[温故知新 戻る]
 孝経(原文・読み・訳)孝経(English)孝経(読み)孝経(訳)童蒙須知朱子家礼(冠婚葬祭)

童蒙須知(児童が心得ておくべきこと)

 童蒙須知・・・児童が心得ておくべきこと
 はじめに  『童蒙須知』について紹介
 1・衣服冠履  衣服、帽子、靴のこと
 2・言語歩趨  話し方や歩き方
 3・灑掃涓潔  掃除や衛生
 4・讀書寫文字  読者や習字
 5・雜細事宜  その他のこまごまとした点で気をつけるべきこと
 おわりに  『童蒙須知』の心得を守ることで聖人への道が開けること

はじめに

夫童蒙之學、始於衣服冠履、次及言語歩趨、次及灑掃涓潔、次及讀書寫文字、及有雜細事宜、皆所當知、今逐條列名、曰『童蒙須知』。若其修身治心、事親接物、與夫窮理盡性之要、自有聖賢典訓、昭然可考、當次第曉達、茲不復詳著云。

 児童の学ぶことは、「衣服冠履=衣服、帽子、靴のこと」から始まり、次に「言語歩趨=言い方や歩き方」に及び、次に「灑掃涓潔=掃除や衛生」に及び、次に「讀書寫字=読書や習字」に及び、次に「雑細事宜=その他のこまごまとした点で気をつけるべきこと」に及びます。それらには、すべてにおいて知っておいたほうがよいことがあります。今、それらについて、個別に紹介し、『童蒙須知』といタイトルにしました。
 たとえば、あの身を修め、心を治め、親に孝行し、他人と接すること、それから物事の道理をきわめ、自分に本来そなわっている良さを発揮することの要点については、もとから聖人や賢人の教えがあり、はっきりと参考にできるわけですが、それについてもだんだんと本当に理解していけるようになるので、ここではそのことには触れていません。


衣服冠履・第一

(1)大抵為人、先要身體端整。自冠巾衣服鞋襪、皆須收拾愛護、常令潔淨整齊。我先人常訓子弟云「男子有三緊。謂頭緊、腰緊、脚緊」。頭、謂頭巾。未冠者總髻。腰、謂以絛或帶束腰。脚、謂鞋襪。此三者要緊束、不可寬慢。寬慢則身體放肆不端嚴、為人所輕賤矣。

 そもそも人としては、まず身だしなみを整えないといけません。自分の帽子、衣服、靴は、どれも大事に取り扱い、つねにきれいにさせておきます。私たちの先人は「男子には、三つの気をつけるべきポイントがある。頭に気をつける。腰に気をつける。足に気をつける」という教えをたれています。頭とは、帽子です。成人していない人は、きちんと髪を束ねて防止にいれます。腰とは、きちんと腰にベルトをすることです。足とは、靴です。この3つのポイントについては、しっかりして、(たとえば今で言う腰パンなど)ずんだれてはいけません。ずんだれると、身だしなみがだらしなくなって、人から軽く見られるようになります。

(2)凡著衣服、必先提整衿領、結兩衽紐帶、不可令有缺落。飲食照管、勿令汚壞。行路看顧、勿令泥漬。

 およそ衣服を着るときは、必ず先に襟と袖をきちんとし、前がはだけないようにしてベルトをしめ、手落ちがあってはいけません。食事するときは、気をつけて、食べこぼして衣服を汚れさせてはいけません。外出するときは、周りをよくみて、泥で衣服を汚れさせてはいけません。

(3)凡脱衣服必齊整折疊。箱篋中勿令散亂頓放。則不為塵埃雜穢所汚。仍易於尋求、不致散失。著衣既久、則不免垢膩、須要勤勤洗幹。破綻則補輟之、盡補輟無害、只要完潔。

 およそ衣服を脱いだら、必ずきれいにたたみます。衣装ケースの中をぐちゃぐちゃにしてはいけません。そうすれば、ほこりやゴミなどで衣服を汚れさせないですみます。それに衣服を見つけやすいですし、散らからないですみます。長いこと着ていたら、汗や油で汚れるものなので、せっせと洗濯しないといけません。破れたら、きちんと縫って繕います。繕って問題なければ、あとはきれいにするだけです。

(4)凡盥面、必以巾?遮護衣服、卷束兩褒、勿令有所濕。

 およそ顔を洗うときは、タオルをエプロンみたいにして衣服をカバーし、両袖をたくりあげて、服を濡れさせてはいけません。

(5)凡就勞役、必去上籠衣服、只著短便、愛護勿使損汚。

 およそ作業をするときは、必ず上着をぬいで籠の中にいれ、シャツ一枚になって、上着を汚れさせないようにします。

(6)凡日中所著衣服、夜臥必更。則不藏蚤虱、不即敝壞。苟能如此、則不但威儀可法、又可不費衣服。晏子一狐裘三十年、雖意在以儉化俗、亦其愛惜有道也。此最飭身之要、勿忽。

 およそ昼間に来ていた衣服は、夜に寝るときは必ず着替えます。そうすれば、シラミやノミがわくこともありませんし、衣服をダメにすることもありません。このようにすれば、見栄えがよくなるだけでなく、衣服にかかる費用も節約できます。晏子(春秋時代の名臣)は、狐の革で作られた服を三十年にわたり着用しました。これは倹約を人民に教えることが主眼であるとはいえ、ものを大事にすることも教えています。これは身だしなみを整えるうえで、いちばん大切なことです。ゆるがせにしてはいけません。


言語歩趨・第二

(1)凡為人子弟、須要常低聲下氣、言語詳緩、不可高聲喧哄、浮言戲笑。父兄長上、有所教督、但當低首聽受、不可妄自議論。長上檢責、或有過誤、不可便自分解、始則隱默、久卻徐徐細意條陳、云此事恐是如此。「向者當是偶而遺忘」或曰「當是偶而思省未至」。若爾、則無傷忤、事理自明。至於朋友分上、亦當如此。

 およそ子どもであるときは、常に声を静かに、気分をおだやかに、発言は簡潔かつ丁寧にしないといけません。大きな声で騒いだり、冗談を言ってバカ笑いしたりしてはいけません。目上の人が何か教えてくれているときは、とにかく自分の意見をおさえて聞くべきで、みだりに自分の意見をぶつけてはいけません。目上の人から叱られたとき、それが誤解にもとづくものであったとしても、すぐに言い訳をしてはいけません。まずは黙って叱られ、時間がたってから少しずつ事情を話します。たとえば、こんな感じで前置きして話します。「この前の件につきまして、たまたま忘れていたのですが~」もしくは「たまたま思いつかなかったのですが~」と言うのです。このようにすれば、波風がたちませんし、真実がおのずと明確になります。友人との関係においても、このようにします。

(2)凡聞人所為不善、下至婢僕為過、宜且包藏、不應便而聲言、當相告語、使其知改。

 およそ人が悪さをしていることを聞き知ったときは、目下としては下働きの人が間違ったことをしたことを聞き知ったときに至るまで、それらの悪事や過失を内々のことにして、言いふらしてはいけません。そのことについて相手に教えてやり、相手が改善したほうがよいと思うように仕向けるようにします。

(3)凡行歩趨蹌、須是端正、不可疾走跳躑。若父母長上、有所喚召、卻當疾走而前、不可舒緩。

 およそ歩いたり、走ったりするときは、見苦しくないように気をつけて、あわてふためいてはいけません。しかし、もし目上の人から呼ばれたときは、すばやく目上の人のところまで行き、のんびりしてはいけません。


灑掃涓潔・第三

(1)凡為人子弟、當灑掃居處之地、拂拭几案、常令潔淨。文字筆硯、百凡器用、皆當嚴肅整齊、頓放有常處、取用既畢、復置元所。父兄長上坐起處、文字紙札之屬、或有散亂、當加意整齊、不可輒取自用。

 およそ子どもであるときは、住んでいる場所を掃除し、机をふき、常に清潔に保つようにすべきです。筆記用具、あらゆる日用品は、すべて整頓すべきです。置き場所は決めておいて、使い終わったら、もとの場所にしまいます。目上の生活する場所、目上の用紙などが、散乱したりしていたら、注意しながら整頓すべきです。目上の人のものを勝手に持ち出してはいけません。

(2)凡借人文字、皆置簿抄録諸名、及時取還。窗壁几案文字間、不可畫字。前輩云「壞筆汚墨、?子弟職。畫几畫研、自黥其面」。此為最不雅潔、切宜深戒。

 およそ人の文章を借りるときは、すべて帳簿を置いて名前を記し、用がすんだら返します。窓、壁、机、行間などには、落書きしてはいけません。先輩は「筆を壊したり、墨を汚したりするのは、子どもの務めをだいなしにする。机や硯は表面を黒くしておいたほうがよい」と言っていますが、なんとも浅はかなことです。まったく深く気をつけてください。


讀書寫字・第四

(1)凡讀書、須整頓几案、令潔淨端正。將書冊整齊頓放、正身體、對書冊詳緩、看字子細分明。讀之、須要讀得字字響亮、不可誤一字、不可少一字、不可倒一字、不可牽強暗記、只是要多誦遍數、自然上口、久遠不忘。古人云「讀書千遍、其義自見」。謂讀得熟、則不解説、自曉其義也。余嘗謂讀書有「三到」。謂心到、眼到、口到。心不在此、則眼不看子細、心眼既不專一、卻只漫浪誦讀、決不能記、記不能久也。三到之中、心到最急、心既到矣、眼口豈不能到乎。

 およそ読書は、机を整頓して、清潔かつ端正にすべきです。書物を整頓して(本を読むための机の上に)置いて、姿勢を正し、書物を丁寧に扱い、字を見間違わないようにします。読むときは、どの字もはっきりと発音します。一字も誤ってはいけませんし、一字も見落としてはいけませんし、一字もひっくり返してはいけませんし、無理に暗記しようとしてはいけません。何度も読んでいれば、おのずと口ずさめるようになり、ずっと忘れないようになるものです。古人は「読書を1000回すれば、その意味もおのずと分かってくる」と言っています。熟読すれば、解説しなくても、その意味がおのずとわかる、ということです。私は、「読書には3つの到がある」と言ったことがあります。「心が到る」「目が到る」「口が到る」です。心がここになければ、目は細かいところまで見えません。心と目が集中できていなければ、だらだらと口に出して読んでいるだけで、決して覚えられませんし、覚えてもすぐに忘れてしまいます。「3つの到」のうち、「心が到る」が最も大切です。心が集中していれば、目で見るのも、口で言うのも、良好にならないことがあるでしょうか。

(2)凡書冊須要愛護、不可損汚皺折。濟陽、張祿、書讀未竟、雖有急速、必待掩束整齊然後起。此最為可法。

 およそ書物は大切に扱うようにします。汚したり、しわをつけたりしてはいけません。濟陽や張祿といった人は、書物を読んでいて読み終わっていなければ、急ぎのことがあったとしても、必ず書物をカバーに入れて片付けた後で立ち上がりました。これが一番の手本にすべきことです。

(3)凡寫文字、須高執墨錠、端正研磨、勿使墨汁汚手。高執筆、雙鉤端楷書字、不得令手揩著毫。

 およそ文章を書きうつすときは、墨を高く持ち上げて、端正に墨をすり、墨汁で手を汚さないようにします。筆を高く持ち上げて、一定の筆の持ち方を使って字を書き、指で字を書きつけたりなどしてはいけません。

(4)凡寫字、未問寫得工拙如何。且要一筆一書、嚴正分明、不可潦草。

 およそ字を書きうつすときは、だれが書きうつすのが上手かどうかを評価してはいけません。しばらくは文字を書くときは、しっかりわかりやすい字を書くようにして、ぐちゃぐちゃと書いてはいけません。

(5)凡寫文字、須要子細看本、不可差訛。
 
 およそ文章を書きうつすときは、本をよく見るようにし、間違ってはいけません。


雑細事宜・第五

(1)凡子弟、須要早起晏眠。
 およそ子どもは、早起き、早寝が必要です。

(2)凡喧哄鬥爭之處、不可近。無益之事、不可為。
 およそケンカしているところには近づいてはいけません。無益なことはしてはいけません。

(3)凡飲食、有、則食之。無、則不可思索。但粥飯充飢不可缺。
 およそ飲食は、食べ物があれば食べますが、なければ食べ物のことを考えてはいけません。ただし、お粥で飢えをしのぐのだけは欠いてはいけません。

(4)凡向火、勿迫近火旁、不惟舉止不佳、且防焚?衣服。
 およそ火に対しては、火のそばに近づいて行ってはいけません。ただあわてふためかないですむようにするためだけであり、衣服が燃えるのを防ぐためでもあります。

(5)凡相揖、必折腰。
 およそお互いに挨拶をするときは、必ず相手に対して頭を下げるようにします。

(6)凡對父母長上朋友、必稱名。
 およそ目上や友人に対しては、きちんとした呼び方で呼びかけるようにします。

(7)凡稱呼長上、不可以字、必云某丈、如弟行者、?云某姓某丈。
 およそ目上の人を呼ぶときは、なれなれしい呼びかけをするのではなく、必ず「~さん」と呼ぶようにします。たとえば目下として行動するときは、相手に対して「なんの(名字)なにがし(名前)さん」というようにします。

(8)凡出外及歸、必於長上前作揖、雖暫出亦然也。
 およそ外出したり、帰宅したりしたときは、必ず目上の人のところまでいって、きちんと挨拶します。ちょっと出かけるだけのときでも、同様にします。

(9)凡飲食於長上之前、必輕嚼緩咽、不可聞飲食之聲。

およそ目上の人の前で食事するときは、必ず静かにかき、ゆっくり飲みこむようにします。くちゃくちゃと飲食の音を聞こえさせてはいけません。

(10)凡飲食之物、勿爭較多少美惡。
 およそ食べ物、飲み物については、多いとか、少ないとか、うまいとか、まずいとかを評価してはいけません。

(11)凡侍長者之側、必正言拱手、有所問、則必誠實對言、不可妄。
 およそ年長者のそばにいるときは、必ず言葉つきを正しくし、礼儀よくします。質問されたときには、必ず誠実に返答するようにして、ふざけてはいけません。

(12)凡開門掲簾、須徐徐輕手、不可令震驚聲響。
 およそ門を開いたり、簾を掲げたりするときは、ゆっくりとやわらかい手つきで行うようにします。ガタガタ、バタバタとよけいな騒音を立てさせてはいけません。

(13)凡衆坐、必斂身、勿廣占坐席。
 およそみんなで座っているときは、必ず体をすぼめて、座席を広く取ってはいけません。

(14)凡侍長上出行、必居路之右、住必居左。
 およそ目上の人と一緒に出かけるときは、必ず道の右側を通ります。席につくときは、必ず左側に座るようにします。

(15)凡飲酒、不可令至醉。
 およそ酒を飲むときは、泥酔するまで飲んではいけません。

(16)凡如廁、必去上衣、下必盥手。
 およそトイレなどでは、必ず上着を脱ぐようにし、下は必ず手で洗います。(もしくは、およそトイレなどでは、必ず上着を脱ぐようにし、終わったら必ず手を洗います。)

(17)凡夜行必以燈燭、無燭則止。
 およそ夜に出かけるときには、ライトを携行するようにします。ライトがないときは、外出をやめます。

(18)凡待婢僕必端嚴、勿得與之嬉笑。執器皿必端嚴、唯恐有失。
 およそ下働きの人と一緒にいるときは、必ず姿勢を正しておくようにし、一緒になって冗談を言って笑ってはいけません。
 食器を手に取るときは、必ず丁寧に取り扱うようにし、とにかく失敗しないことだけに気をつけます。

(19)凡危險不可近。
 およそ危険には近づいてはいけません。

(20)凡道路遇長者、必正立拱手、疾趨而揖。
 およそ道路で年長者に出会ったら、必ず姿勢を正して礼儀正しくお辞儀し、小走りに近づいて挨拶します。

(21)凡夜臥、必用枕、勿以寢衣覆首。
 およそ夜に寝るときは、必ず枕を使います。パジャマを枕がわりにしてはいけません。

(22)凡飲食、舉匙必置箸、舉箸必置匙、食已則置箸於案。
 およそ飲食については、スプーンを手に持ったら必ず箸を置き、箸を手に持ったら必ずスプーンを置きます。食べ終わったときには、箸を箸置きに置きます。

(まとめ)雜細事宜、品目甚多、姑舉其略、然大概具矣。
その他のこまごまとした気をつけるべきことは、項目がとても多くあります。とりあえずここではその大まかなところを取り上げただけですが、大事なところは押さえています。


おわりに

雜細事宜,品目甚多,姑舉其略,然大概具矣。凡此五篇,若能遵守不違,自不失為謹愿之士,必又能讀聖賢之書,恢大此心,進德修業,入於大賢君子之域無不可者,汝曹宜勉之。

雜細事宜,品目甚多,姑舉其略,然大概具矣。 その他のこまごました気をつけるべきことは、項目がとても多くあります。とりあえずここではその大まかなところを取り上げただけですが、大事なところは押さえています。

[TOP]

江守孝三(Emori Kozo)