読 下 シ ・ 訳 |
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詩經のすべて 《詩經》 國風,小雅,大雅,頌 (その構成は 1.各地の民謡「風(ふう)」 2.貴族や朝廷の公事・宴席などで奏した音楽の歌詞「雅(が)」 3.朝廷の祭祀に用いた廟歌の歌詞「頌(ょう)」の3つに大別される) |
詩經卷之四
朱熹集註都人士之什二之八
【読み】
都人士[とじんし]の什二の八
彼都人士、狐裘黃黃。其容不改、出言有章。行歸于周、萬民所望<叶音亡>。○賦也。都、王都也。黃黃、狐裘色也。不改、有常也。章、文章也。周、鎬京也。○亂離之後、人不復見昔日都邑之盛、人物儀容之美、而作此詩、以歎惜之也。
【読み】
彼の都人の士、狐の裘黃黃たり。其の容改めず、言を出だすに章有り。行いて周に歸らば、萬民の望<叶音亡>む所ならん。○賦なり。都は、王都なり。黃黃は、狐裘の色なり。改めずは、常有るなり。章は、文章なり。周は、鎬京なり。○亂離の後、人復昔日の都邑の盛んなること、人物儀容の美きを見ずして、此の詩を作り、以て之を歎惜す。
○彼都人士、臺笠緇撮<叶租悅反>。彼君子女、綢直如髮<叶方月反>。我不見兮、我心不說<音悅>。○賦也。臺、夫須也。緇撮、緇布冠也。其制小、僅可撮其髻也。君子女、都人貴家之女也。綢直如髮、未詳其義。然以四章五章推之、亦言其髮之美耳。
【読み】
○彼の都人の士、臺の笠緇き撮[かんむり]<叶租悅反>。彼の君子の女、綢直髮<叶方月反>の如し。我れ見ざれば、我が心說<音悅>びず。○賦なり。臺は、夫須なり。緇撮は、緇布の冠なり。其の制小さく、僅かに其の髻[もとどり]を撮[つま]む可し。君子の女は、都人貴家の女なり。綢直髮の如しは、未だ其の義詳らかならず。然れども四章五章を以て之を推すに、亦其の髮の美しきを言うのみ。
○彼都人士、充耳琇<音秀>實。彼君子女、謂之尹吉。我不見兮、我心苑<音韞>結<叶繳質反>。○賦也。琇、美石也。以美石爲瑱。尹吉、未詳。鄭氏曰、吉讀爲姞。尹氏姞氏、周之昏姻舊姓也。人見都人之女、咸謂尹氏姞氏之女、言其有禮法也。李氏曰、所謂尹吉、猶晉言王謝、唐言崔盧也。苑、猶屈也、積也。
【読み】
○彼の都人の士、充耳琇[しゅう]<音秀>もて實[ふさ]げり。彼の君子の女、之を尹吉と謂う。我れ見ざれば、我が心苑[うっ]<音韞>結<叶繳質反>す。○賦なり。琇は、美石なり。美石を以て瑱[てん]と爲す。尹吉は、未だ詳らかならず。鄭氏が曰く、吉は讀んで姞とす、と。尹氏姞氏は、周の昏姻の舊姓なり。人都人の女を見て、咸[みな]尹氏姞氏の女と謂うに、其の禮法有るを言うなり。李氏が曰く、所謂尹吉とは、猶晉に王謝と言い、唐に崔盧と言うがごとし、と。苑は、猶屈むがごとし、積むなり。
○彼都人士、埀帶而厲<叶落蓋反>。彼君子女、卷<音權>髮如蠆<音瘥>。我不見兮、言從之邁。賦也。厲、埀帶之貌。卷髮、鬢傍短髮、不可歛者、曲上卷然以爲飾也。蠆、螫蟲也。尾末揵然、似髮之曲上者。邁、行也。蓋曰、是不可得見也。得見、則我從之邁矣。思之甚也。
【読み】
○彼の都人の士、帶を埀れて厲<叶落蓋反>たり。彼の君子の女、卷[まが]<音權>れる髮蠆[さそり]<音瘥>の如し。我れ見ざれば、言[ここ]に之に從いて邁[ゆ]かん。賦なり。厲は、帶の埀れる貌。卷髮は、鬢の傍らの短き髮、斂む可からざる者、曲り上がること卷然として以て飾とす。蠆[たい]は、螫[さ]す蟲なり。尾の末揵[けん]然として、髮の曲り上がる者に似たり。邁は、行くなり。蓋し曰く、是れ見ることを得可からず。見ることを得て、則ち我れ之に從いて邁かん、と。思うことの甚だしきなり。
○匪伊埀之、帶則有餘。匪伊卷之、髮則有旟。我不見兮、云何盱<音吁>矣。賦也。旟、揚也。盱、望也。說見何人斯篇。○此言士之帶、非故埀之也。帶自有餘耳。女之髪、非故卷之也。髪自有旟耳。言其自然閑美、不假脩飾也。然不可得而見矣。則如何而不望之乎。
【読み】
○伊れ之を埀るるに匪ず、帶則ち餘り有り。伊れ之を卷るに匪ず、髮則ち旟[あが]れる有り。我れ見ざれば、云[ここ]に何ぞ盱[のぞ]<音吁>ましむる。賦なり。旟は、揚ぐなり。盱[く]は、望むなり。說は何人斯の篇に見えたり。○此れ言うこころは、士の帶、故[ことさら]に之を埀るるに非ず。帶自ずから餘り有るのみ。女の髪、故に之を卷るに非ず。髪自ずから旟れる有るのみ。言うこころは、其の自然の閑美なること、脩飾を假らず。然れども得て見る可からず。則ち如何して之を望まざらんや。
都人士五章章六句
【読み】
都人士[とじんし]五章章六句
終朝采綠、不盈一匊<音菊>。予髮曲局、薄言歸沐。賦也。自旦及食時爲終朝。綠、王芻也。兩手曰匊。局、卷也。猶言首如飛蓬也。○婦人思其君子、而言終朝采綠、而不盈一匊者、思念之深、不專於事也。又念其髪之曲局、於是舍之、而歸沐以待其君子之還也。
【読み】
朝を終うるまで綠を采る、一匊[きく]<音菊>にも盈たず。予が髮曲り局[まが]れり、薄[いささ]か言[ここ]に歸り沐[あら]わん。賦なり。旦より食時に及ぶを終朝とす。綠は、王芻なり。兩手を匊と曰う。局は、卷[まが]るなり。猶首飛蓬の如しと言うがごとし。○婦人其の君子を思いて、朝を終うるまで綠を采り、而して一匊にも盈たずと言う者は、思念の深くして、事に專らならざるなり。又其の髪の曲局するを念いて、是に於て之を舍[や]めて、歸り沐して以て其の君子の還るを待つなり。
○終朝采藍、不盈一襜<尺占反。叶都甘反>。五日爲期、六日不詹<音占。叶多其反>。○賦也。藍、染草也。衣蔽前謂之襜。卽蔽膝也。詹、與瞻同。五日爲期、去時之約也。六日不詹、過期而不見也。
【読み】
○朝を終うるまで藍を采る、一襜[せん]<尺占反。叶都甘反>にも盈たず。五日を期とす、六日まで詹[み]<音占。叶多其反>えず。○賦なり。藍は、染むる草なり。衣前を蔽うを之を襜と謂う。卽ち蔽膝なり。詹は、瞻と同じ。五日を期とすとは、去る時の約なり。六日まで詹ずとは、期を過ぎて見えざるなり。
○之子于狩<音獸>、言韔<音暢>其弓<叶姑弘反>。之子于釣、言綸之繩。賦也。之子、謂其君子也。理絲曰綸。○言君子若歸而欲往狩耶、我則爲之韔其弓。欲往釣耶、我則爲之綸其繩。望之切、思之深、欲無往而不與之倶也。
【読み】
○之の子于[ここ]に狩<音獸>せば、言に其の弓<叶姑弘反>を韔[ゆぶくろ]<音暢>にせん。之の子于に釣せば、言に之が繩を綸[よ]らん。賦なり。之の子は、其の君子を謂うなり。絲を理むるを綸と曰う。○言うこころは、君子若し歸りて往いて狩せんと欲せば、我れ則ち之が爲に其の弓を韔にせん。往いて釣せんと欲せば、我れ則ち之が爲に其の繩を綸らん。之を望むこと切に、之を思うこと深くして、往いて之と倶にせざること無からんと欲するなり。
○其釣維何、維魴<音房>及鱮<音叙。叶音湑>。維魴及鱮、薄言觀者<叶掌與反>。○賦也。於其釣而有獲也。又將從而觀之。亦上章之意也。
【読み】
○其の釣れるは維れ何ぞ、維れ魴[ほう]<音房>及び鱮[しょ]<音叙。叶音湑>。維れ魴及び鱮、薄か言に觀ん。○賦なり。其の釣るに於て獲る有り。又將[はた]從いて之を觀ん。亦上の章の意なり。
采綠四章章四句
【読み】
采綠[さいりょく]四章章四句
芃芃<音蓬>黍苗、陰雨膏<去聲>之。悠悠南行、召伯勞<去聲>之。興也。芃芃、長大貌。悠悠、遠行之意。○宣王封申伯於謝。命召穆公往營城邑。故將徒役南行。而行者作此言。芃芃黍苗、則唯陰雨能膏之。悠悠南行、則唯召伯能勞之也。
【読み】
芃芃[ほうほう]<音蓬>たる黍の苗、陰雨之を膏[うるお]<去聲>せり。悠悠たる南行、召伯之を勞<去聲>えり。興なり。芃芃は、長大なる貌。悠悠は、遠く行くの意。○宣王申伯を謝に封ず。召の穆公に命じて往いて城邑を營ぜしむ。故に徒役を將[ひき]いて南行す。而して行く者此の言を作す。芃芃たる黍の苗は、則ち唯陰雨のみ能く之を膏す。悠悠として南に行かば、則ち唯召伯のみ能く之を勞うなり。
○我任<音王>我輦、我車我牛<叶魚其反>。我行旣集、蓋云歸哉<叶將黎反>。○賦也。任、負任者也。輦、人輓車也。牛、所以駕大車也。集、成也。營謝之役。旣成而歸也。
【読み】
○我が任<音王>我が輦[れん]、我が車我が牛<叶魚其反>。我が行旣に集[な]りて、蓋し云[ここ]に歸らん。○賦なり。任は、負い任う者なり。輦は、人の車を輓くなり。牛は、大車を駕する所以なり。集は、成るなり。謝を營ずるの役。旣に成りて歸るなり。
○我徒我御、我師我旅。我行旣集、蓋云歸處。賦也。徒、歩行者。御、乘車者。五百人爲旅、五旅爲師。春秋傳曰、君行師從、卿行旅從。
【読み】
○我が徒我が御、我が師我が旅。我が行旣に集りて、蓋し云に歸り處らん。賦なり。徒は、歩き行く者。御は、車に乘る者。五百人を旅とし、五旅を師とす。春秋傳に曰く、君行くときは師從い、卿行くときは旅從う、と。
○肅肅謝功、召伯營之。烈烈征師、召伯成之。賦也。肅肅、嚴正之貌。謝、邑名。申伯所封國也。今在鄧州信陽軍。功、工役之事也。營、治也。烈烈、威武貌。征、行也。
【読み】
○肅肅たる謝の功、召伯之を營[おさ]めり。烈烈たる征く師、召伯之を成せり。賦なり。肅肅は、嚴正なる貌。謝は、邑の名。申伯封ぜらるる國なり。今鄧州信陽軍に在り。功は、工役の事なり。營は、治むるなり。烈烈は、威武の貌。征は、行くなり。
○原隰旣平、泉流旣淸。召伯有成、王心則寧。賦也。土治曰平、水治曰淸。○言召伯營謝邑、相其原隰之宜、通其水泉之利。此功旣成、宣王之心則安也。
【読み】
○原隰[げんしゅう]旣に平らぎ、泉流旣に淸[す]めり。召伯成せること有り、王の心則ち寧んぜり。賦なり。土の治まるを平と曰い、水の治まるを淸と曰う。○言うこころは、召伯の謝邑を營むる、其の原隰の宜しきを相[み]て、其の水泉の利を通ず。此れ功旣に成りて、宣王の心則ち安んぜり。
黍苗五章章四句。此宣王時詩。與大雅崧高相表裏。
【読み】
黍苗[しょびょう]五章章四句。此れ宣王の時の詩。大雅の崧高と相表裏す。
隰桑有阿、其葉有難<音那>。旣見君子、其樂<音洛>如何。興也。隰、下濕之處。宜桑者也。阿、美貌。難、盛貌。皆言枝葉條埀之狀。○此喜見君子之詩。言隰桑有阿、則其葉有難矣。旣見君子、則其樂如何哉。詞意大槩與菁莪相類。然所謂君子、則不知其何所指矣。或曰、比也。下章放此。
【読み】
隰[さわ]の桑阿たる有り、其の葉難[だ]<音那>たる有り。旣に君子を見れば、其の樂<音洛>しみ如何せん。興なり。隰は、下[ひく]く濕[うるお]う處。桑に宜しき者なり。阿は、美しき貌。難は、盛んなる貌。皆枝葉條埀の狀を言う。○此れ君子を見るを喜ぶ詩。言うこころは、隰の桑阿たる有れば、則ち其の葉難たる有り。旣に君子を見れば、則ち其の樂しみ如何せんや。詞意大槩菁莪と相類す。然れども所謂君子は、則ち其の何の指す所かを知らず。或ひと曰く、比、と。下の章も此に放え。
○隰桑有阿、其葉有沃<叶鬱縛反>。旣見君子、云何不樂。興也。沃、光澤貌。
【読み】
○隰の桑阿たる有り、其の葉沃<叶鬱縛反>たる有り。旣に君子を見れば、云[ここ]に何ぞ樂まざらん。興なり。沃は、光澤ある貌。
○隰桑有阿、其葉有幽<叶於交反>。旣見君子、德音孔膠<音交>。○興也。幽、黒色也。膠、固也。
【読み】
○隰の桑阿たる有り、其の葉幽<叶於交反>たる有り。旣に君子を見れば、德音孔[はなは]だ膠[かた]<音交>し。○興なり。幽は、黒き色なり。膠は、固きなり。
○心乎愛<叶許旣反>矣、遐不謂矣。中心藏之、何日忘之。賦也。遐、與何同。表記作瑕。鄭氏註曰、瑕之言胡也。謂猶告也。○言我中心誠愛君子。而旣見之、則何不遂以告之。而但中心藏之。將使何日而忘之耶。楚辭所謂思公子兮未敢言。意蓋如此。愛之之根於中者深。故發之遲而存之久也。
【読み】
○心に愛[いつく]<叶許旣反>しめり、遐[なん]ぞ謂[つ]げざらん。中心に之を藏[おさ]めり、何れの日にか之を忘れん。賦なり。遐は、何と同じ。表記に瑕に作る。鄭氏が註に曰く、瑕の言は胡、と。謂うこころは、猶告ぐのごとし。○言うこころは、我が中心誠に君子を愛しむ。而して旣に之を見れば、則ち何ぞ遂に以て之に告げざらん。而れども但中心に之を藏むるのみ。將[はた]何れの日にして之を忘れしめんや。楚辭に所謂公子を思い未だ敢て言わず、と。意蓋し此の如し。之を愛しんで中に根ざす者深し。故に之を發すること遲くして之を存すること久し。
隰桑四章章四句
【読み】
隰桑[しゅうそう]四章章四句
白華<音花>菅<音姦>兮、白茅束兮。之子之遠、俾我獨兮。比也。白華、野菅也。已漚爲菅。之子、斥幽王也。俾、使也。我、申后自我也。○幽王娶申女以爲后。又得褒姒而黜申后。故申后作此詩。言白華爲菅、則白茅爲束。二物至微、猶必相須爲用。何之子之遠、而俾我獨耶。
【読み】
白華<音花>の菅<音姦>、白茅束ねり。之の子の遠き、我をして獨りならしむ。比なり。白華は、野菅なり。已に漚[ひた]して菅とす。之の子は、幽王を斥[さ]すなり。俾は、使なり。我は、申后自ら我とするなり。○幽王申の女を娶りて以て后とす。又褒姒を得て申后を黜[しりぞ]く。故に申后此の詩を作れり。言うこころは、白華を菅とすれば、則ち白茅束ねることをす。二物至って微なれども、猶必ず相須ちて用を爲す。何ぞ之の子の遠くして、我をして獨りならしめんや。
○英英白雲、露彼菅茅<叶莫侯反>。天步艱難、之子不猶。比也。英英、輕明之貌。白雲、水土輕淸之氣。當夜而上騰者也。露、卽其散而下降者也。步、行也。天步、猶言時運也。猶、圖也。或曰、猶、如也。○言雲之澤物、無微不被。今時運艱難、而之子不圖。不如白雲之露菅茅也。
【読み】
○英英たる白雲、彼の菅茅<叶莫侯反>に露おく。天步艱難なるに、之の子猶[はか]らず。比なり。英英は、輕明なる貌。白雲は、水土の輕淸の氣。夜に當たりて上り騰[のぼ]る者なり。露は、卽ち其の散じて下に降る者なり。步は、行くなり。天步は、猶時運と言うがごとし。猶は、圖るなり。或ひと曰く、猶は、如、と。○言うこころは、雲の物を澤[うるお]す、微として被らざる無し。今時運艱難にして、之の子圖らず。白雲の菅茅に露おくに如かざるなり。
○滮<符彪反>池北流、浸彼稻田<叶知因反>。嘯歌傷懷、念彼碩人。比也。滮、流貌。北流、豐鎬之閒、水多北流。碩人、尊大之稱。亦謂幽王也。○言小水微流、尙能浸灌。王之尊大、而反不能通其寵澤、所以使我嘯歌傷懷而念之也。
【読み】
○滮[ひょう]<符彪反>たる池北に流れ、彼の稻田<叶知因反>を浸す。嘯[うそぶ]き歌い傷み懷い、彼の碩人を念う。比なり。滮は、流るる貌。北に流るは、豐鎬の閒、水多く北に流るる。碩人は、尊大なる稱。亦幽王を謂うなり。○言うこころは、小水微[すこ]しく流るるも、尙能く浸灌す。王は尊大、而れども反って其の寵澤を通ずること能わざるは、我をして嘯き歌い傷み懷いて之を念わしむる所以なり。
○樵彼桑薪、卬<音昴>烘于煁<音忱>。維彼碩人、實勞我心。比也。樵、采也。桑薪、薪之善者也。卬、我。煁、燎也。煁、無釜之竈。可燎而不可烹飪者也。桑薪宜以烹飪、而但爲燎燭。以比嫡后之尊、而反見卑賤也。
【読み】
○彼の桑の薪を樵[こ]りて、卬[われ]<音昴>煁[じん]<音忱>に烘[た]けり。維れ彼の碩人、實に我が心を勞[くる]しましむ。比なり。樵は、采るなり。桑薪は、薪の善き者なり。卬は、我。烘は、燎[た]くなり。煁は、釜無き竈。燎く可くして烹飪す可からざる者なり。桑の薪は以て烹飪するに宜しくして、但燎燭と爲す。以て嫡后の尊くして、反って卑賤せらるるに比す。
○鼓鐘于宮、聲聞<音問>于外。念子懆懆<音慥>、視我邁邁。比也。懆懆、憂貌。邁邁、不顧也。○鼓鐘于宮、則聲聞于外矣。念子懆懆、而反視我邁邁、何哉。
【読み】
○鐘を宮に鼓てば、聲外に聞<音問>こゆ。子を念いて懆懆<音慥>たり、我を視ること邁邁たり。比なり。懆懆は、憂うる貌。邁邁は、顧みざるなり。○鐘を宮に鼓てば、則ち聲外に聞こゆ。子を念うこと懆懆として、反って我を視ること邁邁たるは、何ぞや。
○有鶖<音問>于在梁、有鶴在林。維彼碩人、實勞我心。比也。鶖、禿鶖也。梁、魚梁也。○蘇氏曰、鶖・鶴、皆以魚爲食。然鶴之於鶖、淸濁則有閒矣。今鶖在梁、而鶴在林、鶖則飽、而鶴則飢矣。幽王進褒姒而黜申后。譬之養鶖而棄鶴也。
【読み】
○鶖[しゅう]<音問>有り梁[やな]に在り、鶴有り林に在り。維れ彼の碩人、實に我が心を勞しましむ。比なり。鶖は、禿鶖なり。梁は、魚の梁なり。○蘇氏が曰く、鶖・鶴は、皆魚を以て食とす。然れども鶴の鶖に於る、淸濁は則ち閒て有り。今鶖梁に在りて、鶴林に在れば、鶖則ち飽きて、鶴則ち飢ゆ。幽王褒姒を進めて申后を黜く。之を鶖を養いて鶴を棄つるに譬う。
○鴛鴦在梁、戢其左翼。之子無良、二三其德。比也。戢其左翼、言不失其常也。良、善也。二三其德、則鴛鴦之不如也。
【読み】
○鴛鴦[えんおう]梁に在れば、其の左の翼を戢[おさ]む。之の子良き無し、其の德を二つ三つにす。比なり。其の左の翼を戢むとは、言うこころは、其の常を失わざるなり。良は、善きなり。其の德を二つ三つにすれば、則ち鴛鴦にも如かざるなり。
○有扁<音辯>斯石、履之卑兮。之子之遠、俾我疷<音抵。叶喬移反>兮。比也。扁、卑貌。俾、使。疷、病也。○有扁然而卑之石、則履之者亦卑矣。如妾之賤、則寵之者亦賤矣。是以之子之遠、而俾我疷。
【読み】
○扁<音辯>たる斯の石有り、之を履めば卑[ひく]し。之の子之れ遠ざかる、我をして疷[や]<音抵。叶喬移反>ましむ。比なり。扁は、卑き貌。俾は、使。疷は、病むなり。○扁然として卑き石有らば、則ち之を履む者も亦卑し。妾の賤しきが如き、則ち之を寵する者も亦賤し。是を以て之の子の遠ざかれる、而も我をして疷ましむなり。
白華八章章四句
【読み】
白華[はくか]八章章四句
緜蠻黃鳥、止于丘阿。道之云遠、我勞如何。飮<去聲>之食<音嗣>之、敎之誨之、命彼後車、謂之載之。比也。緜蠻、鳥聲。阿、曲阿也。後車、副車也。○此微賤勞苦、而思有所託者、爲鳥言以自比也。蓋曰、緜蠻之黃鳥自言、止於丘阿、而不能前。蓋道遠而勞甚矣。當是時也、有能飮之食之敎之誨之、又命後車以載之者乎。
【読み】
緜蠻[めんばん]たる黃鳥、丘の阿[くま]に止[い]る。道の云[ここ]に遠き、我が勞[くる]しみ如何。之を飮<去聲>ましめ之を食<音嗣>ましめ、之を敎え之を誨え、彼の後車に命じて、之れ之を載せよと謂わんや。比なり。緜蠻は、鳥の聲。阿は、曲れる阿なり。後車は、副車なり。○此れ微賤勞苦して、託する所有るを思う者、鳥の言を爲して以て自ら比すなり。蓋し曰く、緜蠻たる黃鳥自ら言う、丘の阿に止て、前[すす]むこと能わず。蓋し道遠くして勞しみ甚だし。是の時に當たりて、能く之を飮ましめ之を食ましめ之を敎え之を誨えて、又後車に命じて以て之を載する者有らんや、と。
○緜蠻黃鳥、止于丘隅。豈敢憚行、畏不能趨。飮之食之、敎之誨之、命彼後車、謂之載之。比也。隅、角。憚、畏也。趨、疾行也。
【読み】
○緜蠻たる黃鳥、丘の隅に止る。豈敢えて行くことを憚らんや、趨ること能わざるを畏る。之を飮ましめ之を食ましめ、之を敎え之を誨え、彼の後車に命じて、之れ之を載せよと謂わんや。比なり。隅は、角。憚は、畏るなり。趨は、疾く行くなり。
○緜蠻黃鳥、止于丘側。豈敢憚行、畏不能極。飮之食之、敎之誨之、命彼後車、謂之載之。比也。側、傍。極、至也。國語云、齊朝駕則夕極魯國。
【読み】
○緜蠻たる黃鳥、丘の側[かたわら]に止る。豈敢えて行くことを憚らんや、極[いた]ること能わざるを畏る。之を飮ましめ之を食ましめ、之を敎え之を誨え、彼の後車に命じて、之れ之を載せよと謂わんや。比なり。側は、傍ら。極は、至るなり。國語に云う、齊朝に駕すれば則ち夕に魯國に極る、と。
緜蠻三章章八句
【読み】
緜蠻[めんばん]三章章八句
幡幡<音翻>瓠葉、采之亨<叶鋪郎反>之。君子有酒、酌言嘗之。賦也。幡幡、瓠葉貌。○此亦燕飮之詩。言幡幡瓠葉、采之亨之、至薄也。然君子有酒、則亦以是酌而嘗之。蓋述主人之謙詞。言物雖薄、而必與賓客共之也。
【読み】
幡幡[はんぱん]<音翻>たる瓠[ひさこ]の葉、之を采り之を亨[に]<叶鋪郎反>る。君子酒有り、酌んで言[ここ]に之を嘗めり。賦なり。幡幡は、瓠の葉の貌。○此れ亦燕飮するの詩。言うこころは、幡幡たる瓠の葉、之を采り之を亨れば、至って薄し。然れども君子酒有れば、則ち亦是を以て酌んで之を嘗む。蓋し主人の謙詞を述ぶ。言うこころは、物薄しと雖も、而れども必ず賓客と之を共にせん。
○有兔斯首、炮<音庖>之燔<音煩。叶汾乾反>之。君子有酒、酌言獻<叶虛言反>之。賦也。有兔斯首、一兔也。猶數魚以尾也。毛曰炮、加火曰燔。亦薄物也。獻、獻之於賓也。
【読み】
○兔の斯の首有り、之を炮<音庖>し之を燔<音煩。叶汾乾反>す。君子酒有り、酌んで言に之を獻[すす]<叶虛言反>めり。賦なり。兔の斯の首有りとは、一兔なり。猶魚を數うるに尾を以てするがごとし。毛ながらを炮と曰い、火を加うるを燔と曰う。亦薄き物なり。獻は、之を賓に獻むるなり。
○有兔斯首、燔之炙<音隻。叶陟略反>之。君子有酒、酌言酢之。賦也。炕火曰炙。謂以物貫之、而舉於火上、以炙之。酢、報也。賓旣卒爵、而酌主人也。
【読み】
○兔の斯の首有り、之を燔し之を炙<音隻。叶陟略反>す。君子酒有り、酌んで言に之を酢[むく]えり。賦なり。火に炕[あぶ]るを炙と曰う。物を以て之を貫いて、火の上に舉げて、以て之を炙るを謂う。酢は、報うなり。賓旣に爵を卒えて、主人に酌むなり。
○有兔斯首、燔之炮<叶蒲侯反>之。君子有酒、酌言醻<音酬>之。賦也。醻、導飮也。
【読み】
○兔の斯の首有り、之を燔し之を炮す<叶蒲侯反>。君子酒有り、酌んで言に之に醻[むく]<音酬>えり。賦なり。醻は、飮むことを導くなり。
瓠葉四章章四句
【読み】
瓠葉[こよう]四章章四句
漸漸<音巉>之石、維其高矣。山川悠遠、維其勞矣。武人東征、不遑朝<叶直高反>矣。賦也。漸漸、高峻之貌。武人、將帥也。遑、暇也。言無朝旦之暇也。○將帥出征、經歷險遠、不堪勞苦、而作此詩也。
【読み】
漸漸[ざんざん]<音巉>たる石、維れ其れ高し。山川悠遠にして、維れ其れ勞[くる]しめり。武人東征して、朝<叶直高反>に遑[いとま]あらず。賦なり。漸漸は、高く峻しき貌。武人は、將帥なり。遑は、暇なり。言うこころは、朝旦の暇無し。○將帥出征して、險遠を經歷して、勞苦に堪えずして、此の詩を作れり。
○漸漸之石、維其卒<音崒>矣。山川悠遠、曷其沒<叶莫筆反>矣。武人東征、不遑出矣。賦也。卒、崔嵬也。謂山巓之末也。曷、何。沒、盡也。言所登歷、何時而可盡也。不遑出、謂但知深入、不暇謀出也。
【読み】
○漸漸たる石、維れ其れ卒[けわ]<音崒>し。山川悠遠にして、曷ぞ其れ沒[つ]<叶莫筆反>きん。武人東征して、出づるに遑あらず。賦なり。卒は、崔嵬なり。山の巓[いただき]の末を謂うなり。曷は、何。沒は、盡きるなり。言うこころは、登り歷る所は、何れの時にして盡く可きや。出づるに遑あらずは、謂ゆる但深く入るを知りて、出づるを謀るに暇あらざるなり。
○有豕白蹢<音的>、烝涉波矣。月離于畢、俾滂沱矣。武人東征、不遑他<音拖>矣。賦也。蹢、蹄。烝、衆也。離、月所宿也。畢、星名。豕涉波、月離于畢。將雨之驗也。○張子曰、豕之負塗曳泥、其常性也。今其足皆白、衆與涉波而去、水患之多可知矣。此言久役、又逢大雨。甚勞苦而不暇及他事也。
【読み】
○豕有り白き蹢[ひづめ]<音的>あり、烝[もろもろ]波を涉る。月畢に離[やど]り、滂沱[ぼうだ]たらしめんとす。武人東征して、他<音拖>に遑あらず。賦なり。蹢は、蹄。烝は、衆なり。離は、月の宿る所なり。畢は、星の名。豕波を涉り、月畢に離る。將に雨らんとするの驗なり。○張子が曰く、豕の塗を負い泥を曳くは、其の常性なり。今其の足皆白く、衆與に波を涉りて去れば、水患の多きこと知る可し。此れ言うこころは、久しく役して、又大雨に逢う。甚だ勞苦して他事に及ぶに暇あらざるなり。
漸漸之石三章章六句
【読み】
漸漸之石[ざんざんしせき]三章章六句
苕<音條>之華<音花>、芸<音云>其黃矣。心之憂矣、維其傷矣。比也。苕、陵苕也。本草云、卽今之紫葳。蔓生附於喬木之上。其華黃赤色。亦名凌霄。○詩人自以身逢周室之衰、如苕附物而生。雖榮不久。故以爲比、而自言其心之憂傷也。
【読み】
苕[ちょう]<音條>の華<音花>、芸[うん]<音云>として其れ黃なり。心の憂えあり、維れ其れ傷めり。比なり。苕は、陵苕なり。本草に云う、卽ち今の紫葳[しい]なり。蔓生じて喬木の上に附く。其の華黃赤色。亦凌霄[りょうしょう]と名づく、と。○詩人自ら身周室の衰うるに逢うを以て、苕の物に附いて生ずるが如し。榮えると雖も久しからず。故に以て比と爲して、自ら其の心の憂え傷むを言うなり。
○苕之華、其葉靑靑<音精>。知我如此、不如無生<叶桑經反>。○比也。靑靑、盛貌。然亦何能久哉。
【読み】
○苕の華、其の葉靑靑<音精>たり。知る、我れ此の如きは、生<叶桑經反>けること無きに如かず。○比なり。靑靑は、盛んなる貌。然れども亦何ぞ能く久しからんや。
○牂<音臧>羊墳<音焚>首、三星在罶<音柳>。人可以食、鮮<上聲>可以飽<叶補苟反>。○賦也。牂羊、牝羊也。墳、大也。羊瘠則首大也。罶、笱也。罶中無魚而水靜、但見三星之光而已。○言餓饉之餘、百物彫耗如此。苟且得食足矣。豈可望其飽哉。
【読み】
○牂[そう]<音臧>羊墳[おお]<音焚>いなる首あり、三星罶[うえ]<音柳>に在り。人以て食らう可し、以て飽<叶補苟反>く可きこと鮮<上聲>けん。○賦なり。牂羊は、牝羊なり。墳は、大いなり。羊瘠[や]せれば則ち首大いなり。罶は、笱[こう]なり。罶の中に魚無くして水靜か、但三星の光を見るのみ。○言うこころは、餓饉の餘り、百物彫耗すること此の如し。苟且も食を得れば足る。豈其の飽くことを望む可けんや。
苕之華三章章四句。陳氏曰、此詩其詞簡、其情哀。周室將亡、不可救矣。詩人傷之而已。
【読み】
苕之華[ちょうしか]三章章四句。陳氏が曰く、此の詩は其の詞簡[つづま]やかにて、其の情哀し。周室將に亡びんとし、救う可からず。詩人之を傷むのみ、と。
何草不黃、何日不行<叶戶郎反>。何人不將、經營四方。興也。草衰則黃。將、亦行也。○周室將亡、征役不息、行者苦之。故作此詩。言何草而不黃。何日而不行。何人而不將、以經營於四方也哉。
【読み】
何れの草か黃ならざらん、何れの日か行<叶戶郎反>かざらん。何れの人か將[ゆ]いて、四方を經營せざらん。興なり。草衰えれば則ち黃なる。將も、亦行くなり。○周室將に亡びんとして、征役息まず、行く者之に苦しむ。故に此の詩を作れり。言うこころは、何れの草にして黃ならざらん。何れの日にして行かざらん。何れの人にして將いて、以て四方を經營せざらんや。
○何草不玄<叶胡匀反>、何人不矜<音鰥>。哀我征夫、獨爲匪民。興也。玄、赤黑色也。旣黃而玄也。無妻曰矜。言從役過時、而不得歸、失其室家之樂也。哀我征夫、豈獨爲非民哉。
【読み】
○何れの草か玄[くろ]<叶胡匀反>からざん、何れの人か矜[やもお]<音鰥>ならざらん。哀しいかな我が征夫、獨り民に匪ずとす。興なり。玄は、赤黑色なり。旣に黃にして玄し。妻無きを矜[かん]と曰う。言うこころは、從役時を過ぎて、歸ることを得ず、其の室家の樂しみを失う。哀しいかな我が征夫、豈に獨り民に非ずとせんや。
○匪兕匪虎、率彼曠野<叶上與反>。哀我征夫、朝夕不暇<叶五反>。○賦也。率、循也。曠、空也。○言征夫匪兕匪虎、何爲使之循曠野、而朝夕不得閒暇也。
【読み】
○兕[じ]に匪ず虎に匪ず、彼の曠野<叶上與反>に率[したが]えり。哀しいかな我が征夫、朝夕暇<叶五反>あらず。○賦なり。率は、循うなり。曠は、空しきなり。○言うこころは、征夫兕に匪ず虎に匪ず、何爲れぞ之をして曠野に循いて、朝夕閒暇を得ざらしむる。
○有芃<音蓬>者狐<興車叶>、率彼幽草。有棧<士板反>之車、行彼周道。興也。芃、尾長貌。棧車、役車也。周道、大道也。言不得休息也。
【読み】
○芃[ほう]<音蓬>たる狐<興車叶>有り、彼の幽[ふか]き草に率う。棧<士板反>の車有り、彼の周道を行く。興なり。芃は、尾の長き貌。棧車は、役車なり。周道は、大道なり。言うこころは、休息を得ざるなり。
何草不黃四章章四句
【読み】
何草不黃[かそうふこう]四章章四句
都人士之什十篇四十三章二百句