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《詩經-朱熹集傳》 読み下し・訳
[西周 (公元前1046年 - 公元前771年)]





詩經-朱熹集傳
國風周南召南邶風 衛風王風鄭風 齊風魏風唐風秦風陳風檜風 曹風豳風
小雅鹿鳴之什白華之什彤弓之什祈父之什小旻之什北山之什桑扈之什都人士之什
大雅文王之什生民之什蕩之什
頌發周頌魯頌商頌) 、、 毛詩品物図攷( 1・2 艸部), (3・4 木鳥部), (5至7 獣虫魚部)
詩經のすべて 《詩經》 國風,小雅,大雅,頌    (その構成は 1.各地の民謡「風(ふう)」 2.貴族や朝廷の公事・宴席などで奏した音楽の歌詞「雅(が)」 3.朝廷の祭祀に用いた廟歌の歌詞「頌(ょう)」の3つに大別される)

詩經卷之四  朱熹集註


小雅二。雅者、正也。正樂之歌也。其篇本有大小之殊、而先儒說、又各有正變之別。以今考之、正小雅、燕饗之樂也。正大雅、會朝之樂、受釐陳戒之辭也。故或歡欣和說、以盡群下之情、或恭敬齊莊、以發先王之德。詞氣不同、音節亦異、多周公制作時所定也。及其變也、則事未必同、而各以其聲附之。其次序時世、則有不可考者矣。
【読み】
小雅[しょうが]二。雅は、正しきなり。正樂の歌なり。其の篇本大小の殊なる有りて、先儒の說、又各々正變の別有り。 今を以て之を考うるに、正小雅は、燕饗の樂なり。正大雅は、會朝の樂、釐[さいわい]を受けて戒めを陳ぶる辭なり。故に或は歡欣和說して、 以て群下の情を盡くし、或は恭敬齊莊にして、以て先王の德を發す。詞氣同じからずして、音節も亦異なり、多くは周公制作の時定むる所なり。其の變に及んでは、 則ち事未だ必ずしも同じからずして、各々其の聲を以て之に附く。其の次序時世は、則ち考う可からざる者有り。

鹿鳴之什二之一。雅頌無諸國別。故以十篇爲一卷、而謂之什。猶軍法以十人爲什也。
【読み】
鹿鳴[ろくめい]の什二の一。雅頌には諸國の別無し。故に十篇を以て一卷として、之を什と謂う。猶軍法に十人を以て什とするがごとし。

呦呦<音幽>鹿鳴<叶音芒>、食野之苹<叶音旁>。我有嘉賓、鼓瑟吹笙<叶師莊反>。吹笙鼓簧<音黃>、承筐是將。人之好<去聲>我、示我周行<叶音杭>○興也。呦呦、聲之和也。苹、藾蕭也。靑色、白莖如筋。我主人也。賓所燕之客、或本國之臣、或諸侯之使也。瑟笙、燕禮所用之樂也。簧、笙中之簧也。承、奉也。筐、所以盛幣帛者也。將、行也。奉筐而行幣帛。飮則以酬賓送酒。食則以侑賓勸飽也。周行、大道也。古者於旅也語。故欲於此聞其言也。○此燕饗賓客之詩也。蓋君臣之分、以嚴爲主、朝廷之禮、以敬爲主。然一於嚴敬、則情或不通、而無以盡其忠告之益。故先王因其飮食聚會、而制爲燕饗之禮、以通上下之情、而其樂歌又以鹿鳴起興、而言其禮意之厚如此。庶乎人之好我、而示我以大道也。記曰、私惠不歸德、君子不自留焉。蓋其所望於羣臣嘉賓者、唯在於示我以大道、則必不以私惠爲德而自留矣。嗚呼此其所以和樂而不淫也與。
【読み】
呦呦[ゆうゆう]<音幽>として鹿鳴<叶音芒>く、野の苹[へい]<叶音旁>を食む。我に嘉賓有り、瑟を鼓し笙<叶師莊反>を吹く。笙を吹き簧[ふえ]<音黃>を鼓し、筐を承[ささ]げて是れ將[おこな]う。人の我を好<去聲>みんずる、我に周行<叶音杭>を示さん。○興なり。呦呦は、聲の和らげるなり。苹は、藾蕭なり。靑色、白き莖は筋の如し。我は主人なり。賓は燕する所の客、或は本國の臣、或は諸侯の使なり。瑟笙は、燕禮用うる所の樂なり。簧[こう]は、笙中の簧なり。承は、奉ぐなり。筐は、幣帛を盛る所以の者なり。將は、行うなり。筐を奉げて幣帛を行う。飮むときは則ち以て賓に酬い酒を送る。食うときは則ち以て賓に侑[すす]めて飽くことを勸むなり。周行は、大道なり。古は旅に於て語る。故に此に於て其の言を聞かんと欲す。○此れ賓客を燕饗する詩なり。蓋し君臣の分は、嚴を以て主とし、朝廷の禮は、敬を以て主とす。然れども嚴敬に一なれば、則ち情或は通ぜずして、以て其の忠告の益を盡くすこと無し。故に先王其の飮食聚會に因りて、燕饗の禮を制爲して、以て上下の情を通ぜしめ、其の樂歌も又鹿鳴を以て興を起こして、其の禮意の厚きを言うこと此の如し。庶わくは人の我を好みんじて、我に示すに大道を以てせんことを、と。記に曰く、私に惠んで德に歸らざれば、君子自ら留まらず、と。蓋し其の羣臣嘉賓に望む所の者、唯我に示すに大道を以てするに在れば、則ち必ず私惠を以て德と爲して自ら留めず。嗚呼此れ其の和樂して淫せざる所以か。

○呦呦鹿鳴、食野之蒿。我有嘉賓、德音孔昭<叶側豪反>。視民不恌<他彫反。叶音佻>、君子是則是傚<叶胡高反>。我有旨酒、嘉賓式燕以敖<音翺>○興也。蒿、菣也。卽靑蒿也。孔、甚。昭、明也。視、與示同。恌、偸薄也。敖、游也。○言嘉賓之德音甚明、足以示民使不偸薄。而君子所當則傚、則亦不待言語之閒、而其所以示我者深矣。
【読み】
○呦呦として鹿鳴く、野の蒿[こう]を食む。我に嘉賓有り、德音孔[はなは]だ昭<叶側豪反>らかなり。民に視[しめ]すこと恌[うす]<他彫反。叶音佻>からず、君子是れ則り是れ傚<叶胡高反>う。我に旨酒有り、嘉賓と式[もっ]て燕して以て敖[あそ]<音翺>ばん。○興なり。蒿は、菣[きん]なり。卽ち靑蒿なり。孔は、甚だ。昭は、明らかなり。視は、示すと同じ。恌は、偸薄[とうはく]なり。敖は、游ぶなり。○言うこころは、嘉賓の德音甚だ明らかにして、以て民に示して偸薄ならざらしむるに足る。而して君子の當に則ち傚うべき所も、則ち亦言語の閒を待たずして、其の我に示す所以の者深し。

○呦呦鹿鳴、食野之芩<音琴>。我有嘉賓、鼓瑟鼓琴。鼓瑟鼓琴、和樂<音洛>且湛<音耽。叶持林反>。我有旨酒、以燕樂嘉賓之心。興也。芩、草名。莖如釵股、葉如竹蔓生。湛、樂之久也。燕、安也。○言安樂其心、則非止養其體娯其外而已。蓋所以致其殷勤之厚、而欲其敎示之無已也。
【読み】
○呦呦として鹿鳴く、野の芩[きん]<音琴>を食む。我に嘉賓有り、瑟を鼓し琴を鼓す。瑟を鼓し琴を鼓し、和樂<音洛>して且[また]湛[たの]<音耽。叶持林反>しむ。我に旨酒有り、以て嘉賓の心を燕樂せしめん。興なり。芩は、草の名。莖は釵股の如く、葉は竹の如くにして蔓生す。湛は、樂しみの久しきなり。燕は、安んずるなり。○言うこころは、其の心を安樂せしむとは、則ち止[ただ]其の體を養い其の外を娯しましむるのみに非ず。蓋し其の殷勤の厚きを致して、其の敎示の已むこと無きことを欲する所以なり。

鹿鳴三章章八句。按序以此爲燕羣臣嘉賓之詩。而燕禮亦云、工歌鹿鳴・四牡・皇皇者華。卽謂此也。郷飮酒用樂亦然。而學記言、大學始敎宵雅肄三。亦謂此三詩。然則又爲上下通用之樂矣。豈本爲燕羣臣嘉賓而作、其後乃推而用之郷人也與。然於朝曰君臣焉、於燕曰賓主焉、先王以禮使臣之厚、於此見矣。○范氏曰、食之以禮、樂之以樂、將之以實、求之以誠。此所以得其心也。賢者豈以飮食幣帛爲悅哉。夫婚姻不備、則貞女不行也。禮樂不備、則賢者不處也。賢者不處、則豈得樂而盡其心乎。
【読み】
鹿鳴[ろくめい]三章章八句。按ずるに序に此を以て羣臣嘉賓を燕するの詩とす。而して燕禮にも亦云う、工鹿鳴・四牡・皇皇者華を歌う、と。卽ち此を謂うなり。郷飮酒に樂を用うるにも亦然り。而も學記に言く、大學始めて敎うるは宵雅にして三つを肄[なら]わす、と。亦此の三詩を謂えり。然らば則ち又上下通用の樂爲り。豈本羣臣嘉賓を燕するが爲にして作り、其の後乃ち推して之を郷人に用うるか。然れども朝に於ては君臣と曰い、燕に於ては賓主と曰う、先王禮を以て臣を使うの厚き、此に於て見る。○范氏が曰く、之を食するに禮を以てし、之を樂しむるに樂を以てし、之を將[すす]むるに實を以てし、之を求むるに誠を以てす。此れ其の心を得る所以なり。賢者豈飮食幣帛を以て悅びとせんや。夫れ婚姻備わらざれば、則ち貞女行かず。禮樂備わらざれば、則ち賢者處らず。賢者處らざれば、則ち豈樂しんで其の心を盡くすことを得んや、と。


四牡騑騑<音非>、周道倭<音威>遲、豈不懷歸。王事靡盬<音古>、我心傷悲。賦也。騑騑、行不止之貌。周道、大路也。倭遲、回遠之貌。盬、不堅固也。○此勞使臣之詩也。夫君之使臣、臣之事君、禮也。故爲臣者、奔走於王事、特以盡其職分之所當爲而已。何敢自以爲勞哉。然君之心、則不敢以是而自安也。故燕饗之際、叙其情而閔其勞。言駕此四牡、而出使於外、其道路之回遠如此。當是時豈不思歸乎。特以王事不可以不堅固、不敢狥私以廢公。是以内顧而傷悲也。臣勞於事而不自言。君探其情而代之言。上下之閒、可謂、各盡其道矣。傳曰、思歸者、私恩也。靡盬者、公義也。傷悲者、情思也。無私恩、非孝子也。無公義、非忠臣也。君子不以私害公、不以家事辭王事。范氏曰、臣之事上也、必先公而後私。君之勞臣也、必先恩而後義。
【読み】
四牡[しぼ]騑騑[ひひ]<音非>たり、周道倭<音威>遲たり、豈歸ることを懷わざらんや。王事盬[もろ]<音古>いこと靡[な]し、我が心傷み悲しむ。賦なり。騑騑は、行って止まらざるの貌。周道は、大路なり。倭遲は、回遠の貌。盬は、堅固ならざるなり。○此れ使臣を勞するの詩なり。夫れ君の臣を使う、臣の君に事うるは、禮なり。故に臣爲る者は、王事に奔走し、特に以て其の職分の當にすべき所を盡くすのみ。何か敢えて自ら以て勞とせんや。然れども君の心は、則ち敢えて是を以てして自ら安んぜず。故に燕饗の際、其の情を叙べて其の勞を閔れむ。言うこころは、此の四牡に駕して、出でて外に使いす、其の道路の回遠なること此の如し。是の時に當たりて豈歸ることを思わざらんや。特に王事の以て堅固ならずんばある可からざるを以て、敢えて私に狥[したが]いて以て公を廢てず。是を以て内に顧みて傷み悲しむ。臣事に勞して自ら言わず。君其の情を探りて之に代わって言う。上下の閒、謂う可し、各々其の道を盡くす、と。傳に曰く、歸ることを思うは、私恩なり。盬いこと靡きは、公義なり。傷み悲しむは、情思なり。私恩無きは、孝子に非ず。公義無きは、忠臣に非ず。君子は私を以て公を害せず、家事を以て王事を辭せず、と。范氏が曰く、臣の上に事うる、必ず公を先にして私を後にす。君の臣を勞する、必ず恩を先にして義を後にす、と。

○四牡騑騑、嘽嘽<音灘><音洛><叶滿補反>、豈不懷歸。王事靡盬、不遑啓處。賦也。嘽嘽、衆盛之貌。白馬黑鬣曰駱。遑、暇。啓、跪。處、居也。
【読み】
○四牡騑騑たり、嘽嘽[たんたん]<音灘>たる駱<音洛><叶滿補反>、豈歸ることを懷わざらんや。王事盬いこと靡し、啓[ひざまず]き處るに遑[いとま]あらず。賦なり。嘽嘽は、衆く盛んなる貌。白馬の黑き鬣[たてがみ]を駱と曰う。遑は、暇。啓は、跪く。處は、居るなり。

○翩翩<音篇>者鵻<音隹>、載飛載下<叶後五反>、集于苞栩<音許>。王事靡盬、不遑將父。興也。翩翩、飛貌。鵻、夫不也。今鵓鳩也。凡鳥之短尾者、皆鵻屬。將、養也。○翩翩者鵻、猶或飛或下、而集於所安之處。今使人乃勞苦於外、而不遑養其父。此君人者、所以不能自安、而深以爲憂也。范氏曰、忠臣孝子之行役、未嘗不念其親。君之使臣、豈待其勞苦而自傷哉。亦憂其憂如己而已矣。此聖人所以感人心也。
【読み】
○翩翩[へんぺん]<音篇>たる鵻[すい]<音隹>、載[すなわ]ち飛び載ち下<叶後五反>り、苞栩[ほうく]<音許>に集[い]る。王事盬いこと靡し、父を將[やしな]うに遑あらず。興なり。翩翩は、飛ぶ貌。鵻は、夫不なり。今の鵓鳩[ぼっきゅう]なり。凡そ鳥の短尾なる者は、皆鵻の屬。將は、養うなり。○翩翩たる鵻も、猶或は飛び或は下りて、安んずる所の處に集る。今人をして乃ち外に勞苦せしめて、其の父を養うに遑あらず。此れ人に君たる者の、自ら安んずること能わざる所以にして、深く以て憂えとす。范氏が曰く、忠臣孝子の行役、未だ嘗て其の親を念わずんばあらず。君の臣を使う、豈其の勞苦を待ちて自ら傷まんや。亦其の憂えを憂うること己が如くなるのみ。此れ聖人の人心を感ずる所以なり。

○翩翩者鵻、載飛載止、集于苞杞<音起>。王事靡盬、不遑將母<叶滿彼反>○興也。杞、枸檵也。
【読み】
○翩翩たる鵻、載ち飛び載ち止まり、苞杞<音起>に集る。王事盬いこと靡し、母<叶滿彼反>を將うに遑あらず。○興なり。杞は、枸檵[こうけい]なり。

○駕彼四駱、載驟駸駸<音侵>、豈不懷歸。是用作歌、將母來諗<音審。叶深>○賦也。駸駸、驟貌。諗、告也。以其不獲養父母之情、而來告於君也。非使人作是歌也。設言其情以勞之耳。獨言將母者、因上章之文也。
【読み】
○彼の四駱を駕して、載ち驟[は]するに駸駸[しんしん]<音侵>たり、豈に歸ることを懷わざらんや。是を用[もっ]て歌を作り、母を將うを來り諗[つ]<音審。叶深>ぐ。○賦なり。駸駸は、驟する貌。諗[しん]は、告ぐなり。其の父母を養うことを獲ざるの情を以て、來りて君に告ぐなり。人をして是の歌を作らしむるに非ず。其の情を設言して以て之を勞するのみ。獨り母を將うと言うは、上章の文に因りてなり。

四牡五章章五句。按序言、此詩所以勞使臣之來。甚協詩意。故春秋傳亦云、而外傳以爲章使臣之勤。所謂使臣、雖叔孫之自稱、亦正合其本事也。但儀禮亦以爲上下通用之樂。疑亦本爲勞使臣而作、其後乃移以他用耳。
【読み】
四牡[しぼ]五章章五句。按ずるに序に言う、此の詩使臣の來るを勞する所以、と。甚だ詩の意に協えり。故に春秋傳にも亦云い、而して外傳以て使臣の勤めを章[あらわ]すとす。所謂使臣は、叔孫の自ら稱すと雖も、亦正に其の本事に合うなり。但儀禮に亦以て上下通用の樂とす。疑うらくは亦本使臣を勞する爲にして作り、其の後乃ち移して以て他に用うるのみ。


皇皇者華<叶芳無反>、于彼原隰。駪駪<音莘>征夫、每懷靡及。興也。皇皇、猶煌煌也。華、草木之華也。高平曰原、下濕曰隰。駪駪、衆多疾行之貌。征夫、使臣與其屬也。懷、思也。○此遣使臣之詩也。君之使臣、固欲其宣上德而達下情。而臣之受命、亦惟恐其無以副君之意也。故先王之遣使臣也、美其行道之勤、而述其心之所懷曰、彼煌煌之華、則于彼原隰矣。此駪駪然之征夫、則其所懷思、常若有所不及矣。蓋亦因以爲戒。然其辭之婉而不迫如此。詩之忠厚亦可見矣。
【読み】
皇皇たる華<叶芳無反>、彼の原隰[げんしゅう]に。駪駪[しんしん]<音莘>たる征夫、每に懷いて及ぶこと靡し。興なり。皇皇は、猶煌煌のごとし。華は、草木の華なり。高く平らかなるを原と曰い、下[ひく]く濕[うるお]えるを隰と曰う。駪駪は、衆多疾く行くの貌。征夫は、使臣と其の屬となり。懷は、思うなり。○此れ使臣を遣るの詩なり。君の使臣は、固に其の上德を宣べて下情を達せんと欲す。而して臣の命を受くるも、亦惟其の以て君の意に副[かな]うこと無きを恐る。故に先王の使臣を遣るや、其の行く道の勤めを美めて、其の心の懷う所を述べて曰く、彼の煌煌たる華は、則ち彼の原隰に于[おい]てす。此れ駪駪然たる征夫は、則ち其の懷い思う所、常に及ばざる所有るが若し、と。蓋し亦因りて以て戒めとす。然れども其の辭の婉にして迫らざること此の如し。詩の忠厚なるも亦見る可し。

○我馬維駒、六轡如濡。載馳載驅、周爰咨諏。賦也。如濡、鮮澤也。周、徧。爰、於也。咨諏、訪問也。○使臣自以每懷靡及、故廣詢博訪、以補其不及、而盡其職也。程子曰、咨諏、使臣之大務。
【読み】
○我が馬維れ駒、六轡[りくひ]濡[うるお]えるが如し。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨[と]い諏[はか]る。賦なり。濡えるが如しとは、鮮やかに澤[つや]やかなり。周は、徧く。爰は、於なり。咨諏は、訪ね問うなり。○使臣自ら懷う每に及ぶこと靡きを以て、故に廣く詢[はか]り博く訪ねて、以て其の及ばざるを補いて、其の職を盡くす。程子が曰く、咨諏は、使臣の大務なり、と。

○我馬維騏<音其>、六轡如絲<叶新齎反>。載馳載驅、周爰咨謀<叶莫悲反>○賦也。如絲、調忍也。謀、猶諏也。變文以協韻耳。下章放此。
【読み】
○我が馬維れ騏<音其>、六轡絲<叶新齎反>の如し。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨い謀<叶莫悲反>る。○賦なり。絲の如しとは、調忍なり。謀は、猶諏のごとし。文を變じて以て韻を協えるのみ。下の章も此に放え。

○我馬維駱、六轡沃<鳥毒反>若。載馳載驅、周爰咨度<入聲>○賦也。沃若、猶如濡也。度、猶謀也。
【読み】
○我が馬維れ駱、六轡沃<鳥毒反>若たり。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨い度<入聲>る。○賦なり。沃若は、猶濡えるが如しのごとし。度は、猶謀るのごとし。

○我馬維駰<音因>、六轡旣均。載馳載驅、周爰咨詢。賦也。陰白雜毛曰駰。均、調也。詢、猶度也。
【読み】
○我が馬維れ駰[いん]<音因>、六轡旣に均[ととの]えり。載ち馳せ載ち驅し、周く爰に咨い詢る。賦なり。陰白雜毛を駰と曰う。均は、調うなり。詢は、猶度るのごとし。

皇皇者華五章章四句。按序、以此詩爲君遣使臣。春秋内外傳皆云、君敎使臣。其說已見前篇。儀禮亦見鹿鳴。疑亦本爲遣使臣而作、其後乃移以他用也。然叔孫穆子所謂、君敎使臣曰、每懷靡及、諏謀度詢、必咨於周。敢不拜敎。可謂得詩之意矣。范氏曰、王者遣使於四方。敎之以咨諏善道、將以廣聰明也。夫臣欲助其君之德、必求賢以自助。故臣能從善、則可以善君矣。臣能聽諫、則可以諫君矣。未有不自治、而能正君者也。
【読み】
皇皇者華[こうこうしゃか]五章章四句。序を按ずるに、此の詩を以て君使臣を遣らんとす。春秋内外傳に皆云う、君使臣を敎う、と。其の說已に前篇に見えたり。儀禮亦鹿鳴を見す。疑うらくは亦本使臣を遣るが爲にして作り、其の後乃ち移して以て他に用う。然れども叔孫穆子が所謂、君使臣に敎えて曰く、懷う每に及ぶこと靡し、諏い謀り度り詢りて、必ず周きに咨う。敢えて敎を拜せざらんや、と。詩の意を得たりと謂う可し。范氏が曰く、王者使を四方に遣る。之に敎うるに善道を咨い諏ることを以てするは、將に以て聰明を廣めんとするなり。夫れ臣其の君の德を助けんと欲すれば、必ず賢を求めて以て自ら助く。故に臣能く善に從わば、則ち以て君を善くす可し。臣能く諫めを聽かば、則ち以て君を諫む可し。未だ自ら治めずして、能く君を正す者有らず、と。


常棣之華、鄂<五各反>不韡韡<音偉>。凡今之人、莫如兄弟<待禮反>○興也。常棣、棣也。子如櫻桃可食。鄂、鄂然外見之貌。不、猶豈不也。韡韡、光明貌。○此燕兄弟之樂歌。故言常棣之華、則其鄂然、而外見者、豈不韡韡乎。凡今之人、則豈有如兄弟者乎。
【読み】
常棣[じょうてい]の華、鄂[がく]<五各反>として韡韡[いい]<音偉>たらざらんや。凡そ今の人、兄弟<待禮反>に如くは莫し。○興なり。常棣は、棣なり。子は櫻桃の如くにして食う可し。鄂は、鄂然として外に見るの貌。不は、猶豈不のごとし。韡韡は、光明の貌。○此れ兄弟を燕する樂歌。故に言う、常棣の華は、則ち其れ鄂然として、外に見る者、豈韡韡たらざらんや。凡そ今の人、則ち豈兄弟に如く者有らんや、と。

○死喪之威、兄弟孔懷<叶胡威反>。原隰裒矣<薄侯反>、兄弟求矣。賦也。威、畏。懷、思。裒、聚也。○言死喪之禍、他人所畏惡。惟兄弟爲相恤耳。至於積尸裒聚於原野之閒、亦惟兄弟爲相求也。此詩蓋周公旣誅管蔡而作。故此章以下、專以死喪急難鬭鬩之事爲言。其志切其情哀。乃處兄弟之變、如孟子所謂其兄關弓而射之、則己埀涕泣而道之者。序以爲、閔管蔡之失道者、得之。而又以爲文武之詩、則誤矣。大抵舊說詩之時世、皆不足信。舉此自相矛盾者、以見其一端、後不能悉辨也。
【読み】
○死喪の威[おそ]れも、兄弟孔[はなは]だ懷<叶胡威反>う。原隰[げんしゅう]の裒[あつ]<薄侯反>まれるにも、兄弟求む。賦なり。威は、畏れ。懷は、思う。裒は、聚まるなり。○言うこころは、死喪の禍いは、他人畏れ惡む所。惟兄弟のみ相恤れむことをするのみ。尸を積んで原野の閒に裒め聚むるに至っても、亦惟兄弟のみ相求むることをす。此の詩は蓋し周公旣に管蔡を誅して作れり。故に此の章以下、專ら死喪急難鬭鬩の事を以て言を爲す。其の志切にして其の情哀しむ。乃ち兄弟の變に處る、孟子所謂其の兄弓を關[ひ]いて之を射ば、則ち己涕泣を埀れて之を道わんという者の如し。序に以爲えらく、管蔡の道を失えるを閔れむとは、之を得たり。而して又以て文武の詩と爲すは、則ち誤れり。大抵舊說の詩の時世は、皆信ずるに足らず。此を舉げて自ずから相矛盾する者、以て其の一端を見し、後に悉く辨ずること能わず。

○脊<音積><音零>在原、兄弟急難<叶泥浴反>。每有良朋、况也永歎<音灘。叶他涓反>○興也。脊令、雝渠。水鳥也。况、發語詞。或曰、當作怳。○脊令飛則鳴、行則揺。有急難之意。故以起興而言。當此之時、雖有良朋、不過爲之長歎息而已。力或不能相及也。東萊呂氏曰、疎其所親、而親其所疎、此失其本心者也。故此詩反覆言朋友之不如兄弟。蓋示之以親疎之分、使之反循其本也。本心旣得、則由親及疎、秩然有序、兄弟之親旣篤、朋友之義亦敦矣。初非薄於朋友也。苟雜施而不孫、雖曰厚於朋友、如無源之水。朝滿夕除。胡可保哉。或曰、人之在難、朋友亦可以坐視與。曰、每有良朋、况也永歎、則非不憂憫。但視兄弟急難、爲有差等耳。詩人之詞、容有抑揚。然常棣、周公作也。聖人之言、小大高下皆宜、而前後左右不相悖。
【読み】
○脊[せき]<音積><音零>原に在り、兄弟急難<叶泥浴反>あり。良朋有りと每[いえど]も、况[ただ]に永く歎<音灘。叶他涓反>くのみ。○興なり。脊令は、雝渠[ようきょ]。水鳥なり。况は、發語の詞。或ひと曰く、當に怳[きょう]に作るべし、と。○脊令飛べば則ち鳴き、行けば則ち揺らぐ。急難の意有り。故に以て興を起こして言う。此の時に當たって、良朋有りと雖も、之が爲に長く歎息するに過ぎざるのみ。力或は相及ぶこと能わざるなり。東萊の呂氏が曰く、其の親しむ所を疎んじて、其の疎んずる所を親しむは、此れ其の本心を失う者なり。故に此の詩反覆して朋友の兄弟に如かざることを言う。蓋し之に示すに親疎の分を以て、之をして反って其の本に循わしむるなり。本心旣に得ば、則ち親より疎に及び、秩然として序有り、兄弟の親旣に篤く、朋友の義も亦敦し。初めより朋友に薄きには非ず。苟も雜え施して孫[したが]わざれば、朋友に厚しと曰うと雖も、源無きの水の如し。朝に滿ちて夕に除[つ]きる。胡ぞ保つ可けんや、と。或ひと曰く、人の難に在る、朋友も亦以て坐視す可けんや、と。曰く、良朋有りと每も、况に永歎するは、則ち憂憫せざるには非ず。但兄弟の急難に視れば、差等有りとするのみ。詩人の詞は、抑揚有るべし。然れども常棣は、周公の作なり。聖人の言は、小大高下皆宜しくして、前後左右相悖らず。

○兄弟鬩<許歷反>于牆、外禦其務<音侮>。每有良朋、烝<之承反>也無戎<叶而王反>○賦也。鬩、鬭狠也。禦、禁也。烝、發語聲。戎、助也。○言兄弟設有不幸鬭狠于内、然有外侮、則同心禦之矣。雖有良朋、豈能有所助乎。富辰曰、兄弟雖有小忿不廢懿親。
【読み】
○兄弟牆に鬩[せめ]<許歷反>げども、外其の務[あなどり]<音侮>を禦ぐ。良朋有りと每も、烝[ここ]<之承反>に戎[たすけ]<叶而王反>無し。○賦なり。鬩は、鬭狠[とうこん]なり。禦は、禁[ふせ]ぐなり。烝は、發語の聲。戎は、助けなり。○言うこころは、兄弟設[たと]い不幸にして内に鬭狠有るとも、然れども外の侮り有らば、則ち心を同じくして之を禦ぐ。良朋有りと雖も、豈能く助くる所有らんや。富辰が曰く、兄弟は小忿有りと雖も懿親を廢てず、と。

○喪亂旣平、旣安且寧。雖有兄弟、不如友生<叶桑經反>○賦也。上章、言患難之時、兄弟相救、非朋友可比。此章遂言安寧之後、乃有視兄弟不如友生者。悖理之甚也。
【読み】
○喪亂旣に平らぎ、旣に安く且つ寧し。兄弟有りと雖も、友生<叶桑經反>に如かず。○賦なり。上章は、患難の時、兄弟の相救うこと、朋友の比す可きに非ざるを言う。此の章遂に安寧の後は、乃ち兄弟を視ること友生に如かざる者有るを言う。理に悖ることの甚だしきなり。

○儐<賓胤反>爾籩豆、飮酒之飫<於慮反>、兄弟旣具、和樂<音洛>且孺。賦也。儐、陳。飫、饜。具、倶也。孺、小兒之慕父母也。○言陳籩豆以醉飽、而兄弟有不具焉、則無與共享其樂矣。
【読み】
○爾の籩豆を儐[つら]<賓胤反>ね、酒を飮むの飫[あ]<於慮反>ける。兄弟旣に具にすれば、和樂<音洛>して且つ孺[した]う。賦なり。儐は、陳ねる。飫は、饜[あ]く。具は、倶なり。孺は、小兒の父母を慕うなり。○言うこころは、籩豆を陳ねて以て醉飽して、而も兄弟具わらざる有れば、則ち與に共に其の樂しみを享くること無し。

○妻子好<去聲>合、如鼓瑟琴。兄弟旣翕<音吸>、和樂且湛<音耽。叶持林反>○賦也。翕、合也。○言妻子好合、如琴瑟之和、而兄弟有不合焉、則無以久其樂矣。
【読み】
○妻子好<去聲>みんじ合い、瑟琴を鼓すが如し。兄弟旣に翕[あ]<音吸>えば、和樂して且つ湛[たの]<音耽。叶持林反>しむ。○賦なり。翕は、合うなり。○言うこころは、妻子好みんじ合うこと、琴瑟の和するが如くにして、兄弟合わざること有らば、則ち以て其の樂しみを久しくすること無し。

○宜爾室家<叶古胡反>、樂爾妻帑<音奴>。是究是圖、亶其然乎。賦也。帑、子。究、窮。圖、謀。亶、信也。○宜爾室家者、兄弟具而後樂且孺也。樂爾妻帑者、兄弟翕而後樂且湛也。兄弟於人、其重如此。試以是究而圖之、豈不信其然乎。東萊呂氏曰、告人以兄弟之當親、未有不以爲然者也。苟非是究是圖、實從事於此、則亦未有誠知其然者也。不誠知其然、則所知者特其名而已矣。凡學蓋莫不然。
【読み】
○爾の室家<叶古胡反>に宜く、爾の妻帑[さいど]<音奴>を樂しむ。是れ究め是れ圖れば、亶[まこと]に其れ然らん。賦なり。帑は、子。究は、窮む。圖は、謀る。亶は、信なり。○爾の室家に宜しとは、兄弟具わりて而して後に樂しみ且つ孺うなり。爾の妻帑を樂しむとは、兄弟翕って而して後に樂しみ且つ湛しむなり。兄弟の人に於る、其の重きこと此の如し。試みに是を以て究めて之を圖るに、豈信に其れ然らんや。東萊の呂氏が曰く、人に告ぐるに兄弟の當に親しむべきを以てして、未だ以て然りとせざる者は有らず。苟も是れ究め是れ圖るに非ずして、實に事に此に從わば、則ち亦未だ誠に其の然ることを知る者有らざるなり。誠に其の然ることを知らざれば、則ち知る所の者は特に其の名のみ。凡そ學は蓋し然らざること莫し、と。

常棣八章章四句。此詩首章、略言至親莫如兄弟之意。次章乃以意外不測之事言之、以明兄弟之情。其切如此。三章但言急難、則淺於死喪矣。至於四章、則又以其情義之甚薄、而猶有所不能已者言之。其序若曰。不待死喪、然後相救。但有急難、便當相助。言又不幸、而至於或有小忿、猶必共禦外侮。其所以言之者、雖若益輕以約、而所以著夫兄弟之義者、益深且切矣。至於五章、遂言安寧之後、乃謂兄弟不如友生、則是至親反爲路人、而人道或幾乎息矣。故下兩章、乃復極言兄弟之恩、異形同氣。死生苦樂、無適而不相須之意。卒章又申告之、使反覆窮極而驗其信然。可謂、委曲漸次說盡人情矣。讀者宜深味之。
【読み】
常棣[じょうてい]八章章四句。此の詩の首章は、略々至親は兄弟に如くは莫きことの意を言う。次章は乃ち意外不測の事を以て之を言い、以て兄弟の情を明かす。其の切なること此の如し。三章は但急難は、則ち死喪より淺きを言う。四章に至りては、則ち又其の情義の甚だ薄くして、猶已むこと能わざる所有る者を以て之を言う。其の序に曰うが若し。死喪を待たず、然して後に相救[おさ]む。但急難有れば、便ち當に相助くべし。言う、又不幸にして、或は小忿有るに至るとも、猶必ず共に外の侮りを禦ぐ、と。其の之を言う所以の者は、益々輕くして以て約やかなるが若しと雖も、而して夫の兄弟の義を著す所以の者、益々深くして且つ切なればなり。五章に至りては、遂に言う、安寧の後、乃ち兄弟は友生に如かずと謂わば、則ち是れ至親反って路人と爲りて、人道或は息むに幾し。故に下の兩章、乃ち復極めて言う、兄弟の恩は、形を異にして氣を同じくす。死生苦樂も、適くとして相須[ま]たざるの意無し、と。卒章も又申ねて之を告げ、反覆窮極して其の信に然るを驗せしむ。謂う可し、委曲漸次人情を說盡す、と。讀者宜しく深く之を味わうべし。


伐木丁丁<音爭>、鳥鳴嚶嚶<音鶯>。出自幽谷、遷于喬木。嚶其鳴矣、求其友聲。相<去聲>彼鳥矣、猶求友聲。矧伊人矣、不求友生<叶桑經反>。神之聽之、終和且平。興也。丁丁、伐木聲。嚶嚶、鳥聲之和也。幽、深。遷、升。喬、高。相、視。矧、况也。○此燕朋友故舊之樂歌。故以伐木之丁丁、興鳥鳴之嚶嚶、而言鳥之求友、遂以鳥之求友、喩人之不可無友也。人能篤朋友之好、則神之聽之、終和且平矣。
【読み】
木を伐ること丁丁[とうとう]<音爭>たり、鳥の鳴くこと嚶嚶[おうおう]<音鶯>たり。幽谷より出でて、喬木に遷[のぼ]る。嚶として其れ鳴く、其の友を求むる聲あり。彼の鳥を相[み]<去聲>るにも、猶友を求むる聲あり。矧[いわ]んや伊[こ]の人、友生<叶桑經反>を求めざらんや。神の之を聽いて、終に和らぎ且つ平らかならん。興なり。丁丁は、木を伐る聲。嚶嚶は、鳥聲の和らぐなり。幽は、深き。遷は、升る。喬は、高き。相は、視る。矧は、况んやなり。○此れ朋友故舊を燕するの樂歌。故に木を伐ることの丁丁たるを以て、鳥鳴くことの嚶嚶たるを興して、鳥の友を求むることを言い、遂に鳥の友を求むるを以て、人の友無かる可からざるに喩[たと]う。人能く朋友の好を篤くすれば、則ち神の之を聽いて、終に和らぎ且つ平らかならん。

○伐木許許<音虎>、釃<音師>酒有藇<音序>。旣有肥羜<音苧>、以速諸父。寧適不來、微我弗顧<叶居五反>。於<音烏>粲洒<去聲><去聲。叶蘇吼反>、陳饋八簋<叶已有反>。旣有肥牡、以速諸舅。寧適不來、微我有咎。興也。許許、衆人共力之聲。淮南子曰、舉大木者呼邪許。蓋舉重勸力之歌也。釃酒者、或以筐或以草、泲之而去其糟也。禮所謂、縮酌用茅是也。藇、美貌。羜、未成羊也。速、召也。諸父、朋友之同姓而尊者也。微、無。顧、念也。於、歎辭。粲、鮮明貌。八簋、器之盛也。諸舅、朋友之異姓而尊者也。先諸父而後諸舅者、親疎之殺也。咎、過也。○言具酒食、以樂朋友如此。寧使彼適有故而不來、而無使我恩意之不至也。孔子曰、所求乎朋友、先施之未能也。此可謂能先施矣。
【読み】
○木を伐ること許許[ここ]<音虎>たり、酒を釃[こ]<音師>すこと藇[じょ]<音序>たる有り。旣に肥羜[ひちょ]<音苧>有りて、以て諸父を速[まね]く。寧ろ適々來らざるとも、我が顧[おも]<叶居五反>わざること微[な]けん。於[ああ]<音烏>粲[あざ]やかに洒<去聲><去聲。叶蘇吼反>し、饋[き]を陳ぬること八簋[き]<叶已有反>。旣に肥牡有り、以て諸舅を速く。寧ろ適々來らざるとも、我が咎有ること微けん。興なり。許許は、衆人力を共にするの聲。淮南子に曰く、大木を舉ぐ者は邪許と呼ぶ、と。蓋し重きを舉ぐるに力を勸むるの歌なり。酒を釃すとは、或は筐を以てし或は草を以てし、之を泲[した]して其の糟を去るなり。禮に所謂、縮酌茅を用うとは是れなり。藇は、美き貌。羜は、未だ成らざる羊なり。速は、召くなり。諸父は、朋友の同姓にして尊者なり。微は、無し。顧は、念うなり。於は、歎ずる辭。粲は、鮮明の貌。八簋は、器の盛んなるなり。諸舅は、朋友の異姓にして尊者なり。諸父を先にして諸舅を後にするは、親疎の殺なり。咎は、過ちなり。○言うこころは、酒食を具えて、以て朋友を樂しむこと此の如し。寧ろ彼をして適々故有りて來らざらしめて、我をして恩意の至らざらしむること無けん。孔子曰く、朋友に求むる所、先ず之を施すこと未だ能わず、と。此れ能く先ず施すと謂う可し。

○伐木于阪<叶孚臠反>、釃酒有衍、籩豆有踐<上聲>、兄弟無遠。民之失德、乾餱<音侯>以愆<叶起淺反>。有酒湑<上聲>我、無酒酤<音古>我。坎坎鼓我、蹲蹲<音存>舞我。迨<音待>我暇<叶後五反>矣、飮此湑矣。興也。、多也。踐、陳列貌。兄弟、朋友之同儕者。無遠、皆在也。先諸舅而後兄弟者、尊卑之等也。乾餱、食之薄者也。愆、過也。湑、亦釃也。酤、買也。坎坎、擊鼓聲。蹲蹲、舞貌。迨、及也。○言人之所以至於失朋友之義者、非必有大故。或但以乾餱之薄、不以分人、而至於有愆耳。故我於朋友、不計有無。但及閒暇、則飮酒以相樂也。
【読み】
○木を阪<叶孚臠反>に伐る、釃せる酒衍たる有り、籩豆踐<上聲>たる有り、兄弟遠きこと無し。民の德を失う、乾餱[かんこう]<音侯>以て愆[あやま]<叶起淺反>つ。酒有らば我がために湑[こ]<上聲>し、酒無くば我がために酤[か]<音古>え。坎坎として我がために鼓ち、蹲蹲[しゅんしゅん]<音存>として我がために舞え。我が暇<叶後五反>あるに迨[およ]<音待>べば、此の湑せるを飮まん。興なり。は、多きなり。踐は、陳列する貌。兄弟は、朋友の同儕の者。遠きこと無しは、皆在るなり。諸舅を先にして兄弟を後にするは、尊卑の等なり。乾餱は、食の薄き者なり。愆は、過つなり。湑も、亦釃なり。酤は、買うなり。坎坎は、鼓を擊つ聲。蹲蹲は、舞う貌。迨は、及ぶなり。○言うこころは、人の朋友の義を失うに至る所以は、必ずしも大故有るに非ず。或は但乾餱の薄き、以て人に分かたざるを以て、愆有るに至るのみ。故に我れ朋友に於て、有無を計らず。但閒暇あるに及んでは、則ち酒を飮んで以て相樂しむなり。

伐木三章章十二句。劉氏曰、此詩每章首、輒云伐木。凡三云伐木、故知當爲三章。舊作六章誤矣。今從其說正之。
【読み】
伐木[ばつぼく]三章章十二句。劉氏が曰く、此の詩章首每に、輒ち伐木と云う。凡そ三たび伐木と云う、故に知る、當に三章とすべきことを。舊の六章と作すは誤れり、と。今其の說に從いて之を正す。


天保定爾、亦孔之固。俾爾單<音丹>厚、何福不除<去聲>。俾爾多益、以莫不庶。賦也。保、安也。爾、指君也。固、堅。單、盡也。除、除舊而生新也。庶、衆也。○人君以鹿鳴以下五詩燕其臣。臣受賜者、歌此詩以答其君。言天之安定我君、使之獲福如此也。
【読み】
天爾を保んじ定むること、亦孔[はなは]だ之れ固し。爾をして單[ことごと]<音丹>く厚からしめ、何の福か除[あら]<去聲>たならざらん。爾をして多く益さしめ、以て庶[おお]からざる莫し。賦なり。保は、安んずるなり。爾は、君を指すなり。固は、堅し。單は、盡くなり。除は、舊きを除いて新しきを生すなり。庶は、衆きなり。○人君鹿鳴以下の五詩を以て其の臣を燕す。臣賜を受けば、此の詩を歌いて以て其の君に答う。言うこころは、天の我が君を安んじ定むる、之をして福を獲せしむること此の如し。

○天保定爾、俾爾戩<音剪>穀、罄無不宜、受天百祿。降爾遐福、維日不足。賦也。聞人氏曰、戩、與剪同。盡也。穀、善也。盡善云者、猶其曰單厚多益也。罄、盡。遐、遠也。爾有以受天之祿矣、而又降爾以福。言天人之際、交相與也。書所謂、昭受上帝。天其申命用休。語意正如此。
【読み】
○天爾を保んじ定むること、爾をして戩[ことごと]<音剪>く穀[よ]からしめ、罄[ことごと]く宜からざる無くして、天の百祿を受く。爾に遐[とお]き福を降して、維れ日足らず。賦なり。聞人氏が曰く、戩は、剪と同じ、と。盡くなり。穀は、善きなり。盡く善しと云うは、猶其れ單く厚く多く益すと曰うがごとし。罄は、盡く。遐は、遠きなり。爾以て天の祿を受くること有りて、又爾に降すに福を以てす。言うこころは、天人の際は、交々相與す。書に所謂、昭らかに上帝に受けん。天も其れ申ねて命ずるに休[さいわい]を用[もっ]てせん、と。語意正に此の如し。

○天保定爾、以莫不興。如山如阜、如岡如陵、如川之方至、以莫不增。賦也。興、盛也。高平曰陸、大陸曰阜、大阜曰陵。皆高大之意。川之方至、言其盛長之未可量也。
【読み】
○天爾を保んじ定むること、以て興[さか]んならざる莫し。山の如く阜の如く、岡の如く陵の如く、川の方に至るが如く、以て增さざる莫し。賦なり。興は、盛んなり。高く平らかなるを陸と曰い、大いなる陸を阜と曰い、大いなる阜を陵と曰う。皆高大の意。川の方に至るとは、言うこころは、其の盛長の未だ量る可からざるなり。

○吉蠲<音娟>爲饎<音幟>、是用孝享<叶虛良反>。禴<音藥>祠烝嘗、于公先王。君曰卜爾、萬壽無疆。賦也。吉、言諏日擇士之善。蠲、言齊戒滌濯之潔。饎、酒食也。享、獻也。宗廟之祭、春曰祠、夏曰禴、秋曰嘗、冬曰烝。公、先公也。謂后稷以下至公叔祖類也。先王、大王以下也。君、通謂先公先王也。卜、猶期也。此尸傳神意、以嘏主人之詞。文王時、周未有曰先王者。此必武王以後所作也。
【読み】
○吉蠲[きっけん]<音娟>して饎[し]<音幟>を爲り、是を用て孝享<叶虛良反>す。禴[やく]<音藥>祠烝[しょう]嘗[しょう]す、公先王に。君曰く爾を卜う、萬壽疆り無し、と。賦なり。吉は、日を諏[はか]り士を擇ぶの善きを言う。蠲は、齊戒滌濯の潔を言う。饎は、酒食なり。享は、獻るなり。宗廟の祭は、春は祠と曰い、夏は禴と曰い、秋は嘗と曰い、冬は烝と曰う。公は、先公なり。后稷以下公叔祖類に至るまでを謂う。先王は、大王以下なり。君は、通じて先公先王を謂うなり。卜は、猶期するがごとし。此れ尸神の意を傳えて、以て主人に嘏[か]するの詞。文王の時、周未だ先王と曰う者有らず。此れ必ずや武王以後の作る所ならん。

○神之弔<音的>矣、詒<音怡>爾多福<叶筆力反>。民之質矣、日用飮食、羣黎百姓、徧爲爾德。賦也。弔、至也。神之至矣、猶言祖考來格也。詒、遺。質、實也。言其質實無僞、日用飮食而已。羣、衆也。黎、黑也。猶秦言黔首也。百姓、庶民也。爲爾德者、言則而象之。猶助爾而爲德也。
【読み】
○神の弔[いた]<音的>る、爾に多福<叶筆力反>を詒[おく]<音怡>る。民の質[まこと]なる、日々に用いて飮食し、羣黎百姓、徧く爾の德を爲す。賦なり。弔は、至るなり。神の至るは、猶祖考來り格ると言うがごとし。詒は、遺る。質は、實なり。言うこころは、其の質實僞り無く、日々に用いて飮食するのみ。羣は、衆なり。黎は、黑きなり。猶秦に黔首[きんしゅ]と言うがごとし。百姓は、庶民なり。爾の德を爲すとは、言うこころは、則りて之を象る。猶爾を助けて德を爲すがごとし。

○如月之恆、如日之升、如南山之壽、不騫<音牽>不崩、如松柏之茂、無不爾或承。賦也。恆、弦。升、出也。月上弦而就盈。日始出而就明。騫、虧也。承、繼也。言舊葉將落、而新葉已生、相繼而長茂也。
【読み】
○月の恆[ゆみはり]の如く、日の升るが如く、南山の壽の如く、騫[か]<音牽>けず崩れず、松柏の茂れるが如く、爾承[つ]ぐこと或らざる無けん。賦なり。恆、弦なり。升は、出づるなり。月上弦にして盈に就く。日始めて出でて明に就く。騫は、虧くなり。承は、繼ぐなり。言うこころは、舊葉將に落ちんとすれば、新葉已に生じ、相繼いで長茂す。

天保六章章六句
【読み】
天保[てんほう]六章章六句


采薇采薇、薇亦作<叶則故反>止。曰歸曰歸、歲亦莫<音暮>止。靡室靡家<叶古乎反>、玁<音險><音允>之故。不遑啓居、玁狁之故。興也。薇、菜名。作、生出地也。莫、晩。靡、無也。玁狁、北狄也。遑、暇。啓、跪也。○此遣戍役之詩。以其出戍之時、采薇以食、而念歸期之遠也。故爲其自言、而以采薇起興曰、采薇采薇、則薇亦作止矣。曰歸曰歸、則歲亦莫止矣。然凡此所以使我舍其室家、而不暇啓居者、非上之人故爲是以苦我也。直以玁狁侵凌之故、有所不得已而然耳。蓋叙其勤苦悲傷之情、而又風以義也。程子曰、毒民不由其上、則人懷敵愾之心矣。又曰、古者戍役、兩朞而還。今年春莫行、明年夏代者至。復留備秋至。過十一月而歸。又明年中春至。春莫遣次戍者。每秋與冬初、兩番戍者皆在疆圉。如今之防秋也。
【読み】
薇を采り薇を采る、薇も亦作[お]<叶則故反>いたり。歸らんと曰い歸らんと曰う、歲も亦莫<音暮>れぬ。室靡[な]く家<叶古乎反>靡し、玁[げん]<音險>狁[いん]<音允>の故に。啓[ひざまず]き居るに遑[いとま]あらず、玁狁の故に。興なり。薇は、菜の名。作は、生いて地を出づるなり。莫は、晩。靡は、無なり。玁狁は、北狄なり。遑は、暇。啓は、跪くなり。○此れ戍役を遣わすの詩。其の出でて戍るの時を以て、薇を采りて以て食って、歸期の遠きを念う。故に其の自ら言を爲して、薇を采るを以て興を起こして曰く、薇を采り薇を采れば、則ち薇も亦作いたり。歸らんと曰い歸らんと曰えば、則ち歲も亦莫れぬ。然れども凡そ此の我をして其の室家を舍て、啓き居るに暇あらざらしむ所以は、上の人故[ことさら]に是を爲して以て我を苦しむるに非ず。直に玁狁侵凌の故を以て、已むことを得ざる所有りて然るのみ。蓋し其の勤苦悲傷の情を叙べて、又風するに義を以てす。程子が曰く、民を毒するに其の上に由らざれば、則ち人敵愾の心を懷く、と。又曰く、古は戍役、兩朞にして還る。今年の春莫に行きて、明年の夏代わる者至る。復留めて秋の至るに備う。十一月を過ぎて歸る。又明年の中春に至る。春莫次の戍者を遣わす。秋と冬との初め每に、兩番の戍者皆疆圉[きょうぎょ]に在り。今の防秋の如し、と。

○采薇采薇、薇亦柔止。曰歸曰歸、心亦憂止。憂心烈烈、載飢載渴<叶臣烈反>。我戍未定、靡使歸聘。興也。柔、始生而弱也。烈烈、憂貌。載、則也。定、止。聘、問也。○言戍人念歸期之遠、而憂勞之甚。然戍事未已、則無人可使歸而問其室家之安否也。
【読み】
○薇を采り薇を采る、薇も亦柔らかなり。歸らんと曰い歸らんと曰う、心も亦憂う。憂うる心烈烈たり、載[すなわ]ち飢え載ち渴<叶臣烈反>く。我が戍未だ定[や]まず、歸り聘[と]わしむる靡し。興なり。柔は、始めて生いて弱し。烈烈は、憂うる貌。載は、則ちなり。定は、止む。聘は、問うなり。○言うこころは、戍人歸期の遠きを念いて、憂勞すること甚だし。然れども戍事未だ已まざれば、則ち人をして歸りて其の室家の安否を問わしむ可き無し。

○采薇采薇、薇亦剛止。曰歸曰歸、歲亦陽止。王事靡盬、不遑啓處。憂心孔疚<叶訖力反>、我行不來<叶六直反>○興也。剛、旣成而剛也。陽、十月也。時純陰、用事嫌於無陽。故名之曰陽月也。孔、甚。疚、病也。來、歸也。此見士之竭力致死、無還心也。
【読み】
○薇を采り薇を采る、薇も亦剛し。歸らんと曰い歸らんと曰う、歲も亦陽[かんなづき]なり。王事盬[もろ]いこと靡し、啓き處るに遑あらず。憂うる心孔[はなは]だ疚<叶訖力反>めり、我れ行きて來[かえ]<叶六直反>らじ。○興なり。剛は、旣に成りて剛きなり。陽は、十月なり。時は純陰、事を用うるに陽無きに嫌あり。故に之を名づけて陽月と曰う。孔は、甚だ。疚は、病むなり。來は、歸るなり。此れ士の力を竭くし死を致し、還る心無きを見るなり。

○彼爾維何、維常之華<叶芳無反>。彼路斯何、君子之車<叶尺奢反>。戎車旣駕、四牡業業。豈敢定居、一月三捷。興也。爾、華盛貌。常、常棣也。路、戎車也。君子、謂將帥也。業業、壯也。捷、勝也。○彼爾然而盛者、常棣之華也。彼路車者、君子之車也。戎車旣駕、而四牡盛矣、則何敢以定居乎。庶乎一月之閒、三戰而三捷爾。
【読み】
○彼の爾[さか]んなるは維れ何ぞ、維れ常の華<叶芳無反>なり。彼の路[くるま]は斯れ何ぞ、君子の車<叶尺奢反>なり。戎車旣に駕し、四牡業業たり。豈敢えて定[しず]まり居らんや、一月に三たび捷[か]たん。興なり。爾は、華の盛んなる貌。常は、常棣なり。路は、戎車なり。君子は、將帥を謂うなり。業業は、壯んなり。捷は、勝つなり。○彼の爾然として盛んなる者は、常棣の華なり。彼の路車は、君子の車なり。戎車旣に駕して、四牡盛んなれば、則ち何ぞ敢えて以て定まり居らんや。庶わくは一月の閒、三たび戰いて三たび捷たんのみ。

○駕彼四牡、四牡騤騤<求龜反>。君子所依、小人所腓<音肥>。四牡翼翼、象弭<音米>魚服<叶蒲北反>。豈不日戒<叶訖力反>、玁狁孔棘。賦也。騤騤、强也。依、猶乘也。腓、猶芘也。程子曰、腓、隨動也。如足之腓、足動則隨而動也。翼翼、行列整治之狀。象弭、以象骨飾弓弰也。魚、獸名。似猪。東海有之。其皮背上斑文、腹下純靑、可爲弓鞬矢服也。戒、警。棘、急也。○言戎車者、將帥之所依乘、戍役之所芘倚。且其行列整治、而器械精好如此。豈不日相警戒乎。玁狁之難甚急。誠不可以忘備也。
【読み】
○彼の四牡を駕せば、四牡騤騤[きき]<求龜反>たり。君子の依る所、小人の腓[おお]<音肥>わる所。四牡翼翼たり、象の弭[ゆみ]<音米>魚の服[やなぐい]<叶蒲北反>。豈日々に戒<叶訖力反>めざらんや、玁狁孔だ棘[すみ]やかなり。賦なり。騤騤は、强きなり。依は、猶乘るのごとし。腓は、猶芘[おお]うのごとし。程子が曰く、腓[ひ]は、隨いて動く。足の腓[こむら]の、足動きて則ち隨いて動くが如し、と。翼翼は、行列整治の狀。象弭[しょうび]は、象の骨を以て弓の弰[ゆはず]を飾るなり。魚は、獸の名。猪に似る。東海に之れ有り。其の皮背の上に斑文あり、腹の下は純靑、弓鞬[ゆぶくろ]矢服とす可し。戒は、警む。棘は、急なり。○言うこころは、戎車は、將帥の依り乘る所、戍役の芘われ倚る所。且つ其の行列整治にして、器械精好なること此の如し。豈日々に相警戒せざらんや。玁狁の難は甚だ急なり。誠に以て備えを忘る可からず。

○昔我往矣、楊柳依依。今我來思、雨<去聲>雪霏霏<芳菲反>。行道遲遲、載渴載飢。我心傷悲、莫知我哀<叶於希反>○賦也。楊柳、蒲柳也。霏霏、雪甚貌。遲遲、長遠也。○此章又設爲役人、預自道其歸時之事、以見其勤勞之甚也。程子曰、此皆極道其勞苦憂傷之情也。上能察其情、則雖勞而不怨、雖憂而能勵矣。范氏曰、予於采薇、見先王以人道使人。後世則牛羊而已矣。
【読み】
○昔我が往くとき、楊柳依依たり。今我が來[かえ]るとき、雪を雨[ふ]<去聲>らすこと霏霏[ひひ]<芳菲反>たり。道を行くこと遲遲たり、載ち渴き載ち飢ゆ。我が心傷み悲しむ、我が哀<叶於希反>しみを知る莫し。○賦なり。楊柳は、蒲柳なり。霏霏は、雪の甚だしき貌。遲遲は、長く遠きなり。○此の章も又設けて役人の爲に、預め自ら其の歸る時の事を道いて、以て其の勤勞の甚だしきを見す。程子が曰く、此れ皆極めて其の勞苦憂傷の情を道うなり。上能く其の情を察すれば、則ち勞すと雖も而して怨みず、憂うと雖も而して能く勵む、と。范氏が曰く、予れ采薇に於て、先王人道を以て人を使うを見る。後世は則ち牛羊のごときのみ、と。

采薇六章章八句
【読み】
采薇[さいび]六章章八句


我出我車、于彼牧<叶莫狄反>矣。自天子所、謂我來<叶六直反>矣。召彼僕夫、謂之載<叶節力反>矣。王事多難<去聲>、維其棘矣。賦也。牧、郊外也。自、從也。天子、周王也。僕夫、御夫也。○此勞還率之詩。追言其始受命出征之時。出車於郊外、而語其人曰、我受命於天子之所而來。於是乎召僕夫、使之載其車以行、而戒之曰、王事多難、是行也不可以緩矣。
【読み】
我れ我が車を出だす、彼の牧<叶莫狄反>に。天子の所より、我に來<叶六直反>れと謂う。彼の僕夫を召[よ]んで、之を載<叶節力反>せて謂う。王事難[なや]<去聲>み多し、維れ其れ棘[すみ]やかなれ。賦なり。牧は、郊外なり。自は、從るなり。天子は、周王なり。僕夫は、御夫なり。○此れ還る率[おさ]を勞するの詩。追って其の始め命を受けて出征するの時を言う。車を郊外に出だして、其の人に語りて曰く、我れ命を天子の所に受けて來る。是に於て僕夫を召んで、之をして其の車に載せて以て行かしめ、之を戒めて曰く、王事難み多し、是の行や以て緩くす可からず、と。

○我出我車、于彼郊<音高>矣。設此旐<音兆>矣、建彼旄<音毛>矣。彼旟<音餘>旐斯、胡不旆旆<叶蒲寐反>。憂心悄悄、僕夫況瘁<音悴>○賦也。郊在牧内。蓋前軍已至牧、而後軍猶在郊也。設、陳也。龜蛇曰旐。建、立也。旄、注旄於旗干之首也。鳥隼曰旟。鳥隼龜蛇、曲禮所謂、前朱雀而後玄武也。楊氏曰、師行之法、四方之星、各隨其方、以爲左右前後。進退有度、各司其局、則士無失伍離次矣。旆旆、飛揚之貌。悄悄、憂貌。况、茲也。或云、當作怳。○言出車在郊、建設旗幟。彼旗幟者、豈不旆旆而飛揚乎。但將帥方以任大責重爲憂。而僕夫亦爲之恐懼、而憔悴耳。東萊呂氏曰、古者出師、以喪禮處之。命下之日、士皆泣涕。夫子之言行三軍、亦曰臨事而懼。皆此意也。
【読み】
○我れ我が車を出だす、彼の郊<音高>に。此の旐[ちょう]<音兆>を設[つら]ねて、彼の旄[ぼう]<音毛>を建つ。彼の旟[よ]<音餘>旐、胡ぞ旆旆[はいはい]<叶蒲寐反>たらざらん。憂うる心悄悄たり、僕夫況[ここ]に瘁[や]<音悴>みぬ。○賦なり。郊は牧の内に在り。蓋し前軍已に牧に至りて、後軍猶郊に在り。設は、陳ぬるなり。龜蛇を旐と曰う。建は、立つなり。旄は、旄を旗干の首に注[つ]くなり。鳥隼を旟と曰う。鳥隼龜蛇は、曲禮に所謂、朱雀を前にして玄武を後にす、と。楊氏が曰く、師行の法、四方の星、各々其の方に隨いて、以て左右前後とす。進退度有りて、各々其の局を司れば、則ち士伍を失い次を離るること無し、と。旆旆は、飛揚する貌。悄悄は、憂うる貌。况は、茲なり。或ひと云う、當に怳に作るべし、と。○言うこころは、車を出だして郊に在り、旗幟を建て設ぬ。彼の旗幟は、豈旆旆として飛揚せざらんや。但將帥方に任大いに責重きを以て憂えとす。而して僕夫も亦之が爲に恐懼して、憔悴するのみ。東萊の呂氏が曰く、古は師を出だすに、喪禮を以て之を處す。命下るの日、士皆泣涕す。夫子の三軍を行うを言わば、亦曰う、事に臨みて懼る、と。皆此の意なり、と。

○王命南仲、往城于方。出車彭彭<叶鋪郎反>、旂旐央央。天子命我、城彼朔方。赫赫南仲、玁狁于襄。賦也。王、周王也。南仲、此時大將也。方、朔方、今靈夏等州之地。彭彭、衆盛貌。交龍爲旂。此所謂左靑龍也。央央、鮮明也。赫赫、威名光顯也。襄、除也。或曰、上也。與懷山襄陵之襄同。言勝之也。○東萊呂氏曰、大將傳天子之命、以令軍衆。於是車馬衆盛、旂旐鮮明、威靈氣焰、赫然動人矣。兵事以哀敬爲本、而所尙則威。二章之戒懼、三章之奮揚、並行而不相悖也。程子曰、城朔方、而玁狁之難除、禦戎狄之道。守備爲本、不以攻戰爲先也。
【読み】
○王南仲に命じて、往いて方に城かしむ。車を出だすこと彭彭[ほうほう]<叶鋪郎反>たり、旂旐[きちょう]央央たり。天子我に命じて、彼の朔方に城かしむ。赫赫たる南仲、玁狁[げんいん]于[ここ]に襄[はら]いぬ。賦なり。王は、周王なり。南仲は、此の時の大將なり。方は、朔方、今の靈夏等の州の地。彭彭は、衆く盛んなる貌。交龍を旂とす。此れ所謂左靑龍なり。央央は、鮮明なり。赫赫は、威名光り顯らかなり。襄は、除うなり。或ひと曰く、上[のぼ]るなり。山を懷[か]ね陵に襄[のぼ]るの襄と同じ。之に勝つを言う、と。○東萊の呂氏が曰く、大將天子の命を傳えて、以て軍衆に令す。是に於て車馬衆盛に、旂旐鮮明に、威靈氣焰[えん]、赫然として人を動かす。兵事は哀敬を以て本として、尙ぶ所は則ち威なり。二章の戒懼、三章の奮揚、並び行いて相悖らず、と。程子が曰く、朔方に城いて、玁狁の難を除うは、戎狄を禦ぐの道なり。守備を本とし、攻戰を以て先とせず、と。

○昔我往矣、黍稷方華<叶芳無反>。今我來思、雨雪載塗。王事多難、不遑啓居。豈不懷歸、畏此簡書。賦也。華、盛也。塗、凍釋而泥塗也。簡書、戒命也。鄰國有急、則以簡書相戒命也。或曰、簡書、策命臨遣之詞也。○此言其旣歸在塗、而本其往時所見、與今還時所遭、以見其出之久也。東萊呂氏曰、采薇之所謂往、遣戍時也。此詩之所謂往、在道時也。采薇之所謂來、戍畢時也。此詩之所謂來、歸而在道時也。
【読み】
○昔我が往きしとき、黍稷方に華[さか]<叶芳無反>んなり。今我が來[かえ]るとき、雪雨[ふ]り載ち塗なり。王事難み多し、啓[ひざまず]き居るに遑あらず。豈歸ることを懷わざらんや、此の簡書を畏る。賦なり。華は、盛んなり。塗は、凍釋けて泥塗なり。簡書は、戒命なり。鄰國急有れば、則ち簡書を以て相戒命す。或ひと曰く、簡書は、策命臨遣の詞、と。○此れ言うこころは、其れ旣に歸るとき塗に在りて、本其の往く時見る所と、今還る時遭う所と、以て其の出づることの久しきを見すなり。東萊の呂氏が曰く、采薇の所謂往は、戍を遣るの時なり。此の詩の所謂往は、道に在るの時なり。采薇の所謂來は、戍畢わるの時なり。此の詩の所謂來は、歸りて道に在るの時なり。

○喓喓<音腰>草蟲、趯趯<音剔>阜螽。未見君子、憂心忡忡<音充>。旣見君子、我心則降<音杭。叶胡攻反>。赫赫南仲、薄伐西戎。賦也。此言將帥之出征也。其室家感時物之變而念之。以爲未見而憂之如此。必旣見然後心可降耳。然此南仲今何在乎。方往伐西戎而未歸也。豈旣却玁狁、而還師以伐昆夷也與。薄之爲言、聊也。蓋不勞餘力矣。
【読み】
○喓喓[ようよう]<音腰>たる草蟲、趯趯[てきてき]<音剔>たる阜螽。未だ君子を見ず、憂うる心忡忡[ちゅうちゅう]<音充>たり。旣に君子を見れば、我が心則ち降<音杭。叶胡攻反>る。赫赫たる南仲、薄[いささ]か西戎を伐つらん。賦なり。此れ將帥の出でて征するを言うなり。其の室家時物の變に感じて之を念う。以爲えらく、未だ見ずして之を憂うること此の如し。必ず旣に見て然して後に心降る可きのみ。然れども此の南仲今何くにか在らんや。方に往いて西戎を伐ちて未だ歸らず。豈旣に玁狁を却[しりぞ]けて、師を還して以て昆夷を伐たんか。薄の言たる、聊かなり。蓋し餘力を勞せざるなり。

○春日遲遲、卉<音諱>木萋萋<音妻>。倉庚喈喈<音皆。叶居奚反>、采蘩祁祁。執訊<音信>獲醜、薄言還<音旋>歸。赫赫南仲、玁狁于夷。賦也。卉、草也。萋萋、盛貌。倉庚、黃鸝也。喈喈、聲之和也。訊、其魁、首當訊問者也。醜、徒衆也。夷、平也。○歐陽氏曰、述其歸時。春日暄妍、草木榮茂、而禽鳥和鳴。於此之時、執訊獲醜而歸。豈不樂哉。鄭氏曰、此詩亦伐西戎。獨言平玁狁者、玁狁大。故以爲始以爲終。
【読み】
○春の日遲遲たり、卉<音諱>木萋萋[せいせい]<音妻>たり。倉庚喈喈<音皆。叶居奚反>たり、蘩[よもぎ]を采ること祁祁[きき]たり。訊[おさ]<音信>を執え醜[もろもろ]を獲て、薄か言[ここ]に還<音旋>り歸る。赫赫たる南仲、玁狁于に夷[たい]らぐ。賦なり。卉は、草なり。萋萋は、盛んなる貌。倉庚は、黃鸝[こうり]なり。喈喈は、聲の和らぐなり。訊は、其の魁首、當に訊問すべき者なり。醜は、徒衆なり。夷は、平らぐなり。○歐陽氏が曰く、其の歸る時を述ぶ。春の日暄妍[けんけん]として、草木榮茂して、禽鳥和鳴す。此の時に於て、訊を執え醜を獲て歸る。豈樂しまざらんや。鄭氏が曰く、此の詩も亦西戎を伐つ。獨り玁狁を平らぐと言うは、玁狁大いなり。故に以て始めを爲して以て終わりを爲す。

出車六章章八句
【読み】
出車[すいしゃ]六章章八句


有杕<音第>之杜、有睆<音莞>其實。王事靡盬、繼嗣我日。日月陽止、女心傷止。征夫遑止。賦也。睆、實貌。嗣、續也。陽、十月也。遑、暇也。○此勞還役之詩。故追述其未還之時。室家感於時物之變、而思之曰、特生之杜、有睆其實、則秋冬之交矣。而征夫以王事出、乃以日繼日、而無休息之期。至于十月、可以歸、而猶不至。故女心悲傷而曰、征夫亦可以暇矣。曷爲而不歸哉。或曰、興也。下章倣此。
【読み】
杕[てい]<音第>たる杜有り、睆[かん]<音莞>たる其の實有り。王事盬[もろ]いこと靡し、我が日を繼ぎ嗣げり。日月陽[かんなづき]、女の心傷めり。征夫遑あらん。賦なり。睆は、實る貌。嗣は、續ぐなり。陽は、十月なり。遑は、暇なり。○此れ還役を勞するの詩。故に追って其の未だ還らざるの時を述ぶ。室家時物の變を感じて、之を思いて曰く、特生の杜、睆たる其の實有れば、則ち秋冬の交わるなり。而して征夫王事を以て出で、乃ち日を以て日に繼いで、休息の期無し。十月に至りて、以て歸る可くして、猶至らず、と。故に女の心悲しみ傷んで曰く、征夫も亦以て暇ある可し。曷爲[なんす]れぞ歸らざるや、と。或ひと曰く、興、と。下章も此に倣え。

○有杕之杜、其葉萋萋。王事靡盬、我心傷悲。卉木萋止、女心悲止。征夫歸止。賦也。萋萋、盛貌。春將暮之時也。歸止、可以歸也。
【読み】
○杕たる杜有り、其の葉萋萋[せいせい]たり。王事盬いこと靡し、我が心傷み悲しむ。卉木萋たり、女の心悲しめり。征夫歸らん。賦なり。萋萋は、盛んなる貌。春將に暮れんとするの時なり。歸止とは、以て歸る可しなり。

○陟彼北山、言采其杞。王事靡盬、憂我父母<叶滿有反>。檀車幝幝<音闡>、四牡痯痯<音管。叶古轉反>。征夫不遠。賦也。檀、木堅。宜爲車。幝幝、敝貌。痯痯、罷貌。○登山采杞、則春已暮、而杞可食矣。蓋託以望其君子。而念其以王事詒父母之憂也。然檀車之堅而敝矣、四牡之壯而罷矣、則征夫之歸、亦不遠矣。
【読み】
○彼の北山に陟[のぼ]りて、言[ここ]に其の杞を采る。王事盬いこと靡し、我が父母<叶滿有反>を憂う。檀車幝幝[せんせん]<音闡>たり、四牡痯痯[かんかん]<音管。叶古轉反>たり。征夫遠からず。賦なり。檀は、木堅し。宜しく車に爲るべし。幝幝は、敝[やぶ]るる貌。痯痯は、罷[つか]れたる貌。○山に登りて杞を采れば、則ち春已に暮れて、杞食う可し。蓋し託して以て其の君子を望む。而して其の王事を以て父母の憂えを詒[のこ]さんことを念うなり。然れども檀車の堅くして敝れ、四牡の壯んにして罷るれば、則ち征夫の歸るも、亦遠からず。

○匪載匪來<叶六直反>、憂心孔疚<叶訖力反>。期逝不至<叶朱力反>、而多爲恤。卜筮偕<叶舉里反>止、會言近<叶渠紀反>止。征夫邇止。賦也。載、装。疚、病。逝、往。恤、憂。偕、倶。會、合也。○言征夫不装載而來歸。固已使我念之而甚病矣。况歸期已過、而猶不至、則使我多爲憂恤。宜如何哉。故且卜且筮。相襲倶作、合言於繇、而皆曰近矣、則征夫其亦邇而將至矣。范氏曰、以卜筮終之。言思之切、而無所不爲也。
【読み】
○載[よそお]うに匪ず來るに<叶六直反>匪ず、憂うる心孔[はなは]だ疚[や]<叶訖力反>む。期逝きて至<叶朱力反>らずして、多く恤えを爲せり。卜筮偕[とも]<叶舉里反>にすれば、會わせ言く近<叶渠紀反>し、と。征夫邇からん。賦なり。載は、装う。疚は、病む。逝は、往く。恤は、憂うる。偕は、倶。會は、合うなり。○言うこころは、征夫装い載いて來り歸らず。固に已に我をして之を念いて甚だ病ましむ。况んや歸期已に過ぎて、猶至らざれば、則ち我をして多く憂恤を爲さしむ。宜しく如何すべきや。故に且つ卜し且つ筮す。相襲[かさ]ねて倶に作し、言を繇[よう]に合わせて、皆近しと曰わば、則ち征夫其れ亦邇くして將に至らんとす。范氏が曰く、卜筮を以て之を終う。思うことの切にして、せざる所無きことを言う、と。

杕杜四章章七句。鄭氏曰、遣將帥及戍役、同歌同時。欲其同心也。反而勞之、異歌異日。殊尊卑也。記曰、賜君子小人不同日。此其義也。王氏曰、出而用兵、則均服同食。一衆心也。入而振旅、則殊尊卑、辨貴賤。定衆志也。范氏曰、出車勞率。故美其功。杕杜勞衆。故極其情。先王以己之心爲人之心。故能曲盡其情、使民忘其死、以忠於上也。
【読み】
杕杜[ていと]四章章七句。鄭氏が曰く、將帥及び戍役を遣るに、歌を同じくし時を同じくす。其の心を同じくするを欲すればなり。反りて之を勞するに、歌を異にし日を異にす。尊卑を殊にするなり、と。記に曰く、君子小人に賜うに日を同じくせず、と。此れ其の義なり。王氏が曰く、出でて兵を用うるときは、則ち服を均しくし食を同じくす。衆の心を一にするなり。入りて振旅するときは、則ち尊卑を殊にし、貴賤を辨える。衆の志を定むるなり、と。范氏が曰く、出車は率を勞す。故に其の功を美む。杕杜は衆を勞す。故に其の情を極む。先王己が心を以て人の心とす。故に能く曲に其の情を盡くして、民をして其の死を忘れて、以て上に忠あらしむ、と。


南陔此笙之詩也。有聲無詞。舊在魚麗之後。以儀禮考之、其篇次當在此。今正之。說見華黍。
【読み】
南陔[なんがい]。此れ笙の詩なり。聲有りて詞無し。舊魚麗の後に在り。儀禮を以て之を考うるに、其の篇次當に此に在るべし。今之を正す。說は華黍に見えたり。


鹿鳴之什十篇。一篇無辭。凡四十六章。二百九十七句
【読み】
鹿鳴の什十篇。一篇辭無し。凡て四十六章。二百九十七句


白華之什二之二。毛公以南陔以下三篇無辭、故升魚麗以足鹿鳴什數、而附笙詩三篇於其後。因以南有嘉魚、爲次什之首。今悉依儀禮正之。
【読み】
白華[はくか]の什二の二。毛公南陔以下の三篇辭無きを以て、故に魚麗を升[あ]げて以て鹿鳴の什數を足して、笙の詩三篇を其の後に附す。因りて南有嘉魚を以て、次の什の首めとす。今悉く儀禮に依りて之を正す。


白華笙詩也。說見上下篇。
【読み】
白華[はくか]。笙の詩なり。說は上下の篇に見えたり。


華黍亦笙詩也。郷飮酒禮鼓瑟而歌鹿鳴・四牡・皇皇者華。然後笙入堂下、磬南北面立、樂南陔・白華・華黍。燕禮亦鼓瑟而歌鹿鳴・四牡・皇華。然後笙入立于縣中。奏南陔・白華・華黍。南陔以下、今無以考其名篇之義。然曰笙、曰樂、曰奏、而不言歌、則有聲而無詞明矣。所以知其篇第在此者、意古經篇題之下、必有譜焉。如投壺魯鼓、薛鼓之節而亡之耳。
【読み】
華黍[かしょ]。亦笙の詩なり。郷飮酒禮に瑟を鼓して鹿鳴・四牡・皇皇者華を歌う。然して後に笙堂下に入りて、磬の南に北面して立ち、南陔・白華・華黍を樂す、と。燕禮にも亦瑟を鼓して鹿鳴・四牡・皇華を歌う。然して後に笙入りて縣中に立つ。南陔・白華・華黍を奏す、と。南陔以下は、今以て其の篇を名づくるの義を考うること無し。然るに笙と曰い、樂と曰い、奏と曰いて、歌と言わざるは、則ち聲有りて詞無きこと明らかなり。其の篇第此に在るを知る所以は、意うに古經篇題の下に、必ず譜有らん。投壺の魯鼓、薛鼓の節の如くにして之を亡うのみ。


魚麗<音離>于罶<音柳。與酒叶>、鱨<音常><音沙。叶蘇何反>。君子有酒、旨且多。興也。麗、歴也。罶、以曲薄爲笱、而承梁之空者也。鱨、揚也。今黃頬魚是也。似燕頭、魚身形厚而長大、頬骨正黃、魚之大而有力解飛者。鯊、鮀也。魚狹而小。常張口吹沙。故又名吹沙。君子、指主人。旨且多、旨而又多也。○此燕饗通用之樂歌。卽燕饗所薦之羞、而極道其美且多。見主人禮意之勤、以優賓也。或曰、賦也。下二章放此。
【読み】
魚罶[りゅう]<音柳。與酒叶>を麗[ふ]<音離>、鱨[じょう]<音常>鯊[さ]<音沙。叶蘇何反>あり。君子酒有り、旨くして且[また]多し。興なり。麗は、歴るなり。罶は、曲薄を以て笱[こう]を爲りて、梁の空[あな]に承くる者なり。鱨は、揚なり。今の黃頬魚是れなり。燕の頭に似て、魚の身は形厚くして長大、頬骨正黃、魚の大いにして力有りて飛ぶことを解する者。鯊は、鮀[た]なり。魚狹くして小さし。常に口を張って沙を吹く。故に又吹沙と名づく。君子は、主人を指す。旨くして且多しとは、旨くして又多しなり。○此れ燕饗通用の樂歌。卽ち燕饗薦むる所の羞にして、極めて其の美にして且多きを道う。主人禮意を勤めて、以て賓を優[ゆたか]にするを見すなり。或ひと曰く、賦、と。下の二章も此に放え。

○魚麗于罶、魴鱧<音禮>。君子有酒、多且旨。興也。鱧、鮦也。又曰、鯇也。
【読み】
○魚罶を麗、魴鱧[ほうれい]<音禮>あり。君子酒有り、多くして且旨し。興なり。鱧は、鮦[とう]なり。又曰う、鯇[かん]、と。

○魚麗于罶、鰋<音偃>鯉。君子有酒、旨且有<叶羽已范>○興也。鰋、鮎也。有、猶多也。
【読み】
○魚罶を麗、鰋[えん]<音偃>鯉あり。君子酒有り、旨くして且有<叶羽已反>り。○興なり。鰋は、鮎なり。有は、猶多しのごとし。

○物其多矣、維其嘉<叶居何反>矣。賦也。
【読み】
○物其れ多し、維れ其れ嘉<叶居何反>し。賦なり。

○物其旨矣、維其偕<叶舉里反>矣。賦也。
【読み】
○物其れ旨し、維れ其れ偕[ひと]<叶舉里反>し。賦なり。

○物其有<叶羽已反>矣、維其時<叶上紙反>矣。賦也。蘇氏曰、多則患其不嘉。旨則患其不齊。有則患其不時。今多而能嘉。旨而能齊。有而能時。言曲全也。
【読み】
○物其れ有<叶羽已反>り、維れ其れ時<叶上紙反>なり。賦なり。蘇氏が曰く、多くば則ち其の嘉からざるを患う。旨くば則ち其の齊しからざるを患う。有れば則ち其の時ならざるを患う。今多くして能く嘉し。旨くして能く齊し。有りて能く時なり。言うこころは、曲に全きなり。

魚麗六章三章章四句三章章二句。按儀禮郷飮酒及燕禮、前樂旣畢、皆閒歌魚麗、笙由庚、歌南有嘉魚、笙崇丘、歌南山有臺、笙由儀。閒、代也。言一歌一吹也。然則此六者、蓋一時之詩、而皆爲燕饗賓客上下通用之樂。毛公分魚麗以足前什。而說者不察、遂分魚麗以上、爲文武詩、嘉魚以下爲成王詩。其失甚矣。
【読み】
魚麗[ぎょり]六章三章章四句三章章二句。按ずるに、儀禮の郷飮酒及び燕禮に、前の樂旣に畢りて、皆魚麗を閒歌し、由庚を笙し、南有嘉魚を歌い、崇丘を笙し、南山有臺を歌い、由儀を笙す、と。閒は、代わるなり。言うこころは一歌一吹なり。然らば則ち此の六つの者は、蓋し一時の詩にして、皆燕饗賓客上下通用するの樂爲り。毛公魚麗を分けて以て前の什に足す。而るを說く者察せず、遂に魚麗以上を分けて、文武の詩とし、嘉魚以下を成王の詩とす。其の失甚だし。


由庚此亦笙詩。說見魚麗。
【読み】
由庚[ゆうこう]。此も亦笙の詩。說は魚麗に見えたり。


南有嘉魚、烝然罩罩<音笊>。君子有酒、嘉賓式燕以樂<音洛。叶五敎反>○興也。南、謂江漢之閒。嘉魚、鯉質鱒鯽肌、出沔南之丙穴。烝然、發語聲也。罩、篧也。編細竹以罩魚者也。重言罩罩、非一之詞也。○此又燕饗通用之樂。故其辭曰、南有嘉魚、則必烝然而罩罩之矣。君子有酒、則必與嘉賓共之、而式燕以樂矣。此亦因所薦之物、而道達主人樂賓之意也。
【読み】
南に嘉魚有れば、烝[しょう]然として罩罩[とうとう]<音笊>す。君子酒有れば、嘉賓式[もっ]て燕して以て樂<音洛。叶五敎反>しむ。○興なり。南は、江漢の閒を謂う。嘉魚は、鯉の質鱒鯽[そんそく]の肌、沔[べん]南の丙穴より出づ。烝然は、發語の聲なり。罩は、篧なり。細竹を編んで以て魚を罩[こ]むる者なり。重ねて罩罩と言うは、一に非ざるの詞なり。○此れ又燕饗通用の樂。故に其の辭に曰く、南に嘉魚有れば、則ち必ず烝然として之を罩め罩む。君子酒有れば、則ち必ず嘉賓と之を共にして、式て燕し以て樂しむ、と。此れ亦薦むる所の物に因りて、主人賓を樂しむるの意を道達するなり。

○南有嘉魚、烝然汕汕<音訕>。君子有酒、嘉賓式燕以衎<音看>○興也。汕、樔也。以薄汕魚也。衎、樂也。
【読み】
○南に嘉魚有れば、烝然として汕汕[さんさん]<音訕>す。君子酒有れば、嘉賓式て燕し以て衎[たの]<音看>しむ。○興なり。汕は、樔[すく]うなり。薄を以て魚を汕[すく]うなり。衎[かん]は、樂しむなり。

○南有樛<音鳩>木、甘瓠<音護><音雷>之。君子有酒、嘉賓式燕綏之。興也。○東萊呂氏曰、瓠有甘有苦。甘瓠則可食者也。樛木下埀而美實纍之。固結而不可解也。愚謂、此興之取義者。似比而實興也。
【読み】
○南に樛[きゅう]<音鳩>木有れば、甘き瓠[ひさご]<音護>之に纍[かか]<音雷>る。君子酒有れば、嘉賓式て燕し之を綏[やす]んず。興なり。○東萊の呂氏が曰く、瓠に甘き有り苦き有り。甘瓠[かんこ]は則ち食う可き者なり。樛木は下に埀れて美き實之に纍る。固結して解く可からざるなり。愚謂えらく、此れ興の義を取る者。比に似て實は興なり。

○翩翩者鵻<之誰反>、烝然來<叶六直反>思。君子有酒、嘉賓式燕又<叶夷昔反>思。興也。此興之全不取義者也。思、語辭也。又旣燕而又燕、以見其至誠有加而無已也。或曰、又思、言其又思念而不忘也。
【読み】
○翩翩[へんぺん]たる鵻[すい]<之誰反>、烝然として來<叶六直反>る。君子酒有れば、嘉賓式て燕して又<叶夷昔反>す。興なり。此れ興の全く義を取らざる者なり。思は、語の辭なり。又旣に燕して又燕す、以て其の至誠加うこと有りて已むこと無きを見るなり。或ひと曰く、又思とは、言うこころは、其れ又思い念いて忘れざる、と。

南有嘉魚四章章四句。說見魚麗。
【読み】
南有嘉魚[なんゆうかぎょ]四章章四句。說は魚麗に見えたり。


崇丘說見魚麗。
【読み】
崇丘[そうきゅう]。說は魚麗に見えたり。


南山有臺<叶田飴反>、北山有萊<叶陵之反>。樂<音洛><音紙>君子、邦家之基。樂只君子、萬壽無期。興也。臺、夫須。卽莎草也。萊、草名。葉香可食者也。君子指賓客也。○此亦燕饗通用之樂。故其辭曰、南山則有臺矣、北山則有萊矣。樂只君子、則邦家之基矣。樂只君子、則萬壽無期矣。所以道達主人尊賓之意、美其德而祝其壽也。
【読み】
南山に臺<叶田飴反>有り、北山に萊<叶陵之反>有り。樂<音洛>しき<音紙>君子は、邦家の基。樂しき君子、萬壽期[かぎ]り無けん。興なり。臺は、夫須。卽ち莎草なり。萊は、草の名。葉香しくして食う可き者なり。君子は賓客を指すなり。○此れ亦燕饗通用の樂。故に其の辭に曰く、南山には則ち臺有り、北山には則ち萊有り。樂しき君子は、則ち邦家の基。樂しき君子は、則ち萬壽期無けん、と。主人賓を尊ぶの意を道達し、其の德を美めて其の壽を祝する所以なり。

○南山有桑、北山有楊。樂只君子、邦家之光。樂只君子、萬壽無疆。興也。
【読み】
○南山に桑有り、北山に楊有り。樂しき君子は、邦家の光。樂しき君子、萬壽疆[かぎ]り無けん。興なり。

○南山有杞、北山有李。樂只君子、民之父母<叶滿彼反>。樂只君子、德音不已。興也。杞、樹、如樗。一名狗骨。
【読み】
○南山に杞有り、北山に李有り。樂しき君子は、民の父母<叶滿彼反>。樂しき君子、德音已まざらん。興なり。杞は、樹、樗[おうち]の如し。一名は狗骨。

○南山有栲<音考。叶音口>、北山有杻<音紐>。樂只君子、遐不眉壽<叶直酉反>。樂只君子、德音是茂<叶莫口反>○興也。栲、山樗。杻、檍也。遐、何通。眉壽、秀眉也。
【読み】
○南山に栲[こう]<音考。叶音口>有り、北山に杻[ちゅう]<音紐>有り。樂しき君子は、遐[なん]ぞ眉壽<叶直酉反>ならざらん。樂しき君子、德音是れ茂[さか]<叶莫口反>んならん。○興なり。栲は、山樗[ちょ]。杻は、檍なり。遐は、何に通ず。眉壽は、秀眉なり。

○南山有枸<音矩>、北山有楰<音庾>。樂只君子、遐不黃耇<音苟。叶果五反>。樂只君子、保艾<五蓋反>爾後<叶下五反>○興也。枸、枳枸。樹高大、似白楊有子、著枝端。大如指。長數寸、噉之甘美如飴。八月熟。亦名木蜜。楰、鼠梓。樹葉木理如楸。亦名苦楸。黃、老人髪復黃也。耇、老人面凍梨色、如浮垢也。保、安。艾、養也。
【読み】
○南山に枸[く]<音矩>有り、北山に楰[ゆ]<音庾>有り。樂しき君子は、遐ぞ黃耇[こうこう]<音苟。叶果五反>ならざらん。樂しき君子、爾の後<叶下五反>を保[やす]んじ艾[やしな]<五蓋反>わん。○興なり。枸は、枳枸。樹高大、白楊に似て子有り、枝の端に著く。大いなること指の如し。長さ數寸、之を噉[くら]えば甘美なること飴の如し。八月に熟す。亦木蜜と名づく。楰は、鼠梓。樹葉木理は楸の如し。亦苦楸と名づく。黃は、老人の髪復黃なり。耇は、老人の面凍梨の色にて、浮垢の如し。保は、安んず。艾は、養うなり。

南山有臺五章章六句。說見魚麗。
【読み】
南山有臺[なんざんゆうたい]五章章六句。說は魚麗に見えたり。


由儀說見魚麗。
【読み】
由儀[ゆうぎ]。說は魚麗に見えたり。


<音六>彼蕭斯、零露湑<上聲>兮。旣見君子、我心寫<叶想羽反>兮。燕笑語兮、是以有譽處兮。興也。蓼、長大貌。蕭、蒿也。湑、湑然、蕭上露貌。君子、指諸侯也。寫、輸寫也。燕、謂燕飮。譽、善聲也。處、安樂也。蘇氏曰、譽、豫通。凡詩之譽、皆言樂也。亦通。○諸侯朝于天子、天子與之燕、以示慈惠。故歌此詩。言蓼彼蕭斯、則零露湑然矣。旣見君子、則我心輸寫、而無留恨矣。是以燕笑語而有譽處也。其曰旣見、蓋於其初燕而歌之也。
【読み】
蓼[りく]<音六>たる彼の蕭[よもぎ]、零[お]つる露湑[しょ]<上聲>たり。旣に君子を見る、我が心寫<叶想羽反>る。燕して笑語す、是を以て譽れ處[たの]しむ有り。興なり。蓼は、長大の貌。蕭は、蒿なり。湑は、湑然、蕭の上の露の貌。君子は、諸侯を指すなり。寫は、輸寫なり。燕は、燕飮を謂う。譽は、善き聲なり。處は、安んじ樂しむなり。蘇氏が曰く、譽は、豫と通ず。凡そ詩の譽は、皆樂を言う、と。亦通ず。○諸侯天子に朝せば、天子之と燕して、以て慈惠を示す。故に此の詩を歌う。言うこころは、蓼たる彼の蕭あれば、則ち零つる露湑然たり。旣に君子を見れば、則ち我が心輸寫して、恨みを留むる無し。是を以て燕して笑語して譽れ處しむ有り。其の旣に見ると曰うは、蓋し其の初めに於て燕して之を歌えばなり。

○蓼彼蕭斯、零露瀼瀼<音攘>。旣見君子、爲龍爲光。其德不爽<叶師莊反>、壽考不忘。興也。瀼瀼、露蕃貌。龍、寵也。爲龍爲光、喜其德之詞也。爽、差也。其德不爽、則壽考不忘矣。褒美而祝頌之、又因以勸戒之也。
【読み】
○蓼たる彼の蕭、零つる露瀼瀼[じょうじょう]<音攘>たり。旣に君子を見ては、龍[いつく]しみと爲り光と爲る。其の德爽[たが]<叶師莊反>わず、壽考まで忘れず。興なり。瀼瀼は、露の蕃き貌。龍は、寵なり。龍と爲り光と爲るとは、其の德を喜ぶの詞なり。爽は、差うなり。其の德爽わざれば、則ち壽考まで忘れざるなり。褒美して之を祝頌し、又因りて以て之を勸戒す。

○蓼彼蕭斯、零露泥泥<音你>。旣見君子、孔燕豈弟。宜兄宜弟、令德壽豈<音愷。叶去禮反>○興也。泥泥、露濡貌。孔、甚。豈、樂。弟、易也。宜兄宜弟、猶曰宜其家人。蓋諸侯繼世而立。多疑忌其兄弟。如晉詛無畜羣公子、秦鍼懼選之類。故以宜兄宜弟美之。亦所以警戒之也。壽豈、壽而且樂也。
【読み】
○蓼たる彼の蕭、零つる露泥泥<音你>たり。旣に君子を見ては、孔[はなは]だ燕して豈弟たり。兄に宜く弟に宜く、令德ありて壽[いのちなが]くして豈[たの]<音愷。叶去禮反>しまん。○興なり。泥泥は、露の濡う貌。孔は、甚だ。豈は、樂しむ。弟は、易きなり。兄に宜く弟に宜きは、猶其の家人に宜しと曰うがごとし。蓋し諸侯世を繼いで立つ。多く其の兄弟を疑い忌む。晉の羣公子を畜う無しと詛[ちか]い、秦の鍼選[かず]を懼るるの類の如し。故に兄に宜く弟に宜きを以て之を美む。亦之を警戒する所以なり。壽豈は、壽くして且つ樂しむなり。

○蓼彼蕭斯、零露濃濃<音農>。旣見君子、鞗<音條>革沖沖<音蟲>。和鸞雝雝、萬福攸同。興也。濃濃、厚貌。鞗、轡也。革、轡首也。馬轡所把之外、有餘而埀者也。沖沖、埀貌。和鸞、皆鈴也。在軾曰和、在鑣曰鸞。皆諸侯車馬之飾也。庭燎、亦以君子目諸侯、而稱其鸞旂之美、正此類也。攸、所。同、聚也。
【読み】
○蓼たる彼の蕭、零つる露濃濃<音農>たり。旣に君子を見ては、鞗[じょう]<音條>革沖沖<音蟲>たり。和鸞[らん]雝雝[ようよう]たり、萬福の同[あつ]まる攸。興なり。濃濃は、厚き貌。鞗は、轡なり。革は、轡首なり。馬轡把る所の外、餘り有りて埀るる者なり。沖沖は、埀るる貌。和鸞は、皆鈴なり。軾に在るを和と曰い、鑣[くつわ]に在るを鸞と曰う。皆諸侯の車馬の飾りなり。庭燎に、亦君子を以て諸侯を目[み]て、其の鸞旂[き]の美きを稱するは、正に此の類なり。攸は、所。同は、聚まるなり。

蓼蕭四章章六句
【読み】
蓼蕭[りくしょう]四章章六句


湛湛<上聲>露斯、匪陽不晞<音希>。厭厭<平聲>夜飮、不醉無歸。興也。湛湛、露盛貌。陽、日。晞、乾也。厭厭、安也、亦久也、足也。夜飮、私燕也。燕禮、宵則兩階及庭門、皆設大燭焉。○此亦天子燕諸侯之詩。言湛湛露斯、非日則不晞。以興厭厭夜飮。不醉則不歸。蓋於其夜飮之終、而歌之也。
【読み】
湛湛[たんたん]<上聲>たる露、陽に匪ざれば晞[かわ]<音希>かず。厭厭<平聲>たる夜飮、醉わざれば歸ること無し。興なり。湛湛は、露の盛んなる貌。陽は、日。晞は、乾くなり。厭厭は、安んず、亦久し、足るなり。夜飮は、私燕なり。燕禮に、宵は則ち兩階及び庭門、皆大燭を設く、と。○此れ亦天子諸侯を燕するの詩。言うこころは、湛湛たる露、日に非ざれば則ち晞かず。以て厭厭たる夜飮を興す。醉わざれば則ち歸らず。蓋し其の夜飮の終わりに於て、之を歌うなり。

○湛湛露斯、在彼豐草。厭厭夜飮、在宗載考。興也。豐、茂也。夜飮必於宗室。蓋路寢之屬也。考、成也。
【読み】
○湛湛たる露、彼の豐[しげ]れる草に在り。厭厭たる夜飮、宗に在り載[すなわ]ち考[な]す。興なり。豐は、茂るなり。夜飮は必ず宗室に於てす。蓋し路寢の屬なり。考は、成すなり。

○湛湛露斯、在彼杞棘。顯允君子、莫不令德。興也。顯、明。允、信也。君子、指諸侯爲賓者也。令、善也。令德、謂其飮多而不亂、德足以將之也。
【読み】
○湛湛たる露、彼の杞棘[ききょく]に在り。顯らかに允なる君子、令德ならざる莫し。興なり。顯は、明らか。允は、信なり。君子は、諸侯の賓爲る者を指すなり。令は、善きなり。令德は、其の飮むこと多くして亂れず、德以て之を將[おこな]うに足れるを謂うなり。

○其桐其椅<音醫>、其實離離。豈弟君子、莫不令儀。興也。離離、埀也。令儀、言醉而不喪其威儀也。
【読み】
○其の桐其の椅<音醫>、其の實離離たり。豈弟の君子、令儀あらざる莫し。興なり。離離は、埀るるなり。令儀は、醉いて其の威儀を喪わざるを言うなり。

湛露四章章四句。春秋傳寗武子曰、諸侯朝正於王、王宴樂之。於是賦湛露。曾氏曰、前兩章言厭厭夜飮、後兩章言令德令儀。雖過三爵、亦可謂不以淫矣。
【読み】
湛露[たんろ]四章章四句。春秋傳に寗武子[ねいぶし]が曰く、諸侯王に朝正し、王之を宴樂す。是に於て湛露を賦す、と。曾氏が曰く、前の兩章は厭厭夜飮を言い、後の兩章は令德令儀を言う。三爵を過ぐと雖も、亦繼ぐに淫を以てせずと謂う可し、と。


白華之什十篇五篇無辭。凡二十三章一百四句。
【読み】
白華の什十篇五篇辭無し。凡て二十三章一百四句。


詩經卷之五  朱熹集傳


彤弓之什二之三
【読み】
彤弓[とうきゅう]の什二の三


彤弓<音超>兮、受言藏之。我有嘉賓、中心貺<叶虛王反>之。鐘鼓旣設、一朝饗<叶虛良反>之。賦也。彤弓、朱弓也。弨、弛貌。貺、與也。大飮賓曰饗。○此天子燕有功諸侯而錫以弓矢之樂歌也。東萊呂氏曰、受言藏之、言其重也。弓人所獻、藏之王府、以待有功。不敢輕與人也。中心貺之、言其誠也。中心實欲貺之。非由外也。一朝饗之、言其速也。以王府寶藏之弓、一朝舉以畀人。未嘗有遲留顧惜之意也。後世視府藏爲己私分、至有以武庫兵賜弄臣者、則與受言藏之者異矣。賞賜非出於利誘、則迫於事勢。至有朝賜鐵券、而暮屠戮者、則與中心貺之者異矣。屯膏吝賞功臣解體。至有印刓而不忍予者、則與一朝饗之者異矣。
【読み】
彤弓[とうきゅう]弨[しょう]<音超>たり、受けて言[ここ]に之を藏む。我に嘉賓有り、中心之を貺[あた]<叶虛王反>う。鐘鼓旣に設けて、一朝之を饗<叶虛良反>す。賦なり。彤弓は、朱弓なり。弨は、弛[はず]せる貌。貺は、與うなり。大いに賓に飮ましむるを饗と曰う。○此れ天子有功の諸侯を燕して錫うに弓矢を以てするの樂歌なり。東萊の呂氏が曰く、受けて言に之を藏むとは、其の重きを言うなり。弓人の獻ずる所、之を王府に藏めて、以て有功を待つ。敢えて輕々しく人に與えざるなり。中心之を貺うとは、其の誠なるを言うなり。中心實に之を貺えんと欲す。外に由るに非ざるなり。一朝之を饗すとは、其の速やかなるを言うなり。王府寶藏の弓を以て、一朝舉げて以て人に畀[あた]う。未だ嘗て遲留顧惜の意有らざるなり。後世府藏を視て己が私分として、武庫兵を以て弄臣に賜う者有るに至れば、則ち受けて言に之を藏むる者と異なり。賞賜利誘に出でるに非ざれば、則ち事勢に迫る。朝に鐵券を賜わりて、暮に屠戮する者有るに至れば、則ち中心之を貺う者と異なり。膏[めぐ]むを屯[なや]み賞を吝んで功臣體を解く。印刓[がん]して予うるに忍びざる者有るに至れば、則ち一朝之を饗する者と異なり。

○彤弓弨兮、受言載<叶子利反>之。我有嘉賓、中心喜<叶去聲>之。鐘鼓旣設、一朝右<音又。叶于記反>之。賦也。載、抗之也。喜、樂也。右、勸也、尊也。
【読み】
○彤弓弨たり、受けて言に之を載[あ]<叶子利反>ぐ。我に嘉賓有り、中心之を喜<叶去聲>ぶ。鐘鼓旣に設けて、一朝之を右[すす]<音又。叶于記反>む。賦なり。載は、之を抗[あ]ぐるなり。喜は、樂しむなり。右は、勸む、尊ぶなり。

○彤弓弨兮、受言櫜<音高。叶古號反>之。我有嘉賓、中心好<去聲>之。鐘鼓旣設、一朝醻<音酬。叶大到反>之。賦也。櫜、韜。好、說。醻、報也。飮酒之禮、主人獻賓、賓酢主人。主人又酌自飮、而遂酌以飮賓。謂之醻。醻猶厚也。勸也。
【読み】
○彤弓弨たり、受けて言に之を櫜[つつ]<音高。叶古號反>む。我に嘉賓有り、中心之を好[よろこ]<去聲>ぶ。鐘鼓旣に設けて、一朝之を醻[むく]<音酬。叶大到反>う。賦なり。櫜[こう]は、韜[とう]。好は、說ぶ。醻は、報ゆるなり。飮酒の禮、主人賓に獻じ、賓主人に酢[むく]う。主人又酌んで自ら飮んで、遂に酌んで以て賓に飮ましむ。之を醻と謂う。醻は猶厚きがごとし。勸むるなり。

彤弓三章章六句。春秋傳寗武子曰、諸侯敵于所愾、而獻其功。於是乎賜之彤弓一、彤矢百、玈弓矢千、以覺報宴。注曰、愾、恨怒也。覺、明也。謂諸侯有四夷之功、王賜之弓矢。又爲歌彤弓、以明報功宴樂。鄭氏曰、凡諸侯賜弓矢、然後專征伐。東萊呂氏曰、所謂專征者、如四夷入邉、臣子簒弑、不容待報者、其它則九伐之法、乃大司馬所職、非諸侯所專也。與後世强臣、拜表輒行者異矣。
【読み】
彤弓[とうきゅう]三章章六句。春秋傳に寗武子[ねいぶし]が曰く、諸侯愾[うら]む所に敵[あ]たりて、其の功を獻ず。是に於て之に彤弓一、彤矢百、玈[ろ]弓矢千を賜いて、以て覺[あき]らかに報宴す、と。注に曰く、愾は、恨み怒るなり。覺は、明らかなり、と。謂う、諸侯四夷の功有らば、王之に弓矢を賜う。又爲に彤弓を歌いて、以て明らかに功を報じて宴樂す、と。鄭氏が曰く、凡そ諸侯弓矢を賜いて、然して後に征伐を專らにす、と。東萊の呂氏が曰く、所謂專ら征するとは、四夷邉に入り、臣子簒弑するの如き、報ゆるを待つ容からざる者にて、其の它は則九伐の法、乃ち大司馬の職なる所にして、諸侯の專する所に非ず。後世の强臣、拜表して輒ち行く者と異なり、と。


菁菁<音精>者莪、在彼中阿。旣見君子、樂<音洛>且有儀<叶五何反>○興也。菁菁、盛貌。莪、蘿蒿也。中阿、阿中也。大陵曰阿。君子、指賓客也。○此亦燕飮賓客之詩。言菁菁者莪、則在彼中阿矣。旣見君子、則我心喜樂、而有禮儀矣。或曰、以菁菁者莪、比君子容貌威儀之盛也。下章放此。
【読み】
菁菁[せいせい]<音精>たる莪、彼の中阿に在り。旣に君子を見れば、樂<音洛>しみ且つ儀<叶五何反>有り。○興なり。菁菁は、盛んなる貌。莪は、蘿蒿なり。中阿は、阿中なり。大陵を阿と曰う。君子は、賓客を指すなり。○此れ亦賓客を燕飮するの詩。言うこころは、菁菁たる莪は、則ち彼の中阿に在り。旣に君子を見れば、則ち我が心喜び樂しみ、而して禮儀有り。或ひと曰く、菁菁たる莪を以て、君子の容貌威儀の盛んなるに比す、と。下の章も此に放え。

○菁菁者莪、在彼中沚<音止>。旣見君子、我心則喜。興也。中沚、沚中也。喜、樂也。
【読み】
○菁菁たる莪、彼の中沚<音止>に在り。旣に君子を見れば、我が心則ち喜ぶ。興なり。中沚は、沚中なり。喜は、樂しむなり。

○菁菁者莪、在彼中陵。旣見君子、錫我百朋。興也。中陵、陵中也。古者貨貝、五貝爲朋。錫我百朋者、見之而喜、如得重貨之多也。
【読み】
○菁菁たる莪、彼の中陵に在り。旣に君子を見れば、我に百朋を錫う。興なり。中陵は、陵中なり。古は貝を貨[たから]とす、五貝を朋とす。我に百朋を錫うとは、之を見て喜ぶこと、重貨の多きを得るが如し。

○汎汎<芳劒反>楊舟、載沈載浮。旣見君子、我心則休。比也。楊舟、楊木爲舟也。載、則也。載沈載浮、猶言載淸載濁、載馳載驅之類。以比未見君子而心不定也。休者、休休然。言安定也。
【読み】
○汎汎<芳劒反>たる楊の舟、載[すなわ]ち沈み載ち浮かぶ。旣に君子を見れば、我が心則ち休[やす]んず。比なり。楊舟は、楊の木にて舟を爲るなり。載は、則ちなり。載ち沈み載ち浮かぶは、猶載ち淸く載ち濁り、載ち馳せ載ち驅すと言うがごときの類。以て未だ君子を見ずして心定まらざるに比すなり。休は、休休然。安んじ定まるを言うなり。

菁菁者莪四章章四句
【読み】
菁菁者莪[せいせいしゃが]四章章四句


六月棲棲<音西>、戎車旣飭<音敕>。四牡騤騤<音逵>、載是常服<叶蒲北反>。玁狁孔熾、我是用急<叶音棘>。王于出征、以匡王國<叶于逼反>○賦也。六月、建未之月也。棲棲、猶皇皇。不安之貌。戎車、兵車也。飭、整也。騤騤、强貌。常服、戍事之常服。以韎韋爲弁、又以爲衣、而素裳白舃也。玁狁、卽獫狁、北狄也。孔、甚。熾、盛。匡、正也。○成康旣沒、周室寖衰。八世而厲王胡暴虐。周人逐之、出居于彘。玁狁内侵、逼近京邑。王崩子宣王靖卽位。命尹吉甫帥師伐之。有功而歸。詩人作歌、以叙其事如此。司馬法、冬夏不興師。今乃六月而出師者、以玁狁甚熾、其事危急、故不得已、而王命於是出征、以正王國也。
【読み】
六月棲棲<音西>たり、戎車旣に飭[ととの]<音敕>う。四牡騤騤[きき]<音逵>たり、是の常服<叶蒲北反>を載す。玁狁[げんいん]孔[はなは]だ熾んなり、我れ是を用[もっ]て急[すみ]<叶音棘>やかなり。王于[ここ]に出でて征し、以て王國<叶于逼反>を匡さしむ。○賦なり。六月は、建未の月なり。棲棲は、猶皇皇のごとし。安からざるの貌。戎車は、兵車なり。飭は、整うなり。騤騤は、强き貌。常服は、戍事の常服。韎韋[ばつい]を以て弁に爲り、又以て衣に爲りて、素裳白舃[せき]なり。玁狁は、卽ち獫狁[けんいん]、北狄なり。孔は、甚だ。熾は、盛ん。匡は、正しきなり。○成康旣に沒し、周室寖[ようや]く衰う。八世にして厲王胡暴虐。周人之を逐いて、出でて彘[てい]に居る。玁狁内侵して、京邑に逼り近づく。王崩じて子の宣王靖位に卽く。尹吉甫に命じて師を帥いて之を伐たしむ。功有りて歸る。詩人歌を作りて、以て其の事を叙ぶること此の如し。司馬法に、冬夏師を興さず、と。今乃ち六月にして師を出だすは、玁狁甚だ熾んに、其の事危急なるを以て、故に已むことを得ずして、王是に命じて出でて征して、以て王國を正さしむ。

○比<去聲>物四驪、閑之維則。維此六月、旣成我服<叶蒲北反>。我服旣成、于三十里。王于出征、以佐天子<叶奬里反>○賦也。比物、齊其力也。凡大事、祭祀・朝覲・會同也。毛馬而頒之。凡軍事、物馬而頒之。毛馬齊其色、物馬齊其力。吉事尙文、武事尙强也。則、法也。服、戎服也。三十里、一舍也。古者吉行日五十里、師行日三十里。○旣比其物而曰四驪、則其色又齊。可以見馬之有餘矣。閑、習之而皆中法則。又可以見敎之有素矣。於是此月之中、卽成我服。旣成我服、卽日道不徐不疾。盡舍而止。又見其應變之速、從事之敏、而不失其常度也。王命於此、而出征。欲其有以敵王所愾而佐天子耳。
【読み】
○物を比[ひと]<去聲>しくする四驪[り]、之を閑[なら]わして維れ則あり。維れ此の六月、旣に我が服<叶蒲北反>を成す。我が服旣に成りて、于[ここ]に三十里。王于に出で征せしめて、以て天子<叶奬里反>を佐けしむ。○賦なり。物を比しくすとは、其の力を齊しくするなり。凡そ大事は、祭祀・朝覲・會同なり。毛馬にして之を頒[わ]かつ。凡そ軍事は、物馬にして之を頒かつ。毛馬は其の色を齊しくし、物馬は其の力を齊しくす。吉事は文を尙び、武事は强きを尙ぶ。則は、法なり。服は、戎服なり。三十里は、一舍なり。古は吉行は日に五十里、師行は日に三十里。○旣に其の物を比しくして四驪と曰わば、則ち其の色も又齊し。以て馬の餘有るを見る可し。閑は、之を習わせて皆法則に中る。又以て敎の素有るを見る可し。是に於て此の月の中、卽ち我が服を成す。旣に我が服を成せば、卽ち日に道して徐[おそ]からず疾からず。舍を盡くして止まる。又其の變に應ずるの速やかに、事に從うの敏にして、其の常度を失わざることを見すなり。王此に命じて、出でて征せしむ。其の以て王の愾[うら]む所に敵[あ]たりて天子を佐くること有らんことを欲するのみ。

○四牡脩廣、其大有顒<玉容反>。薄伐玁狁、以奏膚公。有嚴有翼、共<音恭>武之服<叶蒲北反>。共武之服、以定王國<叶于逼反>○賦也。脩、長。廣、大也。顒、大貌。奏、薦。膚、大。公、功。嚴、威。翼、敬也。共、與供同。服、事也。言將帥皆嚴敬、以共武事也。
【読み】
○四牡脩廣、其の大いなる顒[ぎょう]<玉容反>たる有り。薄[いささ]か玁狁を伐ちて、以て膚[おお]いなる公を奏[すす]む。嚴たる有り翼たる有り、武の服[こと]<叶蒲北反>に共[そな]<音恭>う。武の服に共え、以て王國<叶于逼反>を定めん。○賦なり。脩は、長き。廣は、大いなり。顒は、大いなる貌。奏は、薦む。膚は、大い。公は、功。嚴は、威。翼は、敬なり。共は、供と同じ。服は、事なり。言うこころは、將帥皆嚴敬にして、以て武の事に共うるなり。

○玁狁匪茹<音孺>、整居焦穫<音護>。侵鎬<音浩>及方、至于涇陽。織<音志>文鳥章、白旆央央<於良反>。元戎十乘<去聲>、以先啓行<叶戶郎反>○賦也。茹、度。整、齊也。焦穫・鎬・方、皆地名。焦、未詳所在。穫、郭璞以爲瓠中。則今在耀州三原縣也。鎬、劉向以爲千里之鎬。則非鎬京之鎬矣。亦未詳其所在也。方、疑卽朔方也。涇陽、涇水之北、在豐鎬之西北。言其深入爲宼也。織、幟字同。鳥章、鳥隼之章也。白旆、繼旐者也。央央、鮮明貌。元、大也。戎、戎車也。軍之前鋒也。啓、開。行、道也。猶言發程也。○言玁狁不自度量、深入爲宼如此。是以建此旌旗、選鋒銳進、聲其罪而致討焉。直而壯、律而臧、有所不戰、戰必勝矣。
【読み】
○玁狁茹[はか]<音孺>らず、焦穫[しょうご]<音護>に整え居る。鎬<音浩>と方とを侵し、涇陽に至る。織<音志>文は鳥章、白旆[はい]央央<於良反>たり。元[おお]いなる戎十乘<去聲>、以て先ず行[みち]<叶戶郎反>を啓[ひら]く。○賦なり。茹は、度る。整は、齊うなり。焦穫・鎬・方は、皆地名。焦は、未だ在る所詳らかならず。穫は、郭璞以爲えらく、瓠中、と。則ち今耀州の三原縣に在り。鎬は、劉向以爲えらく、千里の鎬。則ち鎬京の鎬に非ず、と。亦未だ其の在る所詳らかならず。方は、疑うらくは卽ち朔方なり。涇陽は、涇水の北、豐鎬の西北に在り。言うこころは、其れ深く入りて宼を爲すなり。織は、幟の字に同じ。鳥章は、鳥隼の章なり。白旆は、旐[はた]に繼ぐ者なり。央央は、鮮明なる貌。元は、大いなり。戎は、戎車なり。軍の前鋒なり。啓は、開く。行は、道なり。猶發程と言うがごとし。○言うこころは、玁狁自ら度り量らず、深く入りて宼を爲すこと此の如し。是を以て此の旌旗を建て、鋒銳を選びて進めて、其の罪を聲[なら]して討を致す。直にして壯、律にして臧、戰わざる所有りて、戰えば必ず勝つ。

○戎車旣安<叶於連反>、如輊<音致>如軒。四牡旣佶<音吉>、旣佶且閑<叶胡田反>。薄伐玁狁、至于大<音泰>原。文武吉甫、萬邦爲憲<叶許言反>○賦也。輊、車之覆而前也。軒、車之却而後也。凡車從後視之如輊。從前視之如軒。然後適調也。佶、壯健貌。大原、地名。亦曰大鹵。今在大原府陽曲縣。至于大原、言逐出之而已。不窮追也。先王治戎狄之法如此。吉甫、尹吉甫。此時大將也。憲、法也。非文無以附衆。非武無以威敵。能文能武、則萬邦以之爲法矣。
【読み】
○戎車旣に安<叶於連反>し、輊[ち]<音致>の如く軒の如し。四牡旣に佶[すみ]<音吉>やかなり、旣に佶やかにして且つ閑[なら]<叶胡田反>せり。薄か玁狁を伐ち、大<音泰>原に至る。文武ある吉甫、萬邦憲[のり]<叶許言反>とす。○賦なり。輊は、車の覆[かぶ]りて前[すす]むなり。軒は、車の却[しりぞ]いて後るなり。凡そ車後より之を視れば輊の如し。前より之を視れば軒の如し。然して後に適調す。佶は、壯健なる貌。大原は、地名。亦大鹵[たいろ]と曰う。今大原府陽曲縣に在り。大原に至るとは、言うこころは、之を逐い出すのみ。窮めて追わざるなり。先王の戎狄を治むるの法此の如し。吉甫は、尹吉甫。此の時の大將なり。憲は、法なり。文に非ざれば以て衆を附すること無し。武に非ざれば以て敵を威すこと無し。能く文に能く武なれば、則ち萬邦之を以て法とす。

○吉甫燕喜、旣多受祉。來歸自鎬、我行永久<叶舉里反>。飮<去聲>御諸友、炰<音庖>鼈膾鯉。侯誰在矣、張仲孝友<叶同上>○賦也。祉、福。御、進。侯、維也。張仲、吉甫之友也。善父母曰孝、善兄弟曰友。○此言吉甫燕飮喜樂、多受福祉。蓋以其歸自鎬而行永久也。是以飮酒進饌於朋友。而孝友之張仲在焉。言其所與宴者之賢、所以賢吉甫而善是燕也。
【読み】
○吉甫燕喜し、旣に多く祉[さいわい]を受く。鎬より來り歸る、我が行くこと永く久<叶舉里反>し。飮<去聲>みて諸友に御[すす]め、鼈を炰[や]<音庖>き鯉を膾にす。侯[こ]れ誰か在る、張仲が孝友<叶同上>○賦なり。祉は、福。御は、進む。侯は、維れなり。張仲は、吉甫の友なり。父母に善きを孝と曰い、兄弟に善きを友と曰う。○此れ言うこころは、吉甫の燕飮喜樂、多く福祉を受く。蓋し其の鎬より歸りて行くこと永く久しきを以てなり。是を以て酒を飮んで饌を朋友に進む。而して孝友の張仲焉に在り。其の與に宴する所の者の賢を言うは、吉甫を賢として是の燕するの善き所以なり。

六月六章章八句
【読み】
六月[りくげつ]六章章八句


薄言采芑<音起>、于彼新田、于此菑<音緇><叶每彼反>。方叔蒞<音利>止。其車三千、師干之試<叶詩止反>。方叔率止、乘其四騏。四騏翼翼。路車有奭<音肸>、簟茀<音弗>魚服<叶蒲北反>、鉤膺鞗<音條><叶訖力反>○興也。芑、苦菜也。靑白色。摘其葉有白汁出。肥可生食。亦可蒸爲茹。卽今苦藚菜。宜馬食軍行。采之、人馬皆可食也。田一歲曰菑、二歲曰新田、三歲曰畬。方叔、宣王卿士。受命爲將者也。涖、臨也。其車三千、法當用三十萬衆。蓋兵車一乘、甲士三人、歩卒七十二人、又二十五人、將重車在後、凡百人也。然此亦極其盛而言。未必實有此數也。師、衆。干、扞也。試、肄習也。言衆且練也。率、總率之也。翼翼、順序貌。路車、戎路也。奭、赤貌。簟茀、以方丈竹簟爲車蔽也。鉤膺、馬婁頷有鉤、而在膺有樊有纓也。樊、馬大帶。纓、鞅也。鞗革、見蓼蕭篇。○宣王之時、蠻荆背叛。王命方叔南征。軍行采芑而食。故賦其事以起興。曰、薄言采芑、則于彼新田、于此菑畞矣。方叔涖止、則其車三千、師干之試矣。又遂言其車馬之美、以見軍容之盛也。
【読み】
薄[いささ]か言[ここ]に芑[き]<音起>を采る、彼の新田に、此の菑[し]<音緇>畞[ほ]<叶每彼反>に。方叔蒞[のぞ]<音利>めり。其の車三千、師[もろもろ]干[ふせ]ぐこと之れ試[なら]<叶詩止反>えり。方叔率いて、其の四騏に乘る。四騏翼翼たり。路車奭[せき]たる<音肸>有り、簟茀[てんふつ]<音弗>魚服<叶蒲北反>、鉤[こう]膺[よう]鞗[じょう]<音條><叶訖力反>あり。○興なり。芑は、苦菜なり。靑白色。其の葉を摘めば白汁有りて出づ。肥えて生食す可し。亦蒸して茹とす可し。卽ち今の苦藚[くしょく]菜。馬食に軍行に宜し。之を采りて、人馬皆食う可し。田一歲を菑と曰い、二歲を新田と曰い、三歲を畬[と]と曰う。方叔は、宣王の卿士。命を受けて將爲る者なり。涖は、臨むなり。其の車三千は、法當に三十萬衆を用うべし。蓋し兵車一乘は、甲士三人、歩卒七十二人、又二十五人は、重車を將[もっ]て後に在り、凡て百人なり。然れども此れ亦其の盛んなるを極めて言う。必ずしも實に此の數有るにあらず。師は、衆。干は、扞ぐなり。試は、肄[なら]い習うなり。言うこころは、衆して且つ練れるなり。率は、總べて之を率いるなり。翼翼は、順序ある貌。路車は、戎路なり。奭は、赤き貌。簟茀は、方丈の竹簟を以て車の蔽いとするなり。鉤膺は、馬婁の頷に鉤有りて、膺に在りては樊有り纓有るなり。樊は、馬の大帶。纓は、鞅[むながい]なり。鞗革は、蓼蕭[りくしょう]の篇に見えたり。○宣王の時、蠻荆背き叛く。王方叔に命じて南征す。軍行芑を采りて食う。故に其の事を賦して以て興を起こす。曰く、薄か言に芑を采る、則ち彼の新田に、此の菑畞に。方叔涖めり、則ち其の車三千、師干ぐこと之れ試えり、と。又遂に其の車馬の美きを言いて、以て軍容の盛んなることを見すなり。

○薄言采芑、于彼新田、于此中郷。方叔蒞止。其車三千、旂旐央央。方叔率止、約軧<音祗>錯衡<叶戶郎反>、八鸞瑲瑲<音倉>。服其命服、朱芾<音弗>斯皇、有瑲葱珩<音衡。叶戶郎反>○興也。中郷、民居。其田尤治。約、束。軧、轂也。以皮纏束兵車之轂、而朱之也。錯、文也。鈴在鑣、曰鑾、馬口兩旁各一、四馬故八也。瑲瑲、聲也。命服、天子所命之服也。朱芾、黃朱之芾也。皇、猶煌煌也。瑲、玉聲。葱、蒼色也。如葱者也。珩、佩首横玉也。禮、三命赤芾葱珩。
【読み】
○薄か言に芑を采る、彼の新田に、此の中郷に。方叔蒞めり。其の車三千、旂旐[きちょう]央央たり。方叔率いて、軧[こしき]<音祗>を約[まと]い衡[くびき]<叶戶郎反>を錯[かざ]り、八つの鸞[すず]瑲瑲[そうそう]<音倉>たり。其の命服を服す、朱芾[しゅふつ]<音弗>斯れ皇たり、瑲たる葱[あお]き珩[たま]<音衡。叶戶郎反>有り。○興なり。中郷は、民居る。其の田尤も治まる。約は、束。軧は、轂なり。皮を以て兵車の轂を纏い束ねて、之を朱くす。錯は、文なり。鈴鑣[くつわ]に在るを、鑾[らん]と曰い、馬の口の兩旁各々一つ、四馬故に八つなり。瑲瑲は、聲なり。命服は、天子命ずる所の服なり。朱芾は、黃朱の芾なり。皇は、猶煌煌のごとし。瑲は、玉の聲。葱は、蒼色なり。葱の如き者なり。珩は、佩首の横玉なり。禮に、三命は赤芾葱珩、と。

○鴥<音聿>彼飛隼<息允反>、其飛戾天、亦集爰止。方叔蒞止。其車三千、師干之試。方叔率止、鉦<音征>人伐鼓、陳師鞠<音菊>旅。顯允方叔、伐鼓淵淵<叶於巾反>、振旅闐闐<音田。叶徒鄰反>○興也。隼、鷂屬。急疾之鳥也。戾、至。爰、於也。鉦、鐃也、鐲也。伐、擊也。鉦以靜之、鼓以動之。鉦鼓各有人。而言鉦人伐鼓、互文也。鞠、告也。二千五百人爲師、五百人爲旅。此言將戰陳其師旅、而誓告之也。陳師鞠旅、亦互文耳。淵淵、鼓聲平和不暴怒也。謂戰時進士衆也。振、止。旅、衆也。言戰罷而止其衆以入也。春秋傳曰、出曰治兵、入曰振旅、是也。闐闐、亦鼓聲也。或曰、盛貌。程子曰、振旅、亦以鼓行、金止。○言隼飛戾天、而亦集於所止。以興師衆之盛、而進退有節、如下文所云也。
【読み】
○鴥[いつ]<音聿>たる彼の飛ぶ隼<息允反>、其れ飛んで天に戾[いた]り、亦止まりに集[い]る。方叔蒞めり。其の車三千、師干ぐこと之れ試えり。方叔率いて、鉦[せい]<音征>人鼓を伐ち、師を陳ね旅[もろもろ]に鞠[つ]<音菊>ぐ。顯らかに允ある方叔、鼓を伐つこと淵淵<叶於巾反>たり、旅を振[とど]むること闐闐[てんてん]<音田。叶徒鄰反>たり。○興なり。隼は、鷂[よう]の屬。急疾の鳥なり。戾は、至る。爰は、於なり。鉦は、鐃[どう]なり、鐲[だく]なり。伐は、擊つなり。鉦は以て之を靜め、鼓は以て之を動かす。鉦鼓各々人有り。而して鉦人鼓を伐つと言うは、文を互いにするなり。鞠は、告ぐるなり。二千五百人を師し、五百人を旅とす。此れ言うこころは、將に戰わんとして其の師旅を陳ねて、誓いて之に告ぐるなり。師を陳ねて旅に鞠ぐも、亦文を互いにするのみ。淵淵は、鼓聲平らに和らいで暴怒ならざるなり。戰う時に士衆を進むるを謂うなり。振は、止む。旅は、衆なり。言うこころは、戰罷めて其の衆を止めて以て入るなり。春秋傳に曰く、出づるを治兵と曰い、入るを振旅と曰うとは、是れなり。闐闐も、亦鼓聲なり。或ひと曰く、盛んなる貌、と。程子が曰く、振旅も、亦鼓を以て行き、金にして止まる、と。○言う、隼飛んで天に戾りて、亦止まる所に集る、と。以て師衆を興すことの盛んにして、進退節有ること、下文云う所の如きなり。

○蠢爾蠻荊、大邦爲讎。方叔元老、克壯其猶。方叔率止、執訊<音信>獲醜<叶尺由反>。戎車嘽嘽<音灘>、嘽嘽焞焞<音推>、如霆如雷。顯允方叔、征伐玁狁、蠻荆來威<叶音隈>○賦也。蠢者、動而無知之貌。蠻荆、荆州之蠻也。大邦、猶言中國也。元、大。猶、謀也。言方叔雖老、而謀則壯也。嘽嘽、衆也。焞焞、盛也。霆、疾雷也。方叔蓋嘗與於北伐之功者。是以蠻荆聞其名、而皆來畏服也。
【読み】
○蠢爾たる蠻荊、大邦讎とす。方叔元老なれども、克く其の猶[はかりごと]を壯んにす。方叔率いて、訊[おさ]<音信>を執えて醜[もろもろ]<叶尺由反>を獲。戎車嘽嘽[たんたん]<音灘>たり、嘽嘽焞焞[たいたい]<音推>たり、霆の如く雷の如し。顯らかに允ある方叔、玁狁を征伐して、蠻荆來り威<叶音隈>れり。○賦なり。蠢は、動いて知ること無き貌。蠻荆は、荆州の蠻なり。大邦は、猶中國と言うがごとし。元は、大い。猶は、謀なり。言うこころは、方叔老いたりと雖も、而して謀は則ち壯んなり。嘽嘽は、衆いなり。焞焞は、盛んなり。霆は、疾雷なり。方叔は蓋し嘗て北伐の功に與る者。是を以て蠻荆其の名を聞いて、皆來りて畏服す。

采芑四章章十二句
【読み】
采芑[さいき]四章章十二句


我車旣攻、我馬旣同。四牡龐龐<音籠>、駕言徂東。賦也。攻、堅。同、齊也。傳曰、宗廟齊豪。尙純也。戎事齊力。尙强也。田獵齊足。尙疾也。龐龐、充實也。東、東都、洛邑也。○周公相成王營洛邑爲東都、以朝諸侯。周室旣衰、久廢其禮。至于宣王、内脩政事、外攘夷狄復文武之境土、脩車馬、備器械、復會諸侯於東都。因田獵而選車徒焉。故詩人作此以美之。首章汎言將往東都也。
【読み】
我が車旣に攻[かた]し、我が馬旣に同[ひと]し。四牡龐龐[ろうろう]<音籠>たり、駕して言[ここ]に東に徂[ゆ]かん。賦なり。攻は、堅し。同は、齊しきなり。傳に曰く、宗廟は豪を齊しくす。純[ひたす]らなるを尙ぶなり。戎事は力を齊しくす。强きを尙ぶなり。田獵には足を齊しくす。疾きを尙ぶ、と。龐龐は、充實なり。東は、東都、洛邑なり。○周公成王を相[たす]け洛邑を營[おさ]め東都として、以て諸侯を朝す。周室旣に衰え、久しく其の禮を廢す。宣王に至りて、内は政事を脩め、外は夷狄を攘って文武の境土を復し、車馬を脩め、器械を備え、復諸侯を東都に會す。田獵するに因りて車徒を選ぶ。故に詩人此を作りて以て之を美む。首章は汎く將に東都に往かんとするを言うなり。

○田車旣好<叶許厚反>、四牡孔阜。東有甫草<叶此苟反>、駕言行狩<叶始苟反>○賦也。田車、田獵之車。好、善也。阜、盛大也。甫草、甫田也。後爲鄭地。今開封府中牟縣西圃田澤是也。宣王之時、未有鄭國圃田、屬東都畿内。故往田也。○此章指言將往狩于圃田也。
【読み】
○田車旣に好<叶許厚反>し、四牡孔[はなは]だ阜[おお]し。東に甫草<叶此苟反>有り、駕して言に行いて狩<叶始苟反>せん。○賦なり。田車は、田獵の車。好は、善きなり。阜は、盛大なり。甫草は、甫田なり。後に鄭の地と爲る。今開封府中牟縣の西圃田澤是れなり。宣王の時、未だ鄭國の圃田に有らず、東都の畿内に屬す。故に往いて田[かり]す。○此の章は指して將に往いて圃田に狩せんとするを言うなり。

○之子于苗<叶音毛>、選徒囂囂<音翺>。建旐設旄、搏<音博>獸于敖。賦也。之子、有司也。苗、狩獵之通名也。選、數也。囂囂、聲衆盛也。數車徒者、其聲囂囂、則車徒之衆可知。且車徒不譁而惟數者有聲、又見其靜治也。敖、近滎陽。地名也。○此章言至東都、而選徒以獵也。
【読み】
○之[こ]の子于[ここ]に苗[かり]<叶音毛>す、徒を選[かぞ]うること囂囂[ごうごう]<音翺>たり。旐[はた]を建て旄[ふさ]を設け、獸を敖に搏[う]<音博>つ。賦なり。之の子は、有司なり。苗は、狩獵の通名なり。選は、數うるなり。囂囂は、聲衆く盛んなるなり。車徒を數うる者、其の聲囂囂ならば、則ち車徒の衆きこと知る可し。且つ車徒譁[かまびす]しからずして惟數うる者の聲有らば、又其の靜治なるを見る。敖は、滎陽に近し。地名なり。○此の章言うこころは、東都に至りて、徒を選えて以て獵するなり。

○駕彼四牡、四牡奕奕。赤芾金舄、會同有繹。賦也。奕奕、連絡布散之貌。赤芾、諸侯之服。金舄、赤舄而加金飾。亦諸侯之服也。時見曰會、殷見曰同。繹、陳列聮屬之貌也。○此章言諸侯來會朝於東都也。
【読み】
○彼の四牡に駕す、四牡奕奕[えきえき]たり。赤芾[せきふつ]金舄[きんせき]、會同繹[えき]たる有り。賦なり。奕奕は、連絡布散する貌。赤芾は、諸侯の服。金舄は、赤き舄[くつ]にして金の飾りを加う。亦諸侯の服なり。時に見するを會と曰い、殷[さか]んに見するを同と曰う。繹は、陳列聮屬するの貌なり。○此の章言うこころは、諸侯來り會して東都に朝すなり。

○決拾旣佽<音次。與柴叶>、弓矢旣調<讀如同。與同叶>。射夫旣同、助我舉柴<音恣>○賦也。決、以象骨爲之。著於右手大指、所以鉤弦開體。拾、以皮爲之。著於左臂、以遂弦。故亦名遂。佽、比也。調、謂弓强弱與矢輕重相得也。射夫、蓋諸侯來會者。同、協也。柴、說文作■(上が此、下が手)。謂積禽也。使諸侯之人、助而舉之。言獲多也。○此章言旣會同而田獵也。
【読み】
○決拾旣に佽[なら]<音次。與柴叶>び、弓矢旣に調<讀んで同の如し。與同叶>う。射夫旣に同[かな]い、我を助けて柴[えもの]<音恣>を舉ぐ。○賦なり。決は、象の骨を以て之を爲る。右手の大指に著け、以て弦を鉤けて體を開く所。拾は、皮を以て之を爲る。左の臂に著けて、以て弦を遂ず。故に亦遂[ゆごて]と名づく。佽は、比[なら]ぶなり。調は、弓の强弱と矢の輕重と相得るを謂うなり。射夫は、蓋し諸侯來り會する者。同は、協うなり。柴は、說文に■(上が此、下が手)に作る。積禽を謂うなり。諸侯の人をして、助けて之を舉げしむ。獲[えもの]多きを言うなり。○此の章言うこころは、旣に會同して田獵するなり。

○四黃旣駕、兩驂不猗<音意。叶於箇反>。不失其馳<叶徒臥反>、舍<音捨>矢如破<叶普過反>○賦也。猗、偏倚不正也。馳、馳驅之法也。舍矢如破、巧而力也。蘇氏曰、不善射御者、詭遇則獲。不然不能也。今御者不失其馳驅之法、而射者舍矢如破、則可謂善射御矣。○此章言田獵而見其射御之善也。
【読み】
○四黃旣に駕し、兩驂猗[かたよ]<音意。叶於箇反>らず。其の馳<叶徒臥反>を失わず、矢を舍[はな]<音捨>つこと破[わ]<叶普過反>るが如し。○賦なり。猗は、偏倚して正しからざるなり。馳は、馳驅の法なり。矢を舍つこと破るが如しとは、巧みにして力あるなり。蘇氏が曰く、射御を善くせざる者は、詭遇して則ち獲。然らずんば能わざるなり。今御者其の馳驅の法を失わずして、射る者の矢を舍つこと破るが如くなれば、則ち射御を善くすと謂う可し、と。○此の章言うこころは、田獵して其の射御の善きを見すなり。

○蕭蕭馬鳴、悠悠旆旌。徒御不驚、大庖不盈。賦也。蕭蕭・悠悠、皆閑暇之貌。徒、歩卒也。御、車御也。驚、如漢書夜軍中驚之驚。不驚、言比卒事、不喧譁也。大庖、君庖也。不盈、言取之有度、不極欲也。蓋古者田獵獲禽、面傷不獻、踐毛不獻、不成禽不獻。擇取三等、自左膘而射之、達于右腢爲上殺。以爲乾豆奉宗廟。達右耳本者次之。以爲賓客。射左髀達于右■(骨偏に上が口で下が月)爲下殺。以充君庖、每禽取三十焉。每等得十、其餘以與士大夫、習射於澤宮中者取之。是以獲雖多、而君庖不盈也。張子曰、饌雖多、而無餘者、均及於衆而有法耳。凡事有法、則何患乎不均也。舊說、不驚、驚也。不盈、盈也。亦通。○此章言其終事嚴而頒禽均也。
【読み】
○蕭蕭[しょうしょう]たる馬鳴、悠悠たる旆旌[はいせい]。徒御驚かず、大庖盈たず。賦なり。蕭蕭・悠悠は、皆閑暇の貌。徒は、歩卒なり。御は、車御なり。驚は、漢書に夜軍中に驚くの驚の如し。驚かずとは、言うこころは、事を卒わるに比[いた]りて、喧譁ならざるなり。大庖は、君の庖なり。盈たずとは、言うこころは、之を取ること度有りて、欲するを極めざるなり。蓋し古は田獵禽を獲るに、面傷は獻せず、踐毛は獻せず、成禽ならざれば獻せず。擇び取ること三等、左膘[ひょう]よりして之を射て、右腢に達するを上殺とす。以て乾豆を爲して宗廟に奉ず。右耳の本に達する者之に次ぐ。以て賓客の爲にす。左髀を射て右■(骨偏に上が口で下が月)に達するを下殺とす。以て君の庖に充て、每禽三十を取る。每等十を得、其の餘は以て士大夫に與え、射を澤宮に習わして中る者之を取る。是を以て獲多しと雖も、而れども君の庖は盈たず。張子が曰く、饌は多しと雖も、而れども餘り無きは、均しく衆に及ぼして法有るのみ。凡そ事法有らば、則ち何ぞ均しからざるを患えんや、と。舊說に、驚かずは、驚くなり。盈たずは、盈つるなり、と。亦通ず。○此の章其の事を終えること嚴にして禽を頒つこと均しきを言うなり。

○之子于征、有聞<音問>無聲。允矣君子、展也大成。賦也。允、信。展、誠也。聞師之行、而不聞其聲、言至肅也。信矣其君子也、誠哉其大成也。○此章總叙其事之始終、而深美之也。
【読み】
○之の子于に征く、聞<音問>くこと有りて聲無し。允なるかな君子、展[まこと]に大いに成せり。賦なり。允は、信。展は、誠なり。師の行くを聞いて、其の聲を聞かずとは、言うこころは、至って肅[つつし]むなり。信なるかな其の君子、誠なるかな其れ大いに成ること。○此の章總べて其の事の始終を叙べて、深く之を美むるなり。

車攻八章章四句。以五章以下考之、恐當作四章章八句。
【読み】
車攻[しゃこう]八章章四句。五章以下を以て之を考うるに、恐らくは當に四章章八句と作すべし。


吉日維戊<叶莫吼反>、旣伯旣禱<叶丁口反>。田車旣好<叶許口反>、四牡孔阜。升彼大阜、從其羣醜。賦也。戊、剛日也。伯、馬祖也。謂天駟房星之神也。醜、衆也。謂禽獸之羣衆也。此亦宣王之詩。言田獵將用馬力。故以吉日祭馬祖而禱之。旣祭而車牢馬健。於是可以歷險而從禽也。以下章推之、是日也、其戊辰歟。
【読み】
吉日維れ戊[つちのえ]<叶莫吼反>、旣に伯旣に禱<叶丁口反>る。田車旣に好<叶許口反>し、四牡孔[はなは]だ阜[さか]んなり。彼の大阜に升りて、其の羣醜[おお]きを從[お]わん。賦なり。戊は、剛日なり。伯は、馬祖なり。天駟房星の神を謂うなり。醜は、衆[おお]いなり。禽獸の羣衆きを謂うなり。此れ亦宣王の詩。言うこころは、田獵將に馬力を用いんとす。故に吉日を以て馬祖を祭りて之を禱る。旣に祭りて車牢[かた]く馬健やかなり。是に於て可以て險を歷て禽を從うなり。下の章を以て之を推すに、是の日は、其れ戊辰なるか。

○吉日庚午、旣差我馬<叶滿浦反>。獸之所同、麀<音憂>鹿麌麌<音語>。漆沮<平聲>之從、天子之所。賦也。庚午、亦剛日也。差、擇。齊其足也。同、聚也。鹿牝曰麀。麌麌、衆名也。漆沮、水名。在西都畿内涇渭之北、所謂洛水、今自延韋流入鄜坊、至同州入河也。○戊辰之日旣禱矣。越三日庚午、遂擇其馬而乘之。視獸之所聚、麀鹿最多之處、而從之。惟漆沮之旁爲盛。宜爲天子田獵之所也。
【読み】
○吉日庚[かのえ]午[うま]、旣に我が馬<叶滿浦反>を差[えら]ぶ。獸の同[あつ]まる所、麀[ゆう]<音憂>鹿麌麌[ごご]<音語>たり。漆沮[しっしょ]<平聲>に之れ從う、天子の所。賦なり。庚午も、亦剛日なり。差は、擇ぶ。其の足を齊しくするなり。同は、聚まるなり。鹿の牝を麀と曰う。麌麌は、衆き名なり。漆沮は、水の名。西都畿内涇渭の北に在り、所謂洛水にて、今延韋より流れて鄜坊[ふぼう]に入り、同州に至りて河に入るなり。○戊辰の日旣に禱る。越えて三日庚午に、遂に其の馬を擇びて之に乘る。獸の聚まる所、麀鹿の最も多き處を視て、之を從う。惟漆沮の旁のみ盛んとす。宜しく天子田獵するの所爲るべし。

○瞻彼中原、其祁孔有<叶羽已反>。儦儦<音標>俟俟<叶于紀反>、或羣或友<叶羽已反>。悉率左右<叶羽已反>、以燕天子<叶奬里反>○賦也。中原、原中也。祁、大也。趣則儦儦。行則俟俟。獸三曰羣、二曰友。燕、樂也。○言從王者視彼禽獸之多。於是率其同事之人、各共其事、以樂天子也。
【読み】
○彼の中原を瞻れば、其れ祁[おお]いに孔だ有<叶羽已反>り。儦儦[ひょうひょう]<音標>たり俟俟[しし]<叶于紀反>たり、或は羣或は友<叶羽已反>。悉く左右<叶羽已反>を率いて、以て天子<叶奬里反>を燕[たの]しましむ。○賦なり。中原は、原中なり。祁は、大いなり。趣[すみ]やかなれば則ち儦儦たり。行[ある]けば則ち俟俟たり。獸三つを羣と曰い、二つを友と曰う。燕は、樂しむなり。○言うこころは、王者に從いて彼の禽獸の多きを視る。是に於て其の同事の人を率いて、各々其の事を共にして、以て天子を樂しましむなり。

○旣張我弓、旣挾我矢、發彼小豝<音巴>、殪<音意>此大兕、以御賓客、且以酌醴。賦也。發、發矢也。豕牝曰豝。一矢而死曰殪。兕、野牛也。言能中微而制大也。御、進也。醴、酒名。周官五齊、二曰醴齊。注曰、醴成而汁滓相將。如今甜酒也。○言射而獲禽以爲俎實、進於賓客而酌醴也。
【読み】
○旣に我が弓を張り、旣に我が矢を挾み、彼の小豝[は]<音巴>に發[はな]ちて、此の大兕[じ]殪[たお]<音意>し、以て賓客に御[すす]めて、且つ以て醴を酌む。賦なり。發は、矢を發つなり。豕の牝を豝と曰う。一矢にして死するを殪[えい]と曰う。兕は、野牛なり。言うこころは、能く微しきに中りて大きを制するなり。御は、進むなり。醴は、酒の名。周官に五齊、二に曰く醴齊、と。注に曰く、醴成して汁と滓と相將ゆ、と。今の甜酒[てんしゅ]の如し。○言うこころは、射て禽を獲て以て俎實とし、賓客に進めて醴を酌むなり。

吉日四章章六句。東萊呂氏曰、車攻・吉日、所以爲復古者何也。蓋蒐狩之禮、可以見王賦之復焉。可以見軍實之盛焉。可以見師律之嚴焉。可以見上下之情焉。可以見綜理之周焉。欲明文武之功業者、此亦足以觀矣。
【読み】
吉日[きつじつ]四章章六句。東萊の呂氏が曰く、車攻・吉日、古に復るとする所以の者は何ぞや。蓋し蒐狩の禮、以て王賦の復するを見る可し。以て軍實の盛んなるを見る可し。以て師律の嚴なるを見る可し。以て上下の情を見る可し。以て綜理の周きを見る可し。文武の功業を明らかにせんと欲する者は、此れ亦以て觀るに足れり。


鴻鴈于飛、肅肅其羽。之子于征、劬勞于野<叶上與反>。爰及矜人、哀此鰥寡<叶果五反>○興也。大曰鴻、小曰鴈。肅肅、羽聲也。之子、流民自相謂也。征、行也。劬勞、病苦也。矜、憐也。老而無妻曰鰥、老而無夫曰寡。○舊說、周室中衰萬民離散。而宣王能勞來還定安集之。故流民喜之而作此詩。追叙其始而言曰、鴻鴈于飛、則肅肅其羽矣。之子于征、則劬勞于野矣。且其劬勞者、皆鰥寡、可哀憐之人也。然今亦未有以見其爲宣王之詩。後三篇放此。
【読み】
鴻鴈于[ここ]に飛んで、肅肅たる其の羽あり。之の子于に征き、野<叶上與反>に劬勞す。爰に及ぶ矜[あわ]れむべき人、哀しむべき此の鰥寡[かんか]<叶果五反>○興なり。大いなるを鴻と曰い、小さきなるを鴈と曰う。肅肅は、羽の聲なり。之の子は、流民自ら相謂うなり。征は、行くなり。劬勞は、病苦なり。矜は、憐れむなり。老いて妻無きを鰥と曰い、老いて夫無きを寡と曰う。○舊說に、周室中ごろ衰え萬民離散す。而して宣王能く之を勞り來し還り定め安んじ集む。故に流民之を喜びて此の詩を作る。追って其の始めを叙べて言って曰く、鴻鴈于に飛べば、則ち肅肅たる其の羽あり。之の子于に征けば、則ち野に劬勞す。且つ其の劬勞する者は、皆鰥寡、哀憐す可きの人なり。然れども今亦未だ以て其の宣王の詩とすることを見ること有らず。後の三篇も此に放え。

○鴻鴈于飛、集于中澤<叶徒洛反>。之子于垣<音袁>、百堵皆作。雖則劬勞、其究安宅<叶達各反>○興也。中澤、澤中也。一丈爲板。五板爲堵。究、終也。○流民自言、鴻鴈集于中澤。以興己之得其所止、而築室以居。今雖勞苦、而終獲安定也。
【読み】
○鴻鴈于に飛んで、中澤<叶徒洛反>に集[い]る。之の子于に垣<音袁>し、百堵皆作す。則ち劬勞すと雖も、其れ究[つい]に安宅<叶達各反>せん。○興なり。中澤は、澤中なり。一丈を板とす。五板を堵とす。究は、終になり。○流民自ら言う、鴻鴈中澤に集る、と。以て己の其の止まる所を得て、室を築いて以て居るを興す。今勞苦すと雖も、而して終に安んじ定まることを獲ん。

○鴻鴈于飛、哀鳴嗷嗷<音翺>。維此哲人、謂我劬勞。維彼愚人、謂我宣驕<叶音高>○比也。流民、以鴻鴈哀鳴自比、而作此歌也。哲、知。宣、示也。知者聞我歌、知其出於劬勞。不知者謂我閒暇而宣驕也。韓詩云、勞者歌其事。魏風亦云、我歌且謠。不知我者謂我士也驕。大抵歌多出於勞苦。而不知者常以爲驕也。
【読み】
○鴻鴈于に飛んで、哀しみ鳴くこと嗷嗷[ごうごう]<音翺>たり。維れ此の哲[し]る人は、我れ劬勞すと謂わん。維れ彼の愚かなる人は、我れ驕<叶音高>りを宣[しめ]すと謂わん。○比なり。流民、鴻鴈の哀しみ鳴くを以て自ら比して、此の歌を作るなり。哲は、知る。宣は、示すなり。知る者は我が歌を聞いて、其の劬勞より出づるを知る。知らざる者は我れ閒暇して驕りを宣すと謂うなり。韓詩に云う、勞者其の事を歌う、と。魏風に亦云う、我れ歌い且つ謠う。我を知らざる者は我が士驕ると謂う、と。大抵歌は勞苦より多く出づ。而して知らざる者は常に以て驕りとす。

鴻鴈三章章六句
【読み】
鴻鴈[こうがん]三章章六句


夜如何其<音基>。夜未央、庭燎之光。君子至止、鸞聲將將<音搶>○賦也。其、語辭。央、中也。庭燎、大燭也。諸侯將朝、則司烜以物百枚、幷而束之、設於門内也。君子、諸侯也。將將、鸞鑣聲。○王將起視朝。不安於寢、而問夜之早晩曰、夜如何哉。夜雖未央、而庭燎光。朝者至、而聞其鸞聲。
【読み】
夜如何。夜未だ央[なかば]ならざるに、庭燎の光あり。君子至る、鸞[すず]の聲將將<音搶>たり。○賦なり。其は、語の辭。央、中ばなり。庭燎は、大燭なり。諸侯將に朝せんとすれば、則ち司烜[しかん]物百枚を以て、幷せて之を束ねて、門内に設く。君子は、諸侯なり。將將は、鸞鑣[らんひょう]の聲。○王將に起きて朝を視んとす。寢ねるを安んぜずして、夜の早晩を問いて曰く、夜如何ぞや、と。夜未だ央ならずと雖も、而れども庭燎光あり。朝する者至りて、其の鸞の聲を聞く。

○夜如何其。夜未艾<叶音又>、庭燎晰晰<音制。與艾叶>。君子至止、鸞聲噦噦<音諱>○賦也。艾、盡也。晰晰、小明也。噦噦、近而聞其徐行聲有節也。
【読み】
○夜如何。夜未だ艾[つ]<叶音又>きざるに、庭燎晰晰[せいせい]<音制。與艾叶>たり。君子至る、鸞の聲噦噦[かいかい]<音諱>たり。○賦なり。艾は、盡きるなり。晰晰は、小しく明るきなり。噦噦は、近くして其の徐[しず]かに行きて聲に節有るを聞くなり。

○夜如何其。夜郷<音向>晨、庭燎有煇<音熏>。君子至止、言觀其旂<叶渠斤反>○賦也。郷晨、近曉也。煇、火氣也。天欲明、而見其煙光相雜也。旣至而觀其旂、則辨色矣。
【読み】
○夜如何。夜晨に郷[む]<音向>かわば、庭燎煇[き]たる<音熏>有り。君子至る、言[ここ]に其の旂[はた]<叶渠斤反>を觀る。○賦なり。晨に郷うは、曉に近きなり。煇は、火氣なり。天明けんと欲して、其の煙光相雜わるを見るなり。旣に至りて其の旂を觀れば、則ち色を辨うなり。

庭燎三章章五句
【読み】
庭燎[ていりょう]三章章五句


<音免>彼流水、朝<音潮>宗于海<叶虎洧反>。鴥<惟必反>彼飛隼、載飛載止。嗟我兄弟、邦人諸友<叶羽軌反>。莫肯念亂、誰無父母<叶滿洧反>○興也。沔、水流滿也。諸侯春見天子曰朝、夏見曰宗。○此憂亂之詩。言流水猶朝宗于海。飛隼猶或有所止、而我之兄弟諸友、乃無肯念亂者。誰獨無父母乎。亂則憂或及之。是豈可以不念哉。
【読み】
沔[めん]<音免>たる彼の流るる水、海<叶虎洧反>に朝<音潮>宗す。鴥[いつ]<惟必反>たる彼の飛ぶ隼、載[すなわ]ち飛び載ち止[い]る。嗟[ああ]我が兄弟、邦人諸友<叶羽軌反>。肯えて亂を念うこと莫し、誰か父母<叶滿洧反>無けん。○興なり。沔は、水流れて滿つるなり。諸侯春に天子に見ゆるを朝と曰い、夏見ゆるを宗と曰う。○此れ亂を憂うるの詩。言うこころは、流るる水も猶海に朝宗す。飛ぶ隼も猶或は止まる所有りて、我が兄弟諸友、乃ち肯えて亂を念う者無し。誰獨り父母無けん。亂るれば則ち憂え或は之に及ばん。是れ豈以て念わざる可けんや。

○沔彼流水、其流湯湯<音傷>。鴥彼飛隼、載飛載揚。念彼不蹟<音迹>、載起載行<叶戶郎反>。心之憂矣、不可弭忘。興也。湯湯、波流盛貌。不蹟、不循道也。載起載行、言憂念之深、不遑寧處也。弭、止也。水盛隼揚、以興憂亂之不能忘也。
【読み】
○沔たる彼の流るる水、其の流れ湯湯[しょうしょう]<音傷>たり。鴥たる彼の飛ぶ隼、載ち飛び載ち揚がる。彼の蹟[したが]<音迹>わざるを念って、載ち起ち載ち行<叶戶郎反>く。心の憂えあり、弭[や]み忘る可からず。興なり。湯湯は、波だち流るるの盛んなる貌。蹟わずは、道に循わざるなり。載ち起ち載ち行くは、言うこころは、憂え念うことの深くして、寧んじ處に遑あらざるなり。弭は、止むなり。水盛んに隼揚がる、以て憂亂の忘るること能わざるを興すなり。

○鴥彼飛隼、率彼中陵。民之訛言、寧莫之懲。我友敬矣、讒言其興。興也。率、循。訛、僞。懲、止也。○隼之高飛、猶循彼中陵。而民之訛言乃無懲止之者。然我之友、誠能敬以自持矣、則讒言何自而興乎。始憂於人、而卒反諸己也。
【読み】
○鴥たる彼の飛ぶ隼、彼の中陵に率う。民の訛言、寧ろ之を懲[や]むること莫し。我が友敬[つつし]まば、讒言其れ興らんや。興なり。率は、循う。訛は、僞。懲は、止むなり。○隼の高く飛ぶも、猶彼の中陵に循う。而して民の訛言は乃ち之を懲らし止むる者無し。然れども我が友、誠に能く敬して以て自ら持てば、則ち讒言何れよりして興らんや。始めは人を憂えて、卒には諸を己に反すなり。

沔水三章二章章八句一章章六句。疑當作三章章八句。卒章脫前兩句耳。
【読み】
沔水[めんすい]三章二章章八句一章章六句。疑うらくは當に三章章八句と作すべし。卒章前の兩句を脫するのみ。


鶴鳴于九皐、聲聞<音問>于野<叶上與反>。魚潛在淵、或在于渚。樂<音洛>彼之園。爰有樹檀<叶徒沿反>、其下維蘀<音託>。他山之石、可以爲錯<入聲>○比也。鶴、鳥名。長頸竦身。高脚頂赤。身白頸尾黑。其鳴高亮、聞八九里。皐、澤中水溢出所爲坎。從外數至九。喩深遠也。蘀、落也。錯、礪石也。○此詩之作、不可知其所由。然必陳善納誨之辭也。蓋鶴鳴于九皐、而聲聞于野、言誠之不可揜也。魚潛在淵、而或在于渚、言理之無定在也。園有樹檀、而其下維蘀、言愛當知其惡也。他山之石、而可以爲錯、言憎當知其善也。由是四者引而伸之、觸類而長之。天下之理、其庶幾乎。
【読み】
鶴九皐[きゅうこう]に鳴いて、聲野<叶上與反>に聞<音問>こゆ。魚潛んで淵に在り、或は渚に在り。彼の園を樂<音洛>しむ。爰に樹てる檀[まゆみ]<叶徒沿反>有り、其の下は維れ蘀[おちば]<音託>。他山の石、以て錯[と]<入聲>とす可し。○比なり。鶴は、鳥の名。長頸竦身[しょうしん]。高き脚頂き赤し。身白く頸尾黑し。其の鳴くこと高く亮[さ]えて、八九里に聞こゆ。皐は、澤中の水溢れ出でて坎[あな]と爲る所。外より數えて九に至る。深遠に喩うなり。蘀[たく]は、落つるなり。錯は、礪石なり。○此の詩の作れる、其の由る所を知る可からず。然れども必ず善を陳べ誨を納るるの辭ならん。蓋し鶴九皐に鳴いて、聲野に聞こゆとは、言うこころは誠の揜う可からざるなり。魚潛んで淵に在りて、或は渚に在りとは、言うこころは、理の定まり在ること無きなり。園に樹てる檀有りて、其の下維れ蘀とは、言うこころは、愛すとも當に其の惡しきを知るべし。他山の石にして、以て錯とす可しとは、言うこころは、憎むとも當に其の善きを知るべし。是の四つの者に由りて引いて之を伸べ、類に觸れて之を長[ま]す。天下の理、其れ庶幾からんか。

○鶴鳴于九皐、聲聞于天<叶鐵因反>。魚在于渚、或潛在淵<叶一均反>。樂彼之園、爰有樹檀、其下維穀。他山之石、可以攻玉。比也。穀、一名楮。惡木也。攻、錯也。○程子曰、玉之溫潤、天下之至美也。石之麄厲、天下之至惡也。然兩玉相磨不可以成器。以石磨之、然後玉之爲器、得以成焉。猶君子之與小人處也。橫逆侵加然後脩省畏避、動心忍性、增益預防、而義理生焉。道德成焉。吾聞諸邵子云。
【読み】
○鶴九皐に鳴いて、聲天<叶鐵因反>に聞こゆ。魚渚に在り、或は潛んで淵<叶一均反>に在り。彼の園を樂しむ。爰に樹てる檀有り、其の下は維れ穀。他山の石、以て玉を攻[みが]く可し。比なり。穀は、一名は楮。惡木なり。攻は、錯なり。○程子が曰く、玉の溫潤なる、天下の至美なり。石の麄厲なるは、天下の至惡なり。然れども兩玉相磨して以て器と成る可からず。石を以て之を磨して、然して後に玉の器を爲ること、以て成ることを得。猶君子の小人と處るがごとし。橫逆侵し加えて然して後に脩省畏避、心を動かし性を忍び、增益預防して、義理生す。道德成す。吾れ諸を邵子に聞けりと云う。

鶴鳴二章章九句
【読み】
鶴鳴[かくめい]二章章九句


彤弓之什十篇四十章二百五十九句。疑脫兩句。當爲二百六十一句。
【読み】
彤弓の什十篇四十章二百五十九句。疑うらくは兩句を脫せり。當に二百六十一句とすべし。


祈父之什二之四
【読み】
祈父[きほ]の什二の四


祈父<音甫>、予王之爪牙<叶五胡反>、胡轉予于恤、靡所止居。賦也。祈父、司馬也。職掌封圻之兵甲。故以爲號。酒誥曰、圻父薄違是也。予、六軍之士也。或曰、司右虎賁之屬也。爪牙、鳥獸所用以爲威者也。恤、憂也。○軍士怨於久役。故呼祈父而告之曰、予乃王之爪牙、汝何轉我於憂恤之地、使我無所止居乎。
【読み】
祈父[きほ]<音甫>、予は王の爪牙[そうが]<叶五胡反>、胡ぞ予を恤えに轉[うつ]して、止まり居る所靡からしむる。賦なり。祈父は、司馬なり。職は封圻の兵甲を掌る。故に以て號とす。酒誥に曰く、圻父違えるを薄[せ]むとは是れなり。予は、六軍の士なり。或ひと曰く、司右虎賁[こほん]の屬なり。爪牙は、鳥獸の用いて以て威を爲す所の者なり。恤は、憂えなり。○軍士久役を怨む。故祈父を呼んで之に告げて曰く、予は乃ち王の爪牙、汝何ぞ我を憂恤の地に轉して、我をして止まり居る所無からしめんや、と。

○祈父、予王之爪士、胡轉予于恤、靡所底<音抵>止。賦也。爪士、爪牙之士也。底、至也。
【読み】
○祈父、予は王の爪士、胡ぞ予を恤えに轉して、底[いた]<音抵>り止まる所靡からしむる。賦なり。爪士は、爪牙の士なり。底は、至るなり。

○祈父、亶不聰、胡轉予于恤、有母之尸饔。賦也。亶、誠。尸、主也。饔、熟食也。言不得奉養、而使母反主勞苦之事也。○東萊呂氏曰、越勾踐伐吳、有父母耆老而無昆弟者、皆遣歸。魏公子無忌救趙、亦令獨子無兄弟者歸養。則古者有親老而無兄弟、其當免征役必有成法。故責司馬之不聰。其意謂、此法人皆聞之。汝獨不聞乎。乃驅吾從戎、使吾親不免薪水之勞也。責司馬者、不敢斥王也。
【読み】
○祈父、亶[まこと]に聰ならず、胡ぞ予を恤えに轉して、母をして饔[よう]を尸[つかさど]ること有らしむる。賦なり。亶は、誠。尸は、主るなり。饔は、熟食なり。言うこころは、奉養することを得ずして、母をして反って勞苦の事を主らしむるなり。○東萊の呂氏が曰く、越の勾踐吳を伐つに、父母耆老[きろう]にして昆弟無き者有らば、皆歸らしむ。魏の公子無忌趙を救うに、亦獨子にして兄弟無き者歸り養わしむ。則ち古は親老いて兄弟無きこと有れば、其れ當に征役を免るべきこと必ず成法有あり。故に司馬の聰ならざるを責む。其の意謂う、此の法は人皆之を聞く。汝獨り聞かざるや。乃ち吾を驅して戎に從わしめ、吾が親をして薪水の勞を免れざらしむ、と。司馬を責むるは、敢えて王を斥[さ]さざるなり、と。

祈父三章章四句。序以爲、刺宣王之詩。說者又以爲、宣王三十九年、戰于千畞。王師敗績于姜氏之戎。故軍士怨而作此詩。東萊呂氏曰、太子晉諫靈王之詞曰、自我先王厲・宣・幽・平、而貪天禍、至于今未弭。宣王中興之主也。至與幽厲並數之、其詞雖過、觀是詩所刺、則子晉之言、豈無所自歟。但今考之詩文、未有以見其必爲宣王耳。下篇倣此。
【読み】
祈父[きほ]三章章四句。序に以爲えらく、宣王を刺[そし]る詩、と。說く者又以爲えらく、宣王の三十九年、千畞に戰う。王師姜氏の戎に敗績す。故に軍士怨みて此の詩を作る、と。東萊の呂氏が曰く、太子晉靈王を諫むの詞に曰く、我が先王厲・宣・幽・平よりして、天の禍いを貪り、今に至るまで未だ弭[や]まず、と。宣王は中興の主なり。幽厲と之を並べ數うるに至るは、其の詞過ぐと雖も、是の詩刺る所を觀るときは、則ち子晉の言、豈自る所無けんや。但今之を詩の文に考うるに、未だ以て其の必ずしも宣王とすることを見ること有らざるのみ、と。下の篇も此に倣え。


皎皎白駒、食我場苗。縶<音執>之維之、以永今朝。所謂伊人、於焉逍遙。賦也。皎皎、潔白也。駒、馬之未壯者。謂賢者所乘也。場、圃也。縶、絆其足。維、繫其靷。永、久也。伊人、指賢者也。逍遙、遊息也。○爲此詩者、以賢者之去而不可留也、故託以其所乘之駒、食我場苗、而縶維之、庶幾以永今朝、使其人得以於此逍遙而不去。若後人留客、而投其轄於井中也。
【読み】
皎皎[こうこう]たる白駒、我が場[にわ]の苗を食め。之を縶[まと]<音執>い之を維[つな]ぎ、以て今朝を永[ひさ]しくせん。所謂伊[か]の人、焉に逍遙せよ。賦なり。皎皎は、潔白なり。駒は、馬の未だ壯んならざる者。賢者の乘る所を謂うなり。場は、圃なり。縶[ちゅう]は、其の足を絆[ほだ]す。維は、其の靷[むながい]を繫ぐ。永は、久しきなり。伊の人は、賢者を指すなり。逍遙は、遊び息んずるなり。○此の詩を爲る者、賢者の去りて留むる可からざるを以て、故に託するに其の乘る所の駒、我が場の苗を食んで、之を縶い維いで、庶幾わくは以て今朝を永しくして、其の人をして以て此に於て逍遙して去らざることを得せしむ。後人の客を留めて、其の轄[くさび]を井中に投ずるが若し。

○皎皎白駒、食我場藿<音霍>。縶之維之、以永今夕<叶祥龠反>。所謂伊人、於焉嘉客<叶克各反>○賦也。藿、猶苗也。夕、猶朝也。嘉客、猶逍遙也。
【読み】
○皎皎たる白駒、我が場の藿[かく]<音霍>を食め。之を縶い之を維ぎ、以て今夕<叶祥龠反>を永しくせん。所謂伊の人、焉に嘉客<叶克各反>たれ。○賦なり。藿は、猶苗のごとし。夕は、猶朝のごとし。嘉客は、猶逍遙のごとし。

○皎皎白駒、賁<音閟。音奔>然來<叶云倶反>思、爾公爾侯<叶洪孤反>、逸豫無期。愼爾優游<叶汪胡反>、勉爾遁思<叶新齎反>○賦也。賁然、光采之貌也。或以爲、來之疾也。思、語詞也。爾、指乘駒之賢人也。愼、勿過也。勉、毋決也。遁思、猶言去意也。○言此乘白駒者、若其肯來、則以爾爲公、以爾爲侯、而逸樂無期矣。猶言橫來大者王、小者侯也。豈可以過於優游、決於遁思、而終不我顧哉。蓋愛之切、而不知好爵之不足縻、留之苦、而不恤其志之不得遂也。
【読み】
○皎皎たる白駒、賁[ひ]<音閟。音奔>然として來<叶云倶反>らば、爾を公とし爾を侯<叶洪孤反>とし、逸豫期無けん。爾が優游<叶汪胡反>を愼み、爾が遁思<叶新齎反>を勉めよ。○賦なり。賁然は、光采の貌なり。或は以爲えらく、來ることの疾き、と。思は、語の詞なり。爾は、駒に乘る賢人を指すなり。愼は、過ごすこと勿きなり。勉は、決すること毋きなり。遁思は、猶去る意と言うがごときなり。○言うこころは、此れ白駒に乘る者、若し其れ肯えて來らば、則ち爾を以て公とし、爾を以て侯として、逸樂期無けん。猶橫來らば大なる者は王、小なる者は侯と言うがごとし。豈以て優游に過ごし、遁思を決して、終に我を顧みざる可けんや。蓋し愛することの切にして、好爵の縻[つな]ぐに足らざることを知らず、留むることの苦しんで、其の志の遂ぐることを得ざるを恤えざるなり。

○皎皎白駒、在彼空谷。生芻<楚倶反>一束、其人如玉。毋金玉爾音、而有遐心。賦也。賢者必去而不可留矣。於是歎其乘白駒入空谷、束生芻以秣之、而其人之德美如玉也。蓋已邈乎其不可親矣。然猶冀其相聞而無絕也。故語之曰、毋貴重爾之音聲、而有遠我之心也。
【読み】
○皎皎たる白駒、彼の空谷に在り。生芻[せいすう]<楚倶反>一束、其の人玉の如し。爾が音を金玉にして、遐[さか]れる心有ること毋かれ。賦なり。賢者必ず去りて留む可からず。是に於て其の白駒に乘りて空谷に入りて、生芻を束ねて以て之を秣[まぐさ]とする、其の人の德美なること玉の如きことを歎ず。蓋し已に邈[ばく]乎として其れ親しむ可からず。然れども猶其の相聞こえて絕つこと無きを冀う。故に之に語[つ]げて曰く、爾が音聲を貴び重んじて、我を遠ざかるの心有ること毋かれ、と。

白駒四章章六句
【読み】
白駒[はっく]四章章六句


黃鳥黃鳥、無集于穀、無啄<音卓>我粟。此邦之人、不我肯穀。言旋言歸、復我邦族。比也。穀、木名。穀、善。旋、回。復、反也。○民適異國、不得其所。故作此詩。託爲呼其黃鳥而告之曰、爾無集于穀、而啄我之粟。苟此邦之人、不以善道相與、則我亦不久於此、而將歸矣。
【読み】
黃鳥黃鳥、穀に集[い]ること無かれ、我が粟を啄<音卓>むこと無かれ。此の邦の人、我を肯えて穀[よ]みせず。言[ここ]に旋[かえ]り言に歸りて、我が邦族に復らん。比なり。穀は、木の名。穀は、善きなり。旋は、回る。復は、反るなり。○民異國に適きて、其の所を得ず。故に此の詩を作る。託して其の黃鳥を呼んで之に告ぐるを爲して曰く、爾穀に集て、我が粟を啄む無かれ。苟も此の邦の人、善道を以て相與せざれば、則ち我も亦此に久しからずして、將に歸らんとす、と。

○黃鳥黃鳥、無集于桑、無啄我粱。此邦之人、不可與明<叶謨郎反>。言旋言歸、復我諸兄<叶虛王反>○比也。
【読み】
○黃鳥黃鳥、桑に集ること無かれ、我が粱[あわ]を啄むこと無かれ。此の邦の人、與に明<叶謨郎反>らかなる可からず。言に旋り言に歸りて、我が諸兄<叶虛王反>に復らん。○比なり。

○黃鳥黃鳥、無集于栩<音許>、無啄我黍。此邦之人、不可與處。言旋言歸、復我諸父。比也。
【読み】
○黃鳥黃鳥、栩[とち]<音許>に集ること無かれ、我が黍を啄むこと無かれ。此の邦の人、與に處る可からず。言に旋り言に歸りて、我が諸父に復らん。比なり。

黃鳥三章章七句。東萊呂氏曰、宣王之末、民有失所者。意他國之可居也。及其至彼、則又不若故郷焉。故思而欲歸。使民如此、亦異於還定安集之時矣。今按詩文、未見其爲宣王之世。下篇亦然。
【読み】
黃鳥[こうちょう]三章章七句。東萊の呂氏が曰く、宣王の末、民所を失う者有り。他國の居る可きを意う。其の彼に至るに及んでは、則ち又故郷に若かず。故に思いて歸らんと欲す。民をして此の如くしむるは、亦還り定まり安んじ集うの時に異なり、と。今詩の文を按ずるに、未だ其れ宣王の世爲ることを見ず。下の篇も亦然り。


我行其野、蔽芾<音沸>其樗<音樞>。昏姻之故、言就爾居。爾不我畜、復我邦家<叶古胡反>○賦也。樗、惡木也。壻之父、婦之父、相謂曰婚姻。畜、養也。○民適異國、依其婚姻、而不見收卹。故作此詩。言我行於野中、依惡木以自蔽。於是思婚姻之故、而就爾居。而爾不我畜也、則將復我之邦家矣。
【読み】
我れ其の野に行けば、蔽芾[へいはい]<音沸>たる其の樗[ちょ]<音樞>あり。昏姻の故に、言[ここ]に爾に就いて居る。爾我を畜わず、我が邦家<叶古胡反>に復らん。○賦なり。樗は、惡木なり。壻の父と、婦の父と、相謂いて婚姻と曰う。畜は、養うなり。○民異國に適きて、其の婚姻に依るも、而して收卹[しゅうじゅつ]されず。故に此の詩を作る。言うこころは、我れ野中に行き、惡木に依りて以て自ら蔽[かく]る。是に於て婚姻の故を思いて、爾に就いて居る。而れども爾我を畜わざれば、則ち將に我が邦家に復らんとす。

○我行其野、言采其蓫<音逐>。昏姻之故、言就爾宿。爾不我畜、言歸思復。賦也。蓫、牛蘈、惡菜也。今人謂之羊蹄菜。
【読み】
○我れ其の野に行き、言に其の蓫[ちく]<音逐>を采る。昏姻の故に、言に爾に就いて宿る。爾我を畜わず、言に歸り思[ここ]に復らん。賦なり。蓫は、牛蘈[ぎゅうたい]、惡菜なり。今の人之を羊蹄菜と謂う。

○我行其野、言采其葍<音福。叶筆力反>。不思舊姻、求我新特。成不以富、亦秖<音支>以異<叶逸織反>○賦也。葍、■(草冠に富)、惡菜也。特、匹也。○言爾之不思舊姻、而求新匹也、雖實不以彼之富、而厭我之貧、亦秖以其新而異於故耳。此詩人責人忠厚之意。
【読み】
○我れ其の野に行き、言に其の葍[ふく]<音福。叶筆力反>を采る。舊姻を思わず、我が新たなる特を求む。成[まこと]に富を以てせず、亦秖[まさ]<音支>に異<叶逸織反>なるを以てす。○賦なり。葍は、■(草冠に富)、惡菜なり。特は、匹なり。○言うこころは、爾が舊姻を思わずして、新たなる匹を求むは、實に彼が富を以て、我が貧しきを厭わずと雖も、亦秖に其の新しくして故に異なるを以てのみ。此れ詩人人の忠厚を責むるの意あり。

我行其野三章章六句。王氏曰、先王躬行仁義、以道民厚矣。猶以爲未也。又建官置師、以孝友睦姻任恤六行敎民。爲其有父母也、故敎以孝。爲其有兄弟也、故敎以友。爲其有同姓也、故敎以睦。爲其有異姓也、故敎以姻。爲鄰里郷黨相保相愛也、故敎以任。相賙相救也、故敎以卹。以爲、徒敎之或不率也。故使官師以時書其德行而勸之。以爲、徒勸之或不率也。於是乎有不孝不睦不婣不弟不任不卹之刑焉。方是時也、安有如此詩所刺之民乎。
【読み】
我行其野[がこうきや]三章章六句。王氏が曰く、先王躬[みずか]ら仁義を行い、以て民を道[みちび]くこと厚し。猶以爲えらく、未だし、と。又官を建て師を置き、孝友睦姻任恤の六行を以て民を敎う。其の父母有るが爲、故に敎うるに孝を以てす。其の兄弟有るが爲、故に敎うるに友を以てす。其の同姓有るが爲、故に敎うるに睦を以てす。其の異姓有るが爲、故に敎うるに姻を以てす。鄰里郷黨相保ち相愛するが爲、故に敎うるに任を以てす。相賙[た]し相救う、故に敎うるに卹を以てす。以爲えらく、徒に之を敎うれば或は率わず、と。故に官師をして時を以て其の德行を書して之を勸めしむ。以爲えらく、徒に之を勸むれば或は率わず、と。是に於て不孝不睦不婣不弟不任不卹の刑有り。是の時に方りて、安んぞ此の詩に刺[そし]る所の民の如きこと有らんや。


秩秩斯干<叶居焉反>、幽幽南山<叶所旃反>。如竹苞<叶補苟反>矣、如松茂<叶莫口反>矣。兄及弟矣、式相好<去聲。叶許厚反>矣、無相猶<叶余久反>矣。賦也。秩秩、有序也。斯、此也。干、水涯也。南山、終南之山也。苞、叢生而固也。猶、謀也。○此築室旣成、而燕飮以落之、因歌其事言、此室臨水而面山。其下之固、如竹之苞、其上之密、如松之茂。又言居是室者、兄弟相好、而無相謀。則頌禱之辭。猶所謂聚國族於斯者也。張子曰、猶、似也。人情大抵、施之不報則輟。故恩不能終。兄弟之閒、各盡己之所宜施者、無學其不相報而廢恩也。君臣父子朋友之閒、亦莫不用此道。盡己而已。愚按此於文義、或未必然。然意則善矣。或曰、猶當作尤。
【読み】
秩秩たる斯の干[みぎわ]<叶居焉反>、幽幽たる南山<叶所旃反>。竹の苞[しげ]<叶補苟反>きが如く、松の茂<叶莫口反>きが如し。兄及び弟、式[もっ]て相好<去聲。叶許厚反>みんじ、相猶[はか]<叶余久反>る無かれ。賦なり。秩秩は、序有るなり。斯は、此なり。干は、水涯なり。南山は、終南の山なり。苞は、叢生して固きなり。猶は、謀るなり。○此れ室を築くこと旣に成りて、燕飮して以て之を落し、因りて其の事を歌って言う、此の室水に臨み山に面[む]かう。其の下の固きこと、竹の苞きが如く、其の上の密[こまか]きこと、松の茂きが如し、と。又言う、是の室に居る者、兄弟相好みんじて、相謀る無かれ、と。則ち頌禱の辭なり。猶所謂國族を斯に聚むる者なり。張子が曰く、猶は、似[まね]るなり。人情大抵、之を施して報いざれば則ち輟[や]む。故に恩終えること能わず。兄弟の閒、各々己が宜しく施すべき所の者を盡くして、其の相報わずして恩を廢つることを學[まね]る無かれ。君臣父子朋友の閒も、亦此の道を用いざる莫し。己を盡くすのみ、と。愚按ずるに、此れ文義に於て、或は未だ必ずしも然らず。然れども意は則ち善し。或ひと曰く、猶は當に尤に作るべし、と。

○似續妣<音比>祖、築室百堵。西南其戶。爰居爰處、爰笑爰語。賦也。似、嗣也。妣先於祖者、協下韻爾。或曰、謂姜嫄后稷也。西南其戶、天子之宮、其室非一、在東者西其戶、在北者南其戶。猶言南東其畞也。爰、於也。
【読み】
○妣[ひ]<音比>祖を似[つ]ぎ續いで、室を築くこと百堵。其の戶を西南にす。爰に居り爰に處り、爰に笑い爰に語らん。賦なり。似は、嗣ぐなり。妣を祖より先にするは、下の韻に協えるのみ。或ひと曰く、姜嫄[きょうげん]后稷を謂う、と。其の戶を西南にすとは、天子の宮、其の室一に非ず、東に在る者は其の戶を西にし、北に在る者は其の戶を南にす。猶其の畞を南東にすと言うがごとし。爰は、於なり。

○約之閣閣、椓<音卓>之橐橐<音託>。風雨攸除<去聲>、鳥鼠攸去、君子攸芋<音吁。叶王遇反>○賦也。約、束板也。閣閣、上下相乘也。椓、築也。橐橐、杵聲也。除、亦去也。無風雨鳥鼠之害。言其上下四旁、皆牢密也。芋、尊大也。君子之所居、以爲尊且大也。
【読み】
○之を約[つか]ぬること閣閣たり、之を椓[きず]<音卓>くこと橐橐[たくたく]<音託>たり。風雨の除[さ]<去聲>くる攸、鳥鼠の去くる攸、君子の芋[たっと]<音吁。叶王遇反>き攸なり。○賦なり。約は、板を束ぬるなり。閣閣は、上下相乘ずるなり。椓は、築くなり。橐橐は、杵の聲なり。除も、亦去るなり。風雨鳥鼠の害無し。言うこころは、其の上下四旁、皆牢密なり。芋は、尊大なり。君子の居る所、以て尊くして且つ大いと爲すなり。

○如跂<音企>斯翼、如矢斯棘、如鳥斯革<叶訖力反>、如翬<音輝>斯飛。君子攸躋<音賷>○賦也。跂、竦立也。翼、敬也。棘、急也。矢行緩則枉、急則直也。革、變。翬、雉。躋、升也。○言其大勢嚴正、如人之竦立而其恭翼翼也。其廉隅整飭、如矢之急而直也。其棟宇峻起、如鳥之而革也。其簷阿華采而軒翔、如翬之飛而矯其翼也。蓋其堂之美如此、而君子之所升以聽事也。
【読み】
○跂[そばだ]<音企>ち斯れ翼[つつし]めるが如く、矢の斯れ棘[すみ]やかなるが如く、鳥の斯れ革[か]<叶訖力反>われるが如く、翬[きじ]<音輝>の斯れ飛ぶが如し。君子の躋[のぼ]<音賷>る攸なり。○賦なり。跂[き]は、竦[そび]え立つなり。翼は、敬しむなり。棘は、急なり。矢行くこと緩やかなれば則ち枉り、急なれば則ち直し。革は、變わる。翬は、雉。躋は、升るなり。○言うこころは、其の大勢嚴正なること、人の竦え立ちて其の恭しきこと翼翼たるが如し。其の廉隅整飭なること、矢の急にして直きが如し。其の棟宇峻起なること、鳥の警[おどろ]いて革わるが如し。其の簷阿[えんあ]華采にして軒[あが]り翔[あ]がること、翬の飛んで其の翼を矯[あ]ぐるが如し。蓋し其の堂の美なること此の如くして、君子の升りて以て事を聽く所なり。

○殖殖<音湜>其庭、有覺其楹。噲噲<音快>其正<叶音征>、噦噦<音嚖>其冥、君子攸寧。賦也。殖殖、平正也。庭、宮寢之前庭也。覺、高大而直也。楹、柱也。噲噲、猶快快也。正、向明之處也。噦噦、深廣之貌。冥、奧窔之閒也。言其室之美如此、而君子之所休息以安身也。
【読み】
○殖殖<音湜>たる其の庭、覺たる其の楹[はしら]有り。噲噲[かいかい]<音快>たる其の正<叶音征>、噦噦[かいかい]<音嚖>たる其の冥、君子の寧んずる攸なり。賦なり。殖殖は、平正なり。庭は、宮寢の前庭なり。覺は、高大にして直きなり。楹は、柱なり。噲噲は、猶快快のごとし。正は、明かりに向かう處なり。噦噦は、深く廣き貌。冥は、奧窔[おうよう]の閒なり。言うこころは、其の室の美なること此の如くにして、君子の休息して以て身を安んずる所なり。

○下莞<音官>上簟<叶徒檢徒錦二反>、乃安斯寢<叶于檢于錦二反>、乃寢乃興、乃占我夢<叶彌登反>。吉夢維何、維熊維羆<音碑。叶彼何反>、維虺<音毀>維蛇<叶于其土何二反>○賦也。莞、蒲席也。竹葦曰簟。羆、似熊而長頭高脚、猛憨多力、能拔樹。虺、蛇屬。細頸大頭、色如文綬。大者長七八尺。○祝其君安其室居、夢兆而有祥。亦頌禱之詞也。下章放此。
【読み】
○莞[かん]<音官>を下にし簟[てん]<叶徒檢徒錦二反>を上にして、乃ち斯の寢<叶于檢于錦二反>に安んじ、乃ち寢ね乃ち興き、乃ち我が夢<叶彌登反>を占う。吉[よ]き夢維れ何ぞ、維れ熊維れ羆[ひぐま]<音碑。叶彼何反>、維れ虺[き]<音毀>維れ蛇<叶于其土何二反>○賦なり。莞は、蒲の席なり。竹葦を簟と曰う。羆は、熊に似て長き頭に高き脚、猛憨[かん]にて多力、能く樹を拔く。虺は、蛇の屬。細き頸に大いなる頭、色は文綬の如し。大いなる者は長さ七八尺。○其の君其の室居を安んじて、夢兆して祥有ることを祝す。亦頌禱の詞なり。下の章も此に放え。

○大<音泰>人占之、維熊維羆、男子之祥。維虺維蛇、女子之祥。賦也。大人、大卜之屬。占夢之官也。熊羆、陽物。在山、彊力壯毅、男子之祥也。虺蛇、陰物。穴處。柔弱隱伏、女子之祥也。○或曰、夢之有占、何也。曰、人之精神、與天地陰陽流通。故晝之所爲、夜之所夢、其善惡吉凶、各以類至。是以先王建官設屬、使之觀天地之會、辨陰陽之氣、以日月星辰、占六夢之吉凶、獻吉夢贈惡夢。其於天人相與之際、察之詳而敬之至矣。故曰、王前巫而後史。宗祝瞽侑、皆在左右、王中心無爲也、以守至正。
【読み】
○大<音泰>人之を占うに、維れ熊維れ羆は、男子の祥。維れ虺維れ蛇は、女子の祥。賦なり。大人は、大卜の屬。占夢の官なり。熊羆は、陽物。山に在り、彊力壯毅、男子の祥なり。虺蛇は、陰物。穴處す。柔弱隱伏、女子の祥なり。○或ひと曰く、夢の占有るは、何ぞや、と。曰く、人の精神、天地陰陽と流通す。故に晝の爲す所、夜の夢みる所、其の善惡吉凶、各々類を以て至る。是を以て先王官を建て屬を設けて、之をして天地の會を觀、陰陽の氣を辨えしめ、日月星辰を以て、六夢の吉凶を占い、吉夢を獻じ惡夢を贈る。其の天人相與するの際に於て、之を察すること詳らかに之を敬すること至れり、と。故に曰く、王巫を前にして史に後にす。宗祝瞽侑、皆左右に在り、王の中心無爲にして、以て至正を守る、と。

○乃生男子、載寢之牀、載衣之<去聲>裳、載弄之璋。其泣喤喤<音橫。叶胡光反>。朱芾<音弗>斯皇。室家君王。賦也。半圭曰璋。喤、大聲也。芾、天子純朱、諸侯黃朱。皇、猶煌煌也。君、諸侯也。○寢之於牀、尊之也。衣之以裳、服之盛也。弄之以璋、尙其德也。言男子之生於是室者、皆將服朱芾煌煌然、有室有家、爲君爲王矣。
【読み】
○乃ち男子を生まば、載[すなわ]ち之を牀に寢ねしめ、載ち之<去聲>に裳を衣せ、載ち之に璋[たま]を弄ばせしむ。其の泣くこと喤喤<音橫。叶胡光反>たり。朱芾[しゅふつ]<音弗>斯れ皇たり。室家の君王たらん。賦なり。半圭を璋と曰う。喤は、大いなる聲なり。芾は、天子は純朱、諸侯は黃朱。皇は、猶煌煌のごとし。君は、諸侯なり。○之を牀に寢ねしむるは、之を尊ぶなり。之に衣するに裳を以てするは、服の盛んなるなり。之に弄ばせしむに璋を以てするは、其の德を尙ぶなり。言うこころは、男子の是の室に生まるる者、皆將に朱芾の煌煌然たるを服して、室を有ち家を有ちて、君と爲り王と爲らん。

○乃生女子、載寢之地、載衣之裼<音替>、載弄之瓦<叶魚位反>。無非無儀<叶音義>、唯酒食是議、無父母詒<音遺><叶音麗>○賦也。裼、褓也。瓦、紡塼也。儀、善。罹、憂也。○寢之於地、卑之也。衣之以褓、卽其用而無加也。弄之以瓦、習其所有事也。有非、非婦人也。有善、非婦人也。蓋女子以順爲正。無非、足矣。有善、則亦非其吉祥可願之事也。唯酒食是議、而無遺父母之憂、則可矣。易曰、無攸遂。在中饋。貞吉。而孟子之母亦曰、婦人之禮、精五飯、冪酒漿、養舅姑、縫衣裳而已矣。故有閨門之脩、而無境外之志、此之謂也。
【読み】
○乃ち女子を生まば、載ち之を地に寢ねしめ、載ち之に裼[てい]<音替>を衣せ、載ち之に瓦<叶魚位反>を弄ばせしむ。非[あ]しきことも無く儀[よ]<叶音義>きことも無く、唯酒食是れ議[はか]り、父母に罹[うれ]<叶音麗>えを詒[のこ]<音遺>すこと無かれ。○賦なり。裼は、褓[むつき]なり。瓦は、紡塼[ぼうせん]なり。儀は、善き。罹は、憂えなり。○之を地に寢ねしむるは、之を卑[ひく]くするなり。之に衣せるに褓を以てするは、其の用に卽いて加うること無きなり。之を弄ばしむるに瓦を以てするは、其の事とすること有る所を習わしむるなり。非しきこと有らば、婦人に非ず。善きこと有らば、婦人に非ず。蓋し女子は順を以て正しきとす。非しきこと無くば、足れり。善きこと有るとも、則ち亦其の吉祥願う可きの事に非ざるなり。唯酒食是を議りて、父母の憂えを遺すこと無くば、則ち可なり。易に曰く、遂ぐる攸無し。中饋に在り。貞にして吉、と。而して孟子の母も亦曰く、婦人の禮は、五飯に精しく、酒漿を冪[おお]い、舅姑を養い、衣裳を縫うのみ、と。故に閨門の脩むる有りて、境外の志無しとは、此れ之を謂うなり。

斯干九章。四章章七句。五章章五句。舊說、厲王旣流于彘、宮室圮壞。故宣王卽位、更作宮室、旣成而落之。今亦未有以見其必爲是時之詩也。或曰、儀禮下管新宮。春秋傳宋元公賦新宮。恐卽此詩。然亦未有明證。
【読み】
斯干[しかん]九章。四章章七句。五章章五句。舊說に、厲王旣に彘[てい]に流され、宮室圮[やぶ]れ壞る。故に宣王位に卽き、宮室を更め作り、旣に成して之を落す、と。今亦未だ以て其の必ずしも是の時の詩とするを見ること有らず。或ひと曰く、儀禮に新宮を下管す、と。春秋傳に宋の元公新宮を賦す、と。恐らくは卽ち此の詩ならん。然れども亦未だ明證有らず。


誰謂爾無羊、三百維羣。誰謂爾無牛、九十其犉<音淳>。爾羊來思、其角濈濈<音戢>。爾牛來思、其耳濕濕。賦也。黃牛黑唇曰犉。羊以三百爲羣。其羣不可數也。牛之犉者九十、非犉者尙多也。聚其角、而息濈濈然。呞而動其耳濕濕然。王氏曰、濈濈、和也。羊以善觸爲患。故言其和。謂聚而不相觸也。濕濕、潤澤也。牛病則耳燥。安則潤澤也。○此詩言、牧事有成而牛羊衆多也。
【読み】
誰か爾羊無しと謂う、三百維れ羣あり。誰か爾牛無しと謂う、九十其れ犉[じゅん]<音淳>あり。爾が羊來れば、其の角濈濈[しゅうしゅう]<音戢>たり。爾の牛來れば、其の耳濕濕[しゅうしゅう]たり。賦なり。黃牛の黑き唇を犉と曰う。羊は三百を以て羣とす。其の羣數う可からず。牛の犉なる者九十なれば、犉に非ざる者尙多し。其の角を聚めて、息すること濈濈然たり。呞[にれか]みて其の耳を動かすこと濕濕然たり。王氏が曰く、濈濈は、和らぐなり。羊は善く觸れるを以て患えとす。故に其の和らげるを言う。謂ゆる聚めて相觸れざるなり。濕濕は、潤澤なり。牛病めば則ち耳燥く。安んずれば則ち潤澤なり。○此の詩言うこころは、牧事成ること有りて牛羊衆多なり。

○或降于阿、或飮于池<叶唐何反>、或寢或訛。爾牧來思、何<上聲><音梭>何笠<音立>、或負其餱<音侯>。三十維物<叶微律反>、爾牲則具<叶居律反>○賦也。訛、動。何。掲也。蓑・笠、所以備雨。三十維物、齊其色而別之。凡爲色三十也。○言牛羊無驚畏、而牧人持雨具、齎飮食、從其所適、以順其性。是以生養蕃息、至於其色無所不備、而於用無所不有也。
【読み】
○或は阿[くま]に降り、或は池<叶唐何反>に飮み、或は寢[ふ]し或は訛[うご]く。爾が牧來れば、蓑<音梭>を何[も]ち<上聲><音立>を何ち、或は其の餱[かれいい]<音侯>を負う。三十の維の物<叶微律反>、爾が牲則ち具<叶居律反>わる。○賦なり。訛は、動く。何は。掲ぐなり。蓑・笠は、雨に備うる所以。三十の維の物とは、其の色を齊[そろ]えて之を別つ。凡そ色を爲すこと三十なり。○言うこころは、牛羊驚き畏るること無くして、牧人雨具を持ち、飮食を齎[つつ]み、其の適く所に從いて、以て其の性に順う。是を以て生養蕃息し、其の色に至りて備わざる所無くして、用うるに於て有らざる所無し。

○爾牧來思、以薪以蒸、以雌以雄<叶于陵反>。爾羊來思、矜矜兢兢、不騫不崩。麾之以肱、畢來旣升。賦也。麤曰薪、細曰蒸。雌雄、禽獸也。矜矜兢兢、堅强也。騫、虧也。崩、羣疾也。肱、臂也。旣、盡也。升、入牢也。○言牧人有餘力、則出取薪蒸搏禽獸。其羊亦馴擾從人、不假箠楚。但以手麾之、使來則畢來。使升則旣升也。
【読み】
○爾が牧來れば、以て薪とり以て蒸[つまき]とり、以て雌をとり以て雄<叶于陵反>をとる。爾の羊來れば、矜矜兢兢として、騫[か]けず崩れず。之を麾[さしまね]くに肱を以てすれば、畢く來り旣[ことごと]く升る。賦なり。麤きを薪と曰い、細きを蒸と曰う。雌雄は、禽獸なり。矜矜兢兢は、堅强なり。騫は、虧くなり。崩は、羣疾なり。肱は、臂なり。旣は、盡くなり。升は、牢に入るなり。○言うこころは、牧人餘力有らば、則ち出でて薪蒸を取りて禽獸を搏[う]つ。其の羊も亦馴れ擾[したが]いて人に從いて、箠楚[すいそ]を假らず。但手を以て之を麾いて、來らしむれば則ち畢く來る。升らしむれば則ち旣く升るなり。

○牧人乃夢、衆維魚矣、旐<音兆>維旟<音餘>矣。大人占之、衆維魚矣、實維豐年<叶尼因反>。旐維旟矣、室家溱溱。賦也。占夢之說、未詳。溱溱、衆也。或曰、衆謂人也。旐、郊野所建。統人少。旟、州里所建。統人多。蓋人不如魚之多。旐所統不如旟所統之衆。故夢人乃是魚、則爲豐年。旐乃是旟、則爲人衆。
【読み】
○牧人乃ち夢みる、衆[もろもろ]維れ魚なり、旐[ちょう]<音兆>維れ旟[よ]<音餘>なり。大人之を占うに、衆維れ魚なれば、實に維れ豐年<叶尼因反>ならん。旐維れ旟なれば、室家溱溱たらん。賦なり。占夢の說、未だ詳らかならず。溱溱は、衆きなり。或ひと曰く、衆は人を謂う、と。旐は、郊野建つる所。人を統ぶること少なし。旟は、州里建つる所。人を統ぶること多し。蓋し人は魚の多きに如かず。旐の統ぶる所は旟の統ぶる所の衆きに如かず。故に人乃ち是の魚を夢みるは、則ち豐年爲り。旐乃ち是れ旟は、則ち人衆しとす。

無羊四章章八句
【読み】
無羊[ぶよう]四章章八句


<音截>彼南山、維石巖巖。赫赫師尹、民具爾瞻<叶側衘反>。憂心如惔<音談>、不敢戲談。國旣卒<子律反><何側御反>、何用不監<平聲>○興也。節、高峻貌。巖巖、積石貌。赫赫、顯盛貌。師伊、大師尹氏也。大師、三公。尹氏、蓋吉甫之後。春秋書尹氏卒。公羊子以爲譏世卿者、卽此也。具、倶。瞻、視。惔、燔。卒、終。斬、絕。監、視也。○此詩家父所作。刺王用尹氏以致亂。言節彼南山、則維石巖巖矣。赫赫師尹、則民具爾瞻矣。而其所爲不善、使人憂心如火燔灼。又畏其威而不敢言也。然則國旣終斬絕矣。汝何用而不察哉。
【読み】
<音截>たる彼の南山、維れ石巖巖たり。赫赫たる師尹、民具に爾を瞻<叶側衘反>る。憂うる心惔[や]<音談>くが如し、敢えて戲れ談[かた]らず。國旣に卒<子律反>に斬[た]<何側御反>えんとす、何を用[もっ]て監[み]<平聲>ざるや。○興なり。節は、高峻なる貌。巖巖は、石を積む貌。赫赫は、顯らかに盛んなる貌。師伊は、大師尹氏なり。大師は、三公。尹氏は、蓋し吉甫の後なり。春秋に尹氏卒すと書す。公羊子以て世卿者を譏るとするは、卽ち此れなり。具は、倶。瞻は、視る。惔[たん]は、燔[や]く。卒は、終に。斬は、絕ゆ。監は、視るなり。○此の詩は家父の作る所。王尹氏を用いて以て亂を致すを刺[そし]る。言うこころは、節たる彼の南山は、則ち維れ石巖巖たり。赫赫たる師尹は、則ち民具に爾を瞻る。而るに其のする所不善にして、人をして憂うる心火の燔き灼くが如くならしむ。又其の威を畏れて敢えて言わず。然れども則ち國旣に終に斬絕せんとす。汝何を用てして察せざるや。

○節彼南山、有實其猗<音醫。叶於何反>。赫赫師尹、不平謂何。天方薦<音荐><音嵳>、喪<去聲>亂弘多。民言無嘉<叶居何反>、憯<音慘>莫懲嗟<叶遭哥反>○興也。有實其猗、未詳其義。傳曰、實、滿。猗、長也。箋云、猗、倚也。言草木滿其旁倚之畎谷也。或以爲、草木之實猗猗然。皆不甚通。薦、荐。通、重也。瘥、病。弘、大。憯、曾。懲、創也。○節彼南山、則有實其猗矣。赫赫師尹、而不平其心、則謂之何哉。蘇氏曰、爲政者不平其心、則下之荣瘁劳佚、有大相絕者矣。是以神怒而重之以喪亂。人怨而謗讟其上。然尹氏曾不懲創咨磋、求所以自改也。
【読み】
○節たる彼の南山、實の其れ猗[い]<音醫。叶於何反>たる有り。赫赫たる師尹、平らかにせざるを何とか謂わん。天方に薦[しき]<音荐>りに瘥[や]<音嵳>ましめ、喪<去聲>亂弘[おお]いに多し。民の言嘉[よ]<叶居何反>みんずること無けれども、憯[かつ]<音慘>て懲り嗟<叶遭哥反>くこと莫し。○興なり。實の其れ猗たる有りは、未だ其の義を詳らかにせず。傳に曰く、實は、滿つ。猗は、長き、と。箋に云う、猗は、倚、と。言うこころは、草木其の旁倚の畎谷[けんこく]に滿つ。或ひと以爲えらく、草木の實ること猗猗然たり、と。皆甚だ通ぜず。薦は、荐[しき]り。通は、重ぬるなり。瘥[さ]は、病。弘は、大い。憯は、曾て。懲は、創[こ]りる。○節たる彼の南山は、則ち實の其れ猗たる有り。赫赫たる師尹、而して其の心を平らかにせざれば、則ち之を何と謂わんや。蘇氏が曰く、政を爲むる者其の心を平らかにせざれば、則ち下の荣瘁[えいすい]劳佚[ろういつ]、大いに相絕つ者有り。是を以て神怒りて之を重ぬるに喪亂を以てす。人怨みて其の上を謗り讟[そし]る。然れども尹氏曾て懲創咨磋して、自ら改むる所以を求めず、と。

○尹氏大<音泰>師、維周之氐<音底。叶都黎反>。秉國之均、四方是維。天子是毗<音琵>、俾民不迷。不弔昊天、不宜空我師<叶霜夷反>○賦也。氐、本。均、平。維、持。毗、輔。弔、愍。空、窮。師、衆也。○言尹氏大師、維周之氐、而秉國之均、則是宜有以維持四方、毗輔天子、而使民不迷。乃其職也、今乃不平其心、而旣不見愍弔於昊天矣、則不宜久在其位。使天降禍亂、而我衆幷及空窮也。
【読み】
○尹氏は大<音泰>師、維れ周の氐[もと]<音底。叶都黎反>。國の均[たい]らきを秉りて、四方是れ維[たも]つ。天子是れ毗[たす]<音琵>け、民をして迷わざらしむ。昊天[こうてん]に弔[あわ]れまれず、我が師[もろもろ]<叶霜夷反>を空[つ]くす宜からず。○賦なり。氐[てい]は、本。均は、平ら。維は、持つ。毗は、輔く。弔は、愍[あわ]れむ。空は、窮[つ]くす。師は、衆なり。○言うこころは、尹氏は大師、維れ周の氐にして、國の均らきを秉れば、則ち是れ宜しく以て四方を維持し、天子を毗け輔けて、民をして迷わざらしむること有るべし。乃ち其の職は、今乃ち其の心を平らかにせずして、旣に昊天に愍弔[びんちょう]せられざれば、則ち宜しく久しく其の位に在るべからず。天をして禍亂を降して、我が衆を幷せて空窮に及ばしめん。

○弗躬弗親、庶民弗信<叶斯人反>。弗問弗仕、勿罔君子<叶奬里反>。式夷式已、無小人殆<叶養里反>。瑣瑣姻亞、則無膴<音武>仕。賦也。仕、事。罔、欺也。君子、指王也。夷、平。已、止。殆、危也。瑣瑣、小貌。壻之父曰姻、兩壻相謂曰亞。膴、厚也。○言王委政於尹氏。尹氏又委政於姻婭之小人、而以其未嘗問、未嘗事者、欺其君也。故戒之曰、汝之弗躬弗親、庶民已不信矣。其所弗問弗事、則豈可以罔君子哉。當平其心視所任之人、有不當者、則已之。無以小人之故、而至於危殆其國也。瑣瑣姻婭、而必皆膴仕、則小人進矣。
【読み】
○躬からせず親からせざれば、庶民信<叶斯人反>ぜず。問わず仕えず、君子<叶奬里反>を罔[あざむ]くこと勿かれ。式[もっ]て夷[たい]らかにし式[もっ]て已め、小人もて殆[あやう]<叶養里反>くすること無かれ。瑣瑣たる姻亞は、則ち膴[あつ]<音武>く仕う無かれ。賦なり。仕は、事える。罔は、欺くなり。君子は、王を指すなり。夷は、平らぐ。已は、止む。殆は、危うきなり。瑣瑣は、小さき貌。壻の父を姻と曰い、兩壻相謂いて亞と曰う。膴[ぶ]は、厚きなり。○言うこころは、王政を尹氏に委す。尹氏も又政を姻婭の小人に委して、其の未だ嘗て問わず、未だ嘗て事えざる者を以て、其の君を欺く。故に之を戒めて曰く、汝躬からせず親からせざれば、庶民已に信ぜず。其の問わず事えざる所は、則ち豈以て君子を罔く可けんや。當に其の心を平らかにして任ずる所の人を視て、當たらざる者有らば、則ち之を已むべし。小人の故を以て、其の國を危殆するに至ること無かれ。瑣瑣たる姻婭、而も必ず皆膴く仕うれば、則ち小人進まん。

○昊天不傭<敕龍反>、降此鞠<音菊><音凶>。昊天不惠、降此大戾。君子如屆<音戒。叶居例反>、俾民心闋<音缺。叶苦桂反>。君子如夷、惡<去聲>怒是違。賦也。傭、均。鞠、窮。訩、亂。戾、乖。屆、至。闋、息。違、遠也。○言昊天不均、而降此窮極之亂。昊天不順、而降此乖戾之變。然所以靖之者、亦在夫人而已。君子無所苟、而用其至、則必躬必親、而民之亂心息矣。君子無所偏而平其心、則式夷式已、而民之惡怒遠矣。傷王與尹氏之不能也。夫爲政不平、以召禍亂者、人也。而詩人以爲、天實爲之者、蓋無所歸咎、而歸之天也。抑有以見君臣隱諱之義焉、有以見天人合一之理焉。後皆放此。
【読み】
○昊天傭[ひと]<敕龍反>しからず、此の鞠[きく]<音菊>訩[きょう]<音凶>を降す。昊天惠[したが]わず、此の大戾を降す。君子如し屆[いた]<音戒。叶居例反>らば、民の心をして闋[や]<音缺。叶苦桂反>ましめん。君子如し夷[たい]らかならば、惡<去聲>怒是れ違[さ]からん。賦なり。傭は、均し。鞠は、窮む。訩は、亂る。戾は、乖く。屆は、至る。闋は、息む。違は、遠[さ]くなり。○言うこころは、昊天均しからずして、此の窮極の亂を降す。昊天順わずして、此の乖戾の變を降す。然れども之を靖[おさ]むる所以の者は、亦夫の人に在るのみ。君子苟くする所無くして、其の至りを用うれば、則ち必ず躬からし必ず親からして、民の亂るる心息まん。君子偏る所無くして其の心を平らかにすれば、則ち式て夷らぎ式て已めて、民の惡怒遠からん。王と尹氏の能くせざるを傷む。夫れ政を爲むること平らかならずして、以て禍亂を召く者は、人なり。而して詩人以爲らく、天實に之を爲すは、蓋し咎を歸する所無くして、之を天に歸す、と。抑々以て君臣隱諱の義を見ること有りて、以て天人合一の理を見ること有り。後も皆此に放え。

○不弔昊天<叶鐵因反>、亂靡有定<叶唐丁反>。式月斯生<叶桑經反>、俾民不寧。憂心如酲<音呈>、誰秉國成、自爲政<叶諸盈反>、卒勞百姓<叶桑經反>○賦也。酒病曰酲。成、平。卒、終也。○蘇氏曰、天不之恤。故亂未有所止、而禍患與歲月增長。君子憂之曰、誰秉國成者、乃不自爲政、而以付之姻婭之小人、其卒使民爲之、受其勞弊以至此也。
【読み】
○昊天<叶鐵因反>に弔れまれず、亂定<叶唐丁反>まること有る靡し。式て月に斯れ生<叶桑經反>り、民をして寧からざらしむ。憂うる心酲[てい]<音呈>の如く、誰か國の成[たい]らきを秉りて、自ら政<叶諸盈反>を爲めず、卒に百姓<叶桑經反>を勞[くる]しむる。○賦なり。酒病を酲と曰う。成は、平ら。卒は、終に。○蘇氏が曰く、天之を恤れまず。故に亂未だ止む所有らずして、禍患歲月と與に增長す、と。君子之を憂えて曰く、誰か國の成らきを秉る者、乃ち自ら政を爲めずして、以て之を姻婭の小人に付し、其れ卒に民をして之が爲に、其の勞弊を受けて以て此に至らしむ、と。

○駕彼四牡、四牡項領。我瞻四方、蹙蹙<音蹴>靡所騁<音逞>○賦也。項、大也。蹙蹙、縮小之貌。○言駕四牡、而四牡項領、可以騁矣。而視四方、則皆昏亂蹙蹙然、無可往之所。亦將何所騁哉。東萊呂氏曰、本根病、則枝葉皆瘁。是以無可往之地也。
【読み】
○彼の四牡を駕せば、四牡項領[こうれい]たり。我れ四方を瞻るに、蹙蹙[しゅくしゅく]<音蹴>として騁[は]<音逞>せる所靡し。○賦なり。項は、大いなり。蹙蹙は、縮小する貌。○言うこころは、四牡を駕して、四牡項領なれば、以て騁す可し。而れども四方を視れば、則ち皆昏亂蹙蹙然として、往く可き所無し。亦將[はた]何の所にか騁せんや。東萊の呂氏が曰く、本根病めば、則ち枝葉皆瘁[や]む。是を以て往く可きの地無し、と。

○方茂爾惡、相<去聲>爾矛矣。旣夷旣懌、如相醻<音酬>矣。賦也。茂、盛。相、視。懌、悅也。○言方盛其惡以相加、則視其矛戟、如欲戰鬭。及旣夷平悅懌、則相與歡然、如賓主而相醻酢、不以爲怪也。蓋小人之性無常、而習於鬭亂。其喜怒之不可期如此。是以君子無所適而可也。
【読み】
○爾の惡を茂[さか]んにするに方っては、爾が矛を相[み]<去聲>る。旣に夷らぎ旣に懌[よろこ]べば、相醻[むく]<音酬>うが如し。賦なり。茂は、盛ん。相は、視る。懌は、悅ぶなり。○言うこころは、其の惡を盛んにして以て相加うるに方っては、則ち其の矛戟を視ること、戰鬭を欲するが如し。旣に夷平悅懌するに及んでは、則ち相與に歡然として、賓主にして相醻酢するが如く、以て怪しとせず。蓋し小人の性は常無くして、鬭亂に習う。其の喜怒の期す可からざること此の如し。是を以て君子適く所として可なる無し。

○昊天不平、我王不寧。不懲其心、覆<音福>怨其正<叶諸盈反>○賦也。尹氏之不平、若天使之。故曰、昊天不平。若是則我王亦不得寧矣。然尹氏猶不自懲創其心、乃反怨人之正己者、則其爲惡何時而已哉。
【読み】
○昊天平らかならず、我が王寧んぜず。其の心を懲らさず、覆[かえ]<音福>って其の正<叶諸盈反>せるを怨む。○賦なり。尹氏の不平は、天之をしむるが若し。故に曰く、昊天平らかならず、と。是の若くなれば則ち我が王も亦寧んずるを得ず。然れども尹氏猶自ら其の心を懲創せず、乃ち反って人の己を正す者を怨めば、則ち其の惡を爲すこと何れの時にして已まんや。

○家父<音甫>作誦<叶疾容反>、以究王訩。式訛爾心、以畜萬邦<叶上工反>○賦也。家、氏。父、字。周大夫也。究、窮。訛、化。畜、養也。○家父自言作爲此誦、以窮究王政昏亂之所由。冀其改心易慮、以畜養萬邦也。陳氏曰、尹氏厲威、使人不得戲談。而家父作詩、乃復自表其出於己、以身當尹氏之怒而不亂者、蓋家父周之世臣、義與國倶存亡故也。東萊呂氏曰、篇終矣、故窮其亂本、而歸之王心焉。致亂者雖尹氏、而用尹氏者、則王心之蔽也。李氏曰、孟子曰、人不足與適也、政不足與閒也、惟大人爲能格君心之非。蓋用人之失、政事之過、雖皆君之非、然不必先論也。惟格君心之非、則政事無不善矣、用人皆得其當矣。
【読み】
○家父<音甫><叶疾容反>を作りて、以て王の訩[みだ]れを究む。式て爾の心を訛[か]えて、以て萬邦<叶上工反>を畜え。○賦なり。家は、氏。父は、字。周の大夫なり。究は、窮む。訛は、化す。畜は、養うなり。○家父自ら言いて此の誦を作爲して、以て王政昏亂の由る所を窮め究む。冀わくは其の心を改め慮りを易えて、以て萬邦を畜養せよ、と。陳氏が曰く、尹氏は厲威、人をして戲談するを得ざらしむ。而るに家父詩を作りて、乃ち復自ら其の己より出づることを表し、身を以て尹氏の怒りに當たりて亂れざるは、蓋し家父は周の世臣にて、義として國と倶に存亡する故なり、と。東萊の呂氏が曰く、篇の終わりにして、故に其の亂の本を窮めて、之を王の心に歸す。亂を致す者は尹氏と雖も、而して尹氏を用うる者は、則ち王の心の蔽なり、と。李氏が曰く、孟子曰く、人與に適[せ]むるに足らず、政與に閒[そし]るに足らず、惟大人のみ能く君の心の非を格[ただ]すことをす、と。蓋し人を用うるの失、政事の過は、皆君の非と雖も、然れども必ずしも先に論ぜず。惟君の心の非を格すときは、則ち政事善ならざる無く、人を用うること皆其の當たれるを得、と。

節南山十章六章章八句四章章四句。序以此爲幽王之詩。而春秋桓十五年、有家父來求車。於周爲桓王之世、上距幽王之終、已七十五年、不知其人之同異。大抵序之時世、皆不足信。今姑闕焉可也。
【読み】
節南山[せつなんざん]十章六章章八句四章章四句。序に此を以て幽王の詩とす。而して春秋桓の十五年、家父來りて車を求むと有り。周に於て桓王の世と爲せば、上幽王の終わりを距てること、已に七十五年、其の人の同異を知らず。大抵序の時世は、皆信ずるに足らず。今姑く闕いて可なり。


<音政>月繁霜、我心憂傷。民之訛言、亦孔之將。念我獨兮、憂心京京<叶居良反>。哀我小心、癙<音鼠>憂以痒<音羊>○賦也。正月、夏之四月。謂之正月者、以純陽用事、爲正陽之月也。繁、多。訛、僞。將、大也。京京、亦大也。癙憂、幽憂也。痒、病也。○此詩亦大夫所作。言霜降失節、不以其時、旣使我心憂傷矣。而造爲姦僞之言、以惑羣聽者又方甚大。然衆人莫以爲憂。故我獨憂之、以至於病也。
【読み】
<音政>月繁[おお]く霜ふり、我が心憂え傷めり。民の訛言[かげん]も、亦孔[はなは]だ之れ將[おお]いなり。念いて我れ獨り、憂うる心京京[けいけい]<叶居良反>たり。哀しいかな我が小心、癙[そ]<音鼠>憂して以て痒[や]<音羊>む。○賦なり。正月は、夏の四月。之を正月と謂うは、純陽事を用うるを以て、正陽の月とするなり。繁は、多し。訛は、僞。將は、大いなり。京京も、亦大いなり。癙憂は、幽憂なり。痒は、病むなり。○此の詩も亦大夫の作る所。言うこころは、霜降りて節を失いて、其の時を以てせず、旣に我が心をして憂れ傷めしむ。而して姦僞の言を造り爲して、以て羣聽を惑わす者も又方に甚だ大いなり。然れども衆人以て憂えとする莫し。故に我れ獨り之を憂えて、以て病めるに至るなり。

○父母生我、胡俾我瘉<音庾>。不自我先、不自我後<叶下五反>。好言自口<叶孔五反>、莠<音酉>言自口。憂心愈愈、是以有侮。賦也。瘉、病。自、從。莠、醜也。愈愈、益甚之意。○疾痛故呼父母、而傷己適下是時也。訛言之人、虛僞反覆、言之好醜、皆不出於心、而但出於口。是以我之憂心益甚、而反見侵侮也。
【読み】
○父母我を生めり、胡ぞ我をして瘉[や]<音庾>ましむ。我より先ならず、我より後<叶下五反>ならず。好き言も口<叶孔五反>よりし、莠[あ]<音酉>しき言も口よりす。憂うる心愈愈[ゆゆ]たり、是を以て侮る有り。賦なり。瘉[ゆ]は、病む。自は、從り。莠[ゆう]は、醜[あ]しなり。愈愈は、益々甚だしきの意。○疾痛する故に父母を呼んで、己が適々是の時に下るを傷む。訛言の人、虛僞反覆して、言の好醜も、皆心より出でずして、但口より出づ。是を以て我が憂うる心益々甚だしくして、反って侵し侮らるるなり。

○憂心惸惸<音煢>、念我無祿。民之無辜、幷<去聲>其臣僕。哀我人斯、于何從祿。瞻烏爰止、于誰之屋。賦也。惸惸、憂意也。無祿猶言不幸爾。辜、罪。幷、倶也。古者以罪人爲臣僕。亡國所虜亦以爲臣僕。箕子所謂商其淪喪、我罔爲臣僕、是也。○言不幸而遭國之將亡、與此無罪之民、將倶被囚虜、而同爲臣僕。未知將復從何人而受祿。如視烏之飛、不知其將止於誰之屋也。
【読み】
○憂うる心惸惸[けいけい]<音煢>たり、念う我が祿無きを。民の辜[こ]無き、幷[とも]<去聲>に其れ臣僕たらん。哀しいかな我が人、何れにか從いて祿せん。烏を瞻るに爰に止まること、誰が屋に于てせん。賦なり。惸惸は、憂うる意なり。祿無きは猶不幸と言うがごときのみ。辜は、罪。幷は、倶になり。古は罪人を以て臣僕とす。亡國虜にせらるるも亦以て臣僕とす。箕子が所謂商其れ淪喪せん、我れ臣僕と爲る罔しとは、是れなり。○言うこころは、不幸にして國の將に亡びんとするに遭い、此の罪無きの民と、將に倶に囚虜とせられて、同じく臣僕と爲らんとす。未だ知らず、將[はた]復何れの人に從いて祿を受けん。烏の飛ぶを視て、其の將誰が屋に止るかを知らざるが如し。

○瞻彼中林、侯薪侯蒸。民今方殆、視天夢夢<音蒙。叶莫登反>。旣克有定、靡人弗勝<音升>。有皇上帝、伊誰云憎。興也。中林、林中也。侯、維。殆、危也。夢夢、不明也。皇、大也。上帝、天之神也。程子曰、以其形體謂之天、以其主宰謂之帝。○言瞻彼中林、則維薪維蒸、分明可見也。民今方危殆疾痛號訴於天、而視天反夢夢然、若無意於分別善惡者。然此特値其未定之時爾。及其旣定、則未有不爲天所勝者也。夫天豈有所憎而禍之乎。福善禍淫亦自然之理而已。申包胥曰、人衆則勝天。天定亦能勝人。疑出於此。
【読み】
○彼の中林を瞻れば、侯[こ]れ薪侯れ蒸[つまき]。民今方に殆[あやう]し、天を視れば夢夢[ぼうぼう]<音蒙。叶莫登反>たり。旣に克く定まる有れば、人に勝<音升>たざる靡し。皇[おお]いなる上帝有り、伊[こ]れ誰をか云[ここ]に憎まん。興なり。中林は、林中なり。侯は、維れ。殆は、危きなり。夢夢は、明らかならざるなり。皇は、大いなり。上帝は、天の神なり。程子が曰く、其の形體を以て之を天と謂い、其の主宰を以て之を帝と謂う、と。○言うこころは、彼の中林を瞻れば、則ち維れ薪維れ蒸、分明なること見る可し。民今方に危殆疾痛して天に號訴して、天を視れば反って夢夢然として、善惡を分別するの意無き者の若し。然れども此れ特に其の未だ定まらざるの時に値[あ]うのみ。其の旣に定まれるに及んでは、則ち未だ天の爲に勝たれざる者有らず。夫れ天豈憎む所有りて之に禍いせんや。善に福[さいわい]し淫に禍いするも亦自然の理なるのみ。申包胥が曰く、人衆ければ則ち天に勝つ。天定まれば亦能く人に勝つ、と。疑うらくは此より出でん。

○謂山蓋卑、爲岡爲陵。民之訛言、寧莫之懲。召彼故老、訊<音信>之占夢<叶莫登反>。具曰予聖。誰知烏之雌雄<叶胡陵反>○賦也。山脊曰岡。廣平曰陵。懲、止也。故老、舊臣也。訊、問也。占夢、官名。掌占夢者也。具、倶也。烏之雌雄相似而難辨者也。○謂山蓋卑。而其實則岡陵之崇也。今民之訛言如此矣、而王猶安然莫之止也。及其詢之故老、訊之占夢、則又皆自以爲聖人。亦誰能別其言之是非乎。子思言於衛侯曰、君之國事將日非矣。公曰、何故。對曰、有由然焉。君出言自以爲是、而卿大夫莫敢矯其非。卿大夫出言亦自以爲是、而士庶人莫敢矯其非。君臣旣自賢矣、而羣下同聲賢之。賢之則順而有福。矯之則逆而有禍。如此則善安從生。詩曰、具曰予聖、誰知烏之雌雄。抑亦似君之君臣乎。
【読み】
○山を蓋し卑[ひく]しと謂えども、岡と爲り陵と爲る。民の訛言、寧[かつ]て之を懲[や]む莫し。彼の故老を召[よ]び、之を占夢<叶莫登反>に訊[と]<音信>う。具に予れ聖なりと曰う。誰か烏の雌雄<叶胡陵反>を知らん。○賦なり。山の脊を岡と曰う。廣く平らかなるを陵と曰う。懲は、止むなり。故老は、舊臣なり。訊は、問うなり。占夢は、官の名。占夢を掌る者なり。具は、倶になり。烏の雌雄は相似て辨じ難き者なり。○山を蓋し卑しと謂う。而して其の實は則ち岡陵の崇きなり。今民の訛言此の如くにして、王猶安然として之を止む莫し。其の之を故老に詢[と]い、之を占夢に訊うに及んで、則ち又皆自ら以て聖人とす。亦誰か能く其の言の是非を別たんや。子思衛侯に言いて曰く、君の國事將に日に非ならんとす、と。公曰く、何故ぞ、と。對えて曰く、由って然ること有り。君言を出だして自ら以て是として、卿大夫敢えて其の非を矯[ただ]す莫し。卿大夫言を出だすも亦自ら以て是として、士庶人敢えて其の非を矯す莫し。君臣旣に自ら賢なりとして、羣下同聲して之を賢とす。之を賢とすれば則ち順にして福有り。之を矯せば則ち逆にして禍い有り。此の如くなれば則ち善安んぞ從りて生さん。詩に曰く、具に予を聖なりと曰う、誰か烏の雌雄を知らん、と。抑々亦君の君臣に似たるか、と。

○謂天蓋高、不敢不局<叶居亦反>。謂地蓋厚、不敢不蹐<音■(米篇に責)>。維號<音豪>斯言、有倫有脊。哀今之人、胡爲虺<音毀><音易>○賦也。局、曲也。蹐、累足也。號、長言之也。脊、理。蜴、螈也。虺蜴、皆毒螫之蟲也。○言遭世之亂、天雖高而不敢不局、地雖厚而不敢不蹐。其所號呼而爲此言者、又皆有倫理而可考也。哀今之人、胡爲肆毒以害人、而使之至此乎。
【読み】
○天を蓋し高しと謂も、敢えて局<叶居亦反>せずんばあらず。地を蓋し厚しと謂も、敢えて蹐[せき]<音■(米篇に責)>せずんばあらず。維れ號[よ]<音豪>ばう斯の言、倫有り脊有り。哀しいかな今の人、胡ぞ虺[き]<音毀>蜴[えき]<音易>なる。○賦なり。局は、曲なり。蹐は、足を累[かさ]ぬるなり。號は、長く之を言うなり。脊は、理。蜴は、螈[げん]なり。虺蜴は、皆毒螫[せき]の蟲なり。○言うこころは、世の亂に遭いて、天高しと雖も敢えて局せずんばあらず、地厚しと雖も敢えて蹐せずんばあらず。其の號呼して此の言を爲す所の者も、又皆倫理有りて考う可し。哀しいかな今の人、胡ぞ肆毒を爲して以て人を害して、之をして此に至らしめんや。

○瞻彼阪<音反>田、有菀<音鬱>其特。天之扤<音兀>我、如不我克。彼求我則、如不我得、執我仇仇、亦不我力。興也。阪田、﨑嶇墝埆之處。菀、茂盛之貌。特、特生之苗也。扤、動也。力、謂用力。○瞻彼阪田、猶有菀然之特、而天之扤我、如恐其不我克何哉。亦無所歸咎之詞也。夫始而求之以爲法、則惟恐不我得也。及其得之、則又執我堅固如仇讎然。然終亦莫能用也。求之甚艱、而棄之甚易。其無常如此。
【読み】
○彼の阪<音反>田を瞻れば、菀[うつ]<音鬱>たる其の特有り。天の我を扤[うご]<音兀>かす、我に克たざるが如し。彼我を求めて則り、我を得ざるが如きも、我を執えて仇とし仇とし、亦我を力めず。興なり。阪田は、﨑嶇墝埆[こうかく]の處。菀は、茂り盛んなる貌。特は、特生の苗なり。扤[こつ]は、動くなり。力は、力を用うるを謂う。○彼の阪田を瞻れば、猶菀然たる特有りて、天の我を扤かすこと、其の我に克たざるを恐るるが如きは何ぞや。亦咎を歸する所無きの詞なり。夫の始めにして之を求めて以て法とするときは、則ち惟恐れらくは、我に得ざることを。其の之を得るに及んでは、則ち又我を執うること堅固にして仇讎の如く然り。然れども終に亦能く用うること莫し。之を求むること甚だ艱くして、之を棄つること甚だ易し。其の常無きこと此の如し。

○心之憂矣、如或結之。今茲之正、胡然厲<叶力桀反>矣。燎之方揚、寧或滅之。赫赫宗周、褒姒<音似><呼悅反>之。賦也。正、政也。厲、暴惡也。火田爲燎。揚、盛也。宗周、鎬京也。褒姒、幽王之嬖妾。褒國女、姒姓也。烕、亦滅也。○言我心之憂如結者、爲國政之暴惡故也。燎之方盛之時、則寧有能撲而滅之者乎。然赫然之宗周、而一褒姒足以滅之。蓋傷之也。時宗周未滅、以褒姒淫妬讒諂、而王惑之。知其必滅周也。或曰、此東遷後詩也、時宗周已滅矣。其言褒姒烕之、有監戒之意、而無憂懼之情。似亦道已然之事、而非慮其將然之詞。今亦未能必其然否也。
【読み】
○心の憂えあり、之を結ぶこと或るが如し。今茲の正[まつりごと]、胡然[なんす]れぞ厲[はげ]<叶力桀反>しき。燎の方に揚[さか]んなる、寧[いずく]んぞ之を滅[け]すこと或らんや。赫赫たる宗周、褒姒<音似>之を烕[ほろ]<呼悅反>ぼさん。賦なり。正は、政なり。厲は、暴惡なり。田を火[や]くを燎とす。揚は、盛んなり。宗周は、鎬京なり。褒姒は、幽王の嬖妾。褒國の女、姒の姓なり。烕も、亦滅なり。○言うこころは、我が心の憂え結ぶが如くなる者は、國政の暴惡の爲の故なり。燎の方に盛んなるの時、則ち寧ろ能く撲[う]って之を滅ぼす者有らんや。然るに赫然たる宗周も、而して一褒姒以て之を滅ぼすに足れり。蓋し之を傷むなり。時に宗周未だ滅びず、褒姒が淫妬讒諂を以てして、王之に惑う。其の必ず周を滅ぼすことを知るなり。或ひと曰く、此れ東遷の後の詩に、時に宗周已に滅ぶ。其れ褒姒之を烕ぼせりと言うは、監戒の意有りて、憂懼の情無し。亦已然の事を道いて、其の將然を慮るの詞に非ざるに似たり、と。今亦未だ能く其の然否を必とせず。

○終其永懷、又窘陰雨。其車旣載<音在>、乃棄爾輔<叶扶雨反>。載<如字>輸爾載<音在>、將<音搶>伯助予<叶演汝反>○比也。陰雨則泥濘而車易以陷也。載、車所載也。輔、如今人縛杖於輻、以防輔車也。輸、墮也。將、請也。伯、或者之字也。○蘇氏曰、王爲淫虐、譬如行險而不知止。君子永思其終、知其必有大難。故曰、終其永懷、又窘陰雨。王又不虞難之將至、而棄賢臣焉。故曰、乃棄爾輔。君子求助於未危。故難不至。苟其載之旣墮、而後號伯以助予、則無及矣。
【読み】
○終わりを其れ永く懷いて、又陰雨に窘[くる]しめらる。其の車旣に載<音在>せて、乃ち爾が輔<叶扶雨反>を棄つ。載[すなわ]<字の如し>ち爾が載<音在>を輸[お]として、伯に予<叶演汝反>を助けよと將[こ]<音搶>わんや。○比なり。陰雨なれば則ち泥濘[でいねい]にして車以て陷り易し。載は、車の載する所なり。輔は、今の人杖を輻に縛して、以て車を防ぎ輔くが如し。輸は、墮つるなり。將は、請うなり。伯は、或者の字なり。○蘇氏が曰く、王の淫虐を爲す、譬えば險を行いて止むことを知らざるが如し。君子永く其の終わりを思いて、其の必ず大難有るを知る。故に曰く、終わりを其れ永く懷いて、又陰雨に窘しめらる、と。王又難の將に至らんとするを虞[はか]らずして、賢臣を棄つ。故に曰く、乃ち爾が輔を棄つ、と。君子助けを未だ危からざるに求む。故に難至らず。苟も其の之を載せて旣に墮として、而して後に伯以て予を助けよと號べば、則ち及ぶこと無し。

○無棄爾輔、員<音云>于爾輻<叶筆力反>、屢顧爾僕、不輸爾載<叶節力反>、終踰絕險、曾是不意<叶乙力反>○比也。員、益也。輔、所以益輻也。屢、數。顧、視也。僕、將車者也。○此承上章言。若能無棄爾輔、以益其輻、而又數數顧視其僕、則不墮爾所載、而踰絕險。若初不以爲意者。蓋能謹其初、則厥終無難也。一說、王曾不以是爲意乎。
【読み】
○爾が輔を棄つる無く、爾が輻<叶筆力反>を員[ま]<音云>して、屢々爾が僕を顧[み]、爾が載<叶節力反>を輸とさず、終に絕險を踰えて、曾て是れ意[おも]<叶乙力反>わざるがごとし。○比なり。員は、益すなり。輔は、輻を益す所以なり。屢は、數々。顧は、視るなり。僕は、車を將[ひきい]る者なり。○此れ上章を承けて言う。若し能く爾が輔を棄つる無く、以て其の輻を益して、又數數其の僕を顧視すれば、則ち爾の載する所を墮とさずして、絕險を踰えん。初めより以て意とせざる者の若し。蓋し能く其の初めを謹めば、則ち厥の終わりは難無し。一說に、王曾て是を以て意とせざらんや、と。

○魚在于沼<叶音灼>、亦匪克樂<音洛>。潛雖伏矣、亦孔之炤<音灼>。憂心慘慘、念國之爲虐。比也。沼、池也。炤、明易見也。○魚在于沼、其爲生已蹙矣。其潛雖深、然亦炤然而易見。言禍亂之及、無所逃也。
【読み】
○魚沼<叶音灼>に在るは、亦克く樂<音洛>しむに匪ず。潛むこと伏すと雖も、亦孔だ之れ炤[あき]<音灼>らかなり。憂うる心慘慘として、國の虐をすることを念う。比なり。沼は、池なり。炤は、明らかにして見易きなり。○魚沼に在り、其の生を爲すこと已に蹙[せま]る。其の潛むこと深しと雖も、然れども亦炤然として見易し。言うこころは、禍亂の及ぶ、逃げる所無し。

○彼有旨酒、又有嘉殽<音爻>。洽比<音鼻>其鄰、昏姻孔云。念我獨兮、憂心慇慇。賦也。洽比、皆合也。云、旋也。慇慇、疾痛也。○言小人得志、有旨酒嘉殽、以合比其鄰里、怡懌其昏姻、而我獨憂心、至於疾痛也。昔人有言、燕雀處堂、母子相安、自以爲樂也。突決棟焚、而怡然不知禍之將及、其此之謂乎。
【読み】
○彼旨き酒有り、又嘉き殽[さかな]<音爻>有り。其の鄰を洽比<音鼻>し、昏姻と孔だ云[めぐ]れり。念うて我れ獨り、憂うる心慇慇たり。賦なり。洽比は、皆合うなり。云は、旋るなり。慇慇は、疾痛なり。○言うこころは、小人志を得、旨酒嘉殽[こう]有りて、以て其の鄰里を合比し、其の昏姻を怡懌[いえき]して、我れ獨り憂うる心、疾痛に至る。昔人言える有り、燕雀堂に處る、母子相安んじて、自ら以て樂しみとす。突決[やぶ]れ棟焚けんとも、怡然として禍いの將に及ばんとするを知らずとは、其れ此れ之を謂うか。

○佌佌<音此>彼有屋、蔌蔌<音速>方有穀。民今之無祿、天夭<音腰>是椓<音卓。叶都木反>。哿<音可>矣富人、哀此惸獨。賦也。佌佌、小貌。蔌蔌、窶陋貌。指王所用之小人也。穀、祿。夭、禍。椓、害。哿、可。獨、單也。○佌佌然之小人、旣已有屋矣。蔌蔌窶陋者、又將有穀矣。而民今獨無祿者、是天禍椓喪之耳。亦無所歸咎之詞也。亂至於此、富人猶或可勝。惸獨、甚矣。此孟子所以言文王發政施仁必先鰥寡孤獨也。
【読み】
○佌佌[しし]<音此>たるも彼屋有り、蔌蔌[そくそく]<音速>たるも方に穀有り。民今の祿無きは、天夭[わざわい]<音腰>して是れ椓[そこな]<音卓。叶都木反>えり。哿[よ]<音可>いかな富める人、哀しいかな此の惸獨[けいどく]。賦なり。佌佌は、小なる貌。蔌蔌は、窶陋[くろう]の貌。王用うる所の小人を指すなり。穀は、祿。夭は、禍い。椓は、害。哿は、可。獨は、單なり。○佌佌然たる小人、旣已に屋有り。蔌蔌窶陋の者、又將に穀有り。而も民今獨り祿無きは、是れ天禍いして之を椓い喪ぼすのみ。亦咎を歸する所無きの詞なり。亂此に至りて、富める人猶或は勝つ可し。惸獨は、甚だし。此れ孟子の文王政を發し仁を施すに必ず鰥寡孤獨を先にするを言う所以なり。

正月十三章。八章章八句。五章章六句
【読み】
正月[せいげつ]十三章。八章章八句。五章章六句


十月之交、朔月辛卯<叶莫後反>、日有食之、亦孔之醜。彼月而微、此日而微。今此下民、亦孔之哀<叶於希反>○賦也。十月、以夏正言之、建亥之月也。交、日月交會、謂晦朔之閒也。暦法、周天三百六十五度四分度之一、左旋於地、一晝一夜、則其行一周而又過一度。日月皆右行於天、一晝一夜、則日行一度、月行十三度十九分度之七。故日一歲而一周天、月二十九日有奇而一周天、又逐及於日而與之會。一歲凡十二會、方會則月光都盡而爲晦。已會則月光復蘇而爲朔。朔後晦前各十五日、日月相對、則月光正滿而爲望。晦朔而日月之合、東西同度、南北同道、則月揜日而日爲之食。望而日月之對、同度同道、則月亢日而月爲之食。是皆有常度矣。然王者脩德行政、用賢去奸、能使陽盛足以勝陰、陰衰不能侵陽、則日月之行、雖或當食、而月常避日。故其遲速高下、必有參差、而不正相合、不正相對者、所以當食而不食也。若國無政不用善、使臣子背君父、妾婦乘其夫、小人陵君子、夷狄侵中國、則陰盛陽微、當食必食。雖曰行有常度、而實爲非常之變矣。蘇氏曰、日食、天變之大者也。然正陽之月、古以忌之。夏之四月爲純陽。故謂之正月。十月純陰、疑其無陽。故謂之陽月。純陽而食、陽弱之甚也。純陰而食、陰壯之甚也。微、虧也。彼月則宜有時而虧矣。此日不宜虧而今亦虧。是亂亡之兆也。
【読み】
十月の交、朔月辛[かのと]卯[う]<叶莫後反>、日之に食めること有り、亦孔[はなは]だ之れ醜[あ]し。彼は月にして微[か]く、此は日にして微く。今此の下民、亦孔だ之れ哀<叶於希反>し。○賦なり。十月は、夏正を以て之を言わば、建亥の月なり。交は、日月の交會、晦朔の閒を謂うなり。暦法に、周天三百六十五度四分度の一、地を左旋して、一晝一夜ならば、則ち其の行一周して又一度を過ぐ。日月皆天を右行して、一晝一夜なれば、則ち日行きて一度、月行きて十三度十九分度の七。故に日は一歲にして一周天、月は二十九日有奇にして一周天、又逐うに日に及んで之と會す。一歲は凡て十二會、會するに方たりて則ち月光都て盡きて晦と爲る。已に會すれば則ち月光復蘇りて朔と爲る。朔後晦前各々十五日、日月相對せば、則ち月光正に滿ちて望と爲る。晦朔にして日月合い、東西度を同じくし、南北道を同じくすれば、則月日を揜いて日之が爲に食す。望にして日月對し、度を同じくし道を同じくすれば、則ち月日に亢して月之が爲に食す。是れ皆常度有り。然れども王者德を脩め政を行い、賢を用い奸を去りて、能く陽盛んにして以て陰に勝つに足り、陰衰えて陽を侵すこと能わざらしめば、則ち日月の行、或は食に當たると雖も、而して月常に日を避く。故に其の遲速高下、必ず參差有りて、正に相合わず、正に相對せざるは、食に當たりて食さざる所以なり。若し國に政無く善を用いず、臣子をして君父に背き、妾婦其の夫に乘じ、小人君子を陵ぎ、夷狄中國を侵さしむれば、則ち陰盛んに陽微にして、食に當たりて必ず食す。行に常度有りと曰うと雖も、而して實に非常の變爲り。蘇氏が曰く、日食は、天變の大いなる者なり。然れども正陽の月、古以も之を忌む。夏の四月は純陽爲り。故に之を正月と謂う。十月は純陰なれば、其の陽無きを疑う。故に之を陽月と謂う。純陽にして食するは、陽弱きことの甚だしきなり。純陰にして食するは、陰壯んなることの甚だしきなり。微は、虧くなり。彼の月は則ち宜しく時有りて虧くべし。此の日は宜しく虧くべからずして今亦虧く。是れ亂亡の兆しなり。

○日月告凶、不用其行<叶戶郎反>、四國無政、不用其良。彼月而食、則維其常。此日而食、于何不臧。賦也。行、道也。○凡日月之食、皆有常度矣。而以爲不用其行者、月不避日、失其道也。然其所以然者、則以四國無政、不用善人故也。如此則日月之食皆非常矣。而以月食爲其常、日食爲不臧者、陰亢陽而不勝、猶可言也。陰勝陽而揜之、不可言也。故春秋、日食必書、而月食則無紀焉。亦以此爾。
【読み】
○日月凶を告げて、其の行[みち]<叶戶郎反>を用いず、四國政無くして、其の良きを用いざればなり。彼月にして食めるは、則ち維れ其の常。此れ日にして食めるは、何[いかん]ぞ臧からざる。賦なり。行は、道なり。○凡そ日月の食は、皆常度有り。而れども以て其の行を用いずとするは、月日を避けず、其の道を失えばなり。然れども其の然る所以の者は、則ち四國政無く、善人を用いざるを以ての故なり。此の如くなれば則ち日月の食皆常に非ず。而るに月食を以て其の常とし、日食を臧からずとするは、陰陽に亢して勝たざるは、猶言う可し。陰陽に勝ちて之を揜うは、言う可からず。故に春秋に、日食は必ず書して、月食は則ち紀すこと無し。亦此を以てのみ。

○爗爗<音曄>震電、不寧不令<叶盧經反>。百川沸騰、山冢崒崩、高岸爲谷、深谷爲陵。哀今之人、胡憯<音慘>莫懲。賦也。爗爗、電光貌。震、雷也。寧、安徐也。令、善。沸、出。騰、乘也。山頂曰冢。崒、崔嵬也。高岸崩陷。故爲谷。深谷塡塞。故爲陵。憯、曾也。○言非但日食而已。十月而雷電、山崩水溢。亦災異之甚者。是宜恐懼脩省、改紀其政。而幽王曾莫之懲也。董氏曰、國家將有失道之敗、而天乃先出災異、以譴告之。不知自省。又出怪異、以警懼之。尙不知變、而傷敗乃至。此見天心仁愛人君、而欲止其亂也。
【読み】
○爗爗[ようよう]<音曄>たる震電、寧からず令[よ]<叶盧經反>からず。百川沸き騰がり、山冢[さんちょう]崒崩[しゅつほう]し、高き岸谷と爲り、深き谷陵と爲る。哀しいかな今の人、胡ぞ憯[かつ]<音慘>て懲る莫き。賦なり。爗爗は、電光の貌。震は、雷なり。寧は、安徐なり。令は、善き。沸は、出づ。騰は、乘る。山頂を冢と曰う。崒は、崔嵬[さいかい]なり。高き岸崩陷す。故に谷と爲る。深き谷塡塞[てんそく]す。故に陵と爲る。憯は、曾てなり。○言うこころは、但日食のみに非ず。十月にして雷電あり、山崩れ水溢る。亦災異の甚だしき者なり。是れ宜しく恐懼脩省して其の政を改紀すべし。而るに幽王曾て之を懲る莫し。董氏が曰く、國家將に道を失うの敗れ有らんとして、天乃ち先ず災異を出だして、以て之に譴[せ]め告ぐ。自ら省みることを知らず。又怪異を出だして、以て之を警め懼れしむ。尙變を知らずして、傷敗乃ち至る。此れ天心の人君に仁愛して、其の亂を止めんと欲するを見す、と。

○皇父<音甫>卿士、番維司徒、家伯冢宰、仲允膳夫、棸<音鄒>子内史、蹶<音愧>維趣<七走反><叶滿補反>、楀<音矩>維師氏。豔<音艶>妻煽<音扇>方處。賦也。皇父・家伯・仲允、皆字也。番・棸・蹶・楀、皆氏也。卿士、六卿之外。更爲都官、以總大官之事也。或曰、卿士、蓋卿之士。周禮太宰之屬、有上中下士。公羊所謂宰士。左氏所謂周公以蔡仲爲己卿士。是也。蓋以宰屬、而兼總六官。位卑而權重也。司徒掌邦敎、冢宰掌邦治。皆卿也。膳夫、上士。掌王之飮食膳羞者也。内史、中大夫。掌爵祿廢置殺生予奪之法者也。趣馬、中士。掌王馬之政者也。師氏、亦中大夫。掌司朝得失之事者也。美色曰豔。豔妻、卽褒姒也。煽、熾也。方處、方居其所、未變徙也。○言所以致變異者、由小人用事於外、而嬖妾蠱惑王心於内、以爲之主故也。
【読み】
○皇父<音甫>は卿士、番は維れ司徒、家伯は冢宰、仲允[ちゅういん]は膳夫、棸[すう]<音鄒>子は内史、蹶[けい]<音愧>は維れ趣<七走反><叶滿補反>、楀[く]<音矩>は維れ師氏。豔[えん]<音艶>妻煽[さか]<音扇>んにして方に處る。賦なり。皇父・家伯・仲允は、皆字なり。番・棸・蹶・楀は、皆氏なり。卿士は、六卿の外。更に都官と爲りて、以て大官の事を總ぶなり。或ひと曰く、卿士は、蓋し卿の士、と。周禮に太宰の屬、上中下の士有り、と。公羊に所謂宰士、と。左氏に所謂周公蔡仲を以て己が卿士とす、と。是れなり。蓋し宰の屬を以てして、六官を兼ね總ぶ。位卑しくして權重し。司徒は邦敎を掌り、冢宰は邦治を掌る。皆卿なり。膳夫は、上士。王の飮食膳羞を掌る者なり。内史は、中大夫。爵祿廢置殺生予奪の法を掌る者なり。趣馬は、中士。王馬の政を掌る者なり。師氏も、亦中大夫。司朝得失の事を掌る者なり。美色を豔と曰う。豔妻とは、卽ち褒姒なり。煽は、熾んなり。方に處るとは、方に其の所に居りて、未だ變じ徙[うつ]らざるなり。○言うこころは、變異を致す所以は、小人事を外に用いて、嬖妾王の心を内に蠱惑して、以て之が主と爲るに由る故なり。

○抑此皇父、豈曰不時。胡爲我作、不卽我謀<叶謨悲反>。徹我牆屋、田卒汙<音烏><叶陵之反>。曰予不戕<音牆>、禮則然矣<叶於姫反>○賦也。抑、發語辭。時、農隙之時也。作、動。卽、就。卒、盡也。汙、停水也。萊、草穢也。戕、害也。○言皇父不自以爲不時、欲動我以徙、而與我謀。乃遽徹我牆屋、使我田不獲治、卑者汙而高者萊。又曰、非我戕汝、乃下供上役之常禮耳。
【読み】
○抑々此の皇父、豈時ならずと曰わんや。胡爲[なんす]れぞ我を作[うご]かさんとして、我に卽[つ]いて謀<叶謨悲反>らざる。我が牆屋を徹し、田卒[ことごと]く汙<音烏><叶陵之反>となる。曰く予れ戕[そこな]<音牆>わず、禮則ち然<叶於姫反>り、と。○賦なり。抑は、發語の辭。時は、農隙の時なり。作は、動く。卽は、就く。卒は、盡くなり。汙は、停水なり。萊は、草穢なり。戕は、害うなり。○言うこころは、皇父自ら以て時ならずとせず、我を動かして以て徙さんと欲して、我と謀らず。乃ち遽に我が牆屋を徹して、我が田をして治むことを獲ざらしめ、卑きは汙にして高きは萊となる。又曰く、我れ汝を戕うに非ず、乃ち下、上の役に供するの常禮なるのみ、と。

○皇父<音甫>孔聖、作都于向<去聲>。擇三有事、亶侯多藏<去聲>。不憖<魚覲反>遺一老、俾守我王。擇有車馬、以居徂向。賦也。孔、甚也。聖、通明也。都、大邑也。周禮、畿内大都方百里、小都方五十里、皆天子公卿所封也。向、地名。在東都畿内、今孟州河陽縣是也。三有事、三卿也。亶、信。侯、維。藏、蓄也。憖者、心不欲而自强之詞。有車馬者、亦富民也。徂、往也。○言皇父自以爲聖、而作都則不求賢、而但取富人以爲卿。又自强留一人以衛天子、但有車馬者、則悉與倶往、不忠於上、而但知貪利以自私也。
【読み】
○皇父<音甫>孔だ聖なりとして、都を向<去聲>に作る。三有事を擇ぶに、亶[まこと]に侯[こ]れ藏[たくわ]<去聲>え多きをす。憖[なま]<魚覲反>じきに一老を遺して、我が王を守らしめず。車馬有るを擇びて、以て居らしめんとして向に徂[ゆ]かしむ。賦なり。孔は、甚だなり。聖は、通明なり。都は、大邑なり。周禮に、畿内の大都は方百里、小都は方五十里、皆天子公卿封ぜらるる所、と。向は、地名。東都畿内に在り、今孟州河陽縣是れなり。三有事は、三卿なり。亶は、信。侯は、維れ。藏は、蓄うなり。憖じきは、心欲せずして自ら强ゆるの詞。車馬有る者は、亦富民なり。徂は、往くなり。○言うこころは、皇父自ら以て聖なりとして、都を作るに則ち賢を求めずして、但富人を取りて以て卿とす。又自ら强いて一人を留めて以て天子を衛らしめず、但車馬有る者、則ち悉く與に倶に往いて、上に忠ならずして、但利を貪りて以て自私するを知るなり。

○黽<音敏>勉從事、不敢告勞。無罪無辜、讒口囂囂<音翺>。下民之孼<音蘖>、匪降自天<叶鐵因反>。噂<音樽><音遝><音佩>憎、職競由人。賦也。囂、衆多貌。孼、災害也。噂、聚也。沓、重複也。職、主。競、力也。○言黽勉從皇父之役、未嘗敢告勞也。尙且無罪而遭讒。然下民之孼、非天之所爲也。噂噂沓沓、多言以相說、而背則相憎、專力爲此者、皆由讒口之人耳。
【読み】
○黽[びん]<音敏>勉として事に從いて、敢えて勞[くる]しみを告げず。罪無く辜[つみ]無きも、讒口囂囂[ごうごう]<音翺>たり。下民の孼[わざわい]<音蘖>、天<叶鐵因反>より降るに匪ず。噂[あつ]<音樽>め沓[かさ]<音遝>ねて背<音佩>けば憎み、職[むね]とし競[つと]むること人に由れり。賦なり。囂は、衆多き貌。孼は、災害なり。噂は、聚むなり。沓は、重複なり。職は、主。競は、力むなり。○言うこころは、黽勉として皇父の役に從いて、未だ嘗て敢えて勞しみを告げず。尙且つ罪無くして讒に遭う。然も下民の孼は、天のする所に非ざるなり。噂噂沓沓として、多言して以て相說びて、背けば則ち相憎み、力を專らにして此をするは、皆讒口の人に由ってのみ。

○悠悠我里、亦孔之痗<音妹。叶呼洧反>。四方有羨<徐面反>、我獨居憂。民莫不逸、我獨不敢休。天命不徹<叶直質反>、我不敢傚我友自逸。賦也。悠悠、憂也。里、居。痗、病。羨、餘。逸、樂。徹、均也。○當是之時、天下病矣。而獨憂我里之甚病。且以爲四方皆有餘、而我獨憂。衆人皆得逸豫、而我獨勞者、以皇父病之、而被禍尤甚故也。然此乃天命之不均。吾豈敢不安於所遇、而必傚我友之自逸哉。
【読み】
○悠悠たる我が里、亦孔だ之れ痗[や]<音妹。叶呼洧反>まし。四方羨[あま]<徐面反>り有れども、我れ獨り憂えに居る。民逸[たの]しまざる莫し、我れ獨り敢えて休まず。天命徹[ひと]<叶直質反>しからず、我れ敢えて我が友の自ら逸しめるに傚[なら]わじ。賦なり。悠悠は、憂うるなり。里は、居。痗は、病む。羨は、餘り。逸は、樂しむ。徹は、均しきなり。○是の時に當たりて、天下病みぬ。而して獨り我が里の甚だ病めるを憂う。且つ以爲えらく、四方皆餘り有りて、我れ獨り憂う。衆人皆逸豫を得て、我れ獨り勞しむは、皇父之を病ましむるを以てして、禍いを被ること尤も甚だしき故なり。然れども此れ乃ち天命は均しからず。吾れ豈敢えて於遇う所に安んぜずして、必ず我が友の自ら逸しめるに傚わんや、と。

十月之交八章章八句
【読み】
十月之交[じゅうげつしこう]八章章八句


浩浩昊天、不駿其德。降喪<去聲>饑饉<音覲>、斬伐四國<叶于逼反>。旻天疾威、弗慮弗圖。舍<音赦>彼有罪、旣伏其辜。若此無罪、淪胥以鋪<平聲>○賦也。浩浩、廣大貌。昊亦廣大之意。駿、大。德、惠也。穀不熟曰餓、蔬不熟曰饉。疾威、猶暴虐也。慮・圖、皆謀也。舍、置。淪、陷。胥、相。鋪、徧也。○此時饑饉之後、羣臣離散。其不去者作詩、以責去者。故推本而言、昊天不大其惠、降此饑饉、而殺伐四國之人。如何旻天、曾不思慮圖謀而遽爲此乎。彼有罪而饑死、則是旣伏其辜矣。舍之可也。此無罪者亦相與陷於死亡、則如之何哉。
【読み】
浩浩たる昊[こう]天、其の德[めぐみ]を駿[おお]いにせず。喪<去聲>饑饉<音覲>を降して、四國<叶于逼反>を斬り伐つ。旻[びん]天疾威にして、慮らず圖らず。彼の罪有りて、旣に其の辜[つみ]に伏せるを舍[お]<音赦>け。此の罪無きが若きも、淪[おちい]り胥[あい]以て鋪[あまね]<平聲>し。○賦なり。浩浩は、廣大の貌。昊も亦廣大の意。駿は、大い。德は、惠みなり。穀熟さざるを餓と曰い、蔬熟さざるを饉と曰う。疾威は、猶暴虐のごとし。慮・圖は、皆謀るなり。舍は、置く。淪は、陷る。胥は、相。鋪は、徧きなり。○此の時は饑饉の後にて、羣臣離散す。其の去らざる者詩を作りて、以て去る者を責む。故に推して本づいて言う、昊天其の惠を大いにせず、此の饑饉を降して、四國の人を殺伐す。如何ぞ旻天、曾て思慮圖謀せずして遽に此を爲すや。彼の罪有りて饑死するは、則ち是れ旣に其の辜に伏す。之を舍かんこと可なり。此の罪無き者も亦相與に死亡に陷るは、則ち之を如何せんや、と。

○周宗旣滅、靡所止戾。正大夫離居、莫知我勩<音異>。三事大夫、莫肯夙夜<叶戈灼反>。邦君諸侯、莫肯朝夕<叶祥龠反>。庶曰式臧、覆<音福>出爲惡。賦也。宗、族姓也。戾、定也。正、長也。周官八職、一曰正。謂六官之長、皆上大夫也。離居、蓋以饑饉散去、而因以避讒譖之禍也。我、不去者自我也。勩、勞也。三事、三公也。大夫、六卿及中下大夫也。臧、善。覆、反也。○言將有易姓之禍、其兆已見、而天變人離又如此。庶幾曰王改而爲善、乃覆出爲惡而不悛也。或曰、疑此亦東遷後詩也。
【読み】
○周宗旣に滅びんとして、止まり戾[さだ]まりたる所靡し。正の大夫も離れ居り、我が勩[くる]<音異>しみを知ること莫し。三事大夫も、肯えて夙夜<叶戈灼反>すること莫し。邦君諸侯も、肯えて朝夕<叶祥龠反>すること莫し。庶わくは臧きを式[もっ]てせよと曰うとも、覆[かえ]<音福>って出だして惡を爲す。賦なり。宗は、族姓なり。戾は、定まるなり。正は、長なり。周官八職、一を正と曰う。六官の長を謂い、皆上大夫なり。離れ居るとは、蓋し饑饉を以て散じ去りて、因りて以て讒譖の禍いを避くるなり。我は、去らざる者自ら我とするなり。勩は、勞しむなり。三事は、三公なり。大夫は、六卿及び中下大夫なり。臧は、善き。覆は、反ってなり。○言うこころは、將に姓を易うるの禍い有らんとして、其の兆已に見れて、天變人離又此の如し。庶幾わくは王改めて善を爲せと曰うとも、乃ち覆って出だして惡を爲して悛[あらた]めざるなり。或ひと曰く、疑うらくは此れ亦東遷の後の詩、と。

○如何昊天<叶鐵因反>、辟言不信<叶斯人反>。如彼行邁、則靡所臻。凡百君子、各敬爾身。胡不相畏、不畏于天。賦也。如何昊天、呼天而訴之也。辟、法。臻、至也。凡百君子、指羣臣也。○言如何乎昊天也、法度之言、而不聽信、則如彼行往而無所底至也。然凡百君子、豈可以王之爲惡而不敬其身哉。不敬爾身、不相畏也。不相畏、不畏天也。
【読み】
○如何ぞ昊天<叶鐵因反>、辟[のり]の言を信<叶斯人反>ぜず。彼の行き邁[ゆ]いて、則ち臻[いた]る所靡きが如し。凡そ百の君子、各々爾が身を敬[つつし]め。胡ぞ相畏れざる、天を畏れざるや。賦なり。如何ぞ昊天は、天を呼んで之に訴うるなり。辟は、法。臻は、至るなり。凡そ百の君子は、羣臣を指すなり。○言うこころは、如何ぞや昊天、法度の言、而も聽信せずして、則ち彼の行き往いて底[いた]り至る所無きが如し。然れども凡そ百の君子、豈王の惡を爲すを以てして其の身を敬せざる可けんや。爾が身を敬せざるは、相畏れざるなり。相畏れざるは、天を畏れざるなり。

○戎成不退<叶吐類反>、飢成不遂。曾<音層>我暬<音薛>御、憯憯<音慘>日瘁<音悴>。凡百君子、莫肯用訊<叶息悴反>。聽言則答、譖言則退。賦也。戎、兵。遂、進也。易曰、不能退、不能遂、是也。暬御、近侍也。國語曰、居寢有暬御之箴。蓋如漢侍中之官也。憯憯、憂貌。瘁、病。訊、告也。○言兵宼已成、而王之爲惡不退、飢饉已成、而王之遷善不遂、使我暬御之臣、憂之而慘慘日瘁也。凡百君子、莫肯以是告王者。雖王有問而欲聽其言、則亦答之而已。不敢盡言也。一有譖言及己、則皆退而離居、莫肯夙夜朝夕於王矣。其意若曰、王雖不善、而君臣之義、豈可以若是恝乎。
【読み】
○戎[つわもの]成れども退<叶吐類反>かず、飢成れども遂[すす]まず。曾て<音層>我が暬[せつ]<音薛>御、憯憯[さんさん]<音慘>として日々に瘁[や]<音悴>みぬ。凡そ百の君子、肯えて用[もっ]て訊[つ]<叶息悴反>ぐる莫し。言を聽けば則ち答う、譖言すれば則ち退く。賦なり。戎は、兵。遂は、進むなり。易に曰く、退くこと能わず、遂むこと能わずとは、是れなり。暬御は、近侍なり。國語に曰く、居るに寢ねるに暬御の箴有り、と。蓋し漢の侍中の官の如し。憯憯は、憂うる貌。瘁は、病む。訊は、告ぐなり。○言うこころは、兵宼已に成りて、王の惡を爲すこと退かず、飢饉已に成りて、王の善に遷ること遂まず、我が暬御の臣をして、之を憂えしめて慘慘として日々に瘁ましむ。凡そ百の君子、肯えて是を以て王に告ぐる者莫し。王問うこと有りて其の言を聽かんと欲すと雖も、則ち亦之に答うるのみ。敢えて言を盡くさず。一も譖言己に及ぶこと有れば、則ち皆退いて離居して、肯えて王に夙夜朝夕すること莫し。其の意は、王不善なりと雖も、而して君臣の義、豈以て是の若く恝[うれいな]かる可けんやと曰うが若し。

○哀哉不能言、匪舌是出<音脆>、維躬是瘁。哿<音可>矣能言、巧言如流、俾躬處休。賦也。出、出之也。瘁、病。哿、可也。○言之忠者、當世之所謂不能言者也。故非但出諸口、而適以瘁其躬。佞人之言、當世所謂能言者也。故巧好其言、如水之流無所凝滯、而使其身處於安樂之地。蓋亂世昏主、惡忠直而好諛佞、類如此。詩人所以深歎之也。
【読み】
○哀しいかな言を能くせざる、舌是れ出<音脆>だすのみに匪ず、維れ躬是れ瘁みぬ。哿[よ]<音可>いかな言を能くする、巧言流るるが如く、躬を休きに處らしむ。賦なり。出は、之を出だすなり。瘁は、病。哿は、可なり。○言の忠なる者は、當世の所謂言を能くせざる者なり。故に但諸を口より出だすのみに非ずして、適に以て其の躬を瘁ます。佞人の言は、當世所謂言を能くする者なり。故に巧みに其の言を好くすること、水の流れて凝り滯る所無きが如くにして、其身をして安樂の地に處らしむ。蓋し亂世の昏主の、忠直を惡みて諛佞を好むこと、類[おおむ]ね此の如し。詩人深く之を歎ずる所以なり。

○維曰于仕、孔棘且殆<叶養里反>。云不可使、得罪于天子<叶奬里反>。亦云可使、怨及朋友<叶羽已反>○賦也。于、往。棘、急。殆、危也。○蘇氏曰、人皆曰往仕耳。曾不知仕之急且危也。當是之時、直道者、王之所謂不可使、而枉道者、王之所謂可使也。直道者、得罪于君、而枉道者、見怨于友。此仕之所以難也。
【読み】
○維れ于[ゆ]いて仕えんと曰うは、孔だ棘[すみ]やかに且つ殆[あやう]<叶養里反>し。使う可からずと云うは、罪を天子<叶奬里反>に得。亦使う可しと云うは、怨み朋友<叶羽已反>に及ぶ。○賦なり。于は、往く。棘は、急。殆は、危きなり。○蘇氏が曰く、人皆往いて仕えんと曰うのみ。曾て仕うるの急やかに且つ危きを知らず。是の時に當たりて、道を直くする者は、王が所謂使う可からずして、道を枉げる者は、王が所謂使う可きなり。道を直くする者は、罪を君に得て、道を枉げる者は、友に怨まるる。此れ仕うるの難き所以なり、と。

○謂爾遷于王都、曰予未有室家<叶古胡反>。鼠思<去聲>泣血<叶虛屈反>、無言不疾。昔爾出居、誰從作爾室。賦也。爾、謂離居者。鼠思、猶言癙憂也。○當是時、言之難能、而仕之多患如此。故羣臣有去者、有居者。居者不忍王之無臣、己之無徒、則告去者、使復還於王都。去者不聽、而扽於無家以拒之。至於憂思泣血、有無言而不痛疾者。蓋其懼禍之深、至於如此。然所謂無家者、則非其情也。故詰之曰、昔爾之去也、誰爲爾作室者。而今以是辭我哉。
【読み】
○爾に王都に遷れと謂えば、予れ未だ室家<叶古胡反>有らずと曰う。鼠思<去聲>泣血<叶虛屈反>して、言疾ましからざる無し。昔爾出でて居るとき、誰か從いて爾が室を作れる。賦なり。爾は、離居の者を謂う。鼠思は、猶癙憂[そゆう]と言うがごとし。○是の時に當たりて、言うことの能くし難くして、仕うるの患え多きこと此の如し。故に羣臣去る者有り、居る者有り。居る者王の臣無く、己の徒無きに忍びず、則ち去る者に告げて、復王都に還らしむ。去る者聽かずして、家無きに扽[たく]して以て之を拒[ふせ]ぐ。憂思泣血して、言として痛み疾まざる者無きこと有るに至る。蓋し其の禍いを懼るること深くして、此の如きに至る。然れども所謂家無しとは、則ち其の情に非ざるなり。故に之を詰[せ]めて曰く、昔爾が去るや、誰か爾が爲に室を作る者あり。而して今是を以て我を辭するや、と。

雨無正七章。二章章十句。二章章八句。三章章六句。歐陽公曰、古之人於詩、多不命題、而篇名往往無義例。其或有命名者、則必述詩之意、如巷伯・常武之類、是也。今雨無正之名、據序所言、與詩絕異。當闕其所疑。元城劉氏曰、嘗讀韓詩、有雨無極篇。序云、雨無極正大夫刺幽王也。至其詩之文、則比毛詩篇首、多雨無其極、傷我稼穡八字。愚按、劉說似有理。然第一二章、本皆十句、今遽增之、則長短不齊、非詩之例。又此詩、實正大夫離居之後、暬御之臣所作。其曰正大夫刺幽王者、亦非是。且其爲幽王詩、亦未有所考也。
【読み】
雨無正[うぶせい]七章。二章章十句。二章章八句。三章章六句。歐陽公が曰く、古の人の詩に於る、多く題を命ぜずして、篇名往往に義例無し。其れ或は名を命[な]づくる者有りて、則ち必ず詩の意を述ぶるは、巷伯・常武の類の如き、是れなり。今雨無正の名は、序の言う所に據り、詩と絕異す。當に其の疑う所を闕くべし、と。元城の劉氏が曰く、嘗て韓詩を讀むに、雨無極の篇有り。序に云う、雨無極は正の大夫が幽王を刺[そし]る、と。其の詩の文に至りては、則ち毛詩の篇首に比するに、雨其の極まり無くして、我が稼穡を傷[そこな]うの八字多し、と。愚按ずるに、劉說理有るに似たり。然れども第[ただ]一二の章は、本皆十句、今遽に之を增せば、則ち長短齊しからず、詩の例に非ず。又此の詩は、實に正の大夫離居の後に、暬御の臣作れる所。其れ正の大夫幽王を刺ると曰うは、亦是に非ず。且つ其の幽王の詩とするも、亦未だ考う所有らざるなり。


祈父之什。十篇。六十四章。四百二十六句。


小旻之什二之五
【読み】
小旻[しょうびん]の什二の五


旻天疾威、敷于下土。謀猶回遹<音聿>、何日斯沮<上聲>。謀臧不從、不臧覆用<叶于封反>。我視謀猶、亦孔之卭<音節>○賦也。旻、幽遠之意。敷、布。猶、謀。回、邪。遹、辟。沮、止。臧、善。覆、反。卭、病也。○大夫以王惑於邪謀、不能斷以從善、而作此詩。言旻天之疾威、布于下土、使王之謀猶邪辟、無日而止。謀之善者則不從、而其不善者、反用之。故我視其謀猶、亦甚病也。
【読み】
旻[びん]天疾威、下土に敷けり。謀猶[ぼうゆう]回遹[かいいつ]<音聿>、何の日にか斯れ沮[や]<上聲>まん。謀の臧[よ]きには從わず、臧からざるは覆[かえ]って用<叶于封反>ゆ。我れ謀猶を視て、亦孔[はなは]だ之れ卭[や]<音節>めり。○賦なり。旻は、幽遠の意。敷は、布く。猶は、謀。回は、邪。遹は、辟。沮は、止む。臧は、善き。覆は、反って。卭は、病むなり。○大夫王の邪謀に惑いて、斷じて以て善に從うこと能わざるを以て、此の詩を作れり。言うこころは、旻天の疾威、下土に布いて、王の謀猶邪辟、日として止むこと無からしむ。謀の善きには則ち從わずして、其の善からざるは、反って之を用ゆ。故に我れ其の謀猶を視て、亦甚だ病めり。

○潝潝<音吸>訿訿<音紫>、亦孔之哀<叶於希反>。謀之其臧、則具是違、謀之不臧、則具是依。我視謀猶、伊于胡底<音抵。叶都黎反>○賦也。潝潝、相和也。訿訿、相詆也。具、倶。底、至也。○言小人同而不和。其慮深矣。然於謀之善者則違之。其不善者則從之。亦何能有所定乎。
【読み】
○潝潝[きゅうきゅう]<音吸>たり訿訿[しし]<音紫>たり、亦孔だ之れ哀し<叶於希反>。謀の其の臧きには、則ち具に是れ違い、謀の臧からざるには、則ち具に是れ依る。我れ謀猶を視て、伊[こ]れ于[ここ]に胡[なん]ぞ底[いた]<音抵。叶都黎反>らん。○賦なり。潝潝は、相和らぐなり。訿訿は、相詆[そし]るなり。具は、倶に。底は、至るなり。○言うこころは、小人は同じくして和らかならず。其の慮り深し。然も謀の善き者に於ては則ち之に違う。其の不善なる者には則ち之に從う。亦何ぞ能く定まる所有らんや。

○我龜旣厭、不我告猶<叶于救反>。謀夫孔多、是用不集<叶疾救反>。發言盈庭、誰敢執其咎<叶巨又反>。如匪行邁謀、是用不得于道<叶徒候反>○賦也。集、成也。○卜筮數則瀆而龜厭之。故不復告其所圖之吉凶。謀夫衆則是非相奪、而莫適所從。故所謀終亦不成。蓋發言盈庭。各是其是、無肯任其責而決之者。猶不行不邁、而坐謀所適。謀之雖審、而亦何得於道路哉。
【読み】
○我が龜旣に厭い、我に猶[はかりごと]<叶于救反>を告げず。謀夫孔だ多し、是を用[もっ]て集[な]<叶疾救反>らず。言を發して庭に盈つ、誰か敢えて其の咎<叶巨又反>を執らん。行き邁[ゆ]かずして謀るが如し、是を用て道<叶徒候反>に得ず。○賦なり。集は、成るなり。○卜筮數々すれば則ち瀆れて龜之を厭う。故に復其の圖る所の吉凶を告げず。謀夫衆ければ則ち是非相奪いて、適くとして從う所莫し。故に謀る所終に亦成らず。蓋し言を發して庭に盈つ。各々其の是を是とし、肯えて其の責に任じて之を決する者無し。猶行かず邁かずして、坐ながらにして適く所を謀るがごとし。之を謀ること審らかなりと雖も、而して亦何ぞ道路に得んや。

○哀哉爲猶。匪先民是程、匪大猶是經。維邇言是聽<叶平聲>、維邇言是爭<叶側陘反>。如彼築室于道謀。是用不潰于成。賦也。先民、古之聖賢也。程、法。猶、道。經、常。潰、遂也。○言哀哉今之爲謀、不以先民爲法、不以大道爲常、其所聽而爭者、皆淺末之言。以是相持、如將築室、而與行道之人謀之。人人得爲異論、其能有成也哉。古語曰、作舍道邊、三年不成。蓋出於此。
【読み】
○哀しいかな猶をすること。先民是れ程[のっと]るに匪ず、大猶是れ經[つね]とするに匪ず。維れ邇き言是れ聽<叶平聲>き、維れ邇き言是れ爭<叶側陘反>う。彼の室を築かんとして道に謀るが如し。是を用て成るに潰[と]げず。賦なり。先民は、古の聖賢なり。程は、法。猶は、道。經は、常。潰は、遂ぐなり。○言うこころは哀しいかな今の謀をすること、先民を以て法とせず、大道を以て常とせず、其の聽いて爭う所の者は、皆淺末の言なり。是を以て相持つこと、將に室を築かんとして、行道の人と之を謀るが如し。人人得て異論を爲し、其れ能く成ること有らんや。古語に曰く、舍を道邊に作る、三年成らず、と。蓋し此より出づ。

○國雖靡止、或聖或否<叶補美反>。民雖靡膴<音呼>、或哲或謀<叶莫徒反>、或肅或艾<音乂>。如彼泉流、無淪胥以敗<叶蒲寐反>○賦也。止、定也。聖、通明也。膴、大也、多也。艾、與乂同。治也。淪、陷。胥、相也。○言國論雖不定、然有聖者焉、有否者焉。民雖不多、然有哲者焉、有謀者焉、有肅者焉、有艾者焉。但王不用善、則雖有善者、不能自存、將如泉流之不反、而淪胥以至於敗矣。聖哲謀肅艾、卽洪範王事之德。豈作此詩者、亦傳箕子之學也與。
【読み】
○國止[さだ]まること靡しと雖も、或は聖或は否[ふ]<叶補美反>。民膴[おお]<音呼>いこと靡しと雖も、或は哲或は謀<叶莫徒反>、或は肅或は艾[がい]<音乂>。彼の泉流の如く、淪胥して以て敗<叶蒲寐反>る無けんや。○賦なり。止は、定まる。聖は、通明なり。膴[ぶ]は、大いなり、多きなり。艾は、乂と同じ。治むるなり。淪は、陷る。胥は、相なり。○言うこころは、國論定まらずと雖も、然れども聖なる者有り、否なる者有り。民多からずと雖も、然れども哲なる者有り、謀なる者有り、肅なる者有、艾なる者有り。但王善を用いざれば、則ち善者有りと雖も、自ら存すること能わず、將に泉流の反らずして、淪胥して以て敗るるに至るが如くならんとす。聖哲謀肅艾は、卽ち洪範王事の德。豈此の詩を作る者も、亦箕子の學を傳うるか。

○不敢暴虎、不敢馮<叶皮氷反>河。人知其一、莫知其他<音拖>。戰戰兢兢、如臨深淵<叶一均反>、如履薄氷。賦也。徒搏曰暴、徒涉曰馮。如馮几然也。戰戰、恐也。兢兢、戒也。如臨深淵、恐墜也。如履薄氷、恐陷也。○衆人之慮、不能及遠、暴虎馮河之患、近而易見、則知避之。喪國亡家之禍、隱於無形、則不知以爲憂也。故曰、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄氷。懼及其禍之詞也。
【読み】
○敢えて暴虎せず、敢えて馮<叶皮氷反>河せず。人其の一つを知りて、其の他<音拖>を知る莫し。戰戰兢兢として、深淵<叶一均反>に臨むが如く、薄氷を履むが如し。賦なり。徒搏[とはく]を暴と曰い、徒涉[としょう]を馮と曰う。几に馮[よ]るが如く然り。戰戰は、恐るるなり。兢兢は、戒むなり。深淵に臨むが如しとは、墜ちんことを恐るるなり。薄氷を履むが如しとは、陷らんことを恐るるなり。○衆人の慮り、遠くに及ぶこと能わず、暴虎馮河の患え、近くして見易ければ、則ち之を避くるを知る。國を喪ぼし家を亡ぼすの禍いは、無形に隱れれば、則ち以て憂えとすることを知らず。故に曰く、戰戰兢兢として、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し、と。其の禍いに及ぶを懼るるの詞なり。

小旻六章三章章八句。三章章七句。蘇氏曰、小旻・小宛・小弁・小明四詩、皆以小名篇。所以別其爲小雅也。其在小雅者、謂之小。故其在大雅者、謂之召旻・大明、獨宛・弁闕焉。意者孔子刪之矣。雖去其大、而其小者、猶謂之小、蓋卽用其舊也。
【読み】
小旻[しょうびん]六章三章章八句。三章章七句。蘇氏が曰く、小旻・小宛・小弁・小明の四詩は、皆小を以て篇に名づく。其の小雅爲るを別つ所以なり。其れ小雅に在るは、之を小と謂う。故に其の大雅に在るは、之を召旻・大明と謂い、獨り宛・弁のみ焉を闕く。意うに孔子之を刪れり。其の大を去ると雖も、而して其の小なる者、猶之を小と謂うは、蓋し卽ち其の舊を用うればなり。


<音苑>彼鳴鳩、翰飛戾天<叶鐵因反>。我心憂傷、念昔先人。明發不寐、有懷二人。興也。宛、小貌。鳴鳩、斑鳩也。翰、羽。戾、至也。明發、謂將旦而光明開發也。二人、父母也。○此大夫遭時之亂、而兄弟相戒以免禍之詩。故言、彼宛然之小鳥、亦翰飛而至于天矣。則我心之憂傷、豈能不念昔之先人哉。是以明發不寐、而有懷乎父母也。言此以爲相戒之端。
【読み】
<音苑>たる彼の鳴鳩、翰[は]うち飛んで天<叶鐵因反>に戾[いた]る。我が心憂え傷み、昔の先人を念う。明發に寐ねられず、二人を懷うこと有り。興なり。宛は、小さき貌。鳴鳩は、斑鳩なり。翰は、羽。戾は、至るなり。明發は、將に旦けんとして光明開發するを謂う。二人は、父母なり。○此れ大夫時の亂に遭いて、兄弟相戒めて以て禍いを免るるの詩なり。故に言う、彼の宛然たる小鳥、亦翰うち飛んで天に至る。則ち我が心の憂え傷むこと、豈能く昔の先人を念わざらんや。是を以て明發まで寐ねられず、而して父母を懷うこと有り、と。此を言て以て相戒むるの端とす。

○人之齊聖、飮酒溫克。彼昏不知、壹醉日富。各敬爾儀、天命不又<叶夷益反>○賦也。齊、肅也。聖、通明也。克、勝也。富、猶甚也。又、復也。○言齊聖之人、雖醉猶溫恭、自持以勝。所謂不爲酒困也。彼昏然而不知者、則一於醉而日甚矣。於是言、各敬謹爾之威儀。天命已去將不復來。不可以不恐懼也。時王以酒敗德。臣下化之。故此兄弟相戒、首以爲說。
【読み】
○人の齊聖なる、酒を飮みても溫[おだ]やかにして克てり。彼の昏くして知らざるは、醉いに壹にして日々に富[はなは]だし。各々爾の儀を敬め、天命又<叶夷益反>せず。○賦なり。齊は、肅なり。聖は、通明なり。克は、勝つなり。富は、猶甚だしきがごとし。又は、復なり。○言うこころは、齊聖の人、醉うと雖も猶溫恭にして、自ら持ちて以て勝つ。所謂酒の困[みだ]れをせず。彼の昏然として知らざる者は、則ち醉いに一にして日々に甚だし。是に於て言う、各々爾の威儀を敬み謹め。天命已に去らば將[はた]復來らず、と。以て恐懼せずんばある可からず。時に王酒を以て德を敗る。臣下之に化す。故に此の兄弟相戒めて、首めにして以て說を爲す。

○中原有菽<音叔>、庶民采<叶此禮反>之。螟<音苑><音零>有子、蜾<音果><音裸><叶蒲美反>之。敎誨爾子、式穀似<叶養里反>之。興也。中原、原中也。菽、大豆也。螟蛉、桑上小靑蟲也。似歩屈。蜾蠃、土蜂也。似蜂而小腰。取桑蟲負之、於木空中七日、而化爲其子。式、用。穀、善也。○中原有菽、則庶民采之矣。以興善道人皆可行也。螟蛉有子、則蜾蠃負之。以興不似者可敎而似也。敎誨爾子、則用善而似之可也。善也、似也、終上文兩句所興而言也。戒之以不惟獨善其身、又當敎其子使爲善也。
【読み】
○中原に菽<音叔>有れば、庶民之を采<叶此禮反>る。螟[めい]<音冥>蛉[れい]<音零>に子有れば、蜾[か]<音果>蠃[ら]<音裸>之を負<叶蒲美反>う。爾が子を敎誨し、穀[よ]きを式[もっ]て之に似<叶養里反>せよ。興なり。中原は、原中なり。菽は、大豆なり。螟蛉は、桑の上の小さき靑蟲なり。歩屈に似る。蜾蠃は、土蜂なり。蜂に似て小さき腰なり。桑蟲を取りて之を負い、木空の中に於て七日にして、化して其の子と爲る。式は、用[もっ]て。穀は、善きなり。○中原に菽有れば、則ち庶民之を采る。以て善道人皆行う可きことを興す。螟蛉に子有れば、則ち蜾蠃之を負う。以て似ざる者も敎えて似る可きことを興す。爾が子を敎誨すれば、則ち善きを用て之に似せて可なり。善きや、似るや、上の文の兩句の興す所を終えて言う。之を戒むるに惟獨り其の身を善くせずして、又當に其の子を敎えて善を爲さしめんことを以てす。

○題<音弟>彼脊令<音零>、載飛載鳴。我日斯邁、而月斯征。夙興夜寐、毋忝爾所生<叶桑經反>○興也。題、視也。脊令飛則鳴、行則搖。載、則。而、汝。忝、辱也。○視彼脊令、則且飛而且鳴矣。我旣日斯邁、則汝亦月斯征矣。言當各務努力。不可暇逸取禍。恐不及相救恤也。夙興夜寐、各求無辱於父母而已。
【読み】
○彼の脊令<音零>を題[み]<音弟>れば、載[すなわ]ち飛び載ち鳴く。我れ日に斯れ邁く、而[なんじ]も月に斯れ征け。夙に興き夜に寐ね、爾が所生<叶桑經反>を忝[はずかし]むる毋かれ。○興なり。題は、視るなり。脊令飛べば則ち鳴き、行けば則ち搖[うご]く。載は、則ち。而は、汝。忝は、辱なり。○彼の脊令を視れば、則ち且つ飛んで且つ鳴く。我れ旣に日に斯れ邁けば、則ち汝も亦月に斯れ征かん。言うこころは、當に各々務めて努力すべし。暇逸して禍いを取る可からず。恐らくは相救い恤れむに及ばざらん。夙に興き夜に寐ね、各々父母を辱むること無からんことを求むるのみ。

○交交桑扈<音戶>、率場啄粟。哀我塡<音顚>寡、宜岸宜獄。握粟出卜、自何能穀。興也。交交、往來之貌。桑扈、竊脂也。俗呼靑觜。肉食不食粟。塡、與瘨同。病也。岸、亦獄也。韓詩作犴。郷亭之繫曰犴、朝廷曰獄。○扈不食粟、今則率場啄粟也。病寡不宜岸獄、今則宜岸宜獄矣。言王不恤鰥寡、喜陷之於刑辟也。然不可不求所以自善之道。故握持其粟、出而卜之曰、何自而能善乎。言握粟、以見其貧窶之甚。
【読み】
○交交たる桑扈[そうこ]<音戶>、場[にわ]に率いて粟を啄む。哀しいかな我が塡[てん]<音顚>寡、岸に宜しく獄に宜し。粟を握[と]りて出でて卜う、何に自ってか能く穀からん、と。興なり。交交は、往來する貌。桑扈は、竊脂[せっし]なり。俗に靑觜[せいし]と呼ぶ。肉食して粟を食わず。塡は、瘨[てん]と同じ。病なり。岸も、亦獄なり。韓詩に犴[かん]に作る。郷亭の繫を犴と曰い、朝廷を獄と曰う。○扈は粟を食わずして、今則ち場に率いて粟を啄む。病寡は岸獄に宜しからずして、今則ち岸に宜しく獄に宜し。言うこころは、王鰥寡を恤れまずして、喜んで之を刑辟に陷るる。然れども自ら善とする所以の道を求めずんばある可からず。故に其の粟を握り持ちて、出でて之を卜いて曰く、何れ自りして能く善けんや、と。粟を握ると言うは、以て其の貧窶[ひんく]の甚だしきを見すなり。

○溫溫恭人、如集于木。惴惴<音贅>小心、如臨于谷。戰戰兢兢、如履薄氷。賦也。溫溫、和柔貌。如集于木、恐隊也。如臨于谷、恐隕也。
【読み】
○溫溫たる恭人、木に集[い]るが如し。惴惴[ずいずい]<音贅>たる小心、谷に臨むが如し。戰戰兢兢として、薄氷を履むが如し。賦なり。溫溫は、和柔の貌。木に集るが如しとは、隊[お]ちんことを恐るるなり。谷に臨むが如しとは、隕ちんことを恐るるなり。

小宛六章章六句。此詩之詞、最爲明白。而意極懇至。說者必欲爲刺王之言。故其說穿鑿破碎、無理尤甚。今悉改定。讀者詳之。
【読み】
小宛[しょうえん]六章章六句。此の詩の詞は、最も明白爲り。而れども意は極めて懇ろに至る。說く者必ず王を刺[そし]るの言と爲さんと欲す。故に其の說穿鑿破碎にして、理無きこと尤も甚だし。今悉く改め定む。讀者之を詳らかにせよ。


<音盤>彼鸒<音豫><叶先齎反>、歸飛提提<音匙>。民莫不穀、我獨于罹。何辜于天、我罪伊何。心之憂矣、云如之何。興也。弁、飛拊翼貌。鸒、雅烏也。小而多羣。腹下白。江東呼爲鴨烏。斯、語詞也。提提、羣飛安閒之貌。穀、善。罹、憂也。○舊說、幽王太子宜臼被廢而作此詩。言弁彼鸒斯、則歸飛提提矣。民莫不善、而我獨于憂、則鸒斯之不如也。何辜于天、我罪伊何者、怨而慕也。舜號泣于旻天曰、父母之不我愛、於我何哉。蓋如此矣。心之憂矣、云如之何、則知其無可奈何、而安之之詞也。
【読み】
弁[はん]<音盤>たる彼の鸒[からす]<音豫>、歸り飛ぶこと提提[しし]<音匙>たり。民穀[よ]からざる莫し、我れ獨り于に罹[うれ]う。何ぞ天に辜[つみ]ある、我が罪伊[こ]れ何ぞ。心の憂えあり、云[ここ]に之を如何せん。興なり。弁は、飛んで翼を拊[う]つ貌。鸒は、雅烏なり。小さくして羣れ多し。腹の下白し。江東呼んで鴨烏とす。斯は、語の詞なり。提提は、羣れ飛んで安閒するの貌。穀は、善き。罹は、憂えなり。○舊說に、幽王の太子宜臼廢せられて此の詩を作る、と。言うこころは、弁たる彼の鸒、則ち歸り飛ぶこと提提たり。民善からざる莫くして、我れ獨り于に憂えば、則ち鸒にだも如かざるなり。何ぞ天に辜ある、我が罪伊れ何ぞとは、怨んで慕うなり。舜旻天に號泣して曰く、父母の我を愛せざる、我に於て何ぞや、と。蓋し此の如し。心の憂えあり、云に之を如何とは、則ち其の奈何ともす可きこと無きを知りて、之を安んずるの詞なり。

○踧踧<音笛>周道<叶徒苟反>、鞠<音菊>爲茂草<叶北苟反>。我心憂傷、惄<音溺>焉如擣<音搗。叶丁口反>。假寐永歎、維憂用老<叶魯口反>。心之憂矣、疢<音趂>如疾首。興也。踧踧、平易也。周道、大道也。鞠、窮。惄、思。擣、舂也。不脫衣冠而寐、曰假寐。疢、猶疾也。○踧踧周道、則將鞠爲茂草矣。我心憂傷、則惄焉如擣矣。精神憒眊、至於假寐之中、而不忘永嘆。憂之之深。是以未老而老也。疢如疾首、則又憂之甚矣。
【読み】
○踧踧[てきてき]<音笛>たる周道<叶徒苟反>、鞠[きわ]<音菊>まりて茂れる草<叶北苟反>と爲る。我が心憂え傷み、惄[おも]<音溺>うこと擣[つ]<音搗。叶丁口反>くが如し。假寐して永く歎き、維れ憂えて用[もっ]て老<叶魯口反>う。心の憂え、疢[や]<音趂>ましきこと首を疾むが如し。興なり。踧踧は、平らぎ易きなり。周道は、大道なり。鞠は、窮まる。惄は、思う。擣は、舂くなり。衣冠を脫がずして寐るを、假寐と曰う。疢は、猶疾のごとし。○踧踧たる周道は、則ち將[はた]鞠まりて茂れる草と爲る。我が心憂え傷み、則ち惄うこと擣くが如し。精神憒眊[かいもう]して、假寐の中に至りても、永く嘆くことを忘れず。之を憂うること深し。是を以て未だ老いずして老うなり。疢ましきこと首を疾むが如くなれば、則ち又憂うることの甚だしきなり。

○維桑與梓<叶奬里反>、必恭敬止。靡瞻匪父、靡依匪母<叶滿彼反>。不屬<音燭>于毛、不離于裏。天之生我、我辰安在<叶此里反>○興也。桑・梓、二木。古者五畞之宅、樹之墻下、以遺子孫、給蠶食、具器用者也。瞻者、尊而仰之。依者、親而倚之。屬、連也。毛、膚體之餘氣末屬也。離、麗也。裏、心腹也。辰、猶時也。○言桑梓父母所植、尙且必加恭敬。况父母至尊致親、宜莫不瞻依也。然父母之不我愛、豈我不屬于父母之毛乎。豈我不離于父母之裏乎。無所歸咎、則推之於天曰、豈我生時不善哉。何不祥至是也。
【読み】
○維れ桑と梓<叶奬里反>とても、必ず恭敬す。瞻るとして父に匪ざるは靡し、依るとして母<叶滿彼反>に匪ざるは靡し。毛に屬[つら]<音燭>ならざらんや、裏に離[つ]かざらんや。天の我を生める、我が辰[とき]安くにか在<叶此里反>る。○興なり。桑・梓は、二つの木。古は五畞の宅、之を墻下に樹えて、以て子孫に遺し、蠶食に給し、器用に具うる者なり。瞻は、尊んで之を仰ぐ。依は、親しんで之に倚る。屬は、連なるなり。毛は、膚體の餘氣にて末屬なり。離は、麗[つ]くなり。裏は、心腹なり。辰は、猶時のごとし。○言うこころは、桑梓は父母の植える所にて、尙び且つ必ず恭敬を加う。况んや父母は至尊致親、宜しく瞻依せざること莫かるべし。然れども父母の我を愛せざる、豈我れ父母の毛に屬ならざらんや。豈我れ父母の裏に離かざらんや。咎を歸する所無くば、則ち之を天に推して曰く、豈我れ生まれし時不善ならんや。何ぞ不祥なること是に至れる、と。

○菀<音鬱>彼柳斯、鳴蜩<音條>嘒嘒。有漼<千罪反>者淵、萑<音丸>葦淠淠<音譬>。譬彼舟流、不知所屆<音戒>。心之憂矣、不遑假寐。興也。菀、茂盛貌。蜩、蝉也。嘒嘒、聲也。漼、深貌。淠淠、衆也。屆、至。遑、暇也。○菀彼楊斯、則鳴蜩嘒嘒矣。有漼者淵、萑葦淠淠矣。今我獨見棄逐、如舟之流于水中、不知其何所至乎。是以憂之之深、昔猶假寐而今不暇也。
【読み】
○菀[うつ]<音鬱>たる彼の柳、鳴く蜩<音條>嘒嘒[けいけい]たり。漼[さい]<千罪反>たる淵有り、萑[かん]<音丸>葦淠淠[へいへい]<音譬>たり。彼の舟の流れて、屆[いた]<音戒>る所知らざるに譬う。心の憂えあり、假寐に遑[いとま]あらず。興なり。菀は、茂ること盛んなる貌。蜩は、蝉なり。嘒嘒は、聲なり。漼は、深き貌。淠淠は、衆きなり。屆は、至る。遑は、暇なり。○菀たる彼の楊あれば、則ち鳴く蜩嘒嘒たり。漼たる淵有れば、萑葦淠淠たり。今我れ獨り棄てられ逐われ、舟の水中に流れて、其の何れの所に至ることを知らざるが如し。是を以て之を憂うるの深き、昔猶假寐して今暇あらず。

○鹿斯之奔、維足伎伎<音祁>。雉之朝雊<音姤>、尙求其雌<叶千西反>。譬彼壞<音瘣>木、疾用無枝。心之憂矣、寧莫之知。興也。伎伎、舒貌。宜疾而舒、留其羣也。雊、雉鳴也。壞、傷病也。寧、猶何也。○鹿斯之奔、則足伎伎然。雉之朝雊、亦知求其妃匹。今我獨見棄逐、如傷病之木、憔悴而無枝。是以憂之、而人莫之知也。
【読み】
○鹿の之の奔るも、維れ足伎伎[きき]<音祁>たり。雉の朝に雊[な]<音姤>くも、尙其の雌<叶千西反>を求む。彼の壞[やぶ]<音瘣>れたる木、疾んで用て枝無きに譬う。心の憂え、寧[なん]ぞ之を知る莫き。興なり。伎伎は、舒やかなる貌。宜しく疾くすべくして舒やかなるは、其の羣を留むるなり。雊[こう]は、雉の鳴くなり。壞は、傷み病むなり。寧は、猶何ぞのごとし。○鹿の之の奔るも、則ち足伎伎然たり。雉の朝に雊くも、亦其の妃匹を求むるを知る。今我れ獨り棄てられ逐われ、傷み病める木、憔悴して枝無きが如し。是を以て之を憂えて、人之を知る莫し。

○相<去聲>彼投兔、尙或先<去聲。叶蘇晉反>之。行有死人、尙或墐<音覲>之。君子秉心、維其忍之。心之憂矣、涕旣隕<音蘊>之。興也。相、視。投、奔。行、道。墐、埋。秉、執。隕、墜也。○相彼被逐而投人之兔、尙或有哀其窮、而先脫之者。道有死人、尙或有哀其暴露、而埋藏之者。蓋皆有不忍之心焉。今王信讒棄逐其子。曾視投兔死人之不如、則其秉心亦忍矣。是以心憂而涕隕也。
【読み】
○彼の投[はし]れる兔を相[み]<去聲>れば、尙之に先<去聲。叶蘇晉反>だつこと或り。行[みち]に死せる人有れば、尙之を墐[うず]<音覲>むこと或り。君子心を秉ること、維れ其れ之を忍ぶ。心の憂えあり、涕旣に之に隕<音蘊>つ。興なり。相は、視る。投は、奔る。行は、道。墐[きん]は、埋む。秉は、執る。隕は、墜つなり。○彼の逐われて人に投ずるの兔を相るに、尙或は其の窮まれるを哀れみて、先ず之を脫する者有り。道に死せる人有りて、尙或は其の暴露を哀れみて、之を埋藏する者有り。蓋し皆忍びざるの心有り。今王讒を信じて其の子を棄逐す。曾て投れる兔死せる人を視るの如からざれば、則ち其の心を秉ること亦忍べり。是を以て心憂えて涕隕つ。

○君子信讒、如或醻<叶市救反>之。君子不惠、不舒究之。伐木掎<音己。叶居何反>矣、析薪扡<音侈。叶湯何反>矣。舍<音捨>彼有罪、予之佗<音唾。叶湯何反>矣。賦而興也。醻、報。惠、愛。舒、緩。究、察也。掎、倚也。以物倚其巓也。扡、隨其理也。侘、加也。○言王惟讒是聽、如受醻爵得卽飮之。曾不加惠愛舒緩、而究察之。夫苟舒緩而究察之、則讒者之情得矣。伐木者尙倚其巓、析薪者尙隨其理、皆不妄挫折之。今乃捨彼有罪之譖人、而加我以非其罪、曾伐木析薪之不若也。此則興也。
【読み】
○君子讒を信じて、之に醻[むく]<叶市救反>ゆること或るが如し。君子惠[いつく]しまず、之を舒[ゆる]く究めず。木を伐るには掎[き]<音己。叶居何反>す、薪を析くには扡[ち]<音侈。叶湯何反>す。彼の罪有るを舍[す]<音捨>て、予に之れ佗[くわ]<音唾。叶湯何反>う。賦にして興なり。醻[しゅう]は、報う。惠は、愛しむ。舒は、緩き。究は、察するなり。掎は、倚るなり。物を以て其の巓に倚するなり。扡は、其の理に隨うなり。侘は、加うなり。○言うこころは、王惟讒のみ是を聽くこと、醻爵を受けて得て卽ち之を飮むが如し。曾て惠愛舒緩して、之を究察することを加えず。夫れ苟も舒緩にして之を究察すれば、則ち讒者の情得なん。木を伐る者も尙其の巓に倚り、薪を析く者も尙其の理に隨い、皆妄りに之を挫折せず。今乃ち彼の有罪の譖人を捨て、我に加うるに其の罪に非ざるを以てするは、曾て木を伐り薪を析くにも之れ若かざるなり。此れ則ち興なり。

○莫高匪山<叶所旃反>、莫浚<音濬>匪泉。君子無易<去聲>由言、耳屬<音燭>于垣。無逝我梁、無發我笱。我躬不閱、遑恤我後。賦而比也。山極高矣。而或陟其巓。泉極深矣。而或入其底。故君子不可易於其言。恐耳屬于垣者、有所觀望左右、而生讒譖也。王於是卒以褒姒爲后、伯服爲太子。故告之曰、毋逝我梁、毋發我笱、我躬不閱、遑恤我後。蓋比詞也。東萊呂氏曰、唐德宗將廢太子而立舒王。李泌諫之、且曰、願陛下還宮。勿露此意。左右聞之、將樹功於舒王、太子危矣。此正君子無易由言、耳屬于垣之謂也。小弁之作、太子旣廢矣、而猶云爾者、蓋推本亂之所由生、言語以爲階也。
【読み】
○高しとして山<叶所旃反>に匪ざるは莫く、浚[ふか]<音濬>しとして泉に匪ざるは莫し。君子易[たやす]<去聲>く言を由[もち]ゆること無かれ、耳垣に屬[つ]<音燭>く。我が梁[やな]に逝くこと無かれ、我が笱[うえ]を發[あば]くこと無かれ。我が躬すら閱[い]れられず、我が後を恤うるに遑[いとま]あらんや。賦にして比なり。山は極めて高し。而れども或は其の巓に陟[のぼ]る。泉は極めて深し。而れども或は其の底に入る。故に君子は其の言を易くす可からず。耳垣に屬く者、左右を觀望する所有りて、讒譖を生ぜんことを恐るるなり。王是に於て卒に褒姒を以て后とし、伯服を太子とす。故に之に告げて曰く、我が梁に逝くこと毋かれ、我が笱を發くこと毋かれ、我が躬すら閱れられず、我が後を恤うるに遑あらんや、と。蓋し比の詞なり。東萊の呂氏が曰く、唐の德宗將に太子を廢して舒王を立てんとす。李泌之を諫めて、且つ曰く、願わくは陛下宮に還らんことを。此の意を露すこと勿かれ。左右之を聞かば、將に功を舒王に樹てんとして、太子危し、と。此れ正に君子易く言を由ゆること無かれ、耳垣に屬くの謂なり。小弁の作、太子旣に廢されて、猶爾か云う者は、蓋し亂の由って生ずる所を推し本づくるに、言語以て階と爲せばなり。

小弁八章章八句。幽王娶於申、生太子宜臼。後得褒姒而惑之。生子伯服、信其讒、黜申后逐宜臼。而宜臼作此以自怨也。序以爲、太子之傅、述太子之情、以爲是詩。不知其何所據也。傳曰、高子曰、小弁小人之詩也。孟子曰、何以言之。曰怨。曰固哉、高叟之爲詩也。有人於此。越人關弓而射之、則己談笑而道之。無他、疎之也。其兄關弓而射之、則己埀涕泣而道之。無他、戚之也。小弁之怨、親親也。親親、仁也。固矣夫、高叟之爲詩也。曰、凱風何以不怨。曰、凱風、親之過小者也。小弁、親之過大者也。親之過大而不怨、是愈疎也。親之過小而怨、是不可磯也。愈疎、不孝也。不可磯、亦不孝也。孔子曰、舜其至孝矣。五十而慕。
【読み】
小弁[しょうはん]八章章八句。幽王申に娶って、太子宜臼を生めり。後に褒姒を得て之に惑う。子伯服を生んで、其の讒を信じ、申后を黜[しりぞ]け宜臼を逐う。而して宜臼此を作りて以て自ら怨む。序に以爲えらく、太子の傅、太子の情を述べて、以て是の詩を爲る、と。知らず、其れ何れの據る所かを。傳に曰く、高子曰く、小弁は小人の詩なり、と。孟子曰く、何を以てか之を言う、と。曰く怨みたり、と。曰く固[いや]しいかな、高叟の詩を爲[おさ]むること。此に人有らん。越人弓を關[ひ]いて之を射ば、則ち己談笑して之に道わん。他無し、之を疎んずればなり。其の兄弓を關いて之を射ば、則ち己涕を埀れて泣いて之に道わん。他無し、之を戚[した]しんずればなり。小弁の怨みは、親を親しんでなり。親を親しむは、仁なり。固しいかな、高叟が詩を爲むること、と。曰く、凱風は何を以てか怨みざる、と。曰く、凱風は、親の過ち小しきなる者なり。小弁は、親の過ち大いなる者なり。親の過ち大いにして怨みざるは、是れ愈々疎んずるなり。親の過ち小しきにして怨むは、是れ磯[き]す可からざるなり。愈々疎んずるは、不孝なり。磯す可からざるも、亦不孝なり。孔子曰く、舜は其れ至孝。五十にして慕えり、と。


悠悠昊天、曰父母且<音疽>。無罪無辜、亂如此幠<音呼>。昊天已威<叶紆胃反>、予愼無罪<叶音悴>。昊天泰幠、予愼無辜。賦也。悠悠、遠大之貌。且、語詞。幠、大也。已・泰、皆甚也。愼、審也。○大夫傷於讒無所控告、而訴之於天曰、悠悠昊天、爲人之父母。胡爲使無罪之人、遭亂如此其大也。昊天之威已甚矣。我審無罪也。昊天之威甚大矣。我審無辜也。此自訴而求免之詞也。
【読み】
悠悠たる昊天[こうてん]、曰く父母、と。罪無く辜[つみ]無きも、亂此の如く幠[おお]<音呼>いなり。昊天已[はなは]だ威[おそ]<叶紆胃反>るべし、予れ愼[つまび]らかにするに罪<叶音悴>無し。昊天泰[はなは]だ幠いなり、予れ愼らかにするに辜無し。賦なり。悠悠は、遠大なる貌。且は、語の詞。幠は、大いなり。已・泰は、皆甚だなり。愼は、審らかにするなり。○大夫讒に傷み控告する所無くして、之を天に訴えて曰く、悠悠たる昊天は、人の父母爲り。胡爲れぞ罪無き人をして、亂に遭わしむこと此の如く其れ大いならん。昊天の威已に甚だし。我れ審らかにするに罪無きなり。昊天の威甚だ大いなり。我れ審らかにするに辜無きなり、と。此れ自ら訴えて免れんことを求むるの詞なり。

○亂之初生、僭<音譖>始旣涵<音含>。亂之又生、君子信讒。君子如怒<叶奴五反>、亂庶遄<音椽><上聲>。君子如祉<音恥>、亂庶遄已。賦也。僭始、不信之端也。涵、容受也。君子指王也。遄、疾。沮、止也。祉、猶喜也。○言亂之所以生者、由讒人以不信之言始入、而王涵容不察其眞僞也。亂之又生者、則旣信其讒言而用之矣。君子見讒人之言、若怒而責之、則亂庶幾遄沮矣。見賢者之言、若喜而納之、則亂庶幾遄已矣。今涵容不斷、讒信不分。是以讒者益勝、而君子益病也。蘇氏曰、小人爲讒於其君、必以漸入之。其始也進而嘗之。君容之而不拒、知言之無忌。於是復進。旣而君信之。然後亂成。
【読み】
○亂の初めて生[な]れるは、僭[しん]<音譖>始めに旣に涵[い]<音含>るればなり。亂の又生れるは、君子讒を信ずればなり。君子如し怒<叶奴五反>らば、亂庶わくは遄[と]<音椽>く沮[や]<上聲>まん。君子如し祉[よ]<音恥>みんぜば、亂庶わくは遄く已まん。賦なり。僭の始めは、不信の端なり。涵は、容れ受くなり。君子は王を指すなり。遄は、疾き。沮は、止むなり。祉は、猶喜きがごとし。○言うこころは、亂の生ずる所以は、讒人不信の言を以て始めに入りて、王涵容して其の眞僞を察せざるに由る。亂の又生ずるは、則ち旣に其の讒言を信じて之を用いればなり。君子讒人の言を見て、若し怒りて之を責めば、則ち亂庶幾わくは遄[すみ]やかに沮まん。賢者の言を見て、若し喜んで之を納るれば、則ち亂庶幾わくは遄やかに已まん。今涵容して斷ぜず、讒信分かたず。是を以て讒者益々勝ちて、君子益々病む。蘇氏が曰く、小人讒を其の君に爲すこと、必ず漸を以て之を入るる。其の始めや進めて之を嘗む。君之を容れて拒がず、言の忌む無きを知る。是に於て復進む。旣にして君之を信ず。然して後に亂成る、と。

○君子屢盟<叶謨郎反>、亂是用長<上聲。叶直良反>。君子信盜、亂是用暴。盜言孔甘、亂是用餤<音談>。匪其止共<音恭>、維王之卭<音筇>○賦也。屢、數也。盟、邦國有疑、則殺牲歃血、告神以相要束也。盜、指讒人也。餤、進。卭、病也。○言君子不能已亂、而屢盟以相要、則亂是用長矣。君子不能堲讒、而信盜以爲虐、則亂是用暴矣。讒言之美、如食之甘。使人嗜之而不厭、則亂是用進矣。然此讒人不能供其職事、徒以爲王之病而已。夫良藥苦口、而利於病。忠言逆耳、而利於行。維其言之甘而悅焉、則其國豈不殆哉。
【読み】
○君子屢々盟<叶謨郎反>う、亂是を用[もっ]て長[ま]<上聲。叶直良反>せり。君子盜を信ず、亂是を用て暴[はげ]し。盜の言孔[はなは]だ甘し、亂是を用て餤[すす]<音談>めり。其の共<音恭>するに止まるに匪ずして、維れ王の卭[やまい]<音筇>せり。○賦なり。屢は、數々なり。盟とは、邦國疑い有らば、則ち牲を殺して血を歃[すす]り、神に告げて以て相要束するなり。盜は、讒人を指すなり。餤は、進む。卭は、病なり。○言うこころは、君子亂を已むこと能わずして、屢々盟いて以て相要[な]せば、則ち亂是を用て長す。君子讒を堲[にく]むこと能わずして、盜を信じて以て虐を爲せば、則ち亂是を用て暴し。讒言の美は、食の甘きが如し。人をして之を嗜んで厭わざれば、則ち亂是を用て進む。然れども此の讒人其の職事を供すること能わず、徒に以て王の病を爲すのみ。夫れ良藥は口に苦くして、病に利あり。忠言は耳に逆いて、行に利あり。維れ其の言の甘くして悅べば、則ち其の國豈殆[あやう]からざらんや。

○奕奕寢廟、君子作之。秩秩大猷、聖人莫之。他人有心、予忖度之。躍躍<音笛><音殘>兔、遇犬獲<叶黃郭反>之。興而比也。奕奕、大也。秩秩、序也。猷、道。莫、定也。躍躍、跳疾貌。毚、狡也。○奕奕寢廟、則君子作之。秩秩大猷、則聖人莫之。以興他人有心、則予得而忖度之。而又以躍躍毚兔、遇犬獲之比焉。反覆興比、以見讒人之心、我皆得之、不能隱其情也。
【読み】
○奕奕[えきえき]たる寢廟、君子之を作れり。秩秩たる大猷[ゆう]、聖人之を莫[さだ]めり。他人心有り、予れ之を忖[はか]り度る。躍躍[てきてき]<音笛>たる毚[ざん]<音殘>兔、犬に遇いて之に獲<叶黃郭反>らる。興にして比なり。奕奕は、大いなり。秩秩は、序なり。猷は、道。莫は、定むなり。躍躍は、跳疾の貌。毚は、狡いなり。○奕奕たる寢廟は、則ち君子之を作る。秩秩たる大猷は、則ち聖人之を莫む。以て他人心有らば、則ち予れ得て之を忖り度るに興す。而して又躍躍たる毚兔、犬に遇いて之に獲らるを以て比す。反覆して興比し、以て讒人の心、我れ皆之を得て、其の情を隱すこと能わざるを見す。

○荏<音>染柔木、君子樹<叶上主反>之。往來行言、心焉數之。蛇蛇<音移>碩言、出自口<叶孔五反>矣。巧言如簧、顏之厚<叶胡五反>矣。興也。荏染、柔貌。柔木、桐梓之屬、可用者也。行言、行道之言也。數、辨也。蛇蛇、安舒貌。碩、大也。謂善言也。顏厚者、頑不知恥也。○荏染柔木、則君子樹之矣。往來行言、則心能辨之矣。若善言出於口者宜也。巧言如簧、則豈可出於口哉。言之徒可羞愧、而彼顏之厚、不知以爲恥也。孟子曰、爲機變之巧者、無所用恥焉。其斯人之謂與。
【読み】
○荏[じん]<音>染[せん]たる柔木、君子之を樹<叶上主反>えたり。往來する行言、心之を數[わきま]う。蛇蛇[いい]<音移>たる碩言、口<叶孔五反>より出づ。巧言簧の如く、顏の厚<叶胡五反>きなり。興なり。荏染は、柔らかき貌。柔木は、桐梓の屬、用う可き者なり。行言は、行道の言なり。數は、辨うなり。蛇蛇は、安舒なる貌。碩は、大いなり。善言を謂うなり。顏の厚きは、頑にして恥を知らざるなり。○荏染たる柔木は、則ち君子之を樹う。往來する行言は、則ち心能く之を辨う。善言口より出づる者の若きは宜し。巧言簧の如くなれば、則ち豈口より出でる可けんや。言の徒なる羞愧す可くして、彼の顏の厚き、以て恥とするを知らざるなり。孟子曰く、機變の巧をする者は、恥を用うる所無し、と。其れ斯の人の謂か。

○彼何人斯、居河之麋<音眉>。無拳<音權>無勇、職爲亂階<叶居奚反>。旣微且尰<市勇反>、爾勇伊何。爲猶將多、爾居徒幾<音紀>何。賦也。何人、斥讒人也。此必有所指矣。賤而惡之。故爲不知其姓名、而曰何人也。斯、語辭也。水草交、謂之麋。拳、力。階、梯也。骭瘍爲微。腫足爲尰。猶、謀。將、大也。○言此讒人居下濕之地。雖無拳勇可以爲亂、而讒口交鬭、專爲亂之階梯。又有微尰之疾、亦何能勇哉。而爲讒謀則大且多如此。是必有助之者矣。然其所與居之徒衆幾何人哉。言亦不能甚多也。
【読み】
○彼何人ぞ、河の麋[みぎわ]<音眉>に居る。拳[ちから]<音權>無く勇無けれども、職[もっぱ]ら亂階<叶居奚反>を爲す。旣に微し且つ尰[しょう]<市勇反>す、爾が勇伊[こ]れ何ぞ。猶[はかりごと]をすること將[おお]いに多し、爾が居る徒幾<音紀>何[いくばく]かあらん。賦なり。何人とは、讒人を斥[さ]すなり。此れ必ず指す所有り。賤しめて之を惡む。故に其の姓名を知らずと爲して、何人と曰うなり。斯は、語の辭なり。水草の交わる、之を麋[び]と謂う。拳は、力。階は、梯なり。骭[かん]の瘍を微とす。腫れたる足を尰とす。猶は、謀。將は、大いなり。○言うこころは、此の讒人下濕の地に居る。拳勇無しと雖も以て亂を爲す可くして、讒口交々鬭いて、專ら亂の階梯を爲せり。又微尰の疾有り、亦何ぞ能く勇ならんや。而して讒謀を爲せば則ち大いに且つ多きこと此の如し。是れ必ず之を助くる者有らん。然れども其の與に居る所の徒衆幾何人ぞや。言うこころは、亦甚だ多きこと能わざるなり。

巧言六章章八句。以五章巧言二字名篇。
【読み】
巧言[こうげん]六章章八句。五章の巧言の二字を以て篇に名づく。


彼何人斯、其心孔艱<叶居銀反>。胡逝我梁、不入我門<叶眉貧反>。伊誰云從、維暴之云。賦也。何人、亦若不知其姓名也。孔、甚。艱、險也。我、舊說以爲、蘇公也。暴、暴公也。皆畿内諸侯也。○舊說暴公爲卿士、而譖蘇公。故蘇公作詩以絕之。然不欲直斥暴公。故但指其從行者而言。彼何人者、其心甚險。胡爲往我之梁、而不入我之門乎。旣而問其所從則暴公也。夫以從暴公而不入我門、則暴公譖己也明矣。但舊說於詩無明文可考。未敢信其必然耳。
【読み】
彼何人ぞ、其の心孔[はなは]だ艱[けわ]<叶居銀反>し。胡ぞ我が梁[やな]に逝いて、我が門<叶眉貧反>に入らざる。伊[こ]れ誰か云[ここ]に從える、維れ暴と云う。賦なり。何人は、亦其の姓名を知らざるが若し。孔は、甚だ。艱は、險しきなり。我は、舊說に以爲えらく、蘇公、と。暴は、暴公なり。皆畿内の諸侯なり。○舊說に暴公卿士と爲りて、蘇公を譖る。故に蘇公詩を作りて以て之を絕つ。然れども直に暴公を斥[さ]すを欲せず。故に但其の行に從う者を指して言う。彼何人ぞとは、其の心甚だ險なればなり。胡爲れぞ我が梁に往いて、我が門に入らざるや。旣にして其の從う所を問えば則ち暴公なり。夫れ以て暴公に從いて我が門に入らざれば、則ち暴公の己を譖ること明らかなり。但舊說は詩に於て明文の考う可き無し。未だ敢えて其の必ず然ることを信ぜざるのみ。

○二人從行、誰爲此禍。胡逝我梁、不入唁我。始者不如、今云不我可。賦也。二人、暴公與其徒也。唁、弔失位也。○言二人相從而行。不知誰譖己而禍之乎。旣使我得罪矣。而其逝我梁也、不入而唁我。汝始者與我親厚之時、豈嘗如今不以我爲可乎。
【読み】
○二人從い行く、誰か此の禍いを爲せる。胡ぞ我が梁に逝いて、入りて我を唁[とぶら]わざる。始めは、今我を可ならずと云うが如くならざりき。賦なり。二人は、暴公と其の徒なり。唁[げん]は、位を失うを弔うなり。○言うこころは、二人相從いて行く。誰か己を譖りて之に禍いするかを知らざるや。旣に我をして罪を得せしむ。而して其れ我が梁に逝いて、入りて我を唁わず。汝始め我と親厚するの時、豈嘗て今我を以て可とせざるが如けんや。

○彼何人斯、胡逝我陳。我聞其聲、不見其身。不愧于人、不畏于天<叶鐵因反>○賦也。陳、堂塗也。堂下至門之徑也。○在我之陳、則又近矣。聞其聲而不見其身、言其蹤跡之詭秘也。不愧于人、則以人爲可欺也。天不可欺。女獨不畏于天乎。奈何其譖我也。
【読み】
○彼何人ぞ、胡ぞ我が陳[みち]に逝く。我れ其の聲を聞けども、其の身を見ず。人を愧じずとも、天<叶鐵因反>を畏れざらんや。○賦なり。陳は、堂の塗[みち]なり。堂下より門に至るの徑なり。○我が陳に在れば、則ち又近し。其の聲を聞いて其の身を見ずとは、其の蹤跡[しょうせき]の詭秘なるを言うなり。人に愧じざれば、則ち人を以て欺く可しとす。天は欺く可からず。女獨り天を畏れざらんや。奈何ぞ其れ我を譖れる。

○彼何人斯、其爲飄風<叶孚愔反>。胡不自北、胡不自南<叶尼心反>。胡逝我梁、祇<音支><音絞>我心。賦也。飄風、暴風也。攪、擾亂也。○言其往來之疾、若飄風然。自北自南、則與我不相値也。今則逝我之梁、則適所以攪亂我心而已。
【読み】
○彼何人ぞ、其れ飄風<叶孚愔反>爲る。胡ぞ北よりせず、胡ぞ南<叶尼心反>よりせず。胡ぞ我が梁に逝いて、祇[まさ]<音支>に我が心を攪[みだ]<音絞>れる。賦なり。飄風は、暴風なり。攪は、擾亂なり。○言うこころは、其の往來の疾きこと、飄風の若く然り。北よりし南よりすれば、則ち我と相値[あ]わず。今則ち我が梁に逝くは、則ち適に我が心を攪亂する所以のみ。

○爾之安行、亦不遑舍<叶商居反>。爾之亟<音棘>行、遑脂爾車。壹者之來、云何其盱<音吁>○賦也。安、徐。遑、暇。舍、息。亟、疾。盱、望也。字林云、盱、張目也。易曰、盱豫悔。三都賦云、盱衡而誥。是也。○言爾平時徐行猶不暇息。而況亟行、則何暇脂其車哉。今脂其車、則非亟也。乃託以亟行、而不入見我、則非其情矣。何不一來見我、如何使我望汝之切乎。
【読み】
○爾が安[しず]かに行くも、亦舍[いこ]<叶商居反>うに遑[いとま]あらず。爾が亟[すみ]<音棘>やかに行く、爾が車に脂さすに遑あらんや。壹たびは之れ來れ、云何[いかん]ぞ其れ盱[のぞ]<音吁>ましむる。○賦なり。安は、徐[しず]か。遑は、暇。舍は、息う。亟は、疾く。盱[く]は、望むなり。字林に云う、盱は、目を張る、と。易に曰く、盱豫悔いあり、と。三都の賦に云う、盱衡して誥ぐ、と。是れなり。○言うこころは、爾平時徐かに行くも猶息うに暇あらず。而るを況んや行くに亟やかにして、則ち何の暇ありて其の車に脂さんや。今其の車に脂させば、則ち亟やかなるに非ず。乃ち託して亟やかに行くを以て、入りて我を見ざるは、則ち其の情に非ず。何ぞ一たび來りて我を見ずして、如何ぞ我をして汝を望むことの切ならしめんや、と。

○爾還而入、我心易<去聲。叶以支反>也。還而不入、否難知也。壹者之來、俾我祇也。賦也。還、反。易、說。祇、安也。○言爾之往也、旣不入我門矣。儻還而入、則我心猶庶乎其說也。還而不入、則爾之心、我不可得而知矣。何不一來見我、而使我心安乎。董氏曰、是詩至此、其詞益緩。若不知其爲譖矣。
【読み】
○爾が還るときにして入らば、我が心易[よろこ]<去聲。叶以支反>ばん。還るときにして入らざれば、否知り難し。壹たび之れ來れ、我をして祇[やす]んぜしめよ。賦なり。還は、反る。易は、說ぶ。祇は、安んずるなり。○言うこころは、爾の往くや、旣に我が門に入らず。儻[も]し還るときにして入らば、則ち我が心猶庶わくは其れ說ばん。還るときにして入らざれば、則ち爾が心、我れ得て知る可からず。何ぞ一たび來りて我を見て、我が心をして安んぜしめざるや。董氏が曰く、是の詩此に至りて、其の詞益々緩し。其の譖りを爲すことを知らざるが若し、と。

○伯氏吹壎<音塤>、仲氏吹篪<音池>。及爾如貫。諒不我知。出此三物、以詛<側助反>爾斯<叶先齎反>○賦也。伯仲、兄弟也。倶爲王臣、則有兄弟之義矣。樂器、土曰壎。大如鵝子。銳上平底。似稱錘。六孔。竹曰篪。長尺四寸、圍三寸、七孔。一孔上出。徑三分、凡八孔。橫吹之。如貫、如繩之貫物也。言相連屬也。諒、誠也。三物、犬豕雞也。刺其血以詛盟也。○伯氏吹壎、而仲氏吹篪。言其心相親愛、而聲相應和也、與汝如物之在貫。豈誠不我知而譖我哉。苟曰誠不我知、則出此三物以詛之可也。
【読み】
○伯氏壎[つちぶえ]<音塤>を吹き、仲氏篪[よこぶえ]<音池>を吹く。爾と貫けるが如し。諒[まこと]に我を知ずとせんや。此の三物を出だして、以て爾に詛[とご]<側助反>わん。○賦なり。伯仲は、兄弟なり。倶に王臣爲れば、則ち兄弟の義有り。樂器は、土を壎[けん]と曰う。大いなること鵝子の如し。上を銳くして底を平らにす。稱錘に似る。六孔。竹を篪[ち]と曰う。長さ尺四寸、圍み三寸、七孔。一孔は上に出づ。徑[わたり]三分、凡て八孔。橫に之を吹く。貫けるが如しとは、繩の物を貫くが如し。言うこころは、相連屬するなり。諒は、誠なり。三物は、犬豕雞なり。其の血を刺[すす]いで以て詛い盟うなり。○伯氏壎を吹いて、仲氏篪を吹く。言うこころは、其の心相親愛して、聲相應和すること、汝と物の貫きに在るが如し。豈誠に我を知らずして我を譖らんや。苟も誠に我を知らずと曰わば、則ち此の三物を出だして以て之を詛えば可なり。

○爲鬼爲蜮<音域>、則不可得。有靦<音腆>面目、視人罔極。作此好歌、以極反側。賦也。蜮、短狐也。江淮水皆有之。能含沙以射水中人影。其人輒病。而不見其形也。靦、面見人之貌也。好、善也。反側、反覆不正直也。○言汝爲鬼爲蜮、則不可得而見矣。女乃人也。靦然有面目與人相視、無窮極之時。豈其情終不可測哉。是以作此好歌、以究極爾反側之心也。
【読み】
○鬼爲り蜮[よく]<音域>爲たらば、則ち得可からず。靦[てん]<音腆>たる面目有りて、人を視ること極まり罔し。此の好き歌を作りて、以て反側を極む。賦なり。蜮は、短狐なり。江淮の水に皆之れ有り。能く沙を含んで以て水中の人影を射る。其の人輒ち病む。而して其の形は見えざるなり。靦は、面[むか]って人を見るの貌なり。好は、善きなり。反側は、反覆して正直ならざるなり。○言うこころは、汝鬼爲り蜮爲らば、則ち得て見る可からず。女は乃ち人なり。靦然として面目有りて人と相視ること、窮まり極まる時無し。豈其の情終に測る可からざらんや。是を以て此の好き歌を作りて、以て爾が反側の心を究め極む。

何人斯八章章六句。此詩、與上篇文意相似。疑出一手。但上篇先刺聽者。此篇專責讒人耳。王氏曰、暴公不忠於君、不義於友、所謂大故也。故蘇公絕之。然其絕之也、不斥暴公、言其從行而已。不著其譖也、示以所疑而已。旣絕之矣。而猶告以壹者之來、俾我祇也。蓋君子之處己也忠、其遇人也恕、使其由此悔悟更以善意從我、固所願也。雖其不能如此、我固不爲已甚。豈若小大夫然哉。一與人絕、則醜詆固拒、唯恐其復合也。
【読み】
何人斯[かじんし]八章章六句。此の詩は、上篇の文意と相似たり。疑うらくは一手より出づ。但上篇は先ず聽く者を刺[そし]る。此の篇は專ら讒人を責むるのみ。王氏が曰く、暴公は君に忠あらず、友に義あらず、所謂大故なり。故に蘇公之を絕つ。然れども其の之を絕つや、暴公を斥さず、其の從行を言うのみ。其の譖るを著さずして、示すに疑う所を以てするのみ。旣に之を絕つ。而れども猶告ぐるに壹たびは之れ來れ、我をして祇んぜしめよを以てす。蓋し君子の己を處するや忠、其の人に遇うや恕、其をして此に由りて悔い悟りて更に善意を以て我に從わしむるは、固に願う所なり。其れ此の如くなること能わずと雖も、我固に已甚だしきことをせず。豈小大夫の若く然らんや。一たび人と絕てば、則ち醜[にく]み詆[そし]り固く拒んで、唯其の復合わんことを恐るるに、と。


<音妻>兮斐兮、成是貝錦。彼譖人者、亦已大<音泰>甚。比也。萋斐、小文之貌。貝、水中介蟲也。有文彩似錦。○時有遭讒而被宮刑、爲巷伯者作此詩。言因萋斐之形而文、致之以成貝錦。以比讒人者因人之小過、而飾成大罪也。彼爲是者亦已大甚矣。
【読み】
萋[せい]<音妻>たり斐[ひ]たり、是の貝の錦を成せり。彼の人を譖[しこ]づる者、亦已に大<音泰>甚[はなは]だし。比なり。萋斐は、小しき文ある貌。貝は、水中の介蟲なり。文彩有りて錦に似る。○時に讒に遭うこと有りて宮刑を被る、巷伯が爲にする者此の詩を作る。言うこころは、萋斐の形に因りて文あり、之を致して以て貝の錦を成す。以て人を讒する者人の小過に因りて、飾って大罪を成すに比すなり。彼の是を爲す者亦已に大甚だし。

○哆<昌者反>兮侈兮、成是南箕。彼譖人者、誰適<音的>與謀<叶謨悲反>○比也。哆侈、微張之貌。南箕、四星。二爲踵、二爲舌。其踵狹而舌廣、則大張矣。適、主也。誰適與謀、言其謀之閟也。
【読み】
○哆[しゃ]<昌者反>たり侈[し]たり、是の南箕を成せり。彼の人を譖づる者、誰を適[あるじ]<音的>として與に謀<叶謨悲反>れる。○比なり。哆侈は、微しく張る貌。南箕は、四星。二つを踵と爲し、二つを舌と爲す。其の踵狹くして舌廣ければ、則ち大いに張るなり。適は、主なり。誰を適として與に謀るとは、言うこころは、其の謀の閟[ふか]ければなり。

○緝緝翩翩<音篇。叶批賓反>、謀欲譖人。愼爾言也、謂爾不信<叶斯人反>○賦也。緝緝、口舌聲。或曰、緝緝、人之罪也。或曰、有條理貌。皆通。翩翩、往來貌。譖人者、自以爲、得意矣。然不愼爾言、聽者有時而悟。且將以爾爲不信矣。
【読み】
○緝緝[しゅうしゅう]翩翩[へんぺん]<音篇。叶批賓反>として、謀りて人を譖ぢんことを欲す。爾が言を愼め、爾を信<叶斯人反>あらずと謂わん。○賦なり。緝緝は、口舌の聲。或ひと曰く、緝緝は、人の罪、と。或ひと曰く、條理有る貌、と。皆通ず。翩翩は、往來する貌。人を譖づる者、自ら以爲えらく、意を得たり、と。然れども爾が言を愼まざれば、聽く者時有りて悟らん。且つ將に爾を以て信あらずとせん。

○捷捷幡幡<音翻。叶芬邅反>、謀欲譖言。豈不爾受、旣其女<音汝>遷。賦也。捷捷、儇利貌。幡幡、反覆貌。王氏曰、上好譖、則固將受女。然好譖不已、則遇譖之禍、亦旣遷而及女矣。曾氏曰、上章及此、皆忠告之詞。
【読み】
○捷捷[しょうしょう]幡幡[はんはん]<音翻。叶芬邅反>として、謀りて譖言せんと欲す。豈爾を受けざらんや、旣に其れ女<音汝>に遷らん。賦なり。捷捷は、儇利[けんり]の貌。幡幡は、反覆する貌。王氏が曰く、上譖を好めば、則ち固に將に女を受けんとす。然れども譖を好むこと已まざれば、則ち譖に遇うの禍い、亦旣に遷りて女に及ばん、と。曾氏が曰く、上章より此に及ぶまで、皆忠告の詞、と。

○驕人好好、勞人草草。蒼天蒼天<叶鐵因反>、視彼驕人、矜此勞人。賦也。好好、樂也。草草、憂也。驕人、譖行而得意。勞人、遇譖而失度。其狀如此。
【読み】
○驕れる人は好好たり、勞[くる]しめる人は草草たり。蒼天蒼天<叶鐵因反>、彼の驕れる人を視、此の勞しめる人を矜[あわ]れめ。賦なり。好好は、樂しきなり。草草は、憂うるなり。驕れる人は、譖行して意を得。勞しめる人は、譖に遇いて度を失う。其の狀此の如し。

○彼譖人者<叶掌與反>、誰適與謀<叶滿補反>。取彼譖人、投畀豺虎。豺虎不食、投畀有北。有北不受<叶承呪反>、投畀有昊<叶許候反>○賦也。再言彼譖人者、誰適與謀者、甚嫉之、故重言之也。或曰、衍文也。投、棄也。北、北方、寒凉不毛之地也。不食不受、言讒譖之人、物所共惡也。昊、昊天也。投畀昊天、使制其罪。○此皆設言、以見欲其死亡之甚也。故曰、好賢如緇衣、惡惡如巷伯。
【読み】
○彼の人を譖づる者<叶掌與反>、誰を適として與に謀<叶滿補反>れる。彼の譖づる人を取りて、豺虎に投げ畀[あた]えん。豺虎食わずんば、有北に投げ畀えん。有北受<叶承呪反>けずんば、有昊[こう]<叶許候反>に投げ畀えん。○賦なり。再び彼の人を譖づる者、誰を適として與に謀れると言うは、甚だ之を嫉[にく]む、故に重ねて之を言うなり。或ひと曰く、衍文、と。投は、棄つるなり。北は、北方、寒凉不毛の地なり。食わず受けずは、言うこころは、讒譖の人は、物の共に惡む所なり。昊は、昊天なり。昊天に投げ畀えて、其の罪を制[いまし]めしむるなり。○此れ皆言を設けて、以て其の死亡せんことを欲するの甚だしきを見す。故に曰く、賢を好みんずること緇衣の如く、惡を惡むこと巷伯の如くす、と。

○楊園之道、猗<音倚>于畞丘<叶法奇反>。寺人孟子、作爲此詩。凡百君子、敬而聽之。興也。楊園、下地也。猗、加也。畞丘、高地也。寺人、内小臣。蓋以讒被宮、而爲此官也。孟子、其字也。○楊園之道、而猗于畞丘。以興賤者之言、或有補於君子也。蓋譖始於微者、而其漸將及於大臣。故作詩使聽而謹之也。劉氏曰、其後王后太子及大夫、果多以讒廢者。
【読み】
○楊園の道、畞丘<叶法奇反>に猗[くわ]<音倚>わる。寺人孟子、此の詩を作爲せり。凡そ百の君子、敬んで之を聽け。興なり。楊園は、下[ひく]き地なり。猗は、加うなり。畞丘は、高き地なり。寺人は、内小臣。蓋し讒を以て宮せられて、此の官と爲るなり。孟子は、其の字なり。○楊園の道、而も畞丘に猗わる。以て賤者の言、或は君子に補い有るを興す。蓋し譖は微なる者に始まりて、其の漸は將に大臣に及ばんとす。故に詩を作りて聽いて之を謹ましむるなり。劉氏が曰く、其の後王后太子及び大夫、果たして讒を以て廢する者多し、と。

巷伯七章。四章章四句。一章五句。一章八句。一章六句。巷、是宮内道名。秦・漢所謂永巷、是也。伯、長也。主宮内道官之長、卽寺人也。故以名篇。班固司馬遷贊云、迹其所以自傷悼、小雅巷伯之倫。其意亦謂、巷伯本以被譖而遭刑也。而楊氏曰、寺人、内侍之微者出入於王之左右、親近於王而日見之。宜無閒之可伺矣。今也亦傷於讒、則疎遠者可知。故其詩曰、凡百君子、敬而聽之。使在位知戒也。其說不同。然亦有理。姑存於此云。
【読み】
巷伯[こうはく]七章。四章章四句。一章五句。一章八句。一章六句。巷は、是れ宮内の道の名。秦・漢謂う所の永巷、是れなり。伯は、長なり。宮内の道を主る官の長、卽ち寺人なり。故に以て篇に名づく。班固が司馬遷を贊えて云う、其の自ら傷み悼む所以を迹づくるに、小雅巷伯の倫なり、と。其の意亦謂えらく、巷伯は本譖を被るを以て刑に遭えばなり。而るに楊氏が曰く、寺人は、内侍の微なる者にて王の左右に出入し、王に親近して日々に之を見る。宜しく閒[しばら]くの伺う可きこと無かるべし。今や亦讒に傷めば、則ち疎遠なる者知る可し。故に其の詩に曰く、凡そ百の君子、敬んで之を聽け、と。在位をして戒むることを知らしむ、と。其の說同じからず。然れども亦理有り。姑く此に存すと云う。


習習谷風、維風及雨。將恐將懼、維予與女<音汝>。將安將樂<音洛>、女轉棄予<叶演女反>○興也。習習、和調貌。谷風、東風也。將、且也。恐懼、謂危難憂患之時也。○此朋友相怨之詩。故言、習習谷風、則維風及雨矣。將恐將懼之時、則維予與女矣。奈何將安將樂、而轉棄予哉。
【読み】
習習たる谷風、維れ風ふいて雨に及べり。將に恐れ將に懼れしときは、維れ予れ女[なんじ]<音汝>と與にす。將に安んじ將に樂<音洛>しめば、女轉[かえ]って予<叶演女反>を棄つ。○興なり。習習は、和らいで調える貌。谷風は、東風なり。將は、且になり。恐懼は、危難憂患の時を謂うなり。○此れ朋友相怨むの詩。故に言う、習習たる谷風は、則ち維れ風ふき雨に及べり。將に恐れ將に懼れし時は、則ち維れ予れ女と與にす。奈何ぞ將に安んじ將に樂しめば、轉って予を棄てんや、と。

○習習谷風、維風及頹。將恐將懼、寘予于懷<叶胡隈反>。將安將樂、棄予如遺<叶夷回反>○賦也。頹、風之焚輸者也。寘、與置同。置于懷親之也。如遺、忘去而不復存省也。
【読み】
○習習たる谷風、維れ風ふいて頹に及べり。將に恐れ將に懼れしときは、予を懷<叶胡隈反>に寘く。將に安んじ將に樂しめば、予を棄つること遺<叶夷回反>するが如し。○賦なり。頹は、風の焚輸する者なり。寘は、置くと同じ。懷に置いて之を親しむなり。遺するが如しとは、忘れ去りて復存省せざるなり。

○習習谷風、維山崔嵬。無草不死、無木不萎<叶於回反>。忘我大德、思我小怨。比也。崔嵬、山巓也。○習習谷風、維山崔嵬、則風之所被者廣矣。然猶無不死之草、無不萎之木。况於朋友、豈可以忘大德、而思小怨乎。或曰、興也。
【読み】
○習習たる谷風、維れ山の崔嵬[さいかい]にせり。草の死[か]れざる無く、木の萎<叶於回反>まざる無し。我が大いなる德[めぐみ]を忘れて、我が小しき怨みを思わんや。比なり。崔嵬は、山の巓なり。○習習たる谷風、維れ山の崔嵬にあれば、則ち風の被る所の者廣し。然れども猶死れざるの草無く、萎れざるの木無し。况んや朋友に於て、豈以て大德を忘れて、小怨を思う可けんや。或ひと曰く、興なり、と。

谷風三章章六句
【読み】
谷風[こくふう]三章章六句


蓼蓼<音六>者莪、匪莪伊蒿。哀哀父母、生我劬勞。比也。蓼蓼、長大貌。莪、美菜也。蒿、賤草也。○人民勞苦、孝子不得終養、而作此詩。言昔謂之莪、而今非莪也、特蒿而已。以比父母生我以爲美材、可賴以終其身。而今乃不得其養以死。於是乃言父母生我之劬勞、而重自哀傷也。
【読み】
蓼蓼[りくりく]<音六>たるは莪[が]、莪に匪ず伊[こ]れ蒿[こう]。哀哀たる父母、我を生みて劬勞せり。比なり。蓼蓼は、長大なる貌。莪は、美き菜なり。蒿は、賤しき草なり。○人民勞苦し、孝子養を終うることを得ずして、此の詩を作れり。言うこころは、昔之を莪と謂いて、今莪に非ず、特に蒿なるのみ。以て父母我を生みて以爲えらく、美材にして、賴りて以て其の身を終う可し、と。而して今乃ち其の養を得ずして以て死するに比す。是に於て乃ち父母我を生むの劬勞を言いて、重ねて自ら哀しみ傷む。

○蓼蓼者莪、匪莪伊蔚<音尉>。哀哀父母、生我勞瘁。比也。蔚、牡菣也。三月始生、七月始華。如胡麻華而紫赤。八月爲角、似小豆。角銳而長。瘁、病也。
【読み】
○蓼蓼たるは莪、莪に匪ず伊れ蔚<音尉>。哀哀たる父母、我を生みて勞瘁せり。比なり。蔚は、牡菣[ぼきん]なり。三月始めて生し、七月始めて華さく。胡麻の華の如くにして紫赤。八月角を爲し、小豆に似る。角銳くして長し。瘁は、病むなり。

○缾之罄矣、維罍之恥。鮮<上聲>民之生、不如死之久<叶舉里反>矣。無父何怙、無母何恃。出則銜恤、入則靡至。比也。缾、小。罍、大。皆酒器也。罄、盡。鮮、寡。恤、憂。靡、無也。○言缾資於罍、而罍資缾。猶父母與子相依爲命也。故缾罄矣、乃罍之恥。猶父母不得其所、乃子之責。所以窮獨之民、生不如死也。蓋無父則無所怙、無母則無所恃。是以出則中心銜恤、入則如無所歸也。
【読み】
○缾[かめ]の罄[つ]くるは、維れ罍[もたい]の恥。鮮<上聲>民の生けるは、死せるが久<叶舉里反>しきに如かず。父無くんば何をか怙[たの]まん、母無くんば何をか恃まん。出でては則ち恤えを銜[ふく]み、入りては則ち至ること靡し。比なり。缾[へい]は、小。罍[らい]は、大。皆酒器なり。罄[けい]は、盡く。鮮は、寡し。恤は、憂え。靡は、無きなり。○言うこころは、缾は罍に資[と]りて、罍は缾に資る。猶父母と子と相依りて命を爲すがごとし。故に缾罄くるは、乃ち罍の恥なり。猶父母其の所を得ざるは、乃ち子の責なるがごとし。以て窮獨の民は、生けるが死せるに如かざる所なり。蓋し父無くんば則ち怙む所無く、母無くんば則ち恃む所無し。是を以て出でては則ち中心恤えを銜み、入りては則ち歸する所無きが如し。

○父兮生我、母兮鞠我。拊<音撫>我畜<音旭>我、長<上聲>我育我、顧我復我、出入腹我。欲報之德、昊天罔極。賦也。生者本其氣也。鞠・畜、皆養也。拊、拊循也。育、覆育也。顧、旋視也。復、反覆也。腹、懷抱也。罔、無。極、窮也。○言父母之恩如此。欲報之以德、而其恩之大、如天無窮。不知所以爲報也。
【読み】
○父は我を生み、母は我を鞠[やしな]えり。我を拊[な]<音撫>で我を畜<音旭>い、我を長[ひととな]<上聲>し我を育み、我を顧み我を復[かえすがえす]し、出入我を腹[ふところ]にせり。之に報ゆるに德をせんと欲すれども、昊天[こうてん]極まり罔し。賦なり。生は其の氣に本づくなり。鞠・畜は、皆養うなり。拊は、拊循なり。育は、覆育なり。顧は、旋視なり。復は、反覆なり。腹は、懷抱なり。罔は、無し。極は、窮むなり。○言うこころは、父母の恩此の如し。之に報ゆるに德を以てせんと欲すれども、其の恩の大いなること、天の窮まり無きが如し。報いを爲す所以を知らざるなり。

○南山烈烈、飄風發發。民莫不穀、我獨何害<叶音曷>○興也。烈烈、高大貌。發發、疾貌。穀、善也。○南山烈烈、則飄風發發矣。民莫不善、而我獨何爲遭此害哉。
【読み】
○南山烈烈たり、飄風發發たり。民穀[よ]からざる莫し、我れ獨り何ぞ害[そこな]<叶音曷>える。○興なり。烈烈は、高大なる貌。發發は、疾き貌。穀は、善きなり。○南山烈烈たれば、則ち飄風發發たり。民善からざること莫くして、我れ獨り何爲れぞ此の害に遭うや。

○南山律律、飄風弗弗<叶分聿反>。民莫不穀、我獨不卒。興也。律律、猶烈烈也。弗弗、猶發發也。卒、終也。言終養也。
【読み】
○南山律律たり、飄風弗弗<叶分聿反>たり。民穀からざる莫し、我れ獨り卒[お]えず。興なり。律律は、猶烈烈のごとし。弗弗は、猶發發のごとし。卒は、終えるなり。養を終えることを言うなり。

蓼莪六章。四章章四句。二章章八句。晉王裒、以父死非罪每讀詩、至哀哀父母、生我劬勞、未嘗不三復流涕。受業者、爲廢此篇。詩之感人如此。
【読み】
蓼莪[りくが]六章。四章章四句。二章章八句。晉の王裒[ほう]、父の死罪に非ざるを以て詩を讀む每に、哀哀たる父母、我を生みて劬勞すに至りて、未だ嘗て三復して涕を流さずんばあらず。業を受くる者、爲に此の篇を廢す。詩の人を感ぜしむること此の如し。


有饛<音蒙><音軌><音孫>、有捄<音求>棘匕<音比>。周道如砥<音紙>、其直如矢。君子所履、小人所視<叶善止反>。睠<音眷>言顧之、潸<音山>焉出涕<音體>○興也。饛、滿簋貌。飧、熟食也。捄、曲貌。棘匕、以棘爲匕。所以載鼎肉而升之於俎也。砥、礪石。言平也。矢、言直也。君子、在位。履、行。小人、下民也。睠、反顧也。潸、涕下貌。○序以爲、東國困於役、而傷於財。譚大夫作此以告病。言有饛簋飧、則有捄棘匕。周道如砥、則其直如矢。是以君子履之、而小人視焉。今乃顧之而出涕者、則以東方之賦役、莫不由是而西輸於周也。
【読み】
饛[み]<音蒙>ちたる簋[き]<音軌>飧[そん]<音孫>有れば、捄[まが]<音求>れる棘匕[きょくひ]<音比>有り。周の道砥<音紙>の如くなれば、其の直きこと矢の如し。君子の履[ゆ]く所、小人の視<叶善止反>る所。睠[かえり]<音眷>み言[ここ]に之を顧みる、潸[さん]<音山>焉として涕<音體>を出だす。○興なり。饛[もう]は、簋に滿つる貌。飧は、熟したる食なり。捄[きゅう]は、曲れる貌。棘匕は、棘を以て匕とす。鼎肉を載せて之を俎に升る所以なり。砥は、礪石。平らかなるを言うなり。矢は、直きを言うなり。君子は、在位。履は、行く。小人は、下民なり。睠[けん]は、反顧なり。潸は、涕下る貌。○序に以爲えらく、東國役に困しみて、財を傷る。譚[たん]の大夫此を作りて以て病めるを告ぐ。言うこころは、饛ちたる簋飧有らば、則ち捄れる棘匕有り。周の道砥の如くなれば、則ち其の直きこと矢の如し。是を以て君子之に履きて、小人焉を視る。今乃ち之を顧みて涕を出だすは、則ち東方の賦役を以て、是に由りて西に周に輸らざること莫ければなり。

○小東大東<叶都郎反>、杼<音佇><音逐>其空<叶枯郎反>。糾糾葛屨、可以履霜。佻佻<音挑>公子、行彼周行<叶戶郎反>。旣往旣來<叶六直反>、使我心疚<叶訖力反>○賦也。小東大東、東方小大之國也。自周視之、則諸侯之國皆在東方。杼、持緯者也。柚、受經者也。空、盡也。佻、輕薄不奈勞苦之貌。公子、諸侯之貴臣也。周行、大路也。疚、病也。○言東方小大之國、杼柚皆已空矣。至於以葛屨履霜、而其貴戚之臣、奔走往來、不勝其勞、使我心憂而病也。
【読み】
○小東大東<叶都郎反>、杼[じょ]<音佇>柚[じく]<音逐>其れ空[つ]<叶枯郎反>く。糾糾たる葛の屨[くつ]、以て霜を履む可し。佻佻[ちょうちょう]<音挑>たる公子、彼の周行[おおじ]<叶戶郎反>を行く。旣に往き旣に來<叶六直反>りて、我が心を疚<叶訖力反>ましむ。○賦なり。小東大東は、東方小大の國なり。周より之を視れば、則ち諸侯の國皆東方に在り。杼は、緯を持つ者なり。柚は、經を受くる者なり。空は、盡くなり。佻は、輕薄にして勞苦を奈[いかん]とせざるの貌。公子は、諸侯の貴臣なり。周行は、大路なり。疚は、病むなり。○言うこころは、東方小大の國、杼柚皆已に空く。葛屨を以て霜を履むに至り、而して其の貴戚の臣、奔走往來して、其の勞に勝えず、我が心をして憂えて病ましむ。

○有洌<音列>氿<音軌><叶才匀反>、無浸穫薪。契契<音器>寤歎、哀我憚<丁佐反>人。薪是穫薪、尙可載<叶節力反>也。哀我憚人、亦可息也。興也。洌、寒意也。側出曰氿泉。穫、艾也。契契、憂苦也。憚、勞也。尙、庶幾也。載、載以歸也。○蘇氏曰、薪已穫矣。而復漬之則腐。民已勞矣。而復事之則病。故已艾、則庶其載而畜之。已勞、則庶其息而安之。
【読み】
○洌<音列>たる氿[き]<音軌><叶才匀反>有り、穫[か]れる薪を浸すこと無かれ。契契<音器>として寤めて歎く、哀しき我が憚[たん]<丁佐反>人。是の穫れる薪を薪とせば、尙わくは載<叶節力反>す可し。哀しき我が憚人、亦息う可し。興なり。洌は、寒き意なり。側に出づるを氿泉と曰う。穫は、艾るなり。契契は、憂苦なり。憚は、勞しむなり。尙は、庶幾なり。載は、載せて以て歸るなり。○蘇氏が曰く、薪已に穫れる。而して復之を漬せば則ち腐る。民已に勞しむ。而して復之を事えば則ち病みぬ。故に已に艾れば、則ち庶わくは其れ載せて之を畜えんことを。已に勞しめば、則ち庶わくは其れ息いて之を安んぜんことを。

○東人之子、職勞不來<音賚。叶六直反>。西人之子、粲粲衣服<叶蒲北反>。舟人之子、熊羆是裘<叶渠之反>。私人之子、百僚是試<叶申之反>○賦也。東人、諸侯之人也。職、專主也。來、慰撫也。西人、京師人也。粲粲、鮮盛貌。舟人、舟楫之人也。熊羆是裘、言富也。私人、私家皁隷之屬也。僚、官。試、用也。舟人・私人、皆西人也。○此言賦役不均、羣小得志也。
【読み】
○東人の子は、職[もっぱ]ら勞しめども來[ねぎら]<音賚。叶六直反>わず。西人の子は、粲粲[さんさん]たる衣服<叶蒲北反>せり。舟人の子も、熊羆[ゆうひ]是れ裘<叶渠之反>とす。私人の子も、百僚に是れ試[もち]<叶申之反>いらる。○賦なり。東人は、諸侯の人なり。職は、專主なり。來は、慰撫なり。西人は、京師の人なり。粲粲は、鮮やかに盛んなる貌。舟人は、舟楫の人なり。熊羆是れ裘とすは、富めるを言うなり。私人は、私家皁隷[そうれい]の屬なり。僚は、官。試は、用ゆなり。舟人・私人は、皆西人なり。○此れ言うこころは、賦役均しからず、羣小志を得るなり。

○或以其酒、不以其漿。鞙鞙<音琄>佩璲<音遂>、不以其長。維天有漢、監<音鑒>亦有光。跂彼織女、終日七襄。賦也。鞙鞙、長貌。璲、瑞也。漢、天河也。跂、隅貌。織女、星名。在漢旁。三星跂然如隅也。七襄、未詳。傳曰、反也。箋云、駕也。駕、謂更其肆也。蓋天有十二次。日月所止舍。所謂肆也。經星一晝一夜、左旋一周而有餘、則終日之閒、自卯至酉、當更七次也。○言東人或饋之以酒、而西人曾不以爲漿。東人或與之以鞙然之佩、而西人曾不以爲長。維天之有漢、則庶乎其有以監我、而織女之七襄、則庶乎其能成文章以報我矣。無所赴愬而言、維天庶乎其恤我耳。
【読み】
○或は其の酒を以てすれども、其の漿を以てせず。鞙鞙[けんけん]<音琄>たる佩璲[はいすい]<音遂>も、其の長きを以てせず。維れ天に漢[あまのがわ]有り、監[かんが]<音鑒>みて亦光有り。跂[き]たる彼の織女、終日七襄す。賦なり。鞙鞙は、長き貌。璲は、瑞なり。漢は、天の河なり。跂は、隅だつ貌。織女は、星の名。漢の旁らに在り。三星跂然として隅だつが如し。七襄は、未だ詳らかならず。傳に曰く、反る、と。箋に云う、駕、と。駕は、其の肆を更[へ]るを謂うなり。蓋し天に十二次有り。日月の止舍する所。所謂肆なり。經星一晝一夜、左旋し一周して餘り有らば、則ち終日の閒、卯より酉に至るまで、當に七次を更るべし。○言うこころは、東人或は之に饋[おく]るに酒を以てして、西人曾て以て漿とせず。東人或は之に與うるに鞙然たる佩を以てして、西人曾て以て長しとせず。維れ天の漢有る、則ち庶わくは其れ以て我を監みること有りて、織女の七襄する、則ち庶わくは其の能く文章を成して以て我を報いんことを。赴き愬[うった]うる所無くして言う、維れ天庶わくは其れ我を恤れまんのみ。

○雖則七襄、不成報章。睆<音莞>彼牽牛、不以服箱。東有啓明<叶謨郎反>、西有長庚<叶古郎反>。有捄天畢、載施之行<音杭>○賦也。睆、明星貌。牽牛、星名。服、駕也。箱、車箱也。啓明・長庚、皆金星也。以其先日而出、故謂之啓明。以其後日而入、故謂之長庚。蓋金水二星、常附日行。而或先或後。但金大水小。故獨以金星爲言也。天畢、畢星也。狀如掩兔之畢。行、行列也。○言彼織女、不能成報我之章、牽牛、不可以服我之箱、而啓明・長庚・天畢者、亦無實用、但施之行列而已。至是則知、天亦無若私何矣。
【読み】
○則ち七襄すと雖も、報うる章を成さず。睆[かん]<音莞>たる彼の牽牛、以て箱を服[か]けず。東に啓明<叶謨郎反>有り、西に長庚<叶古郎反>有り。捄れる天畢有り、載ち之を行[つら]<音杭>に施す。○賦なり。睆は、明らかなる星の貌。牽牛は、星の名。服は、駕すなり。箱は、車箱なり。啓明・長庚は、皆金星なり。其の日に先だちて出づるを以て、故に之を啓明と謂う。其の日に後れて入るを以て、故に之を長庚と謂う。蓋し金水の二星は、常に日に附いて行く。而れども或は先だち或は後る。但金は大いに水は小さし。故に獨り金星を以て言を爲すなり。天畢は、畢星なり。狀は兔を掩う畢の如し。行は、行列なり。○言うこころは、彼の織女は、我に報うるの章を成すこと能わず、牽牛は、以て我が箱を服く可からずして、啓明・長庚・天畢なる者も、亦實に用うる無く、但之を行列に施すのみ。是に至りて則ち知る、天も亦私を若何ともする無し、と。

○維南有箕、不可以簸<波我反>揚。維北有斗、不可以挹<音揖>酒漿。維南有箕、載翕<音吸>其舌。維北有斗、西柄之揭<音訐>○賦也。箕・斗、二星。以夏秋之閒、見於南方。云北斗者、以其在箕之北也。或曰、北斗常見不隱者也。翕、引也。舌、下二星也。南斗柄固指西。若北斗而西柄、則亦秋時也。○言南箕旣不可以簸揚糠粃。北斗旣不可以挹酌酒漿。而箕引其舌、反若有所呑噬。斗西揭其柄、反若有所挹取於東。是天非徒無若我何、乃亦若助西人而見困。甚怨之詞也。
【読み】
○維れ南に箕有れども、以て簸[は]<波我反>揚す可からず。維れ北に斗有れども、以て酒漿を挹[く]<音揖>む可からず。維れ南に箕有れば、載[すなわ]ち其の舌を翕[ひ]<音吸>けり。維れ北に斗有れば、西に柄を揭<音訐>げたり。○賦なり。箕・斗は、二星。夏秋の閒を以て、南方に見る。北斗と云うは、其の箕の北に在るを以てなり。或ひと曰く、北斗は常に見れて隱れざる者、と。翕は、引くなり。舌は、下の二星なり。南斗の柄固に西を指す。北斗而も柄を西にするが若きは、則ち亦秋の時なり。○言うこころは、南箕旣に以て糠粃を簸揚す可からず。北斗旣に以て酒漿を挹み酌む可からず。而るに箕其の舌を引いて、反って呑噬する所有るが若し。斗西に其の柄を揭げて、反って東に挹み取る所有るが若し。是れ天徒に我を若何ともする無きのみに非ず、乃ち亦西人を助けて困しめらるるが若し。甚だ怨みたる詞なり。

大東七章章八句
【読み】
大東[たいとう]七章章八句


四月維夏<叶後五反>、六月徂暑。先祖匪人、胡寧忍予<叶演女反>○興也。徂、往也。四月・六月、亦以夏正數之、建巳・建未之月也。○此亦遭亂、自傷之詩。言四月維夏、則六月徂暑矣。我先祖豈非人乎。何忍使我遭此禍也。無所歸咎之詞也。
【読み】
四月維れ夏<叶後五反>、六月暑きこと徂[い]んぬ。先祖人に匪ずや、胡ぞ寧ろ予<叶演女反>に忍べる。○興なり。徂は、往くなり。四月・六月は、亦夏正を以て之を數うれば、建巳・建未の月なり。○此れ亦亂に遭いて、自ら傷む詩。言うこころは、四月維れ夏なれば、則ち六月暑きこと徂んぬ。我が先祖豈人に非ずや。何ぞ忍んで我をして此の禍いに遭わしむ。咎を歸する所無きの詞なり。

○秋日凄凄、百卉具腓。亂離瘼<音莫>矣、奚其適歸。興也。淒淒、凉風也。卉、草。腓、病。離、憂。瘼、病。奚、何。適、之也。○秋日淒淒、則百卉倶腓矣。亂離瘼矣、則我將何所適歸乎哉。
【読み】
○秋の日凄凄[せいせい]たり、百の卉具に腓[や]みぬ。亂離して瘼[や]<音莫>む、奚くにか其れ適き歸らん。興なり。凄凄は、凉風なり。卉は、草。腓は、病む。離は、憂え。瘼[ばく]は、病む。奚は、何れ。適は、之くなり。○秋の日淒淒たれば、則ち百卉倶に腓みぬ。亂離して瘼めば、則ち我れ將に何れの所にか適き歸らんや。

○冬日烈烈、飄風發發。民莫不穀、我獨何害<音曷>○興也。烈烈、猶栗烈也。發發、疾貌。穀、善也。○夏則暑、秋則病、冬則烈。言禍亂日進、無時而息也。
【読み】
○冬の日烈烈たり、飄風發發たり。民穀[よ]からざる莫し、我れ獨り何ぞ害[そこな]<音曷>える。○興なり。烈烈は、猶栗烈のごとし。發發は、疾き貌。穀は、善きなり。○夏は則ち暑く、秋は則ち病み、冬は則ち烈し。言うこころは、禍亂日々に進んで、時として息むこと無し。

○山有嘉卉、侯栗侯梅<叶莫悲反>。廢爲殘賊、莫知其尤<叶于其反>○興也。嘉、善。侯、維。廢、變。尤、過也。○山有嘉卉、則維栗與梅矣。任位者變爲殘賊、則誰之過哉。
【読み】
○山に嘉卉有り、侯[こ]れ栗侯れ梅<叶莫悲反>。廢[か]わりて殘賊を爲せり、其の尤[とが]<叶于其反>を知る莫し。○興なり。嘉は、善き。侯は、維れ。廢は、變わる。尤は、過なり。○山に嘉卉有らば、則ち維れ栗と梅なり。位に任る者變わりて殘賊をするは、則ち誰の過ならんや。

○相<去聲>彼泉水、載淸載濁<叶殊玉反>。我日構禍、曷云能穀。興也。相、視。載、則。構、合也。○相彼泉水、猶有時而淸、有時而濁。而我乃日日遭害、則曷云能善乎。
【読み】
○彼の泉水を相[み]<去聲>れば、載[すなわ]ち淸く載ち濁<叶殊玉反>る。我れ日々に禍いに構[あ]いぬ、曷ぞ云[ここ]に能く穀[よ]からん。興なり。相は、視る。載は、則ち。構は、合うなり。○彼の泉水を相れば、猶時有りて淸く、時有りて濁る。而して我れ乃ち日日に害に遭うは、則ち曷ぞ云に能く善からんや。

○滔滔江漢、南國之紀。盡瘁以仕、寧莫我有<叶羽已反>○興也。滔滔、大水貌。江漢、二水名。紀、綱紀也。謂經帶包絡之也。瘁、病也。有、識有也。○滔滔江漢、猶爲南國之紀。今也盡瘁以仕。而王何其不我有哉。
【読み】
○滔滔たる江漢は、南國の紀なり。盡く瘁[や]みて以て仕うとも、寧[なん]ぞ我を有<叶羽已反>りとする莫き。○興なり。滔滔は、大いなる水の貌。江漢は、二水の名。紀は、綱紀なり。之を經帶包絡するを謂うなり。瘁は、病むなり。有は、識ること有るなり。○滔滔たる江漢は、猶南國の紀爲り。今や盡く瘁みて以て仕う。而るに王何ぞ其れ我を有りとせざるや。

○匪鶉<音團>匪鳶<音沿。叶以旬反>、翰飛戾天<叶鐵因反>。匪鱣<音氊>匪鮪、潛逃于淵<叶一均反>○賦也。鶉、鵰也。鳶、亦鷙鳥也。其飛上薄雲漢。鱣鮪、大魚也。○鶉鳶則能翰飛戾天。鱣鮪則能潛逃于淵。我非是四者、則亦無所逃矣。
【読み】
○鶉[わし]<音團>に匪ず鳶<音沿。叶以旬反>に匪ず、翰[は]うち飛んで天<叶鐵因反>に戾[いた]らんや。鱣[てん]<音氊>に匪ず鮪に匪ず、潛んで淵<叶一均反>に逃れんや。○賦なり。鶉[たん]は、鵰[わし]なり。鳶も、亦鷙鳥[しちょう]なり。其れ飛び上がりて雲漢に薄[せま]る。鱣鮪は、大魚なり。○鶉鳶は則ち能く翰うち飛んで天に戾る。鱣鮪は則ち能く潛んで淵に逃る。我れ是の四つの者に非ざれば、則ち亦逃る所無し。

○山有蕨薇、隰有杞桋<音夷>。君子作歌、維以告哀<叶於希反>○興也。杞、枸檵也。桋、赤楝也。樹葉細而岐銳、皮理錯戾、好叢生山中。中爲車輞。○山則有蕨薇、隰則有杞桋。君子作歌、則維以告哀而已。
【読み】
○山に蕨薇[けつび]有り、隰[さわ]に杞桋[きい]<音夷>有り。君子歌を作り、維れ以て哀<叶於希反>しみを告ぐ。○興なり。杞は、枸檵[こうけい]なり。桋は、赤梀[せきさく]なり。樹の葉細くして岐銳、皮理錯戾して、好んで山中に叢生す。中は車輞に爲る。○山には則ち蕨薇有り、隰には則ち杞桋有り。君子歌を作るは、則ち維れ以て哀しみを告ぐのみ。

四月八章章四句
【読み】
四月[しげつ]八章章四句


小旻之什十篇六十五章。四百十四句


北山之什二之六
【読み】
北山[ほくさん]の什二の六


陟彼北山、言采其杞。偕偕士子<叶奬里反>、朝夕從事<叶上止反>。王事靡盬、憂我父母<叶滿彼反>○賦也。偕偕、强壯貌。士子、詩人自謂也。○大夫行役而作此詩自言、陟彼北山而采杞以食者、皆强壯之人、而朝夕從事者也。蓋以王事不可以不勤、是以貽我父母之憂耳。
【読み】
彼の北山に陟[のぼ]りて、言[ここ]に其の杞を采る。偕偕たる士子<叶奬里反>、朝夕事<叶上止反>に從う。王事盬[もろ]いこと靡し、我が父母<叶滿彼反>を憂えしむ。○賦なり。偕偕は、强壯の貌。士子は、詩人自ら謂うなり。○大夫役に行いて此の詩を作りて自ら言う、彼の北山に陟りて杞を采りて以て食う者は、皆强壯なる人にして、朝夕事に從う者なり。蓋し王事勤めずんばある可からざるを以て、是を以て我が父母の憂えを貽[のこ]すのみ、と。

○溥<音普>天之下<叶後五反>、莫非王土。率土之濱、莫非王臣。大夫不均、我從事獨賢<叶下珍反>○賦也。溥、大。率、循。濱、涯也。○言土之廣、臣之衆、而王不均平。使我從事獨勞也。不斥王而曰大夫。不言獨勞、而曰獨賢。詩人之忠厚如此。
【読み】
○溥[ふ]<音普>天の下<叶後五反>、王土に非ざる莫し。率土[そつど]の濱、王臣に非ざる莫し。大夫均しからず、我のみ事に從えて獨り賢<叶下珍反>なりとす。○賦なり。溥は、大い。率は、循う。濱は、涯なり。○言うこころは、土の廣く、臣の衆くして、王均平ならず。我をして事に從えて獨り勞せしむ。王を斥[さ]さずして大夫と曰う。獨り勞すと言わずして、獨り賢なりと曰う。詩人の忠厚此の如し。

○四牡彭彭<叶鋪郎反>、王事傍傍<音崩。叶布光反>。嘉我未老、鮮我方將、旅力方剛、經營四方。賦也。彭彭、然不得息也。傍傍、然不得已也。嘉、善。鮮、少也。以爲少而難得也。將、壯也。旅、與膂同。○言王之所以使我者、善我之未老而方壯、旅力可以經營四方耳。猶上章之言獨賢也。
【読み】
○四牡彭彭[ほうほう]<叶鋪郎反>たり、王事傍傍[ほうほう]<音崩。叶布光反>たり。我が未だ老いざるを嘉[よ]みんじ、我が方に將[さか]んなるを鮮しとし、旅力方に剛しとして、四方を經[はか]り營ませしむ。賦なり。彭彭は、然く息うことを得ざるなり。傍傍は、然く已むことを得ざるなり。嘉は、善き。鮮は、少なきなり。以爲えらく、少なくして得難し、と。將は、壯んなり。旅は、膂[せぼね]と同じ。○言うこころは、王の我を使う所以は、我が未だ老いずして方に壯んなるを善みんじ、旅力以て四方を經營す可きなるのみ。猶上の章の獨り賢とすと言うがごとし。

○或燕燕居息、或盡瘁事國<叶越逼反>。或息偃在牀、或不已于行<叶戶郎反>○賦也。燕燕、安息貌。瘁、病。已、止也。○言役使之不均也。下章放此。
【読み】
○或は燕燕として居りて息い、或は盡く瘁[や]んで國<叶越逼反>に事あり。或は息い偃[ふ]して牀に在り、或は行<叶戶郎反>くに已まず。○賦なり。燕燕は、安息の貌。瘁は、病む。已は、止むなり。○言うこころは、役使の均しからざるなり。下の章も此に放え。

○或不知叫號<音毫>、或慘慘劬勞。或栖<音西>遲偃仰、或王事鞅<音快>掌。賦也。不知叫號、深居安逸、不聞人聲也。鞅掌、失容也。言事煩勞、不暇爲儀容也。
【読み】
○或は叫び號[よ]<音毫>ばうことを知らず、或は慘慘として劬勞す。或は栖<音西>遲して偃仰[えんぎょう]し、或は王事に鞅[おう]<音快>掌す。賦なり。叫び號ばうことを知らずとは、深く居り安逸し、人の聲を聞かざるなり。鞅掌は、容を失うなり。言うこころは、煩勞を事として、儀容を爲すに暇あらざるなり。

○或湛<音躭>樂飮酒、或慘慘畏咎。或出入風<音諷><叶魚覊反>、或靡事不爲。賦也。咎、猶罪過也。出入風議、言親信而從容也。
【読み】
○或は湛<音躭>樂して酒を飮み、或は慘慘として咎を畏る。或は出入風<音諷><叶魚覊反>し、或は事としてせざる靡し。賦なり。咎は、猶罪過のごとし。出入風議すとは、言うこころは、親信して從容するなり。

北山六章三章章六句三章章四句
【読み】
北山[ほくさん]六章三章章六句三章章四句


無將大車、祗<音支>自塵兮。無思百憂、祗自疧兮。興也。將、扶進也。大車、平地任載之車、駕牛者也。祗、適。疧、病也。○此亦行役勞苦、而憂思者之作。言將大車、則塵汚之。思百憂則病及之也。
【読み】
大車を將[たす]くる無かれ、祗[まさ]<音支>に自ら塵[けが]されん。百の憂えを思う無かれ、祗に自ら疧[や]ましめん。興なり。將は、扶け進むるなり。大車は、平地任載するの車、牛を駕する者なり。祗は、適に。疧は、病む。○此も亦行役勞苦して、憂い思う者作れる。言うこころは、大車を將くれば、則ち之に塵汚す。百憂を思わば則ち病之に及ぶ。

○無將大車、維塵冥冥<叶莫迥反>。無思百憂、不出于熲<音耿>○興也。冥冥、昏晦也。熲、與耿同。小明也。在憂中耿耿然、不能出也。
【読み】
○大車を將くる無かれ、維れ塵冥冥<叶莫迥反>たらん。百の憂えを思う無かれ、熲[こう]<音耿>より出でざらん。○興なり。冥冥は、昏晦なり。熲は、耿と同じ。小しき明りなり。憂えの中に在りて耿耿然として、出でること能わざるなり。

○無將大車、維塵雝<上平二聲>兮。無思百憂、祗自重<上平二聲>兮。興也。雝、猶蔽也。重猶累也。
【読み】
○大車を將くる無かれ、維れ塵雝[おお]<上平二聲>わん。百の憂えを思う無かれ、祗に自ら重[わずら]<上平二聲>わん。興なり。雝は、猶蔽うがごとし。重は猶累うがごとし。

無將大車三章章四句
【読み】
無將大車[ぶしょうたいしゃ]三章章四句


明明上天、照臨下土。我征徂西、至于艽<音求><叶上與反>。二月初吉、載離寒暑。心之憂矣、其毒大<音泰>苦。念彼共<音恭>人、涕零如雨。豈不懷歸、畏此罪罟<音古>○賦也。征、行。徂、往也。艽野、地名。蓋遠荒之地也。二月、亦以夏正數之、建卯月也。初吉、朔日也。毒、言心中如有藥毒也。共人、僚友之處者也。懷、思。罟、網也。○大夫以二月西征。至于歲暮而未得歸。故呼天而訴之。復念其僚友之處者、且自言其畏罪而不敢歸也。
【読み】
明明たる上天、照らして下土に臨めり。我れ西に征き徂[ゆ]いて、艽[きゅう]<音求><叶上與反>に至れり。二月の初吉、載[すなわ]ち寒暑を離[へ]たり。心の憂えあり、其の毒大[はなは]<音泰>だ苦し。彼の共<音恭>人を念い、涕零つること雨の如し。豈歸らんことを懷わざらんや、此の罪罟[ざいこ]<音古>を畏る。○賦なり。征は、行く。徂は、往くなり。艽野は、地の名。蓋し遠荒の地なり。二月も、亦夏正を以て之を數うれば、建卯の月なり。初吉は、朔日なり。毒は、心中藥毒有るが如きを言うなり。共人は、僚友の處る者なり。懷は、思う。罟は、網なり。○大夫二月を以て西に征く。歲暮に至りて未だ歸るを得ず。故に天を呼んで之を訴う。復其の僚友の處る者を念いて、且つ自ら其の罪を畏れて敢えて歸らざるを言うなり。

○昔我往矣、日月方除<去聲>。曷云其還、歲聿云莫。念我獨兮、我事孔庶。心之憂矣、憚<丁佐反>我不暇<叶胡故反>。念彼共人、睠睠<音眷>懷顧。豈不懷歸、畏此譴怒。賦也。除、除舊生新也。謂二月初吉也。庶、衆。憚、勞也。睠睠、勤厚之意。譴怒、罪責也。○言昔以是時往。今未知何時可還、而歲已莫矣。蓋身獨而事衆。是以勤勞而不暇也。
【読み】
○昔我が往きしとき、日月方に除<去聲>けり。曷ぞ云[ここ]に其れ還らん、歲聿[つい]に云に莫[く]れぬ。念う我れ獨りにして、我が事孔[はなは]だ庶[おお]し。心の憂えあり、憚[くる]<丁佐反>しんで我れ暇<叶胡故反>あらず。彼の共人を念い、睠睠[けんけん]<音眷>として懷い顧みる。豈歸らんことを懷わざらんや、此の譴怒[けんど]を畏る。賦なり。除は、舊を除いて新を生む。二月初吉を謂うなり。庶は、衆き。憚は、勞しむなり。睠睠は、勤厚の意。譴怒は、罪責なり。○言うこころは、昔是の時を以て往く。今未だ知らず、何の時か還る可くして、歲已に莫れぬ。蓋し身獨りにして事衆し。是を以て勤勞して暇あらず。

○昔我往矣、日月方奧<音郁>。曷云其還、政事愈蹙<音蹴>。歲聿云莫、采蕭穫菽。心之憂矣、自詒伊戚<叶子六反>。念彼共人、興言出宿。豈不懷歸、畏此反覆<音福>○賦也。奧、暖。蹙、急。詒、遺。戚、憂。興、起也。反覆、傾側無常之意也。○言以政事愈急、是以至此歲莫、而猶不得歸。又自咎其不能見幾遠去、而自遺此憂、至於不能安寢、而出宿於外也。
【読み】
○昔我が往きしとき、日月方に奧[あたた]<音郁>かなり。曷ぞ云に其れ還らん、政事愈々蹙[せま]<音蹴>れり。歲聿に云に莫れぬ、蕭を采り菽を穫る。心の憂えあり、自ら伊[こ]の戚[うれ]<叶子六反>えを詒[のこ]す。彼の共人を念い、興[おき]て出で宿れり。豈歸らんことを懷わざらんや、此の反覆<音福>を畏る。○賦なり。奧は、暖か。蹙は、急。詒は、遺す。戚は、憂え。興は、起きるなり。反覆は、傾側常無きの意なり。○言うこころは、政事の愈々急なるを以て、是を以て此の歲の莫るるに至りて、猶歸るを得ず。又自ら其の幾を見て遠く去ること能わずして、自ら此の憂えを遺すを咎め、安んじ寢ねること能わずして、出でて外に宿るに至る。

○嗟爾君子、無恆安處。靖共爾位、正直是與。神之聽之、式穀以女<音汝>○賦也。君子、亦指其僚友也。恆、常也。靖、與靜同。與、猶助也。穀、祿也。以、猶與也。○上章旣自傷悼。此章又戒其僚友曰、嗟爾君子、無以安處爲常。言當有勞時、勿懷安也。當靖共爾位。惟正直之人是助、則神之聽之、而以穀祿與女矣。
【読み】
○嗟[ああ]爾君子、安處を恆とする無かれ。靖[しず]かに爾が位を共[つつし]み、正直是れ與[たす]けよ。神の之を聽いて、穀を式[もっ]て女<音汝>に以[あた]えん。○賦なり。君子は、亦其の僚友を指すなり。恆は、常なり。靖は、靜と同じ。與は、猶助くのごとし。穀は、祿なり。以は、猶與うのごとし。○上の章は旣に自ら傷み悼む。此の章も又其の僚友を戒めて曰く、嗟爾君子、安處を以て常とする無かれ、と。言うこころは、當に勞する時有るべく、安んずるを懷う勿かれとなり。當に靖かに爾が位を共むべし。惟れ正直の人是れ助くれば、則ち神の之を聽いて、穀祿を以て女に與えん。

○嗟爾君子、無恆安息。靖共爾位、好<去聲>是正直。神之聽之、介爾景福<叶筆力反>○賦也。息、猶處也。好是正直、愛此正直之人也。介・景、皆大也。
【読み】
○嗟爾君子、安息を恆とする無かれ。靖かに爾が位を共み、是の正直を好<去聲>みんぜよ。神の之を聽いて、爾が景[おお]いなる福<叶筆力反>を介[おお]いにせん。○賦なり。息は、猶處るのごとし。是の正直を好みんずとは、此の正直の人を愛するなり。介・景は、皆大いなり。

小明五章三章章十二句二章章六句
【読み】
小明[しょうめい]五章三章章十二句二章章六句


鼓鐘將將<音槍>、淮水湯湯、憂心且傷。淑人君子、懷允不忘。賦也。將將、聲也。淮水、出信陽軍桐柏山、至楚州漣水軍入海。湯湯、沸騰之貌。淑、善。懷、思。允、信也。○此詩之義、未詳。王氏曰、幽王鼓鐘淮水之上、爲流連之樂、久而忘反。聞者憂傷、而思古之君子、不能忘也。
【読み】
鐘を鼓[う]つこと將將<音槍>たり、淮水[わいすい]湯湯[しょうしょう]たり、憂うる心且[また]傷めり。淑人君子、懷いて允に忘れず。賦なり。將將は、聲なり。淮水は、信陽軍の桐柏山より出でて、楚州漣水軍に至りて海に入る。湯湯は、沸騰する貌。淑は、善き。懷は、思う。允は、信なり。○此の詩の義、未だ詳らかならず。王氏が曰く、幽王鐘を淮水の上に鼓ち、流連の樂を爲し、久しくして反ることを忘る。聞く者憂え傷みて、古の君子を思いて、忘るること能わざるなり。

○鼓鐘喈喈<音皆。叶居奚反>、淮水湝湝<音諧。叶賢雞反>、憂心且悲。淑人君子、其德不回<叶乎爲反>○賦也。喈喈、猶將將。湝湝、猶湯湯。悲、猶傷也。回、邪也。
【読み】
○鐘を鼓つこと喈喈<音皆。叶居奚反>たり、淮水湝湝<音諧。叶賢雞反>たり、憂うる心且悲しめり。淑人君子、其の德回[よこしま]<叶乎爲反>ならず。○賦なり。喈喈は、猶將將のごとし。湝湝は、猶湯湯のごとし。悲は、猶傷むがごとし。回は、邪なり。

○鼓鐘伐鼛<音高。叶居尤反>、淮有三洲、憂心且妯<音抽>。淑人君子、其德不猶。賦也。鼛、大鼓也。周禮作皐云。皐鼓、尋有四尺。三洲、淮上地。蘇氏曰、始言湯湯、水盛也。中言湝湝、水流也。終言三洲、水落而洲見也。言幽王之久於淮上也。妯、動。猶、若也。言不若今王之荒亂也。
【読み】
○鐘を鼓ち鼛[こう]<音高。叶居尤反>を伐つ、淮に三洲有り、憂うる心且妯[うご]<音抽>けり。淑人君子、其の德猶[し]からず。賦なり。鼛は、大鼓なり。周禮に皐を作すと云う。皐鼓は、尋有四尺。三洲は、淮上の地。蘇氏が曰く、始めに湯湯と言うは、水の盛んなるなり。中に湝湝と言うは、水の流るるなり。終わりに三洲と言うは、水の落ちて洲見るなり、と。言うこころは、幽王の淮上に久しきなり。妯は、動く。猶は、若しなり。言うこころは、今の王の荒亂の若くならざるなり。

○鼓鐘欽欽、鼓瑟鼓琴、笙磬同音。以雅以南<叶尼心反>、以籥<音藥>不僭<叶上心反>○賦也。欽欽、亦聲也。磬、樂器。以石爲之。琴瑟在堂、笙磬在下。同音、言其和也。雅、二雅也。南、二南也。籥、籥舞也。僭、亂也。言三者皆不僭也。○蘇氏曰、言幽王之不德、豈其樂非古歟。樂則是、而人則非也。
【読み】
○鐘を鼓つこと欽欽たり、瑟を鼓[ひ]き琴を鼓き、笙磬[しょうけい]音を同じくす。以て雅し以て南<叶尼心反>し、以て籥[やく]<音藥>して僭[みだ]<叶上心反>れず。○賦なり。欽欽も、亦聲なり。磬は、樂器。石を以て之を爲る。琴瑟は堂に在り、笙磬は下に在り。音を同じくすとは、其の和らぐを言うなり。雅は、二雅なり。南は、二南なり。籥は、籥舞なり。僭[しん]は、亂るなり。言うこころは、三者皆僭れざるなり。○蘇氏が曰く、言うこころは、幽王の不德、豈其の樂は古に非ずや。樂は則ち是にして、人は則ち非なり、と。

鼓鐘四章章五句。此詩之義、有不可知者。今姑釋其訓詁名物、而略以王氏蘇氏之說解之。未敢信其必然也。
【読み】
鼓鐘[こしょう]四章章五句。此の詩の義、知る可からざる者有り。今姑く其の訓詁名物を釋すに、略王氏蘇氏之說を以て之を解く。未だ敢えて其の必ず然ることを信ぜざるなり。


楚楚者茨、言抽其棘。自昔何爲、我蓺<音藝>黍稷。我黍與與<音餘>、我稷翼翼。我倉旣盈、我庾維億。以爲酒食、以饗以祀<叶逸織反>、以妥以侑<音又。叶夷益反>、以介景福<叶音璧>賦也。楚楚、盛密貌。茨、蒺藜也。抽、除也。我、爲有田祿而奉祭祀者之自稱也。與與翼翼、皆蕃盛貌。露積曰庾。十萬曰億。饗、獻也。妥、安坐也。禮曰、詔妥尸。蓋祭祀、筮族人之子爲尸。旣奠迎之使處神坐、而拜以安之也。侑、勸也。恐尸或未飽、祝侑之曰、皇尸未實也。介、大也。景、亦大也。○此詩、述公卿有田祿者、力於農事、以奉其宗廟之祭。故言、蒺藜之地、有抽除其棘者。古人何乃爲此事乎。蓋將使我於此蓺黍稷也。故我之黍稷旣盛、倉庾旣實、則爲酒食以饗祀妥侑、而介大福也。
【読み】
楚楚たる茨あり、言[ここ]に其の棘を抽[ぬ]く。昔より何爲れぞ、我に黍稷を蓺[う]<音藝>えしむ。我が黍與與<音餘>たり、我が稷翼翼たり。我が倉旣に盈ち、我が庾[ゆ]維れ億なり。以て酒食を爲りて、以て饗[たてまつ]り以て祀<叶逸織反>り、以て妥[やす]んじ以て侑[すす]<音又。叶夷益反>めて、以て景[おお]いなる福<叶音璧>を介[おお]いにせん。賦なり。楚楚は、盛密なる貌。茨は、蒺藜[しつれい]なり。抽は、除くなり。我とは、田祿有りて祭祀に奉ずる者自ら稱すと爲すなり。與與翼翼は、皆蕃く盛んなる貌。露積を庾と曰う。十萬を億と曰う。饗は、獻るなり。妥は、安んじ坐するなり。禮に曰く、詔げて尸を妥んず、と。蓋し祭祀に、族人の子を筮して尸とす。旣に奠して之を迎え神坐に處らしめて、拜して以て之を安んず、と。侑[ゆう]は、勸むなり。恐らくは尸或は未だ飽かず、祝之を侑めて曰く、皇尸未だ實てず、と。介は、大いなり。景も、亦大いなり。○此の詩は、公卿の田祿有る者、農事を力めて、以て其の宗廟の祭に奉ずるを述ぶ。故に言う、蒺藜の地、其の棘を抽き除く者有り。古人何ぞ乃ち此の事を爲すや。蓋し將に我をして此に於て黍稷を蓺えしめんとす。故に我が黍稷旣に盛んにして、倉庾旣に實つれば、則ち酒食を爲りて以て饗祀妥侑して、大いなる福を介いにせんや、と。

○濟濟<上聲>蹌蹌<音槍>、絜爾牛羊、以往烝嘗。或剝或亨<音烹。叶鋪郎反>、或肆或將、祝祭于祊<音崩。叶補光反>、祀事孔明<叶謨郎反>。先祖是皇、神保是饗<叶虛郎反>。孝孫有慶<叶祛羊反>、報以介福、萬壽無疆。賦也。濟濟蹌蹌、言有容也。冬祭曰烝、秋祭曰嘗。剝、解剝其皮也。亨、煮熟之也。肆、陳之也。將、奉持而進之也。祊、廟門内也。孝子不知神之所在。故使祝博求之於門内待賓客之處也。孔、甚也。明、猶備也、著也。皇、大也、君也。保、安也。神保、蓋尸之嘉號。楚詞所謂靈保。亦以巫降神之稱也。孝孫、主祭之人也。慶、猶福也。
【読み】
○濟濟<上聲>蹌蹌[しょうしょう]<音槍>たり、爾が牛羊を絜くし、以て往いて烝嘗[しょうしょう]す。或は剝ぎ或は亨[に]<音烹。叶鋪郎反>、或は肆[つら]ね或は將[すす]め、祝をして祊[ほう]<音崩。叶補光反>に祭らしめ、祀の事孔[はなは]だ明[そな]<叶謨郎反>われり。先祖是れ皇[おお]いなり、神保是れ饗[う]<叶虛郎反>く。孝孫慶[さいわい]<叶祛羊反>有り、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽疆り無けん。賦なり。濟濟蹌蹌は、言うこころは、容るること有るなり。冬の祭を烝と曰い、秋の祭を嘗と曰う。剝は、其の皮を解き剝ぐなり。亨は、之を煮て熟するなり。肆は、之を陳ぬるなり。將は、奉持して之を進むるなり。祊は、廟門の内なり。孝子神の在る所を知らず。故に祝をして博く之を門内賓客を待つ處に求めしむ。孔は、甚だなり。明は、猶備うるのごとし、著くなり。皇は、大いなり、君なり。保は、安んずるなり。神保は、蓋し尸の嘉號。楚詞に所謂靈保、と。亦巫を以て神を降すの稱なり。孝孫は、祭を主る人なり。慶は、猶福のごとし。

○執爨<音竄>踖踖<音積。叶七略反>、爲俎孔碩<叶常約反>。或燔<音煩>或炙<音隻。叶陟略反>。君婦莫莫<音麥。叶木各反>、爲豆孔庶<叶陟略反>。爲賓爲客<叶克各反>。獻酬交錯、禮儀卒度<叶徒洛反>、笑語卒獲<叶黃郭反>。神保是格<叶剛鶴反>、報以介福、萬壽攸酢。賦也。爨、竈也。踖踖、敬也。俎、所以載牲體也。碩、大也。燔、燒肉也。炙、炙肝也。皆所以從獻也。特牲、主人獻尸、賓長以肝從。主婦獻尸、兄弟以燔從。是也。君婦、主婦也、莫莫、淸靜而敬至也。豆、所以盛肉羞・庶羞、主婦薦之也。庶、多也。賓客筮而戒之、使助祭者。旣獻尸、而遂與之相獻酬也。主人酌賓曰獻、賓飮主人曰酢。主人又自飮、而復飮賓曰酬。賓受之奠於席前而不舉、至旅而後少長相勸、而交錯以徧也。卒、盡也。度、法度也。獲、得其宜也。格、來。酢、報也。
【読み】
○爨[さん]<音竄>執ること踖踖[せきせき]<音積。叶七略反>たり、俎を爲ること孔だ碩[おお]<叶常約反>し。或は燔[はん]<音煩>し或は炙[せき]<音隻。叶陟略反>す。君婦莫莫<音麥。叶木各反>として、豆を爲ること孔だ庶[おお]<叶陟略反>し。賓と爲り客<叶克各反>と爲り、獻酬交々錯わり、禮儀卒[ことごと]く度[のり]<叶徒洛反>あり、笑語卒く獲<叶黃郭反>。神保是れ格[きた]<叶剛鶴反>り、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽酢[むく]ゆる攸ならん。賦なり。爨は、竈なり。踖踖は、敬むなり。俎は、牲體を載する所以なり。碩は、大いなり。燔は、肉を燒くなり。炙は、肝を炙るなり。皆從いて獻ずる所以なり。特牲に、主人尸に獻ずるに、賓の長肝を以て從う。主婦尸を獻ずるに、兄弟燔を以て從う、と。是れなり。君婦は、主婦なり、莫莫は、淸靜にして敬みの至れるなり。豆は、肉羞・庶羞を盛る所以、主婦之を薦むるなり。庶は、多きなり。賓客筮して之を戒[つ]ぐるに、祭を助くる者を使う。旣に尸に獻じて、遂に之と相獻酬す。主人賓に酌むを獻と曰い、賓主人に飮ましむるを酢と曰う。主人又自ら飮みて、復賓に飮ましむるを酬と曰う。賓之を受けて席の前に奠[お]いて舉げず、旅に至りて而して後に少長相勸めて、交々錯わりて以て徧くす。卒は、盡くなり。度は、法度なり。獲は、其の宜しきを得るなり。格は、來る。酢は、報ゆるなり。

○我孔熯<音善>矣、式禮莫愆<叶起巾反>。工祝致告、徂賚孝孫<叶須倫反>。苾<音邲>芬孝祀<叶逸織反>、神嗜飮食。卜爾百福<叶筆力反>、如幾<音機>如式。旣齊旣稷、旣匡旣敕。永錫爾極、時萬時億。賦也。熯、竭也。善其事曰工。苾芬、香也。卜、予也。幾、期也。春秋傳曰、易幾而哭。是也。式、法。齊、整。稷、疾。匡、正。敕、戒。極、至也。○禮行旣久、筋力竭矣。而式禮莫愆、敬之至也。於是祝致神意、以嘏主人曰、爾飮食芳、故報爾以福祿、使其來如幾、其多如法。爾禮容莊敬、故報爾以衆善之極、使爾無一事而不得乎此。各隨其事、而報之以其類也。少牢嘏詞曰、皇尸命工祝、承致多福無疆、于女孝孫、來女孝孫。使女受祿于天、宜稼于田、眉壽萬年、勿替引之。此大夫之禮也。
【読み】
○我れ孔だ熯[つ]<音善>きぬれども、式禮愆[あやまち]<叶起巾反>莫し。工祝致し告げ、徂いて孝孫<叶須倫反>に賚[たま]う。苾[ひつ]<音邲>芬たる孝祀<叶逸織反>、神飮食を嗜む。爾に百の福<叶筆力反>を卜[あた]う、幾の如<音機>く式[のり]の如けん。旣に齊い旣に稷[と]く、旣に匡しく旣に敕[いまし]む。永く爾に極まれるを錫うこと、時[こ]れ萬時れ億ならん。賦なり。熯は、竭[つ]くなり。其の事を善くするを工と曰う。苾芬は、香りなり。卜は、予うなり。幾は、期するなり。春秋傳に曰く、幾を易えて哭す、と。是れなり。式は、法。齊は、整う。稷は、疾き。匡は、正しき。敕は、戒む。極は、至れるなり。○禮の行わるること旣に久しくして、筋力竭きぬ。而れども式禮愆莫きは、敬の至りなり。是に於て祝神意を致し、以て主人に嘏[か]して曰く、爾が飮食芳、故に爾に報ゆるに福祿を以てし、其をして來ること幾の如く、其の多きこと法の如くならしむ。爾が禮容莊敬、故に爾に報ゆるに衆善の極みを以てし、爾をして一事として此に得ざること無からしむ、と。各々其の事に隨いて、之に報ゆるに其の類を以てす。少牢の嘏詞に曰く、皇尸工祝に命じ、多福を承け致すこと疆り無く、女の孝孫に于て、女の孝孫に來[たま]う。女をして祿を天に受けしめ、宜しく田に稼すべく、眉壽萬年、替[す]つること勿くして之を引[なが]くせよ、と。此れ大夫の禮なり。

○禮儀旣備<叶蒲北反>、鐘鼓旣戒<叶訖力反>。孝孫徂位<叶力入反>、工祝致告<叶古得反>。神具醉止、皇尸載起、鼓鐘送尸、神保聿歸。諸宰君婦、廢徹不遲。諸父兄弟、備言燕私<叶息夷反>○賦也。戒、告也。徂位、祭事旣畢、主人往阼階下、西面之位也。致告、祝傳尸意告利成於主人。言孝子之利養成畢也。於是神醉而尸起。送尸而神歸矣。曰皇尸者、尊稱之也。鼓鐘者、尸出入奏肆夏也。鬼神無形。言其醉而歸者、誠敬之至、如見之也。諸宰、家宰。非一人之稱也。廢、去也。不遲、以疾爲敬。亦不留神惠之意也。祭畢旣歸賓客之俎。同姓則留與之燕、以盡私恩。所以尊賓客親骨肉也。
【読み】
○禮儀旣に備<叶蒲北反>わり、鐘鼓旣に戒[つ]<叶訖力反>げたり。孝孫位<叶力入反>に徂き、工祝致し告<叶古得反>ぐ。神具[みな]醉い、皇尸載[すなわ]ち起ち、鼓鐘尸を送り、神保聿に歸る。諸宰君婦、廢[はら]い徹[あ]ぐること遲からず。諸父兄弟、備わりて言に燕私<叶息夷反>す。○賦なり。戒は、告ぐなり。位に徂くは、祭事旣に畢わり、主人阼階[そかい]の下、西面の位に往くなり。致し告ぐとは、祝尸の意を傳えて利成を主人に告ぐ。言うこころは、孝子の利養成畢するなり。是に於て神醉いて尸起つ。尸を送りて神歸る。皇尸と曰うは、之を尊稱するなり。鼓鐘は、尸出入するに肆夏を奏するなり。鬼神は形無し。其の醉いて歸ると言うは、誠敬の至り、之を見るが如きなり。諸宰は、家宰。一人の稱に非ず。廢は、去るなり。遲からずとは、疾きを以て敬と爲す。亦神の惠みを留めざるの意なり。祭畢わりて旣に賓客の俎を歸す。同姓は則ち留めて之と燕して、以て私恩を盡くす。賓客を尊び骨肉を親しむ所以なり。

○樂具入奏<音族>、以綏後祿。爾殽旣將、莫怨具慶<叶祛羊反>旣醉旣飽<叶補苟反>、小大稽首。神嗜飮食、使君壽考<叶去九反>。孔惠孔時、維其盡<叶子忍反>之、子子孫孫、勿替引之。賦也。凡廟之制、前廟以奉神、後寢以藏衣冠。祭於廟、而燕於寢。故於此將燕、而祭時之樂、皆入奏於寢也。且於祭旣受祿矣。故以燕爲將受後祿而綏之也。爾殽旣進、與燕之人、無有怨者。而皆歡慶醉飽、稽首而言曰、向者之祭神旣嗜君之飮食矣。是以使君壽考也。又言、君之祭祀、甚順甚時、無所不盡。子子孫孫、當不廢而引長之也。
【読み】
○樂具入りて奏<音族>で、以て後の祿[さいわい]を綏[やす]んず。爾の殽[さかな]旣に將[すす]め、怨み莫くして具慶<叶祛羊反>ぶ。旣に醉い旣に飽<叶補苟反>き、小大稽首す。神飮食を嗜んで、君をして壽考<叶去九反>ならしむ。孔だ惠[したが]い孔だ時ありて、維れ其れ之を盡<叶子忍反>くし、子子孫孫、替[す]つること勿くして之を引[なが]くせん。賦なり。凡そ廟の制、前廟は以て神を奉じ、後寢は以て衣冠を藏む。廟に祭りて、寢に燕す。故に此に於て將に燕せんとして、祭る時の樂、皆入りて寢に奏す。且つ祭に於て旣に祿を受く。故に燕を以て將に後祿を受けて之を綏んぜんとす。爾の殽旣に進むとは、燕に與る人、怨み有る者無し。而して皆歡慶醉飽し、稽首して言いて曰く、向者の祭神旣に君の飮食を嗜む、と。是を以て君をして壽考ならしむなり。又言う、君の祭祀、甚だ順い甚だ時あり、盡くさざる所無し。子子孫孫、當に廢てずして引いて之を長くすべし、と。

楚茨六章章十二句。呂氏曰、楚茨極言祭祀所以事神受福之節、致詳致備。所以推明先王致力於民者盡、則致力於神者詳。觀其威儀之盛、物品之豐、所以交神明逮羣下、至於受福無疆者。非德盛政修、何以致之。
【読み】
楚茨[そじ]六章章十二句。呂氏が曰く、楚茨は極めて祭祀の神に事り福を受くる所以の節を言いて、詳らかなるを致し備[つぶさ]なるを致す。所以に先王力を民に致す者を推し明らかにし盡くさば、則ち力を神に致す者詳らかなり。其の威儀の盛んに、物品の豐かなるを觀るは、神明に交わりて羣下に逮ぼす所以にて、福を受くること疆り無き者に至る。德盛政修に非ざれば、何を以てか之を致さん、と。


信彼南山、維禹甸<音殿。叶徒鄰反>之。畇畇<音匀>原隰、曾孫田<叶地因反>之。我疆我理、南東其畞<叶滿彼反>○賦也。南山、終南山也。甸、治也。畇畇、墾辟貌。曾孫、主祭者之稱。曾、重也。自曾祖以至無窮、皆得稱之也。疆者、爲之大界也。理者定其溝塗也。畞壟也。長樂劉氏曰、其遂東入于溝、則其畞南矣。其遂南入于溝、則其畞東矣。○此詩大指與楚茨略同。此卽其篇首四句之意也。言信乎此南山者、本禹之所治。故其原隰墾闢而我得田之。於是爲之疆理、而順其地勢水勢之所宜。或南其畞、或東其畞也。
【読み】
信[まこと]なるかな彼の南山、維れ禹之を甸[おさ]<音殿。叶徒鄰反>めり。畇畇[きんきん]<音匀>たる原隰、曾孫之を田<叶地因反>づくれり。我れ疆り我れ理[わ]かち、其の畞<叶滿彼反>を南東にす。○賦なり。南山は、終南山なり。甸[でん]は、治むなり。畇畇は、墾辟する貌。曾孫は、祭を主る者の稱。曾は、重ぬるなり。曾祖より以て無窮に至るまで、皆之を稱するを得るなり。疆は、之が大界を爲すなり。理は其の溝塗を定むるなり。畞壟[ほろう]なり。長樂の劉氏が曰く、其の遂東し溝に入るときは、則ち其の畞南す。其の遂南し溝に入るときは、則ち其の畞東す、と。○此の詩の大指は楚茨と略同じ。此れ卽ち其の篇首四句の意なり、と。言うこころは、信なるかな此の南山は、本禹の治むる所。故に其の原隰墾闢して我れ之を田づくることを得。是に於て之が疆理を爲りて、其の地勢水勢の宜しき所に順う。或は其の畞を南にし、或は其の畞を東にす。

○上天同雲、雨<去聲>雪雰雰。益之以霢<音麥><音木>。旣優旣渥<叶烏谷反>、旣霑旣足、生我百穀。賦也。同雲、雲一色也。將雪之候如此。雰雰、雪貌。霢霂、小雨貌。優、渥。霑、足。皆饒洽之意也。冬有積雪、春而益之、以小雨潤澤、則饒洽矣。
【読み】
○上天雲を同[ひと]しくし、雪を雨[ふ]<去聲>らすこと雰雰[ふんぷん]たり。之を益すに霢[ばく]<音麥>霂[ぼく]<音木>を以てす。旣に優[ゆた]かに旣に渥<叶烏谷反>く、旣に霑[うるお]い旣に足り、我が百穀を生す。賦なり。同雲は、雲一色なり。將に雪ふらんとするの候此の如し。雰雰は、雪の貌。霢霂は、小雨の貌。優は、渥し。霑は、足る。皆饒洽するの意なり。冬に積雪有り、春にして之を益すに、小雨潤澤なるを以てすれば、則ち饒洽す。

○疆場<音亦>翼翼、黍稷彧彧<音郁。叶于逼反>。曾孫之穡。以爲酒食、畀<音祕>我尸賓、壽考萬年<叶泥因反>○賦也。場、畔也。翼翼、整飭貌。彧彧、茂盛貌。畀、與也。○言其田整飭、而穀茂盛者、皆曾孫之穡也。於是以爲酒食、而獻之於尸及賓客也。陰陽和、萬物遂、而人心歡悅。以奉宗廟、則神降之福。故壽考萬年也。
【読み】
○疆場[きょうえき]<音亦>翼翼たり、黍稷彧彧[いくいく]<音郁。叶于逼反>たり。曾孫の穡[なりわい]なり。以て酒食を爲りて、我が尸賓[しひん]に畀[あた]<音祕>えば、壽考萬年<叶泥因反>ならん。○賦なり。場は、畔なり。翼翼は、整飭なる貌。彧彧は、茂ること盛んなる貌。畀は、與うなり。○言うこころは、其の田整飭にして、穀茂盛するは、皆曾孫の穡なり。是に於て以て酒食を爲りて、之を尸及び賓客に獻ず。陰陽和らぎ、萬物遂げて、人心歡び悅ぶ。以て宗廟に奉ずれば、則ち神之に福を降す。故に壽考萬年なり。

○中田有廬、疆埸<音亦>有瓜<叶攻乎反>。是剝是菹<側居反>、獻之皇祖、曾孫壽考<叶孔五反>、受天之祜<音戶>○賦也。中田、田中也。菹、酢菜也。祜、福也。○一井之田、其中百畞爲公田、内以二十畞、分八家爲廬舍、以便田事。於畔上種瓜、以盡地利瓜成、剝削淹漬以爲菹、而獻皇祖。貴四時之異物、順孝子之心也。
【読み】
○中田に廬有り、疆埸<音亦>に瓜<叶攻乎反>有り。是れ剝し是れ菹[そ]<側居反>し、之を皇祖に獻れば、曾孫壽考<叶孔五反>にして、天の祜[さいわい]<音戶>を受けん。○賦なり。中田は、田中なり。菹は、酢菜なり。祜[こ]は、福なり。○一井の田、其の中百畞を公田とし、内二十畞を以て、八家に分けて廬舍と爲して、以て田事に便りす。畔上に於て瓜を種えて、以て地利を盡くせば瓜成りて、剝削淹漬して以て菹とし、而して皇祖に獻る。四時の異物を貴ぶこと、孝子の心に順うなり。

○祭以淸酒、從以騂<音觪>牡、享于祖考<叶去久反>。執其鸞刀、以啓其毛、取其血膋<音聊。叶音勞>○賦也。淸酒、淸潔之酒、鬱鬯之屬也。騂、赤色。周所尙也。祭禮、先以鬱鬯灌地、求神於陰。然後迎牲。執者、主人親執也。鸞刀、刀有鈴也。膋、脂膏也。啓其毛以告純也。取其血以告殺也。取其膋以升臭也。合之黍稷、實之於蕭而燔之、以求神於陽也。記曰、周人尙臭。灌用鬯臭鬱合鬯、臭陰達於淵泉。灌以圭璋、用玉氣也。旣灌然後迎牲、致陰氣也。蕭合黍稷、臭陽達於牆屋。故旣奠、然後焫蕭合羶薌。凡祭愼諸此。魂氣歸于天、形魄歸于地。故祭求諸陰陽之義也。
【読み】
○祭るに淸酒を以てし、從うるに騂[せい]<音觪>牡を以てし、祖考<叶去久反>に享[たてまつ]る。其の鸞刀[らんとう]を執り、以て其の毛を啓[つ]げ、其の血膋[けつりょう]<音聊。叶音勞>を取る。○賦なり。淸酒は、淸潔なる酒、鬱鬯[うっちょう]の屬なり。騂は、赤色。周の尙ぶ所なり。祭禮に、先ず鬱鬯を以て地に灌いで、神を陰に求む。然して後に牲を迎う、と。執るとは、主人親ら執るなり。鸞刀は、刀に鈴有るなり。膋は、脂膏なり。其の毛を啓げて以て純なるを告ぐ。其の血を取りて以て殺すことを告ぐ。其の膋を取りて以て臭いを升[あ]ぐ。之を黍稷に合わせ、之を蕭に實[みた]して之を燔[や]き、以て神を陽に求む。記に曰く、周人臭いを尙ぶ。灌ぐに鬯臭を用いて鬱鬯に合わせ、臭陰に淵泉に達す。灌ぐに圭璋を以てするは、玉氣を用うるなり。旣に灌いで然して後に牲を迎えて、陰氣を致す。蕭黍稷に合わせ、臭陽に牆屋に達す。故に旣に奠し、然して後に蕭を焫[や]いて羶薌[せんきょう]に合わす。凡そ祭は此を愼む。魂氣は天に歸り、形魄は地に歸る。故に祭は諸を陰陽に求むるの義なり。

○是烝是享<叶虛良反>、苾苾芬芬、祀事孔明<叶謨郎反>。先祖是皇、報以介福、萬壽無疆。賦也。蒸、進也。或曰、冬祭名。
【読み】
○是れ烝[すす]め是れ享<叶虛良反>り、苾苾[ひつひつ]芬芬[ふんぷん]として、祀の事孔[はなは]だ明<叶謨郎反>らかなり。先祖是れ皇[おお]いに、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽疆り無けん。賦なり。蒸は、進むなり。或ひと曰く、冬の祭の名、と。

信南山六章章六句
【読み】
信南山[しんなんざん]六章章六句


<音卓>彼甫田<叶地因反>、歲取十千<叶倉新反>。我取其陳、食<音嗣>我農人。自古有年<叶泥因反>、今適南畞<叶滿彼反>、或耘或耔<音子。叶獎里反>、黍稷薿薿<音蟻>。攸介攸止、烝我髦<音毛>士。賦也。倬、明貌。甫、大也。十千、謂一成之田。地方十里、爲田九萬畞、而以其萬畞爲公田。蓋九一之法也。我、食祿主祭之人也。陳、舊粟也。農人、私百畞而養公田者也。有年、豐年也。適、往也。耘、除草也。耔、雝本也。蓋后稷爲田、一畞三畎、廣尺深尺、而播種於其中。苗葉以上、稍耨壠草。因壝其土、以附苗根。壠盡畎平、則根深而能風與旱也。薿、茂盛貌。介、大。烝、進。髦、俊也。俊士、秀民也。古者士出於農、而工商不與焉。管仲曰、農之子恆爲農、野處而不暱。其秀民之能爲士者、必足賴也、卽謂此也。○此詩述公卿有田祿者、力於農事、以奉方社田祖之祭。故言於此大田、歲取萬畞之入、以爲祿食。及其積之久而有餘、則又存其新而散其舊、以食農人、補不足助不給也。蓋以自古有年。是以陳陳相因、所積如此。然其用之之節、又合宜而有序如此。所以粟雖甚多、而無紅腐不可食之患也。又言自古旣有年矣。今適南畞、農人方且或耘或耔、而其黍稷又已茂盛、則是又將復有年矣。故於其所美大止息之處、進我髦士、而勞之也。
【読み】
<音卓>たる彼の甫田<叶地因反>、歲ごとに十千<叶倉新反>を取る。我れ其の陳を取りて、我が農人を食[やしな]<音嗣>う。古より有年<叶泥因反>なり、今南畞<叶滿彼反>に適けば、或は耘[くさぎ]り或は耔[つちか]<音子。叶獎里反>い、黍稷薿薿[ぎぎ]<音蟻>たり。介[おお]いなる攸止まる攸、我が髦[ぼう]<音毛>士を烝[すす]む。賦なり。倬は、明らかなる貌。甫は、大いなり。十千は、一成の田を謂う。地方十里、田九萬畞と爲して、其の萬畞を以て公田とす。蓋し九一の法なり。我は、祿を食み祭を主る人なり。陳は、舊き粟なり。農人は、百畞を私にして公田を養う者なり。有年は、豐年なり。適は、往くなり。耘は、草を除くなり。耔は、本を雝[ふさ]ぐなり。蓋し后稷の田を爲す、一畞三畎、廣さ尺深さ尺にて、種を其の中に播く。苗葉以上は、稍壠[ろう]の草を耨[くさぎ]る。因りて其の土を壝[い]にして、以て苗の根に附く。壠盡き畎平らかなれば、則ち根深くして風と旱とに能[た]うなり。薿は、茂ること盛んなる貌。介は、大き。烝は、進む。髦は、俊なり。俊士は、秀民なり。古は士は農より出でて、工商與らず。管仲が曰く、農の子恆に農と爲り、野處して暱[ちかづ]かず。其の秀民の能く士爲る者は、必ず賴むに足れりとは、卽ち此を謂うなり。○此の詩は公卿にて田祿有る者、農事に力めて、以て方社田祖の祭に奉ずるを述ぶ。故に言う、此の大田に於て、歲ごとに萬畞の入るを取りて、以て祿食とす。其の積の久しくして餘り有るに及んでは、則ち又其の新らしきを存して其の舊きを散じ、以て農人を食い、足らざるを補い給[た]らざるを助く。蓋し以[おも]んみるに古より有年なり。是を以て陳陳相因りて、積む所此の如し。然れども其の之を用うるの節、又宜しきに合いて序有ること此の如し。所以に粟甚だ多しと雖も、而も紅腐の食う可からざるの患え無し、と。又言う、古より旣に有年なり。今南畞に適きて、農人方に且つ或は耘り或は耔いて、其の黍稷も又已に茂盛なれば、則ち是れ又將に復有年なり。故に其の美大止息する所の處に於て、我が髦士を進めて、之を勞う、と。

○以我齊<音咨><叶謨郎反>、與我犧羊、以社以方。我田旣臧、農夫之慶<叶祛羊反>。琴瑟擊鼓、以御<牙嫁反>田祖、以祈甘雨、以介我稷黍、以穀我士女。賦也。齊與粢同。曲禮曰、稷曰明粢。此言齊明、便文以協韻耳。犧羊、純色之羊也。社、后土也。以句龍氏配。方、秋祭四方報成萬物。周禮所謂羅弊獻禽、以祀祊、是也。臧、善。慶、福。御、迎也。田祖、先嗇也。謂始耕田者、卽神農也。周禮籥章、凡國祈年于田祖、則吹豳雅、擊土鼓、以樂田畯、是也。穀、養也。又曰、善也。言倉廩實、而知禮節也。○言奉其齊盛犠牲、以祭方社而曰、我田之所以善者、非我之所能致也。乃賴農夫之福而致之耳。又作樂以祭田祖而祈雨、庶有以大其稷黍、而養其民人也。
【読み】
○我が齊<音咨><叶謨郎反>と、我が犧羊とを以て、以て社し以て方す。我が田旣に臧[よ]し、農夫の慶[さいわい]<叶祛羊反>なり。琴瑟擊鼓、以て田祖を御[むか]<牙嫁反>え、以て甘雨を祈り、以て我が稷黍を介いにし、以て我が士女を穀[やしな]わん。賦なり。齊と粢[し]とは同じ。曲禮に曰く、稷を明粢と曰う、と。此に齊明と言うは、文に便りして以て韻に協うのみ。犧羊は、純色の羊なり。社は、后土なり。句龍氏を以て配す。方は、秋に四方を祭りて萬物を報じ成す。周禮に所謂羅弊して禽を獻り、以て祊[ほう]を祀るとは、是れなり。臧は、善き。慶は、福。御は、迎うなり。田祖は、先嗇[せんしょく]なり。始めて田を耕せる者を謂い、卽ち神農なり。周禮の籥[やく]章に、凡そ國ごとに年を田祖に祈るに、則ち豳雅を吹き、土鼓を擊ち、以て田畯を樂しましむとは、是れなり。穀は、養うなり。又曰く、善、と。言うこころは、倉廩實ちて、禮節を知るなり。○言うこころは、其の齊盛犠牲を奉じて、以て方社を祭りて曰く、我が田の善き所以の者は、我が能く致す所に非ず。乃ち農夫の福に賴りて之を致すのみ、と。又樂を作りて以て田祖を祭りて雨を祈り、庶わくは以て其の稷黍を大いにして、其の民人を養うこと有らん、と。

○曾孫來止、以其婦子<叶奬里反>、饁<音曄>彼南畞<叶滿彼反>。田畯<音俊>至喜。攘<音穰>其左右<叶羽已反>、嘗其旨否<叶補美反>。禾易長畞、終善且有<叶羽已反>。曾孫不怒、農夫克敏<叶母鄙反>○賦也。曾孫、主祭者之稱。非獨宗廟爲然。曲禮、外事曰曾孫某侯某。武王禱名山大川。曰、有道曾孫周王發、是也。饁、餉。攘、取。旨、美。易、治。長、竟。有、多。敏、疾也。○曾孫之來、適見農夫之婦子來饁耘者。於是與之偕至其所、而田畯亦至而喜之。乃取其左右之饋、而嘗其旨否。言其上下相親之甚也。旣又見其禾之易治、竟畞如一、而知其終當善而且多。是以曾孫不怒、而其農夫益以敏於其事也。
【読み】
○曾孫來るに、其の婦子<叶奬里反>を以[い]て、彼の南畞<叶滿彼反>に饁[かれい]<音曄>おくる。田畯<音俊>至りて喜べり。其の左右<叶羽已反>を攘[と]<音穰>りて、其の旨否<叶補美反>を嘗む。禾[いね]易[おさ]まり畞に長[お]う、終に善くして且つ有[おお]<叶羽已反>し。曾孫怒らず、農夫克く敏<叶母鄙反>し。○賦なり。曾孫は、祭を主る者の稱。獨り宗廟のみ然りとするに非ず。曲禮に、外事には曾孫某侯某と曰う、と。武王名山大川に禱る。曰く、有道の曾孫周王發とは、是れなり。饁[こう]は、餉[しょう]。攘は、取る。旨は、美し。易は、治むる。長は、竟う。有は、多き。敏は、疾きなり。○曾孫の來るときは、適に農夫の婦子來りて耘る者に饁おくるを見る。是に於て之と偕に其の所に至りて、田畯も亦至りて之を喜ぶ。乃ち其の左右の饋[き]を取りて、其の旨否を嘗む。言うこころは、其の上下相親しむことの甚だしきなり。旣に又其の禾の易まり治まりて、畞を竟うこと一の如くにして、其の終に當に善くして且つ多きを知る。是を以て曾孫怒らずして、其の農夫益々以て其の事を敏くするを見る。

○曾孫之稼、如茨如梁。曾孫之庾、如坻<音池>如京<叶居良反>。乃求千斯倉、乃求萬斯箱。黍稷稻粱、農夫之慶<叶祛羊反>、報以介福、萬壽無疆。賦也。茨、屋蓋。言其密比也。梁、車梁。言其穹隆也。坻、水中之高地也。京、高丘也。箱、車箱也。○此言收成之後、禾稼旣多、則求倉以處之、求車以載之。而言、凡此黍稷稻粱、皆賴農夫之慶而得之。是宜報以大福、使之萬壽無疆也。其歸美於下、而欲厚報之如此。
【読み】
○曾孫の稼、茨[かやや]の如く梁[はし]の如し。曾孫の庾[ゆ]、坻[ち]<音池>の如く京<叶居良反>の如し。乃ち千の斯の倉を求め、乃ち萬の斯の箱を求む。黍稷稻粱は、農夫の慶<叶祛羊反>び、報ゆるに介いなる福を以てして、萬壽疆り無けん。賦なり。茨は、屋蓋。言うこころは、其の密比なるなり。梁は、車梁。言うこころは、其の穹隆なるなり。坻は、水中の高き地なり。京は、高き丘なり。箱は、車箱なり。○此れ言うこころは、收成の後、禾稼旣に多くば、則ち倉を求めて以て之を處き、車を求めて以て之を載す。而して言う、凡そ此の黍稷稻粱は、皆農夫の慶びに賴りて之を得たり。是れ宜しく報ゆるに大いなる福を以てすべく、之をして萬壽疆り無からしむ、と。其れ美を下に歸して、厚く之を報いんと欲すること此の如し。

甫田四章章十句
【読み】
甫田[ほてん]四章章十句


大田多稼<去聲>、旣種旣戒。旣備乃事<叶上止反>、以我覃<音剡><叶養里反>、俶載南畞<叶滿彼反>。播厥百穀<叶工洛反>、旣庭且碩<叶常約反>。曾孫是若。賦也。種、擇其種也。戒、飭其具也。覃、利。俶、始。載、事。庭、直。碩、大。若、順也。○蘇氏曰、田大而種多。故於今歲之冬、具來歲之種、戒來歲之事。凡旣備矣、然後事之。取其利耜、而始事於南畞、旣耕而播之。其耕之也勤、而種之也時。故其生者皆直而大、以順曾孫之所欲。此詩爲農夫之詞、以頌美其上。若以答前篇之意也。
【読み】
大田稼<去聲>えんこと多し、旣に種えり旣に戒[そな]う。旣に備わりて乃ち事<叶上止反>あり、我が覃[と]<音剡>き耜[すき]<叶養里反>を以て、載[こと]を南畞<叶滿彼反>に俶[はじ]む。厥の百穀<叶工洛反>を播[ほどこ]し、旣に庭[なお]く且つ碩[おお]<叶常約反>いなり。曾孫是れ若[したが]えり。賦なり。種は、其の種を擇ぶなり。戒は、其の具を飭[そな]うなり。覃[えん]は、利き。俶[しゅく]は、始め。載は、事。庭は、直き。碩は、大い。若は、順うなり。○蘇氏が曰く、田大いにして種多し。故に今歲の冬に於て、來歲の種を具え、來歲の事を戒う。凡そ旣に備わり、然して後に之を事とす。其の利き耜を取りて、事を南畞に始め、旣に耕して之を播す。其れ之を耕すこと勤めて、之を種しくこと時あり。故に其の生ずる者皆直くして大いにて、以て曾孫の欲する所に順う。此の詩は農夫の詞と爲して、以て其の上を頌美す。以て前の篇の意に答うるが若し、と。

○旣方旣皁<叶子苟反>、旣堅旣好<叶常約反>、不稂<音郎>不莠<音酉><上聲>其螟<音冥><音特>、及其蟊賊、無害我田穉<音稚>。田祖有神、秉畀炎火<叶虎委反>○賦也。方、房也。謂孚甲始生、而未合時也。實未堅者曰皁。稂、童梁。莠、似苗。皆害苗之草也。食心曰螟、食葉曰螣、食根曰蟊、食節曰賊。皆害苗之蟲也。穉、幼禾也。○言其苗旣盛矣、又必去此四蟲、然後可以無害田中之禾。然非人力所及也。故願田祖之神、爲我持此四蟲、而付之炎火之中也。姚崇遣使捕蝗。引此爲證。夜中設火、火邊掘坑、且焚且瘞。蓋古之遺法如此。
【読み】
○旣に方し旣に皁[そう]<叶子苟反>し、旣に堅く旣に好し<叶常約反>、稂[ろう]<音郎>あらず莠[ゆう]<音酉>あらず。其の螟[めい]<音冥>螣[とく]<音特>と、其の蟊[ぼう]賊とを去[はら]<上聲>わば、我が田の穉<音稚>を害うこと無けん。田祖神有り、秉りて炎火<叶虎委反>に畀[あた]えよ。○賦なり。方は、房なり。孚甲始めて生じて、未だ合わざる時を謂うなり。實未だ堅からざる者を皁と曰う。稂は、童梁。莠は、苗に似る。皆苗を害する草なり。心を食うを螟と曰い、葉を食うを螣と曰い、根を食うを蟊と曰い、節を食うを賊と曰う。皆苗を害する蟲なり。穉は、幼き禾[いね]なり。○言うこころは、其の苗旣に盛んにして、又必ず此の四つの蟲を去いて、然して後に以て田中の禾を害すること無かる可し。然も人力の及ぶ所に非ず。故に願わくは田祖の神、我が爲に此の四つの蟲を持[と]りて、之を炎火の中に付せ。姚[よう]崇使を遣りて蝗を捕る。此を引いて證とす。夜中に火を設け、火邊に坑を掘りて、且つ焚き且つ瘞[うず]む。蓋し古の遺法此の如し。

○有渰<音掩>萋萋<音妻>、興雨祁祁。雨我公田、遂及我私<叶息夷反>。彼有不穫穉、此有不<音嚌>、彼有遺秉、此有滯穗、伊寡婦之利。賦也。渰、雲興貌。萋萋、盛貌。祁祁、徐也。雲欲盛。盛則多雨。雨欲徐。徐則入土。公田者、方里而井。井、九百畞。其中爲公田。八家皆私百畞、而同養公田也。穧、束。秉、把也。滯、亦遺棄之意也。言農夫之心、先公後私。故望此雲雨而曰、天其雨我公田、而遂及我之私田乎。冀怙君德、而蒙其餘惠。使收成之際、彼有不及穫之穉禾、此有不及之穧束、彼有遺棄之禾把、此有滯漏之禾穗。而寡婦尙得取之以爲利也。此見其豐成有餘而不盡取、又與鰥寡共之。旣足以爲不費之惠、而亦不棄於地也。不然、則粒米狼戾、不殆於輕視天物而慢棄之乎。
【読み】
○渰[えん]<音掩>たる有り萋萋[せいせい]<音妻>たり、雨を興すこと祁祁[きき]たり。我が公田に雨ふらし、遂に我が私<叶息夷反>に及ぼさん。彼[かしこ]に穫らざる穉有り、此に斂[おさ]めざる穧[せい]<音嚌>有り、彼に遺れる秉有り、此に滯[お]ちたる穗有り、伊れ寡婦の利とせん。賦なり。渰は、雲興る貌。萋萋は、盛んなる貌。祁祁は、徐[しず]かなり。雲盛んなるを欲す。盛んなれば則ち雨多し。雨徐かなるを欲す。徐かなれば則ち土に入る。公田は、方里にして井す。井は、九百畞。其の中を公田とす。八家皆百畞を私して、同じく公田を養うなり。穧は、束。秉は、把なり。滯も、亦遺棄するの意なり。言うこころは、農夫の心、公を先にして私を後にす。故に此の雲雨を望んで曰く、天其れ我が公田に雨ふらして、遂に我が私田に及ぼさんか、と。君德を怙[たの]んで、其の餘惠を蒙らんこと冀う。收成の際をして、彼には穫るに及ばざるの穉禾有り、此には斂むるに及ばざるの穧束有り、彼には遺棄せる禾把有り、此には滯漏せる禾穗有らしむ。而して寡婦尙之を取りて以て利とするを得るなり。此れ其の豐かに成ること餘り有りて盡く取らずして、又鰥寡と之を共にすることを見す。旣に以て不費の惠みとするに足りて、亦地に棄てざるなり。然らずんば、則ち粒米狼戾にして、輕々しく天物を視て之を慢り棄つるに殆[ちか]からずや。

○曾孫來止、以其婦子、饁彼南畞。田畯至喜。來方禋<音因><叶逸織反>。以其騂黑、與其黍稷、以享以祀<同上>、以介景福<叶筆力反>○賦也。精意以享、謂之禋。○農夫相告曰、曾孫來矣。於是與其婦子、饁彼南畞之穫者。而田畯亦至而喜之也。曾孫之來、又禋祀四方之神而賽禱焉。四方各用其方色之牲。此言騂黑、舉南北以見其餘也。以介景福、農夫欲曾孫之受福也。
【読み】
○曾孫來れり、其の婦子を以[い]て、彼の南畞に饁[かれい]おくる。田畯至りて喜べり。來りて方に禋[いん]<音因><叶逸織反>す。其の騂黑[せいこく]と、其の黍稷とを以てして、以て享り以て祀<上に同じ>り、以て景[おお]いなる福<叶筆力反>を介[おお]いにせん。○賦なり。精意以て享する、之を禋と謂う。○農夫相告げて曰く、曾孫來れり、と。是に於て其の婦子と、彼の南畞の穫る者に饁おくる。而して田畯も亦至りて之を喜ぶ。曾孫の來るは、又四方の神を禋祀して、賽禱[さいじゅ]するなり。四方各々其の方色の牲を用う。此に騂黑と言うは、南北を舉げて以て其の餘を見すなり。以て景いなる福を介いにすとは、農夫曾孫の福を受けんことを欲するなり。

大田四章。二章章八句。二章章九句。前篇有擊鼓以御田祖之文。故或疑此楚茨・信南山・甫田・大田四篇、卽爲豳雅。其詳見於豳風之末。亦未知其是否也。然前篇上之人、以我田旣臧、爲農夫之慶、而欲報之以介福、此篇農夫以雨我公田、遂及我私、而欲其享祀以介景福、上下之情、所以相賴而相報者如此。非盛德、其孰能之。
【読み】
大田[たいてん]四章。二章章八句。二章章九句。前篇に鼓を擊ちて以て田祖を御[むか]うの文有り。故に或ひと疑いて、此の楚茨・信南山・甫田・大田の四篇は、卽ち豳雅爲りとす。其の詳は豳風の末に見えたり。亦未だ其の是否を知らず。然れども前篇上の人は、我が田旣に臧し、農夫の慶びありとするを以て、之に報ゆるに介いなる福を以てせんと欲し、此の篇は農夫我が公田に雨ふり、遂に我が私に及ぶを以て、其の享祀して以て景いなる福を介いにせんと欲し、上下の情、相賴りて相報ずる所以の者此の如し。盛德に非ずんば、其れ孰か之を能くせん。


瞻彼洛矣、維水泱泱<音秧>。君子至止、福祿如茨。韎<音昧><音閤>有奭<音赩>、以作六師。賦也。洛、水名、在東都。會諸侯之處也。泱泱、深廣也。君子、指天子也。茨、積也。韎、茅蒐所染色也。韐、韠也。合韋爲之。周官所謂韋弁、兵事之服也。奭、赤貌。作、猶起也。六師、六軍也。天子六軍。○此天子會諸侯于東都、以講武事、而諸侯美天子之詩。言天子至此洛水之上、御戎服而起六師也。
【読み】
彼の洛を瞻れば、維れ水泱泱[ようよう]<音秧>たり。君子至れり、福祿茨[つ]めるが如し。韎[ばい]<音昧>韐[こう]<音閤>奭[きょく]<音赩>たる有り、以て六師を作[お]こせり。賦なり。洛は、水の名、東都に在り。諸侯を會する處なり。泱泱は、深く廣きなり。君子は、天子を指すなり。茨は、積むなり。韎は、茅蒐染むる所の色なり。韐は、韠[ひつ]なり。韋を合わせて之を爲る。周官に所謂韋弁、兵事の服なり。奭は、赤き貌。作は、猶起こるのごとし。六師は、六軍なり。天子は六軍。○此れ天子諸侯を東都に會して、以て武事を講じ、而して諸侯の天子を美むる詩なり。言うこころは、天子此の洛水の上に至りて、戎服を御して六師を起こすなり。

○瞻彼洛矣、維水泱泱。君子至止、鞞<補頂反><音菶>有珌<音必>。君子萬年、保其家室。賦也。鞞、容刀之鞞。今刀鞘也。琫、上飾。珌、下飾。亦戎服也。
【読み】
○彼の洛を瞻れば、維れ水泱泱たり。君子至れり、鞞[へい]<補頂反>に琫[ほう]<音菶>して珌[ひつ]<音必>有り。君子萬年、其の家室を保たん。賦なり。鞞は、刀を容るる鞞[さや]。今の刀鞘なり。琫は、上の飾り。珌は、下の飾り。亦戎服なり。

○瞻彼洛矣、維水泱泱。君子至止、福祿旣同。君子萬年、保其家邦<叶上工反>○賦也。同、猶聚也。
【読み】
○彼の洛を瞻れば、維れ水泱泱たり。君子至れり、福祿旣に同[あつ]まる。君子萬年、其の家邦<叶上工反>を保たん。○賦なり。同は、猶聚むのごとし。

瞻彼洛矣三章章六句
【読み】
瞻彼洛矣[せんひらくい]三章章六句


裳裳者華、其葉湑<上聲>兮。我覯之子、我心寫<叶想與反>兮。我心寫兮、是以有譽處兮。興也。裳裳、猶堂堂。董氏云、古本作常。常棣也。湑、盛貌。覯、見。處、安也。○此天子美諸侯之詞。蓋以答瞻彼洛矣也。言堂裳者華、則其葉湑然而美盛矣。我覯之子、則其心傾寫而悅樂之矣。夫能使見者悅樂之如此、則其有譽處宜矣。此章與蓼蕭首章文勢全相似。
【読み】
裳裳[しょうしょう]たる華、其の葉湑[しょ]<上聲>たり。我れ之の子を覯[み]れば、我が心寫[うつ]<叶想與反>れり。我が心寫る、是を以て譽れ有りて處[やす]し。興なり。裳裳は、猶堂堂のごとし。董氏が云う、古本に常に作る。常棣[じょうてい]、と。湑は、盛んなる貌。覯は、見る。處は、安きなり。○此れ天子の諸侯を美むる詞なり。蓋し以て瞻彼洛矣に答うるなり。言うこころは、堂裳たる華は、則ち其の葉湑然として美しく盛んなり。我れ之の子を覯れば、則ち其の心傾寫して之を悅樂す。夫れ能く見る者をして之を悅樂せしむること此の如くなれば、則ち其の譽れ有りて處るに宜きなり。此の章は蓼蕭[りくしょう]の首章と文勢全く相似たり。

○裳裳者華、芸其黃矣。我覯之子、維其有章矣。維其有章矣、是以有慶<叶虛羊反>矣。興也。芸、黃盛也。章、文章也。有文章、斯有福慶矣。
【読み】
○裳裳たる華、芸として其れ黃なり。我れ之の子を覯れば、維れ其れ章有り。維れ其れ章有り、是を以て慶[さいわい]<叶虛羊反>有り。興なり。芸は、黃の盛んなるなり。章は、文章なり。文章有りて、斯に福慶有り。

○裳裳者華、或黃或白<叶僕各反>。我覯之子、乘其四駱。乘其四駱、六轡沃若。興也。言其車馬威儀之盛。
【読み】
○裳裳たる華、或は黃に或は白<叶僕各反>し。我れ之の子を覯れば、其の四駱に乘れり。其の四駱に乘る、六轡[りくひ]沃若たり。興なり。其の車馬の威儀の盛んなるを言う。

○左<叶祖戈反>之左<同上>之、君子宜<叶牛何反>之。右<叶羽已反>之右<同上>之、君子有<叶羽已反>之。維其有<同上>之、是以似<叶養里反>之。賦也。言其才全德備。以左之、則無所不宜、以右之、則無所不有。維其有之於内、是以形之於外者、無不似其所有也。
【読み】
○之を左<叶祖戈反>にし之を左<上に同じ>にするも、君子之を宜<叶牛何反>しくす、之を右<叶羽已反>にし之を右<上に同じ>にするも、君子之を有<叶羽已反>つ。維れ其の之を有<上に同じ>つ、是を以て之に似<叶養里反>れり。賦なり。言うこころは、其の才全く德備われり。以て之を左にすれば、則ち宜しからざる所無く、以て之を右にすれば、則ち有たざる所無し。維れ其の之を内に有つ、是を以て之を外に形す者は、其の有つ所に似ざること無し。

裳裳者華四章。章六句
【読み】
裳裳者華[しょうしょうしゃか]四章。章六句


北山之什十篇。四十六章。三百三十四句


桑扈之什二之七
【読み】
桑扈[そうこ]の什二の七


交交桑扈<音戶>、有鶯其羽。君子樂<音洛><叶思呂反>、受天之祜<音戶>○興也。交交、飛往來之貌。桑扈、竊脂也。鶯然、有文章也。君子、指諸侯。胥、語詞。祜、福也。○此亦天子燕諸侯之詩。言交交桑扈、則有鶯其羽矣。君子樂胥、則受天之祜矣。頌禱之詞也。
【読み】
交交たる桑扈[そうこ]<音戶>、鶯[おう]たる其の羽有り。君子の樂<音洛>しめる、天の祜[さいわい]<音戶>を受く。○興なり。交交は、飛んで往來する貌。桑扈は、竊脂[せっし]なり。鶯然は、文章有るなり。君子は、諸侯を指す。胥は、語の詞。祜は、福なり。○此れ亦天子の諸侯を燕する詩なり。言うこころは、交交たる桑扈は、則ち鶯たる其の羽有り。君子の樂しめる、則ち天の祜を受く。頌禱の詞なり。

○交交桑扈、有鶯其領。君子樂胥、萬邦之屛<音丙>○興也。領、頸。屛、蔽也。言其能爲小國之藩衛。蓋任方伯連帥之職者也。
【読み】
○交交たる桑扈、鶯たる其の領有り。君子の樂しめる、萬邦の屛<音丙>なれ。○興なり。領は、頸。屛は、蔽いなり。言うこころは、其れ能く小國の藩衛爲り。蓋し方伯連帥の職に任ずる者なり。

○之屛之翰<叶胡見反>、百辟<音璧>爲憲。不戢<音緝>不難<叶乃多反>、受福不那。賦也。翰、幹也。所以當墻兩邊障土者也。辟、君。憲、法也。言其所統之諸侯、皆以之爲法也。戢、。難、愼。那、多也。不戢、戢也。不難、難也。不那、那也。蓋曰、豈不乎。豈不愼乎。其受福豈不多乎。古語聲急而然也。後放此。
【読み】
○之れ屛之れ翰<叶胡見反>、百の辟[きみ]<音璧>憲とせり。戢[おさ]<音緝>めざらんや難[つつし]<叶乃多反>まざらんや、福を受くること那[おお]からざらんや。賦なり。翰は、幹なり。墻の兩邊に當てて土を障る所以の者なり。辟は、君。憲は、法なり。言うこころは、其の統ぶ所の諸侯、皆之を以て法とするなり。戢は、斂む。難は、愼む。那は、多きなり。不戢は、戢むるなり。不難は、難むなり。不那は、那きなり。蓋し曰う、豈斂めざるや。豈愼まざるや。其の福を受くること豈多からずや、と。古の語聲急にして然り。後も此に放え。

○兕觥其觩<音求>、旨酒思柔。彼交匪敖<去聲>、萬福來求。賦也。兕觥、爵也。觩、角上曲貌。旨、美也。思、語詞也。敖、傲通。交際之閒、無所傲慢、則我無事於求福、而福反來求我矣。
【読み】
○兕[つの]の觥[さかずき]其れ觩[まが]<音求>れり、旨酒柔らかなり。彼の交わり敖<去聲>れるに匪ず、萬福來り求めん。賦なり。兕觥[じこう]は、爵なり。觩[きゅう]は、角の上に曲れる貌。旨は、美きなり。思は、語の詞なり。敖は、傲と通ず。交際の閒、傲慢する所無くば、則ち我れ福を求むるを事とすること無くして、福反って來りて我を求む。

桑扈四章章四句
【読み】
桑扈[そうこ]四章章四句


鴛鴦于飛、畢之羅之。君子萬年、福祿宜<叶牛何反>之。興也。鴛鴦、匹鳥也。畢、小罔長柄者也。羅、罔也。君子、指天子也。○此諸侯所以答桑扈也。鴛鴦于飛、則畢之羅之矣。君子萬年、則福祿宜之矣。亦頌禱之詞也。
【読み】
鴛鴦[えんおう]于[ここ]に飛べば、之を畢[うちあみ]し之を羅[はりあみ]す。君子萬年、福祿之を宜<叶牛何反>しくせん。興なり。鴛鴦は、匹鳥なり。畢は、小罔にして長柄なる者なり。羅は、罔なり。君子は、天子を指すなり。○此れ諸侯の桑扈に答うる所以なり。鴛鴦于に飛べば、則ち之を畢し之を羅す。君子萬年なれば、則ち福祿之を宜しくす。亦頌禱の詞なり。

○鴛鴦在梁、戢其左翼。君子萬年、宜其遐福<叶筆力反>○興也。石絕水爲梁。戢、歛也。張子曰、禽鳥並棲、一正一倒。戢其左翼、以相依於内、舒其右翼、以防患於外。蓋左不用而右便故也。遐、遠也、久也。
【読み】
○鴛鴦梁[やな]に在れば、其の左の翼を戢[おさ]む。君子萬年、其の遐福<叶筆力反>宜しからん。○興なり。石水を絕ちて梁を爲す。戢は、斂むなり。張子が曰く、禽鳥並び棲[とど]まるに、一正一倒す。其の左の翼を戢めて、以て内に相依り、其の右の翼を舒べて、以て患を外に防ぐ。蓋し左用にあらずして右便ある故なり、と。遐は、遠きなり、久しきなり。

○乘<去聲>馬在廐<音救>、摧<音剉>之秣<音末。叶莫佩反>之。君子萬年、福祿艾<叶魚肺反>之。興也。摧、莝。秣、粟。艾、養也。蘇氏曰、艾、老也。言以福祿終其身也。亦通。○乘馬在廐、則摧之秣之矣。君子萬年、則福祿艾之矣。
【読み】
○乘<去聲>馬廐<音救>に在れば、之に摧[さい]<音剉>し之に秣[まっ]<音末。叶莫佩反>す。君子萬年、福祿之を艾[やしな]<叶魚肺反>わん。興なり。摧は、莝[まぐさ]。秣は、粟。艾は、養うなり。蘇氏が曰く、艾は、老なり。言うこころは、祿福を以て其の身を終う、と。亦通ず。○乘馬廐に在れば、則ち之に摧し之に秣す。君子萬年なれば、則ち福祿之を艾わん。

○乘馬在廐、秣之摧<叶如字。又音剉>之。君子萬年、福祿綏<叶如字。又士果反>之。興矣。綏、安也。
【読み】
○乘馬廐に在れば、之に秣し之に摧<叶字の如し。又音剉>す。君子萬年、福祿之を綏[やす]<叶字の如し。又士果反>んぜん。興なり。綏は、安きなり。

鴛鴦四章章四句
【読み】
鴛鴦[えんおう]四章章四句


有頍<音跬>者弁、實維伊何。爾酒旣旨、爾殽旣嘉<叶居何反>。豈伊異人、兄弟匪他<音拖>。蔦<音鳥>與女蘿<音羅>、施<音異>于松柏<叶逋莫反>。未見君子、憂心弈弈<叶弋灼反>。旣見君子、庶幾說<音悅><叶弋灼反>○賦而興、又比也。頍、弁貌。或曰、舉首貌。弁、皮弁。嘉・旨、皆美也。匪他、非他人也。蔦、寄生也。葉似當盧、子如覆盆子、赤黑甜美。女蘿、兔絲也。蔓連草上、黃赤如金。此則比也。君子、兄弟爲賓者也。弈弈、憂心無所薄也。○此亦燕兄弟親戚之詩。故言、有頍者弁、實維伊何乎。爾酒旣旨、爾殽旣嘉、則豈伊異人乎。乃兄弟而匪他也。又言、蔦蘿施于木上。以比兄弟親戚纏綿依附之意。是以未見而憂、旣見而喜也。
【読み】
頍[き]<音跬>たる弁有り、實に維れ伊れ何ぞ。爾が酒旣に旨く、爾が殽[さかな]旣に嘉<叶居何反>し。豈伊れ異なる人ならんや、兄弟にして他<音拖>に匪ず。蔦[ちょう]<音鳥>と女蘿<音羅>と、松柏<叶逋莫反>に施[は]<音異>えり。未だ君子を見ざれば、憂うる心弈弈[えきえき]<叶弋灼反>たり。旣に君子を見ては、庶幾わくは說<音悅>び懌[よころ]<叶弋灼反>ばん。○賦にして興、又比なり。頍は、弁の貌。或ひと曰く、首を舉ぐる貌、と。弁は、皮弁。嘉・旨は、皆美きなり。他に匪ずは、他人に非ざるなり。蔦は、寄生なり。葉は當盧に似て、子は覆盆子の如く、赤黑にして甜美。女蘿は、兔絲なり。草上に蔓連して、黃赤にて金の如し。此れ則ち比なり。君子は、兄弟の賓爲る者なり。弈弈は、憂うる心薄[とど]まる所無きなり。○此れ亦兄弟親戚を燕するの詩。故に言う、頍たる弁有り、實に維れ伊れ何ぞや。爾が酒旣に旨く、爾が殽旣に嘉くば、則ち豈伊れ異なる人ならんや。乃ち兄弟にして他に匪ず、と。又言う、蔦蘿木上に施う、と。以て兄弟親戚纏綿依附するの意に比す。是を以て未だ見ずして憂え、旣に見て喜ぶなり。

○有頍者弁、實維何期。爾酒旣旨、爾殽旣時。豈伊異人、兄弟具來<叶陵之反>。蔦與女蘿、施于松上<叶時亮反>。未見君子、憂心怲怲<音柄。叶兵旺反>。旣見君子、庶幾有臧<叶才浪反>○賦而興、又比也。何期、猶伊何也。時、善。具、倶也。怲怲、憂盛滿也。臧、善也。
【読み】
○頍たる弁有り、實に維れ何の期ぞ。爾が酒旣に旨く、爾が殽旣に時[よ]し。豈伊れ異なる人ならんや、兄弟具に來れり<叶陵之反>。蔦と女蘿と、松上<叶時亮反>に施えり。未だ君子を見ざれば、憂うる心怲怲[へいへい]<音柄。叶兵旺反>たり。旣に君子を見ては、庶幾わくは臧[よ]<叶才浪反>きこと有らん。○賦にして興、又比なり。何期は、猶伊何のごとし。時は、善き。具は、倶なり。怲怲は、憂え盛んに滿つなり。臧は、善きなり。

○有頍者弁、實維在首。爾酒旣旨、爾殽旣阜。豈伊異人、兄弟甥舅。如彼雨<去聲>雪、先集維霰<音線>。死喪<去聲>無日、無幾<音己>相見。樂酒今夕、君子維宴。賦而興、又比也。阜、猶多也。甥舅、謂母姑姊妹妻族也。霰、雪之始凝者也。將大雨雪、必先微溫雪自上下、遇溫氣摶。而謂之霰。久而寒勝、則大雪矣。言霰集則將雪之候。以比老至則將死之徵也。故卒言、死喪無日、不能久相見矣。但當樂飮以盡今夕之歡。篤親親之意也。
【読み】
○頍たる弁有り、實に維れ首に在り。爾が酒旣に旨く、爾が殽旣に阜[おお]し。豈伊れ異なる人ならんや、兄弟甥舅。彼の雪雨[ふ]<去聲>るが如き、先ず集まれるは維れ霰<音線>。死喪<去聲>日無くして、幾[いくばく]<音己>も相い見ること無けん。酒を今の夕に樂しんで、君子と維れ宴せん。賦にして興、又比なり。阜は、猶多きがごとし。甥舅は、母の姑姊妹妻族を謂うなり。霰は、雪の始めて凝る者なり。將に大いに雪雨らんとすれば、必ず先ず微溫の雪上より下りて、溫氣に遇いて摶[あつ]まる。之を霰と謂う。久しくして寒勝てば、則ち大雪ふる。言うこころは、霰集まるは則ち將に雪ふらんとするの候。以て老至らば則ち將に死なんとするの徵に比す。故に卒に言う、死喪日無し、久しく相見ること能わず。但當に樂しみ飮んで以て今夕の歡を盡くすべし、と。篤く親を親しむの意なり。

頍弁三章章十二句
【読み】
頍弁[きべん]三章章十二句


閒關車之舝兮、思孌<音臠>季女逝兮。匪飢匪渴、德音來括、雖無好友<叶羽已反>、式燕且喜。賦也。閒關、設舝聲也。舝、車軸頭鐵也。無事則脫、行則設之。昬禮、親迎者乘車。孌、美貌。逝、往。括、會也。○此燕樂其新昬之詩。故言、閒關然設此車舝者、蓋思孌然季女、故乘此車往而迎之也。匪飢匪渴也。望其德音來括、而心如飢渴耳。雖無他人、亦當燕飮以相喜樂也。
【読み】
閒關として車の舝[くさび]うつ、孌[れん]<音臠>たる季女を思いて逝く。飢ゆるに匪ず渴くに匪ず、德音來り括[あ]わば、好き友<叶羽已反>無しと雖も、式[もっ]て燕し且つ喜ばん。賦なり。閒關は、舝を設くる聲なり。舝は、車軸の頭鐵なり。事無きときは則ち脫し、行くときは則ち之を設く。昬禮に、親迎する者車に乘る、と。孌は、美しき貌。逝は、往く。括は、會うなり。○此れ其の新昬を燕樂するの詩。故に言う、閒關然として此の車の舝を設くる者は、蓋し孌然たる季女を思う、故に此の車に乘りて往きて之を迎えんとす。飢うるに匪ず渴くに匪ず。其の德音來り括うことを望んで、心飢え渴くが如きのみ。他人無しと雖も、亦當に燕飮して以て相喜樂すべし、と。

○依彼平林、有集維鷮<音驕>。辰彼碩女、令德來敎<叶居爻反>。式燕且譽、好<去聲>爾無射<音亦。叶都故反>○興也。依、茂木貌。鷮、雉也。微小於翟走而且鳴。其尾長肉甚美。辰、時。碩、大也。爾、卽季女也。射、厭也。○依彼平林、則有集維鷮。辰彼碩女、則以令德來配己而敎誨之。是以式燕且譽、而悅慕之無厭也。
【読み】
○依たる彼の平林、集[い]ること有るは維れ鷮[きょう]<音驕>。辰[とき]なる彼の碩女、令德來り敎<叶居爻反>う。式て燕し且つ譽めて、爾を好[よ]<去聲>みんじて射[いと]<音亦。叶都故反>うこと無けん。○興なり。依は、茂れる木の貌。鷮は、雉なり。翟より微かに小さくして走りて且つ鳴く。其の尾長く肉甚だ美し。辰は、時。碩は、大いなり。爾は、卽ち季女なり。射は、厭うなり。○依たる彼の平林は、則ち集ること有るは維れ鷮。辰なる彼の碩女は、則ち令德を以て己に來配して之を敎誨す。是を以て式て燕し且つ譽めて、悅慕して厭うこと無けん。

○雖無旨酒、式飮庶幾。雖無嘉殽、式食庶幾。雖無德與女<音汝>、式歌且舞。賦也。旨・嘉、皆美也。女、亦指季女也。○言我雖無旨酒・嘉殽・美德以與女、女亦當飮食歌舞以相樂也。
【読み】
○旨き酒無しと雖も、式て飮まんことを庶幾[ねが]う。嘉き殽[さかな]無しと雖も、式て食わんことを庶幾う。德女<音汝>と與にすること無しと雖も、式て歌い且つ舞わん。賦なり。旨・嘉は、皆美きなり。女は、亦季女を指すなり。○言うこころは、我れ旨酒・嘉殽・美德以て女と與にすること無しと雖も、女も亦當に飮食歌舞して以て相樂しむべし。

○陟彼高岡、析<音錫>其柞<音昨><叶音襄>。析其柞薪、其葉湑<上聲>兮。鮮我覯爾、我心寫<叶想羽反>兮。興也。陟、登。柞、櫟。湑、盛。鮮、少。覯、見也。○陟岡而析薪、則其葉湑兮矣。我得見爾、則我心寫兮矣。
【読み】
○彼の高き岡に陟[のぼ]りて、其の柞[さく]<音昨><叶音襄>を析[さ]<音錫>く。其の柞薪を析けば、其の葉湑[しょ]<上聲>たり。我れ爾を覯るを鮮[まれ]なりとして、我が心寫<叶想羽反>せり。興なり。陟は、登る。柞は、櫟[くぬぎ]。湑は、盛ん。鮮は、少なし。覯は、見るなり。○岡に陟りて薪を析けば、則ち其の葉湑たり。我れ爾を見るを得ば、則ち我が心寫せり。

○高山仰<叶五剛反>止、景行行<叶戶郎反>止。四牡騑騑<音霏>、六轡如琴。覯爾新昏、以慰我心。興也。仰、瞻望也。景行、大道也。如琴、謂六轡調和如琴瑟也。慰、安也。○高山則可仰。景行則可行。馬服御良、則可以迎季女而慰我心也。此又舉其始終而言也。表記曰、小雅曰、高山仰止、景行行止。子曰、詩之好仁如此。郷道而行、中道而廢、忘身之老也。不知年數之不足也。俛焉日有孳孳斃而後已。
【読み】
○高き山は仰<叶五剛反>ぎ、景[おお]いなる行[みち]は行<叶戶郎反>く。四牡騑騑[ひひ]<音霏>たり、六轡[りくひ]琴の如し。爾が新昏を覯て、以て我が心を慰[やす]んぜり。興なり。仰は、瞻望なり。景行は、大道なり。琴の如しとは、六轡調和すること琴瑟の如きを謂うなり。慰は、安きなり。○高き山は則ち仰ぐ可し。景いなる行は則ち行く可し。馬服御良ならば、則ち以て季女を迎えて我が心を慰んず可し。此れ又其の始終を舉げて言うなり。表記に曰く、小雅に曰く、高き山は仰ぎ、景いなる行は行く、と。子曰く、詩の仁を好むこと此の如し。道に郷[む]かいて行き、中道にして廢るは、身の老うるを忘るるなり。年數の足らざるを知らざるなり。俛[べん]焉として日に孳孳[しし]として斃れて後に已むこと有り、と。

車舝五章章六句
【読み】
車舝[しゃかつ]五章章六句


營營靑蠅、止于樊<音煩。叶汾乾反>。豈弟君子、無信讒言。比也。營營、往來飛聲。亂人聽也。靑蠅、汚穢能變白黑。樊、藩也。君子、謂王也。○詩人以王好聽讒言、故以靑蠅飛聲比之、而戒王以勿聽也。
【読み】
營營たる靑蠅、樊[はん]<音煩。叶汾乾反>に止[い]る。豈弟の君子、讒言を信ずる無かれ。比なり。營營は、往來して飛ぶ聲。人の聽を亂すなり。靑蠅は、汚穢にして能く白黑を變ず。樊は、藩[かき]なり。君子は、王を謂う。○詩人王の讒言を聽くを好むを以て、故に靑蠅の飛ぶ聲を以て之に比して、王を戒むるに聽くこと勿かれを以てす。

○營營靑蠅、止于棘。讒人罔極、交亂四國<叶越逼反>○興也。棘、所以爲藩也。極、猶已也。
【読み】
○營營たる靑蠅、棘に止る。讒人極[や]むこと罔し、交々四國<叶越逼反>を亂れり。○興なり。棘は、藩を爲す所以なり。極は、猶已むのごとし。

○營營靑蠅、止于榛。讒人罔極、構<音姤>我二人。興也。構、合也。猶交亂也。己與聽者爲二人。
【読み】
○營營たる靑蠅、榛に止る。讒人極むこと罔し、我れ二人を構[あ]<音姤>わせり。興なり。構は、合うなり。猶交々亂れるがごとし。己と聽く者とを二人と爲す。

靑蠅三章章四句
【読み】
靑蠅[せいよう]三章章四句


賓之初筵、左右秩秩。籩豆有楚、殽核維旅。酒旣和旨、飮酒孔偕<音皆。叶舉里反>。鐘鼓旣設<叶書質反>、舉醻逸逸。大侯旣抗<叶居郎反>、弓矢斯張、射夫旣同、獻爾發功、發彼有的<叶丁藥反>、以祈爾爵。賦也。初筵、初卽席也。左右、筵之左右也。秩秩、有序也。楚、列貌。殽、豆實也。核、籩實也。旅、陳也。和旨、調美也。孔、甚也。偕、齊一也。設、宿設而又遷于下也。大射樂人宿縣、厥明將射乃遷樂于下。以避射位、是也。舉醻、舉所奠之醻爵也。逸逸、往來有序也。大侯、君侯也。天子、熊侯、白質。諸侯、麋侯、赤質。大夫、布侯、畫以虎豹。士、布侯、畫以鹿豕。天子侯、身一丈、其中三分、居一白質畫熊。其外則丹地、畫以雲氣。抗、張也。凡射張侯而不繫左下綱、中掩束之。至將射、司馬命張侯。弟子脫束、遂繫下綱也。大侯張而弓矢亦張、節也。射夫旣同、比其耦也。射禮、選羣臣爲三耦。三耦之外、其餘各自取匹、謂之衆耦。獻、猶奏也。發、發矢也。的、質也。祈、求也。爵、射不中者、飮豐上之觶也。○衛武公飮酒悔過、而作此詩。此章言因射而飮者、初筵禮儀之盛、酒旣調美而飮者齊一。至於設鐘鼓舉醻爵、抗大侯、張弓矢、而衆耦拾發。各心競云、我以此求爵汝也。
【読み】
賓の初筵、左右秩秩たり。籩豆楚[つら]なれる有り、殽核[こうかく]維れ旅[つら]ねたり。酒旣に和[ととの]い旨く、酒を飮むこと孔[はなは]だ偕[ひと]<音皆。叶舉里反>し。鐘鼓旣に設<叶書質反>け、醻[しゅう]を舉ぐること逸逸たり。大侯旣に抗[は]<叶居郎反>り、弓矢斯に張り、射夫旣に同[ひと]しくして、爾の發つ功[わざ]を獻[すす]め、彼の有的<叶丁藥反>に發ち、以て爾に爵せんことを祈[もと]めり。賦なり。初筵は、初めて席に卽くなり。左右は、筵の左右なり。秩秩は、序有るなり。楚は、列なる貌。殽は、豆の實なり。核は、籩の實なり。旅は、陳ぬるなり。和旨は、調いて美きなり。孔は、甚だなり。偕は、齊一なり。設は、宿[あらかじ]め設けて又下に遷るなり。大射に、樂人宿め縣[か]く、厥の明[あさ]將に射んとすれば乃ち樂を下に遷す。以て射位を避くとは、是れなり。醻を舉ぐとは、奠[お]く所の醻爵を舉ぐるなり。逸逸は、往來に序有るなり。大侯は、君の侯なり。天子は、熊[ゆう]侯にて、白質。諸侯は、麋[び]侯にて、赤質。大夫は、布侯にて、畫くに虎豹を以てす。士は、布侯にて、畫くに鹿豕を以てす。天子の侯は、身一丈、其の中三分、一に居て白質に熊を畫く。其の外は則ち丹地にして、畫くに雲氣を以てす。抗は、張るなり。凡そ射は侯を張りて左の下の綱を繫がず、中掩して之を束ぬ。將に射んとするに至りて、司馬命じて侯を張る。弟子束を脫[と]いて、遂に下の綱を繫ぐ。大侯張りて弓矢も亦張るは、節あるなり。射夫旣に同しとは、其の耦を比[なら]ぶるなり。射禮に、羣臣を選びて三耦とす。三耦の外、其の餘各々自ら匹を取る、之を衆耦と謂う、と。獻は、猶奏[すす]むのごとし。發は、矢を發つなり。的は、質なり。祈は、求むなり。爵は、射て中らざる者、豐の上の觶[し]を飮むなり。○衛の武公酒を飮んで過つを悔いて、此の詩を作る。此の章言うこころは、射に因りて飮む者、初筵の禮儀の盛んなる、酒旣に調美にして飮む者齊一なり。鐘鼓を設け醻爵を舉ぐるに至り、大侯を抗り、弓矢を張りて、衆耦拾[かわるがわる]發つ。各々心競いて云う、我れ此を以て汝に爵せんと求む、と。

○籥舞笙鼓、樂旣和奏<叶宗五反>。烝衎<音看>烈祖、以洽百禮。百禮旣至、有壬有林。錫爾純嘏、子孫其湛<音耽。叶持林反>。其湛曰樂<音洛>、各奏爾能<叶奴金反>。賓載手仇<音拘。叶音求其>、室人入又<叶音由怡>。酌彼康爵、以奏爾時<叶音醻>○賦也。籥舞、文舞也。烝、進。衎、樂。烈、業。洽、合也。百禮、言其備也。壬、大。林、盛也。言禮之盛大也。錫、神錫之也。爾、主祭者也。嘏、福。湛、樂也。各奏爾能、謂子孫各酌獻尸、尸酢而卒爵也。仇、讀曰■(奭に斗)。室人、有室中之事者、謂佐食也。又、復也。賓手挹酒、室人酌爲加爵也。康、安也。酒、所以安體也。或曰、康、讀曰抗。記曰、崇坫康圭。此亦謂坫上之爵也。時、時祭也。蘇氏曰、時物也。○此言因祭而飮者、始時禮樂之盛如此也。
【読み】
○籥[やく]の舞笙鼓、樂旣に和い奏<叶宗五反>ずる。烝[すす]めて烈祖を衎[たの]<音看>しましめ、以て百禮に洽[あ]わせり。百禮旣に至りて、壬[おお]いなる有り林[さか]んなる有り。爾に純[おお]いなる嘏[さいわい]を錫い、子孫其れ湛[たの]<音耽。叶持林反>しめり。其れ湛しんで曰[ここ]に樂<音洛>しみ、各々爾[そ]の能[わざ]<叶奴金反>を奏[すす]めり。賓載[すなわ]ち手ずから仇[く]<音拘。叶音求其>み、室人入りて又<叶音由怡>せり。彼の康爵を酌んで、以て爾の時<叶音醻>を奏めり。○賦なり。籥の舞は、文の舞なり。烝は、進む。衎は、樂しむ。烈は、業ある。洽は、合うなり。百禮は、其の備われるを言うなり。壬は、大い。林は、盛んなり。言うこころは、禮の盛大なるなり。錫は、神之に錫うなり。爾は、祭を主る者なり。嘏は、福。湛は、樂しむなり。各々爾の能を奏むは、子孫各々酌んで尸に獻じ、尸酢して爵を卒えるを謂うなり。仇は、讀んで■(奭に斗)と曰う。室人は、室中の事有る者、食を佐くるを謂うなり。又は、復なり。賓手ずから酒を挹[と]り、室人酌むを加爵と爲す。康は、安んずるなり。酒は、體を安んずる所以なり。或ひと曰く、康は、讀んで抗と曰う。記に曰く、坫[てん]を崇[たか]くして圭を康[あ]ぐ、と。此れ亦坫上の爵を謂う、と。時は、時の祭なり。蘇氏が曰く、時の物、と。○此れ言うこころは、祭に因りて飮む者、始めの時の禮樂の盛んなること此の如し。

○賓之初筵、溫溫其恭。其未醉止、威儀反反<叶分邅反>。曰旣醉止、威儀幡幡<叶分邅反>。舍<音捨>其坐遷、屢舞僊僊。其未醉止、威儀抑抑。曰旣醉止、威儀怭怭<音弼>。是曰旣醉、不知其秩。賦也。反反、顧禮也。幡幡、輕數也。遷、徙。屢、數也。僊僊、軒舉之狀。抑抑、愼密也。怭怭、媟嫚也。秩、常也。○此言凡飮酒者、常始乎治、而卒乎亂也。
【読み】
○賓の初筵、溫溫として其れ恭し。其の未だ醉わざれば、威儀反反<叶分邅反>たり。曰に旣に醉いぬれば、威儀幡幡<叶分邅反>たり。其の坐を舍[す]<音捨>てて遷り、屢々舞って僊僊[せんせん]たり。其の未だ醉わざれば、威儀抑抑たり。曰に旣に醉いぬれば、威儀怭怭[ひつひつ]<音弼>たり。是れ曰に旣に醉いぬれば、其の秩[つね]を知らず。賦なり。反反は、禮を顧みるなり。幡幡は、輕々數々なり。遷は、徙[うつ]る。屢は、數々なり。僊僊は、軒舉するの狀。抑抑は、愼密なるなり。怭怭は、媟嫚[ちょうまん]なるなり。秩は、常なり。○此れ言うこころは、凡ぞ酒を飮む者、常に治まるに始まりて、亂るるに卒うなり。

○賓旣醉止、載號<音毫>載呶<音鐃>。亂我籩豆、屢舞僛僛<音欺>。是曰旣醉、不知其郵<叶于其反>。側弁之俄、屢舞傞傞<音娑>。旣醉而出、並受其福<叶筆力反>。醉而不出、是謂伐德。飮酒孔嘉<叶居何反>、維其令儀<叶牛何反>○賦也。號、呼。呶、讙也。僛僛、傾側之狀。郵、與尤同。過也。側、傾也。俄、傾貌。傞傞、不止也。出、去。伐、害。孔、甚。令、善也。○此章極言醉者之狀。因言、賓醉而出、則與主人倶有美譽。醉至若此、是害其德也。飮酒之所以甚美者、以其有令儀爾。今若此、則無復有儀矣。
【読み】
○賓旣に醉いぬれば、載ち號[よ]<音毫>ばい載ち呶[かまびす]<音鐃>し。我が籩豆を亂り、屢々舞って僛僛[きき]<音欺>たり。是れ曰に旣に醉いぬれば、其の郵[とが]<叶于其反>を知らず。側[ゆが]める弁の俄[が]たる、屢々舞って傞傞[ささ]<音娑>たり。旣に醉いて出[さ]れば、並びに其の福<叶筆力反>を受く。醉いて出らざれば、是を德を伐[そこな]うと謂う。酒を飮んで孔だ嘉<叶居何反>きは、維れ其の令儀<叶牛何反>あればなり。○賦なり。號は、呼ぶ。呶は、讙[かまびす]しきなり。僛僛は、傾側するの狀。郵は、尤と同じ。過ちなり。側は、傾くなり。俄は、傾く貌。傞傞は、止まざるなり。出は、去る。伐は、害う。孔は、甚だ。令は、善きなり。○此の章極めて醉う者の狀を言う。因りて言う、賓醉いて出されば、則ち主人と倶に美譽有り。醉いて此の若きに至らば、是れ其の德を害うなり。飮酒の甚だ美なる所以の者は、其の令儀有るを以てするのみ。今此の若くなれば、則ち復儀有ること無し。

○凡此飮酒、或醉或否<叶補美反>。旣立之監、或佐之史。彼醉不臧、不醉反恥。式勿從謂、無俾大<音泰><叶養里反>。匪言勿言、匪由勿語。由醉之言、俾出童羖<音古>。三爵不識<叶音失志>、矧敢多又<叶夷益夷豉二反>○賦也。監史、司正之屬。燕禮郷射、恐有解倦失禮者、立司正以監之、察儀法也。謂、告。由、從也。童羖、無角之羖羊、必無之物也。識、記也。○言飮酒者、或醉或不醉。故旣立監而佐之以史、則彼醉者所爲不善、而不自知、使不醉者反爲之羞愧也。安得從而告之、使勿至於大怠乎。告之若曰、所不當言者勿言。所不當從者勿語。醉而妄言、則將罰汝、使出童羖矣。設言必無之物、以恐之也。女飮至三爵、已昏然無所記矣。况敢又多飮乎。又丁寧以戒之也。
【読み】
○凡そ此の酒を飮める、或は醉い或は否[し]<叶補美反>からず。旣に之が監を立て、或は之が史を佐とす。彼の醉えるが臧[よ]からざる、醉わざるは反って恥ず。式[もっ]て從いて謂[つ]ぐること勿けん、大[はなは]<音泰>だ怠<叶養里反>らしむること無きを。言うべからざるを言うこと勿かれ、由[したが]うべからざるを語ること勿かれ。醉の言に由わば、童羖[どうこ]<音古>を出さしめん。三爵も識[しる]<叶音失志>さず、矧んや敢えて多く又<叶夷益夷豉二反>せんや。○賦なり。監史は、司正の屬。燕禮郷射に、解[おこた]り倦んで禮を失する者有るを恐れて、司正を立てて以て之を監して、儀法を察す、と。謂は、告ぐ。由は、從うなり。童羖は、角無き羖羊、必ず無き物なり。識は、記すなり。○言うこころは、酒を飮む者、或は醉い或は醉わず。故に旣に監を立てて之を佐くるに史を以てすれば、則ち彼の醉える者のする所不善にして、自ら知らず、醉わざる者をして反って之が羞じ愧ずることを爲さしむ。安んぞ從いて之に告げて、大だ怠るに至ること勿からしむることを得んや。之に告げて曰うが若し、當に言うべからざる所の者は言うこと勿かれ。當に從うべからざる所の者は語ること勿かれ。醉いて妄りに言わば、則ち將に汝を罰し、童羖を出さしめん、と。必ず無き物を設言して、以て之を恐れしむ。女飮んで三爵に至るも、已に昏然として記す所無し。况んや敢えて又多く飮まんや。又丁寧に以て之を戒むなり。

賓之初筵五章。章十四句。毛氏序曰、衛武公刺幽王也。韓氏序曰、衛武公飮酒悔過也。今按此詩、意與大雅抑戒相類。必武公自悔之作。當從韓義。
【読み】
賓之初筵[ひんししょえん]五章。章十四句。毛氏が序に曰く、衛の武公幽王を刺[そし]る、と。韓氏が序に曰く、衛の武公酒を飮んで過つを悔ゆ、と。今此の詩を按ずるに、意は大雅抑の戒めと相類す。必ず武公自悔の作ならん。當に韓の義に從うべし。


魚在在藻、有頒<音焚>其首。王在在鎬、豈<音愷><音洛>飮酒。興也。藻、水草也。頒、大首貌。豈亦樂也。○此天子燕諸侯、而諸侯美天子之詩也。言魚何在乎。在乎藻也、則有頒其首矣。王何在乎。在乎鎬京也、則豈樂飮酒矣。
【読み】
魚在ること藻に在り、頒[ふん]<音焚>たる其の首有り。王在[いま]すこと鎬に在せり、豈[たの]<音愷>しみ樂<音洛>しんで酒を飮めり。興なり。藻は、水草なり。頒は、大いなる首の貌。豈も亦樂しむなり。○此れ天子諸侯を燕して、諸侯天子を美むるの詩なり。言うこころは、魚何くに在るや。藻に在れば、則ち頒たる其の首有り。王何くに在すや。鎬京に在せば、則ち豈樂して酒を飮めり。

○魚在在藻、有莘其尾。王在在鎬、飮酒樂豈<叶去幾反>○興也。莘、長也。
【読み】
○魚在ること藻に在り、莘[しん]たる其の尾有り。王在すこと鎬に在せり、酒を飮んで樂しみ豈<叶去幾反>しめり。○興なり。莘は、長きなり。

○魚在在藻、依于其蒲。王在在鎬、有那其居。興也。那、安。居、處也。
【読み】
○魚在ること藻に在り、其の蒲に依れり。王在すこと鎬に在せり、其の居[ところ]に那[やす]んずる有り。興なり。那は、安んず。居は、處なり。

魚藻三章章四句
【読み】
魚藻[ぎょそう]三章章四句


采菽采菽、筐<音匡>之筥<音舉>之。君子來朝<音潮>、何錫予<音與>之。雖無予之、路車乘<去聲><叶滿補反>、又何予之、玄袞及黼<音甫>○興也。菽、大豆也。君子、諸侯也。路車、金路以賜同姓、象路以賜異姓也。玄袞、玄衣而畫以卷龍也。黼、如斧形。刺之於裳也。周制、諸公袞冕九章、已見九罭篇。侯伯鷩冕七章、則自華蟲以下。子男毳冕五章、衣自宗彝以下、而裳黼黻。孤卿絺冕三章、則衣粉米、而裳黼黻。大夫玄冕、則玄衣黻裳而已。○此天子所以答魚藻也。采菽采菽、則必以筺筥盛之。君子來朝、則必有以錫予之。又言、今雖無以予之、然已有路車乘馬玄袞及黼之賜矣。其言如此者、好之無已。意猶以爲薄也。
【読み】
菽を采り菽を采る、之を筐<音匡>にし之を筥<音舉>にす。君子來朝<音潮>す、何か錫[たま]い之に予<音與>えん。之に予うること無しと雖も、路車乘<去聲><叶滿補反>、又何か之に予えん、玄袞[げんこん]及び黼[ふ]<音甫>○興なり。菽は、大豆なり。君子は、諸侯なり。路車は、金路以て同姓に賜い、象路以て異姓に賜う。玄袞は、玄衣にして畫くに卷龍を以てす。黼は、斧の形の如し。之を裳に刺[ぬ]う。周制に、諸公は袞冕九章、已に九罭[きゅうよく]の篇に見えたり。侯伯は鷩[べつ]冕七章なれば、則ち華蟲より以下なり。子男は毳[ぜい]冕五章なれば、宗彝より以下を衣にして、黼黻[ふふつ]を裳にす。孤卿は絺[ち]冕三章なれば、則ち粉米を衣にして、黼黻を裳にす。大夫は玄冕なれば、則ち玄衣黻裳なるのみ。○此れ天子の魚藻に答うる所以なり。菽を采り菽を采れば、則ち必ず筺筥を以て之を盛る。君子來朝すれば、則ち必ず以て之に錫い予うること有り。又言う、今以て之に予うること無しと雖も、然れども已に路車乘馬玄袞及び黼の賜有り、と。其の言此の如くなるは、之を好みんずること已むこと無し。意は猶以爲えらく、薄し、と。

○觱<音必><音弗><胡覽反><叶才匀反>、言采其芹<音勤>。君子來朝、言觀其旂<音祈。叶巨斤反>。其旂淠淠<音譬>、鸞聲嘒嘒。載驂載駟、君子所屆<叶居氣反>○興也。觱沸、泉出貌。檻泉、正出也。芹、水草、可食。淠淠、動貌。嘒嘒、聲也。屆、至也。○觱沸檻泉、則言采其芹。諸侯來朝、則言觀其旂。見其旂、聞其鸞聲。又見其馬、則知君子之至於是也。
【読み】
○觱[ひつ]<音必><音弗>たる檻<胡覽反><叶才匀反>、言[ここ]に其の芹<音勤>を采る。君子來朝す、言に其の旂[はた]<音祈。叶巨斤反>を觀る。其の旂淠淠[ひひ]<音譬>たり、鸞[すず]の聲嘒嘒[けいけい]たり。載[すなわ]ち驂載ち駟、君子屆[いた]<叶居氣反>れる所なり。○興なり。觱沸は、泉の出る貌。檻泉は、正出なり。芹は、水草、食う可し。淠淠は、動く貌。嘒嘒は、聲なり。屆は、至るなり。○觱沸たる檻泉あれば、則ち言に其の芹を采る。諸侯來朝すれば、則ち言に其の旂を觀る。其の旂を見れば、其の鸞の聲を聞く。又其の馬を見れば、則ち君子の是に至れるを知る。

○赤芾<音弗>在股、邪幅在下<叶後五反>。彼交匪紓<音舒。叶上與反>、天子所予<音與>。樂<音洛><音止>君子、天子命<叶彌幷反>之。樂只君子、福祿申之。賦也。脛本曰股。邪幅、偪也。邪纏於足。如今行縢。所以束脛在股下也。交、交際也。紓、緩也。○言諸侯服此芾偪、見于天子、恭敬齊遬、不敢紓緩、則爲天子所與、而申之以福祿也。
【読み】
○赤芾[せきふつ]<音弗>股に在り、邪幅下<叶後五反>に在り。彼の交わり紓[ゆる]<音舒。叶上與反>からず、天子予<音與>うる所なり。樂<音洛>しいかな君子、天子之に命<叶彌幷反>ぜり。樂しいかな君子、福祿之を申[かさ]ねたり。賦なり。脛の本を股と曰う。邪幅は、偪[むかばき]なり。邪[なな]めに足に纏う。今の行縢[むかばき]の如し。脛を束ねて股の下に在る所以なり。交は、交際なり。紓は、緩やかなり。○言うこころは、諸侯此の芾偪[ふつふく]を服して、天子に見ゆるに、恭敬齊遬[せいそく]、敢えて紓緩ならざれば、則ち天子の爲に與えられて、之を申ぬるに福祿を以てす。

○維柞之枝、其葉蓬蓬。樂只君子、殿<多見反>天子之邦<叶十工反>。樂只君子、萬福攸同。平平<音楩>左右、亦是率從。興也。柞、見車舝篇。蓬蓬、盛貌。殿、鎭也。平平、辯治也。左右、諸侯之臣也。率、循也。○維柞之枝、則其葉蓬蓬然。樂只君子、則宜殿天子之邦、而爲萬福之所聚。又言、其左右之臣、亦從之而至此也。
【読み】
○維れ柞[さく]の枝、其の葉蓬蓬たり。樂しいかな君子、天子の邦<叶十工反>を殿[しず]<多見反>めり。樂しいかな君子、萬福同[あつ]まる攸。平平[へんへん]<音楩>たる左右、亦是れ率[したが]い從えり。興なり。柞は、車舝[しゃかつ]の篇に見えたり。蓬蓬は、盛んなる貌。殿は、鎭むなり。平平は、辯治なり。左右は、諸侯の臣なり。率は、循うなり。○維れ柞の枝は、則ち其の葉蓬蓬然たり。樂しいかな君子、則ち宜しく天子の邦を殿めて、萬福の聚まる所とするべし。又言う、其の左右の臣も、亦之に從いて此に至る、と。

○汎汎<芳劔反>楊舟、紼<音弗><音黎>維之。樂只君子、天子葵之。樂只君子、福祿膍<音琵>之。優哉游哉、亦是戾<叶郎之反>矣。興也。紼、繂也。纚・維、皆繫也。言以大索纚其舟而繫之也。葵、揆也。揆、猶度也。膍、厚。戾、至也。○汎汎楊舟、則必以紼纚維之。樂只君子、則天子必葵之、福祿必膍之。於是又歎其優游而至於此也。
【読み】
○汎汎<芳劔反>たる楊の舟、紼[つな]<音弗>之を纚[つな]<音黎>ぎ維[つな]げり。樂しいかな君子、天子之を葵[はか]れり。樂しいかな君子、福祿之を膍[あつ]<音琵>くせり。優なるかな游なるかな、亦是れ戾[いた]<叶郎之反>れり。興なり。紼[ふつ]は、繂[ともづな]なり。纚[り]・維は、皆繫ぐなり。言うこころは、大索を以て其の舟を纚いで之を繫ぐなり。葵は、揆なり。揆は、猶度るのごとし。膍は、厚き。戾は、至るなり。○汎汎たる楊の舟あれば、則ち必ず紼を以て之を纚ぎ維ぐ。樂しき君子は、則ち天子必ず之を葵り、福祿必ず之を膍くす。是に於て又其の優游として此に至ることを歎ずるなり。

采菽五章章八句
【読み】
采菽[さいしゅく]五章章八句


騂騂<音觪>角弓、翩<音篇>其反<叶分邅反>矣。兄弟昏姻、無胥遠<叶於圓反>矣。興也。騂騂、弓調和貌。角弓、以角飾弓也。翩、反貌。弓之爲物、張之則内向而來。弛之則外反而去。有似兄弟昏姻親疎遠近之意。胥、相也。○此刺王不親九族、而好讒佞、使宗族相怨之詩。言騂騂角弓、旣翩然而反矣。兄弟昏姻、則豈可以相遠哉。
【読み】
騂騂[せいせい]<音觪>たる角の弓、翩<音篇>として其れ反<叶分邅反>れり。兄弟昏姻、胥[あい]遠<叶於圓反>ざかること無し。興なり。騂騂は、弓の調和する貌。角の弓は、角を以て弓を飾るなり。翩は、反る貌。弓の物爲る、之を張れば則ち内に向かいて來る。之を弛[はず]せば則ち外に反りて去る。兄弟昏姻親疎遠近の意に似ること有り。胥は、相なり。○此れ王九族を親しまずして、讒佞を好み、宗族をして相怨みしむるを刺るの詩。言うこころは、騂騂たる角の弓、旣に翩然として反れり。兄弟昏姻は、則ち豈以て相遠ざかる可けんや。

○爾之遠<同前>矣、民胥然矣。爾之敎矣、民胥傚矣。賦也。爾、王也。上之所爲、下必有甚者。
【読み】
○爾が遠<前に同じ>ざかる、民胥然り。爾が敎うる、民胥傚えり。賦なり。爾は、王なり。上の爲す所、下必ず甚だしき者有り。

○此令兄弟、綽綽有裕<預與二音>。不令兄弟、交相爲瘉<同上>○賦也。令、善。綽、寬。裕、饒。瘉、病也。言雖王化之不善、然此善兄弟、則綽綽有裕而不變。彼不善之兄弟、則由此而交相病矣。蓋指讒己之人而言也。
【読み】
○此の令[よ]き兄弟は、綽綽[しゃくしゃく]として裕[ゆたか]<預與二音>なること有り。令からざる兄弟は、交々瘉[やまい]<上に同じ>を相爲せり。○賦なり。令は、善き。綽は、寬。裕は、饒。瘉は、病なり。言うこころは、王化善からずと雖も、然れども此の善き兄弟は、則ち綽綽として裕なること有りて變わらず。彼の善からざる兄弟は、則ち此に由りて交々相病めり。蓋し己を讒する人を指して言うなり。

○民之無良、相怨一方。受爵不讓<叶如羊反>、至于己斯亡。賦也。一方、彼一方也。○相怨者、各據其一方耳。若以責人之心責己、愛己之心愛人、使彼己之閒、交見而無蔽、則豈有相怨者哉。况兄弟相怨相讒、以取爵位、而不知遜讓、終亦必亡而已矣。
【読み】
○民の良き無き、一方を相怨めり。爵を受けて讓<叶如羊反>らず、己[つい]に斯れ亡ぶるに至る。賦なり。一方は、彼の一方なり。○相怨むるは、各々其の一方に據るのみ。若し人を責むるの心を以て己を責め、己を愛する心もて人を愛し、彼己の閒をして、交々見て蔽うこと無からしめば、則ち豈相怨むる者有らんや。况んや兄弟相怨み相讒り、以て爵位を取りて、遜讓するを知らざれば、終に亦必ず亡ぶるのみ。

○老馬反爲駒<叶去聲>、不顧其後<叶下故反>。如食<音嗣>宜饇<音飫>、如酌孔取<叶音娶>○比也。饇、飽。孔、甚也。○言其但知讒害人以取爵位、而不知其不勝任。如老馬憊矣、而反自以爲駒。不顧其後、將有不勝任之患也。又如食之已多而宜飽矣。酌之所取亦已甚矣。
【読み】
○老馬反って駒<叶去聲>と爲りて、其の後<叶下故反>を顧みず。食<音嗣>の宜しく饇[あ]<音飫>くべきが如く、酌んで孔[はなは]だ取<叶音娶>れるが如し。○比なり。饇[よ]は、飽く。孔は、甚だなり。○言うこころは、其れ但讒して人を害して以て爵位を取ることを知って、其の任に勝えざるを知らず。老馬憊[つか]れて、反って自ら以て駒と爲るが如し。其の後を顧みず、將に任に勝えざるの患え有らんとす。又食の已に多くして宜しく飽くべきが如し。之を酌んで取る所も亦已に甚だし。

○毋敎猱升木、如塗塗附。君子有徽猷、小人與屬<音蜀。叶殊遇反>○比也。猱、獼猴也。性善升木。不待敎而能也。塗、泥。附、著。徽、美。猷、道。屬、附也。○言小人骨肉之恩本薄。王又好讒佞以來之。是猶敎猱升木、又如於泥塗之上、加以泥塗附之也。苟王有美道、則小人將反爲善以附之、不至於如此矣。
【読み】
○猱[さる]に木に升るを敎うる毋かれ、塗に塗附くるが如し。君子徽[よ]き猷[みち]有らば、小人與に屬[つ]<音蜀。叶殊遇反>かん。○比なり。猱は、獼猴[びこう]なり。性善く木に升る。敎うるを待たずして能くす。塗は、泥。附は、著く。徽[き]は、美き。猷[ゆう]は、道。屬は、附くなり。○言うこころは、小人の骨肉の恩本薄し。王又讒佞を好んで以て之を來す。是れ猶猱に木に升るを敎うるがごとく、又泥塗の上に於て、加うるに泥塗を以て之に附くるが如し。苟も王に美き道有らば、則ち小人將に反って善を爲して以て之に附かんとして、此の如くに至らざるなり。

○雨<去聲>雪瀌瀌<音標>、見晛<音現>曰消。莫肯下<去聲>遺、式居婁<音慮>驕。比也。瀌瀌、盛貌。晛、日氣也。張子曰、讒言遇明者當自止。而王甘信之、不肯貶下而遺棄之、更益以長慢也。
【読み】
○雪雨[ふ]<去聲>らすこと瀌瀌[ひょうひょう]<音標>たり、晛[けん]<音現>を見れば曰[ここ]に消ゆ。肯えて下<去聲>し遺つること莫くして、式[もっ]て居て婁<音慮>々驕らしむ。比なり。瀌瀌は、盛んなる貌。晛は、日の氣なり。張子が曰く、讒言は明者に遇いて當に自ら止むべし、と。而るに王之を甘信して、肯えて貶し下して之を遺棄せず、更に益々以て慢りを長[ま]す。

○雨雪浮浮、見晛曰流。如蠻如髦<叶莫侯反>、我是用憂。比也。浮浮、猶瀌瀌也。流、流而去也。蠻、南蠻也。髦、夷髦也。書作髳。言其無禮義、而相殘賊也。
【読み】
○雪雨らすこと浮浮たり、晛を見れば曰に流る。蠻の如く髦[ぼう]<叶莫侯反>の如し、我れ是れ用[もっ]て憂う。比なり。浮浮は、猶瀌瀌のごとし。流は、流れて去るなり。蠻は、南蠻なり。髦は、夷髦なり。書に髳[ぼう]に作る。言うこころは、其れ禮義無くして、相殘賊するなり。

角弓八章。章四句
【読み】
角弓[かくきゅう]八章。章四句


有菀<音鬱>者柳、不尙息焉。上帝甚蹈、無自暱焉。俾予靖之、後予極焉。比也。柳、茂木也。尙、庶幾也。上帝、指王也。蹈、當作神。言威靈可畏也。暱、近。靖、定也。極、求之盡也。○王者暴虐諸侯不朝、而作此詩。言彼有菀然茂盛之柳、行路之人、豈不庶幾欲就止息乎。以比、人誰不欲朝事王者。而王甚威神、使人畏之而不敢近耳。使我朝而事之、以靖王室、後必將極其所欲、以求於我。蓋諸侯皆不朝、而己獨至、則王必責之無已。如齊威王朝周、而後反爲所辱也。或曰、興也。下章放此。
【読み】
菀[うつ]<音鬱>たる柳有り、息わんことを尙[ねが]わざらんや。上帝甚だ蹈[おそ]るべし、自ら暱[ちか]づくこと無けん。予をして之を靖[やす]んぜしめば、後予に極めん。比なり。柳は、茂れる木なり。尙は、庶幾なり。上帝は、王を指す。蹈は、當に神に作るべし。言うこころは、威靈畏る可し。暱[じつ]は、近き。靖は、定むるなり。極は、求むるを盡くすなり。○王者暴虐諸侯朝せずして、此の詩を作る。言うこころは、彼の菀然として茂ること盛んなる柳有らば、行路の人、豈就いて止息せんことを欲するを庶幾わんや。以て比す、人誰か朝して王者に事ることを欲せざらんや、と。而るに王甚だ威神あり、人をして之を畏れて敢えて近づかざらしむのみ。我をして朝して之に事りて、以て王室を靖んぜしめば、後必ず將に其の欲する所を極めて、以て我に求めんとす。蓋し諸侯皆朝せずして、己獨り至れば、則ち王必ず之を責めて已むこと無し。齊の威王の周に朝して、而して後に反って辱めらるることを爲すが如し。或ひと曰く、興、と。下の章も此に放え。

○有菀者柳、不尙愒<音器>焉。上帝甚蹈、無自瘵<音債。叶子例反>焉。俾予靖之、後予邁<叶力制反>焉。比也。愒、息。瘵、病也。邁、過也。求之過其分也。
【読み】
○菀たる柳有り、愒[いこ]<音器>わんことを尙わざらんや。上帝甚だ蹈るべし、自ら瘵[や]<音債。叶子例反>ましむること無けん。予をして之を靖んぜしめば、後予に邁[す]<叶力制反>ぐさん。比なり。愒[けい]は、息う。瘵[さい]は、病むなり。邁は、過ぐ。之を求むること其の分に過ぐるなり。

○有鳥高飛、亦傅<音附>于天<叶鐵因反>。彼人之心、于何其臻。曷予靖之、居以凶矜。興也。傅・臻、皆至也。彼人、斥王也。居、猶徒然也。凶矜、遭凶禍而可憐也。○鳥之高飛、極至於天耳。彼王之心、於何所極乎。言其貪縱無極、求責無已。人不知其所至也。如此則豈予能靖之乎。乃徒然自取凶矜耳。
【読み】
○鳥有り高く飛んで、亦天<叶鐵因反>に傅[いた]<音附>れり。彼の人の心、何[いず]くにか其れ臻[いた]らん。曷ぞ予れ之靖んぜん、居[ただ]に以て凶矜せん。興なり。傅・臻は、皆至るなり。彼の人は、王を斥すなり。居は、猶徒然のごとし。凶矜は、凶禍に遭いて憐れむ可きなり。○鳥の高く飛ぶは、極まりて天に至るのみ。彼の王の心は、何に於て極まる所あらんや。言うこころは、其の貪縱なること極まり無く、責を求むること已むこと無し。人其の至る所を知らざるなり。此の如くなれば則ち豈予れ能く之を靖んぜんや。乃ち徒然として自ら凶矜を取るのみ。

菀柳三章。章六句
【読み】
菀柳[うつりゅう]三章。章六句


桑扈之什十篇。四十三章。二百八十二句。


 

都人士之什二之八
【読み】
都人士[とじんし]の什二の八


彼都人士、狐裘黃黃。其容不改、出言有章。行歸于周、萬民所望<叶音亡>○賦也。都、王都也。黃黃、狐裘色也。不改、有常也。章、文章也。周、鎬京也。○亂離之後、人不復見昔日都邑之盛、人物儀容之美、而作此詩、以歎惜之也。
【読み】
彼の都人の士、狐の裘黃黃たり。其の容改めず、言を出だすに章有り。行いて周に歸らば、萬民の望<叶音亡>む所ならん。○賦なり。都は、王都なり。黃黃は、狐裘の色なり。改めずは、常有るなり。章は、文章なり。周は、鎬京なり。○亂離の後、人復昔日の都邑の盛んなること、人物儀容の美きを見ずして、此の詩を作り、以て之を歎惜す。

○彼都人士、臺笠緇撮<叶租悅反>。彼君子女、綢直如髮<叶方月反>。我不見兮、我心不說<音悅>○賦也。臺、夫須也。緇撮、緇布冠也。其制小、僅可撮其髻也。君子女、都人貴家之女也。綢直如髮、未詳其義。然以四章五章推之、亦言其髮之美耳。
【読み】
○彼の都人の士、臺の笠緇き撮[かんむり]<叶租悅反>。彼の君子の女、綢直髮<叶方月反>の如し。我れ見ざれば、我が心說<音悅>びず。○賦なり。臺は、夫須なり。緇撮は、緇布の冠なり。其の制小さく、僅かに其の髻[もとどり]を撮[つま]む可し。君子の女は、都人貴家の女なり。綢直髮の如しは、未だ其の義詳らかならず。然れども四章五章を以て之を推すに、亦其の髮の美しきを言うのみ。

○彼都人士、充耳琇<音秀>實。彼君子女、謂之尹吉。我不見兮、我心苑<音韞><叶繳質反>○賦也。琇、美石也。以美石爲瑱。尹吉、未詳。鄭氏曰、吉讀爲姞。尹氏姞氏、周之昏姻舊姓也。人見都人之女、咸謂尹氏姞氏之女、言其有禮法也。李氏曰、所謂尹吉、猶晉言王謝、唐言崔盧也。苑、猶屈也、積也。
【読み】
○彼の都人の士、充耳琇[しゅう]<音秀>もて實[ふさ]げり。彼の君子の女、之を尹吉と謂う。我れ見ざれば、我が心苑[うっ]<音韞><叶繳質反>す。○賦なり。琇は、美石なり。美石を以て瑱[てん]と爲す。尹吉は、未だ詳らかならず。鄭氏が曰く、吉は讀んで姞とす、と。尹氏姞氏は、周の昏姻の舊姓なり。人都人の女を見て、咸[みな]尹氏姞氏の女と謂うに、其の禮法有るを言うなり。李氏が曰く、所謂尹吉とは、猶晉に王謝と言い、唐に崔盧と言うがごとし、と。苑は、猶屈むがごとし、積むなり。

○彼都人士、埀帶而厲<叶落蓋反>。彼君子女、卷<音權>髮如蠆<音瘥>。我不見兮、言從之邁。賦也。厲、埀帶之貌。卷髮、鬢傍短髮、不可者、曲上卷然以爲飾也。蠆、螫蟲也。尾末揵然、似髮之曲上者。邁、行也。蓋曰、是不可得見也。得見、則我從之邁矣。思之甚也。
【読み】
○彼の都人の士、帶を埀れて厲<叶落蓋反>たり。彼の君子の女、卷[まが]<音權>れる髮蠆[さそり]<音瘥>の如し。我れ見ざれば、言[ここ]に之に從いて邁[ゆ]かん。賦なり。厲は、帶の埀れる貌。卷髮は、鬢の傍らの短き髮、斂む可からざる者、曲り上がること卷然として以て飾とす。蠆[たい]は、螫[さ]す蟲なり。尾の末揵[けん]然として、髮の曲り上がる者に似たり。邁は、行くなり。蓋し曰く、是れ見ることを得可からず。見ることを得て、則ち我れ之に從いて邁かん、と。思うことの甚だしきなり。

○匪伊埀之、帶則有餘。匪伊卷之、髮則有旟。我不見兮、云何盱<音吁>矣。賦也。旟、揚也。盱、望也。說見何人斯篇。○此言士之帶、非故埀之也。帶自有餘耳。女之髪、非故卷之也。髪自有旟耳。言其自然閑美、不假脩飾也。然不可得而見矣。則如何而不望之乎。
【読み】
○伊れ之を埀るるに匪ず、帶則ち餘り有り。伊れ之を卷るに匪ず、髮則ち旟[あが]れる有り。我れ見ざれば、云[ここ]に何ぞ盱[のぞ]<音吁>ましむる。賦なり。旟は、揚ぐなり。盱[く]は、望むなり。說は何人斯の篇に見えたり。○此れ言うこころは、士の帶、故[ことさら]に之を埀るるに非ず。帶自ずから餘り有るのみ。女の髪、故に之を卷るに非ず。髪自ずから旟れる有るのみ。言うこころは、其の自然の閑美なること、脩飾を假らず。然れども得て見る可からず。則ち如何して之を望まざらんや。

都人士五章章六句
【読み】
都人士[とじんし]五章章六句


終朝采綠、不盈一匊<音菊>。予髮曲局、薄言歸沐。賦也。自旦及食時爲終朝。綠、王芻也。兩手曰匊。局、卷也。猶言首如飛蓬也。○婦人思其君子、而言終朝采綠、而不盈一匊者、思念之深、不專於事也。又念其髪之曲局、於是舍之、而歸沐以待其君子之還也。
【読み】
朝を終うるまで綠を采る、一匊[きく]<音菊>にも盈たず。予が髮曲り局[まが]れり、薄[いささ]か言[ここ]に歸り沐[あら]わん。賦なり。旦より食時に及ぶを終朝とす。綠は、王芻なり。兩手を匊と曰う。局は、卷[まが]るなり。猶首飛蓬の如しと言うがごとし。○婦人其の君子を思いて、朝を終うるまで綠を采り、而して一匊にも盈たずと言う者は、思念の深くして、事に專らならざるなり。又其の髪の曲局するを念いて、是に於て之を舍[や]めて、歸り沐して以て其の君子の還るを待つなり。

○終朝采藍、不盈一襜<尺占反。叶都甘反>。五日爲期、六日不詹<音占。叶多其反>○賦也。藍、染草也。衣蔽前謂之襜。卽蔽膝也。詹、與瞻同。五日爲期、去時之約也。六日不詹、過期而不見也。
【読み】
○朝を終うるまで藍を采る、一襜[せん]<尺占反。叶都甘反>にも盈たず。五日を期とす、六日まで詹[み]<音占。叶多其反>えず。○賦なり。藍は、染むる草なり。衣前を蔽うを之を襜と謂う。卽ち蔽膝なり。詹は、瞻と同じ。五日を期とすとは、去る時の約なり。六日まで詹ずとは、期を過ぎて見えざるなり。

○之子于狩<音獸>、言韔<音暢>其弓<叶姑弘反>。之子于釣、言綸之繩。賦也。之子、謂其君子也。理絲曰綸。○言君子若歸而欲往狩耶、我則爲之韔其弓。欲往釣耶、我則爲之綸其繩。望之切、思之深、欲無往而不與之倶也。
【読み】
○之の子于[ここ]に狩<音獸>せば、言に其の弓<叶姑弘反>を韔[ゆぶくろ]<音暢>にせん。之の子于に釣せば、言に之が繩を綸[よ]らん。賦なり。之の子は、其の君子を謂うなり。絲を理むるを綸と曰う。○言うこころは、君子若し歸りて往いて狩せんと欲せば、我れ則ち之が爲に其の弓を韔にせん。往いて釣せんと欲せば、我れ則ち之が爲に其の繩を綸らん。之を望むこと切に、之を思うこと深くして、往いて之と倶にせざること無からんと欲するなり。

○其釣維何、維魴<音房>及鱮<音叙。叶音湑>。維魴及鱮、薄言觀者<叶掌與反>○賦也。於其釣而有獲也。又將從而觀之。亦上章之意也。
【読み】
○其の釣れるは維れ何ぞ、維れ魴[ほう]<音房>及び鱮[しょ]<音叙。叶音湑>。維れ魴及び鱮、薄か言に觀ん。○賦なり。其の釣るに於て獲る有り。又將[はた]從いて之を觀ん。亦上の章の意なり。

采綠四章章四句
【読み】
采綠[さいりょく]四章章四句


芃芃<音蓬>黍苗、陰雨膏<去聲>之。悠悠南行、召伯勞<去聲>之。興也。芃芃、長大貌。悠悠、遠行之意。○宣王封申伯於謝。命召穆公往營城邑。故將徒役南行。而行者作此言。芃芃黍苗、則唯陰雨能膏之。悠悠南行、則唯召伯能勞之也。
【読み】
芃芃[ほうほう]<音蓬>たる黍の苗、陰雨之を膏[うるお]<去聲>せり。悠悠たる南行、召伯之を勞<去聲>えり。興なり。芃芃は、長大なる貌。悠悠は、遠く行くの意。○宣王申伯を謝に封ず。召の穆公に命じて往いて城邑を營ぜしむ。故に徒役を將[ひき]いて南行す。而して行く者此の言を作す。芃芃たる黍の苗は、則ち唯陰雨のみ能く之を膏す。悠悠として南に行かば、則ち唯召伯のみ能く之を勞うなり。

○我任<音王>我輦、我車我牛<叶魚其反>。我行旣集、蓋云歸哉<叶將黎反>○賦也。任、負任者也。輦、人輓車也。牛、所以駕大車也。集、成也。營謝之役。旣成而歸也。
【読み】
○我が任<音王>我が輦[れん]、我が車我が牛<叶魚其反>。我が行旣に集[な]りて、蓋し云[ここ]に歸らん。○賦なり。任は、負い任う者なり。輦は、人の車を輓くなり。牛は、大車を駕する所以なり。集は、成るなり。謝を營ずるの役。旣に成りて歸るなり。

○我徒我御、我師我旅。我行旣集、蓋云歸處。賦也。徒、歩行者。御、乘車者。五百人爲旅、五旅爲師。春秋傳曰、君行師從、卿行旅從。
【読み】
○我が徒我が御、我が師我が旅。我が行旣に集りて、蓋し云に歸り處らん。賦なり。徒は、歩き行く者。御は、車に乘る者。五百人を旅とし、五旅を師とす。春秋傳に曰く、君行くときは師從い、卿行くときは旅從う、と。

○肅肅謝功、召伯營之。烈烈征師、召伯成之。賦也。肅肅、嚴正之貌。謝、邑名。申伯所封國也。今在鄧州信陽軍。功、工役之事也。營、治也。烈烈、威武貌。征、行也。
【読み】
○肅肅たる謝の功、召伯之を營[おさ]めり。烈烈たる征く師、召伯之を成せり。賦なり。肅肅は、嚴正なる貌。謝は、邑の名。申伯封ぜらるる國なり。今鄧州信陽軍に在り。功は、工役の事なり。營は、治むるなり。烈烈は、威武の貌。征は、行くなり。

○原隰旣平、泉流旣淸。召伯有成、王心則寧。賦也。土治曰平、水治曰淸。○言召伯營謝邑、相其原隰之宜、通其水泉之利。此功旣成、宣王之心則安也。
【読み】
○原隰[げんしゅう]旣に平らぎ、泉流旣に淸[す]めり。召伯成せること有り、王の心則ち寧んぜり。賦なり。土の治まるを平と曰い、水の治まるを淸と曰う。○言うこころは、召伯の謝邑を營むる、其の原隰の宜しきを相[み]て、其の水泉の利を通ず。此れ功旣に成りて、宣王の心則ち安んぜり。

黍苗五章章四句。此宣王時詩。與大雅崧高相表裏。
【読み】
黍苗[しょびょう]五章章四句。此れ宣王の時の詩。大雅の崧高と相表裏す。


隰桑有阿、其葉有難<音那>。旣見君子、其樂<音洛>如何。興也。隰、下濕之處。宜桑者也。阿、美貌。難、盛貌。皆言枝葉條埀之狀。○此喜見君子之詩。言隰桑有阿、則其葉有難矣。旣見君子、則其樂如何哉。詞意大槩與菁莪相類。然所謂君子、則不知其何所指矣。或曰、比也。下章放此。
【読み】
隰[さわ]の桑阿たる有り、其の葉難[だ]<音那>たる有り。旣に君子を見れば、其の樂<音洛>しみ如何せん。興なり。隰は、下[ひく]く濕[うるお]う處。桑に宜しき者なり。阿は、美しき貌。難は、盛んなる貌。皆枝葉條埀の狀を言う。○此れ君子を見るを喜ぶ詩。言うこころは、隰の桑阿たる有れば、則ち其の葉難たる有り。旣に君子を見れば、則ち其の樂しみ如何せんや。詞意大槩菁莪と相類す。然れども所謂君子は、則ち其の何の指す所かを知らず。或ひと曰く、比、と。下の章も此に放え。

○隰桑有阿、其葉有沃<叶鬱縛反>。旣見君子、云何不樂。興也。沃、光澤貌。
【読み】
○隰の桑阿たる有り、其の葉沃<叶鬱縛反>たる有り。旣に君子を見れば、云[ここ]に何ぞ樂まざらん。興なり。沃は、光澤ある貌。

○隰桑有阿、其葉有幽<叶於交反>。旣見君子、德音孔膠<音交>○興也。幽、黒色也。膠、固也。
【読み】
○隰の桑阿たる有り、其の葉幽<叶於交反>たる有り。旣に君子を見れば、德音孔[はなは]だ膠[かた]<音交>し。○興なり。幽は、黒き色なり。膠は、固きなり。

○心乎愛<叶許旣反>矣、遐不謂矣。中心藏之、何日忘之。賦也。遐、與何同。表記作瑕。鄭氏註曰、瑕之言胡也。謂猶告也。○言我中心誠愛君子。而旣見之、則何不遂以告之。而但中心藏之。將使何日而忘之耶。楚辭所謂思公子兮未敢言。意蓋如此。愛之之根於中者深。故發之遲而存之久也。
【読み】
○心に愛[いつく]<叶許旣反>しめり、遐[なん]ぞ謂[つ]げざらん。中心に之を藏[おさ]めり、何れの日にか之を忘れん。賦なり。遐は、何と同じ。表記に瑕に作る。鄭氏が註に曰く、瑕の言は胡、と。謂うこころは、猶告ぐのごとし。○言うこころは、我が中心誠に君子を愛しむ。而して旣に之を見れば、則ち何ぞ遂に以て之に告げざらん。而れども但中心に之を藏むるのみ。將[はた]何れの日にして之を忘れしめんや。楚辭に所謂公子を思い未だ敢て言わず、と。意蓋し此の如し。之を愛しんで中に根ざす者深し。故に之を發すること遲くして之を存すること久し。

隰桑四章章四句
【読み】
隰桑[しゅうそう]四章章四句


白華<音花><音姦>、白茅束兮。之子之遠、俾我獨兮。比也。白華、野菅也。已漚爲菅。之子、斥幽王也。俾、使也。我、申后自我也。○幽王娶申女以爲后。又得褒姒而黜申后。故申后作此詩。言白華爲菅、則白茅爲束。二物至微、猶必相須爲用。何之子之遠、而俾我獨耶。
【読み】
白華<音花>の菅<音姦>、白茅束ねり。之の子の遠き、我をして獨りならしむ。比なり。白華は、野菅なり。已に漚[ひた]して菅とす。之の子は、幽王を斥[さ]すなり。俾は、使なり。我は、申后自ら我とするなり。○幽王申の女を娶りて以て后とす。又褒姒を得て申后を黜[しりぞ]く。故に申后此の詩を作れり。言うこころは、白華を菅とすれば、則ち白茅束ねることをす。二物至って微なれども、猶必ず相須ちて用を爲す。何ぞ之の子の遠くして、我をして獨りならしめんや。

○英英白雲、露彼菅茅<叶莫侯反>。天步艱難、之子不猶。比也。英英、輕明之貌。白雲、水土輕淸之氣。當夜而上騰者也。露、卽其散而下降者也。步、行也。天步、猶言時運也。猶、圖也。或曰、猶、如也。○言雲之澤物、無微不被。今時運艱難、而之子不圖。不如白雲之露菅茅也。
【読み】
○英英たる白雲、彼の菅茅<叶莫侯反>に露おく。天步艱難なるに、之の子猶[はか]らず。比なり。英英は、輕明なる貌。白雲は、水土の輕淸の氣。夜に當たりて上り騰[のぼ]る者なり。露は、卽ち其の散じて下に降る者なり。步は、行くなり。天步は、猶時運と言うがごとし。猶は、圖るなり。或ひと曰く、猶は、如、と。○言うこころは、雲の物を澤[うるお]す、微として被らざる無し。今時運艱難にして、之の子圖らず。白雲の菅茅に露おくに如かざるなり。

○滮<符彪反>池北流、浸彼稻田<叶知因反>。嘯歌傷懷、念彼碩人。比也。滮、流貌。北流、豐鎬之閒、水多北流。碩人、尊大之稱。亦謂幽王也。○言小水微流、尙能浸灌。王之尊大、而反不能通其寵澤、所以使我嘯歌傷懷而念之也。
【読み】
○滮[ひょう]<符彪反>たる池北に流れ、彼の稻田<叶知因反>を浸す。嘯[うそぶ]き歌い傷み懷い、彼の碩人を念う。比なり。滮は、流るる貌。北に流るは、豐鎬の閒、水多く北に流るる。碩人は、尊大なる稱。亦幽王を謂うなり。○言うこころは、小水微[すこ]しく流るるも、尙能く浸灌す。王は尊大、而れども反って其の寵澤を通ずること能わざるは、我をして嘯き歌い傷み懷いて之を念わしむる所以なり。

○樵彼桑薪、卬<音昴>烘于煁<音忱>。維彼碩人、實勞我心。比也。樵、采也。桑薪、薪之善者也。卬、我。煁、燎也。煁、無釜之竈。可燎而不可烹飪者也。桑薪宜以烹飪、而但爲燎燭。以比嫡后之尊、而反見卑賤也。
【読み】
○彼の桑の薪を樵[こ]りて、卬[われ]<音昴>煁[じん]<音忱>に烘[た]けり。維れ彼の碩人、實に我が心を勞[くる]しましむ。比なり。樵は、采るなり。桑薪は、薪の善き者なり。卬は、我。烘は、燎[た]くなり。煁は、釜無き竈。燎く可くして烹飪す可からざる者なり。桑の薪は以て烹飪するに宜しくして、但燎燭と爲す。以て嫡后の尊くして、反って卑賤せらるるに比す。

○鼓鐘于宮、聲聞<音問>于外。念子懆懆<音慥>、視我邁邁。比也。懆懆、憂貌。邁邁、不顧也。○鼓鐘于宮、則聲聞于外矣。念子懆懆、而反視我邁邁、何哉。
【読み】
○鐘を宮に鼓てば、聲外に聞<音問>こゆ。子を念いて懆懆<音慥>たり、我を視ること邁邁たり。比なり。懆懆は、憂うる貌。邁邁は、顧みざるなり。○鐘を宮に鼓てば、則ち聲外に聞こゆ。子を念うこと懆懆として、反って我を視ること邁邁たるは、何ぞや。

○有鶖<音問>于在梁、有鶴在林。維彼碩人、實勞我心。比也。鶖、禿鶖也。梁、魚梁也。○蘇氏曰、鶖・鶴、皆以魚爲食。然鶴之於鶖、淸濁則有閒矣。今鶖在梁、而鶴在林、鶖則飽、而鶴則飢矣。幽王進褒姒而黜申后。譬之養鶖而棄鶴也。
【読み】
○鶖[しゅう]<音問>有り梁[やな]に在り、鶴有り林に在り。維れ彼の碩人、實に我が心を勞しましむ。比なり。鶖は、禿鶖なり。梁は、魚の梁なり。○蘇氏が曰く、鶖・鶴は、皆魚を以て食とす。然れども鶴の鶖に於る、淸濁は則ち閒て有り。今鶖梁に在りて、鶴林に在れば、鶖則ち飽きて、鶴則ち飢ゆ。幽王褒姒を進めて申后を黜く。之を鶖を養いて鶴を棄つるに譬う。

○鴛鴦在梁、戢其左翼。之子無良、二三其德。比也。戢其左翼、言不失其常也。良、善也。二三其德、則鴛鴦之不如也。
【読み】
○鴛鴦[えんおう]梁に在れば、其の左の翼を戢[おさ]む。之の子良き無し、其の德を二つ三つにす。比なり。其の左の翼を戢むとは、言うこころは、其の常を失わざるなり。良は、善きなり。其の德を二つ三つにすれば、則ち鴛鴦にも如かざるなり。

○有扁<音辯>斯石、履之卑兮。之子之遠、俾我疷<音抵。叶喬移反>兮。比也。扁、卑貌。俾、使。疷、病也。○有扁然而卑之石、則履之者亦卑矣。如妾之賤、則寵之者亦賤矣。是以之子之遠、而俾我疷。
【読み】
○扁<音辯>たる斯の石有り、之を履めば卑[ひく]し。之の子之れ遠ざかる、我をして疷[や]<音抵。叶喬移反>ましむ。比なり。扁は、卑き貌。俾は、使。疷は、病むなり。○扁然として卑き石有らば、則ち之を履む者も亦卑し。妾の賤しきが如き、則ち之を寵する者も亦賤し。是を以て之の子の遠ざかれる、而も我をして疷ましむなり。

白華八章章四句
【読み】
白華[はくか]八章章四句


緜蠻黃鳥、止于丘阿。道之云遠、我勞如何。飮<去聲>之食<音嗣>之、敎之誨之、命彼後車、謂之載之。比也。緜蠻、鳥聲。阿、曲阿也。後車、副車也。○此微賤勞苦、而思有所託者、爲鳥言以自比也。蓋曰、緜蠻之黃鳥自言、止於丘阿、而不能前。蓋道遠而勞甚矣。當是時也、有能飮之食之敎之誨之、又命後車以載之者乎。
【読み】
緜蠻[めんばん]たる黃鳥、丘の阿[くま]に止[い]る。道の云[ここ]に遠き、我が勞[くる]しみ如何。之を飮<去聲>ましめ之を食<音嗣>ましめ、之を敎え之を誨え、彼の後車に命じて、之れ之を載せよと謂わんや。比なり。緜蠻は、鳥の聲。阿は、曲れる阿なり。後車は、副車なり。○此れ微賤勞苦して、託する所有るを思う者、鳥の言を爲して以て自ら比すなり。蓋し曰く、緜蠻たる黃鳥自ら言う、丘の阿に止て、前[すす]むこと能わず。蓋し道遠くして勞しみ甚だし。是の時に當たりて、能く之を飮ましめ之を食ましめ之を敎え之を誨えて、又後車に命じて以て之を載する者有らんや、と。

○緜蠻黃鳥、止于丘隅。豈敢憚行、畏不能趨。飮之食之、敎之誨之、命彼後車、謂之載之。比也。隅、角。憚、畏也。趨、疾行也。
【読み】
○緜蠻たる黃鳥、丘の隅に止る。豈敢えて行くことを憚らんや、趨ること能わざるを畏る。之を飮ましめ之を食ましめ、之を敎え之を誨え、彼の後車に命じて、之れ之を載せよと謂わんや。比なり。隅は、角。憚は、畏るなり。趨は、疾く行くなり。

○緜蠻黃鳥、止于丘側。豈敢憚行、畏不能極。飮之食之、敎之誨之、命彼後車、謂之載之。比也。側、傍。極、至也。國語云、齊朝駕則夕極魯國。
【読み】
○緜蠻たる黃鳥、丘の側[かたわら]に止る。豈敢えて行くことを憚らんや、極[いた]ること能わざるを畏る。之を飮ましめ之を食ましめ、之を敎え之を誨え、彼の後車に命じて、之れ之を載せよと謂わんや。比なり。側は、傍ら。極は、至るなり。國語に云う、齊朝に駕すれば則ち夕に魯國に極る、と。

緜蠻三章章八句
【読み】
緜蠻[めんばん]三章章八句


幡幡<音翻>瓠葉、采之亨<叶鋪郎反>之。君子有酒、酌言嘗之。賦也。幡幡、瓠葉貌。○此亦燕飮之詩。言幡幡瓠葉、采之亨之、至薄也。然君子有酒、則亦以是酌而嘗之。蓋述主人之謙詞。言物雖薄、而必與賓客共之也。
【読み】
幡幡[はんぱん]<音翻>たる瓠[ひさこ]の葉、之を采り之を亨[に]<叶鋪郎反>る。君子酒有り、酌んで言[ここ]に之を嘗めり。賦なり。幡幡は、瓠の葉の貌。○此れ亦燕飮するの詩。言うこころは、幡幡たる瓠の葉、之を采り之を亨れば、至って薄し。然れども君子酒有れば、則ち亦是を以て酌んで之を嘗む。蓋し主人の謙詞を述ぶ。言うこころは、物薄しと雖も、而れども必ず賓客と之を共にせん。

○有兔斯首、炮<音庖>之燔<音煩。叶汾乾反>之。君子有酒、酌言獻<叶虛言反>之。賦也。有兔斯首、一兔也。猶數魚以尾也。毛曰炮、加火曰燔。亦薄物也。獻、獻之於賓也。
【読み】
○兔の斯の首有り、之を炮<音庖>し之を燔<音煩。叶汾乾反>す。君子酒有り、酌んで言に之を獻[すす]<叶虛言反>めり。賦なり。兔の斯の首有りとは、一兔なり。猶魚を數うるに尾を以てするがごとし。毛ながらを炮と曰い、火を加うるを燔と曰う。亦薄き物なり。獻は、之を賓に獻むるなり。

○有兔斯首、燔之炙<音隻。叶陟略反>之。君子有酒、酌言酢之。賦也。炕火曰炙。謂以物貫之、而舉於火上、以炙之。酢、報也。賓旣卒爵、而酌主人也。
【読み】
○兔の斯の首有り、之を燔し之を炙<音隻。叶陟略反>す。君子酒有り、酌んで言に之を酢[むく]えり。賦なり。火に炕[あぶ]るを炙と曰う。物を以て之を貫いて、火の上に舉げて、以て之を炙るを謂う。酢は、報うなり。賓旣に爵を卒えて、主人に酌むなり。

○有兔斯首、燔之炮<叶蒲侯反>之。君子有酒、酌言醻<音酬>之。賦也。醻、導飮也。
【読み】
○兔の斯の首有り、之を燔し之を炮す<叶蒲侯反>。君子酒有り、酌んで言に之に醻[むく]<音酬>えり。賦なり。醻は、飮むことを導くなり。

瓠葉四章章四句
【読み】
瓠葉[こよう]四章章四句


漸漸<音巉>之石、維其高矣。山川悠遠、維其勞矣。武人東征、不遑朝<叶直高反>矣。賦也。漸漸、高峻之貌。武人、將帥也。遑、暇也。言無朝旦之暇也。○將帥出征、經歷險遠、不堪勞苦、而作此詩也。
【読み】
漸漸[ざんざん]<音巉>たる石、維れ其れ高し。山川悠遠にして、維れ其れ勞[くる]しめり。武人東征して、朝<叶直高反>に遑[いとま]あらず。賦なり。漸漸は、高く峻しき貌。武人は、將帥なり。遑は、暇なり。言うこころは、朝旦の暇無し。○將帥出征して、險遠を經歷して、勞苦に堪えずして、此の詩を作れり。

○漸漸之石、維其卒<音崒>矣。山川悠遠、曷其沒<叶莫筆反>矣。武人東征、不遑出矣。賦也。卒、崔嵬也。謂山巓之末也。曷、何。沒、盡也。言所登歷、何時而可盡也。不遑出、謂但知深入、不暇謀出也。
【読み】
○漸漸たる石、維れ其れ卒[けわ]<音崒>し。山川悠遠にして、曷ぞ其れ沒[つ]<叶莫筆反>きん。武人東征して、出づるに遑あらず。賦なり。卒は、崔嵬なり。山の巓[いただき]の末を謂うなり。曷は、何。沒は、盡きるなり。言うこころは、登り歷る所は、何れの時にして盡く可きや。出づるに遑あらずは、謂ゆる但深く入るを知りて、出づるを謀るに暇あらざるなり。

○有豕白蹢<音的>、烝涉波矣。月離于畢、俾滂沱矣。武人東征、不遑他<音拖>矣。賦也。蹢、蹄。烝、衆也。離、月所宿也。畢、星名。豕涉波、月離于畢。將雨之驗也。○張子曰、豕之負塗曳泥、其常性也。今其足皆白、衆與涉波而去、水患之多可知矣。此言久役、又逢大雨。甚勞苦而不暇及他事也。
【読み】
○豕有り白き蹢[ひづめ]<音的>あり、烝[もろもろ]波を涉る。月畢に離[やど]り、滂沱[ぼうだ]たらしめんとす。武人東征して、他<音拖>に遑あらず。賦なり。蹢は、蹄。烝は、衆なり。離は、月の宿る所なり。畢は、星の名。豕波を涉り、月畢に離る。將に雨らんとするの驗なり。○張子が曰く、豕の塗を負い泥を曳くは、其の常性なり。今其の足皆白く、衆與に波を涉りて去れば、水患の多きこと知る可し。此れ言うこころは、久しく役して、又大雨に逢う。甚だ勞苦して他事に及ぶに暇あらざるなり。

漸漸之石三章章六句
【読み】
漸漸之石[ざんざんしせき]三章章六句


<音條>之華<音花>、芸<音云>其黃矣。心之憂矣、維其傷矣。比也。苕、陵苕也。本草云、卽今之紫葳。蔓生附於喬木之上。其華黃赤色。亦名凌霄。○詩人自以身逢周室之衰、如苕附物而生。雖榮不久。故以爲比、而自言其心之憂傷也。
【読み】
苕[ちょう]<音條>の華<音花>、芸[うん]<音云>として其れ黃なり。心の憂えあり、維れ其れ傷めり。比なり。苕は、陵苕なり。本草に云う、卽ち今の紫葳[しい]なり。蔓生じて喬木の上に附く。其の華黃赤色。亦凌霄[りょうしょう]と名づく、と。○詩人自ら身周室の衰うるに逢うを以て、苕の物に附いて生ずるが如し。榮えると雖も久しからず。故に以て比と爲して、自ら其の心の憂え傷むを言うなり。

○苕之華、其葉靑靑<音精>。知我如此、不如無生<叶桑經反>○比也。靑靑、盛貌。然亦何能久哉。
【読み】
○苕の華、其の葉靑靑<音精>たり。知る、我れ此の如きは、生<叶桑經反>けること無きに如かず。○比なり。靑靑は、盛んなる貌。然れども亦何ぞ能く久しからんや。

○牂<音臧>羊墳<音焚>首、三星在罶<音柳>。人可以食、鮮<上聲>可以飽<叶補苟反>○賦也。牂羊、牝羊也。墳、大也。羊瘠則首大也。罶、笱也。罶中無魚而水靜、但見三星之光而已。○言餓饉之餘、百物彫耗如此。苟且得食足矣。豈可望其飽哉。
【読み】
○牂[そう]<音臧>羊墳[おお]<音焚>いなる首あり、三星罶[うえ]<音柳>に在り。人以て食らう可し、以て飽<叶補苟反>く可きこと鮮<上聲>けん。○賦なり。牂羊は、牝羊なり。墳は、大いなり。羊瘠[や]せれば則ち首大いなり。罶は、笱[こう]なり。罶の中に魚無くして水靜か、但三星の光を見るのみ。○言うこころは、餓饉の餘り、百物彫耗すること此の如し。苟且も食を得れば足る。豈其の飽くことを望む可けんや。

苕之華三章章四句。陳氏曰、此詩其詞簡、其情哀。周室將亡、不可救矣。詩人傷之而已。
【読み】
苕之華[ちょうしか]三章章四句。陳氏が曰く、此の詩は其の詞簡[つづま]やかにて、其の情哀し。周室將に亡びんとし、救う可からず。詩人之を傷むのみ、と。


何草不黃、何日不行<叶戶郎反>。何人不將、經營四方。興也。草衰則黃。將、亦行也。○周室將亡、征役不息、行者苦之。故作此詩。言何草而不黃。何日而不行。何人而不將、以經營於四方也哉。
【読み】
何れの草か黃ならざらん、何れの日か行<叶戶郎反>かざらん。何れの人か將[ゆ]いて、四方を經營せざらん。興なり。草衰えれば則ち黃なる。將も、亦行くなり。○周室將に亡びんとして、征役息まず、行く者之に苦しむ。故に此の詩を作れり。言うこころは、何れの草にして黃ならざらん。何れの日にして行かざらん。何れの人にして將いて、以て四方を經營せざらんや。

○何草不玄<叶胡匀反>、何人不矜<音鰥>。哀我征夫、獨爲匪民。興也。玄、赤黑色也。旣黃而玄也。無妻曰矜。言從役過時、而不得歸、失其室家之樂也。哀我征夫、豈獨爲非民哉。
【読み】
○何れの草か玄[くろ]<叶胡匀反>からざん、何れの人か矜[やもお]<音鰥>ならざらん。哀しいかな我が征夫、獨り民に匪ずとす。興なり。玄は、赤黑色なり。旣に黃にして玄し。妻無きを矜[かん]と曰う。言うこころは、從役時を過ぎて、歸ることを得ず、其の室家の樂しみを失う。哀しいかな我が征夫、豈に獨り民に非ずとせんや。

○匪兕匪虎、率彼曠野<叶上與反>。哀我征夫、朝夕不暇<叶五反>○賦也。率、循也。曠、空也。○言征夫匪兕匪虎、何爲使之循曠野、而朝夕不得閒暇也。
【読み】
○兕[じ]に匪ず虎に匪ず、彼の曠野<叶上與反>に率[したが]えり。哀しいかな我が征夫、朝夕暇<叶五反>あらず。○賦なり。率は、循うなり。曠は、空しきなり。○言うこころは、征夫兕に匪ず虎に匪ず、何爲れぞ之をして曠野に循いて、朝夕閒暇を得ざらしむる。

○有芃<音蓬>者狐<興車叶>、率彼幽草。有棧<士板反>之車、行彼周道。興也。芃、尾長貌。棧車、役車也。周道、大道也。言不得休息也。
【読み】
○芃[ほう]<音蓬>たる狐<興車叶>有り、彼の幽[ふか]き草に率う。棧<士板反>の車有り、彼の周道を行く。興なり。芃は、尾の長き貌。棧車は、役車なり。周道は、大道なり。言うこころは、休息を得ざるなり。

何草不黃四章章四句
【読み】
何草不黃[かそうふこう]四章章四句


都人士之什十篇四十三章二百句

小雅(終)

(引用文献)

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江守孝三(Emori Kozo)