不煩之謂。
【読み】
仲弓子桑伯子を問う。子曰く、可なり簡なり。子桑伯子は魯の人。胡氏以爲らく、疑うらくは卽ち莊周が稱する所の子桑戶なる者ならん、と。是なり。仲弓夫子の己に南面するを許すを以て、故に伯子は如何と問う。可は、僅かに可にして未だ盡くさざる所有るの辭なり。簡は、煩わしからざるの謂なり。
仲弓曰、居敬而行簡、以臨其民、不亦可乎。居簡而行簡、無乃大簡乎。大、音泰。○言自處以敬、則中有主而自治嚴。如是而行簡以臨民、則事不煩、而民不擾。所以爲可。若先自處以簡、則中無主、而自治疎矣。而所行又簡。豈不失之大簡而無法度之可守乎。家語記、伯子不衣冠而處。夫子譏其欲同人道於牛馬。然則伯子蓋大簡者、而仲弓疑夫子之過許與。
【読み】
仲弓曰く、敬に居て簡を行って、以て其の民に臨むは、亦可ならずや。簡に居て簡を行うは、乃ち大簡なること無しや。大は音泰。○言うこころは、自ら處るに敬を以てせば、則ち中に主有りて自ら治むること嚴なり。是の如くして簡を行いて以て民に臨まば、則ち事煩わしからずして、民擾[みだ]れず。可なりと爲す所以なり。若し先ず自ら處るに簡を以てせば、則ち中に主無くして、自ら治むること疎なり。而して行う所も又簡なり。豈之を大簡に失して法度の守る可き無きにあらずや、と。家語に記す、伯子衣冠せずして處る。夫子其の人道を牛馬と同じくせんと欲するを譏る、と。然れば則ち伯子蓋し大簡なる者にして、仲弓、夫子の過ち許せるかと疑う。
子曰、雍之言然。仲弓蓋未喩夫子可字之意、而其所言之理、有默契焉者。故夫子然之。○程子曰、子桑伯子之簡、雖可取而未盡善。故夫子云可也。仲弓因言、内主於敬而簡、則爲要直。内存乎簡而簡、則爲疎略。可謂得其旨矣。又曰、居敬則心中無物。故所行自簡。居簡、則先有心於簡、而多一簡字矣。故曰大簡。
【読み】
子曰く、雍が言然り。仲弓蓋し未だ夫子の可の字の意を喩らずして、其の言う所の理、默契する者有り。故に夫子之を然りとす。○程子曰く、子桑伯子の簡は、取る可しと雖も、而も未だ善を盡くさず。故に夫子可なりと云う。仲弓因りて言う、内敬を主として簡なれば、則ち要直と爲る。内簡を存して簡なれば、則ち疎略と爲る、と。其の旨を得たりと謂う可きなり、と。又曰く、敬に居れば則ち心中に物無し。故に行う所自ら簡なり。簡に居れば、則ち先ず簡に心有りて、一の簡に字多し。故に大簡と曰う、と。
雍也2
○哀公問、弟子孰爲好學。孔子對曰、有顏囘者、好學。不遷怒、不貳過。不幸短命死矣。今也則亡。未聞好學者也。好、去聲。亡、與無同。○遷、移也。貳、復也。怒於甲者、不移於乙。過於前者、不復於後。顏子克己之功、至於如此。可謂眞好學矣。短命者、顏子三十二而卒也。旣云今也則亡、又言未聞好學者。蓋深惜之、又以見眞好學者之難得也。○程子曰、顏子之怒、在物不在己。故不遷。有不善、未嘗不知。知之、未嘗復行。不貳過也。又曰、喜怒在事、則理之當喜怒者也。不在血氣、則不遷。若舜之誅四凶也。可怒在彼、己何與焉。如鑑之照物、妍媸在彼、隨物應之而已。何遷之有。又曰、如顏子地位、豈有不善。所謂不善、只是微有差失。纔差失、便能知之、纔知之、便更不萌作。張子曰、慊於己者、不使萠於再。或曰、詩書六藝、七十子、非不習而通也。而夫子獨稱顏子、爲好學。顏子之所好、果何學歟。程子曰、學以至乎聖人之道也。學之道奈何。曰、天地儲精、得五行之秀者爲人。其本也、眞而靜、其未發也、五性具焉。曰、仁・義・禮・智・信。形旣生矣、外物觸其形、而動於中矣。其中動而七情出焉。曰、喜・怒・哀・懼・愛・惡・欲。情旣熾而益蕩、其性鑿矣。故學者約其情、使合於中、正其心、養其性而已。然必先明諸心、知所往、然後力行以求至焉。若顏子之非禮勿視・聽・言・動、不遷怒貳過者、則其好之篤、而學之得其道也。然其未至於聖人者、守之也。非化之也。假之以年、則不日而化矣。今人乃謂聖本生知、非學可至、而所以爲學者、不過記誦文辭之閒、其亦異乎顏子之學矣。
【読み】
○哀公問う、弟子孰をか學を好むとす。孔子對えて曰く、顏囘という者有り、學を好みき。怒を遷さず、過を貳せず。不幸短命にして死んぬ。今は則ち亡し。未だ學を好む者を聞かず。好は去聲。亡は無と同じ。○遷は移るなり。貳は復びなり。甲を怒る者は、乙へ移さず。前に過つ者は、後に復びせず。顏子の克己の功、此の如きに至る。眞に學を好むと謂う可し。短命は、顏子三十二にして卒するなり。旣に今や則ち亡しと云い、又未だ學を好む者を聞かずと言う。蓋し深く之を惜しみ、又以て眞に學を好む者の得難きを見[しめ]す。○程子曰く、顏子の怒は、物に在りて己に在らず。故に遷さず。不善有らば、未だ嘗て知らずんばあらず。之を知れば、未だ嘗て復び行わず。過を貳びせざるなり、と。又曰く、喜怒事に在るときは、則ち理の當に喜怒すべき者なり。血氣に在らざるときは、則ち遷さず。舜の四凶を誅するが若きなり。怒る可きは彼に在り、己何ぞ與らんや。鑑の物を照らすが如き、妍媸[けんし]彼に在り、物に隨いて之に應ずるのみ。何ぞ遷すことか之れ有らん、と。又曰く、顏子の地位が如き、豈不善有らんや。所謂不善は、只是れ微しく差失有るのみ。纔かに差失あれば、便ち能く之を知り、纔かに之を知れば、便ち更に萌し作さず、と。張子曰く、己に慊らぬ者は、再び萠さしめず、と。或ひと曰く、詩書六藝、七十子、習いて通ぜざるに非ざるなり。而して夫子獨り顏子を稱して、學を好むと爲す。顏子の好む所、果たして何の學ぞや、と。程子曰く、學は以て聖人に至るの道なり、と。學の道奈何、と。曰く、天地精を儲け、五行の秀を得る者を人と爲す。其の本や、眞にして靜、其の未だ發せざるや、五性具わる。曰く、仁・義・禮・智・信。形旣に生じ、外物其の形に觸れて、中を動かす。其の中動きて七情出づ。曰く、喜・怒・哀・懼・愛・惡・欲。情旣に熾んにして益々蕩き、其の性鑿つ。故に學者は其の情を約して、中に合わしめ、其の心を正しくして、其の性を養うのみ。然れども必ず先ず諸を心に明らかにし、往く所を知り、然る後に力め行いて以て至るを求む。顏子の禮に非ざれば視・聽・言・動すること勿く、怒を遷し過を貳びせざるが若きは、則ち其の之を好むこと篤くして、之を學ぶことの其の道を得るなり。然れども其の未だ聖人に至らざるは、之を守ればなり。之を化するに非ざるなり。之に假すに年を以てせば、則ち日ならずして化せん。今の人乃ち聖は本より生知なれば、學びて至る可きに非ずと謂い、學を爲す所以の者、記誦文辭の閒を過ぎざるは、其れ亦顏子の學に異なり、と。
雍也3
○子華使於齊。冉子爲其母請粟。子曰、與之釜。請益。曰、與之庾。冉子與之粟五秉。使・爲、竝去聲。○子華、公西赤也。使、爲孔子使也。釜、六斗四升。庾、十六斗。秉、十六斛。
【読み】
○子華齊に使いす。冉子其の母の爲に粟を請う。子曰く、之に釜を與えよ。益を請う。曰く、之に庾を與えよ。冉子之に粟五秉を與う。使・爲は竝去聲。○子華は公西赤なり。使は孔子に爲に使いするなり。釜は六斗四升。庾は十六斗。秉は十六斛。
子曰、赤之適齊也、乘肥馬、衣輕裘。吾聞之也。君子周急、不繼富。衣、去聲。○乘肥馬、衣輕裘、言其富也。急、窮迫也。周者、補不足。繼者、續有餘。
【読み】
子曰く、赤が齊に適きしとき、肥えたる馬に乘り、輕き裘を衣けり。吾之を聞けり。君子は急なるを周[た]して、富を繼がず、と。衣は去聲。○肥馬に乘り、輕裘を衣るは、其の富を言うなり。急は窮迫なり。周は、足らざるを補う。繼は、餘り有りて續ぐなり。
原思爲之宰。與之粟九百。辭。原思、孔子弟子、名憲。孔子爲魯司寇時、以思爲宰。粟、宰之祿也。九百、不言其量。不可考。
【読み】
原思之が宰爲り。之に粟九百を與う。辭す。原思は孔子の弟子、名は憲。孔子魯の司寇爲りし時、思を以て宰とす。粟は宰の祿なり。九百は、其の量を言わず。考う可からず。
子曰、毋。以與爾鄰里郷黨乎。毋、禁止辭。五家爲鄰、二十五家爲里、萬二千五百家爲郷、五百家爲黨。言常祿不當辭。有餘自可推之以周貧乏。蓋鄰里郷黨、有相周之義。○程子曰、夫子之使子華、子華之爲夫子使、義也。而冉有乃爲之請。聖人寬容、不欲直拒人。故與之少。所以示不當與也。請益而與之亦少。所以示不當益也。求未達、而自與之多、則已過矣。故夫子非之。蓋赤苟至乏、則夫子必自周之、不待請矣。原思爲宰、則有常祿。思辭其多。故又敎以分諸鄰里之貧者。蓋亦莫非義也。張子曰、於斯二者、可見聖人之用財矣。
【読み】
子曰く、毋かれ。以て爾の鄰里郷黨に與えよ。毋は禁止の辭。五家を鄰と爲し、二十五家を里と爲し、萬二千五百家を郷と爲し、五百家を黨と爲す。言うこころは、常祿は當に辭すべからず。餘り有りて自ら之を推して以て貧乏を周[すく]う可し、と。蓋し鄰里郷黨、相周うの義有り。○程子曰く、夫子の子華を使いし、子華の夫子の爲に使いするは、義なり。而して冉有乃ち之が爲に請う。聖人寬容なれば、直に人を拒むことを欲せず。故に之に與うること少なし。當に與うべからざるを示す所以なり。益を請うも之に與うこと亦少なし。當に益すべからざるを示す所以なり。求めて未だ達せずして、自ら之を與うること多くば、則ち已に過つ。故に夫子之を非とす。蓋し赤苟に乏に至れば、則ち夫子必ず自ら之を周い、請うを待たず。原思宰と爲れば、則ち常祿有り。思其の多きを辭す。故に又敎うるに諸を鄰里の貧者に分つを以てす。蓋し亦義に非ざること莫し、と。張子曰く、斯の二者に於て、聖人の財を用うるを見る可し、と。
雍也4
○子謂仲弓曰、犁牛之子、騂且角。雖欲勿用、山川其舍諸。犁、利之反。騂、息營反。舍、上聲。○犁、雜文。騂、赤色。周人尙赤。牲用騂。角、角周正、中犠牲也。用、用以祭也。山川、山川之神也。言人雖不用、神必不舍也。仲弓父賤而行惡。故夫子以此譬之。言父之惡、不能廢其子之善。如仲弓之賢、自當見用於世也。然此論仲弓云爾。非與仲弓言也。○范氏曰、以瞽瞍爲父而有舜。以鯀爲父而有禹。古之聖賢不繋於世類、尙矣。子能改父之過、變惡以爲美、則可謂孝矣。
【読み】
○子、仲弓を謂って曰く、犁牛の子、騂[あか]うして且角あり。用うること勿からまく欲すと雖も、山川其れ諸を舍てめや。犁は利之の反。騂は息營の反。舍は上聲。○犁は雜れる文[あや]。騂は赤色。周人赤を尙ぶ。牲に騂を用う。角は、角周正にて、犠牲に中るなり。用は、用いて以て祭るなり。山川は、山川の神なり。言うこころは、人用いざると雖も、神必ず舍てざるなり、と。仲弓の父賤しくして行い惡し。故に夫子此を以て之に譬う。言うこころは、父の惡、其の子の善を廢すること能わず。仲弓の賢が如き、自ら當に世に用いらるべきなり、と。然れども此れ仲弓を論じて云うのみ。仲弓と言うに非ざるなり。○范氏曰く、瞽瞍を以て父と爲して舜有り。鯀を以て父と爲して禹有り。古の聖賢、世類に繋がらざること、尙[ひさ]し。子能く父の過を改め、惡を變じて以て美と爲さば、則孝と謂う可し、と。
雍也5
○子曰、囘也、其心三月不違仁。其餘則日月至焉而已矣。三月、言其久。仁者、心之德。心不違仁者、無私欲而有其德也。日月至焉者、或日一至焉、或月一至焉。能造其域而不能久也。○程子曰、三月、天道小變之節、言其久也。過此則聖人矣。不違仁、只是無纖毫私欲。少有私欲、便是不仁。尹氏曰、此顏子於聖人未達一閒者也。若聖人則渾然無閒斷矣。張子曰、始學之要、當知三月不違、與日月至焉、内外賓主之辨、使心意勉勉循循、而不能已。過此、幾非在我者。
【読み】
○子曰く、囘は、其の心三月仁に違わず。其の餘は則ち日月至れるのみ。三月は、其の久しきを言う。仁は心の德。心仁に違わずは、私欲無くして其の德有るなり。日月至るは、或は日に一たび至り、或は月に一たび至る。能く其に域に造[いた]りて久しきこと能わざるなり。○程子曰く、三月は、天道小變の節、其の久しきを言うなり。此を過ぐれば則ち聖人なり。仁に違わずは、只是れ纖毫の私欲無し。少しく私欲有らば、便ち是れ不仁なり、と。尹氏曰く、此れ顏子の聖人に於て未だ達せざること一閒なる者なり。聖人の若きは則ち渾然として閒斷無し、と。張子曰く、始學の要は、當に三月違わずと、日月至れると、内外賓主の辨とを知り、心意勉勉循循として、已むこと能わざらしむべし。此を過ぐれば、幾ど我に在る者に非ざるなり、と。
雍也6
○季康子問、仲由可使從政也與。子曰、由也果。於從政乎何有。曰、賜也可使從政也與。曰、賜也達。於從政乎何有。曰、求也可使從政也與。曰、求也藝。於從政乎何有。與、平聲。○從政、謂爲大夫。果、有決斷。達、通事理。藝、多才能。○程子曰、季康子問三子之才、可以從政乎。夫子答以各有所長。非惟三子、人各有所長。能取其長、皆可用也。
【読み】
○季康子問う、仲由政に從わしめつ可けんや。子曰く、由は果なり。政に從うに於て何か有らん。曰く、賜は政に從わしめつ可けんや。曰く、賜は達なり。政に從うに於て何か有らん。曰く、求は政に從わしめつ可けんや。曰く、求は藝あり。政に從うに於て何か有らん。與は平聲。○政に從うは、大夫にするを謂う。果は、決斷有り。達は、事理に通ず。藝は、才能多し。○程子曰く、季康子三子の才、以て政に從う可きかを問う。夫子答うるに各々長ずる所有るを以てす。惟三子のみに非ず、人各々長ずる所有り。能く其の長を取れば、皆用う可きなり、と。
雍也7
○季氏使閔子騫爲費宰。閔子騫曰、善爲我辭焉。如有復我者、則吾必在汶上矣。費、音祕。爲、去聲。復、扶又反。汶、音問。○閔子騫、孔子弟子、名損。費、季氏邑。汶、水名、在齊南魯北境上。閔子不欲臣季氏。令使者善爲己辭。言若再來召我、則當去之齊。○程子曰、仲尼之門、能不仕大夫之家者、閔子・曾子數人而已。謝氏曰、學者能少知内外之分、皆可以樂道而忘人之勢。況閔子、得聖人爲之依歸。彼其視季氏不義之富貴、不啻犬彘。又從而臣之、豈其心哉。在聖人則有不然者。蓋居亂邦、見惡人、在聖人則可。自聖人以下、剛則必取禍、柔則必取辱。閔子豈不能早見而豫待之乎。如由也不得其死、求也爲季氏附益、夫豈其本心哉。蓋旣無先見之知、又無克亂之才故也。然則閔子其賢乎。
【読み】
○季氏閔子騫をして費の宰爲らしむ。閔子騫曰く、善く我が爲に辭せよ。如し我に復[ふたたび]すること有らば、則ち吾必ず汶の上[ほとり]に在らん。費は音祕。爲は去聲。復は扶又の反。汶は音問。○閔子騫は孔子の弟子、名は損。費は季氏の邑。汶は水の名、齊の南、魯の北の境上に在り。閔子季氏の臣たらんことを欲せず。使者に善く己が爲に辭せしむ。言うこころは、若し再び來て我を召せば、則ち當に去って齊に之くべし、と。○程子曰く、仲尼の門、能く大夫の家に仕えざる者は、閔子・曾子數人のみ、と。謝氏曰く、學者能く少しく内外の分を知らば、皆以て道を樂しみて人の勢を忘る可し。況や閔子は、聖人を得て之に依り歸せんとす。彼れ其の季氏の不義の富貴を視ること、啻に犬彘[けんてい]たるのみならず。又從いて之の臣となるは、豈其の心ならんや。聖人に在りては則ち然らざる者有り。蓋し亂邦に居り、惡人を見るも、聖人に在りては則ち可なり。聖人より以下は、剛なれば則ち必ず禍を取り、柔なれば則ち必ず辱を取る。閔子豈早く見て豫め之を待つこと能わざらんや。由の其の死を得ず、求の季氏が爲に附益するが如き、夫れ豈其の本心ならんや。蓋し旣に先見の知無く、又亂に克つの才無きが故なり。然れば則ち閔子は其れ賢ならんか、と。
雍也8
○伯牛有疾。子問之。自牖執其手。曰、亡之。命矣夫、斯人也而有斯疾也、斯人也而有斯疾也。夫、音扶。○伯牛、孔子弟子、姓冉、名耕。有疾、先儒以爲癩也。牖、南牖也。禮、病者居北牖下。君視之、則遷於南牖下、使君得以南面視己。時伯牛家以此禮尊孔子。孔子不敢當。故不入其室、而自牖執其手。蓋與之永訣也。命、謂天命。言此人不應有此疾。而今乃有之。是乃天之所命也。然則非其不能謹疾、而有以致之、又可見矣。○侯氏曰、伯牛以德行稱、亞於顏・閔。故其將死也、孔子尤痛惜之。
【読み】
○伯牛疾有り。子之を問う。牖[まど]より其の手を執る。曰く、亡[し]なん。命なるかな、斯の人にして斯の疾有ること、斯の人にして斯の疾有ること。夫は音扶。○伯牛は孔子の弟子、姓は冉、名は耕。疾有りは、先儒以て癩と爲す。牖は南牖なり。禮に、病者は北牖の下に居る。君之を視るときは、則ち南牖の下に遷り、君をして以て南面して己を視るを得しむ。時に伯牛の家此の禮を以て孔子を尊ぶ。孔子敢えて當らず。故に其の室に入らずして、牖より其の手を執る。蓋し之と永訣するなり。命は天命を謂う。言うこころは、此の人應[まさ]に此の疾有るべからず。而して今乃ち之れ有り。是れ乃ち天の命ずる所なり。然れば則ち其の疾を謹むこと能わずして、以て之を致すこと有るに非ざること、又見る可し。○侯氏曰く、伯牛德行を以て稱されること、顏・閔に亞[つ]げり。故に其の將に死せんとするや、孔子尤も之を痛く惜しめり、と。
雍也9
○子曰、賢哉囘也。一簞食、一瓢飮、在陋巷。人不堪其憂。囘也不改其樂。賢哉囘也。食、音嗣。樂、音洛。○簞、竹器。食、飯也。瓢、瓠也。顏子之貧如此、而處之泰然、不以害其樂。故夫子再言賢哉囘也、以深歎美之。○程子曰、顏子之樂、非樂簞瓢陋巷也。不以貧窶累其心、而改其所樂也。故夫子稱其賢。又曰、簞瓢陋巷非可樂。蓋自有其樂爾。其字當玩味。自有深意。又曰、昔受學於周茂叔、每令尋仲尼・顏子樂處、所樂何事。愚按、程子之言、引而不發。蓋欲學者深思、而自得之。今亦不敢妄爲之說。學者但當從事於博文約禮之誨、以至於欲罷不能、而竭其才、則庶乎有以得之矣。
【読み】
○子曰く、賢なるかな囘。一簞の食、一瓢の飮、陋巷に在り。人其の憂えに堪えず。囘は其の樂しみを改めず。賢なるかな囘。食は音嗣。樂は音洛。○簞は竹器。食は飯なり。瓢は瓠なり。顏子の貧此の如くして、之に處りて泰然として、以て其の樂しみを害さず。故に夫子再び賢なるかな囘やと言い、以て深く之を歎美す。○程子曰く、顏子の樂しみは、簞瓢陋巷を樂しむに非ず。貧窶を以て其の心を累わして、其の樂しむ所を改めざるなり。故に夫子其の賢を稱す、と。又曰く、簞瓢陋巷は樂しむ可きに非ず。蓋し自ら其の樂しむもの有るのみ。其の字當に玩味すべし。自ら深意有り、と。又曰く、昔學を周茂叔に受けしとき、每に仲尼・顏子の樂しむ處、樂しむ所は何事ぞと尋ねしむ、と。愚按ずるに、程子の言、引いて發せず。蓋し學者深く思いて、之を自得せんことを欲す。今亦敢えて妄りに之の說を爲さず。學者但當に事とするに博文約禮の誨に從い、以て罷めんと欲して能わず、其の才を竭くすに至れば、則ち庶わくは以て之を得ること有らん。
雍也10
○冉求曰、非不說子之道、力不足也。子曰、力不足者、中道而廢。今女畫。說、音悦。女、音汝。○力不足者、欲進而不能。畫者、能進而不欲。謂之畫者、如畫地以自限也。○胡氏曰、夫子稱顏囘不改其樂。冉求聞之。故有是言。然使求說夫子之道誠如口之說芻豢、則必將盡力以求之。何患力之不足哉。畫而不進、則日退而已矣。此冉求之所以局於藝也。
【読み】
○冉求が曰く、子の道を說びざるに非ず、力足らざるなり。子曰く、力足らざる者は、中道にして廢[す]つ。今女畫[かぎ]れり。說の音は悦。女の音は汝。○力足らざるは、進まんと欲して能わず。畫るは、能く進みて欲せず。之を畫ると謂うは、地に畫し以て自ら限るが如し。○胡氏曰く、夫子顏囘の其の樂しみを改めざるを稱す。冉求之を聞く。故に是の言有り。然れば求に夫子の道を說ぶこと誠に口の芻豢を說ぶが如くしむれば、則ち必ず將に力を盡くし以て之を求めんとす。何ぞ力の足らざるを患えん。畫って進まざれば、則ち日に退くのみ。此れ冉求の藝に局する所以なり、と。
雍也11
○子謂子夏曰、女爲君子儒、無爲小人儒。儒、學者之稱。程子曰、君子儒、爲己、小人儒、爲人。○謝氏曰、君子小人之分、義與利之閒而已。然所謂利者、豈必殖貨財之謂。以私滅公、適己自便。凡以害天理者、皆利也。子夏文學雖有餘、然意其遠者大者、或昧焉。故夫子語之以此。
【読み】
○子子夏に謂いて曰く、女君子儒と爲れ、小人儒と爲ること無かれ。儒は學者の稱。程子曰く、君子儒は己の爲にす、小人儒は人の爲にす、と。○謝氏曰く、君子小人の分は、義と利との閒のみ。然れども謂う所の利なる者は、豈必ずしも貨財を殖するの謂ならんや。私を以て公を滅し、己に適いて自ら便す。凡て以て天理を害する者は皆利なり。子夏の文學餘有りと雖も、然れども意うに其の遠き者大なる者、或は昧からん。故に夫子之を語るに此を以てす、と。
雍也12
○子游爲武城宰。子曰、女得人焉爾乎。曰、有澹臺滅明者。行不由徑。非公事、未嘗至於偃之室也。女、音汝。澹、徒甘反。○武城、魯下邑。澹臺、姓。滅明、名。字、子羽。徑、路之小而捷者。公事、如飮射讀法之類。不由徑、則動必以正、而無見小欲速之意可知。非公事不見邑宰、則其有以自守、而無枉己徇人之私可見矣。○楊氏曰、爲政以人才爲先。故孔子以得人爲問。如滅明者、觀其二事之小、而其正大之情可見矣。後世有不由徑者、人必爲迂。不至其室、人必以爲簡。非孔氏之徒、其孰能知而取之。愚謂、持身以滅明爲法、則無苟賤之羞。取人以子游爲法、則無邪媚之惑。
【読み】
○子游武城の宰爲り。子曰く、女人を得たりや。曰く、澹臺滅明という者有り。行くこと徑に由らず。公事に非ざれば、未だ嘗て偃が室に至らず。女は音汝。澹は徒甘の反。○武城は魯の下邑。澹臺は姓。滅明は名。字は子羽。徑は、路の小にして捷き者。公事は、飮射讀法の類の如し。徑に由らざれば、則ち動くに必ず正を以てして、小を見て速やかならんことを欲するの意無きを知る可し。公事に非ざれば邑宰を見ざれば、則ち其の以て自ら守る有りて、己を枉げて人に徇うの私無きを見る可し。○楊氏曰く、政を爲すは人才を以て先と爲す。故に孔子人を得るを以て問と爲す。滅明が如き者は、其の二事の小を觀て、其の正大の情を見る可し。後世徑に由らざる者有らば、人必ず迂と爲す。其の室に至らざれば、人必ず以て簡と爲す。孔氏の徒に非ざれば、其れ孰か能く知りて之を取らん、と。愚謂えらく、身を持するに滅明を以て法と爲さば、則ち苟賤の羞無からん。人を取るに子游を以て法と爲さば、則ち邪媚の惑無からん。
雍也13
○子曰、孟之反不伐、奔而殿。將入門、策其馬曰、非敢後也。馬不進也。殿、去聲。○孟之反、魯大夫、名側。胡氏曰、反、卽莊周所稱孟子反者是也。伐、誇功也。奔、敗走也。軍後曰殿。策、鞭也。戰敗而還、以後爲功。反奔而殿。故以此言自揜其功也。事在哀公十一年。○謝氏曰、人能操無欲上人之心、則人欲日消、天理日明。自凡可以矜己誇人者、皆無足道矣。然不知學者、欲上人之心、無時而忘也。若孟之反、可以爲法矣。
【読み】
○子曰く、孟之反伐[ほこ]らず、奔るときに而して殿[しんがり]す。將に門に入らんとするとき、其の馬に策[むちう]って曰く、敢えて後たるに非ず。馬進まざればなり。殿は去聲。○孟之反は魯の大夫、名は側。胡氏曰く、反は卽ち莊周稱する所の孟子反なる者、是れなり。伐は、功を誇るなり。奔は、敗走なり。軍後を殿と曰う。策は、鞭なり。戰敗れて還るに、後を以て功と爲す。反奔りて殿す。故に此の言を以て自ら其の功を揜うなり。事、哀公十一年に在り。○謝氏曰く、人能く人の上たらんと欲すること無きの心を操れば、則ち人欲日に消え、天理日に明らかなり。凡て以て己を矜り人に誇る可き者は、皆道うに足る無し。然れども學を知らざる者、人の上たらんと欲するの心、時として忘るること無し。孟之反の若きは、以て法と爲す可し、と。
雍也14
○子曰、不有祝鮀之佞、而有宋朝之美、難乎免於今之世矣。鮀、徒何反。○祝、宗廟之官。鮀、衛大夫、字子魚。有口才。朝、宋公子、有美色。言衰世好諛悦色。非此難免。蓋傷之也。
【読み】
○子曰く、祝鮀が佞有りて、宋朝が美有るにあらざるは、難いかな今の世に免れんこと。鮀は徒何の反。○祝は宗廟の官。鮀は衛の大夫、字は子魚。口才有り。朝は宋公の子、美色有り。言うこころは、衰世諛を好み色を悦ぶ。此に非ざれば免れ難し、と。蓋し之を傷むなり。
雍也15
○子曰、誰能出不由戶。何莫由斯道也。言人不能出不由戶、何故乃不由此道耶。怪而歎之之辭。○洪氏曰、人知出必由戶、而不知行必由道。非道遠人、人自遠爾。
【読み】
○子曰く、誰か能く出ること戶に由らざらん。何ぞ斯の道に由ること莫き。言うこころは、人出るに戶に由らざること能わず、何故乃ち此の道に由らざるや、と。怪しみて之を歎ずるの辭なり。○洪氏曰く、人出るに必ず戶に由るを知りて、行うに必ず道に由るを知らず。道人に遠きに非ず、人自ら遠きのみ、と。
雍也16
○子曰、質勝文則野。文勝質則史。文質彬彬、然後君子。野、野人、言鄙略也。史、掌文書、多聞習事、而誠或不足也。彬彬、猶班班、物相雜而適均之貌。言學者當損有餘、補不足。至於成德、則不期然而然矣。○楊氏曰、文質不可以相勝。然質之勝文、猶之甘可以受和、白可以受采也。文勝而至於滅質、則其本亡矣。雖有文、將安施乎。然則與其史也寧野。
【読み】
○子曰く、質文に勝つときは則ち野なり。文質に勝つときは則ち史なり。文質彬彬として、然して後に君子なり。野は野人、鄙略を言うなり。史は文書を掌り、多聞にして事に習いて、誠或は足らざるなり。彬彬は猶班班のごとく、物相雜りて適均するの貌。言うこころは、學者當に餘り有るを損じ、足らざるを補うべし、と。成德に至りては、則ち然りと期せずして然るなり。○楊氏曰く、文質は以て相勝つ可からず。然れども質の文に勝つは、猶之れ甘は以て和を受く可く、白は以て采を受く可きがごとし。文勝ちて質滅するに至れば、則ち其の本亡ぶ。文有りと雖も、將に安くに施さんとせんや。然れば則ち其れ史よりは寧ろ野、と。
雍也17
○子曰、人之生也直。罔之生也、幸而免。程子曰、生理本直。罔、不直也。而亦生者、幸而免爾。
【読み】
○子曰く、人の生まるること直し。罔[し]いたるが生けるは、幸にして免れるなり。程子曰く、生の理は本直なり、と。罔は直ならざるなり。而して亦生ける者は、幸にして免れるのみ。
雍也18
○子曰、知之者、不如好之者。好之者、不如樂之者。好、去聲。樂、音洛。○尹氏曰、知之者、知有此道也。好之者、好而未得也。樂之者、有所得、而樂之也。○張敬夫曰、譬之五穀。知者、知其可食者也。好者、食而嗜之者也。樂者、嗜之而飽者也。知而不能好、則是知之未至也。好之而未及於樂、則是好之未至也。此古之學者、所以自強而不息者與。
【読み】
○子曰く、之を知る者は、之を好む者に如かず。之を好む者は、之を樂しむ者に如かず。好は去聲。樂は音洛。○尹氏曰く、之を知る者は、此の道有るを知るなり。之を好む者は、好みて未だ得ざるなり。之を樂しむ者は、得る所有りて、之を樂しむなり、と。○張敬夫曰く、之を五穀に譬う。知る者は、其の食す可きを知る者なり。好む者は、食して之を嗜む者なり。樂しむ者は、之を嗜んで飽く者なり。知りて好むこと能わざるは、則ち是れ知の未だ至らざるなり。之を好みて未だ樂に及ばざるは、則ち是れ之を好みて未だ至らざるなり。此れ古の學者の、自ら強[つと]めて息まざる所以の者か、と。
雍也19
○子曰、中人以上、可以語上也。中人以下、不可以語上也。以上之上、上聲。語、去聲。○語、告也。言敎人者、當隨其高下而告語之、則其言易入、而無躐等之弊也。○張敬夫曰、聖人之道、精粗雖無二致、但其施敎、則必因其材而篤焉。蓋中人以下之質、驟而語之太高、非惟不能以入、且將妄意躐等、而有不切於身之弊。亦終於下而已矣。故就其所及而語之。是乃所以使之切問近思、而漸進於高遠也。
【読み】
○子曰く、中人以上には、以て上を語[つ]ぐ可し。中人以下には、以て上を語ぐ可からず。以上の上は上聲。語は去聲。○語ぐは告ぐなり。言うこころは、人を敎うる者、當に其の高下に隨いて之を告語せば、則ち其の言入り易くして、等を躐ゆるの弊無きなり、と。○張敬夫曰く、聖人の道、精粗の二致無きと雖も、但其の敎を施すは、則ち必ず其の材に因りて篤くす。蓋し中人以下の質、驟[にわか]にして之に語ぐこと太だ高くば、惟以て入ること能わざるのみに非ず、且將に妄意等を躐えて、身に切ならざるの弊有らんとす。亦下に終えるのみ。故に其の及ぶ所に就きて之に語ぐ。是れ乃ち之れ切問近思にして、漸く高遠に進めしむる所以なり、と。
雍也20
○樊遲問知。子曰、務民之義、敬鬼神而遠之。可謂知矣。問仁。曰、仁者先難而後獲。可謂仁矣。知・遠、皆去聲。○民、亦人也。獲、謂得也。專用力於人道之所宜、而不惑於鬼神之不可知、知者之事也。先其事之所難、而後其効之所得、仁者之心也。此必因樊遲之失而告之。○程子曰、人多信鬼神、惑也。而不信者、又不能敬。能敬能遠、可謂知矣。又曰、先難、克己也。以所難爲先、而不計所獲、仁也。呂氏曰、當務爲急、不求所難知。力行所知、不憚所難爲。
【読み】
○樊遲知を問う。子曰く、民の義を務めて、鬼神を敬して之に遠ざかる。知と謂いつ可し。仁を問う。曰く、仁者は難きを先んじ獲ることを後にす。仁と謂いつ可し。知・遠は皆去聲。○民は亦人なり。獲るは、得るを謂うなり。專ら力を人の道の宜しき所に用いて、鬼神の知る可からざるに惑わざるは、知者の事なり。其の事の難き所を先にして、其の効の得る所を後にするは、仁者の心なり。此れ必ず樊遲の失に因りて之を告ぐ。○程子曰く、人多く鬼神を信ずるは、惑えるなり。而して信ぜざる者は、又敬すること能わず。能く敬し能く遠ざかるは、知と謂う可し。又曰く、難きを先にするは、己に克つなり。難き所を以て先と爲して、獲る所を計らざるは、仁なり、と。呂氏曰く、當に務むるべきを急と爲して、知り難き所を求めず。知る所を力め行い、爲し難き所を憚からず、と。
雍也21
○子曰、知者樂水。仁者樂山。知者動。仁者靜。知者樂。仁者壽。知、去聲。樂、上二字、竝五敎反。下一字、音洛。○樂、喜好也。知者達於事理、而周流無滯、有似於水。故樂水。仁者安於義理、而厚重不遷、有似於山。故樂山。動靜、以體言、樂壽、以効言也。動而不括。故樂。靜而有常。故壽。○程子曰、非體仁知之深者、不能如此形容之。
【読み】
○子曰く、知者は水を樂[ねが]う。仁者は山を樂う。知者は動く。仁者は靜かなり。知者は樂しむ。仁者は壽[なが]し。知は去聲。樂は上二字は竝五敎の反。下一字は音洛。○樂は喜好なり。知者は事理に達して、周流して滯り無きこと、水に似たる有り。故に水を樂う。仁者は義理に安んじて、厚重にして遷らず、山に似たる有り。故に山を樂う。動靜は體を以て言い、樂壽は効を以て言うなり。動きて括[むす]ばれず。故に樂しむ。靜かにして常有り。故に壽し。○程子曰く、仁知を體することの深き者に非ざれば、此の如く之を形容すること能わず、と。
雍也22
○子曰、齊一變、至於魯。魯一變、至於道。孔子之時、齊俗急功利、喜夸詐。乃霸政之餘習。魯則重禮敎、崇信義。猶有先王之遺風焉。但人亡政息、不能無廢墜爾。道、則先王之道也。言二國之政・俗有美惡。故其變而之道、有難易。○程子曰、夫子之時、齊強魯弱。孰不以爲齊勝魯也。然魯猶存周公之法制。齊由桓公之霸、爲從簡尙功之治、太公之遺法變易盡矣。故一變乃能至魯。魯則修擧廢墜而已。一變則至於先王之道也。愚謂、二國之俗、唯夫子爲能變之。而不得試。然因其言以考之、則其施爲緩急之序、亦略可見矣。
【読み】
○子曰く、齊一たび變せば、魯に至んなん。魯たび一變せば、道に至んなん。孔子の時、齊の俗功利に急にして、夸詐[こさ]を喜ぶ。乃ち霸政の餘習なり。魯は則ち禮敎を重んじ、信義を崇ぶ。猶先王の遺風有り。但人亡び政息み、廢墜無きこと能わざるのみ。道は則ち先王の道なり。言うこころは、二國の政・俗に美惡有り。故に其の變じて道を之くこと、難易有り、と。○程子曰く、夫子の時、齊は強く魯は弱し。孰か以て齊の魯に勝ると爲さざらん。然れども魯は猶周公の法制存す。齊は桓公の霸に由り、簡に從い功を尙ぶの治を爲し、太公の遺法變易し盡くせり。故に一變せば乃ち能く魯に至らん。魯は則ち廢墜を修め擧げんのみ。一變せば則ち先王の道に至らん、と。愚謂えらく、二國の俗、唯夫子のみ能く之を變ずることを爲さん。而して試[もち]いらるるを得ず。然れども其の言に因りて以て之を考えれば、則ち其の施爲緩急の序、亦略見る可し。
雍也23
○子曰、觚不觚、觚哉。觚哉。觚、音孤。○觚、稜也。或曰、酒器。或曰、木簡。皆器之有稜者也。不觚者、蓋當時失其制、而不爲稜也。觚哉、觚哉。言不得爲觚也。○程子曰、觚而失其形制、則非觚也。擧一器而天下之物、莫不皆然。故君而失其君之道、則爲不君。臣而失其臣之職、則爲虛位。范氏曰、人而不仁、則非人。國而不治、則不國矣。
【読み】
○子曰く、觚[こ]觚[かど]あらざれば、觚ならんや。觚ならんや。觚は音孤。○觚は稜なり。或は曰う、酒器、と。或曰う、木簡、と。皆器の稜有る者なり。觚あらずは、蓋し當時其の制を失いて、稜を爲さざるなり。觚ならんや、觚ならんやは、言うこころは、觚と爲すを得ざるなり、と。○程子曰く、觚にして其の形制を失わば、則ち觚に非ざるなり。一器を擧げて、天下の物、皆然らざること莫し。故に君にして其の君の道を失わば、則ち君たらずと爲す。臣にして其の臣の職を失わば、則ち虛位と爲す、と。范氏曰く、人にして仁ならざれば、則ち人に非ず。國にして治まらざれば、則ち國にあらざるなり、と。
雍也24
○宰我問曰、仁者雖告之曰井有仁焉、其從之也。子曰、何爲其然也。君子可逝也。不可陷也。可欺也。不可罔也。劉聘君曰、有仁之仁、當作人。今從之。從、謂隨之於井而救之也。宰我信道不篤、而憂爲仁之陷害。故有此問。逝、謂使之往救。陷、謂陷之於井。欺、謂誑之以理之所有。罔、謂昧之以理之所無。蓋身在井上、乃可以救井中之人。若從之於井、則不復能救之矣。此理甚明、人所易曉。仁者雖切於救人、而不私其身、然不應如此之愚也。
【読み】
○宰我問いて曰く、仁者に之を告げて井に仁[ひと]有りと曰うと雖も、其れ之に從わんか。子曰く、何爲れぞ其れ然らん。君子は逝かしむ可し。陷[おとしい]る可からず。欺く可し。罔[し]ゆ可からず。劉聘君曰く、仁有りの仁、當に人に作るべし、と。今之に從う。從は、之をして井に隨いて之を救わんとするを謂うなり。宰我道を信ずること篤からずして、仁を爲すの害に陷るを憂う。故に此の問い有り。逝は、之をして往きて救わしむるを謂う。陷は、之をして井に陷らんとするを謂う。欺は、之を誑くに理の有る所を以てするを謂う。罔は、之を昧ますに理の無き所を以てするを謂う。蓋し身井の上に在れば、乃ち以て井中の人を救う可し。若し之をして井に從わんとすれば、則ち復之を救うこと能わず。此の理甚だ明らかにして、人の曉り易き所なり。仁者人を救うに切にして、其の身を私せずと雖も、然れども此の如きの愚に應じざるなり。
雍也25
○子曰、君子博學於文、約之以禮、亦可以弗畔矣夫。夫、音扶。○約、要也。畔、背也。君子學欲其博。故於文無不考。守欲其要。故其動必以禮。如此、則可以不背於道矣。○程子曰、博學於文而不約之以禮、必至於汗漫。博學矣、又能守禮而由於規矩、則亦可以不畔道矣。
【読み】
○子曰く、君子は博く文を學んで、之を約[つつまやか]にするに禮を以てせば、亦以て畔かざる可し。夫は音扶。○約は要なり。畔は背なり。君子學は其の博きを欲す。故に文に於て考えざること無し。守るに其の要を欲す。故に其の動くに必ず禮を以てす。此の如くなれば、則ち以て道に背かざる可し。○程子曰く、博く文を學びて之を約にするに禮を以てせざれば、必ず汗漫に至る。博く學び、又能く禮を守りて規矩に由れば、則ち亦以て道に畔かざる可し、と。
雍也26
○子見南子。子路不說。夫子矢之曰、予所否者、天厭之。天厭之。說、音悦。否、方九反。○南子、衛靈公之夫人、有淫行。孔子至衛。南子請見。孔子辭謝。不得已而見之。蓋古者仕於其國、有見其小君之禮。而子路、以夫子見此淫亂之人爲辱。故不悦。矢、誓也。所、誓辭也。如云所不與崔慶者之類。否、謂不合於禮、不由其道也。厭、棄絶也。聖人道大德全、無可不可。其見惡人、固謂在我有可見之禮、則彼之不善、我何與焉。然此豈子路所能測哉。故重言以誓之。欲其姑信此而深思以得之也。
【読み】
○子南子に見[あ]う。子路說びず。夫子之に矢[ちか]って曰く、予否[すまじき]所の者あらば、天之を厭[すてた]たん。天之を厭たん。說は音悦。否は方九の反。○南子は衛の靈公の夫人、淫行有り。孔子衛に至る。南子見を請う。孔子辭謝す。已むことを得ずして之に見う。蓋し古は其の國に仕うれば、其の小君に見うの禮有り。而して子路、夫子の此の淫亂の人に見うを以て辱と爲す。故に悦ばず。矢うは誓うなり。所は誓辭なり。崔慶に與せざる所の者を云うの類の如し。否は、禮に合わず、其の道に由らざるを謂うなり。厭は棄絶なり。聖人の道大にて德全く、可も不可も無し。其の惡人に見うは、固より謂うに、我に在りて見う可き禮有らば、則ち彼の不善は、我に何ぞ與らんや、と。然れども此れ豈子路の能く測る所ならんや。故に重ねて言い以て之を誓う。其の姑く此を信じて深く思い以て之を得んことを欲するなり。
雍也27
○子曰、中庸之爲德也、其至矣乎。民鮮久矣。鮮、上聲。○中者、無過不及之名也。庸、平常也。至、極也。鮮、少也。言民少此德、今已久矣。○程子曰、不偏之謂中、不易之謂庸、中者、天下之正道。庸者、天下之定理。自世敎衰、民不興於行、少有此德久矣。
【読み】
○子曰く、中庸の德爲る、其れ至れるかな。民鮮いこと久し。鮮は上聲。○中は、過不及無きの名なり。庸は平常なり。至は極なり。鮮は少なり。言うこころは、民此の德少なきこと、今已に久し、と。○程子曰く、偏せざるを之れ中と謂い、易らざるを之れ庸と謂う。中なる者は、天下の正道、庸なる者は、天下の定理なり、と。世敎の衰えてより、民行に興らずして、此の德有るもの少なきこと久し。
雍也28
○子貢曰、如有博施於民、而能濟衆、何如、可謂仁乎。子曰、何事於仁。必也聖乎。堯舜其猶病諸。施、去聲。○博、廣也。仁以理言、通乎上下。聖、以地言、則造其極之名也。乎者、疑而未定之辭。病、心有所不足也。言此何止於仁。必也聖人能之乎。則雖堯舜之聖、其心猶有所不足於此也。以是求仁、愈難而愈遠矣。
【読み】
○子貢曰く、如し博く民に施して、能く濟うこと衆き有らば、何如、仁と謂う可けんや。子曰、何ぞ仁をしも事とせん。必ず聖か。堯舜だも其れ猶諸を病めり。施は去聲。○博は廣なり。仁は理を以て言い、上下に通ず。聖は地を以て言えば、則ち其の極に造[いた]るの名なり。乎は、疑いて未だ定まらざるの辭なり。病むは、心足らざる所有るなり。言うこころは、此れ何ぞ仁に止まらん。必ずや聖人之を能くせんか。則ち堯舜の聖と雖も、其の心猶此に足らざる所有るなり。是を以て仁を求めば、愈々難くして愈々遠し、と。
夫仁者、己欲立而立人。己欲達而達人。夫、音扶。○以己及人、仁者之心也。於此觀之、可以見天理之周流而無閒矣。状仁之體、莫切於此。
【読み】
夫れ仁者は、己立たまく欲して人を立つ。己達せんと欲して人を達す。夫は音扶。○己を以て人に及ぼすは、仁者の心なり。此に於て之を觀れば、以て天理の周流して閒無きを見るべし。仁の體を状する、此より切なるは莫し。
能近取譬、可謂仁之方也已。譬、喩也。方、術也。近取諸身、以己所欲、譬之他人、知其所欲亦猶是也、然後推其所欲、以及於人。則恕之事、而仁之術也。於此勉焉、則有以勝其人欲之私、而全其天理之公矣。○程子曰、醫書以手足痿痺、爲不仁。此言最善名状。仁者以天地萬物爲一體。莫非己也。認得爲己、何所不至。若不屬己、自與己不相干。如手足之不仁、氣已不貫、皆不屬己。故博施濟衆、乃聖人之功用。仁至難言。故止曰、己欲立而立人、己欲達而達人。能近取譬、可謂仁之方也已。欲令如是觀仁、可以得仁之體。又曰、論語、言堯舜其猶病諸者二。夫博施者、豈非聖人之所欲。然必五十乃衣帛、七十乃食肉。聖人之心、非不欲少者亦衣帛食肉也。顧其養有所不贍爾。此病其施之不博也。濟衆者、豈非聖人之所欲。然治不過九州。聖人非不欲四海之外、亦兼濟也。顧其治有所不及爾。此病其濟之不衆也。推此以求修己以安百姓、則爲病可知。苟以吾治已足、則便不是聖人。呂氏曰、子貢有志於仁、徒事高遠、未知其方。孔子敎以於己取之。庶近而可入。是乃爲仁之方、雖博施濟衆、亦由此進。
【読み】
能く近く取り譬うるを、仁の方[みち]と謂いつ可からくのみ。譬は喩なり。方は術なり。近く諸を身に取り、己が欲する所を以て、之を他人に譬え、其の欲する所も亦猶是のごとくなるを知って、然る後に其の欲する所を推して、以て人に及ぼすべし。則ち恕の事にして、仁の術なり。此に於て勉むれば、則ち以て其の人欲の私に勝ちて、其の天理の公を全うすること有り。○程子曰く、醫書、手足痿痺を以て、不仁と爲す、と。此の言最も善く名状す。仁者は天地萬物を以て一體と爲す。己に非ざる莫し。己爲るを認め得ば、何ぞ至らざる所ならん。若し己に屬せざれば、自ら己と相干[あずか]らず。手足の不仁の如き、氣已に貫かざれば、皆己に屬さず。故に博く施して濟うこと衆しは、乃ち聖人の功用なり。仁は至って言い難し。故に止[ただ]曰く、己立てまく欲して人を立て、己達せまく欲して人を達す。能く近く取りて譬うれば、仁の方と謂う可きのみ、と。是の如く仁を觀せしめて、以て仁の體を得可きことを欲す、と。又曰く、論語に、堯舜だも其れ猶諸を病めりと言う者二つ。夫れ博く施すは、豈聖人の欲する所に非ざらんや。然るに必ず五十は乃ち帛を衣、七十は乃ち肉を食う。聖人の心、少き者も亦帛を衣、肉を食うを欲せざるに非ざるなり。顧[おも]うに其の養の贍[た]らざる所有るのみ。此れ其の施すことの博からざるを病めるなり。衆を濟うは、豈聖人の欲する所に非ざらんや。然るに治は九州に過ぎず。聖人四海の外も亦兼ね濟わんことを欲せざるに非ざるなり。顧うに其の治の及ばざる所有るのみ。此れ其の濟うこと衆からざるを病めるなり。此を推して以て己を修めて以て百姓を安んずるを求むれば、則ち病むと爲すことを知る可し。苟も吾が治を以て已に足れりとせば、則ち便ち是れ聖人ならず、と。呂氏曰く、子貢仁に志有り、徒ら高遠を事として、未だ其の方を知らず。孔子敎うるに己に於て之を取るを以てす。庶わくは近くして入る可きことを。是れ乃ち仁を爲すの方、博く施して濟うこと衆しと雖も、亦此に由りて進まん、と。
論語卷之四
述而第七 此篇多記聖人謙己誨人之辭、及其容貌行事之實。凡三十七章。
【読み】
述而第七 此の篇多くは聖人己を謙[へりくだ]りて人を誨うるの辭、及び其の容貌行事の實を記す。凡て三十七章。
述而1
○子曰、述而不作、信而好古、竊比於我老彭。好、去聲。○述、傳舊而已。作、則創始也。故作非聖人不能。而述則賢者可及。竊比、尊之之辭。我、親之之辭。老彭、商賢大夫、見大戴禮。蓋信古而傳述者也。孔子刪詩書、定禮樂、贊周易、修春秋。皆傳先王之舊、而未嘗有所作也。故其自言如此。蓋不惟不敢當作者之聖、而亦不敢顯然自附於古之賢人。蓋其德愈盛、而心愈下、不自知其辭之謙也。然當是時、作者略備。夫子蓋集羣聖之大成而折衷之。其事雖述、而功則倍於作矣。此又不可不知也。
【読み】
○子曰く、述べて作らず、信じて古を好むこと、竊かに我が老彭に比す。好は去聲。○述は舊を傳うるのみ。作は則ち創め始むるなり。故に作るは聖人に非ざれば能わず。而して述ぶるは則ち賢者も及ぶ可し。竊かに比すは、之を尊ぶの辭。我がは、之を親しむの辭。老彭は商の賢大夫、大戴禮に見ゆ。蓋し古を信じて傳述する者なり。孔子詩書を刪り、禮樂を定め、周易を贊し、春秋を修む。皆先王の舊を傳えて、未だ嘗て作る所有らざるなり。故に其の自ら言うこと此の如し。蓋し惟敢えて作者の聖に當らざるのみならず、亦敢えて顯然として自ら古の賢人に附かず。蓋し其の德愈々盛んにして、心愈々下り、自ら其の辭の謙なるを知らざるなり。然も是の時に當り、作者略備われり。夫子蓋し羣聖の大成を集めて之を折衷す。其の事は述ぶると雖も、功は則ち作るに倍す。此れ又知らざる可からざるなり。
述而2
○子曰、默而識之、學而不厭、誨人不倦、何有於我哉。識、音志。又如字。○識、記也。默識、謂不言而存諸心也。一說、識、知也。不言而心解也。前說近是。何有於我、言何者能有於我也。三者、已非聖人之極至。而猶不敢當。則謙而又謙之辭也。
【読み】
○子曰く、默して之を識し、學んで厭わず、人を誨えて倦まざること、何か我に有るや。識は音志。又字の如し。○識すは記すなり。默して識すは、言わずして諸を心に存するを謂うなり。一說に、識は知なり。言わずして心に解するなり、と。前說是に近し。何か我に有るは、言うこころは、何れの者か能く我に有らんやとなり。三つの者は、已に聖人の極至に非ず。而して猶敢えて當らず。則ち謙りて又謙れるの辭なり。
述而3
○子曰、德之不脩、學之不講、聞義不能徙、不善不能改、是吾憂也。尹氏曰、德必脩而後成。學必講而後明。見善能徙。改過不吝。此四者日新之要也。苟未能之、聖人猶憂。況學者乎。
【読み】
○子曰く、德を脩めざる、學を講[なら]わさざる、義を聞いて徙[うつ]る能わざる、不善改むる能わざる、是れ吾が憂えなり。尹氏曰く、德は必ず脩めて後に成る。學は必ず講じて後に明らかなり。善を見ては能く徙る。過を改むれば吝[やぶさか]ならず。此の四つの者は日に新たの要なり。苟も未だ之を能くせざれば、聖人すら猶憂う。況や學者をや、と。
述而4
○子之燕居、申申如也、夭夭如也。燕居、閒暇無事之時。楊氏曰、申申、其容舒也。夭夭、其色愉也。○程子曰、此弟子善形容聖人處也。爲申申字、說不盡、故更著夭夭字。今人燕居之時、不怠惰放肆、必太嚴厲。嚴厲時、著此四字不得。怠惰放肆時、亦著此四字不得。唯聖人便自有中和之氣。
【読み】
○子の燕居、申申如たり、夭夭如たり。燕居は、閒暇無事の時。楊氏曰く、申申は、其の容舒[の]ぶるなり。夭夭は、其の色愉[よろこ]ぶなり、と。○程子曰く、此れ弟子善く聖人を形容する處なり。申申の字、說き盡くさざるが爲に、故に更に夭夭の字を著く。今の人燕居の時、怠惰放肆ならざれば、必ず太だ嚴厲なり。嚴厲の時、此の四つの字を著け得ず。怠惰放肆の時も、亦此の四つの字を著け得ず。唯聖人のみ便ち自ら中和の氣有り、と。
述而5
○子曰、甚矣、吾衰也。久矣、吾不復夢見周公。復、扶又反。○孔子盛時、志欲行周公之道。故夢寐之閒、如或見之。至其老而不能行也、則無復是心、而亦無復是夢矣。故因此而自歎其衰之甚也。○程子曰、孔子盛時、寤寐常存行周公之道。及其老也、則志慮衰而不可以有爲矣。蓋存道者、心無老少之異、而行道者、身老則衰也。
【読み】
○子曰く、甚だしいかな、吾が衰えたること。久しいかな、吾が復[また]夢に周公に見わざること。復は扶又の反。○孔子盛んなる時、志周公の道を行わんと欲す。故に夢寐の閒、之を見る或るが如し。其の老いて行うこと能わざるに至るや、則ち復是の心無くして、亦復是の夢無し。故に此に因りて自ら其の衰えの甚だしきを歎ず。○程子曰く、孔子盛んなる時、寤寐常に周公の道を行わんことを存す。其の老ゆるに及んでや、則ち志慮衰えて以て爲すこと有る可からず。蓋し道を存するは、心に老少の異無くして、道を行うは、身老いては則ち衰う、と。
述而6
○子曰、志於道、志者、心之所之之謂。道、則人倫日用之閒、所當行者、是也。知此、而心必之焉、則所適者正、而無多歧之惑矣。
【読み】
○子曰く、道に志し、志は、心の之く所の謂なり。道は、則ち人倫日用の閒、當に行くべき所の者、是れなり。此を知りて、心必ず焉に之かば、則ち適く所の者正しくして、多歧の惑い無し。
據於德、據、音倨。○據者、執守之意。德則行道而有得於心者也。得之於心、而守之不失、則終始惟一、而有日新之功矣。
【読み】
德を據[まも]り、據るは音倨。○據るは、執り守るの意。德は則ち道を行いて心に得ること有る者なり。之を心に得て、之を守りて失わざれば、則ち終始惟一にして、日に新たなるの功有り。
依於仁、依者、不違之謂。仁、則私欲盡去、而心德之全也。工夫至此、而無終食之違、則存養之熟、無適而非天理之流行矣。
【読み】
仁に依り、依るは、違わざるの謂なり。仁は、則ち私欲盡く去りて、心の德の全きなり。工夫此に至りて、食を終うるの違い無くば、則ち存養の熟して、適くとして天理の流行に非ざる無し。
游於藝。游者、玩物適情之謂。藝、則禮樂之文、射御書數之法、皆至理所寓、而日用之不可闕者也。朝夕游焉、以博其義理之趣、則應務有餘、而心亦無所放矣。○此章言人之爲學、當如是也。蓋學莫先於立志。志道、則心存於正而不他。據德、則道得於心、而不失。依仁、則德性常用、而物欲不行。游藝、則小物不遺、而動息有養。學者於此、有以不失其先後之序、輕重之倫焉、則本末兼該、内外交養、日用之閒、無少閒隙、而涵泳從容、忽不自知其入於聖賢之域矣。
【読み】
藝に游ぶ。游ぶは、物を玩び情に適うの謂なり。藝は、則ち禮樂の文、射御書數の法にて、皆至理の寓する所にして、日用の闕く可からざる者なり。朝夕游んで、以て其の義理の趣を博くせば、則ち務めに應ずるに餘り有りて、心も亦放たれる所無し。○此の章、言うこころは、人の學を爲すは、當に是の如くすべしとなり。蓋し學は志を立つるより先なるは莫し。道に志せば、則ち心正しきに存して他あらず。德を據れば、則ち道心に得て失わず。仁に依れば、則ち德性常に用い、物欲行われず。藝に游べば、則ち小物も遺れずして、動息に養うこと有り。學者此に於て、以て其の先後の序、輕重の倫を失わざること有れば、則ち本末兼ね該[か]ね、内外交々養いて、日用の閒、少しの閒隙無くして、涵泳從容として、忽ち自ら其の聖賢の域に入るを知らざるなり。
述而7
○子曰、自行束脩以上、吾未嘗無誨焉。脩、脯也。十脠爲束。古者相見、必執贄以爲禮。束脩、其至薄者。蓋人之有生、同具此理。故聖人之於人、無不欲其入於善。但不知來學、則無往敎之禮。故苟以禮來、則無不有以敎之也。
【読み】
○子曰く、束脩を行うより以上、吾未だ嘗て誨うること無くばあらず。脩は脯なり。十脠を束と爲す。古は相見ゆるに、必ず贄[し]を執るを以て禮と爲す。束脩は、其の至って薄き者なり。蓋し人の生有るは、同じく此の理を具う。故に聖人の人に於る、其の善に入るを欲せざること無し。但來り學ぶを知らざれば、則ち往きて敎うるの禮無し。故に苟も禮を以て來れば、則ち以て之を敎うること有らざる無し。
述而8
○子曰、不憤不啓。不悱不發。擧一隅、不以三隅反、則不復也。憤、房粉反。悱、芳匪反。復、扶又反。○憤者、心求通而未得之意。悱者、口欲言而未能之貌。啓、謂開其意。發、謂達其辭。物之有四隅者、擧一可知其三。反者、還以相證之義。復、再告也。上章已言聖人誨人不倦之意。因幷記此、欲學者勉於用力、以爲受敎之地也。○程子曰、憤悱、誠意之見於色辭者也。待其誠至、而後告之。旣告之、又必待其自得、乃復告爾。又曰、不待憤悱而發、則知之不能堅固。其待憤悱而後發、則沛然矣。
【読み】
○子曰く、憤せずんば啓せず。悱せずんば發せず。一隅を擧ぐるに、三隅を以て反らざるときは、則ち復びせざるなり。憤は房粉の反。悱は芳匪の反。復は扶又の反。○憤は、心通ぜんことを求めて未だ得ざるの意。悱は、口言わんと欲して未だ能くせざるの貌。啓は、其の意を開くを謂う。發は、其の辭を達するを謂う。物の四隅有る者は、一を擧げて其の三を知る可し。反は、還りて以て相證するの義。復は、再び告ぐるなり。上章已に聖人人を誨えて倦まざるの意を言う。因りて幷せて此を記し、學者力を用うることを勉め、以て敎を受くるの地と爲さんことを欲す。○程子曰く、憤悱は、誠意の色辭に見[あらわ]れたる者なり。其の誠の至るを待ちて後に之に告ぐ。旣に之に告げて、又必ず其の自得するを待ちて、乃ち復告ぐるのみ、と。又曰く、憤悱を待たずして發すれば、則ち之を知ること堅固たる能わず。其の憤悱を待ちて後に發すれば、則ち沛然たり、と。
述而9
○子食於有喪者之側、未嘗飽也。臨喪哀、不能甘也。
【読み】
○子喪有る者の側[かたわら]に食しては、未だ嘗て飽くまでにせず。喪に臨みて哀しみ、甘しとすること能わざるなり。
子於是日哭、則不歌。哭、謂弔哭。一日之内、餘哀未忘、自不能歌也。○謝氏曰、學者於此二者、可見聖人情性之正也。能識聖人之情性、然後可以學道。
【読み】
子是の日に於て哭しつるときは、則ち歌わず。哭は弔哭を謂う。一日の内、餘哀未だ忘れず、自ら歌うこと能わざるなり。○謝氏曰く、學者此の二つの者に於て、聖人の情性の正しきを見る可し。能く聖人の情性を識り、然る後以て道を學ぶ可し、と。
述而10
○子謂顏淵曰、用之則行、舍之則藏。惟我與爾有是夫。舍、上聲。夫、音扶。○尹氏曰、用舍無與於己、行藏安於所遇。命不足道也。顏子幾於聖人。故亦能之。
【読み】
○子顏淵に謂って曰く、之を用うるときは則ち行い、之を舍つるときは則ち藏[かく]る。惟我と爾と是れ有るかな。舍は上聲。夫は音扶。○尹氏曰く、用舍は己に與る無く、行藏は遇う所に安んず。命は道[い]うに足らざるなり。顏子聖人に幾し。故に亦之を能くす、と。
子路曰、子行三軍、則誰與。萬二千五百人爲軍。大國三軍。子路、見孔子獨美顏淵、自負其勇、意夫子若行三軍、必與己同。
【読み】
子路曰く、子三軍を行わば、則ち誰と與にせん。萬二千五百人を軍と爲す。大國は三軍なり。子路、孔子の獨り顏淵のみを美むるを見て、其の勇を自負し、夫子若し三軍を行わば、必ず己と同[とも]にせんと意[おも]えり。
子曰、暴虎馮河、死而無悔者、吾不與也。必也臨事而懼、好謀而成者也。馮、皮冰反。好、去聲。○暴虎、徒搏。馮河、徒渉。懼、謂敬其事。成、謂成其謀。言此、皆以抑其勇而敎之。然行師之要、實不外此。子路蓋不知也。○謝氏曰、聖人於行藏之閒、無意無必。其行非貪位。其藏非獨善也。若有欲心、則不用而求行、舍之而不藏矣。是以惟顏子爲可以與於此。子路雖非有欲心者、然未能無固必也。至以行三軍爲問、則其論益卑矣。夫子之言、蓋因其失而救之。夫不謀無成、不懼必敗。小事尙然。而況於行三軍乎。
【読み】
子曰く、暴虎馮河して、死ぬとも而も悔い無からん者には、吾は與せじ。必ず事に臨んで懼り、謀を好んで成さん者なり。馮は皮冰の反。好は去聲。○暴虎は徒搏。馮河は徒渉。懼るは其の事を敬するを謂う。成すは其の謀を成すを謂う。此を言うは、皆以て其の勇を抑えて之を敎うるなり。然れども師を行うの要は、實に此に外ならず。子路蓋し知らざるなり。○謝氏曰く、聖人行藏の閒に於て、意無く必無し。其の行うは位を貪るに非ず。其の藏るるは獨り善くするに非ざるなり。若し欲する心有らば、則ち用いられずして行わんことを求め、之を舍てて藏れざらん。是を以て惟顏子のみ以て此に與る可しと爲す。子路欲する心有る者に非ずと雖も、然れども未だ固必無きこと能わざるなり。三軍を行うを以て問いを爲すに至れば、則ち其の論益々卑し。夫子の言、蓋し其の失に因りて之を救う。夫れ謀らずんば成ること無く、懼れずんば必ず敗る。小事すら尙然り。而るを況や三軍を行うに於てや、と。
述而11
○子曰、富而可求也、雖執鞭之士、吾亦爲之。如不可求、從吾所好。好、去聲。○執鞭、賤者之事。設言、富若可求、則雖身爲賤役以求之、亦所不辭。然有命焉。非求之可得也。則安於義理而已矣。何必徒取辱哉。○蘇氏曰、聖人未嘗有意於求富也。豈問其可不可哉。爲此語者、特以明其決不可求爾。楊氏曰、君子非惡富貴而不求。以其在天無可求之道也。
【読み】
○子曰く、富にして求め可くば、執鞭の士と雖うとも、吾亦之をせん。如し求む可からざれば、吾が好む所に從わん。好は去聲。○執鞭は、賤しき者の事。設言するに、富若し求む可くんば、則ち身賤役を爲して以て之を求むと雖も、亦辭さざる所なり。然れども命有り。之を求めて得可きに非ざるなり。則ち義理に安んずるのみ。何ぞ必ずしも徒らに辱を取らんや。○蘇氏曰く、聖人未だ嘗て富を求むるに意有らざるなり。豈に其の可不可を問わんや。此の語を爲すは、特に以て其の決して求む可からざるを明らかにするのみ、と。楊氏曰く、君子富貴を惡みて求めざるに非ず。其の天に在り、求む可きの道無きを以てなり、と。
述而12
○子之所愼、齊・戰・疾。齊、側皆反。○齊之爲言、齊也。將祭而齊其思慮之不齊者、以交於神明也。誠之至與不至、神之饗與不饗、皆決於此。戰、則衆之死生、國之存亡繋焉。疾、又吾身之所以死生存亡者、皆不可以不謹也。○尹氏曰、夫子無所不謹。弟子記其大者耳。
【読み】
○子の愼む所、齊・戰・疾。齊は側皆の反。○齊の言爲るや、齊なり。將に祭らんとして其の思慮の齊しからざる者を齊えて、以て神明に交わるなり。誠の至ると至らざると、神の饗[う]くると饗[う]けざるとは、皆此に決す。戰は、則ち衆の死生、國の存亡繋がる。疾は、又吾が身の死生存亡する所以の者にて、皆以て謹まざる可からず。○尹氏曰く、夫子謹まざる所無し。弟子其の大なる者を記すのみ、と。
述而13
○子在齊、聞韶三月、不知肉味。曰、不圖爲樂之至於斯也。史記、三月上、有學之二字。不知肉味、蓋心一於是、而不及乎他也。曰、不意舜之作樂至於如此之美。則有以極其情文之備、而不覺其歎息之深也。蓋非聖人不足以及此。○范氏曰、韶盡美、又盡善、樂之無以加此也。故學之三月、不知肉味、而歎美之如此。誠之至、感之深也。
【読み】
○子齊に在[いま]して、韶を聞くこと三月、肉の味[あじわい]を知らず。曰く、圖らざりき、樂爲[つく]ること、斯に至らんとは。史記に、三月の上に、學之の二字有り。肉の味を知らずは、蓋し心是に一にして、他に及ばざるなり。曰く、意[おも]わざりき、舜の樂を作ること此の如きの美に至らんとは、と。則ち以て其の情文の備を極むること有りて、其の歎息することの深きを覺えざるなり。蓋し聖人に非ざれば以て此に及ぶに足らず。○范氏曰く、韶は美を盡くし、又善を盡くし、樂の以て此に加うること無し。故に之を學ぶこと三月、肉の味を知らずして、之を歎美すること此の如し。誠の至り、感の深きなり、と。
述而14
○冉有曰、夫子爲衛君乎。子貢曰、諾、吾將問之。爲、去聲。○爲、猶助也。衛君、出公輒也。靈公、逐其世子蒯聵。公薨、而國人立蒯聵之子輒。於是晉納蒯聵、而輒拒之。時孔子居衛、衛人以蒯聵得罪於父、而輒嫡孫當立。故冉有疑而問之。諾、應辭也。
【読み】
○冉有曰く、夫子衛の君を爲[たす]けんか。子貢曰く、諾、吾將に之を問わんとす。爲は去聲。○爲は猶助のごとし。衛君は出公輒[ちょう]なり。靈公、其の世子蒯聵[かいかい]を逐う。公薨じて、國人蒯聵の子輒を立つ。是に於て晉蒯聵を納れ、而して輒之を拒ぐ。時に孔子衛に居り、衛人蒯聵の罪を父に得るを以て、而して輒嫡孫にして當に立つべしとす。故に冉有疑いて之を問う。諾は、應ずる辭なり。
入曰、伯夷・叔齊何人也。曰、古之賢人也。曰、怨乎。曰、求仁而得仁。又何怨。出曰、夫子不爲也。伯夷・叔齊、孤竹君之二子。其父將死、遺命立叔齊。父卒、叔齊遜伯夷。伯夷曰、父命也。遂逃去。叔齊又不立而逃之。國人立其中子。其後武王伐紂。夷・齊扣馬而諫。武王滅商。夷・齊恥食周粟、去隱于首陽山、遂餓而死。怨、猶悔也。君子居是邦、不非其大夫。況其君乎。故子貢不斥衛君、而以夷・齊爲問。夫子告之如此、則其不爲衛君可知矣。蓋伯夷以父命爲尊、叔齊以天倫爲重。其遜國也、皆求所以合乎天理之正、而卽乎人心之安。旣而各得其志焉、則視棄其國、猶敝蹤爾。何怨之有。若衛輒之據國拒父、而唯恐失之、其不可同年而語明矣。○程子曰、伯夷・叔齊、遜國而逃、諫伐而餓。終無怨悔。夫子以爲賢。故知其不與輒也。
【読み】
入って曰く、伯夷・叔齊何人ぞ。曰く、古の賢人なり。曰く、怨みたりや。曰く、仁を求めて仁を得たり。又何ぞ怨みん。出て曰く、夫子爲けじ。伯夷・叔齊は、孤竹君の二子。其の父將に死せんとするに、遺命して叔齊を立つ。父卒し、叔齊伯夷に遜る。伯夷曰く、父の命なり、と。遂に逃れ去る。叔齊も又立たずして之を逃る。國人其の中子を立つ。其の後武王紂を伐つ。夷・齊馬を扣[ひか]えて諫む。武王商を滅す。夷・齊周の粟を食むを恥じ、去りて首陽山に隱れ、遂に餓えて死す。怨は猶悔のごとし。君子是の邦に居れば、其の大夫を非らず。況や其の君をや。故に子貢衛君を斥[さ]さずして、夷・齊を以て問いと爲す。夫子之に告ぐること此の如くなれば、則ち其の衛君を爲けざること知る可し。蓋し伯夷は父の命を以て尊しと爲し、叔齊は天倫を以て重しと爲す。其の國を遜るや、皆天理の正に合して、人心の安きに卽く所以を求む。旣にして各々其の志を得れば、則ち其の國を棄つるを視ること、猶敝[やぶ]れたる蹤[わらぐつ]のごときのみ。何ぞ怨むことか之れ有あらん。衛輒の國に據りて父を拒みて、唯之を失うを恐るるが若きは、其れ年を同じくして語る可からざること明らかなり。○程子曰く、伯夷・叔齊、國を遜りて逃げ、伐つを諫めて餓う。終に怨悔無し。夫子以て賢と爲す。故に其の輒に與せざるを知るなり、と。
述而15
○子曰、飯疏食、飮水、曲肱而枕之。樂亦在其中矣。不義而富且貴、於我如浮雲。飯、符晩反。食、音嗣。枕、去聲。樂、音洛。○飯、食之也。疏食、麤飯也。聖人之心、渾然天理、雖處困極、而樂亦無不在焉。其視不義之富貴、如浮雲之無有、漠然無所動於其中也。○程子曰、非樂疏食飮水也。雖疏食飮水、不能改其樂也。不義之富貴、視之輕如浮雲然。又曰、須知所樂者何事。
【読み】
○子曰く、疏食を飯[くら]い、水を飮み、肱を曲げて之を枕す。樂しみ亦其の中に在り。不義にして富み且[また]貴きは、我に於て浮雲の如し。飯は符晩の反。食は音嗣。枕は去聲。樂は音洛。○飯は之を食うなり。疏食は麤飯なり。聖人の心、渾然たる天理、困極に處ると雖も、樂しみ亦在らざる無し。其の不義の富貴を視るは、浮雲の有ること無きが如く、漠然として其の中に動く所無し。○程子曰く、疏食飮水を樂しむに非ざるなり。疏食飮水と雖も、其の樂しみを改むる能わざるなり。不義の富貴、之を視ること輕くして浮雲の如く然り、と。又曰く、須く樂しむ所の者何事かを知るべし、と。
述而16
○子曰、加我數年、五十以學易、可以無大過矣。劉聘君見元城劉忠定公、自言、嘗讀他論、加作假、五十作卒。蓋加・假、聲相近而誤讀、卒與五十、字相似而誤分也。愚按、此章之言、史記作假我數年、若是我於易則彬彬矣。加正作假、而無五十字。蓋是時孔子年已幾七十矣。五十字誤無疑也。學易則明乎吉凶消長之理、進退存亡之道。故可以無大過。蓋聖人深見易道之無窮、而言此以敎人、使知其不可不學、而又不可以易而學也。
【読み】
○子曰く、我に數年を加して、以て易を學ぶことを五十[おえ]しめば、以て大なる過無かる可し。劉聘君、元城の劉忠定公に見え、自ら言う、嘗て他論を讀むに、加を假に作り、五十を卒に作る。蓋し加・假は、聲相近くして誤って讀み、卒と五十とは、字相似て誤って分つならん、と。愚按ずるに、此の章の言、史記、我に數年を假せ、是の若くなれば我易に於て則ち彬彬たらんに作る。加は正に假に作りて、五十の字無し。蓋し是の時孔子の年已に七十に幾し。五十の字誤れること疑い無し。易を學べば則ち吉凶消長の理、進退存亡の道明らかなり。故に以て大過無かる可し。蓋し聖人深く易道の窮まり無きを見て、此を言いて以て人に敎え、其の學ばざる可からずして、又易きを以て學ぶ可からざるを知らしむなり。
述而17
○子所雅言、詩・書・執禮。皆雅言也。雅、常也。執、守也。詩、以理情性、書、以道政事、禮、以謹節文。皆切於日用之實。故常言之。禮獨言執者、以人所執守而言。非徒誦說而已也。○程子曰、孔子雅素之言、止於如此。若性與天道、則有不可得而聞者。要在默而識之也。謝氏曰、此因學易之語而類記之。
【読み】
○子の雅[つね]に言う所は、詩・書・執禮。皆雅に言えり。雅は常なり。執は守なり。詩は以て情性を理め、書は以て政事を道い、禮は以て節文を謹む。皆日用の實に切なり。故に常に之を言う。禮の獨り執と言うは、人の執り守る所を以て言う。徒らに誦說するのみに非ざるなり。○程子曰く、孔子雅素の言、此の如くに止む。性と天道との若きは、則ち得て聞く可からざる者有り。默して之を識るに在らんことを要す、と。謝氏曰く、此れ易を學ぶの語に因りて類して之を記す、と。
述而18
○葉公問孔子於子路。子路不對。葉、舒渉反。○葉公、楚葉縣尹、沈諸梁、字子高、僭稱公也。葉公不知孔子。必有非所問而問者。故子路不對。抑亦以聖人之德、實有未易名言者歟。
【読み】
○葉公孔子を子路に問う。子路對えず。葉は舒渉の反。○葉公は楚の葉縣の尹、沈諸梁、字は子高、僭して公と稱す。葉公孔子を知らず。必ず問う所に非ずして問う者有らん。故に子路對えず。抑々亦聖人の德、實に未だ名づけ言い易からざる者有るを以てか。
子曰、女奚不曰、其爲人也、發憤忘食、樂以忘憂、不知老之將至云爾。未得、則發憤而忘食、已得、則樂之而忘憂。以是二者、俛焉日有孳孳、而不知年數之不足。但自言其好學之篤耳。然深味之、則見其全體至極、純亦不已之妙、有非聖人不能及者。蓋凡夫子之自言、類如此。學者宜致思焉。
【読み】
子曰く、女奚ぞ曰わざる、其の爲人[ひととなり]、憤を發して食を忘れ、樂しんで以て憂えを忘れ、老の將に至りなんとすることを知らずと爾か云う、と。未だ得ざれば、則ち憤を發して食を忘れ、已に得れば、則ち之を樂しみて憂いを忘る。是の二つの者を以て、俛焉として日に孳孳たる有りて、年數の足らざるを知らず。但自ら其の學を好むことの篤きを言うのみ。然れども深く之を味わえば、則ち其の全體至極にして、純なれども亦已まざるの妙、聖人に非ざれば及ぶこと能わざる者有るを見る。蓋し凡て夫子の自ら言うこと、類[おおむ]ね此の如し。學者宜しく思いを致すべし。
述而19
○子曰、我非生而知之者。好古、敏以求之者也。好、去聲。○生而知之者、氣質淸明、義理昭著、不待學而知也。敏、速也。謂汲汲也。○尹氏曰、孔子以生知之聖、每云好學者、非惟勉人也。蓋生而可知者、義理爾。若夫禮樂名物、古今事變、亦必待學而後、有以驗其實也。
【読み】
○子曰く、我生まれながらにして之を知る者に非ず。古を好んで、敏くして以て之を求めたる者なり。好は去聲。○生まれながらにして之を知るは、氣質淸明、義理昭著にて、學ぶを待たずして知るなり。敏は速なり。汲汲を謂うなり。○尹氏曰く、孔子生知の聖を以て、每に學を好むと云うは、惟人を勉むるのみに非ざるなり。蓋し生まれながらにして知る可き者は、義理のみ。夫の禮樂名物、古今事變の若きは、亦必ず學ぶを待ちて後、以て其の實を驗すること有り、と。
述而20
○子不語怪力・亂・神。怪異・勇力・悖亂之事、非理之正。固聖人所不語。鬼神、造化之迹。雖非不正、然非窮理之至、有未易明者。故亦不輕以語人也。○謝氏曰、聖人語常而不語怪。語德而不語力。語治而不語亂。語人而不語神。
【読み】
○子怪力・亂・神を語らず。怪異・勇力・悖亂の事は、理の正に非ず。固より聖人の語らざる所なり。鬼神は造化の迹なり。正しからざるに非ずと雖も、然れども理を窮むの至りに非ざれば、未だ明らかにし易からざる者有り。故に亦輕々しく以て人に語らざるなり。○謝氏曰く、聖人常を語りて怪を語らず。德を語りて力を語らず。治を語りて亂を語らず。人を語りて神を語らず、と。
述而21
○子曰、三人行、必有我師焉。擇其善者而從之、其不善者而改之。三人同行、其一我也。彼二人者、一善、一惡、則我從其善、而改其惡焉。是二人者、皆我師也。○尹氏曰、見賢思齊、見不賢而内自省、則善惡皆我之師、進善其有窮乎。
【読み】
○子曰く、三人行うときは、必ず我が師有り。其の善なる者を擇んで之に從い、其の不善なる者にして之を改む。三人同じく行うは、其一は我なり。彼の二人の者は、一は善、一は惡なれば、則ち我其の善に從いて、其の惡を改む。是の二人の者は、皆我が師なり。○尹氏曰く、賢を見ては齊しからんことを思い、不賢を見ては内に自ら省みれば、則ち善惡皆我の師、善に進むこと其れ窮まり有らんや、と。
述而22
○子曰、天生德於予、桓魋其如予何。魋、徒雷反。○桓魋、宋司馬向魋也。出於桓公。故又稱桓氏。魋欲害孔子。孔子言、天旣賦我以如是之德、則桓魋其奈我何。言必不能違天害己。
【読み】
○子曰く、天德を予に生[な]せり、桓魋其れ予を如何。魋は徒雷の反。○桓魋は宋の司馬向魋[しょうたい]なり。桓公より出づ。故に又桓氏と稱す。魋孔子を害せんと欲す。孔子言う、天旣に我に賦すに是の如き德を以てせば、則ち桓魋其れ我を奈何せん、と。必ず天に違いて己を害すること能わざるを言う。
述而23
○子曰、二三子以我爲隱乎。吾無隱乎爾。吾無行而不與二三子者、是丘也。諸弟子以夫子之道高深不可幾及、故疑其有隱、而不知聖人作止語默無非敎也。故夫子以此言曉之。與、猶示也。○程子曰、聖人之道、猶天然。門弟子、親炙而冀及之、然後知其高且遠也。使誠以爲不可及、則趨向之心、不幾於怠乎。故聖人之敎、常俯而就之如此。非獨使資質庸下者、勉思企及、而才氣高邁者、亦不敢躐易而進也。呂氏曰、聖人體道無隱、與天象昭然、莫非至敎。常以示人、而人自不察。
【読み】
○子曰く、二三子我を以て隱せりと爲するか。吾爾に隱すこと無し。吾は行うとして二三子者に與[しめ]さざるということ無き、是れ丘なり。諸弟子、夫子の道高深にて幾ど及ぶ可からざるを以て、故に其の隱すこと有るかと疑いて、聖人の作止語默敎に非ざる無きを知らず。故に夫子此の言を以て之を曉す。與すは猶示すのごとし。○程子曰く、聖人の道は、猶天のごとく然り。門弟子、親炙して之に及ばんことを冀い、然る後其の高くして且つ遠きを知るなり。誠に以て及ぶ可からずと爲さしめば、則ち趨向の心、怠るに幾からざらんや。故に聖人の敎、常に俯して之に就くこと此の如し。獨資質庸下の者をして、勉め思い企て及ばしむるのみに非ずして、才氣高邁なる者も亦敢えて躐え易しとして進まざらしむ、と。呂氏曰く、聖人道を體して隱す無きこと、天象と與に昭然として、至敎に非ざる莫し。常に以て人に示して、人自ら察せず、と。
述而24
○子以四敎、文・行・忠・信。行、去聲。○程子曰、敎人以學文脩行而存忠信也。忠信、本也。
【読み】
○子四つを以て敎う、文・行・忠・信。行は去聲。○程子曰く、人を敎うるに文を學び行を脩めて忠信を存するを以てす、と。忠信は本なり。
述而25
○子曰、聖人吾不得而見之矣。得見君子者、斯可矣。聖人、神明不測之號。君子、才德出衆之名。
【読み】
○子曰く、聖人は吾得て之を見ず。君子者を見るを得ば、斯れ可なり。聖人は、神明にて測れざるの號。君子は、才德衆に出づるの名。
子曰、善人吾不得而見之矣。得見有恆者、斯可矣。恆、胡登反。○子曰字、疑衍文。恆、常久之意。張子曰、有恆者、不貳其心。善人者、志於仁而無惡。
【読み】
子曰く、善人は吾得て之を見ず。恆有る者を見るを得ば、斯れ可なり。恆は胡登の反。○子曰の字、疑うらくは衍文ならん。恆は常久の意。張子曰く、恆有る者は、其の心を貳にせず。善人は、仁に志して惡無し、と。
亡而爲有、虛而爲盈、約而爲泰。難乎有恆矣。亡、讀爲無。○三者、皆虛夸之事。凡若此者、必不能守其常也。○張敬夫曰、聖人君子、以學言。善人有恆者、以質言。愚謂、有恆者之與聖人、高下固懸絶矣。然未有不自有恆而能至於聖者也。故章末申言有恆之義。其示人入德之門、可謂深切而著明矣。
【読み】
亡けれども而も有りとし、虛しけれども而も盈てりとし、約[せわ]しけれども而も泰[ゆたか]なりとす。難いかな恆有ること。亡は、讀んで無と爲す。○三つの者、皆虛夸の事。凡そ此の若き者は、必ず其の常を守ること能わざるなり。○張敬夫曰く、聖人君子は學を以て言う。善人恆有る者は質を以て言う、と。愚謂えらく、恆有る者と聖人とは、高下固より懸絶す。然れども未だ恆有るよりせずして能く聖に至る者有らざるなり。故に章末に申[かさ]ねて恆有るの義を言う。其の人に德に入るの門を示すこと、深切にして著明なりと謂う可し。
述而26
○子釣而不綱。弋不射宿。射、食亦反。○綱、以大繩屬網、絶流而漁者也。弋、以生絲繋矢而射也。宿、宿鳥。○洪氏曰、孔子少貧賤、爲養與祭、或不得已而釣弋。如獵較是也。然盡物取之、出其不意、亦不爲也。此可見仁人之本心矣。待物如此、待人可知。小者如此、大者可知。
【読み】
○子釣すれども而も綱[つなあみ]せず。弋[いぐるみ]すれども宿[ねとり]を射ず。射は食亦の反。○綱は、大繩を以て網を屬け、流れを絶ちて漁する者なり。弋は、生絲を以て矢に繋いで射るなり。宿は宿鳥。○洪氏曰く、孔子少きとき貧賤、養と祭との爲に、或は已むことを得ずして釣弋す。獵較の如き、是れなり。然れども物を盡くして之を取り、其の不意に出づるは、亦爲さざるなり。此に仁人の本心を見る可し。物を待つこと此の如くなれば、人を待つこと知る可し。小なる者此の如くなれば、大なる者知る可し、と。
述而27
○子曰、蓋有不知而作之者。我無是也。多聞擇其善者而從之、多見而識之、知之次也。識、音志。○不知而作、不知其理而妄作也。孔子自言、未嘗妄作。蓋亦謙辭。然亦可見其無所不知也。識、記也。所從不可不擇。記則善惡皆當存之以備參考。如此者、雖未能實知其理、亦可以次於知之者也。
【読み】
○子曰く、蓋し知らずして之を作す者有らん。我是れ無し。多く聞いて其の善き者を擇んで之に從い、多く見て之を識すは、知るが次なり。識は音志。○知らずして作るは、其の理を知らずして妄りに作るなり。孔子自ら言う、未だ嘗て妄りに作らず、と。蓋し亦謙辭なり。然れども亦其の知ざる所無きを見る可し。識すは記すなり。從う所は擇ばざる可からず。記せば則ち善惡皆當に之に存して以て參考に備うべし。此の如き者は、未だ實に其の理を知ること能わずと雖も、亦以て之を知る者の次なり。
述而28
○互郷難與言。童子見。門人惑。見、賢遍反。○互郷、郷名。其人習於不善、難與言善。惑者、疑夫子不當見之也。
【読み】
○互郷與に言い難し。童子見ゆ。門人惑えり。見は賢遍の反。○互郷は郷の名。其の人不善に習いて、與に善を言い難し。惑うは、夫子當に之に見ゆべからざるを疑うなり。
子曰、與其進也。不與其退也。唯何甚。人潔己以進、與其潔也。不保其往也。疑此章有錯簡。人潔至往也、十四字、當在與其進也之前。潔、脩治也。與、許也。往、前日也。言人潔己而來、但許其能自潔耳。固不能保其前日所爲之善惡也。但許其進而來見耳。非許其旣退而爲不善也。蓋不追其旣往、不逆其將來。以是心至、斯受之耳。唯字上下、疑又有闕文。大抵亦不爲已甚之意。○程子曰、聖人待物之洪如此。
【読み】
子曰く、其の進むに與[ゆる]す。其の退くに與さず。唯何ぞ甚だしからん。人己を潔[おさ]めて以て進めば、其の潔むるに與す。其の往[い]んじを保せず。疑うらくは此の章錯簡有らん。人潔より往也に至る十四字、當に與其進也の前に在るべし。潔は脩治なり。與すは許すなり。往は前日なり。言うこころは、人己を潔めて來れば、但其の能く自ら潔むるを許すのみ。固より其の前日爲す所の善惡を保すこと能わざるなり。但其の進みて來て見ゆるを許すのみ。其の旣に退きて不善を爲すを許すに非ざるなり。蓋し其の旣往を追わず、其の將來を逆えず。是の心を以て至れば、斯に之を受けんのみ。唯の字の上下、疑うらくは又闕文有らん。大抵亦已甚[はなは]だしきを爲さずの意なり。○程子曰く、聖人の物を待つことの洪きこと此の如し、と。
述而29
○子曰、仁遠乎哉。我欲仁、斯仁至矣。仁者、心之德、非在外也。放而不求。故有以爲遠者。反而求之、則卽此而在矣。夫豈遠哉。○程子曰、爲仁由己。欲之則至。何遠之有。
【読み】
○子曰く、仁遠からんや。我仁を欲すれば、斯に仁至る。仁は心の德、外に在るに非ざるなり。放ちて求めず。故に以て遠しと爲す者有り。反りて之を求むれば、則ち此に卽きて在り。夫れ豈遠からんや。○程子曰く、仁を爲すは己に由る。之を欲せば則ち至る。何ぞ遠きことか之れ有らん、と。
述而30
○陳司敗問。昭公知禮乎。孔子曰、知禮。陳、國名。司敗、官名。卽司寇也。昭公、魯君、名稠、習於威儀之節。當時以爲知禮。故司敗以爲問。而孔子答之如此。
【読み】
○陳の司敗問う。昭公禮を知れりや。孔子曰く、禮を知れり。陳は國の名。司敗は官名。卽ち司寇なり。昭公は魯の君、名は稠、威儀の節を習う。當時以て禮を知ると爲す。故に司敗以て問いと爲す。而して孔子之に答うること此の如し。
孔子退。揖巫馬期而進之曰、吾聞、君子不黨。君子亦黨乎。君取於吳、爲同姓。謂之吳孟子。君而知禮、孰不知禮。取、七住反。○巫馬、姓。期、字。孔子弟子、名施。司敗揖而進之也。相助匿非曰黨。禮、不娶同姓。而魯與吳皆姫姓。謂之吳孟子者、諱之使若宋女子姓者然。
【読み】
孔子退きぬ。巫馬期を揖して之を進めて曰く、吾聞けり、君子は黨せず、と。君子も亦黨するや。君吳に取[めと]って同姓爲り。之を吳の孟子と謂う。君にして禮を知らば、孰か禮を知らざらん。取は七住の反。○巫馬は姓。期は字。孔子の弟子、名は施。司敗揖して之を進む。相助け非を匿すを黨と曰う。禮に、同姓を娶らず、と。而して魯と吳とは皆姫姓なり。之を吳孟子と謂うは、之を諱んで宋の女の子姓の者の若く然りとせしむなり。
巫馬期以告。子曰、丘也幸。苟有過、人必知之。孔子不可自謂諱君之惡。又不可以娶同姓爲知禮。故受以爲過而不辭。○吳氏曰、魯蓋夫子父母之國。昭公、魯之先君也。司敗又未嘗顯言其事。而遽以知禮爲問。其對之宜如此也。及司敗以爲有黨、而夫子受以爲過。蓋夫子之盛德、無所不可也。然其受以爲過也、亦不正言其所以過。初若不知孟子之事者。可以爲萬世之法矣。
【読み】
巫馬期以て告ぐ。子曰く、丘は幸あり。苟し過有れば、人必ず之を知る。孔子自ら君の惡を諱むと謂う可からず。又同姓を娶るを以て禮を知ると爲す可からず。故に受けて以て過と爲して辭さず。○吳氏曰く、魯は蓋し夫子の父母の國。昭公は魯の先君なり。司敗も又未だ嘗て顯かに其の事を言わず。而して遽かに禮を知るを以て問いと爲す。其の之に對うるは宜しく此の如くあるべし。司敗以て黨有りと爲すに及びて、夫子受けて以て過と爲す。蓋し夫子の盛德、可からざる所無し。然れども其の受けて以て過と爲して、亦正に其の過つ所以を言わず。初めより孟子の事を知らざる者の若し。以て萬世の法と爲す可し、と。
述而31
○子與人歌而善、必使反之、而後和之。和、去聲。○反、復也。必使復歌者、欲得其詳而取其善也。而後和之者、喜得其詳而與其善也。此見聖人氣象從容、誠意懇至、而其謙遜審密、不掩人善又如此。蓋一事之微、而衆善之集、有不可勝旣者焉。讀者宜詳味之。
【読み】
○子人と歌[うたうた]って善きときは、必ず之を反さしめて、而して後に之に和[こた]う。和は去聲。○反は復なり。必ず復歌わしむるは、其の詳を得て其の善を取らんと欲するなり。而る後之に和すは、其の詳を得て其の善に與するを喜ぶなり。此れ聖人の氣象從容にて、誠意懇ろに至り、其の謙遜審密にして、人の善を掩わざること又此の如きを見る。蓋し一事の微にして、衆善の集まること、勝[あ]げて旣[つ]くす可からざる者有り。讀者宜しく詳らかに之を味うべし。
述而32
○子曰、文莫吾猶人也。躳行君子、則吾未之有得。莫、疑辭。猶人、言不能過人、而尙可以及人。未之有得、則全未有得。皆自謙之辭。而足以見言行之難易緩急。欲人之勉其實也。○謝氏曰、文、雖聖人無不與人同。故不遜。能躳行君子、斯可以入聖。故不居。猶言君子道者三、我無能焉。
【読み】
○子曰く、文は吾猶人のごとくなること莫らん。躳君子を行うことは、則ち吾未だ之を得ること有らず。莫は疑いの辭。猶人のごとしは、言うこころは、人に過ぎること能わずして、尙以て人に及ぶ可し、と。未だ之を得ること有らずは、則ち全く未だ得ること有らざるなり。皆自ら謙するの辭。而して以て言行の難易緩急を見すに足る。人の其の實を勉めんことを欲するなり。○謝氏曰く、文は聖人と雖も人と同じからざること無し。故に遜らず。能く躳君子を行えば、斯れ以て聖に入る可し。故に居らず。猶君子の道という者三つ、我能くすること無しと言うがごとし、と。
述而33
○子曰、若聖與仁、則吾豈敢。抑爲之不厭、誨人不倦、則可謂云爾已矣。公西華曰、正唯弟子不能學也。此亦夫子之謙辭也。聖者、大而化之。仁、則心德之全、而人道之備也。爲之、謂爲仁聖之道。誨人、亦謂以此敎人也。然不厭不倦、非己有之、則不能。所以弟子不能學也。○晁氏曰、當時有稱夫子聖且仁者。以故夫子辭之。苟辭之而已焉、則無以進天下之材、率天下之善。將使聖與仁爲虛器、而人終莫能至矣。故夫子雖不居仁聖、而必以爲之不厭、誨人不倦、自處也。可謂云爾已矣者、無他之辭也。公西華仰而歎之。其亦深知夫子之意矣。
【読み】
○子曰く、聖と仁との若きんば、則ち吾豈に敢えてせんや。抑々之を爲[まな]んで厭わず、人を誨えて倦まずとは、則ち爾か云うと謂いつ可からくのみ。公西華曰く、正に唯弟子學ぶこと能わず。此れ亦夫子の謙辭なり。聖は大いにして之を化す。仁は則ち心德の全くして、人道の備われるなり。之を爲ぶは、仁聖の道を爲ぶを謂う。人を誨うは、亦此を以て人を敎うるを謂うなり。然れども厭わず倦まずは、己之れ有るに非ざれば、則ち能わず。弟子學ぶこと能わざるの所以なり。○晁氏曰く、當時夫子を聖且つ仁なりと稱する者有り。故を以て夫子之を辭す。苟も之を辭するのみならば、則ち以て天下の材を進め、天下の善を率いること無し。將に聖と仁とを虛器と爲して、人終に能く至ること莫からしめんとす。故に夫子仁聖に居らずと雖も、而して必ず之を爲びて厭わず、人を誨えて倦まずを以て、自ら處るなり。爾か云うと謂う可からくのみは、他無きの辭なり。公西華仰ぎて之を歎ず。其れ亦深く夫子の意を知れり、と。
述而34
○子疾病。子路請禱。子曰、有諸。子路對曰、有之。誄曰、禱爾于上下神祇。子曰、丘之禱久矣。誄、力軌反。○禱、謂禱於鬼神。有諸、問有此理否。誄者、哀死而述其行之辭也。上下、謂天地。天曰神、地曰祇。禱者、悔過遷善、以祈神之佑也。無其理則不必禱。旣曰有之、則聖人未嘗有過、無善可遷。其素行固已合於神明。故曰、丘之禱久矣。又士喪禮、疾病行禱五祀。蓋臣子迫切之至情、有不能自已者。初不請於病者而後禱也。故孔子之於子路、不直拒之、而但告以無所事禱之意。
【読み】
○子の疾病なり。子路禱らんことを請う。子曰く、諸れ有りや。子路對えて曰く、之れ有り。誄[るい]に曰く、爾を上下の神祇に禱る、と。子曰く、丘が禱ること久し。誄は力軌の反。○禱は、鬼神に禱るを謂う。諸れ有りやは、此の理有りや否やと問う。誄は、死を哀しみて其の行いを述ぶるの辭なり。上下は天地を謂う。天には神と曰い、地には祇と曰う。禱るは、過を悔いて善に遷り、以て神の佑[たすけ]を祈るなり。其の理無くば則ち必ずしも禱らず。旣の之れ有りと曰わば、則ち聖人未だ嘗て過有らず、善の遷る可き無し。其の素行固より已に神明に合す。故に曰く、丘の禱ること久し、と。又士喪禮に、疾病に禱りを五祀に行う、と。蓋し臣子迫切の至情、自ら已むこと能わざる者有り。初め病者に請いて而る後に禱るにあらず。故に孔子の子路に於るや、直に之を拒ばずして、但告ぐるに禱るを事とする所無きの意を以てす。
述而35
○子曰、奢則不孫。儉則固。與其不孫也、寧固。孫、去聲。○孫、順也。固、陋也。奢儉倶失中。而奢之害大。○晁氏曰、不得已而救時之弊也。
【読み】
○子曰く、奢るときは則ち孫[したが]わず。儉なるときは則ち固[いや]し。其の孫わざらんよりは、寧ろ固しからん。孫は去聲。○孫は順なり。固は陋なり。奢儉は倶に中を失う。而して奢の害は大なり。○晁氏曰く、已むことを得ずして時の弊を救うなり、と。
述而36
○子曰、君子坦蕩蕩。小人長戚戚。坦、平也。蕩蕩、寬廣貌。程子曰、君子循理。故常舒泰。小人役於物。故多憂戚。○程子曰、君子坦蕩蕩、心廣體胖。
【読み】
○子曰く、君子坦[たいらか]にして蕩蕩たり。小人は長[とこしなえ]に戚戚たり。坦は平らかなり。蕩蕩は寬廣の貌。程子曰く、君子は理に循う。故に常に舒泰なり。小人は物に役せらる。故に憂戚多し、と。○程子曰く、君子は坦にして蕩蕩たりは、心廣く體胖なり、と。
述而37
○子温而厲、威而不猛、恭而安。厲、嚴肅也。人之德性、本無不備、而氣質所賦、鮮有不偏。惟聖人全體渾然、陰陽合德。故其中和之氣、見於容貌之閒者如此。門人熟察而詳記之。亦可見其用心之密矣。抑非知足以知聖人、而善言德行者、不能記。故程子以爲曾子之言。學者所宜反復而玩心也。
【読み】
○子温[おだやか]にして厲[おごそか]なり、威ありて猛からず、恭しうして安し。厲は嚴肅なり。人の德性、本備わらざる無くして、氣質の賦す所、偏らざる有ること鮮し。惟聖人は全體渾然として、陰陽德を合す。故に其の中和の氣の、容貌の閒に見るる者此の如し。門人熟察して詳らかに之を記す。亦其の心を用うるの密なるを見る可し。抑々知以て聖人を知るに足りて、善く德行を言う者に非ざれば、記すこと能わず。故に程子以爲らく、曾子の言なり、と。學者宜しく反復して心を玩ぶべき所なり。
泰伯第八 凡二十一章
泰伯1
○子曰、泰伯其可謂至德也已矣。三以天下讓。民無得而稱焉。泰伯、周大王之長子。至德、謂德之至極無以復加者也。三讓、謂固遜也。無得而稱、其遜隱微、無迹可見也。蓋大王三子、長泰伯、次仲雍、次季歴。大王之時、商道寖衰、而周日彊大。季歴又生子昌。有聖德。大王因有翦商之志、而泰伯不從。大王遂欲傳位季歴以及昌。泰伯知之、卽與仲雍逃之荊蠻。於是大王乃立季歴。傳國至昌、而三分天下、有其二。是爲文王。文王崩、子發立。遂克商而有天下。是爲武王。夫以泰伯之德、當商周之際、固足以朝諸侯有天下矣。乃棄不取。而又泯其迹焉。則其德之至極爲如何哉。蓋其心卽夷齊扣馬之心、而事之難處、有甚焉者。宜夫子之歎息而讚美之也。泰伯不從、事見春秋傳。
【読み】
○子曰く、泰伯は其れ至德と謂いつ可からくのみ。三たび天下を以て讓る。民得て稱すること無し。泰伯は、周の大王の長子。至德は、德の至極以て復加うる者無きを謂うなり。三たび讓るは、固より遜るを謂うなり。得て稱すること無しは、其の遜ること隱微にして、迹を見る可き無きなり。蓋し大王の三子、長は泰伯、次は仲雍、次は季歴なり。大王の時、商道寖く衰えて、周日に彊大なり。季歴又子の昌を生まり。聖德有り。大王因りて商を翦[た]つの志有りて、泰伯從わず。大王遂に位を季歴に傳えて以て昌に及ぼさんと欲す。泰伯之を知り、卽ち仲雍と逃げ荊蠻に之く。是に於て大王乃ち季歴を立つ。國を傳えて昌に至りて、天下を三分し、其の二を有[たも]つ。是れ文王爲り。文王崩じ、子の發立つ。遂に商に克ちて天下を有つ。是れ武王爲り。夫れ泰伯の德を以て、商周の際に當らば、固より以て諸侯を朝し天下を有つに足れり。乃ち棄てて取らず。而して又其の迹を泯ぼす。則ち其の德の至極如何と爲さん。蓋し其の心は卽ち夷齊の馬を扣[ひか]うるの心にして、事の處し難きこと、焉より甚だしき者有り。宜なり、夫子歎息して之を讚美すること。泰伯の從わざる、事は春秋傳に見ゆ。
泰伯2
○子曰、恭而無禮則勞、愼而無禮則葸。勇而無禮則亂。直而無禮則絞。葸、絲里反。絞、古卯反。○葸、畏懼貌。絞、急切也。無禮則無節文。故有四者之弊。
【読み】
○子曰く、恭しうして禮無きときは則ち勞[いたず]かわれ、愼んで禮無きときは則ち葸[おそ]る。勇にして禮無きときは則ち亂る。直にして禮無きときは則ち絞[せわせわ]し。葸は絲里の反。絞は古卯の反。○葸は畏懼の貌。絞は急切なり。禮無ければ則ち節文無し。故に四つの者の弊有り。
君子篤於親、則民興於仁。故舊不遺、則民不偸。君子、謂在上之人也。興、起也。偸、薄也。○張子曰、人道知所先後、則恭不勞、愼不葸、勇不亂、直不絞。民化而德厚矣。○吳氏曰、君子以下、當自爲一章。乃曾子之言也。愚按、此一節、與上文不相蒙。而首篇愼終追遠之意相類。吳說近是。
【読み】
君子親に篤きときは、則ち民仁を興す。故舊遺[わすれ]ざるは、則ち民偸[うす]からず。君子は、上に在る人を謂うなり。興るは起こるなり。偸は薄なり。○張子曰く、人道先後する所を知れば、則ち恭しうして勞せず、愼んで葸れず、勇にして亂れず、直にして絞せず。民化して德厚し、と。○吳氏曰く、君子以下、當に自ら一章と爲すべし。乃ち曾子の言なり、と。愚按ずるに、此の一節と上文とは相蒙けず。而して首篇の終わりを愼み遠きを追うの意と相類す。吳の說是に近し。
泰伯3
○曾子有疾。召門弟子曰、啓予足、啓予手。詩云、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄冰。而今而後、吾知免夫。小子。夫、音扶。○啓、開也。曾子平日以爲、身體受於父母。不敢毀傷。故於此使弟子開其衾而視之。詩、小旻之篇。戰戰、恐懼。兢兢、戒謹。臨淵、恐墜、履冰、恐陷也。曾子以其所保之全示門人、而言其所以保之之難如此。至於將死、而後知其得免於毀傷也。小子、門人也。語畢而又呼之、以致反復丁寧之意。其警之也深矣。○程子曰、君子曰終、小人曰死。君子保其身以沒。爲終其事也。故曾子以全歸爲免矣。尹氏曰、父母全而生之、子全而歸之。曾子臨終而啓手足、爲是故也。非有得於道、能如是乎。范氏曰、身體猶不可虧。況虧其行、以辱其親乎。
【読み】
○曾子疾有り。門弟子を召[よ]んで曰く、予が足を啓[ひら]け、予が手を啓け。詩に云く、戰戰兢兢として、深き淵に臨むが如く、薄き冰を履むが如し。而今[いま]にして後に、吾免れぬということを知んぬるかな。小子。夫は音扶。○啓くは開くなり。曾子平日以爲えらく、身體父母に受く。敢えて毀傷せず、と。故に此に於て弟子をして其の衾を開きて之を視せしむ。詩は小旻の篇。戰戰は恐懼。兢兢は戒謹。淵に臨んでは墜ちんことを恐れ、冰を履んでは陷らんことを恐るなり。曾子其の保つ所の全きを以て門人に示して、其の之を保つ所以の難きを言うこと此の如し。將に死せんとするに至り、而して後に其の毀傷を免るるを得るを知るなり。小子は門人なり。語り畢わりて又之を呼び、以て反復丁寧の意を致す。其の之を警むること深し。○程子曰く、君子に終と曰い、小人に死と曰う。君子其の身を保ちて以て沒す。其の事を終うるが爲なり。故に曾子全くして歸すを以て免がるると爲す、と。尹氏曰く、父母は全くして之を生み、子全くして之を歸す。曾子終に臨みて手足を啓くは、是が爲の故なり。道に得ること有るに非ざれば、能く是の如からんや、と。范氏曰く、身體すら猶虧[か]く可からず。況や其の行を虧き、以て其の親を辱しめるをや、と。
泰伯4
○曾子有疾。孟敬子問之。孟敬子、魯大夫、仲孫氏、名捷。問之者、問其疾也。
【読み】
○曾子疾有り。孟敬子之を問う。孟敬子は魯の大夫、仲孫氏、名は捷。之を問うは、其の疾を問うなり。
曾子言曰、鳥之將死、其鳴也哀。人之將死、其言也善。言、自言也。鳥畏死。故鳴哀。人窮反本。故言善。此曾子之謙辭。欲敬子知其所言之善而識之也。
【読み】
曾子言って曰く、鳥の將に死なんとするときは、其の鳴くこと哀し。人の將に死なんとするときは、其の言[いうこと]善し。言うは自ら言うなり。鳥死を畏る。故に鳴くこと哀し。人窮して本に反る。故に言善し。此れ曾子の謙辭。敬子其の言う所の善なるを知りて之を識らんことを欲するなり。
君子所貴乎道者三。動容貌、斯遠暴慢矣、正顏色、斯近信矣、出辭氣、斯遠鄙倍矣。籩豆之事、則有司存。遠・近、竝去聲。○貴、猶重也。容貌、擧一身而言。暴、粗厲也。慢、放肆也。信、實也。正顏色而近信、則非色莊也。辭、言語。氣、聲氣也。鄙、凡陋也。倍、與背同。謂背理也。籩、竹豆。豆、木豆。言道雖無所不在、然君子所重者、在此三事而已。是皆脩身之要、爲政之本。學者所當操存省察、而不可有造次顚沛之違者也。若夫籩豆之事、器數之末、道之全體、固無不該。然其分則有司之守、而非君子之所重矣。○程子曰、動容貌、擧一身而言也。周旋中禮、暴慢斯遠矣。正顏色則不妄、斯近信矣。出辭氣、正由中出、斯遠鄙倍。三者正身而不外求。故曰、籩豆之事、則有司存。尹氏曰、養於中則見於外。曾子蓋以脩己爲爲政之本。若乃器用事物之細、則有司存焉。
【読み】
君子道に貴ぶ所の者三つ。容貌を動かして、斯に暴慢に遠ざかり、顏色を正しうして、斯に信に近づき、辭氣を出して、斯に鄙倍に遠ざかる。籩豆の事は、則ち有司存す。遠・近は竝去聲。○貴ぶは猶重んずるのごとし。容貌は、一身を擧げて言う。暴は粗厲なり。慢は放肆なり。信は實なり。顏色を正しうして信に近づくは、則ち色莊に非ざるなり。辭は言語。氣は聲氣なり。鄙は凡陋なり。倍は背と同じ。理に背くを謂うなり。籩は竹豆。豆は木豆。言うこころは、道在らざる所無しと雖も、然れども君子重んずる所の者は、此の三事に在るのみ、と。是れ皆身を脩むるの要、政を爲すの本。學者當に操存省察して造次顚沛の違いも有る可からずとすべき所なり。若し夫れ籩豆の事は、器數の末にて、道の全體は、固より該[か]ねざる無し。然れども其の分は則ち有司の守にして、君子の重んずる所に非ざるなり。○程子曰く、容貌を動かすは、一身を擧げて言うなり。周旋して禮に中れば、暴慢斯に遠ざかる。顏色を正しうすれば則ち妄ならず、斯に信に近づく。辭氣を出して、正中に由りて出づれば、斯に鄙倍に遠ざかる。三つの者身を正しくして外に求めず。故に曰く、籩豆の事は則ち有司存す、と。尹氏曰く、中に養えば則ち外に見わるる。曾子蓋し己を脩むるを以て政を爲すの本と爲す。乃ち器用事物の細の若きは、則ち有司存す、と。
泰伯5
○曾子曰、以能問於不能、以多問於寡、有若無、實若虛、犯而不校、昔者吾友嘗從事於斯矣。校、計校也。友、馬氏以爲顏淵。是也。顏子之心、唯知義理之無窮、不見物我之有閒。故能如此。○謝氏曰、不知有餘在己、不足在人。不必得爲在己、失爲在人。非幾於無我者、不能也。
【読み】
○曾子曰く、能を以て不能に問い、多を以て寡に問い、有れども無きが若く、實[み]てれども虛しきが若く、犯せども而も校[はか]らざること、昔吾が友嘗て事に斯に從えり。校は計校なり。友は馬氏以爲らく、顏淵なり、と。是なり。顏子の心、唯義理の窮り無きを知り、物我の閒[へだて]有るを見ず。故に能く此の如し。○謝氏曰く、餘り有ること己に在り、足らざること人に在るを知らず。必ずしも得ること己に在りとし、失うこと人に在りとせず。我無きに幾き者に非ざれば、能わざるなり、と。
泰伯6
○曾子曰、可以託六尺之孤、可以寄百里之命、臨大節而不可奪也。君子人與、君子人也。與、平聲。○其才可以輔幼君攝國政、其節至死生之際而不可奪。可謂君子矣。與、疑辭。也、決辭。設爲問答、所以深著其必然也。○程子曰、節操如是、可謂君子矣。
【読み】
○曾子曰く、以て六尺の孤を託[つ]く可く、以て百里の命を寄す可く、大節に臨んで奪う可からず。君子人か、君子人なり。與は平聲。○其の才以て幼君を輔け國政を攝す可く、其の節死生の際に至るも奪う可からず。君子と謂う可し。與は疑いの辭。也は決するの辭。問答を設け爲すは、深く其の必然たることを著わす所以なり。○程子曰く、節操是の如くば、君子と謂う可し、と。
泰伯7
○曾子曰、士不可以不弘毅。任重而道遠。弘、寬廣也。毅、強忍也。非弘不能勝其重。非毅無以致其遠。
【読み】
○曾子曰く、士は以て弘毅ならずんばある可からず。任重うして道遠し。弘は寬廣なり。毅は強忍なり。弘に非ざれば其の重きに勝うること能わず。毅に非ざれば以て其の遠きを致すこと無し。
仁以爲己任。不亦重乎。死而後已。不亦遠乎。仁者、人心之全德、而必欲以身體而力行之。可謂重矣。一息尙存、此志不容少懈。可謂遠矣。○程子曰、弘而不毅、則無規矩而難立。毅而不弘、則隘陋而無以居之。又曰、弘大剛毅、然後能勝重任而遠到。
【読み】
仁以て己が任と爲す。亦重からずや。死して後に已む。亦遠からずや。仁は人心の全德にして、必ず身を以て體して之を力め行わんと欲す。重しと謂う可し。一息尙存すれば、此の志少しも懈る容[べ]からず。遠しと謂う可し。○程子曰く、弘にして毅ならざれば、則ち規矩無くして立ち難し。毅にして弘ならざれば、則ち隘陋にして以て之に居ること無し、と。又曰く、弘大剛毅にして、然る後能く重任に勝えて遠きに到る、と。
泰伯8
○子曰、興於詩、興、起也。詩、本性情。有邪有正。其爲言、旣易知、而吟詠之閒、抑揚反覆、其感人又易入。故學者之初、所以興起其好善惡惡之心、而不能自已者、必於此而得之。
【読み】
○子曰く、詩に興り、興るは起こるなり。詩は性情に本づく。邪有り正有り。其の言爲る、旣に知り易くして、吟詠の閒、抑揚反覆せば、其れ人を感じしめること又入り易し。故に學者の初めは、其の善を好み惡を惡むの心を興起して、自ら已むこと能わざる所以の者、必ず此に於てして之を得る。
立於禮、禮、以恭敬辭遜爲本、而有節文度數之詳。可以固人肌膚之會、筋骸之束。故學者之中、所以能卓然自立、而不爲事物之所搖奪者、必於此而得之。
【読み】
禮に立ち、禮は、恭敬辭遜を以て本と爲して、節文度數の詳らかなること有り。以て人の肌膚の會、筋骸の束を固める可し。故に學者の中は、能く卓然として自立して、事物の搖るがされ奪われんとする所とせざる所以の者、必ず此に於て之を得。
成於樂。樂、有五聲十二律。更唱迭和、以爲歌舞八音之節。可以養人之性情、而蕩滌其邪穢、消融其査滓。故學者之終、所以至於義精仁熟、而自和順於道德者、必於此而得之。是學之成也。○按内則、十歳學幼儀、十三學樂誦詩、二十而後學禮。則此三者、非小學傳授之次。乃大學終身所得之難易先後淺深也。程子曰、天下之英才、不爲少矣。特以道學不明、故不得有所成就。夫古人之詩、如今之歌曲。雖閭里童稚、皆習聞之而知其說。故能興起。今雖老師宿儒、尙不能曉其義。況學者乎。是不得興於詩也。古人自洒掃應對、以至冠婚喪祭、莫不有禮。今皆廢壞。是以人倫不明、治家無法。是不得立於禮也。古人之樂、聲音所以養其耳、采色所以養其目、歌詠所以養其性情、舞蹈所以養其血脈。今皆無之。是不得成於樂也。是以古之成材也易、今之成材也難。
【読み】
樂に成る。樂に五聲十二律有り。更々[こもごも]唱え迭[たが]いに和して、以て歌舞八音の節を爲す。以て人の性情を養いて、其の邪穢を蕩滌し、其の査滓を消融す可し。故に學者の終わりは、義精しく仁熟して、自ら道德に和順するに至る所以の者、必ず此に於て之を得る。是れ學の成るなり。○按ずるに内則に、十歳にして幼儀を學び、十三にして樂を學び詩を誦じ、二十にして後禮を學ぶ、と。則ち此の三つの者は、小學傳授の次に非ず。乃ち大學の身を終うるまで得る所の難易先後淺深なり。程子曰く、天下の英才、少なしと爲さず。特に道學明らかならざるを以て、故に成就する所有るを得ず。夫れ古人の詩は、今の歌曲の如し。閭里の童稚と雖も、皆之を習い聞きて其の說を知る。故に能く興起す。今老師宿儒と雖も、尙其の義を曉ること能わず。況や學者をや。是れ詩に興るを得ざるなり。古人洒掃應對より、以て冠婚喪祭に至るまで、禮有らざること莫し。今皆廢れ壞[やぶ]る。是を以て人倫明らかならず、家を治むるに法無し。是れ禮に立つを得ざるなり。古人の樂、聲音は其の耳を養う所以、采色は其の目を養う所以、歌詠は其の性情を養う所以、舞蹈は其の血脈を養う所以なり。今皆之れ無し。是れ樂に成るを得ざるなり。是を以て古の材を成すや易く、今の材を成すは難し、と。
泰伯9
○子曰、民可使由之。不可使知之。民可使之由於是理之當然。而不能使之知其所以然也。○程子曰、聖人設敎、非不欲人家喩而戶曉也。然不能使之知。但能使之由之爾。若曰聖人不使民知、則是後世朝四暮三之術也。豈聖人之心乎。
【読み】
○子曰く、民は之に由らしむ可し。之を知らしむ可からず。民は之に是の理の當然に由らしむ可し。而して之に其の然る所以を知らしむこと能わざるなり。○程子曰く、聖人の敎を設ける、人家ごとに喩し戶ごとに曉さんとを欲せざるには非ざるなり。然れども之に知らしむこと能わず。但能く之を之に由らしむのみ。若し聖人民を知らしめずと曰わば、則ち是れ後世の朝四暮三の術なり。豈聖人の心ならんや、と。
泰伯10
○子曰、好勇疾貧亂也。人而不仁、疾之已甚、亂也。好、去聲。○好勇而不安分、則必作亂。惡不仁之人、而使之無所容、則必致亂。二者之心、善惡雖殊、然其生亂則一也。
【読み】
○子曰く、勇を好んで貧しきを疾[にく]むときは亂る。人として不仁なる、之を疾むこと已甚[はなは]だしきときは、亂る。好は去聲。○勇を好んで分に安んぜずんば、則ち必ず亂を作す。不仁の人を惡んで、之を容るる所無からしめば、則ち必ず亂を致す。二つの者の心、善惡殊なると雖も、然れども其の亂を生[な]すは則ち一なり。
泰伯11
○子曰、如有周公之才之美、使驕且吝、其餘不足觀也已。才美、謂智能技藝之美。驕、矜夸。吝、鄙嗇也。○程子曰、此甚言驕吝之不可也。蓋有周公之德、則自無驕吝。若但有周公之才而驕吝焉、亦不足觀矣。又曰、驕、氣盈。吝、氣歉。愚謂、驕吝雖有盈歉之殊、然其勢常相因。蓋驕者吝之枝葉、吝者驕之本根。故嘗驗之天下之人、未有驕而不吝、吝而不驕者也。
【読み】
○子曰く、如し周公の才の美有りとも、使[も]し驕り且[また]吝かならば、其の餘は觀るに足らざらくのみ。才の美は、智能技藝の美を謂う。驕は矜夸[きょうこ]。吝は鄙嗇なり。○程子曰く、此れ甚だ驕吝の不可なるを言うなり。蓋し周公の德有れば、則ち自ら驕吝無し。若し但周公の才のみ有りて驕吝なれば、亦觀るに足らざるなり、と。又曰く、驕は氣の盈てるなり。吝は氣の歉らぬなり。愚謂えらく、驕吝は盈と歉の殊有りと雖も、然れども其の勢常に相因る。蓋し驕は吝の枝葉、吝は驕の本根。故に嘗て天下の人を驗むるに、未だ驕にして吝ならず、吝にして驕ならざる者有らざるなり、と。
泰伯12
○子曰、三年學、不至於穀、不易得也。易、去聲。○穀、祿也。至、疑當作志。爲學之久、而不求祿。如此之人、不易得也。○楊氏曰、雖子張之賢、猶以干祿爲問。況其下者乎。然則三年學而不至於穀、宜不易得也。
【読み】
○子曰く、三年學んで、穀に至[こころざ]さざるは、得易からじ。易は去聲。○穀は祿なり。至は、疑うらくは當に志に作るべし。學を爲むるの久しくして、祿を求めず。此の如きの人、得易からざるなり。○楊氏曰く、子張の賢と雖も、猶祿を干むるを以て問いを爲す。況や其の下の者をや。然れば則ち三年學んで穀に至らざるは、宜なり、得易からざること、と。
泰伯13
○子曰、篤信好學、守死善道。好、去聲。○篤、厚而力也。不篤信、則不能好學。然篤信而不好學、則所信或非其正。不守死、則不能以善其道。然守死而不足以善其道、則亦徒死而已。蓋守死者、篤信之效、善道者、好學之功。
【読み】
○子曰く、信に篤うして學を好み、死を守って道を善くす。好は去聲。○篤は厚くして力むるなり。信に篤からざれば、則ち學を好むこと能わず。然れども信に篤くして學を好まざれば、則ち信ずる所或は其の正に非ず。死を守らざれば、則ち以て其の道を善くすること能わず。然れども死を守りて以て其の道を善くすること足らざれば、則ち亦徒死ぬのみ。蓋し死を守るは、信に篤きの效、道を善くするは、學を好むの功なり。
危邦不入、亂邦不居。天下有道則見、無道則隱。見、賢遍反。○君子見危授命。則仕危邦者、無可去之義。在外則不入可也。亂邦、未危而刑政紀綱紊矣。故潔其身而去之。天下、擧一世而言。無道則隱其身而不見也。此惟篤信好學、守死善道者能之。
【読み】
危邦には入らず、亂邦には居らず。天下道有るときは則ち見れ、道無きときは則ち隱る。見は賢遍の反。○君子は危きを見て命を授く。則ち危邦に仕うる者は、去る可きの義無し。外に在れば則ち入らずして可なり。亂邦は、未だ危うからずして刑政紀綱紊[みだ]る。故に其の身を潔くして之を去る。天下は一世を擧げて言う。道無くば則ち其の身を隱して見れず。此れ惟信に篤く學を好み、死を守り道を善くする者のみ之を能くす。
邦有道、貧且賤焉、恥也。邦無道、富且貴焉、恥也。世治而無可行之道、世亂而無能守之節、碌碌庸人、不足以爲士矣。可恥之甚也。○晁氏曰、有學有守、而去就之義潔、出處之分明、然後爲君子之全德也。
【読み】
邦道有るときは、貧しく且賤しきは、恥なり。邦道無きときに、富み且貴きは、恥なり。世治まりて行う可きの道無く、世亂れて能く守るの節無くば、碌碌たる庸人にて、以て士爲るに足らず。恥ず可きの甚だしきなり。○晁氏曰く、學ぶ有り守る有り、而して去就の義潔く、出處の分明らかにして、然る後に君子の全德と爲す、と。
泰伯14
○子曰、不在其位、不謀其政。程子曰、不在其位、則不任其事也。若君大夫問而告者、則有矣。
【読み】
○子曰く、其の位に在らざれば、其の政を謀らず。程子曰く、其の位に在らざれば、則ち其の事を任ぜざるなり。若し君大夫問いて告ぐることは、則ち有り、と。
泰伯15
○子曰、師摯之始、關雎之亂、洋洋乎盈耳哉。摯、音志。雎、七余反。○師摯、魯樂師、名摯也。亂、樂之卒章也。史記曰、關雎之亂、以爲風始。洋洋、美盛意。孔子自衛反魯而正樂。適師摯在官之初。故樂之美盛如此。
【読み】
○子曰く、師摯[し]が始め、關雎[かんしょ]の亂、洋洋乎として耳に盈てりしかな。摯は音志。雎は七余の反。○師摯は、魯の樂師、名は摯なり。亂は、樂の卒章なり。史記に曰く、關雎の亂、以て風の始めと爲す。洋洋は、美しく盛んなる意。孔子衛より魯に反りて樂を正す。適々師摯官に在るの初めなり。故に樂の美しく盛んなること此の如し。
泰伯16
○子曰、狂而不直、侗而不愿、悾悾而不信、吾不知之矣。侗、音通。悾、音空。○侗、無知貌。愿、謹厚也。悾、無能貌。吾不知之者、甚絶之之辭。亦不屑之敎誨也。○蘇氏曰、天之生物、氣質不齊。其中材以下、有是德、則有是病、有是病、必有是德。故馬之蹄齧者、必善走。其不善者、必馴。有是病而無是德、則天下之棄才也。
【読み】
○子曰く、狂にして直ならず、侗にして愿ならず、悾悾として信ならざるは、吾之を知らざるなり。侗は音通。悾は音空。○侗は無知んる貌。愿は謹厚なり。悾は無能なる貌。吾之を知らずは、甚だしく之を絶つの辭。亦之を屑く敎誨せざるなり。○蘇氏曰く、天の物を生ずるや、氣質齊しからず。其の中材以下は、是の德有れば、則ち是の病有り、是の病有れば、必ず是の德有り。故に馬の蹄齧する者は、必ず善く走る。其の善ならざる者は必ず馴れる。是の病有りて是の德無きは、則ち天下の棄才なり、と。
泰伯17
○子曰、學如不及、猶恐失之。言人之爲學、旣如有所不及矣、而其心猶竦然、惟恐其或失之。警學者當如是也。○程子曰、學如不及、猶恐失之、不得放過。才說姑待明日、便不可也。
【読み】
○子曰く、學は及ばざるが如くして、猶之を失わんことを恐れよ。言うこころは、人の學を爲むるは、旣に及ばざる所有るが如くして、其の心猶竦然として、惟其の或は之を失わんことを恐る、と。學者當に是の如くすべしと警む。○程子曰く、學は及ばざるが如くして、猶之を失わんことを恐るれば、放過するを得ず。才[わずか]に姑く明日を待たんと說かば、便ち不可なり、と。
泰伯18
○子曰、巍巍乎、舜・禹之有天下也、而不與焉。與、去聲。○巍巍、高大之貌。不與、猶言不相關。言其不以位爲樂也。
【読み】
○子曰く、巍巍乎たり、舜・禹の天下を有[たも]って、與らざること。與は去聲。○巍巍は高大の貌。與らずは、猶相關せざるを言うがごとし。言うこころは、其の位を以て樂しみと爲さざるなり、と。
泰伯19
○子曰、大哉、堯之爲君也。巍巍乎、唯天爲大。唯堯則之。蕩蕩乎、民無能名焉。唯、猶獨也。則、猶準也。蕩蕩、廣遠之稱也。言物之高大、莫有過於天者、而獨堯之德、能與之準。故其德之廣遠、亦如天之不可以言語形容也。
【読み】
○子曰く、大なるかな、堯の君爲ること。巍巍乎として、唯天のみ大なりとす。唯堯のみ之に則[なずら]う。蕩蕩乎として、民能く名づくること無し。唯は猶獨のごとし。則は猶準のごとし。蕩蕩は、廣遠の稱なり。言うこころは、物の高大、天に過ぐる者有ること莫くして、獨[ただ]堯の德、能く之に準う。故に其の德の廣遠も、亦天の言語を以て形容す可からざるが如しとなり。
巍巍乎、其有成功也。煥乎、其有文章。成功、事業也。煥、光明之貌。文章、禮樂法度也。堯之德、不可名。其可見者此爾。○尹氏曰、天道之大、無爲而成。唯堯則之、以治天下。故民無得而名焉。所可名者、其功業文章、巍然煥然而已。
【読み】
巍巍乎として、其れ成功有り。煥乎として、其れ文章有り。成功は事業なり。煥は光明の貌。文章は禮樂法度なり。堯の德は、名づくる可からず。其の見る可き者は此れのみ。○尹氏曰く、天道の大いなるは、爲すこと無くして成る。唯堯のみ之に則い、以て天下を治む。故に民得て名づくること無し。名づくる可き所は、其の功業文章の、巍然煥然たるのみ、と。
泰伯20
○舜有臣五人而天下治。治、去聲。○五人、禹・稷・契・皐陶・伯益。
【読み】
○舜臣五人を有して天下治まる。治は去聲。○五人は禹・稷・契・皐陶・伯益。
武王曰、予有亂臣十人。書、泰誓之辭。馬氏曰、亂、治也。十人、謂周公旦・召公奭・太公望・畢公・榮公・大顚・閎夭・散宜生・南宮适、其一人謂文母。劉侍讀、以爲子無臣母之義。蓋邑姜也。九人治外、邑姜治内。或曰、亂本作乿。古治字也。
【読み】
武王曰く、予亂臣十人有り。書の泰誓の辭。馬氏曰く、亂は治なり、と。十人は、周公旦・召公奭・太公望・畢公・榮公・大顚・閎夭・散宜生・南宮适を謂い、其の一人を文母と謂う。劉侍讀、以爲えらく、子の母を臣とするの義無し。蓋し邑姜なり。九人は外を治め、邑姜は内を治む、と。或ひと曰く、亂は本乿に作る。古の治の字なり、と。
孔子曰、才難、不其然乎。唐虞之際、於斯爲盛。有婦人焉、九人而已。稱孔子者、上係武王。君臣之際、記者謹之。才難、蓋古語、而孔子然之也。才者、德之用也。唐虞、堯舜有天下之號。際、交會之閒、言周室人才之多、惟唐虞之才、乃盛於此。降自夏商、皆不能及。然猶但有此數人爾。是才之難得也。
【読み】
孔子曰く、才難しという、其れ然らずや。唐虞の際[あいだ]のみ、斯れ於[よ]り盛んなりとす。婦人有り、九人ならくのみ。孔子と稱するは、上武王に係る。君臣の際、記す者之を謹む。才難しは、蓋し古語にして、孔子之を然りとするなり。才は德の用なり。唐虞は、堯舜の天下を有つときの號。際は交會の閒にて、言うこころは、周室人才の多きも、惟唐虞の才のみ、乃ち此より盛んなり。夏商より降りて、皆及ぶこと能わず、と。然るに猶但此の數人有るのみ。是れ才の得難きなり。
三分天下有其二、以服事殷。周之德、其可謂至德也已矣。春秋傳曰、文王率商之畔國、以事紂。蓋天下歸文王者六州。荊・梁・雍・豫・徐・楊也。惟靑・兗・冀、尙屬紂耳。范氏曰、文王之德、足以代商。天與之、人歸之。乃不取而服事焉。所以爲至德也。孔子因武王之言、而及文王之德。且與泰伯皆以至德稱之。其指微矣。或曰、宜斷三分以下、別以孔子曰起之、而自爲一章。
【読み】
天下を三分して其の二つを有ちて、以て殷に服事す。周の德をば、其れ至德と謂う可からくのみ。春秋傳に曰く、文王商の畔國を率いて、以て紂に事う、と。蓋し天下文王に歸す者六州。荊・梁・雍・豫・徐・楊なり。惟靑・兗・冀は、尙紂に屬すのみ。范氏曰く、文王の德、以て商に代わるに足れり。天之に與え、人之に歸す。乃ち取らずして服事す。至德爲る所以なり。孔子武王の言に因りて、文王の德に及ぶ。且つ泰伯と與に皆至德を以て之を稱す。其の指微なり、と。或ひと曰く、宜しく三分以下を斷ちて、別に孔子曰を以て之を起こして、自ら一章と爲すべし、と。
泰伯21
○子曰、禹吾無閒然矣。菲飮食、而致孝乎鬼神、惡衣服、而致美乎黻冕、卑宮室、而盡力乎溝洫。禹吾無閒然矣。閒、去聲。菲、音匪。黻、音弗。洫、呼域反。○閒、罅隙也。謂指其罅隙而非議之也。菲、薄也。致孝鬼神、謂享祀豐潔。衣服、常服。黻、蔽膝也。以韋爲之。冕、冠也。皆祭服也。溝洫、田閒水道、以正疆界、備旱潦者也。或豐、或儉、各適其宜、所以無罅隙之可議也。故再言以深美之。○楊氏曰、薄於自奉、而所勤者民之事、所致飾者宗廟朝廷之禮。所謂有天下而不與也。夫何閒然之有。
【読み】
○子曰く、禹は吾閒然すること無し。飮食を菲[うす]うして、孝を鬼神に致[きわ]め、衣服を惡しうして、美を黻冕[ふつべん]に致め、宮室を卑しうして、力を溝洫[こうきょく]に盡くす。禹は吾閒然すること無し。閒は去聲。菲は音匪。黻は音弗。洫は呼域の反。○閒は罅隙[かげき]なり。其の罅隙を指して之を非議するを謂うなり。菲いは薄いなり。孝を鬼神に致むは、享祀豐潔なるを謂う。衣服は常服。黻は膝蔽いなり。韋を以て之を爲る。冕は冠なり。皆祭服なり。溝洫は田閒の水道にて、以て疆界を正し、旱潦に備うる者なり。或は豐、或は儉、各々其の宜しきに適うは、罅隙の議する可き無き所以なり。故に再び言いて以て深く之を美む。○楊氏曰く、自ら奉ずること薄くして、勤むる所は民の事、飾を致むる所の者は宗廟朝廷の禮なり。所謂天下を有って與らざるなり。夫れ何の閒然することか之れ有らん、と。
論語卷之五
子罕第九 凡三十章。
子罕1
○子罕言利與命與仁。罕、少也。程子曰、計利則害義。命之理微、仁之道大。皆夫子所罕言也。
【読み】
○子罕[まれ]に利と命と仁とを言う。罕は少なり。程子曰く、利を計れば則ち義を害す。命の理は微にして、仁の道大なり。皆夫子罕に言う所なり、と。
子罕2
○達巷黨人曰、大哉孔子。博學而無所成名。達巷、黨名。其人姓名不傳。博學無所成名、蓋美其學之博、而惜其不成一藝之名也。
【読み】
○達巷黨の人曰く、大なるかな孔子。博く學んで名を成す所無し。達巷は黨の名。其の人の姓名傳わらず。博く學んで名を成す所無しは、蓋し其の學の博きを美めて、其の一藝の名を成さざるを惜しむなり。
子聞之、謂門弟子曰、吾何執。執御乎、執射乎。吾執御矣。執、專執也。射御皆一藝、而御爲人僕。所執尤卑。言欲使我何所執以成名乎。然則吾將執御矣。聞人譽己、承之以謙也。○尹氏曰、聖人道全而德備。不可以偏長目之也。達巷黨人、見孔子之大、意其所學者博、而惜其不以一善得名於世。蓋慕聖人而不知者也。故孔子曰、欲使我何所執而得成名乎。然則吾將執御矣。
【読み】
子之を聞いて、門弟子に謂って曰く、吾何をか執らん。御を執らんか、射を執らんか。吾は御を執らん。執は專ら執るなり。射御は皆一藝にして、御は人僕爲り。執る所尤も卑し。言うこころは、我に何の執る所にして以て名を成さしめんと欲するや。然れば則ち吾將[は]た御を執らんとなり。人の己を譽むるを聞き、之を承けるに謙を以てするなり。○尹氏曰く、聖人は道全くして德備わる。偏長を以て之を目[なづ]く可からず。達巷黨の人、孔子の大いなるを見て、其の學ぶ所の者博きを意い、而して一善を以て名を世に得ざるを惜しむ。蓋し聖人を慕いて知らざる者なり。故に孔子曰く、我に何の執る所にして名を成すを得さしめんと欲するや。然れば則ち吾將た御を執らん、と。
子罕3
○子曰、麻冕禮也。今也純儉。吾從衆。麻冕、緇布冠也。純、絲也。儉、謂省約。緇布冠、以三十升布爲之。升八十縷、則其經二千四百縷矣。細密難成。不如用絲之省約。
【読み】
○子曰、麻冕は禮なり。今純は儉なり。吾は衆に從わん。麻冕は緇布冠なり。純は絲なり。儉は省約を謂う。緇布冠は、三十升の布を以て之を爲る。升は八十縷なれば、則ち其の經は二千四百縷なり。細密にして成り難し。絲を用うるの省約に如かず。
拜下禮也。今拜乎上、泰也。雖違衆、吾從下。臣與君行禮、當拜於堂下。君辭之、乃升成拜。泰、驕慢也。○程子曰、君子處世、事之無害於義者、從俗可也。害於義、則不可從也。
【読み】
下に拜するは禮なり。今上に拜するは、泰[おご]れり。衆に違うと雖も、吾は下に從わん。臣、君と禮を行うときは、當に堂下に拜すべし。君之を辭すれば、乃ち升りて拜を成す。泰は驕慢なり。○程子曰く、君子の世に處する、事義に害無き者は、俗に從わんこと可なり。義に害あるときは、則ち從う可からず、と。
子罕4
○子絶四。毋意、毋必、毋固、毋我。絶、無之盡者。毋、史記作無、是也。意、私意也。必、期必也。固、執滯也。我、私己也。四者相爲終始。起於意、遂於必、留於固、而成於我也。蓋意必常在事前、固我常在事後、至於我又生意、則物欲牽引、循環不窮矣。○程子曰、此毋字、非禁止之辭。聖人絶此四者、何用禁止。張子曰、四者有一焉、則與天地不相似。楊氏曰、非知足以知聖人、詳視而默識之、不足以記此。
【読み】
○子四つを絶てり。意毋く、必毋く、固毋く、我毋し。絶は無きの盡くる者。毋は史記に無と作る、是なり。意は私意なり。必は期必なり。固は執滯なり。我は私己なり。四つの者は終始を相爲す。意に起こり、必に遂げ、固に留まりて、我に成るなり。蓋し意必は常に事の前に在り、固我は常に事の後に在り、我に至るときは又意を生じて、則ち物欲牽引して、循環窮まらず。○程子曰く、此の毋の字、禁止の辭に非ず。聖人此の四者を絶つに、何ぞ禁止を用いん、と。張子曰く、四つの者の一つ有れば、則ち天地と相似せず、と。楊氏曰く、知以て聖人を知るに足り、詳らかに視て默して之を識るに非ざれば、以て此を記すに足りず、と。
子罕5
○子畏於匡。畏者、有戒心之謂。匡、地名。史記云、陽虎曾暴於匡。夫子貌似陽虎。故匡人圍之。
【読み】
○子匡に畏る。畏は、戒心有るの謂なり。匡は地名。史記に云う、陽虎曾て匡に暴す。夫子の貌陽虎に似たり。故に匡人之を圍む、と。
曰、文王旣沒、文不在茲乎。道之顯者謂之文。蓋禮樂制度之謂。不曰道而曰文、亦謙辭也。茲、此也。孔子自謂。
【読み】
曰く、文王旣に沒[お]わんぬれども、文茲に在らざるや。道の顯[あらわ]なる者、之を文と謂う。蓋し禮樂制度の謂なり。道と曰わずして文と曰うは、亦謙辭なり。茲は此なり。孔子自ら謂う。
天之將喪斯文也、後死者不得與於斯文也。天之未喪斯文也、匡人其如予何。喪・與、竝去聲。○馬氏曰、文王旣沒。故孔子自謂後死者。言天若欲喪此文、則必不使我得與於此文。今我旣得與於此文、則是天未欲喪此文也。天旣未欲喪此文、則匡人其奈我何。言必不能違天害己也。
【読み】
天の將に斯の文を喪ぼさんとせましかば、後に死する者斯の文に與ることを得じ。天の未だ斯の文を喪ぼさざるに、匡人其れ予を如何。喪・與は竝去聲。○馬氏曰く、文王旣に沒す。故に孔子自ら後に死する者と謂う、と。言うこころは、天若し此の文を喪ぼさんと欲せば、則ち必ず我をして此の文に與ることを得せしめず。今我旣に此の文に與るを得ば、則ち是れ天の未だ此の文を喪ぼさんと欲せざるなり、と。天旣に未だ此の文を喪ぼさんと欲せざれば、則ち匡人其れ我を奈何。言うこころは、必ず天に違いて己を害すること能わざるなり、と。
子罕6
○大宰問於子貢曰、夫子聖者與。何其多能也。大、音泰。與、平聲。○孔氏曰、大宰、官名。或吳、或宋、未可知也。與者、疑辭。大宰蓋以多能爲聖也。
【読み】
○大宰子貢に問うて曰く、夫子は聖者か。何ぞ其れ多能なる。大は音泰。與は平聲。○孔氏曰く、大宰は官名。或は吳か、或は宋か、未だ知る可からず。與は疑いの辭。大宰蓋し多能を以て聖と爲すなり。
子貢曰、固天縱之、將聖。又多能也。縱、猶肆也。言不爲限量也。將、殆也。謙若不敢知之辭。聖無不通。多能乃其餘事。故言又以兼之。
【読み】
子貢曰く、固[まこと]に天之を縱[ほしいまま]にす、將[ほとん]ど聖ならん。又多能なり。縱は猶肆のごとし。言うこころは、限量爲さざるなり、と。將は殆どなり。謙りて敢えて知らざるが若きの辭。聖は通ぜざること無し。多能は乃ち其の餘事。故に又と言いて以て之を兼ぬ。
子聞之曰、大宰知我乎。吾少也賤。故多能鄙事。君子多乎哉、不多也。言由少賤、故多能。而所能者鄙事爾。非以聖而無不通也。且多能非所以率人。故又言君子不必多能、以曉之。
【読み】
子之を聞いて曰く、大宰我を知れり。吾少かりしとき賤しかりき。故に鄙事に多能なり。君子多ならんや、多ならず。言うこころは、少かりしとき賤しかりきに由って、故に多能なり。而して能くする所の者は鄙事のみ。聖を以てして通ぜざること無きに非ざるなり。且つ多能は人を率いる所以に非ず。故に又君子必ずしも多能ならざることを言いて、以て之を曉す、と。
牢曰、子云、吾不試、故藝。牢、孔子弟子、姓琴、字子開、一字子張。試、用也。言由不爲世用、故得以習於藝而通之。○吳氏曰、弟子記夫子此言之時、子牢因言昔之所聞、有如此者。其意相近。故倂記之。
【読み】
牢が曰く、子云えり、吾試[もち]いられず、故に藝あり。牢は孔子の弟子、姓は琴、字は子開、一つ字は子張。試いるは用いるなり。言うこころは、世の用いられざるに由りて、故に以て藝に習いて之に通ずるを得たり、と。○吳氏曰く、弟子夫子の此の言を記す時、子牢因りて昔の聞きし所、此の如き者有りと言う。其の意相近し。故に倂せて之を記す、と。
子罕7
○子曰、吾有知乎哉、無知也。有鄙夫、問於我、空空如也。我叩其兩端而竭焉。叩、音口。○孔子謙言、己無知識。但其告人、雖於至愚、不敢不盡耳。叩、發動也。兩端、猶言兩頭。言終始本末、上下精粗、無所不盡。○程子曰、聖人之敎人、俯就之若此。猶恐衆人以爲高遠而不親也。聖人之道、必降而自卑。不如此、則人不親。賢人之言、則引而自高。不如此、則道不尊。觀於孔子・孟子、則可見矣。尹氏曰、聖人之言、上下兼盡。卽其近、衆人皆可與知。極其至、則雖聖人亦無以加焉。是之謂兩端。如答樊遲之問仁知、兩端竭盡無餘蘊矣。若夫語上而遺下、語理而遺物、則豈聖人之言哉。
【読み】
○子曰く、吾知有らんや、知無し。鄙夫有り、我に問う、空空如たり。我其兩端を叩いて竭くす。叩は音口。○孔子謙りて言う、己知識無し。但其の人に告ぐるに、至愚なりと雖も、敢えて盡くさずんばあらざるのみ、と。叩は發動なり。兩端は猶兩頭と言うがごとし。言うこころは、終始本末、上下精粗、盡くさざる所無し、と。○程子曰く、聖人の人を敎うる、俯して之に就くこと此の若し。猶衆人以て高遠なりと爲して親しまざらんことを恐るるなり。聖人の道は、必ず降って自ら卑くす。此の如くならざれば、則ち人親しまず。賢人の言は、則ち引いて自ら高くす。此の如くならざれば、則ち道尊からず。孔子・孟子を觀て、則ち見る可し、と。尹氏曰く、聖人の言は、上下兼ね盡くす。其の近きに卽けば、衆人皆與り知る可し。其の至を極むれば、則ち聖人と雖も亦以て加うること無し。是を之れ兩端と謂う。樊遲の仁知を問うに答うるが如きは、兩端竭き盡くして餘蘊無し。夫れ上を語りて下を遺し、理を語りて物を遺すが若きは、則ち豈聖人の言ならんや、と。
子罕8
○子曰、鳳鳥不至、河不出圖。吾已矣乎。夫、音扶。○鳳、靈鳥。舜時來儀、文王時鳴於岐山。河圖、河中龍馬負圖、伏羲時出。皆聖王之瑞也。已、止也。○張子曰、鳳至圖出、文明之祥。伏羲・舜・文之瑞不至、則夫子之文章知其已矣。
【読み】
○子曰く、鳳鳥至らず、河圖を出さず。吾已んぬるかな。夫は音扶。○鳳は靈鳥。舜の時來儀し、文王の時岐山に鳴けり。河圖は、河中の龍馬圖を負い、伏羲の時出づ。皆聖王の瑞なり。已むは止むなり。○張子曰く、鳳至り圖出るは、文明の祥。伏羲・舜・文の瑞至らざれば、則ち夫子の文章其れ已んぬることを知る、と。
子罕9
○子見齊衰者、冕衣裳者、與瞽者、見之雖少必作。過之必趨。齊、音咨。衰、七雷反。少、去聲。○齊衰、喪服。冕、冠也。衣、上服。裳、下服。冕而衣裳、貴者之盛服也。瞽、無目者。作、起也。趨、疾行也。或曰、少當作坐。○范氏曰、聖人之心、哀有喪、尊有爵、矜不成人。其作與趨、蓋有不期然而然者。尹氏曰、此聖人之誠心、内外一者也。
【読み】
○子齊衰の者と、冕衣裳の者と、瞽者とを見て、之に見[あ]えば少[わか]しと雖も必ず作[た]つ。之を過ぐれば必ず趨る。齊は音咨。衰は七雷の反。少は去聲。○齊衰は喪服。冕は冠なり。衣は上服。裳は下服。冕して衣裳するは、貴き者の盛服なり。瞽は目無き者。作つは起つなり。趨は疾く行くなり。或ひと曰く、少は當に坐に作るべし、と。○范氏曰く、聖人の心、喪有るを哀しみ、爵有るを尊び、不成人を矜れむ。其の作つと趨るとは、蓋し然るを期せずして然る者有り、と。尹氏曰く、此れ聖人の誠心、内外一なる者なり、と。
子罕10
○顏淵喟然歎曰、仰之彌高、鑽之彌堅。瞻之在前、忽焉在後。喟、苦位反。鑽、祖官反。○喟、歎聲。仰彌高、不可及。鑽彌堅、不可入。在前在後、恍惚不可爲象。此顏淵深知夫子之道、無窮盡、無方體而歎之也。
【読み】
○顏淵喟然として歎じて曰く、之を仰げば彌々高く、之を鑽[き]れば彌々堅し。之を瞻て前に在るかとすれば、忽焉として後に在り。喟は苦位の反。鑽は祖官の反。○喟は歎く聲。仰げば彌々高くは、及ぶ可からず。鑽けば彌々堅しは、入る可からず。前に在り後に在りは、恍惚として象を爲す可からず。此れ顏淵の深く夫子の道の窮まり盡きること無く、方體無きことを知って之を歎ずるなり。
夫子循循然善誘人。博我以文、約我以禮。循循、有次序貌。誘、引進也。博文約禮、敎之序也。言夫子道雖高妙、而敎人有序也。侯氏曰、博我以文、致知格物也。約我以禮、克己復禮也。程子曰、此顏子稱聖人最切當處。聖人敎人、唯此二事而已。
【読み】
夫子循循然として善く人を誘[みちび]く。我を博むるに文を以てし、我を約[つづ]むるに禮を以てす。循循は次序有るの貌。誘は引き進むるなり。博文約禮は敎の序なり。言うこころは、夫子の道高妙なりと雖も、而して人を敎うるに序有るなり、と。侯氏曰く、我を博むるに文を以てすは、致知格物なり。我を約むるに禮を以てすは、克己復禮なり、と。程子曰く、此れ顏子聖人を稱することの最も切當なる處。聖人の人を敎うる、唯此の二事のみ、と。
欲罷不能、旣竭吾才。如有所立卓爾。雖欲從之、末由也已。卓、立貌。末、無也。此顏子自言其學之所至也。蓋悦之深、而力之盡、所見益親、而又無所用其力也。吳氏曰、所謂卓爾、亦在乎日用行事之閒、非所謂窈冥昏默者。程子曰、到此地位、功夫尤難。直是峻絶。又大段著力不得。楊氏曰、自可欲之謂善、充而至於大、力行之積也。大而化之、則非力行所及矣。此顏子所以未達一閒也。○程子曰、此顏子所以爲深知孔子而善學之者也。胡氏曰、無上事而喟然歎。此顏子學旣有得。故述其先難之故、後得之由、而歸功於聖人也。高堅前後、語道體也。仰鑽瞻忽、未領其要也。惟夫子循循善誘。先博我以文、使我知古今、達事變、然後約我以禮、使我尊所聞、行所知、如行者之赴家、食者之求飽。是以欲罷而不能、盡心盡力、不少休廢。然後見夫子所立之卓然、雖欲從之、末由也已。是蓋不怠所從、必求至乎卓立之地也。抑斯歎也、其在請事斯語之後、三月不違之時乎。
【読み】
罷んなまく欲すれども能わず、旣に吾が才を竭くす。立てる所有りて卓爾たるが如し。之に從わまく欲すと雖も、由末[な]からまくのみ。卓は立つ貌。末は無なり。此れ顏子自ら其の學の至る所を言うなり。蓋し悦ぶことを深くして、力むることを盡くし、見る所益々親しくして、又其の力を用うる所無し。吳氏曰く、所謂卓爾たるは、亦日用行事の閒に在り、所謂窈冥昏默なる者に非ず、と。程子曰く、此の地位に到ること、功夫尤も難し。直に是れ峻絶なり。又大段に力を著け得ず、と。楊氏曰く、欲す可きを之を善と謂うよりして、充ちて大に至るは、力行の積るなり。大にして之を化するは、則ち力行の及ぶ所に非ざるなり。此れ顏子の未だ達せざること一閒なる所以なり、と。○程子曰く、此れ顏子の深く孔子を知りて善く之を學ぶと爲す所以の者なり、と。胡氏曰く、上の事無くして喟然として歎ず。此れ顏子の學旣得る有り。故に其の難きを先にするの故、得るを後にするの由を述べて、功を聖人に歸するなり。高堅と前後は道體を語るなり。仰鑽と瞻忽は、未だ其の要を領せざるなり。惟夫子のみ循循として善く誘く。先ず我を博むるに文を以てし、我をして古今を知り、事變に達せしめ、然る後に我に約むるに禮を以てし、我をして聞く所を尊び、知る所を行わしむこと、行く者の家に赴き、食う者の飽くを求むるが如し。是を以て罷めんと欲すれども能わず、心を盡くし力を盡くし、少しも休廢せず。然る後に夫子立つ所の卓然たるを見て、之に從わんと欲すと雖も、由末きのみ。是れ蓋し從う所を怠らず、必ず卓立の地に至らんことを求むるなり。抑々斯の歎は、其れ請う斯の語を事とせんの後、三月違わずの時に在らんか、と。
子罕11
○子疾病。子路使門人爲臣。夫子時已去位、無家臣。子路欲以家臣治其喪。其意實尊聖人、而未知所以尊也。
【読み】
○子疾病なり。子路門人をして臣爲たらしむ。夫子時に已に位を去り、家臣無し。子路家臣を以て其の喪を治めしめんと欲す。其の意實は聖人を尊びて、未だ尊ぶ所以を知らざるなり。
病閒曰、久矣哉、由之行詐也。無臣、而爲有臣。吾誰欺、欺天乎。閒、如字。○病閒、少差也。病時不知。旣差乃知其事。故言我之不當有家臣、人皆知之。不可欺也。而爲有臣、則是欺天而已。人而欺天、莫大之罪。引以自歸。其責子路深矣。
【読み】
病閒[い]えて曰く、久しきかな、由が詐りを行えること。臣無し、而るを臣有りと爲す。吾誰をか欺かんや、天を欺かんや。閒は字の如し。○病閒は少しく差[い]ゆるなり。病める時は知らず。旣に差えて乃ち其の事を知る。故に言う、我の當に家臣有るべからざるは、人皆之を知れり。欺く可からざるなり。而して臣有りと爲すは、則ち是れ天を欺くのみ。人にして天を欺くは、莫大の罪なり、と。引いて以て自らに歸す。其の子路を責むること深し。
且予與其死於臣之手也、無寧死於二三子之手乎。且予縱不得大葬、予死於道路乎。無寧、寧也。大葬、謂君臣禮葬。死於道路、謂棄而不葬。又曉之以不必然之故。○范氏曰、曾子將死、起而易簀。曰、吾得正而斃焉、斯已矣。子路欲尊夫子、而不知無臣之不可爲有臣。是以陷於行詐、罪至欺天。君子之於言動、雖微不可不謹。夫子深懲子路、所以警學者也。楊氏曰、非知至而意誠、則用智自私、不知行其所無事、往往自陷於行詐欺天、而莫之知也。其子路之謂乎。
【読み】
且[また]予其の臣の手に死なんよりは、寧ろ二三子の手に死すること無けんや。且予縱[たと]い大葬を得ずとも、予道路に死せんや。無寧は寧なり。大葬は、君臣の禮葬を謂う。道路に死すは、棄てて葬らざるを謂う。又之を曉すに必ず然らざるの故を以てす。○范氏曰く、曾子將に死せんとするとき、起きて簀を易えて、曰く、吾正しきを得て斃るれば、斯れ已まん、と。子路夫子を尊ばんと欲し、臣無きを之れ臣有りと爲す可からざるを知らず。是を以て詐りを行うに陷り、罪は天を欺くに至る。君子の言動に於ける、微なりと雖も謹まざる可からず。夫子深く子路を懲らすは、學者を警[さと]す所以なり、と。楊氏曰く、知至りて意誠あるに非ざれば、則ち智を用いて自私し、其の事無き所に行うを知らず、往往にして自ら詐りを行い天を欺くに陷り、而して之を知ること莫し。其れ子路の謂か、と。
子罕12
○子貢曰、有美玉於斯。韞匵而藏諸。求善賈而沽諸。子曰、沽之哉。沽之哉。我待賈者也。韞、紆粉反。匵、徒木反。賈、音嫁。○韞、藏也。匵、匱也。沽、賣也。子貢以孔子有道不仕、故設此二端以問也。孔子言固當賣之。但當待賈。而不當求之耳。○范氏曰、君子未嘗不欲仕也。又惡不由其道。士之待禮、猶玉之待賈也。若伊尹之耕於野、伯夷・太公之居於海濱、世無成湯・文王、則終焉而已。必不枉道以從人、衒玉而求售也。
【読み】
○子貢曰く、斯に美玉有り。匵[ひ]に韞[おさ]めて諸を藏[かく]さんか。善き賈[あたい]を求めて諸を沽[う]らんか。子曰く、之を沽らぬ。之を沽らぬ。我は賈を待つ者なり。韞は紆粉の反。匵は徒木の反。賈は音嫁。○韞は藏むなり。匵は匱なり。沽は賣るなり。子貢孔子の道有りて仕えざるを以て、故に此の二端を設けて以て問うなり。孔子言う、固より當に之を賣るべし、と。但當に賈を待つべし。當に之を求むべからざるのみ。○范氏曰く、君子は未だ嘗て仕えんことを欲せざるにあらざるなり。又其の道に由らざるを惡む。士の禮を待つこと、猶玉の賈を待つがごとし。伊尹の野に耕し、伯夷・太公の海濱に居るが若きは、世に成湯・文王無くんば、則ち焉に終えるのみ。必ず道を枉げて以て人に從い、玉を衒[てら]いて售[う]られんことを求めざるなり、と。
子罕13
○子欲居九夷。東方之夷有九種。欲居之者、亦乘桴浮海之意。
【読み】
○子九夷に居らまく欲す。東方の夷は九種有り。之に居らんと欲するは、亦桴に乘りて海に浮ぶの意なり。
或曰、陋、如之何。子曰、君子居之、何陋之有。君子所居則化。何陋之有。
【読み】
或ひと曰く、陋[いや]し、之を如何。子曰く、君子之に居る、何の陋しきことか之れ有らん。君子居る所は則ち化す。何の陋しきことか之れ有らん。
子罕14
○子曰、吾自衛反魯然後樂正、雅頌各得其所。魯哀公十一年冬、孔子自衛反魯。是時周禮在魯。然詩樂亦頗殘缺失次。孔子周流四方、參互考訂、以知其說。晩知道終不行。故歸而正之。
【読み】
○子曰く、吾衛より魯に反って然して後に樂正し、雅頌各々其の所を得たり。魯の哀公十一年の冬、孔子衛より魯に反る。是の時周禮魯に在り。然れども詩樂亦頗る殘缺し次を失えり。孔子四方に周流し、參互考え訂[はか]りて、以て其の說を知れり。晩に道終[つい]に行われざるを知る。故に歸りて之を正せり。
子罕15
○子曰、出則事公卿、入則事父兄、喪事不敢不勉。不爲酒困、何有於我哉。說見第七篇。然此則其事愈卑、而意愈切矣。
【読み】
○子曰く、出でては則ち公卿に事り、入りては則ち父兄に事り、喪事敢えて勉めずんばあらず。酒の困[みだれ]をせざること、何れか我に有るや。說は第七篇に見ゆ。然れども此は則ち其の事愈々卑しくして、意愈々切なり。
子罕16
○子在川上曰、逝者如斯夫。不舍晝夜。夫、音扶。舍、上聲。○天地之化、往者過、來者續、無一息之停。乃道體之本然也。然其可指而易見者、莫如川流。故於此發、以示人。欲學者時時省察、而無毫髪之閒斷也。○程子曰、此道體也。天運而不已。日往則月來、寒往則暑來。水流而不息、物生而不窮。皆與道爲體。運乎晝夜、未嘗已也。是以君子法之、自強不息。及其至也、純亦不已焉。又曰、自漢以來、儒者皆不識此義。此見聖人之心、純亦不已也。純亦不已、乃天德也。有天德、便可語王道。其要只在謹獨。愚按、自此至終篇、皆勉人進學不已之辭。
【読み】
○子川の上[ほとり]に在して曰く、逝く者は斯の如きか。晝夜を舍てず。夫は音扶。舍は上聲。○天地の化は、往く者過ぎ、來る者は續き、一息の停ること無し。乃ち道體の本然なり。然れども其の指して見易かる可き者は、川の流れに如くは莫し。故に此に於て發して、以て人に示す。學者時時に省察して、毫髪の閒斷無からんと欲するなり。○程子曰く、此れ道體なり。天運りて已まず。日往けば則ち月來て、寒往けば則ち暑來る。水流れて息まず、物生じて窮まらず。皆道と體を爲す。晝夜に運りて、未だ嘗て已まず。是を以て君子之に法りて、自ら強めて息まず。其の至れるに及ぶや、純なれども亦已まず、と。又曰く、漢より以來、儒者皆此の義を識らず。此れ聖人の心、純なれども亦已まざるを見るなり。純なれども亦已まざるは、乃ち天の德なり。天の德有りて、便ち王道を語る可し。其の要は只獨を謹むに在り、と。愚按ずるに、此より終篇に至るまで、皆人に學に進みて已まざることを勉めしむるの辭なり。
子罕17
○子曰、吾未見好德如好色者也。好、去聲。○謝氏曰、好好色、惡惡臭、誠也。好德如好色、斯誠好德矣。然民鮮能之。○史記、孔子居衛、靈公與夫人同車、使孔子爲次乘、招搖市過之。孔子醜之。故有是言。
【読み】
○子曰く、吾未だ德を好むこと色を好むが如くなる者を見ず。好は去聲。○謝氏曰く、好色を好み、惡臭を惡むは誠なり。德を好むこと色を好むが如きは、斯れ誠に德を好むなり。然れども民之を能くすること鮮し、と。○史記に、孔子衛に居ますとき、靈公夫人と車を同じくし、孔子をして次乘爲らしめ、市を招搖して之を過ぐ。孔子之を醜む。故に是の言有り、と。
子罕18
○子曰、譬如爲山。未成一簣、止吾止也。譬如平地。雖覆一簣、進吾往也。簣、求位反。覆、芳服反。○簣、土籠也。書曰、爲山九仞、功虧一簣。夫子之言、蓋出於此。言山成而但少一簣。其止者吾自止耳。平地而方覆一簣。其進者吾自往耳。蓋學者自強不息、則積少成多。中道而止、則前功盡棄。其止其往、皆在我而不在人也。
【読み】
○子曰く、譬えば山を爲るが如し。未だ一簣を成さずして、止むは吾が止むなり。譬えば平地の如し。一簣を覆[こぼ]すと雖ども、進むは吾が往くなり。簣は求位の反。覆は芳服の反。○簣は土籠なり。書に曰く、山を爲ること九仞なるも、功一簣に虧く、と。夫子の言、蓋し此より出たるならん。言うこころは、山成りて但一簣少なし。其の止むは吾自ら止むのみ。平地にして方に一簣を覆す。其の進むは吾自ら往くのみ、と。蓋し學者自ら強めて息まざるときは、則ち少を積んで多を成す。中道にして止むときは、則ち前功盡く棄たる。其の止み其の往くこと、皆我に在りて人に在らず、と。
子罕19
○子曰、語之而不惰者、其囘也與。語、去聲。與、平聲。○惰、懈怠也。范氏曰、顏子聞夫子之言、而心解力行、造次顚沛、未嘗違之。如萬物得時雨之潤、發榮滋長。何有於惰。此羣弟子所不及也。
【読み】
○子曰く、之に語ぐるに而も惰らざる者は、其れ囘なるか。語は去聲。與は平聲。○惰は懈怠なり。范氏曰く、顏子夫子の言を聞いて、心に解し力めて行い、造次顚沛にも、未だ嘗て之に違わず。萬物の時雨の潤いを得て、發榮滋長するが如し。何ぞ惰ることか有らん。此れ羣弟子の及ばざる所なり、と。
子罕20
○子謂顏淵曰、惜乎、吾見其進也。未見其止也。進止二字、說見上章。顏子旣死、而孔子惜之。言其方進而未已也。
【読み】
○子顏淵を謂って曰く、惜しいかな、吾其の進むを見つ。未だ其の止むを見ざりき。進止の二字、說は上章に見ゆ。顏子旣に死して、孔子之を惜しむ。言うこころは、其れ方に進みて未だ已まざるなり、と。
子罕21
○子曰、苗而不秀者有矣夫。秀而不實者有矣夫。夫、音扶。○穀之始生曰苗、吐華曰秀、成穀曰實。蓋學而不至於成、有如此者。是以君子貴自勉也。
【読み】
○子曰く、苗にして秀でざる者有るかな。秀でて實らざる者有るかな。夫は音扶。○穀の始めて生ずるを苗と曰い、華を吐くを秀と曰い、穀を成すを實と曰う。蓋し學んで成るに至らざること、此の如き者有り。是を以て君子自ら勉むることを貴ぶなり。
子罕22
○子曰、後生可畏。焉知來者之不如今也。四十五十而無聞焉、斯亦不足畏也已。焉知之焉、於虔反。○孔子言、後生年富力彊。足以積學而有待。其勢可畏。安知其將來不如我之今日乎。然或不能自勉、至於老而無聞、則不足畏矣。言此以警人、使及時勉學也。曾子曰、五十而不以善聞、則不聞矣。蓋述此意。○尹氏曰、少而不勉、老而無聞、則亦已矣。自少而進者、安知其不至於極乎。是可畏也。
【読み】
○子曰く、後生畏る可し。焉んぞ來者の今に如ざるを知らん。四十五十にして聞うること無くば、斯れ亦畏るるに足らざらくのみ。焉知の焉は、於虔の反。○孔子言う、後生は年富み力彊し。以て學を積みて待つこと有るに足れり。其の勢畏る可し。安んぞ其の將來、我の今日に如かざるを知らんや。然れども或は自ら勉むること能わず、老に至りて聞ゆること無くんば、則ち畏るるに足らず、と。此を言いて以て人を警め、時に及んで學に勉めしむ。曾子曰く、五十にして善を以て聞えざれば、則ち聞えざるなり。蓋し此の意を述ぶ。○尹氏曰く、少くして勉めず、老いて聞ゆること無くんば、則ち亦已む。少きよりして進む者、安んぞ其の極に至らざるを知らんや。是れ畏る可きなり、と。
子罕23
○子曰、法語之言、能無從乎。改之爲貴。巽與之言、能無說乎。繹之爲貴。說而不繹、從而不改。吾末如之何也已矣。法語者、正言之也。巽言者、婉而導之也。繹、尋其緒也。法言人所敬憚。故必從。然不改、則面從而已。巽言無所乖忤。故必說。然不繹、則又不足以知其微意之所在也。○楊氏曰、法言、若孟子論行王政之類、是也。巽言、若其論好貨好色之類、是也。語之而不達、拒之而不受、猶之可也、其或喩焉、則尙庶幾其能改繹矣。從且說矣、而不改繹焉、則是終不改繹也已。雖聖人其如之何哉。
【読み】
○子曰く、法語の言、能く從うこと無けんや。之を改むるを貴しと爲す。巽與[そんよ]の言、能く說ぶこと無けんや。之を繹[たず]ぬるを貴しと爲す。說んで繹ねず、從って改めざるは。吾之を如何ともすること末[な]からまくのみ。法語は、正しく之を言うなり。巽言は、婉にして之を導くなり。繹は、其の緒を尋ぬるなり。法言は人の敬しみ憚る所。故に必ず從う。然れども改めざれば、則ち面從なるのみ。巽言は乖[そむ]き忤[さか]う所無し。故に必ず說ぶ。然れども繹ねざれば、則ち又以て其の微意の在る所を知るに足らざるなり。○楊氏曰く、法言は、孟子の王政を行うを論ずるが類の若き、是れなり。巽言は、其の貨を好み色を好むを論ずるが類の若き、是れなり。之に語げて達せず、之を拒みて受けざるは、猶之れ可なり、其れ或は喩るときは、則ち尙其の能く改め繹ぬるに庶幾からん。從い且說びて、而して改め繹ねざれば、則ち是れ終に改繹せずして已む。聖人と雖も其れ之を如何せんや、と。
子罕24
○子曰、主忠信、毋友不如己者。過則勿憚改。重出而逸其半。
【読み】
○子曰く、忠信を主とし、己に如かざる者を友とすること毋かれ。過つときは則ち改むるに憚ること勿かれ。重出して其の半ばを逸す。
子罕25
○子曰、三軍可奪帥也。匹夫不可奪志也。侯氏曰、三軍之勇在人。匹夫之志在己。故帥可奪、而志不可奪。如可奪、則亦不足謂之志矣。
【読み】
○子曰く、三軍をも帥を奪う可し。匹夫をも志を奪う可からず。侯氏曰く、三軍の勇は人に在り。匹夫の志は己に在り。故に帥は奪わる可く、而して志は奪わる可からず。如し奪わる可くば、則ち亦之を志と謂うに足らず、と。
子罕26
○子曰、衣敝縕袍、與衣狐貉者立、而不恥者、其由也與。衣、去聲。縕、紆粉反。貉、胡各反。與、平聲。○敝、壞也。縕、枲著也。袍、衣有著者也。蓋衣之賤者。狐貉、以狐貉之皮爲裘。衣之貴者。子路之志如此、則能不以貧富動其心、而可以進於道矣。故夫子稱之。
【読み】
○子曰く、敝れたる縕袍を衣て、狐貉を衣る者と立って、恥じざらん者は、其れ由なるか。衣は去聲。縕は紆粉の反。貉は胡各の反。與は平聲。○敝は壞なり。縕は枲著[しちょ]なり。袍は衣の著有る者なり。蓋し衣の賤しい者なり。狐貉は、狐貉の皮を以て裘を爲る。衣の貴き者なり。子路の志此の如くなれば、則ち能く貧富を以て其の心を動かさずして、以て道に進む可し。故に夫子之を稱す。
不忮不求、何用不臧。忮、之鼓反。○忮、害也。求、貪也。臧、善也。言能不忮不求、則何爲不善乎。此衛風雄雉之詩。孔子引之以美子路也。呂氏曰、貧與富交、彊者必忮、弱者必求。
【読み】
忮[そこな]わず求[むさぼ]らず、何を用[もっ]てか臧[よ]からん。忮は之鼓の反。○忮うは害うなり。求るは貪るなり。臧は善なり。言うこころは、能く忮わず求らざれば、則ち何爲れぞ善からざらんや、と。此れ衛風雄雉の詩。孔子之を引いて以て子路を美むるなり。呂氏曰く、貧と富と交われば、彊き者は必ず忮い、弱き者は必ず求る、と。
子路終身誦之。子曰、是道也。何足以臧。終身誦之、則自喜其能、而不復求進於道矣。故夫子復言此以警之。○謝氏曰、恥惡衣惡食、學者之大病。善心不存、蓋由於此。子路之志如此。其過人遠矣。然以衆人而能此、則可以爲善矣。子路之賢、宜不止此。而終身誦之、則非所以進於日新也。故激而進之。
【読み】
子路身を終うるまで之を誦す。子曰く、是れ道なり。何ぞ以て臧しとするに足らん。身を終うるまで之を誦すは、則ち自ら其の能を喜びて、復道に進むを求めず。故に夫子復此を言い以て之を警む。○謝氏曰く、惡衣惡食を恥ずるは、學者の大病なり。善心存せざること、蓋し此に由る。子路の志此の如し。其の人に過[こえ]たること遠し。然れども衆人を以て此を能くするときは、則ち以て善しとす可し。子路の賢、宜しく此に止らざるべし。而して身を終うるまで之を誦するときは、則ち日新に進む所以に非ず。故に激して之を進む、と。
子罕27
○子曰、歳寒、然後知松柏之後彫也。范氏曰、小人之在治世、或與君子無異。惟臨利害、遇事變、然後君子之所守可見也。○謝氏曰、士窮見節義、世亂識忠臣。欲學者必周於德。
【読み】
○子曰く、歳寒くして、然る後に松柏の彫[しぼ]むに後るることを知る。范氏曰く、小人の治世に在るときは、或は君子と異なること無し。惟利害に臨み、事變に遇い、然る後に君子の守る所を見る可し、と。○謝氏曰く、士窮して節義を見わし、世亂れて忠臣を識る。學者は必ず德に周からんことを欲す、と。
子罕28
○子曰、知者不惑。仁者不憂。勇者不懼。明足以燭理。故不惑。理足以勝私。故不憂。氣足以配道義。故不懼。此學之序也。
【読み】
○子曰く、知者は惑わず。仁者は憂えず。勇者は懼れず。明は以て理を燭らすに足れり。故に惑わず。理は以て私に勝つに足れり。故に憂えず。氣は以て道義を配[たす]くるに足れり。故に懼れず。此れ學の序なり。
子罕29
○子曰、可與共學。未可與適道。可與適道。未可與立。可與立。未可與權。可與者、言其可與共爲此事也。程子曰、可與共學、知所以求之也。可與適道、知所往也。可與立者、篤志固執而不變也。權、稱錘也。所以稱物而知輕重者也。可與權、謂能權輕重使合義也。○楊氏曰、知爲己、則可與共學矣。學足以明善、然後可與適道。信道篤、然後可與立。知時措之宜、然後可與權。洪氏曰、易九卦、終於巽以行權。權者、聖人之大用、未能立而言權、猶人未能立而欲行、鮮不仆矣。程子曰、漢儒以反經合道爲權。故有權變權術之論。皆非也。權只是經也。自漢以下、無人識權字。愚按、先儒誤以此章連下文偏其反而、爲一章。故有反經合道之說。程子非之、是矣。然以孟子嫂溺援之以手之義推之、則權與經亦當有辨。
【読み】
○子曰く、與に共に學ぶ可し。未だ與に道に適く可からず。與に道に適く可し。未だ與に立つ可からず。與に立つ可し。未だ與に權[はか]る可からず。與にす可しは、其の與に共に此の事を爲す可きを言うなり。程子曰く、與に共に學ぶ可しは、之を求むる所以を知るなり。與に道に適く可しは、往く所を知るなり。與に立つ可しは、篤く志し固く執りて變ぜざるなり。權は稱錘なり。物を稱りて輕重を知る所以の者なり。與に權る可しは、能く輕重を權り義に合わせしむを謂うなり、と。○楊氏曰く、己が爲にするを知らば、則ち與に共に學ぶ可し。學以て善を明らかにするに足りて、然る後與に道に適く可し。道を信ずること篤くして、然る後與に立つ可し。時に措くの宜しきを知りて、然る後與に權る可し、と。洪氏曰く、易の九卦、巽は以て權を行うに終うる。權は、聖人の大用、未だ立つこと能わずして權を言うは、猶人の未だ立つこと能わずして行かんと欲するがごとく、仆れざること鮮し、と。程子曰く、漢儒は經に反きて道に合うを以て權と爲す。故に權變權術の論有り。皆非なり。權は只是れ經なり。漢より以下、人、權の字を識る無し、と。愚按ずるに、先儒誤りて此の章を以て下文の偏其反而に連ねて一章と爲す。故に經に反きて道に合うの說有り。程子之を非とするは是なり。然れども孟子の嫂溺るるに之を援くるに手を以てするの義を以て之を推せば、則ち權と經とは亦當に辨有るべし。
子罕30
○唐棣之華、偏其反而。豈不爾思。室是遠而。棣、大計反。○唐棣、郁李也。偏、晉書、作翩。然則反亦當與翻同。言華之搖動也。而、語助也。此逸詩也。於六義屬興。上兩句無意義。但以起下兩句之辭耳。其所謂爾、亦不知其何所指也。
【読み】
○唐棣[とうてい]の華、偏[ひるがえ]って其れ反[ひるがえ]れり。豈爾を思わざらんや。室是れ遠ければなり。棣は大計の反。○唐棣は郁李なり。偏は晉書に翩に作る。然れば則ち反も亦當に翻と同じくすべし。華の搖り動くを言うなり。而は語助なり。此れ逸詩なり。六義に於ては興に屬す。上の兩句意義無し。但以て下の兩句を起こすの辭のみ。其の謂う所の爾も、亦其の何を指す所かを知らず。
子曰、未之思也。夫何遠之有。夫、音扶。○夫子借其言而反之。蓋前篇仁遠乎哉之意。○程子曰、聖人未嘗言易以驕人之志。亦未嘗言難以阻人之進。但曰未之思也、夫何遠之有、此言極有涵蓄、意思深遠。
【読み】
子曰く、未だ之を思わざるなり。夫れ何の遠いことか有らん。夫は音扶。○夫子其の言を借りて之を反す。蓋し前篇の仁遠からんやの意なり。○程子曰く、聖人未だ嘗て易きを言って以て人の志を驕らさず。亦未だ嘗て難きを言って以て人の進むを阻ばず。但未だ之を思わざるなり、夫れ何の遠いことか有らんと曰うは、此の言極めて涵蓄有り、意思深遠なり、と。
郷黨第十 楊氏曰、聖人之所謂道者、不離乎日用之閒也。故夫子之平日、一動一靜、門人皆審視而詳記之。尹氏曰、甚矣孔門諸子之嗜學也。於聖人之容色言動、無不謹書而備録之、以貽後世。今讀其書、卽其事、宛然如聖人之在目也。雖然、聖人豈拘拘而爲之者哉。蓋盛德之至、動容周旋、自中乎禮耳。學者欲潛心於聖人、宜於此求焉。舊說凡一章、今分爲十七節。
【読み】
郷黨第十 楊氏曰く、聖人の所謂道は、日用の閒を離れず。故に夫子平日の、一動一靜、門人皆審らかに視て詳らかに之を記す、と。尹氏曰く、甚だしいかな孔門諸子の學を嗜めること。聖人の容色言動、謹んで書[しる]して備[つぶさ]に之を録[しる]して、以て後世に貽[おく]らずということ無し。今其の書を讀み、其に事に卽けば、宛然として聖人の目に在すが如し。然りと雖も、聖人豈拘拘として之をする者ならんや。蓋し盛德の至れる、動容周旋、自ら禮に中れるのみ。學者心を聖人に潛[もと]めんと欲せば、宜しく此に於て求むべし。舊說は凡て一章、今分ちて十七節と爲す。
郷黨1
○孔子於郷黨、恂恂如也。似不能言者。恂、相倫反。○恂恂、信實之貌。似不能言者、謙卑遜順、不以賢知先人也。郷黨、父兄宗族之所在。故孔子居之、其容貌辭氣如此。
【読み】
○孔子郷黨に於ては、恂恂如たり。言[ものい]うこと能わざる者に似たり。恂は相倫の反。○恂恂は信實なる貌。言うこと能わざる者に似るは、謙卑遜順にして、賢知を以て人に先だたざるなり。郷黨は、父兄宗族の在す所。故に孔子之に居すときは、其の容貌辭氣此の如し。
其在宗廟・朝廷、便便言。唯謹爾。朝、直遙反。下同。便、旁連反。○便便、辯也。宗廟、禮法之所在。朝廷、政事之所出。言不可以不明辯。故必詳問而極言之。但謹而不放爾。○此一節、記孔子在郷黨・宗廟・朝廷、言貌之不同。
【読み】
其の宗廟・朝廷に在すときは、便便として言う。唯謹めるのみ。朝は直遙の反。下も同じ。便は旁連の反。○便便は辯なり。宗廟は、禮法の在る所。朝廷は、政事の出る所。言は以て明辯ならざる可からず。故に必ず詳らかに問いて極めて之を言う。但謹みて放[ほしいまま]にせざるのみ。○此の一節、孔子の郷黨と宗廟・朝廷に在すときの、言貌の同じからざるを記す。
郷黨2
○朝與下大夫言、侃侃如也。與上大夫言、誾誾如也。侃、苦旦反。誾、魚巾反。○此君未視朝時也。王制、諸侯上大夫卿、下大夫五人。許氏說文、侃侃、剛直也。誾誾、和悦而諍也。
【読み】
○朝にして下大夫と言うときは、侃侃[かんかん]如たり。上大夫と言うときは、誾誾[ぎんぎん]如たり。侃は苦旦の反。誾は魚巾の反。○此れ君の未だ朝を視ざる時なり。王制に、諸侯の上大夫は卿、下大夫は五人、と。許氏の說文に、侃侃は剛直なり。誾誾は和悦にして諍うなり、と。
君在、踧踖如也。與與如也。踧、子六反。踖、子亦反。與、平聲。或如字。○君在、視朝也。踧踖、恭敬不寧之貌。與與、威儀中適之貌。張子曰、與與、不忘向君也。亦通。○此一節、記孔子在朝廷、事上接下之不同也。
【読み】
君在すときは、踧踖[しゅくせき]如たり。與與如たり。踧は子六の反。踖は子亦の反。與は平聲。或は字の如し。○君在すときは、朝を視るなり。踧踖は、恭い敬みて寧んぜざるの貌。與與は、威儀中に適[かな]えるの貌。張子曰く、與與は、君に向かうことを忘れざるなり、と。亦通ず。○此の一節、孔子朝廷に在すとき、上に事り下に接するときの同じからざるを記すなり。
郷黨3
○君召使擯、色勃如也。足躩如也。擯、必刃反。躩、驅若反。○擯、主國之君、所使出接賓者。勃、變色貌。躩、盤辟貌。皆敬君命故也。
【読み】
○君召して擯せしむるときは、色勃如たり。足躩如[かくじょ]たり。擯は必刃の反。躩は驅若の反。○擯は、主國の君の、出でて賓に接しむる所の者。勃は色を變ずるの貌。躩は盤辟の貌。皆君命を敬する故なり。
揖所與立、左右手。衣前後、襜如也。襜、赤占反。○所與立、謂同爲擯者也。擯用命數之半。如上公九命、則用五人、以次傳命。揖左人、則左其手、揖右人、則右其手。襜、整貌。
【読み】
與に立つ所を揖して、手を左右にす。衣の前後、襜如[せんじょ]たり。襜は赤占の反。○與に立つ所は、同じく擯を爲す者を謂うなり。擯は命數の半を用ゆ。上公九命の如きは、則ち五人を用い、次を以て命を傳う。左の人を揖するときは、則ち其の手を左にし、右の人を揖するときは、則ち其の手を右にす。襜は整う貌。
趨進、翼如也。疾趨而進、張拱端好、如鳥舒翼。
【読み】
趨り進むときは、翼如たり。疾く趨りて進むときは、拱を張ること端好、鳥の翼を舒ぶるが如し。
賓退、必復命曰、賓不顧矣。紓君敬也。○此一節、記孔子爲君擯相之容。
【読み】
賓退くときは、必ず命を復[かえ]して曰く、賓顧みず、と。君の敬を紓[ゆる]ぶ。○此の一節、孔子の君の爲に擯相するときの容を記す。
郷黨4
○入公門、鞠躳如也。如不容。鞠躳、曲身也。公門高大而若不容、敬之至也。
【読み】
○公門に入るときは、鞠躳如たり。容れられざるが如し。鞠躳は、身を曲むなり。公門高大にして容れられざるが若きは、敬の至りなり。
立不中門、行不履閾。閾、于逼反。○中門、中於門也。謂當棖闑之閒、君出入處也。閾、門限也。禮、士大夫出入公門、由闑右、不踐閾。謝氏曰、立中門、則當尊。行履閾、則不恪。
【読み】
立つときは門に中せず、行くときは閾を履まず。閾は于逼の反。○門に中すは、門に中するなり。棖闑[とうげつ]の閒に當るを謂い、君の出入する處なり。閾は門限なり。禮に、士大夫の公門を出入するときは、闑の右に由り、閾を踐まず、と。謝氏曰く、立つとき門に中するは、則ち尊に當る。行くとき閾を履むは、則ち恪[つつ]ましからず。
過位、色勃如也。足躩如也。其言似不足者。位、君之虛位。謂門屛之閒。人君宁立之處、所謂宁也。君雖不在、過之必敬。不敢以虛位而慢之也。言似不足、不敢肆也。
【読み】
位を過[よぎ]るときは、色勃如たり。足躩如たり。其の言うこと足らざる者に似たり。位は君の虛位なり。門屛の閒を謂う。人君宁立の處にて、所謂宁なり。君在せずと雖も、之を過ぐるに必ず敬す。敢えて虛位を以てして之を慢[おこた]らざるなり。言うこと足らざるに似るは、敢えて肆[ほしいまま]にせざるなり。
攝齊升堂、鞠躳如也。屛氣似不息者。齊、音咨。○攝、摳也。齊、衣下縫也。禮、將升堂、兩手摳衣。使去地尺。恐躡之而傾跌失容也。屛、藏也。息、鼻息出入者也。近至尊、氣容肅也。
【読み】
齊[もすそ]を攝[かか]げ堂に升るときは、鞠躳如たり。氣を屛[おさ]めて息せざる者に似たり。齊は音咨。○攝ぐは摳[かか]げるなり。齊は衣下の縫なり。禮に、將に堂に升らんとするに、兩手にて衣を摳げ、地を去ること尺ならしむ、と。之を躡んで傾跌して容を失わんことを恐るるなり。屛むは藏むなり。息は、鼻息の出入する者なり。至尊に近づき、氣の容肅すなり。
出降一等、逞顏色、怡怡如也。沒階趨、翼如也。復其位、踧踖如也。陸氏曰、趨下本無進字。俗本有之誤也。○等、階之級也。逞、放也。漸遠所尊、舒氣解顏。怡怡、和悦也。沒階、下盡階也。趨、走就位也。復位踧踖、敬之餘也。○此一節、記孔子在朝之容。
【読み】
出でて一等を降るときは、顏色を逞[はな]って、怡怡如たり。階を沒[つく]して趨るときは、翼如たり。其の位に復るときは、踧踖如たり。陸氏曰く、趨の下に本進の字無し。俗本に之れ有るは誤りなり。○等は階の級なり。逞つは放つなり。漸く所尊に遠ざかり、氣を舒べ顏を解く。怡怡は和悦なり。階を沒すは、下りて階を盡くすなり。趨は、走りて位に就くなり。位に復って踧踖たるは、敬の餘りなり。○此の一節、孔子朝に在すときの容を記す。
郷黨5
○執圭、鞠躳如也。如不勝。上如揖、下如授。勃如戰色。足蹜蹜如有循。勝、平聲。蹜、色六反。○圭、諸侯命圭。聘問鄰國、則使大夫執以通信。如不勝、執主器、執輕如不克。敬謹之至也。上如揖、下如授、謂執圭平衡、手與心齊、高不過揖、卑不過授也。戰色、戰而色懼也。蹜蹜、擧足促狹也。如有循、記所謂擧前曳踵、言行不離地、如緣物也。
【読み】
○圭を執るときは、鞠躳如たり。勝えざるが如し。上れるときに揖するが如く、下れるときに授[さず]くるが如し。勃如として戰色あり。足蹜蹜[しゅくしゅく]として循[したが]うこと有るが如し。勝は平聲。蹜は色六の反。○圭は諸侯の圭命なり。鄰國を聘問するときは、則ち大夫執りて以て信を通ぜしむ。勝えざるが如しは、主の器を執るに、輕きを執るも克えざるが如し。敬謹の至りなり。上れるときに揖するが如く、下れるときに授くるが如しは、圭を執ること平衡にて、手と心[むね]と齊しく、高くとも揖するに過ぎず、卑くとも授くに過ぎざるを謂うなり。戰色は、戰[おのの]いて色懼るるなり。蹜蹜は、足を擧ぐること促狹なり。循うこと有るが如しは、記に謂う所の前を擧げて踵を曳くにて、言うこころは、行きて地を離れず、物に緣るが如し、と。
享禮、有容色。享、獻也。旣聘而享、用圭璧、有庭實。有容色、和也。儀禮曰、發氣滿容。
【読み】
享禮には、容色有り。享は獻るなり。旣に聘して享るに、圭璧を用い、庭實有り。容色有りは、和なり。儀禮に曰く、氣を發し容を滿たす、と。
私覿、愉愉如也。私覿、以私禮見也。愉愉、則又和矣。○此一節、記孔子爲君聘於鄰國之禮也。晁氏曰、孔子定公九年仕魯、至十三年適齊。其閒絶無朝聘往來之事。疑使擯執圭兩條、但孔子嘗言其禮當如此爾。
【読み】
私覿[してき]には、愉愉如たり。私覿は、私禮を以て見ゆるなり。愉愉は、則ち又和なり。○此の一節、孔子の君が爲に鄰國に聘するときの禮を記すなり。晁氏曰く、孔子定公の九年魯に仕え、十三年に至りて齊に適く。其の閒絶えて朝聘往來の事無し。疑うらくは擯せしむると圭を執るの兩條、但孔子嘗て其の禮當に此の如くあるべしと言うのみ、と。
郷黨6
○君子不以紺緅飾。紺、古暗反。緅、側由反。○君子、謂孔子。紺、深靑揚赤色、齊服也。緅、絳色。三年之喪、以飾練服也。飾、領緣也。
【読み】
○君子は紺緅[かんしゅう]を以て飾[もとおし]にもせず。紺は古暗の反。緅は側由の反。○君子は孔子を謂う。紺は深靑揚赤色、齊服なり。緅は絳色。三年の喪に、以て練服に飾す。飾は領緣なり。
紅紫不以爲褻服。紅紫、閒色不正。且近於婦人女子之服也。褻服、私居服也。言此則不以爲朝祭之服可知。
【読み】
紅紫は以て褻[け]の服だにもせず。紅紫は、閒色にて正しからず。且婦人女子の服に近し。褻服は私居の服なり。此を言わば則ち以て朝祭の服と爲さざること知る可し。
當暑袗絺綌、必表而出之。袗、單也。葛之精者曰絺、麤者曰綌。表而出之、謂先著裏衣、表絺綌而出之於外。欲其不見體也。詩所謂蒙彼縐絺、是也。
【読み】
暑に當って袗[ひとえ]の絺綌[ちげき]すれば、必ず表[うわおおい]にして之を出す。袗は單なり。葛の精き者を絺と曰い、麤き者を綌と曰う。表にして之を出すは、先ず裏衣を著て、絺綌を表にして之を外に出すを謂う。其の體を見わさざらんことを欲するなり。詩に謂う所の彼の縐絺[しゅうち]を蒙る、是れなり。
緇衣羔裘、素衣麑裘、黄衣狐裘。麑、研奚反。○緇、黑色。羔裘用黑羊皮。麑、鹿子、色白。狐、色黄。衣以裼裘、欲其相稱。
【読み】
緇衣には羔の裘、素衣には麑[かこ]の裘、黄衣には狐の裘。麑は研奚の反。○緇は黑色。羔裘は黑羊の皮を用う。麑は鹿の子、色白し。狐は色黄。衣て以て裘に裼[せき]すは、其の相稱[かな]わんことを欲するなり。
褻裘長、短右袂。長、欲其温。短右袂、所以便作事。
【読み】
褻の裘は長うして、右の袂を短くす。長きは、其れ温かきを欲す。右の袂を短くするは、以て事を作すに便りある所なり。
必有寢衣、長一身有半。長、去聲。○齊主於敬。不可解衣而寢。又不可著明衣而寢。故別有寢衣。其半蓋以覆足。程子曰、此錯簡。當在齊必有明衣布之下。愚謂、如此則此條與明衣變食旣得以類相從。而褻裘狐貉、亦得以類相從矣。
【読み】
必ず寢衣有り、長[たけ]一身有半。長は去聲。○齊は敬を主とす。衣を解きて寢ぬ可からず。又明衣を著て寢ぬ可からず。故に別に寢衣有り。其の半は蓋し以て足を覆わん。程子曰く、此れ錯簡なり。當に齊必有明衣布の下に在るべし、と。愚謂えらく、此の如くなれば則ち此の條と明衣變食とは旣に類を以て相從うを得。而して褻裘狐貉も、亦類を以て相從うを得。
狐貉之厚以居、狐貉、毛深温厚。私居取其適體。
【読み】
狐貉の厚き以て居り、狐貉は、毛深くして温厚なり。私居其の體に適うを取る。
去喪無所不佩。去、上聲。○君子無故、玉不去身。觽礪之屬、亦皆佩也。
【読み】
喪を去[のぞ]いては佩ざるという所無し。去は上聲。○君子故無くば、玉身に去らず。觽礪[けいれい]の屬も、亦皆佩びるなり。
非帷裳必殺之。殺、去聲。○朝祭之服、裳用正幅如帷。要有襞積、而旁無殺縫。其餘若深衣、要半下、齊倍要。則無襞積而有殺縫矣。
【読み】
帷裳に非ざれば必ず之を殺[そ]ぐ。殺は去聲。○朝祭の服は、裳に正幅を用いて帷の如し。要に襞積有り、而して旁に殺縫無し。其の餘の深衣の若きは、要は下に半ばし、齊は要に倍す。則ち襞積無くして殺縫有るなり。
羔裘玄冠不以弔。喪主素、吉主玄。弔必變服、所以哀死。
【読み】
羔裘玄冠を以て弔せず。喪は素[しろ]きを主し、吉は玄[くろ]きを主とす。弔うに必ず服を變ずるは、死を哀しむ所以なり。
吉月必朝服而朝。吉月、月朔也。孔子在魯致仕時如此。○此一節、記孔子衣服之制。蘇氏曰、此孔子遺書、雜記曲禮。非特孔子事也。
【読み】
吉月には必ず朝服して朝す。吉月は月朔なり。孔子魯に在りて致仕の時此の如し。○此の一節、孔子の衣服の制を記す。蘇氏曰く、此れ孔子の遺書にて、曲禮を雜記す。特に孔子の事に非ざるなり、と。
郷黨7
○齊必有明衣。布。齊、側皆反。○齊必沐浴。浴竟卽著明衣。所以明潔其禮也。以布爲之。此下脱前章、寢衣一簡。
【読み】
○齊するときは必ず明衣有り。布をす。齊は側皆の反。○齊には必ず沐浴す。浴し竟れば卽ち明衣を著る。其の禮を明潔する所以なり。布を以て之を爲す。此の下に前章の寢衣の一簡を脱す。
齊必變食。居必遷坐。變食、謂不飮酒、不茹葷。遷坐、易常處也。○此一節、記孔子謹齊之事。楊氏曰、齊所以交神。故致潔變常以盡敬。
【読み】
齊するときは必ず食を變ず。居ること必ず坐を遷す。食を變ずるは、酒を飮まず、葷を茹[くら]わざるを謂う。坐を遷すは、常の處を易えるなり。○此の一節、孔子の齊を謹むの事を記す。楊氏曰く、齊するは神に交わる所以。故に潔を致し常を變じ以て敬を盡くす、と。
郷黨8
○食不厭精、膾不厭細。食、音嗣。○食、飯也。精、鑿也。牛羊與魚之腥、聶而切之爲膾。食精則能養人。膾麤則能害人。不厭、言以是爲善。非謂必欲如是也。
【読み】
○食[いい]は精[しら]げに厭[あ]かず、膾は細きに厭かず。食は音嗣。○食は飯なり。精は鑿なり。牛羊と魚との腥は、聶[ちょう]して之を切りて膾とす。食精げたれば則ち能く人を養う。膾麤ければ則ち能く人を害す。厭かずは、是を以て善しとするを言う。必ずしも是の如きを欲するを謂うに非ざるなり。
食饐而餲、魚餒而肉敗、不食。色惡不食、臭惡不食、失飪不食、不時不食。食饐之食、音嗣。饐、於冀反。餲、烏邁反。飪、而甚反。○饐、飯傷熱濕也。餲、味變也。魚爛曰餒、肉腐曰敗。色惡臭惡、未敗而色臭變也。飪、烹調生熟之節也。不時、五穀不成、果實未熟之類。此數者、皆足以傷人。故不食。
【読み】
食の饐[む]されて餲[く]ち、魚の餒[あざ]れて肉[もも]の敗れたるを食わず。色の惡しきを食わず、臭の惡しきを食わず、飪[じん]を失えるを食わず、時ならざるを食わず。食饐の食は音嗣。饐は於冀の反。餲は烏邁の反。飪は而甚の反。○饐は、飯は熱濕に傷むなり。餲は味の變ずるなり。魚爛[ただ]るるを餒と曰い、肉腐るを敗と曰う。色惡しく臭惡しきは、未だ敗れずして色臭變ずるなり。飪は、烹調生熟の節なり。時ならずは、五穀成らず、果實未だ熟せざるの類。此の數者、皆以て人を傷[そこな]うに足る。故に食わず。
割不正不食。不得其醬不食。割肉不方正者不食。造次不離於正也。漢陸續之母、切肉未嘗不方。斷葱以寸爲度。蓋其質美、與此暗合也。食肉用醬、各有所宜。不得則不食、惡其不備也。此二者、無害於人。但不以嗜味而苟食耳。
【読み】
割[きりめ]正しからざれば食わず。其の醬を得ざるは食わず。肉を割くこと方正ならざる者は食わず。造次も正しきを離れざるなり。漢の陸續の母、肉を切るに未だ嘗て方ならざることなし。葱を斷つに寸を以て度と爲す。蓋し其の質の美、此と暗合す。肉を食うに醬を用うるは、各々宜しき所有り。得ざれば則ち食わずは、其の備わざるを惡むなり。此の二つの者、人に害無し。但味を嗜むを以て苟も食わざるのみ。
肉雖多、不使勝食氣。惟酒無量、不及亂。食、音嗣。量、去聲。○食以穀爲主。故不使肉勝食氣。酒以爲人合歡。故不爲量。但以醉爲節、而不及亂耳。程子曰、不及亂者、非惟不使亂志、雖血氣亦不可使亂。但浹洽而已可也。
【読み】
肉多しと雖も、食の氣に勝たしめず。惟酒は量[はかり]無し、亂るるに及ばず。食は音嗣。量は去聲。○食は穀を以て主とす。故に肉を食の氣に勝たしめず。酒は以て人の爲に歡びを合わす。故に量を爲さず。但醉うことを以て節と爲して、亂るるに及ばざるのみ。程子曰く、亂るるに及ばずとは、惟志を亂れしめざるに非ず、血氣と雖も亦亂れしむる可からず。但浹洽するのみ可なり。
沽酒市脯、不食。沽・市、皆買也。恐不精潔、或傷人也。與不嘗康子之藥同意。
【読み】
沽[か]える酒市[か]える脯[ほしじ]は、食わず。沽・市は皆買うなり。精潔ならず、或は人を傷わんことを恐るるなり。康子の藥を嘗めざると同意なり。
不撤薑食。薑、通神明、去穢惡。故不撤。
【読み】
薑[はじかみ]を撤[す]てずして食う。薑は、神明に通じ、穢惡を去る。故に撤てず。
不多食。適可而止、無貪心也。
【読み】
多く食わず。可に適いて止み、貪る心無し。
祭於公、不宿肉。祭肉不出三日。出三日、不食之矣。助祭於公、所得胙肉、歸卽頒賜、不俟經宿者、不留神惠也。家之祭肉、則不過三日、皆以分賜。蓋過三日、則肉必敗、而人不食之。是褻鬼神之餘也。但比君所賜胙、可少緩耳。
【読み】
公に祭りては肉[しし]を宿せず。祭の肉は三日を出ださず。三日を出でしときは、之を食わざればなり。祭を公に助けて得る所の胙肉、歸りて卽ち頒賜し、宿を經るを俟たざるは、神の惠を留めざるなり。家の祭の肉、則ち三日を過ぎず、皆以て分賜す。蓋し三日を過ぐれば、則ち肉は必ず敗れて、人之を食わず。是れ鬼神の餘を褻すなり。但君の賜う所の胙に比ぶれば、少しく緩やかにす可きのみ。
食不語。寢不言。答述曰語、自言曰言。范氏曰、聖人存心不他。當食而食、當寢而寢。言語非其時也。楊氏曰、肺爲氣主、而聲出焉。寢食、則氣窒而不通。語言、恐傷之也。亦通。
【読み】
食するときは語[ものかた]らず。寢ぬるときは言[ものい]わず。答述するを語と曰い、自ら言うを言と曰う。范氏曰く、聖人の心を存するは他ならず。食するに當りて食し、寢ぬるに當りて寢ぬ。言語は其の時に非ざるなり、と。楊氏曰く、肺は氣を主と爲して、聲出づ。寢食するときは、則ち氣窒りて通ぜず。語言すれば、之を傷わんことを恐る、と。亦通ず。
雖疏食菜羹瓜祭。必齊如也。食、音嗣。陸氏曰、魯論、瓜作必。○古人飮食、每種各出少許、置之豆閒之地、以祭先代始爲飮食之人。不忘本也。齊、嚴敬貌。孔子雖薄物必祭。其祭必敬。聖人之誠也。○此一節、記孔子飮食之節。謝氏曰、聖人飮食如此。非極口腹之欲。蓋養氣體、不以傷生、當如此。然聖人之所不食、窮口腹者、或反食之。欲心勝而不暇擇也。
【読み】
疏食菜羹と雖も瓜[かなら]ず祭る。必ず齊如たり。食は音嗣。陸氏曰く、魯論に、瓜を必に作る、と。○古人飮食するに、每種各々少許を出し、之を豆閒の地に置き、以て先代に始めて飮食を爲りたる人を祭る。本を忘れざるなり。齊は嚴敬の貌。孔子薄物と雖も必ず祭る。其の祭るには必ず敬す。聖人の誠なり。○此の一節、孔子の飮食の節を記す。謝氏曰く、聖人の飮食此の如し。口腹の欲を極むるに非ず。蓋し氣體を養い、以て生を傷わざること、當に此の如くすべし。然るに聖人の食わざる所、口腹を窮むる者、或は反って之を食わん。欲心勝ちて擇ぶに暇あらざればなり、と。
郷黨9
○席不正不坐。謝氏曰、聖人心安於正。故於位之不正者、雖小不處。
【読み】
○席正しからざれば坐[お]らず。謝氏曰く、聖人の心は正しきに安んず。故に位の正しからざる者に於ては、小なりと雖も處らず、と。
郷黨10
○郷人飮酒、杖者出斯出矣。杖者、老人也。六十杖於郷。未出不敢先。旣出不敢後。
【読み】
○郷人の飮酒に、杖者出るときは斯に出づ。杖者は老人なり。六十にして郷に杖つく。未だ出ざれば敢えて先だたず。旣に出れば敢えて後れず。
郷人儺、朝服而立於阼階。儺、乃多反。○儺、所以逐疫。周禮、方相氏掌之。阼階、東階也。儺雖古禮而近於戲。亦必朝服而臨之者、無所不用其誠敬也。或曰、恐其驚先祖五祀之神、欲其依己而安也。○此一節、記孔子居郷之事。
【読み】
郷人儺[おにやらい]するときは、朝服して阼階[そかい]に立つ。儺は乃多の反。○儺は、以て疫を逐う所なり。周禮に、方相氏之を掌る、と。阼階は東階なり。儺は古禮と雖も而して戲れに近し。亦必ず朝服して之に臨むは、其の誠敬を用いざる所無ければなり。或ひと曰く、其の先祖五祀の神を驚かさんことを恐れ、其の己に依りて安んぜんことを欲するなり、と。○此の一節、孔子の郷に居すの事を記す。
郷黨11
○問人於他邦、再拜而送之。拜送使者、如親見之敬也。
【読み】
○人を他邦に問うときは、再拜して之を送る。拜して使者を送るは、親しく之に見[あ]うが如く敬するなり。
康子饋藥。拜而受之。曰、丘未達。不敢嘗。范氏曰、凡賜食必嘗以拜。藥未達、則不敢嘗。受而不飮、則虛人之賜。故告之如此。然則可飮而飮、不可飮而不飮、皆在其中矣。楊氏曰、大夫有賜、拜而受之、禮也。未達不敢嘗、謹疾也。必告之、直也。○此一節、記孔子與人交之誠意。
【読み】
康子藥を饋[おく]れり。拜して之を受く。曰く、丘未だ達せず。敢えて嘗めず、と。范氏曰く、凡そ食を賜えば必ず嘗めて以て拜す。藥未だ達せざれば、則ち敢えて嘗めず。受けて飮まざれば、則ち人の賜を虛しくす。故に之に告ぐるに此の如し。然れば則ち飮む可くして飮み、飮む可からずして飮まざるは、皆其の中に在り、と。楊氏曰く、大夫賜うこと有れば、拜して之を受くるは禮なり。未だ達せずして敢えて嘗めざるは、疾を謹むなり。必ず之に告ぐるは、直なり、と。○此の一節、孔子の人と交わるの誠意を記す。
郷黨12
○廏焚。子退朝曰、傷人乎。不問馬。非不愛馬。然恐傷人之意多。故未暇問。蓋貴人賤畜、理當如此。
【読み】
○廏焚けたり。子朝より退[まか]りて曰く、人傷[そこな]えりや。馬を問わず。馬を愛さざるに非ず。然れども人を傷うを恐るるの意多し。故に未だ問うに暇あらず。蓋し人を貴び畜を賤しむ、理は當に此の如くなるべし。
郷黨13
○君賜食、必正席先嘗之。君賜腥、必熟而薦之。君賜生、必畜之。畜、許六反。○食恐或餕餘。故不以薦。正席先嘗、如對君也。言先嘗、則餘當以頒賜矣。腥、生肉。熟而薦之祖考、榮君賜也。畜之者、仁君之惠、無故不敢殺也。
【読み】
○君食を賜うときは、必ず席を正しうして先ず之を嘗む。君腥[なま]しきを賜えば、必ず熟[うま]くして之を薦む。君生けるを賜うときは、必ず之を畜[か]う。畜は許六の反。○食或は餕餘なるを恐る。故に以て薦めず。席を正しうして先ず嘗むるは、君に對するが如し。先ず嘗むと言えば、則ち餘は當に以て頒賜すべし。腥は生肉。熟くして之を祖考に薦むは、君の賜を榮とするなり。之を畜うは、君の惠を仁[いつく]しみ、故無ければ敢えて殺さざるなり。
侍食於君、君祭先飯。飯、扶晩反。○周禮、王日一擧、膳夫授祭、品嘗食、王乃食。故侍食者、君祭、則己不祭而先飯。若爲君嘗食然。不敢當客禮也。
【読み】
君に侍して食うに、君祭るときは先ず飯う。飯は扶晩の反。○周禮に、王は日に一擧す、膳夫祭を授け、品々に嘗食し、王乃ち食う、と。故に侍食する者は、君祭れば、則ち己祭らずして先ず飯う。君の爲に嘗食するが若く然り。敢えて客禮に當らざるなり。
疾君視之、東首加朝服拖紳。首、去聲。拖、徒我反。○東首、以受生氣也。病臥不能著衣束帶、又不可以褻服見君。故加朝服於身、又引大帶於上也。
【読み】
疾めるとき君之を視れば、東首して朝服を加え紳を拖[ひ]く。首は去聲。拖は徒我の反。○東首は、以て生氣を受くるなり。病臥著衣束帶すること能わず、又褻服を以て君に見う可からず。故に朝服を身に加え、又大帶を上に引くなり。
君命召、不俟駕行矣。急趨君命。行出而駕車隨之。○此一節、記孔子事君之禮。
【読み】
君命じて召すときは、駕を俟たずして行く。急いで君命に趨く。行き出て駕車之に隨う。○此の一節、孔子の君に事るの禮を記す。
郷黨14
○入太廟、每事問。重出。
【読み】
○太廟に入りて、事每に問う。重出。
郷黨15
○朋友死、無所歸、曰、於我殯。朋友以義合。死無所歸、不得不殯。
【読み】
○朋友死して、歸[よ]る所無ければ、曰く、我に於て殯せよ。朋友は義を以て合う。死して歸る所無くば、殯せざるを得ず。
朋友之饋、雖車馬、非祭肉不拜。朋友有通財之義。故雖車馬之重不拜。祭肉則拜者、敬其祖考、同於己親也。○此一節、記孔子交朋友之義。
【読み】
朋友の饋[おくりもの]は、車馬と雖も、祭肉に非ざれば拜せず。朋友は財を通ずるの義有り。故に車馬の重きと雖も拜せず。祭肉を則ち拜するは、其の祖考を敬すること、己が親と同じなればなり。○此の一節、孔子の朋友と交わるの義を記す。
郷黨16
○寢不尸。居不容。尸、謂偃臥似死人也。居、居家。容、容儀。范氏曰、寢不尸、非惡其類於死也。惰慢之氣、不設於身體。雖舒布其四體、而亦未嘗肆耳。居不容、非惰也。但不若奉祭祀見賓客而已。申申夭夭、是也。
【読み】
○寢ぬるときは尸[かばね]のごとくせず。居るときは容[かたち]ぶりせず。尸は、偃臥して死人に似るを謂うなり。居は家に居る。容は容儀なり。范氏曰く、寢ぬるときは尸のごとくせずは、其の死に類するを惡むに非ざるなり。惰慢の氣、身體に設けず。其の四體を舒べ布すと雖も、而して亦未だ嘗て肆にせざるのみ。居るときは容ぶりせずは、惰るに非ざるなり。但祭祀に奉じ賓客に見ゆるが若くならざるのみ。申申夭夭、是れなり。
見齊衰者、雖狎必變。見冕者與瞽者、雖褻必以貌。狎、謂素親狎。褻、謂燕見。貌、謂禮貌。餘見前篇。
【読み】
齊衰する者を見ては、狎れたりと雖も必ず變ず。冕者と瞽者とを見ては、褻[せつ]なりと雖も必ず貌を以てす。狎は素より親しみ狎るるを謂う。褻は燕見を謂う。貌は禮貌を謂う。餘は前篇に見ゆ。
凶服者式之。式負版者。式、車前橫木、有所敬、則俯而憑之。負版、持邦國圖籍者。式此二者、哀有喪、重民數也。人惟萬物之靈、而王者之所天也。故周禮獻民數於王、王拜受之。況其下者、敢不敬乎。
【読み】
凶服の者には之に式す。版を負う者に式す。式は車の前の橫木、敬する所有れば、則ち俯して之に憑[よ]る。負版は、邦國の圖籍を持つ者。此の二つの者に式すは、喪有るを哀しみ、民の數を重んずればなり。人は惟萬物の靈にして、王者の天とする所なり。故に周禮に民數を王に獻れば、王拜して之を受く、と。況や其の下の者、敢えて敬せざらんや。
有盛饌、必變色而作。敬主人之禮。非以其饌也。
【読み】
盛饌有れば、必ず色を變じて作[た]つ。主人の禮を敬す。其の饌を以てするに非ざるなり。
迅雷風烈、必變。迅、疾也。烈、猛也。必變者、所以敬天之怒。記曰、若有疾風迅雷甚雨、則必變。雖夜必興、衣服冠而坐。○此一節、記孔子容貌之變。
【読み】
迅[と]く雷[いかずち]なり風烈[はげ]しきときは、必ず變ず。迅は疾なり。烈は猛なり。必ず變ずるは、天の怒を敬する所以なり。記に曰く、若し疾風迅雷甚雨有れば、則ち必ず變ず。夜と雖も必ず興き、衣服し冠して坐す、と。○此の一節、孔子の容貌の變ずるを記す。
郷黨17
○升車、必正立執綏。綏、挽以上車之索也。范氏曰、正立執綏、則心體無不正、而誠意肅恭矣。蓋君子莊敬、無所不在。升車則見於此也。
【読み】
○車に升るときは、必ず正しく立って綏[すい]を執る。綏は、挽いて以て車に上るの索[なわ]なり。范氏曰く、正しく立って綏を執るは、則ち心體正しからざる無く、而して誠意肅恭なり。蓋し君子の莊敬、在らざる所無し。車に升るときは則ち此に見わる、と。
車中不内顧。不疾言。不親指。内顧、囘視也。禮曰、顧不過轂。三者皆失容、且惑人。○此一節、記孔子升車之容。
【読み】
車中には内顧[かえりみ]ず。疾く言[ものい]わず。親しく指ささず。内顧は囘視なり。禮に曰く、顧ること轂[しんき]を過ぎず、と。三つの者皆容を失い、且人を惑わす。○此の一節、孔子の車に升るときの容を記す。
郷黨18
○色斯擧矣、翔而後集。言鳥見人之顏色不善、則飛去、囘翔審視而後下止。人之見幾而作、審擇所處、亦當如此。然此上下必有闕文矣。
【読み】
○色のままに斯に擧がり、翔[ふるま]って後に集[い]る。言うこころは、鳥人の顏色の善かざるを見るときは、則ち飛び去り、囘翔して審らかに視て後に止まる、と。人の幾を見て作[た]ち、審らかに處る所を擇ぶこと、亦當に此の如くすべし。然れども此の上下に必ず闕文有り。
曰、山梁雌雉、時哉時哉。子路共之。三嗅而作。共、九用反、又居勇反。嗅、許又反。○邢氏曰、梁、橋也。時哉、言雉之飮啄得其時。子路不達。以爲時物而共具之。孔子不食。三嗅其氣而起。晁氏曰、石經嗅作戞。謂雉鳴也。劉聘君曰、嗅當作臭。古闃反。張兩翅也。見爾雅。愚按、如後兩說、則共字當爲拱執之義。然此必有闕文。不可彊爲之說。姑記所聞、以俟知者。
【読み】
曰く、山梁の雌雉[しち]、時なるかな時なるかな。子路之を共[そな]う。三たび嗅いで作[た]つ。共は九用の反、又居勇の反。嗅は許又の反。○邢氏曰く、梁は橋なり。時なるかなは、雉の飮啄の其の時を得るを言う。子路達せず。以て時物と爲して之を共具す。孔子食わず。三たび其の氣を嗅ぎて起つ。晁氏曰く、石經嗅を戞[かつ]に作る。雉の鳴くを謂うなり、と。劉聘君曰く、嗅は當に臭に作るべし。古闃の反なり。兩翅を張るなり。爾雅に見ゆ、と。愚按ずるに、如し後の兩說によれば、則ち共の字は當に拱執の義と爲すべし。然れども此れ必ず闕文有り。彊いて之れ說を爲す可からず。姑く聞く所を記し、以て知者を俟つ。
論語卷之六
先進第十一 此篇多評弟子賢否。凡二十五章。胡氏曰、此篇記閔子騫言行者四。而其一直稱閔子。疑閔氏門人所記也。
【読み】
先進第十一 此の篇多く弟子の賢否を評す。凡て二十五章。胡氏曰く、此の篇閔子騫の言行を記す者四つ。而して其の一は直に閔子と稱す。疑うらくは閔氏門人記す所ならん、と。
先進1
○子曰、先進於禮樂、野人也。後進於禮樂、君子也。先進・後進、猶言前輩・後輩。野人、謂郊外之民。君子、謂賢士大夫也。程子曰、先進於禮樂、文質得宜、今反謂之質朴、而以爲野人。後進之於禮樂、文過其質。今反謂之彬彬、而以爲君子。蓋周末文勝。時人之言如此、不自知其過於文也。
【読み】
○子曰く、先進の禮樂に於るは、野人なり。後進の禮樂に於るは、君子なり。先進・後進は、猶前輩・後輩と言うがごとし。野人は、郊外の民を謂う。君子は、賢士大夫を謂うなり。程子曰く、先進の禮樂に於るは、文質の宜しきを得るを、今反って之を質朴たりと謂いて、以て野人と爲す。後進の禮樂に於るは、文其の質に過ぐるを、今反って之を彬彬たりと謂いて、以て君子と爲す。蓋し周の末は文勝る。時人の言此の如く、自らは其の文に過ぐるを知らざるなり、と。
如用之、則吾從先進。用之、謂用禮樂。孔子旣述時人之言、又自言其如此。蓋欲損過以就中也。
【読み】
如し之を用いば、則ち吾先進に從わん。之を用うは、禮樂を用うるを謂う。孔子旣に時人の言を述べ、又自ら其れ此の如く言う。蓋し過ぎたるを損して以て中に就かしめんと欲するなり。
先進2
○子曰、從我於陳蔡者、皆不及門也。從、去聲。○孔子嘗厄於陳蔡之閒。弟子多從之者。此時皆不在門。故孔子思之。蓋不忘其相從於患難之中也。
【読み】
○子曰く、我に陳蔡に從える者、皆門に及ばず。從は去聲。○孔子嘗て陳蔡の閒に厄[くる]しむ。弟子の之に從う者多し。此の時皆門に在らず。故に孔子之を思う。蓋し其の患難の中を相從いしを忘れざるなり。
德行、顏淵・閔子騫・冉伯牛・仲弓。言語、宰我・子貢。政事、冉有・季路。文學、子游・子夏。行、去聲。○弟子因孔子之言、記此十人、而幷目其所長、分爲四科。孔子敎人、各因其材、於此可見。○程子曰、四科乃從夫子於陳蔡者爾。門人之賢者、固不止此。曾子傳道而不與焉。故知十哲世俗論也。
【読み】
德行には、顏淵・閔子騫・冉伯牛・仲弓。言語には、宰我・子貢。政事には、冉有・季路。文學には、子游・子夏。行は去聲。○弟子孔子の言に因りて、此の十人を記して、幷せて其の長ずる所を目[なづけ]て、分けて四科と爲す。孔子の人を敎うること、各々其の材に因ること、此に於て見る可し。○程子曰く、四科は乃ち夫子に陳蔡に從いし者のみ。門人の賢者、固より此に止まらず。曾子は道を傳えて與らず。故に十哲は世俗の論なるを知る、と。
先進3
○子曰、囘也非助我者也。於吾言、無所不說。說、音悦。○助我、若子夏之起予。因疑問而有以相長也。顏子於聖人之言、默識心通、無所疑問。故夫子云然。其辭若有憾焉、其實乃深喜之。○胡氏曰、夫子之於囘、豈眞以助我望之。蓋聖人之謙德、又以深贊顏子云爾。
【読み】
○子曰く、囘は我を助くる者に非ず。吾が言に於て、說びざるという所無し。說は音悦。○我を助くは、子夏の予を起こすが若し。疑い問うに因りて以て相長ずること有るなり。顏子の聖人の言に於る、默識心通して、疑い問う所無し。故に夫子然か云う。其の辭は憾[うら]むる有るが若くなるも、其の實は乃ち深く之を喜ぶ。○胡氏曰く、夫子の囘に於る、豈眞に我を助くるを以て之を望まん。蓋し聖人の謙德にして、又以て深く顏子を贊めてと爾か云う、と。
先進4
○子曰、孝哉閔子騫。人不閒於其父母昆弟之言。閒、去聲。○胡氏曰、父母兄弟稱其孝友、人皆信之、無異詞者、蓋其孝友之實、有以積於中而著於外。故夫子歎而美之。
【読み】
○子曰く、孝なるかな閔子騫。人其の父母昆弟の言を閒[そし]らず。閒は去聲。○胡氏曰く、父母兄弟の其の孝友を稱するに、人皆之を信じて、異詞無きは、蓋し其の孝友の實、以て中に積みて外に著わるる有り。故に夫子歎じて之を美む、と。
先進5
○南容三復白圭。孔子以其兄之子妻之。三・妻、竝去聲。○詩大雅抑之篇曰、白圭之玷、尙可磨也。斯言之玷、不可爲也。南容一日三復此言。事見家語。蓋深有意於謹言也。此邦有道、所以不廢、邦無道、所以免禍。故孔子以兄子妻之。○范氏曰、言者行之表、行者言之實。未有易其言而能謹於行者。南容欲謹其言如此、則必能謹其行矣。
【読み】
○南容三たび白圭を復す。孔子其の兄の子を以て之に妻わす。三・妻は竝去聲。○詩の大雅の抑の篇に曰く、白圭の玷[かけ]たるは、尙磨くべし。斯の言の玷たるは、爲す可からず、と。南容一日に三たび此の言を復す。事は家語に見ゆ。蓋し深く言を謹むに意有り。此れ邦道有るときは、以て廢られざる所、邦道無きときは、以て禍を免れん所なり。故に孔子兄の子を以て之に妻わす。○范氏曰く、言は行の表、行は言の實なり。未だ其の言を易[おろそか]にして能く行を謹む者有らざるなり。南容の其の言を謹まんと欲すること此の如くなれば、則ち必ず能く其の行を謹まん、と。
先進6
○季康子問、弟子孰爲好學。孔子對曰、有顏囘者、好學。不幸短命死矣。今也則亡。好、去聲。○范氏曰、哀公・康子問同而對有詳略者、臣之告君、不可不盡。若康子者、必待其能問乃告之。此敎誨之道也。
【読み】
○季康子問う、弟子孰をか學を好むとする。孔子對えて曰く、顏囘という者有り、學を好めり。不幸短命で死んぬ。今は則ち亡し。好は去聲。○范氏曰く、哀公・康子の問い同じくして對えに詳略有るは、臣の君に告ぐるは、盡くさざる可からず。康子が若きは、必ず其の能く問うを待ちて乃ち之に告ぐ。此れ敎誨の道なり、と。
先進7
○顏淵死。顏路請子之車。以爲之椁。顏路、淵之父、名無繇。少孔子六歳。孔子始敎而受學焉。椁、外棺也。請爲椁、欲賣車以買椁也。
【読み】
○顏淵死す。顏路子の車を請う。以て之が椁を爲らんとす。顏路は淵の父、名は無繇[ぶゆう]。孔子に少きこと六歳。孔子始めて敎えて學を受く。椁は外棺なり。椁を爲るを請うは、車を賣りて以て椁を買わんと欲するなり。
子曰、才不才、亦各言其子也。鯉也死、有棺而無椁。吾不徒行以爲之椁。以吾從大夫之後、不可徒行也。鯉、孔子之子伯魚也。先孔子卒。言鯉之才、雖不及顏淵、然己與顏路以父視之、則皆子也。孔子時已致仕、尙從大夫之列。言後、謙辭。○胡氏曰、孔子遇舊館人之喪、嘗脱驂以賻之矣。今乃不許顏路之請何耶。葬可以無椁、驂可以脱而復求。大夫不可以徒行、命車不可以與人而鬻諸市也。且爲所識窮乏者得我、而勉強以副其意、豈誠心與直道哉。或者以爲、君子行禮、視吾之有無而已。夫君子之用財、視義之可否、豈獨視有無而已哉。
【読み】
子曰く、才も不才も、亦各々其の子を言う。鯉が死ぬるときに、棺有れども椁無し。吾徒[かち]より行きて以て之が椁を爲らざる。吾が大夫の後[しりえ]に從えるを以て、徒より行く可からざればなり。鯉は孔子の子伯魚なり。孔子に先だちて卒す。言うこころは、鯉の才、顏淵に及ばずと雖も、然れども己と顏路と父を以て之を視れば、則ち皆子なり、と。孔子時に已に仕を致せども、尙大夫の列に從う。後と言うは謙辭なり。○胡氏曰く、孔子舊館人の喪に遇い、嘗て驂[さん]を脱き以て之に賻[おく]る。今乃ち顏路の請いを許さざるは何ぞや。葬は以て椁無く可く、驂は以て脱きて復求む可し。大夫は以て徒より行く可からず、命車は以て人に與えて諸を市に鬻[ひさ]ぐ可からざるなり。且識る所の窮乏の者我に得るが爲にして、勉強[しい]て以て其の意に副うは、豈誠心と直道とにならんや。或者以爲えらく、君子の禮を行うときは、吾の有無を視るのみ、と。夫れ君子の財を用うるときは、義の可否を視て、豈獨有無を視るのみならんや、と。
先進8
○顏淵死。子曰、噫、天喪予、天喪予。喪、去聲。○噫、傷痛聲。悼道無傳、若天喪己也。
【読み】
○顏淵死んぬ。子曰く、噫、天予を喪ぼせり、天予を喪ぼせり。喪は去聲。○噫は傷痛の聲。道傳うる無きを悼むこと、天己を喪ぼすが若し。
先進9
○顏淵死。子哭之慟。從者曰、子慟矣。從、去聲。○慟、哀過也。
【読み】
○顏淵死んぬ。子之を哭して慟す。從者曰く、子慟せり。從は去聲。○慟すは哀しみの過ぎたるなり。
曰、有慟乎。哀傷之至、不自知也。
【読み】
曰く、慟すること有りしや。哀傷の至り、自ら知らざるなり。
非夫人之爲慟而誰爲。夫、音扶。爲、去聲。○夫人、謂顏淵。言其死可惜、哭之宜慟。非他人之比也。○胡氏曰、痛惜之至、施當其可。皆情性之正也。
【読み】
夫の人の爲に慟するに非ずして誰が爲にかせん。夫は音扶。爲は去聲。○夫の人は顏淵を謂う。言うこころは、其の死惜しむ可ければ、之を哭すること宜しく慟すべし。他人の比に非ざるなり、と。○胡氏曰く、痛惜の至りにして、施すこと其の可に當たる。皆情性の正しきなり、と。
先進10
○顏淵死。門人欲厚葬之。子曰、不可。喪具稱家之有無。貧而厚葬、不循理也。故夫子止之。
【読み】
○顏淵死んぬ。門人厚く之を葬むらまく欲す。子曰く、不可。喪の具えは家の有無に稱う。貧にして厚く葬るは、理に循わず。故に夫子之を止む。
門人厚葬之。蓋顏路聽之。
【読み】
門人厚く之を葬る。蓋し顏路之を聽[ゆる]さん。
子曰、囘也視予猶父也。予不得視猶子也。非我也。夫二三子也。歎不得如葬鯉之得宜、以責門人也。
【読み】
子曰く、囘が予を視ること猶父のごとし。予視ること猶子のごとくおるを得ず。我には非ざるなり。夫の二三子なり。鯉を葬むるの宜しきを得るが如く得ざるを歎き、以て門人を責めり。
先進11
○季路問事鬼神。子曰、未能事人、焉能事鬼。敢問死。曰、未知生、焉知死。焉、於虔反。○問事鬼神、蓋求所以奉祭祀之意、而死者人之所必有、不可不知。皆切問也。然非誠敬足以事人、則必不能事神、非原始而知所以生、則必不能反終而知所以死。蓋幽明・始終、初無二理。但學之有序、不可躐等。故夫子告之如此。○程子曰、晝夜者、死生之道也。知生之道、則知死之道、盡事人之道、則盡事鬼之道。死生・人鬼、一而二、二而一者也。或言、夫子不告子路。不知此乃所以深告之也。
【読み】
○季路鬼神に事らんことを問う。子曰く、未だ人に事ること能わず、焉んぞ能く鬼に事えん。敢えて死を問う。曰く、未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん。焉は於虔の反。○鬼神に事らんことを問うは、蓋し祭祀に奉ずる所以の意を求むるにて、而して死は人の必ず有る所にて、知らずんばある可からず。皆切問なり。然れども誠敬以て人に事るに足るに非ざれば、則ち必ず神に事ること能わず、始めに原[たず]ねて生まるる所以を知るに非ざれば、則ち必ず終に反って死する所以を知ること能わず。蓋し幽明・始終、初めより二理無し。但之を學ぶに序有り、等を躐ゆ可からず。故に夫子之を告ぐること此の如し。○程子曰く、晝夜は死生の道なり。生の道を知れば、則ち死の道を知り、人に事るの道を盡くせば、則ち鬼に事るの道を盡くす。死生・人鬼、一にして二、二にして一なる者なり。或ひと言う、夫子子路に告げず、と。此れ乃ち深く之に告ぐる所以なるを知らざるなり、と。
先進12
○閔子侍側。誾誾如也。子路、行行如也。冉有・子貢、侃侃如也。子樂。誾・侃、音義、見前篇。行、胡浪反。樂、音洛。○行行、剛強之貌。子樂者、樂得英才而敎育之。
【読み】
○閔子側[かたわら]に侍り。誾誾如たり。子路、行行如たり。冉有・子貢、侃侃如たり。子樂しめり。誾・侃の音義は前篇に見ゆ。行は胡浪の反。樂は音洛。○行行は剛強の貌。子樂しめりは、英才を得て之を敎え育[やしな]うを樂しむ。
若由也不得其死然。尹氏曰、子路剛強、有不得其死之理。故因以戒之。其後子路卒死於衛孔悝之難。洪氏曰、漢書引此句、上有曰字。或云、上文樂字、卽曰字之誤。
【読み】
由が若きは其の死を得ず然り。尹氏曰く、子路剛強、其の死を得ざるの理有り。故に因りて以て之を戒む。其の後子路卒に衛の孔悝が難に死せり、と。洪氏曰く、漢書に此の句を引きて、上に曰の字有り、と。或ひと云う、上文の樂の字、卽ち曰の字の誤りなり、と。
先進13
○魯人爲長府。長府、藏名。藏貨財曰府。爲、蓋改作之。
【読み】
○魯人長府を爲[つく]る。長府は藏の名。貨財を藏するを府と曰う。爲は、蓋し之を改め作るなり。
閔子騫曰、仍舊貫、如之何。何必改作。仍、因也。貫、事也。王氏曰、改作、勞民傷財。在於得已、則不如仍舊貫之善。
【読み】
閔子騫曰く、舊貫に仍[よ]らば、如之何[いかん]。何ぞ必ずしも改作せん。仍は因るなり。貫は事なり。王氏曰く、改作すれば、民を勞し財を傷る。已むことを得るに在れば、則ち舊貫に仍るが善きに如かず、と。
子曰、夫人不言、言必有中。夫、音扶。中、去聲。○言不妄發。發必當理。惟有德者能之。
【読み】
子曰く、夫の人言[ものい]わず、言えば必ず中ること有り。夫は音扶。中は去聲。○言は妄りに發せず。發せば必ず理に當たる。惟有德の者のみ之を能くす。
先進14
○子曰、由之瑟、奚爲於丘之門。程子曰、言其聲之不和、與己不同也。家語云、子路鼓瑟、有北鄙殺伐之聲。蓋其氣質剛勇、而不足於中和。故其發於聲者如此。
【読み】
○子曰く、由が瑟、奚爲[なんす]れぞ丘が門に於てする。程子曰く、其の聲の和せざる、己と同じからざるを言うなり。家語に云う、子路の瑟を鼓するに、北鄙殺伐の聲有り、と。蓋し其の氣質剛勇にして、中和に足りず。故に其の聲を發する者此の如し、と。
門人不敬子路。子曰、由也升堂矣。未入於室也。門人以夫子之言、遂不敬子路。故夫子釋之。升堂入室、喩入道之次第。言子路之學、已造乎正大高明之域。特未深入精微之奥耳。未可以一事之失、而遽忽之也。
【読み】
門人子路を敬せず。子曰く、由は堂に升れり。未だ室に入らず。門人夫子の言を以て、遂に子路を敬せず。故に夫子之を釋く。堂に升り室に入るは、道に入るの次第に喩う。言うこころは、子路の學、已に正大高明の域に造れり。特[ただ]未だ深く精微の奥に入らざるのみ。未だ一事の失を以て遽かに之を忽にす可からざるなり、と。
先進15
○子貢問、師與商也孰賢。子曰、師也過。商也不及。子張才高意廣、而好爲苟難。故常過中。子夏篤信謹守、而規模狹隘。故常不及。
【読み】
○子貢問う、師と商と孰か賢れる。子曰く、師は過ぎたり。商は及ばず。子張は才高く意廣くして、苟も難きを爲すを好む。故に常に中に過ぐ。子夏は篤く信じ謹んで守りて、規模狹く隘[さみ]し。故に常に及ばず。
曰、然則師愈與。與、平聲。○愈、猶勝也。
【読み】
曰く、然るときは則ち師は愈れるか。與は平聲。○愈るは猶勝るがごとし。
子曰、過猶不及。道以中庸爲至。賢智之過、雖若勝於愚不肖之不及、然其失中則一也。○尹氏曰、中庸之爲德也、其至矣乎。夫過與不及均也。差之毫釐、繆以千里。故聖人之敎、抑其過、引其不及、歸於中道而已。
【読み】
子曰く、過ぎたるは猶及ばざるがごとし。道は中庸を以て至れりと爲す。賢智の過ぎたるは、愚不肖の及ばざるに勝れるが若しと雖も、然れども其の中を失えるは則ち一なり。○尹氏曰く、中庸の德爲る、其れ至れるかな。夫の過ぎたると及ばざるは均しきなり。之を毫釐も差えば、繆るに千里を以てす。故に聖人の敎、其の過ぎたるを抑え、其の及ばざるを引きて、中道に歸せしむのみ、と。
先進16
○季氏富於周公。而求也爲之聚歛而附益之。爲、去聲。○周公以王室至親、有大功、位冢宰、其富宜矣。季氏以諸侯之卿、而富過之。非攘奪其君、刻剥其民、何以得此。冉有爲季氏宰、又爲之急賦稅以益其富。
【読み】
○季氏周公よりも富めり。而るを求は之が爲に聚歛して之を附益す。爲は去聲。○周公は王室の至親にて大功有り、冢宰に位するを以て、其の富めること宜[むべ]なり。季氏は諸侯の卿を以てして、富之に過ぐ。其の君を攘奪し、其の民を刻剥するに非ざれば、何を以てか此を得ん。冉有季氏の宰と爲りて、又之が爲に賦稅を急にして以て其の富を益す。
子曰、非吾徒也。小子鳴鼓而攻之可也。非吾徒、絶之也。小子鳴鼓而攻之、使門人聲其罪以責之也。聖人之惡黨惡而害民也如此。然師嚴而友親。故己絶之、而猶使門人正之。又見其愛人之無已也。○范氏曰、冉有以政事之才施於季氏。故爲不善至於如此。由其心術不明、不能反求諸身、而以仕爲急故也。
【読み】
子曰く、吾が徒に非ざるなり。小子鼓を鳴らして之を攻めんこと可なり。吾が徒に非ずは、之を絶つなり。小子鼓を鳴らして之を攻めよは、門人をして其の罪を聲[なら]して以て之を責めしむなり。聖人の惡に黨して民を害[そこな]うことを惡めること此の如し。然れども師は嚴にして友は親し。故に己ら之を絶ちて、猶門人をして之を正さしむ。又其の人を愛することの已無きことを見る。○范氏曰く、冉有政事の才を以て季氏に施す。故に不善を爲すこと此の如きに至る。其の心術明らかならざるに由りず、諸を身に反求すること能わずして、仕うるを以て急とする故なり、と。
先進17
○柴也愚。柴、孔子弟子、姓高、字子羔。愚者、知不足而厚有餘。家語記、其足不履影。啓蟄不殺。方長不折。執親之喪、泣血三年、未嘗見齒。避難而行、不徑不竇。可以見其爲人矣。
【読み】
○柴は愚なり。柴は孔子の弟子、姓は高、字は子羔。愚は、知足らずして厚きこと餘り有るなり。家語に記す、其の足影を履まず。啓蟄殺さず。方に長ずるを折らず。親の喪を執って、泣血三年、未だ嘗て齒を見さず。難を避けて行くに、徑せず竇せず、と。以て其の爲人[ひととなり]を見る可し。
參也魯。魯、鈍也。程子曰、參也竟以魯得之。又曰、曾子之學、誠篤而已。聖門學者、聰明才辯、不爲不多。而卒傳其道、乃質魯之人爾。故學以誠實爲貴也。尹氏曰、曾子之才魯。故其學也確。所以能深造乎道也。
【読み】
參は魯なり。魯は鈍なり。程子曰く、參や竟に魯を以て之を得たり、と。又曰く、曾子の學、誠にして篤きのみ。聖門の學者、聰明才辯、多からずとせず。而して卒に其の道を傳うるは、乃ち質魯の人のみ。故に學は誠實を以て貴しとす、と。尹氏曰く、曾子の才魯なり。故に其の學ぶこと確[かた]し。能く深く道に造るの所以なり、と。
師也辟。辟、婢亦反。○辟、便辟也。謂習於容止、少誠實也。
【読み】
師は辟なり。辟は婢亦の反。○辟は便辟なり。容止に習いて、誠實少なきを謂うなり。
由也喭。喭、五旦反。○喭、粗俗也。傳稱喭者、謂俗論也。○楊氏曰、四者性之偏、語之使知自勵也。吳氏曰、此章之首、脱子曰二字。或疑、下章子曰、當在此章之首、而通爲一章。
【読み】
由は喭なり。喭は五旦の反。○喭は粗俗なり。傳に喭と稱する者は、俗論を謂うなり。○楊氏曰く、四者は性の偏、之を語げて自ら勵まんことを知らしむなり、と。吳氏曰く、此の章の首[はじめ]、子曰の二字を脱す、と。或ひと疑うらくは、下章の子曰は、當に此の章の首に在りて、通じて一章と爲すべし、と。
先進18
○子曰、囘也其庶乎。屢空。庶、近也。言近道也。屢空、數至空匱也。不以貧窶動心而求富。故屢至於空匱也。言其近道、又能安貧也。
【読み】
○子曰く、囘は其れ庶いかな。屢々空し。庶いは近いなり。道に近きを言うなり。屢空しは、數々[しばしば]空匱に至るなり。貧窶を以て心を動かして富を求めず。故に屢々空匱に至るなり。其の道に近く、又能く貧に安んずるを言うなり。
賜不受命、而貨殖焉。億則屢中。中、去聲。○命、謂天命。貨殖、貨財生殖也。億、意度也。言子貢不如顏子之安貧樂道。然其才識之明、亦能料事而多中也。程子曰、子貢之貨殖、非若後人之豐財。但此心未忘耳。然此亦子貢少時事。至聞性與天道、則不爲此矣。○范氏曰、屢空者、簞食瓢飮屢絶而不改其樂也。天下之物、豈有可動其中者哉。貧富在天。而子貢以貨殖爲心、則是不能安受天命矣。其言而多中者、億而已。非窮理樂天者也。夫子嘗曰、賜不幸言而中。是使賜多言也。聖人之不貴言也如是。
【読み】
賜は命を受けずして、貨殖す。億[おもんばか]るときは則ち屢々中る。中は去聲。○命は天命を謂う。貨殖は、貨財生殖するなり。億は意[おも]い度るなり。言うこころは、子貢顏子の貧に安んじ道を樂しむに如かず。然れども其の才識の明らかなる、亦能く事を料りて多く中るなり、と。程子曰く、子貢の貨殖するは、後人の財を豐かにするが若きに非ず。但此の心未だ忘れざるのみ。然れども此れ亦子貢少かりし時の事ならん。性と天道とを聞くに至りては、則ち此を爲さざらん、と。○范氏曰く、屢空しは、簞食瓢飮屢々絶つも、而も其の樂しみを改めざるなり。天下の物、豈其の中を動かす可き者有らんや。貧富は天に在り。而して子貢貨殖を以て心と爲すは、則ち是れ天命を安んじ受くること能わず。其の言いて多く中るは、億るのみ。理を窮め天を樂しむ者に非ざるなり。夫子嘗て曰く、賜は不幸にして、言いて中る。是れ賜を多言ならしむるなり、と。聖人の言を貴ばざること是の如し、と。
先進19
○子張問善人之道。子曰、不踐迹。亦不入於室。善人、質美而未學者也。程子曰、踐迹、如言循途守轍。善人雖不必踐舊迹、而自不爲惡。然亦不能入聖人之室也。○張子曰、善人欲仁而未志於學者也。欲仁、故雖不踐成法、亦不蹈於惡。有諸己也。由不學、故無自而入聖人之室也。
【読み】
○子張善人の道を問う。子曰く、迹を踐まず。亦室に入らず。善人は、質美しくして未だ學びざる者なり。程子曰く、迹を踐むは、途に循い轍を守ると言うが如し、と。善人必ずしも舊迹を踐まずと雖も、而して自ら惡を爲さず。然れども亦聖人の室に入ること能わざるなり。○張子曰く、善人仁を欲して未だ學に志さざる者なり。仁を欲する、故に成法を踐まずと雖も、亦惡を蹈まず。諸を己に有すればなり。學ばざるに由る、故に自らして聖人の室に入ること無し、と。
先進20
○子曰、論篤是與、君子者乎。色莊者乎。與、如字。○言但以其言論篤實而與之、則未知其爲君子者乎、爲色莊者乎。言不可以言貌取人也。
【読み】
○子曰く、論篤きままに是れ與[くみ]せば、君子者ならんか。色莊者ならんか。與は字の如し。○言うこころは、但其の言論の篤實を以てして之に與せば、則ち未だ其れ君子者爲らんか、色莊者爲らんかを知らず、と。言貌を以て人を取る可からざるを言うなり。
先進21
○子路問、聞斯行諸。子曰、有父兄在、如之何、其聞斯行之。冉有問、聞斯行諸。子曰、聞斯行之。公西華曰、由也問、聞斯行諸。子曰、有父兄在。求也問、聞斯行諸。子曰、聞斯行之。赤也惑、敢問。子曰、求也退。故進之。由也兼人。故退之。兼人、謂勝人也。張敬夫曰、聞義固當勇爲。然有父兄在、則有不可得而專者。若不稟命而行、則反傷於義矣。子路有聞、未之能行、惟恐有聞。則於所當爲、不患其不能爲矣。特患爲之之意或過、而於所當稟命者有闕耳。若冉求之資稟、失之弱、不患其不稟命也。患其於所當爲者、逡巡畏縮、而爲之不勇耳。聖人一進之、一退之。所以約之於義理之中、而使之無過不及之患也。
【読み】
○子路問う、聞くままに斯れ諸を行わんや。子曰く、父兄在すこと有り、如之何[いかん]ぞ、其れ聞くままに斯れ之を行わん。冉有問う、聞くままに斯れ諸を行わんや。子曰く、聞くままに斯れ之を行え。公西華曰く、由問く、聞くままに斯れ諸を行わんや。子曰く、父兄在ぬこと有り。求問う、聞くままに斯れ諸を行わんや。子曰く、聞くままに斯れ之を行え。赤惑いて、敢えて問う。子曰く、求は退く。故に之を進む。由は人を兼ぬ。故に之を退く。人を兼ぬは、人に勝らんとすることを謂う。張敬夫曰く、義を聞いては固より當にするに勇むべし。然れども父兄在すこと有れば、則ち得て專らにす可からざる者有り。若し命を稟けずして行えば、則ち反って義を傷るなり。子路聞くこと有りて、未だ之を行うこと能わざれば、惟聞くこと有らんことを恐る。則ち當にすべき所に於て、其のすること能わざるを患えざるなり。特[ただ]之をする意、或は過ぎて、當に命を稟くべき所の者に於て闕くこと有らんことを患うるのみ。冉求の資稟の若きは、之を弱きに失し、其の命を稟けざるを患えざるなり。其の當にすべき所の者に於て、逡巡[ゆきつもどりつ]畏れ縮まりて、之をすること勇まざらんことを患うのみ。聖人一りは之を進め、一りは之を退く。之を義理の中に約して、之に過不及の患い無からしむ所以なり。
先進22
○子畏於匡。顏淵後。子曰、吾以女爲死矣。曰、子在、囘何敢死。女、音汝。○後、謂相失在後。何敢死、謂不赴鬭而必死也。胡氏曰、先王之制、民生於三。事之如一、惟其所在、則致死焉。況顏淵之於孔子、恩義兼盡。又非他人之爲師弟子者而已。卽夫子不幸而遇難、囘必捐生以赴之矣。捐生以赴之、幸而不死。則必上告天子、下告方伯、請討以復讐。不但已也。夫子而在、則囘何爲而不愛其死、以犯匡人之鋒乎。
【読み】
○子匡に畏る。顏淵後れたり。子曰く、吾女を以て死せりと爲しき。曰く、子在す、囘何ぞ敢えて死せん。女は音汝。○後は、相失って後に在るを謂う。何ぞ敢えて死せんは、鬭いに赴き死を必とせんやと謂う。胡氏曰く、先王の制、民三つに生ず。之に事ること一の如くし、惟其の在る所にして、則ち死を致す。況や顏淵の孔子に於る、恩義兼ね盡くす。又他人の師弟子爲る者のみに非ず。卽ち夫子不幸にして難に遇わば、囘必ず生を捐[す]てて以て之に赴かん。生を捐てて以て之に赴き、幸にして死せず。則ち必ず上天子に告げ、下方伯に告げ、討たんことを請うて以て讐を復いん。但には已むまじきぞ。夫子而して在せば、則ち囘何爲れぞ其の死を愛[おし]まずして、以て匡人の鋒を犯さんや。
先進23
○季子然問、仲由・冉求可謂大臣與。與、平聲。○子然、季氏子弟。自多其家得臣二子。故問之。
【読み】
○季子然問う、仲由・冉求を、大臣と謂う可けんや。與は平聲。○子然は季氏の子弟。自ら其の家に二子を臣として得ることを多とす。故に之を問えり。
子曰、吾以子爲異之問。曾由與求之問。異、非常也。曾、猶乃也。輕二子、以抑季然也。
【読み】
子曰く、吾子を以て異なることを問うと爲す。曾ち由と求と問えり。異は常に非ざるなり。曾は猶乃ちのごとし。二子を輕んずるは、以て季然を抑えんがためなり。
所謂大臣者、以道事君、不可則止。以道事君、不從君之欲。不可則止者、必行己之志。
【読み】
所謂大臣とは、道を以て君に事う、不可なるときは則ち止む。道を以て君に事うは、君の欲に從わざるなり。不可なるときは則ち止むは、必ず己が志を行うなり。
今由與求也、可謂具臣矣。具臣、謂備臣數而已。
【読み】
今由と求とは、具臣と謂いつ可し。具臣は、臣の數に備うるのみを謂う。
曰、然則從之者與。與、平聲。○意二子旣非大臣、則從季氏之所爲而已。
【読み】
曰く、然るときは則ち之に從わん者か。與は平聲。○意うに、二子旣に大臣に非ずば、則ち季氏のする所に從わんのみか、と。
子曰、弑父與君、亦不從也。言二子雖不足於大臣之道、然君臣之義、則聞之熟矣。弑逆大故、必不從之。蓋深許二子以死難不可奪之節、而又以陰折季氏不臣之心也。○尹氏曰、季氏專權僭竊。二子仕其家而不能正也。知其不可而不能止也。可謂具臣矣。是時季氏已有無君之心。故自多其得人、意其可使從己也。故曰、弑父與君、亦不從也。其庶乎二子可免矣。
【読み】
子曰く、父と君とを弑さんには、亦從わじ。言うこころは、二子大臣の道に足らずと雖も、然るに君臣の義は、則ち之を聞くこと熟せり。弑逆の大故には、必ず之に從わじ、と。蓋し深く二子を許すに死難も奪う可からずの節を以てして、又以て陰に季氏が臣たらざるの心を折[くじ]けり。○尹氏曰く、季氏權を專らにして僭竊す。二子其の家に仕えて正すこと能わず。其の不可を知りて止むること能わず。具臣と謂う可し。是の時季氏已に君を無みするの心有り。故に自ら其の人を得ることを多とし、其の己に從わしむ可きを意う。故に曰く、父と君とを弑さんには、亦從わじ、と。其れ二子免るる可きに庶からんや、と。
先進24
○子路使子羔爲費宰。子路爲季氏宰而擧之也。
【読み】
○子路子羔[しこう]をして費の宰爲らしむ。子路季氏の宰爲るとき之を擧ぐ。
子曰、賊夫人之子。夫、音扶。下同。○賊、害也。言子羔質美而未學。遽使治民、適以害之。
【読み】
子曰く、夫の人の子を賊[そこな]う。夫は音扶。下も同じ。○賊うは害うなり。言うこころは、子羔質美しうして未だ學びず。遽かに民を治めしめば、適[まさ]に以て之を害せん、と。
子路曰、有民人焉、有社稷焉。何必讀書、然後爲學。言治民事神、皆所以爲學。
【読み】
子路曰く、民人有り、社稷有り。何ぞ必ずしも書を讀んで、然して後に學ぶことをせん。言うこころは、民を治め神に事るは、皆學をする所以のことなり、と。
子曰、是故惡夫佞者。惡、去聲。○治民事神、固學者事。然必學之已成、然後可仕以行其學。若初未嘗學、而使之卽仕以爲學、其不至於慢神而虐民者幾希矣。子路之言、非其本意。但理屈詞窮、而取辨於口、以禦人耳。故夫子不斥其非、而特惡其佞也。○范氏曰、古者學而後入政。未聞以政學者也。蓋道之本在於脩身、而後及於治人。其說具於方册。讀而知之、然後能行。何可以不讀書也。子路乃欲使子羔以政爲學、失先後本末之序矣。不知其過、而以口給禦人。故夫子惡其佞也。
【読み】
子曰く、是の故に夫の佞者を惡む。惡は去聲。○民を治め神に事るは、固より學者の事なり。然れども必ず之を學ぶこと已に成り、然して後仕りて、以て其の學を行う可し。若し初めより未だ嘗て學びざるものに、之をして卽ち仕えて以て學ぶことをせしめば、其れ神を慢り民を虐ぐるに至らざる者は幾ど希なり。子路の言、其の本意に非ず。但理屈まり詞窮[つま]れて、辨を口に取って、以て人に禦[あた]れるのみ。故に夫子其の非を斥[さしいわ]ずして、特[ただ]其の佞を惡めり。○范氏曰く、古は學びて後に政に入る。未だ政を以て學者を聞かざるなり。蓋し道の本は身を脩むるに在り、而る後に人を治むるに及ぶ。其の說方册に具われり。讀みて之を知り、然る後に能く行う。何ぞ以て書を讀まざる可けんや。子路乃ち子羔に政を以て學をせしめんと欲し、先後本末の序を失す。其の過を知らずして、口給を以て人に禦れり。故に夫子其の佞を惡む、と。
先進25
○子路・曾皙・冉有・公西華、侍坐。坐、才臥反。○皙、曾參父、名點。
【読み】
○子路・曾皙・冉有・公西華、侍坐せり。坐は才臥の反。○皙は曾參の父、名は點。
子曰、以吾一日長乎爾、毋吾以也。長、上聲。○言我雖年少長於女、然女勿以我長而難言。蓋誘之盡言、以觀其志。而聖人和氣謙德、於此亦可見矣。
【読み】
子曰く、吾が一日も爾より長ぜるを以て、吾を以てすること毋かれ。長は上聲。○言うこころは、我年少しく女より長ぜると雖も、然れども女我が長ぜるを以て言うを難[はばか]ること勿かれ、と。蓋し之を誘いて言を盡くさしめ、以て其の志を觀る。而して聖人の和氣謙德、此に於て亦見つ可し。
居則曰、不吾知也。如或知爾、則何以哉。言女平居、則言人不知我。如或有人知女、則女將何以爲用也。
【読み】
居るときは則ち曰く、吾を知らず、と。如し爾を知ること或らば、則ち何を以てかせんや。言うこころは、女平居のときには、則ち人我を知らずと言う。如し或は人の女を知ること有れば、則ち女將に何を以てか用を爲さんや、と。
子路率爾而對曰、千乘之國、攝乎大國之閒、加之以師旅、因之以饑饉。由也爲之、比及三年、可使有勇且知方也。夫子哂之。乘、去聲。饑、音機。饉、音僅。比、必二反、下同。哂、詩忍反。○率爾、輕遽之貌。攝、管束也。二千五百人爲師、五百人爲旅。因、仍也。穀不熟曰饑、菜不熟曰饉。方、向也。謂向義也。民向義、則能親其上、死其長矣。哂、微笑也。
【読み】
子路率爾として對えて曰く、千乘の國、大國の閒に攝[はさ]まり、之に加うるに師旅を以てし、之に因るに饑饉を以てせん。由之を爲めば、三年に及ぶ比[ころおい]に、勇有って且[また]方[むかうかた]を知らしむ可し。夫子之を哂[わら]う。乘は去聲。饑は音機。饉は音僅。比は必二の反、下も同じ。哂は詩忍の反。○率爾は、輕く遽なる貌。攝は管束なり。二千五百人を師と爲し、五百人を旅と爲す。因は仍[かさぬ]るなり。穀熟[みの]らざるを饑と曰い、菜熟らざるを饉と曰う。方は向かうなり。義に向かうを謂う。民義に向かうときは、則ち能く其の上に親しみ、其の長に死す。哂は微しき笑うなり。
求爾何如。對曰、方六七十、如五六十、求也爲之、比及三年、可使足民。如其禮樂、以俟君子。求爾如何、孔子問也。下倣此。方六七十里、小國也。如、猶或也。五六十里、則又小矣。足、富足也。俟君子、言非己所能。冉有謙退、又以子路見哂、故其詞益遜。
【読み】
求爾は何如。對えて曰く、方六七十、如しくは五六十、求之を爲めば、三年に及ぶ比に、民を足らしむ可し。其の禮樂の如くんば、以て君子を俟たん。求爾は如何は、孔子の問いなり。下も此に倣え。方六七十里は小國なり。如しくはは猶或はのごとし。五六十里は則ち又小なり。足るは富み足るなり。君子を俟つは、己の能くする所に非ざるを言う。冉有謙退なり。又子路の哂わるるを以て、故に其の詞益々遜[ゆず]る。
赤爾何如。對曰、非曰能之、願學焉。宗廟之事、如會同、端章甫、願爲小相焉。相、去聲。○公西華、志於禮學之事。嫌以君子自居。故將言己志、而先爲遜辭。言未能而願學也。宗廟之事、謂祭祀。諸侯時見曰會、衆頫曰同。端、玄端服。章甫、禮冠。相、贊君之禮者。言小、亦謙辭。
【読み】
赤爾は何如。對えて曰く、之を能くせんと曰うには非ず、願わくは學びん。宗廟の事、如しくは會同に端章甫して、願わくは小相爲らん。相は去聲。○公西華、禮學の事に志すなり。君子を以て自ら居るに嫌[うたが]わし。故に將に己が志を言わんとして、先ず遜辭を爲す。言うこと未だ能くせんとにはあらずして願わくは學びん、と。宗廟の事は、祭祀を謂う。諸侯時見するを會と曰い、衆頫[ちょう]するを同と曰う。端は玄端の服。章甫は禮冠。相は、君の禮を贊[たす]くる者。小と言うは、亦謙辭なり。
點爾何如。鼓瑟希。鏗爾舍瑟而作、對曰、異乎三子者之撰。子曰、何傷乎。亦各言其志也。曰、莫春者、春服旣成。冠者五六人、童子六七人、浴乎沂、風乎舞雩、詠而歸。夫子喟然歎曰、吾與點也。鏗、苦耕反。舍、上聲。撰、士免反。莫・冠、竝去聲。沂、漁依反。雩、音于。○四子侍坐、以齒爲序、則點當次對。以方鼓瑟、故夫子先問求・赤、而後及點也。希、閒歇也。作、起也。撰、具也。莫春、和煦之時。春服、單袷之衣。浴、盥濯也。今上已祓除、是也。沂、水名、在魯城南。地志以爲有温泉焉。理或然也。風、乘涼也。舞雩、祭天禱雨之處、有壇墠樹木也。詠、歌也。曾點之學、蓋有以見夫人欲盡處、天理流行、隨處充滿、無少欠闕。故其動靜之際、從容如此。而其言志、則又不過卽其所居之位、樂其日用之常。初無舍己爲人之意。而其胷次悠然、直與天地萬物、上下同流、各得其所之妙、隱然自見於言外。視三子之規規於事爲之末者、其氣象不侔矣。故夫子歎息而深許之、而門人記其本末、獨加詳焉。蓋亦有以識此矣。
【読み】
點爾は何如。瑟を鼓[ひ]くこと希[き]なり。鏗爾[こうじ]として瑟を舍[お]いて作[た]って、對えて曰く、三子者の撰に異なれり。子曰く、何ぞ傷[いた]まんや。亦各々其の志を言うなり。曰く、莫春には、春服旣に成る。冠者五六人、童子六七人、沂[き]に浴し、舞雩[ぶう]に風じ、詠じて歸らん。夫子喟然として歎じて曰く、吾は點に與せん。鏗は苦耕の反。舍は上聲。撰は士免の反。莫・冠は竝去聲。沂は漁依の反。雩は音于。○四子侍坐するに、齒を以て序と爲せば、則ち點は當に次に對うべし。方に瑟を鼓するを以て、故に夫子先ず求と赤に問い、而して後に點に及ぶなり。希は閒歇なり。作つは起つなり。撰は具なり。莫春は和煦[わく]の時。春服は單袷の衣。浴すは盥濯なり。今の上已の祓除、是れなり。沂は水の名、魯の城南に在り。地志以て温泉有りと爲す。理或は然らん。風すは、涼に乘るなり。舞雩は、天を祭り雨を禱る處、壇墠樹木有り。詠は歌なり。曾點の學、蓋し以て夫の人欲盡きる處、天理流行し、處に隨いて充滿して、少しの欠闕無きを見ること有り。故に其の動靜の際、從容たること此の如し。而して其の言うところの志は、則ち又其の居る所の位に卽きて、其の日用の常を樂しむに過ぎず。初めより己を舍て人に爲しむるの意無し。而して其の胷次悠然として、直ちに天地萬物と、上下流れを同じくし、各々其の所を得るの妙、隱然として自ら言外に見わる。三子の事爲の末に規規たる者に視[くら]ぶれば、其の氣象侔[ひと]しからず。故に夫子歎息して深く之を許して、門人其の本末を記すに、獨り詳を加う。蓋し亦以て此を識ること有らん。
三子者出。曾皙後。曾皙曰、夫三子者之言何如。子曰、亦各言其志也已矣。夫、音扶。
【読み】
三子者出づ。曾皙後れたり。曾皙曰く、夫の三子者の言何如。子曰く、亦各々其の志を言えらくのみ。夫は音扶。
曰、夫子何哂由也。點以子路之志、乃所優爲、而夫子哂之、故請其說。
【読み】
曰く、夫子何ぞ由を哂[わら]える。點子路の志は乃ち優爲する所にして、夫子之を哂うを以て、故に其の說を請う。
曰、爲國以禮。其言不讓。是故哂之。夫子蓋許其能、特哂其不遜。
【読み】
曰く、國を爲むるには禮を以てす。其の言讓らず。是の故に之を哂う。夫子蓋し其の能を許し、特[ただ]其の遜らざるを哂わん。
唯求則非邦也與。安見方六七十、如五六十、而非邦也者。與、平聲。下同。○曾點以冉求亦欲爲國而不見哂、故微問之。而夫子之答無貶詞。蓋亦許之。
【読み】
唯求は則ち邦に非ずや。安んぞ方六七十、如しくは五六十にして、邦に非ざる者を見ん。與は平聲。下も同じ。○曾點冉求も亦國を爲めんと欲して哂われざるを以て、故に微かに之を問う。而して夫子の答に貶めの詞無し。蓋し亦之を許さん。
唯赤則非邦也與。宗廟會同、非諸侯而何。赤也爲之小、孰能爲之大。此亦曾皙問、而夫子答也。孰能爲之大、言無能出其右者。亦許之之詞。○程子曰、古之學者、優柔厭飫、有先後之序。如子路・冉有・公西赤、言志如此、夫子許之亦以此、自是實事。後之學者好高、如人游心千里之外、然自身卻只在此。又曰、孔子與點、蓋與聖人之志同、便是堯舜氣象也。誠異三子者之撰、特行有不掩焉耳。此所謂狂也。子路等所見者小。子路只爲不達爲國以禮道理、是以哂之。若達、却便是這氣象也。又曰、三子皆欲得國而治之。故夫子不取。曾點狂者也。未必能爲聖人之事、而能知夫子之志。故曰、浴乎沂、風乎舞雩、詠而歸。言樂而得其所也。孔子之志、在於老者安之、朋友信之、少者懷之、使萬物莫不遂其性。曾點知之。故夫子喟然歎曰、吾與點也。又曰、曾點・漆雕開、已見大意。
【読み】
唯赤は則ち邦に非ずや。宗廟會同、諸侯に非ずして何ぞ。赤之が小爲れば、孰か能く之が大爲らん。此も亦曾皙問いて、夫子答うるなり。孰か能く之が大爲らんは、言うこころは、能く其の右に出る者無し、と。亦之を許すの詞なり。○程子曰く、古の學者は優柔厭飫にて、先後の序有り。子路・冉有・公西赤の如きは、志を言えば此の如く、夫子之を許すに亦此を以てするは、自ら是れ實事なり。後の學者の高きを好むは、人の心を千里の外に游ばせ、然るに自身は卻て只此に在るが如し、と。又曰く、孔子の點に與するは、蓋し聖人の志と同じく、便ち是れ堯舜の氣象なり。誠に三子者の撰に異りて、特行い掩わざるもの有るのみ。此れ所謂狂なり。子路等の見る所は小なり。子路は只國を爲むるには禮を以てするの道理に達せざるが爲に、是を以て之を哂う。若し達せば、却て便ち是れ這の氣象なり、と。又曰く、三子は皆國を得て之を治めんと欲す。故に夫子取らず。曾點は狂者なり。未だ必ずしも能く聖人の事を爲ざるも、而して能く夫子の志を知る。故に曰く、沂に浴し、舞雩に風じ、詠じて歸らん、と。樂しみて其の所を得るを言うなり。孔子の志は、老者は之を安んじ、朋友は之を信じ、少者は之を懷けん、萬物其の性を遂げざること莫からしむに在り。曾點は之を知る。故に夫子喟然として歎じて曰く、吾は點に與せん、と。又曰く、曾點・漆雕開、已に大意を見る、と。
顏淵第十二 凡二十四章。
顏淵1
○顏淵問仁。子曰、克己復禮爲仁。一日克己復禮、天下歸仁焉。爲仁由己、而由人乎哉。仁者、本心之全德。克、勝也。己、謂身之私欲也。復、反也。禮者、天理之節文也。爲仁者、所以全其心之德也。蓋心之全德、莫非天理。而亦不能不壞於人欲。故爲仁者、必有以勝私欲而復於禮、則事皆天理、而本心之德、復全於我矣。歸、猶與也。又言一日克己復禮、則天下之人、皆與其仁、極言其效之甚速而至大也。又言爲仁由己、而非他人所能預、又見其機之在我而無難也。日日克之、不以爲難、則私欲淨盡、天理流行、而仁不可勝用矣。程子曰、非禮處、便是私意。旣是私意、如何得仁。須是克盡己私、皆歸於禮。方始是仁。又曰、克己復禮、則事事皆仁。故曰、天下歸仁。謝氏曰、克己、須從性偏難克處克將去。
【読み】
○顏淵仁を問う。子曰く、己に克ちて禮に復るを仁とす。一日も己に克ちて禮に復れば、天下仁を歸[ゆる]す。仁をすること己に由り、而して人に由らんや。仁は本心の全德。克つは勝つなり。己は身の私欲を謂うなり。復るは反るなり。禮は天理の節文なり。仁をするは、其の心の德を全くする所以なり。蓋し心の全德は、天理に非ざる莫し。而れども亦人欲に壞られざること能わず。故に仁をする者、必ず以て私欲に勝ちて禮に復ること有れば、則ち事は皆天理にして、本心の德、復我に全し。歸は猶與のごとし。又言うところの一日も克己復禮するときは、則ち天下の人、皆其の仁を與[ゆる]すは、其の效の甚だ速やかにして至りて大いなることを極め言うなり。又言うところの仁をすること己に由り、而して他人の能く預る所に非ずは、又其の機我に在りて難きこと無きを見わすなり。日日之に克ち、以て難きとせざれば、則ち私欲淨[きよ]まり盡き、天理流れ行[めぐ]り、仁用に勝う可からず。程子曰く、非禮の處は、便ち是れ私意。旣に是れ私意なれば、如何ぞ仁を得ん。須く是れ己の私に克ち盡くし、皆禮に歸るべくして、方に始めて是れ仁なり、と。又曰く、克己復禮は、則ち事事皆仁。故に曰く、天下仁を歸す、と。謝氏曰く、己に克つは、須く性の偏[かたおち]にして克ち難き處從[よ]り克ち將[も]って去るべし、と。
顏淵曰、請問其目。子曰、非禮勿視、非禮勿聽、非禮勿言、非禮勿動。顏淵曰、囘雖不敏、請事斯語矣。目、條件也。顏淵聞夫子之言、則於天理人欲之際、已判然矣。故不復有所疑問、而直請其條目也。非禮者、己之私也。勿者、禁止之辭。是人心之所以爲主而勝私復禮之機也。私勝、則動容周旋、無不中禮、而日用之閒、莫非天理之流行矣。事、如事事之事。請事斯語、顏子默識其理、又自知其力有以勝之。故直以爲己任而不疑也。○程子曰、顏淵問克己復禮之目。子曰、非禮勿視、非禮勿聽、非禮勿言、非禮勿動。四者身之用也。由乎中而應乎外。制於外、所以養其中也。顏淵事斯語、所以進於聖人。後之學聖人者、宜服膺而勿失也。因箴以自警。其視箴曰、心兮本虛、應物無迹。操之有要。見爲之則。蔽交於前、其中則遷。制之於外、以安其内。克己復禮、久而誠矣。其聽箴曰、人有秉彝、本乎天性。知誘物化、遂亡其正。卓彼先覺、知止有定。閑邪存誠、非禮勿聽。其言箴曰、人心之動、因言以宣。發禁躁妄、内斯靜專。矧是樞機、興戎出好。吉凶榮辱、惟其所召。傷易則誕、傷煩則支。己肆物忤、出悖來違。非法不道。欽哉訓辭。其動箴曰、哲人知幾、誠之於思。志士勵行、守之於爲。順理則裕、從欲惟危。造次克念、戰兢自持。習與性成、聖賢同歸。愚按、此章問答、乃傳授心法、切要之言。非至明不能察其幾、非至健不能致其決。故惟顏子得聞之。而凡學者亦不可以不勉也。程子之箴、發明親切、學者尤宜深玩。
【読み】
顏淵曰く、其の目を請い問う。子曰く、禮に非ずば視ること勿かれ、禮に非ずば聽くこと勿かれ、禮に非ずば言うこと勿かれ、禮に非ずば動くこと勿かれ。顏淵曰く、囘不敏なりと雖も、請う斯の語を事とせん。目は條件なり。顏淵夫子の言を聞くや、則ち天理人欲の際に於て、已に判然たり。故に復疑い問う所有らずして、直に其の條目を請うなり。非禮は、己の私なり。勿かれは、禁止の辭。是れ人心の以て主と爲りて私に勝ち禮に復る所の機なり。私に勝てば、則ち動容周旋、禮に中らざること無く、而して日用の閒、天理の流行に非ざること莫し。事は、事を事とするの事の如し。請う斯の語を事とせんは、顏子其の理を默識し、又自ら其の力以て之に勝うこと有る知る。故に直に以て己が任として疑わず。○程子曰く、顏淵己に克ちて禮に復るの目を問う。子曰く、禮に非ずば視ること勿かれ、禮に非ずば聽くこと勿かれ、禮に非ずば言うこと勿かれ、禮に非ずば動くること勿かれ、と。四つの者は身の用なり。中に由って外に應ず。外を制するは、其の中を養う所以なり。顏淵の斯の語を事とせんとするは、聖人に進む所以なり。後の聖人を學者、宜しく服膺して失うこと勿かるべし。因りて箴し以て自ら警む。其の視箴に曰く、心は本虛にして、物に應ずれども迹無し。之を操[と]るに要有り、視之が則と爲る。蔽前に交われば、其の中則ち遷る。之を外に制して、以て其の内を安んず。己に克ち禮に復れば、久しくして誠なり。其の聽箴に曰く、人に秉彝[へいい]有るは、天性に本[もとづ]く。知誘い物化し、遂に其の正しきを亡う。卓たる彼の先覺、止るを知りて定る有り。邪を閑[ふせ]ぎ誠を存し、禮に非ずんば聽くこと勿し。其の言箴に曰く、人心の動は、言に因りて以て宜[の]ぶ。發するとき躁妄を禁ずれば、内斯に靜專なり。矧[いわん]や是れ樞機にして、戎を興し好しみを出す。吉凶榮辱、惟れ其の召す所なるをや。易に傷[やぶ]れば則ち誕にして、煩に傷れば則ち支なり。己肆[ほしいまま]なれば物忤[さか]い、出づるとき悖れば來るとき違う。法に非ずんば道[い]わず。欽[つつし]まんかな訓辭。其の動箴に曰く、哲人は幾を知り、之を思に誠にす。志士は行を厲[はげ]み、之を爲[い]に守る。理に順えば則ち裕にして、欲に從えば惟れ危し。造次も克く念[おも]い、戰兢として自ら持す。習性と成れば、聖賢と歸を同じくす、と。愚按ずるに、此の章の問答、乃ち心法を傳授する、切要の言なり。至りて明なるものに非ざれば其の幾を察すること能わず、至りて健やかなるものに非ざれば其の決を致すこと能わず。故に惟顏子のみ之を聞くことを得たり。而して凡て學者も亦以て勉めとせずんばある可からず。程子の箴、發明親切、學者尤も宜しく深く玩ぶべし。
顏淵2
○仲弓問仁。子曰、出門如見大賓、使民如承大祭、己所不欲、勿施於人。在邦無怨、在家無怨。仲弓曰、雍雖不敏、請事斯語矣。敬以持己、恕以及物、則私意無所容、而心德全矣。内外無怨、亦以其效言之、使以自考也。○程子曰、孔子言仁、唯說出門如見大賓、使民如承大祭、看其氣象、便須心廣體胖、動容周旋中禮。唯謹獨、便是守之之法。或問、出門使民之時、如此可也。未出門使民之時、如之何。曰、此儼若思時也。有諸中而後見於外。觀其出門使民之時、其敬如此、則前乎此者、敬可知矣。非因出門使民、然後有此敬也。愚按、克己復禮、乾道也。主敬行恕、坤道也。顏・冉之學、其高下淺深、於此可見。然學者誠能從事於敬恕之閒、而有得焉、亦將無己之可克矣。
【読み】
○仲弓仁を問う。子曰く、門を出でては大賓に見[あ]うが如く、民を使うには大祭に承[つかまつ]るが如く、己が欲せざる所を、人に施すこと勿かれ。邦に在っても怨無く、家に在っても怨無し。仲弓曰く、雍不敏なりと雖も、請う斯の語を事とせん。敬以て己を持[たも]ち、恕以て物に及ぼせば、則ち私意容るる所無くして、心の德全し。内外怨無しは、亦其の效を以て之を言い、以て自ら考えせしむなり。○程子曰く、孔子仁を言うに、唯門を出でては大賓に見うが如く、民を使うには大祭に承るが如くと說くのみなれども、其の氣象を看れば、便ち須く心廣く體胖かに、動容周旋禮に中るべし。唯獨りを謹むこと、便ち是れ之を守るの法なり、と。或ひと問う、門を出でて民を使う時、此の如きは可なり。未だ門を出でて民を使わざる時は、之を如何せん、と。曰く、此れ儼として思うが若くすの時なり。諸れ中に有りて後外に見[あら]わる。其の門を出でて民を使う時を觀て、其の敬此の如くば、則ち此より前も、敬を知る可し。門を出でて民を使うに因りて、然る後此の敬有るに非ざるなり、と。愚按ずるに、己に克ちて禮に復るは、乾道なり。敬を主にして恕を行うは、坤道なり。顏・冉の學、其の高下淺深、此に於て見る可し。然れども學者誠に能く敬恕の閒に從事して、得ること有らば、亦將に己に之れ克つ可きこと無しとせん。
顏淵3
○司馬牛問仁。司馬牛、孔子弟子、名犁、向魋之弟。
【読み】
○司馬牛仁を問う。司馬牛は孔子の弟子、名は犁、向魋の弟。
子曰、仁者其言也訒。訒、音刃。○訒、忍也、難也。仁者心存、而不放。故其言若有所忍、而不易發。蓋其德之一端也。夫子以牛多言而躁、故告之以此、使其於此而謹之。則所以爲仁之方、不外是矣。
【読み】
子曰く、仁者は其の言訒[かた]んず。訒は音刃。○訒は忍なり、難なり。仁者は心を存して放たず。故に其の言忍ぶ所有るが若くして、易く發せず。蓋し其れ德の一端なり。夫子牛の多言にして躁がしきを以て、故に之に告ぐるに此を以てし、其れ此に於て之を謹ましむ。則ち仁をするの所以の方は、是に外ならず。
曰、其言也訒、斯謂之仁矣乎。子曰、爲之難。言之、得無訒乎。牛意、仁道至大。不但如夫子之所言。故夫子又告之以此。蓋心常存、故事不苟。事不苟、故其言自有不得而易者。非強閉之而不出也。楊氏曰、觀此及下章再問之語、牛之易其言可知。○程子曰、雖爲司馬牛多言故及此、然聖人之言、亦止此爲是。愚謂、牛之爲人如此。若不告之以其病之所切、而泛以爲仁之大概語之、則以彼之躁、必不能深思以去其病、而終無自以入德矣。故其告之如此。蓋聖人之言、雖有高下大小之不同、然其切於學者之身、而皆爲入德之要、則又初不異也。讀者其致思焉。
【読み】
曰く、其の言訒き、斯れ之を仁と謂うか。子曰く、之をすること難し。之を言うこと、訒んずること無きことを得んや。牛意えらく、仁の道至って大なり。但夫子の言う所の如きのみならじ、と。故に夫子又之に告ぐるに此を以てす。蓋し心常に存す、故に事苟もせず。事苟もせざる、故に其の言自ら得て易からざる者有り。強いて之を閉じて出ださざるには非ざるなり。楊氏曰く、此及び下章の再問の語を觀れば、牛の其の言を易[かろ]んじるを知る可し、と。○程子曰く、司馬牛多言なるが爲の故に此に及ぶと雖も、然れども聖人の言、亦此に止まるを是とす、と。愚謂えらく、牛の爲人[ひととなり]此の如し。若し之に告ぐるに其の病の切なる所を以てせずして、泛く仁をするの大概を以て之に語れば、則ち彼の躁がしきを以て、必ず深く思いて以て其の病を去ること能わずして、終に自ら以て德に入ること無けん。故に其の之に告ぐること此の如し。蓋し聖人の言、高下大小の同じからざること有りと雖も、然れども其の學者の身に切にして、皆德に入るの要爲ること、則ち又初めより異ならず。讀者其れ思いを致せ。
顏淵4
○司馬牛問君子。子曰、君子不憂不懼。向魋作亂。牛常憂懼。故夫子告之以此。
【読み】
○司馬牛君子を問う。子曰く、君子は憂えず懼れず。向魋亂を作す。牛常に憂懼す。故に夫子之に告ぐるに此を以てす。
曰、不憂不懼、斯謂之君子矣乎。子曰、内省不疚、夫何憂何懼。夫、音扶。○牛之再問、猶前章之意。故復告之以此。疚、病也。言由其平日所爲、無愧於心、故能内省不疚、而自無憂懼。未可遽以爲易而忽之也。○晁氏曰、不憂不懼、由乎德全而無疵。故無入而不自得。非實有憂懼而強排遺之也。
【読み】
曰く、憂ず懼れず、斯れ之を君子と謂うか。子曰く、内に省みて疚[やま]しからず、夫れ何をか憂え何をか懼れん。夫は音扶。○牛の再問は、猶前章の意のごとし。故に復之に告ぐるに此を以てす。疚は病なり。言うこころは、其の平日のする所、心に愧ずること無きに由りて、故に能く内に省みて疚しからずして、自ら憂懼無し。未だ遽かに以て易きこととして之を忽[あなど]る可からず、と。○晁氏曰く、憂えず懼れざるは、德全くして疵無きに由る。故に入るとして自得せずということ無し。實に憂懼有るときに強いて之を排[はら]い遺[の]くるに非ざるなり、と。
顏淵5
○司馬牛憂曰、人皆有兄弟。我獨亡。牛有兄弟、而云然者、憂其爲亂而將死也。
【読み】
○司馬牛憂えて曰く、人皆兄弟有り。我獨り亡[な]し。牛兄弟有りて、然か云うは、其の亂を爲して將に死せんとするを憂えてなり。
子夏曰、商聞之矣。蓋聞之夫子。
【読み】
子夏曰く、商之を聞けり。蓋し之を夫子に聞くことならん。
死生有命、富貴在天。命稟於有生之初。非今所能移。天莫之爲而爲。非我所能必。但當順受而已。
【読み】
死生命有り、富貴天に在り。命は有生の初めに稟く。今の能く移す所に非ず。天は之を爲すこと莫くして爲す。我の能く必する所に非ず。但當に順い受けんのみ。
君子敬而無失、與人恭而有禮、四海之内、皆兄弟也。君子何患乎無兄弟也。旣安於命、又當脩其在己者。故又言、苟能持己以敬、而不閒斷、接人以恭、而有節文、則天下之人、皆愛敬之如兄弟矣。蓋子夏欲以寬牛之憂。故爲是不得已之辭。讀者不以辭害意可也。○胡氏曰、子夏四海皆兄弟之言、特以廣司馬牛之意。意圓而語滯者也。唯聖人則無此病矣。且子夏知此、而以哭子喪明、則以蔽於愛而昧於理。是以不能踐其言爾。
【読み】
君子敬して失すること無く、人に與すること恭しくして禮有らば、四海の内、皆兄弟ならん。君子何ぞ兄弟無きことを患えんや。旣に命に安んずれば、又當に其の己に在るものを脩むべし。故に又言う、苟も能く己を持[たも]つに敬を以てして、閒斷せず、人に接するに恭を以てして、節文有らば、則ち天下の人、皆之を愛敬すること兄弟の如し、と。蓋し子夏以て牛の憂えを寬[と]かんと欲す。故に是の已むことを得ざるの辭を爲す。讀者辭を以て意を害せざらんこと可なり。○胡氏曰く、子夏の四海皆兄弟の言は、特[ただ]以て司馬牛の意を廣むのみ。意圓[まどか]にして語滯る者なり。唯聖人のみ則ち此の病無し。且子夏此を知りて、子を哭すを以て明を喪うは、則ち愛に蔽われて理に昧むを以てなり。是を以て其の言を踐むこと能わざるのみ、と。
顏淵6
○子張問明。子曰、浸潤之譖、膚受之愬、不行焉、可謂明也已矣。浸潤之譖、膚受之愬、不行焉、可謂遠也已矣。譖、莊蔭反。愬、蘇路反。○浸潤、如水之浸灌滋潤、漸漬而不驟也。譖、毀人之行也。膚受、謂皮膚所受、利害切身。如易所謂剥牀以膚、切近災者也。愬、愬己之寃也。毀人者、漸漬而不驟、則聽者不覺其入、而信之深矣。愬寃者、急迫而切身、則聽者不及致詳、而發之暴矣。二者難察。而能察之、則可見其心之明、而不蔽於近矣。此亦必因子張之失而告之。故其辭繁而不殺、以致丁寧之意云。○楊氏曰、驟而語之、與利害不切於身者不行焉、有不待明者能之也。故浸潤之譖、膚受之愬不行、然後謂之明、而又謂之遠。遠則明之至也。書曰、視遠惟明。
【読み】
○子張明を問う。子曰く、浸潤の譖[そしり]、膚受の愬[うったえ]、行われざるを、明と謂いつ可きのみ。浸潤の譖、膚受の愬、行われざるを、遠と謂いつ可きのみ。譖は莊蔭の反。愬は蘇路の反。○浸潤は、水の浸灌滋潤し、漸く漬して驟[にわ]かならざるが如きなり。譖は、人の行を毀るなり。膚受は、皮膚の受くる所の、利害の身に切なるを謂う。易に謂う所の牀を剥して膚に以[およ]ぶ、災に近切すが如き者なり。愬は、己の寃を愬うるなり。人を毀る者、漸く漬して驟かならざれば、則ち聽く者其の入るを覺えずして、之を信ずること深し。寃を愬うる者、急迫して身に切ならば、則ち聽く者詳を致すに及ばずして、之に發[おう]ずること暴[すみやか]なり。二つの者は察し難し。而して能く之を察せば、則ち其の心の明にして、近きに蔽われざるを見る可し。此も亦必ず子張が失に因りて之を告ぐ。故に其の辭繁くして殺[そ]がず、以て丁寧の意を致すと云う。○楊氏曰く、驟かにして之に語げると、利害の身に切ならざる者とが行われざるは、明者を待たずして之を能くすること有り。故に浸潤の譖、膚受の愬行われずして、然る後に之を明と謂い、而して又之を遠と謂う。遠は則ち明の至りなり。書に曰く、遠きを視るは惟れ明、と。
顏淵7
○子貢問政。子曰、足食、足兵、民信之矣。言倉廩實而武備脩、然後敎化行。而民信於我不離叛也。
【読み】
○子貢政を問う。子曰く、食を足し、兵を足し、民之を信ず。言うこころは、倉廩實ちて武備脩まり、然る後敎化行わるる。而して民我を信じて離れ叛かざるなり、と。
子貢曰、必不得已而去、於斯三者何先。曰、去兵。去、上聲。下同。○言食足而信孚、則無兵而守固矣。
【読み】
子貢曰く、必ず已むことを得ずして去[す]てば、斯の三つの者に於て何れをか先んぜん。曰く、兵を去てん。去は上聲。下も同じ。○言うこころは、食足りて信孚[ふか]ければ、則ち兵無きも守ること固し。
子貢曰、必不得已而去、於斯二者何先。曰、去食。自古皆有死。民無信不立。民無食必死。然死者、人之所必不免。無信、則雖生而無以自立。不若死之爲安。故寧死而不失信於民、使民亦寧死而不失信於我也。○程子曰、孔門弟子善問、直窮到底。如此章者、非子貢不能問。非聖人不能答也。愚謂、以人情而言、則兵食足、而後吾之信可以孚於民。以民德而言、則信本人之所固有、非兵食所得而先也。是以爲政者、當身率其民、而以死守之。不以危急而可棄也。
【読み】
子貢曰く、必ず已むことを得ずして去てば、斯の二つの者に於て何れをか先んぜん。曰く、食を去てん。古より皆死有り。民信無くんば立たず。民食無くば必ず死す。然れども死は、人の必ず免れざる所なり。信無くんば、則ち生けりと雖も以て自立すること無し。死するが安しとするに若かず。故に寧ろ死すとも信を民に失わず、民も亦寧ろ死しても信を我に失わざらしめん。○程子曰く、孔門の弟子問いを善くして、直ちに到底を窮む。此の章の如きは、子貢に非ずば問うこと能わず。聖人に非ざれば答うること能わざるなり、と。愚謂えらく、人情を以て言わば、則ち兵食足りて、而る後に吾の信以て民に孚かる可し。民の德を以て言わば、則ち信は本より人の固有する所にて、兵と食の得て先んずる所に非ず。是を以て政を爲むる者は、當に身[みずか]ら其の民を率いて、死を以て之を守るべし。危急を以て棄つ可からざるなり。
顏淵8
○棘子成曰、君子質而已矣。何以文爲。棘子成、衛大夫。疾時人文勝。故爲此言。
【読み】
○棘子成[きょくしせい]が曰く、君子は質ならくのみ。何ぞ文を以てすることを爲せん。棘子成は、衛の大夫。時人の文の勝るを疾[にく]む。故に此の言を爲す。
子貢曰、惜乎、夫子之說君子也、駟不及舌。言子成之言、乃君子之意。然言出於舌、則駟馬不能追之。又惜其失言也。
【読み】
子貢曰く、惜しいかな、夫子の說は君子なり、駟[し]も舌に及ばず。言うこころは、子成の言、乃ち君子の意なり。然れども言舌より出でれば、則ち駟馬も之を追うこと能わず、と。又其の失言を惜しむなり。
文猶質也。質猶文也。虎豹之鞟、猶犬羊之鞟。鞟、其郭反。○鞟、皮去毛者也。言文質等耳。不可相無。若必盡去其文、而獨存其質、則君子小人無以辨矣。夫棘子成矯當時之弊、固失之過、而子貢矯子成之弊、又無本末輕重之差。胥失之矣。
【読み】
文は猶質のごとし。質は猶文のごとし。虎豹の鞟[つくりかわ]は、猶犬羊の鞟のごとし。鞟は其郭の反。○鞟は皮の毛を去る者なり。言うこころは、文質等しきのみ。相無きことある可からず。若し必ず盡く其の文を去って、獨[ただ]其の質を存せば、則ち君子小人以て辨つこと無し。夫れ棘子成當時の弊を矯めるも、固より過ぐるに失し、而して子貢子成の弊を矯めるも、又本末輕重の差無し。胥[みな]之を失するなり。
顏淵9
○哀公問於有若曰、年饑用不足。如之何。稱有若者、君臣之辭。用、謂國用。公意蓋欲加賦以足用也。
【読み】
○哀公有若に問うて曰く、年饑[いいうえ]して用足らず。如之何[いかん]かせん。有若と稱するは、君臣の辭。用は國用を謂う。公の意蓋し賦を加して以て用を足さんと欲するなり。
有若對曰、盍徹乎。徹、通也、均也。周制一夫受田百畝、而與同溝共井之人、通力合作、計畝均收。大率民得其九、公取其一。故謂之徹。魯自宣公稅畝、又逐畝什取其一、則爲什而取二矣。故有若請但專行徹法、欲公節用以厚民也。
【読み】
有若對えて曰く、盍ぞ徹せざるや。徹は通なり、均なり。周の制は一夫田百畝を受けて、溝を同じくし井を共にする人と、力を通じ合作し、畝を計り均しく收む。大率民は其の九を得、公は其の一を取る。故に之を徹と謂う。魯は宣公の畝に稅してより、又畝を逐い什に其の一を取れば、則ち什にして二を取ると爲す。故に有若但專ら徹法を行わんことを請い、公の用を節し以て民を厚くせんことを欲するなり。
曰、二吾猶不足。如之何其徹也。二、卽所謂什二也。公以有若不喩其旨、故言此以示加賦之意。
【読み】
曰く、二つだも吾猶足らず。如之何ぞ其れ徹せん。二つは、卽ち謂う所の什の二なり。公有若の其の旨を喩らざるを以て、故に此を言いて以て賦を加えんの意を示す。
對曰、百姓足、君孰與不足。百姓不足、君孰與足。民富則君不至獨貧。民貧則君不能獨富。有若深言君民一體之意、以止公之厚斂。爲人上者、所宜深念也。○楊氏曰、仁政必自經界始。經界正、而後井地均、穀祿平、而軍國之需、皆量是以爲出焉。故一徹而百度擧矣。上下寧憂不足乎。以二猶不足、而敎之徹。疑若迂矣。然什一天下之中正。多則桀、寡則貉。不可改也。後世不究其本、而唯末之圖。故征斂無藝、費出無經、而上下困矣。又惡知盍徹之當務而不爲迂乎。
【読み】
對えて曰く、百姓足んなば、君孰と與にか足らざらん。百姓足らざれば、君孰と與にか足んなん。民富めば則ち君獨り貧しきに至らず。民貧しければ則ち君獨り富むこと能わず。有若深く君民一體の意を言い、以て公の厚斂を止む。人の上爲る者は、宜しく深く念うべき所なり。○楊氏曰く、仁政は必ず經界より始む。經界正しくして、而る後に井地均しく、穀祿平かにして、軍國の需、皆是を量り以て出すと爲す。故に一たび徹して百度擧ぐ。上下寧ろ足らざるを憂えんか。二つを以てしても猶足らざるに、之に徹を敎うるは、疑うらくは迂の若し。然れども什に一は天下の中正。多くば則ち桀、寡なくば則ち貉。改むる可からざるなり。後世其の本を究めずして、唯末を圖る。故に征斂藝[きわ]まり無く、費出經[つね]無くして、上下困す。又惡んぞ、盍ぞ徹せんは當に務むるべく、而して迂と爲さざることを知らん、と。
顏淵10
○子張問崇德辨惑。子曰、主忠信徙義、崇德也。主忠信、則本立。徙義、則日新。
【読み】
○子張德を崇うし惑[まどい]を辨[わか]たんことを問う。子曰く、忠信を主とし義に徙[うつ]るは、德を崇うするなり。忠信を主とするときは、則ち本立つ。義に徙るときは、則ち日に新[あらた]なり。
愛之欲其生、惡之欲其死。旣欲其生、又欲其死、是惑也。惡、去聲。○愛惡、人之常情也。然人之生死有命、非可得而欲也。以愛惡而欲其生死、則惑矣。旣欲其生、又欲其死、則惑之甚也。
【読み】
之を愛し其の生を欲し、之を惡んで其の死を欲す。旣に其の生を欲し、又其の死を欲するは、是れ惑なり。惡は去聲。○愛惡は人の常情なり。然れども人の生死に命有り、得て欲す可きに非ざるなり。愛惡を以てして其の生死を欲するは、則ち惑なり。旣に其の生を欲し、又其の死を欲するは、則ち惑えることの甚だしきなり。
誠不以富、亦祇以異。此詩小雅我行其野之詞也。舊說、夫子引之、以明欲其生死者、不能使之生死、如此詩所言、不足以致富、而適足以取異也。程子曰、此錯簡。當在第十六篇齊景公有馬千駟之上。因此下文亦有齊景公字而誤也。○楊氏曰、堂堂乎張也。難與竝爲仁矣。則非誠善補過、不蔽於私者。故告之如此。
【読み】
誠に以て富とせず、亦祇[まさ]に以て異[あや]しまる。此は詩の小雅我行其野の詞なり。舊說に、夫子之を引いて、以て其の生死を欲する者の、之を生死せしむること能わざるは、此の詩言う所の、以て富を致すに足りずして、適々以て異を取るに足るが如きを明らかにす、と。程子曰く、此れ錯簡なり。當に第十六篇の齊景公有馬千駟の上に在るべし。此の下文にも亦齊景公の字有るに因りて誤れり、と。○楊氏曰く、堂堂たる張や。與に竝んで仁を爲し難し、と。則ち誠に善く過を補い、私に蔽われざる者に非ず。故に之に告ぐるに此の如し、と。
顏淵11
○齊景公問政於孔子。齊景公、名杵臼。魯昭公末年、孔子適齊。
【読み】
○齊の景公政を孔子に問う。齊の景公、名は杵臼[しょきゅう]。魯の昭公の末年、孔子齊に適く。
孔子對曰、君君、臣臣、父父、子子。此人道之大經、政事之根本也。是時景公失政、而大夫陳氏厚施於國。景公又多内嬖、而不立太子。其君臣父子之閒、皆失其道。故夫子告之以此。
【読み】
孔子對えて曰く、君君たり、臣臣たり、父父たり、子子たり。此れ人道の大經、政事の根本なり。是の時景公政を失して、大夫陳氏厚く國に施す。景公又内嬖多くして、太子を立てず。其の君臣父子の閒、皆其の道を失す。故に夫子之に告ぐるに此を以てす。
公曰、善哉。信如君不君、臣不臣、父不父、子不子、雖有粟、吾得而食諸。景公善孔子之言、而不能用。其後果以繼嗣不定、啓陳氏弑君簒國之禍。○楊氏曰、君之所以君、臣之所以臣、父之所以父、子之所以子、是必有道矣。景公知善夫子之言、而不知反求其所以然。蓋悦而不繹者。齊之所以卒於亂也。
【読み】
公曰く、善いことかな。信[まこと]に君君たらず、臣臣たらず、父父たらず、子子たらざるが如きんば、粟有りと雖も、吾得て諸を食[は]まんや。景公孔子の言を善しとして、用うること能わず。其の後果たして繼嗣定まらざるを以て、陳氏君を弑し國を簒うの禍を啓く。○楊氏曰く、君の君たる所以、臣の臣たる所以、父の父たる所以、子の子たる所以には、是れ必ず道有るなり。景公夫子の言を善しとするを知り、而して其の然る所以を反求するを知らず。蓋し悦んで繹ねざる者なり。齊の亂に卒わる所以なり、と。
顏淵12
○子曰、片言可以折獄者、其由也與。折、之舌反。與、平聲。○片言、半言。折、斷也。子路忠信明決。故言出而人信服之、不待其辭之畢也。
【読み】
○子曰、片言以て獄[うったえ]を折[さだ]む可き者は、其れ由なるか。折は之舌の反。與は平聲。○片言は半言。折は斷なり。子路忠信明決。故に言出づれば人之を信服し、其の辭の畢わるを待たず。
子路無宿諾。宿、留也。猶宿怨之宿。急於踐言、不留其諾也。記者因夫子之言而記此、以見子路之所以取信於人者、由其養之有素也。○尹氏曰、小邾射以句繹奔魯。曰、使季路要我、吾無盟矣。千乘之國、不信其盟、而信子路之一言。其見信於人可知矣。一言而折獄者、信在言前。人自信之故也。不留諾、所以全其信也。
【読み】
子路諾を宿[とど]むること無し。宿むは留むるなり。猶怨を宿むるの宿のごとし。言を踐むこと急にして、其の諾を留めず。記者夫子の言に因りて此を記し、以て子路の信を人に取る所以のものは、其の養うことの素有るに由るを見[あらわ]す。○尹氏曰く、小邾[ちゅ]の射[えき]句繹[こうえき]を以て魯に奔る。曰く、季路をして我を要[うけご]わしめば、吾盟うこと無からん、と。千乘の國、其の盟を信ぜずして、子路の一言を信ず。其の人に信ぜらるるを知る可し。一言にして獄を折む者は、信言の前に在り。人自ら之を信ずる故なり。諾を留めざるは、其の信を全くする所以なり、と。
顏淵13
○子曰、聽訟吾猶人也。必也使無訟乎。范氏曰、聽訟者、治其末、塞其流也。正其本、淸其源、則無訟矣。○楊氏曰、子路片言可以折獄、而不知以禮遜爲國、則未能使民無訟者也。故又記孔子之言、以見聖人不以聽訟爲難、而以使民無訟爲貴。
【読み】
○子曰く、訟[うったえ]を聽くこと吾猶人のごとし。必ず訟無からしめんか。范氏曰く、訟を聽くは、其の末を治め、其の流れを塞ぐなり。其の本を正し、其の源を淸むれば、則ち訟無し、と。○楊氏曰く、子路片言以て獄を折[さだ]む可くして、禮遜以て國を爲むるを知らざれば、則ち未だ民をして訟無からしむこと能わざる者なり。故に又孔子の言を記し、以て聖人訟を聽くを以て難きこととせずして、民をして訟無からしむを以て貴しとすることを見せり、と。
顏淵14
○子張問政。子曰、居之無倦、行之以忠。居、謂存諸心。無倦、則始終如一。行、謂發於事。以忠則表裏如一。○程子曰、子張少仁。無誠心愛民、則必倦而不盡心。故告之以此。
【読み】
○子張政を問う。子曰く、之を居いて倦むこと無く、之を行うに忠を以てす。居は諸を心に存するを謂う。倦むこと無くば、則ち始終一の如し。行は事を發[あらわ]すを謂う。忠を以てせば則ち表裏一の如し。○程子曰く、子張仁少なく、民を愛するの誠心無ければ、則ち必ず倦みて心を盡くさざる。故に之に告ぐるに此を以てす、と。
顏淵15
○子曰、博學於文、約之以禮、亦可以弗畔矣夫。重出。
【読み】
○子曰く、博く文を學んで、之を約[つつまやか]にするに禮を以てせば、亦以て畔かざる可し。重出。
顏淵16
○子曰、君子成人之美。不成人之惡。小人反是。成者、誘掖奬勸、以成其事也。君子小人、所存、旣有厚薄之殊、而其所好、又有善惡之異。故其用心不同如此。
【読み】
○子曰く、君子は人の美を成す。人の惡を成さず。小人は是に反[そむ]く。成すは、誘掖奬勸、以て其の事を成すなり。君子と小人は、存する所、旣に厚薄の殊なること有りて、其の好む所も、又善惡の異なること有り。故に其の心を用うることの同じからざること此の如し。
顏淵17
○季康子問政於孔子。孔子對曰、政者正也。子帥以正、孰敢不正。范氏曰、未有己不正而能正人者。○胡氏曰、魯自中葉、政由大夫、家臣效尤、據邑背叛。不正甚矣。故孔子以是告之、欲康子以正自克、而改三家之故。惜乎、康子之溺於利欲而不能也。
【読み】
○季康子政を孔子に問う。孔子對えて曰く、政は正なり。子帥いるに正しきを以てせば、孰か敢えて正しからざらん。范氏曰く、未だ己正しからずして能く人を正しうする者有らず、と。○胡氏曰く、魯は中葉より、政は大夫に由り、家臣尤に效い、邑に據りて背叛す。不正なること甚だし。故に孔子是を以て之に告げ、康子正を以て自ら克ちて、三家の故を改めんことを欲す。惜しいかな、康子は之れ利欲に溺れて能わず、と。
顏淵18
○季康子患盜問於孔子。孔子對曰、苟子之不欲、雖賞之不竊。言子不貪欲、則雖賞民使之爲盜、民亦知恥而不竊。○胡氏曰、季氏竊柄、康子奪嫡。民之爲盜、固其所也。盍亦反其本耶。孔子以不欲啓之。其旨深矣。奪嫡事、見春秋傳。
【読み】
○季康子盜を患えて孔子に問う。孔子對えて曰く、苟[も]し子が欲[むさぼ]らざれば、之を賞すと雖も竊[ぬす]まじ。言うこころは、子貪欲ならざれば、則ち民を賞し之に盜みを爲さしめんと雖も、民も亦恥を知りて竊まじ、と。○胡氏曰く、季氏柄を竊み、康子嫡を奪う。民の盜みを爲すは、固より其の所なり。盍ぞ亦其の本に反らんや。孔子不欲を以て之を啓く。其の旨深し、と。嫡を奪う事、春秋傳に見ゆ。
顏淵19
○季康子問政於孔子曰、如殺無道、以就有道、何如。孔子對曰、子爲政、焉用殺。子欲善、而民善矣。君子之德風、小人之德艸。艸上之風必偃。焉、於虔反。○爲政者、民所視效、何以殺爲。欲善則民善矣。上、一作尙。加也。偃、仆也。○尹氏曰、殺之爲言、豈爲人上之語哉。以身敎者從、以言敎者訟。而況於殺乎。
【読み】
○季康子政を孔子に問うて曰く、如[も]し無道を殺して、以て有道を就[な]さば、何如。孔子對えて曰く、子政をするに、焉んぞ殺すことを用いん。子善を欲して、民善けし。君子の德は風なり、小人の德は艸なり。艸風を上[くわ]うれば必ず偃す。焉は於虔の反。○政をする者は、民の視て效う所にて、何ぞ殺を以て爲さん。善を欲すれば則ち民善けし。上は一に尙に作る。加うなり。偃は仆れるなり。○尹氏曰く、殺すという言爲るや、豈人に上爲るの語ならんや。身を以て敎うる者は從い、言を以て敎うる者は訟[あらそ]う。而して況や殺すことに於てや、と。
顏淵20
○子張問、士何如斯可謂之達矣。達者、德孚於人、而行無不得之謂。
【読み】
○子張問う、士何如なるをか斯れ之を達と謂いつ可き。達は、德人に孚[ふか]くして、行得ざること無きの謂なり。
子曰、何哉、爾所謂達者。子張務外。夫子蓋已知其發問之意。故反詰之、將以發其病而藥之也。
【読み】
子曰く、何ぞや、爾が所謂達とは。子張外を務む。夫子蓋し已に其の問いを發するの意を知る。故に反って之を詰[といなじ]り、將に以て其の病を發[あらわ]して之を藥[くま]さんとするなり。
子張對曰、在邦必聞、在家必聞。言名譽著聞也。
【読み】
子張對えて曰く、邦に在りても必ず聞こえ、家に在りても必ず聞こゆ。名譽著聞を言うなり。
子曰、是聞也、非達也。聞與達相似而不同。乃誠僞之所以分。學者不可不審也。故夫子旣明辨之、下文又詳言之。
【読み】
子曰く、是れ聞[ぶん]なり、達に非ざるなり。聞と達と相似て同じからず。乃ち誠僞の分かるる所以なり。學者審らかにせざる可からず。故に夫子旣に明らかに之を辨じ、下文に又詳らかに之を言う。
夫達也者、質直而好義、察言而觀色、慮以下人。在邦必達、在家必達。夫、音扶。下同。好・下皆去聲。○内主忠信、而所行合宜、審於接物、而卑以自牧。皆自脩於内、不求人知之事。然德脩於己、而人信之、則所行自無窒礙矣。
【読み】
夫れ達は、質直にして義を好み、言を察して色を觀、慮って以て人に下る。邦に在りても必ず達し、家に在りても必ず達す。夫は音扶。下も同じ。好・下は皆去聲。○内忠信を主として、行う所宜しきに合い、物に接わるに審らかにして、卑くして以て自ら牧[やしな]う。皆自ら内を脩め、人に知られんことを求めざるの事なり。然れども德己に脩まりて、人之を信ずるときは、則ち行く所自ら窒礙すること無し。
夫聞也者、色取仁而行違、居之不疑。在邦必聞、在家必聞。行、去聲。○善其顏色以取於仁、而行實背之。又自以爲是、而無所忌憚。此不務實、而專務求名者。故虛譽雖隆、而實德則病矣。○程子曰、學者須是務實。不要近名。有意近名、大本已失。更學何事。爲名而學、則是僞也。今之學者、大抵爲名。爲名與爲利、雖淸濁不同、然其利心則一也。尹氏曰、子張之學、病在乎不務實。故孔子告之、皆篤實之事、充乎内而發乎外者也。當時門人親受聖人之敎、而差失有如此者。況後世乎。
【読み】
夫れ聞は、色をもって仁を取るとて行違い、之に居て疑わず。邦に在りても必ず聞こえ、家に在りても必ず聞こゆ。行は去聲。○其の顏色を善くして以て仁を取るも、而して行實之に背く。又自ら以て是と爲して、忌み憚る所無し。此れ實を務めずして、專ら名を求むるを務むる者なり。故に虛譽隆んなりと雖も、而して實德は則ち病めり。○程子曰く、學者須く是れ實を務むべし。名に近づかんことを要[もと]めざれ。名に近づくの意有れば、大本已に失う。更に何事か學びん。名の爲にして學ぶときは、則ち是れ僞なり。今の學者は、大抵名の爲にす。名の爲にすると利の爲にするとは、淸濁同じからずと雖も、然れども其の利心は則ち一なり、と。尹氏曰く、子張の學、病は實を務めざるに在り。故に孔子之に告ぐるは、皆篤實の事、内に充ちて外に發[あらわ]す者なり。當時の門人親しく聖人の敎を受くるも、差失此の如き者有り。況や後世をや、と。
顏淵21
○樊遲從遊於舞雩之下。曰、敢問崇德脩慝辨惑。慝、吐得反。○胡氏曰、慝之字從心從慝。蓋惡之慝於心者。脩者、治而去之。
【読み】
○樊遲從[かつ]て舞雩[ぶう]の下に遊ぶ。曰く、敢えて德を崇うし慝を脩め惑[まどい]を辨[わか]んことを問う。慝は吐得の反。○胡氏曰く、慝の字は心に從い慝に從うなり。蓋し惡の心に慝[かく]るる者なり。脩むは、治めて之を去[のぞ]くなり。
子曰、善哉問。善其切於爲己。
【読み】
子曰く、善いかな問えること。其の己の爲に切なるを善しとす。
先事後得、非崇德與。攻其惡、無攻人之惡、非脩慝與。一朝之忿、忘其身、以及其親、非惑與。與、平聲。○先事後得、猶言先難後獲也。爲所當爲、而不計其功、則德日積、而不自知矣。專於治己、而不責人、則己之惡無所匿矣。知一朝之忿爲甚微、而禍及其親爲甚大、則有以辨惑而懲其忿矣。樊遲麤鄙近利。故告之以此三者。皆所以救其失也。○范氏曰、先事後得、上義而下利也。人惟有欲利之心。故德不崇。惟不自省己過、而知人之過。故慝不脩。感物而易動者、莫如忿。忘其身以及其親、惑之甚者也。惑之甚者、必起於細微。能辨之於早、則不至於大惑矣。故懲忿所以辨惑也。
【読み】
事を先んじ得ることを後にす、德を崇うするに非ずや。其の惡を攻めて、人の惡を攻むること無き、慝を脩むるに非ずや。一朝の忿[いかり]に、其の身を忘れて、以て其の親に及ぼす、惑えるに非ずや。與は平聲。○事を先んじ得ることを後にすは、猶難きを先にして獲るを後にすと言うがごとし。當に爲すべき所を爲して、其の功を計らざれば、則ち德日に積み、而して自ら知らざるなり。己を治むること專らにして、人を責めざれば、則ち己の惡匿るる所無し。一朝の忿は甚だ微と爲せども、而して禍其の親に及ぶこと甚だ大と爲すを知れば、則ち以て惑を辨ちて其の忿を懲らすこと有り。樊遲麤鄙にて利に近づく。故に之に告ぐるに此の三つの者を以てす。皆其の失を救う所以なり。○范氏曰く、事を先んじ得ることを後にすは、義を上にして利を下にするなり。人惟利を欲するの心有り。故に德崇からず。惟自ら己の過を省みずして、人の過を知る。故に慝脩まらず。物に感じて動き易き者は、忿に如くは莫し。其の身を忘れ以て其の親に及ぼすは、惑の甚だしき者なり。惑の甚だしき者は、必ず細微より起こる。能く之を早きに辨てば、則ち大なる惑に至らず。故に忿りを懲らすは惑を辨つ所以なり、と。
顏淵22
○樊遲問仁。子曰、愛人。問知。子曰、知人。上知字、去聲。下如字。○愛人、仁之施。知人、知之務。
【読み】
○樊遲仁を問う。子曰く、人を愛す。知を問う。子曰く、人を知る。上の知の字は去聲。下は字の如し。○人を愛すは、仁の施しなり。人を知るは、知の務めなり。
樊遲未達。曾氏曰、遲之意、蓋以愛欲其周、而知有所擇、故疑二者之相悖爾。
【読み】
樊遲未だ達せず。曾氏曰く、遲の意、蓋し愛は其の周からんことを欲して、知は擇ぶ所有るを以て、故に二つの者の相悖れることを疑うのみ。
子曰、擧直錯諸枉、能使枉者直。擧直錯枉者、知也。使枉者直、則仁矣。如此則二者不惟不相悖、而反相爲用矣。
【読み】
子曰く、直を擧げて諸々の枉がれるを錯[お]くときは、能く枉れる者をして直からしむ。直を擧げて枉がれるを錯くは、知なり。枉れる者を直くするは、則ち仁なり。此の如くなれば則ち二つの者惟相悖らざるのみならずして、反って用を相爲す。
樊遲退、見子夏曰、郷也吾見於夫子而問知。子曰、擧直錯諸枉、能使枉者直。何謂也。郷、去聲。見、賢遍反。○遲以夫子之言、專爲知者之事、又未達所以能使枉者直之理。
【読み】
樊遲退いて、子夏に見[まみ]えて曰く、郷[さき]に吾夫子に見えて知を問う。子曰く、直を擧げて諸々の枉れるを錯くときは、能く枉れる者をして直からしむ、と。何と謂うことぞ。郷は去聲。見は賢遍の反。○遲夫子の言を以て、專ら知者の事と爲し、又未だ能く枉れる者をして直からしむ所以の理に達せず。
子夏曰、富哉言乎。歎其所包者廣、不止言知。
【読み】
子夏曰く、富[さかん]なるかな言[のたま]えること。其の包[か]ぬる所の者廣くして、止[ただ]知を言うのみにあらざるを歎ず。
舜有天下、選於衆、擧皐陶、不仁者遠矣。湯有天下、選於衆、擧伊尹、不仁者遠矣。選、息戀反。陶、音遙。遠、如字。○伊尹、湯之相也。不仁者遠、言人皆化而爲仁、不見有不仁者、若其遠去爾。所謂使枉者直也。子夏蓋有以知夫子之兼仁知而言矣。○程子曰、聖人之語、因人而變化。雖若有淺近者、而其包含無所不盡。觀於此章可見矣。非若他人之言、語近則遺遠、語遠則不知近也。尹氏曰、學者之問也、不獨欲聞其說、又必欲知其方。不獨欲知其方、又必欲爲其事。如樊遲之問仁知也、夫子告之盡矣。樊遲未達。故又問焉。而猶未知其何以爲之也。及退而問諸子夏、然後有以知之。使其未喩、則必將復問矣。旣問於師、又辨諸友。當時學者之務實也如是。
【読み】
舜天下を有[たも]てるときに、衆[もろもろ]を選んで、皐陶を擧げしかば、不仁者遠かりき。湯天下を有てるときに、衆を選んで、伊尹を擧げしかば、不仁者遠かりき。選は息戀の反。陶は音遙。遠は字の如し。○伊尹は湯の相なり。不仁者遠しとは、言うこころは、人皆化して仁と爲り、不仁者有ることを見ず、其の遠く去るが若く爾り。謂う所の枉れる者をして直からしむなり。子夏蓋し以て夫子の仁知を兼ねて言えるを知る有り。○程子曰く、聖人の語、人に因りて變化す。淺近なる者有るが若しと雖も、而も其の包ね含むところは盡くさざる所無し。此の章を觀て見る可し。他人の言の、近きを語るときは則ち遠きを遺[わす]れ、遠きを語るときは則ち近きを知らざるが若くんば非ざるなり、と。尹氏曰く、學者の問うは、獨[ただ]其の說を聞かんと欲するのみならず、又必ず其の方を知らんと欲す。獨其の方を知らんと欲するのみならず、又必ず其の事を爲さんと欲す。樊遲の仁知を問うが如き、夫子之に告ぐること盡くせり。樊遲未だ達せず。故に又問う。猶未だ其の何を以て之を爲さんかを知らず。退いて諸を子夏に問うに及び、然る後以て之を知ること有り。其れをして未だ喩らざらしめば、則ち必ず將に復問わんとす。旣に師に問うて、又諸を友に辨つ。當時の學者の實を務むること是の如し、と。
顏淵23
○子貢問友。子曰、忠告而善道之。不可則止。無自辱焉。告、工毒反。道、去聲。○友、所以輔仁。故盡其心以告之、善其說以道之。然以義合者也、不可則止。若以數而見疏、則自辱矣。
【読み】
○子貢友を問う。子曰く、忠[まめやか]に告げて善く之を道[みちび]き、不可なるときは則ち止む。自ら辱めらるること無からん。告は工毒の反。道は去聲。○友は仁を輔くる所以。故に其の心を盡くして以て之に告げ、其の說を善くして以て之を道く。然れども義を以て合う者なれば、不可なるときは則ち止む。若し數々するも以て疏んぜらるれば、則ち自ら辱めらるるなり。
顏淵24
○曾子曰、君子以文會友、以友輔仁。講學以會友、則道益明。取善以輔仁、則德日進。
【読み】
○曾子曰く、君子文を以て友を會し、友を以て仁を輔く。學を講ずるを以て友を會せば、則ち道益々明らかなり。善を取りて以て仁を輔くれば、則ち德日々に進む。
論語卷之七
子路第十三 凡三十章。
子路1
○子路問政。子曰、先之勞之。勞、如字。○蘇氏曰、凡民之行、以身先之、則不令而行。凡民之事、以身勞之、則雖勤不怨。
【読み】
○子路政を問う。子曰く、之に先んじ之に勞す。勞は字の如し。○蘇氏曰く、凡そ民の行、身を以て之に先んずるときは、則ち令せざれずして行う。凡そ民の事、身を以て之に勞するときは、則ち勤むと雖も怨みず。
請益。曰、無倦。無、古本作毋。○吳氏曰、勇者喜於有爲、而不能持久。故以此告之。○程子曰、子路問政、孔子旣告之矣。及請益、則曰無倦而已。未嘗復有所告。姑使之深思也。
【読み】
益を請う。曰く、倦むこと無かれ。無は、古本毋に作る。○吳氏曰く、勇者は爲すこと有るを喜びて、持久すること能わず。故に此を以て之に告ぐ、と。○程子曰く、子路政を問い、孔子旣に之に告ぐ。益を請うに及べば、則ち倦むこと無かれと曰うのみ。未だ嘗て復告ぐ所有らず。姑し之を深く思わせしむるなり、と。
子路2
○仲弓爲季氏宰問政。子曰、先有司、赦小過、擧賢才。有司、衆職也。宰、兼衆職。然事必先之於彼、而後考成功、則己不勞、而事畢擧矣。過、失誤也。大者於事或有所害、不得不懲。小者赦之、則刑不濫、而人心悦矣。賢、有德者。才、有能者。擧而用之、則有司皆得其人、而政益脩矣。
【読み】
○仲弓季氏が宰と爲って政を問う。子曰く、有司に先んじ、小過を赦し、賢才を擧げよ。有司は衆[もろもろ]の職なり。宰は、衆職を兼ぬ。然れども事は必ず之を彼に先んじ、而して後に成功を考えるときは、則ち己勞せずして、事畢[ことごと]く擧がるなり。過は、失誤なり。大いなる者は事に於て或は害する所有り、懲らさざるを得ず。小なる者之を赦せば、則ち刑濫りならずして、人心悦ぶ。賢は德有る者。才は能有る者。擧げて之を用うれば、則ち有司皆其の人を得て、政益々脩まる。
曰、焉知賢才而擧之。曰、擧爾所知。爾所不知、人其舍諸。焉、於虔反。舍、上聲。○仲弓慮無以盡知一時之賢才。故孔子告之以此。程子曰、人各親其親、然後不獨親其親。仲弓曰、焉知賢才而擧之。子曰、擧爾所知。爾所不知、人其舍諸。便見仲弓與聖人用心之大小。推此義、則一心可以興邦、一心可以喪邦。只在公私之閒爾。○范氏曰、不先有司、則君行臣職矣。不赦小過、則下無全人矣。不擧賢才、則百職廢矣。失此三者、不可以爲季氏宰。況天下乎。
【読み】
曰く、焉んぞ賢才を知りて之を擧げん。曰く、爾の知る所を擧げよ。爾の知らざる所、人其れ諸を舍てめや。焉は於虔の反。舍は上聲。○仲弓以て盡く一時の賢才を知ること無きを慮る。故に孔子之に告ぐるに此を以てす。程子曰く、人各々其の親を親とし、然る後に獨り其の親を親とするのみならず。仲弓曰く、焉んぞ賢才を知りて之を擧げん。子曰く、爾の知る所を擧げよ。爾の知らざる所、人其れ諸を舍てめやは、便ち仲弓と聖人と心を用うる大小を見るべし。此の義を推せば、則ち一心以て邦を興すも可なり、一心以て邦を喪ぼすも可なり。只公私の閒に在るのみ。○范氏曰く、有司に先んぜざれば、則ち君臣の職を行う。小過を赦さざれば、則ち下に全き人無し。賢才を擧げざれば、則ち百職廢る。此の三つの者を失えば、以て季氏が宰にも爲る可からず。況や天下をや、と。
子路3
○子路曰、衛君待子而爲政、子將奚先。衛君、謂出公輒也。是時魯哀公之十年、孔子自楚反乎衛。
【読み】
○子路曰く、衛君子を待って政をせば、子將に奚[いずれ]をか先にせんとする。衛君は出公輒[ちょう]を謂う。是の時魯の哀公の十年、孔子楚より衛に反る。
子曰、必也正名乎。是時出公不父其父、而禰其祖、名實紊矣。故孔子以正名爲先。謝氏曰、正名雖爲衛君而言、然爲政之道、皆當以此爲先。
【読み】
子曰く、必ず名を正しうせんか。是の時出公其の父を父とせずして、其の祖を禰[でい]とし、名實紊[みだ]る。故に孔子名を正しうするを以て先と爲す。謝氏曰く、名を正しうするは衛君の爲に言うと雖も、然れども政をするの道、皆當に此を以て先とすべし。
子路曰、有是哉、子之迂也。奚其正。迂、謂遠於事情。言非今日之急務也。
【読み】
子路曰く、是れ有るかな、子の迂なることや。奚[なん]ぞ其れ正しうせん。迂は事情に遠きを謂う。言うこころは、今日の急務に非ざるなり、と。
子曰、野哉由也。君子於其所不知、蓋闕如也。野、謂鄙俗。責其不能闕疑、而率爾妄對也。
【読み】
子曰く、野なるかな由。君子は其の知らざる所に於て、蓋し闕如たり。野は鄙俗を謂う。其の疑を闕くこと能わずして、率爾として妄りに對うるを責むるなり。
名不正、則言不順。言不順、則事不成。楊氏曰、名不當其實、則言不順。言不順、則無以考實、而事不成。
【読み】
名正しからざるときは、則ち言順わず。言順わざるときは、則ち事成らず。楊氏曰く、名其の實に當らざるときは、則ち言順わず。言順わざるときは、則ち以て實を考えること無くして、事成らず。
事不成、則禮樂不興。禮樂不興、則刑罰不中。刑罰不中、則民無所措手足。中、去聲。○范氏曰、事得其序之謂禮。物得其和之謂樂。事不成、則無序而不和。故禮樂不興。禮樂不興、則施之政事、皆失其道。故刑罰不中。
【読み】
事成らざるときは、則ち禮樂興らず。禮樂興らざるときは、則ち刑罰中らず。刑罰中らざるときは、則ち民手足を措く所無し。中は去聲。○范氏曰く、事の其の序を得るを禮と謂う。物の其の和を得るを樂と謂う。事成らざれば、則ち序無くして和せず。故に禮樂興らず。禮樂興らざれば、則ち之を政事に施して、皆其の道を失す。故に刑罰中らず、と。
故君子名之、必可言也、言之、必可行也。君子於其言、無所苟而已矣。程子曰、名實相須。一事苟、則其餘皆苟矣。○胡氏曰、衛世子蒯聵、恥其母南子之淫亂、欲殺之。不果而出奔。靈公欲立公子郢。郢辭。公卒。夫人立之、又辭。乃立蒯聵之子輒、以拒蒯聵。夫蒯聵欲殺母、得罪於父、而輒據國以拒父。皆無父之人也。其不可有國也明矣。夫子爲政、而以正名爲先。必將具其事之本末、告諸天王、請於方伯、命公子郢而立之。則人倫正、天理得、名正言順、而事成矣。夫子告之之詳如此。而子路終不喩也。故事輒不去、卒死其難。徒知食焉不避其難之爲義、而不知食輒之食爲非義也。
【読み】
故に君子は之に名づくること、必ず言いつ可く、之を言うこと、必ず行つ可し。君子其の言に於て、苟もする所無からくのみ。程子曰く、名實相須[ま]つ。一事を苟もすれば、則ち其の餘は皆苟もす、と。○胡氏曰く、衛の世子蒯聵[かいがい]、其の母南子の淫亂を恥じて、之を殺さんと欲す。果たさずして出で奔る。靈公公子郢[えい]を立てんと欲す。郢辭す。公卒す。夫人之を立んとして、又辭す。乃ち蒯聵の子輒を立て、以て蒯聵を拒ぐ。夫の蒯聵母を殺さんと欲して、罪を父に得て、輒國に據って以て父を拒む。皆父を無みするの人なり。其の國を有つ可からざるや明らかなり。夫子政をするに、名を正しうするを以て先とす。必ず將に其の事の本末を具して、諸を天王に告げ、方伯に請い、公子郢に命じて之を立てんとす。則ち人倫正しくして、天理を得、名正しくして言順い、而して事成る。夫子之に告ぐるの詳此の如し。而して子路終に喩らず。故に輒に事えて去らず、卒に其の難に死す。徒らに食めば其の難を避けざるの義爲るを知りて、輒の食を食むの非義爲るを知らざればなり、と。
子路4
○樊遲請學稼。子曰、吾不如老農。請學爲圃。曰、吾不如老圃。種五穀曰稼、種蔬菜曰圃。
【読み】
○樊遲稼を學びんことを請う。子曰く、吾老農に如かず。圃を爲ることを學びんと請う。曰く、吾老圃に如かず。五穀を種えるを稼と曰い、蔬菜を種えるを圃と曰う。
樊遲出。子曰、小人哉、樊須也。小人、謂細民。孟子所謂小人之事者也。
【読み】
樊遲出でぬ。子曰く、小人なるかな、樊須。小人は、細民を謂う。孟子謂う所の小人の事なる者なり。
上好禮、則民莫敢不敬。上好義、則民莫敢不服。上好信、則民莫敢不用情。夫如是、則四方之民、襁負其子而至矣。焉用稼。好、去聲。夫、音扶。襁、居丈反。焉、於虔反。○禮・義・信、大人之事也。好義、則事合宜。情、誠實也。敬・服・用情、蓋各以其類而應也。襁、織縷爲之、以約小兒於背者。○楊氏曰、樊遲遊聖人之門、而問稼圃。志則陋矣。辭而闢之可也。待其出而後言其非何也。蓋於其問也、自謂農圃之不如、則拒之者至矣。須之學、疑不及此、而不能問。不能以三隅反矣。故不復。及其旣出、則懼其終不喩也。求老農老圃而學焉、則其失愈遠矣。故復言之、使知前所言者意有在也。
【読み】
上禮を好むときは、則ち民敢えて敬せざるということ莫し。上義を好むときは、則ち民敢えて服さざるということ莫し。上信を好むときは、則ち民敢えて情[まこと]を用いざるということ莫し。夫れ是の如くなるときは、則ち四方の民、其の子を襁負[きょうふ]して至る。焉んぞ稼を用いん。好は去聲。夫は音扶。襁は居丈の反。焉は於虔の反。○禮・義・信は、大人の事なり。義を好むときは、則ち事宜しきに合う。情は誠實なり。敬し、服し、情を用うるは、蓋し各々其の類を以て應ずるなり。襁は、縷を織り之を爲り、以て小兒を背に約[つか]ねる者なり。○楊氏曰く、樊遲聖人の門に遊び、而して稼圃を問う。志則ち陋[いや]し。辭して之を闢くは可なり。其の出づるを待ちて後に其の非を言うは何ぞや。蓋し其の問いに於けるや、自ら農圃に如かずと謂えば、則ち之を拒むは至れり。須の學、疑うらくは此に及ばずして、問うこと能わず。三隅を以て反ること能わざるなり。故に復びせず。其の旣に出づるに及び、則ち其の終に喩らざるを懼る。老農老圃を求めて學べば、則ち其の失愈々遠からん。故に復之を言い、前に言う所の者の意在ること有るを知らしむなり、と。
子路5
○子曰、誦詩三百、授之以政不達。使於四方、不能專對。雖多亦奚以爲。使、去聲。○專、獨也。詩本人情、該物理。可以驗風俗之盛衰、見政治之得失。其言温厚和平、長於風諭。故誦之者、必達於政而能言也。○程子曰、窮經將以致用也。世之誦詩者、果能從政而專對乎。然則其所學者、章句之末耳。此學者之大患也。
【読み】
○子曰く、詩三百を誦して、之を授くるに政を以てすれども達せず。四方に使えして、專[ひとり]對うること能わず。多しと雖も亦奚ぞ以てせん。使は去聲。○專は獨りなり。詩は人情に本づき、物理を該[か]ぬ。以て風俗の盛衰を驗し、政治の得失を見る可し。其の言温[おだやか]に厚く和らぎ平かに、風諭に長ぜり。故に之を誦する者、必ず政に達して能く言うなり。○程子曰く、經を窮むるは將に以て用を致さんとすればなり。世の詩を誦する者、果たして能く政に從いて專對せんや。然れば則ち其の學ぶ所は、章句の末のみ。此れ學者の大患なり、と。
子路6
○子曰、其身正、不令而行。其身不正、雖令不從。
【読み】
○子曰く、其の身正しきときは、令せざれども行わる。其の身正しからざれば、令すと雖も從わず。
子路7
○子曰、魯衛之政兄弟也。魯、周公之後、衛、康叔之後、本兄弟之國。而是時衰亂、政亦相似。故孔子歎之。
【読み】
○子曰く、魯衛の政とは兄弟なり。魯は周公の後、衛は康叔の後にして、本兄弟の國なり。而して是の時衰亂して、政も亦相似たり。故に孔子之を歎ぐ。
子路8
○子謂衛公子荊、善居室。始有曰、苟合矣。少有曰、苟完矣。富有曰、苟美矣。公子荊、衛大夫。苟、聊且粗略之意。合、聚也。完、備也。言其循序而有節。不以欲速盡美累其心。○楊氏曰、務爲全美、則累物而驕吝之心生。公子荊皆曰苟而已、則不以外物爲心。其欲易足故也。
【読み】
○子衛の公子荊を謂く、善く室に居れり。始め有るときに曰く、苟[いささ]か合[あつま]れり。少しき有るときに曰く、苟か完[そな]われり。富[さか]んに有るときに曰く、苟か美[うるわ]し。公子荊は衛の大夫。苟は、聊且粗略の意。合は聚るなり。完は備わるなり。言うこころは、其の序に循いて節有り。速やかならんと欲し美を盡くすを以て其の心を累わせず、と。○楊氏曰く、務めて全美を爲さんとすれば、則ち物に累わされて驕吝の心生ず。公子荊皆苟と曰うのみなれば、則ち外物を以て心と爲さず。其の欲足り易きが故なり、と。
子路9
○子適衛。冉有僕。僕、御車也。
【読み】
○子衛に適く。冉有僕たり。僕は車を御するなり。
子曰、庶矣哉。庶、衆也。
【読み】
子曰く、庶[おお]いかな。庶は衆いなり。
冉有曰、旣庶矣。又何加焉。曰、富之。庶而不富、則民生不遂。故制田里、薄賦歛、以富之。
【読み】
冉有曰く、旣に庶し。又何か加えん。曰く、之を富ましめん。庶くして富まざれば、則ち民生遂げず。故に田里を制し、賦歛を薄くして、以て之を富ましむ。
曰、旣富矣。又何加焉。曰、敎之。富而不敎、則近於禽獸。故必立學校、明禮義、以敎之。○胡氏曰、天生斯民、立之司牧、而寄以三事。然自三代之後、能擧此職者、百無一二。漢之文・明、唐之太宗、亦云庶且富矣。西京之敎無聞焉、明帝尊師重傅、臨雍拜老、宗戚子弟、莫不受學。唐太宗大召名儒、增廣生員、敎亦至矣。然而未知所以敎也。三代之敎、天子公卿、躳行於上、言行政事、皆可師法。彼二君者、其能然乎。
【読み】
曰く、旣に富めり。又何か加えん。曰く、之を敎えん。富みて敎えざれば、則ち禽獸に近し。故に必ず學校を立て、禮義を明らかにして、以て之を敎うる。○胡氏曰く、天斯の民を生じ、之が司牧を立てて、寄するに三事を以てす。然れども三代より後、能く此の職を擧ぐる者、百に一二無し。漢の文・明、唐の太宗は、亦庶く且富めりと云う。西京の敎聞くこと無けれども、明帝師を尊び傅を重んじ、雍に臨み老を拜し、宗戚子弟、學を受けざる莫し。唐の太宗大いに名儒を召き、生員を增し廣め、敎も亦至れり。然れども未だ敎うる所以を知らず。三代の敎は、天子公卿、躳ら上に行い、言行政事は、皆師法とす可し。彼の二君は、其れ能く然らんや、と。
子路10
○子曰、苟有用我者、朞月而已可也。三年有成。朞月、謂周一歳之月也。可者、僅辭。言紀綱布也。有成、治功成也。○尹氏曰、孔子歎當時莫能用己也。故云然。愚按史記、此蓋爲衛靈公不能用而發。
【読み】
○子曰く、苟[も]し我を用うること有らば、朞月にして已に可ならん。三年に成すこと有らん。朞月は、周一歳の月を謂うなり。可は、僅かなる辭。紀綱布くを言うなり。成すこと有りは、治功成るなり。○尹氏曰く、孔子當時能く己を用うること莫きを歎けり。故に然云う。愚史記を按ずるに、此れ蓋し衛の靈公の用うること能わざるが爲に發せり、と。
子路11
○子曰、善人爲邦百年、亦可以勝殘去殺矣。誠哉是言也。勝、平聲。去、上聲。○爲邦百年、言相繼而久也。勝殘、化殘暴之人、使不爲惡也。去殺、謂民化於善、可以不用刑殺也。蓋古有是言、而夫子稱之。程子曰、漢自高惠至於文景、黎民醇厚、幾致刑措。庶乎其近之矣。○尹氏曰、勝殘去殺、不爲惡而已。善人之功如是、若夫聖人、則不待百年、其化亦不止此。
【読み】
○子曰く、善人邦を爲[おさ]むること百年、亦以て殘を勝[つ]くし殺を去[す]つ可し。誠なるかな是の言。勝は平聲。去は上聲。○邦を爲むること百年は、相繼ぎて久しきを言うなり。殘を勝くすは、殘暴の人を化し、惡を爲さざらしむなり。殺を去つは、民善に化して、以て刑殺を用いざる可きを謂うなり。蓋し古是の言有りて、夫子之を稱す。程子曰く、漢の高惠より文景に至りて、黎民醇厚にして、幾ど刑措を致す。庶わくは其れ之に近からん、と。○尹氏曰く、殘を勝くし殺を去つは、惡を爲さざるのみ。善人の功是の如ければ、夫れ聖人の若きは、則ち百年を待たず、其の化も亦此に止まず、と。
子路12
○子曰、如有王者、必世而後仁。王者、謂聖人受命而興也。三十年爲一世。仁、謂敎化浹也。程子曰、周自文武至成王、而後禮樂興。卽其效也。○或問、三年、必世、遲速不同、何也。程子曰、三年有成、謂法度紀綱有成而化行也。漸民以仁、摩民以義、使之浹於肌膚、淪於骨髓、而禮樂可興、所謂仁也。此非積久、何以能致。
【読み】
○子曰く、如し王者有らば、必世にして後に仁ならん。王者は、聖人の命を受けて興るを謂うなり。三十年を一世と爲す。仁は、敎化浹[あまね]くを謂うなり。程子曰く、周文武より成王に至り、而して後に禮樂興る。卽ち其の效[しるし]なり。○或ひと問う、三年と必世は遲速同じからず、何ぞや、と。程子曰く、三年にして成すこと有らんとは、法度紀綱成ること有りて化行わるることを謂うなり。民を漸[ひた]すに仁を以てし、民を摩[と]ぐに義を以てし、之をして肌膚に浹[とお]り、骨髓に淪[しず]めて、禮樂興る可からしむるは、所謂仁なり。此れ積むこと久しきに非ずば、何を以てか能く致さん、と。
子路13
○子曰、苟正其身矣、於從政乎何有。不能正其身、如正人何。
【読み】
○子曰く、苟[も]し其の身を正しうせば、政に從うに於て何か有らん。其の身を正しうすること能わざれば、人を正しうすること如何。
子路14
○冉子退朝。子曰、何晏也。對曰、有政。子曰、其事也。如有政、雖不吾以、吾其與聞之。朝、音潮。與、去聲。○冉有時爲季氏宰。朝、季氏之私朝也。晏、晩也。政、國政。事、家事。以、用也。禮、大夫雖不治事、猶得與聞國政。是時季氏專魯、其於國政、蓋有不與同列議於公朝、而獨與家臣謀於私室者。故夫子爲不知者而言。此必季氏之家事耳。若是國政、我嘗爲大夫、雖不見用、猶當與聞。今旣不聞、則是非國政也。語意與魏徴獻陵之對略相似。其所以正名分、抑季氏、而敎冉有之意深矣。
【読み】
○冉子朝より退[まか]る。子曰く、何ぞ晏[おく]るる。對えて曰く、政有りし。子曰く、其れ事ならん。如し政有らば、吾を以[もち]いずと雖も、吾其れ之を聞くに與らん。朝は音潮。與は去聲。○冉有時に季氏の宰爲り。朝は、季氏の私朝なり。晏は晩なり。政は國の政。事は家事。以うは用うるなり。禮に、大夫事を治めずと雖も、猶國政を與に聞くを得、と。是の時季氏魯を專[ほしいまま]にし、其の國政に於ては、蓋し同列と公朝に議せずして、獨り家臣と私室に謀る者有り。故に夫子知らざる者と爲して言う。此れ必ず季氏の家事のみ。若し是れ國政ならば、我嘗て大夫爲り、用いられずと雖も、猶當に與に聞くべし。今旣に聞かざれば、則ち是れ國政に非ざるなり、と。語意は魏徴の獻陵の對と略相似す。其の以て名分を正しうし、季氏を抑え、而して冉有を敎うる所の意深し。
子路15
○定公問、一言而可以興邦有諸。孔子對曰、言不可以若是其幾也。幾、期也。詩曰、如幾如式、言一言之閒、未可以如此而必期其效。
【読み】
○定公問う、一言にして以て邦を興す可きこと、諸れ有りや。孔子對えて曰く、言以て是の若く其れ幾[あて]てす可からず。幾は期[ご]なり。詩に曰う、幾の如く式の如し、と、言うこころは、一言の閒、未だ以て此の如くして必ず其の效を期す可からず、と。
人之言曰、爲君難。爲臣不易。易、去聲。○當時有此言也。
【読み】
人の言に曰く、君爲ること難し。臣爲ること易からず。易は去聲。○當時此の言有るなり。
如知爲君之難也、不幾乎一言而興邦乎。因此言而知爲君之難、則必戰戰兢兢、臨深履薄、而無一事之敢忽。然則此言也、豈不可以必期於興邦乎。爲定公言。故不及臣也。
【読み】
如し君爲ることの難きを知らば、一言にして邦を興すことを幾てせざらんや。此の言に因りて君爲ることの難きを知らば、則ち必ず戰戰兢兢として、深きに臨み薄きを履みて、一事も敢えて忽にすること無し。然らば則ち此の言、豈以て必ずしも邦を興すを期す可からざらんや。定公の爲に言う。故に臣に及ばざるなり。
曰、一言而喪邦有諸。孔子對曰、言不可以若是其幾也。人之言曰、予無樂乎爲君。唯其言而莫予違也。喪、去聲。下同。樂、音洛。○言他無所樂。惟樂此耳。
【読み】
曰く、一言にして邦を喪ぼすこと諸れ有りや。孔子對えて曰く、言以て是の若く其れ幾てす可からず。人の言に曰く、予君爲ることを樂しむこと無し。唯其の言うこと而して予に違うこと莫きぞ。喪は去聲。下も同じ。樂は音洛。○言うこころは、他に樂しむ所無し。惟此を樂しむのみ、と。
如其善而莫之違也、不亦善乎。如不善而莫之違也、不幾乎一言而喪邦乎。范氏曰、如不善而莫之違、則忠言不至於耳、君日驕而臣日諂。未有不喪邦者也。○謝氏曰、知爲君之難、則必敬謹以持之。惟其言而莫予違、則讒諂面諛之人至矣。邦未必遽興喪也。而興喪之源、分於此。然此非識微之君子、何足以知之。
【読み】
如し其れ善にして之に違うこと莫くば、亦善からざらんや。如し不善にして之に違うこと莫くば、一言にして邦を喪ぼすことを幾てせざらんや。范氏曰く、如し不善にして之に違うこと莫きときは、則ち忠言耳に至らず、君日々に驕りて臣日々に諂う。未だ邦を喪ぼさざる者有らじ、と。○謝氏曰く、君爲ることの難きを知るときは、則ち必ず敬謹し以て之を持[たも]つ。惟其の言うこと而して予に違うこと莫きときは、則ち讒諂面諛の人至る。邦未だ必ずしも遽かに興喪せず。而して興喪の源、此に分る。然れども此れ微を識るの君子に非ざれば、何ぞ以て之を知るに足らん、と。
子路16
○葉公問政。音義、竝見第七篇。
【読み】
○葉公政を問う。音義は竝第七篇に見ゆ。
子曰、近者說、遠者來。說、音悦。○被其澤則說、聞其風則來。然必近者說、而後遠者來也。
【読み】
子曰く、近き者說び、遠き者來[きた]る。說は音悦。○其の澤を被るときは則ち說び、其の風を聞くときは則ち來る。然れども必ず近き者說び、而して後に遠き者來るなり。
子路17
○子夏爲莒父宰、問政。子曰、無欲速、無見小利。欲速、則不達。見小利、則大事不成。父、音甫。○莒父、魯邑名。欲事之速成、則急遽無序、而反不達。見小者之爲利、則所就者小、而所失者大矣。○程子曰、子張問政。子曰、居之無倦、行之以忠。子夏問政。子曰、無欲速、無見小利。子張常過高而未仁。子夏之病、常在近小。故各以切己之事告之。
【読み】
○子夏莒父[きょほ]の宰と爲って、政を問う。子曰く、速やかならまく欲すること無かれ、小利を見ること無かれ。速やかならまく欲するときは、則ち達せず。小利を見れば、則ち大事成らず。父は音甫。○莒父は魯の邑の名。事の速やかに成らんと欲すれば、則ち急遽にて序無く、而して反って達せず。小なる者の利と爲るを見れば、則ち就く所の者小にして、失う所の者大なり。○程子曰く、子張政を問う。子曰く、之を居いて倦むこと無く、之を行うに忠を以てす、と。子夏政を問う。子曰く、速やかならまく欲すること無かれ、小利を見ること無かれ、と。子張は常に高きに過ぎて未だ仁ならず。子夏の病は、常に近小に在り。故に各々己に切なる事を以て之に告ぐ、と。
子路18
○葉公語孔子曰、吾黨有直躳者。其父攘羊。而子證之。語、去聲。○直躳、直身而行者。有因而盜曰攘。
【読み】
○葉公孔子に語げて曰く、吾が黨に躳を直くする者有り。其の父羊を攘[ぬす]む。而して子之を證[あらわ]す。語は去聲。○躳を直くすは、身を直くして行う者なり。因ること有りて盜むを攘と曰う。
孔子曰、吾黨之直者、異於是。父爲子隱。子爲父隱。直在其中矣。爲、去聲。○父子相隱、天理人情之至也。故不求爲直、而直在其中。○謝氏曰、順理爲直。父不爲子隱、子不爲父隱、於理順耶。瞽瞍殺人、舜竊負而逃、遵海濱而處。當是時愛親之心勝。其於直不直、何暇計哉。
【読み】
孔子曰く、吾が黨の直き者は、是に異なり。父は子の爲に隱し、子は父の爲に隱す。直いこと其の中に在り。爲は去聲。○父子相隱すは、天理人情の至りなり。故に直爲るを求めずして、直其の中に在り。○謝氏曰く、理に順うを直と爲す。父子の爲に隱さず、子父の爲に隱さざるは、理に於て順ならんや。瞽瞍人を殺さば、舜竊かに負うて逃げ、海濱に遵って處るらん。是の時に當っては親を愛するの心勝る。其の直と不直に於て、何ぞ計るに暇あらんや。
子路19
○樊遲問仁。子曰、居處恭、執事敬、與人忠、雖之夷狄、不可棄也。恭、主容、敬、主事。恭見於外、敬主乎中。之夷狄不可棄、勉其固守而勿失也。○程子曰、此是徹上徹下語。聖人初無二語也。充之則睟面盎背。推而達之、則篤恭而天下平矣。胡氏曰、樊遲問仁者三。此最先、先難次之、愛人其最後乎。
【読み】
○樊遲仁を問う。子曰く、居處恭しく、事を執って敬み、人に與して忠あること、夷狄に之くと雖も、棄つ可からず。恭は、容を主とし、敬は、事を主とす。恭は外に見[あらわ]れ、敬は中に主たり。夷狄に之くとも棄つ可からずは、其の固く守りて失うこと勿かれと勉めしむるなり。○程子曰く、此は是れ徹上徹下の語。聖人初めより二語無し。之を充つるときは則ち面に睟[うるお]い背に盎[あふ]る。推して之を達するときは、則ち篤恭して天下平なり、と。胡氏曰く、樊遲の仁を問う者三つ。此れ最も先にして、難きを先んじは之に次ぎ、人を愛すは其れ最後か、と。
子路20
○子貢問曰、何如斯可謂之士矣。子曰、行己有恥、使於四方、不辱君命、可謂士矣。使、去聲。○此其志有所不爲、而其材足以有爲者也。子貢能言。故以使事告之。蓋爲使之難、不獨貴於能言而已。
【読み】
○子貢問うて曰く、何如なるか斯れ之を士と謂う可き。子曰く、己を行うに恥有り、四方に使いして、君命を辱めざるを、士と謂いつ可し。使は去聲。○此れ其の志せざる所有りて、其の材以てすること有るに足る者なり。子貢能く言う。故に使いの事を以て之に告ぐ。蓋し使いするの難きこと、獨[ただ]能く言うのみを貴ばず。
曰、敢問其次。曰、宗族稱孝焉、郷黨稱弟焉。弟、去聲。○此本立而材不足者。故爲其次。
【読み】
曰く、敢えて其の次を問う。曰く、宗族孝を稱し、郷黨弟を稱す。弟は去聲。○此れ本立ちて材足らざる者なり。故に其の次と爲す。
曰、敢問其次。曰、言必信、行必果。硜硜然小人哉。抑亦可以爲次矣。行、去聲。硜、苦耕反。○果、必行也。硜、小石之堅確者。小人、言其識量之淺狹也。此其本末皆無足觀。然亦不害其爲自守也。故聖人猶有取焉。下此、則市井之人、不復可爲士矣。
【読み】
曰く、敢えて其の次を問う。曰く、言信あらんことを必とし、行果たさんことを必とす。硜硜[こうこう]然として小人なるかな。抑々亦以て次と爲す可し。行は去聲。硜は苦耕の反。○果たすは、必ず行うなり。硜は、小石の堅確なる者。小人は、其の識量の淺狹なるを言う。此れ其の本末皆觀るに足る無し。然れども亦其の自ら守ると爲すを害さざるなり。故に聖人猶取ること有り。此より下は、則ち市井の人にして、復士と爲す可からず。
曰、今之從政者何如。子曰、噫、斗筲之人、何足算也。筲、所交反。算亦作筭。悉亂反。○今之從政者、蓋如魯三家之屬。噫、心不平聲。斗、量名、容十升。筲、竹器、容斗二升。斗筲之人、言鄙細也。算、數也。子貢之問每下。故夫子以是警之。○程子曰、子貢之意、蓋欲爲皎皎之行、聞於人者、夫子告之、皆篤實自得之事。
【読み】
曰、今の政に從う者は何如。子曰く、噫、斗筲[としょう]の人、何ぞ算[かぞ]うるに足らん。筲は所交の反。算は亦筭に作る。悉亂の反。○今の政に從う者は、蓋し魯の三家の屬の如し。噫は、心不平なる聲。斗は量の名、十升を容る。筲は竹器、斗二升を容る。斗筲の人は、鄙細なるを言う。算は數なり。子貢の問い每[つね]に下る。故に夫子是を以て之を警む。○程子曰く、子貢の意、蓋し皎皎の行を爲して、人に聞えんことを欲する者にして、夫子之に告ぐるは、皆篤實自得の事なり、と。
子路21
○子曰、不得中行而與之、必也狂狷乎。狂者進取。狷者有所不爲也。狷、音絹。○行、道也。狂者、志極高而行不掩。狷者、知未及而守有餘。蓋聖人本欲得中道之人而敎之。然旣不可得。而徒得謹厚之人、則未必能自振拔而有爲也。故不若得此狂狷之人、猶可因其志節而激厲裁抑之、以進於道。非與其終於此而已也。○孟子曰、孔子豈不欲中道哉。不可必得。故思其次也。如琴張・曾皙・牧皮者、孔子之所謂狂矣。其志嘐嘐然曰、古之人、古之人。夷考其行、而不掩焉者也。狂者又不可得。欲得不屑不潔之士而與之。是狷也。是又其次也。
【読み】
○子曰く、中行を得て之に與せざるは、必ず狂狷か。狂者は進んで取る。狷者はせざる所有り。狷は音絹。○行は道なり。狂者は、志極めて高くして行を掩わず。狷者は、知ること未だ及ばずして守ること餘り有り。蓋し聖人は本中道の人を得て之を敎えんと欲す。然れども旣に得可からず。而して徒謹厚の人を得るときは、則ち未だ必ずしも能く自ら振拔して爲すこと有らざるなり。故に此の狂狷の人を得て、猶其の志節に因りて之を激厲裁抑して、以て道に進ましむ可きに若かず。其の此に終わるのみに與するに非ざるなり。○孟子曰く、孔子豈中道を欲せざらんや。必ずしも得可からず。故に其の次を思えり。琴張・曾皙・牧皮が如きは、孔子の所謂狂なり。其の志嘐嘐[こうこう]然として曰く、古の人、古の人、と。夷[たいら]かに其の行を考うれば、掩わざる者なり。狂者も又得可からず。潔からざるを屑[いさぎよ]しとせざるの士を得て之に與せんと欲す。是れ狷なり。是れ又其の次なり、と。
子路22
○子曰、南人有言曰、人而無恆、不可以作巫醫。善夫。恆、胡登反。夫、音扶。○南人、南國之人。恆、常久也。巫、所以交鬼神。醫、所以寄死生。故雖賤役、而尤不可以無常。孔子稱其言而善之。
【読み】
○子曰く、南人言えること有り曰く、人として恆無きは、以て巫醫を作す可からず。善いかな。恆は胡登の反。夫は音扶。○南人は南國の人。恆は常久なり。巫は以て鬼神に交わる所。醫は以て死生の寄する所。故に賤役と雖も、尤も以て常無きことある可からず。孔子其の言を稱して之を善しとす。
不恆其德、或承之羞。此易恆卦、九三爻辭。承、進也。
【読み】
其の德を恆にせず、之に羞を承[すす]むること或り。此れ易恆の卦、九三爻の辭なり。承むは進むなり。
子曰、不占而已矣。復加子曰、以別易文也。其義未詳。楊氏曰、君子於易、苟玩其占、則知無常之取羞矣。其爲無常也、蓋亦不占而已矣。意亦略通。
【読み】
子曰く、占わざらくのみ。復子曰を加え、以て易の文と別つなり。其の義未だ詳らかならず。楊氏曰く、君子易に於て、苟[まこと]に其の占を玩ばば、則ち常無きが羞を取ることを知らん。其の常無きを爲すは、蓋し亦占わざるのみなり、と。意亦略通ず。
子路23
○子曰、君子和而不同。小人同而不和。和者、無乖戾之心。同者、有阿比之意。○尹氏曰、君子尙義。故有不同。小人尙利。安得而和。
【読み】
○子曰く、君子は和して同ぜず。小人は同して和せず。和は、乖[そむ]き戾るの心無し。同は、阿比の意有り。○尹氏曰く、君子は義を尙ぶ。故に同ぜざる有り。小人は利を尙ぶ。安んぞ得えて和せん。
子路24
○子貢問曰、郷人皆好之、何如。子曰、未可也。郷人皆惡之、何如。子曰、未可也。不如郷人之善者好之、其不善者惡之。好・惡、竝去聲。○一郷之人、宜有公論矣。然其閒亦各以類自爲好惡也。故善者好之、而惡者不惡、則必其有苟合之行。惡者惡之、而善者不好、則必其無可好之實。
【読み】
○子貢問うて曰く、郷人皆之を好[よみ]んせば、何如。子曰く、未だ可ならず。郷人皆之を惡みんせば、何如。子曰く、未だ可ならず。如かず、郷人の善なる者之を好し、其の不善なる者之を惡みするには。好・惡は竝去聲。○一郷の人、宜しく公論有るべし。然れども其の閒に亦各々類を以て自ら好惡を爲す。故に善なる者之を好して、惡なる者惡まざるときは、則ち必ず其れ苟も合わすの行有り。惡なる者之を惡みて、善なる者好せざるときは、則ち必ず其れ好す可きの實無し。
子路25
○子曰、君子易事而難說也。說之不以道、不說也。及其使人也、器之。小人難事而易說也。說之雖不以道說也。及其使人也、求備焉。易、去聲。說、音悦。○器之、謂隨其材器而使之也。君子之心、公而恕。小人之心、私而刻。天理人欲之閒、每相反而已矣。
【読み】
○子曰く、君子は事え易うして說ばしめ難し。之を說ばしむるに道を以てせざれば、說びず。其の人を使うに及んでは、之を器のままにす。小人は事え難うして說ばしめ易し。之を說ばしむるに道を以てせずと雖も說ぶ。其の人を使うに及んで、備わらんことを求む。易は去聲。說は音悦。○之を器のままにすは、其の材器に隨いて之を使うを謂うなり。君子の心は、公にして恕。小人の心は、私にして刻。天理人欲の閒は、每に相反[そむ]けるのみ。
子路26
○子曰、君子泰而不驕。小人驕而不泰。君子循理。故安舒不矜肆。小人逞欲。故反是。
【読み】
○子曰く、君子は泰[ゆたか]にして驕らず。小人は驕って泰ならず。君子は理に循う。故に安舒にして矜肆ならず。小人は欲を逞しくす。故に是に反す。
子路27
○子曰、剛毅木訥近仁。程子曰、木者質樸。訥者遲鈍。四者質之近乎仁者也。楊氏曰、剛毅則不屈於物欲。木訥則不至於外馳。故近仁。
【読み】
○子曰、剛毅木訥仁に近し。程子曰く、木は質樸。訥は遲鈍。四つの者は質の仁に近き者なり。楊氏曰く、剛毅なれば則ち物欲に屈せず。木訥なれば則ち外馳に至らず。故に仁に近し、と。
子路28
○子路問曰、何如斯可謂之士矣。子曰、切切偲偲怡怡如也、可謂士矣。朋友切切偲偲。兄弟怡怡。胡氏曰、切切、懇到也。偲偲、詳勉也。怡怡、和悦也。皆子路所不足。故告之。又恐其混於所施。則兄弟有賊恩之禍、朋友有善柔之損。故又別而言之。
【読み】
○子路問うて曰く、何如なるか斯れ之を士と謂いつ可き。子曰く、切切偲偲怡怡如たるを、士と謂う可し。朋友には切切偲偲。兄弟には怡怡。胡氏曰く、切切は懇到なり。偲偲は詳勉なり。怡怡は和悦なり。皆子路の足らざる所。故に之を告ぐ。又其の施す所を混ずるを恐る。則ち兄弟には恩を賊うの禍有り、朋友には善柔の損有り。故に又別ちて之を言う。
子路29
○子曰、善人教民七年、亦可以卽戎矣。敎民者、敎之以孝弟忠信之行、務農講武之法。卽、就也。戎、兵也。民知親其上、死其長。故可以卽戎。○程子曰、七年云者、聖人度其時可矣。如云朞月・三年・百年・一世・大國五年・小國七年之類、皆當思其作爲如何。乃有益。
【読み】
○子曰く、善人民を教うること七年、亦以て戎[つわもの]に卽く可し。民を敎うるは、之を敎うるに孝弟忠信の行、農を務め武を講ずるの法を以てす。卽くは就くなり。戎は兵なり。民其の上を親しみ、其の長に死するを知る。故に以て戎に卽く可し。○程子曰く、七年と云うは、聖人其の時の可を度るなり。朞月・三年・百年・一世・大國五年・小國七年と云うの類が如きは、皆當に其の作爲如何と思うべし。乃ち益有り、と。
子路30
○子曰、以不教民戰、是謂棄之。以、用也。言用不敎之民以戰、必有敗亡之禍。是棄其民也。
【読み】
○子曰く、教えざる民を以[もち]いて戰わしむ、是れ之を棄つと謂う。以うは用うなり。言うこころは、敎えざるの民を用いて以て戰わば、必ず敗亡の禍有り。是れ其の民を棄つるなり、と。
憲問第十四 胡氏曰、此篇疑原憲所記。凡四十七章。
【読み】
憲問第十四 胡氏曰く、此の篇疑うらくは原憲が記す所なるべし、と。凡て四十七章。
憲問1
○憲問恥。子曰、邦有道穀、邦無道穀、恥也。憲、原思名。穀、祿也。邦有道不能有爲、邦無道不能獨善、而但知食祿、皆可恥也。憲之狷介、其於邦無道穀之可恥、固知之矣。至於邦有道穀之可恥、則未必知也。故夫子因其問而幷言之、以廣其志、使知所以自勉、而進於有爲也。
【読み】
○憲恥を問う。子曰く、邦道有るときも穀し、邦道無きときも穀するは、恥なり。憲は原思の名。穀は祿なり。邦に道有りてすること有るに能わず、邦に道無くて獨り善くすること能わずして、但祿を食むを知るは、皆恥ず可きなり。憲の狷介、其の邦道無きに穀することの恥ず可きに於ては、固より之を知れり。邦道有るに穀することの恥ず可きに至りては、則ち未だ必ずしも知らざるなり。故に夫子其の問いに因りて幷せて之を言い、以て其の志を廣め、自ら勉むる所以を知って、すること有るに進めしむるなり。
憲問2
○克伐怨欲不行焉、可以爲仁矣。此亦原憲以其所能而問也。克、好勝。伐、自矜。怨、忿恨。欲、貪欲。
【読み】
○克伐怨欲行われざるを、以て仁としつ可し。此れ亦原憲其の能くする所を以て問うなり。克は勝つを好む。伐は自ら矜[ほこ]る。怨は忿恨。欲は貪欲なり。
子曰、可以爲難矣。仁則吾不知也。有是四者、而能制之、使不得行。可謂難矣。仁則天理渾然、自無四者之累。不行不足以言之也。○程子曰、人而無克伐怨欲、惟仁者能之。有之而能制其情、使不行、斯亦難能也、謂之仁、則未也。此聖人開示之深。惜乎、憲之不能再問也。或曰、四者不行、固不得爲仁矣。然亦豈非所謂克己之事、求仁之方乎。曰、克去己私以復乎禮、則私欲不留、而天理之本然者得矣。若但制而不行、則是未有拔去病根之意、而容其潛藏隱伏於胷中也。豈克己求仁之謂哉。學者察於二者之閒、則其所以求仁之功、益親切而無滲漏矣。
【読み】
子曰く、以て難きとしつ可し。仁は則ち吾知らず。是の四つの者有れども、而して能く之を制して、行うことを得ざらしむ。難きと謂う可し。仁は則ち天理渾然、自ら四つの者の累い無し。行われざるは以て之を言うに足らざるなり。○程子曰く、人にして克伐怨欲無きは、惟仁者のみ之を能くす。之れ有りて能く其の情を制し、行われざらしむは、斯れも亦能くすること難けれども、之を仁と謂うは、則ち未だし。此れ聖人開示の深き。惜しいかな、憲の再問すること能わざること、と。或ひと曰く、四つの者行われざるは、固より仁爲ることを得ず。然れども亦豈所謂己に克つの事、仁を求むるの方に非ずや、と。曰く、己が私を克ち去[のぞ]きて以て禮に復れば、則ち私欲留まらずして、天理の本然なる者を得るなり。若し但制して行わざるのみは、則ち是れ未だ病根を拔き去[す]つるの意有らずして、其の胷中に潛藏隱伏することを容[ゆる]す。豈己に克ちて仁を求むるの謂ならんや。學者二つの者の閒を察せば、則ち其の仁を求むる所以の功、益々親切にして滲漏すること無し、と。
憲問3
○子曰、士而懷居、不足以爲士矣。居、謂意所便安處也。
【読み】
○子曰く、士として居を懷[おも]うは、以て士とするに足らず。居は意の便安する所の處を謂うなり。
憲問4
○子曰、邦有道、危言危行。邦無道、危行言孫。行・孫、皆去聲。○危、高峻也。孫、卑順也。尹氏曰、君子之持身、不可變也。至於言、則有時而不敢盡、以避禍也。然則爲國者、使士言孫、豈不殆哉。
【読み】
○子曰く、邦道有るときは、言を危くし行を危くす。邦道無きときは、行を危くし言孫[したが]う。行・孫は皆去聲。○危は高峻なり。孫は卑順なり。尹氏曰く、君子の身を持[たも]つことは、變ず可からず。言に至りては、則ち時有りて敢えて盡くさず、以て禍を避くなり。然れば則ち國を爲むる者、士に言を孫わしめば、豈に殆からずや、と。
憲問5
○子曰、有德者、必有言。有言者、不必有德。仁者必有勇。勇者不必有仁。有德者、和順積中、英華發外。能言者、或便佞口給而已。仁者、心無私累、見義必爲。勇者、或血氣之強而已。○尹氏曰、有德者必有言。徒能言者、未必有德也。仁者志必勇。徒能勇者、未必有仁也。
【読み】
○子曰く、德有る者は、必ず言有り。言有る者は、必ずしも德有らず。仁者は必ず勇有り。勇者は必ずしも仁有らず。有德者は、和順中に積み、英華外に發[あらわ]す。能言者は、或は便佞口給のみ。仁者は、心に私累無く、義を見て必ず爲す。勇者は、或は血氣の強きのみ。○尹氏曰く、德有る者は必ず言有り。徒能く言う者は、未だ必ずしも德有らざるなり。仁者は志必ず勇む。徒能く勇む者は、未だ必ずしも仁有らざるなり、と。
憲問6
○南宮适問於孔子曰、羿善射、奡盪舟。倶不得其死然。禹稷躳稼而有天下。夫子不答。南宮适出。子曰、君子哉若人。尙德哉若人。适、古活反。羿、音詣。奡、五報反。盪、土浪反。○南宮适、卽南容也。羿、有窮之君、善射。滅夏后相而簒其位。其臣寒浞、又殺羿而代之。奡、春秋傳作澆。浞之子也。力能陸地行舟。後爲夏后少康所誅。禹平水土、曁稷播種、身親稼穡之事。禹受舜禪、而有天下、稷之後、至周武王、亦有天下。适之意、蓋以羿・奡比當世之有權力者、而以禹・稷比孔子也。故孔子不答。然适之言如此、可謂君子之人、而有尙德之心矣、不可以不與。故俟其出而贊美之。
【読み】
○南宮适[なんきゅうかつ]孔子に問うて曰く、羿善く射[ゆみい]、奡[ごう]舟を盪[お]す。倶に其の死を得ず然り。禹稷は躳[みずか]ら稼して天下を有[たも]てり。夫子答えず。南宮适出でぬ。子曰く、君子なるかな若くのごとき人。德を尙べるかな若くのごとき人。适は古活の反。羿は音詣。奡は五報の反。盪は土浪の反。○南宮适は卽ち南容なり。羿は、有窮の君、射を善くす。夏后相を滅して其の位を簒[うば]う。其の臣寒浞[かんそく]、又羿を殺して之に代わる。奡は、春秋傳に澆[ぎょう]に作る。浞の子なり。力は能く陸地に舟を行[すす]む。後に夏后少康の爲に誅せらる。禹は水土を平げ、稷に曁[およ]んで播種し、身[みずか]ら稼穡の事を親しむ。禹は舜の禪りを受けて、天下を有ち、稷の後、周の武王に至りて、亦天下を有つ。适の意、蓋し羿・奡を以て當世の權力有る者に比して、禹・稷を以て孔子に比すなり。故に孔子答えず。然れども适の言此の如くば、君子の人にして、德を尙ぶの心有りと謂う可く、以て與せざる可からず。故に其の出づるを俟ちて之を贊美す。
憲問7
○子曰、君子而不仁者有矣夫。未有小人而仁者也。夫、音扶。○謝氏曰、君子志於仁矣。然毫忽之閒、心不在焉、則未免爲不仁也。
【読み】
○子曰く、君子にして仁あらざる者は有らん。未だ小人にして仁ある者は有らず。夫は音扶。○謝氏曰く、君子は仁に志す。然れども毫忽の閒も、心在らざれば、則ち未だ不仁爲ることを免れず、と。
憲問8
○子曰、愛之、能勿勞乎。忠焉、能勿誨乎。蘇氏曰、愛而勿勞、禽犢之愛也。忠而勿誨、婦寺之忠也。愛而知勞之、則其爲愛也深矣。忠而知誨之、則其爲忠也大矣。
【読み】
○子曰く、之を愛しなば、能く勞せしむること勿けんや。忠あらば、能く誨うること勿けんや。蘇氏曰く、愛して勞せしむること勿きは、禽犢の愛なり。忠にして誨うること勿きは、婦寺の忠なり。愛して之を勞せしむることを知れば、則ち其の愛爲るや深し。忠にして之を誨えしむることを知れば、則ち其の忠爲るや大なり、と。
憲問9
○子曰、爲命、裨諶草創之、世叔討論之、行人子羽脩飾之、東里子產潤色之。裨、婢之反。諶、時林反。○裨諶以下四人、皆鄭大夫。草、略也。創、造也。謂造爲草藁也。世叔、游吉也。春秋傳作子太叔。討、尋究也。論、講議也。行人、掌使之官。子羽、公孫揮也。脩飾、謂增損之。東里、地名、子產所居也。潤色、謂加以文采也。鄭國之爲辭命、必更此四賢之手而成。詳審精密、各盡所長。是以應對諸侯、鮮有敗事。孔子言此、蓋善之也。
【読み】
○子曰く、命を爲[つく]るに、裨諶[ひじん]之を草創し、世叔[せいしゅく]之を討論し、行人子羽之を脩飾し、東里の子產之を潤色す。裨は婢之の反。諶は時林の反。○裨諶以下の四人は皆鄭の大夫。草は略なり。創は造[はじむる]なり。草藁を造爲するを謂うなり。世叔は游吉なり。春秋傳に子太叔に作る。討は尋ね究むなり。論は講議なり。行人は使を掌るの官。子羽は公孫揮なり。脩飾は之を增損するを謂う。東里は地名、子產の居る所なり。潤色は加うるに文采を以てするを謂うなり。鄭國の辭命を爲る、必ず此の四賢の手を更[へ]て成る。詳審精密に、各々長ずる所を盡くす。是を以て諸侯に應對し、敗事有ること鮮し。孔子の此を言うも、蓋し之を善しとするならん。
憲問10
○或問子產。子曰、惠人也。子產之政、不專於寬。然其心則一以愛人爲主。故孔子以爲惠人。蓋擧其重而言也。
【読み】
○或ひと子產を問う。子曰く、惠人なり。子產の政、寬に專らならず。然れども其の心は則ち一に人を愛するを以て主とす。故に孔子以て惠人と爲す。蓋し其の重きを擧げて言うなり。
問子西。曰、彼哉彼哉。子西、楚公子申、能遜楚國、立昭王、而改紀其政。亦賢大夫也。然不能革其僭王之號。昭王欲用孔子、又沮止之。其後卒召白公以致禍亂、則其爲人可知矣。彼哉者、外之之辭。
【読み】
子西を問う。曰く、彼よや彼よや。子西は、楚の公子申、能く楚國を遜[ゆず]り、昭王を立てて、其の政を改め紀[ただ]す。亦賢大夫なり。然れども其の僭王の號を革むること能わず。昭王孔子を用いんと欲して、又之を沮止す。其の後卒に白公を召じ以て禍亂を致せば、則ち其の爲人[ひととなり]は知る可し。彼よやは、之を外にするの辭。
問管仲。曰、人也、奪伯氏駢邑三百。飯疏食、沒齒、無怨言。人也、猶言此人也。伯氏、齊大夫。駢邑、地名。齒、年也。蓋桓公奪伯氏之邑、以與管仲。伯氏自知己罪、而心服管仲之功。故窮約以終身、而無怨言。荀卿所謂與之書社三百、而富人莫之敢拒者、卽此事也。○或問、管仲・子產孰優。曰、管仲之德、不勝其才。子產之才、不勝其德。然於聖人之學、則概乎未有聞也。
【読み】
管仲を問う。曰く、人[このひと]、伯氏が駢邑三百を奪う。疏食を飯[くら]って、齒[とし]を沒[お]うれども、怨言無し。人也は、猶此の人やと言うがごとし。伯氏は齊の大夫。駢邑は、地名。齒は年なり。蓋し桓公伯氏の邑を奪い、以て管仲に與う。伯氏自ら己が罪を知りて、心管仲が功に服す。故に窮約し以て身を終えるも、怨言無し。荀卿謂う所の之に書社三百を與えて、富人之を敢えて拒むこと莫しは、卽ち此の事なり。○或ひと問う、管仲・子產孰れか優れる、と。曰く、管仲の德、其の才に勝たず。子產の才、其の德に勝たず。然れども聖人の學に於ては、則ち概ね未だ聞くこと有らざるなり、と。
憲問11
○子曰、貧而無怨難。富而無驕易。易、去聲。○處貧難、處富易、人之常情。然人當勉其難而不可忽其易也。
【読み】
○子曰く、貧しうして怨み無きことは難し。富んで驕ること無きは易し。易は去聲。○貧しきに處すること難く、富に處すること易きは、人の常情なり。然れども人當に其の難きを勉めて其の易きを忽[あなど]る可からず。
憲問12
○子曰、孟公綽、爲趙魏老則優。不可以爲滕薛大夫。公綽、魯大夫。趙魏、晉卿之家。老、家臣之長。大家勢重而無諸侯之事。家老望尊而無官守之責。優、有餘也。滕・薛、二國名。大夫、任國政者。滕・薛國小政繁、大夫位高責重。然則公綽蓋廉靜寡欲、而短於才者也。○楊氏曰、知之弗豫、枉其才而用之、則爲棄人矣。此君子所以患不知人也。言此則孔子之用人可知矣。
【読み】
○子曰く、孟公綽[もうこうしゃく]、趙魏老爲らば則ち優[ゆたか]ならん。以て滕薛の大夫爲る可からず。公綽は魯の大夫。趙魏は晉の卿の家。老は家臣の長。大家勢い重くして諸侯の事無し。家老は望み尊[たか]くして官守の責め無し。優は餘り有るなり。滕・薛は二國の名。大夫は國政に任ずる者。滕・薛は國小さく政繁く、大夫位高く責め重し。然れば則ち公綽蓋し廉靜寡欲にして、才短き者ならん。○楊氏曰く、之を知ること豫めせず、其の才を枉げて之を用うれば、則ち人を棄つと爲す。此れ君子の人を知らざることを患うる所以なり。此を言うときは則ち孔子の人を用うることを知る可し、と。
憲問13
○子路問成人。子曰、若臧武仲之知、公綽之不欲、卞莊子之勇、冉求之藝、文之以禮樂、亦可以爲成人矣。知、去聲。○成人、猶言全人。武仲、魯大夫、名紇。莊子、魯卞邑大夫。言兼此四子之長、則知足以窮理、廉足以養心、勇足以力行、藝足以泛應。而又節之以禮、和之以樂、使德成於内、而文見乎外、則材全德備、渾然不見一善成名之迹、中正和樂、粹然無復偏倚駁雜之蔽、而其爲人也亦成矣。然亦之爲言、非其至者。蓋就子路之所可及而語之也。若論其至、則非聖人之盡人道、不足以語此。
【読み】
○子路成人を問う。子曰く、臧武仲が若きの知、公綽[こうしゃく]が不欲、卞莊子[べんそうし]が勇、冉求が藝、之を文[あや]なすに禮樂を以てせば、亦以て成人とす可し。知は去聲。○成人は猶全人と言うがごとし。武仲は魯の大夫、名は紇。莊子は魯の卞邑の大夫。言うこころは、此の四子の長を兼ぬれば、則ち知以て理を窮むるに足り、廉以て心を養うに足り、勇以て力め行うに足り、藝以て泛く應ずるに足れり。而して又之を節するに禮を以てし、之を和らぐるに樂を以てすれば、德内に成りて、文外に見われしめ、則ち材全く德備われるところ、渾然として一善をして名を成すの迹を見ず、中正和樂なるところ、粹然として復偏倚駁雜の蔽われ無く、而して其の人爲るや亦成れり、と。然れども亦と言を爲すは、其の至れる者に非ず。蓋し子路の及ぶ可き所に就きて之を語げん。若し其の至りを論ずるときは、則ち聖人の人道を盡くせるに非ざれば、以て此を語るに足らず。
曰、今之成人者、何必然。見利思義、見危授命、久要不忘平生之言、亦可以爲成人矣。復加曰字者、旣答而復言也。授命、言不愛其生、持以與人也。久要、舊約也。平生、平日也。有是忠信之實、則雖其才知禮樂、有所未備、亦可以爲成人之次也。○程子曰、知之明、信之篤、行之果、天下之達德也。若孔子所謂成人、亦不出此三者。武仲知也。公綽仁也。卞莊子勇也。冉求藝也。須是合此四人之能、文之以禮樂。亦可以爲成人矣。然而論其大成、則不止於此。若今之成人、有忠信而不及於禮樂、則又其次者也。又曰、臧武仲之知、非正也。若文之以禮樂、則無不正矣。又曰、語成人之名、非聖人孰能之。孟子曰、唯聖人然後可以踐形。如此方可以稱成人之名。胡氏曰、今之成人以下、乃子路之言。蓋不復聞斯行之之勇、而有終身誦之之固矣。未詳是否。
【読み】
曰く、今の成人という者は、何ぞ必ずしも然らん。利を見て義を思い、危きを見て命を授け、久要にも平生の言を忘れざるを、亦以て成人としつ可し。復曰の字を加えるは、旣に答えて復言うなり。命を授くは、其の生を愛まず、持して以て人に與うを言うなり。久要は舊約なり。平生は平日なり。是の忠信の實有るときは、則ち其の才知禮樂、未だ備わらざる所有りと雖も、亦以て成人の次とす可きなり。○程子曰く、之を知ること明らかに、之を信ずること篤く、之を行うこと果は、天下の達德なり。孔子謂う所の成人の若きも、亦此の三つの者を出でず。武仲知なり。公綽仁なり。卞莊子勇なり。冉求藝なり。須く是れ此の四人の能を合わせ、之を文なすに禮樂を以てすべし。亦以て成人とす可し。然れども而して其の大成を論ずるときは、則ち此に止まず。今の成人の若く、忠信有りて禮樂に及ばざれば、則ち又其の次なる者なり、と。又曰く、臧武仲の知は、正しきに非ざるなり。若し之を文なすに禮樂を以てすれば、則ち正からざること無し、と。又曰く、成人の名を語るは、聖人に非ざれば孰か之を能くせん。孟子曰く、唯聖人にして然る後に以て形を踐む可し、と。此の如くして方[はじ]めて以て成人の名を稱す可し、と。胡氏曰く、今之成人以下は、乃ち子路の言なり。蓋し復聞くままに斯れ之を行うの勇ならずして、身を終うるまで之を誦するの固[いや]しきこと有り、と。未だ是否詳らかならず。
憲問14
○子問公叔文子於公明賈曰、信乎、夫子不言、不笑、不取乎。公叔文子、衛大夫公孫拔也。公明、姓。賈、名。亦衛人。文子爲人、其詳不可知、然必廉靜之士。故當時以三者稱之。
【読み】
○子公叔文子を公明賈に問うて曰く、信[まこと]なるか、夫子言わず、笑わず、取らざること。公叔文子は衛の大夫の公孫拔なり。公明は姓。賈は名。亦衛の人なり。文子爲人[ひととなり]、其の詳は知る可からず、然れども必ずや廉靜の士ならん。故に當時三つの者を以て之を稱す。
公明賈對曰、以告者過也。夫子時然後言。人不厭其言。樂然後笑。人不厭其笑。義然後取。人不厭其取。子曰、其然、豈其然乎。厭者、苦其多而惡之之辭。事適其可、則人不厭、而不覺其有是矣。是以稱之、或過而以爲不言不笑不取也。然此言也、非禮義充溢於中、得時措之宜者不能。文子雖賢、疑未及此。但君子與人爲善、不欲正言其非也。故曰其然、豈其然乎。蓋疑之也。
【読み】
公明賈對えて曰く、以て告[もう]す者の過なり。夫子時あって然して後に言う。人其の言うことを厭わず。樂しんで然して後に笑う。人其の笑うことを厭わず。義あって然して後に取る。人其の取ることを厭わず。子曰く、其れ然りな、豈其れ然りや。厭うは、其の多きを苦しみて之を惡むの辭。事其の可に適[かな]えば、則ち人厭わずして、其の是れ有るを覺えず。是を以て之を稱すを、或ひと過りて以て言わず笑わず取らずと爲すなり。然れども此の言は、禮義中に充ち溢れ、時を措くこと宜しきを得る者に非ざれば能わず。文子賢なりと雖も、疑うらくは未だ此に及ばず。但君子は人の善爲ることを與[たす]け、正しく其の非を言わんと欲せず。故に曰く其れ然りな、豈其れ然りや、と。蓋し之を疑うなり。
憲問15
○子曰、臧武仲、以防求爲後於魯。雖曰不要君、吾不信也。要、平聲。○防、地名。武仲所封邑也。要、有挾而求也。武仲得罪奔邾、自邾如防、使請立後而避邑、以示若不得請、則將據邑以叛。是要君也。○范氏曰、要君者無上。罪之大者也。武仲之邑、受之於君。得罪出奔、則立後在君、非己所得專也。而據邑以請。由其好知而不好學也。楊氏曰、武仲卑辭請後。其跡非要君者。而意實要之。夫子之言、亦春秋誅意之法也。
【読み】
○子曰く、臧武仲、防を以[ひきい]て後を魯に爲[たて]んことを求む。君を要せずと曰うと雖も、吾信ぜず。要は平聲。○防は地名。武仲の封ぜられし邑なり。要すは、挾むこと有りて求むるなり。武仲罪を得て邾[ちゅ]に奔り、邾より防に如[ゆ]き、後を立てて邑を避けんことを請わしめ、以て若し請を得ざれば、則ち將に邑に據りて以て叛かんとするを示す。是れ君を要するなり。○范氏曰く、君を要する者は上を無[な]みす。罪の大いなる者なり。武仲が邑、之を君に受く。罪を得て出で奔るときは、則ち後を立つること君に在り、己が得て專[ほしいまま]にする所に非ず。而して邑に據りて以て請う。其の知を好んで學を好まざるに由りてなり、と。楊氏曰く、武仲辭を卑くして後を請うは、其の跡は君を要する者に非ず。而して意は實に之を要す。夫子の言、亦春秋意を誅すの法なり、と。
憲問16
○子曰、晉文公譎而不正。齊桓公正而不譎。譎、古穴反。○晉文公、名重耳。齊桓公、名小白。譎、詭也。二公皆諸侯盟主、攘夷狄以尊周室者也。雖其以力假仁、心皆不正、然桓公伐楚、仗義執言、不由詭道。猶爲彼善於此。文公則伐衛以致楚、而陰謀以取勝。其譎甚矣。二君他事亦多類此。故夫子言此以發其隱。
【読み】
○子曰く、晉の文公は譎[いつわ]って正しからず。齊の桓公は正しくして譎らず。譎は古穴の反。○晉の文公、名は重耳。齊の桓公、名は小白。譎は詭なり。二公は皆諸侯の盟主、夷狄を攘[はら]いて以て周室を尊ぶ者なり。其の力を以て仁を假り、心は皆正しからずと雖も、然れども桓公の楚を伐つに、義に仗[よ]って言を執り、詭道に由らず。猶彼此より善しと爲す。文公は則ち衛を伐ち以て楚を致して、陰謀以て勝を取る。其の譎り甚だし。二君の他事も亦多く此に類す。故に夫子此を言い以て其の隱を發[あば]く。
憲問17
○子路曰、桓公殺公子糾。召忽死之。管仲不死。曰、未仁乎。糾、居黝反。召、音邵。○按春秋傳、齊襄公無道。鮑叔牙奉公子小白奔莒。及無知弑襄公、管夷吾・召忽、奉公子糾奔魯。魯人納之、未克、而小白入。是爲桓公。使魯弑子糾、而請管・召。召忽死之、管仲請囚。鮑叔牙言於桓公以爲相。子路疑管仲忘君事讐、忍心害理、不得爲仁也。
【読み】
○子路曰く、桓公公子糾を殺す。召忽[しょうこつ]之に死んぬ。管仲死なず。曰く、未だ仁あらざるか。糾は居黝の反。召は音邵。○春秋傳を按ずるに、齊の襄公無道。鮑叔牙公子小白を奉じて莒[きょ]に奔る。無知襄公を弑すに及び、管夷吾・召忽、公子糾を奉じて魯に奔る。魯人之を納めんとして、未だ克たず、而して小白入る。是れ桓公と爲す。魯に子糾を弑さしめて、管・召を請う。召忽之に死し、管仲囚われんことを請う。鮑叔牙桓公に言いて以て相と爲す。子路管仲の君を忘れ讐に事え、心に忍び理を害す、仁爲ることを得ざらんかと疑うなり。
子曰、桓公九合諸侯、不以兵車、管仲之力也。如其仁、如其仁。九、春秋傳作糾。督也。古字通用。不以兵車、言不假威力也。如其仁、言誰如其仁者。又再言以深許之。蓋管仲雖未得爲仁人、而其利澤及人、則有仁之功矣。
【読み】
子曰く、桓公諸侯を九合するに、兵車を以てせざるは、管仲が力なり。其の仁に如[し]かんや、其の仁に如かんや。九は春秋傳に糾に作る。督なり。古字通用す。兵車を以てせずは、威力を假らざるを言うなり。其の仁に如かんやは、誰か其の仁に如く者あらんやと言う。又再び言いて以て深く之を許す。蓋し管仲未だ仁人爲るを得ずと雖も、而して其利澤人に及べば、則ち仁の功有り。
憲問18
○子貢曰、管仲非仁者與。桓公殺公子糾、不能死。又相之。與、平聲。相、去聲。○子貢意不死猶可。相之則已甚矣。
【読み】
○子貢曰く、管仲は仁者に非ざるか。桓公公子糾を殺すときに、死すること能わず。又之に相たり。與は平聲。相は去聲。○子貢意えらく、死せざるは猶可なり。之に相たるは則ち已甚[はなはだ]だし、と。
子曰、管仲相桓公、霸諸侯。一匡天下。民到于今、受其賜。微管仲、吾其被髮左衽矣。被、皮寄反。衽、而審反。○霸、與伯同、長也。匡、正也。尊周室、攘夷狄、皆所以正天下也。微、無也。衽、衣衿也。被髪左衽、夷狄之俗也。
【読み】
子曰く、管仲桓公に相として、諸侯に霸たり。一に天下を匡[ただ]しうす。民今に到るまで、其の賜を受く。管仲微[な]かっせば、吾其れ髮を被り衽を左にせん。被は皮寄の反。衽は而審の反。○霸は伯と同じ、長なり。匡すは正すなり。周室を尊び、夷狄を攘[はら]うは、皆天下を正しうする所以なり。微は無なり。衽は衣衿なり。被髪左衽は、夷狄の俗なり。
豈若匹夫匹婦之爲諒也、自經於溝瀆、而莫之知也。諒、小信也。經、縊也。莫之知、人不知也。後漢書引此文、莫字上、有人字。○程子曰、桓公、兄也。子糾、弟也。仲私於所事、輔之以爭國、非義也。桓公殺之雖過、而糾之死實當。仲始與之同謀、遂與之同死可也。知輔之爭爲不義、將自免以圖後功亦可也。故聖人不責其死、而稱其功。若使桓弟而糾兄、管仲所輔者正、桓奪其國而殺之、則管仲之與桓、不可同世之讐也。若計其後功、而與其事桓、聖人之言、無乃害義之甚、啓萬世反覆不忠之亂乎。如唐之王珪・魏徴、不死建成之難、而從太宗、可謂害於義矣。後雖有功、何足贖哉。愚謂、管仲有功而無罪。故聖人獨稱其功。王魏先有罪而後有功。則不以相掩可也。
【読み】
豈匹夫匹婦の諒[まこと]をするが、自ら溝瀆に經[くみ]れて、之を知ること莫きが若くせんや。諒は小信なり。經は縊るなり。之を知ること莫しは、人知らざるなり。後漢書此の文を引くに、莫の字の上に、人の字有り。○程子曰く、桓公は兄なり。子糾は弟なり。仲事うる所に私して、之を輔けて以て國を爭うは義に非ず。桓公の之を殺すは過ぎたりと雖も、而して糾の死は實に當れり。仲始め之と謀を同じうすれば、遂に之と死を同じうせんこと可なり。之を輔けて爭うことの不義爲るを知り、將に自ら免れて以て後功を圖らんとするも亦可なり。故に聖人其の死を責めずして、其の功を稱す。若し桓弟にして糾兄たらしめば、管仲の輔くる所の者正しくして、桓其の國を奪いて之を殺さば、則ち管仲と桓とは、世を同じくす可からざるの讐なり。若し其の後功を計りて、其の桓に事うるを與[ゆる]さば、聖人の言、乃ち義を害するの甚だしき、萬世反覆不忠の亂を啓くこと無けんや。唐の王珪・魏徴の、建成の難に死せずして、太宗に從うが如きは、義に害ありと謂う可し。後功有りと雖も、何ぞ贖[あがな]うに足らんや、と。愚謂えらく、管仲は功有りて罪無し。故に聖人獨り其の功を稱す。王魏は先に罪有りて後に功有り。則ち以て相掩わざること可なり。
憲問19
○公叔文子之臣大夫僎、與文子同升諸公。僎、士免反。○臣、家臣。公、公朝。謂薦之與己同進、爲公朝之臣也。
【読み】
○公叔文子が臣大夫僎[せん]、文子と同じく諸公に升る。僎は士免の反。○臣は家臣。公は公朝。之を薦めて己と同じく進み、公朝の臣と爲すを謂うなり。
子聞之曰、可以爲文矣。文者、順理、而成章之謂。諡法亦有所謂錫民爵位曰文者。○洪氏曰、家臣之賤、而引之使與己竝、有三善焉。知人、一也。忘己、二也。事君、三也。
【読み】
子之を聞いて曰く、以て文と爲す可し。文は理に順いて章を成すの謂なり。諡法に亦所謂民に爵位を錫うを文と曰う者有り。○洪氏曰く、家臣の賤しき、而るを之を引きて己と竝ばしむ、三善有り。人を知る、一つなり。己を忘る、二つなり。君に事る、三つなり、と。
憲問20
○子言衛靈公之無道也。康子曰、夫如是、奚而不喪。夫、音扶。喪、去聲。○喪、失位也。
【読み】
○子衛の靈公の無道なることを言う。康子が曰く、夫れ是の如くんば、奚而[いかんとして]か喪わず。夫は音扶。喪は去聲。○喪は位を失うなり。
孔子曰、仲叔圉治賓客、祝鮀治宗廟、王孫賈治軍旅。夫如是、奚其喪。仲叔圉、卽孔文子也。三人皆衛臣。雖未必賢、而其才可用。靈公用之、又各當其才。○尹氏曰、衛靈公之無道、宜喪也。而能用此三人、猶足以保其國。而況有道之君、能用天下之賢才者乎。詩曰、無競維人。四方其訓之。
【読み】
孔子曰く、仲叔圉[ぎょ]賓客を治め、祝鮀[しゅくだ]宗廟を治め、王孫賈軍旅を治む。夫れ是の如くば、奚[なん]ぞ其れ喪わん。仲叔圉は卽ち孔文子なり。三人は皆衛の臣。未だ必ずしも賢ならずと雖も、而るに其の才用う可し。靈公の之を用うること、又各々其の才に當る。○尹氏曰く、衛の靈公の無道なる、宜しく喪ぶべし。而るに能く此の三人を用いて、猶以て其の國を保つに足れり。而るを況や有道の君にして、能く天下の賢才を用うる者をや。詩に曰く、競[つよ]きこと無からんや維の人。四方其れ之を訓[おし]えとす、と。
憲問21
○子曰、其言之不怍、則爲之也難。大言不慙、則無必爲之志、而不自度其能否矣。欲踐其言、豈不難哉。
【読み】
○子曰く、其の之を言うこと怍[は]じざるときは、則ち之を爲ること難し。大言を慙[は]じざれば、則ち必ず爲す志無くして、自ら其の能くせんや否やを度らざるなり。其の言を踐まんと欲せども、豈難からざらんや。
憲問22
○陳成子弑簡公。成子、齊大夫、名恆。簡公、齊君、名壬。事在春秋哀公十四年。
【読み】
○陳成子簡公を弑せり。成子は齊の大夫、名は恆。簡公は齊の君、名は壬。事は春秋哀公十四年に在り。
孔子沐浴而朝、告於哀公曰、陳恆弑其君。請討之。朝、音潮。○是時孔子致仕居魯。沐浴齋戒、以告君、重其事而不敢忽也。臣弑其君、人倫之大變、天理所不容、人人得而誅之。況鄰國乎。故夫子雖已告老、而猶請哀公討之。
【読み】
孔子沐浴して朝し、哀公に告げて曰く、陳恆其の君を弑せり。請う之を討せん。朝は音潮。○是の時孔子仕えを致して魯に居る。沐浴齋戒し、以て君に告ぐは、其の事を重んじて敢えて忽にせざるなり。臣として其の君を弑すは、人倫の大變、天理の容[ゆる]さざる所にして、人人得て之を誅す。況や鄰國をや。故に夫子已に老を告ぐと雖も、而して猶哀公に請うて之を討せんとす。
公曰、告夫三子。夫、音扶。下夫同。○三子、三家也。時政在三家。哀公不得自專。故使孔子告之。
【読み】
公曰く、夫の三子に告げよ。夫は音扶。下の夫も同じ。○三子は三家なり。時に政三家に在り。哀公自ら專[ほしいまま]にすることを得ず。故に孔子をして之を告げしめり。
孔子曰、以吾從大夫之後、不敢不告也。君曰、告夫三子者。孔子出而自言如此。意謂、弑君之賊、法所必討。大夫謀國。義所當告。君乃不能自命三子、而使我告之邪。
【読み】
孔子曰く、吾が大夫の後[しりえ]に從えるを以て、敢えて告[もう]さずんばあらず。君曰く、夫の三子者に告げよ、と。孔子出でて自ら言うこと此の如し。謂う意は、君を弑すの賊は、法の必ず討ずる所。大夫は國のために謀る。義の當に告ぐべき所なり。君乃ち自ら三子に命ずること能わずして、我をして之を告げしむや。
之三子告。不可。孔子曰、以吾從大夫之後、不敢不告也。以君命往告。而三子魯之強臣、素有無君之心。實與陳氏聲勢相倚。故沮其謀。而夫子復以此應之。其所以警之者深矣。○程子曰、左氏記孔子之言曰、陳恆弑其君。民之不予者半。以魯之衆、加齊之半、可克也。此非孔子之言。誠若此言、是以力不以義也。若孔子之志、必將正名其罪、上告天子、下告方伯、而率與國以討之。至於所以勝齊者、孔子之餘事也。豈計魯人之衆寡哉。當是時、天下之亂極矣。因是足以正之、周室其復興乎。魯之君臣、終不從之。可勝惜哉。胡氏曰、春秋之法、弑君之賊、人得而討之。仲尼此擧、先發後聞可也。
【読み】
三子に之いて告ぐ。可[き]かず。孔子曰く、吾が大夫の後に從えるを以て、敢えて告げずんばあらず。君命を以て往きて告ぐ。而して三子は魯の強臣、素より君を無[な]みするの心有り。實に陳氏と聲勢相倚る。故に其の謀を沮む。而して夫子復此を以て之に應ず。其の之を警[さと]す所以の者深し。○程子曰く、左氏孔子の言を記して曰く、陳恆其の君を弑す。民の予[くみ]せざる者半なり。魯の衆を以て、齊の半に加うれば、克つ可し。此れ孔子の言に非ず。誠に此の言の若きは、是れ力を以てして義を以てせざるなり。孔子の志の若きは、必ず將に其の罪を正名し、上は天子に告げ、下は方伯に告げ、而して與國を率いて以て之を討せんとす。齊に勝つ所以の者に至っては、孔子の餘事なり。豈魯人の衆寡を計らんや。是の時に當り、天下の亂極まれり。是に因りて以て之を正すに足れば、周室其れ復興らんや。魯の君臣、終に之に從わず。惜しむに勝[た]う可けんや、と。胡氏曰く、春秋の法、君を弑すの賊、人得て之を討つ。仲尼の此の擧も、先に發し後に聞いて可なり、と。
憲問23
○子路問事君。子曰、勿欺也。而犯之。犯、謂犯顏諫爭。○范氏曰、犯非子路之所難也。而以不欺爲難。故夫子敎以先勿欺而後犯也。
【読み】
○子路君に事らんこと問う。子曰く、欺くこと勿かれ。而して之を犯せ。犯は、顏を犯して諫め爭うを謂う。○范氏曰く、犯すは子路の難き所に非ず。而して欺かざるを以て難きとす。故に夫子敎うるに先ず欺くこと勿くして後に犯すを以てす、と。
憲問24
○子曰、君子上達。小人下達。君子循天理。故日進乎高明。小人徇人欲。故日究乎汙下。
【読み】
○子曰く、君子は上達す。小人は下達す。君子は天理に循う。故に日々に高明に進む。小人は人欲に徇[したが]う。故に日々に汙下に究まる。
憲問25
○子曰、古之學者爲己、今之學者爲人。爲、去聲。○程子曰、爲己、欲得之於己也。爲人、欲見知於人也。○程子曰、古之學者爲己、其終至於成物。今之學者爲人、其終至於喪己。愚按、聖賢論學者用心得失之際、其說多矣。然未有如此言之切而要者。於此明辨而日省之、則庶乎其不昧於所從矣。
【読み】
○子曰く、古の學者は己が爲にす、今の學者は人の爲にす。爲は去聲。○程子曰く、己が爲にすは、之を己に得んことを欲するなり。人の爲にすは、人に知られんことを欲するなり、と。○程子曰く、古の學者は己が爲にして、其の終わりは物を成すに至る。今の學者は人の爲にして、其の終わりは己を喪うに至る、と。愚按ずるに、聖賢の學者の心を用うる得失の際を論ずる、其の說多し。然れども未だ此の言の切にして要なるが如き者有らず。此に於て明らかに辨けて日々に之を省みれば、則ち其の從う所に昧からざるに庶からん。
憲問26
○蘧伯玉使人於孔子。使、去聲。下同。○蘧伯玉、衛大夫、名瑗。孔子居衛、嘗主於其家。旣而反魯。故伯玉使人來也。
【読み】
○蘧伯玉[きょはくぎょく]人を孔子に使わす。使は去聲。下も同じ。○蘧伯玉は衛の大夫、名は瑗。孔子衛に居るとき、嘗て其の家を主とす。旣にして魯に反る。故に伯玉人をして來らしむ。
孔子與之坐而問焉曰、夫子何爲。對曰、夫子欲寡其過、而未能也。使者出。子曰、使乎、使乎。與之坐、敬其主以及其使也。夫子、指伯玉也。言其但欲寡過、而猶未能、則其省身克己、常若不及之意可見矣。使者之言愈自卑約、而其主之賢益彰。亦可謂深知君子之心、而善於辭令者矣。故夫子再言使乎以重美之。按莊周稱伯玉行年五十、而知四十九年之非。又曰、伯玉行年六十、而六十化。蓋其進德之功、老而不倦。是以踐履篤實、光輝宣著。不惟使者知之、而夫子亦信之也。
【読み】
孔子之と坐[い]て問うて曰く、夫子何をかする。對えて曰く、夫子其の過を寡なからまく欲すれども、而も未だ能わず。使者出でぬ。子曰く、使いなるかな、使いなるかな。之と坐るは、其の主を敬し以て其の使いに及ぶなり。夫子は伯玉を指す。其の但過を寡なからまく欲して、猶未だ能わざると言わば、則ち其の身を省みて己に克ち、常に及ばざるが若くなるの意見る可し。使者の言愈々自ら卑約にして、其の主の賢益々彰[あらわ]る。亦深く君子の心を知りて、辭令を善くする者と謂う可し。故に夫子再び使いなるかなと言いて以て重く之を美む。按ずるに、莊周稱す、伯玉行年五十にして、四十九年の非を知る、と。又曰く、伯玉行年六十にして六十化す、と。蓋し其の德に進むの功、老いて倦まず。是を以て踐履篤實、光輝宣著なり。惟使者之を知るのみにあらずして、夫子も亦之を信ぜり。
憲問27
○子曰、不在其位、不謀其政。重出。
【読み】
○子曰く、其の位に在らざれば、其の政を謀らず。重出。
憲問28
○曾子曰、君子思不出其位。此艮卦之象辭也。曾子蓋嘗稱之。記者因上章之語、而類記之也。○范氏曰、物各止其所、而天下之理得矣。故君子所思不出其位、而君臣上下大小、皆得其職也。
【読み】
○曾子曰く、君子は思うこと其の位を出でず。此れ艮の卦の象辭なり。曾子蓋し嘗て之を稱じ、記者上章の語に因りて、類hして之を記す。○范氏曰く、物各々其の所に止まりて、天下の理を得る。故に君子思う所其の位を出でずして、君臣上下大小、皆其の職を得、と。
憲問29
○子曰、君子恥其言、而過其行。行、去聲。○恥者、不敢盡之意。過者、欲有餘之辭。
【読み】
○子曰く、君子は其の言を恥じて、其の行を過ぐす。行は去聲。○恥は、敢えて之を盡くさざるの意。過は、餘り有らんことを欲するの辭。
憲問30
○子曰、君子道者三。我無能焉。仁者不憂、知者不惑、勇者不懼。知、去聲。○自責以勉人也。
【読み】
○子曰く、君子の道という者三つ。我能くすること無し。仁者は憂えず、知者は惑わず、勇者は懼れず。知は去聲。○自ら責めて以て人を勉めしむ。
子貢曰、夫子自道也。道、言也。自道、猶云謙辭。○尹氏曰、成德以仁爲先。進學以知爲先。故夫子之言、其序有不同者以此。
【読み】
子貢曰く、夫子自ら道[のたま]えるなり。道は言うなり。自ら道うは、猶謙辭を云うがごとし。○尹氏曰く、德を成すは仁を以て先と爲す。學に進むは知を以て先と爲す。故に夫子の言、其の序同じからざる者有ること此を以てなり、と。
憲問31
○子貢方人。子曰、賜也賢乎哉。夫我則不暇。夫、音扶。○方、比也。乎哉、疑辭。比方人物而較其短長、雖亦窮理之事、然專務爲此、則心馳於外、而所以自治者疎矣。故褒之、而疑其辭、復自貶以深抑之。○謝氏曰、聖人責人、辭不迫切、而意已獨至如此。
【読み】
○子貢人を方[たくら]ぶ。子曰く、賜は賢なるか。夫れ我は則ち暇[いとま]あらず。夫は音扶。○方は比なり。乎哉は疑いの辭。人物を比方して其の短長を較ぶるは、亦理を窮むるの事なりと雖も、然れども專ら務めて此をするときは、則ち心外に馳せて、以て自ら治むる所の者疎かなり。故に之を褒めて、其の辭を疑わしめ、復自ら貶[おとし]めて以て深く之を抑う。○謝氏曰く、聖人の人を責むること、辭迫切ならずして、意已に獨り至れること此の如し、と。
憲問32
○子曰、不患人之不己知。患其不能也。凡章指同而文不異者、一言而重出也。文小異者、屢言而各出也。此章凡四見、而文皆有異。則聖人於此一事、蓋屢言之。其丁寧之意、亦可見矣。
【読み】
○子曰く、人の己を知らざることを患えず。其の能わざることを患う。凡そ章の指同じくして文も異ならざる者は、一言にして重出なり。文の小しく異なる者は、屢々言いて各々出すなり。此の章は凡て四たび見えて、文皆異なる有り。則ち聖人此の一事に於て、蓋し屢々之を言う。其の丁寧の意、亦見る可し。
憲問33
○子曰、不逆詐、不億不信、抑亦先覺者是賢乎。逆、未至而迎之也。億、未見而意之也。詐、謂人欺己。不信、謂人疑己。抑、反語辭。言雖不逆不億、而於人之情僞自然先覺、乃爲賢也。○楊氏曰、君子一於誠而已。然未有誠而不明者。故雖不逆詐不億不信、而常先覺也。若夫不逆不億、而卒爲小人所罔焉、斯亦不足觀也已。
【読み】
○子曰く、詐[いつわり]を逆[むか]えず、不信を億[おもんばか]らず、抑々亦先ず覺る者是れ賢。逆は、未だ至らずして之を迎うるなり。億は、未だ見ずして之を意うなり。詐は、人の己を欺くを謂う。不信は、人の己を疑うを謂う。抑は反語の辭。言うこころは、逆えず億らずと雖も、而して人の情僞に於て自然に先ず覺るを、乃ち賢と爲すなり。○楊氏曰く、君子は誠に一なるのみ。然して未だ誠ありて明らかならざる者有らず。故に詐を逆えず不信を億らずと雖も、而して常に先ず覺るなり。若し夫れ逆えず億らずして、卒に小人の罔[し]いる所と爲れば、斯れ亦觀るに足らざるのみ、と。
憲問34
○微生畆謂孔子曰、丘何爲是栖栖者與。無乃爲佞乎。與、平聲。○微生、姓。畆、名也。畆名乎夫子而辭甚倨。蓋有齒德而隱者。栖栖、依依也。爲佞、言其務爲口給以悦人也。
【読み】
○微生畆[びせいほ]孔子に謂って曰く、丘何爲[なんすれ]ぞ是れ栖栖たる者なるや。乃ち佞をすること無き。與は平聲。○微生は姓。畆は名なり。畆夫子を名乎して辭は甚だ倨[おご]れり。蓋し齒德有る隱者なり。栖栖は依依なり。佞をするは、其の務めて口給を爲して以て人を悦ばすを言うなり。
孔子曰、非敢爲佞也。疾固也。疾、惡也。固、執一而不通也。聖人之於達尊、禮恭而言直如此。其警之亦深矣。
【読み】
孔子曰く、敢えて佞をせんとに非ず。固なるを疾[にく]んでなり。疾は惡なり。固は、一を執りて通ぜざるなり。聖人の達尊に於る、禮恭しくして言直きこと此の如し。其の之を警せるも亦深し。
憲問35
○子曰、驥不稱其力、稱其德也。驥、善馬之名。德、謂調良也。○尹氏曰、驥雖有力、其稱在德。人有才而無德、則亦奚足尙哉。
【読み】
○子曰く、驥は其の力を稱せず、其の德を稱す。驥は善馬の名。德は調良を謂うなり。○尹氏曰く、驥力有りと雖も、其の稱[ほまれ]は德に在り。人才有りて德無くば、則ち亦奚ぞ尙ぶに足らんや、と。
憲問36
○或曰、以德報怨何如。或人所稱、今見老子書。德、謂恩惠也。
【読み】
○或ひと曰く、德を以て怨に報いるは何如。或人の稱する所、今老子の書に見ゆ。德は恩惠を謂うなり。
子曰、何以報德。言於其所怨、旣以德報之矣、則人之有德於我者、又將何以報之乎。
【読み】
子曰く、何を以てか德に報いん。言うこころは、其の怨むる所に於て、旣に德を以て之に報いば、則ち人の我に德有る者には、又將に何を以てか之に報いん、と。
以直報怨、以德報德。於其所怨者、愛憎取舍、一以至公而無私、所謂直也。於其所德者、則必以德報之、不可忘也。○或人之言、可謂厚矣。然以聖人之言觀之、則見其出於有意之私、而怨德之報、皆不得其平也。必如夫子之言、然後二者之報、各得其所。然怨有不讐、而德無不報、則又未嘗不厚也。此章之言、明白簡約、而其指意曲折反復。如造化之簡易易知、而微妙無窮。學者所宜詳玩也。
【読み】
直を以て怨に報い、德を以て德に報いん。其の怨むる所の者に於て、愛憎取舍、一に至公にして私無きを以てするが、所謂直なり。其の德とする所の者に於ては、則ち必ず德を以て之に報いて、忘るる可からざるなり。○或人の言、厚きと謂う可し。然れども聖人の言を以て之を觀れば、則ち其の意有るの私に出でて、怨德の報い、皆其の平かなることを得ざるを見る。必ず夫子の言の如くにして、然して後に二つの者の報い、各々其の所を得たり。然れども怨に讐をせざること有りて、德に報いざること無きは、則ち又未だ嘗て厚からずにあらざるなり。此の章の言、明白簡約にして、其の指意曲折反復す。造化の簡易なるを知り易くして、微妙にして窮まり無きが如し。學者宜しく詳らかに玩ぶべき所なり。
憲問37
○子曰、莫我知也夫。夫、音扶。○夫子自歎、以發子貢之問也。
【読み】
○子曰く、我を知ること莫いかな。夫は音扶。○夫子自歎し、以て子貢が問いを發[おこ]せり。
子貢曰、何爲其莫知子也。子曰、不怨天、不尤人。下學而上達。知我者其天乎。不得於天而不怨天。不合於人而不尤人。但知下學而自然上達。此但自言其反己自脩、循序漸進耳。無以甚異於人、而致其知也。然深味其語意、則見其中自有人不及知、而天獨知之之妙。蓋在孔門、惟子貢之智、幾足以及此。故特語以發之。惜乎、其猶有所未達也。○程子曰、不怨天、不尤人、在理當如此。又曰、下學上達、意在言表。又曰、學者須守下學上達之語。乃學之要。蓋凡下學人事、便是上達天理。然習而不察、則亦不能以上達矣。
【読み】
子貢曰く、何爲[なんすれ]ぞ其の子を知ること莫き。子曰く、天をも怨みず、人をも尤めず。下學して上達す。我を知る者は其れ天か。天に得られざるも天を怨みず。人に合わざるも人を尤めず。但下學して自然に上達するを知る。此れ但自ら其の己に反り自ら脩め、序に循いて漸くに進むを言うのみ。以て甚だ人に異にして、其の知を致すこと無ければなり。然れども深く其の語意を味えば、則ち其の中に自ら人知るに及ばずして、天獨り之を知るの妙有るを見る。蓋し孔門に在りては、惟子貢の智のみ、幾ど以て此に及ぶに足る。故に特に語げ以て之を發せり。惜しいかな、其れ猶未だ達せざる所有るなり。○程子曰く、天を怨みず、人を尤めずは、理に在りては當に此の如くあるべし、と。又曰く、下學して上達するは、意は言の表に在り、と。又曰く、學者須く下學上達の語を守るべし。乃ち學の要なり。蓋し凡そ下人事を學べば、便ち是れ上天理に達す。然れども習いて察せざれば、則ち亦以て上達すること能わず、と。
憲問38
○公伯寮愬子路於季孫。子服景伯以告曰、夫子固有惑志於公伯寮。吾力猶能肆諸市朝。朝、音潮。○公伯寮、魯人。子服、氏。景、諡。伯、字。魯大夫、子服何也。夫子、指季孫。言其有疑於寮之言也。肆、陳尸也。言欲誅寮。
【読み】
○公伯寮子路を季孫に愬[うった]う。子服景伯以て告げて曰く、夫子固[まこと]に志公伯寮に惑える有り。吾が力猶能く諸を市朝に肆せん。朝は音潮。○公伯寮は魯人。子服は氏。景は諡。伯は字。魯の大夫の子服何なり。夫子は季孫を指す。言うこころは、其の寮の言に疑[まど]わされる有るなり、と。肆は尸を陳[の]ぶるなり。寮を誅せんと欲するを言う。
子曰、道之將行也與命也。道之將廢也與命也。公伯寮其如命何。與、平聲。○謝氏曰、雖寮之愬行、亦命也。其實寮無如之何。愚謂、言此以曉景伯、安子路、而警伯寮耳。聖人於利害之際、則不待決於命而後泰然也。
【読み】
子曰く、道の將に行われんとするも命なり。道の將に廢れんとするも命なり。公伯寮其れ命を如何。與は平聲。○謝氏曰く、寮の愬え行わるると雖も、亦命なり。其の實は寮は之を如何ともすること無し、と。愚謂えらく、此を言いて以て景伯を曉し、子路を安んじ、而して伯寮を警むのみ。聖人の利害の際[あいだ]に於ける、則ち命に決することを待ちて後泰然たるにあらず。
憲問39
○子曰、賢者辟世。辟、去聲。下同。○天下無道而隱。若伯夷・太公、是也。
【読み】
○子曰く、賢者は世を辟[さ]く。辟は去聲。下も同じ。○天下無道にして隱る。伯夷・太公の如き、是れなり。
其次辟地。去亂國、適治邦。
【読み】
其の次は地を辟く。亂國を去り、治邦に適く。
其次辟色。禮貌衰而去。
【読み】
其の次は色を辟く。禮貌衰えて去る。
其次辟言。有違言而後去也。○程子曰、四者雖以大小次第言之、然非有優劣也。所遇不同耳。
【読み】
其の次は言を辟く。違言有りて後去る。○程子曰く、四つの者大小の次第を以て之を言うと雖も、然れども優劣有るに非ざるなり。遇う所同じからざるのみ、と。
憲問40
○子曰、作者七人矣。李氏曰、作、起也。言起而隱去者、今七人矣。不可知其誰何。必求其人以實之、則鑿矣。
【読み】
○子曰く、作[た]つ者七人。李氏曰く、作つは起つなり。言うこころは、起ちて隱れ去る者、今七人なり、と。其の誰何を知る可からず。必ず其の人を求めて以て之を實にするは、則ち鑿なり。
憲問41
○子路宿於石門。晨門曰、奚自。子路曰、自孔氏。曰、是知其不可、而爲之者與。與、平聲。○石門、地名。晨門、掌晨啓門。蓋賢人隱於抱關者也。自、從也。問其何所從來也。胡氏曰、晨門知世之不可而不爲。故以是譏孔子。然不知聖人之視天下、無不可爲之時也。
【読み】
○子路石門に宿る。晨門曰く、奚[いず]くよりす。子路曰く、孔氏自りす。曰く、是れ其の不可を知って、之をする者か。與は平聲。○石門は地名。晨門は、晨に門を啓くを掌る。蓋し賢人にして抱關に隱れし者ならん。自は從なり。其の何所より來れるかを問うなり。胡氏曰く、晨門世の不可を知りてせざる。故に是を以て孔子を譏る。然れども聖人の天下を視ること、す可からざるの時無きを知らざるなり、と。
憲問42
○子擊磬於衛。有荷蕢而過孔氏之門者。曰、有心哉擊磬乎。荷、去聲。○磬、樂器。荷、擔也。蕢、草器也。此荷蕢者、亦隱士也。聖人之心、未嘗忘天下。此人聞其磬聲而知之、則亦非常人矣。
【読み】
○子磬[けい]を衛に擊つ。蕢[あじか]を荷って孔氏の門を過ぐる者有り。曰く、心有るかな磬を擊つこと。荷は去聲。○磬は樂器。荷は擔うなり。蕢は草器なり。此の蕢を荷う者も、亦隱士なり。聖人の心、未だ嘗て天下を忘れず。此の人其の磬聲を聞きて之を知れば、則ち亦常なる人に非ざるなり。
旣而曰、鄙哉、硜硜乎。莫己知也、斯已而已矣。深則厲、淺則掲。硜、苦耕反。莫己之己、音紀、餘音以。掲、起例反。○硜硜、石聲、亦專確之意。以衣渉水曰厲、攝衣渉水曰掲。此兩句、衛風匏有苦葉之詩也。譏孔子人不知己而不止、不能適淺深之宜。
【読み】
旣にして曰く、鄙[いや]しきかな、硜硜乎[こうこうこ]たり。己を知ること莫くば、斯[すなわ]ち已んなまくのみ。深くば則ち厲し、淺くば則ち掲せよ。硜は苦耕の反。莫己の己は音紀、餘は音以。掲は起例の反。○硜硜は石の聲、亦專ら確[かた]しの意。衣を以て水を渉るを厲と曰い、衣を攝げて水を渉るを掲と曰う。此の兩句、衛風匏有苦葉の詩なり。孔子人が己を知らずして止めず、淺深の宜しきに適うこと能わざるを譏る。
子曰、果哉、末之難矣。果哉、歎其果於忘世也。末、無也。聖人心同天地、視天下猶一家、中國猶一人、不能一日忘也。故聞荷蕢之言、而歎其果於忘世、且言、人之出處、若但如此、則亦無所難矣。
【読み】
子曰く、果たせるかな、難きこと末[な]し。果たせるかなは、其の世を忘れるに果なるを歎ずるなり。末は無なり。聖人の心は天地と同じく、天下を視ること猶一家のごとく、中國は猶一人のごとく、一日も忘るること能わざるなり。故に荷蕢が言を聞きて、其の世を忘れるに果なるを歎き、且言う、人の出處、若し但此の如くすることは、則ち亦難き所無し、と。
憲問43
○子張曰、書云、高宗諒陰三年不言。何謂也。高宗、商王武丁也。諒陰、天子居喪之名、未詳其義。
【読み】
○子張曰く、書に云う、高宗諒陰三年言わず、と。何と謂うことぞ。高宗は商王武丁なり。諒陰は、天子喪に居るの名、未だ其の義詳らかならず。
子曰、何必高宗。古之人皆然。君薨、百官總己、以聽於冢宰三年。言君薨、則諸侯亦然。總己、謂總攝己職。冢宰、太宰也。百官聽於冢宰。故君得以三年不言也。○胡氏曰、位有貴賤、而生於父母、無以異者。故三年之喪、自天子達於庶人。子張非疑此也。殆以爲人君三年不言、則臣下無所廩令、禍亂或由以起也。孔子告以聽於冢宰、則禍亂非所憂矣。
【読み】
子曰く、何ぞ必ずしも高宗のみならん。古の人皆然り。君薨ずるとき、百官己を總べて、以て冢宰に聽[したが]うこと三年。君薨ずと言うときは、則ち諸侯も亦然り。己を總ぶは、己が職を總攝するを謂う。冢宰は太宰なり。百官冢宰に聽う。故に君以て三年言わざるを得るなり。○胡氏曰く、位に貴賤有りて、父母より生まるるに、以て異る者無し。故に三年の喪は、天子より庶人に達す、と。子張此を疑うに非ず。殆ど以爲えらく、人君三年言わざれば、則ち臣下令を廩くる所無くして、禍亂或は由りて以て起こらん、と。孔子告ぐるに冢宰に聽うを以てせば、則ち禍亂憂うる所に非ざるなり、と。
憲問44
○子曰、上好禮、則民易使也。好・易皆去聲。○謝氏曰、禮達而分定。故民易使。
【読み】
○子曰く、上禮を好むときは、則ち民使い易し。好・易は皆去聲。○謝氏曰く、禮達して分定まる。故に民使い易し、と。
憲問45
○子路問君子。子曰、脩己以敬。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安人。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安百姓。脩己以安百姓、堯舜其猶病諸。脩己以敬。夫子之言至矣盡矣。而子路少之。故再以其充積之盛、自然及物者告之。無他道也。人者、對己而言。百姓、則盡乎人矣。堯舜猶病、言不可以有加於此、以抑子路、使反求諸近也。蓋聖人之心無窮。世雖極治、然豈能必知四海之内、果無一物不得其所哉。故堯舜猶以安百姓爲病。若曰吾治已足、則非所以爲聖人矣。○程子曰、君子脩己以安百姓、篤恭而天下平。唯上下一於恭敬、則天地自位、萬物自育、氣無不和、而四靈畢至矣。此體信達順之道、聰明睿知、皆由是出。以此事天饗帝。
【読み】
○子路君子を問う。子曰く、己を脩むるに敬を以てす。曰く、斯の如くなるのみか。曰く、己を脩めて以て人を安んず。曰く、斯の如くなるのみか。曰く、己を脩めて以て百姓を安んず。己を脩めて以て百姓を安んずること、堯舜も其れ猶諸を病めり。己を脩むるに敬を以てす。夫子の言至れり盡くせり。而して子路之を少なしとす。故に再び其の充ち積むことの盛んにして、自然に物に及ぶ者を以て之に告ぐ。他に道無し。人は、己に對して言う。百姓は、則ち人を盡くす。堯舜も猶病めりは、以て此に加うること有る可からざるを言い、以て子路を抑え、反りて諸を近きに求めしむるなり。蓋し聖人の心窮まり無し。世極めて治まると雖も、然れども豈能く必ずしも四海の内、果たして一物も其の所を得ざること無きを知らんや。故に堯舜も猶百姓を安んずるを以て病とす。若し吾が治已に足れりと曰うときは、則ち聖人爲る所以に非ず。○程子曰く、君子己を脩めて以て百姓を安んずるは、篤恭にして天下平なり。唯上下恭敬に一なるときは、則ち天地自ら位し、萬物自ら育[やしな]われ、氣和かざること無くして、四靈畢く至る。此れ信を體して順に達するの道にして、聰明睿知も、皆是れ由り出づ。此を以て天に事り帝に饗す、と。
憲問46
○原壤夷俟。子曰、幼而不孫弟、長而無述焉、老而不死。是爲賊、以杖叩其脛。孫・弟、竝去聲。長、上聲。叩、音口。脛、其定反。○原壤、孔子之故人。母死而歌。蓋老氏之流、自放於禮法之外者。夷、蹲踞也。俟、待也。言見孔子來、而蹲踞以待之也。述、猶稱也。賊者害人之名。以其自幼至老、無一善状、而久生於世、徒足以敗常亂俗、則是賊而已矣。脛、足骨也。孔子旣責之、而因以所曳之杖、微擊其脛。若使勿蹲踞然。
【読み】
○原壤夷[うずい]して俟つ。子曰く、幼[いときな]くして孫弟ならず、長[ひととな]って述ぶること無く、老いて死なざる。是を賊とすというて、杖を以て其の脛[はぎ]を叩く。孫・弟は竝去聲。長は上聲。叩は音口。脛は其定の反。○原壤は孔子の故人。母死したるときに歌う。蓋し老氏の流にして、自ら禮法の外に放てる者なり。夷は、蹲踞なり。俟つは待つなり。言うこころは、孔子の來れるを見て、而して蹲踞して以て之を待つなり、と。述は猶稱するがごとし。賊は人を害うの名。其の幼より老に至るまで、一つの善状も無くして、久しく世に生き、徒以て常を敗り俗を亂すに足るを以てするは、則ち是れ賊のみ。脛は足骨なり。孔子旣に之を責めて、因って曳く所の杖を以て、微[すこ]しく其の脛を擊つ。蹲踞すること勿からしむが若く然り。
憲問47
○闕黨童子將命。或問之曰、益者與。與、平聲。○闕黨、黨名。童子、未冠者之稱。將命、謂傳賓主之言。或人疑此童子學有進益、故孔子使之傳命、以寵異之也。
【読み】
○闕黨の童子命を將[おこな]う。或ひと之を問うて曰く、益者か。與は平聲。○闕黨は黨の名。童子は、未だ冠せざる者の稱。命を將うは、賓主の言を傳うるを謂う。或人此の童子學に進益すること有り、故に孔子之をして命を傳えしめ、以て之を寵[いつく]しみ異にするかと疑うなり。
子曰、吾見其居於位也。見其與先生竝行也。非求益者也。欲速成者也。禮、童子當隅坐隨行。孔子言、吾見此童子、不循此禮。非能求益。但欲速成爾。故使之給使令之役、觀長少之序、習揖遜之容。蓋所以抑而敎之、非寵而異之也。
【読み】
子曰く、吾其の位に居るを見る。其の先生と竝び行くことを見る。益を求むる者に非ざるなり。速やかに成らまく欲する者なり。禮に、童子當に隅坐隨行すべし、と。孔子言う、吾此の童子を見るに、此の禮に循わざる。能く益を求むるに非ず。但速やかに成らんと欲するのみ。故に之を使令の役に給し、長少の序を觀せ、揖遜の容を習わしむ、と。蓋し抑えて之を敎うる所以にして、寵しんで之を異とするに非ず。
論語卷之八
衛靈公第十五 凡四十一章。
衛靈公1
○衛靈公問陳於孔子。孔子對曰、俎豆之事、則嘗聞之矣。軍旅之事、未之學也。明日遂行。陳、去聲。○陳、謂軍師行伍之列。俎豆、禮器。尹氏曰、衛靈公無道之君也。復有志於戰伐之事。故答以未學而去之。
【読み】
○衛の靈公陳を孔子に問う。孔子對えて曰く、俎豆の事は、則ち嘗て之を聞けり。軍旅の事は、未だ之を學びず。明日遂に行[さ]んぬ。陳は去聲。○陳は、軍師行伍の列を謂う。俎豆は禮器。尹氏曰く、衛の靈公は無道の君なり。復戰伐の事に志有り。故に答うるに未だ學びずを以てして之を去る、と。
在陳絶糧。從者病莫能興。從、去聲。○孔子去衛適陳。與、起也。
【読み】
陳に在[いま]して糧絶えたり。從者病みて能く興[お]きること莫し。從は去聲。○孔子衛を去りて陳へ適く。與きるは起きるなり。
子路慍見曰、君子亦有竆乎。子曰、君子固竆。小人竆斯濫矣。見、賢遍反。○何氏曰、濫、溢也。言君子固有窮時、不若小人窮則放溢爲非。程子曰、固窮者、固守其窮。亦通。○愚謂、聖人當行而行、無所顧慮。處困而亨、無所怨悔、於此可見。學者宜深味之。
【読み】
子路慍[いか]り見[まみ]えて曰く、君子も亦竆すること有りや。子曰く、君子も固[まこと]に竆す。小人竆すれば斯[すなわ]ち濫[あぶ]る。見は賢遍の反。○何氏曰く、濫るは溢るなり。言うこころは、君子固に窮する時有れども、小人窮すれば則ち放溢して非を爲すが若きにあらず、と。程子曰く、固窮は、固く其の窮を守る、と。亦通ず。○愚謂えらく、聖人當に行るべくして行り、顧み慮る所無し。困[くるしみ]に處りても亨り、怨悔する所無きこと、此に於て見る可し。學者宜しく深く之を味わうべし。
衛靈公2
○子曰、賜也、女以予爲多學而識之者與。女、音汝。識、音志。與、平聲。下同。○子貢之學多而能識矣。夫子欲其知所本也。故問以發之。
【読み】
○子曰く、賜、女予を以て多く學んで之を識す者とするか。女は音汝。識は音志。與は平聲。下も同じ。○子貢學ぶこと多くして能く識す。夫子其の本づく所を知らんと欲す。故に問いて以て之を發[おこ]す。
對曰、然、非與。方信而忽疑。蓋其積學功至、而亦將有得也。
【読み】
對えて曰く、然り、非ずや。方に信じて忽[たちまち]に疑う。蓋し其の學を積つむの功至りて、亦將に得ること有らんとするなり。
曰、非也。予一以貫之。說見第四篇。然彼以行言、而此以知言也。○謝氏曰、聖人之道大矣。人不能徧觀而盡識。宜其以爲多學而識之也。然聖人豈務博者哉。如天之於衆形、匪物物刻而雕之也。故曰、予一以貫之。德輶如毛。毛猶有倫。上天之載、無聲無臭。至矣。尹氏曰、孔子之於曾子、不待其問而直告之以此。曾子復深喩之曰唯。若子貢則先發其疑、而後告之。而子貢終亦不能如曾子之唯也。二子所學之淺深、於此可見。愚按、夫子之於子貢、屢有以發之、而他人不與焉、則顏・曾以下諸子所學之淺深、又可見矣。
【読み】
曰く、非ず。予一以て之を貫けり。說は第四篇に見ゆ。然れども彼は行を以て言いて、此は知を以て言うなり。○謝氏曰く、聖人の道大なり。人徧く觀て盡く識すこと能わず。宜なり、其の以て多く學んで之を識すと爲すこと。然れども聖人豈博きを務むる者ならんや。天の衆くの形に於て、物物刻んで之を雕るに匪ざるが如し。故に曰く、予一以て之を貫けり、と。德の輶[かろ]きこと毛の如し。毛猶倫有り。上天の載、聲も無く臭も無し。至れり、と。尹氏曰く、孔子の曾子に於る、其の問いを待たずして直ちに之に告ぐこと此を以てす。曾子復深く之を喩り唯と曰う。子貢の若きは則ち先ず其の疑を發して、而して後に之に告ぐ。而して子貢終に亦曾子の唯の如くなること能わず。二子學ぶ所の淺深、此に於て見る可し、と。愚按ずるに、夫子の子貢に於ける、屢々以て之を發すこと有りて、他人は與からざれば、則ち顏・曾以下の諸子の學ぶ所の淺深も、又見る可し。
衛靈公3
○子曰、由、知德者鮮矣。鮮、上聲。○由、呼子路之名而告之也。德、謂義理之得於己者。非己有之、不能知其意味之實也。○自第一章至此、疑皆一時之言。此章蓋爲慍見發也。
【読み】
○子曰く、由、德を知る者鮮し。鮮は上聲。○由は、子路の名を呼んで之に告ぐるなり。德は、義理の己に得る者を謂う。己之を有するに非ざれば、其の意味の實を知ること能わざるなり。○第一章より此に至るまで、疑うらくは皆一時の言なり。此の章蓋し慍り見ゆる爲に發すらし。
衛靈公4
○子曰、無爲而治者、其舜也與。夫何爲哉。恭己正南面而已矣。與、平聲。夫、音扶。○無爲而治者、聖人德盛而民化。不待其有所作爲也。獨稱舜者、紹堯之後、而又得人以任衆職。故尤不見其有爲之迹也。恭己者、聖人敬德之容。旣無所爲、則人之所見如此而已。
【読み】
○子曰く、すること無くして治まる者は、其れ舜なるか。夫れ何をかするや。己を恭しくして正しく南面すらくのみ。與は平聲。夫は音扶。○すること無くして治まるは、聖人の德盛んにして民化せばなり。其の作爲する所有るを待たざるなり。獨り舜を稱するは、堯の後を紹[つ]ぎ、而して又人を得て以て衆職を任ず。故に尤も其の有爲の迹を見ざればなり。己を恭しくしては、聖人の敬德の容なり。旣にする所無くば、則ち人の見る所此の如きのみ。
衛靈公5
○子張問行。猶問達之意也。
【読み】
○子張行われんことを問う。猶達を問うの意のごとし。
子曰、言忠信、行篤敬、雖蠻貊之邦行矣。言不忠信、行不篤敬、雖州里行乎哉。行篤・行不之行、去聲。貊、亡百反。○子張意在得行於外。故夫子反於身而言之。猶答干祿問達之意也。篤、厚也。蠻、南蠻。貊、北狄。二千五百家爲州。
【読み】
子曰く、言忠信あり、行篤敬ならば、蠻貊の邦と雖も行われん。言忠信ならず、行篤敬ならざれば、州里と雖も行われんや。行篤・行不の行は去聲。貊は亡百の反。○子張の意、外に行わるるを得るに在り。故に夫子身に反して之を言う。猶祿を干む、達を問うに答うるの意のごとし。篤は厚なり。蠻は南蠻。貊は北狄。二千五百家を州とす。
立則見其參於前也、在輿則見其倚於衡也。夫然後行。參、七南反。夫、音扶。○其者、指忠信篤敬而言。參、讀如毋往參焉之參。言與我相參也。衡、軛也。言其於忠信篤敬、念念不忘、隨其所在、常若有見、雖欲頃刻離之而不可得。然後一言一行、自然不離於忠信篤敬、而蠻貊可行也。
【読み】
立てるときは則ち其の前に參[まじ]わるを見、輿[くるま]に在るときは則ち其の衡[くびき]に倚るを見る。夫れ然して後に行わる。參は七南の反。夫は音扶。○其は、忠信篤敬を指して言う。參は、讀んで往きて參すること毋かれの參の如し。我と相參するを言うなり。衡は軛[くびき]なり。言うこころは、其の忠信篤敬に於て、念念忘れず、其の在る所に隨いて、常に見ること有るが若く、頃刻も之を離れんと欲すと雖も得可からず。然して後に一言一行、自然に忠信篤敬より離れずして、蠻貊にも行われる可し、と。
子張書諸紳。紳、大帶之垂者。書之、欲其不忘也。○程子曰、學要鞭辟近裏著己而已。博學而篤志、切問而近思、言忠信、行篤敬、立則見其參於前、在輿則見其倚於衡、卽此是學。質美者明得盡、査滓便渾化、却與天地同體。其次惟莊敬以持養之。及其至則一也。
【読み】
子張諸を紳に書[しる]す。紳は、大帶の垂るる者。之に書すは、其の忘れざらんことを欲するなり。○程子曰く、學は鞭辟近裏して己に著くを要すのみ。博く學んで篤く志し、切に問うて近く思う、言忠信あり、行篤敬あり、立てるときは則ち其の前に參わるを見、輿に在るときは則ち其の衡に倚るを見るは、卽ち此が是れ學なり。質の美なる者は明らかに得盡くし、査滓は便ち渾化し、却って天地と體を同じくす。其の次は惟莊敬にして以て之を持養す。其の至れるに及んでは則ち一なり、と。
衛靈公6
○子曰、直哉史魚。邦有道如矢。邦無道如矢。史、官名。魚、衛大夫、名鰌。如矢、言直也。史魚自以不能進賢退不肖、旣死猶以尸諫。故夫子稱其直。事見家語。
【読み】
○子曰く、直[なお]いかな史魚。邦道有るときも矢の如し。邦道無きときも矢の如し。史は官名。魚は衛の大夫、名は鰌。矢の如しは、直を言うなり。史魚自ら賢を進めて不肖を退くこと能わざるを以て、旣に死しても猶尸を以て諫む。故に夫子其の直を稱す。事は家語に見ゆ。
君子哉蘧伯玉、邦有道則仕、邦無道則可卷而懷之。伯玉出處、合於聖人之道。故曰君子。卷、收也。懷、藏也。如於孫林父・寗殖放弑之謀、不對而出、亦其事也。○楊氏曰、史魚之直、未盡君子之道。若蘧伯玉、然後可免於亂世、若史魚之如矢、則雖欲卷而懷之、有不可得也。
【読み】
君子なるかな蘧伯玉[きょはくぎょく]、邦道有るときは則ち仕え、邦道無きときは則ち卷[おさ]めて之を懷[かく]しつ可し。伯玉の出處、聖人の道に合う。故に君子と曰う。卷むは收むるなり。懷るは藏[かく]るなり。孫林父・寗殖の放弑の謀に於て、對えずして出るが如きも、亦其の事なり。○楊氏曰く、史魚の直は、未だ君子の道を盡くさず。蘧伯玉の若くして、然して後に亂世を免る可く、史魚の矢の如しというが若きは、則ち卷めて之を懷さんと欲すと雖も、得可からざること有るなり、と。
衛靈公7
○子曰、可與言、而不與之言、失人。不可與言、而與之言、失言。知者不失人。亦不失言。知、去聲。
【読み】
○子曰く、與に言う可くして、之と言わざるは、人を失う。與に言う可からずして、之と言うは、言を失う。知者は人を失わず。亦言を失わず。知は去聲。
衛靈公8
○子曰、志士仁人、無求生以害仁。有殺身以成仁。志士、有志之士。仁人、則成德之人也。理當死而求生、則於其心有不安矣。是害其心之德也。當死而死、則心安而德全矣。○程子曰、實理得之於心自別。實理者、實見得是、實見得非也。古人有捐軀隕命者。若不實見得、惡能如此。須是實見得生不重於義、生不安於死也。故有殺身以成仁者、只是成就一箇是而已。
【読み】
○子曰く、志士仁人は、生を求めて以て仁を害[そこな]うこと無し。身を殺して以て仁を成すこと有り。志士は、志有るの士。仁人は、則ち成德の人なり。理の當に死すべくして生を求むれば、則ち其の心に於て安からざるもの有るなり。是れ其の心の德を害うなり。當に死すべくして死せば、則ち心安んじて德全し。○程子曰く、實理之を心に得れば自ら別つ。實理は、實に是を見得し、實に非を見得するなり。古人軀を捐[す]てて命を隕[お]とす者有り。若し實に見得せざれば、惡んぞ能く此の如くならん。須く是れ實に生は義よりも重からず、生は死よりも安からざるを見得すべし。故に身を殺して以て仁を成す者有るは、只是れ一箇の是を成就するのみ、と。
衛靈公9
○子貢問爲仁。子曰、工欲善其事、必先利其器。居是邦也、事其大夫之賢者、友其士之仁者。賢、以事言、仁、以德言。夫子嘗謂、子貢悦不若己者。故以是告之。欲其有所嚴憚切磋以成其德也。○程子曰、子貢問爲仁。非問仁也。故孔子告之以爲仁之資而已。
【読み】
○子貢仁をせんことを問う。子曰く、工其の事を善くせまく欲すれば、必ず先ず其の器を利[と]くす。是の邦に居ては、其の大夫の賢者に事え、其の士の仁者を友とす。賢は事を以て言い、仁は德を以て言う。夫子嘗て謂う、子貢己に若かざる者を悦ぶ、と。故に是を以て之に告ぐ。其の嚴憚切磋する所有りて以て其の德を成さんと欲するなり。○程子曰く、子貢仁をせんことを問う。仁を問うに非ず。故に孔子之に告ぐるに仁をするの資[たすけ]を以てするのみ、と。
衛靈公10
○顏淵問爲邦。顏子王佐之才。故問治天下之道。曰爲邦者、謙辭。
【読み】
○顏淵邦を爲めんことを問う。顏子王佐の才。故に天下を治むるの道を問う。邦を爲むと曰うは、謙辭なり。
子曰、行夏之時、夏時、謂以斗柄初昏建寅之月爲歳首也。天開於子、地闢於丑、人生於寅。故斗柄建此三辰之月、皆可以爲歳首。而三代迭用之、夏以寅爲人正、商以丑爲地正、周以子爲天正也。然時以作事、則歳月自當以人爲紀。故孔子嘗曰、吾得夏時焉。而說者以爲謂夏小正之屬。蓋取其時之正、與其令之善、而於此又以告顏子也。
【読み】
子曰く、夏の時を行い、夏の時は、斗柄の初昏に寅を建[さ]すの月を以て歳首とするを謂う。天は子に開け、地は丑に闢け、人は寅に生ず。故に斗柄の此の三辰を建すの月は、皆以て歳首とす可し。而して三代迭[たが]いに之を用い、夏は寅を以て人正とし、商は丑を以て地正とし、周は子を以て天正とす。然れども時以て事を作[な]せば、則ち歳月自ら當に人を以て紀と爲すべし。故に孔子嘗て曰く、吾夏の時を得たり、と。而して說く者以て夏小正の屬を謂うとす。蓋し其の時の正と、其の令の善とを取りて、此に於て又以て顏子に告ぐ。
乘殷之輅、輅、音路。亦作路。○商輅、木輅也。輅者、大車之名。古者以木爲車而已。至商而有輅之名。蓋始異其制也。周人飾以金玉、則過侈而易敗。不若商輅之朴素渾堅、而等威已辨、爲質而得其中也。
【読み】
殷の輅[ろ]に乘り、輅は音路。亦路に作る。○商の輅は木輅なり。輅は大車の名。古は木を以て車を爲るのみ。商に至りて輅の名有り。蓋し始めて其の制を異にす。周人飾るに金玉を以てすれば、則ち侈に過ぎて敗れ易し。商輅の朴素渾堅にして、等威已に辨ち、質にして其の中を得たりとするに若かざるなり。
服周之冕、周冕有五。祭服之冠也。冠上有覆。前後有旒。黄帝以來、蓋已有之。而制度儀等、至周始備。然其爲物小、而加於衆體之上。故雖華而不爲靡、雖費而不及奢。夫子取之、蓋亦以爲文而得其中也。
【読み】
周の冕を服し、周の冕に五つ有り。祭服の冠なり。冠上に覆有り。前後に旒[りゅう]有り。黄帝以來、蓋し已に之れ有り。而して制度儀等、周に至りて始めて備われり。然して其の物爲るや小[すこし]きにして、衆體の上に加う。故に華なりと雖も靡と爲らず、費なりと雖も奢に及ばず。夫子之を取れるは、蓋し亦以て文にして其の中を得たりとすればなり。
樂則韶舞、取其盡善盡美。
【読み】
樂は則ち韶舞をし、其の善を盡くし美を盡くせるを取る。
放鄭聲、遠佞人。鄭聲淫、佞人殆。遠、去聲。○放、謂禁絶之。鄭聲、鄭國之音。佞人、卑諂辨給之人。殆、危也。○程子曰、問政多矣。惟顏淵告之以此。蓋三代之制、皆因時損益。及其久也、不能無弊。周衰、聖人不作。故孔子斟酌先王之禮、立萬世常行之道。發此以爲之兆爾。由是求之、則餘皆可考也。張子曰、禮樂、治之法也。放鄭聲、遠佞人、法外意也。一日不謹、則法壞矣。虞夏君臣、更相戒飭意蓋如此。又曰、法立而能守、則德可久、業可大。鄭聲佞人、能使人喪其所守。故放遠之。尹氏曰、此所謂百王不易之大法。孔子之作春秋、蓋此意也。孔顏雖不得行之於時、然其爲治之法、可得而見矣。
【読み】
鄭聲を放ち、佞人に遠ざかれ。鄭聲は淫なり、佞人は殆し。遠は去聲。○放は、之を禁絶するを謂う。鄭聲は、鄭國の音。佞人は、卑諂辨給の人。殆は危なり。○程子曰く、政を問うこと多し。惟顏淵のみ之に告ぐるに此を以てす。蓋し三代の制、皆時に因りて損益す。其の久しきに及びて、弊[ついえ]無きこと能わず。周衰えて、聖人作[おこ]らず。故に孔子先王の禮を斟酌して、萬世常行の道を立てて、此を發して以て之が兆[のり]とするのみ。是に由りて之を求めば、則ち餘は皆考う可し、と。張子曰く、禮樂は治の法なり。鄭聲を放ち、佞人を遠ざくは、法外の意なり。一日も謹まざるときは、則ち法壞る。虞夏の君臣、更々[こもごも]相戒飭[かいちょく]する意蓋し此の如し、と。又曰く、法立ちて能く守るときは、則ち德久しかる可し、業大いなる可し。鄭聲佞人は、能く人をして其の守る所を喪わしむ。故に之を放遠せよ、と。尹氏曰く、此れ所謂百王不易の大法なり。孔子の春秋を作るも、蓋し此の意なり。孔顏之を時に行うを得ずと雖も、然れども其の治を爲すの法、得て見る可し、と。
衛靈公11
○子曰、人無遠慮、必有近憂。蘇氏曰、人之所履者、容足之外、皆爲無用之地。而不可廢也。故慮不在千里之外、則患在几席之下矣。
【読み】
○子曰く、人遠き慮り無ければ、必ず有近き憂え有り、と。蘇氏曰く、人の履む所は、足を容るるの外は、皆無用の地爲り。而して廢[す]つ可からず。故に慮り千里の外に在ざれば、則ち患い几席の下に在り、と。
衛靈公12
○子曰、已矣乎。吾未見好德如好色者也。好、去聲。○已矣乎、歎其終不得而見之也。
【読み】
○子曰く、已んぬるかな。吾未だ德を好むこと色を好むが如くなる者を見ず。好は去聲。○已矣乎は、其の終に得て之を見ざることを歎くなり。
衛靈公13
○子曰、臧文仲其竊位者與。知柳下惠之賢、而不與立也。者與之與、平聲。○竊位、言不稱其位而有愧於心、如盜得而陰據之也。柳下惠、魯大夫展獲、字禽、食邑柳下、諡曰惠。與立、謂與之竝立於朝。范氏曰、臧文仲爲政於魯。若不知賢、是不明也。知而不擧、是蔽賢也。不明之罪小、蔽賢之罪大。故孔子以爲不仁、又以爲竊位。
【読み】
○子曰く、臧文仲は其れ位を竊める者か。柳下惠が賢を知って、與に立てられず。者與の與は平聲。○位を竊むは、言うこころは、其の位に稱[かな]わずして心に愧ずること有り、盜み得て陰[ひそか]に之に據るが如し、と。柳下惠は、魯の大夫展獲、字は禽、邑を柳下に食み、諡して惠と曰う。與に立つは、之と竝びて朝に立つを謂う。范氏曰く、臧文仲政を魯に爲す。若し賢を知らざれば、是れ不明なり。知りて擧げざれば、是れ賢を蔽うなり。不明の罪小さきにて、賢を蔽うの罪大いなり。故に孔子以て不仁とし、又以て位を竊めりとす。
衛靈公14
○子曰、躳自厚、而薄責於人、則遠怨矣。遠、去聲。○責己厚。故身益修。責人薄。故人易從。所以人不得而怨之。
【読み】
○子曰く、躳自ら厚うして、人を責むるに薄きときは、則ち怨に遠ざかる。遠は去聲。○己を責むること厚し。故に身益々修まる。人を責むること薄し。故に人從い易し。人の得て之を怨まざるの所以なり。
衛靈公15
○子曰、不曰如之何、如之何者、吾末如之何也已矣。如之何、如之何者、熟思而審處之辭也。不如是而妄行、雖聖人亦無如之何矣。
【読み】
○子曰く、如之何せん、如之何せんと曰わざる者は、吾如之何ともすること末[な]からまくのみ。如之何せん、如之何せんは、熟々[つらつら]思いて審らかに處する辭なり。是の如くせずして妄りに行えば、聖人と雖も亦如之何ともすること無し。
衛靈公16
○子曰、羣居終日、言不及義、好行小慧、難矣哉。好、去聲。○小慧、私智也。言不及義、則放辟邪侈之心滋、好行小慧、則行險僥倖之機熟。難矣哉者、言其無以入德而將有患害也。
【読み】
○子曰く、羣居して日を終え、言義に及ばず、好んで小慧を行うは、難いかな。好は去聲。○小慧は私智なり。言義に及ばざるときは、則ち放辟邪侈の心滋[しげ]く、好んで小慧を行うときは、則ち險を行い僥倖するの機熟す。難いかなは、言うこころは、其の以て德に入ること無くして將に患害有らんとするなり。
衛靈公17
○子曰、君子義以爲質、禮以行之、孫以出之、信以成之。君子哉。孫、去聲。○義者、制事之本。故以爲質幹。而行之必有節文。出之必以退遜、成之必在誠實。乃君子之道也。○程子曰、義以爲質、如質幹然。禮行此、孫出此、信成此。此四句、只是一事。以義爲本。又曰、敬以直内、則義以方外。義以爲質、則禮以行之、孫以出之、信以成之。
【読み】
○子曰く、君子は義以て質と爲し、禮以て之を行い、孫以て之を出し、信以て之を成す。君子なるかな。孫は去聲。○義は、事を制するの本。故に以て質幹と爲す。而して之を行うに必ず節文有り。之を出すに必ず退遜を以てし、之を成すに必ず誠實在り。乃ち君子の道なり。○程子曰く、義以て質と爲すは、質幹の如く然り。禮もて此を行い、孫もて此を出し、信もて此を成す。此の四句は只是れ一事。義以て本と爲す、と。又曰く、敬以て内を直くすれば、則ち義以て外を方にす。義以て質と爲せば、則ち禮以て之を行い、孫以て之を出し、信以て之を成す、と。
衛靈公18
○子曰、君子病無能焉。不病人之不己知也。
【読み】
○子曰く、君子能くすること無きことを病[うれ]う。人の己を知らざることを病えず。
衛靈公19
○子曰、君子疾沒世而名不稱焉。范氏曰、君子學以爲己、不求人知。然沒世而名不稱焉、則無爲善之實可知矣。
【読み】
○子曰く、君子は世を沒[お]うるまで名を稱せられざることを疾[にく]む。范氏曰く、君子の學は以て己が爲にし、人に知られることを求めず。然れども世を沒うるまで名を稱せられざるときは、則ち善をするの實無きこと知る可し、と。
衛靈公20
○子曰、君子求諸己。小人求諸人。謝氏曰、君子無不反求諸己。小人反是。此君子小人所以分也。○楊氏曰、君子雖不病人之不己知、然亦疾沒世而名不稱也。雖疾沒世而名不稱、然所以求者、亦反諸己而已。小人求諸人。故違道干譽、無所不至。三者文不相蒙、而義實相足。亦記言者之意。
【読み】
○子曰く、君子は諸を己に求む。小人は諸を人に求む。謝氏曰く、君子は己に反求せざること無し。小人は是に反[そむ]く。此れ君子と小人の分るる所以なり、と。○楊氏曰く、君子人の己を知らざることを病えずと雖も、然れども亦世を沒うるまで名を稱せられざることを疾むなり。世を沒うるまで名を稱せられざることを疾むと雖も、然れども求むる所以の者は、亦諸を己に反すのみ。小人は諸を人に求む。故に道に違いて譽を干め、至らざる所無し。三つの者文相蒙らずして、義は實に相足す。亦言を記す者の意なり、と。
衛靈公21
○子曰、君子矜而不爭。羣而不黨。莊以持己曰矜。然無乖戾之心。故不爭。和以處衆曰羣。然無阿比之意。故不黨。
【読み】
○子曰く、君子は矜[おごそか]なれども而も爭わず。羣すれども而も黨せず。莊以て己を持[たも]つを矜と曰う。然れども乖戾の心無し。故に爭わず。和以て衆に處るを羣と曰う。然れども阿比の意無し。故に黨せず。
衛靈公22
○子曰、君子不以言擧人。不以人廢言。
【読み】
○子曰く、君子は言を以て人を擧げず。人を以て言を廢[す]てず。
衛靈公23
○子貢問曰、有一言而可以終身行之者乎。子曰、其恕乎。己所不欲、勿施於人。推己及物、其施不窮。故可以終身行之。○尹氏曰、學貴於知要。子貢之問、可謂知要矣。孔子告以求仁之方也。推而極之、雖聖人之無我、不出乎此。終身行之、不亦宜乎。
【読み】
○子貢問うて曰く、一言にして以て身を終うるまで之を行う可き者有りや。子曰く、其れ恕か。己が欲せざる所、人に施すこと勿かれ。己を推して物に及ぼせば、其の施すこと窮まらず。故に以て身を終うるまで之を行う可し。○尹氏曰く、學は要を知ることを貴ぶ。子貢の問いは、要を知ると謂う可し。孔子告ぐるに仁を求むるの方を以てす。推して之を極むれば、聖人の無我と雖も、此を出でず。身を終うるまで之を行わんこと、亦宜ならずや、と。
衛靈公24
○子曰、吾之於人也、誰毀誰譽。如有所譽者、其有所試矣。譽、平聲。毀者、稱人之惡而損其眞、譽者、揚人之善而過其實。夫子無是也。然或有所譽者、則必嘗有以試之、而知其將然矣。聖人善善之速、而無所苟如此。若其惡惡則已緩矣。是以雖有以前知其惡、而終無所毀也。
【読み】
○子曰く、吾が人に於る、誰をか毀[そし]り誰をか譽む。如し譽むる所有る者は、其れ試むる所有り。譽は平聲。毀る者は、人の惡を稱して其の眞を損い、譽むる者は、人の善を揚げて其の實に過ぐ。夫子は是れ無し。然れども或は譽むる所有る者は、則ち必ず嘗て以て之を試みること有りて、其の將に然りとするを知るなり。聖人善を善しとすること之れ速やかにして、苟もする所無きこと此の如し。若し其の惡を惡むときは則ち已に緩やかなり。是を以て以前に其の惡を知ること有りと雖も、而して終に毀る所無きなり。
斯民也、三代之所以直道而行也。斯民者、今此之人也。三代、夏・商・周也。直道、無私曲也。言吾之所以無所毀譽者、蓋以此民、卽三代之時、所以善其善、惡其惡、而無所私曲之民、故我今亦不得而枉其是非之實也。○尹氏曰、孔子之於人也、豈有意於毀譽之哉。其所以譽之者、蓋試而知其美故也。斯民也、三代所以直道而行。豈得容私於其閒哉。
【読み】
斯の民は、三代の以て直道にして行ふ所なり。斯の民は、今の此の人なり。三代は、夏・商・周なり。直道は、私曲すること無きなり。言うこころは、吾が毀譽する所無き所以は、蓋し此の民、卽ち三代の時は、以て其の善を善しとし、其の惡を惡みて、私曲する所無き所の民なるを以て、故に我今亦得て其の是非の實を枉げざるなり、と。○尹氏曰く、孔子の人に於ける、豈之を毀譽するの意有らんや。其の之を譽むる所以は、蓋し試みて其の美を知る故なり。斯の民は、三代の以て直道にして行う所なり。豈私を其の閒に容るるを得んや、と。
衛靈公25
○子曰、吾猶及史之闕文也、有馬者借人乘之。今亡矣夫。乘、平聲。亡、與無通。夫、音扶。○楊氏曰、史闕文、馬借人、此二事、孔子猶及見之。今亡矣夫、悼時之益偸也。愚謂、此必有爲而言。蓋雖細故、而時變之大者可知矣。○胡氏曰、此章義疑。不可強解。
【読み】
○子曰く、吾猶史の文を闕き、馬有る者人に借して之に乘らしむに及べり。今は亡[な]いかな。乘は平聲。亡は、無と通ず。夫は音扶。○楊氏曰く、史の文を闕き、馬を人に借す、此の二事、孔子猶之を見るに及ぶ。今は亡いかなは、時の益々偸[うす]くなるを悼むなり、と。愚謂えらく、此れ必ず爲にすること有りて言う。蓋し細故と雖も、而して時變の大いなる者知る可し。○胡氏曰く、此の章の義疑わし。強いて解す可からず、と。
衛靈公26
○子曰、巧言亂德。小不忍、則亂大謀。巧言、變亂是非。聽之使人喪其所守。小不忍、如婦人之仁、匹夫之勇、皆是。
【読み】
○子曰く、巧言は德を亂る。小不忍は、則ち大謀を亂る。巧言は、是非を變亂す。之を聽けば人をして其の守る所を喪わしむ。小不忍は、婦人の仁、匹夫の勇の如き、皆是れなり。
衛靈公27
○子曰、衆惡之必察焉。衆好之必察焉。好・惡、竝去聲。○楊氏曰、惟仁者能好惡人。衆好惡之而不察、則或蔽於私矣。
【読み】
○子曰く、衆之を惡みんずるをも必ず察す。衆之を好[よ]みんずるをも必ず察す。好・惡は竝去聲。○楊氏曰く、惟仁者のみ能く人を好惡す。衆之を好惡して察せざれば、則ち或は私に蔽わる、と。
衛靈公28
○子曰、人能弘道。非道弘人。弘、廓而大之也。人外無道、道外無人。然人心有覺、而道體無爲。故人能大其道、道不能大其人也。○張子曰、心能盡性、人能弘道也。性不知檢其心、非道弘人也。
【読み】
○子曰く、人能く道を弘む。道人を弘むるに非ず。弘は、廓[ひろ]めて之を大いにするなり。人の外に道無く、道の外に人無し。然れども人の心は覺有りて、道の體はすること無し。故に人能く其の道を大いにして、道其の人を大いにすること能わざるなり。○張子曰く、心能く性を盡くすは、人能く道を弘むなり。性其の心を檢ぶることを知らずは、道人を弘むるに非ずなり、と。
衛靈公29
○子曰、過而不改、是謂過矣。過而能改、則復於無過。惟不改、則其過遂成、而將不及改矣。
【読み】
○子曰く、過って改めざる、是を過と謂う。過ちて能く改むれば、則ち過無きに復る。惟改めざれば、則ち其の過遂に成りて、將に改むるに及ばざらんとす。
衛靈公30
○子曰、吾嘗終日不食、終夜不寢以思、無益。不如學也。此爲思而不學者言之。蓋勞心以必求、不如遜志而自得也。李氏曰、夫子非思而不學者。特垂語以敎人爾。
【読み】
○子曰く、吾嘗て終日[ひねもす]食わず、終夜[よもすがら]寢ねずして以て思いしがとも、益無し。學びんには如かず。此れ思いて學びざる者の爲に之を言う。蓋し心を勞して以て必[もっぱ]ら求むるは、志を遜[へりくだ]りて自ら得るに如かざるなり。李氏曰く、夫子は思いて學びざる者に非ず。特[ただ]語を垂れて以て人を敎うるのみ、と。
衛靈公31
○子曰、君子謀道不謀食。耕也餒在其中矣。學也祿在其中矣。君子憂道不憂貧。餒、奴罪反。○耕、所以謀食、而未必得食。學、所以謀道、而祿在其中。然其學也、憂不得乎道而已。非爲憂貧之故、而欲爲是以得祿也。○尹氏曰、君子治其本而不恤其末。豈以在外者爲憂樂哉。
【読み】
○子曰く、君子は道を謀って食を謀らず。耕えすにも餒[うえ]其の中に在り。學ぶにも祿其の中に在り。君子は道を憂えて貧しきことを憂えず。餒は奴罪の反。○耕すことは、食を謀る所以にして、未だ必ずしも食を得ず。學ぶことは、道を謀る所以にして、祿は其の中に在り。然れども其の學ぶや、道を得ざるを憂うるのみ。貧しきを憂うるとする故、而して是をして以て祿を得んと欲するに非ざるなり。○尹氏曰く、君子其の本を治めて其の末を恤[うれ]えず。豈外に在る者を以て憂樂をせんや、と。
衛靈公32
○子曰、知及之、仁不能守之、雖得之、必失之。知、去聲。○知、足以知此理、而私欲閒之、則無以有之於身矣。
【読み】
○子曰く、知之に及べども、仁之を守ること能わざれば、之を得と雖も、必ず之を失う。知は去聲。○知は以て此の理を知るに足れども、私欲之を閒[へだ]てるときは、則ち以て之を身に有ること無し。
知及之、仁能守之、不莊以涖之、則民不敬。涖、臨也。謂臨民也。知此理而無私欲以閒之、則所知者在我、而不失矣。然猶有不莊者、蓋氣習之偏、或有厚於内而不嚴於外者、是以民不見其可畏、而慢易之。下句放此。
【読み】
知之に及び、仁能く之を守れども、莊以て之に涖[のぞ]まざるときは、則ち民敬せず。涖むは臨むなり。民に臨むを謂うなり。此の理を知りて私欲以て之を閒てること無きときは、則ち知る所の者我に在りて、失わず。然れども猶莊ならざる者有れば、蓋し氣習の偏、或は内に厚くして外に嚴ならざる者有りて、是を以て民其の畏る可きを見ずして、之を慢り易[かろ]しむ。下の句此に放え。
知及之、仁能守之、莊以涖之、動之不以禮、未善也。動之、動民也。猶曰鼓舞而作興之云爾。禮、謂義理之節文。○愚謂、學至於仁、則善有諸己、而大本立矣。涖之不莊、動之不以禮、乃其氣廩學問之小疵。然亦非盡善之道也。故夫子歴言之、使知德愈全則責愈備。不可以爲小節而忽之也。
【読み】
知之に及び、仁能く之を守り、莊以て之に涖めども、之を動かすに禮を以てせざれば、未だ善からず。之を動かすも、民を動かすなり。猶鼓舞して之を作興すると曰うがごとしと云うのみ。禮は、義理の節文を謂う。○愚謂えらく、學んで仁に至れば、則ち善は諸を己に有して、大本立つ。之に涖むこと莊ならず、之を動かすに禮を以てせざることあるは、乃ち其の氣廩學問の小[すこ]しき疵なり。然れども亦善盡くすの道に非ず。故に夫子歴[あまね]く之を言いて、德愈々全きときは則ち責愈々備わる。以て小節爲りとして之を忽[あなど]る可からざることを知らしむるなり。
衛靈公33
○子曰、君子不可小知、而可大受也。小人不可大受、而可小知也。此言觀人之法。知、我知之也。受、彼所受也。蓋君子於細事未必可觀、而材德足以任重。小人雖器量淺狹、而未必無一長可取。
【読み】
○子曰く、君子小知す可からず、大受す可し。小人大受す可からず、小知す可し。此れ人を觀るの法を言う。知は、我之を知るなり。受は、彼受くる所なり。蓋し君子細事に於ては未だ必ずしも觀られる可からずして、材德以て重きを任ぜらるるに足る。小人器量淺狹なりと雖も、未だ必ずしも一長の取る可きもの無きにあらず。
衛靈公34
○子曰、民之於仁也、甚於水火。水火吾見蹈而死者矣。未見蹈仁而死者也。民之於水火、所賴以生、不可一日無。其於仁也亦然。但水火外物、而仁在己。無水火、不過害人之身、而不仁則失其心。是仁有甚於水火、而尤不可以一日無者也。況水火或有時而殺人、仁則未嘗殺人。亦何憚而不爲哉。李氏曰、此夫子勉人爲仁之語。下章放此。
【読み】
○子曰く、民の仁に於る、水火よりも甚だし。水火は吾蹈んで死する者を見る。未だ仁を蹈んで死する者を見ず。民の水火に於ること、賴りて以て生ける所にして、一日も無かる可からず。其の仁に於るも亦然り。但水火は外物にして、仁は己に在り。水火無ければ、人の身を害するに過ぎず、而して仁ならざるときは則ち其の心を失う。是れ仁は水火よりも甚だしきこと有りて、尤も以て一日も無かる可からざる者なり。況や水火或は時有りて人を殺し、仁は則ち未だ嘗て人を殺さず。亦何を憚りて爲ざるや。李氏曰く、此れ夫子人に仁をすることを勉めしむるの語なり、と。下章も此に放え。
衛靈公35
○子曰、當仁不讓於師。當仁、以仁爲己任也。雖師亦無所遜。言當勇往而必爲也。蓋仁者、人所自有、而自爲之。非有爭也。何遜之有。○程子曰、爲仁在己、無所與遜。若善名在外、則不可不遜。
【読み】
○子曰く、仁に當っては師にも讓らず。仁に當っては、仁以て己が任と爲すなり。師と雖も亦遜[ゆず]る所無し。言うこころは、當に勇み往きて必ず爲すべし、と。蓋し仁は、人の自ら有する所にして、自ら之を爲して、爭うこと有るに非ず。何の遜ることか之れ有らん。○程子曰く、仁を爲すは己に在り、與え遜る所無し。善名の外に在るが若きは、則ち遜らざる可からず、と。
衛靈公36
○子曰、君子貞而不諒。貞、正而固也。諒、則不擇是非而必於信。
【読み】
○子曰く、君子貞にして諒ならず。貞は、正しうして固し。諒は、則ち是非を擇ばずして信を必とす。
衛靈公37
○子曰、事君敬其事、而後其食。後、與後獲之後同。食、祿也。君子之仕也、有官守者修其職、有言責者盡其忠。皆以敬吾之事而已。不可先有求祿之心也。
【読み】
○子曰く、君に事るには其の事を敬し、其の食を後にす。後は、獲ることを後にすの後と同じ。食は祿なり。君子の仕ること、官守有る者は其の職を修め、言責有る者は其の忠を盡くす。皆以て吾が事を敬するのみ。先に祿を求むるの心有る可からず。
衛靈公38
○子曰、有教無類。人性皆善、而其類有善惡之殊者、氣習之染也。故君子有敎、則人皆可以復於善、而不當復論其類之惡矣。
【読み】
○子曰く、教[おしえ]有って類[たぐい]無し。人の性は皆善なれども、而して其の類に善惡の殊なる者有るは、氣習の染めるなり。故に君子敎うること有れば、則ち人皆以て善に復す可くして、當に復其の類の惡を論ずるべからず。
衛靈公39
○子曰、道不同、不相爲謀。爲、去聲。○不同、如善惡邪正之類。
【読み】
○子曰く、道同じからざれば、相爲に謀られず。爲は去聲。○同じからずは、善惡邪正の類の如し。
衛靈公40
○子曰、辭達而已矣。辭取達意而止。不以富麗爲工。
【読み】
○子曰く、辭は達して已む。辭は意を達するを取りて止む。富麗を以て工と爲さず。
衛靈公41
○師冕見。及階。子曰、階也。及席。子曰、席也。皆坐。子告之曰、某在斯、某在斯。見、賢遍反。○師、樂師、瞽者。冕、名。再言某在斯、歴擧在坐之人以詔之。
【読み】
○師冕見[まみ]ゆ。階に及べり。子曰く、階ぞ。席に及べり。子曰く、席ぞ。皆坐す。子之に告げて曰く、某[それ]斯に在り、某斯に在り。見は賢遍の反。○師は樂師、瞽者。冕は名。再び某斯に在りと言うは、坐に在るの人を歴擧して以て之に詔ぐなり。
師冕出。子張問曰、與師言之道與。與、平聲。○聖門學者、於夫子之一言一動、無不存心省察如此。
【読み】
師冕出でぬ。子張問うて曰く、師と言うの道か。與は平聲。○聖門の學者、夫子の一言一動に於る、心を存し省察せずということ無きこと此の如し。
子曰、然、固相師之道也。相、去聲。○相、助也。古者瞽必有相、其道如此。蓋聖人於此非作意而爲之。但盡其道而已。○尹氏曰、聖人處己爲人、其心一致。無不盡其誠故也。有志於學者、求聖人之心、於斯亦可見矣。范氏曰、聖人不侮鰥寡、不虐無告、可見於此。推之天下、無一物不得其所矣。
【読み】
子曰く、然り、固[まこと]に師を相[たす]くるの道なり。相は去聲。○相くは助けるなり。古は瞽に必ず相有り、其の道此の如し。蓋し聖人此に於て作意して之をするに非ず。但其の道を盡くすのみ。○尹氏曰く、聖人己を處し人の爲にする、其の心一致なり。其の誠を盡くさずということ無きが故なり。學に志有る者、聖人の心を求めんとならば、斯に於ても亦見る可し、と。范氏曰く、聖人鰥寡[かんか]を侮らず、無告を虐[そこなわ]ざること、此に見る可し。之を天下に推せば、一物も其の所を得ずということ無し、と。
季氏第十六 洪氏曰、此篇或以爲齊論。凡十四章。
【読み】
季氏第十六 洪氏曰く、此の篇或ひと以爲らく、齊論なり、と。凡て十四章。
季氏1
○季氏將伐顓臾。顓、音專。臾、音兪。○顓臾、國名、魯附庸也。
【読み】
○季氏將に顓臾[せんゆ]を伐たんとす。顓は音專。臾は音兪。○顓臾は國の名、魯の附庸なり。
冉有・季路見於孔子曰、季氏將有事於顓臾。見、賢遍反。○按左傳・史記、二子仕季氏不同時。此云爾者、疑子路嘗從孔子自衛反魯、再仕季氏、不久而復之衛也。
【読み】
冉有・季路孔子に見[まみ]えて曰く、季氏將に顓臾に事有らんとす。見は賢遍の反。○左傳と史記を按ずるに、二子季氏に仕えるは時を同じくせず。此れ爾か云うは、疑うらくは子路嘗て孔子に從いて衛より魯に反り、再び季氏に仕え、久しからずして復衛に之くならん。
孔子曰、求、無乃爾是過與。與、平聲。○冉求爲季氏聚歛、尤用事。故夫子獨責之。
【読み】
孔子曰く、求、乃ち爾是れ過てること無きか。與は平聲。○冉求季氏が爲に聚歛して、尤も事を用う。故に夫子獨り之を責む。
夫顓臾、昔者先王以爲東蒙主。且在邦域之中矣。是社稷之臣也。何以伐爲。夫、音扶。○東蒙、山名。先王封顓臾於此山之下、使主其祭。在魯地七百里之中。社稷、猶云公家。是時四分魯國、季氏取其二、孟孫・叔孫、各有其一。獨附庸之國、尙爲公臣。季氏又欲取以自益。故孔子言、顓臾乃先王封國、則不可伐。在邦域之中、則不必伐。是社稷之臣、則非季氏所當伐也。此事理之至當、不易之定體、而一言盡其曲折如此。非聖人不能也。
【読み】
夫れ顓臾は、昔者[むかし]先王以て東蒙の主と爲す。且邦域之中に在り。是れ社稷の臣なり。何を以てか伐つことを爲せん。夫は音扶。○東蒙は山の名。先王顓臾を此の山の下に封じて、其の祭りを主[つかさど]らしむ。魯の地七百里の中に在り。社稷は、猶公家と云うがごとし。是の時魯國を四分して、季氏其の二を取り、孟孫・叔孫、各々其の一を有す。獨[ただ]附庸の國のみ、尙公の臣爲り。季氏又取りて以て自ら益さんと欲す。故に孔子言う、顓臾は乃ち先王の封國なれば、則ち伐つ可からず。邦域の中に在れば、則ち必ずしも伐たず。是れ社稷の臣なれば、則ち季氏當に伐つべき所に非ざるなり、と。此れ事理の至當、不易の定體にして、一言にて其の曲折を盡くせること此の如し。聖人に非ざれば能わざるなり。
冉有曰、夫子欲之。吾二臣者、皆不欲也。夫子、指季孫。冉有實與謀。以夫子非之、故歸咎於季氏。
【読み】
冉有曰く、夫子之を欲す。吾二臣者は、皆欲せず。夫子は季孫を指す。冉有實に謀に與る。夫子之を非とするを以て、故に咎を季氏に歸す。
孔子曰、求、周任有言、曰、陳力就列、不能者止。危而不持、顚而不扶、則將焉用彼相矣。任、平聲。焉、於虔反。相、去聲。下同。○周任、古之良史。陳、布也。列、位也。相、瞽者之相也。言二子不欲則當諫。諫而不聽、則當去也。
【読み】
孔子曰く、求、周任言えること有り、曰く、力を陳[し]いて列[くらい]に就き、能うまじきときに止む。危けれども而も持[たも]たず、顚[たおれ]るとも而も扶[たす]けずんば、則ち將に焉んぞ彼の相[たすけ]を用いん。任は平聲。焉は於虔の反。相は去聲。下も同じ。○周任は古の良史。陳は布くなり。列は位なり。相は瞽者の相なり。言うこころは、二子欲せざれば則ち當に諫むべし。諫めて聽かれざれば、則ち當に去るべし、と。
且爾言過矣。虎兕出於柙、龜玉毀於櫝中、是誰之過與。兕、徐履反。柙、戶甲反。櫝、音獨。與、平聲。○兕、野牛也。柙、檻也。櫝、匱也。言在柙而逸、在櫝而毀、典守者不得辭其過。明二子居其位而不去、則季氏之惡、己不得不任其責也。
【読み】
且つ爾が言過てり。虎兕[こじ]柙[おり]より出で、龜玉櫝[とく]中に毀[やぶ]れば、是れ誰が過ぞや。兕は徐履の反。柙は戶甲の反。櫝は音獨。與は平聲。○兕は野牛なり。柙は檻なり。櫝は匱なり。言うこころは、柙に在りて逸れ、櫝に在りて毀れば、典守者其の過を辭するを得ず、と。二子其の位に居て去らざれば、則ち季氏の惡、己其の責を任ぜざるを得ざるを明らかにするなり。
冉有曰、今夫顓臾、固而近於費。今不取、後世必爲子孫憂。夫、音扶。○固、謂城郭完固。費、季氏之私邑。此則冉求之飾辭。然亦可見其實與季氏之謀矣。
【読み】
冉有曰く、今夫れ顓臾、固うして費に近し。今取らざれば、後世必ず子孫の憂えを爲さん。夫は音扶。○固は、城郭の完固なるを謂う。費は、季氏の私邑。此れ則ち冉求の飾辭なり。然れども亦其の實に季氏の謀に與るを見る可し。
孔子曰、求、君子疾夫舍曰欲之、而必爲之辭。夫、音扶。舍、上聲。○欲之、謂貪其利。
【読み】
孔子曰く、求、君子は夫の之を欲すと曰うことを舍[お]いて、必ず之が辭を爲[つく]ることを疾[にく]む。夫は音扶。舍は上聲。○之を欲すは、其の利を貪るを謂う。
丘也聞、有國有家者、不患寡而患不均。不患貧而患不安。蓋均無貧。和無寡。安無傾。寡、謂民少。貧、謂財乏。均、謂各得其分。安、謂上下相安。季氏之欲取顓臾、患寡與貧耳。然是時季氏據國、而魯公無民、則不均矣。君弱臣強、亙生嫌隙、則不安矣。均則不患於貧而和。和則不患於寡而安。安則不相疑忌、而無傾覆之患。
【読み】
丘聞けり、國を有[たも]ち家を有[たも]つ者は、寡なきことを患えずして均しからざることを患う。貧しきことを患えずして安からざることを患う。蓋し均しきときは貧しきこと無し。和らぐときは寡なきこと無し。安きときは傾くこと無し。寡は、民の少なきを謂う。貧は、財の乏しきを謂う。均は、各々其の分を得るを謂う。安は、上下の相安んずるを謂う。季氏の顓臾を取らんと欲するは、寡と貧とを患うのみ。然るに是の時季氏國に據りて、魯公民無きは、則ち均しからざるなり。君弱く臣強くして、亙いに嫌隙を生ずるは、則ち安からざるなり。均しくば則ち貧しきを患えずして和す。和せば則ち寡なきを患えずして安んず。安ければ則ち相疑忌せずして、傾覆の患い無し。
夫如是。故遠人不服、則脩文德以來之。旣來之、則安之。夫、音扶。内治修、然後遠人服。有不服、則修德以來之。亦不當動兵於遠。
【読み】
夫れ是の如し。故に遠人服せざるときは、則ち文德を脩めて以て之を來[きた]す。旣に之を來さるときは、則ち之を安んず。夫は音扶。内治修まりて、然して後に遠人服す。服せざること有るときは、則ち德を修めて以て之を來す。亦當に兵を遠くに動かすべからず。
今由與求也、相夫子、遠人不服、而不能來也。邦分崩離析、而不能守也。子路雖不與謀、而素不能輔之以義。亦不得爲無罪。故倂責之。遠人、謂顓臾。分崩離析、謂四分公室、家臣屢叛。
【読み】
今由と求と夫子を相けて、遠人服せざれども、而も來すこと能わず。邦分崩離析すれども、而も守ること能わず。子路謀に與らずと雖も、而して素之を輔くるに義を以てすること能わず。亦罪無しと爲すを得ず。故に倂せて之を責む。遠人は顓臾を謂う。分崩離析は、公室を四分して、家臣屢々叛くを謂う。
而謀動干戈於邦内。吾恐季孫之憂、不在顓臾、而在蕭牆之内也。干、楯也。戈、戟也。蕭牆、屛也。言不均不和、内變將作。其後哀公果欲以越伐魯而去季氏。○謝氏曰、當是時、三家強、公室弱。冉求又欲伐顓臾以附益之。夫子所以深罪之。爲其瘠魯以肥三家也。洪氏曰、二子仕於季氏、凡季氏所欲爲、必以告於夫子、則因夫子之言而救止者、宜亦多矣。伐顓臾之事、不見於經傳。其以夫子之言而止也與。
【読み】
而して干戈を邦内に動かさんことを謀る。吾恐らくは季孫が憂え、顓臾に在らずして、蕭牆の内に在らんこと、を。干は楯なり。戈は戟なり。蕭牆は屛なり。言うこころは、均しからず和せざれば、内變將に作[おこ]らん、と。其の後哀公果たして越を以て魯を伐って季氏を去[はら]わんと欲す。○謝氏曰く、是の時に當りて、三家強く、公室弱し。冉求又顓臾を伐って以て之を附益せんと欲す。夫子深く之を罪する所以なり。其の魯を瘠さしめて以て三家を肥やしむるが爲なり、と。洪氏曰く、二子季氏に仕う、凡そ季氏のせんと欲する所、必ず以て夫子に告げば、則ち夫子の言に因りて救い止む者、宜しく亦多かるべし。顓臾を伐つの事、經傳に見えず。其れ夫子の言を以て止むならんか、と。
季氏2
○孔子曰、天下有道、則禮樂征伐、自天子出。天下無道、則禮樂征伐、自諸侯出。自諸侯出、蓋十世希不失矣。自大夫出、五世希不失矣。陪臣執國命、三世希不失矣。先王之制、諸侯不得變禮樂、專征伐。陪臣、家臣也。逆理愈甚、則其失之愈速。大約世數不過如此。
【読み】
○孔子曰く、天下道有あるときは、則ち禮樂征伐、天子より出づ。天下道無きときは、則ち禮樂征伐、諸侯より出づ。諸侯より出づれば、蓋し十世にして失わざること希[すく]なし。大夫より出づれば、五世にして失わざること希なし。陪臣國命を執れば、三世にして失わざること希なし。先王の制、諸侯禮樂を變じ、征伐を專[ほしいまま]にするを得ず。陪臣は家臣なり。理に逆くこと愈々甚だしければ、則ち其の失うこと愈々速やかなり。大約の世數此の如くなるに過ぎず。
天下有道、則政不在大夫。言不得專政。
【読み】
天下道有るときは、則ち政大夫に在らず。政を專にするを得ざるを言う。
天下有道、則庶人不議。上無失政、則下無私議。非箝其口使不敢言也。○此章通論天下之勢。
【読み】
天下道有るときは、則ち庶人議[はか]らず。上失政無ければ、則ち下私議無し。其の口に箝して敢えて言わざらしむるに非ず。○此の章通して天下の勢を論ず。
季氏3
○孔子曰、祿之去公室五世矣。政逮於大夫四世矣。故夫三桓之子孫微矣。夫、音扶。○魯自文公薨、公子遂殺子赤、立宣公、而君失其政、歴成・襄・昭・定、凡五公。逮、及也。自季武子始專國政、歴悼・平・桓子、凡四世。而爲家臣陽虎所執。三桓、三家、皆桓公之後。此以前章之說推之。而知其當然也。○此章、專論魯事。疑與前章皆定公時語。蘇氏曰、禮樂征伐自諸侯出、宜諸侯之強也。而魯以失政、政逮於大夫、宜大夫之強也。而三桓以微、何也。強生於安、安生於上下之分定。今諸侯大夫皆陵其上、則無以令其下矣。故皆不久而失之也。
【読み】
○孔子曰く、祿の公室を去ること五世。政大夫に逮ぶこと四世。故に夫の三桓の子孫微[おとろ]う。夫は音扶。○魯は文公薨じ、公子遂の子赤を殺し、宣公を立てて、君其の政を失いてより、成・襄・昭・定を歴て、凡て五公なり。逮ぶは及ぶなり。季武子始めて國政を專[ほしいまま]にしてより、悼・平・桓子を歴て、凡て四世なり。而して家臣陽虎が爲に執らる。三桓は三家、皆桓公の後なり。此れ前章の說を以て之を推す。而して其の當に然るべきを知るなり。○此の章、專ら魯の事を論ず。疑うらくは、前章と與に皆定公の時の語ならん。蘇氏曰く、禮樂征伐の諸侯より出づるは、宜しく諸侯の強かるべし。魯以て政を失して、政大夫に逮ぶは、宜しく大夫の強かるべし。而して三桓以て微うは、何ぞや。強は安に生[な]る、安は上下の分定まるに生る。今諸侯大夫皆其の上を陵ぐときは、則ち以て其の下に令すること無し。故に皆久しからずして之を失えり、と。
季氏4
○孔子曰、益者三友、損者三友。友直、友諒、友多聞、益矣。友便辟、友善柔、友便佞、損矣。便、平聲。辟、婢亦反。○友直、則聞其過。友諒、則進於誠。友多聞、則進於明。便、習熟也。便辟、謂習於威儀而不直。善柔、謂工於媚說而不諒。便佞、謂習於口語而無聞見之實。三者損益正相反也。○尹氏曰、自天子以至於庶人、未有不須友以成者。而其損益有如是者。可不謹哉。
【読み】
○孔子曰く、益者三友、損者三友。直を友とし、諒を友とし、多聞を友とし、益す。便辟を友とし、善柔を友とし、便佞を友とし、損す。便は平聲。辟は婢亦の反。○直を友とすれば、則ち其の過を聞く。諒を友とすれば、則ち誠に進む。多聞を友とすれば、則ち明に進む。便は習熟なり。便辟は、威儀に習いて直ならざるを謂う。善柔は、媚說に工にして諒ならざるを謂う。便佞は、口語に習いて聞見の實無きを言う。三つの者の損益正に相反す。○尹氏曰く、天子より以て庶人に至るまで、未だ友を須ちて以て成らざる者有らず。而して其の損益是の如き者有り。謹まざる可けんや、と。
季氏5
○孔子曰、益者三樂、損者三樂。樂節禮樂、樂道人之善、樂多賢友、益矣。樂驕樂、樂佚遊、樂宴樂、損矣。樂、五敎反。禮樂之樂、音岳。驕樂・宴樂之樂、音洛。○節、謂辨其制度聲容之節。驕樂、則侈肆而不知節。佚遊、則惰慢而惡聞善。宴樂、則淫溺而狎小人。三者損益亦相反也。○尹氏曰、君子之於好樂、可不謹哉。
【読み】
○孔子曰く、益者三樂、損者三樂。禮樂を節することを樂[ねが]い、人の善を道[い]うことを樂い、賢友多からんことを樂えば、益す。驕樂を樂い、佚遊を樂い、宴樂を樂えば、損す。樂は五敎の反。禮樂の樂は音岳。驕樂・宴樂の樂は音洛。○節は、其の制度聲容の節を辨ずるを謂う。驕樂なれば、則ち侈肆にして節を知らず。佚遊すれば、則ち惰慢にして善を聞くを惡む。宴樂すれば、則ち淫溺にして小人に狎る。三つの者の損益亦相反す。○尹氏曰く、君子の好樂に於る、謹まざる可けんや、と。
季氏6
○孔子曰、侍於君子有三愆。言未及之而言、謂之躁。言及之而不言、謂之隱。未見顏色而言、謂之瞽。噪、音竈。○君子、有德位之通稱。愆、過也。瞽、無目、不能察言觀色。○尹氏曰、時然後言、則無三者之過矣。
【読み】
○孔子曰く、君子に侍するに三つの愆[あやまち]有り。言未だ之に及ばずして言う、之を躁と謂う。言之に及んで言わざれば、之を隱と謂う。未だ顏色を見ずして言う、之を瞽と謂う。噪は音竈。○君子は、德位有るの通稱。愆は過なり。瞽は、目無く、言を察し色を觀ること能わず。○尹氏曰く、時にして然る後に言えば、則ち三つの者の過無し、と。
季氏7
○孔子曰、君子有三戒。少之時血氣未定。戒之在色。及其壯也、血氣方剛。戒之在鬭。及其老也、血氣旣衰。戒之在得。血氣、形之所待以生者、血陰而氣陽也。得、貪得也。隨時知戒、以理勝之、則不爲血氣所使也。○范氏曰、聖人同於人者、血氣也。異於人者、志氣也。血氣有時而衰、志氣則無時而衰也。少未定、壯而剛、老而衰者、血氣也。戒於色、戒於鬭、戒於得者、志氣也。君子養其志氣。故不爲血氣所動。是以年彌高而德彌卲也。
【読み】
○孔子曰く、君子に三つの戒め有り。少き時は血氣未だ定まらず。之を戒むること色に在り。其の壯んなるに及んでは、血氣方に剛[こわ]し。之を戒むること鬭うに在り。其の老いたるに及んでは、血氣旣に衰う。之を戒むること得るに在り。血氣は、形の待ちて以て生ける所の者、血は陰にして氣は陽なり。得は、貪り得るなり。時に隨いて戒むるを知り、理を以て之に勝てば、則ち血氣の爲に使われざるなり。○范氏曰く、聖人人に同じき者は、血氣なり。人に異なる者は、志氣なり。血氣時として衰うること有れども、志氣は則ち時として衰うること無し。少きときは未だ定まらず、壯にして剛く、老いて衰うるは、血氣なり。色を戒め、鬭を戒め、得るを戒むる者は、志氣なり。君子は其の志氣を養う。故に血氣の爲に動かされず。是を以て年彌々高くして德彌々卲[たか]し、と。
季氏8
○孔子曰、君子有三畏。畏天命、畏大人、畏聖人之言。畏者、嚴憚之意也。天命者、天所賦之正理也。知其可畏、則其戒謹恐懼、自有不能已者、而付畀之重、可以不失矣。大人・聖言、皆天命所當畏。知畏天命、則不得不畏之矣。
【読み】
○孔子曰く、君子に三つの畏れ有り。天命を畏れ、大人を畏れ、聖人の言を畏る。畏は、嚴憚の意なり。天命は、天の賦する所の正理なり。其の畏る可きを知るときは、則ち其れ戒謹恐懼して、自ら已むこと能わざる者有りて、付畀[ふひ]の重き、以て失わざる可し。大人・聖言も、皆天命の當に畏るべき所なり。天命を畏ることを知るときは、則ち之を畏れざることを得ず。
小人不知天命而不畏也、狎大人、侮聖人之言。侮、戲玩也。不知天命。故不識義理。而無所忌憚如此。○尹氏曰、三畏者、修己之誠當然也。小人不務修身誠己、則何畏之有。
【読み】
小人は天命を知らずして畏れず、大人に狎れ、聖人の言を侮る。侮は戲玩するなり。天命を知らず。故に義理を識らずして、忌憚する所無きこと此の如し。○尹氏曰く、三つの畏れは、己を修むるの誠當に然るべし。小人身を修め己を誠にするを務めざれば、則ち何の畏るることか之れ有らん、と。
季氏9
○孔子曰、生而知之者、上也。學而知之者、次也。困而學之、又其次也。困而不學、民斯爲下矣。困、謂有所不通。言人之氣質不同、大約有此四等。○楊氏曰、生知・學知以至困學、雖其質不同、然及其知之一也。故君子惟學之爲貴。困而不學。然後爲下。
【読み】
○孔子曰く、生[う]まれながらにして之を知る者は、上なり。學んで之を知る者は、次なり。困[くる]しんで之を學ぶは、又其の次なり。困しんで學びず、民斯れを下と爲す。困は、通ぜざる所有るを謂う。言うこころは、人の氣質同じからざること、大約此の四等有り、と。○楊氏曰く、生知・學知より以て困學に至るまで、其の質同じからずと雖も、然して其の之を知るに及んでは一なり。故に君子は惟學ぶことを貴しとす。困しんで學ばず。然して後に下とす、と。
季氏10
○孔子曰、君子有九思。視思明、聽思聰、色思温、貌思恭、言思忠、事思敬、疑思問、忿思難、見得思義。難、去聲。○視無所蔽、則明無不見。聽無所壅、則聰無不聞。色、見於面者。貌、擧身而言。思問、則疑不蓄。思難、則忿必懲。思義、則得不苟。○程子曰、九思各專其一。謝氏曰、未至於從容中道、無時而不自省察也。雖有不存焉者寡矣。此之謂思誠。
【読み】
○孔子曰く、君子に九つの思い有り。視るには明らかならんことを思い、聽くには聰からんことを思い、色は温[おだやか]ならんことを思い、貌は恭しからんことを思い、言は忠ならんことを思い、事は敬せんことを思い、疑は問わんことを思い、忿[いかり]には難を思い、得るを見ては義を思う。難は去聲。○視ること蔽わるる所無くば、則ち明らかにして見ざること無し。聽くこと壅[ふさ]がるる所無くば、則ち聰くして聞かざること無し。色は面に見わるる者。貌は身を擧げて言う。問わんことを思えば、則ち疑い蓄えず。難を思えば、則ち忿必ず懲らす。義を思えば、則ち得ること苟もせず。○程子曰く、九思各々其の一つを專らにす、と。謝氏曰く、未だ從容として道に中るに至らざれば、時として自ら省察せずということ無し。存せざる者有りと雖も寡なし。此を之れ誠を思うと謂う、と。
季氏11
○孔子曰、見善如不及、見不善如探湯。吾見其人矣。吾聞其語矣。探、吐南反。○眞知善惡、而誠好惡之。顏・曾・閔・冉之徒、蓋能之矣。語、蓋古語也。
【読み】
○孔子曰く、善を見て及ばざるが如くし、不善を見て湯を探るが如くす。吾其の人を見つ。吾其の語を聞いつ。探は吐南の反。○眞に善惡を知りて、誠に之を好惡す。顏・曾・閔・冉の徒、蓋し之を能くす。語は、蓋し古語なり。
隱居以求其志、行義以達其道。吾聞其語矣。未見其人也。求其志、守其所達之道也。達其道、行其所求之志也。蓋惟伊尹・大公之流、可以當之。當時若顏子亦庶乎此。然隱而未見。又不幸而蚤死。故夫子云然。
【読み】
隱居して以て其の志を求め、義を行って以て其の道を達す。吾其語を聞いつ。未だ其の人を見ず。其の志を求むは、其の達する所の道を守るなり。其の道を達すは、其の求むる所の志を行うなり。蓋し惟伊尹・大公の流のみ、以て之に當る可し。當時顏子の若きも亦此に庶し。然れども隱れて未だ見れず。又不幸にして蚤死す。故に夫子然か云う。
季氏12
○齊景公有馬千駟。死之日、民無德而稱焉。伯夷・叔齊饑于首陽之下。民到于今稱之。駟、四馬也。首陽、山名。
【読み】
○齊の景公馬千駟有り。死するの日、民德として稱すること無し。伯夷・叔齊首陽の下に饑う。民今に到るまで之を稱す。駟は四馬なり。首陽は山の名。
其斯之謂與。與、平聲。○胡氏曰、程子以爲第十二篇錯簡。誠不以富、亦祇以異、當在此章之首。今詳文勢、似當在此句之上。言人之所稱、不在於富而在於異也。愚謂、此說近是。而章首當有孔子曰字。蓋闕文耳。大抵此書後十篇多闕誤。
【読み】
其れ斯れを謂うか。與は平聲。○胡氏曰く、程子以て第十二篇を錯簡と爲す。誠に富めるを以てせず、亦祇[まさ]に異なるを以てすは、當に此の章の首に在るべし。今文勢を詳らかにするに、當に此の句の上に在るべきに似る。言うこころは、人の稱する所は、富に在らずして異なるに在るなり、と。愚謂えらく、此の說是に近し。而して章首當に孔子曰の字有るべし。蓋し闕文のみ。大抵此の書の後の十篇闕誤多し。
季氏13
○陳亢問於伯魚曰、子亦有異聞乎。亢、音剛。○亢以私意窺聖人、疑必陰厚其子。
【読み】
○陳亢[ちんこう]伯魚に問うて曰く、子も亦異聞有りや。亢は音剛。○亢私意を以て聖人を窺い、必ずや陰に其の子に厚かるべしと疑う。
對曰、未也。嘗獨立。鯉趨而過庭。曰、學詩乎。對曰、未也。不學詩無以言。鯉退而學詩。事理通達、而心氣和平。故能言。
【読み】
對えて曰く、未だし。嘗て獨り立てり。鯉趨って庭を過ぐ。曰く、詩を學びたりや。對えて曰く、未だし。詩を學びずんば以て言うこと無けん。鯉退いて詩を學んず。事理通達して心氣和平。故に能く言う。
他日又獨立。鯉趨而過庭。曰、學禮乎。對曰、未也。不學禮無以立。鯉退而學禮。品節詳明、而德性堅定。故能立。
【読み】
他日又獨り立つ。鯉趨って庭を過ぐ。曰く、禮を學びたりや。對えて曰く、未だし。禮を學びずんば以て立つこと無けん。鯉退いて禮を學んず。品節詳明にして德性堅定。故に能く立つ。
聞斯二者矣。當獨立之時、所聞不過如此。其無異聞可知。
【読み】
斯の二つの者を聞けり。獨り立つの時に當り、聞く所此の如きに過ぎず。其の異聞無きこと知る可し。
陳亢退而喜曰、問一得三。聞詩聞禮、又聞君子之遠其子也。遠、去聲。○尹氏曰、孔子之敎其子、無異於門人。故陳亢以爲遠其子。
【読み】
陳亢退いて喜んで曰く、一つを問うて三つを得たり。詩を聞き禮を聞き、又君子の其の子に遠ざかることを聞けり。遠は去聲。○尹氏曰く、孔子の其の子に敎うる、門人に異なること無し。故に陳亢以て其の子に遠ざかると爲す、と。
季氏14
○邦君之妻、君稱之曰夫人。夫人自稱曰小童。邦人稱之、曰君夫人。稱諸異邦、曰寡小君。異邦人稱之、亦曰君夫人。寡、寡德、謙辭。○吳氏曰、凡語中所載、如此類者、不知何謂。或古有之、或夫子嘗言之、不可考也。
【読み】
○邦君の妻は、君之を稱して夫人と曰う。夫人自ら稱して小童と曰う。邦人[くにたみ]之を稱して、君夫人と曰う。諸を異邦に稱して、寡小君と曰う。異邦人之を稱しても、亦君夫人と曰う。寡は寡德、謙辭なり。○吳氏曰く、凡そ語中に載する所、此の類の如き者、何と謂うことを知らず。或は古に之れ有り、或は夫子嘗て之を言う、考う可からず、と。
論語卷之九
陽貨第十七 凡二十六章。
陽貨1
○陽貨欲見孔子。孔子不見。歸孔子豚。孔子時其亡也、而往拜之。遇諸塗。歸、如字。一作饋。○陽貨、季氏家臣、名虎。嘗囚季桓子、而專國政。欲令孔子來見己、而孔子不往。貨以禮大夫有賜於士、不得受於其家、則往拜其門、故瞰孔子之亡、而歸之豚。欲令孔子來拜而見之也。
【読み】
○陽貨孔子に見[あ]わまく欲す。孔子見わず。孔子に豚を歸[おく]れり。孔子其の亡[な]きを時なで、往いて之を拜す。諸に塗[みち]に遇えり。歸は字の如し。一に饋に作る。○陽貨は季氏が家臣、名は虎。嘗て季桓子を囚えて、國政を專[ほしいまま]にす。孔子に來て己に見わしめんことを欲し、而して孔子往かず。貨、禮に大夫より士に賜うこと有り、其の家に受くるを得ざれば、則ち往きて其の門を拜すを以て、故に孔子の亡きを瞰いて、之に豚を歸れり。孔子に來て拜せしめて之に見わんと欲するなり。
謂孔子曰、來、予與爾言。曰、懷其寶而迷其邦、可謂仁乎。曰、不可。好從事而亟失時、可謂知乎。曰、不可。日月逝矣、歳不我與。孔子曰、諾、吾將仕矣。好・亟・知、竝去聲。○懷寶迷邦、謂懷藏道德、不救國之迷亂。亟、數也。失時、謂不及事幾之會。將者、且然而未必之辭。貨語、皆譏孔子、而諷使速仕。孔子固未嘗如此、而亦非不欲仕也。但不仕於貨耳。故直據理答之、不復與辨。若不諭其意者。○陽貨之欲見孔子、雖其善意、然不過欲使助己爲亂耳。故孔子不見者、義也。其往拜者、禮也。必時其亡而往者、欲其稱也。遇諸塗而不避者、不終絶也。隨問而對者、理之直也。對而不辨者、言之孫、而亦無所詘也。楊氏曰、揚雄謂、孔子於陽貨也、敬所不敬、爲詘身以信道。非知孔子者。蓋道外無身、身外無道。身詘矣、而可以信道、吾未之信也。
【読み】
孔子に謂って曰く、來れ、予爾と言わん。曰く、其の寶を懷いて其の邦を迷わす、仁と謂いつ可けんや。曰く、不可。事に從うことを好んで亟々[しばしば]時を失う、知と謂う可けんや。曰く、不可。日月逝[い]んぬ、歳我と與[とも]にせず。孔子曰く、諾、吾將に仕えんとす。好・亟・知は竝去聲。○寶を懷いて邦を迷わすは、道德を懷藏して、國の迷亂を救わざるを謂う。亟は數なり。時を失うは、事幾の會に及ばざるを謂う。將は、且[まさ]に然りとして未だ必とせざるの辭。貨の語、皆孔子を譏りて、諷して速やかに仕えしめんとす。孔子固より未だ嘗て此の如くあらずして、亦仕えんことを欲せざるに非ず。但貨に仕えざるのみ。故に直に理に據りて之に答え、復與に辨ぜず。其の意を諭らざる者の若し。○陽貨の孔子に見わんと欲する、其れ善意と雖も、然れども己を助け亂を爲さしめんと欲するに過ぎざるのみ。故に孔子の見わざるは、義なり。其の往きて拜するは、禮なり。必ず其の亡きを時なで往くは、其の稱[かな]わんことを欲してなり。諸に塗に遇うて避けざるは、終に絶たざるなり。問いに隨いて對うるは、理の直きなり。對えて辨ぜざるは、言の孫[したが]いて、亦詘[かが]まる所無きなり。楊氏曰く、揚雄謂う、孔子の陽貨に於る、敬せざる所を敬し、身を詘めて以て道を信[の]べんとす、と。孔子を知る者に非ず。蓋し道の外に身無く、身の外に道無し。身を詘めて以て道を信ぶ可しというは、吾未だ之を信ぜざるなり、と。
陽貨2
○子曰、性相近也。習相遠也。此所謂性、兼氣質而言者也。氣質之性、固有美惡之不同矣。然以其初而言、則皆不甚相遠也。但習於善則善、習於惡則惡。於是始相遠耳。○程子曰、此言氣質之性、非言性之本也。若言其本、則性卽是理、理無不善。孟子之言性善、是也。何相近之有哉。
【読み】
○子曰く、性は相近し。習って相遠し。此の謂う所の性は、氣質を兼ねて言う者なり。氣質の性、固より美惡の同じからざる有り。然れども其の初を以て言えば、則ち皆甚だしくは相遠からず。但善を習えば則ち善、惡を習えば則ち惡。是に於て始めて相遠きのみ。○程子曰く、此れ氣質の性を言い、性の本を言うに非ざるなり。若し其の本を言わば、則ち性は卽ち是れ理、理は善ならざる無し。孟子の性善を言う、是れなり。何ぞ相近きことか之れ有らん、と。
陽貨3
○子曰、唯上知與下愚不移。知、去聲。○此承上章而言。人之氣質相近之中、又有美惡一定、而非習之所能移者。○程子曰、人性本善。有不可移者、何也。語其性、則皆善也。語其才、則有下愚之不移。所謂下愚有二焉。自暴自棄也。人苟以善自治、則無不可移。雖昏愚之至、皆可漸磨而進也。惟自暴者、拒之以不信。自棄者、絶之以不爲。雖聖人與居、不能化而入也。仲尼之所謂下愚也。然其質非必昏且愚也。往往強戾而才力有過人者。商辛、是也。聖人以其自絶於善、謂之下愚。然考其歸、則誠愚也。或曰、此與上章當合爲一。子曰二字、蓋衍文耳。
【読み】
○子曰く、唯上知と下愚とは移ず。知は去聲。○此れ上章を承けて言う。人の氣質相近きの中、又美惡一定して、習いの能く移す所に非ざる者有り。○程子曰く、人の性は本善なり。移す可からざる者有るは、何ぞや。其の性を語れば、則ち皆善なり。其の才を語れば、則ち下愚の移らざること有り。謂う所の下愚に二つ有り。自暴自棄なり。人苟も善を以て自ら治むるときは、則ち移る可からざること無し。昏愚の至りと雖も、皆漸磨して進む可し。惟自暴者は、之を拒みて以て信ぜず。自棄者は、之を絶ちて以て爲さず。聖人與に居ると雖も、化して入るること能わざるなり。仲尼の謂う所の下愚なり。然れども其の質は必ずしも昏且愚に非ず。往往強戾にして才力人に過ぐる者有り。商辛、是れなり。聖人其の自ら善を絶つを以て、之を下愚と謂う。然れども其の歸を考えれば、則ち誠に愚なり。或ひと曰く、此れ上章と當に合わせて一と爲すべし、と。子曰の二字、蓋し衍文なるのみ、と。
陽貨4
○子之武城、聞弦歌之聲。弦、琴瑟也。時子游爲武城宰、以禮樂爲敎。故邑人皆弦歌也。
【読み】
○子武城に之いて、弦歌の聲を聞く。弦は琴瑟なり。時に子游武城の宰と爲り、禮樂を以て敎を爲す。故に邑人皆弦歌す。
夫子莞爾而笑曰、割雞焉用牛刀。莞、華版反。焉、於虔反。○莞爾、小笑貌。蓋喜之也。因言其治小邑、何必用此大道也。
【読み】
夫子莞爾として笑って曰く、雞を割くに焉んぞ牛の刀を用いん。莞は華版の反。焉は於虔の反。○莞爾は小しく笑う貌。蓋し之を喜ぶなり。因りて言うこころは、其の小邑を治むるに、何ぞ必ずしも此れ大道を用いん、と。
子游對曰、昔者偃也、聞諸夫子。曰、君子學道、則愛人、小人學道、則易使也。易、去聲。○君子・小人、以位言之。子游所稱、蓋夫子之常言。言君子・小人、皆不可以不學。故武城雖小、亦必敎以禮樂。
【読み】
子游對えて曰く、昔者[むかし]偃、諸を夫子に聞けり。曰く、君子道を學ぶときは、則ち人を愛す、小人道を學ぶときは、則ち使い易し、と。易は去聲。○君子・小人は、位を以て之を言う。子游稱する所、蓋し夫子の常言なり。言うこころは、君子・小人、皆以て學びずばある可からず。故に武城小なりと雖も、亦必ず敎うるに禮樂を以てす、と。
子曰、二三子、偃之言是也。前言戲之耳。嘉子游之篤信、又以解門人之惑也。○治有大小。而其治之必用禮樂、則其爲道一也。但衆人多不能用、而子游獨行之。故夫子驟聞而深喜之。因反其言以戲之。而子游以正對。故復是其言、而自實其戲也。
【読み】
子曰く、二三子、偃が言是なり。前の言は之れ戲れらくのみ。子游の篤信を嘉[よみ]んじ、又以て門人の惑いを解くなり。○治むるに大小有り。而して其の之を治むるに必ず禮樂を用うるは、則ち其の道を爲すこと一なり。但衆人多く用うること能わずして、子游獨り之を行う。故に夫子驟[にわか]に聞いて深く之を喜ぶ。因りて其の言を反して以て之を戲る。而して子游正を以て對う。故に復其の言を是なりとして、自ら其の戲れを實にするなり。
陽貨5
○公山弗擾以費畔。召。子欲往。弗擾、季氏宰、與陽虎共執桓子、據邑以叛。
【読み】
○公山弗擾[ふつじょう]費を以[ひきい]て畔[そむ]く。召[よ]ぶ。子往かまく欲す。弗擾は季氏の宰、陽虎と共に桓子に執[とら]え、邑に據り以て叛けり。
子路不說、曰、末之也已。何必公山氏之之也。說、音悦。○末、無也。言道旣不行、無所往矣。何必公山氏之往乎。
【読み】
子路說びず、曰く、之くこと末[な]からまくのみ。何ぞ必ずしも公山氏に之かん。說は音悦。○末は無なり。言うこころは、道旣に行われずして、往く所無し。何ぞ必ずしも公山氏に往かん、と。
子曰、夫召我者、而豈徒哉。如有用我者、吾其爲東周乎。夫、音扶。○豈徒哉、言必用我也。爲東周、言興周道於東方。○程子曰、聖人以天下無不可有爲之時、亦無不可改過之人、故欲往。然而終不往者、知其必不能改故也。
【読み】
子曰く、夫れ我を召ぶ者にして、豈徒[むだごと]ならんや。如し我を用うる者有らば、吾其れ東周をせんか。夫は音扶。○豈徒ならんやは、言うこころは、必ず我を用いん、と。東周をせんは、周の道を東方に興さんことを言う。○程子曰く、聖人天下爲ること有る可からざるの時無く、亦過を改むる可からざる人無きを以て、故に往かんと欲す。然して終に往かざるは、其の必ずしも改むること能わざるを知るが故なり、と。
陽貨6
○子張問仁於孔子。孔子曰、能行五者於天下爲仁矣。請問之。曰、恭・寬・信・敏・惠。恭則不侮、寬則得衆、信則人任焉、敏則有功、惠則足以使人。行是五者、則心存而理得矣。於天下、言無適而不然。猶所謂雖之夷狄不可棄者。五者之目、蓋因子張所不足而言耳。任、倚仗也。又言其效如此。○張敬夫曰、能行此五者於天下、則其心公平而周徧可知矣。然恭其本與。李氏曰、此章與六言六蔽・五美四惡之類、皆與前後文體大不相似。
【読み】
○子張仁を孔子に問う。孔子曰く、能く五つの者を天下に行えば仁とす。之を請い問う。曰く、恭・寬・信・敏・惠。恭なるときは則ち侮らず、寬なるときは則ち衆を得、信なるときは則ち人任[よ]る、敏なるときは則ち功有り、惠なるときは則ち以て人を使うに足れり。是の五つの者を行えば、則ち心存して理得るなり。於天下は、適くとして然らざるということ無きを言う。猶所謂夷狄に之くと雖も棄つ可からざるという者のごとし。五つの者の目は、蓋し子張の足らざる所に因りて言うのみ。任は、倚仗なり。又其の效を言うこと此の如し。○張敬夫曰く、能く此の五者を天下に行うときは、則ち其の心公平にして周徧なることを知んぬ可し。然して恭は其の本か、と。李氏曰く、此の章と六言六蔽・五美四惡の類と、皆前後の文體と大いに相似ず。
陽貨7
○佛肸召。子欲往。佛、音弼。肸、許密反。○佛肸、晉大夫、趙氏之仲牟宰也。
【読み】
○佛肸[ひつきつ]召[よ]ぶ。子往かまく欲す。佛は音弼。肸は許密の反。○佛肸は、晉の大夫、趙氏の仲牟[ちゅうぼう]の宰なり。
子路曰、昔者由也聞諸夫子。曰、親於其身爲不善者、君子不入也。佛肸以中牟畔。子之往也、如之何。子路恐佛肸之浼夫子。故問此以止夫子之行。親、猶自也。不入、不入其黨也。
【読み】
子路曰く、昔者[むかし]由諸を夫子に聞けり。曰く、親[みずか]ら其の身に於て不善をする者には、君子入らず。佛肸中牟を以て畔く。子の往かんこと、如之何。子路佛肸の夫子を浼[けが]さんことを恐る。故に此を問うて以て夫子の行かんとするを止む。親は猶自らのごとし。入らずは、其の黨に入らざるなり。
子曰、然、有是言也。不曰堅乎、磨而不磷。不曰白乎、涅而不緇。磷、力刃反。涅、乃結反。磷、薄也。涅、染皁物。言人之不善、不能浼己。楊氏曰、磨不磷、涅不緇、而後無可無不可。堅白不足、而欲自試於磨涅、其不磷緇也者幾希。
【読み】
子曰く、然り、是の言有り。堅きを曰わずや、磨けども磷[うすら]かず、と。白きを曰わずや、涅[くり]にすれども緇[くろ]にならず、と。磷は力刃の反。涅は乃結の反。磷は薄なり。涅は皁[そう]に染める物。言うこころは、人の不善、己を浼すこと能わず、と。楊氏曰く、磨けども磷かず、涅にすれども緇にならず、而して後に可も無く不可も無し。堅白足らずして、自ら磨涅を試みんと欲せば、其の磷ぎ緇まざる者幾ど希なり、と。
吾豈匏瓜也哉。焉能繋而不食。焉、於虔反。○匏、瓠也。匏瓜繋於一處、而不能飮食、人則不如是也。○張敬夫曰、子路昔者之所聞、君子守身之常法、夫子今日之所言、聖人體道之大權也。然夫子於公山佛肸之召、皆欲往者、以天下無不可變之人、無不可爲之事也。其卒不往者、其人之終不可變、而事之終不可爲耳。一則生物之仁、一則知人之智也。
【読み】
吾豈匏瓜[ほうか]ならんや。焉んぞ能く繋かりて食らわざらん。焉は於虔の反。○匏は瓠なり。匏瓜一處に繋かりて、飮食すること能わざれども、人則ち是の如くはあらざるなり。○張敬夫曰く、子路昔者の聞ける所は、君子身を守るの常法、夫子今日の言う所は、聖人道に體するの大權なり。然れども夫子公山佛肸が召ぶに於て、皆に往かまく欲するは、天下に變ず可からざるの人無く、す可からざるの事無きを以てなり。其の卒に往かざるは、其の人の終に變ず可からず、事の終にする可からざることを知れるのみ。一つは則ち物を生[な]すの仁、一つは則ち人を知るの智なり、と。
陽貨8
○子曰、由也、女聞六言六蔽矣乎。對曰、未也。女、音汝。下同。○蔽、遮掩也。
【読み】
○子曰く、由、女六言六蔽を聞けりや。對えて曰く、未だし。女は音汝。下も同じ。○蔽は遮ぎ遮り掩うなり。
居、吾語女。語、去聲。○禮、君子問更端、則起而對。故孔子諭子路、使還坐而告之。
【読み】
居れ、吾女に語げん。語は去聲。○禮に、君子問うこと端を更[あらた]むれば、則ち起ちて對う、と。故に孔子子路に諭して、坐に還らしめて之に告ぐ。
好仁不好學、其蔽也愚。好知不好學、其蔽也蕩。好信不好學、其蔽也賊。好直不好學、其蔽也絞。好勇不好學、其蔽也亂。好剛不好學、其蔽也狂。好・知、竝去聲。○六言皆美德。然徒好之、而不學以明其理、則各有所蔽。愚、若可陷可罔之類。蕩、謂窮高極廣、而無所止。賊、謂傷害於物。勇者、剛之發。剛者、勇之體。狂、噪率也。○范氏曰、子路勇於爲善。其失之者、未能好學以明之也。故告之以此。曰勇、曰剛、曰信、曰直、又皆所以救其偏也。
【読み】
仁を好めども學を好まざれば、其の蔽愚なり。知を好めども學を好まざれば、其の蔽蕩なり。信を好めども學を好まざれば、其の蔽賊なり。直を好めども學を好まざれば、其の蔽絞なり。勇を好めども學を好まざれば、其の蔽亂なり。剛を好めども學を好まざれば、其の蔽狂なり。好・知は竝去聲。○六言は皆美德なり。然れども徒[ただ]之を好みて、學んで以て其の理を明らかにせざれば、則ち各々蔽われる所有り。愚は、陷れらるる可く罔いらるる可きの類の若し。蕩は、高きを窮め廣きを極めて止まる所無きを謂う。賊は、物を傷害するを謂う。勇は、剛の發するなり。剛は、勇の體なり。狂は噪率なり。○范氏曰く、子路善をするに勇む。其の之を失するは、未だ學を好み以て之を明らかにすること能わざればなり。故に之に告ぐるに此を以てす。曰く勇、曰く剛、曰く信、曰く直は、又皆其の偏を救う所以なり、と。
陽貨9
○子曰、小子、何莫學夫詩。夫、音扶。○小子、弟子也。
【読み】
○子曰く、小子、何ぞ夫の詩を學ぶこと莫き。夫は音扶。○小子は弟子なり。
詩可以興。感發志意。
【読み】
詩は以て興す可し。志意を感發す。
可以觀。考見得失。
【読み】
以て觀つ可し。得失を考え見る。
可以羣。和而不流。
【読み】
以て羣しつ可し。和して流れず。
可以怨。怨而不怒。
【読み】
以て怨みつ可し。怨みて怒らず。
邇之事父、遠之事君、人倫之道、詩無不備。二者擧重而言。
【読み】
邇[ちか]くは父に事り、遠くは君に事り、人倫の道、詩に備わらずということ無し。二つの者は重きを擧げて言う。
多識於鳥獸草木之名。其緒餘又足以資多識。○學詩之法、此章盡之。讀是經者、所宜盡心也。
【読み】
多く鳥獸草木の名を識る。其の緒餘は又以て多識を資[たす]くるに足る。○詩を學ぶの法、此の章之を盡くせり。是の經を讀む者、宜しく心を盡くすべき所なり。
陽貨10
○子謂伯魚曰、女爲周南・召南矣乎。人而不爲周南・召南、其猶正牆面而立也與。女、音汝。與、平聲。○爲、猶學也。周南・召南、詩首篇名。所言皆脩身齊家之事。正牆面而立、言卽其至近之地、而一物無所見、一歩不可行。
【読み】
○子伯魚に謂って曰く、女周南・召南を爲[まな]びたりや。人にして周南・召南を爲びざれば、其れ猶正しく牆に面[むか]って立てるがごとけんか。女は音汝。與は平聲。○爲は猶學のごとし。周南・召南は詩の首篇の名。言う所は皆身を脩め家を齊うるの事。正しく牆に面って立つは、言うこころは其の至近の地に卽いて、一物も見る所無く、一歩も行く可からず、と。
陽貨11
○子曰、禮云禮云。玉帛云乎哉。樂云樂云。鐘鼓云乎哉。敬而將之以玉帛、則爲禮。和而發之以鐘鼓、則爲樂。遺其本而專事其末、則豈禮樂之謂哉。○程子曰、禮只是一箇序。樂只是一箇和。只此兩字、含蓄多少義理。天下無一物無禮樂。且如置此兩椅。一不正、便是無序。無序便乖、乖便不和。又如盜賊至爲不道。然亦有禮樂。蓋必有總屬、必相聽順、乃能爲盜。不然則叛亂無統、不能一日相聚而爲盜也。禮樂無處無之。學者要須識得。
【読み】
○子曰く、禮と云い禮と云う。玉帛をしも云わんや。樂と云い樂と云う。鐘鼓をしも云わんや。敬して之を將[おこな]うに玉帛を以てするを、則ち禮と爲す。和して之を發するに鐘鼓を以てするを、則ち樂と爲す。其の本を遺[わす]れて專ら其の末を事とするは、則ち豈禮樂の謂ならんや。○程子曰く、禮は只是れ一箇の序なり。樂は只是れ一箇の和なり。只此の兩字、多少の義理を含み蓄う。天下一物として禮樂無しということ無し。且此の兩椅を置くが如し。一つが不正なれば、便ち是れ序無し。序無くば便ち乖[そむ]き、乖かば便ち和せず。又盜賊の如きは至って不道を爲す。然れども亦禮樂有り。蓋し必ず總屬有り、必ず相聽順して、乃ち能く盜を爲す。然らざれば則ち叛亂して統無く、一日も相聚まりて盜を爲すこと能わざるなり。禮樂は處として之れ無しということ無し。學者須く識得せんことを要す、と。
陽貨12
○子曰、色厲而内荏、譬諸小人、其猶穿窬之盜也與。荏、而審反。與、平聲。○厲、威嚴也。荏、柔弱也。小人、細民也。穿、穿壁。窬、踰牆。言其無實盜名、而常畏人知也。
【読み】
○子曰、色厲しうして内荏[やわ]らかなるを、諸を小人に譬うれば、其れ猶穿窬[せんゆ]の盜のごときか。荏は而審の反。與は平聲。○厲は威嚴なり。荏は柔弱なり。小人は細民なり。穿は壁を穿つ。窬は牆を踰ゆ。其の實無く名を盜んで、常に人の知らんことを畏るるを言うなり。
陽貨13
○子曰、郷原、德之賊也。郷者、鄙俗之意。原與愿同。荀子、原愨、註讀作愿。是也。郷原、郷人之愿者也。蓋其同流合汙以媚於世。故在郷人之中、獨以愿稱。夫子以其似德非德、而反亂乎德、故以爲德之賊、而深惡之。詳見孟子末篇。
【読み】
○子曰く、郷原は、德の賊なり。郷者は鄙俗の意。原は愿と同じ。荀子の原愨[げんかく]、註に讀んで愿に作る、と。是れなり。郷原は、郷人の愿なる者なり。蓋し其の流を同じくして汙に合わせ以て世に媚ぶ。故に郷人の中に在りて、獨り愿を以て稱せらる。夫子其の德に似て德に非ずして、反って德を亂るを以て、故に以て德の賊と爲して、深く之を惡む。詳らかに孟子の末篇に見えたり。
陽貨14
○子曰、道聽而塗說、德之棄也。雖聞善言、不爲己有。是自棄其德也。○王氏曰、君子多識前言往行、以畜其德。道聽塗說、則棄之矣。
【読み】
○子曰く、道に聽いて塗に說くは、德を棄つるなり。善言を聞くと雖も、己が有とせず。是れ自ら其の德を棄つるなり。○王氏曰く、君子多く前言往行を識りて、以て其の德を畜う。道に聽いて塗に說くは、則ち之を棄つるなり、と。
陽貨15
○子曰、鄙夫可與事君也與哉。與、平聲。○鄙夫、庸惡陋劣之稱。
【読み】
○子曰く、鄙夫は與に君に事る可けんや。與は平聲。○鄙夫は、庸惡陋劣の稱。
其未得之也、患得之、旣得之、患失之。何氏曰、患得之、謂患不能得之。
【読み】
其の未だ之を得ざれば、之を得んことを患え、旣に之を得れば、之を失わんことを患う。何氏曰く、之を得んことを患うは、之を得ること能わざるを患うを謂う。
苟患失之、無所不至矣。小則吮廱舐痔、大則弑父與君。皆生於患失而已。○胡氏曰、許昌靳裁之有言曰、士之品、大概有三。志於道德者、功名不足以累其心、志於功名者、富貴不足以累其心、志於富貴而已者、則亦無所不至矣。志於富貴、卽孔子所謂鄙夫也。
【読み】
苟[も]し之を失わんことを患えれば、至らざるという所無し。小しきなるときは則ち廱を吮[す]い痔を舐[ねぶ]るも、大いなるときは則ち父と君とを弑す。皆失わんことを患うるより生ずるのみ。○胡氏曰く、許昌の靳裁之[きんさいし]が言有りて曰く、士の品、大概三つ有り。道德に志す者は、功名を以て其の心を累わすに足らず、功名に志す者は、富貴を以て其の心を累わすに足らず、富貴に志すのみなる者は、則ち亦至らざる所無し、と。富貴に志すは、卽ち孔子の所謂鄙夫なり、と。
陽貨16
○子曰、古者民有三疾。今也或是之亡也。氣失其平則爲疾。故氣稟之偏者、亦謂之疾。昔所謂疾、今亦亡之。傷俗之益衰也。
【読み】
○子曰く、古者[いにしえ]の民三つの疾[やまい]有あり。今は或は是も亡けん。氣其の平かを失わば則ち疾を爲す。故に氣稟の偏あるも、亦之を疾と謂う。昔の所謂疾は、今は亦之れ亡けん。俗の益々衰えたるを傷むなり。
古之狂也肆。今之狂也蕩。古之矜也廉。今之矜也忿戾。古之愚也直。今之愚也詐而已矣。狂者、志願太高。肆、謂不拘小節。蕩、則踰大閑矣。矜者、持守太嚴。廉、謂稜角峭厲。忿戾、則至於爭矣。愚者、暗昧不明。直、謂徑行自遂。詐、則挾私妄作矣。○范氏曰、末世滋僞。豈惟賢者不如古哉。民性之蔽、亦與古人異矣。
【読み】
古の狂は肆なり。今の狂は蕩なり。古の矜[きょう]は廉なり。今の矜は忿戾なり。古の愚は直なり。今の愚は詐ならくのみ。狂は、志願うこと太だ高し。肆は、小節に拘わらざるを謂う。蕩は、則ち大閑を踰ゆ。矜は、持[たも]ち守ること太だ嚴。廉は、稜角峭厲なるを謂う。忿戾なれば、則ち爭いに至るなり。愚は、暗昧にして明らかならず。直は、徑行して自ら遂ぐるを謂う。詐は、則ち私を挾み妄作するなり。○范氏曰く、末世は滋々僞る。豈惟賢者のみ古に如かざるのみならんや。民の性の蔽も、亦古人と異なれり、と。
陽貨17
○子曰、巧言令色、鮮矣仁。重出。
【読み】
○子曰く、言を巧[よ]くし色を令[よ]くするは、鮮いかな仁。重出。
陽貨18
○子曰、惡紫之奪朱也。惡鄭聲之亂雅樂也。惡利口之覆邦家者。惡、去聲。覆、芳服反。○朱、正色。紫、閒色。雅、正也。利口、捷給。覆、傾敗也。○范氏曰、天下之理、正而勝者常少。不正而勝者常多。聖人所以惡之也。利口之人、以是爲非、以非爲是、以賢爲不肖、以不肖爲賢。人君苟悦而信之、則國家之覆也不難矣。
【読み】
○子曰く、紫の朱[あけ]を奪うことを惡む。鄭聲の雅樂を亂ることを惡む。利口の邦家を覆す者を惡む。惡は去聲。覆は芳服の反。○朱は正色。紫は閒色。雅は正なり。利口は捷給。覆は傾敗なり。○范氏曰く、天下の理、正しくして勝つ者常に少なし。正しからずして勝つ者常に多し。聖人以て之を惡む所なり。利口の人は、是を以て非とし、非を以て是とし、賢を以て不肖とし、不肖を以て賢とす。人君苟[も]し悦んで之を信ずるときは、則ち國家の覆ること難からず、と。
陽貨19
○子曰、予欲無言。學者多以言語觀聖人、而不察其天理流行之實、有不待言而著者。是以徒得其言、而不得其所以言。故夫子發此以警之。
【読み】
○子曰く、予言うこと無からまく欲す。學者多く言語を以て聖人を觀て、其の天理流行の實の、言を待たずして著われる者有るを察せず。是を以て徒其の言を得て、其の言う所以を得ず。故に夫子此を發して以て之を警む。
子貢曰、子如不言、則小子何述焉。子貢正以言語觀聖人者。故疑而問之。
【読み】
子貢曰く、子如し言わずんば、則ち小子何をか述べん。子貢正に言語を以て聖人を觀る者なり。故に疑いて之を問う。
子曰、天何言哉。四時行焉、百物生焉。天何言哉。四時行、百物生、莫非天理發見流行之實、不待言而可見。聖人一動一靜、莫非妙道精義之發。亦天而已。豈待言而顯哉。此亦開示子貢之切。惜乎、其終不喩也。○程子曰、孔子之道、譬如日星之明。猶患門人未能盡曉。故曰、予欲無言。若顏子則便默識。其他則未免疑問。故曰、小子何述。又曰、天何言哉、四時行焉、百物生焉。則可謂至明白矣。愚按、此與前篇無隱之意相發。學者詳之。
【読み】
子曰く、天何をか言うや。四時行き、百物生[な]る。天何をか言うや。四時行き、百物生るは、天理の發見流行の實に非ざるということ莫きこと、言を待たずして見る可し。聖人の一動一靜も、妙道精義の發するに非ざるということ莫し。亦天ならくのみ。豈言を待ちて顯れんや。此れ亦子貢に開示するの切なり。惜いかな、其れ終に喩らざるなり。○程子曰く、孔子の道は、譬えば日星の明らかなるが如し。猶門人未だ盡く曉ること能わざるを患う。故に曰く、予言うこと無からまく欲す、と。顏子の若きは則ち便ち默識す。其の他は則ち未だ疑い問うを免れず。故に曰く、小子何をか述べん、と。又曰く、天何をか言うや、四時行き、百物生る、と。則ち至って明白なりと謂う可きなり、と。愚按ずるに、此れ前篇隱すこと無しの意と相發す。學者之を詳らかにせよ。
陽貨20
○孺悲欲見孔子。孔子辭以疾。將命者出戶、取瑟而歌、使之聞之。孺悲、魯人。嘗學士喪禮於孔子。當是時、必有以得罪者。故辭以疾、而又使知其非疾、以警敎之也。程子曰、此孟子所謂不屑之敎誨、所以深敎之也。
【読み】
○孺悲孔子に見[あ]わまく欲す。孔子辭するに疾を以てす。命を將[おこな]う者戶を出るときに、瑟を取って歌って、之をして之を聞かしむ。孺悲は魯人。嘗て士の喪禮を孔子に學ぶ。是の時に當り、必ず以て罪を得る者有らん。故に辭するに疾を以てして、又其の疾に非ざるを知らしめ、以て之を警め敎うるなり。程子曰く、此れ孟子謂う所の屑[いさぎよ]しとして敎誨せずというものにて、深く之を敎うる所以なり、と。
陽貨21
○宰我問、三年之喪、期已久矣。期、音基。下同。○期、周年也。
【読み】
○宰我問わく、三年の喪は、期も已に久し。期は音基。下も同じ。○期は周年なり。
君子三年不爲禮、禮必壞。三年不爲樂、樂必崩。恐居喪不習而崩壞也。
【読み】
君子三年禮をせざれば、禮必ず壞[やぶ]れなん。三年樂をせざれば、樂必ず崩れなん。喪に居りて習わずして崩れ壞るるを恐るるなり。
舊穀旣沒、新穀旣升、鑽燧改火。期可已矣。鑽、祖官反。沒、盡也。升、登也。燧、取火之木也。改火、春取楡柳之火、夏取棗杏之火、夏季取桑柘之火、秋取柞楢之火、冬取槐檀之火。亦一年而周也。已、止也。言期年則天運一周、時物皆變。喪至此可止也。尹氏曰、短喪之說、下愚且恥言之。宰我親學聖人之門、而以是爲問者、有所疑於心、而不敢強焉爾。
【読み】
舊穀旣に沒[つ]きて、新穀旣に升[な]り、燧[すい]を鑽[き]って火を改む。期にして已んぬ可し。鑽は祖官の反。沒くは盡きるなり。升るは、登るなり。燧は、火を取るの木なり。火を改むは、春に楡柳の火を取り、夏に棗杏の火を取り、夏季に桑柘の火を取り、秋に柞楢の火を取り、冬に槐檀の火を取る。亦一年にして周るなり。已むは止むなり。言うこころは、期年なれば則ち天運一周し、時物皆變ず。喪此に至りて止む可きなり、と。尹氏曰く、喪を短かくせんとするの說、下愚すら且つ之を言うを恥ず。宰我親しく聖人の門に學びて、是を以て問いとするは、心に疑う所有りて、敢えて強[つと]めざるのみ、と。
子曰、食夫稻、衣夫錦、於女安乎。曰、安。夫、音扶。下同。衣、去聲。女、音汝。下同。○禮、父母之喪、旣殯、食粥麤衰。旣葬、疏食水飮、受以成布。期而小祥、始食菜果、練冠縓緣、要絰不除、無食稻衣錦之理。夫子欲宰我反求諸心、自得其所以不忍者。故問之以此。而宰我不察也。
【読み】
子曰く、夫の稻を食らい、夫の錦を衣ること、女に於て安きか。曰く、安し。夫は音扶。下も同じ。衣は去聲。女は音汝。下も同じ。○禮に、父母の喪には、旣に殯すれば、粥を食し麤衰す。旣に葬むれば、疏食水飮し、受くるに成布を以てす。期にして小祥し、始めて菜果を食し、練冠縓緣[せんえん]し、要絰[ようてつ]は除[ぬ]がず、と。稻を食らい錦を衣るの理無し。夫子宰我をして諸を心に反り求めて、自ら其の忍びざる所以の者を得んことを欲す。故に之を問うに此を以てす。而して宰我察せざるなり。
女安則爲之。夫君子之居喪、食旨不甘。聞樂不樂。居處不安。故不爲也。今女安則爲之。樂、上如字。下、音洛。○此夫子之言也。旨、亦甘也。初言女安則爲之、絶之之辭。又發其不忍之端、以警其不察。而再言女安則爲之、以深責之。
【読み】
女安くば則ち之をせよ。夫れ君子の喪に居ること、旨きを食らえども甘んぜず。樂を聞けども樂しまず。居處安からず。故にせざるなり。今女安くば則ち之をせよ。樂は、上は字の如し。下は音洛。○此れ夫子の言なり。旨も亦甘しなり。初め女安くば則ち之をせよと言うは、之を絶つの辭。又其忍びざるの端を發し、以て其の察せざるを警む。而して再び女安くば則ち之をせよと言うは、以て深く之を責めてなり。
宰我出。子曰、予之不仁也、子生三年、然後免於父母之懷。夫三年之喪、天下之通喪也。予也有三年之愛於其父母乎。宰我旣出。夫子懼其眞以爲可安而遂行之。故深探其本而斥之。言由其不仁。故愛親之薄如此也。懷、抱也。又言君子所以不忍於親、而喪必三年之故、使之聞之、或能反求、而終得其本心也。○范氏曰、喪雖止於三年、然賢者之情則無窮也。特以聖人爲之中制、而不敢過、故必俯而就之。非以三年之喪爲足以報其親也。所謂三年然後免於父母之懷、特以責宰我之無恩、欲其有以跂而及之爾。
【読み】
宰我出でぬ。子曰く、予が不仁なる、子生まれて三年、然して後に父母の懷を免る。夫れ三年の喪は、天下の通喪なり。予も三年の愛其の父母に有らんか。宰我旣に出でぬ。夫子其の眞に以て安んず可きとして遂に之を行わんことを懼る。故に深く其の本を探りて之を斥[しりぞ]く。言うこころは、其の不仁に由る。故に親を愛するの薄きこと此の如し、と。懷は抱なり。又君子親に忍びずして、喪必ず三年なる所以の故を言い、之に之を聞かせしめ、或は能く反り求めて、終に其の本心を得ることあらんかとなり。○范氏曰く、喪は三年に止まると雖も、然れども賢者の情は則ち窮まること無し。特[ただ]聖人之が中制を爲[つく]りて、敢えて過ぎずとするを以て、故に必ず俯して之に就く。三年の喪を以て以て其の親に報うに足るとするに非ざるなり。謂う所の三年然して後に父母の懷を免るは、特以て宰我の恩を無みするを責め、其の以て跂[つまだ]ちて之に及ぶこと有らんことを欲するのみ、と。
陽貨22
○子曰、飽食終日、無所用心、難矣哉。不有博弈者乎。爲之猶賢乎已。博、局戲也。弈、圍棊也。已、止也。季氏曰、聖人非敎人博弈也。所以甚言無所用心之不可爾。
【読み】
○子曰く、食を飽くまでにし日を終えて、心を用うる所無きは、難いかな。博弈という者有らずや。之をするは猶已むに賢れり。博は局戲なり。弈は圍棊なり。已むは止むなり。季氏曰く、聖人人に博弈を敎うるに非ず。以て心を用うる所無きことの不可なるを甚だしく言う所のみ、と。
陽貨23
○子路曰、君子尙勇乎。子曰、君子義以爲上。君子有勇而無義爲亂。小人有勇而無義爲盜。尙、上之也。君子爲亂、小人爲盜、皆以位而言者也。尹氏曰、義以爲尙、則其勇也大矣。子路好勇。故夫子以此救其失也。胡氏曰、疑此子路初見孔子時問答也。
【読み】
○子路曰く、君子勇を尙ぶや。子曰く、君子は義以て上とす。君子勇有れども義無ければ亂を爲す。小人勇有れども義無ければ盜を爲す。尙は、之を上とするなり。君子亂を爲し、小人盜を爲すは、皆位を以て言う者なり。尹氏曰く、義以て尙ぶとするときは、則ち其の勇たること大いなり。子路勇を好む。故に夫子此を以て其の失を救えり、と。胡氏曰く、疑うらくは此れ子路初めて孔子に見[あ]う時の問答ならん、と。
陽貨24
○子貢曰、君子亦有惡乎。子曰、有惡。惡稱人之惡者。惡居下流而訕上者。惡勇而無禮者。惡果敢而窒者。惡、去聲。下同。唯惡者之惡、如字。訕、所諫反。訕、謗毀也。窒、不通也。稱人惡、則無仁厚之意。下訕上、則無忠敬之心。勇無禮、則爲亂。果而窒、則妄作。故夫子惡之。
【読み】
○子貢曰く、君子も亦惡むこと有りや。子曰く、惡むこと有り。人の惡を稱する者を惡む。下流に居て上を訕[そし]る者を惡む。勇にして禮無き者を惡む。果敢にして窒がる者を惡む。惡は去聲。下も同じ。唯惡者の惡は字の如し。訕は所諫の反。訕は謗毀なり。窒は通ぜざるなり。人の惡を稱するは、則ち仁厚の意無し。下の上を訕るは、則ち忠敬の心無し。勇にして禮無くば、則ち亂を爲す。果にして窒がれば、則ち妄作す。故に夫子之を惡む。
曰、賜也亦有惡乎。惡徼以爲知者。惡不孫以爲勇者。惡訐以爲直者。徼、古堯反。知・孫、竝去聲。訐、居謁反。○悪徼以下、子貢之言也。徼、伺察也。訐、謂攻發人之陰私。○楊氏曰、仁者無不愛、則君子疑若無惡矣。子貢之有是心也。故問焉以質其是非。侯氏曰、聖賢之所惡如此。所謂唯仁者能惡人也。
【読み】
曰く、賜も亦惡むこと有りや。徼[うかが]って以て知とする者を惡む。不孫にして以て勇とする者を惡む。訐[あば]いて以て直とする者を惡む。徼は古堯の反。知・孫は竝去聲。訐は居謁の反。○悪徼以下は、子貢の言なり。徼は、伺い察するなり。訐は、人の陰れたる私を攻め發[あら]わすことを謂う。○楊氏曰く、仁者愛さざること無ければ、則ち君子疑うらくは惡むこと無きが若し。子貢是の心有り。故に焉を問いて以て其の是非を質せり、と。侯氏曰く、聖賢の惡む所此の如し。所謂唯仁者のみ能く人を惡むなり、と。
陽貨25
○子曰、唯女子與小人、爲難養也。近之則不孫。遠之則怨。近・孫・遠、竝去聲。○此小人、亦謂僕隸下人也。君子之於臣妾、莊以涖之、慈以畜之、則無二者之患矣。
【読み】
○子曰く、唯女子と小人とを、養い難しとす。之に近づくときは則ち不孫なり。之に遠ざかるときは則ち怨む。近・孫・遠は竝去聲。○此の小人は、亦僕隸下人を謂うなり。君子の臣妾に於る、莊以て之に涖[のぞ]み、慈以て之を畜うときは、則ち二つ者の患い無し。
陽貨26
○子曰、年四十而見惡焉、其終也已。惡、去聲。○四十、成德之時。見惡於人、則止於此而已。勉人及時遷善改過也。蘇氏曰、此亦有爲而言。不知其爲誰也。
【読み】
○子曰く、年四十にして惡まるれば、其れ終わんぬらくのみ。惡は去聲。○四十は成德の時。人に惡まるれば、則ち此に止むのみ。人の時に及んで善に遷り過を改むるを勉めしむるなり。蘇氏曰く、此れ亦爲にすること有りて言う。其の誰が爲にするを知らず、と。
微子第十八 此篇多記聖賢之出處。凡十一章。
【読み】
微子第十八 此の篇多聖賢の出處を記す。凡て十一章。
微子1
○微子去之。箕子爲之奴。比干諫而死。微・箕、二國名。子、爵也。微子、紂庶兄。箕子・比干、紂諸父。微子見紂無道、去之以存宗祀。箕子・比干皆諫。紂殺比干、囚箕子以爲奴。箕子因佯狂而受辱。
【読み】
○微子は去んぬ。箕子は奴と爲んぬ。比干は諫めて死んぬ。微・箕は二國の名。子は爵なり。微子は紂の庶兄。箕子・比干は紂の諸父。微子紂の無道するを見て、去りて以て宗祀を存す。箕子・比干皆諫む。紂比干を殺し、箕子を囚えて以て奴とす。箕子因りて佯[いつわ]り狂して辱めを受けり。
孔子曰、殷有三仁焉。三人之行不同、而同出於至誠惻怛之意。故不咈乎愛之理、而有以全其心之德也。楊氏曰、此三人者、各得其本心。故同謂之仁。
【読み】
孔子曰く、殷に三仁有り。三人の行同じからずして、同じく至誠惻怛の意より出づ。故に愛の理に咈[もと]らずして、有以て其の心の德を全すること有り。楊氏曰く、此の三人の者、各々其の本心を得たり。故に同じく之を仁と謂う、と。
微子2
○柳下惠爲士師、三黜。人曰、子未可以去乎。曰、直道而事人、焉往而不三黜。枉道而事人、何必去父母之邦。三、去聲。焉、於虔反。○士師、獄官。黜、退也。柳下惠三黜不去、而其辭氣雍容如此。可謂和矣。然其不能枉道之意、則有確乎其不可拔者。是則所謂必以其道而不自失焉者也。○胡氏曰、此必有孔子斷之之言、而亡之矣。
【読み】
○柳下惠士師と爲って、三たび黜[しりぞ]けらる。人曰く、子未だ以て去る可からざるや。曰く、道を直うして人に事えば、焉[いずく]に往くとしてか三たび黜けられざらん。道を枉げて人に事えば、何ぞ必ずしも父母の邦を去らん。三は去聲。焉は於虔の反。○士師は獄官。黜くは退くなり。柳下惠三たび黜けられて去らずして、其の辭氣雍容たること此の如し。和と謂う可し。然れども其の道を枉ぐること能わざるの意は、則ち確乎として其の拔く可からざる者有り。是れ則ち所謂必ず其の道を以てして自ら失わずという者なり。○胡氏曰く、此れ必ず孔子之を斷るの言有りて、之を亡えるならん、と。
微子3
○齊景公待孔子曰、若季氏、則吾不能。以季・孟之閒待之。曰、吾老矣。不能用也。孔子行。魯三卿、季氏最貴、孟氏爲下卿。孔子去之、事見世家。然此言必非面語孔子。蓋自以告其臣、而孔子聞之爾。○程子曰、季氏強臣、君待之之禮極隆。然非所以待孔子也。以季・孟之閒待之、則禮亦至矣。然復曰、吾老矣。不能用也。故孔子去之。蓋不繋待之輕重、特以不用而去爾。
【読み】
○齊の景公孔子に待するに曰く、季氏が若きんは、則し吾能わじ。季・孟が閒を以て之を待せん。曰く、吾老いたり。用うること能わじ。孔子行[さ]んぬ。魯の三卿は、季氏最も貴く、孟氏下卿とす。孔子之を去る、事は世家に見えり。然れども此の言必ずや面して孔子に語ぐるに非ず。蓋し自ら以て其の臣に告げて、孔子之を聞くのみ。○程子曰く、季氏は強臣にて、君之を待するの禮極めて隆[たっと]し。然れども以て孔子を待する所に非ざるなり。季・孟の閒を以て之を待すは、則ち禮の亦至りなり。然れども復曰く、吾老いたり。用うること能わじ、と。故に孔子之を去る。蓋し待の輕重に繋らず、特[ただ]用いざるを以て去るのみ、と。
微子4
○齊人歸女樂。季桓子受之。三日不朝。孔子行。歸、如字。或作饋。朝、音潮。○季桓子、魯大夫、名斯。按史記、定公十四年、孔子爲魯司寇、攝行相事。齊人懼、歸女樂以沮之。尹氏曰、受女樂而怠於政事如此。其簡賢棄禮、不足與有爲可知矣。夫子所以行也。所謂見幾而作、不俟終日者與。○范氏曰、此篇記仁賢之出處、而折衷以聖人之行。所以明中庸之道也。
【読み】
○齊人女樂を歸[おく]る。季桓子之を受く。三日朝せず。孔子行[さ]んぬ。歸は字の如し。或は饋に作る。朝は音潮。○季桓子は魯の大夫、名は斯。史記を按ずるに、定公の十四年、孔子魯の司寇と爲りて、相事を攝行す。齊人懼れ、女樂を歸り以て之を沮む。尹氏曰く、女樂を受けて政事を怠ること此の如し。其の賢を簡[あなど]り禮を棄つる、與にすること有るに足らざることを知る可し。夫子行る所以なり。所謂幾を見て作[た]ち、日の終うるを俟たずという者か、と。○范氏曰く、此の篇仁賢の出處を記して、聖人の行ることを以て折衷す。中庸の道を明かさんとする所以なり、と。
微子5
○楚狂接輿、歌而過孔子。曰、鳳兮鳳兮、何德之衰。往者不可諫、來者猶可追。已而已而。今之從政者殆而。接輿、楚人。佯狂辟世。夫子時將適楚。故接輿歌而過其車前也。鳳有道則見、無道則隱。接輿以比孔子、而譏其不能隱、爲德衰也。來者可追、言及今尙可隱去。已、止也。而、語助辭。殆、危也。接輿蓋知尊孔子、而趣不同者也。
【読み】
○楚の狂接輿、歌って孔子を過[よぎ]る。曰く、鳳鳳、何ぞ德の衰えたる。往く者は諫む可からず、來る者は猶追う可し。已んなん已んなん。今の政に從う者殆[あやう]し。接輿は楚の人。佯[いつわ]り狂して世を辟く。夫子時に將に楚に適かんとす。故に接輿歌って其の車前を過るなり。鳳道有れば則ち見われ、道無くば則ち隱る。接輿以て孔子を比して、其の隱るること能わざるを譏り、德衰えたりとす。來る者は追う可しは、言うこころは、今に及んでも尙隱れ去る可し、と。已むは止むなり。而は語助の辭。殆は危なり。接輿蓋し孔子を尊ぶことを知りて、趣同じからざる者なり。
孔子下、欲與之言。趨而辟之。不得與之言。辟、去聲。○孔子下車、蓋欲告之以出處之意。接輿自以爲是。故不欲聞而辟之也。
【読み】
孔子下[お]りて、之と言わまく欲す。趨って之を辟く。之と言うことを得ず。辟は去聲。○孔子車を下りるは、蓋し之に出處の意を以て告げんと欲す。接輿自ら以て是とす。故に聞かんと欲せずして之を辟くなり。
微子6
○長沮・桀溺耦而耕。孔子過之。使子路問津焉。沮、七余反。溺、乃歴反。○二人、隱者。耦、竝耕也。時孔子自楚反乎蔡。津、濟渡處。
【読み】
○長沮・桀溺耦[ぐう]して耕す。孔子之を過[よぎ]る。子路をして津を問わしむ。沮は七余の反。溺は乃歴の反。○二人は隱者なり。耦は竝びて耕すなり。時に孔子楚より蔡に反る。津は濟渡の處。
長沮曰、夫執輿者爲誰。子路曰、爲孔丘。曰、是魯孔丘與。曰、是也。曰、是知津矣。夫、音扶。與、平聲。○執輿、執轡在車也。蓋本子路御而執轡。今下問津。故夫子代之也。知津、言數周流、自知津處。
【読み】
長沮曰く、夫の輿を執る者誰とかする。子路曰く、孔丘とす。曰く、是れ魯の孔丘か。曰く、是なり。曰く、是れ津を知らん。夫は音扶。與は平聲。○輿を執るは、轡を執りて車に在るなり。蓋し本子路御して轡を執る。今下りて津を問う。故に夫子之に代わるなり。津を知らんは、言うこころは、數々周流すれば、自ら津處を知らん、と。
問於桀溺。桀溺曰、子爲誰。曰、爲仲由。曰、是魯孔丘之徒與。對曰、然。曰、滔滔者、天下皆是也。而誰以易之。且而與其從辟人之士也、豈若從辟世之士哉。耰而不輟。徒與之與、平聲。滔、土刀反。辟、去聲。耰、音憂。○滔滔、流而不反之意。以、猶與也。言天下皆亂。將誰與變易之。而、汝也。辟人、謂孔子。辟世、桀溺自謂。耰、覆種也。亦不告以津處。
【読み】
桀溺に問う。桀溺が曰く、子は誰とかする。曰く、仲由とす。曰く、是れ魯の孔丘が徒か。對えて曰く、然り。曰く、滔滔たる者、天下に皆是れなり。而るを誰と以[とも]にか之を易えん。且而[なんじ]其の人を辟くるの士に從わんよりは、豈世を辟くるるの士に從うに若かんや。耰[たねか]して輟[や]まず。徒與の與は平聲。滔は土刀の反。辟は去聲。耰は音憂。○滔滔は、流れて反らざるの意。以は猶與のごとし。言うこころは、天下皆亂る。將に誰と與に之を變易せん、と。而は汝なり。人を辟くは、孔子を謂う。世を辟くは、桀溺自らを謂う。耰は種を覆うなり。亦津處を以て告げず。
子路行以告。夫子憮然曰、鳥獸不可與同羣。吾非斯人之徒與而誰與。天下有道、丘不與易也。憮、音武。與、如字。○憮然、猶悵然。惜其不喩己意也。言所當與同羣者、斯人而已。豈可絶人逃世以爲潔哉。天下若已平治、則我無用變易之。正爲天下無道、故欲以道易之耳。○程子曰、聖人不敢有忘天下之心。故其言如此也。張子曰、聖人之仁、不以無道必天下而棄之也。
【読み】
子路行いて以て告ぐ。夫子憮然として曰く、鳥獸には與に羣を同じうす可からず。吾斯の人の徒と與にするに非ずして誰と與にかせん。天下道有らば、丘與に易えじ。憮は音武。與は字の如し。○憮然は猶悵然のごとし。其の己が意を喩らざるを惜しむなり。言うこころは、當に與に羣を同じくすべき所の者は、斯の人のみ、と。豈人を絶ち世を逃れて以て潔しと爲す可けんや。天下若し已に平治なれば、則ち我之を變易するを用うること無し。正に天下道無きと爲す、故に道を以て之を易えんと欲するのみ。○程子曰く、聖人敢えて天下を忘るるの心有らず。故に其の言此の如し、と。張子曰く、聖人の仁は、無道を以て天下を必として之を棄てざるなり、と。
微子7
○子路從而後。遇丈人以杖荷蓧。子路問曰、子見夫子乎。丈人曰、四體不勤、五穀不分。孰爲夫子。植其杖而芸。蓧、徒弔反。植、音値。○丈人亦隱者。蓧、竹器。分、辨也。五穀不分、猶言不辨菽麥爾。責其不事農業、而從師遠遊也。植、立之也。芸、去草也。
【読み】
○子路從って後れたり。丈人杖を以て蓧[あじか]を荷うに遇う。子路問うて曰く、子夫子を見ずるや。丈人曰く、四體勤めず、五穀分かず。孰を夫子とすというて、其の杖を植[た]てて芸「くさぎ」る。蓧は徒弔の反。植は音値。○丈人も亦隱者なり。蓧は竹器。分は辨なり。五穀分かずは、猶菽麥を辨けざるを言うのみ。其の農業に事えずして、師に從って遠遊するを責む。植は、之を立つるなり。芸は草を去るなり。
子路拱而立。知其隱者、敬之也。
【読み】
子路拱いて立てり。其の隱者なるを知り、之を敬すなり。
止子路宿。殺雞爲黍而食之、見其二子焉。食、音嗣。見、賢遍反。
【読み】
子路を止めて宿らしむ。雞を殺し黍を爲[つく]って之に食し、其の二子に見[まみ]えしむ。食は音嗣。見は賢遍の反。
明日子路行以告。子曰、隱者也。使子路反見之。至則行矣。孔子使子路反見之。蓋欲告之以君臣之義。而丈人意子路必將復來。故先去之以滅其跡。亦接輿之意也。
【読み】
明日子路行いて以て告ぐ。子曰く、隱者なり。子路をして反って之を見[あ]わしむ。至るときは則ち行[さ]んぬ。孔子子路をして反り之に見わしむ。蓋し之に告ぐるに君臣の義以てせんと欲す。而して丈人子路の必ず將に復來らんことを意う。故に先に之を去りて以て其の跡を滅す。亦接輿の意なり。
子路曰、不仕無義。長幼之節、不可廢也。君臣之義、如之何其廢之。欲潔其身、而亂大倫。君子之仕也、行其義也。道之不行、已知之矣。長、上聲。○子路述夫子之意如此。蓋丈人之接子路甚倨。而子路益恭。丈人因見其二子焉、則於長幼之節、固知其不可廢矣。故因其所明以曉之。倫、序也。人之大倫有五。父子有親、君臣有義、夫婦有別、長幼有序、朋友有信、是也。仕所以行君臣之義。故雖知道之不行、而不可廢。然謂之義、則事之可否、身之去就、亦自有不可苟者。是以雖不潔身以亂倫、亦非忘義以徇祿也。福州有國初時寫本。路下有反子二字。以此爲子路反、而夫子言之也。未知是否。○范氏曰、隠者爲高。故往而不返。仕者爲通。故溺而不止。不與鳥獸同羣、則決性命之情、以饕富貴。此二者皆惑也。是以依乎中庸者爲難。惟聖人不廢君臣之義、而必以其正。所以或出或處、而終不離於道也。
【読み】
子路曰く、仕えざれば義無し。長幼の節、廢つ可からず。君臣の義、如之何ぞ其れ之を廢てん。其の身を潔くせまく欲して、大倫を亂る。君子の仕うることは、其の義を行わんとなり。道の行われざることは、已に之を知れり。長は上聲。○子路夫子の意を述ぶること此の如し。蓋し丈人の子路に接すること甚だ倨れり。而して子路は益々恭し。丈人因りて其の二子を見えしむれば、則ち長幼の節に於て、固より其の廢つ可からざるは知れり。故に其の明らかなる所に因りて以て之を曉せり。倫は序なり。人の大倫五つ有り。父子親有り、君臣義有り、夫婦別有り、長幼序有り、朋友信り、是れなり。仕うるは君臣の義を行う所以。故に道の行なわれざるを知ると雖も、而して廢つ可からず。然れども之を義と謂うときは、則ち事の可否、身の去就も、亦自ら苟もす可からざる者有り。是を以て身を潔くして以て倫を亂らずと雖も、亦義を忘れて以て祿に徇うに非ざるなり。福州に國初の時の寫本有り。路の下に反子の二字有り。此を以て子路反りて夫子之を言うとするなり。未だ是否を知らず。○范氏曰く、隠者は高からんとす。故に往いて返らず。仕える者は通せんとす。故に溺れて止まらず。鳥獸と羣を同じうせざれば、則ち性命の情を決[こえ]て、以て富貴を饕[むさぼ]る。此の二つの者は皆惑いなり。是れ以て中庸に依るは難きとす。惟聖人のみ君臣の義を廢てずして、必ず其の正しきを以てす。或は出或は處って、終に道に離れざる所以なり、と。
微子8
○逸民、伯夷・叔齊・虞仲・夷逸・朱張・柳下惠・少連。少、去聲。下同。○逸、遺逸。民者、無位之稱。虞仲、卽仲雍。與泰伯同竄荊蠻者。夷逸・朱張、不見經傳。少連、東夷人。
【読み】
○逸民は、伯夷・叔齊・虞仲・夷逸・朱張・柳下惠・少連。少は去聲。下も同じ。○逸は遺逸。民は、位無きの稱。虞仲は卽ち仲雍。泰伯と同じく荊蠻に竄[かく]るる者なり。夷逸・朱張は經傳に見えず。少連は東夷の人なり。
子曰、不降其志、不辱其身、伯夷・叔齊與。與、平聲。
【読み】
子曰く、其の志を降さず、其の身を辱めざるは、伯夷・叔齊か。與は平聲。
謂柳下惠・少連、降志辱身矣。言中倫、行中慮。其斯而已矣。中、去聲。下同。○柳下惠事見上。倫、義理之次第也。慮、思慮也。中慮、言有意義合人心。少連事不可考。然記稱其善居喪、三日不怠、三月不解、朞悲哀、三年憂、則行之中慮、亦可見矣。
【読み】
柳下惠・少連を謂く、志を降し身を辱む。言倫[ついで]に中り、行慮りに中る。其れ斯れのみ。中は去聲。下も同じ。○柳下惠の事上に見ゆ。倫は義理の次第なり。慮は思慮なり。慮りに中るは、意義の人の心に合うこと有るを言う。少連の事考う可からず。然れども記に其の善喪に居り、三日怠らず、三月解[おこた]らず、朞に悲哀し、三年憂うと稱せば、則ち行の慮りに中ること、亦見る可し。
謂虞仲・夷逸、隱居放言。身中淸、廢中權。仲雍居吳、斷髪文身、裸以爲飾。隱居獨善、合乎道之淸、放言自廢、合乎道之權。
【読み】
虞仲・夷逸を謂く、隱居して言を放[ほしいまま]にす。身淸[いさぎよ]きに中り、廢たること權に中る。仲雍吳に居り、髪を斷ち身を文し、裸を以て飾と爲す。隱居して獨り善くして、道の淸に合い、言を放にして自ら廢たること、道の權に合う。
我則異於是、無可無不可。孟子曰、孔子可以仕則仕、可以止則止、可以久則久、可以速則速。所謂無可無不可也。○謝氏曰、七人隱遯、不汙則同。其立心造行則異。伯夷・叔齊、天子不得臣、諸侯不得友。蓋已遯世離羣矣。下聖人一等。此其最高與。柳下惠・少連、雖降志而不枉己、雖辱身而不求合。其心有不屑也。故言能中倫、行能中慮。虞仲・夷逸、隱居放言、則言不合先王之法者多矣。然淸而不汙也、權而適宜也。與方外之士、害義傷敎、而亂大倫者殊科。是以均謂之逸民。尹氏曰、七人各守其一節。而孔子則無可無不可。此所以常適其可、而異於逸民之徒也。揚雄曰、觀乎聖人、則見賢人。是以孟子語夷・惠、亦必以孔子斷之。
【読み】
我則ち是に異なり、可も無く不可も無し。孟子曰く、孔子は以て仕う可きときは則ち仕え、以て止む可きときは則ち止み、以て久しかる可きときは則ち久しく、以て速やかなる可きときは則ち速やかなり、と。所謂可も無く不可も無きなり。○謝氏曰く、七人隱遯して、汙れざることは則ち同じ。其の立心造行は則ち異なり。伯夷・叔齊は、天子も臣とすることを得ず、諸侯も友とすることを得ず。蓋し已に世を遯れ羣を離る。聖人を下ること一等なり。此れ其の最も高きか。柳下惠・少連は、志を降すと雖も己を枉げず、身を辱むと雖も合わんことを求めず。其の心屑しとせざる有り。故に言は能く倫に中り、行は能く慮りに中る。虞仲・夷逸は、隱居して放言すれば、則ち言は不先王の法に合わざる者多からん。然れども淸くして汙れず、權りて宜しきに適えり。方外の士の、義を害[そこな]い敎を傷りて、大倫を亂る者と科[しな]を殊にす。是を以て均しく之を逸民と謂う、と。尹氏曰く、七人は各々其の一節を守る。而して孔子は則ち可も無く不可も無し。此れ常に其の可に適いて、逸民の徒に異なる所以なり。揚雄曰く、聖人を觀て、則ち賢人を見る、と。是れ以て孟子夷・惠を語るに、亦必ず孔子を以て之を斷ず、と。
微子9
○大師摯適齊。大、音泰。○大師、魯樂官之長。摯、其名也。
【読み】
○大師摯[し]は齊に適く。大は音泰。○大師は、魯の樂官の長。摯は其の名なり。
亞飯干適楚。三飯繚適蔡。四飯缺適秦。飯、扶晩反。繚、音了。○亞飯以下、以樂侑食之官。干・繚・缺、皆名也。
【読み】
亞飯干は楚に適く。三飯繚は蔡に適く。四飯缺[けつ]は秦に適く。飯は扶晩の反。繚は音了。○亞飯以下は、樂を以て食を侑[すす]むるの官。干・繚・缺は皆名なり。
鼓方叔入於河。鼓、擊鼓者。方叔、名。河、河内。
【読み】
鼓方叔は河入る。鼓は鼓擊つ者。方叔は名。河は河内。
播鼗武入於漢。鼗、徒刀反。○播、搖也。鼗、小鼓。兩旁有耳。持其柄而搖之、則旁耳還自擊。武、名也。漢、漢中。
【読み】
播鼗武[はとうぶ]は漢に入る。鼗は徒刀の反。○播は搖なり。鼗は小鼓。兩旁に耳有り。其の柄を持ち之を搖れば、則ち旁耳還りて自ら擊つ。武は名なり。漢は漢中。
少師陽・撃磬襄入於海。少、去聲。○少師、樂官之佐。陽・襄、二人名。襄卽孔子所從學琴者。海、海島也。○此記賢人之隱遁、以附前章。然未必夫子之言也。末章放此。張子曰、周衰樂廢。夫子自衛反魯、一嘗治之。其後伶人賤工、識樂之正。及魯益衰、三桓僭妄、自大師以下、皆知散之四方、逾河蹈海、以去亂。聖人俄頃之助、功化如此。如有用我、期月而可、豈虛語哉。
【読み】
少師陽・撃磬襄海に入る。少は去聲。○少師は樂官の佐。陽・襄は二人の名。襄は卽ち孔子の從いて琴を學ぶ所の者。海は海島なり。○此れ賢人の隱遁を記し、以て前章に附く。然れども未だ必ずしも夫子の言にあらず。末章も此に放え。張子曰く、周の衰えて樂廢たる。夫子衛より魯に反って、一たび嘗て之を治む。其の後伶人賤工も、樂の正しきことを識る。魯の益々衰うるに及んで、三桓僭妄し、大師より以下、皆散じて四方に之き、河を逾え海を蹈[わた]り、以て亂を去るを知る。聖人俄頃の助け、功化此の如し。如し我を用うる者あらば、期月にして可ならんとは、豈虛語ならんや。
微子10
○周公謂魯公曰、君子不施其親。不使大臣怨乎不以。故舊無大故、則不棄也。無求備於一人。施、陸氏本、作弛。福本同。○魯公、周公子伯禽也。弛、遺棄也。以、用也。大臣非其人則去之。在其位、則不可不用。大故、謂惡逆。李氏曰、四者皆君子之事、忠厚之至也。○胡氏曰、此伯禽受封之國、周公訓戒之辭。魯人傳誦久而不忘也。其或夫子嘗與門弟子言之歟。
【読み】
○周公魯公に謂って曰く、君子其の親を施[す]てず。大臣をして以[もち]いられざることを怨ましめず。故舊大故無きときは、則棄てず。一人に備わらんことを求むこと無し。施は、陸氏本は弛に作る。福本も同じ。○魯公は周の公子伯禽なり。弛は遺棄なり。以うは用うなり。大臣其の人に非ずば則ち之を去[す]つ。其の位に在れば、則ち用いざる可からず。大故は惡逆を謂う。李氏曰く、四つの者は皆君子の事、忠厚の至りなり、と。○胡氏曰く、此れ伯禽の封を受け國に之くときに、周公の訓戒するの辭。魯人傳え誦えて久しく忘れざるなり。其れ或は夫子嘗て門弟子と之を言えるか、と。
微子11
○周有八士。伯達・伯适・仲突・仲忽・叔夜・叔夏・季隨・季騧。騧、烏瓜反。○或曰、成王時人。或曰、宣王時人。蓋一母四乳而生八子也。然不可考矣。○張子曰、記善人之多也。○愚按、此篇孔子於三仁・逸民・師摯・八士、旣皆稱贊而品列之。於接輿・沮溺・丈人、又每有惓惓接引之意。皆衰世之志也。其所感者深矣。在陳之歎、蓋亦如此。三仁則無閒然矣。其餘數君子者、亦皆一世之高士。若使得聞聖人之道、以裁其所過、而勉其所不及、則其所立、豈止於此而已哉。
【読み】
○周に八士有り。伯達・伯适[はくかつ]・仲突・仲忽・叔夜・叔夏・季隨・季騧[りか]。騧は烏瓜の反。○或ひと曰く、成王の時の人、と。或ひと曰く、宣王の時の人、と。蓋し一母四乳にして八子を生む。然れども考う可からず。○張子曰く、善人の多きを記すなり、と。○愚按ずるに、此の篇孔子の三仁・逸民・師摯・八士に於ては、旣に皆稱贊して之を品列す。接輿・沮溺・丈人に於ては、又每に惓惓として接引するの意有り。皆衰世の志なり。其の感ずる所の者深し。陳に在すの歎きも、蓋し亦此の如し。三仁は則ち閒然すること無し。其の餘の數君子も、亦皆一世の高士なり。若し聖人の道を聞くことを得て、以て其の過ぎたる所を裁ち、其の及ばざる所を勉めしめば、則ち其の立つ所、豈此に止むるのみならんや。
論語卷之十
子張第十九 此篇皆記弟子之言。而子夏爲多、子貢次之。蓋孔門自顏子以下、穎悟莫若子貢、自曾子以下、篤實無若子夏。故特記之詳焉。凡二十五章。
【読み】
子張第十九 此の篇皆弟子の言を記す。而して子夏多しとし、子貢之に次ぐ。蓋し孔門顏子より以下、穎悟なること子貢に若くは莫く、曾子より以下、篤實なること子夏に若くは無し。故に特に之を記すこと詳らかなり。凡て二十五章。
子張1
○子張曰、士見危致命、見得思義、祭思敬、喪思哀。其可已矣。致命、謂委致其命。猶言授命也。四者立身之大節。一有不至、則餘無足觀。故言士能如此、則庶乎其可矣。
【読み】
○子張曰く、士危きを見て命を致して、得るを見て義を思い、祭に敬を思い、喪に哀を思う。其れ可ならなくのみ。命を致すは、其の命を委ね致すを謂う。猶命を授くと言うがごとし。四つの者は身を立つるの大節なり。一つも至らざること有れば、則ち餘は觀るに足ること無し。故に言うこころは、士能く此の如くなるときは、則ち其れ可なるに庶からん、と。
子張2
○子張曰、執德不弘、信道不篤、焉能爲有、焉能爲亡。焉、於虔反。亡、讀作無。下同。○有所得而守之太狹、則德孤。有所聞而信之不篤、則道廢。焉能爲有亡、猶言不足爲輕重。
【読み】
○子張曰く、德を執[まも]ること弘からず、道を信ずること篤からざれば、焉んぞ能く有ることを爲し、焉んぞ能く亡きことを爲せん。焉は於虔の反。亡は讀んで無と作す。下も同じ。○得る所有りて之を守ること太だ狹きときは、則ち德孤なり。聞く所有りて之を信ずること篤からざるときは、則ち道廢る。焉んぞ能く有亡を爲さんは、猶輕重を爲すに足らずと言うがごとし。
子張3
○子夏之門人、問交於子張。子張曰、子夏云何。對曰、子夏曰、可者與之、其不可者拒之。子張曰、異乎吾所聞。君子尊賢而容衆、嘉善而矜不能。我之大賢與、於人何所不容。我之不賢與、人將拒我。如之何其拒人也。賢與之與、平聲。○子夏之言迫狹、子張譏之是也。但其所言亦有過高之弊。蓋大賢雖無所不容、然大故亦所當絶。不賢固不可以拒人、然損友亦所當遠。學者不可不察。
【読み】
○子夏の門人、交わりを子張に問う。子張曰く、子夏何とか云える。對えて曰く、子夏曰く、可なる者には之に與し、其の不可なる者をば之を拒ぐ。子張曰く、吾が聞ける所に異なり。君子賢を尊んで衆を容れ、善を嘉[よみ]んじて不能を矜[あわ]れむ。我が大賢ならば、人に於て何の容れざる所あらん。我が不賢ならば、人將に我を拒がんとす。如之何ぞ其れ人を拒がん。賢與の與は平聲。○子夏の言迫狹にて、子張之を譏るは是なり。但其の言う所も亦高きに過ぎたるの弊[ついえ]有り。蓋し大賢は容れざる所無しと雖も、然れども大故は亦當に絶つべき所なり。不賢は固より以て人を拒むことある可からざれども、然れども損友は亦當に遠ざかるべき所なり。學者察せざることある可からず。
子張4
○子夏曰、雖小道、必有可觀者焉。致遠恐泥。是以君子不爲也。泥、去聲。○小道、如農圃醫卜之屬。泥、不通也。○楊氏曰、百家衆技、猶耳目口鼻。皆有所明、而不能相通。非無可觀也。致遠則泥矣。故君子不爲也。
【読み】
○子夏曰く、小道と雖も、必ず觀つ可き者有り。遠きに致さば恐らくは泥まん。是を以て君子はせざるなり。泥は去聲。○小道は、農圃醫卜の屬の如し。泥は通じざるなり。○楊氏曰く、百家衆技は猶耳目口鼻のごとし、皆明なる所有れども、而して相通ずること能わず、と。觀つ可きこと無きに非ざるなり。遠きに致さば則ち泥む。故に君子せざるなり、と。
子張5
○子夏曰、日知其所亡、月無忘其所能、可謂好學也已矣。亡、讀作無。好、去聲。○亡、無也。謂己之所未有。○尹氏曰、好學者、日新而不失。
【読み】
○子夏曰く、日々に其の亡き所を知り、月々に其の能くする所を忘るること無きを、學を好むと謂いつ可からくのみ。亡は讀んで無と作す。好は去聲。○亡は無なり。己の未だ有せざる所を謂う。○尹氏曰く、學を好む者は、日に新たにして失わず、と。
子張6
○子夏曰、博學而篤志、切問而近思。仁在其中矣。四者皆學問思辨之事耳。未及乎力行而爲仁也。然從事於此、則心不外馳、而所存自熟。故曰、仁在其中矣。○程子曰、博學而篤志切問而近思、何以言仁在其中矣。學者要思得之。了此便是徹上徹下之道。又曰、學不博、則不能守約。志不篤、則不能力行。切問近思在己者、則仁在其中矣。又曰、近思者、以類而推。蘇氏曰、博學而志不篤、則大而無成。泛問遠思、則勞而無功。
【読み】
○子夏曰く、博く學んで篤く志し、切[たしか]に問うて近く思う。仁其の中に在り。四つの者は皆學問思辨の事のみ。未だ力め行いて仁をするに及ばず。然れども事此に從うときは、則ち心外に馳せずして、存する所自ら熟す。故に曰く、仁其の中に在り、と。○程子曰く、博く學んで篤く志し切に問うて近く思えば、何を以て仁其の中に在りと言うか。學者思って之を得んことを要す。了せば此れ便ち是れ徹上徹下の道なり、と。又曰く、學博からざれば、則ち約を守ること能わず。志篤からざれば、則ち力め行うこと能わず。己に在る者を切に問うて近く思わば、則ち仁其の中に在るなり、と。又曰く、近く思うは、類を以て推す、と。蘇氏曰く、博く學べども志篤からざるときは、則ち大いにして成ること無し。泛く問い遠く思うときは、則ち勞して功無し、と。
子張7
○子夏曰、百工居肆以成其事。君子學以致其道。肆、謂官府造作之處。致、極也。工不居肆、則遷於異物、而業不精。君子不學、則奪於外誘而志不篤。尹氏曰、學所以致其道也。百工居肆、必務成其事。君子之於學、可不知所務哉。愚按、二說相須、其義始備。
【読み】
○子夏曰く、百工は肆に居て以て其の事を成す。君子は學で以て其の道を致[きわ]む。肆は、官府造作の處を謂う。致むは極むなり。工肆に居らざるときは、則ち異物に遷されて、業精ならず。君子學ばざるときは、則ち外誘に奪われて志篤からず。尹氏曰く、學は其の道を致むる所以なり。百工肆に居れば、必ず務めて其の事を成す。君子の學に於るも、務むる所を知る可し。愚按ずるに、二說相須[ま]って、其の義始めて備われり。
子張8
○子夏曰、小人之過也必文。文、去聲。○文、飾之也。小人憚於改過、而不憚於自欺。故必文以重其過。
【読み】
○子夏曰く、小人の過は必ず文[かざ]る。文は去聲。○文は之を飾るなり。小人過を改むることを憚りて、自ら欺くことを憚らず。故に必ず文りて以て其の過を重ぬ。
子張9
○子夏曰、君子有三變。望之儼然。卽之也温。聽其言也厲。儼然者、貌之莊。温者、色之和。厲者、辭之確。○程子曰、他人儼然則不温。温則不厲。惟孔子全之。謝氏曰、此非有意於變。蓋竝行而不相悖也。如良玉温潤而栗然。
【読み】
○子夏曰く、君子に三變有り。之を望むときに儼然たり。之に卽くときに温[おだや]かなり。其の言を聽くときに厲[はげ]し。儼然は、貌の莊。温は、色の和。厲は、辭の確。○程子曰く、他人儼然たるときは則ち温かならず。温かなるときは則ち厲しからず。惟孔子のみ之を全うす、と。謝氏曰く、此れ變ずるに意有るに非ず。蓋し竝び行いて相悖らざるなり。良玉の温潤にして栗然たるが如し、と。
子張10
○子夏曰、君子信而後勞其民。未信則以爲厲己也。信而後諫。未信則以爲謗己也。信、謂誠意惻怛而人信之也。厲、猶病也。事上使下、皆必誠意交孚、而後可以有爲。
【読み】
○子夏曰く、君子は信ぜられて後に其の民を勞す。未だ信ぜられざるときは則ち以て己を厲ましむとす。信ぜられて後に諫む。未だ信ぜられざる時は則ち以て己を謗るとす。信ずとは、誠の意惻怛にして人之を信ずることを謂うなり。厲は猶病のごとし。上に事り下を使うは、皆必ず誠意交々[こもごも]孚[ふか]くして、後に以てすること有る可し。
子張11
○子夏曰、大德不踰閑、小德出入可也。大德・小德、猶言大節・小節。閑、闌也。所以止物之出入。言人能先立乎其大者、則小節雖或未盡合理、亦無害也。○吳氏曰、此章之言、不能無弊。學者詳之。
【読み】
○子夏曰く、大德閑[おり]を踰えざれば、小德は出入すとも可なり。大德・小德は猶大節・小節と言うがごとし。閑は闌なり。以て物の出入りを止むる所なり。言うこころは、人能く先ず其の大いなる者を立てれば、則ち小節或は未だ盡くは理に合わざると雖も、亦害無し、と。○吳氏曰く、此の章の言、弊[ついえ]無きこと能わず。學者之を詳らかにすべし。
子張12
○子游曰、子夏之門人小子、當洒掃應對進退、則可矣。抑末也。本之則無。如之何。洒、色賣反。掃、素報反。○子游譏子夏弟子。於威儀容節之閒、則可矣。然此小學之末耳。推其本、如大學正心誠意之事、則無有。
【読み】
○子游曰く、子夏の門人小子、洒掃應對進退に當っては、則ち可なり。抑々末なり。之を本づくることは則ち無し。如之何[いかんがせん]。洒は色賣の反。掃は素報の反。○子游子夏の弟子を譏る。威儀容節の閒に於ては、則ち可なり。然れども此れ小學の末なるのみ。其の本を推せば、大學正心誠意の事の如きは、則ち有ること無し、と。
子夏聞之曰、噫、言游過矣。君子之道、孰先傳焉、孰後倦焉。譬諸草木。區以別矣。君子之道、焉可誣也。有始有卒者、其惟聖人乎。別、必列反。焉、於虔反。○倦、如誨人不倦之倦。區、猶類也。言君子之道、非以其末爲先而傳之、非以其本爲後而倦敎。但學者所至、自有淺深、如草木之有大小、其類固有別矣。若不量其淺深、不問其生熟、而概以高且遠者、強而語之、則是誣之而已。君子之道、豈可如此。若夫始終本末、一以貫之、則惟聖人爲然。豈可責之門人小子乎。○程子曰、君子敎人有序。先傳以小者近者、而後敎以大者遠者。非先傳以近小、而後不敎以遠大也。又曰、洒掃應對、便是形而上者。理無大小故也。故君子只在謹獨。又曰、聖人之道、更無精粗。從洒掃應對、與精義入神、貫通只一理。雖洒掃應對、只看所以然如何。又曰、凡物有本末。不可分本末爲兩段事。洒掃應對是其然。必有所以然。又曰、自洒掃應對上、便可到聖人事。愚按、程子第一條、說此章文意、最爲詳盡。其後四條、皆以明精粗本末、其分雖殊、而理則一、學者當循序而漸進、不可厭末而求本。蓋與第一條之意、實相表裏。非謂末卽是本、但學其末而本便在此也。
【読み】
子夏之を聞いて曰く、噫、言游過てり。君子の道、孰れをか先として傳え、孰れをか後に倦まん。諸を草木に譬う。區々[まちまち]にして以て別てり。君子の道、焉んぞ誣ゆ可けん。始め有り卒わり有る者は、其れ惟聖人か。別は必列の反。焉は於虔の反。○倦は、人を誨えて倦まずの倦の如し。區は猶類のごとし。言うこころは、君子の道は、其の末を以て先として之を傳うるに非ず、其の本を以て後として敎うるを倦むに非ず。但學者の至る所に、自ら淺深有ること、草木の大小有り、其の類固より別有るが如し。若し其の淺深を量らず、其の生熟を問わずして、概して高く且遠き者を以て、強いて之に語げれば、則ち是れ之に誣うるのみ。君子の道は、豈此の如くにす可けん。夫れ始終本末、一以て之を貫くが若きは、則ち惟聖人のみ然りとす。豈之を門人小子に責む可けん、と。○程子曰く、君子人を敎うるに序有り。先ず傳うるに小さきなる者近き者を以てして、而して後に敎うるに大いなる者遠き者を以てす。先ず傳うるに近小を以てして、而して後に敎うるに遠大を以てせざるに非ざるなり、と。又曰く、洒掃應對は、便ち是れ形よりして上なる者なり。理に大小無き故なり。故に君子は只獨を謹むに在るのみ、と。又曰く、聖人の道、更に精粗無し。洒掃應對よりすると、義を精しくして神に入るとは、貫通して只一理なり。洒掃應對と雖も、只然る所以の如何を看るのみ、と。又曰く、凡そ物に本末有り。本末を分かち兩段の事とす可からず。洒掃應對是れ其れ然り。必ず然る所以有り、と。又曰く、洒掃應對の上より、便ち聖人の事に到る可し、と。愚按ずるに、程子の第一條は、此の章の文意を說くこと、最も詳らかに盡くせりと爲す。其の後の四條は、皆以て精粗本末、其の分殊なると雖も、而して理は則ち一にて、學者當に序に循いて漸く進むべく、末を厭いて本を求むる可からざることを明らかにす。蓋し第一條の意と、實に相表裏す。末は卽ち是れ本にて、但其の末を學びて本は便ち此に在りと謂うに非ざるなり。
子張13
○子夏曰、仕而優則學。學而優則仕。優、有餘力也。仕與學、理同而事異。故當其事者、必先有以盡其事、而後可及其餘。然仕而學、則所以資其仕者益深。學而仕、則所以驗其學者益廣。
【読み】
○子夏曰く、仕えて優[ゆたか]なるときは則ち學ぶ。學んで優なるときは則ち仕う。優は餘力有るなり。仕と學とは、理同じくして事異なり。故に其の事に當る者は、必ず先ず以て其の事を盡くすこと有りて、而して後に其の餘に及ぶ可し。然れども仕えて學ぶときは、則ち其の仕えを資[たす]くる所以の者益々深し。學んで仕るときは、則ち其の學を驗[こころ]むる所以の者益々廣し。
子張14
○子游曰、喪致乎哀而止。致、極其哀、不尙文飾也。楊氏曰、喪與其易也寧戚、不若禮不足而哀有餘之意。愚按、而止二字、亦微有過於高遠、而簡略細微之弊。學者詳之。
【読み】
○子游曰く、喪は哀しみを致めて止む。致は、其の哀しみを極め、文飾を尙ばず。楊氏曰く、喪は其の易[おさ]まらんよりは寧ろ戚[いた]まんと、禮足らずして哀しみ餘り有るに若かざるの意なり、と。愚按ずるに、而止の二字、亦微[すこ]しき高遠に過ぎること有りて、細微を簡略するの弊[ついえ]あり。學者之を詳らかにすべし。
子張15
○子游曰、吾友張也、爲難能也。然而未仁。子張行過高、而少誠實惻怛之意。
【読み】
○子游曰く、吾が友張、能くし難きことをす。然れども未だ仁ならず。子張の行高きに過ぎて、誠實惻怛の意少なし。
子張16
○曾子曰、堂堂乎張也、難與竝爲仁矣。堂堂、容貌之盛。言其務外自高、不可輔而爲仁、亦不能有以輔人之仁也。○范氏曰、子張外有餘、而内不足。故門人皆不與其爲仁。子曰、剛毅木訥近仁。寧外不足而内有餘。庶可以爲仁矣。
【読み】
○曾子曰く、堂堂たり張、與に竝んで仁を爲し難し。堂堂は、容貌の盛ん。言うこころは、其の外を務め自らを高ぶれば、輔けて仁をす可からず、亦以て人の仁を輔けること有ること能わざるなり、と。○范氏曰く、子張外餘り有りて、内足らず。故に門人皆其の仁をすることを與にせず。子曰く、剛毅木訥仁に近し、と。寧ろ外足らずして内餘り有らん。庶わくば以て仁をする可し、と。
子張17
○曾子曰、吾聞諸夫子。人未有自致者也。必也親喪乎。致、盡其極也。蓋人之眞情、所不能自已者。○尹氏曰、親喪固所自盡也。於此不用其誠、惡乎用其誠。
【読み】
○曾子曰く、吾諸を夫子に聞けり。人未だ自ら致[きわ]むる者有らず。必ず親の喪か。致は其の極を盡くすなり。蓋し人の眞情、自ら已むこと能わざる所の者なり。○尹氏曰く、親の喪は固[まこと]に自ら盡くす所なり。此に於て其の誠を用いざれば、惡[いずく]にか其の誠を用いん、と。
子張18
○曾子曰、吾聞諸夫子。孟莊子之孝也、其他可能也。其不改父之臣、與父之政、是難能也。孟莊子、魯大夫、名速。其父獻子、名蔑。獻子有賢德、而莊子能用其臣、守其政。故其他孝行雖有可稱、而皆不若此事之爲難。
【読み】
○曾子曰く、吾諸を夫子に聞けり。孟莊子が孝、其の他は能くす可し。其の父の臣と父の政とを改めざることは、是れ能くし難し。孟莊子は魯の大夫、名は速。其の父は獻子、名は蔑。獻子賢德有りて、莊子能く其の臣を用い、其の政を守れり。故に其の他の孝行稱す可きこと有りと雖も、而して皆此の事の難しとするに若かず。
子張19
○孟氏使陽膚爲士師。問於曾子。曾子曰、上失其道、民散久矣。如得其情、則哀矜而勿喜。陽膚、曾子弟子。民散、謂情義乖離、不相維繋。謝氏曰、民之散也、以使之無道、敎之無素。故其犯法也、非迫於不得已、則陷於不知也。故得其情、則哀矜而勿喜。
【読み】
○孟氏陽膚をして士師爲らしむ。曾子を問う。曾子曰く、上其の道を失って、民散ずること久し。如し其の情[まこと]を得ば、則ち哀矜して喜ぶこと勿かれ。陽膚は曾子の弟子。民散ずるは、情義乖き離れて、相維繋せざるを謂う。謝氏曰く、民の散ずるは、之を使うに道無く、之を敎うるに素無きを以てなり。故に其の法を犯すは、已むことを得ざるに迫まれるからに非ざれば、則ち知らざるに陷るなり。故に其の情を得たるを、則ち哀矜して喜ぶこと勿かれ、と。
子張20
○子貢曰、紂之不善、不如是之甚也。是以君子惡居下流。天下之惡皆歸焉。惡居之惡、去聲。○下流、地形卑下之處、衆流之所歸。喩人身有汙賤之實、亦惡名之所聚也。子貢言此、欲人常自警省、不可一置其身於不善之地。非謂紂本無罪、而虛被惡名也。
【読み】
○子貢曰く、紂が不善、是の如くの甚だしきにはあらじ。是を以て君子は下流に居ることを惡む。天下の惡皆歸す。惡居の惡は去聲。○下流は、地形卑下の處にて、衆流の歸す所。人の身に汙賤の實有れば、亦惡名の聚まる所となるに喩う。子貢此を言いて、人常に自ら警省し、一たびも其の身を不善の地に置く可からざらんことを欲す。紂は本罪無くして、虛しく惡名を被れることを謂うに非ざるなり。
子張21
○子貢曰、君子之過也、如日月之食焉。過也人皆見之、更也人皆仰之。更、平聲。
【読み】
○子貢曰く、君子の過は、日月の食の如し。過つときは人皆之を見、更むるときは人皆之を仰ぐ。更は平聲。
子張22
○衛公孫朝、問於子貢曰、仲尼焉學。朝、音潮。焉、於虔反。○公孫朝、衛大夫。
【読み】
○衛の公孫朝、子貢に問うて曰く、仲尼焉んか學んずる。朝は音潮。焉は於虔の反。○公孫朝は衛の大夫。
子貢曰、文武之道、未墜於地、在人。賢者識其大者、不賢者識其小者。莫不有文武之道焉。夫子焉不學、而亦何常師之有。識、音志。下焉字、於虔反。○文武之道、謂文王・武王之謨訓功烈。與凡周之禮樂文章、皆是也。在人、言人有能記之者。識、記也。
【読み】
子貢曰く、文武の道、未だ地に墜ちずして、人に在り。賢者其の大いなる者を識し、不賢者は其の小しきなる者を識す。文武の道有らずということ莫し。夫子焉[いずく]んか學びざらん、而して亦何の常の師ということ有らん。識は音志。下も焉の字は於虔の反。○文武の道は、文王・武王の謨訓功烈を謂う。凡そ周の禮樂文章とは、皆是れなり。人在りは、人能く之を記す者有るを言う。識は記すなり。
子張23
○叔孫武叔語大夫於朝曰、子貢賢於仲尼。語、去聲。朝、音潮。○武叔、魯大夫、名州仇。
【読み】
○叔孫武叔大夫に朝を語げて曰く、子貢は仲尼よりも賢れり。語は去聲。朝は音潮。○武叔は魯の大夫、名は州仇。
子服景伯以告子貢。子貢曰、譬之宮牆。賜之牆也及肩。窺見室家之好。牆卑、室淺。
【読み】
子服景伯以て子貢に告ぐ。子貢曰く、之を宮牆に譬う。賜が牆は肩に及べり。室家の好きを窺い見る。牆卑く、室淺し。
夫子之牆數仞。不得其門而入、不見宗廟之美、百官之富。七尺曰仞。不入其門、則不見其中之所有、言牆高而宮廣也。
【読み】
夫子が牆は數仞なり。其の門を得て入らざれば、宗廟の美[うるわ]しき、百官の富めるを見ず。七尺を仞と曰う。其の門に入らざれば、則ち其の中の有る所を見ずは、牆高くして宮廣きを言うなり。
得其門者或寡矣。夫子之云、不亦宜乎。此夫子、指武叔。
【読み】
其の門を得る者或は寡なけん。夫子の云いけんこと、亦宜ならずや。此の夫子は、武叔を指す。
子張24
○叔孫武叔毀仲尼。子貢曰、無以爲也。仲尼不可毀也。他人之賢者、丘陵也。猶可踰也。仲尼日月也。無得而踰焉。人雖欲自絶、其何傷於日月乎。多見其不知量也。量、去聲。○無以爲、猶言無用爲此。土高曰丘、大阜曰陵。日月喩其至高。自絶、謂以謗毀自絶於孔子。多、與祇同。適也。不知量、謂不自知其分量。
【読み】
○叔孫武叔仲尼を毀[そし]る。子貢曰く、以てすること無かれ。仲尼は毀る可からず。他人の賢者は、丘陵なり。猶踰えつ可し。仲尼は日月なり。得て踰ゆること無し。人自ら絶たまく欲すと雖も、其れ何ぞ日月を傷[そこな]わんや。多[まさ]に其の量を知らざることを見る。量は去聲。○以てすること無かれは、猶此をするを用うること無かれと言うがごとし。土高きを丘と曰い、大阜を陵と曰う。日月は其の至高に喩う。自ら絶つは、謗毀するを以て自ら孔子を絶つを謂う。多は祇と同じ。適[まさ]になり。量を知らずは、自ら其の分量を知らざるを謂う。
子張25
○陳子禽謂子貢曰、子爲恭也、仲尼豈賢於子乎。爲恭、謂爲恭敬、推遜其師也。
【読み】
○陳子禽子貢に謂って曰く、子恭をするなり、仲尼豈子よりも賢らんや。恭をするは、恭敬を爲して、其の師に推し遜[ゆず]るを謂う。
子貢曰、君子一言以爲知、一言以爲不知。言不可不愼也。知、去聲。○責子禽不謹言。
【読み】
子貢曰く、君子は一言以て知と爲し、一言以て不知と爲す。言愼まずんばある可からず。知は去聲。○子禽の言を謹まざるを責めり。
夫子之不可及也、猶天之不可階而升也。階、梯也。大、可爲也。化不可爲也。故曰、不可階而升也。
【読み】
夫子の及ぶ可からざること、猶天の階[はしたて]て升る可かざるがごとし。階は梯なり。大は爲す可し。化は爲す可からず。故に曰く、階て升る可からざるなり、と。
夫子之得邦家者、所謂立之斯立、道之斯行、綏之斯來、動之斯和、其生也榮、其死也哀。如之何其可及也。道、去聲。○立之、謂植其生也。道、引也。謂敎之也。行、從也。綏、安也。來、歸附也。動、謂鼓舞之也。和、所謂於變時雍。言其感應之妙、神速如此。榮、謂莫不尊親。哀、則如喪考妣。程子曰、此聖人之神化、上下與天地同流者也。○謝氏曰、觀子貢稱聖人語、乃知晩年進德、蓋極於高遠也。夫子之得邦家者、其鼓舞羣動、捷於桴鼓影響。人雖見其變化、而莫窺其所以變化也。蓋不離於聖、而有不可知者存焉。此殆難以思勉及也。
【読み】
夫子の邦家を得んときは、所謂之を立つれば斯に立ち、之を道[みちび]けば斯に行[したが]い、之を綏[やす]んずれば斯に來り、之を動かせば斯に和らぎ、其の生けるときは榮えりとし、其の死するときは哀しむなり。如之何ぞ其れ及ぶ可けん。道は去聲。○之を立つは、其の生を植[た]つを謂うなり。道くは引くなり。之を敎うるを謂うなり。行うは從うなり。綏んずは安んずなり。來るは歸附するなり。動かすは之を鼓舞するを謂うなり。和らぐは、所謂於[ああ]變り時[これ]雍[やわ]らぐなり。其の感應の妙、神速なること此の如きを言う。榮えりは、尊親せざること莫きを謂う。哀しは、則ち考妣を喪うが如し。程子曰く、此れ聖人の神化の、上下天地と流れを同じくする者なり、と。○謝氏曰く、子貢聖人を稱するの語を觀れば、乃ち晩年德に進むこと、蓋し高遠を極めつること知られたり。夫子の邦家を得るときの、其の羣動を鼓舞すること、桴鼓影響よりも捷し。人其の變化を見ると雖も、其の變化する所以を窺うこと莫し。蓋し聖を離れずして、知る可からざる者有りて存す。此れ殆ど思勉を以ては及び難し、と。
堯曰第二十 凡三章。
堯曰1
○堯曰、咨爾舜、天之暦數在爾躳。允執其中。四海困竆、天祿永終。此堯命舜而禪以帝位之辭。咨、嗟歎聲。暦數、帝王相繼之次第。猶歳時節氣之先後也。允、信也。中者、無過不及之名。四海之人困窮、則君祿亦永絶矣。戒之也。
【読み】
○堯曰く、咨[ああ]爾[なんじ]舜、天の暦數爾の躳に在り。允[まこと]に其の中を執れ。四海困竆せば、天祿永く終えん。此れ堯の舜に命じて以て帝位を禪るときの辭なり。咨は嗟歎の聲。暦數は、帝王相繼ぐの次第。猶歳時節氣の先後あるがごとし。允は信なり。中は、過不及無きの名。四海の人困窮せば、則ち君祿も亦永く絶えん。之を戒むるなり。
舜亦以命禹。舜後遜位於禹、亦以此辭命之。今見於虞書大禹謨。比此加詳。
【読み】
舜も亦以て禹に命ず。舜後に位を禹に遜[ゆず]るときも、亦此の辭を以て之に命ず。今虞書大禹謨に見ゆ。此に比ぶれば詳を加えり。
曰、予小子履、敢用玄牡、敢昭告于皇皇后帝。有罪不敢赦。帝臣不蔽。簡在帝心。朕躳有罪、無以萬方。萬方有罪、罪在朕躳。此引商書湯誥之辭。蓋湯旣放桀而告諸侯也。與書文大同小異。曰上當有湯字。履、蓋湯名。用玄牡、夏尙黑。未變其禮也。簡、閱也。言桀有罪、己不敢赦。而天下賢人皆上帝之臣、己不敢蔽。簡在帝心、惟帝所命。此述其初請命而伐桀之辭也。又言君有罪、非民所致。民有罪、實君所爲。見其厚於責己、薄於責人之意。此其告諸侯之辭也。
【読み】
曰く、予小子履、敢えて玄牡[げんぼ]を用いて、敢えて昭かに皇皇たる后帝に告[もう]す。罪有るを敢えて赦さじ。帝臣を蔽[かく]さじ。簡[えら]んで帝の心に在り。朕が躳に罪有るは、萬方を以てすること無けん。萬方罪有るは、罪朕が躳に在り。此れ商書湯誥の辭を引けり。蓋し湯旣に桀を放ちて諸侯に告ぐ。書の文と大同小異なり。曰の上當に湯の字有るべし。履は蓋し湯の名。玄牡を用うは、夏は黑を尙ぶ。未だ其の禮變ぜず。簡は閱なり。言うこころは、桀罪有れば、己敢えて赦さじ。而して天下の賢人は皆上帝の臣なれば、己敢えて蔽さじ。簡んで帝の心に在れば、惟帝の命ずる所なり、と。此れ其の初めに命を請いて桀を伐つを述ぶるの辭なり。又言う、君に罪有るは、民の致す所に非ず。民に罪有るは、實に君する所なり、と。其の己を責むるの厚き、人を責むるの薄きの意を見わす。此れ其の諸侯に告ぐるの辭なり。
周有大賚、善人是富。賚、來代反。○此以下述武王事。賚、予也。武王克商、大賚于四海。見周書武成篇。此言其所富者皆善人也。詩序云、賚、所以錫予善人。蓋本於此。
【読み】
周大いに賚[たまもの]すること有って、善人是れ富ましむ。賚は來代の反。○此以下は武王の事を述ぶ。賚は予なり。武王商を克ち、四海に大いに賚す。周書武成篇に見ゆ。此れ其の富める所の者は皆善人なるを言う。詩の序に云う、賚は、善人に錫予する所以なり、と。蓋し此に本づかん。
雖有周親、不如仁人。百姓有過、在予一人。此周書泰誓之辭。孔氏曰、周、至也。言紂至親雖多、不如周家之多仁人。
【読み】
周親有りと雖も、仁人に如かず。百姓過有るは、予一人に在り。此れ周書泰誓の辭。孔氏曰く、周は至るなり、と。言うこころは、紂には至親多かりしと雖も、周家の仁人多きに如かず、と。
謹權量、審法度、脩廢官、四方之政行焉。權、稱錘也。量、斗斛也。法度、禮樂制度皆是也。
【読み】
權量を謹み、法度を審らかにし、廢官を脩めて、四方の政行わる。權は稱錘なり。量は斗斛なり。法度は禮樂制度皆是れなり。
興滅國、繼絶世、擧逸民、天下之民歸心焉。興滅繼絶、謂封黄帝・堯・舜・夏・商之後。擧逸民、謂釋箕子之囚、復商容之位。三者皆人心之所欲也。
【読み】
滅びたる國を興し、絶世を繼ぎ、逸民を擧げて、天下の民心を歸す。滅びたるを興し絶えたるを繼ぐは、黄帝・堯・舜・夏・商の後を封ずるを謂う。逸民を擧ぐは、箕子の囚を釋[ゆる]し、商容の位を復すを謂う。三つの者は皆人心の欲する所なり。
所重民食喪祭。武成曰、重民五敎。惟食喪祭。
【読み】
重んずる所民食喪祭。武成曰く、民の五敎を重んず。惟れ食喪祭、と。
寬則得衆。信則民任焉。敏則有功。公則說。說、音悦。○此於武王之事無所見。恐或泛言帝王之道也。○楊氏曰、論語之書、皆聖人微言、而其徒傳守之、以明斯道者也。故於終篇具載堯舜咨命之言、湯武誓師之意、與夫施諸政事者、以明聖學之所傳者、一於是而已。所以著明二十篇之大旨也。孟子於終篇、亦歴敍堯・舜・湯・文・孔子相承之次。皆此意也。
【読み】
寬なるときは則ち衆を得。信なるときは則ち民任[よ]る。敏なるときは則ち功有り。公なるときは則ち說ぶ。說は音悦。○此れ武王の事に於て見る所無し。恐らくは或は泛く帝王の道を言うならん。○楊氏曰く、論語の書、皆聖人の微言にして、其の徒之を傳え守りて、以て斯の道を明らかにする者なり。故に終篇に於て具さに堯舜咨命の言、湯武誓師の意と、夫の諸れ政事に施せる者とを載せて、以て聖學の傳うる所の者、是に一なるを明らかにするのみ。二十篇の大旨を著明にする所以なり。孟子の終篇に於るも、亦堯・舜・湯・文・孔子相承くるの次を歴敍す。皆此の意なり、と。
堯曰2
○子張問於孔子曰、何如斯可以從政矣。子曰、尊五美、屛四惡。斯可以從政矣。子張曰、何謂五美。子曰、君子惠而不費、勞而不怨、欲而不貪、泰而不驕、威而不猛。費、芳味反。
【読み】
○子張孔子に問うて曰く、何如なるか斯れ以て政に從う可き。子曰く、五美を尊び、四惡を屛[しりぞ]く。斯れ以て政に從う可し。子張曰く、何をか五美と謂う。子曰く、君子惠して費えず、勞して怨みず、欲して貪らず、泰かにして驕らず、威あって猛からず。費は芳味の反。
子張曰、何謂惠而不費。子曰、因民之所利而利之。斯不亦惠而不費乎。擇可勞而勞之。又誰怨。欲仁而得仁。又焉貪。君子無衆寡、無小大、無敢慢。斯不亦泰而不驕乎。君子正其衣冠、尊其瞻視、儼然人望而畏之。斯不亦威而不猛乎。焉、於虔反。
【読み】
子張曰く、何を惠して費えずと謂う。子曰く、民の利する所に因って之を利す。斯れ亦惠して費えざるにあらずや。勞ず可きを擇んで之を勞ず。又誰か怨みん。仁を欲して仁を得たり。又焉んぞ貪らん。君子は衆寡と無く、小大と無く、敢えて慢ること無し。斯れ亦泰かにして驕らざるにあらずや。君子は其の衣冠を正しうし、其の瞻視を尊くし、儼然として人望んで之を畏る。斯れ亦威あって猛からざるにあらずや。焉は於虔の反。
子張曰、何謂四惡。子曰、不敎而殺、謂之虐。不戒視成、謂之暴。慢令致期、謂之賊。猶之與人也、出納之吝、謂之有司。出、去聲。○虐、謂殘酷不仁。暴、謂卒遽無漸。致期、刻期也。賊者、切害之意。緩於前而急於後、以誤其民而必刑之、是賊害之也。猶之、猶言均之也。均之以物與人、而於其出納之際、乃或吝而不果、則是有司之事、而非爲政之體。所與雖多、人亦不懷其惠矣。項羽使人、有功當封、刻印刓、忍弗能予。卒以取敗。亦其驗也。○尹氏曰、告問政者多矣。未有如此之備者也。故記之以繼帝王之治、則夫子之爲政可知也。
【読み】
子張曰く、何をか四惡と謂う。子曰く、敎えずして殺す、之を虐と謂う。戒めずして成るを視る、之を暴と謂う。令を慢[ゆるがせ]にして期を致す、之を賊と謂う。之を猶[ひと]しうして人に與うるが、出納の吝[やぶさか]なる、之を有司と謂う。出は去聲。○虐は、殘酷不仁を謂う。暴は、卒遽にて漸々無きを謂う。期を致すは、期を刻するなり。賊は、切害の意。前に緩やかにして後に急にし、以て其の民を誤らせて必ず之を刑するは、是れ之を賊害するなり。猶之は、猶均之と言うがごとし。均しく物を以て人に與えて、其の出納の際に於て、乃ち或は吝にして果たさざるときは、則ち是れ有司の事にして、政をするの體に非ず。與うる所多しと雖も、人は亦其の惠を懷[おも]わざるなり。項羽人を使うに、功有りて當に封ずべきに、刻印刓[がん]して、忍んで予うること能わず。卒に以て敗れを取る。亦其の驗しなり。○尹氏曰く、政を問うに告ぐる者多し。未だ此の如きの備われる者あらず。故に之を記して以て帝王の治に繼ぐときは、則ち夫子の政をすること知んぬ可し、と。
堯曰3
○子曰、不知命、無以爲君子也。程子曰、知命者、知有命而信之也。人不知命、則見害必避、見利必趨。何以爲君子。
【読み】
○子曰、命を知らざれば、以て君子とすること無し。程子曰く、命を知るは、命有るを知りて之を信ずるなり。人命を知らざるときは、則ち害を見て必ず避け、利を見て必ず趨る。何を以てか君子とせん。
不知禮、無以立也。不知禮、則耳目無所加、手足無所措。
【読み】
禮を知らざれば、以て立つこと無し。禮を知らざるときは、則ち耳目加うる所無く、手足措く所無し。
不知言、無以知人也。言之得失、可以知人之邪正。○尹氏曰、知斯三者則君子之事備矣。弟子記此以終篇。得無意乎。學者少而讀之、老而不知一言爲可用、不幾於侮聖言者乎。夫子之罪人也。可不念哉。
【読み】
言を知らざれば、以て人を知ること無し。言の得失、以て人の邪正を知る可し。○尹氏曰く、斯の三つの者を知るときは則ち君子の事備わる。弟子此を記して以て篇を終う。意無きことを得んや。學者少[わか]くして之を讀み、老いて一言の用う可きとすることを知らずば、聖言を侮る者に幾[ちか]からざらんや。夫子の罪人なり。念わざる可けんや、と。
論語(終)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『論語』(ろんご、拼音: Lunyǔ )とは、孔子と彼の高弟の言行を孔子の死後、弟子達が記録した書物である。『孟子』『大学』『中庸』と併せて儒教における「四書」の1つに数えられる。
四書のひとつである『孟子』はその言行の主の名が書名であるが、『論語』の書名が(たとえば「孔子」でなく)『論語』であるその由来は明らかでない。(『漢書』巻30芸文志[1]に「門人相與輯而論纂 故謂之 論語」と門人たちが書き付けていた孔子の言葉や問答を、孔子死後に取り集めて論纂し、そこで『論語』と題したとある。)
別名、「倫語(りんご)」、「輪語」、「円珠経」とも言う。これは、六朝時代の学者、皇侃(おうがん)の著作『論語義疏』によると、漢代の鄭玄(じょうげん)という学者が論語を以て世務を経綸することが出来る書物だと言った所から、「倫語」という語が出現し、又その説く所は円転極まりないこと車輪の如しというので、「輪語」というと注釈し、「円珠経」については鏡を引用して、鏡はいくら大きくても一面しか照らし出さないが、珠(玉)は一寸四方の小さいものでも上下四方を照らすものであり、諸家の学説は鏡の如きもので一面しか照らさないが、論語は正に円通極まりないものである、という所から「円珠経」と言うと説かれている。
概要
『論語』は漢代には魯地方で伝承していた『魯論語』、斉地方で伝承していた『斉論語』、孔子の旧家の壁の中から発見された『古論語』の3派があった。編の数や順序もそれぞれで多少、異なっていたが、後漢末期に『魯論語』をもとにして現在の形にまとめられた。春秋末期の語法を残しているとの分析もあるが、平勢隆郎はこれを戦国時代に作文されたものとする。
『論語』は宋学が特に四書をテクストとして重視したことから、科挙の出題科目にもなり、約2000年間学問の主要科目になった。16世紀には、中国大陸で布教活動を行っていたイエズス会の宣教師によって「孟子」や「大学」など他の典籍と共にフランス語で翻訳され、フランスに伝えられていった。その結果、フランスでは貴族の間で、シノワズリと呼ばれる空前の中国ブームが巻き起こった(中国学も参照)。また当時の思想界において、儒教の易姓革命はヴォルテール、モンテスキュー、ケネーといった当時の思想家に大影響を与え、啓蒙思想の発展に寄与した。日本には、応神天皇の代に百済の王仁と言う人物によって伝えられたとされ、律令時代の官吏必読の書となった。
構成
512の短文が全20編で構成されている。編の名称は各編の最初の二文字(または三文字)を採ったものであり内容上の意味はない。
学而第一(がくじ)
為政第二(いせい)
八佾第三(はちいつ)
里仁第四(りじん)
公冶長第五(こうやちょう)
雍也第六(ようや)
述而第七(じゅつじ)
泰伯第八(たいはく)
子罕第九(しかん)
郷党第十(きょうとう)
先進第十一(せんしん)
顔淵第十二(がんえん)
子路第十三(しろ)
憲問第十四(けんもん)
衛霊公第十五(えいれいこう)
季氏第十六(きし)
陽貨第十七(ようか)
微子第十八(びし)
子張第十九(しちょう)
堯曰第二十(ぎょうえつ)
注釈書
漢代には既に、馬融や鄭玄などが『論語』に注しているが、現存最古のものは魏の何晏がまとめた『論語集解』(古注)である。南宋の朱子は、独自の立場から注釈を作り(新注)、江戸時代以降の日本でももっぱら新注が用いられたが、朱子学の論語解釈を批判する形での論考に、伊藤仁斎『論語古義』、荻生徂徠『論語徴』がある。
訳注書籍
宇野哲人 『論語新釈』 講談社〈講談社学術文庫
451〉、1980年1月。ISBN
4-06-158451-0。
荻生徂徠 『論語徴 1』 小川環樹訳注、平凡社〈平凡社東洋文庫
575〉、1994年3月。ISBN
4-582-80575-2。
荻生徂徠 『論語徴 2』 小川環樹訳注、平凡社〈平凡社東洋文庫 576〉、1994年4月。ISBN
4-582-80576-0。
『論語』 貝塚茂樹訳注、中央公論社〈中公文庫〉、1973年7月。ISBN
4-12-200018-1。
『論語 Ⅰ』 貝塚茂樹訳、中央公論新社〈中公クラシックス〉、2002年12月。ISBN
4-12-160043-6。
『論語 Ⅱ』
貝塚茂樹訳、中央公論新社〈中公クラシックス〉、2003年2月。ISBN
4-12-160048-7。
『論語』 加地伸行全訳注、講談社〈講談社学術文庫
1962〉、2009年9月(原著2004年3月)、増補版。ISBN
978-4-06-291962-3。
『論語』 金谷治訳注、岩波書店〈岩波文庫〉、1999年11月。ISBN
4-00-332021-2。
『論語』 金谷治訳注、岩波書店〈ワイド版岩波文庫〉、2001年1月(原著1991年1月)。ISBN
4-00-007169-6。
『論語 現代語訳』 齋藤孝訳、筑摩書房〈ちくま新書
877〉、2010年12月。ISBN
978-4-480-06578-0。
『論語 現代訳』 下村湖人訳、PHP研究所、2008年10月。ISBN
978-4-569-70314-5。 - 新書版、現代語訳のみ。
穂積重遠 『新訳論語』 講談社〈講談社学術文庫 549〉、1981年8月。ISBN
4-06-158549-5。
吉川幸次郎 『論語 上 中国古典選』 朝日新聞社〈朝日選書 1001
中国古典選〉、1996年10月。ISBN
4-02-259001-7。
吉川幸次郎 『論語 下 中国古典選』 朝日新聞社〈朝日選書 1002 中国古典選〉、1996年10月。ISBN
4-02-259002-5。
吉川幸次郎 『論語 上』
朝日新聞社〈朝日文庫:中国古典選
3〉、1978年2月。ISBN
4-02-260103-5。
吉川幸次郎 『論語 中』 朝日新聞社〈朝日文庫:中国古典選 4〉、1978年3月。ISBN
4-02-260104-3。
吉川幸次郎 『論語 下』 朝日新聞社〈朝日文庫:中国古典選 5〉、1978年4月。ISBN
4-02-260105-1。
吉田賢抗
『論語』 明治書院〈新釈漢文大系
1〉、1960年5月。ISBN
4-625-57001-8。
宮崎市定 『論語 現代語訳』 岩波書店〈岩波現代文庫〉、2000年5月。ISBN
4-00-600017-0。
解説文献
『論語大成 全訳 最高の徳「中庸」とは何か?』 荒川健作訳注、三恵社、2007年6月。ISBN
978-4-88361-552-0。
狩野直禎 『図解雑学 論語』 ナツメ社、2001年7月。ISBN
4-8163-3046-1。
加地伸行 『「論語」再説』 中央公論新社〈中公文庫〉、2009年3月。ISBN
978-4-12-205136-2。
簡野道明 『論語集註 補註』 明治書院、2003年2月、並製新装再版。ISBN
4-625-73301-4。
須永美知夫
『論語抄』 史跡足利学校管理事務所編集・発行、足利市教育委員会、1993年。
武内義雄 『論語之研究』 岩波書店、1939年。
武内義雄 『武内義雄全集 第1巻』 角川書店、1978年7月。
陳舜臣 『論語抄』 中央公論新社〈中公文庫〉、2009年8月。ISBN
978-4-12-205189-8。
津田左右吉 『論語と孔子の思想』
岩波書店、1946年。
津田左右吉 『津田左右吉全集 第14巻』 岩波書店、1987年10月。ISBN
978-4-00-091124-5。
橋本秀美
『論語 心の鏡』 岩波書店〈書物誕生―あたらしい古典入門―〉、2009年9月。ISBN
978-4-00-028294-9。
緑川佑介
『孔子の一生と論語』 明治書院、2007年2月。ISBN
978-4-625-68403-6。 - 総ルビ付き。
宮崎市定 『論語の新しい読み方』 礪波護編、岩波書店〈岩波現代文庫〉、2000年7月。ISBN
4-00-600022-7。
宮崎市定 『論語の新研究 宮崎市定全集.第4巻』 岩波書店、2000年9月。ISBN
4-00-091674-2。
安岡正篤 『論語に学ぶ』
PHP研究所〈PHP文庫〉、2002年10月。ISBN
4-569-57813-6。
吉川幸次郎 『「論語」の話』
筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2008年1月。ISBN
978-4-480-09121-5。
呉智英 『現代人の論語』 文藝春秋〈文藝春秋〉、2003年11月。ISBN
978-4163655703。
関連項目
儒教
孔子
孔門十哲 -
孔子の弟子の中で特に優秀とされる十人
儒学者
外部リンク
ハイパーテキスト論語
論語 -
中国及び英国翻訳
論語全文 (中文)
論語 全文
現代語翻訳
京都大学所蔵資料でたどる文学史 - 論語
[戻る]
(引用文献)
|