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春秋左氏傳校本


 春秋《左氏傳》(文公上、下)

春秋左氏傳
(隱公 桓公莊公閔公)(僖公上、中、下 )(文公上、下 )(宣公上、下 )(成公上、下 )
(襄公一、二、三) (四、五、六 )(昭公一、二、三、四) (五、六、七)(定公上、下)(哀公上、下)(序杜預略傳 ・後序)

文公上、下

春秋左氏傳校本第八

文公 起元年盡十年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

文公 名興。僖公子。母聲姜。謚法、慈惠愛民曰文。忠信接禮曰文。
【読み】
文公 名は興。僖公の子。母は聲姜。謚法に、慈惠にして民を愛するを文と曰う。忠信禮に接わるを文と曰う、と。

〔經〕
元年、春、王正月、公卽位。無傳。先君未葬、而公卽位、不可曠年無君。
【読み】
〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。先君未だ葬らずして、公位に卽くは、年を曠[むな]しくして君無かる可からざればなり。

二月、癸亥、日有食之。無傳。癸亥、月一日。不書朔、官失之。
【読み】
二月、癸亥[みずのと・い]、日之を食する有り。傳無し。癸亥は、月の一日。朔を書さざるは、官之を失えるなり。

天王使叔服來會葬。叔、氏。服、字。諸侯喪、天子使大夫會葬、禮也。
【読み】
天王叔服をして來りて葬に會せしむ。叔は、氏。服は、字。諸侯の喪に、天子大夫をして葬に會せしむるは、禮なり。

夏、四月、丁巳、葬我君僖公。七月而葬。緩也。
【読み】
夏、四月、丁巳[ひのと・み]、我が君僖公を葬る。七月にして葬る。緩[おそ]きなり。

天王使毛伯來錫公命。毛、國。伯、爵。諸侯爲王卿士者。諸侯卽位、天子賜以命圭、合瑞爲信。僖十一年、王賜晉侯命、亦其比也。
【読み】
天王毛伯をして來りて公に命を錫わしむ。毛は、國。伯は、爵。諸侯の王の卿士爲る者なり。諸侯位に卽けば、天子賜うに命圭を以てし、瑞を合わせて信と爲す。僖十一年、王晉侯に命を賜うも、亦其の比なり。

晉侯伐衛。晉襄公先告諸侯而伐衛。雖大夫親伐、而稱晉侯、從告辭也。
【読み】
晉侯衛を伐つ。晉の襄公先ず諸侯に告げて衛を伐つ。大夫親ら伐つと雖も、而れども晉侯と稱するは、告辭に從うなり。

叔孫得臣如京師。得臣、叔牙之孫。
【読み】
叔孫得臣京師に如く。得臣は、叔牙の孫。

衛人伐晉。衛孔達爲政、不共盟主、興兵鄰國、受討喪邑。故貶稱人。
【読み】
衛人晉を伐つ。衛の孔達政を爲して、盟主に共せず、兵を鄰國に興し、討を受け邑を喪う。故に貶して人と稱す。

秋、公孫敖會晉侯于戚。戚、衛邑。在頓丘衛縣西。禮、卿不會公侯。而春秋魯大夫皆不貶者、體例已舉。故據用魯史成文而已。内稱公、卒稱薨、皆用魯史。
【読み】
秋、公孫敖晉侯に戚に會す。戚は、衛の邑。頓丘衛縣の西に在り。禮に、卿は公侯に會せず、と。而るに春秋魯の大夫皆貶せざるは、體例已に舉げたり。故に魯史の成文に據り用ゆるのみ。内公と稱し、卒するに薨と稱するも、皆魯史を用ゆるなり。

冬十月、丁未、楚世子商臣弑其君頵。商臣、穆王也。弑君例在宣四年。○頵、憂倫反。又丘倫反。
【読み】
冬十月、丁未[ひのと・ひつじ]、楚の世子商臣其の君頵[いん]を弑す。商臣は、穆王なり。君を弑するの例は宣四年に在り。○頵は、憂倫反。又丘倫反。

公孫敖如齊。傳例曰、始聘焉。禮也。
【読み】
公孫敖齊に如く。傳例に曰く、始めて聘す。禮なり、と。

傳〕元年、春、王使内史叔服來會葬。公孫敖聞其能相人也、公孫敖、魯大夫。慶父之子。
【読み】
〔傳〕元年、春、王内史叔服をして來りて葬に會せしむ。公孫敖其の能く人を相すると聞き、公孫敖は、魯の大夫。慶父の子。

見其二子焉。叔服曰、穀也食子。難也收子。穀、文伯。難、惠叔。食子、奉祭祀供養者也。收子、葬子身也。○見、賢遍反。食、音嗣。難、乃多反。又如字。
【読み】
其の二子を見えしむ。叔服曰く、穀や子を食[やしな]わん。難や子を收めん。穀は、文伯。難は、惠叔。子を食うとは、祭祀を奉じて供養する者なり。子を收むとは、子の身を葬るなり。○見は、賢遍反。食は、音嗣。難は、乃多反。又字の如し。

穀也豐下。必有後於魯國。豐下、蓋面方。爲八年、公孫敖奔莒傳。
【読み】
穀や豐下なり。必ず魯國に後有らん、と。豐下は、蓋し面方ならん。八年、公孫敖莒に奔る爲の傳なり。

於是閏三月。非禮也。於歷法、閏當在僖公末年。誤於今年三月置閏。蓋時達歷者所譏。
【読み】
是に於て三月に閏す。禮に非ざるなり。歷法に於て、閏は當に僖公の末年に在るべし。誤りて今年三月に於て閏を置けり。蓋し時の歷に達する者を譏る所ならん。

先王之正時也、履端於始、舉正於中、歸餘於終。步歷之始、以爲術之端首。朞之日、三百六十有六日。日月之行、又有遲速、而必分爲十二月、舉中氣以正月、有餘日則歸之於終、積而爲閏。故言歸餘於終。
【読み】
先王の時を正すや、端を始めに履[あゆ]ませ、正を中に舉げ、餘を終わりに歸す。歷の始めを步ませて、以て術の端首と爲す。朞の日、三百六十有六日なり。日月の行に、又遲速有るも、而れども必ず分かちて十二月と爲し、中氣を舉げて以て月を正し、餘日有れば則ち之を終 わりに歸して、積りて閏と爲すなり。故に餘を終わりに歸すと言う。

履端於始、序則不愆、四時無愆過。
【読み】
端を始めに履ますときは、序則ち愆[あやま]らず、四時愆過無し。

舉正於中、民則不惑、斗建不失其次、寒暑不失其常。故無疑惑。
【読み】
正を中に舉ぐるときは、民則ち惑わず、斗建其の次を失わず、寒暑其の常を失わず。故に疑惑無し。

歸餘於終、事則不悖。四時得所、則事無悖亂。
【読み】
餘を終わりに歸するときは、事則ち悖らず。四時所を得れば、則ち事悖亂無し。

夏、四月、丁巳、葬僖公。傳皆不虛載經文。而此經孤見。知僖公末年傳、宜在此下。
【読み】
夏、四月、丁巳、僖公を葬る。傳皆經文を虛しく載せず。而るに此の經のみ孤り見す。知んぬ、僖公の末年の傳の、宜しく此の下に在るべきを。

王使毛伯衛來錫公命。衛、毛伯字。
【読み】
王毛伯衛をして來りて公に命を錫わしむ。衛は、毛伯の字。

叔孫得臣如周拜。謝賜命。
【読み】
叔孫得臣周に如きて拜す。賜命を謝す。

晉文公之季年、諸侯朝晉、衛成公不朝、使孔達侵鄭、伐緜訾及匡。孔達、衛大夫。匡、在潁川新汲縣東北。○訾、子斯反。
【読み】
晉の文公の季年に、諸侯晉に朝せしに、衛の成公のみ朝せず、孔達をして鄭を侵さしめ、緜訾[めんし]と匡とを伐てり。孔達は、衛の大夫。匡は、潁川新汲縣の東北に在り。○訾は、子斯反。

晉襄公旣祥、諸侯雖諒闇、亦因祥祭、爲位而哭。
【読み】
晉の襄公旣に祥して、諸侯諒闇と雖も、亦祥祭に因りて、位を爲して哭す。

使告于諸侯而伐衛、及南陽。今河内地。
【読み】
諸侯に告げしめて衛を伐ち、南陽に及ぶ。今の河内の地。

先且居曰、效尤禍也。尤衛不朝。故伐。今不朝王、是效衛致禍。時王在溫。故勸之。○且、子餘反。
【読み】
先且居曰く、尤に效うは禍なり。衛の朝せざるを尤む。故に伐つ。今王に朝せざれば、是れ衛に效いて禍を致すなり。時に王溫に在り。故に之を勸む。○且は、子餘反。

請君朝王。臣從師。晉侯朝王于溫。先且居・胥臣伐衛。五月、辛酉、朔、晉師圍戚。六月、戊戌、取之、獲孫昭子。昭子、衛大夫。食戚邑。
【読み】
請う君王を朝せよ。臣師に從わん、と。晉侯王に溫に朝す。先且居・胥臣衛を伐つ。五月、辛酉[かのと・とり]、朔、晉の師戚を圍む。六月、戊戌[つちのえ・いぬ]、之を取り、孫昭子を獲たり。昭子は、衛の大夫。戚邑を食む。

衛人使告于陳。陳共公曰、更伐之。我辭之。見伐求和、不競大甚。故使報伐、示己力足以距晉。○共、音恭。更、古孟反。又音庚。
【読み】
衛人陳に告げしむ。陳の共公曰く、更に之を伐て。我れ之を辭せん、と。伐たれて和を求むるは、競わざること大甚だし。故に報伐せしめて、己が力の以て晉を距ぐに足るを示す。○共は、音恭。更は、古孟反。又音庚。

衛孔達帥師伐晉。
【読み】
衛の孔達師を帥いて晉を伐つ。

君子以爲古。古者越國而謀。合古之道、而失今事霸主之禮。故國失其邑、身見執辱。
【読み】
君子以て古なりと爲す。古は國を越えて謀る。古の道に合いて、今霸主に事うるの禮を失う。故に國其の邑を失いて、身執辱せらる。

秋、晉侯疆戚田。故公孫敖會之。晉取衛田、正其疆界。
【読み】
秋、晉侯戚の田を疆[さか]う。故に公孫敖之に會す。晉衛の田を取りて、其の疆界を正す。

初、楚子將以商臣爲大子、訪諸令尹子上。子上曰、君之齒未也。齒、年也。言尙少。
【読み】
初め、楚子將に商臣を以て大子と爲さんとして、諸を令尹子上に訪[と]う。子上曰く、君の齒[よわい]未だし。齒は、年なり。言うこころは、尙少[わか]し。

而又多愛。黜乃亂也。楚國之舉、恆在少者。舉、立也。
【読み】
而るに又愛多し。黜けば乃ち亂あらん。楚國の舉は、恆に少者に在り。舉は、立つなり。

且是人也、蠭目而豺聲。忍人也。能忍行不義。○蠭、本作蜂。
【読み】
且つ是の人や、蠭目[ほうもく]にして豺聲なり。忍人なり。能く忍びて不義を行う。○蠭は、本蜂に作る。

不可立也。弗聽。
【読み】
立つ可からず、と。聽かず。

旣又欲立王子職、而黜大子商臣。職、商臣庶弟。
【読み】
旣にして又王子職を立てて、大子商臣を黜けんことを欲す。職は、商臣の庶弟。

商臣聞之而未察。告其師潘崇曰、若之何而察之。潘崇曰、享江羋而勿敬也。江羋、成王妹。嫁於江。○羋、亡氏反。
【読み】
商臣之を聞きて未だ察せず。其の師潘崇に告げて曰く、之を若何にして之を察せん、と。潘崇曰く、江羋[こうび]を享して敬すること勿かれ、と。江羋は、成王の妹。江に嫁す。○羋は、亡氏反。

從之。江羋怒曰、呼、役夫。呼、發聲也。役夫、賤者稱。○呼、好賀反。
【読み】
之に從う。江羋怒りて曰く、呼、役夫。呼は、發聲なり。役夫は、賤者の稱。○呼は、好賀反。

宜君王之欲殺女而立職也。告潘崇曰、信矣。潘崇曰、能事諸乎。問能事職不。○女、音汝。
【読み】
宜なり君王の女を殺して職を立てんと欲することや、と。潘崇に告げて曰く、信なり、と。潘崇曰く、能く諸に事えんか、と。能く職に事えんや不[いな]やと問う。○女は、音汝。

曰、不能。能行乎。曰、不能。能行大事乎。曰、能。大事、謂弑君。
【読み】
曰く、能わず、と。能く行[さ]らんか。曰く、能わず、と。能く大事を行わんか。曰く、能くせん、と。大事は、君を弑するを謂う。

冬、十月、以宮甲圍成王。大子官甲。僖二十八年、王以東宮卒從子玉、蓋取此宮甲。
【読み】
冬、十月、宮甲を以て成王を圍む。大子の官甲。僖二十八年に、王東宮の卒を以て子玉に從わすとは、蓋し此の宮甲を取るならん。

王請食熊蹯而死。熊掌難熟。冀久將有外救。○蹯、音煩。
【読み】
王熊蹯[ゆうはん]を食いて死なんと請う。熊掌は熟し難し。久しくして將に外救有らんと冀う。○蹯は、音煩。

弗聽。丁未、王縊。謚之曰靈。不瞑。曰成。乃瞑。言其忍甚、未斂而加惡謚。○瞑、亡丁反。又亡千反。
【読み】
聽かず。丁未、王縊る。之を謚して靈と曰う。瞑せず。成と曰う。乃ち瞑す。其の忍甚だしく、未だ斂せずして惡謚を加うるを言う。○瞑は、亡丁反。又亡千反。

穆王立。以其爲大子之室與潘崇、使爲大師、且掌環列之尹。環列之尹、宮衛之官。列兵而環王宮。
【読み】
穆王立つ。其の大子爲るときの室を以て潘崇に與えて、大師爲らしめ、且環列の尹を掌らしむ。環列の尹は、宮衛の官。兵を列ねて王宮を環るものなり。

穆伯如齊、始聘焉。禮也。穆伯、公孫敖。
【読み】
穆伯齊に如き、始めて聘す。禮なり。穆伯は、公孫敖。

凡君卽位、卿出竝聘、踐脩舊好、要結外援、踐、猶履行也。
【読み】
凡そ君位に卽けば、卿出でて竝び聘し、舊好を踐脩し、外援を要結し、踐は、猶履行のごとし。

好事鄰國、以衛社稷。忠信卑讓之道也。忠、德之正也。信、德之固也。卑讓、德之基也。傳因此發凡、以明諸侯諒闇、則國事皆用吉禮。
【読み】
鄰國に好事して、以て社稷を衛る。忠信卑讓の道なり。忠は、德の正なり。信は、德の固なり。卑讓は、德の基なり。傳此に因りて凡そを發して、以て諸侯は諒闇なれば、則ち國事皆吉禮を用ゆることを明かす。

殽之役、在僖三十三年。
【読み】
殽[こう]の役に、僖三十三年に在り。

晉人旣歸秦師。秦大夫及左右皆言於秦伯曰、是敗也、孟明之罪也。必殺之。秦伯曰、是孤之罪也。周芮良夫之詩曰、大風有隧、貪人敗類。詩大雅。隧、蹊徑也。周大夫芮伯刺厲王。言貪人之敗善類、若大風之行、毀壞衆物、所在成蹊徑。○芮、如銳反。
【読み】
晉人旣に秦の師を歸す。秦の大夫と左右と皆秦伯に言いて曰く、是の敗や、孟明の罪なり。必ず之を殺せ、と。秦伯曰く、是れ孤の罪なり。周の芮良夫の詩に曰く、大風隧有り、貪人類を敗る。詩は大雅。隧は、蹊徑なり。周の大夫芮伯厲王を刺る。言うこころは、貪人の善類を敗る、大風の行きて、衆物を毀壞し、在る所蹊徑を成すが若し。○芮は、如銳反。

聽言則對、誦言如醉。言昏亂之君、不好典誦之言、聞之若醉。得道聽塗說之言、則喜而答對。
【読み】
聽言には則ち對え、誦言には醉えるが如し。言うこころは、昏亂の君、典誦の言を好まず、之を聞きて醉えるが若し。道聽塗說の言を得ては、則ち喜びて答對す。

匪用其良、覆俾我悖。覆、反也。俾、使也。不用良臣之言、反使我爲悖亂。
【読み】
其の良を用ゆるに匪ず、覆[かえ]って我をして悖らしむ、と。覆は、反ってなり。俾は、使むるなり。良臣の言を用いず、反って我をして悖亂を爲さしむ。

是貪故也。孤之謂矣。孤實貪以禍夫子。夫子何罪。
【読み】
是れ貪の故なり。孤を謂うなり。孤實に貪りて以て夫子に禍せり。夫子何の罪あらん、と。

復使爲政。爲明年、秦・晉戰彭衙傳。
【読み】
復政を爲さしむ。明年、秦・晉彭衙[ほうが]に戰う爲の傳なり。


〔經〕二年、春、王二月、甲子、晉侯及秦師戰于彭衙。秦師敗績。孟明名氏不見、非命卿也。大崩曰敗績。馮翊郃陽縣西北有彭衙城。○郃、戶納反。
【読み】
〔經〕二年、春、王の二月、甲子[きのえ・ね]、晉侯秦の師と彭衙[ほうが]に戰う。秦の師敗績す。孟明名氏見えざるは、命卿に非ざればなり。大いに崩るるを敗績と曰う。馮翊郃陽[ひょうよくこうよう]縣の西北に彭衙城有り。○郃は、戶納反。

丁丑、作僖公主。主者、殷人以柏、周人以栗。三年喪終、則遷入於廟。
【読み】
丁丑[ひのと・うし]、僖公の主を作る。主は、殷人は柏を以てし、周人は栗を以てす。三年の喪終われば、則ち遷して廟に入る。

三月、乙巳、及晉處父盟。處父爲晉正卿、不能匡君以禮、而親與公盟。故貶其族。族去則非卿。故以微人常稱爲耦、以直厭不直。不地者、盟晉都。
【読み】
三月、乙巳[きのと・み]、晉の處父と盟う。處父晉の正卿と爲りて、君を匡すに禮を以てすること能わずして、親ら公と盟う。故に其の族を貶す。族去れば則ち卿に非ず。故に微人の常稱を以て耦と爲すは、直を以て不直を厭[おと]すなり。地いわざるは、晉の都に盟えばなり。

夏、六月、公孫敖會宋公・陳侯・鄭伯・晉士縠盟于垂隴。垂隴、鄭地。滎陽縣東有隴城。士縠出盟諸侯、受成於衛。故貴而書名氏。○縠、戶木反。
【読み】
夏、六月、公孫敖宋公・陳侯・鄭伯・晉の士縠[しこく]に會して垂隴[すいろう]に盟う。垂隴は、鄭の地。滎陽[けいよう]縣の東に隴城有り。士縠出でて諸侯に盟い、成[たい]らぎを衛に受く。故に貴びて名氏を書す。○縠は、戶木反。

自十有二月不雨、至于秋七月。無傳。周七月、今五月也。不雨、足爲災。不書旱、五穀猶有收。
【読み】
十有二月より雨ふらずして、秋七月に至る。傳無し。周の七月は、今の五月なり。雨ふらざるは、災いを爲すに足れり。旱と書さざるは、五穀猶收むること有ればなり。

八月、丁卯、大事于大廟。躋僖公。大事、禘也。躋、升也。僖公、閔公庶兄。繼閔而立。廟坐宜次閔下。今升在閔上。故書而譏之。時未應吉禘、而於大廟行之。其譏已明。徒以逆祀故、特大其事、異其文。
【読み】
八月、丁卯[ひのと・う]、大廟に大事あり。僖公を躋[のぼ]す。大事は、禘なり。躋[せい]は、升るなり。僖公は、閔公の庶兄。閔に繼いで立つ。廟坐宜しく閔下に次ぐべし。今升せて閔の上に在り。故に書して之を譏る。時未だ應に吉禘すべからずして、大廟に於て之を行う。其の譏るや已に明らかなり。徒に逆祀の故を以て、特に其の事を大いにして、其の文を異にす。

冬、晉人・宋人・陳人・鄭人伐秦。四人皆卿。秦穆悔過、終用孟明。故貶四國大夫以尊秦。
【読み】
冬、晉人・宋人・陳人・鄭人秦を伐つ。四人は皆卿なり。秦穆過ちを悔いて、終に孟明を用ゆ。故に四國の大夫を貶して以て秦を尊ぶ。

公子遂如齊納幣。傳曰、禮也。僖公喪、終此年十一月、則納幣在十二月也。士昏六禮、其一納采・納徵始有玄纁束帛、諸侯則謂之納幣。其禮與士禮不同。蓋公爲大子時、已行昏禮。
【読み】
公子遂齊に如きて幣を納る。傳に曰く、禮なり、と。僖公の喪、此の年十一月に終われば、則ち納幣は十二月に在るなり。士昏の六禮、其の一は納采・納徵に始めて玄纁束帛有り、諸侯は則ち之を納幣と謂う。其の禮と士禮と同じからず。蓋し公大子爲る時、已に昏禮を行うならん。

〔傳〕二年、春、秦孟明視帥師伐晉、以報殽之役。二月、晉侯禦之。先且居將中軍。趙衰佐之。代郤溱。○衰、初危反。
【読み】
〔傳〕二年、春、秦の孟明視師を帥いて晉を伐ちて、以て殽[こう]の役に報ゆ。二月、晉侯之を禦ぐ。先且居中軍に將たり。趙衰[ちょうし]之に佐たり。郤溱に代わる。○衰は、初危反。

王官無地御戎。代梁弘。
【読み】
王官無地戎に御たり。梁弘に代わる。

狐鞫居爲右。鞫居、續簡伯。○鞫、九六反。
【読み】
狐鞫居[こきくきょ]右爲り。鞫居は、續簡伯。○鞫は、九六反。

甲子、及秦師戰于彭衙。秦師敗績。晉人謂秦拜賜之師。以孟明言三年將拜君賜、故嗤之。
【読み】
甲子、秦の師と彭衙に戰う。秦の師敗績す。晉人秦を拜賜の師と謂う。孟明三年ありて將に君の賜を拜せんとすと言いしを以て、故に之を嗤う。

戰于殽也、晉梁弘御戎。萊駒爲右。戰之明日、晉襄公縛秦囚、使萊駒以戈斬之。囚呼。萊駒失戈。狼瞫取戈以斬囚、禽之以從公乘、遂以爲右。箕之役、箕役、在僖三十三年。○呼、火故反。瞫、尺甚反。字林、式衽反。乘、繩證反。
【読み】
殽に戰いしや、晉の梁弘戎に御たり。萊駒右爲り。戰の明日に、晉の襄公秦の囚を縛りて、萊駒をして戈を以て之を斬らしむ。囚呼ぶ。萊駒戈を失う。狼瞫[ろうじん]戈を取りて以て囚を斬り、之を禽にして以て公の乘に從い、遂に以て右と爲りぬ。箕の役に、箕の役は、僖三十三年に在り。○呼は、火故反。瞫は、尺甚反。字林に、式衽反。乘は、繩證反。

先軫黜之、而立續簡伯。狼瞫怒。其友曰、盍死之。瞫曰、吾未獲死所。未得可死處。
【読み】
先軫之を黜けて、續簡伯を立つ。狼瞫怒る。其の友曰く、盍ぞ之に死せざる、と。瞫曰く、吾れ未だ死所を獲ず、と。未だ死す可き處を得ず。

其友曰、吾與女爲難。欲共殺先軫。○難、乃旦反。
【読み】
其の友曰く、吾れ女と難を爲さん、と。共に先軫を殺さんと欲す。○難は、乃旦反。

瞫曰、周志有之、勇則害上、不登於明堂。周志、周書也。明堂、祖廟也。所以策功序德。故不義之士不得升。
【読み】
瞫曰く、周志に之れ有り、勇にして則ち上を害するは、明堂に登[あ]げず、と。周志は、周書なり。明堂は、祖廟なり。功を策し德を序ずる所以。故に不義の士は升ることを得ず。

死而不義、非勇也。共用之謂勇。共用、死國用。○共、音恭。
【読み】
死して不義なれば、勇に非ざるなり。用に共する、之を勇と謂う。用に共するは、國用に死するなり。○共は、音恭。

吾以勇求右。無勇而黜、亦其所也。言今死而不義、更成無勇。宜見退。
【読み】
吾れ勇を以て右を求めたり。勇無くして黜けらるは、亦其の所なり。言うこころは、今死して不義なるは、更に勇無しと成る。宜しく退けらるべし。

謂上不我知、黜而宜、乃知我矣。言今見黜而合宜、則吾不得復言上不我知。
【読み】
上を我を知らずと謂うに、黜けられて宜しきは、乃ち我を知れるなり。言うこころは、今黜けられて宜しきに合うは、則ち吾れ復上を我を知らずと言うことを得ず。

子姑待之。
【読み】
子姑く之を待て、と。

及彭衙旣陳、以其屬馳秦師、死焉。屬、屬己兵。○陳、去聲。
【読み】
彭衙旣に陳するに及びて、其の屬を以[い]て秦の師に馳せて、死す。屬は、己に屬する兵。○陳は、去聲。

晉師從之、大敗秦師。
【読み】
晉の師之に從い、大いに秦の師を敗れり。

君子謂、狼瞫於是乎君子。詩曰、君子如怒、亂庶遄沮。詩、小雅。言君子之怒、必以止亂。遄、疾也。沮、止也。
【読み】
君子謂えらく、狼瞫是に於て君子なり。詩に曰く、君子如し怒らば、亂庶わくは遄[と]く沮[や]まん、と。詩は、小雅。君子の怒は、必ず以て亂を止むるを言う。遄[せん]は、疾きなり。沮は、止むなり。

又曰、王赫斯怒、爰整其旅。詩、大雅。言文王赫然奮怒、則整師旅以討亂。
【読み】
又曰く、王赫として斯に怒り、爰に其の旅を整う、と。詩は、大雅。言うこころは、文王赫然として奮怒すれば、則ち師旅を整えて以て亂を討ず。

怒不作亂、而以從師、可謂君子矣。
【読み】
怒りて亂を作さずして、以て師に從いしは、君子と謂う可し、と。

秦伯猶用孟明。孟明增脩國政、重施於民。趙成子言於諸大夫曰、成子、趙衰。○施、去聲。
【読み】
秦伯猶孟明を用ゆ。孟明國政を增脩して、民に重施す。趙成子諸大夫に言いて曰く、成子は、趙衰。○施は、去聲。

秦師又至。將必辟之。懼而增德。不可當也。詩曰、毋念爾祖。聿脩厥德。詩、大雅。言念其祖考、則宜述脩其德以顯之。毋念、念也。
【読み】
秦の師又至らん。將に必ず之を辟けんとす。懼れて德を增す。當たる可からざるなり。詩に曰く、爾の祖を念うこと毋からんや。厥の德を聿[の]べ脩めよ、と。詩は、大雅。言うこころは、其の祖考を念わば、則ち宜しく其の德を述べ脩めて以て之を顯らかにすべし。毋念は、念うなり。

孟明念之矣。念德不怠。其可敵乎。爲明年、秦人伐晉傳。
【読み】
孟明之を念えり。德を念いて怠らず。其れ敵す可けんや、と。明年、秦人晉を伐つ爲の傳なり。

丁丑、作僖公主。書不時也。過葬十月。故曰不時。例在僖三十三年。
【読み】
丁丑、僖公の主を作る。時ならざるを書すなり。葬を過ぐること十月。故に時ならずと曰う。例は僖三十三年に在り。

晉人以公不朝來討。公如晉。夏、四月、己巳、晉人使陽處父盟公、以恥之。使大夫盟公、欲以恥辱魯也。經書三月乙巳。經・傳必有誤。
【読み】
晉人公の朝せざるを以て來り討ず。公晉に如く。夏、四月、己巳[つちのと・み]、晉人陽處父をして公に盟わしめて、以て之を恥ずかしむ。大夫をして公に盟わしめて、以て魯を恥辱せしめんと欲す。經には三月乙巳と書す。經・傳に必ず誤り有らん。

書曰及晉處父盟、以厭之也。厭、猶損也。晉以非禮盟公。故文厭之、以示譏。○厭、於涉反。
【読み】
書して晉の處父と盟うと曰うは、以て之を厭[おと]すなり。厭は、猶損[おと]すのごとし。晉非禮を以て公に盟う。故に文之を厭して、以て譏りを示す。○厭は、於涉反。

適晉不書、諱之也。不書公如晉。
【読み】
晉に適くを書さざるは、之を諱みてなり。公晉に如くを書さず。

公未至。六月、穆伯會諸侯及晉司空士縠、盟于垂隴。晉討衛故也。討元年、衛人伐晉。士縠、士蔿子。
【読み】
公未だ至らず。六月、穆伯諸侯と晉の司空士縠とに會して、垂隴に盟う。晉衛を討ずる故なり。元年、衛人晉を伐つを討ずるなり。士縠は、士蔿[しい]の子。

書士縠、堪其事也。晉司空、非卿也。以士縠能堪卿事、故書。
【読み】
士縠と書すは、其の事に堪えたるなり。晉の司空は、卿に非ざるなり。士縠能く卿事に堪えたるを以て、故に書す。

陳侯爲衛請成于晉、執孔達以說。陳始與衛謀。謂可以强得免。今晉不聽。故更執孔達以苟免也。
【読み】
陳侯衛の爲に成らぎを晉に請い、孔達を執えて以て說く。陳始め衛と謀る。强を以て免ることを得可しと謂う。今晉聽かず。故に更に孔達を執えて以て苟も免るなり。

秋、八月、丁卯、大事于大廟。躋僖公。逆祀也。僖是閔兄。不得爲父子。嘗爲臣。位應在下。令居閔上。故曰逆祀。
【読み】
秋、八月、丁卯、大廟に大事あり。僖公を躋す。逆祀なり。僖は是れ閔の兄。父子爲るを得ず。嘗て臣爲り。位應に下に在るべし。閔の上に居らしむ。故に逆祀と曰う。

於是夏父弗忌爲宗伯。宗伯、掌宗廟昭穆之禮。
【読み】
是に於て夏父弗忌宗伯爲り。宗伯は、宗廟昭穆の禮を掌る。

尊僖公、且明見曰、吾見新鬼大、故鬼小。新鬼、僖公。旣爲兄。死時年又長。故鬼、閔公。死時年少。弗忌明言其所見。
【読み】
僖公を尊び、且見しことを明らかにして曰く、吾れ新鬼の大に、故鬼の小なるを見たり。新鬼は、僖公。旣に兄爲り。死する時年又長ぜり。故鬼は、閔公。死する時年少し。弗忌明らかに其の見し所を言う。

先大後小、順也。躋聖賢、明也。又以僖公爲聖賢。
【読み】
大を先にし小を後にするは、順なり。聖賢を躋すは、明なり。又僖公を以て聖賢と爲す。

明順、禮也。
【読み】
明順は、禮なり、と。

君子以爲失禮。禮無不順。祀、國之大事也。而逆之。可謂禮乎。子雖齊聖、不先父食久矣。齊、肅也。臣繼君、猶子繼父。○先、去聲。下同。
【読み】
君子以て禮を失えりと爲す。禮は順ならざること無し。祀は、國の大事なり。而るを之を逆にす。禮と謂う可けんや。子は齊聖なりと雖も、父に先だちて食せざること久し。齊は、肅なり。臣の君に繼ぐは、猶子の父に繼ぐがごとし。○先は、去聲。下も同じ。

故禹不先鯀、湯不先契、鯀、禹父。契、湯十三世祖。
【読み】
故に禹も鯀に先だたず、湯も契[せつ]に先だたず、鯀は、禹の父。契は、湯十三世の祖。

文武不先不窋。不窋、后稷子。○窋、知律反。
【読み】
文武も不窋[ふちゅつ]に先だたず。不窋は、后稷の子。○窋は、知律反。

宋祖帝乙、鄭祖厲王、猶上祖也。帝乙、微子父。厲王、鄭桓公父。二國不以帝乙・厲王不肖、而猶尊尙之。
【読み】
宋の祖は帝乙[ていいつ]、鄭の祖は厲王なるも、猶祖を上[たっと]べり。帝乙は、微子の父。厲王は、鄭の桓公の父。二國帝乙・厲王の不肖なるを以てせずして、猶之を尊尙す。

是以魯頌曰、春秋匪解、享祀不忒、皇皇后帝、皇祖后稷。忒、差也。皇皇、美也。后帝、天也。詩、頌僖公郊祭上天、配以后稷。○解、佳買反。
【読み】
是を以て魯頌に曰く、春秋解[おこた]らず、享祀忒[たが]わず、皇皇たる后帝、皇祖后稷、と。忒は、差うなり。皇皇は、美きなり。后帝は、天なり。詩に、僖公の上天を郊祭して、配するに后稷を以てするを頌す。○解は、佳買反。

君子曰、禮。謂其后稷親而先帝也。先稱帝也。
【読み】
君子曰く、禮なり、と。其の后稷は親なれども帝を先にするを謂うなり。先ず帝を稱す。

詩曰、問我諸姑、遂及伯姊。詩、邶風也。衛女思歸而不得。故願致問於姑姊。○邶、音佩。
【読み】
詩に曰く、我が諸姑を問いて、遂に伯姊に及ぶ、と。詩は、邶風[はいふう]なり。衛の女歸を思えども得ず。故に姑姊に致問せんことを願う。○邶は、音佩。

君子曰、禮。謂其姊親而先姑也。僖、親文公父。夏父弗忌從阿時君、先其所親。故傳以此二詩、深責其意。
【読み】
君子曰く、禮なり、と。其の姊は親なれども姑を先にするを謂うなり。僖は、親しく文公の父。夏父弗忌時君に從阿して、其の所親を先にす。故に傳此の二詩を以て、深く其の意を責む。

仲尼曰、臧文仲其不仁者三、不知者三。下展禽、展禽、柳下惠也。文仲知柳下惠之賢、而使在下位。己欲立而立人之道也。
【読み】
仲尼曰く、臧文仲其の不仁なる者三つ、不知なる者三つ。展禽を下にし、展禽は、柳下惠なり。文仲柳下惠の賢を知りて、下位に在らしむ。己立たんと欲して人を立つの道に非ず
*頭注に「本註舊脫非之道三字。今以馮氏本補之。七經考文引足利本後人記云、立人下、異本有仁字。」とある。


廢六關、塞關陽關之屬、凡六關。所以禁絕未遊、而廢之。
【読み】
六關を廢し、塞關陽關の屬、凡そ六關。未遊を禁絕する所以にして、之を廢す。

妾織蒲。三不仁也。家人販席。言其與民爭利。
【読み】
妾蒲を織る。三つの不仁なり。家人席[むしろ]を販[ひさ]ぐ。其の民と利を爭うを言う。

作虛器、謂居蔡山節藻梲也。有其器、而無其位。故曰虛。
【読み】
虛器を作り、蔡を居き節を山にし梲[せつ]に藻するを謂うなり。其の器有りて、其の位無し。故に虛と曰う。

縱逆祀、聽夏父躋僖公。
【読み】
逆祀を縱[ゆる]し、夏父僖公を躋すを聽[ゆる]す。

祀爰居。三不知也。海鳥曰爰居。止於魯東門外。文仲以爲神、命國人祀之。
【読み】
爰居[えんきょ]を祀る。三つの不知なり。海鳥を爰居と曰う。魯の東門外に止る。文仲以て神と爲し、國人に命じて之を祀らしむ。

冬、晉先且居・宋公子成・陳轅選・鄭公子歸生伐秦、取汪、及彭衙而還。以報彭衙之役。
【読み】
冬、晉の先且居・宋の公子成・陳の轅選・鄭の公子歸生秦を伐ち、汪を取り、彭衙に及びて還る。以て彭衙の役に報ゆ。

卿不書、爲穆公故、尊秦也。謂之崇德。
【読み】
卿書さざるは、穆公の爲の故に、秦を尊ぶなり。之を德を崇ぶと謂う。

襄仲如齊納幣。禮也。
【読み】
襄仲齊に如きて幣を納る。禮なり。

凡君卽位、好舅甥、脩昏姻、娶元妃、以奉粢盛。孝也。謂諒闇旣終、嘉好之事、通于外内。外内之禮始備。此除凶之卽位也。於是遣卿申好舅甥之國、脩禮以昏姻也。元妃、嫡夫人。奉粢盛、共祭祀。○好、呼報反。
【読み】
凡そ君位に卽くときは、舅甥を好し、昏姻を脩め、元妃を娶り、以て粢盛に奉ず。孝なり。諒闇旣に終わり、嘉好の事、外内に通ずるを謂う。外内の禮始めて備わる。此れ除凶の卽位なり。是に於て卿を遣して好を舅甥の國に申ね、禮を脩めて以て昏姻するなり。元妃は、嫡夫人。粢盛に奉ずるは、祭祀に共するなり。○好は、呼報反。

孝、禮之始也。
【読み】
孝は、禮の始めなり。


〔經〕三年、春、王正月、叔孫得臣會晉人・宋人・陳人・衛人・鄭人伐沈。沈潰。傳例曰、民逃其上曰潰。沈、國名也。汝南平與縣北有沈亭。○與、音餘。一音預。
【読み】
〔經〕三年、春、王の正月、叔孫得臣晉人・宋人・陳人・衛人・鄭人に會して沈を伐つ。沈潰[つい]ゆ。傳例に曰く、民其の上を逃るるを潰と曰う。沈は、國の名なり。汝南平與縣の北に沈亭有り。○與は、音餘。一に音預。

夏、五月、王子虎卒。不書爵者、天王赴也。翟泉之盟、雖輒假王命、周王因以同盟之例爲赴。
【読み】
夏、五月、王子虎卒す。爵を書さざるは、天王赴[つ]ぐればなり。翟泉の盟、輒ち王命を假ると雖も、周王因りて同盟の例を以て赴ぐることを爲す。

秦人伐晉。晉人恥不出、以微者告。
【読み】
秦人晉を伐つ。晉人出でざるを恥じ、微者を以て告ぐ。

秋、楚人圍江。雨螽于宋。自上而隋。有似於雨。宋人以其死爲得天祐。喜而來告。故書。○雨、于付反。隋、徒火反。
【読み】
秋、楚人江を圍む。宋に螽[しゅう]雨[ふ]る。上より隋[お]つ。雨ふるに似たること有り。宋人其の死するを以て天の祐を得るとす。喜びて來り告ぐ。故に書す。○雨は、于付反。隋は、徒火反。

冬、公如晉。十有二月、己巳、公及晉侯盟。晉陽處父帥師伐楚、以救江。
【読み】
冬、公晉に如く。十有二月、己巳[つちのと・み]、公晉侯と盟う。晉の陽處父師を帥いて楚を伐ち、以て江を救う。

〔傳〕三年、春、莊叔會諸侯之師伐沈、以其服於楚也。沈潰。
【読み】
〔傳〕三年、春、莊叔諸侯の師に會して沈を伐つは、其の楚に服するを以てなり。沈潰ゆ。

凡民逃其上曰潰、在上曰逃。潰、衆散流移、若積水之潰。自壞之象也。國君輕走、羣臣不知其謀、與匹夫逃竄無異。是以在衆曰潰、在上曰逃。各以類言之。
【読み】
凡そ民其の上を逃るるを潰と曰い、上に在るを逃と曰う。潰は、衆散流移すること、積水の潰ゆるが若し。自ら壞るるの象なり。國君輕走して、羣臣其の謀を知らざるは、匹夫の逃竄[とうざん]すると異なること無し。是を以て衆に在るを潰と曰い、上に在るを逃と曰う。各々類を以て之を言うなり。

衛侯如陳、拜晉成也。二年、陳侯爲衛請成于晉。
【読み】
衛侯陳に如き、晉の成[たい]らぎを拜す。二年、陳侯衛の爲に成らぎを晉に請う。

夏、四月、乙亥、王叔文公卒。來赴。弔如同盟。禮也。王子虎與僖公同盟於翟泉。文公是同盟之子。故赴以名。傳因王子虎異於諸侯、王叔又未與文公盟、故於此顯示體例也。經書五月、又不書日、從赴也。
【読み】
夏、四月、乙亥[きのと・い]、王叔文公卒す。來り赴[つ]ぐ。弔うこと同盟の如くす。禮なり。王子虎僖公と翟泉に同盟す。文公は是れ同盟の子なり。故に赴ぐるに名を以てす。傳王子虎諸侯に異なり、王叔も又未だ文公と盟うにあらざるに因りて、故に此に於て體例を顯示す。經五月に書し、又日を書さざるは、赴ぐるに從うなり。

秦伯伐晉。濟河焚舟、示必死也。
【読み】
秦伯晉を伐つ。河を濟[わた]りて舟を焚き、必死を示すなり。

取王官、及郊。王官・郊、晉地。
【読み】
王官を取り、郊に及ぶ。王官・郊は、晉の地。

晉人不出。遂自茅津濟、封殽尸而還。茅津、在河東大陽縣西。封、埋藏之。○大、音泰。
【読み】
晉人出でず。遂に茅津より濟り、殽[こう]の尸を封じて還る。茅津は、河東大陽縣の西に在り。封は、之を埋藏するなり。○大は、音泰。

遂霸西戎。用孟明也。
【読み】
遂に西戎に霸たり。孟明を用ゆればなり。

君子是以知秦穆公之爲君也。舉人之周也、周、備也。不偏以一惡棄其善。
【読み】
君子是を以て秦の穆公の君爲ることを知る。人を舉ぐること周[そな]わり、周は、備わるなり。偏に一惡を以て其の善を棄てず。

與人之壹也。壹、無二心。
【読み】
人に與すること壹なり。壹は、二心無きなり。

孟明之臣也、其不解也。能懼思也。子桑之忠也、其知人也。能舉善也。子桑、公孫枝。舉孟明者。
【読み】
孟明の臣たるや、其れ解[おこた]らず。能く懼れ思えり。子桑の忠なるや、其れ人を知れり。能く善を舉げたり。子桑は、公孫枝。孟明を舉ぐる者なり。

詩曰、于以采蘩、于沼于沚。于以用之、公侯之事、秦穆有焉。詩、國風。言沼沚之蘩至薄、猶采以共公侯。以喩秦穆不遺小善。
【読み】
詩に曰く、于[ここ]に以て蘩[はん]を采る、沼に于[おい]てし沚[みぎわ]に于てす。于に以て之を用ゆ、公侯の事にとは、秦穆有り。詩は、國風。沼沚の蘩は至薄なるも、猶采りて以て公侯に共するを言う。以て秦穆小善を遺さざるに喩う。

夙夜匪解、以事一人、孟明有焉。詩、大雅。美仲山甫也。一人、天子也。
【読み】
夙夜解らず、以て一人に事るとは、孟明有り。詩は、大雅。仲山甫を美むるなり。一人は、天子なり。

詒厥孫謀、以燕翼子、子桑有焉。詒、遺也。燕、安也。翼、成也。詩、大雅。美武王能遺其子孫善謀、以安成子孫。言子桑有舉善之謀。
【読み】
厥の孫謀を詒[のこ]して、以て子を燕翼すとは、子桑有り。詒[い]は、遺すなり。燕は、安きなり。翼は、成すなり。詩は、大雅。武王能く其の子孫に善謀を遺して、以て子孫を安成するを美む。子桑善を舉ぐるの謀有るを言う。

秋、雨螽于宋、隊而死也。螽飛至宋、隊地而死。若雨。○隊、直類反。
【読み】
秋、宋に螽雨り、隊[お]ちて死す。螽飛びて宋に至り、地に隊ちて死す。雨の若し。○隊は、直類反。

楚師圍江。晉先僕伐楚以救江。晉救江、在雨螽下。故使圍江之經、隨在雨螽下。
【読み】
楚の師江を圍む。晉の先僕楚を伐ちて以て江を救う。晉江を救うは、螽雨るの下に在り。故に江を圍むの經をして、隨いて螽雨るの下に在らしむ。

冬、晉以江故告于周。欲假天子之威以伐楚。
【読み】
冬、晉江の故を以て周に告ぐ。天子の威を假りて以て楚を伐たんことを欲す。

王叔桓公・晉陽處父伐楚以救江。桓公、周卿士、王叔文公之子。桓公不書、示威名不親伐。
【読み】
王叔桓公・晉の陽處父楚を伐ちて以て江を救う。桓公は、周の卿士、王叔文公の子。桓公書さざるは、威名を示して親伐せざればなり。

門于方城、遇息公子朱而還。子朱、楚大夫。伐江之帥也。聞晉師起、而江兵解。故晉亦還。
【読み】
方城を門[せ]め、息公子朱に遇いて還る。子朱は、楚の大夫。江を伐つの帥なり。晉の師起こると聞きて、江の兵解く。故に晉も亦還る。

晉人懼其無禮於公也、請改盟。改二年、處父之盟。
【読み】
晉人其の公に禮無かりしを懼るるや、改めて盟わんと請う。二年、處父の盟を改むるなり。

公如晉、及晉侯盟。
【読み】
公晉に如き、晉侯と盟う。

晉侯饗公、賦菁菁者莪。菁菁者莪、詩小雅。取其旣見君子、樂且有儀。
【読み】
晉侯公を饗して、菁菁者莪[せいせいしゃが]を賦す。菁菁者莪は、詩の小雅。其の旣に君子を見れば、樂しみて且儀有るに取る。

莊叔以公降拜、謝其以公比君子也。
【読み】
莊叔公を以[い]て降り拜して、其の公を以て君子に比するを謝するなり。

曰、小國受命於大國。敢不愼儀。君貺之以大禮。何樂如之。抑小國之樂、大國之惠也。晉侯降辭。降堦辭讓公。○樂、音洛。下同。
【読み】
曰く、小國命を大國に受く。敢えて儀を愼まざらんや。君之に貺[たま]うに大禮を以てす。何の樂しみか之に如かん。抑々小國の樂しきは、大國の惠みなり、と。晉侯降り辭す。堦を降りて公に辭讓す。○樂は、音洛。下も同じ。

登成拜。倶還上、成拜禮。
【読み】
登りて拜を成す。倶に還り上りて、拜禮を成す。

公賦嘉樂。嘉樂、詩大雅。義取其顯顯令德、宜民宜人、受祿于天。○嘉、戶嫁反。嘉、如字。詩作假。傳、假、嘉也。中庸引作嘉。疏、美也。按樂、音洛。釋文、樂如字、非也。
【読み】
公嘉樂を賦す。嘉樂は、詩の大雅。義其の顯顯たる令德、民に宜しく人に宜しく、祿を天に受くというに取る。○嘉は、戶嫁反。嘉は、字の如し。詩に假に作る。傳に、假は、嘉なり、と。中庸引嘉と作す。疏は、美なり。按ずるに樂は、音洛。釋文、樂字の如しとは、非なり。


〔經〕四年、春、公至自晉。無傳。
【読み】
〔經〕四年、春、公晉より至る。傳無し。

夏、逆婦姜于齊。稱婦、有姑之辭。
【読み】
夏、婦姜を齊より逆[むか]う。婦と稱するは、姑有るの辭。

狄侵齊。無傳。
【読み】
狄齊を侵す。傳無し。

秋、楚人滅江。滅例在文十五年。
【読み】
秋、楚人江を滅ぼす。滅ぼすの例は文十五年に在り。

晉侯伐秦。衛侯使甯兪來聘。冬、十有一月、壬寅、夫人風氏薨。僖公母。風姓也。赴同、祔姑。故稱夫人。
【読み】
晉侯秦を伐つ。衛侯甯兪[ねいゆ]をして來聘せしむ。冬、十有一月、壬寅[みずのえ・とら]、夫人風氏薨ず。僖公の母。風姓なり。同に赴[つ]げ、姑に祔す。故に夫人と稱す。

〔傳〕四年、春、晉人歸孔達于衛。以爲衛之良也。故免之。二年、衛執孔達以說晉。
【読み】
〔傳〕四年、春、晉人孔達を衛に歸す。以て衛の良なりとす。故に之を免[ゆる]す。二年、衛孔達を執えて以て晉に說く。

夏、衛侯如晉拜。謝歸孔達。
【読み】
夏、衛侯晉に如きて拜す。孔達を歸すを謝す。

曹伯如晉會正。會受貢賦之政也。傳言襄公能繼文之業、而諸侯服從。
【読み】
曹伯晉に如きて正に會す。會して貢賦の政を受くるなり。傳襄公能く文の業を繼ぎて、諸侯服從するを言う。

逆婦姜于齊。卿不行、非禮也。禮、諸侯有故、則使卿逆。
【読み】
婦姜を齊より逆う。卿行かざるは、禮に非ざるなり。禮に、諸侯故有れば、則ち卿をして逆えしむ、と。

君子是以知出姜之不允於魯也。允、信也。始來不見尊貴。故終不爲國人所敬信也。文公薨而見出。故曰出姜。
【読み】
君子是を以て出姜の魯に允とせられざるを知れり。允は、信なり。始めて來りて尊貴せられず。故に終に國人の爲に敬信せられざるなり。文公薨じて出ださる。故に出姜と曰う。

曰、貴聘而賤逆之、公子遂納幣。是貴聘也。
【読み】
曰く、貴聘して賤之を逆え、公子遂納幣す。是れ貴聘するなり。

君而卑之、立而廢之、君、小君也。不以夫人禮迎。是卑廢之。
【読み】
君として之を卑しみ、立てて之を廢し、君は、小君なり。夫人の禮を以て迎えず。是れ之を卑廢するなり。

棄信而壞其主、在國必亂、在家必亡。主、内主也。○壞、音怪。
【読み】
信を棄てて其の主を壞[やぶ]れば、國に在りては必ず亂れ、家に在りては必ず亡ぶ。主は、内主なり。○壞は、音怪。

不允宜哉。詩曰、畏天之威、于時保之、敬主之謂也。詩、頌。言畏天威、於是保福祿。
【読み】
允とせられざること宜なるかな。詩に曰く、天の威を畏れて、時[ここ]に之を保つとは、主を敬するを謂うなり、と。詩は、頌。言うこころは、天威を畏れて、是に於て福祿を保つ。

秋、晉侯伐秦、圍邧・新城、以報王官之役。邧・新城、秦邑也。王官役、在前年。○邧、願晩反。一音元。
【読み】
秋、晉侯秦を伐ち、邧[げん]・新城を圍みて、以て王官の役に報ゆ。邧・新城は、秦の邑なり。王官の役は、前年に在り。○邧は、願晩反。一に音元。

楚人滅江。秦伯爲之降服、出次、不舉、過數。降服、素服也。出次、辟正寢。不舉、去盛饌。鄰國之禮有數。今秦伯過之。○爲、于僞反。下同。
【読み】
楚人江を滅ぼす。秦伯之が爲に服を降し、出でて次[やど]り、舉せず、數に過ぐ。服を降すとは、素服するなり。出でて次るとは、正寢を辟くるなり。舉せざるは、盛饌を去るなり。鄰國の禮は數有り。今秦伯之に過ぐ。○爲は、于僞反。下も同じ。

大夫諫。公曰、同盟滅。雖不能救、敢不矜乎。吾自懼也。秦・江同盟。不告。故不書。
【読み】
大夫諫む。公曰く、同盟滅ぶ。救うこと能わずと雖も、敢えて矜[あわ]れまざらんや。吾は自ら懼るるなり、と。秦・江は同盟なり。告げず。故に書さず。

君子曰、詩云、惟彼二國、其政不獲、惟此四國、爰究爰度、其秦穆之謂矣。詩、大雅。言夏商之君、政不得人心。故四方諸侯、皆懼而謀度其政事也。言秦穆亦能感江之滅、懼而思政。爰、於也。究・度、皆謀也。
【読み】
君子曰く、詩に云う、惟れ彼の二國、其の政獲ず、惟れ此の四國、爰に究[はか]り爰に度るとは、其れ秦穆を謂うなり、と。詩は、大雅。言うこころは、夏商の君、政人心を得ず。故に四方の諸侯、皆懼れて其の政事を謀度するなり。秦穆亦能く江の滅ぶるに感じて、懼れて政を思うを言う。爰は、於なり。究・度は、皆謀るなり。

衛甯武子來聘。公與之宴、爲賦湛露及彤弓。非禮之常。公特命樂人以示意。故言爲賦。湛露・彤弓、詩小雅。
【読み】
衛の甯武子來聘す。公之と宴して、爲に湛露[たんろ]と彤弓[とうきゅう]とを賦せしむ。禮の常に非ず。公特に樂人に命じて以て意を示す。故に爲に賦すと言う。湛露・彤弓は、詩の小雅。

不辭、又不答賦。使行人私焉。私問之。
【読み】
辭せず、又答賦せず。行人をして私せしむ。私に之を問う。

對曰、臣以爲肄業及之也。肄、習也。魯人失所賦。甯武子佯不知。此其愚不可及。○肄、以二反。
【読み】
對えて曰く、臣以爲えらく、業を肄[なら]いて之に及べり、と。肄は、習うなり。魯人賦する所を失う。甯武子知らずと佯[いつわ]る。此れ其の愚には及ぶ可からざるなり。○肄は、以二反。

昔諸侯朝正於王、朝而受政敎也。
【読み】
昔諸侯正に王に朝すれば、朝して政敎を受く。

王宴樂之。於是乎賦湛露、則天子當陽、諸侯用命也。湛露曰、湛湛露斯、匪陽不晞。晞、乾也。言露見日而乾、猶諸侯稟天子命而行。
【読み】
王之を宴樂す。是に於て湛露を賦するは、則ち天子陽に當たりて、諸侯命を用ゆるなり。湛露に曰く、湛湛たる露、陽に匪ざれば晞[かわ]かず、と。晞[き]は、乾くなり。露日を見て乾く、猶諸侯天子の命を稟けて行うがごときを言う。

諸侯敵王所愾、而獻其功、敵、猶當也。愾、恨怒也。○愾、苦愛反。
【読み】
諸侯王の愾[いか]る所に敵して、其の功を獻ずれば、敵は、猶當たるのごとし。愾は、恨怒なり。○愾[かい]は、苦愛反。

王於是乎賜之彤弓一、彤矢百、玈弓矢千、以覺報宴。覺、明也。謂諸侯有四夷之功、王賜之弓矢、又爲歌彤弓、以明報功宴樂。○玈、音盧。覺、音角。
【読み】
王是に於て之に彤弓一、彤矢百、玈弓[ろきゅう]矢千を賜いて、以て報宴を覺[あき]らかにす。覺は、明らかなり。諸侯四夷の功有れば、王之に弓矢を賜いて、又爲に彤弓を歌いて、以て功に報じて宴樂するを明らかにするを謂う。○玈は、音盧。覺は、音角。

今陪臣來繼舊好、方論天子之樂。故自稱陪臣。
【読み】
今陪臣來りて舊好を繼ぐに、方に天子の樂を論ず。故に自ら陪臣と稱す。

君辱貺之。其敢干大禮以自取戾。貺、賜也。干、犯也。戾、罪也。
【読み】
君辱く之を貺[たま]えり。其れ敢えて大禮を干して以て自ら戾[つみ]を取らんや、と。貺は、賜うなり。干は、犯すなり。戾は、罪なり。

冬、成風薨。爲明年、王使來含賵傳。
【読み】
冬、成風薨ず。明年、王來りて含賵[ぼう]せしむる爲の傳なり。


〔經〕五年、春、王正月、王使榮叔歸含且賵。珠玉曰含。含、口實。車馬曰賵。○含、戶暗反。
【読み】
〔經〕五年、春、王の正月、王榮叔をして含且賵[ぼう]を歸[おく]らしむ。珠玉を含と曰う。含は、口實。車馬を賵と曰う。○含は、戶暗反。

三月、辛亥、葬我小君成風。無傳。反哭成喪。故曰葬我小君。
【読み】
三月、辛亥[かのと・い]、我が小君成風を葬る。傳無し。反哭して喪を成す。故に我が小君を葬ると曰う。

王使召伯來會葬。召伯、天子卿也。召、采地。伯、爵也。來不及葬、不譏者、不失五月之内。
【読み】
王召伯をして來りて葬に會せしむ。召伯は、天子の卿なり。召は、采地。伯は、爵なり。來りて葬に及ばざれども、譏らざるは、五月の内を失わざればなり。

夏、公孫敖如晉。無傳。
【読み】
夏、公孫敖晉に如く。傳無し。

秦人入鄀。入例在十五年。○鄀、音若。
【読み】
秦人鄀[じゃく]に入る。入るの例は十五年に在り。○鄀は、音若。

秋、楚人滅六。六國、今廬江六縣。
【読み】
秋、楚人六を滅ぼす。六國は、今の廬江の六縣。

冬、十月、甲申、許男業卒。無傳。與僖公六同盟。
【読み】
冬、十月、甲申[きのえ・さる]、許男業卒す。傳無し。僖公と六たび同盟す。

〔傳〕五年、春、王使榮叔來含且賵、召昭公來會葬。禮也。成風、莊公之妾。天子以夫人禮賵之。明母以子貴。故曰禮。
【読み】
〔傳〕五年、春、王榮叔をして來りて含し且賵し、召昭公をして來りて葬に會せしむ。禮なり。成風は、莊公の妾。天子夫人の禮を以て之を賵す。母は子を以て貴きを明かす。故に禮と曰う。

初、鄀叛楚卽秦、又貳於楚。夏、秦人入鄀。
【読み】
初め、鄀楚に叛きて秦に卽き、又楚に貳あり。夏、秦人鄀に入る。

六人叛楚、卽東夷。秋、楚成大心・仲歸帥師滅六。仲歸、子家。
【読み】
六人楚に叛きて、東夷に卽く。秋、楚の成大心・仲歸師を帥いて六を滅ぼす。仲歸は、子家。

冬、楚公子爕滅蓼。蓼、今安豐蓼縣。○爕、息協反。蓼、音了。
【読み】
冬、楚の公子爕[しょう]蓼[りょう]を滅ぼす。蓼は、今の安豐蓼縣。○爕は、息協反。蓼は、音了。

臧文仲聞六與蓼滅、曰、皐陶庭堅不祀、忽諸。德之不建、民之無援、哀哉。蓼與六、皆皐陶後也。傷二國之君、不能建德、結援大國、忽然而亡。
【読み】
臧文仲六と蓼との滅ぶるを聞きて、曰く、皐陶庭堅祀られざること、忽諸たり。德を建てず、民の援け無き、哀しいかな、と。蓼と六とは、皆皐陶の後なり。二國の君、德を建て、援を大國に結ぶこと能わずして、忽然として亡ぶるを傷む。

晉陽處父聘于衛、反過甯。甯嬴從之、甯、晉邑。汲郡脩武縣也。嬴、逆旅大夫。
【読み】
晉の陽處父衛に聘し、反るとき甯を過ぐ。甯の嬴[えい]之に從い、甯は、晉の邑。汲郡脩武縣なり。嬴は、逆旅の大夫。

及溫而還。其妻問之。嬴曰、以剛。商書曰、沈漸剛克、高明柔克。沈漸、猶滯溺也。高明、猶亢爽也。言各當以剛柔勝己本性、乃能成全也。此在洪範。今謂之周書。○漸、似廉反。
【読み】
溫に及びて還る。其の妻之を問う。嬴曰く、以[はなは]だ剛なり。商書に曰く、沈漸なるは剛克し、高明なるは柔克す、と。沈漸は、猶滯溺のごとし。高明は、猶亢爽のごとし。言うこころは、各々當に剛柔を以て己が本性に勝つべく、乃ち能く全きを成す。此れ洪範に在り。今之を周書と謂う。○漸は、似廉反。

夫子壹之。其不沒乎。陽子性純剛。
【読み】
夫子之を壹[もっぱ]らにす。其れ沒[おわ]らざらんか。陽子性純剛なり。

天爲剛德、猶不干時。寒暑相順。
【読み】
天は剛德爲れども、猶時を干さず。寒暑相順う。

況在人乎。
【読み】
況んや人に在りてをや。

且華而不實、怨之所聚也。言過其行。
【読み】
且つ華にして實ならざるは、怨みの聚まる所なり。言其の行いに過ぐ。

犯而聚怨、不可以定身。剛則犯人。
【読み】
犯して怨みを聚めば、以て身を定む可からず。剛なれば則ち人を犯す。

余懼不獲其利而離其難。是以去之。爲六年、晉殺處父傳。○難、乃旦反。
【読み】
余其の利を獲ずして其の難に離[かか]らんことを懼る。是を以て之を去れり、と。六年、晉處父を殺す爲の傳なり。○難は、乃旦反。

晉趙成子・欒貞子・霍伯・臼季皆卒。成子、趙衰。新上軍帥、中軍佐也。貞子、欒枝。下軍帥也。霍伯、先且居。中軍帥也。臼季、胥臣。下軍佐也。爲六年、蒐於夷傳。
【読み】
晉の趙成子・欒貞子[らんていし]・霍伯・臼季皆卒す。成子は、趙衰。新上軍の帥、中軍の佐なり。貞子は、欒枝。下軍の帥なり。霍伯は、先且居。中軍の帥なり。臼季は、胥臣。下軍の佐なり。六年、夷に蒐する爲の傳なり。


〔經〕六年、春、葬許僖公。無傳。
【読み】
〔經〕六年、春、許の僖公を葬る。傳無し。

夏、季孫行父如陳。行父、季友孫。
【読み】
夏、季孫行父陳に如く。行父は、季友の孫。

秋、季孫行父如晉。八月、乙亥、晉侯驩卒。再同盟。
【読み】
秋、季孫行父晉に如く。八月、乙亥[きのと・い]、晉侯驩[かん]卒す。再び同盟す。

冬、十月、公子遂如晉。葬晉襄公。卿共葬事、文・襄之制也。三月而葬。速。
【読み】
冬、十月、公子遂晉に如く。晉の襄公を葬る。卿葬事に共するは、文・襄の制なり。三月にして葬る。速きなり。

晉殺其大夫陽處父。處父侵官。宜爲國討。故不言賈季殺。
【読み】
晉其の大夫陽處父を殺す。處父官を侵す。宜しく國討せらるべし。故に賈季殺すと言わず。

晉狐射姑出奔狄。射姑、狐偃子。射姑、狐偃子、賈季也。奔例在宣十年。○射、音亦。一音夜。
【読み】
晉の狐射姑[こえきこ]出でて狄に奔る。射姑は、狐偃の子、賈季なり。奔るの例は宣十年に在り。○射は、音亦。一に音夜。

閏月、不告月、猶朝于廟。諸侯每月必告朔聽政、因朝宗廟。文公以閏非常月、故闕不告朔、怠慢政事。雖朝于廟、則如勿朝。故曰猶。猶者、可止之辭。
【読み】
閏月、月を告げず、猶廟に朝す。諸侯每月必ず朔を告げ政を聽き、因りて宗廟に朝す。文公閏は常の月に非ざるを以て、故に闕きて告朔せずして、政事を怠慢す。廟に朝すと雖も、則ち朝すること勿きに如かんや。故に猶と曰う。猶とは、止む可きの辭なり。

〔傳〕六年、春、晉蒐于夷、舍二軍。僖三十一年、晉蒐淸原、作五軍。今舍二軍、復三軍之制。夷、晉地。前年四卿卒。故蒐以謀軍帥。○舍、音捨。
【読み】
〔傳〕六年、春、晉夷に蒐して、二軍を舍[す]つ。僖三十一年、晉淸原に蒐して、五軍を作る。今二軍を舍てて、三軍の制に復す。夷は、晉の地。前年四卿卒す。故に蒐して以て軍帥を謀るなり。○舍は、音捨。

使狐射姑將中軍。代先且居。
【読み】
狐射姑をして中軍に將たらしむ。先且居に代わる。

趙盾佐之。代趙衰也。盾、趙衰子。○盾、徒本反。
【読み】
趙盾[ちょうとん]之に佐たり。趙衰に代わるなり。盾は、趙衰の子。○盾は、徒本反。

陽處父至自溫、往年聘衛過溫。今始至。○過、古禾反。
【読み】
陽處父溫より至り、往年衛に聘して溫を過ぐ。今始めて至る。○過は、古禾反。

改蒐于董、易中軍。易以趙盾爲帥。射姑佐之。河東汾陰縣有董亭。
【読み】
改めて董に蒐して、中軍を易う。易えて趙盾を以て帥とす。射姑之に佐たり。河東汾陰縣に董亭有り。

陽子、成季之屬也。處父嘗爲趙衰屬大夫。
【読み】
陽子は、成季の屬なり。處父嘗て趙衰の屬大夫爲り。

故黨於趙氏。且謂趙盾能。曰、使能、國之利也。是以上之。
【読み】
故に趙氏に黨す。且趙盾を能ありと謂う。曰く、能を使うは、國の利なり、と。是を以て之を上にす。

宣子於是乎始爲國政。宣、趙盾謚。
【読み】
宣子是に於て始めて國政を爲す。宣は、趙盾の謚。

制事典、典、常也。
【読み】
事典を制し、典は、常なり。

正法罪、輕重當。○當、丁浪反。
【読み】
法罪を正し、輕重當たる。○當は、丁浪反。

辟刑獄、辟、猶理也。○辟、婢亦反。
【読み】
刑獄を辟[おさ]め、辟は、猶理むるのごとし。○辟は、婢亦反。

董逋逃、董、督也。
【読み】
逋逃を董[ただ]し、董は、督すなり。

由質要、由、用也。質要、券契也。
【読み】
質要を由[もち]い、由は、用ゆるなり。質要は、券契なり。

治舊洿、治、理。洿、穢。○洿、音烏。
【読み】
舊洿[きゅうお]を治め、治は、理む。洿は、穢れ。○洿は、音烏。

本秩禮、貴賤不失其本。
【読み】
秩禮に本づき、貴賤其の本を失わず。

續常職、脩廢官。
【読み】
常職を續ぎ、廢官を脩む。

出滯淹。拔賢能也。
【読み】
滯淹を出だす。賢能を拔くなり。

旣成、以授大傅陽子與大師賈佗、使行諸晉國、以爲常法。賈佗以公族從文公。而不在五人之數。○佗、徒何反。從、才用反。
【読み】
旣に成りて、以て大傅陽子と大師賈佗とに授けて、諸を晉國に行わしめて、以て常法と爲す。賈佗公族を以て文公に從う。而れども五人の數に在らず。○佗、徒何反。從、才用反。

臧文仲以陳・衛之睦也、欲求好於陳。夏、季文子聘于陳、且娶焉。臣非君命不越竟。故因聘而自爲娶。
【読み】
臧文仲陳・衛の睦まじきを以てや、好を陳に求めんことを欲す。夏、季文子陳に聘し、且つ娶る。臣君命に非ざれば竟を越えず。故に聘に因りて自ら爲に娶る。

秦伯任好卒。任好、秦穆公名。○任、音壬。
【読み】
秦伯任好卒す。任好は、秦の穆公の名。○任は、音壬。

以子車氏之三子奄息・仲行・鍼虎爲殉。子車、秦大夫氏也。以人從葬爲殉。○行、音航。鍼、其廉反。殉、音徇。
【読み】
子車氏の三子奄息・仲行・鍼虎[けんこ]を以て殉と爲す。子車は、秦の大夫の氏なり。人を以て葬に從うを殉と爲す。○行は、音航。鍼は、其廉反。殉は、音徇。

皆秦之良也。國人哀之、爲之賦黃鳥。黃鳥、詩秦風。義取黃鳥止于棘桑、往來得其所。傷三良不然。○爲、于僞反。
【読み】
皆秦の良なり。國人之を哀れみ、之が爲に黃鳥を賦す。黃鳥は、詩の秦風。義黃鳥の棘桑に止[やど]りて、往來其の所を得るに取る。三良の然らざるを傷むなり。○爲は、于僞反。

君子曰、秦穆之不爲盟主也宜哉。死而棄民。先王違世、猶詒之法。而況奪之善人乎。詩曰、人之云亡、邦國殄瘁、詩、大雅。言善人亡、則國瘁病。○詒、以之反。瘁、似醉反。
【読み】
君子曰く、秦穆の盟主と爲らざるや宜なるかな。死して民を棄てたり。先王は世を違[さ]れども、猶之に法を詒[のこ]せり。而るを況んや之が善人を奪わんや。詩に曰く、人の云[ここ]に亡ぶる、邦國殄瘁[てんすい]すとは、詩は、大雅。善人亡ぶれば、則ち國瘁病するを言う。○詒[い]は、以之反。瘁は、似醉反。

無善人之謂。若之何奪之。古之王者、知命之不長。是以竝建聖哲、建立聖知、以司牧民。
【読み】
善人無きを謂うなり。之を若何ぞ之を奪わんや。古の王者、命の長からざるを知る。是を以て竝に聖哲を建て、聖知を建立して、以て民を司牧せしむ。

樹之風聲、因土地風俗、爲立聲敎之法。
【読み】
之が風聲を樹て、土地風俗に因りて、爲に聲敎の法を立つ。

分之采物、旌旗衣服、各有分制。○分、扶問反。
【読み】
之が采物を分にし、旌旗衣服、各々分制有り。○分は、扶問反。

著之話言、話、善也。爲作善言遺戒。
【読み】
之が話言を著し、話は、善きなり。爲に善言遺戒を作るなり。

爲之律度、鐘律度量、所以治歷明時。
【読み】
之が律度を爲り、鐘律度量は、歷を治め時を明らかにする所以なり。

陳之藝極、藝、準也。極、中也。貢獻多少之法。傳曰、貢之無藝。又曰、貢獻無極。
【読み】
之が藝極を陳ね、藝は、準なり。極は、中なり。貢獻多少の法なり。傳に曰く、貢の藝無き、と。又曰く、貢獻極無し、と。

引之表儀、引、道也。表儀、猶威儀。○道、音導。
【読み】
之を表儀に引[みちび]き、引は、道くなり。表儀は、猶威儀のごとし。○道は、音導。

予之法制、告之訓典、訓典、先王之書。
【読み】
之に法制を予え、之に訓典を告げ、訓典は、先王の書。

敎之防利、防惡興利。
【読み】
之に防利を敎え、惡を防ぎ利を興す。

委之常秩、委、任也。常秩、官司之常職。
【読み】
之に常秩を委ね、委は、任すなり。常秩は、官司の常職。

道之以禮則、使毋失其土宜、衆隸賴之、而後卽命。卽、就也。
【読み】
之を道くに禮則を以てして、其の土宜を失うこと毋からしめ、衆隸之に賴りて、而して後に命に卽けり。卽は、就くなり。

聖王同之。今縱無法以遺後嗣、而又收其良以死。難以在上矣。
【読み】
聖王之を同じくす。今縱[たと]い法の以て後嗣に遺す無くとも、而るを又其の良を收めて以て死なしめんや。以て上に在ること難し、と。

君子是以知秦之不復東征也。不能復征討東方諸侯爲霸主。○復、扶又反。
【読み】
君子是を以て秦の復東征せざることを知る。復東方の諸侯を征討して霸主爲ること能わざるなり。○復は、扶又反。

秋、季文子將聘於晉、使求遭喪之禮以行。季文子、季孫行父也。聞晉侯疾故。
【読み】
秋、季文子將に晉に聘せんとし、喪に遭うの禮を求めしめて以て行く。季文子は、季孫行父なり。晉侯の疾を聞く故なり。

其人曰、將焉用之。其人、從者。○從、去聲。
【読み】
其の人曰く、將に焉にか之を用いんとす、と。其の人は、從者。○從は、去聲。

文子曰、備豫不虞、古之善敎也。求而無之實難。難卒得。
【読み】
文子曰く、不虞に備豫するは、古の善敎なり。求めて之れ無きは實に難し。卒に得難し。

過求何害。所謂文子三思。
【読み】
過ぎて求むるは何の害あらん、と。所謂文子の三思なり。

八月、乙亥、晉襄公卒。
【読み】
八月、乙亥、晉の襄公卒す。

靈公少。晉人以難故、欲立長君。立少君、恐有難。
【読み】
靈公少[わか]し。晉人難の故を以て、長君を立てんことを欲す。少君を立てば、難有らんことを恐る。

趙孟曰、立公子雍。趙孟、趙盾也。公子雍、文公子、襄公庶弟、杜祁之子。
【読み】
趙孟曰く、公子雍を立てん。趙孟は、趙盾なり。公子雍は、文公の子、襄公の庶弟、杜祁の子。

好善而長、先君愛之。且近於秦。秦舊好也。置善則固、事長則順、立愛則孝、結舊則安。爲難故、故欲立長君。有此四德者、難必抒矣。抒、除也。○抒、直呂反。又時呂反。
【読み】
善を好みて長じ、先君之を愛せり。且秦に近し。秦は舊好なり。善を置けば則ち固く、長に事るは則ち順、愛を立つるは則ち孝、舊を結べば則ち安し。難の故の爲に、故に長君を立てんことを欲するなり。此の四德有らば、難必ず抒[のぞ]かん、と。抒[じょ]は、除くなり。○抒は、直呂反。又時呂反。

賈季曰、不如立公子樂。樂、文公子。○樂、音岳。一音洛。
【読み】
賈季曰く、公子樂を立つるに如かず。樂は、文公の子。○樂は、音岳。一に音洛。

辰嬴嬖於二君。辰嬴、懷嬴也。二君、懷公・文公也。
【読み】
辰嬴[しんえい]二君に嬖せられたり。辰嬴は、懷嬴なり。二君は、懷公・文公なり。

立其子、民必安之。趙孟曰、辰嬴賤。班在九人。班、位也。
【読み】
其の子を立てば、民必ず之を安んぜん、と。趙孟曰く、辰嬴は賤し。班九人に在り。班は、位なり。

其子何震之有。震、威也。
【読み】
其の子何の震か之れ有らん。震は、威なり。

且爲二嬖、淫也。爲先君子、不能求大、而出在小國、辟也。母淫子辟、無威。陳小而遠、無援。將何安焉。
【読み】
且つ二嬖爲るは、淫なり。先君の子と爲して、大を求むること能わずして、出でて小國に在るは、辟なり。母淫に子辟は、威無し。陳小にして遠く、援け無し。將[はた]何ぞ安んぜん。

杜祁以君故、讓偪姞而上之、杜祁、杜伯之後。祁、姓也。偪姞、姞姓之女。生襄公。爲世子。故杜祁讓使在己上。○辟、匹亦反。偪、彼力反。姞、其吉反。
【読み】
杜祁君の故を以て、偪姞[ひょくきつ]に讓りて之を上にし、杜祁は、杜伯の後。祁は、姓なり。偪姞は、姞姓の女。襄公を生む。世子と爲る。故に杜祁讓りて己が上に在らしむ。○辟は、匹亦反。偪は、彼力反。姞は、其吉反。

以狄故、讓季隗而已次之。故班在四。以季隗是文公託狄時妻、故復讓之。然則杜祁本班在二。○隗、五罪反。
【読み】
狄の故を以て、季隗に讓りて已之に次ぐ。故に班四に在り。季隗是れ文公狄に託せし時の妻なるを以て、故に復之に讓る。然らば則ち杜祁の本班は二に在りしなり。○隗は、五罪反。

先君是以愛其子、而仕諸秦、爲亞卿焉。亞、次也。言其賢故位尊。
【読み】
先君是を以て其の子を愛して、諸を秦に仕えしめて、亞卿と爲れり。亞は、次なり。其の賢の故に位尊きを言う。

秦大而近。足以爲援。母義子愛。足以威民。立之不亦可乎。
【読み】
秦は大にして近し。以て援けと爲るに足れり。母義にして子愛あり。以て民を威すに足れり。之を立てんこと亦可ならずや、と。

使先蔑・士會如秦逆公子雍。先蔑、士伯也。士會、隨季也。
【読み】
先蔑・士會をして秦に如きて公子雍を逆えしむ。先蔑は、士伯なり。士會は、隨季なり。

賈季亦使召公子樂于陳。趙孟使殺諸郫。郫、晉地。○郫、婢支反。
【読み】
賈季も亦公子樂を陳より召[よ]ばしむ。趙孟諸を郫[ひ]に殺さしむ。郫は、晉の地。○郫は、婢支反。

賈季怨陽子之易其班也、本中軍帥、易以爲佐。
【読み】
賈季陽子が其の班を易えたるを怨み、本中軍の帥、易えられて以て佐と爲れり。

而知其無援於晉也。少族多怨。
【読み】
而して其の晉に援け無きを知る。族少なく怨み多し。

九月、賈季使續鞫居殺陽處父。鞫居、狐氏之族。
【読み】
九月、賈季續鞫居[ぞくきくきょ]をして陽處父を殺さしむ。鞫居は、狐氏の族。

書曰晉殺其大夫、侵官也。君已命帥、處父易之。故曰侵官。
【読み】
書して晉其の大夫を殺すと曰うは、官を侵せばなり。君已に帥を命じて、處父之を易う。故に官を侵すと曰う。

冬、十月、襄仲如晉、葬襄公。
【読み】
冬、十月、襄仲晉に如き、襄公を葬る。

十一月、丙寅、晉殺續簡伯。簡伯、續鞫居。十一月無丙寅。丙寅、十二月八日也。日月必有誤。
【読み】
十一月、丙寅[ひのえ・とら]、晉續簡伯を殺す。簡伯は、續鞫居。十一月に丙寅無し。丙寅は、十二月八日なり。日月に必ず誤り有らん。

賈季奔狄。宣子使臾騈送其帑。帑、妻子也。宣子以賈季中軍之佐、同官故。○騈、蒲賢反。又蒲丁反。帑、音奴。
【読み】
賈季狄に奔る。宣子臾騈[ゆへん]をして其の帑[ど]を送らしむ。帑は、妻子なり。宣子賈季は中軍の佐にして、同官なるを以ての故なり。○騈は、蒲賢反。又蒲丁反。帑は、音奴。

夷之蒐、賈季戮臾駢。臾駢之人、欲盡殺賈氏以報焉。臾駢曰、不可。吾聞、前志有之、曰、敵惠敵怨、不在後嗣、忠之道也。敵、猶對也。若及子孫、則爲非對。非對、則爲遷怒。
【読み】
夷の蒐に、賈季臾駢を戮せり。臾駢の人、盡く賈氏を殺して以て報いんと欲す。臾駢曰く、不可なり。吾れ聞く、前志に之れ有り、曰く、惠に敵し怨に敵して、後嗣に在らざるは、忠の道なり、と。敵は、猶對のごとし。若し子孫に及べば、則ち對に非ずとす。對に非ざれば、則ち怒を遷すとす。

夫子禮於賈季。我以其寵報私怨、無乃不可乎。言已蒙宣子寵位。
【読み】
夫子賈季に禮あり。我れ其の寵を以て私怨を報いば、乃ち不可なること無からんや。已に宣子が寵位を蒙るを言う。

介人之寵、非勇也。介、因也。
【読み】
人の寵に介[よ]るは、勇に非ざるなり。介は、因るなり。

損怨益仇、非知也。殺季家欲以除怨、宣子將復怨己。是益仇也。
【読み】
怨みを損せんとして仇を益すは、知に非ざるなり。季が家を殺して以て怨みを除かんと欲すれば、宣子將に復己を怨まんとす。是れ仇を益すなり。

以私害公、非忠也。釋此三者、何以事夫子。
【読み】
私を以て公を害するは、忠に非ざるなり。此の三つの者を釋[す]てば、何を以て夫子に事えん、と。

盡具其帑與其器用財賄、親師扞之、送致諸竟。扞、衛也。○扞、戶旦反。竟、音境。
【読み】
盡く其の帑と其の器用財賄とを具え、親ら師いて之を扞[まも]り、送りて諸を竟に致す。扞は、衛るなり。○扞は、戶旦反。竟は、音境。

閏月不告朔。非禮也。經稱告月、傳稱告朔。明告月必以朔。
【読み】
閏月告朔せず。禮に非ざるなり。經に告月と稱し、傳に告朔と稱す。告月は必ず朔を以てすることを明かすなり。

閏以正時、四時漸差、則致閏以正之。
【読み】
閏以て時を正し、四時漸く差えば、則ち閏を致して以て之を正す。

時以作事、順時命事。
【読み】
時以て事を作し、時に順いて事を命ず。

事以厚生。事不失時則年豐。
【読み】
事以て生を厚くす。事時を失わざれば則ち年豐かなり。

生民之道、於是乎在矣。不告閏朔、棄時政也。何以爲民。○爲、如字。治也。
【読み】
生民の道、是に於て在り。閏朔を告げざるは、時政を棄つるなり。何を以て民を爲[おさ]めん。○爲は、字の如し。治むるなり。


〔經〕七年、春、公伐邾。三月、甲戌、取須句。須句、魯之封内屬國也。僖公反其君之後、邾復滅之。書取易也。例在襄十三年。○句、其倶反。
【読み】
〔經〕七年、春、公邾[ちゅ]を伐つ。三月、甲戌[きのえ・いぬ]、須句[しゅこう]を取る。須句は、魯の封内の屬國なり。僖公其の君を反すの後、邾復之を滅ぼせり。取ると書すは易きなり。例は襄十三年に在り。○句は、其倶反。

遂城郚。無傳。因伐邾師、以城郚。郚、魯邑。卞縣南有郚城。備邾難。○郚、音吾。
【読み】
遂に郚[ご]に城く。傳無し。邾を伐つの師に因りて、以て郚に城く。郚は、魯の邑。卞縣の南に郚城有り。邾の難に備うるなり。○郚は、音吾。

夏、四月、宋公王臣卒。二年、與魯大夫盟於垂隴。
【読み】
夏、四月、宋公王臣卒す。二年、魯の大夫と垂隴に盟う。

宋人殺其大夫。宋人攻昭公、幷殺二大夫。故以非罪書。
【読み】
宋人其の大夫を殺す。宋人昭公を攻め、幷せて二大夫を殺す。故に罪に非ざるを以て書す。

戊子、晉人及秦人戰于令狐。趙盾廢嫡而外求君。故貶稱人。晉諱背先蔑而夜薄秦師、以戰告。
【読み】
戊子[つちのえ・ね]、晉人秦人と令狐に戰う。趙盾[ちょうとん]嫡を廢して外君を求む。故に貶して人と稱す。晉先蔑に背きて夜秦の師に薄[せま]るを諱みて、戰を以て告ぐ。

晉先蔑奔秦。不言出、在外奔。
【読み】
晉の先蔑秦に奔る。出づると言わざるは、外に在りて奔ればなり。

狄侵我西鄙。秋、八月、公會諸侯・晉大夫盟于扈。扈、鄭地。滎陽卷縣西北有扈亭。不分別書會人、總言諸侯・晉大夫盟者、公後會而及其盟。○扈、音戶。卷、音權。又丘權反。
【読み】
狄我が西鄙を侵す。秋、八月、公諸侯・晉の大夫に會して扈[こ]に盟う。扈は、鄭の地。滎陽卷縣の西北に扈亭有り。分別して會人を書さずして、總べて諸侯・晉の大夫盟うと言うは、公會に後れて其の盟に及べばなり。○扈は、音戶。卷は、音權。又丘權反。

冬、徐伐莒。不書將帥、徐夷、告辭略。
【読み】
冬、徐莒[きょ]を伐つ。將帥を書さざるは、徐夷にして、告辭略するなり。

公孫敖如莒涖盟。
【読み】
公孫敖莒に如き涖[のぞ]みて盟う。

〔傳〕七年、春、公伐邾、間晉難也。公因霸國有難而侵小。
【読み】
〔傳〕七年、春、公邾を伐つは、晉の難を間してなり。公霸國難有るに因りて小を侵すなり。

三月、甲戌、取須句、寘文公子焉。非禮也。邾文公子叛在魯。故公使爲守須句大夫也。絕大暤之祀、以與鄰國叛臣。故曰非禮。
【読み】
三月、甲戌、須句を取り、文公の子を寘[お]く。禮に非ざるなり。邾の文公の子叛きて魯に在り。故に公須句を守るの大夫爲らしむるなり。大暤の祀を絕ちて、以て鄰國の叛臣に與う。故に禮に非ずと曰う。

夏、四月、宋成公卒。於是公子成爲右師、莊公子。
【読み】
夏、四月、宋の成公卒す。是に於て公子成右師爲り、莊公の子。

公孫友爲左師、目夷子。
【読み】
公孫友左師爲り、目夷の子。

樂豫爲司馬、戴公玄孫。
【読み】
樂豫司馬爲り、戴公の玄孫。

鱗矔爲司徒、桓公孫。○矔、古亂反。
【読み】
鱗矔[りんかん]司徒爲り、桓公の孫。○矔は、古亂反。

公子蕩爲司城、桓公子也。以武公名、廢司空爲司城。
【読み】
公子蕩司城爲り、桓公の子なり。武公の名を以て、司空を廢して司城と爲す。

華御事爲司寇。華元父也。傳言六卿皆公族、昭公不親信之、所以致亂。○御、魚呂反。
【読み】
華御事司寇爲り。華元の父なり。傳六卿皆公族にして、昭公之を親信せず、亂を致す所以なるを言う。○御は、魚呂反。

昭公將去羣公子。樂豫曰、不可。公族、公室之枝葉也。若去之、則本根無所庇廕矣。葛藟猶能庇其本根。葛之能藟蔓繁滋者、以本枝廕庥之多。○去、起呂反。
【読み】
昭公將に羣公子を去らんとす。樂豫曰く、不可なり。公族は、公室の枝葉なり。若し之を去らば、則ち本根庇廕する所無からん。葛藟も猶能く其の本根を庇う。葛の能く藟蔓繁滋するは、本枝廕庥の多きを以てなり。○去は、起呂反。

故君子以爲比。謂詩人取以喩九族兄弟。
【読み】
故に君子以て比と爲す。詩人取りて以て九族兄弟に喩ゆるを謂う。

況國君乎。此諺所謂庇焉、而縱尋斧焉者也。縱、放也。
【読み】
況んや國君をや。此れ諺に所謂庇われて、縱[ほしいまま]に斧を尋[もち]ゆるという者なり。縱は、放なり。

必不可。君其圖之。親之以德、皆股肱也。誰敢攜貳。若之何去之。不聽。
【読み】
必ず不可ならん。君其れ之を圖れ。之を親しむに德を以てせば、皆股肱なり。誰か敢えて攜貳せん。之を若何ぞ之を去さらん、と。聽かず。

穆・襄之族、率國人以攻公、穆公・襄公之子孫、昭公所欲去者。
【読み】
穆・襄の族、國人を率いて以て公を攻め、穆公・襄公の子孫、昭公の去らんと欲する所の者。

殺公孫固・公孫鄭于公宮。二子在公宮。故爲亂兵所殺。
【読み】
公孫固・公孫鄭を公宮に殺す。二子公宮に在り。故に亂兵の爲に殺さる。

六卿和公室。樂豫舍司馬、以讓公子卬。卬、昭公弟。○舍、音捨。下同。卬、五郎反。
【読み】
六卿公室を和す。樂豫司馬を舍てて、以て公子卬[こう]に讓る。卬は、昭公の弟。○舍は、音捨。下も同じ。卬は、五郎反。

昭公卽位而葬。
【読み】
昭公位に卽きて葬る。

書曰宋人殺其大夫、不稱名、衆也。且言非其罪也。不稱殺者及死者名、殺者衆。故名不可知。死者無罪、則例不稱名。
【読み】
書して宋人其の大夫を殺すと曰いて、名を稱せざるは、衆[おお]ければなり。且其の罪に非ざるを言うなり。殺す者と死する者との名を稱せざるは、殺す者衆し。故に名知る可からざればなり。死する者罪無くば、則ち例名を稱せず。

秦康公送公子雍于晉、曰、文公之入也、無衛。故有呂・郤之難。僖二十四年、文公入。
【読み】
秦の康公公子雍を晉に送りて、曰く、文公の入りしや、衛無し。故に呂・郤の難有り、と。僖二十四年に、文公入る。

乃多與之徒衛。
【読み】
乃ち多く之に徒衛を與う。

穆嬴日抱大子以啼于朝、曰、先君何罪。其嗣亦何罪。舍適嗣不立、而外求君。將焉寘此。穆嬴、襄公夫人、靈公母也。○適、丁歷反。
【読み】
穆嬴[ぼくえい]日々に大子を抱きて以て朝に啼きて、曰く、先君何の罪ある。其の嗣も亦何の罪ある。適嗣を舍てて立てずして、外君を求む。將に焉に此を寘かんとするや、と。穆嬴は、襄公の夫人、靈公の母なり。○適は、丁歷反。

出朝、則抱以適趙氏、頓首於宣子曰、先君奉此子也、而屬諸子、曰、此子也才、吾受子之賜。不才、吾唯子之怨。欲使宣子敎訓之。○屬、音燭。
【読み】
朝を出づれば、則ち抱きて以て趙氏に適き、宣子に頓首して曰く、先君此の子を奉じて、諸を子に屬して、曰く、此の子や才あらば、吾れ子の賜を受けん。不才ならば、吾れ唯子を怨みん、と。宣子をして之を敎訓せしめんと欲す。○屬は、音燭。

今君雖終、言猶在耳。在宣子之耳。
【読み】
今君終わると雖も、言猶耳に在らん。宣子の耳に在り。

而棄之。若何。
【読み】
而るに之を棄つ。若何、と。

宣子與諸大夫皆患穆嬴、且畏偪。畏國人以大義來偪己。
【読み】
宣子諸大夫と皆穆嬴を患え、且偪られんことを畏る。國人の大義を以て來りて己に偪らんことを畏る。

乃背先蔑而立靈公、以禦秦師。
【読み】
乃ち先蔑に背きて靈公を立て、以て秦の師を禦ぐ。

箕鄭居守。趙盾將中軍。先克佐之。克、先且居子。代狐射姑。
【読み】
箕鄭居守す。趙盾中軍に將たり。先克之に佐たり。克は、先且居の子。狐射姑に代わる。

荀林父佐上軍。箕鄭將上軍居守。故佐獨行。
【読み】
荀林父上軍に佐たり。箕鄭上軍に將として居守す。故に佐獨り行く。

先蔑將下軍。先都佐之。步招御戎。戎津爲右。及堇陰。先蔑・士會逆公子雍、前還晉。晉人始以逆雍出軍、卒然變計立靈公。故車右・戎御猶在職。堇陰、晉地。○招、上遙反。堇、音謹。一音靳。
【読み】
先蔑下軍に將たり。先都之に佐たり。步招戎に御たり。戎津右爲り。堇陰[きんいん]に及ぶ。先蔑・士會公子雍を逆えて、前に晉に還る。晉人始め雍を逆うるを以て軍を出だし、卒然として計を變じて靈公を立つ。故に車右・戎御猶職に在り。堇陰は、晉の地。○招は、上遙反。堇は、音謹。一に音靳[きん]。

宣子曰、我若受秦、秦則賓也。不受、寇也。旣不受矣。而復緩師、秦將生心。先人有奪人之心、奪敵之戰心也。○先、悉薦反。
【読み】
宣子曰く、我れ若し秦を受けば、秦は則ち賓なり。受けざれば、寇なり。旣に受けず。而るを復師を緩くせば、秦將に心を生ぜんとす。人に先だてば人の心を奪うこと有るは、敵の戰心を奪うなり。○先は、悉薦反。

軍之善謀也。逐寇如追逃、軍之善政也。訓卒利兵、秣馬蓐食、潛師夜起。蓐食、早食於寢蓐。○蓐、音辱。
【読み】
軍の善謀なり。寇を逐うこと逃ぐるを追うが如くするは、軍の善政なり。卒を訓え兵を利[と]くし、馬に秣[まぐさか]い蓐[じょく]に食すといいて、師を潛めて夜起つ。蓐食は、寢蓐に早食するなり。○蓐は、音辱。

戊子、敗秦師于令狐、至于刳首。己丑、先蔑奔秦。士會從之。從刳首去也。令狐、在河東。當與刳首相接。○刳、苦胡反。
【読み】
戊子、秦の師を令狐に敗り、刳首[こしゅ]に至る。己丑[つちのと・うし]、先蔑秦に奔る。士會之に從う。刳首より去る。令狐は、河東に在り。當に刳首と相接わるべし。○刳は、苦胡反。

先蔑之使也、荀林父止之曰、夫人・大子猶在、而外求君。此必不行。子以疾辭、若何。不然將及。禍將及己。
【読み】
先蔑の使いするや、荀林父之を止めて曰く、夫人・大子猶在りて、而るに外君を求む。此れ必ず行われじ。子疾を以て辭せば、若何。然らずんば將に及ばんとす。禍將に己に及ばんとす。

攝卿以往、可也。何必子。同官爲寮。吾嘗同寮。敢不盡心乎。弗聽。爲賦板之三章。板、詩大雅。其三章、義取芻蕘之言、猶不可忽。況同寮乎。僖二十八年、林父將中行。先蔑將左行。
【読み】
卿を攝して以て往かしめて、可なり。何ぞ必ずしも子ならん。同官を寮と爲す。吾れ嘗て同寮なり。敢えて心を盡くさざらんや、と。聽かず。爲に板の三章を賦す。板は、詩の大雅。其の三章は、義芻蕘[すうじょう]の言も、猶忽にす可からず。況んや同寮をやというに取る。僖二十八年、林父中行に將たり。先蔑左行に將たり。

又弗聽。及亡、荀伯盡送其帑及其器用財賄於秦、曰、爲同寮故也。荀伯、林父。
【読み】
又聽かず。亡[に]ぐるに及びて、荀伯盡く其の帑と其の器用財賄とを秦に送りて、曰く、同寮の爲の故なり、と。荀伯は、林父。

士會在秦三年、不見士伯。士伯、先蔑。
【読み】
士會秦に在ること三年、士伯を見ず。士伯は、先蔑。

其人曰、能亡人於國、言能與人倶亡於晉國。
【読み】
其の人曰く、能く國を亡ぐる人と、言うこころは、能く人と倶に晉國を亡げたり。

不能見於此。焉用之。何用如此。
【読み】
此に見ること能わず。焉ぞ之を用いん、と。何ぞ此の如くなることを用いん。

士季曰、吾與之同罪。倶有迎公子雍之罪。
【読み】
士季曰く、吾れ之と罪を同じくするのみ。倶に公子雍を迎うるの罪有り。

非義之也。將何見焉。言己非慕先蔑之義而從之。
【読み】
之を義とするに非ざるなり。將[はた]何ぞ見えん、と。言うこころは、己先蔑の義を慕いて之に從うに非ず。

及歸、遂不見。責先蔑爲正卿而不匡諫、且倶出奔、惡有黨也。士會歸、在十三年。
【読み】
歸るに及ぶまで、遂に見ず。先蔑が正卿と爲して匡諫せざるを責め、且倶に出奔すれば、黨有らんことを惡むなり。士會が歸は、十三年に在り。

狄侵我西鄙。公使告于晉。趙宣子使因賈季問酆舒、且讓之。酆舒、狄相。讓其伐魯。
【読み】
狄我が西鄙を侵す。公晉に告げしむ。趙宣子賈季に因りて酆舒[ほうじょ]を問い、且つ之を讓[せ]めしむ。酆舒は、狄の相。其の魯を伐つを讓む。

酆舒問於賈季曰、趙衰・趙盾孰賢。對曰、趙衰、冬日之日也。趙盾、夏日之日也。冬日可愛、夏日可畏。
【読み】
酆舒賈季に問いて曰く、趙衰・趙盾孰れか賢なる、と。對えて曰く、趙衰は、冬日の日なり。趙盾は、夏日の日なり、と。冬日は愛す可く、夏日は畏る可し。

秋、八月、齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・許男・曹伯會晉趙盾、盟于扈、晉侯立故也。公後至。故不書所會。
【読み】
秋、八月、齊侯・宋公・衛侯・鄭伯・許男・曹伯晉の趙盾に會して、扈に盟うは、晉侯立つ故なり。公後れて至る。故に會する所を書さず。

凡會諸侯、不書所會、後也。不書所會、謂不具列公侯及卿大夫。
【読み】
凡そ諸侯に會する、會する所を書さざるは、後れたるなり。會する所を書さざるは、公侯と卿大夫とを具列せざるを謂うなり。

後至、不書其國、辟不敏也。此傳還自釋凡例之意。
【読み】
後れて至れば、其の國を書さざるは、不敏を辟くるなり。此の傳還って自ら凡例の意を釋く。

穆伯娶于莒。曰戴己。生文伯。其娣聲己、生惠叔。穆伯、公孫敖也。文伯、穀也。惠叔、難也。○己、音紀。難、乃多反。
【読み】
穆伯莒に娶る。戴己[たいき]と曰う。文伯を生む。其の娣聲己、惠叔を生む。穆伯は、公孫敖なり。文伯は、穀なり。惠叔は、難なり。○己は、音紀。難は、乃多反。

戴已卒。又聘于莒。莒人以聲已辭。則爲襄仲聘焉。襄仲、公孫敖從父昆弟。
【読み】
戴已卒す。又莒に聘す。莒人聲已を以て辭す。則ち襄仲の爲に聘す。襄仲は、公孫敖の從父昆弟。

冬、徐伐莒。莒人來請盟。見伐。故欲結援。
【読み】
冬、徐莒を伐つ。莒人來りて盟を請う。伐たる。故に援を結ばんと欲す。

穆伯如莒涖盟、且爲仲逆。及鄢陵、登城見之。美。鄢陵、莒邑。○鄢、於晩反。
【読み】
穆伯莒に如きて涖みて盟い、且仲の爲に逆[むか]う。鄢陵[えんりょう]に及び、城に登りて之を見る。美なり。鄢陵は、莒の邑。○鄢は、於晩反。

自爲娶之。仲請攻之。公將許之。叔仲惠伯諫、惠伯、叔牙孫。
【読み】
自ら爲に之を娶る。仲之を攻めんと請う。公將に之を許さんとす。叔仲惠伯諫めて、惠伯は、叔牙の孫。

曰、臣聞之、兵作於内爲亂、於外爲寇。寇猶及人。亂自及也。今臣作亂、而君不禁、以啓寇讎。若之何。公止之。
【読み】
曰く、臣之を聞く、兵内に作るを亂と爲し、外に於るを寇と爲す、と。寇は猶人に及ぶ。亂ら自ら及ぶなり。今臣亂を作して、君禁ぜざるは、以て寇讎を啓くなり。之を若何、と。公之を止む。

惠伯成之。平二子。
【読み】
惠伯之を成[たい]らぐ。二子を平らぐ。

使仲舍之、舍、不娶。○舍、音捨。
【読み】
仲をして之を舍て、舍は、娶らざるなり。○舍は、音捨。

公孫敖反之、還莒女。
【読み】
公孫敖をして之を反し、莒の女を還す。

復爲兄弟如初。從之。爲明年、公孫敖奔莒傳。○復、音服。又扶又反。
【読み】
復兄弟爲ること初めの如くならしむ。之に從う。明年、公孫敖莒に奔る爲の傳なり。○復は、音服。又扶又反。

晉郤缺言於趙宣子曰、日衛不睦。故取其地。日、往日。取衛地、在元年。
【読み】
晉の郤缺[げきけつ]趙宣子に言いて曰く、日[さき]に衛睦まじからず。故に其の地を取れり。日は、往日。衛の地を取るは、元年に在り。

今已睦矣。可以歸之。叛而不討、何以示威。服而不柔、何以示懷。柔、安也。
【読み】
今已に睦まじ。以て之を歸す可し。叛きて討ぜずんば、何を以て威を示さん。服して柔[やす]んぜずんば、何を以て懷を示さん。柔は、安きなり。

非威非懷、何以示德。無德、何以主盟。子爲正卿、以主諸侯。而不務德、將若之何。
【読み】
威に非ず懷に非ずんば、何を以て德を示さん。德無くば、何を以て盟を主らん。子正卿と爲して、以て諸侯を主れり。而るを德を務めずんば、將[はた]之を若何せん。

夏書曰、逸書。
【読み】
夏書に曰く、逸書。

戒之用休、有休、則戒之以勿休。
【読み】
之を戒むるに休を用てし、休有れば、則ち之を戒むるに休すること勿きを以てす。

董之用威、董、督也。有罪、則督之以威刑。
【読み】
之を董[ただ]すに威を用てし、董は、督すなり。罪有れば、則ち之を督すに威刑を以てす。

勸之以九歌、勿使壞。九功之德、皆可歌也、謂之九歌、六府三事、謂之九功、水・火・金・木・土・穀、謂之六府、正德・利用・厚生、謂之三事、義而行之、謂之德禮。德、正德也。禮以制財用之節、又以厚生民之命。
【読み】
之を勸むるに九歌を以てして、壞[やぶ]れしむること勿かれ、と。九功の德、皆歌う可き、之を九歌と謂い、六府三事、之を九功と謂い、水・火・金・木・土・穀、之を六府と謂い、正德・利用・厚生、之を三事と謂い、義にして之を行う、之を德禮と謂う。德は、正德なり。禮以て財用の節を制し、又以て生民の命を厚くす。

無禮不樂、所由叛也。
【読み】
禮無ければ樂しまず、由りて叛く所なり。

若吾子之德、莫可歌也。其誰來之。來、猶歸也。○樂、音洛。
【読み】
吾子の德の若きは、歌う可き莫し。其れ誰か之に來らん。來は、猶歸すのごとし。○樂は、音洛。

盍使睦者歌吾子乎。宣子說之。爲明年、晉歸鄭衞田張本。一說、歸鄭・衛二國田也。說見下。
【読み】
盍ぞ睦まじき者をして吾子を歌わしめざるか、と。宣子之を說ぶ。明年、晉鄭の衞田を歸す爲の張本なり。一說に、鄭・衛二國の田を歸すなり。說下に見ゆ。


〔經〕八年、春、王正月。夏、四月。秋、八月、戊申、天王崩。冬、十月、壬午、公子遂會晉趙盾盟于衡雍。壬午、月五日。○雍、於用反。
【読み】
〔經〕八年、春、王の正月。夏、四月。秋、八月、戊申[つちのえ・さる]、天王崩ず。冬、十月、壬午[みずのえ・うま]、公子遂晉の趙盾[ちょうとん]に會して衡雍に盟う。壬午は、月の五日。○雍は、於用反。

乙酉、公子遂會雒戎盟于暴。乙酉、月八日也。暴、鄭地。公子遂不受命而盟。宜去族。善其解國患。故稱公子以貴之。
【読み】
乙酉[きのと・とり]、公子遂雒戎[らくじゅう]に會して暴に盟う。乙酉は、月の八日なり。暴は、鄭の地。公子遂命を受けずして盟う。宜しく族を去るべし。其の國の患えを解くを善す。故に公子と稱して以て之を貴ぶ。

公孫敖如京師。不至而復、丙戌、奔莒。不言出、受命而出、自外行。
【読み】
公孫敖京師に如く。至らずして復り、丙戌[ひのえ・いぬ]、莒[きょ]に奔る。出づると言わざるは、命を受けて出でて、外より行けばなり。

螽。無傳。爲災。故書。
【読み】
螽[しゅう]あり。傳無し。災いを爲す。故に書す。

宋人殺其大夫司馬。宋司城來奔。司馬死不舍節。司城奉身而退。故皆書官而不名。貴之。
【読み】
宋人其の大夫の司馬を殺す。宋の司城來奔す。司馬死して節を舍てず。司城身を奉じて退く。故に皆官を書して名いわず。之を貴ぶなり。

〔傳〕八年、春、晉侯使解揚歸匡・戚之田于衛、匡、本衛邑。中屬鄭。孔達伐不能克。今晉令鄭還衛、及取戚田、皆見元年。○解、音蟹。中、去聲。
【読み】
〔傳〕八年、春、晉侯解揚をして匡・戚の田を衛に歸さしめ、匡は、本衛の邑。中ごろ鄭に屬す。孔達伐ちて克つこと能わず。今晉鄭をして衛に還さしめ、及び戚の田を取ること、皆元年に見ゆ。○解は、音蟹。中は、去聲。

且復致公壻池之封、自申至于虎牢之竟。公壻池、晉君女壻。又取衛地以封之、今幷還衛也。申、鄭地。傳言趙盾所以能相幼主而盟諸侯。○復、扶又反。
【読み】
且つ復公の壻池の封の、申より虎牢の竟に至るまでを致[かえ]す。公の壻池は、晉君の女壻なり。又衛の地を取りて以て之を封ぜしを、今幷せて衛に還すなり。申は、鄭の地。傳趙盾[ちょうとん]能く幼主を相けて諸侯に盟う所以を言う。○復は、扶又反。

夏、秦人伐晉、取武城、以報令狐之役。令狐役、在七年。
【読み】
夏、秦人晉を伐ちて、武城を取り、以て令狐の役に報ゆ。令狐の役は、七年に在り。

秋、襄王崩。爲公孫敖如周弔傳。
【読み】
秋、襄王崩ず。公孫敖周に如きて弔する爲の傳なり。

晉人以扈之盟來討。前年盟扈、公後至。
【読み】
晉人扈の盟を以て來り討ず。前年扈[こ]に盟うとき、公後れて至る。

冬、襄仲會晉趙孟盟于衡雍、報扈之盟也。遂會伊雒之戎。伊雒之戎將伐魯。公子遂不及復君。故專命與之盟。
【読み】
冬、襄仲晉の趙孟に會して衡雍に盟うは、扈[こ]の盟に報ゆるなり。遂に伊雒の戎に會す。伊雒の戎將に魯を伐たんとす。公子遂君に復するに及ばず。故に命を專らにして之と盟うなり。

書曰公子遂、珍之也。珍、貴也。大夫出竟、有可以安社稷、利國家者、專之可。
【読み】
書して公子遂と曰うは、之を珍とするなり。珍は、貴きなり。大夫竟を出づるとき、以て社稷を安んじ、國家を利す可き者有れば、之を專らにして可なり。

穆伯如周弔喪。不至。以幣奔莒、從己氏焉。己氏、莒女。
【読み】
穆伯周に如きて喪を弔せんとす。至らず。幣を以て莒に奔り、己氏に從えり。己氏は、莒の女。

宋襄夫人、襄王之姊也。昭公不禮焉。昭公適祖母。
【読み】
宋の襄夫人は、襄王の姊なり。昭公禮せず。昭公の適祖母。

夫人因戴氏之族、華・樂・皇、皆戴族。
【読み】
夫人戴氏の族に因りて、華・樂・皇は、皆戴の族。

以殺襄公之孫孔叔・公孫鍾離及大司馬公子卬。皆昭公之黨也。司馬握節以死。故書以官。節、國之符信也。握之以死、示不廢命。
【読み】
以て襄公の孫孔叔・公孫鍾離と大司馬公子卬[こう]とを殺す。皆昭公の黨なり。司馬節を握りて以て死す。故に書すに官を以てす。節は、國の符信なり。之を握りて以て死するは、命を廢せざるを示すなり。

司城蕩意諸來奔。效節於府人而出。效、猶致也。意諸、公子蕩之孫。
【読み】
司城蕩意諸來奔す。節を府人に效[いた]して出づ。效は、猶致すのごとし。意諸は、公子蕩の孫。

公以其官逆之、皆復之。亦書以官。皆貴之也。卿違從大夫。公賢其效節。故以本官逆之、請宋而復之。司城官屬悉來奔。故言皆復。
【読み】
公其の官を以て之を逆え、皆之を復す。亦書すに官を以てす。皆之を貴ぶなり。卿違[さ]るときは大夫に從う。公其の節を效すを賢とす。故に本官を以て之を逆え、宋に請いて之を復す。司城の官屬悉く來奔す。故に皆復すと言う。

夷之蒐、晉侯將登箕鄭父・先都、登之於上軍也。夷蒐在六年。
【読み】
夷の蒐に、晉侯將に箕鄭父・先都を登せて、之を上軍に登すなり。夷蒐は六年に在り。

而使士縠・梁益耳、將中軍。士縠、本司空。○縠、戶木反。
【読み】
士縠・梁益耳をして、中軍に將たらしめんとす。士縠は、本司空。○縠は、戶木反。

先克曰、狐・趙之勳、不可廢也。從之。狐偃・趙衰、有從亡之勳。○從亡、去聲。
【読み】
先克曰く、狐・趙の勳、廢す可からず、と。之に從う。狐偃・趙衰、亡に從うの勳有り。○從亡は、去聲。

先克奪蒯得田于堇陰。七年、晉禦秦師於堇陰、以軍事奪其田也。先克、中軍佐。○蒯、苦聵反。
【読み】
先克蒯得の田を堇陰[きんいん]に奪う。七年、晉秦の師を堇陰に禦ぐとき、軍事を以て其の田を奪うなり。先克は、中軍の佐。○蒯は、苦聵反。

故箕鄭父・先都・士縠・梁益耳・蒯得作亂。爲明年、殺先克張本。○爲、于僞反。
【読み】
故に箕鄭父・先都・士縠・梁益耳・蒯得亂を作す。明年、先克を殺す爲の張本なり。○爲は、于僞反。


〔經〕九年、春、毛伯來求金。求金以共葬事。雖踰年而未葬。故不稱王使。
【読み】
〔經〕九年、春、毛伯來りて金を求む。金を求めて以て葬事に共せんとす。年を踰ゆと雖も未だ葬らず。故に王使むと稱せず。

夫人姜氏如齊。無傳。歸寧。
【読み】
夫人姜氏齊に如く。傳無し。歸寧なり。

二月、叔孫得臣如京師。辛丑、葬襄王。卿共葬事。禮也。
【読み】
二月、叔孫得臣京師に如く。辛丑[かのと・うし]、襄王を葬る。卿葬事に共す。禮なり。

晉人殺其大夫先都。下軍佐也。以作亂討。故書名。
【読み】
晉人其の大夫先都を殺す。下軍の佐なり。亂を作すを以て討ず。故に名を書す。

三月、夫人姜氏至自齊。無傳。告于廟。
【読み】
三月、夫人姜氏齊より至る。傳無し。廟に告ぐ。

晉人殺其大夫士縠及箕鄭父。與先都同罪也。
【読み】
晉人其の大夫士縠と箕鄭父とを殺す。先都と同罪なり。

楚人伐鄭。楚子師於狼淵不親伐。
【読み】
楚人鄭を伐つ。楚子狼淵に師して親ら伐たず。

公子遂會晉人・宋人・衛人・許人救鄭。夏、狄侵齊。無傳。
【読み】
公子遂晉人・宋人・衛人・許人に會して鄭を救う。夏、狄齊を侵す。傳無し。

秋、八月、曹伯襄卒。無傳。七年、同盟于扈。
【読み】
秋、八月、曹伯襄卒す。傳無し。七年、扈[こ]に同盟す。

九月、癸酉、地震。無傳。地道安靜。以動爲異。故書。
【読み】
九月、癸酉[みずのと・とり]、地震す。傳無し。地道は安靜。動を以て異とす。故に書す。

冬、楚子使椒來聘。稱君以使大夫、其禮辭與中國同。椒不書氏、史略文。
【読み】
冬、楚子椒をして來聘せしむ。君を稱して以て大夫を使いせしめむるは、其の禮辭中國と同じきなり。椒氏を書さざるは、史の略文なり。

秦人來歸僖公・成風之禭。衣服曰禭。秦辟陋。故不稱使。不稱夫人、從來者辭。
【読み】
秦人來りて僖公・成風の禭[すい]を歸[おく]る。衣服を禭と曰う。秦は辟陋。故に使むと稱せず。夫人と稱せざるは、來者の辭に從うなり。

葬曹共公。無傳。
【読み】
曹の共公を葬る。傳無し。

〔傳〕九年、春、王正月、己酉、使賊殺先克。箕鄭等所使也。亂殺先克。不赴故不書。
【読み】
〔傳〕九年、春、王の正月、己酉[つちのと・とり]、賊をして先克を殺さしむ。箕鄭等のせしむる所なり。先克を亂殺す。赴[つ]げざる故に書さず。

乙丑、晉人殺先都・梁益耳。乙丑、正月十九日。經書二月、從告。
【読み】
乙丑[きのと・うし]、晉人先都・梁益耳を殺す。乙丑は、正月十九日。經二月に書すは、告ぐるに從うなり。

毛伯衛來求金、非禮也。天子不私求財。故曰非禮。
【読み】
毛伯衛來りて金を求むるは、禮に非ざるなり。天子は私に財を求めず。故に禮に非ずと曰う。

不書王命、未葬也。
【読み】
王命を書さざるは、未だ葬らざればなり。

二月、莊叔如周、葬襄王。
【読み】
二月、莊叔周に如き、襄王を葬る。

三月、甲戌、晉人殺箕鄭父・士縠・蒯得。梁益耳・蒯得不書、皆非卿。
【読み】
三月、甲戌[きのえ・いぬ]、晉人箕鄭父・士縠・蒯得を殺す。梁益耳・蒯得書さざるは、皆卿に非ざればなり。

范山言於楚子曰、晉君少、不在諸侯。北方可圖也。范山、楚大夫。
【読み】
范山楚子に言いて曰く、晉の君少くして、諸侯に在らず。北方圖る可し、と。范山は、楚の大夫。

楚子師于狼淵以伐鄭。陳師狼淵、爲伐鄭援也。潁川潁陰縣西有狼陂。
【読み】
楚子狼淵に師して以て鄭を伐つ。師を狼淵に陳して、鄭を伐つの援とするなり。潁川潁陰縣の西に狼陂有り。

囚公子堅・公子尨及樂耳。三子、鄭大夫。○尨、莫江反。
【読み】
公子堅・公子尨[ぼう]と樂耳とを囚う。三子は、鄭の大夫。○尨は、莫江反。

鄭及楚平。
【読み】
鄭楚と平らぐ。

公子遂會晉趙盾・宋華耦・衛孔達・許大夫救鄭、不及楚師。卿不書、緩也。以懲不恪。華耦、華父督曾孫。公子遂獨不在貶者、諸魯事、自非指爲其國褒貶、則皆從国史、不同之於他國。此春秋大意。他放此。○恪、苦各反。
【読み】
公子遂晉の趙盾・宋の華耦・衛の孔達・許の大夫に會して鄭を救いて、楚の師に及ばず。卿書さざるは、緩[おそ]ければなり。以て不恪を懲らすなり。華耦は、華父督の曾孫。公子遂獨り貶に在らざるは、諸々の魯の事、指して其の國の爲に褒貶するに非ざるよりは、則ち皆国史に從いて、之を他國に同じくせず。此れ春秋の大意なり。他も此に放え。○恪は、苦各反。

夏、楚侵陳、克壺丘。壺丘、陳邑。
【読み】
夏、楚陳を侵し、壺丘に克つ。壺丘は、陳の邑。

以其服於晉也。
【読み】
其の晉に服するを以てなり。

秋、楚公子朱自東夷伐陳。子朱、息公也。
【読み】
秋、楚の公子朱東夷より陳を伐つ。子朱は、息公なり。

陳人敗之、獲公子茷。陳懼。乃及楚平。以小勝大。故懼而請平也。傳言晉君少、楚陵中國。明年、所以有厥貉之會。○茷、扶廢反。貉、武百反。
【読み】
陳人之を敗り、公子茷[はい]を獲たり。陳懼る。乃ち楚と平らぐ。小を以て大に勝つ。故に懼れて平らぎを請うなり。傳晉君少くして、楚中國を陵ぐを言う。明年、厥貉[けつばく]の會有る所以なり。○茷は、扶廢反。貉は、武百反。

冬、楚子越椒來聘。執幣傲。子越椒、令尹子文從子。傲、不敬。
【読み】
冬、楚の子越椒來聘す。幣を執ること傲れり。子越椒は、令尹子文の從子。傲は、不敬なり。

叔仲惠伯曰、是必滅若敖氏之宗。傲其先君。神弗福也。十二年傳曰、先君之敝器、使下臣致諸執事。明奉使皆告廟。故言傲其先君也。爲宣四年、楚滅若敖氏張本。
【読み】
叔仲惠伯曰く、是れ必ず若敖氏の宗を滅ぼさん。其の先君に傲れり。神福せじ、と。十二年の傳に曰く、先君の敝器、下臣をして諸を執事に致さしむ、と。明けし、使を奉ずれば皆廟に告ぐるなり。故に其の先君に傲ると言うなり。宣四年、楚若敖氏を滅ぼす爲の張本なり。

秦人來歸僖公・成風之襚。禮也。秦慕諸夏、欲通敬於魯。因有翟泉之盟、故追贈僖公、幷及成風。本非魯方嶽同盟、無相赴弔之制。故不譏其緩、而以接好爲禮。
【読み】
秦人來りて僖公・成風の襚を歸る。禮なり。秦諸夏を慕い、敬を魯に通ぜんことを欲す。翟泉の盟有るに因りて、故に僖公に追贈して、幷せて成風に及ぶなり。本魯の方嶽の同盟に非ざれば、相赴弔するの制無し。故に其の緩きを譏らずして、接好を以て禮とす。

諸侯相弔賀也、雖不當事、苟有禮焉、書也。以無忘舊好。送死不及尸。故曰不當事。書者、書於典策、垂示子孫、使無忘過厚之好。
【読み】
諸侯相弔賀するや、事に當たらずと雖も、苟も禮有れば、書すなり。舊好を忘るること無きを以てなり。死に送りて尸に及ばず。故に事に當たらずと曰う。書すとは、典策に書して、子孫に垂示して、過厚の好を忘るること無からしむるなり。


〔經〕十年、春、王三月、辛卯、臧孫辰卒。無傳。公與小斂。故書日。
【読み】
〔經〕十年、春、王の三月、辛卯[かのと・う]、臧孫辰卒す。傳無し。公小斂に與る。故に日を書す。

夏、秦伐晉。不稱將帥、告辭略。
【読み】
夏、秦晉を伐つ。將帥を稱せざるは、告辭略するなり。

楚殺其大夫宜申。宜申、子西也。謀弑君。故書名。
【読み】
楚其の大夫宜申を殺す。宜申は、子西なり。君を弑せんと謀る。故に名を書す。

自正月不雨、至于秋七月。無傳。義與二年同。
【読み】
正月より雨ふらず、秋七月に至る。傳無し。義二年と同じ。

及蘇子盟于女栗。女栗、地名。闕。蘇子、周卿士。頃王新立。故與魯盟。親諸侯也。○女、音汝。一如字。
【読み】
蘇子と女栗[じょりつ]に盟う。女栗は、地の名。闕く。蘇子は、周の卿士。頃王新たに立つ。故に魯と盟う。諸侯を親しむなり。○女は、音汝。一に字の如し。

冬、狄侵宋。無傳。
【読み】
冬、狄宋を侵す。傳無し。

楚子・蔡侯次于厥貉。厥貉、地名。闕。將伐宋而未行。故書次。
【読み】
楚子・蔡侯厥貉[けつばく]に次[やど]る。厥貉は、地の名。闕く。將に宋を伐たんとして未だ行かず。故に次ると書す。

〔傳〕十年、春、晉人伐秦、取少梁。少梁、馮翊夏陽縣。○少、詩照反。
【読み】
〔傳〕十年、春、晉人秦を伐ち、少梁を取る。少梁は、馮翊の夏陽縣。○少は、詩照反。

夏、秦伯伐晉、取北徵。報少梁。○徵、如字。三蒼云、音懲。一音張里反。
【読み】
夏、秦伯晉を伐ち、北徵を取る。少梁に報ゆ。○徵は、字の如し。三蒼云う、音懲。一に音張里反。

初、楚范巫矞似、矞似、范邑之巫。○矞、尹必反。
【読み】
初め、楚の范巫矞似[いつじ]、矞似は、范邑の巫。○矞は、尹必反。

謂成王與子玉・子西、曰、三君皆將强死。城濮之役、王思之。故使止子玉、曰、毋死。不及。止子西。縊而縣絕。在僖二十八年。○强、其丈反。
【読み】
成王と子玉・子西とに謂いて、曰く、三君皆將に强死せんとす、と。城濮の役に、王之を思う。故に子玉を止めしめて、曰く、死すこと毋かれ、と。及ばず。子西を止む。縊れて縣絕ゆ。僖二十八年に在り。○强は、其丈反。
*漢籍國字解全書には、「縊而縣絕」は「子西縊而縣絕」とある。

王使適至、遂止之。使爲商公。商、楚邑。今上雒商縣。
【読み】
王の使適[たま]々至り、遂に之を止む。商公爲らしむ。商は、楚の邑。今の上雒商縣。

沿漢泝江、將入郢。沿、順流。泝、逆流。沿、悅專反。泝、息路反。郢、以井反。
【読み】
漢に沿い江に泝[さかのぼ]り、將に郢[えい]に入らんとす。沿は、流れに順うなり。泝は、流れに逆うなり。○沿は、悅專反。泝は、息路反。郢は、以井反。
*沿は、サンズイに公。

王在渚宮、小洲曰渚。
【読み】
王渚宮に在りて、小洲を渚と曰う。

下見之。懼而辭曰、臣免於死、又有讒言、謂臣將逃。臣歸死於司敗也。陳・楚名司寇爲司敗。子西畏讒言、不敢之商縣。
【読み】
之を下し見る。懼れて辭して曰く、臣死を免れしに、又讒言有りて、臣を將に逃げんとすと謂う。臣死を司敗に歸せん、と。陳・楚司寇を名づけて司敗とす。子西讒言を畏れて、敢えて商縣に之かず。

王使爲工尹。掌百工之官。
【読み】
王工尹爲らしむ。百工を掌るの官。

又與子家謀弑穆王。穆王聞之、五月、殺鬭宜申及仲歸。仲歸、子家。不書、非卿。
【読み】
又子家と穆王を弑せんことを謀る。穆王之を聞き、五月、鬭宜申と仲歸とを殺す。仲歸は、子家。書さざるは、卿に非ざればなり。

秋、七月、及蘇子盟于女栗、頃王立故也。僖十年、狄滅溫、蘇子奔衛。今復見、蓋王復之。
【読み】
秋、七月、蘇子と女栗に盟うは、頃王立つ故なり。僖十年、狄溫を滅ぼして、蘇子衛に奔る。今復見ゆるは、蓋し王之を復すならん。

陳侯・鄭伯會楚子于息。冬、遂及蔡侯次于厥貉。陳・鄭及宋麇子不書者、宋・鄭執卑苟免、爲楚僕任、受役於司馬、麇子恥之、遂逃而歸。三君失位降爵。故不列於諸侯。宋・鄭猶然、則陳侯必同也。○麇、九倫反。
【読み】
陳侯・鄭伯楚子に息に會す。冬、遂に蔡侯と厥貉に次る。陳・鄭と宋の麇子[きんし]と書さざるは、宋・鄭は卑しきを執えて苟も免れ、楚の僕任と爲りて、役を司馬に受け、麇子は之を恥じて、遂に逃げて歸る。三君位を失し爵を降す。故に諸侯に列ねず。宋・鄭猶然るときは、則ち陳侯必ず同じならん。○麇は、九倫反。

將以伐宋。宋華御事曰、楚欲弱我也。先爲之弱乎、何必使誘我。我實不能、民何罪。乃逆楚子、勞且聽命。時楚欲誘呼宋共戰。御事、華元父。○勞、力報反。
【読み】
將に以て宋を伐たんとす。宋の華御事が曰く、楚我を弱めんと欲するなり。先ず之が弱きを爲さんや、何ぞ必ずしも我を誘[あざむ]かしめん。我れ實に能わざれども、民何の罪ある、と。乃ち楚子を逆え、勞して且命を聽く。時に楚宋を誘呼して共に戰わんと欲す。御事は、華元の父。○勞は、力報反。

遂道以田孟諸。孟諸、宋大藪也。在梁國睢陽縣東北。○道、音導。睢、音綏。
【読み】
遂に道[みちび]きて以て孟諸に田[かり]す。孟諸は、宋の大藪なり。梁國睢陽縣の東北に在り。○道は、音導。睢は、音綏。

宋公爲右盂、鄭伯爲左盂、盂、田獵陳名。○陳、直覲反。
【読み】
宋公右盂と爲り、鄭伯左盂と爲り、盂は、田獵の陳の名。○陳は、直覲反。

期思公復遂爲右司馬、復遂、楚期思邑公。今弋陽期思縣。
【読み】
期思公復遂右司馬と爲り、復遂は、楚の期思邑の公。今の弋陽の期思縣。

子朱及文之無畏爲左司馬。將獵、張兩甄。故置二左司馬。然則右司馬一人當中央。○甄、吉然反。
【読み】
子朱と文之無畏と左司馬と爲る。將に獵せんとし、兩甄[りょうけん]を張る。故に二りの左司馬を置く。然れば則ち右司馬一人中央に當たるなり。○甄は、吉然反。

命夙駕載燧。燧、取火者。
【読み】
命ずらく、夙に駕して燧[すい]を載せよ、と。燧は、火を取る者。

宋公違命。不夙駕載燧。
【読み】
宋公命に違う。夙に駕して燧を載せず。

無畏抶其僕以徇。或謂子舟曰、國君不可戮也。子舟曰、當官而行。何彊之有。子舟、無畏字。○抶、恥乙反。
【読み】
無畏其の僕を抶[う]ちて以て徇[とな]う。或ひと子舟に謂いて曰く、國君は戮す可からず、と。子舟曰く、官に當たりて行う。何の彊か之れ有らん。子舟は、無畏の字。○抶[ちつ]は、恥乙反。

詩曰、剛亦不吐、柔亦不茹。詩、大雅。美仲山甫不辟彊禦。○茹、如呂反。
【読み】
詩に曰く、剛も亦吐かず、柔も亦茹[くら]わず、と。詩は、大雅。仲山甫の彊禦を辟けざるを美む。○茹は、如呂反。

毋縱詭隨、以謹罔極。詩、大雅。詭人隨人、無正心者。謹、猶愼也。罔、無也。極、中也。○詭、九委反。
【読み】
詭隨を縱[ゆる]すること毋くして、以て罔極を謹め、と。詩は、大雅。詭人隨人は、正心無き者。謹は、猶愼のごとし。罔は、無なり。極は、中なり。○詭は、九委反。

是亦非辟彊也。敢愛死以亂官乎。爲宣十四年、宋人殺子舟張本。
【読み】
是も亦彊を辟くるに非ざるなり。敢えて死を愛して以て官を亂らんや、と。宣十四年、宋人子舟を殺す爲の張本なり。

厥貉之會、麇子逃歸。爲明年、楚子伐麇傳。
【読み】
厥貉の會に、麇子[きんし]逃げ歸る。明年、楚子麇を伐つ爲の傳なり。



經元年。來錫。星歷反。其比。必利反。例也。又如字。喪色。息浪反。
傳。能相。息亮反。供。倶用反。養。餘亮反。期之。居其反。朞同。○今本朞。不愆。起虔反。不悖。必内反。毛伯衛來錫公命。一本作王使。又作天王使。○今本亦作王使。錫作賜。按此文疑有誤脫。汲。居及反。諒。音良。又音亮。大甚。音泰。又如字。疆。居良反。尙少。詩照反。下同。蠭。芳逢反。豺。仕皆反。江羋。史記以爲成王妾。役夫。如字。者稱。尺證反。大事謂弑君。申志反。一本無此注。宮卒。子忽反。從子玉。如字。又才用反。斂。力驗反。大師。音泰。環。如字。又音患。舊好。呼報反。下及注同。要結。於遙反。外援。于眷反。秦帥。所類反。有隧。音遂。敗類。必邁反。注同。蹊。音兮。徑。古定反。誦言。似用反。惽。音昬。本亦作昬。○今本亦昏。覆。芳服反。卑。必爾反。本又作俾。注同。○今本亦俾。復使。扶又定。
經二年。衙。音牙。不見。賢遍反。族去。起呂反。常稱。尺證反。士縠。本又作穀。無隴。力勇反。有收。如字。又手又反。大廟。音泰。下同。躋。子兮反。廟坐。才臥反。又如字。纁。許云反。
傳。禦。魚呂反。將中。子匠反。溱。側巾反。故嗤。尺之反。盍死。戶臘反。死處。昌慮反。與女。音汝。不得復。扶又反。遄。市專反。沮。在汝反。王赫。火百反。必辟。音避。母念。音無。注同。士蔿。于委書士縠。本或作書曰晉士。爲衛。于僞反。令居。力呈反。閔上。時掌反。一本無閔字。夏父。戶雅反。昭穆。上遙反。後皆放此。又長。丁丈反。年少。詩照反。鯀。古本反。先契。息列反。殷始封之君。不肖。悉召反。不忒。他得反。不知。音智。下同。塞關。悉再反。販。甫万反。梲。章悅反。爰居。樊光云、似鳳皇。爰居事見國語。莊子云、魯侯御而觴之于廟。公子成。音城。本或作戌。音恤。轅選。息袞反。取汪。烏黃反。爲穆公。于僞反。娶。七住反。元妃。芳非反。粢盛。音咨。下音成。適夫人。丁歷反。○今本嫡。共。音恭。
經三年。沈。尸甚反。潰。戶内反。螽。音終。天祐。音又。
傳。輕走。如字。又遣政反。逃竄。七亂反。爲衛。于僞反。不解。佳賣反。下同。蘩。音煩。沼。之紹反。沚。音止。以共。音恭。詒厥。以之反。詒遺。唯季反。下同。之帥。所類反。兵解。音蟹。又佳買反。菁菁。子丁反。莪。五多反。還上。時掌反。又如字。
經四年。甯兪。羊朱反。祔姑。音附。
傳。去盛。起呂反。饌。仕眷反。不矜。居陵反。爰究。音救。爰度。待洛反。注同。湛露。直減反。彤弓。徒冬反。佯不。音陽。一音祥。宴樂。音洛。下注同。不晞。音希。舊好。呼報反。辱貺。音況。取戾。力計反。
經五年。且賵。芳鳳反。召伯。上照反。廬江。力居反。
傳。蓼。或作鄝。音同。皐陶。音遙。甯嬴。音盈。亢爽。苦浪反。其行。下孟反。軍帥。所類反。下同。蒐。所求反。
經六年。侯驩。喚官反。卿其。音恭。不告月。月或作朔、誤也。不告朔。本或朔告月。
傳。軍帥。所類反。下同。將中。子匠反。逋逃。補吾反。洿。本又作汙。大傅。音泰。下同。求好。呼報反。且娶。七住反。越竟。音境。自爲。于僞反。子車氏。音居。中行。音仲。本亦作仲。下戶郎反。○今本亦仲。爲殉。字林、弋絹反。王者。如字。一于況反。聖知。音智。話言。戶快反。度量。音亮。以遺。唯季反。焉用。於虔反。卒得。寸忽反。三思。息暫反。公少。詩照反。注同。以難。乃旦反。注及下皆同。長君。丁丈反。下皆同。好善。呼報反。下皆同。且近。附近之近。嬖。必計反。杜祁。巨之反。姞。一音其乙反。故復。扶又反。下將復怨同。亞卿。於嫁反。軍帥。所類反。又命帥同。臾。羊朱反。欲盡。津忍反。介人。音戒。非知。音智。爲民。或于僞反、非也。
經七年。邾復。扶又反。易也。以豉反。邾難。乃旦反。今狐。力呈反。廢適。丁歷反。本又作嫡。諱背。音佩。分別。彼列反。書將。子匠反。帥。所類反。涖盟。音利。又音類。
傳。難也。乃旦反。注同。寘文。之豉反。下同。大暤。音泰。下戶老反。庇。必利反。又悲位反。下同。廕。本又作蔭。於鴆反。藟。本或作虆。力軌反。能虆。類龜反。蔓。音萬。廕庥。許求反。本又作庇。爲比。必爾反。之難。乃旦反。穆嬴。音盈。舍嫡。本亦作適。同。○今本亦適。將焉。於虔反。下焉用同。畏偪。彼力反。乃背。音佩。箕鄭。音基。居守。手又反。下注同。將中。子匠反。下注同。卒然。寸忽反。而復。扶又反。有奪人之心。本或此下有後人待其反、誤。訓卒。子忽反。秣馬。音末。之使。所吏反。爲寮。本又作僚。力彫反。爲賦。于僞反。下爲同寮同。芻。初倶反。蕘。音饒。中行。戶郎反。下同。惡有。烏路反。酆舒。芳忠反。狄相。息亮反。戴己。一音杞。其娣。大計反。則爲。于僞反。下且爲・自爲同。用休。許虯反。注同。盍使。戶臘反。說之。音悅。
經八年。會雒戎。音洛。本或作伊雒之戎。此後人妄取傳文加耳。宜去。起呂反。不舍。音捨。
傳。令鄭。力呈反。皆見。賢遍反。公壻。音細。俗作之竟。音境。下注同。能相。息亮反。適祖母。丁歷反。效節。戶敎反。將中。子匠反。
經九年。以共。音恭。本又作供。下同。僻陋。匹亦反。○今本辟。曹共。音恭。
傳。君少。詩照反。下注同。狼陂。彼皮反。以懲。直升反。旨爲。于僞反。執幣傲。本又作敖。五報反。注下同。從子。才用反。若敖。五刀反。奉使。所吏反。諸夏。戶雅反。方嶽。音岳。接好。呼報反。下及注同。
經十年。公與。音預。斂。力驗反。稱將。子匠反。帥。所類反。頃王。音傾。
傳。夏陽。戶雅反。城濮。音卜。毋死。音無。縊。一豉反。而縣。音玄。王使。所吏反。入郢。一音以政反。渚宮。章呂反。小洲。音州。今復。扶又反。見。賢遍反。大藪。素口反。右盂。音于。弋陽。以職反。命夙。眉病反。載燧。本又作■(上が遂、下が火)。音遂。以徇。似俊反。子舟。音州。

春秋左氏傳校本第九

文公 起十一年盡十八年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

〔經〕
十有一年、春、楚子伐麇。討前年、逃厥貉會。○麇、九倫反。
【読み】
〔經〕十有一年、春、楚子麇[きん]を伐つ。前年、厥貉[けつばく]の會を逃げしを討ずるなり。○麇は、九倫反。

夏、叔仲彭生、會晉郤缺于承匡。承匡、宋地。在陳留襄邑縣西。彭生、叔仲惠伯。郤缺、冀缺。
【読み】
夏、叔仲彭生、晉の郤缺[げきけつ]に承匡に會す。承匡は、宋の地。陳留襄邑縣の西に在り。彭生は、叔仲惠伯。郤缺は、冀缺。

秋、曹伯來朝。公子遂如宋。狄侵齊。冬、十月、甲午、叔孫得臣敗狄于鹹。鹹、魯地。
【読み】
秋、曹伯來朝す。公子遂宋に如く。狄齊を侵す。冬、十月、甲午[きのえ・うま]、叔孫得臣狄を鹹[かん]に敗る。鹹は、魯の地。

〔傳〕十一年、春、楚子伐麇。成大心敗麇師於防渚。成大心、子玉之子、大孫伯也。防渚、麇地。
【読み】
〔傳〕十一年、春、楚子麇を伐つ。成大心麇の師を防渚に敗る。成大心は、子玉の子、大孫伯なり。防渚は、麇の地。

潘崇復伐麇、至于鍚穴。鍚穴、麇地。○復、扶又反。鍚、音羊。或作錫。星歷反。
【読み】
潘崇復麇を伐ちて、鍚穴[ようけつ]に至る。鍚穴は、麇の地。○復は、扶又反。鍚は、音羊。或は錫に作る。星歷反。

夏、叔仲惠伯會晉郤缺于承匡、謀諸侯之從於楚者。九年、陳・鄭及楚平、十年、宋聽楚命。
【読み】
夏、叔仲惠伯晉の郤缺に承匡に會するは、諸侯の楚に從う者を謀るなり。九年、陳・鄭楚と平らぎ、十年、宋楚の命を聽く。

秋、曹文公來朝、卽位而來見也。
【読み】
秋、曹の文公來朝するは、位に卽きて來り見ゆるなり。

襄仲聘于宋、且言司城蕩意諸而復之、八年、意諸來奔。歸不書、史失之。○見、賢遍反。
【読み】
襄仲宋に聘し、且つ司城蕩意諸を言いて之を復し、八年、意諸來奔す。歸ること書さざるは、史之を失えり。○見は、賢遍反。

因賀楚師之不害也。往年楚次厥貉、將以伐宋。
【読み】
因りて楚の師の害あらざりしを賀す。往年楚厥貉に次でして、將に以て宋を伐たんとす。

鄋瞞侵齊、鄋瞞、狄國名。防風之後。漆姓。○鄋、所求反。瞞、莫干反。
【読み】
鄋瞞[しゅうまん]齊を侵し、鄋瞞は、狄國の名。防風の後。漆姓。○鄋は、所求反。瞞は、莫干反。

遂伐我。公卜使叔孫得臣追之。吉。侯叔夏御莊叔、莊叔、得臣。
【読み】
遂に我を伐つ。公叔孫得臣をして之を追わしめんと卜す。吉なり。侯叔夏莊叔に御となり、莊叔は、得臣。

緜房甥爲右、富父終甥駟乘。駟乘、四人共車。○乘、繩證反。下皆同。
【読み】
緜房甥右と爲り、富父終甥駟乘す。駟乘は、四人車を共にするなり。○乘は、繩證反。下も皆同じ。

冬、十月、甲午、敗狄于鹹、獲長狄僑如。僑如、鄋瞞國之君。蓋長三丈。獲僑如不書、賤夷狄也。○僑、其驕反。
【読み】
冬、十月、甲午、狄を鹹に敗り、長狄僑如を獲たり。僑如は、鄋瞞國の君。蓋し長[たけ]三丈。僑如を獲るを書さざるは、夷狄を賤しむなり。○僑は、其驕反。

富父終甥摏其喉以戈、殺之。摏、猶衝也。○摏、舒容反。
【読み】
富父終甥其の喉を摏[つ]くに戈を以てして、之を殺す。摏[しょう]は、猶衝くのごとし。○摏は、舒容反。

埋其首於子駒之門、子駒、魯郭門。骨節非常。恐後世怪之。故詳其處。
【読み】
其の首を子駒の門に埋め、子駒は、魯の郭門。骨節常に非ず。恐れらくは後世之を怪しまんことを。故に其の處を詳らかにするなり。

以命宣伯。得臣待事而名其三子。因名宣伯曰僑如、以旌其功。
【読み】
以て宣伯に命[な]づく。得臣事を待ちて其の三子に名づく。因りて宣伯を名づけて僑如と曰いて、以て其の功を旌[あらわ]す。

初、宋武公之世、鄋瞞伐宋。在春秋前。
【読み】
初め、宋の武公の世、鄋瞞宋を伐つ。春秋の前に在り。

司徒皇父帥師禦之。耏班御皇父充石、皇父、戴公子。充石、皇父名。○耏、音而。
【読み】
司徒皇父師を帥いて之を禦ぐ。耏班[じはん]皇父充石に御となり、皇父は、戴公の子。充石は、皇父の名。○耏は、音而。

公子穀甥爲右、司寇牛父駟乘。以敗狄于長丘、長丘、宋地。
【読み】
公子穀甥右と爲り、司寇牛父駟乘す。以て狄を長丘に敗り、長丘は、宋の地。

獲長狄緣斯。緣斯、僑如之先。
【読み】
長狄緣斯を獲たり。緣斯は、僑如の先。

皇父之二子死焉。皇父與穀甥及牛父皆死。故耏班獨受賞。
【読み】
皇父と二子と死す。皇父と穀甥と牛父と皆死す。故に耏班獨り賞を受くるなり。

宋公於是以門賞耏班、使食其征。門、關門。征、稅也。
【読み】
宋公是に於て門を以て耏班を賞して、其の征を食ましむ。門は、關門。征は、稅なり。

謂之耏門。
【読み】
之を耏門と謂う。

晉之滅潞也、在宣十五年。
【読み】
晉の潞[ろ]を滅ぼすや、宣十五年に在り。

獲僑如之弟焚如。
【読み】
僑如の弟焚如を獲たり。

齊襄公之二年、魯桓之十六年。
【読み】
齊の襄公の二年、魯桓の十六年。

鄋瞞伐齊。齊王子成父獲其弟榮如。榮如、焚如之弟。焚如後死。而先說者、欲其兄弟伯季相次。榮如以魯桓十六年死。至宣十五年、一百三歲、其兄猶在。傳言旣長且壽有異於人。王子成父、齊大夫。
【読み】
鄋瞞齊を伐つ。齊の王子成父其の弟榮如を獲たり。榮如は、焚如の弟。焚如は後に死す。而るを先ず說くは、其の兄弟伯季相次でしことを欲してなり。榮如は魯桓十六年を以て死す。宣十五年に至りて、一百三歲、其の兄猶在り。傳旣に長く且壽人に異なること有るを言う。王子成父は、齊の大夫。

埋其首於周首之北門。周首、齊邑。濟北穀城縣東北有周首亭。
【読み】
其の首を周首の北門に埋む。周首は、齊の邑。濟北穀城縣の東北に周首亭有り。

衛人獲其季弟簡如。伐齊退走、至衛見獲。
【読み】
衛人其の季弟簡如を獲たり。齊を伐ちて退き走り、衛に至りて獲らる。

鄋瞞由是遂亡。長狄之種絕。
【読み】
鄋瞞是に由りて遂に亡びたり。長狄の種絕ゆ。

郕大子朱儒自安於夫鍾。安、處也。夫鐘、郕邑。○夫、音扶。
【読み】
郕[せい]の大子朱儒自ら夫鍾に安[お]る。安は、處るなり。夫鐘は、郕の邑。○夫は、音扶。

國人弗徇。徇、順也。爲明年、郕伯來奔傳。
【読み】
國人徇[したが]わず。徇は、順うなり。明年、郕伯來奔する爲の傳なり。


〔經〕十有二年、春、王正月、郕伯來奔。稱爵、見公以諸侯禮迎之。○見、賢遍反。
【読み】
〔經〕十有二年、春、王の正月、郕[せい]伯來奔す。爵を稱するは、公諸侯の禮を以て之を迎うることを見すなり。○見は、賢遍反。

杞伯來朝。復稱伯、舍夷禮。○舍、音捨。
【読み】
杞伯來朝す。復伯と稱するは、夷禮を舍つればなり。○舍は、音捨。

二月、庚子、子叔姬卒。旣嫁成人。雖見出弃、猶以恩錄其卒。
【読み】
二月、庚子[かのえ・ね]、子叔姬卒す。旣に嫁すれば成人なり。出だし弃[す]てらると雖も、猶恩を以て其の卒を錄するなり。

夏、楚人圍巢。巢、吳・楚閒小國。廬江六縣東有居巢城。
【読み】
夏、楚人巢を圍む。巢は、吳・楚の閒の小國。廬江六縣の東に居巢城有り。

秋、滕子來朝。秦伯使術來聘。術、不稱氏、史略文。
【読み】
秋、滕子來朝す。秦伯術をして來聘せしむ。術、氏を稱せざるは、史の略文なり。

冬、十有二月、戊午、晉人・秦人戰于河曲。不書敗績、交綏而退、不大崩也。稱人、秦・晉無功、以微者告也。皆陳曰戰。例在莊十一年。河曲、在河東蒲坂縣南。
【読み】
冬、十有二月、戊午[つちのえ・うま]、晉人・秦人河曲に戰う。敗績を書さざるは、交々綏[すい]して退き、大崩せざればなり。人と稱するは、秦・晉功無く、微者を以て告ぐればなり。皆陳するを戰と曰う。例は莊十一年に在り。河曲は、河東蒲坂縣の南に在り。

季孫行父帥師城諸及鄆。鄆、莒・魯所爭者。城陽姑幕縣南有員亭。員、卽鄆也。以其遠偪外國、故帥師城之。○鄆、音運。員、音云。一音運。
【読み】
季孫行父師を帥いて諸と鄆[うん]とに城く。鄆は、莒[きょ]・魯の爭う所の者。城陽姑幕縣の南に員亭有り。員は、卽ち鄆なり。其の遠く外國に偪るを以て、故に師を帥いて之に城く。○鄆は、音運。員は、音云。一に音運。

〔傳〕十二年、春、郕伯卒。郕人立君。大子自安於外邑故。
【読み】
〔傳〕十二年、春、郕伯卒す。郕人君を立つ。大子自ら外邑に安んずる故なり。

大子以夫鍾與郕・邽來奔。郕・邽、亦邑。○邽、音圭。
【読み】
大子夫鍾と郕・邽[けい]とを以て來奔す。郕・邽も、亦邑。○邽は、音圭。

公以諸侯逆之。非禮也。非公寵叛人。
【読み】
公諸侯を以て之を逆[むか]う。禮に非ざるなり。公の叛人を寵するを非[そし]る。

故書曰郕伯來奔。不書地、尊諸侯也。旣尊以爲諸侯。故不復見其竊邑之罪。
【読み】
故に書して郕伯來奔すと曰う。地を書さざるは、諸侯を尊びてなり。旣に尊びて以て諸侯と爲す。故に復其の邑を竊[ぬす]むの罪を見さず。

杞桓公來朝、始朝公也。公卽位、始來朝。
【読み】
杞の桓公來朝するは、始めて公に朝するなり。公位に卽きて、始めて來朝す。

且請絕叔姬、而無絕昏。公許之。不絕昏、立其娣以爲夫人。不書大歸、未歸而卒。
【読み】
且つ叔姬を絕ちて、昏を絕つこと無からんことを請う。公之を許す。昏を絕たずとは、其の娣を立てて以て夫人と爲すなり。大歸を書さざるは、未だ歸らずして卒すればなり。

二月、叔姬卒。不言杞、絕也。旣許其絕。故不言杞。
【読み】
二月、叔姬卒す。杞と言わざるは、絕えたればなり。旣に其の絕つを許す。故に杞と言わず。

書叔姬、言非女也。女未筓而卒、不書。
【読み】
叔姬と書すは、女に非ざるを言うなり。女未だ筓せずして卒すれば、書さず。

楚令尹大孫伯卒。成嘉爲令尹。若敖曾孫、子孔。
【読み】
楚の令尹大孫伯卒す。成嘉令尹と爲る。若敖の曾孫、子孔なり。

羣舒叛楚。羣舒、偃姓。舒庸・舒鳩之屬。今廬江南有舒城。舒城西南有龍舒。
【読み】
羣舒楚に叛く。羣舒は、偃姓。舒庸・舒鳩の屬。今の廬江の南に舒城有り。舒城の西南に龍舒有り。

夏、子孔執舒子平及宗子、遂圍巢。平、舒君名。宗・巢二國、羣舒之屬。
【読み】
夏、子孔舒子平と宗子とを執え、遂に巢を圍む。平は、舒君の名。宗・巢二國は、羣舒の屬。

秋、滕昭公來朝、亦始朝公也。
【読み】
秋、滕の昭公來朝するは、亦始めて公に朝するなり。

秦伯使西乞術來聘、且言將伐晉。襄仲辭玉、曰、君不忘先君之好、照臨魯國、鎭撫其社稷、重之以大器。寡君敢辭玉。大器、圭璋也。不欲與秦爲好。故辭玉。○好、去聲。下同。
【読み】
秦伯西乞術[せいこつじゅつ]をして來聘し、且つ將に晉を伐たんとすと言わしむ。襄仲玉を辭して、曰く、君先君の好を忘れず、魯國を照臨し、其の社稷を鎭撫して、之に重ぬるに大器を以てせらる。寡君敢えて玉を辭す、と。大器は、圭璋なり。秦と好を爲さんことを欲せず。故に玉を辭す。○好は、去聲。下も同じ。

對曰、不腆敝器、不足辭也。腆、厚也。○腆、他典反。
【読み】
對えて曰く、不腆なる敝器、辭するに足らざるなり、と。腆は、厚きなり。○腆は、他典反。

主人三辭。賓答曰、寡君願徼福于周公・魯公以事君、徼、要也。魯公、伯禽也。言願事君、以幷蒙先君之福。○徼、古堯反。要、於堯反。
【読み】
主人三たび辭す。賓答えて曰く、寡君福を周公・魯公に徼[もと]めて以て君に事らんことを願い、徼[きょう]は、要むるなり。魯公は、伯禽なり。言うこころは、願わくは君に事えて、以て幷せて先君の福を蒙らん。○徼は、古堯反。要は、於堯反。

不腆先君之敝器、使下臣致諸執事、以爲瑞節、節、信也。出聘必告廟。故稱先君之器。
【読み】
不腆なる先君の敝器、下臣をして諸を執事に致して、以て瑞節と爲して、節は、信なり。出聘すれば必ず廟に告ぐ。故に先君の器と稱す。

要結好命。所以藉寡君之命、結二國之好。藉、薦也。○藉、在夜反。
【読み】
好命を要結せしむ。寡君の命に藉[し]きて、二國の好を結ぶ所以なり。藉は、薦[し]くなり。○藉は、在夜反。

是以敢致之。襄仲曰、不有君子、其能國乎。國無陋矣。厚賄之。賄、贈送也。
【読み】
是を以て敢えて之を致す、と。襄仲曰く、君子有らずんば、其れ能く國せんや。國陋しきこと無し、と。厚く之に賄す。賄は、贈送なり。

秦爲令狐之役故、○爲、于僞反。
【読み】
秦令狐の役の爲の故に、○爲は、于僞反。

冬、秦伯伐晉、取羈馬。令狐役在七年。羈馬、晉邑。
【読み】
冬、秦伯晉を伐ち、羈馬を取る。令狐の役は七年に在り。羈馬は、晉の邑。

晉人禦之。趙盾將中軍。荀林父佐之。林父代先克。
【読み】
晉人之を禦ぐ。趙盾[ちょうとん]中軍に將たり。荀林父之に佐たり。林父先克に代わる。

郤缺將上軍。代箕鄭。
【読み】
郤缺[げきけつ]上軍に將たり。箕鄭に代わる。

臾騈佐之。代林父。○騈、步邊反。
【読み】
臾騈[ゆへん]之に佐たり。林父に代わる。○騈は、步邊反。

欒盾將下軍。欒枝子。代先蔑。○盾、徒本反。
【読み】
欒盾[らんとん]下軍に將たり。欒枝の子。先蔑に代わる。○盾は、徒本反。

胥甲佐之。胥臣子。代先都。
【読み】
胥甲之に佐たり。胥臣の子。先都に代わる。

范無恤御戎。代步招。○招、上遙反。
【読み】
范無恤[はんむじゅつ]戎に御たり。步招に代わる。○招は、上遙反。

以從秦師于河曲。臾騈曰、秦不能久。請深壘固軍以待之。從之。
【読み】
以て秦の師に河曲に從う。臾騈曰く、秦久しきこと能わじ。請う、壘を深くし軍を固くして以て之を待たん、と。之に從う。

秦人欲戰。秦伯謂士會曰、若何而戰。晉士會、七年奔秦。
【読み】
秦人戰わんことを欲す。秦伯士會に謂いて曰く、若何にして戰わん、と。晉の士會、七年に秦に奔る。

對曰、趙氏新出其屬。曰臾騈。必實爲此謀。將以老我師也。臾騈、趙盾屬大夫。新出佐上軍。
【読み】
對えて曰く、趙氏新たに其の屬を出だす。臾騈と曰う。必ず實に此の謀を爲すならん。將に以て我が師を老[つか]らさんとするなり。臾騈は、趙盾の屬大夫。新たに出でて上軍に佐たり。

趙有側室曰穿。晉君之婿也。側室、支子。穿、趙夙庶孫。
【読み】
趙に側室有りて穿と曰う。晉君の婿なり。側室は、支子。穿は、趙夙の庶孫。

有寵而弱、不在軍事。弱、年少也。又未嘗涉知軍事。
【読み】
寵有りて弱[わか]くして、軍事に在らず。弱は、年少なり。又未だ嘗て軍事を涉知せず。

好勇而狂、且惡臾騈之佐上軍也。若使輕者肆焉、其可。肆、暫往而退也。○惡、烏路反。輕、遣政反。
【読み】
勇を好みて狂にして、且臾騈の上軍に佐たるを惡めり。若し輕者をして肆[し]せしめば、其れ可ならん、と。肆は、暫く往きて退くなり。○惡は、烏路反。輕は、遣政反。

秦伯以璧祈戰于河。禱求勝。
【読み】
秦伯璧を以て戰を河に祈る。勝を禱り求む。

十二月、戊午、秦軍掩晉上軍。趙穿追之。不及。上軍不動。趙穿獨追之。
【読み】
十二月、戊午、秦の軍晉の上軍を掩う。趙穿之を追う。及ばず。上軍動かず。趙穿獨り之を追う。

反。怒曰、裹糧坐甲、固敵是求。敵至不擊、將何俟焉。軍吏曰、將有待也。待可擊。
【読み】
反る。怒りて曰く、糧を裹[つつ]み甲を坐[お]くは、固より敵を是れ求めんとなり。敵至りて擊たずんば、將に何をか俟たんとする、と。軍吏曰く、將に待つこと有らんとするなり、と。擊つ可きを待つ。

穿曰、我不知謀。將獨出。乃以其屬出。宣子曰、秦獲穿也、獲一卿矣。僖三十三年、晉侯以一命命郤缺爲卿。不在軍帥之數。然則晉自有散位從卿者。
【読み】
穿曰く、我は謀を知らず。將に獨り出でんとす、と。乃ち其の屬を以[い]て出づ。宣子曰く、秦穿を獲ば、一卿を獲るなり。僖三十三年、晉侯一命を以て郤缺に命じて卿とす。軍帥の數に在らず。然らば則ち晉自ら散位の卿に從う者有り。

秦以勝歸、我何以報。乃皆出戰、交綏。司馬灋曰、逐奔不遠。從綏不及。逐奔不遠則難誘。從綏不及則難陷。然則古名退軍爲綏。秦・晉志未能堅戰、短兵未致爭而兩退。故曰交綏。
【読み】
秦勝を以て歸らば、我れ何を以報ぜん、と。乃ち皆出でて戰いて、交々綏[すい]す。司馬灋[しばほう]に曰く、奔るを逐うは遠くせざれ。綏を從[お]うは及ばざれ。奔るを逐うこと遠くせざれば則ち誘[あざむ]き難し。綏を從うこと及ばざれば則ち陷れ難し、と。然らば則ち古退軍を名づけて綏と爲すなり。秦・晉志未だ堅戰すること能わず、短兵未だ爭を致さずして兩ながら退く。故に交々綏すと曰う。

秦行人夜戒晉師曰、兩之士、皆未憖也。明日請相見也。憖、缺也。○憖、魚覲反。又魚轄反。方言云、傷也。字林云、閒也。
【読み】
秦の行人夜晉の師に戒めて曰く、兩の士、皆未だ憖[か]けざるなり。明日請う相見ん、と。憖[ぎん]は、缺くなり。○憖は、魚覲反。又魚轄反。方言に云う、傷、と。字林に云う、閒、と。
*漢籍國字解全書には、「軍」は「君」とある。

臾騈曰、使者目動而言肆。懼我也。目動、心不安。言肆、聲放失常節。○使、去聲。
【読み】
臾騈曰く、使者目動きて言肆なり。我を懼[おど]すなり。目動くとは、心安からざるなり。言肆なりとは、聲放にして常節を失うなり。○使は、去聲。

將遁矣。薄諸河、必敗之。薄、迫也。○薄、蒲莫反。
【読み】
將に遁げんとす。諸に河に薄[せま]らば、必ず之を敗らん、と。薄は、迫るなり。○薄は、蒲莫反。

胥甲・趙穿當軍門呼曰、死傷未收而弃之、不惠也。不待期而薄人於險、無勇也。乃止。晉師止。爲宣元年、放胥甲傳。
【読み】
胥甲・趙穿軍門に當たりて呼びて曰く、死傷未だ收めずして之を弃[す]つるは、不惠なり。期を待たずして人に險に薄るは、勇無きなり、と。乃ち止むる。晉の師止む。宣元年、胥甲を放つ爲の傳なり。

秦師夜遁。復侵晉、入瑕。
【読み】
秦の師夜遁ぐ。復晉を侵して、瑕に入る。

城諸及鄆、書時也。○復、扶又反。
【読み】
諸と鄆とに城くは、時なるを書するなり。○復は、扶又反。


〔經〕十有三年、春、王正月。夏、五月、壬午、陳侯朔卒。無傳。再同盟。
【読み】
〔經〕十有三年、春、王の正月。夏、五月、壬午[みずのえ・うま]、陳侯朔卒す。傳無し。再び同盟す。

邾子蘧蒢卒。未同盟而赴以名。○蘧、其居反。蒢、丈居反。
【読み】
邾子[ちゅし]蘧蒢[きょじょ]卒す。未だ同盟せずして赴[つ]ぐるに名を以てす。○蘧は、其居反。蒢は、丈居反。

自正月不雨、至于秋七月。無傳。義與二年同。
【読み】
正月より雨ふらず、秋七月に至る。傳無し。義二年と同じ。

大室屋壞。大廟之室。○大、音泰。
【読み】
大室の屋壞る。大廟の室。○大は、音泰。

冬、公如晉。衛侯會公于沓。沓、地闕。○沓、徒答反。
【読み】
冬、公晉に如く。衛侯公に沓に會す。沓は、地闕く。○沓は、徒答反。

狄侵衛。無傳。
【読み】
狄衛を侵す。傳無し。

十有二月、己丑、公及晉侯盟。十二月無己丑。己丑、十一月十一日。
【読み】
十有二月、己丑[つちのと・うし]、公晉侯と盟う。十二月に己丑無し。己丑は、十一月十一日。

公還自晉。鄭伯會公于棐。棐、鄭地。○棐、芳尾反。又非尾反。
【読み】
公晉より還る。鄭伯公に棐[ひ]に會す。棐は、鄭の地。○棐は、芳尾反。又非尾反。

〔傳〕十三年、春、晉侯使詹嘉處瑕、以守桃林之塞。詹嘉、晉大夫。賜其瑕邑、令帥衆守桃林、以備秦。桃林、在弘農華陰縣東潼關。○塞、悉代反。潼、音童。
【読み】
〔傳〕十三年、春、晉侯詹嘉[せんか]をして瑕に處りて、以て桃林の塞を守らしむ。詹嘉は、晉の大夫。其れに瑕邑を賜いて、衆を帥いて桃林を守りて、以て秦に備えしむ。桃林は、弘農華陰縣の東潼關に在り。○塞は、悉代反。潼は、音童。

晉人患秦之用士會也、夏、六卿相見於諸浮。諸浮、晉地。
【読み】
晉人秦の士會を用ゆることを患うるや、夏、六卿諸浮に相見る。諸浮は、晉の地。

趙宣子曰、隨會在秦、賈季在狄、難日至矣。若之何。六年、賈季奔狄。○難、乃旦反。
【読み】
趙宣子曰く、隨會秦に在り、賈季狄に在り、難日々に至れり。之を若何にせん、と。六年、賈季狄に奔る。○難は、乃旦反。

中行桓子曰、請復賈季。中行桓子、荀林父也。僖二十八年、始將中行。故以爲氏。○行、戶郎反。
【読み】
中行桓子曰く、請う、賈季を復さん。中行桓子は、荀林父なり。僖二十八年、始めて中行に將たり。故に以て氏とす。○行は、戶郎反。

能外事。且由舊勳。有狐偃之舊勳。
【読み】
外事を能くす。且舊勳を由[もち]ゆるなり、と。狐偃の舊勳有り。

郤成子曰、賈季亂。且罪大。殺陽處父故。
【読み】
郤成子曰く、賈季亂せり。且罪大なり。陽處父を殺す故なり。

不如隨會。能賤而有恥、柔而不犯。不可犯以不義。
【読み】
隨會に如かず。能く賤しくして恥有り、柔にして犯されず。犯すに不義を以てす可からず。

其知足使也。且無罪。
【読み】
其の知使うに足れり。且罪無し、と。

乃使魏壽餘僞以魏叛者、以誘士會、執其帑於晉、使夜逸。魏壽餘、畢萬之後。帑、壽餘妻子。○知、音智。帑、音奴。
【読み】
乃ち魏壽餘をして魏を以[い]て叛く者に僞[まね]して、以て士會を誘[あざむ]かしめ、其の帑を晉に執えて、夜逸げしむ。魏壽餘は、畢萬の後。帑は、壽餘の妻子。○知は、音智。帑は、音奴。

請自歸于秦。秦伯許之。許、受其邑。
【読み】
秦に自歸せんと請う。秦伯之を許す。許すとは、其の邑を受くるなり。

履士會之足於朝。躡士會足、欲使行。○躡、女涉反。
【読み】
士會の足を朝に履む。士會の足を躡むとは、行[さ]らしめんと欲するなり。○躡[じょう]は、女涉反。

秦伯師于河西、將取魏。
【読み】
秦伯河西に師し、將に魏を取らんとす。

魏人在東。今河北縣。於秦爲在河之東。
【読み】
魏人東に在り。今の河北縣。秦に於ては河の東に在りとす。

壽餘曰、請東人之能與夫二三有司言者、吾與之。欲與晉人在秦者、共先告喩魏有司。
【読み】
壽餘曰く、東人の能ありて夫の二三の有司と言わん者を請いて、吾れ之と先にせん、と。晉人の秦に在る者と、共に先ず魏の有司に告喩せんことを欲す。

使士會。士會辭曰、晉人虎狼也。若背其言、臣死、妻子爲戮、無益於君。不可悔也。辭行示己無去心。○背、音佩。
【読み】
士會を使わしむ。士會辭して曰く、晉人は虎狼なり。若し其の言に背かば、臣死し、妻子戮と爲りて、君に益無からん。悔ゆ可からざるなり、と。行くことを辭して己去る心無きを示す。○背は、音佩。

秦伯曰、若背其言、所不歸爾帑者、有如河。言必歸其妻子。明白如河。
【読み】
秦伯曰く、若し其の言に背くとも、爾に帑を歸さざる所の者あらば、河の如きこと有らん、と。言うこころは、必ず其の妻子を歸さん。明白なること河の如し。

乃行。繞朝贈之以策、策、馬檛。臨別授之馬檛、竝示己所策以展情。繞朝、秦大夫。○朝、如字。又張遙反。檛、張瓜反。
【読み】
乃ち行く。繞朝[じょうちょう]之に贈るに策を以てして、策は、馬檛[ばた]なり。別れに臨みて之に馬檛を授け、竝びに己が策[う]たんとする所を示して以て情を展ぶ。繞朝は、秦の大夫。○朝は、字の如し。又張遙反。檛は、張瓜反。

曰、子無謂秦無人。吾謀適不用也。示己覺其情。
【読み】
曰く、子秦に人無しと謂うこと無かれ。吾が謀適[たま]々用いられず、と。己其の情を覺るを示す。

旣濟、魏人譟而還。喜得士會。○譟、素報反。
【読み】
旣に濟り、魏人譟[さわ]ぎて還る。士會を得るを喜ぶ。○譟は、素報反。

秦人歸其帑。其處者爲劉氏。士會、堯後、劉・累之胤。別族復累之姓。○累、劣彼反。
【読み】
秦人其の帑を歸す。其の處る者劉氏と爲りぬ。士會は、堯の後、劉・累の胤なり。別族累の姓に復す。○累は、劣彼反。

邾文公卜遷于繹。繹、邾邑。魯國鄒縣北有繹山。
【読み】
邾の文公繹に遷らんことを卜す。繹は、邾の邑。魯國鄒縣の北に繹山有り。

史曰、利於民而不利於君。邾子曰、苟利於民、孤之利也。天生民而樹之君、以利之也。民旣利矣、孤必與焉。左右曰、命可長也。君何弗爲。邾子曰、命在養民。死之短長、時也。民苟利矣、遷也。吉莫如之。左右以一人之命爲言、文公以百姓之命爲主。一人之命、各有短長、不可如何。百姓之命、乃傳世無窮。故徙之。○與、音預。
【読み】
史曰く、民に利ありて君に利あらず、と。邾子曰く、苟も民に利あらば、孤の利なり。天民を生じて之が君を樹つるは、以て之を利せんとなり。民旣に利あらば、孤必ず與らん、と。左右曰く、命長くす可し。君何ぞ爲さざる、と。邾子曰く、命は民を養うに在り。死の短長は、時なり。民苟も利あらば、遷らん。吉之に如くは莫し、と。左右は一人の命を以て言を爲し、文公は百姓の命を以て主と爲す。一人の命は、各々短長有り、如何ともす可からず。百姓の命は、乃ち世に傳えて窮まり無し。故に之に徙[うつ]るなり。○與は、音預。

遂遷于繹。五月、邾文公卒。
【読み】
遂に繹に遷る。五月、邾の文公卒す。

君子曰、知命。
【読み】
君子曰く、命を知れり、と。

秋、七月、大室之屋壞、書不共也。簡慢宗廟、使至倒頹。故書以見臣子不共。
【読み】
秋、七月、大室の屋壞るとは、不共を書すなり。宗廟を簡慢にして、倒頹に至らしむ。故に書して以て臣子の不共を見す。

冬、公如晉、朝、且尋盟。
【読み】
冬、公晉に如くは、朝して、且盟を尋[かさ]ぬるなり。

衛侯會公于沓、請平于晉。公還。鄭伯會公于棐、亦請平于晉。公皆成之。鄭・衛貳于楚、畏晉。故因公請平。
【読み】
衛侯公に沓に會するは、晉に平らがんことを請うなり。公還る。鄭伯公に棐に會するは、亦晉に平らがんことを請うなり。公皆之を成[たい]らぐ。鄭・衛楚に貳ありて、晉を畏る。故に公に因りて平らがんことを請う。

鄭伯與公宴于棐。子家賦鴻鴈。子家、鄭大夫、公子歸生也。鴻鴈、詩小雅。義取侯伯哀恤鰥寡、有征行之勞。言鄭國寡弱、欲使魯侯還晉恤之。
【読み】
鄭伯公と棐に宴す。子家鴻鴈を賦す。子家は、鄭の大夫、公子歸生なり。鴻鴈は、詩の小雅。義侯伯鰥寡を哀恤して、征行の勞有るに取る。言うこころは、鄭國寡弱、魯侯をして晉に還りて之を恤えしめんことを欲す。

季文子曰、寡君未免於此。言亦同有微弱之憂。
【読み】
季文子曰く、寡君も未だ此に免れず、と。言うこころは、亦同じく微弱の憂え有り。

文子賦四月。四月、詩小雅。義取行役踰時、思歸祭祀。不欲爲還晉。○爲、于僞反。
【読み】
文子四月を賦す。四月は、詩の小雅。義行役時を踰え、歸りて祭祀せんことを思うに取る。爲に晉に還らんことを欲せざるなり。○爲は、于僞反。

子家賦載馳之四章。載馳、詩鄘風。四章以下、義取小國有急、欲引大國以救助。
【読み】
子家載馳の四章を賦す。載馳は、詩の鄘風。四章以下は、義小國急有れば、大國に引かれて以て救助せられんことを欲するに取る。

文子賦采薇之四章。采薇、詩小雅。取其豈敢定居、一月三捷。許爲鄭還、不敢安居。○三、息暫反。又如字。
【読み】
文子采薇の四章を賦す。采薇は、詩の小雅。其の豈敢えて定居せんや、一月に三捷せんというに取る。鄭の爲に還りて、敢えて安居せざらんことを許すなり。○三は、息暫反。又字の如し。

鄭伯拜。謝公爲行。
【読み】
鄭伯拜す。公の爲に行くを謝す。

公答拜。
【読み】
公答拜す。


〔經〕十有四年、春、王正月、公至自晉。無傳。告於廟。
【読み】
〔經〕十有四年、春、王の正月、公晉より至る。傳無し。廟に告ぐ。

邾人伐我南鄙。叔彭生帥帥伐邾。夏、五月、乙亥、齊侯潘卒。七年、盟于扈。乙亥、四月二十九日。書五月、從赴。○潘、判干反。
【読み】
邾人[ちゅひと]我が南鄙を伐つ。叔彭生帥を帥いて邾を伐つ。夏、五月、乙亥[きのと・い]、齊侯潘卒す。七年、扈[こ]に盟えり。乙亥は、四月二十九日。五月に書すは、赴[つ]ぐるに從うなり。○潘は、判干反。

六月、公會宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯・晉趙盾。癸酉、同盟于新城。新城、宋地。在梁國穀熟縣西。
【読み】
六月、公宋公・陳侯・衛侯・鄭伯・許男・曹伯・晉の趙盾[ちょうとん]に會す。癸酉[みずのと・とり]、新城に同盟す。新城は、宋の地。梁國穀熟縣の西に在り。

秋、七月、有星孛入于北斗。孛、彗也。旣見而移入北斗。非常所有。故書之。○孛、音佩。彗、似歲反。一雖遂反。
【読み】
秋、七月、星の孛[はい]して北斗に入る有り。孛は、彗なり。旣に見えて移りて北斗に入る。常の有る所に非ず。故に之を書す。○孛は、音佩。彗は、似歲反。一に雖遂反。

公至自會。無傳。
【読み】
公會より至る。傳無し。

晉人納捷菑于邾。弗克納。邾有成君。晉趙盾不度於義、而大興諸侯之師、涉邾之竟、見辭而退。雖有服義之善、所興者廣、所害者衆。故貶稱人。○菑、側其反。度、待洛反。
【読み】
晉人捷菑[しょうし]を邾に納れんとす。納るること克わず。邾に成君有り。晉の趙盾義を度らずして、大いに諸侯の師を興して、邾の竟に涉り、辭せられて退く。義を服するの善有りと雖も、興す所の者廣く、害する所の者衆[おお]し。故に貶して人と稱す。○菑は、側其反。度は、待洛反。

九月、甲申、公孫敖卒于齊。旣許復之。故從大夫例書卒。
【読み】
九月、甲申[きのえ・さる]、公孫敖齊に卒す。旣に之を復すことを許す。故に大夫の例に從いて卒すと書す。

齊公子商人弑其君舍。舍未踰年。而稱君者、先君旣葬、舍已卽位。弑君例、在宣四年。
【読み】
齊の公子商人其の君舍を弑す。舍未だ年を踰えず。而るに君と稱するは、先君旣に葬りて、舍已に位に卽けばなり。君を弑するの例は、宣四年に在り。

宋子哀來奔。大夫奔、例書名氏。貴之。故書字。
【読み】
宋の子哀來奔す。大夫奔るは、例名氏を書す。之を貴ぶ。故に字を書す。

冬、單伯如齊。單伯、周卿士。爲魯如齊。故書。○單、音善。爲、于僞反。
【読み】
冬、單伯[ぜんはく]齊に如く。單伯は、周の卿士。魯の爲に齊に如く。故に書す。○單は、音善。爲は、于僞反。

齊人執單伯。諸侯無執王使之義。故不依行人例。
【読み】
齊人單伯を執う。諸侯王の使を執うるの義無し。故に行人の例に依らず。

齊人執子叔姬。叔姬、魯女、齊侯舍之母。不稱夫人、自魯錄之。父母辭。
【読み】
齊人子叔姬を執う。叔姬は、魯の女、齊侯舍の母。夫人と稱せざるは、魯より之を錄す。父母の辭なり。

〔傳〕十四年、春、頃王崩。周公閱與王孫蘇爭政。故不赴。
【読み】
〔傳〕十四年、春、頃王崩ず。周公閱と王孫蘇と政を爭う。故に赴[つ]げず。

凡崩薨、不赴則不書。禍福、不告亦不書。奔亡、禍也。歸復、福也。○頃、音傾。閱、音悅。
【読み】
凡そ崩薨、赴げざれば則ち書さず。禍福も、告げざれば亦書さず。奔亡は、禍なり。歸復は、福なり。○頃は、音傾。閱は、音悅。

懲不敬也。欲使怠慢者自戒。
【読み】
不敬を懲らすなり。怠慢の者をして自ら戒めしめんと欲す。

邾文公之卒也、在前年。
【読み】
邾の文公の卒するや、前年に在り。

公使弔焉。不敬。邾人來討、伐我南鄙。故惠伯伐邾。
【読み】
公弔せしむ。不敬なり。邾人來討して、我が南鄙を伐つ。故に惠伯邾を伐つ。

子叔姬妃齊昭公、生舍。叔姬無寵、舍無威。公子商人驟施於國、驟、數也。商人、桓公子。○妃、音配。驟、仕救反。施、式豉反。
【読み】
子叔姬齊の昭公に妃[はい]して、舍を生む。叔姬寵無く、舍威無し。公子商人驟[しば]々國に施して、驟は、數々なり。商人は、桓の公子。○妃は、音配。驟は、仕救反。施は、式豉反。

而多聚士。盡其家、貸於公有司以繼之。家財盡、從公及國之有司富者貸。○貸、音待。又音忒。
【読み】
多く士を聚む。其の家を盡くせば、公と有司とに貸りて以て之を繼ぐ。家財盡くし、公と國の有司の富者とによりて貸る。○貸は、音待。又音忒。

夏、五月、昭公卒。舍卽位。
【読み】
夏、五月、昭公卒す。舍位に卽く。

邾文公元妃齊姜、生定公、二妃晉姬、生捷菑。文公卒。邾人立定公。捷菑奔晉。
【読み】
邾の文公の元妃齊姜、定公を生み、二妃晉姬、捷菑を生む。文公卒す。邾人定公を立つ。捷菑晉に奔る。

六月、同盟于新城、從於楚者服。從楚者、陳・鄭・宋。
【読み】
六月、新城に同盟するは、楚に從う者服するなり。楚に從う者は、陳・鄭・宋なり。

且謀邾也。謀納捷菑。
【読み】
且邾を謀るなり。捷菑を納れんことを謀る。

秋、七月、乙卯夜、齊商人弑舍而讓元。元、商人兄、齊惠公也。書九月從告。七月無乙卯。日誤。
【読み】
秋、七月、乙卯[きのと・う]夜、齊の商人舍を弑して元に讓る。元は、商人の兄、齊の惠公なり。九月に書すは告ぐるに從うなり。七月に乙卯無し。日の誤りなり。

元曰、爾求之久矣。我能事爾。爾不可使多蓄憾。不爲君則恨多。
【読み】
元曰く、爾之を求むること久し。我れ能く爾に事えん。爾には多く憾みを蓄えしむ可からず。君爲らざれば則ち恨み多し。

將免我乎。爾爲之。言將復殺我。
【読み】
將[はた]我を免さんや。爾之をせよ、と。言うこころは、將に復我を殺さんとす。

有星孛入于北斗。周内史叔服曰、不出七年、宋・齊・晉之君、皆將死亂。後三年、宋弑昭公、五年、齊弑懿公、七年、晉弑靈公。史服但言事徵、而不論其占。固非末學所得詳言。
【読み】
星の孛して北斗に入る有り。周の内史叔服曰く、七年を出でずして、宋・齊・晉の君、皆將に亂に死せんとす、と。後三年、宋昭公を弑し、五年、齊懿公を弑し、七年、晉靈公を弑す。史服但事徵を言いて、其の占を論ぜず。固より末學の詳らかに言うことを得る所に非ず。

晉趙盾以諸侯之師八百乘、納捷菑于邾。八百乘、六萬人。言力有餘。
【読み】
晉の趙盾諸侯の師八百乘を以[い]て、捷菑を邾に納れんとす。八百乘は、六萬人。力餘り有るを言う。

邾人辭曰、齊出貜且長。貜且、定公。○貜、倶縛反。又居碧反。且、子餘反。長、丁丈反。
【読み】
邾人辭して曰く、齊の出[おい]貜且[かくしょ]長ず、と。貜且は、定公。○貜は、倶縛反。又居碧反。且は、子餘反。長は、丁丈反。

宣子曰、辭順而弗從、不祥。乃還。立適以長。故曰辭順。
【読み】
宣子曰く、辭順にして從わざるは、不祥なり、と。乃ち還る。適を立つるに長を以てす。故に辭順と曰う。

周公將與王孫蘇訟于晉。王叛王孫蘇、王、匡王。叛、不與。
【読み】
周公將に王孫蘇と晉に訟えんとす。王王孫蘇に叛きて、王は、匡王。叛は、與せざるなり。

而使尹氏與耼啓、訟周公于晉。訟、理之。尹氏、周卿士。耼啓、周大夫。○耼、乃甘反。
【読み】
尹氏と耼啓[たんけい]とをして、周公を晉に訟えしむ。訟は、之を理[おさ]むるなり。尹氏は、周の卿士。耼啓は、周の大夫。○耼は、乃甘反。

趙宣子平王室而復之。復、使和親。
【読み】
趙宣子王室を平らげて之を復す。復は、和親せしむるなり。

楚莊王立。穆王子也。
【読み】
楚の莊王立つ。穆王の子なり。

子孔・潘崇將襲羣舒。使公子燮與子儀守、而伐舒蓼。卽羣舒。○燮、息協反。守、手又反。
【読み】
子孔・潘崇將に羣舒を襲わんとす。公子燮[しょう]と子儀とをして守らしめて、舒蓼[じょりょう]を伐つ。卽ち羣舒なり。○燮は、息協反。守は、手又反。

二子作亂、城郢、而使賊殺子孔。不克而還。
【読み】
二子亂を作し、郢に城きて、賊をして子孔を殺さしめんとす。克わずして還る。

八月、二子以楚子出、將如商密。國語曰、楚莊王幼弱、子儀爲師、王子燮爲傅。○還、音旋。
【読み】
八月、二子楚子を以[い]て出でて、將に商密に如かんとす。國語に曰く、楚の莊王幼弱、子儀師と爲り、王子燮傅と爲る、と。○還は、音旋。

廬戢棃及叔麇誘之、遂殺鬭克及公子燮。廬、今襄陽中廬縣。戢棃、廬大夫。叔麇、其佐。鬭克、子儀也。
【読み】
廬の戢棃[しゅうり]と叔麇[しゅくきん]と之を誘[おび]きて、遂に鬭克と公子燮とを殺す。廬は、今の襄陽中廬縣。戢棃は、廬の大夫。叔麇は、其の佐。鬭克は、子儀なり。

初、鬭克囚于秦、在僖二十五年。
【読み】
初め、鬭克秦に囚われしに、僖二十五年に在り。

秦有殽之敗、在僖三十三年。
【読み】
秦殽[こう]の敗有りて、僖三十三年に在り。

而使歸求成。成而不得志。無賞報也。
【読み】
歸りて成[たい]らぎを求めしむ。成らぎて志を得ず。賞報無し。

公子燮求令尹而不得。故二子作亂。傳言楚莊幼弱、國内亂、所以不能與晉競。
【読み】
公子燮令尹を求めて得ず。故に二子亂を作せり。傳楚の莊幼弱、國内亂れ、晉と競うこと能わざる所以を言う。

穆伯之從己氏也、在八年。○己、音紀。又音祀。
【読み】
穆伯の己氏に從うや、八年に在り。○己は、音紀。又音祀。

魯人立文伯。穆伯之子、穀也。
【読み】
魯人文伯を立つ。穆伯の子、穀なり。

穆伯生二子於莒、而求復。文伯以爲請。襄仲使無朝。聽命。復而不出。不得使與聽政事、終寢於家。故出入不書。
【読み】
穆伯二子を莒に生みて、復らんことを求む。文伯以て爲に請う。襄仲朝すること無からしむ。命を聽く。復りて出でず。政事を與り聽かしむるを得ず、終に家に寢ぬ。故に出入書さず。

三年而盡室以復適莒。文伯疾、而請曰、穀之子弱。子、孟獻子。年尙少。
【読み】
三年にして室を盡くして以て復莒に適く。文伯疾みて、請いて曰く、穀の子弱[わか]し。子は、孟獻の子。年尙少[わか]し。

請立難也。難、穀弟。○難、乃多反。又如字。
【読み】
請う、難を立てん、と。難は、穀の弟。○難は、乃多反。又字の如し。

許之。文伯卒。立惠叔。穆伯請重賂以求復。惠叔以爲請。許之。將來、九月、卒于齊。告喪。請葬。弗許。請以卿禮葬。
【読み】
之を許す。文伯卒す。惠叔を立つ。穆伯重賂して以て復らんことを求めよと請う。惠叔以て爲に請う。之を許す。將に來らんとして、九月、齊に卒す。喪を告ぐ。葬らんと請う。許さず。卿禮を以て葬らんと請う。

宋高哀爲蕭封人。以爲卿。蕭、宋附庸。仕附庸、還升爲卿。
【読み】
宋の高哀蕭の封人爲り。以て卿と爲る。蕭は、宋の附庸。附庸に仕え、還りて升りて卿と爲る。

不義宋公而出。遂來奔。出而待放、從放所來。故曰遂。
【読み】
宋公を不義として出づ。遂に來奔す。出でて放を待ち、放ずる所に從いて來る。故に遂にと曰う。

書曰宋子哀來奔、貴之也。貴其不食汙君之祿、辟禍速也。
【読み】
書して宋の子哀來奔すと曰うは、之を貴びてなり。其の汙君の祿を食まず、禍を辟くるの速やかなるを貴ぶなり。

齊人定懿公、使來告難。故書以九月。齊人不服。故三月而後定。書以九月、明經日月皆從赴。
【読み】
齊人懿公を定め、來りて難を告げしむ。故に書すに九月を以てす。齊人服せず。故に三月にして後に定むる。書すに九月を以てするは、經の日月皆赴ぐるに從うことを明かすなり。

齊公子元、不順懿公之爲政也、終不曰公、曰夫己氏。猶言某甲。○夫、音扶。己、音紀。
【読み】
齊の公子元、懿公の政を爲すを不順なりとして、終に公と曰わずして、夫己氏と曰う。猶某甲と言うがごとし。○夫は、音扶。己は、音紀。

襄仲使告于王、請以王寵、求昭姬于齊。昭姬、子叔姬。
【読み】
襄仲王に告げしめて、請う、王寵を以て、昭姬を齊に求めん、と。昭姬は、子叔姬。

曰、殺其子。焉用其母。請受而罪之。○焉、於虔反。
【読み】
曰く、其の子を殺す。焉ぞ其の母を用いん。請う、受けて之を罪せん、と。○焉は、於虔反。

冬、單伯如齊、請子叔姬。齊人執之。恨魯恃王勢以求女故。
【読み】
冬、單伯齊に如きて、子叔姬を請う。齊人之を執う。魯の王の勢いを恃みて以て女を求むるを恨むる故なり。

又執子叔姬。欲以恥辱魯。
【読み】
又子叔姬を執う。以て魯を恥辱せんと欲す。


〔經〕十有五年、春、季孫行父如晉。三月、宋司馬華孫來盟。華孫奉使鄰國、能臨事制宜、至魯而後定盟。故不稱使。其官皆從。故書司馬。○華、戶化反。從、才用反。
【読み】
〔經〕十有五年、春、季孫行父晉に如く。三月、宋の司馬華孫來盟す。華孫鄰國に奉使して、能く事に臨みて宜しきを制し、魯に至りて而して後に盟を定む。故に使むと稱せず。其の官皆從う。故に司馬と書す。○華は、戶化反。從は、才用反。

夏、曹伯來朝。齊人歸公孫敖之喪。大夫喪還不書。善魯感子以赦父、敦公族之恩、崇仁孝之敎。故特錄敖喪歸、以示義。
【読み】
夏、曹伯來朝す。齊人公孫敖の喪を歸す。大夫の喪の還るは書さず。魯子に感じて以て父を赦し、公族の恩を敦くし、仁孝の敎えを崇ぶことを善す。故に特に敖の喪を歸すと錄して、以て義を示す。

六月、辛丑、朔、日有食之。鼓用牲于社。傳例曰、非禮也。
【読み】
六月、辛丑、朔、日之を食する有り。鼓して牲を社に用ゆ。傳例に曰く、禮に非ざるなり、と。

單伯至自齊。晉郤缺帥師伐蔡。戊申、入蔡。傳例曰、獲大城曰入。
【読み】
單伯[ぜんはく]齊より至る。晉の郤缺[げきけつ]師を帥いて蔡を伐つ。戊申[つちのえ・さる]、蔡に入る。傳例に曰く、大城を獲るを入ると曰う、と。

秋、齊人侵我西鄙。季孫行父如晉。冬、十有一月、諸侯盟于扈。將伐齊。晉侯受賂而止。故總曰諸侯。言不足序列。
【読み】
秋、齊人我が西鄙を侵す。季孫行父晉に如く。冬、十有一月、諸侯扈[こ]に盟う。將に齊を伐たんとす。晉侯賂を受けて止む。故に總べて諸侯と曰う。序列するに足らざるを言う。

十有二月、齊人來歸子叔姬。齊人以王故、來送子叔姬。故與直出者異文。
【読み】
十有二月、齊人來りて子叔姬を歸す。齊人王を以ての故に、來りて子叔姬を送る。故に直に出ださる者と文を異にす。

齊侯侵我西鄙。遂伐曹、入其郛。郛、郭也。
【読み】
齊侯我が西鄙を侵す。遂に曹を伐ちて、其の郛[ふ]に入る。郛は、郭なり。

〔傳〕十五年、春、季文子如晉、爲單伯與子叔姬故也。因晉請齊。
【読み】
〔傳〕十五年、春、季文子晉に如くは、單伯と子叔姬との爲の故なり。晉に因りて齊に請う。

三月、宋華耦來盟。其官皆從之。
【読み】
三月、宋の華耦來り盟う。其の官皆之に從う。

書曰宋司馬華孫、貴之也。古之盟會、必備威儀崇贄幣、賓主以成禮爲敬。故傳曰、卿行旅從。春秋時、率多不能備儀。華孫能率其屬以從古典。所以敬事而自重。使重而事敬、則魯尊而禮篤。故貴而不名。○皆從、才用反。注旅從同。又如字。率、所類反。又音率。
【読み】
書して宋の司馬華孫と曰うは、之を貴びてなり。古の盟會は、必ず威儀を備え贄幣を崇くし、賓主禮を成すを以て敬とす。故に傳に曰く、卿行けば旅從う、と。春秋の時、率ね多く儀を備うること能わず。華孫能く其の屬を率いて以て古典に從う。事を敬して自ら重んずる所以なり。使重くして事敬すれば、則ち魯尊くして禮篤し。故に貴びて名いわず。○皆從は、才用反。注の旅從も同じ。又字の如し。率は、所類反。又音率。

公與之宴。辭曰、君之先臣督、得罪於宋殤公、名在諸侯之策。臣承其祀。其敢辱君。耦、華督曾孫也。督弑殤公、在桓二年。耦自以罪人子孫。故不敢屈辱魯君、對共宴會。
【読み】
公之と宴せんとす。辭して曰く、君の先臣督、罪を宋の殤公に得しめ、名諸侯の策に在り。臣其の祀を承く。其れ敢えて君を辱めんや。耦は、華督の曾孫なり。督が殤公を弑するは、桓二年に在り。耦自ら以えらく、罪人の子孫なり、と。故に敢えて魯君を屈辱して、對して共に宴會せず。

請承命於亞旅。亞旅、上大夫也。
【読み】
請う、命を亞旅に承けん、と。亞旅は、上大夫なり。

魯人以爲敏。無故揚其先祖之罪。是不敏。魯人以爲敏。明君子所不與也。
【読み】
魯人以て敏なりと爲す。故無くして其の先祖の罪を揚ぐ。是れ不敏なり。魯人以て敏なりと爲す。明けし、君子與せざる所なること。

夏、曹伯來朝。禮也。
【読み】
夏、曹伯來朝す。禮なり。

諸侯五年再相朝、以脩王命。古之制也。十一年、曹伯來朝。雖至此乃來、亦五年。傳爲冬、齊侯伐曹張本。
【読み】
諸侯五年に再び相朝して、以て王命を脩む。古の制なり。十一年、曹伯來朝す。此に至りて乃ち來ると雖も、亦五年なり。傳冬、齊侯曹を伐つ爲の張本なり。

齊人或爲孟氏謀、孟氏、公孫敖家。慶父、爲長庶。故或稱孟氏。
【読み】
齊人或は孟氏の爲に謀りて、孟氏は、公孫敖の家。慶父は、長庶爲り。故に或は孟氏と稱す。

曰、魯爾親也。飾棺寘諸堂阜、堂阜、齊・魯竟上地。飾棺不殯、示無所歸。
【読み】
曰く、魯は爾の親なり。棺を飾りて諸を堂阜に寘[お]かば、堂阜は、齊・魯竟上の地。棺を飾りて殯せざるは、歸する所無きを示すなり。

魯必取之。從之。卞人以告。卞人、魯卞邑大夫。
【読み】
魯必ず之を取らん、と。之に從う。卞人以て告ぐ。卞人は、魯の卞邑の大夫。

惠叔猶毀以爲請、敖卒則惠叔請之。至今期年、而猶未已、毀過喪禮。
【読み】
惠叔猶毀[や]せて以て爲に請い、敖卒して則ち惠叔之を請う。今に至りて期年にして、猶未だ已まず、毀せて喪禮に過ぐ。

立於朝以待命。許之。取而殯之。殯於孟氏之寢。終叔服之言。
【読み】
朝に立ちて以て命を待つ。之を許す。取りて之を殯す。孟氏の寢に殯す。叔服の言を終うる。

齊人送之。
【読み】
齊人之を送る。

書曰齊人歸公孫敖之喪、爲孟氏且國故也。爲惠叔毀請、且國之公族故、聽其歸殯而書之。
【読み】
書して齊人公孫敖の喪を歸すと曰うは、孟氏且つ國の爲の故なり。惠叔毀せて請い、且つ國の公族なるが爲の故に、其の歸殯を聽[ゆる]して之を書す。

葬視共仲。制如慶父。皆以罪降。
【読み】
葬共仲に視[なぞら]う。制慶父の如し。皆罪を以て降すなり。

聲己不視、帷堂而哭。聲己、惠叔母。怨敖從莒女。故帷堂。
【読み】
聲己視ず、堂に帷して哭すなり。聲己は、惠叔の母。敖が莒の女に從うを怨む。故に堂に帷す。

襄仲欲勿哭。怨敖取其妻。
【読み】
襄仲哭すること勿からんと欲す。敖が其の妻を取ることを怨む。

惠伯曰、喪、親之終也。惠伯、叔彭生。
【読み】
惠伯曰く、喪は、親の終わりなり。惠伯は、叔彭生。

雖不能始、善終可也。史佚有言曰、兄弟致美。各盡其美、義乃終。
【読み】
始めに能からずと雖も、終わりを善くして可なり。史佚言えること有り曰く、兄弟には美を致す、と。各々其の美を盡くして、義乃ち終わる。

救乏、賀善、弔災、祭敬、喪哀。情雖不同、毋絕其愛、親之道也。子無失道、何怨於人。襄仲說、帥兄弟以哭之。
【読み】
乏を救い、善を賀し、災いを弔い、祭は敬し、喪は哀しむ。情同じからずと雖も、其の愛を絕つこと毋きは、親の道なり。子道を失うこと無くば、何ぞ人を怨まん。襄仲說び、兄弟を帥いて以て之を哭す。

他年其二子來。敖在莒所生。
【読み】
他年其の二子來る。敖莒に在りて生む所。

孟獻子愛之、聞於國。獻子、穀之子、仲孫蔑。○聞、音問。或如字。
【読み】
孟獻子之を愛して、國に聞こゆ。獻子は、穀の子、仲孫蔑。○聞は、音問。或は字の如し。

或譖之曰、將殺子。獻子以告季文子。二子曰、夫子以愛我聞、我以將殺子聞。不亦遠於禮乎。遠禮不如死。一人門于句鼆、一人門于戾丘、皆死。句鼆・戾丘、魯邑。有寇攻門。二子禦之而死。○遠、于萬反。句、古侯反。鼆、莫幸反。
【読み】
或ひと之を譖して曰く、將に子を殺さんとす、と。獻子以て季文子に告ぐ。二子曰く、夫子は我を愛するを以て聞こえ、我は將に子を殺さんとするを以て聞こゆ。亦禮に遠ざからずや。禮に遠ざかるは死するに如かず、と。一人は句鼆[こうぼう]に門し、一人は戾丘に門して、皆死す。句鼆・戾丘は、魯の邑。寇有りて門を攻む。二子之を禦ぎて死す。○遠は、于萬反。句は、古侯反。鼆は、莫幸反。

六月、辛丑、朔、日有食之。鼓用牲于社、非禮也。得常鼓之月。而於社用牲爲非禮。
【読み】
六月、辛丑、朔、日之を食する有り。鼓して牲を社に用ゆるは、禮に非ざるなり。常鼓の月を得。而れども社に於て牲を用ゆるは非禮と爲す。

日有食之、天子不舉、去盛饌。
【読み】
日之を食する有れば、天子は舉せず、盛饌を去る。

伐鼓于社。責羣陰。伐、猶擊也。
【読み】
鼓を社に伐つ。羣陰を責む。伐は、猶擊つのごとし。

諸侯用幣于社、社、尊於諸侯。故請救而不敢責之。
【読み】
諸侯は幣を社に用い、社は、諸侯より尊し。故に救いを請いて敢えて之を責めず。

伐鼓于朝。退自責。
【読み】
鼓を朝に伐つ。退きて自ら責む。

以昭事神、訓民事君、天子不舉、諸侯用幣、所以事神。尊卑異制、所以訓民。
【読み】
以て神に事ることを昭らかにし、民に君に事ることを訓え、天子は舉せず、諸侯は幣を用ゆるは、神に事る所以。尊卑制を異にするは、民を訓ゆる所以。

示有等威。古之道也。等威、威儀之等差。
【読み】
等威有ることを示すなり。古の道なり。等威は、威儀の等差。

齊人許單伯請而赦之、使來致命。以單伯執節不移、且畏晉、故許之。
【読み】
齊人單伯の請いを許して之を赦し、來りて命を致さしむ。單伯節を執りて移らず、且つ晉を畏るるを以て、故に之を許す。

書曰單伯至自齊、貴之也。單伯爲魯拘執、旣免而不廢禮、終來致命。故貴而告廟。
【読み】
書して單伯齊より至ると曰うは、之を貴びてなり。單伯魯の爲に拘執せられ、旣に免れて禮を廢せず、終に來りて命を致す。故に貴びて廟に告ぐ。

新城之盟、在前年。
【読み】
新城の盟に、前年に在り。

蔡人不與。不會盟。○與、音預。下同。
【読み】
蔡人與らず。會盟せず。○與は、音預。下も同じ。

晉郤缺以上軍下軍伐蔡。兼帥二軍。
【読み】
晉の郤缺上軍下軍を以[い]て蔡を伐つ。二軍を兼ね帥ゆるなり。

曰、君弱。不可以怠。怠、解也。
【読み】
曰く、君弱[わか]し。以て怠る可からず。怠は、解[おこた]るなり。

戊申、入蔡、以城下之盟而還。
【読み】
戊申、蔡に入り、城下の盟を以て還る。

凡勝國、曰滅之。勝國、絕其社稷、有其土地。○還、音旋。
【読み】
凡そ國に勝つを、之を滅ぼすと曰う。國に勝つとは、其の社稷を絕ちて、其の土地を有つなり。○還は、音旋。

獲大城焉、曰入之。得大都而不有。
【読み】
大城を獲るを、之に入ると曰う。大都を得て有たず。

秋、齊人侵我西鄙。故季文子告于晉。
【読み】
秋、齊人我が西鄙を侵す。故に季文子晉に告ぐ。

冬、十一月、晉侯・宋公・衛侯・蔡侯・鄭伯・許男・曹伯盟于扈、尋新城之盟、且謀伐齊也。齊執王使、且數伐魯。
【読み】
冬、十一月、晉侯・宋公・衛侯・蔡侯・鄭伯・許男・曹伯扈に盟うは、新城の盟を尋[かさ]ね、且齊を伐たんことを謀るなり。齊王の使を執え、且數々魯を伐つ。

齊人賂晉侯。故不克而還。
【読み】
齊人晉侯に賂う。故に克わずして還る。

於是有齊難。是以公不會。明今不序諸侯、不以公不會故。
【読み】
是に於て齊の難有り。是を以て公會せず。今諸侯を序でざるは、公の會せざるを以ての故ならざるを明らかにす。

書曰諸侯盟于扈、無能爲故也。惡其受賂、不能討齊。
【読み】
書して諸侯扈に盟うと曰うは、能く爲すこと無き故なり。其の賂を受けて、齊を討ずること能わざるを惡む。

凡諸侯會、公不與不書。諱君惡也。謂國無難、不會義事。故爲惡。不書、謂不國別序諸侯。
【読み】
凡そ諸侯の會、公與らざれば書さず。君の惡を諱みてなり。國難無くして、義事に會せざるを謂う。故に惡とす。書さずとは、國別に諸侯を序でざるを謂う。

與而不書、後也。謂後期也。今貶諸侯、似爲公諱。故傳發例以明之。
【読み】
與りて書さざるは、後れたるなり。期に後るるを謂うなり。今諸侯を貶すは、公の爲に諱むに似たり。故に傳例を發して以て之を明らかにす。

齊人來歸子叔姬、王故也。單伯雖見執、能守節不移、終達王命、使叔姬得歸。
【読み】
齊人來りて子叔姬を歸すとは、王の故なり。單伯執えらると雖も、能く節を守りて移らず、終に王命を達して、叔姬をして歸ることを得せしむ。

齊侯侵我西鄙、謂諸侯不能也。不能討己。
【読み】
齊侯我が西鄙を侵すは、諸侯を能わずと謂[おも]いてなり。己を討ずること能わず、と。

遂伐曹、入其郛。討其來朝也。此年夏朝。
【読み】
遂に曹を伐ち、其の郛に入る。其の來朝するを討ずるなり。此の年の夏朝す。

季文子曰、齊侯其不免乎。己則無禮、執王使而伐無罪。
【読み】
季文子曰く、齊侯は其れ免れざらんか。己則ち禮無くして、王の使を執えて無罪を伐つ。

而討於有禮者、曰、女何故行禮。禮以順天。天之道也。己則反天、而又以討人。難以免矣。詩曰、胡不相畏、不畏于天。詩、小雅。○相、息亮反。又如字。
【読み】
禮有る者を討じて、曰く、女何の故に禮を行える、と。禮は以て天に順う。天の道なり。己則ち天に反して、又以て人を討ず。以て免れ難し。詩に曰く、胡ぞ相畏れざる、天を畏れざるやとなり。詩は、小雅。○相は、息亮反。又字の如し。

君子之不虐幼賤、畏于天也。在周頌曰、畏天之威、于時保之。詩、周頌。言畏天威、于是保福祿。
【読み】
君子の幼賤を虐げざるは、天に畏れてなり。周頌に在り曰く、天の威を畏れて、時[ここ]に于[おい]て之を保つ、と。詩は、周頌。言うこころは、天威を畏れて、是に于て福祿を保つ。

不畏于天、將何能保。以亂取國、奉禮以守、猶懼不終。多行無禮、弗能在矣。爲十八年、齊弑商人傳。○守、手又反。
【読み】
天に畏れざれば、將[はた]何ぞ能く保たん。亂を以て國を取れば、禮を奉じて以て守るも、猶終わらざらんことを懼る。多く無禮を行わば、在ること能わざらん、と。十八年、齊商人を弑する爲の傳なり。○守は、手又反。


〔經〕十有六年、春、季孫行父會齊侯于陽穀。齊侯弗及盟。及、與也。
【読み】
〔經〕十有六年、春、季孫行父齊侯に陽穀に會す。齊侯及[とも]に盟わず。及は、與なり。

夏、五月、公四不視朔。諸侯每月必告朔聽政。因朝於廟。今公以疾闕、不得視二月・三月・四月朔也。春秋十二公、以疾不視朔、非一也。義無所取。故特舉此以表行事、因明公之實有疾、非詐齊。
【読み】
夏、五月、公四たび朔を視ず。諸侯每月必ず朔を告げ政を聽く。因りて廟に朝す。今公は疾を以て闕きて、二月・三月・四月の朔を視ることを得ざるなり。春秋十二公、疾を以て朔を視ざるは、一に非ざるなり。義取る所無し。故に特に此を舉げて以て行事を表し、因りて公の實に疾有り、齊に詐るに非ざるを明かすなり。

六月、戊辰、公子遂及齊侯盟于郪丘。信公疾、且以賂故。郪丘、齊地。○郪、音西。又七西反。
【読み】
六月、戊辰[つちのえ・たつ]、公子遂齊侯と郪丘[せいきゅう]に盟う。公の疾を信じ、且賂を以ての故なり。郪丘は、齊の地。○郪は、音西。又七西反。

秋、八月、辛未、夫人姜氏薨。僖公夫人、文公母也。
【読み】
秋、八月、辛未[かのと・ひつじ]、夫人姜氏薨ず。僖公の夫人、文公の母なり。

毀泉臺。泉臺、臺名。毀、壞之也。○壞、音怪。
【読み】
泉臺を毀[こぼ]つ。泉臺は、臺の名。毀は、之を壞るなり。○壞は、音怪。

楚人・秦人・巴人滅庸。冬、十有一月、宋人弑其君杵臼。稱君、君無道也。例在宣四年。
【読み】
楚人・秦人・巴人庸を滅ぼす。冬、十有一月、宋人其の君杵臼[しょきゅう]を弑す。君を稱するは、君無道なればなり。例は宣四年に在り。

〔傳〕十六年、春、王正月、及齊平。齊前年再伐魯、魯爲受弱故平。
【読み】
〔傳〕十六年、春、王の正月、齊と平らぐ。齊前年再び魯を伐ち、魯弱を受くる爲の故に平らぐ。

公有疾。使季文子會齊侯于陽穀、請盟。齊侯不肯、曰、請俟君閒。閒、疾瘳。○閒、如字。瘳、勑周反。
【読み】
公疾有り。季文子をして齊侯に陽穀に會せしめて、盟を請う。齊侯肯[うけが]わずして、曰く、請う、君の閒[い]ゆるを俟たん、と。閒は、疾の瘳[い]ゆるなり。○閒は、字の如し。瘳[ちゅう]は、勑周反。

夏、五月、公四不視朔、疾也。
【読み】
夏、五月、公四たび朔を視ずとは、疾めばなり。

公使襄仲納賂于齊侯。故盟于郪丘。
【読み】
公襄仲をして賂を齊侯に納れしむ。故に郪丘に盟う。

有蛇自泉宮出、入于國。如先君之數。伯禽至僖公十七君。
【読み】
蛇有り泉宮より出でて、國に入る。先君の數の如し。伯禽より僖公に至るまで十七君。

秋、八月、辛未、聲姜薨。毀泉臺。魯人以爲蛇妖所出、而聲姜薨。故壞之。
【読み】
秋、八月、辛未、聲姜薨ず。泉臺を毀つ。魯人蛇妖の出づる所にして、聲姜薨ずと以爲[おも]えり。故に之を壞[こぼ]つ。

楚大饑。戎伐其西南、至于阜山、師于大林。又伐其東南、至于陽丘、以侵訾枝。戎、山夷也。大林、陽丘。訾枝、皆楚邑。
【読み】
楚大いに饑ゆ。戎其の西南を伐ちて、阜山に至り、大林に師す。又其の東南を伐ちて、陽丘に至り、以て訾枝[しし]を侵す。戎は、山夷なり。大林は、陽丘。訾枝は、皆楚の邑。

庸人帥羣蠻以叛楚、庸、今上庸縣。屬楚之小國。
【読み】
庸人羣蠻を帥いて以て楚に叛き、庸は、今の上庸縣。楚に屬する小國。

麇人率百濮聚於選、將伐楚。選、楚地。百濮、夷也。
【読み】
麇人[きんひと]百濮を率いて選に聚まり、將に楚を伐たんとす。選は、楚の地。百濮は、夷なり。

於是申・息之北門不啓。備中國。
【読み】
是に於て申・息の北門啓[ひら]かず。中國に備う。

楚人謀徙於阪高。楚險地。
【読み】
楚人阪高に徙[うつ]らんことを謀る。楚の險地。

蔿賈曰、不可。我能往、寇亦能往。不如伐庸。夫麇與百濮謂我饑不能師。故伐我也。若我出師、必懼而歸。百濮離居。將各走其邑。誰暇謀人。乃出師。旬有五日、百濮乃罷。濮、夷無屯聚。見難則散歸。○蔿、于委反。
【読み】
蔿賈[いか]曰く、不可なり。我れ能く往かば、寇も亦能く往かん。庸を伐たんに如かず。夫れ麇と百濮とは我を饑えて師すること能わずと謂[おも]えり。故に我を伐てるなり。若し我れ師を出ださば、必ず懼れて歸らん。百濮は離居す。將に各々其の邑に走らんとす。誰か人を謀るに暇あらん、と。乃ち師を出だす。旬有五日にして、百濮乃ち罷[しりぞ]く。濮は、夷にして屯聚無し。難を見れば則ち散歸す。○蔿は、于委反。

自廬以往、振廩同食、往、往伐庸也。振、發也。廩、倉也。同食、上下無異饌也。
【読み】
廬より以て往き、廩を振[ひら]きて同食し、往は、往きて庸を伐つなり。振は、發くなり。廩は、倉なり。同食は、上下異饌無きなり。

次于句澨、楚西界也。○句、古侯反。
【読み】
句澨[こうぜい]に次[やど]り、楚の西界なり。○句は、古侯反。

使廬戢棃侵庸、戢棃、廬大夫。
【読み】
廬の戢棃[しゅうり]をして庸を侵さしめ、戢棃は、廬の大夫。

及庸方城。方城、庸地。上庸縣東有法城亭。
【読み】
庸の方城に及ぶ。方城は、庸の地。上庸縣の東に法城亭有り。

庸人逐之、囚子揚窗。窗、戢棃官屬。
【読み】
庸人之を逐いて、子揚窗[しようそう]を囚う。窗は、戢棃の官屬。

三宿而逸、曰、庸師衆、羣蠻聚焉。不如復大師、還復句澨師。
【読み】
三宿にして逸げて、曰く、庸の師衆[おお]く、羣蠻聚まれり。大師に復り、句澨の師に還り復る。

且起王卒、合而後進。師叔曰、不可。師叔、楚大夫、潘尫也。○尫、烏黃反。
【読み】
且王の卒を起こし、合いて而して後に進まんには如かず、と。師叔曰く、不可なり。師叔は、楚の大夫、潘尫[はんおう]なり。○尫は、烏黃反。

姑又與之遇以驕之。彼驕我怒、而後可克。先君蚡冒所以服陘隰也。蚡冒、楚武王父。陘隰、地名。○蚡、扶粉反。史記楚世家云、蚡冒卒、弟熊通殺蚡冒子而代立。是爲楚武王。與杜異。陘、音刑。
【読み】
姑く又之と遇いて以て之を驕らさん。彼驕り我れ怒りて、而して後に克つ可し。先君蚡冒[ふんぼう]の陘隰[けいしゅう]を服せし所以なり、と。蚡冒は、楚の武王の父。陘隰は、地の名。○蚡は、扶粉反。史記楚世家に云う、蚡冒卒し、弟熊通蚡冒の子を殺して代わりて立つ。是を楚の武王とす、と。杜と異なれり。陘は、音刑。

又與之遇、七遇皆北。軍走曰北。○北、如字。一音佩。
【読み】
又之と遇い、七たび遇いて皆北[に]ぐ。軍の走るを北と曰う。○北は、字の如し。一に音佩。

唯裨・鯈・魚人實逐之。裨・鯈・魚、庸三邑。魚、魚復縣。今巴東永安縣。輕楚。故但使三邑人逐之。○裨、婢支反。鯈、直留反。
【読み】
唯裨[ひ]・鯈[ちゅう]・魚の人のみ實に之を逐う。裨・鯈・魚は、庸の三邑。魚は、魚復縣。今の巴東永安縣。楚を輕んず。故に但三邑の人をして之を逐わしむ。○裨は、婢支反。鯈は、直留反。

庸人曰、楚不足與戰矣。遂不設備。楚子乘馹會師于臨品、馹、傳車也。臨品、地名。○馹、人實反。傳、丁戀反。
【読み】
庸人曰く、楚は與に戰うに足らず、と。遂に備えを設けず。楚子馹[じつ]に乘りて師に臨品に會し、馹は、傳車なり。臨品は、地の名。○馹は、人實反。傳は、丁戀反。

分爲二隊、隊、部也。兩道攻之。
【読み】
分けて二隊と爲し、隊は、部なり。兩道より之を攻む。

子越自石溪、子貝自仞、以伐庸。子越、鬭椒也。石溪・仞、入庸道。
【読み】
子越は石溪よりし、子貝は仞よりして、以て庸を伐つ。子越は、鬭椒なり。石溪・仞は、庸に入る道。

秦人・巴人從楚師、羣蠻從楚子盟。蠻見楚强故。
【読み】
秦人・巴人楚師に從い、羣蠻楚子に從いて盟う。蠻楚の强きを見る故なり。

遂滅庸。傳言楚有謀臣所以興。
【読み】
遂に庸を滅ぼす。傳楚に謀臣有りて興る所以を言う。

宋公子鮑禮於國人。鮑、昭公庶弟、文公也。
【読み】
宋の公子鮑國人に禮あり。鮑は、昭公の庶弟、文公なり。

宋饑、竭其粟而貸之。年自七十以上、無不饋詒也、時加羞珍異。羞、進也。
【読み】
宋饑ゆるとき、其の粟を竭くして之を貸せり。年七十より以上には、饋詒[きい]せざること無く、時に珍異を加え羞[すす]む。羞は、進むなり。

無日不數於六卿之門、數、不疏。○數、音朔。
【読み】
日として六卿の門に數々せざること無く、數は、疏ならざるなり。○數は、音朔。

國之材人、無不事也、有賢材者。
【読み】
國の材人には、事えざること無く、賢材有る者。

親自桓以下、無不恤也。桓、鮑之曾祖。
【読み】
親は桓より以下をば、恤[めぐ]まざること無し。桓は、鮑の曾祖。

公子鮑美而豔。襄夫人欲通之、鮑適祖母。
【読み】
公子鮑美にして豔[えん]なり。襄夫人之に通ぜんと欲すれども、鮑の適祖母。

而不可。以禮自防閑。
【読み】
可[き]かず。禮を以て自ら防閑す。

乃助之施。
【読み】
乃ち之が施を助く。

昭公無道。國人奉公子鮑以因夫人。
【読み】
昭公無道なり。國人公子鮑を奉じて以て夫人に因る。

於是華元爲右師。元、華督曾孫。代公子成。○施、式豉反。
【読み】
是に於て華元右師爲り。元は、華督の曾孫。公子成に代わる。○施は、式豉反。

公孫友爲左師。華耦爲司馬。代公子卬。
【読み】
公孫友左師爲り。華耦司馬爲り。公子卬[こう]に代わる。

鱗矔爲司徒。蕩意諸爲司城。公子朝爲司寇。代華御事。○矔、古亂反。朝、如字。
【読み】
鱗矔[りんかん]司徒爲り。蕩意諸司城爲り。公子朝司寇爲り。華御事に代わる。○矔は、古亂反。朝は、字の如し。

初、司城蕩卒。公孫壽辭司城、壽、蕩之子。
【読み】
初め、司城蕩卒す。公孫壽司城を辭して、壽は、蕩の子。

請使意諸爲之。意諸、壽之子。
【読み】
請いて意諸をして之を爲さしむ。意諸は、壽の子。

旣而告人曰、君無道、吾官近。懼及焉。禍及己。
【読み】
旣にして人に告げて曰く、君無道にして、吾が官近し。懼らくは及ばん。禍己に及ばん。

棄官則族無所庇。子身之貳也。姑紓死焉。姑、且也。紓、緩也。
【読み】
官を棄つれば則ち族庇う所無し。子は身の貳なり。姑く死を紓[ゆる]べん。姑は、且くなり。紓は、緩きなり。

雖亡子、猶不亡族。己在故也。
【読み】
子を亡ぼすと雖も、猶族を亡ぼさじ、と。己在る故なり。

旣夫人將使公田孟諸而殺之。公知之、盡以寶行。蕩意諸曰、盍適諸侯。公曰、不能其大夫、至于君祖母、以及國人。君祖母、諸侯祖母之稱。謂襄夫人。
【読み】
旣にして夫人將に公をして孟諸に田[かり]せしめて之を殺さんとす。公之を知り、盡く寶を以て行く。蕩意諸曰く、盍ぞ諸侯に適かざる、と。公曰く、其の大夫に能からずして、君祖母に至り、以て國人に及べり。君祖母とは、諸侯の祖母の稱なり。襄夫人を謂う。

諸侯誰納我。且旣爲人君、而又爲人臣、不如死。盡以其寶賜左右而使行。行、去也。
【読み】
諸侯誰か我を納れん。且つ旣に人君と爲りて、又人臣と爲らんは、死するに如かず、と。盡く其の寶を以て左右に賜いて行[さ]らしむ。行は、去るなり。

夫人使謂司城去公。對曰、臣之而逃其難、若後君何。言無以事後君。
【読み】
夫人司城に謂いて公を去らしむ。對えて曰く、之に臣として其の難を逃げば、後君を若何、と。言うこころは、以て後君に事ること無し。

冬、十一月、甲寅、宋昭公將田孟諸。未至。夫人王姬使帥甸攻而殺之。襄夫人、周襄王姊。故稱王姬。帥甸、郊甸之帥。
【読み】
冬、十一月、甲寅[きのえ・とら]、宋の昭公將に孟諸に田せんとす。未だ至らず。夫人王姬帥甸[すいてん]をして攻めて之を殺さしむ。襄夫人は、周の襄王の姊。故に王姬と稱す。帥甸は、郊甸の帥。

蕩意諸死之。不書、不告。
【読み】
蕩意諸之に死す。書さざるは、告げざればなり。

書曰宋人弑其君杵臼、君無道也。始例發於臣之罪。今稱國人。故重明君罪。
【読み】
書して宋人其の君杵臼を弑すと曰うは、君無道なればなり。始めの例は臣の罪に發す。今國人と稱す。故に重ねて君の罪を明かす。

文公卽位。使母弟須爲司城。代意諸。
【読み】
文公位に卽く。母弟須をして司城爲らしむ。意諸に代わる。

華耦卒、而使蕩虺爲司馬。虺、意諸之弟。○虺、況鬼反。
【読み】
華耦卒して、蕩虺[とうき]をして司馬爲らしむ。虺は、意諸の弟。○虺や、況鬼反。


〔經〕十有七年、春、晉人・衛人・陳人・鄭人伐宋。自閔・僖已下、終於春秋、陳侯常在衛侯上、今大夫會在衛下、傳不言陳侯孫寧後至、則寧位非上卿故也。
【読み】
〔經〕十有七年、春、晉人・衛人・陳人・鄭人宋を伐つ。閔・僖より已下、春秋を終うるまで、陳侯常に衛侯の上に在り、今大夫の會衛の下に在りて、傳に陳の侯孫寧後れて至ると言わざるは、則ち寧の位上卿に非ざる故なり。

夏、四月、癸亥、葬我小君聲姜。齊侯伐我西鄙。西、當爲北。蓋經誤。
【読み】
夏、四月、癸亥[みずのと・い]、我が小君聲姜を葬る。齊侯我が西鄙を伐つ。西は、當に北に爲るべし。蓋し經の誤りならん。

六月、癸未、公及齊侯盟于穀。諸侯會于扈。昭公雖以無道見弑、而文公猶宜以弑君受討。故林父伐宋、以失所稱人、晉侯平宋、以無功不序。明君雖不君、臣不可不臣。所以督大敎。
【読み】
六月、癸未[みずのと・ひつじ]、公齊侯と穀に盟う。諸侯扈[こ]に會す。昭公無道を以て弑せらると雖も、而れども文公猶宜しく君を弑するを以て討を受くべし。故に林父が宋を伐てる、所を失うを以て人と稱し、晉侯の宋を平らぐる、功無きを以て序でず。明けし、君君たらずと雖も、臣臣たらずんばある可からざること。大敎を督す所以なり。

秋、公至自穀。無傳。
【読み】
秋、公穀より至る。傳無し。

冬、公子遂如齊。
【読み】
冬、公子遂齊に如く。

〔傳〕十七年、春、晉荀林父・衛孔達・陳公孫寧・鄭石楚伐宋。討曰、何故弑君。猶立文公而還。
【読み】
〔傳〕十七年、春、晉の荀林父・衛の孔達・陳の公孫寧・鄭の石楚宋を伐つ。討じて曰く、何の故に君を弑せる、と。猶文公を立てて還る。

卿不書、失其所也。卿不書、謂稱人。
【読み】
卿書さざるは、其の所を失えばなり。卿書さずとは、人と稱するを謂う。

夏、四月、癸亥、葬聲姜。有齊難、是以緩。過五月之例。
【読み】
夏、四月、癸亥、聲姜を葬る。齊の難有り、是を以て緩[おく]る。五月の例を過ぐ。

齊侯伐我北鄙。襄仲請盟。六月、盟于穀。晉不能救魯。故請服。
【読み】
齊侯我が北鄙を伐つ。襄仲盟を請う。六月、穀に盟う。晉魯を救うこと能わず。故に服せんと請う。

晉侯蒐于黃父、一名、黑壤。晉地。
【読み】
晉侯黃父に蒐し、一名は、黑壤。晉の地。

遂復合諸侯于扈。平宋也。傳不列諸國而言復合、則如上十五年、會扈之諸侯可知也。○復、扶又反。
【読み】
遂に復諸侯を扈に合わす。宋を平らげんとなり。傳諸國を列ねずして復合わすと言うは、則ち上の十五年、扈に會するの諸侯の如きこと知る可ければなり。○復は、扶又反。

公不與會、齊難故也。
【読み】
公會に與らざるは、齊の難の故なり。

書曰諸侯、無功也。刺欲平宋而復不能。○與、音預。
【読み】
書して諸侯と曰うは、功無ければなり。宋を平らげんと欲して復能わざるを刺[そし]るなり。○與は、音預。

於是晉侯不見鄭伯。以爲貳於楚也。鄭子家使執訊而與之書、以告趙宣子、執訊、通訊問之官。爲書與宣子。
【読み】
是に於て晉侯鄭伯を見ず。以爲えり、楚に貳あり、と。鄭の子家執訊を使として之に書を與えて、以て趙宣子に告げ、執訊は、訊問を通ずるの官。書を爲りて宣子に與う。

曰、寡君卽位三年、魯文二年。
【読み】
曰く、寡君位に卽きて三年、魯文の二年。

召蔡侯而與之事君。九月、蔡侯入于敝邑以行。行、朝晉也。
【読み】
蔡侯を召して之と君に事えんとす。九月、蔡侯敝邑に入りて以て行けり。行くとは、晉に朝するなり。

敝邑以侯宣多之難、寡君是以不得與蔡侯偕。宣多旣立穆公、恃寵專權。
【読み】
敝邑侯宣多の難を以て、寡君是を以て蔡侯と偕にすることを得ず。宣多旣に穆公を立てて、寵を恃みて權を專らにす。

十一月、克減侯宣多、而隨蔡侯以朝于執事、減、損也。難未盡而行、言汲汲于朝晉。
【読み】
十一月、克く侯宣多を減[おと]して、蔡侯に隨いて以て執事に朝し、減は、損すなり。難未だ盡きずして行くは、晉に朝するに汲汲たるを言う。

十二年、六月、歸生佐寡君之嫡夷、歸生、子家名。夷、大子名。
【読み】
十二年、六月、歸生寡君の嫡夷を佐け、歸生は、子家の名。夷は、大子の名。

以請陳侯于楚、而朝諸君、請陳于楚、與倶朝晉。
【読み】
以て陳侯を楚に請いて、諸を君に朝せしめ、陳を楚に請いて、與に倶に晉に朝す。

十四年、七月、寡君又朝、以蕆陳事、蕆、勑也。勑成前好。○蕆、勑展反。
【読み】
十四年、七月、寡君又朝して、以て陳の事を蕆[ただ]し、蕆[てん]は、勑すなり。前の好を勑成す。○蕆は、勑展反。

十五年、五月、陳侯自敝邑往朝于君、往年正月、燭之武往朝夷也、將夷往朝晉。
【読み】
十五年、五月、陳侯敝邑より往きて君に朝し、往年正月、燭之武往きて夷を朝せしめ、夷を將[ひき]いて往きて晉に朝す。

八月、寡君又往朝。以陳・蔡之密邇於楚、而不敢貳焉、則敝邑之故也。密邇、比近也。
【読み】
八月、寡君又往きて朝せり。陳・蔡の楚に密邇するを以てすら、敢えて貳あらざるは、則ち敝邑の故なり。密邇は、比近なり。

雖敝邑之事君、何以不免。免、免罪也。
【読み】
敝邑の君に事ると雖も、何を以て免れざる。免は、罪を免るなり。

在位之中、一朝于襄、襄公。
【読み】
在位の中、一たび襄に朝して、襄公。

而再見于君、君、靈公也。○見、賢遍反。
【読み】
再び君に見え、君は、靈公なり。○見は、賢遍反。

夷與孤之二三臣、相及於絳。孤之二三臣、謂燭之武、歸生自謂也。絳、晉國都。
【読み】
夷と孤の二三臣と、絳[こう]に相及べり。孤の二三臣とは、燭之武を謂いて、歸生自ら謂うなり。絳は、晉の國都。

雖我小國、則蔑以過之矣。今大國曰、爾未逞吾志。敝邑有亡。無以加焉。
【読み】
我が小國と雖も、則ち以て之に過ぐること蔑[な]し。今大國曰く、爾未だ吾が志を逞[こころよ]くせず、と。敝邑亡ぶること有らんのみ。以て加うること無し。

古人有言曰、畏首畏尾、身其餘幾。言首尾有畏、則身中不畏者少。
【読み】
古人言えること有り曰く、首に畏れ尾に畏れば、身其の餘り幾ばくぞ、と。言うこころは、首尾畏れ有れば、則ち身中畏れざる者少なし。

又曰、鹿死不擇音。音、所茠蔭之處。古字聲同、皆相假借。○茠、虛求反。蔭、於鴆反。
【読み】
又曰く、鹿の死するや音を擇ばず、と。音は、茠蔭[きゅういん]する所の處なり。古字聲同じければ、皆相假借す。○茠は、虛求反。蔭は、於鴆反。

小國之事大國也、德、則其人也。以德加己、則以人道相事。
【読み】
小國の大國に事うるや、德すれば、則ち其れ人をす。德を以て己に加うれば、則ち人道を以て相事う。

不德、則其鹿也。鋌而走險。急何能擇。鋌、疾走貌。言急則欲蔭茠於楚。如鹿赴險。○鋌、他頃反。
【読み】
德せざれば、則ち其れ鹿をす。鋌[てい]して險に走らんのみ。急ならば何ぞ能く擇ばん。鋌は、疾く走る貌。言うこころは、急なれば則ち楚に蔭茠せんことを欲す。鹿の險に赴くが如し。○鋌は、他頃反。

命之罔極、亦知亡矣。言晉命無極。
【読み】
命の極まり罔き、亦亡びんことを知れり。言うこころは、晉の命極まり無し。

將悉敝賦、以待於鯈。唯執事命之。鯈、晉・鄭之竟。言欲以兵距晉。○鯈、直留反。
【読み】
將に敝賦を悉くして、以て鯈[ちゅう]に待たんとす。唯執事之を命ぜよ。鯈は、晉・鄭の竟。言うこころは、兵を以て晉を距がんと欲す。○鯈は、直留反。

文公二年、六月、壬申、朝于齊、鄭文二年六月壬申、魯莊二十三年六月二十四日。
【読み】
文公二年、六月、壬申[みずのえ・さる]、齊に朝し、鄭の文二年六月壬申は、魯の莊二十三年六月二十四日なり。

四年、二月、壬戌、爲齊侵蔡、魯莊二十五年二月無壬戌。壬戌、三月二十日。
【読み】
四年、二月、壬戌[みずのえ・いぬ]、齊の爲に蔡を侵し、魯の莊二十五年二月に壬戌無し。壬戌は、三月二十日。

亦獲成於楚。鄭與楚成。
【読み】
亦成[たい]らぎを楚に獲たり。鄭楚と成らぐ。

居大國之閒、而從於彊令、豈其罪也。令、號令也。
【読み】
大國の閒に居りて、彊令に從わんこと、豈其れ罪ならんや。令は、號令なり。

大國若弗圖、無所逃命。
【読み】
大國若し圖らずんば、命を逃るる所無し、と。

晉鞏朔行成於鄭。趙穿・公壻池爲質焉。趙穿、卿也。公壻池、晉侯女壻。○鞏、九勇反。質、音致。
【読み】
晉の鞏朔[きょうさく]成らぎを鄭に行う。趙穿[ちょうせん]・公の壻池質と爲る。趙穿は、卿なり。公の壻池は、晉侯の女壻。○鞏は、九勇反。質は、音致。

秋、周甘歜敗戎于邥垂。乘其飮酒也。歜、周大夫。邥垂、周地。河南新城縣北有垂亭。爲成元年、晉侯平戎于王張本。○歜、昌欲反。邥、音審。
【読み】
秋、周の甘歜[かんしょく]戎を邥垂[しんすい]に敗る。其の酒を飮めるに乘じてなり。歜は、周の大夫。邥垂は、周の地。河南新城縣の北に垂亭有り。成の元年、晉侯戎を王に平らぐる爲の張本なり。○歜は、昌欲反。邥は、音審。

冬、十月、鄭大子夷・石楚爲質于晉。夷、靈公也。石楚、鄭大夫。
【読み】
冬、十月、鄭の大子夷・石楚晉に質と爲る。夷は、靈公なり。石楚は、鄭の大夫。

襄仲如齊、拜穀之盟。復曰、臣聞齊人將食魯之麥。以臣觀之、將不能。齊君之語偸。臧文仲有言曰、民主偸必死。偸、猶苟且。
【読み】
襄仲齊に如くは、穀の盟を拜するなり。復して曰く、臣聞く、齊人將に魯の麥を食わんとす、と。臣を以て之を觀れば、將に能わざらんとす。齊君の語偸す。臧文仲言えること有り曰く、民主偸すれば必ず死す、と。偸とは、猶苟且のごとし。


〔經〕十有八年、春、王二月、丁丑、公薨于臺下。秦伯罃卒。無傳。未同盟而赴以名。○罃、於耕反。
【読み】
〔經〕十有八年、春、王の二月、丁丑[ひのと・うし]、公臺下に薨ず。秦伯罃[おう]卒す。傳無し。未だ同盟せずして赴[つ]ぐるに名を以てす。○罃は、於耕反。

夏、五月、戊戌、齊人弑其君商人。不稱盜、罪商人。
【読み】
夏、五月、戊戌[つちのえ・いぬ]、齊人其の君商人を弑す。盜と稱せざるは、商人を罪するなり。

六月、癸酉、葬我君文公。秋、公子遂・叔孫得臣如齊。書二卿、以兩事行、非相爲介。
【読み】
六月、癸酉[みずのと・とり]、我が君文公を葬る。秋、公子遂・叔孫得臣齊に如く。二卿を書すは、兩事を以て行きて、介と相爲るに非ざればなり。

冬、十月、子卒。先君旣葬、不稱君者、魯人諱弑、以未成君書之。子、在喪之稱。
【読み】
冬、十月、子卒す。先君旣に葬りて、君と稱せざるは、魯人弑するを諱みて、未成君を以て之を書すなり。子は、喪に在るの稱。

夫人姜氏歸于齊。季孫行父如齊。無傳。
【読み】
夫人姜氏齊に歸る。季孫行父齊に如く。傳無し。

莒弑其君庶其。稱君、君無道也。或云、臺下者、明因隕而薨也。未詳。
【読み】
莒其の君庶其[しょき]を弑す。君を稱するは、君無道なればなり。或ひと云う、臺下は、隕つるに因りて薨ずるを明かす、と。未だ詳らかならず。

〔傳〕十八年、春、齊侯戒師期。將以伐魯。
【読み】
〔傳〕十八年、春、齊侯師期を戒む。將に以て魯を伐たんとす。

而有疾。醫曰、不及秋、將死。公聞之、卜曰、尙無及期。尙、庶幾也。欲令先師期死。○先、悉薦反。
【読み】
而して疾有り。醫曰く、秋に及ばずして、將に死せんとす、と。公之を聞きて、卜して曰く、尙わくは期に及ぶこと無からん、と。尙は、庶幾なり。師期に先だちて死せしめんと欲す。○先は、悉薦反。

惠伯令龜。以卜事告龜。
【読み】
惠伯龜に令す。卜事を以て龜に告ぐ。

卜楚丘占之曰、齊侯不及期。非疾也。君亦不聞。言君先齊公終。
【読み】
卜楚丘之を占いて曰く、齊侯期に及ばじ。疾に非ざるなり。君も亦聞かじ。言うこころは、君齊公に先だちて終わらん。

令龜有咎。言令龜者亦有凶咎、見於卜兆。爲惠伯死張本。○見、賢遍反。
【読み】
龜に令するものも咎有り、と。言うこころは、龜に令する者も亦凶咎有りて、卜兆に見る。惠伯死する爲の張本なり。○見は、賢遍反。

二月、丁丑、公薨。
【読み】
二月、丁丑、公薨ず。

齊懿公之爲公子也、與邴歜之父爭田、弗勝。及卽位、乃掘而刖之、斷其尸足。○邴、音丙。又彼病反。歜、昌欲反。掘、其勿反。又其月反。
【読み】
齊の懿公の公子爲りしや、邴歜[へいしょく]の父と田を爭いて、勝たず。位に卽くに及びて、乃ち掘りて之を刖[あしき]りて、其の尸の足を斷つ。○邴は、音丙。又彼病反。歜は、昌欲反。掘は、其勿反。又其月反。

而使歜僕、僕、御也。
【読み】
而して歜をして僕たらしめ、僕は、御なり。

納閻職之妻、而使職驂乘。驂乘、陪乘。○乘、繩證反。
【読み】
閻職の妻を納れて、職をして驂乘たらしむ。驂乘は、陪乘。○乘は、繩證反。

夏、五月、公游于申池。齊南城西門名申門。齊城無池。唯此門左右有池。疑此則是。
【読み】
夏、五月、公申池に游ぶ。齊の南城の西門を申門と名づく。齊の城に池無し。唯此の門の左右に池有り。疑うらくは此れ則ち是れならん。

二人浴于池、歜以扑抶職。扑、箠也。抶、擊也。欲以相感激。○扑、普卜反。抶、勑乙反。箠、市橤反。又之橤反。
【読み】
二人池に浴し、歜扑[むち]を以て職を抶[う]つ。扑[ぼく]は、箠[すい]なり。抶[ちつ]は、擊つなり。以て相感激せんと欲す。○扑は、普卜反。抶は、勑乙反。箠は、市橤反。又之橤反。

職怒。歜曰、人奪女妻而不怒、一抶女、庸何傷。職曰、與刖其父而弗能病者何如。言不以父刖爲病根。○女、音汝。
【読み】
職怒る。歜曰く、人女の妻を奪えども怒らずして、一たび女を抶つに、何を庸[もっ]て傷まん、と。職曰く、其の父を刖られて病むこと能わざる者と何如、と。言うこころは、父の刖らるるを以て病根と爲す。○女は、音汝。

乃謀弑懿公、納諸竹中、歸、舍爵而行。飮酒、訖乃去。言齊人惡懿公、二人無所畏。○舍、音赦。
【読み】
乃ち謀りて懿公を弑して、諸を竹中に納れ、歸りて、爵を舍きて行[さ]る。酒を飮み、訖[おわ]りて乃ち去る。言うこころは、齊人懿公を惡みて、二人畏るる所無し。○舍は、音赦。

齊人立公子元。桓公子、惠公。
【読み】
齊人公子元を立つ。桓公の子、惠公。

六月、葬文公。
【読み】
六月、文公を葬る。

秋、襄仲・莊叔如齊、惠公立故。且拜葬也。襄仲、賀惠公立、莊叔、謝齊來會葬。
【読み】
秋、襄仲・莊叔齊に如くは、惠公立つ故なり。且つ葬を拜するなり。襄仲は、惠公の立つを賀し、莊叔は、齊の來りて葬に會するを謝す。

文公二妃敬嬴生宣公。敬嬴嬖。而私事襄仲。宣公長而屬諸襄仲。襄仲欲立之。叔仲不可。叔仲、惠伯。○屬、音燭。
【読み】
文公の二妃敬嬴[けいえい]宣公を生む。敬嬴嬖せらる。而して私かに襄仲に事う。宣公長じて諸を襄仲に屬す。襄仲之を立てんと欲す。叔仲可[き]かず。叔仲は、惠伯。屬は、音燭。

仲見于齊侯而請之。齊侯新立而欲親魯、許之。
【読み】
仲齊侯に見えて之を請う。齊侯新たに立ちて魯を親しまんと欲し、之を許す。

冬、十月、仲殺惡及視、而立宣公。惡、大子。視、其母弟。殺視不書、賤之。
【読み】
冬、十月、仲惡と視とを殺して、宣公を立つ。惡は、大子。視は、其の母弟。視を殺すこと書さざるは、之を賤しんでなり。

書曰子卒、諱之也。
【読み】
書して子卒すと曰うは、之を諱みてなり。

仲以君命召惠伯。詐以子惡命。
【読み】
仲君命を以て惠伯を召す。詐るに子惡の命を以てす。

其宰公冉務人止之、曰、入必死。叔仲曰、死君命可也。公冉務人曰、若君命可死。非君命何聽。弗聽。乃入。殺而埋之馬矢之中。惠伯死不書者、史畏襄仲、不敢書殺惠伯。
【読み】
其の宰公冉務人之を止めて、曰く、入らば必ず死なん、と。叔仲曰く、君命に死するは可なり、と。公冉務人曰く、若し君命ならば死す可し。君命に非ざれば何ぞ聽かん、と。聽かず。乃ち入る。殺して之を馬矢の中に埋む。惠伯の死書さざるは、史襄仲を畏れて、敢えて惠伯を殺せしことを書さざるなり。

公冉務人奉其帑以奔蔡。旣而復叔仲氏。不絕其後。
【読み】
公冉務人其の帑を奉じて以て蔡に奔る。旣にして叔仲氏を復す。其の後を絕たず。

夫人姜氏歸于齊、大歸也。惡・視之母出姜也。嫌與有罪出者異。故復發傳。
【読み】
夫人姜氏齊に歸るとは、大歸なり。惡・視の母出姜なり。罪有りて出づる者と異なるに嫌あり。故に復傳を發す。

將行。哭而過市曰、天乎、仲爲不道、殺適立庶。市人皆哭。魯人謂之哀姜。所謂出姜不允於魯。○過、古禾反。又古臥反。
【読み】
將に行らんとす。哭して市を過ぎて曰く、天なるか、仲不道を爲して、適を殺して庶を立てり、と。市人皆哭す。魯人之を哀姜と謂う。所謂出姜魯に允とせられざるなり。○過は、古禾反。又古臥反。

莒紀公子生大子僕、又生季佗。愛季佗而黜僕、且多行無禮於國。紀、號也。莒、夷無謚。故有別號。○佗、徒何反。
【読み】
莒の紀公子大子僕を生み、又季佗を生む。季佗を愛して僕を黜け、且多く無禮を國に行う。紀は、號なり。莒は、夷にして謚無し。故に別號有り。○佗は、徒何反。

僕因國人以弑紀公、以其寶玉來奔、納諸宣公。公命與之邑、曰、今日必授。季文子使司寇出諸竟。曰、今日必達。未見公而文子出之。故來不書。
【読み】
僕國人に因りて以て紀公を弑し、其の寶玉を以て來奔し、諸を宣公に納る。公命じて之に邑を與えしめて、曰く、今日必ず授けよ、と。季文子司寇をして諸を竟より出ださしむ。曰く、今日必ず達せよ、と。未だ公を見ずして文子之を出だす。故に來ること書さず。

公問其故。季文子使大史克對曰、先大夫臧文仲敎行父事君之禮。行父奉以周旋、弗敢失隊、曰、見有禮於其君者事之、如孝子之養父母也、見無禮於其君者誅之、如鷹鸇之逐鳥雀也。先君周公制周禮曰、則以觀德、則、法也。合法則爲吉德。○隊、音墜。養、去聲。
【読み】
公其の故を問う。季文子大史克をして對えしめて曰く、先大夫臧文仲行父に君に事るの禮を敎ゆ。行父奉じて以て周旋して、敢えて失隊せず、曰く、其の君に禮有る者を見て之に事ること、孝子の父母を養うが如くし、其の君に禮無き者を見て之を誅すること、鷹鸇[ようせん]の鳥雀を逐うが如くす、と。先君周公周禮を制して曰く、則ち以て德を觀、則は、法なり。法則に合うを吉德とす。○隊は、音墜。養は、去聲。

德以處事、處、猶制也。
【読み】
德以て事を處し、處は、猶制するのごとし。

事以度功、度、量也。○度、待洛反。下同。
【読み】
事以て功を度り、度は、量るなり。○度は、待洛反。下も同じ。

功以食民。食、養也。○食、音嗣。
【読み】
功以て民を食[やしな]う、と。食は、養うなり。○食は、音嗣。

作誓命曰、毀則爲賊、誓、要信也。毀則、壞法也。○壞、音怪。
【読み】
誓命を作りて曰く、則を毀[やぶ]るを賊と爲し、誓は、要信なり。則を毀るは、法を壞るなり。○壞は、音怪。

掩賊爲藏、掩、匿也。
【読み】
賊を掩うを藏と爲し、掩は、匿すなり。

竊賄爲盜、賄、財也。
【読み】
賄を竊むを盜と爲し、賄は、財なり。

盜器爲姦。器、國用也。
【読み】
器を盜むを姦と爲す。器は、國用なり。

主藏之名、以掩賊爲名。
【読み】
藏の名に主となり、賊を掩うを以て名と爲す。

賴姦之用、用姦器也。
【読み】
姦の用を賴とするを、姦器を用ゆるなり。

爲大凶德。有常無赦。刑有常。
【読み】
大凶德と爲す。常有りて赦すこと無し。刑常有り。

在九刑不忘。誓命以下、皆九刑之書。九刑之書今亡。
【読み】
九刑に在りて忘れず、と。誓命以下は、皆九刑の書なり。九刑の書今亡ぶ。

行父還觀莒僕、莫可則也。還、猶周旋。○還、音旋。
【読み】
行父還して莒の僕を觀るに、則とす可き莫し。還は、猶周旋のごとし。○還は、音旋。

孝敬忠信爲吉德、盜賊藏姦爲凶德。夫莒僕、則其孝敬、則弑君父矣。則其忠信、則竊寶玉矣。其人、則盜賊也。其器、則姦兆也。兆、域也。
【読み】
孝敬忠信を吉德と爲し、盜賊藏姦を凶德と爲す。夫れ莒の僕、其の孝敬を則にせんとすれば、則ち君父を弑せり。其の忠信を則にせんとすれば、則ち寶玉を竊めり。其の人は、則ち盜賊なり。其の器は、則ち姦兆なり。兆は、域なり。

保而利之、則主藏也。以訓則昏。民無則焉。不度於善、度、居也。
【読み】
保して之を利するは、則ち藏に主たるなり。以て訓うれば則ち昏し。民則ること無し。善に度[お]らずして、度は、居るなり。

而皆在於凶德。是以去之。
【読み】
皆凶德に在り。是を以て之を去れり。

昔高陽氏有才子八人。高陽、帝、顓頊之號。八人、其苗裔。○去、起呂反。下同。
【読み】
昔高陽氏に才子八人有り。高陽は、帝、顓頊[せんぎょく]の號。八人は、其の苗裔。○去は、起呂反。下も同じ。

蒼舒・隤敳・檮戭・大臨・尨降・庭堅・仲容・叔達、此卽垂・益・禹・皐陶之倫。庭堅、卽皐陶字。○隤、音頹。敳、五才反。一五回反。檮、音稠。又音桃。戭、音演。又己震反。尨、音厖。降、音杭。
【読み】
蒼舒・隤敳[たいがい]・檮戭[ちゅうえん]・大臨・尨降[ぼうこう]・庭堅・仲容・叔達、此れ卽ち垂・益・禹・皐陶の倫。庭堅は、卽ち皐陶の字。○隤は、音頹。敳は、五才反。一に五回反。檮は、音稠。又音桃。戭は、音演。又己震反。尨は、音厖。降は、音杭。

齊聖廣淵、明允篤誠。天下之民、謂之八愷。齊、中也。淵、深也。允、信也。篤、厚也。愷、和也。
【読み】
齊聖廣淵、明允篤誠なり。天下の民、之を八愷と謂う。齊は、中なり。淵は、深きなり。允は、信なり。篤は、厚きなり。愷は、和なり。

高辛氏有才子八人。高辛、帝嚳之號。八人、亦其苗裔。○嚳、苦毒反。
【読み】
高辛氏に才子八人有り。高辛は、帝嚳[ていこく]の號。八人も、亦其の苗裔。○嚳は、苦毒反。

伯奮・仲堪・叔獻・季仲・伯虎・仲熊・叔豹・季貍、此卽稷・契・朱虎・熊・羆之倫。
【読み】
伯奮・仲堪・叔獻・季仲・伯虎・仲熊・叔豹・季貍、此れ卽ち稷・契・朱虎・熊・羆の倫。

忠肅共懿、宣慈惠和。天下之民、謂之八元。肅、敬也。懿、美也。宣、徧也。元、善也。
【読み】
忠肅共懿、宣慈惠和なり。天下の民、之を八元と謂う。肅は、敬しむなり。懿は、美きなり。宣は、徧きなり。元は、善きなり。

此十六族也、世濟其美、不隕其名、濟、成也。隕、隊也。
【読み】
此の十六族や、世々其の美を濟[な]し、其の名を隕さずして、濟は、成すなり。隕は、隊[お]ちるなり。

以至於堯。堯不能舉、舜臣堯、舉八愷、使主后土、后土、地官。禹作司空、平水土、卽主地之官。
【読み】
以て堯に至れり。堯舉ぐること能わず、舜堯に臣として、八愷を舉げて、后土を主りて、后土は、地官。禹司空と作りて、水土を平らぐれば、卽ち地を主るの官なり。

以揆百事、莫不時序、地平天成。揆、度也。成、亦平也。
【読み】
以て百事を揆[はか]らしむれば、時に序でざること莫くして、地平らかに天成[たい]らかなり。揆は、度るなり。成は、亦平らぐなり。

舉八元、使布五敎于四方、契作司徒、五敎在寬。故知契在八元之中。
【読み】
八元を舉げて、五敎を四方に布かしむれば、契司徒と作り、五敎寬に在り。故に知んぬ、契は八元の中に在ることを。

父義、母慈、兄友、弟共、子孝、内平外成。内、諸夏。外、夷狄。
【読み】
父義に、母慈に、兄友に、弟共に、子孝にして、内平らかに外成らかなり。内は、諸夏。外は、夷狄。

昔帝鴻氏有不才子。帝鴻、黃帝。
【読み】
昔帝鴻氏に不才子有り。帝鴻は、黃帝。

掩義隱賊、好行凶德、醜類惡物、頑嚚不友、是與比周。醜、亦惡也。比、近也。周、密也。○嚚、魚巾反。心不則德義之經爲頑、口不道忠信之言爲嚚。比、毗志反。
【読み】
義を掩い賊を隱し、好みて凶德を行い、醜類惡物、頑嚚[がんぎん]にして友とならざるを、是れ與に比周す。醜も、亦惡なり。比は、近きなり。周は、密なり。○嚚は、魚巾反。心德義の經に則らざるを頑とし、口忠信の言を道わざるを嚚とす。比は、毗志反。

天下之民、謂之渾敦。謂驩兜。渾敦、不開通之貌。○渾、戶本反。敦、徒本反。
【読み】
天下の民、之を渾敦と謂う。驩兜を謂う。渾敦は、開通せざるの貌。○渾は、戶本反。敦は、徒本反。

少暤氏有不才子。少暤、金天氏之號。次黃帝。
【読み】
少暤氏[しょうこうし]に不才子有り。少暤は、金天氏の號。黃帝に次ぐ。

毀信廢忠、崇飾惡言、靖譖庸回、服讒蒐慝、以誣盛德。崇、聚也。靖、安也。庸、用也。回、邪也。服、行也。蒐、隱也。慝、惡也。盛德、賢人也。○蒐、所留反。
【読み】
信を毀り忠を廢て、惡言を崇[あつ]め飾り、譖に靖んじ回を庸[もち]い、讒を服[おこな]い慝を蒐[かく]して、以て盛德を誣う。崇は、聚むるなり。靖は、安きなり。庸は、用ゆるなり。回は、邪なり。服は、行うなり。蒐は、隱すなり。慝は、惡なり。盛德は、賢人なり。○蒐は、所留反。

天下之民、謂之窮奇。謂共工。其行窮、其好奇。
【読み】
天下の民、之を窮奇と謂う。共工を謂う。其の行い窮し、其の好奇なり。

顓頊氏有不才子。不可敎訓、不知話言、話、善也。○話、戶怪反。
【読み】
顓頊氏[せんぎょくし]に不才子有り。敎訓す可からず、話言を知らず、話は、善きなり。○話は、戶怪反。

告之則頑、德義不入心。
【読み】
之に告ぐれば則ち頑、德義心に入らず。

舍之則嚚、不道忠信。○舍、音赦。
【読み】
之を舍つれば則ち嚚、忠信を道わず。○舍は、音赦。

傲很明德、以亂天常。天下之民、謂之檮杌。謂鯀。檮杌、頑凶無儔匹之貌。○檮、徒刀反。
【読み】
明德を傲很[ごうこん]して、以て天常を亂る。天下の民、之を檮杌[とうこつ]と謂う。鯀を謂う。檮杌は、頑凶にして儔匹無きの貌。○檮は、徒刀反。

此三族也、世濟其凶、增其惡名、以至于堯。堯不能去。方以宣公比堯、行父比舜。故言堯亦不能去、須賢臣而除之。
【読み】
此の三族や、世々其の凶を濟し、其の惡名を增して、以て堯に至れり。堯去ること能わず。方に宣公を以て堯に比し、行父を舜に比す。故に言う、堯も亦去ること能わず、賢臣を須ちて之を除く、と。

縉雲氏有不才子。縉雲、黃帝時官名。
【読み】
縉雲氏[しんうんし]に不才子有り。縉雲は、黃帝の時の官の名。

貪于飮食、冒于貨賄、侵欲崇侈、不可盈厭。聚斂積實、不知紀極。不分孤寡、不恤窮匱。冒、亦貪也。盈、滿也。實、財也。
【読み】
飮食を貪り、貨賄を冒[むさぼ]り、侵欲崇侈して、盈厭す可からず。聚斂して實を積みて、紀極を知らず。孤寡に分かたず、窮匱[きゅうき]を恤えず。冒も、亦貪るなり。盈は、滿つるなり。實は、財なり。

天下之民、以比三凶、非帝者子孫。故別以比三凶。
【読み】
天下の民、以て三凶に比して、帝者の子孫に非ず。故に別に以て三凶に比す。

謂之饕餮。貪財爲饕、貪食爲餮。○饕、他刀反。餮、他結反。
【読み】
之を饕餮[とうてつ]と謂う。財を貪るを饕と爲し、食を貪るを餮と爲す。○饕は、他刀反。餮は、他結反。

舜臣堯、爲堯臣。
【読み】
舜堯に臣として、堯の臣と爲る。

賓于四門、闢四門、達四聰、以賓禮衆賢。
【読み】
四門に賓し、四門を闢き、四聰を達して、以て衆賢を賓禮す。

流四凶族、案四凶罪狀而流放之。
【読み】
四凶の族を流し、四凶の罪狀を案じて之を流放す。

渾敦・窮奇・檮杌・饕餮、投諸四裔、以禦螭魅。投、棄也。裔、遠也。放之四遠、使當螭魅之災。螭魅、山林異氣所生、爲人害者。○螭、勑知反。魅、亡備反。
【読み】
渾敦・窮奇・檮杌・饕餮を、諸を四裔に投[す]てて、以て螭魅[ちみ]に禦[あ]てり。投は、棄つるなり。裔は、遠きなり。之を四遠に放ちて、螭魅の災に當たらしむ。螭魅は、山林異氣の生ずる所、人の害を爲せる者なり。○螭は、勑知反。魅は、亡備反。

是以堯崩而天下如一、同心戴舜、以爲天子、以其舉十六相、去四凶也。
【読み】
是を以て堯崩じて天下一の如く、心を同じくして舜を戴き、以て天子と爲せしは、其の十六相を舉げて、四凶を去りしを以てなり。

故虞書數舜之功、曰愼徽五典、五典克從、無違敎也。徽、美也。典、常也。此八元之功。
【読み】
故に虞書に舜の功を數えて、愼みて五典を徽[よ]くすれば、五典克く從えりと曰えるは、敎えに違えること無きなり。徽は、美きなり。典は、常なり。此れ八元の功なり。

曰納于百揆、百揆時序、無廢事也。此八愷之功。
【読み】
百揆を納るれば、百揆時[こ]れ序ずと曰えるは、事を廢つること無きなり。此れ八愷の功なり。

曰賓于四門、四門穆穆、無凶人也。流四凶。
【読み】
四門に賓すれば、四門穆穆たりと曰えるは、凶人無きなり。四凶を流す。

舜有大功二十而爲天子。舉十六相、去四凶也。
【読み】
舜は大功二十有りて天子と爲れり。十六相を舉げて、四凶を去るなり。

今行父雖未獲一吉人、去一凶矣。於舜之功、二十之一也。庶幾免於戾乎。史克激稱以辨宣公之惑、釋行父之志。故其言美惡有過辭。蓋事宜也。
【読み】
今行父は未だ一吉人を獲ずと雖も、一凶を去れり。舜の功に於て、二十の一なり。庶幾わくは戾[つみ]に免れんか、と。史克激稱して以て宣公の惑いを辨じて、行父の志を釋く。故に其の美惡を言うこと過辭有り。蓋し事の宜しきなり。

宋武氏之族道昭公子、將奉司城須以作亂。文公弑昭公。故武族欲因其子以作亂。司城須、文公弟。○道、導。
【読み】
宋の武氏の族昭公の子を道[みちび]き、將に司城須を奉じて以て亂を作さんとす。文公昭公を弑す。故に武の族其の子に因りて以て亂を作さんと欲す。司城須は、文公の弟。○道は、導く。

十二月、宋公殺母弟須及昭公子、使戴・莊・桓之族、攻武氏於司馬子伯之館。戴族、華樂也。莊族、公孫師也。桓族、向・魚・鱗・蕩也。司馬子伯、華耦也。○向、舒亮反。
【読み】
十二月、宋公母弟須と昭公の子とを殺し、戴・莊・桓の族をして、武氏を司馬子伯の館に攻めしむ。戴の族は、華樂なり。莊の族は、公孫師なり。桓の族は、向[しょう]・魚・鱗・蕩なり。司馬子伯は、華耦なり。○向は、舒亮反。

遂出武・穆之族。穆族黨於武氏故。
【読み】
遂に武・穆の族を出だす。穆の族武氏に黨ずる故なり。

使公孫師爲司城。公孫師、莊公之孫。
【読み】
公孫師をして司城爲らしむ。公孫師は、莊公の孫。

公子朝卒。使樂呂爲司寇、以靖國人。樂呂、戴公之曾孫。爲宣三年、宋師圍曹傳。
【読み】
公子朝卒す。樂呂をして司寇爲らしめて、以て國人を靖んず。樂呂は、戴公の曾孫。宣三年、宋の師曹を圍む爲の傳なり。



經十一年。缺。丘悅反。鹹。音咸。
傳。鄋。說文作。云、北方長狄國也。在夏爲防風氏。殷爲汪芒氏。字林、、一音先牢反。叔夏。戶雅反。僑如。本又作喬。蓋長。如字。又直亮反。其喉。音侯。以戈。古禾反。其處。昌呂反。而名。如字。或亡政反。御之。魚呂反。本亦作禦。○今本亦禦。稅。舒銳反。潞。音路。壽。如字。一音授。之種。章勇反。郕。音成。朱儒。如朱反。弗徇。似俊反。
經十二年。復稱。扶又反。一音服。皆陳。直覲反。蒲坂。音反。姑幕。音莫。
傳。不復。扶又反。未筓。古兮反。重之。直用反。珪璋。音章。瑞節。垂僞反。厚賄。呼罪反。令狐。力丁反。將中。子匠反。下皆同。欒。力官反。深壘。力軌反。曰穿。音川。年少。詩照反。肆焉。音四。禱求。丁老反。一音丁報反。裹糧。音果。軍帥。所類反。散位。悉但反。致爭。爭鬭之爭。將遁。徒困反。必敗。卑賣反。
經十三年。
傳。
詹。章廉反。令帥。力呈反。華陰。戶化反。難日。人實反。始將。子匠反。與夫。音扶。而還。音旋。于繹。音亦。傳世。直專反。傾頹。大回反。鰥寡。古頑反。鄘風。音容。捷。在接反。
經十四年。旣見。賢遍反。之竟。音境。王使。所吏反。
傳。懲。直升反。數也。音朔。盡其。津忍反。殺舍。如字。又音試。○今本弑。多畜。敕六反。本亦朔蓄。○今本亦蓄。憾。本又作感。戶暗反。將復。扶又反。宋殺。音試。下同。今本弑。乘。繩證反。立適。丁歷反。舒蓼。音了。廬。力於反。又音盧。戢棃。側立反。使與。音預。盡室。津忍反。以復。扶又反。尙少。詩照反。
經十五年。奉使。所吏反。
傳。爲單。于僞反。下皆同。贄幣。音至。使重。所吏反。亞旅。於嫁反。長庶。丁丈反。寘諸。之豉反。竟上。音境。不殯。必刃反。卞人。皮彥反。期年。居其反。共仲。音恭。聲己。音紀。史佚。音逸。毋絕。音無。仲說。音悅。孫蔑。亡結反。鼆。本又作黽。戾丘。力計反。去盛。起呂反。饌。仕眷反。等差。初佳反。又初宜反。拘執。音倶。怠解。佳賣反。且數。音朔。齊難。乃旦反。惡其。烏路反。己則。音紀。女何。音汝。
經十六年。巴人。心麻反。杵臼。强柳反。
傳。故壞。音怪。大饑。亦作飢。音機。訾枝。子斯反。百濮。音卜。阪高。音反。一音扶板反。無屯。徒門反。聚。才住反。又如字。見難。乃旦反。一音如字。自廬。力於反。又音盧。振廩。力甚反。澨。市世反。窗、初江反。王卒。子忽反。冒。莫報反。隰。音習。二隊。徒對反。石溪。苦兮反。本又作谿。子貝。補蓋反。今俗本多作員。音云。自仞。人愼反。子鮑。步卯反。以上。時掌反。不饋。其媿反。詒也。以支反。又以志反。而豔。移驗反。鮑適。丁歷反。庇。必利反。又悲位反。盍適。戶臘反。之稱。尺證反。其難。乃旦反。甸。徒遍反。故重。直用反。
經十七年。見殺。音試。本或作弑。下同。
傳。黃父。音甫。壤。如丈反。執訊。音信。言汲汲。音急。之適。丁歷反。比近。毗志反。餘幾。居豈反。之竟。音境。
經十八年。爲介。音界。諱殺。申志反。本或作弑。之稱。尺證反。
傳。欲令。力呈反。而刖。音月。又五刮反。斷其。丁管反。職驂。七南反。感激。古歷反。惡懿。烏路反。敬嬴。音盈。嬖。必計反。宣公長。丁丈反。仲見。賢遍反。復發。扶又反。殺適。丁歷反。諸竟。音境。大史。音泰。鷹。於陵反。鸇。之然反。說文、止仙反。字林、巳仙反。匿。女力反。帝顓。音專。頊。許玉反。苗裔。以制反。敳。韋昭音瑰。皐陶。音遙。八愷。開在反。伯奮。甫問反。仲熊。音雄。季貍。力之反。熊羆。彼皮反。宣徧。音遍。不隕。于敏反。隕隊。直類反。以揆。葵癸反。諸夏。戶雅反。好行。呼報反。驩。呼端反。兜。都侯反。少暤。詩照反。下胡老反。慝。他得反。回邪。似嗟反。共工。音恭。其行。下孟反。其好。呼報反。傲。五報反。很。戶墾反。杌、五忽反。謂鯀。古本反。能去。起呂反。盈厭。於豔反。窮匱。其媿反。闢四。婢亦反。四窗。七工反。本亦作聰。今本聰。以禦。魚呂反。戴。多代反。十六相。息亮反。去四。起呂反。數舜。色主反。愼徽。許歸反。激稱。古歷反。


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(引用文献)


江守孝三(Emori Kozo)