春秋左氏傳校本第十八
襄公 起二十六年盡二十八年
晉 杜氏 集解
唐 陸氏 音義
尾張 秦 鼎 校本
〔傳〕會于夷儀之歲、齊人城郟。在二十四年。不直言會夷儀者、別二十五年夷儀會。○郟、古洽反。
【読み】
〔傳〕夷儀に會するの歲、齊人郟[こう]に城く。二十四年に在り。直に夷儀に會すと言わざるは、二十五年の夷儀の會に別つなり。○郟は、古洽反。
其五月、秦・晉爲成。晉韓起如秦涖盟、秦伯車如晉涖盟。伯車、秦伯之弟、鍼也。○鍼、其廉反。
【読み】
其の五月、秦・晉成[たい]らぎを爲す。晉の韓起秦に如きて涖[のぞ]みて盟い、秦の伯車晉に如きて涖みて盟う。伯車は、秦伯の弟、鍼[けん]なり。○鍼は、其廉反。
成而不結。不結固也、傳爲後年脩成起本。當繼前年之末、而特跳此者、傳寫失之。釋文、跳、直彫反。附注、徒彫反。
【読み】
成らぎて結ばず。結固せざるなり、傳後年成らぎを脩むる爲の起本なり。當に前年の末に繼ぐべくして、特に此に跳[こ]えたるは、傳寫之を失えり。釋文、跳は、直彫反。附注、徒彫反。
〔經〕二十有六年、春、王二月、辛卯、衛甯喜弑其君剽。○剽、匹妙反。
【読み】
〔經〕二十有六年、春、王の二月、辛卯[かのと・う]、衛の甯喜其の君剽[ひょう]を弑す。○剽は、匹妙反。
衛孫林父入于戚以叛。衎雖未居位、林父專邑背國。猶爲叛也。
【読み】
衛の孫林父戚に入りて以て叛く。衎[かん]未だ位に居らずと雖も、林父邑を專にして國に背く。猶叛くと爲すなり。
甲午、衛侯衎復歸于衛。復其位曰復歸。名與不名、傳無義例。
【読み】
甲午[きのえ・うま]、衛侯衎[かん]衛に復歸す。其の位に復るを復歸と曰う。名いうと名いわざるとは、傳に義例無し。
夏、晉侯使荀吳來聘。吳、荀偃子。
【読み】
夏、晉侯荀吳をして來聘せしむ。吳は、荀偃の子。
公會晉人・鄭良霄・宋人・曹人于澶淵。卿會公侯、皆應貶。方責宋向戌後期。故書良霄以駮之。若皆稱人、則嫌向戌直以會公貶之。○澶、市延反。駮、邦角反。
【読み】
公晉人・鄭の良霄[りょうしょう]・宋人・曹人に澶淵[せんえん]に會す。卿の公侯に會するは、皆應に貶すべし。方に宋の向戌[しょうじゅつ]が期に後るるを責む。故に良霄を書して以て之を駮[ばく]す。若し皆人と稱すれば、則ち向戌も直に公に會するを以て之を貶するに嫌あればなり。○澶は、市延反。駮は、邦角反。
秋、宋公殺其世子痤。稱君以殺、惡其父子相殘害。○痤、才何反。惡、烏路反。
【読み】
秋、宋公其の世子痤[ざ]を殺す。君を稱して以て殺すは、其の父子相殘害するを惡みてなり。○痤は、才何反。惡は、烏路反。
晉人執衛甯喜。八月、壬午、許男甯卒于楚。未同盟、而赴以名。
【読み】
晉人衛の甯喜を執う。八月、壬午[みずのえ・うま]、許男甯楚に卒す。未だ同盟せずして、赴ぐるに名を以てす。
冬、楚子・蔡侯・陳侯伐鄭。葬許靈公。
【読み】
冬、楚子・蔡侯・陳侯鄭を伐つ。許の靈公を葬る。
〔傳〕二十六年、春、秦伯之弟鍼如晉脩成。脩會夷儀歲之成。
【読み】
〔傳〕二十六年、春、秦伯の弟鍼[けん]晉に如きて成らぎを脩む。夷儀に會する歲の成らぎを脩む。
叔向命召行人子員。欲使荅秦命。○員、音云。
【読み】
叔向[しゅくきょう]命じて行人子員[しうん]を召す。秦の命に荅えしめんと欲す。○員は、音云。
行人子朱曰、朱也當御。御、進也。言次當行。
【読み】
行人子朱曰く、朱や御に當たれり、と。御は、進むなり。言うこころは、次で行くに當たる。
三云。叔向不應。子朱怒曰、班爵同、同爲大夫。
【読み】
三たび云う。叔向應えず。子朱怒りて曰く、班爵同じきに、同じく大夫爲り。
何以黜朱於朝。黜、退也。
【読み】
何を以て朱を朝に黜けたる、と。黜は、退くなり。
撫劒從之。從叔向也。
【読み】
劒を撫して之に從う。叔向に從うなり。
叔向曰、秦・晉不和久矣。今日之事、幸而集、集、成。
【読み】
叔向曰く、秦・晉和せざること久し。今日の事、幸いにして集[な]らば、集は、成るなり。
晉國賴之。不集、三軍暴骨。子員道二國之言無私。子常易之。姦以事君者、吾所能御也。拂衣從之。拂衣、褰裳。○暴、蒲卜反。御、魚呂反。
【読み】
晉國之に賴らん。集らずんば、三軍骨を暴[さら]せん。子員は二國の言を道[い]いて私無し。子は常に之を易う。姦以て君に事うる者は、吾が能く御ぐ所なり、と。衣を拂いて之に從う。衣を拂うとは、裳を褰[かか]ぐるなり。○暴は、蒲卜反。御は、魚呂反。
人救之。
【読み】
人之を救う。
平公曰、晉其庶乎。庶幾於治。
【読み】
平公曰く、晉其れ庶[ちか]からんか。治まるに庶幾し。
吾臣之所爭者大。師曠曰、公室懼卑。臣不心競而力爭、謂二子不心競爲忠、而撫劒拂衣。
【読み】
吾が臣の爭う所の者大なり、と。師曠曰く、公室懼らくは卑しからん。臣心にて競わずして力にて爭い、二子心に競いて忠を爲さずして、劒を撫して衣を拂うを謂う。
不務德而爭善。爭謂所行爲善。
【読み】
德を務めずして爭いて善とす。爭いて行う所を謂いて善と爲す。
私欲已侈。能無卑乎。私欲侈則公義廢。○侈、昌氏反。
【読み】
私欲已[はなは]だ侈れり。能く卑しきこと無からんや、と。私欲侈れば則ち公義廢す。○侈は、昌氏反。
衛獻公使子鮮爲復。使爲己求反國。○鮮、音仙。爲、于僞反。注同。
【読み】
衛の獻公子鮮をして爲に復らしむ。己が爲に國に反らんことを求めしむ。○鮮は、音仙。爲は、于僞反。注も同じ。
辭。辭不能。
【読み】
辭す。能わずと辭す。
敬姒强命之。敬姒、獻公及子鮮之母。○强、其丈反。
【読み】
敬姒[けいじ]强いて之に命ず。敬姒は、獻公と子鮮との母。○强は、其丈反。
對曰、君無信。臣懼不免。敬姒曰、雖然、以吾故也。許諾。
【読み】
對えて曰く、君信無し。臣免れざらんことを懼る、と。敬姒曰く、然りと雖も、吾が故を以てせよ、と。許諾す。
初、獻公使與甯喜言。言復國。
【読み】
初め、獻公甯喜と言わしむ。國に復らんことを言う。
甯喜曰、必子鮮在。不然、必敗。子鮮賢。國人信之。必欲使在其閒。
【読み】
甯喜曰く、必ず子鮮在れ。然らずんば、必ず敗れん、と。子鮮賢なり。國人之を信ず。必ず其の閒に在らしめんと欲す。
故公使子鮮。子鮮不獲命於敬姒、不得止命。
【読み】
故に公子鮮をせしむ。子鮮命を敬姒に獲ず、止命を得ず。
以公命與甯喜言。曰、苟反、政由甯氏。祭則寡人。
【読み】
公命を以て甯喜と言う。曰く、苟も反らば、政は甯氏に由らん。祭は則ち寡人なり、と。
甯喜告蘧伯玉。伯玉曰、瑗不得聞君之出。敢聞其入。十四年、孫氏欲逐獻公。瑗走從近關出。○瑗、于眷反。
【読み】
甯喜蘧伯玉に告ぐ。伯玉曰く、瑗[えん]は君の出づるを聞くことを得ざりき。敢えて其の入るを聞かんや、と。十四年、孫氏獻公を逐わんと欲す。瑗走りて近關より出づ。○瑗は、于眷反。
遂行、從近關出。告右宰穀。衛大夫。
【読み】
遂に行[さ]り、近關より出づ。右宰穀に告ぐ。衛の大夫。
右宰穀曰、不可。獲罪於兩君、前出獻公、今弑剽。
【読み】
右宰穀曰く、不可なり。罪を兩君に獲ば、前に獻公を出だし、今剽を弑す。
天下誰畜之。畜、猶容也。○畜、許六反。
【読み】
天下誰か之を畜[やしな]わん、と。畜は、猶容るるのごとし。○畜は、許六反。
悼子曰、吾受命於先人。不可以貳。悼子、甯喜也。受命、在二十年。
【読み】
悼子曰く、吾れ命を先人に受けたり。以て貳ある可からず、と。悼子は、甯喜なり。命を受くること、二十年に在り。
穀曰、我請使焉而觀之。觀、知可還否。○使、所吏反。還、音環。
【読み】
穀曰く、我れ請う、使いして之を觀ん、と。觀るは、還る可きや否やを知るなり。○使は、所吏反。還は、音環。
遂見公於夷儀。反曰、君淹恤在外十二年矣。淹、久也。
【読み】
遂に公に夷儀に見ゆ。反りて曰く、君淹恤して外に在ること十二年なり。淹は、久しきなり。
而無憂色、亦無寬言、猶夫人也。言其爲人猶如故。○夫、音扶。
【読み】
而るに憂色無く、亦寬言無く、猶夫の人なり。言うこころは、其の人と爲り猶故の如し。○夫は、音扶。
若不已、死無日矣。已、止也。
【読み】
若し已まずんば、死せんこと日無けん、と。已は、止むなり。
悼子曰、子鮮在。右宰穀曰、子鮮在何益。多而能亡。於我何爲。言子鮮爲義、多不過亡出。
【読み】
悼子曰く、子鮮在り、と。右宰穀曰く、子鮮在りて何の益あらん。多くとも能く亡せんのみ。我に於て何をかせん、と。言うこころは、子鮮が義を爲す、多くとも亡出するに過ぎず。
悼子曰、雖然、不可以已。
【読み】
悼子曰く、然りと雖も、以て已む可からず、と。
孫文子在戚、孫嘉聘於齊、孫襄居守。二子、孫文子之子。
【読み】
孫文子は戚に在り、孫嘉は齊に聘し、孫襄のみ居守す。二子は、孫文子の子。
二月、庚寅、甯喜・右宰穀伐孫氏。不克。伯國傷。伯國、孫襄也。父兄皆不在。故乘弱攻之。
【読み】
二月、庚寅[かのえ・とら]、甯喜・右宰穀孫氏を伐つ。克たず。伯國傷つく。伯國は、孫襄なり。父兄皆在らず。故に弱みに乘じて之を攻む。
甯子出舍於郊。欲奔。
【読み】
甯子出でて郊に舍[やど]る。奔らんと欲す。
伯國死、孫氏夜哭。國人召甯子。甯子復攻孫氏克之。辛卯、殺子叔及大子角。子叔、衛侯剽。言子叔、剽無謚故。
【読み】
伯國死して、孫氏夜哭す。國人甯子を召ぶ。甯子復孫氏を攻めて之に克つ。辛卯、子叔と大子角とを殺す。子叔は、衛侯剽。子叔と言うは、剽謚無き故なり。
書曰甯喜弑其君剽、言罪之在甯氏也。嫌受父命納舊君無罪。故發之。
【読み】
書して甯喜其の君剽を弑すと曰うは、罪の甯氏に在るを言うなり。父の命を受けて舊君を納るるは罪無きに嫌あり。故に之を發す。
孫林父以戚如晉。以邑屬晉。
【読み】
孫林父戚を以て晉に如く。邑を以て晉に屬す。
書曰入于戚以叛、罪孫氏也。
【読み】
書して戚に入り以[い]て叛くと曰うは、孫氏を罪するなり。
臣之祿、君實有之。義則進、否則奉身而退。專祿以周旋、戮也。林父事剽而衎入。義可以退。唯以專邑自隨爲罪。故傳發之。
【読み】
臣の祿は、君實に之を有つ。義なれば則ち進み、否らざれば則ち身を奉じて退かんのみ。祿を專にして以て周旋するは、戮[つみ]なり。林父剽に事えて衎入る。義以て退く可し。唯邑を專にして自ら隨うるを以て罪と爲す。故に傳之を發す。
甲午、衛侯入。書曰復歸、國納之也。本晉納之夷儀。今從夷儀入國。嫌若晉所納。故發國納之例、言國之所納、而復其位。
【読み】
甲午、衛侯入る。書して復歸すと曰うは、國之を納るればなり。本晉之を夷儀に納る。今夷儀より國に入る。晉の納るる所の若きに嫌あり。故に國納の例を發して、國の納るる所にして、其の位に復るを言う。
大夫逆於竟者、執其手而與之言、道逆者、自車揖之、逆於門者、頷之而已。頷、搖其頭。言衎驕心易生。○竟、音境。頷、五感反。
【読み】
大夫の竟に逆うる者には、其の手を執りて之と言い、道に逆うる者には、車より之を揖し、門に逆うる者には、之を頷するのみ。頷は、其の頭を搖[うご]かすなり。衎の驕心生じ易きを言う。○竟は、音境。頷は、五感反。
公至。使讓大叔文子曰、寡人淹恤在外、二三子皆使寡人、朝夕聞衛國之言、二三子、諸大夫。
【読み】
公至る。大叔文子を讓[せ]めしめて曰く、寡人淹恤して外に在るとき、二三子皆寡人をして、朝夕衛國の言を聞かしめしに、二三子は、諸大夫。
吾子獨不在寡人。在、存問之。公聞文子答甯喜之言。故忿之。
【読み】
吾子獨り寡人に在らず。在とは、之を存問するなり。公文子甯喜に答うるの言を聞く。故に之を忿るなり。
古人有言曰、非所怨勿怨。寡人怨矣。所怨在親親。
【読み】
古人言えること有り曰く、怨むる所に非ざれば怨むること勿かれ、と。寡人怨む、と。怨むる所は親親に在り。
對曰、臣知罪矣。臣不佞、不能負羈絏以從扞牧圉。臣之罪一也。有出者、有居者、出、謂衎、居、謂剽也。○絏、息列反。扞、戶幹反。
【読み】
對えて曰く、臣罪を知れり。臣不佞、羈絏[きせつ]を負いて以て從いて牧圉を扞[まも]ること能わず。臣の罪一なり。出づる者有り、居る者有り、出づるとは、衎を謂い、居るとは、剽を謂うなり。○絏は、息列反。扞は、戶幹反。
臣不能貳通外内之言以事君。臣之罪二也。有二罪。敢忘其死。乃行、從近關出。公使止之。傳言衛侯不能安和大臣。
【読み】
臣貳ありて外内の言を通じて以て君に事うること能わず。臣の罪二なり。二罪有り。敢えて其の死を忘れんや、と。乃ち行[さ]り、近關より出づ。公之を止めしむ。傳衛侯大臣を安和すること能わざるを言う。
衛人侵戚東鄙。以林父叛故。
【読み】
衛人戚の東鄙を侵す。林父の叛くを以ての故なり。
孫氏愬于晉。晉戍茅氏。茅氏、戚東鄙。
【読み】
孫氏晉に愬[うった]う。晉茅氏[ぼうし]を戍[まも]る。茅氏は、戚の東鄙。
殖綽伐茅氏、殺晉戍三百人。殖綽、齊人。今來在衛。
【読み】
殖綽茅氏を伐ち、晉の戍三百人を殺す。殖綽は、齊人。今來りて衛に在り。
孫蒯追之、弗敢擊。文子曰、厲之不如。厲、惡鬼也。
【読み】
孫蒯之を追い、敢えて擊たず。文子曰く、厲にだも如かず、と。厲は、惡鬼なり。
遂從衛師、敗之圉、蒯感父言、更還遂殖綽。圉、衛地。
【読み】
遂に衛の師を從いて、之を圉[ぎょ]に敗り、蒯父の言に感じて、更に還りて殖綽を遂う。圉は、衛の地。
雍鉏獲殖綽。雍鉏、孫氏臣。
【読み】
雍鉏殖綽を獲たり。雍鉏は、孫氏の臣。
復愬于晉。爲下晉討衛張本。
【読み】
復晉に愬う。下の晉衛を討ずる爲の張本なり。
鄭伯賞入陳之功、入陳、在前年。
【読み】
鄭伯陳に入るの功を賞し、陳に入るは、前年に在り。
三月、甲寅、朔、享子展、賜之先路三命之服、先路・次路、皆王所賜車之總名。蓋請之於王。
【読み】
三月、甲寅[きのえ・とら]、朔、子展を享して、之に先路三命の服を賜いて、先路・次路は、皆王の賜う所の車の總名。蓋し之を王に請いしならん。
先八邑。以路及命服爲邑先。八邑、三十二井。○先、悉薦反。
【読み】
八邑に先だつ。路と命服とを以て邑の先と爲す。八邑は、三十二井。○先は、悉薦反。
賜子產次路再命之服、先六邑。子產辭邑曰、自上以下、隆殺以兩、禮也。臣之位在四。上卿、子展。次卿、子西。十一年、良霄見經。十九年、乃立子產爲卿。故位在四。○殺、所界反。
【読み】
子產に次路再命の服を賜いて、六邑に先だつ。子產邑を辭して曰く、上より以下、隆殺兩を以てするは、禮なり。臣の位四に在り。上卿は、子展。次卿は、子西。十一年に、良霄[りょうしょう]經に見ゆ。十九年に、乃ち子產を立てて卿と爲す。故に位四に在り。○殺は、所界反。
且子展之功也。臣不敢及賞禮。請辭邑。賞禮、以禮見賞。謂六邑也。
【読み】
且つ子展の功なり。臣敢えて賞禮に及ばず。請う、邑を辭す、と。賞禮は、禮を以て賞せらるなり。六邑を謂うなり。
公固予之。乃受三邑。位次當受二邑。以公固與之、故受三邑。
【読み】
公固く之に予う。乃ち三邑を受く。位次當に二邑を受くべし。公固く之を與うるを以て、故に三邑を受く。
公孫揮曰、子產其將知政矣。知國政。
【読み】
公孫揮曰く、子產其れ將に政を知らんとす。國政を知る。
讓不失禮。
【読み】
讓りて禮を失わず、と。
晉人爲孫氏故、召諸侯。將以討衛也。
【読み】
晉人孫氏の爲の故に、諸侯を召す。將に以て衛を討ぜんとするなり。
夏、中行穆子來聘、召公也。召公爲澶淵會。
【読み】
夏、中行穆子來聘するは、公を召すなり。公を召して澶淵の會を爲す。
楚子・秦人侵吳、及雩婁、聞吳有備而還。雩婁、今屬安豐郡。○婁、如字。徐力倶反。
【読み】
楚子・秦人吳を侵して、雩婁[うろう]に及び、吳備え有りと聞きて還る。雩婁は、今安豐郡に屬す。○婁は、字の如し。徐力倶反。
遂侵鄭。
【読み】
遂に鄭を侵す。
五月、至于城麇。鄭皇頡戍之、皇頡、鄭大夫。守城麇之邑。○麇、九倫反。頡、戶結反。
【読み】
五月、城麇[じょうきん]に至る。鄭の皇頡[こうけつ]之を戍り、皇頡は、鄭の大夫。城麇の邑を守る。○麇は、九倫反。頡は、戶結反。
出與楚師戰、敗。穿封戌囚皇頡、公子圍與之爭之、公子圍、共王子、靈王也。○戌、音恤。
【読み】
出でて楚の師と戰いて、敗らる。穿封戌[せんほうじゅつ]皇頡を囚えて、公子圍之と之を爭い、公子圍は、共王の子、靈王なり。○戌は、音恤。
正於伯州犂。正曲直也。
【読み】
伯州犂[はくしゅうれい]に正す。曲直を正すなり。
伯州犂曰、請問於囚。乃立囚。伯州犂曰、所爭君子也。其何不知。言王子圍及穿封戌、皆非細人。易別識也。
【読み】
伯州犂曰く、請う、囚に問わん、と。乃ち囚を立つ。伯州犂曰く、爭う所は君子なり。其れ何ぞ知らざらん、と。言うこころは、王子圍と穿封戌とは、皆細人に非ず。別識し易きなり。
上其手曰、夫子爲王子圍。寡君之貴介弟也。介、大也。
【読み】
其の手を上げて曰く、夫子を王子圍と爲す。寡君の貴介弟なり、と。介は、大なり。
下其手曰、此子爲穿封戌。方城外之縣尹也。誰獲子。上下手以道囚意。
【読み】
其の手を下げて曰く、此の子を穿封戌と爲す。方城外の縣尹なり。誰か子を獲たる、と。手を上下して以て囚の意を道[みちび]く。
囚曰、頡遇王子弱焉。弱、敗也。言爲王子所得。
【読み】
囚曰く、頡王子に遇いて弱[やぶ]れたり、と。弱は、敗るるなり。言うこころは、王子の爲に得らる。
戌怒、抽戈逐王子圍。弗及。楚人以皇頡歸。
【読み】
戌怒り、戈を抽きて王子圍を逐う。及ばず。楚人皇頡を以[い]て歸る。
印堇父與皇頡戍城麇。印堇父、鄭大夫。
【読み】
印堇父[いんきんぽ]皇頡と城麇を戍る。印堇父は、鄭の大夫。
楚人囚之以獻於秦。鄭人取貨於印氏以請之。子大叔爲令正。主作辭令之正。
【読み】
楚人之を囚えて以て秦に獻ず。鄭人貨を印氏に取りて以て之を請わんとす。子大叔令正爲り。辭令を作ることを主るの正。
以爲請。子產曰、不獲。謂大叔辭以貨請堇父必不得。○爲、去聲。
【読み】
以て爲に請わんとす。子產曰く、獲られざらん。大叔の辭にて貨を以て堇父を請うも必ず得られざるを謂う。○爲は、去聲。
受楚之功、而取貨於鄭、不可謂國。秦不其然。受楚獻功、大名也。以貨免之、小利也。故謂秦不爾。
【読み】
楚の功を受けて、貨を鄭に取らば、國と謂う可からず。秦其れ然らざらん。楚の功を獻ずるを受くるは、大名なり。貨を以て之を免すは、小利なり。故に秦爾らずと謂う。
若曰拜君之勤。鄭國微君之惠、楚師其猶在敝邑之城下、其可。辭如此、堇父可得。
【読み】
若し君の勤めたるを拜す。鄭國君の惠み微かりせば、楚の師は其れ猶敝邑の城下に在らんと曰わば、其れ可ならん、と。辭此の如くにして、堇父得可し。
弗從。遂行。秦人不予。更幣、從子產、而後獲之。更遣使執幣、用子產辭、乃得堇父。傳稱子產之善。
【読み】
從わず。遂に行く。秦人予えず。更に幣して、子產に從いて、而して後に之を獲たり。更に使いを遣わして幣を執りて、子產の辭を用いて、乃ち堇父を得たり。傳子產の善きを稱す。
六月、公會晉趙武・宋向戌・鄭良霄・曹人于澶淵以討衛、疆戚田。正戚之封疆。
【読み】
六月、公晉の趙武・宋の向戌・鄭の良霄・曹人に澶淵に會して以て衛を討じて、戚の田を疆う。戚の封疆を正しくす。
取衛西鄙懿氏六十以與孫氏。戚城西北五十里有懿城。因姓以名城。取田六十井也。
【読み】
衛の西鄙懿氏六十を取りて以て孫氏に與う。戚城の西北五十里に懿城有り。姓に因りて以て城に名づく。田六十井を取るなり。
趙武不書、尊公也。罪武會公侯。
【読み】
趙武書さざるは、公を尊びてなり。武が公侯に會するを罪す。
向戌不書、後也。後會期。
【読み】
向戌書さざるは、後れたればなり。會期に後るるなり。
鄭先宋、不失所也。如期至。
【読み】
鄭宋に先だつは、所を失わざればなり。期の如くにして至る。
於是衛侯會之。晉將執之、不得與會。故不書。
【読み】
是に於て衛侯之に會す。晉將に之を執えんとして、會に與ることを得ず。故に書さず。
晉人執寧喜・北宮遺、使女齊以先歸。討其弑君伐孫氏也。遺、北宮括之子。女齊、司馬侯。歸晉而後告諸侯。故經書在秋。○女、音汝。
【読み】
晉人寧喜・北宮遺を執え、女齊をして以て先ず歸らしむ。其の君を弑し孫氏を伐つを討ずるなり。遺は、北宮括の子。女齊は、司馬侯。晉に歸りて後に諸侯に告ぐ。故に經には書して秋に在り。○女は、音汝。
衛侯如晉。晉人執而囚之於士弱氏。士弱、晉主獄大夫。
【読み】
衛侯晉に如く。晉人執えて之を士弱氏に囚う。士弱は、晉の獄を主る大夫。
秋、七月、齊侯・鄭伯爲衛侯故、如晉。欲共請之。
【読み】
秋、七月、齊侯・鄭伯衛侯の爲の故に、晉に如く。共に之を請わんと欲す。
晉侯兼享之。晉侯賦嘉樂。嘉樂、詩大雅。取其嘉樂君子、顯顯令德、宜民宜人、受祿于天。○嘉、戶嫁反。
【読み】
晉侯兼ねて之を享す。晉侯嘉樂を賦す。嘉樂は、詩の大雅。其の嘉樂の君子、顯顯たる令德あり、民に宜しく人に宜しく、祿を天に受くるというに取る。○嘉は、戶嫁反。
國景子相齊侯、景子、國弱。
【読み】
國景子齊侯を相けて、景子は、國弱。
賦蓼蕭。蓼蕭、詩小雅。言大平澤及遠、若露之在蕭。以喩晉君恩澤及諸侯。○蓼、音六。
【読み】
蓼蕭[りくしょう]を賦す。蓼蕭は、詩の小雅。言うこころは、大平の澤遠くに及ぶこと、露の蕭に在るが若し。以て晉君の恩澤諸侯に及ぶに喩う。○蓼は、音六。
子展相鄭伯、賦緇衣。緇衣、詩鄭風。義取適子之館兮、還予授子之粲兮。言不敢違遠於晉。
【読み】
子展鄭伯を相けて、緇衣[しい]を賦す。緇衣は、詩の鄭風。義子の館に適き、還らば予れ子に粲[さん]を授けんというに取る。言うこころは、敢えて晉に違遠せざるなり。
叔向命晉侯拜二君。曰、寡君敢拜齊君之安我先君之宗祧也、敢拜鄭君之不貳也。蓼蕭・緇衣、二詩所趣各不同。故拜二君辭異。
【読み】
叔向晉侯に命じて二君を拜せしむ。曰く、寡君敢えて齊君の我が先君の宗祧[そうちょう]を安んずるを拜し、敢えて鄭君の貳あらざるを拜す、と。蓼蕭・緇衣、二詩の趣く所各々同じからず。故に二君を拜するの辭異なり。
國子使晏平仲私於叔向、私與叔向語。
【読み】
國子晏平仲をして叔向に私せしめて、私に叔向と語る。
曰、晉君宣其明德於諸侯、恤其患而補其闕、正其違而治其煩。所以爲盟主也。今爲臣執君。若之何。謂晉爲林父執衛侯。
【読み】
曰く、晉君其の明德を諸侯に宣べ、其の患えを恤えて其の闕くるを補い、其の違えるを正しくして其の煩わしきを治む。盟主爲る所以なり。今臣の爲に君を執う。之を若何、と。晉林父が爲に衛侯を執うるを謂う。
叔向告趙文子。文子以告晉侯。晉侯言衛侯之罪、使叔向告二君。言自以殺晉戍三百人爲罪。不以林父故。
【読み】
叔向趙文子に告ぐ。文子以て晉侯に告ぐ。晉侯衛侯の罪を言いて、叔向をして二君に告げしむ。言うこころは、自ら晉の戍三百人を殺すを以て罪と爲す。林父の故を以てせず。
國子賦轡之柔矣。逸詩。見周書。義取寬政以安諸侯、若柔轡之御剛馬。
【読み】
國子轡之柔矣[ひしじゅうし]を賦す。逸詩。周書に見ゆ。義寬政以て諸侯を安んずること、柔轡の剛馬を御するが若くなるに取る。
子展賦將仲子兮。將仲子、詩鄭風。義取衆言可畏。衛侯雖別有罪、而衆人猶謂晉爲臣執君。○將、七羊反。
【読み】
子展將仲子兮[しょうちゅうしけい]を賦す。將仲子は、詩の鄭風。義衆言畏る可しというに取る。衛侯別に罪有りと雖も、而れども衆人猶晉を臣の爲に君を執うと謂わん。○將は、七羊反。
晉侯乃許歸衛侯。
【読み】
晉侯乃ち衛侯を歸さんことを許す。
叔向曰、鄭七穆、罕氏其後亡者也。子展儉而壹。子展、鄭子罕之子。居身儉、而用心壹。鄭穆公十一子。子然、二子孔、三族已亡。子羽不爲卿。故唯言七穆。○鄭七穆、謂子展公孫舍之、罕氏也。子西公孫夏、駟氏也。子產公孫僑、國氏也。伯有良霄、良氏也。子大叔游吉、游氏也。子石公孫段、豐氏也。伯石印段、印氏也。穆公十一子、謂子良公子去疾也。子罕公子喜也。子駟公子騑也。子國公子發也。子孔公子嘉也。子游公子偃也。子豐也。子印也。子羽也。子然也。士子孔也。子然二子孔已亡、子羽不爲卿。故止七也。
【読み】
叔向曰く、鄭の七穆にては、罕氏は其れ後に亡びん者なり。子展儉にして壹なり、と。子展は、鄭の子罕の子。身を居くこと儉にして、心を用ゆること壹なり。鄭の穆公十一子あり。子然と、二りの子孔の、三族は已に亡ぶ。子羽は卿爲らず。故に唯七穆と言う。○鄭の七穆は、子展公孫舍之は、罕氏なり。子西公孫夏は、駟氏なり。子產公孫僑は、國氏なり。伯有良霄は、良氏なり。子大叔游吉は、游氏なり。子石公孫段は、豐氏なり。伯石印段は、印氏なりと謂う。穆公十一子は、子良公子去疾なり。子罕公子喜なり。子駟公子騑なり。子國公子發なり。子孔公子嘉なり。子游公子偃なり。子豐なり。子印なり。子羽なり。子然なり。士子孔なりと謂う。子然二子孔已に亡び、子羽卿爲らず。故に止[ただ]七なり。
初、宋芮司徒生女子。芮司徒、宋大夫。○芮、如銳反。
【読み】
初め、宋の芮司徒[ぜいしと]女子を生む。芮司徒は、宋の大夫。○芮は、如銳反。
赤而毛。棄諸堤下。共姬之妾取以入、共姬、宋伯姬也。
【読み】
赤くして毛あり。諸を堤下に棄つ。共姬の妾取りて以て入り、共姬は、宋の伯姬なり。
名之曰棄。長而美。平公入夕。平公、共姬子也。○長、長丈反。
【読み】
之を名づけて棄と曰う。長じて美なり。平公入りて夕す。平公は、共姬の子なり。○長は、長丈反。
共姬與之食。公見棄也、而視之尤。尤、甚也。
【読み】
共姬之と食う。公棄を見て、之を視て尤[はなは]だし。尤は、甚だなり。
姬納諸御。嬖。生佐。佐、元公。
【読み】
姬諸を御に納る。嬖せらる。佐を生む。佐は、元公。
惡而婉。佐貌惡而心順。
【読み】
惡[みにく]くして婉なり。佐貌惡くして心順なり。
大子痤美而很。貌美而心很戾。○很、胡懇反。
【読み】
大子痤美にして很[こん]なり。貌美にして心很戾なり。○很は、胡懇反。
合左師畏而惡之。合左師、向戌。○惡、烏路反。
【読み】
合左師畏れて之を惡む。合左師は、向戌。○惡は、烏路反。
寺人惠牆伊戾爲大子内師而無寵。惠牆、氏。伊戾、名。
【読み】
寺人惠牆伊戾大子の内師として寵無し。惠牆は、氏。伊戾は、名。
秋、楚客聘於晉、過宋。上已有秋、復發傳者、中閒有初、不言秋、則嫌楚客過在他年。
【読み】
秋、楚の客晉に聘して、宋を過ぐ。上已に秋有り、復傳を發するは、中閒に初有れば、秋を言わざれば、則ち楚の客の過ぐること他年に在るに嫌あり。
大子知之。請野享之。公使往。伊戾請從之。公曰、夫不惡女乎。夫、謂大子也。○夫、音扶。女、音汝。
【読み】
大子之を知る。野にして之を享せんと請う。公往かしむ。伊戾之に從わんと請う。公曰く、夫[かれ]女を惡まずや、と。夫は、大子を謂うなり。○夫は、音扶。女は、音汝。
對曰、小人之事君子也、惡之不敢遠、好之不敢近、敬以待命。敢有貳心乎。縱有共其外、莫共其内。伊戾爲大子内師。不行、恐内侍廢闕。○遠、于萬反。好、呼報反。
【読み】
對えて曰く、小人の君子に事うるや、之に惡まるも敢えて遠ざからず、之に好んぜらるも敢えて近づかず、敬して以て命を待つのみ。敢えて貳心有らんや。縱[たと]い其の外に共すること有りとも、其の内に共すること莫からん。伊戾は大子の内師爲り。行かずんば、恐らくは内侍廢闕せん。○遠は、于萬反。好は、呼報反。
臣請往也。遣之。至則欿用牲、加書徵之、詐作盟處、爲大子反。徵、驗也。○欿、古感反。
【読み】
臣請う、往かん、と。之を遣る。至れば則ち欿[あな]して牲を用い、書を加えて之を徵とし、詐りて盟處を作り、大子反すと爲す。徵は、驗なり。○欿は、古感反。
而騁告公、騁、馳也。○騁、勑景反。
【読み】
騁[は]せて公に告げて、騁[てい]は、馳すなり。○騁は、勑景反。
曰、大子將爲亂。旣與楚客盟矣。公曰、爲我子。又何求。對曰、欲速。言欲速得公位。
【読み】
曰く、大子將に亂を爲さんとす。旣に楚の客と盟えり、と。公曰く、我が子爲り。又何をか求めん、と。對えて曰く、速やかならんことを欲するなり、と。言うこころは、速やかに公位を得んことを欲するなり。
公使視之、則信有焉。有盟徵也。
【読み】
公之を視せしむれば、則ち信に焉れ有り。盟徵有るなり。
問諸夫人與左師、夫人、佐母、棄也。
【読み】
諸を夫人と左師とに問えば、夫人は、佐の母、棄なり。
則皆曰、固聞之。公囚大子。大子曰、唯佐也能免我。以其婉也。
【読み】
則ち皆曰く、固より之を聞けり、と。公大子を囚う。大子曰く、唯佐や能く我を免れしめん、と。其の婉なるを以てなり。
召而使請。曰、日中不來、吾知死矣。左師聞之、聒而與之語。聒、讙也。欲使佐失期。○讙、呼端反。
【読み】
召して請わしめんとす。曰く、日中まで來らずんば、吾れ死することを知らん、と。左師之を聞きて、聒[かまびす]しくして之と語る。聒[かつ]は、讙しきなり。佐をして期を失わしめんと欲す。讙[かん]は、呼端反。
過期。乃縊而死。佐爲大子。公徐聞其無罪也、乃亨伊戾。
【読み】
期を過ぐ。乃ち縊れて死す。佐大子と爲る。公徐[ようや]く其の罪無きを聞き、乃ち伊戾を亨[に]る。
左師見夫人之步馬者、步馬、習馬。○縊、一賜反。亨、普彭反。
【読み】
左師夫人の馬を步まする者を見て、馬を步まするとは、馬を習わすなり。○縊は、一賜反。亨は、普彭反。
問之。對曰、君夫人氏也。左師曰、誰爲君夫人。余胡弗知。圉人歸以告夫人。夫人使饋之錦與馬、先之以玉、以玉爲錦馬之先。○先、悉薦反。又如字。
【読み】
之を問う。對えて曰く、君夫人氏のなり、と。左師曰く、誰をか君夫人と爲せる。余胡ぞ知らざらん、と。圉人歸りて以て夫人に告ぐ。夫人之に錦と馬とを饋り、之に先んずるに玉を以てして、玉を以て錦馬の先とす。○先は、悉薦反。又字の如し。
曰君之妾棄使某獻、左師改命曰君夫人、而後再拜稽首受之。左師令使者改命也。傳言宋公闇、左師諛、大子所以無罪而死。
【読み】
君の妾棄某をして獻ぜしむと曰わば、左師命を改めて君夫人と曰わせて、而して後に再拜稽首して之を受けり。左師使者をして命を改めしむるなり。傳宋公闇く、左師諛いて、大子罪無くして死する所以を言う。
鄭伯歸自晉、請衛侯歸。
【読み】
鄭伯晉より歸り、衛侯を請いて歸る。
使子西如晉聘。辭曰、寡君來煩執事。懼不免於戾。言自懼失敬於大國而得罪。
【読み】
子西をして晉に如きて聘せしむ。辭して曰く、寡君來りて執事を煩わせり。戾[つみ]に免れざらんことを懼る。言うこころは、自ら敬を大國に失して罪を得ざらんことを懼る。
使夏謝不敏。夏、子西名。
【読み】
夏をして不敏を謝せしむ、と。夏は、子西の名。
君子曰、善事大國。將求於人、必先下之。言鄭所以能自安。
【読み】
君子曰く、善く大國に事えり、と。將に人に求めんとすれば、必ず先ず之に下る。鄭の能く自ら安んずる所以を言う。
初、楚伍參與蔡大師子朝友。其子伍舉與聲子相善也。聲子、子朝之子。伍舉、子胥祖父、椒舉也。○朝、如字。
【読み】
初め、楚の伍參蔡の大師子朝と友たり。其の子伍舉聲子と相善し。聲子は、子朝の子。伍舉は、子胥の祖父、椒舉なり。○朝は、字の如し。
伍舉娶於王子牟。王子牟爲申公而亡。獲罪出奔。
【読み】
伍舉王子牟[ぼう]に娶る。王子牟申公と爲りて亡ぐ。罪を獲て出奔す。
楚人曰、伍舉實送之。伍舉奔鄭。將遂奔晉。聲子將如晉、遇之於鄭郊、班荆相與食、而言復故。班、布也。布荆坐地、共議歸楚事。朋友世親。
【読み】
楚人曰く、伍舉實に之を送れり、と。伍舉鄭に奔る。將に遂に晉に奔らんとす。聲子將に晉に如かんとし、之に鄭の郊に遇い、荆を班[し]きて相與に食いて、復らん故[こと]を言う。班は、布くなり。荆を布きて地に坐して、共に楚に歸る事を議す。朋友世々親しければなり。
聲子曰、子行也。吾必復子。及宋向戌將平晉・楚、平、在明年。
【読み】
聲子曰く、子行け。吾れ必ず子を復さん、と。宋の向戌が將に晉・楚を平らげんとするに及びて、平らぐるは、明年に在り。
聲子通使於晉。爲國通平事。
【読み】
聲子使いを晉に通ず。國の爲に平事を通ずるなり。
還、如楚。令尹子木與之語、問晉故焉、故、事。
【読み】
還りて、楚に如く。令尹子木之と語り、晉の故を問い、故は、事。
且曰、晉大夫與楚孰賢。對曰、晉卿不如楚、其大夫則賢。皆卿材也。如杞梓・皮革自楚往也。杞梓、皆木名。
【読み】
且つ曰く、晉の大夫と楚の孰れか賢れる、と。對えて曰く、晉の卿は楚に如かざれども、其の大夫は則ち賢なり。皆卿の材なり。杞梓・皮革の楚より往くが如し。杞梓は、皆木の名。
雖楚有材、晉實用之。言楚亡臣多在晉。
【読み】
楚に材有りと雖も、晉實に之を用いたり、と。言うこころは、楚の亡臣多く晉に在り。
子木曰、夫獨無族姻乎。夫、謂晉。
【読み】
子木曰く、夫[かれ]獨り族姻無からんや、と。夫は、晉を謂う。
對曰、雖有、而用楚材實多。
【読み】
對えて曰く、有りと雖も、而れども楚の材を用ゆること實に多し。
歸生聞之、歸生、聲子名。
【読み】
歸生之を聞く、歸生は、聲子の名。
善爲國者、賞不僭而刑不濫。賞僭、則懼及淫人、刑濫、則懼及善人。若不幸而過、寧僭無濫。與其失善、寧其利淫。無善人、則國從之。從之亡也。
【読み】
善く國を爲むる者は、賞僭[たが]わずして刑濫[みだ]りならず、と。賞僭えば、則ち淫人に及ばんことを懼れ、刑濫るれば、則ち善人に及ばんことを懼る。若し不幸にして過つとも、寧ろ僭うとも濫りなること無かれ。其の善を失わんよりは、寧ろ其れ淫を利せん。善人無ければ、則ち國之に從う。之に從いて亡ぶるなり。
詩曰、人之云亡、邦國殄瘁、無善人之謂也。詩、大雅。殄、盡也。瘁、病也。
【読み】
詩に曰く、人の云[ここ]に亡ぶる、邦國殄瘁[てんすい]すとは、善人無きを謂うなり。詩は、大雅。殄は、盡くるなり。瘁は、病むなり。
故夏書曰、與其殺不辜、寧失不經、懼失善也。逸書也。不經、不用常法。
【読み】
故に夏書に曰く、其の不辜を殺さんよりは、寧ろ不經に失せんとは、善を失わんことを懼れてなり。逸書なり。不經は、常法を用いざるなり。
商頌有之曰、不僭不濫、不敢怠皇、命于下國、封建厥福。詩商頌。言殷湯賞不僭差、刑不濫溢、不敢怠解自寬暇。故能爲下國所命、爲天子。
【読み】
商頌に之れ有り曰く、僭わず濫りならず、敢えて怠皇せず、下國に命ぜられて、封[おお]いに厥の福を建てり、と。詩は商頌。言うこころは、殷湯賞僭差せず、刑濫溢[らんいつ]せず、敢えて怠解して自ら寬暇せず。故に能く下國の爲に命ぜられて、天子と爲れり。
此湯所以獲天福也。
【読み】
此れ湯の天福を獲し所以なり。
古之治民者、勸賞而畏刑、樂行賞而憚用刑。
【読み】
古の民を治むる者は、賞に勸[たの]しみて刑を畏れ、賞を行うことを樂しみて刑を用ゆることを憚る。
恤民不倦、賞以春夏、刑以秋冬。順天時。
【読み】
民を恤えて倦まず、賞するは春夏を以てし、刑するは秋冬を以てす。天の時に順う。
是以將賞、爲之加膳。加膳則飫賜。飫、饜也。酒食賜下、無不饜足。所謂加膳也。
【読み】
是を以て將に賞せんとすれば、之が爲に膳を加う。膳を加うれば則ち賜に飫[あ]かしむ。飫[よ]は、饜[あ]くなり。酒食下に賜いて、饜足[えんそく]せざること無し。所謂膳を加うるなり。
此以知其勸賞也。將刑、爲之不舉。不舉則徹樂。不舉盛饌。
【読み】
此を以て其の賞を勸しむことを知るなり。將に刑せんとすれば、之が爲に舉せず。舉せざれば則ち樂を徹す。盛饌[せいせん]を舉げず。
此以知其畏刑也。夙興夜寐、朝夕臨政。此以知其恤民也。三者禮之大節也。有禮無敗。
【読み】
此を以て其の刑を畏るることを知るなり。夙に興き夜に寐ねて、朝夕政に臨む。此を以て其の民を恤うることを知るなり。三つの者は禮の大節なり。禮有れば敗るること無し。
今楚多淫刑。其大夫逃死於四方、而爲之謀主、以害楚國、不可救療。所謂不能也。療、治也。所謂楚人不能用其材也。
【読み】
今楚は淫刑多し。其の大夫の死を四方に逃れて、之が謀主と爲りて、以て楚國を害すること、救療す可からず。所謂能わざるなり。療は、治むるなり。所謂楚人其の材を用ゆること能わざるなり。
子儀之亂、析公奔晉。在文十四年。
【読み】
子儀の亂に、析公晉に奔る。文十四年に在り。
晉人寘諸戎車之殿、以爲謀主。殿、後軍。○殿、多練反。
【読み】
晉人諸を戎車の殿に寘きて、以て謀主と爲す。殿は、後軍。○殿は、多練反。
繞角之役、晉將遁矣。析公曰、楚師輕窕、易震蕩也。若多鼓鈞聲以夜軍之、鈞同其聲。○窕、勑堯反。又通弔反。
【読み】
繞角[じょうかく]の役に、晉將に遁げんとす。析公曰く、楚の師輕窕[けいちょう]にして、震蕩し易し。若し鼓を多くし聲を鈞[ひと]しくして夜を以て之に軍せば、其の聲を鈞同す。○窕は、勑堯反。又通弔反。
楚師必遁。晉人從之、楚師宵潰。晉遂侵蔡、襲沈獲其君、敗申息之師於桑隧、獲申麗而還。成六年、晉欒書救鄭與楚師遇於繞角。楚師還。晉侵沈獲沈子。八年、復侵楚敗申息、獲申麗。○麗、力馳反。
【読み】
楚の師必ず遁げん、と。晉人之に從い、楚の師宵潰ゆ。晉遂に蔡を侵し、沈を襲いて其の君を獲、申息の師を桑隧に敗り、申麗を獲て還れり。成六年、晉の欒書鄭を救いて楚の師と繞角に遇う。楚の師還る。晉沈を侵して沈子を獲。八年、復楚を侵して申息を敗り、申麗を獲。○麗は、力馳反。
鄭於是不敢南面、楚失華夏、則析公之爲也。
【読み】
鄭是に於て敢えて南面せず、楚華夏を失いしは、則ち析公の爲[しわざ]なり。
雍子之父兄譖雍子、君與大夫不善是也。不是其曲直。
【読み】
雍子の父兄雍子を譖せしとき、君と大夫と善く是[ただ]さず。其の曲直を是さず。
雍子奔晉。晉人與之鄐、鄐、晉邑。○鄐、許六反。又超六反。
【読み】
雍子晉に奔る。晉人之に鄐[きく]を與えて、鄐は、晉の邑。○鄐は、許六反。又超六反。
以爲謀主。彭城之役、晉・楚遇於靡角之谷、在成十八年。
【読み】
以て謀主と爲す。彭城の役に、晉・楚靡角の谷に遇い、成十八年に在り。
晉將遁矣。雍子發命於軍曰、歸老幼、反孤疾、二人役歸一人、簡兵蒐乘、簡、擇。蒐、閱。
【読み】
晉將に遁げんとす。雍子命を軍に發して曰く、老幼を歸し、孤疾を反し、二人役するは一人を歸し、兵を簡[えら]び乘を蒐し、簡は、擇ぶ。蒐は、閱す。
秣馬蓐食、師陳焚次。次、舍也。焚舍、示必死。○陳、直覲反。
【読み】
馬に秣[まぐさか]い蓐に食い、師陳して次を焚け。次は、舍なり。舍を焚くとは、必死を示すなり。○陳は、直覲反。
明日將戰。行歸者、而逸楚囚、欲使楚知之。
【読み】
明日將に戰わんとす、と。歸る者を行かせて、楚の囚を逸[ゆる]せば、楚をして之を知らしめんと欲す。
楚師宵潰。晉降彭城而歸諸宋、以魚石歸。在元年。○降、戶江反。
【読み】
楚の師宵潰えぬ。晉彭城を降して諸を宋に歸して、魚石を以[い]て歸れり。元年に在り。○降は、戶江反。
楚失東夷、子辛死之、則雍子之爲也。楚東小國及陳、見楚不能救彭城皆叛。五年、楚人討陳叛故、殺令尹子辛。
【読み】
楚東夷を失い、子辛之に死せしは、則ち雍子の爲なり。楚の東の小國と陳と、楚の彭城を救うこと能わざるを見て皆叛く。五年、楚人陳の叛く故を討じて、令尹子辛を殺す。
子反與子靈爭夏姬、子靈、巫臣。
【読み】
子反子靈と夏姬を爭いて、子靈は、巫臣。
而雍害其事、子反亦雍害巫臣、不使得取夏姬。○雍、於勇反。
【読み】
其の事を雍害せしかば、子反も亦巫臣を雍害して、夏姬を取[めと]ることを得せしめず。○雍は、於勇反。
子靈奔晉。晉人與之邢、邢、晉邑。
【読み】
子靈晉に奔る。晉人之に邢を與えて、邢は、晉の邑。
以爲謀主、扞禦北狄、通吳於晉、敎吳叛楚、敎之乘車、射御、驅侵、使其子狐庸爲吳行人焉。吳於是伐巢、取駕、克棘、入州來。駕・棘、皆楚邑。譙國酇縣東北有棘亭。○譙、在遙反。酇、才多反。又子旦反。
【読み】
以て謀主と爲し、北狄を扞禦して、吳を晉に通じ、吳に楚に叛くことを敎え、之に車を乘り、射御し、驅侵するを敎え、其の子狐庸をして吳の行人爲らしむ。吳是に於て巢を伐ち、駕を取り、棘に克ち、州來に入れり。駕・棘は、皆楚の邑。譙國酇縣の東北に棘亭有り。○譙は、在遙反。酇は、才多反。又子旦反。
楚罷於奔命、至今爲患、則子靈之爲也。事見成七年。○罷、音皮。
【読み】
楚奔命に罷[つか]れて、今に至るまで患えを爲すは、則ち子靈の爲なり。事は成七年に見ゆ。○罷は、音皮。
若敖之亂、伯賁之子賁皇奔晉。晉人與之苗、若敖亂、在宣四年。苗、晉邑。○賁、扶云反。
【読み】
若敖の亂に、伯賁の子賁皇晉に奔る。晉人之に苗を與えて、若敖の亂は、宣四年に在り。苗は、晉の邑。○賁は、扶云反。
以爲謀主。鄢陵之役、在成十六年。○鄢、音偃。
【読み】
以て謀主と爲す。鄢陵の役に、成十六年に在り。○鄢は、音偃。
楚晨壓晉軍而陳。晉將遁矣。苗賁皇曰、楚師之良、在其中軍王族而已。言楚之精卒、唯在中軍。○陳、直覲反。
【読み】
楚晨に晉の軍を壓[あっ]して陳す。晉將に遁げんとす。苗賁皇曰く、楚の師の良は、其の中軍の王族に在るのみ。言うこころは、楚の精卒は、唯中軍に在るのみ。○陳は、直覲反。
若塞井夷竈、成陳以當之、塞井夷竈、以爲陳。
【読み】
若し井を塞ぎ竈を夷[たい]らげ、陳を成して以て之に當たり、井を塞ぎ竈を夷らげて、以て陳を爲す。
欒・范易行以誘之、欒書時將中軍。范爕佐之。易行、謂簡易兵備。欲令楚貪己、不復顧二穆之兵。○易、以豉反。又音亦。行、戶郎反。又音衡。
【読み】
欒・范行を易[おろそ]かにして以て之を誘かば、欒書時に中軍に將たり。范爕[はんしょう]之に佐たり。行を易かにすとは、兵備を簡易にするを謂う。楚をして己を貪りて、復二穆の兵を顧みざらしめんと欲するなり。○易は、以豉反。又音亦。行は、戶郎反。又音衡。
中行・二郤必克二穆。郤錡時將上軍。中行偃佐之。郤至佐新軍。令此三人、分良以攻二穆之兵。楚子重・子辛、皆出穆王。故曰二穆。○錡、魚綺反。
【読み】
中行・二郤必ず二穆に克たん。郤錡時に上軍に將たり。中行偃之に佐たり。郤至新軍に佐たり。此の三人をして、良を分けて以て二穆の兵を攻めしむ。楚の子重・子辛は、皆穆王より出づ。故に二穆と曰う。○錡は、魚綺反。
吾乃四萃於其王族、必大敗之。四萃、四面集攻之。
【読み】
吾れ乃ち其の王族に四萃せば、必ず大いに之を敗らん、と。四萃は、四面より集まりて之を攻むるなり。
晉人從之、楚師大敗、王夷師熸。夷、傷也。吳・楚之閒、謂火滅爲熸。○熸、子潛反。
【読み】
晉人之に從い、楚の師大いに敗れ、王夷[きず]つき師熸[き]えぬ。夷は、傷つくなり。吳・楚の閒、火の滅ぶるを謂いて熸[せん]と爲す。○熸は、子潛反。
子反死之、鄭叛吳興、楚失諸侯、則苗賁皇之爲也。
【読み】
子反之に死し、鄭叛き吳興り、楚諸侯を失いしは、則ち苗賁皇の爲なり、と。
子木曰、是皆然矣。聲子曰、今又有甚於此。椒舉娶於申公子牟。子牟得戾而亡。君大夫謂椒舉、女實遣之。懼而奔鄭、引領南望曰、庶幾赦余、亦弗圖也。言楚亦不以爲意。
【読み】
子木曰く、是れ皆然り、と。聲子曰く、今又此より甚だしきこと有り。椒舉申公子牟に娶る。子牟戾を得て亡ぐ。君大夫椒舉を謂えらく、女實に之を遣れり、と。懼れて鄭に奔り、領[えり]を引きて南望して曰く、余を赦さんことを庶幾うも、亦圖らず、と。言うこころは、楚も亦以て意と爲さず。
今在晉矣。晉人將與之縣、以比叔向。以舉才能比叔向。
【読み】
今晉に在り。晉人將に之に縣を與えて、以て叔向に比せんとす。舉の才能を以て叔向に比す。
彼若謀害楚國、豈不爲患。
【読み】
彼れ若し楚國を害せんことを謀らば、豈患えを爲さざらんや、と。
子木懼、言諸王、益其祿爵而復之。聲子使椒鳴逆之。椒鳴、伍舉子。傳言聲子有辭、伍舉所以得反、子孫復仕於楚。
【読み】
子木懼れ、諸を王に言いて、其の祿爵を益して之を復す。聲子椒鳴をして之を逆えしめり。椒鳴は、伍舉の子。傳聲子辭有り、伍舉反ることを得て、子孫復楚に仕うる所以を言う。
許靈公如楚、請伐鄭。十六年、晉伐許、他國皆大夫、獨鄭伯自行。故許恚欲報之。○恚、一睡反。
【読み】
許の靈公楚に如き、鄭を伐たんことを請う。十六年、晉許を伐つとき、他國は皆大夫、獨り鄭伯自ら行く。故に許恚[うら]みて之に報いんと欲す。○恚[い]は、一睡反。
曰、師不興、孤不歸矣。八月、卒于楚。楚子曰、不伐鄭、何以求諸侯。冬、十月、楚子伐鄭。爲許。
【読み】
曰く、師興らずんば、孤歸らじ、と。八月、楚に卒す。楚子曰く、鄭を伐たずんば、何を以て諸侯を求めん、と。冬、十月、楚子鄭を伐つ。許の爲なり。
鄭人將禦之。子產曰、晉・楚將平、諸侯將和。和、在明年。
【読み】
鄭人將に之を禦がんとす。子產曰く、晉・楚將に平らがんとし、諸侯將に和せんとす。和は、明年に在り。
楚王是故昧於一來。昧、猶貪冒。
【読み】
楚王是の故に一來を昧[むさぼ]れり。昧は、猶貪冒のごとし。
不如使逞而歸。乃易成也。逞、快也。
【読み】
逞くして歸らしむるに如かじ。乃ち成らぎ易からん。逞は、快きなり。
夫小人之性、釁於勇、嗇於禍、以足其性、而求名焉者。非國家之利也。若何從之。釁、動也。嗇、貪也。言鄭之欲與楚戰者、皆釁勇貪名之人、非能爲國計慮久利。不可從也。○釁、許覲反。足、子住反。又如字。
【読み】
夫れ小人の性は、勇に釁[うご]き、禍を嗇[むさぼ]りて、以て其の性を足して、名を求めんとする者なり。國家を利せんとには非ざるなり。若何ぞ之に從わん、と。釁は、動くなり。嗇は、貪るなり。言うこころは、鄭の楚と戰わんことを欲する者は、皆勇に釁き名を貪るの人にして、能く國の爲に久利を計慮するに非ず。從う可からざるなり。○釁は、許覲反。足は、子住反。又字の如し。
子展說、不禦寇。
【読み】
子展說び、寇を禦がず。
十二月、乙酉、入南里、墮其城、南里、鄭邑。○說、音悅。墮、許規反。
【読み】
十二月、乙酉[きのと・とり]、南里に入りて、其の城を墮[こぼ]ち、南里は、鄭の邑。○說は、音悅。墮[き]は、許規反。
涉於樂氏、樂氏、津名。
【読み】
樂氏より涉り、樂氏は、津の名。
門于師之梁。鄭城門。
【読み】
師之梁を門む。鄭の城門。
縣門發。獲九人焉。涉于氾而歸、於氾城下、涉汝水南歸。○縣、音玄。氾、音凡。
【読み】
縣門發[と]ず。九人を獲たり。氾より涉りて歸り、氾城の下に於て、汝水を涉りて南に歸る。○縣は、音玄。氾は、音凡。
而後葬許靈公。卒靈公之志、而後葬之。
【読み】
而して後に許の靈公を葬れり。靈公の志を卒えて、而して後に之を葬る。
衛人歸衛姬于晉。乃釋衛侯。衛侯以女說晉、而後得免。
【読み】
衛人衛姬を晉に歸[とつ]がす。乃ち衛侯を釋[ゆる]す。衛侯女を以て晉に說きて、而して後に免ることを得。
君子是以知平公之失政也。傳言晉之衰。
【読み】
君子是を以て平公の政を失うを知れり。傳晉の衰うるを言う。
晉韓宣子聘于周。王使請事。問何事來聘。
【読み】
晉の韓宣子周に聘す。王事を請わしむ。何事にて來聘せしと問う。
對曰、晉士起將歸時事於宰旅。無他事矣。起、宣子名。禮、諸侯大夫、入天子國稱士。時事、四時貢職。宰旅、冢宰之下士。言獻職貢於宰旅、不敢斥尊。
【読み】
對えて曰く、晉の士起將に時事を宰旅に歸せんとす。他の事無し、と。起は、宣子の名。禮に、諸侯の大夫、天子の國に入れば士と稱す、と。時事とは、四時の貢職なり。宰旅は、冢宰の下士なり。職貢を宰旅に獻ずと言うは、敢えて尊を斥[さ]さざるなり。
王聞之曰、韓氏其昌阜於晉乎。辭不失舊。阜、大也。傳言周衰、諸侯莫能如禮、唯韓起不失舊。
【読み】
王之を聞きて曰く、韓氏は其れ晉に昌阜せんか。辭舊を失わず、と。阜は、大なり。傳周衰えて、諸侯能く禮の如くすること莫く、唯韓起舊を失わざるを言う。
齊人城郟之歲、在二十四年。
【読み】
齊人郟に城くの歲、二十四年に在り。
其夏、齊烏餘以廩丘奔晉、烏餘、齊大夫。廩丘、今東郡廩丘縣故城、是。
【読み】
其の夏、齊の烏餘廩丘を以て晉に奔り、烏餘は、齊の大夫。廩丘は、今の東郡廩丘縣の故城、是れなり。
襲衛羊角、取之、今廩丘縣所治羊角城、是。
【読み】
衛の羊角を襲いて、之を取り、今の廩丘縣の所治の羊角城、是れなり。
遂襲我高魚。高魚城、在廩丘縣東北。
【読み】
遂に我が高魚を襲う。高魚城は、廩丘縣の東北に在り。
有大雨、自其竇入、雨。故水竇開。○竇、音豆。
【読み】
大雨有り、其の竇[あな]より入り、雨ふる。故に水竇[すいとう]開く。○竇は、音豆。
介于其庫、入高魚庫而介其甲。
【読み】
其の庫に介して、高魚の庫に入りて其の甲を介す。
以登其城、克而取之、取魯高魚無所諱、而不書、其義未聞。
【読み】
以て其の城に登り、克ちて之を取り、魯の高魚を取ること諱む所無くして、書さざるは、其の義未だ聞かざればなり。
又取邑于宋。於是范宣子卒、宣子、范匃。
【読み】
又邑を宋に取れり。是に於て范宣子卒して、宣子は、范匃[はんかい]。
諸侯弗能治也、及趙文子爲政、乃卒治之。
【読み】
諸侯治むること能わず、趙文子が政を爲すに及びて、乃ち卒に之を治めり。
文子言於晉侯曰、晉爲盟主、諸侯或相侵也、則討而使歸其地。今烏餘之邑、皆討類也。言於此類、宜見討。
【読み】
文子晉侯に言いて曰く、晉は盟主爲れば、諸侯相侵すこと或るや、則ち討じて其の地を歸さしむ。今烏餘の邑は、皆討の類なり。言うこころは、此の類に於て、宜しく討ぜらるべし。
而貪之、是無以爲盟主也。請歸之。公曰、諾、孰可使也。對曰、胥梁帶能無用師。晉侯使往。胥梁帶、晉大夫。能無用師、言有權謀。
【読み】
而るを之を貪らば、是れ以て盟主爲ること無けん。請う、之を歸さん、と。公曰く、諾、孰か使う可き、と。對えて曰く、胥梁帶能く師を用ゆること無けん、と。晉侯往かしむ。胥梁帶は、晉の大夫。能く師を用ゆること無けんとは、權謀有るを言う。
〔經〕二十有七年、春、齊侯使慶封來聘。景公卽位、通嗣君也。
【読み】
〔經〕二十有七年、春、齊侯慶封をして來聘せしむ。景公位に卽きて、嗣君を通ずるなり。
夏、叔孫豹會晉趙武・楚屈建・蔡公孫歸生・衛石惡・陳孔奐・鄭良霄・許人・曹人于宋。案傳、會者十四國。齊・秦不交相見。邾・滕爲私屬。皆不與盟。宋爲主人。地於宋、則與盟可知。故經唯序九國大夫。楚先晉歃。而書先晉、貴信也。陳于晉會、常在衛上。孔奐非上卿。故在石惡下。○奐、呼亂反。先、悉薦反。又如字。
【読み】
夏、叔孫豹晉の趙武・楚の屈建・蔡の公孫歸生・衛の石惡・陳の孔奐・鄭の良霄[りょうしょう]・許人・曹人に宋に會す。傳を案ずるに、會する者十四國なり。齊・秦は交々相見えず。邾[ちゅ]・滕は私屬爲り。皆盟に與らず。宋は主人爲り。宋に地すれば、則ち盟に與ること知る可し。故に經は唯九國の大夫を序ず。楚晉に先だちて歃る。而るを晉を先に書するは、信を貴びてなり。陳晉の會に于て、常に衛の上に在り。孔奐上卿に非ず。故に石惡の下に在り。○奐は、呼亂反。先は、悉薦反。又字の如し。
衛殺其大夫甯喜。甯喜弑剽立衎。衎今雖不以弑剽致討、於大義宜追討之。故經以國討爲文、書名也。書在宋會下、從赴。
【読み】
衛其の大夫甯喜を殺す。甯喜剽[ひょう]を弑して衎[かん]を立つ。衎今剽を弑するを以て討を致さずと雖も、大義に於て宜しく之を追討すべし。故に經國討を以て文を爲して、名を書せるなり。書すこと宋會の下に在るは、赴[つ]ぐるに從うなり。
衛侯之弟鱄出奔晉。衛侯始者云、政由甯氏、祭則寡人。而今復患其專、緩荅免餘、旣負其前信、且不能友于賢弟、使至出奔。故書弟以罪兄。○鱄、市轉反。又音專。
【読み】
衛侯の弟鱄[せん]出でて晉に奔る。衛侯始めに云う、政は甯氏に由り、祭は則ち寡人なり、と。而るに今復其の專らなるを患えて、免餘に緩荅して、旣に其の前信に負[そむ]き、且賢弟に友于すること能わずして、出奔に至らしむ。故に弟と書して以て兄を罪す。○鱄は、市轉反。又音專。
秋、七月、辛巳、豹及諸侯之大夫盟于宋。夏會之大夫也。豹不倚順以顯弱命之君、而辨小是以自從。故以違命貶之。釋例論之備矣。
【読み】
秋、七月、辛巳[かのと・み]、豹諸侯の大夫と宋に盟う。夏會するの大夫なり。豹順に倚りて以て弱命の君を顯さずして、小是を辨して以て自ら從う。故に命に違えるを以て之を貶す。釋例之を論ずること備なり。
冬、十有二月、乙卯、朔、日有食之。今長曆推、十一月朔、非十二月。傳曰、辰在申、再失閏。若是十二月、則爲三失閏。故知經誤。
【読み】
冬、十有二月、乙卯[きのと・う]、朔、日之を食する有り。今長曆もて推すに、十一月朔にして、十二月に非ず。傳に曰く、辰申に在り、再び閏を失えり、と。若し是れ十二月ならば、則ち三たび閏を失うと爲す。故に經の誤れるを知る。
〔傳〕二十七年、春、胥梁帶使諸喪邑者、具車徒以受地、必周。諸喪邑、謂齊・魯・宋也。周、密也。必密來勿以受地爲名。○喪、息浪反。
【読み】
〔傳〕二十七年、春、胥梁帶諸々邑を喪える者をして、車徒を具えて以て地を受けしむらく、必ず周[ひそ]かにせよ、と。諸々邑を喪えるとは、齊・魯・宋を謂うなり。周は、密かなり。必ず密かに來りて地を受くるを以て名とすること勿かれ、と。○喪は、息浪反。
使烏餘具車徒以受封。烏餘以地來。故詐許封之。
【読み】
烏餘をして車徒を具えて以て封を受けしむ。烏餘地を以て來る。故に詐りて之を封ぜんことを許す。
烏餘以其衆出。出受封。
【読み】
烏餘其の衆を以[い]て出づ。出でて封を受く。
使諸侯僞效烏餘之封者、效、致也。使齊・魯・宋、僞若致邑封烏餘者。
【読み】
諸侯をして烏餘の封を效[いた]す者と僞らしめて、效は、致すなり。齊・魯・宋をして、僞りて邑を致して烏餘を封ずる者の若くならしむ。
而遂執之、盡獲之、皆獲其徒衆。
【読み】
遂に之を執え、盡く之を獲、皆其の徒衆を獲たり。
皆取其邑而歸諸侯。諸侯是以睦於晉。傳言趙文子賢、故平公雖失政、而諸侯猶睦。
【読み】
皆其の邑を取りて諸侯に歸す。諸侯是を以て晉に睦まじ。傳趙文子賢、故に平公政を失うと雖も、而れども諸侯猶睦まじきを言う。
齊慶封來聘。其車美。孟孫謂叔孫曰、慶季之車、不亦美乎。季、慶封字。
【読み】
齊の慶封來聘す。其の車美なり。孟孫叔孫に謂いて曰く、慶季の車、亦美ならずや、と。季は、慶封の字。
叔孫曰、豹聞之、服美不稱、必以惡終。美車何爲。叔孫與慶封食。不敬。爲賦相鼠。亦不知也。相鼠、詩鄘風。曰、相鼠有皮。人而無儀。人而無儀、不死何爲。慶封不知此詩爲己。言其闇甚。爲明年、慶封來奔傳。○稱、尺證反。鄘、音容。
【読み】
叔孫曰く、豹之を聞く、服の美稱[かな]わざれば、必ず惡を以て終わる、と。車を美にして何をかせん、と。叔孫慶封と食す。不敬なり。爲に相鼠を賦す。亦知らざるなり。相鼠は、詩の鄘風。曰く、鼠を相[み]るに皮有り。人にして儀無けんや。人にして儀無くば、死せずして何をかせん、と。慶封此の詩己が爲なるを知らず。其の闇きことの甚だしきを言う。明年、慶封來奔する爲の傳なり。○稱は、尺證反。鄘は、音容。
衛甯喜專。公患之。公孫免餘請殺之。免餘、衛大夫。
【読み】
衛の甯喜專らなり。公之を患う。公孫免餘之を殺さんと請う。免餘は、衛の大夫。
公曰、微甯子不及此。及此、反國也。
【読み】
公曰く、甯子微かりせば此に及ばじ。此に及ぶとは、國に反るなり。
吾與之言矣。言政由甯氏。
【読み】
吾れ之と言えり。政甯氏に由ると言えり。
事未可知。恐伐之未必勝。
【読み】
事未だ知る可からず。恐らくは之を伐つも未だ必ずしも勝たじ。
祗成惡名。止也。祗、適也。○祗、音支。
【読み】
祗[まさ]に惡名を成さん。止めよ、と。祗は、適になり。○祗は、音支。
對曰、臣殺之。君勿與知。乃與公孫無地・公孫臣謀、二公孫、衛大夫。○勿與、音預。
【読み】
對えて曰く、臣之を殺さん。君與り知ること勿かれ、と。乃ち公孫無地・公孫臣と謀り、二公孫は、衛の大夫。○勿與は、音預。
使攻甯氏。弗克、皆死。無地及臣皆死。
【読み】
甯氏を攻めしむ。克たずして、皆死す。無地と臣と皆死す。
公曰、臣也無罪、父子死余矣。獻公出時、公孫臣之父爲孫氏所殺。
【読み】
公曰く、臣や罪無くして、父子余に死したり、と。獻公出づる時、公孫臣の父孫氏の爲に殺さる。
夏、免餘復攻甯氏、殺甯喜及右宰穀、尸諸朝。穀不書、非卿也。
【読み】
夏、免餘復甯氏を攻め、甯喜と右宰穀とを殺して、諸を朝に尸[さら]す。穀書さざるは、卿に非ざればなり。
石惡將會宋之盟、受命而出。衣其尸、枕之股而哭之。欲斂以亡。懼不免。且曰、受命矣。乃行。行會于宋。爲明年、石惡奔傳。○衣、於旣反。枕、之鴆反。
【読み】
石惡將に宋の盟に會せんとし、命を受けて出づ。其の尸に衣せ、之に股に枕させて之を哭す。斂して以て亡[に]げんと欲す。免れざらんことを懼る。且曰く、命を受けたり、と。乃ち行く。行きて宋に會す。明年、石惡奔る爲の傳なり。○衣は、於旣反。枕は、之鴆反。
子鮮曰、逐我者出、謂孫林父。
【読み】
子鮮曰く、我を逐う者は出で、孫林父を謂う。
納我者死。謂甯喜。
【読み】
我を納るる者は死す。甯喜を謂う。
賞罰無章。何以沮勸。君失其信、而國無刑。不亦難乎。難以治國。
【読み】
賞罰章無し。何を以て沮勸[そかん]せん。君其の信を失いて、國刑無し。亦難からずや。以て國を治め難し。
且鱄實使之。使甯喜納君。
【読み】
且つ鱄實に之をせしめり、と。甯喜をして君を納れしむ。
遂出奔晉。公使止之。不可。不肯留。
【読み】
遂に出でて晉に奔る。公之を止めしむ。可[き]かず。留まることを肯ぜず。
及河、又使止之。止使者而盟於河。誓不還。
【読み】
河に及ぶとき、又之を止めしむ。使者を止めて河に盟う。還らざるを誓う。
託於木門、木門、晉邑。
【読み】
木門に託して、木門は、晉の邑。
不郷衛國而坐。怨之深也。○郷、許亮反。
【読み】
衛國に郷[む]かいて坐せず。怨むるの深きなり。○郷は、許亮反。
木門大夫勸之仕。不可。曰、仕而廢其事、罪也。從之、昭吾所以出也。將誰愬乎。從之、謂治其事也。事治則明己出欲仕。無所自愬。
【読み】
木門の大夫之に仕えんことを勸む。可かず。曰く、仕えて其の事を廢するは、罪なり。之に從えば、吾が出でたる所以を昭らかにするなり。將[はた]誰にか愬[うった]えん。之に從うとは、其の事を治むるを謂うなり。事治むれば則ち己が出づるの仕えんことを欲するを明らかにするなり。自ら愬うる所無し。
吾不可以立於人之朝矣。終身不仕。自誓不仕終身。
【読み】
吾は以て人の朝に立つ可からず、と。身を終うるまで仕えざりき。自ら誓いて仕えずして身を終わるなり。
公喪之、如稅服終身。稅、卽繐也。喪服繐縗裳、縷細而希。非五服之常、本無月數。痛愍子鮮。故特爲此服。此服無月數、而獻公尋薨。故言終身。○喪、息郎反。稅、音歲。又吐外反。
【読み】
公之を喪すること、稅服[たいふく]の如くにして身を終われり。稅は、卽ち繐[けい]なり。喪服に繐縗[けいさい]の裳は、縷[いと]細にして希なり。五服の常に非ず、本月數無し。子鮮を痛愍[つうびん]す。故に特に此の服を爲すなり。此の服月數無くして、獻公尋[つ]いで薨ず。故に身を終わると言う。○喪は、息郎反。稅は、音歲。又吐外反。
公與免餘邑六十。辭曰、唯卿備百邑。臣六十矣。下有上祿、亂也。此一乘之邑。非四井之邑。論語稱千室、又云、十室。明通稱。○通稱、尺證反。
【読み】
公免餘に邑六十を與う。辭して曰く、唯卿のみ百邑を備う。臣は六十なり。下上の祿を有つは、亂なり。此は一乘の邑。四井の邑に非ず。論語に千室と稱し、又云う、十室、と。通稱なること明けし。○通稱は、尺證反。
臣弗敢聞。且甯子唯多邑。故死。臣懼死之速及也。公固與之。受其半。以爲少師。公使爲卿。辭曰、大叔儀不貳、能贊大事。贊、佐也。
【読み】
臣敢えて聞かず。且つ甯子唯邑多し。故に死せり。臣死の速やかに及ばんことを懼る、と。公固く之に與う。其の半ばを受く。以て少師と爲す。公卿爲らしむ。辭して曰く、大叔儀貳あらずして、能く大事を贊[たす]く。贊は、佐くなり。
君其命之。乃使文子爲卿。文子、大叔儀。
【読み】
君其れ之に命ぜよ、と。乃ち文子をして卿爲らしむ。文子は、大叔儀。
宋向戌善於趙文子、又善於令尹子木。欲弭諸侯之兵以爲名。欲獲息民之名。
【読み】
宋の向戌[しょうじゅつ]趙文子に善く、又令尹子木に善し。諸侯の兵を弭[や]めて以て名を爲さんと欲す。民を息うの名を獲んと欲す。
如晉告趙孟。趙孟謀於諸大夫。韓宣子曰、兵、民之殘也。財用之蠧。蠧、害物之蟲。
【読み】
晉に如きて趙孟に告ぐ。趙孟諸大夫に謀る。韓宣子曰く、兵は、民の殘なり。財用の蠧[と]なり。蠧は、物を害するの蟲。
小國之大菑也。將或弭之。雖曰不可、必將許之。言雖知兵不得久弭、今不可不許。○菑、音災。
【読み】
小國の大菑[たいさい]なり。將に或は之を弭めんとす。可ならずと曰うと雖も、必ず將之を許せ。言うこころは、兵の久しく弭むることを得ざるを知ると雖も、今許さずんばある可からず。○菑は、音災。
弗許、楚將許之以召諸侯。則我失爲盟主矣。晉人許之。如楚。楚亦許之。如齊。齊人難之。陳文子曰、晉・楚許之、我焉得已。且人曰弭兵、而我弗許、則固攜吾民矣。將焉用之。齊人許之。告於秦。秦亦許之。皆告於小國、爲會於宋。
【読み】
許さずんば、楚將に之を許して以て諸侯を召さんとす。則ち我れ盟主爲ることを失わん、と。晉人之を許す。楚に如く。楚も亦之を許す。齊に如く。齊人之を難[はば]む。陳文子曰く、晉・楚之を許すを、我れ焉んぞ已むことを得ん。且つ人兵を弭めんと曰いて、我れ許さずんば、則ち固より吾が民を攜[はな]さん。將焉にか之を用いん、と。齊人之を許す。秦に告ぐ。秦も亦之を許す。皆小國に告げて、會を宋に爲さんとす。
五月甲辰、晉趙武至於宋。丙午、鄭良霄至。六月丁未、朔、宋人享趙文子。叔向爲介。司馬置折俎。禮也。折俎、體解節折、升之於俎。合卿享宴之禮。故曰禮也。周禮、司馬掌會同之事。○難、乃旦反。下同。
【読み】
五月甲辰[きのえ・たつ]、晉の趙武宋に至る。丙午[ひのえ・うま]、鄭の良霄至る。六月丁未[ひのと・ひつじ]、朔、宋人趙文子を享す。叔向介爲り。司馬折俎を置く。禮なり。折俎は、體解節折して、之を俎に升すなり。卿の享宴するの禮に合う。故に禮なりと曰う。周禮に、司馬會同の事を掌る、と。○難は、乃旦反。下も同じ。
仲尼使舉是禮也、以爲多文辭。宋向戌自美弭兵之意、敬逆趙武。趙武・叔向因享宴之會、展賓主之辭。故仲尼以爲多文辭。
【読み】
仲尼是の禮を舉げしめて、以爲えらく、文辭多し、と。宋の向戌自ら兵を弭むるの意を美とし、敬みて趙武を逆う。趙武・叔向享宴の會に因りて、賓主の辭を展ぶ。故に仲尼以爲えらく、文辭多し、と。
戊申、叔孫豹・齊慶封・陳須無・衛石惡至。須無、陳文子。
【読み】
戊申[つちのえ・さる]、叔孫豹・齊の慶封・陳須無・衛の石惡至る。須無は、陳文子。
甲寅、晉荀盈從趙武至。趙武命盈追己。故言從趙武。後武遣盈如楚。
【読み】
甲寅[きのえ・とら]、晉の荀盈趙武を從[お]いて至る。趙武盈に命じて己を追わしむ。故に趙武を從うと言う。後に武盈を遣わして楚に如かしむ。
丙辰、邾悼公至。小國故君自來。
【読み】
丙辰[ひのえ・たつ]、邾[ちゅ]の悼公至る。小國故に君自ら來る。
壬戌、楚公子黑肱先至、成言於晉。時令尹子木止陳、遣黑肱就晉大夫、成盟載之言、兩相然可。
【読み】
壬戌[みずのえ・いぬ]、楚の公子黑肱先ず至り、言を晉に成す。時に令尹子木陳に止まり、黑肱を遣わして晉の大夫に就きて、盟載の言を成して、兩に相然可す。
丁卯、宋向戌如陳、從子木成言於楚。就於陳、成楚之要言。
【読み】
丁卯[ひのと・う]、宋の向戌陳に如き、子木に從いて言を楚に成す。陳に就きて、楚の要言を成す。
戊辰、滕成公至。亦小國。君自來。
【読み】
戊辰[つちのえ・たつ]、滕の成公至る。亦小國。君自ら來る。
子木謂向戌、請晉・楚之從、交相見也。使諸侯從晉・楚者、更相朝見。○見、賢遍反。
【読み】
子木向戌に謂えらく、晉・楚の從は、交々相見えんことを請う、と。諸侯の晉・楚に從える者をして、更々相朝見せしめんとす。○見は、賢遍反。
庚午、向戌復於趙孟。趙孟曰、晉・楚・齊・秦、匹也。晉之不能於齊、猶楚之不能於秦也。不能服而使之。
【読み】
庚午[かのえ・うま]、向戌趙孟に復す。趙孟曰く、晉・楚・齊・秦は、匹なり。晉の齊に能わざるは、猶楚の秦に能わざるがごとし。服せしめて之を使うこと能わず。
楚君若能使秦君辱於敝邑、寡君敢不固請於齊。請齊使朝楚。
【読み】
楚の君若し能く秦君をして敝邑に辱くせしめば、寡君敢えて固く齊に請わざらんや、と。齊に請いて楚に朝せしめん。
壬申、左師復言於子木。子木使馹謁諸王。馹、傳也。謁、告也。○馹、人實反。傳、陟戀反。
【読み】
壬申[みずのえ・さる]、左師子木に復言す。子木馹[じつ]をして諸を王に謁[つ]げしむ。馹は、傳なり。謁は、告ぐなり。○馹は、人實反。傳は、陟戀反。
王曰、釋齊・秦、他國請相見也。經所以不書齊・秦。
【読み】
王曰く、齊・秦を釋[お]きて、他國は相見えんことを請う、と。經齊・秦を書さざる所以なり。
秋、七月、戊寅、左師至。從陳還。
【読み】
秋、七月、戊寅[つちのえ・とら]、左師至る。陳より還る。
是夜也、趙孟及子皙盟、以齊言。子皙、公子黑肱。素要齊其辭、至盟時不得復訟爭。
【読み】
是の夜や、趙孟と子皙と盟いて、以て言を齊[ととの]う。子皙は、公子黑肱。素[あらかじ]め其の辭を要齊して、盟時に至りて復訟爭することを得ざらしむ。
庚辰、子木至自陳。陳孔奐・蔡公孫歸生至。二國大夫與子木倶至。
【読み】
庚辰[かのえ・たつ]、子木陳より至る。陳の孔奐・蔡の公孫歸生至る。二國の大夫子木と倶に至る。
曹・許之大夫皆至。
【読み】
曹・許の大夫皆至る。
以藩爲軍、示不相忌。
【読み】
藩を以て軍を爲し、相忌まざることを示す。
晉・楚各處其偏。晉處北、楚處南。
【読み】
晉・楚各々其の偏に處る。晉北に處り、楚南に處る。
伯夙謂趙孟、伯夙、荀盈。
【読み】
伯夙趙孟に謂いて、伯夙は、荀盈。
曰、楚氛甚惡。懼難。氛、氣也。言楚有襲晉之氣。○氛、芳云反。
【読み】
曰く、楚の氛[ふん]甚だ惡し。懼らくは難あらん、と。氛は、氣なり。言うこころは、楚に晉を襲うの氣有り。○氛は、芳云反。
趙孟曰、吾左還入於宋、若我何。營在宋北。東頭爲上。故晉營在東。有急、可左廻入宋東門。
【読み】
趙孟曰く、吾れ左還して宋に入らば、我を若何にせん、と。營宋の北に在り。東頭を上と爲す。故に晉の營東に在り。急有らば、左に廻りて宋の東門に入る可し。
辛巳、將盟於宋西門之外。楚人衷甲。甲在衣中。欲因會擊晉。○衷、音忠。又丁仲反。
【読み】
辛巳、將に宋の西門の外に盟わんとす。楚人甲を衷[うち]にす。甲衣中に在るなり。會に因りて晉を擊たんと欲す。○衷は、音忠。又丁仲反。
伯州犂曰、合諸侯之師、以爲不信、無乃不可乎。夫諸侯望信於楚。是以來服。若不信、是棄其所以服諸侯也。固請釋甲。子木曰、晉・楚無信久矣。事利而已。苟得志焉、焉用有信。大宰退、大宰、伯州犂。
【読み】
伯州犂[はくしゅうれい]曰く、諸侯の師を合わせて、以て不信を爲さば、乃ち不可なること無からんや。夫れ諸侯は信を楚に望む。是を以て來服す。若し不信ならば、是れ其の諸侯を服する所以を棄つるなり、と。固く甲を釋かんと請う。子木曰く、晉・楚信無きこと久し。事利あらんのみ。苟も志を得ば、焉んぞ信有ることを用いん、と。大宰退きて、大宰は、伯州犂。
告人曰、令尹將死矣。不及三年。求逞志而棄信。志將逞乎。志以發言、言以出信、信以立志、參以定之。志・言・信、三者具而後身安存。
【読み】
人に告げて曰く、令尹將に死せんとす。三年に及ばじ。志を逞くせんことを求めて信を棄つ。志將逞からんや。志以て言を發し、言以て信を出だし、信以て志を立て、參にて以て之を定む。志・言・信、三つの者具わりて而して後に身安存す。
信亡。何以及三。爲明年、子木死起本。
【読み】
信亡びたり。何を以て三に及ばん。明年、子木死する爲の起本なり。
趙孟患楚衷甲、以告叔向。叔向曰、何害也。匹夫一爲不信、猶不可。單斃其死。單、盡也。斃、踣也。○單、音丹。踣、蒲北反。
【読み】
趙孟楚の甲を衷にするを患えて、以て叔向に告ぐ。叔向曰く、何の害あらん。匹夫も一たび不信を爲せば、猶不可なり。單[ことごと]く其の死に斃[たう]る。單は、盡くなり。斃は、踣[たう]るなり。○單は、音丹。踣[ほく]は、蒲北反。
若合諸侯之卿、以爲不信、必不捷矣。食言者不病。不病者單斃於死。
【読み】
若し諸侯の卿を合わせて、以て不信を爲さば、必ず捷[か]たじ。言を食む者は病むのみならず。病まざる者も單く死に斃るなり。
非子之患也。楚食言。當死。晉不食言。故無患。
【読み】
子の患えに非ざるなり。楚言を食む。當に死すべし。晉言を食まず。故に患え無し。
夫以信召人、而以僭濟之、濟、成也。○僭、子念反。不信也。
【読み】
夫れ信を以て人を召して、僭を以て之を濟[な]さば、濟は、成すなり。○僭は、子念反。不信なり。
必莫之與也。安能害我。且吾因宋以守病、爲楚所病、則欲入宋城。
【読み】
必ず之に與するもの莫からん。安ぞ能く我を害せん。且つ吾れ宋に因りて以て病を守らば、楚の爲に病ましめられば、則ち宋の城に入らんと欲す。
則夫能致死。雖倍楚可也。宋爲地主。致死助我、則力可倍楚。○夫、如字。或音扶。
【読み】
則ち夫[かれ]能く死を致さん。楚に倍すと雖も可なり。宋は地主爲り。死を致して我を助けば、則ち力楚に倍す可し。○夫は、字の如し。或は音扶。
*漢籍國字解全書には、「雖倍楚可也。」の前に「與宋致死、」(宋と死を致さば、)がある。
子何懼焉。又不及是。曰弭兵以召諸侯、而稱兵以害我、稱、舉也。
【読み】
子何ぞ懼れん。又是に及ばじ。兵を弭めんと曰いて以て諸侯を召して、兵を稱[あ]げて以て我を害せば、稱は、舉ぐるなり。
吾庸多矣。非所患也。晉獨取信。故其功多。
【読み】
吾が庸多し。患うる所に非ざるなり、と。晉獨り信を取る。故に其の功多し。
季武子謂叔孫以公命、曰、視邾・滕。兩事晉・楚、則貢賦重。故欲比小國。武子恐叔孫不從其言。故假公命以敦之。
【読み】
季武子叔孫に謂わしむるに公命というを以てして、曰く、邾・滕に視[なぞら]えよ、と。晉・楚に兩事すれば、則ち貢賦重し。故に小國に比せんことを欲す。武子叔孫が其の言に從わざらんことを恐る。故に公命を假りて以て之を敦くす。
旣而齊人請邾、宋人請滕、皆不與盟。私屬二國故。○與、音預。
【読み】
旣にして齊人邾を請い、宋人滕を請いて、皆盟に與らず。二國を私屬する故なり。○與は、音預。
叔孫曰、邾・滕、人之私也。我列國也。何故視之。宋・衛、吾匹也。乃盟。
【読み】
叔孫曰く、邾・滕は、人の私なり。我は列國なり。何の故に之に視えん。宋・衛は、吾が匹なり、と。乃ち盟う。
故不書其族。言違命也。季孫專政於國、魯君非得有命。今君唯以此命告豹。豹宜崇大順以顯弱命之君。而遂其小是。故貶之。
【読み】
故に其の族を書さず。命に違えるを言うなり。季孫政を國に專にし、魯君命ずること有ることを得るに非ず。今君唯此の命を以て豹に告ぐ。豹宜しく大順を崇[あが]めて以て弱命の君を顯すべし。而るを其の小是を遂ぐ。故に之を貶す。
晉・楚爭先。爭先歃血。
【読み】
晉・楚先を爭う。先ず血を歃らんことを爭う。
晉人曰、晉固爲諸侯盟主。未有先晉者也。楚人曰、子言晉・楚匹也。若晉常先、是楚弱也。且晉・楚狎主諸侯之盟也久矣。狎、更也。○先晉、去聲。或如字。狎、戶甲反。更、音庚。
【読み】
晉人曰く、晉固より諸侯の盟主爲り。未だ晉に先だつ者有らざるなり、と。楚人曰く、子晉・楚は匹なりと言えり。若し晉常に先だたば、是れ楚は弱きなり。且つ晉・楚狎[こも]々諸侯の盟を主るや久し。狎は、更々なり。○先晉は、去聲。或は字の如し。狎は、戶甲反。更は、音庚。
豈專在晉。叔向謂趙孟曰、諸侯歸晉之德只。只、辭。○只、之氏反。
【読み】
豈專ら晉に在らんや、と。叔向趙孟に謂いて曰く、諸侯は晉の德に歸す。只は、辭。○只は、之氏反。
非歸其尸盟也。尸、主也。
【読み】
其の盟を尸[つかさど]るに歸するに非ざるなり。尸は、主るなり。
子務德。無爭先。且諸侯盟、小國固必有尸盟者。小國主辨具。○辨、皮莧反。
【読み】
子德を務めよ。先を爭うこと無かれ。且つ諸侯の盟に、小國固より必ず盟を尸る者有り。小國は辨具を主る。○辨は、皮莧反。
楚爲晉細、不亦可乎。欲推使楚主盟。
【読み】
楚晉の細を爲さば、亦可ならずや、と。推して楚をして盟を主らしめんと欲す。
乃先楚人。
【読み】
乃ち楚人を先にす。
書先晉、晉有信也。蓋孔子追正之。
【読み】
書して晉を先にするは、晉信有ればなり。蓋し孔子追いて之を正すならん。
壬午、宋公兼享晉・楚之大夫。趙孟爲客。客、一坐所尊。故季孫飮大夫酒、臧紇爲客。
【読み】
壬午[みずのえ・うま]、宋公晉・楚の大夫を兼ね享す。趙孟を客と爲す。客とは、一坐の尊ぶ所なり。故に季孫大夫に酒を飮ましむるに、臧紇を客とせり。
子木與之言。弗能對。使叔向侍言焉。子木亦不能對也。
【読み】
子木之と言う。對うること能わず。叔向をして侍り言わしむ。子木も亦對うること能わず。
乙酉、宋公及諸侯之大夫盟于蒙門之外。前盟、諸大夫不敢敵公。禮也。今宋公以近在其國、故謙而重盟。故不書。蒙門、宋城門。
【読み】
乙酉[きのと・とり]、宋公諸侯の大夫と蒙門の外に盟う。前盟は、諸大夫敢えて公に敵せず。禮なり。今宋公近く其の國に在るを以て、故に謙して重ねて盟う。故に書さず。蒙門は、宋の城門。
子木問於趙孟曰、范武子之德何如。士會賢聞於諸侯。故問之。
【読み】
子木趙孟に問いて曰く、范武子の德何如、と。士會の賢諸侯に聞こゆ。故に之を問う。
對曰、夫子之家事治、言於晉國無隱情、其祝史陳信於鬼神、無愧辭。祝陳馨香、德足副之。故不愧。
【読み】
對えて曰く、夫子の家事治まり、晉國に言いて情を隱すこと無く、其の祝史信を鬼神に陳べて、辭に愧ずること無し、と。祝馨香を陳べて、德之に副うに足れり。故に愧じず。
子木歸、以語王。王曰、尙矣哉、尙、上也。○語、魚據反。
【読み】
子木歸りて、以て王に語[つ]ぐ。王曰く、尙[かみ]なるかな、尙は、上なり。○語は、魚據反。
能歆神人。歆、享也。使神享其祭、人懷其德。○歆、許金反。
【読み】
能く神人に歆[う]けらるること。歆[きん]は、享くるなり。神をして其の祭を享け、人をして其の德に懷かしむ。○歆は、許金反。
宜其光輔五君、以爲盟主也。五君、謂文・襄・靈・成・景。
【読み】
宜なり其の五君を光輔して、以て盟主と爲ること、と。五君は、文・襄・靈・成・景を謂う。
子木又語王曰、宜晉之伯也。有叔向以佐其卿。楚無以當之。不可與爭。晉荀寅遂如楚涖盟。重結晉・楚之好。
【読み】
子木又王に語げて曰く、宜なり晉の伯たるや。叔向有りて以て其の卿を佐く。楚以て之に當たること無し。與に爭う可からず、と。晉の荀寅遂に楚に如きて涖みて盟う。晉・楚の好を重結す。
鄭伯享趙孟于垂隴。自宋還過鄭。
【読み】
鄭伯趙孟を垂隴に享す。宋より還りて鄭を過ぐ。
子展・伯有・子西・子產・子大叔・二子石從。二子石、印段・公孫段。○從、才用反。
【読み】
子展・伯有・子西・子產・子大叔・二子石從う。二子石は、印段・公孫段。○從は、才用反。
趙孟曰、七子從君以寵武也。請皆賦以卒君貺。武亦以觀七子之志。詩以言志。
【読み】
趙孟曰く、七子君に從いて以て武を寵せり。請う、皆賦して以て君の貺[たまもの]を卒えよ。武も亦以て七子の志を觀ん、と。詩は以て志を言う。
子展賦草蟲。草蟲、詩召南。曰、未見君子。憂心忡忡。亦旣見止、亦旣覯止、我心則降。以趙孟爲君子。○忡、勑忠反。降、戶江反。又如字。
【読み】
子展草蟲を賦す。草蟲は、詩の召南。曰く、未だ君子を見ず。憂うる心忡忡[ちゅうちゅう]たり。亦旣に見、亦旣に覯[み]れば、我が心則ち降れり、と。趙孟を以て君子と爲す。○忡は、勑忠反。降は、戶江反。又字の如し。
趙孟曰、善哉、民之主也。在上不忘降。故可以主民。
【読み】
趙孟曰く、善いかな、民の主たること。上に在りて降ることを忘れず。故に以て民に主たる可し。
抑武也不足以當之。辭君子。
【読み】
抑々武や以て之に當たるに足らず、と。君子を辭す。
伯有賦鶉之賁賁。鶉之賁賁、詩鄘風。衛人刺其君淫亂、鶉鵲之不若。義取人之無良、我以爲兄、我以爲君也。○鶉、順倫反。賁、音奔。
【読み】
伯有鶉之賁賁[じゅんしほんほん]を賦す。鶉之賁賁は、詩の鄘風。衛人其の君の淫亂にして、鶉鵲にだも之れ若かざるを刺[そし]る。義人の良無きを、我れ以て兄と爲し、我れ以て君と爲すというに取る。○鶉は、順倫反。賁は、音奔。
趙孟曰、牀笫之言不踰閾。況在野乎。非使人之所得聞也。笫、簀也。此詩刺淫乱。故云、牀笫之言。閾、門限。使人、趙孟自謂。○笫、側里反。
【読み】
趙孟曰く、牀笫[しょうし]の言は閾を踰えず。況んや野に在るをや。使人の聞くことを得る所に非ざるなり、と。笫は、簀[さく]なり。此の詩淫乱を刺る。故に云う、牀笫の言、と。閾は、門限。使人は、趙孟自ら謂う。○笫は、側里反。
子西賦黍苗之四章。黍苗、詩小雅。四章曰、肅肅謝功、召伯營之。列列征師、召伯成之。比趙孟於召伯。
【読み】
子西黍苗[しょびょう]の四章を賦す。黍苗は、詩の小雅。四章に曰く、肅肅たる謝の功、召伯之を營む。列列たる征師、召伯之を成す、と。趙孟を召伯に比するなり。
趙孟曰、寡君在。武何能焉。推善於其君。
【読み】
趙孟曰く、寡君在す。武何ぞ能くせん、と。善を其の君に推す。
子產賦隰桑。隰桑、詩小雅。義取思見君子盡心以事之。曰、旣見君子、其樂如何。○盡、津忍反。
【読み】
子產隰桑[しゅうそう]を賦す。隰桑は、詩の小雅。義君子を見れば心を盡くして以て之に事えんことを思うに取る。曰く、旣に君子を見れば、其の樂しみ如何、と。○盡は、津忍反。
趙孟曰、武請受其卒章。卒章曰、心乎愛矣、遐不謂矣。中心藏之。何日忘之。趙武欲子產之見規誨。
【読み】
趙孟曰く、武請う、其の卒章を受けん、と。卒章に曰く、心に愛すれば、遐[なん]ぞ謂[つ]げざらん。中心に之を藏む。何れの日か之を忘れん、と。趙武子產の規誨せられんことを欲す。
子大叔賦野有蔓草。野有蔓草、詩鄭風。取其邂逅相遇、適我願兮。
【読み】
子大叔野有蔓草を賦す。野有蔓草は、詩の鄭風。其の邂逅に相遇えば、我が願いに適えりというに取る。
趙孟曰、吾子之惠也。大叔喜於相遇。故趙孟受其惠。
【読み】
趙孟曰く、吾子の惠みなり、と。大叔相遇うを喜ぶ。故に趙孟其の惠みを受く。
印段賦蟋蟀。蟋蟀、詩唐風。曰、無以太康。職思其居。好樂無荒、良士瞿瞿。言瞿瞿然顧禮儀。
【読み】
印段蟋蟀[しゅっしゅつ]を賦す。蟋蟀は、詩の唐風。曰く、以て太[はなは]だ康ずること無かれ。職として其の居を思え。樂を好みて荒むこと無かれ、良士は瞿瞿[くく]たり、と。言うこころは、瞿瞿然として禮儀を顧みるなり。
趙孟曰、善哉、保家之主也。吾有望矣。能戒懼不荒。所以保家。
【読み】
趙孟曰く、善いかな、家を保つの主や。吾れ望むこと有り、と。能く戒懼して荒まず。家を保つ所以なり。
公孫段賦桑扈。桑扈、詩小雅。義取君子有禮文。故能受天之祜。
【読み】
公孫段桑扈[そうこ]を賦す。桑扈は、詩の小雅。義君子禮文有り。故に能く天の祜[さいわい]を受くるというに取る。
趙孟曰、匪交匪敖、福將焉往。此桑扈詩卒章。趙孟因以取義。○敖、五報反。
【読み】
趙孟曰く、匪[か]の交わり敖らざれば、福將に焉に往かん、と。此れ桑扈の詩の卒章。趙孟因りて以て義を取る。○敖は、五報反。
若保是言也、欲辭福祿得乎。
【読み】
若し是の言を保たば、福祿を辭せんと欲すとも得んや、と。
卒享。文子告叔向曰、伯有將爲戮矣。詩以言志。志誣其上、而公怨之、以爲賓榮。言誣、則鄭伯未有其實。趙孟倡賦詩以自寵。故言公怨之、以爲賓榮。
【読み】
享を卒わる。文子叔向に告げて曰く、伯有は將に戮せられんとす。詩は以て志を言う。志其の上を誣いて、之を公怨して、以て賓榮と爲す。誣うと言うは、則ち鄭伯其の實有らざるなり。趙孟倡えて詩を賦せしめて以て自ら寵とす。故に之を公怨して、以て賓榮と爲すと言う。
其能久乎。幸而後亡。言必先亡。
【読み】
其れ能く久しからんや。幸いにして後に亡びん、と。言うこころは、必ず先ず亡びん。
叔向曰、然。已侈。所謂不及五稔者、夫子之謂矣。稔、年也。爲三十年、鄭殺良霄傳。○侈、昌氏反。又尸氏反。稔、而甚反。
【読み】
叔向曰く、然り。已[はなは]だ侈れり。所謂五稔に及ばずとは、夫子を謂うなり、と。稔は、年なり。三十年、鄭良霄を殺す爲の傳なり。○侈は、昌氏反。又尸氏反。稔は、而甚反。
文子曰、其餘皆數世之主也。子展、其後亡者也。在上不忘降。謂賦草蟲曰我心則降。○降、戶江反。
【読み】
文子曰く、其の餘は皆數世の主なり。子展は、其れ後に亡びん者なり。上に在りて降ることを忘れず。草蟲を賦して我が心則ち降ると曰うを謂う。○降は、戶江反。
印氏、其次也。樂而不荒。謂賦蟋蟀曰好樂無荒。
【読み】
印氏は、其の次なり。樂しみて荒まず。蟋蟀を賦して樂を好みて荒むこと無かれと曰うを謂う。
樂以安民、不淫以使之、後亡、不亦可乎。
【読み】
樂しみて以て民を安んじ、淫せずして以て之を使わば、後に亡びんこと、亦可ならずや、と。
宋左師請賞曰、請免死之邑。欲宋君稱功加厚賞。故謙言免死之邑也。
【読み】
宋の左師賞を請いて曰く、死を免るの邑を請う、と。宋君の功を稱して厚賞を加えんことを欲す。故に謙して死を免るの邑と言う。
公與之邑六十。以示子罕。子罕曰、凡諸侯小國、晉・楚所以兵威之。畏而後上下慈和。慈和而後能安靖其國家、以事大國。所以存也。無威則驕。驕則亂生。亂生必滅。所以亡也。天生五材、金・木・水・火・土也。
【読み】
公之に邑六十を與う。以て子罕に示す。子罕曰く、凡そ諸侯小國は、晉・楚の兵を以て之を威す所なり。畏れて後に上下慈和す。慈和して後に能く其の國家を安靖して、以て大國に事う。存する所以なり。威無ければ則ち驕る。驕れば則ち亂生ず。亂生ずれば必ず滅ぶ。亡ぶる所以なり。天五材を生じて、金・木・水・火・土なり。
民竝用之。廢一不可。誰能去兵。兵之設久矣。所以威不軌而昭文德也。聖人以興、謂湯武。○去、起呂反。下同。
【読み】
民竝に之を用ゆ。一を廢つれば不可なり。誰か能く兵を去らん。兵の設けたること久し。不軌を威して文德を昭らかにする所以なり。聖人は以て興り、湯・武を謂う。○去は、起呂反。下も同じ。
亂人以廢。謂桀・紂。
【読み】
亂人は以て廢す。桀・紂を謂う。
廢興・存亡・昏明之術、皆兵之由也。而子求去之、不亦誣乎。以誣道蔽諸侯、罪莫大焉。縱無大討、而又求賞、無厭之甚也。削而投之。削賞左師之書。○厭、於鹽反。
【読み】
廢興・存亡・昏明の術、皆兵に由れり。而るを子之を去らんことを求むるは、亦誣いざるや。誣道を以て諸侯を蔽うは、罪焉より大なるは莫し。縱[たと]い大討無くとも、而るに又賞を求むるは、厭くこと無きの甚だしきなり、と。削りて之を投ず。左師を賞するの書を削るなり。○厭は、於鹽反。
左師辭邑。向氏欲攻司城。司城、子罕。
【読み】
左師邑を辭す。向氏司城を攻めんと欲す。司城は、子罕。
左師曰、我將亡、夫子存我。德莫大焉。又可攻乎。
【読み】
左師曰く、我れ將に亡びんとするを、夫子我を存せり。德焉より大なるは莫し。又攻む可けんや、と。
君子曰、彼己之子、邦之司直、詩鄭風。司、主也。○己、音記。
【読み】
君子曰く、彼の己[こ]の子は、邦の司直なりとは、詩の鄭風。司は、主るなり。○己は、音記。
樂喜之謂乎。樂喜、子罕也。善其不阿向戌。
【読み】
樂喜を謂うか。樂喜は、子罕なり。其の向戌に阿らざるを善す。
何以恤我。我其收之、逸詩。恤、憂也。收、取也。
【読み】
何を以て我を恤えん。我れ其れ之を收めんとは、逸詩なり。恤は、憂うるなり。收は、取るなり。
向戌之謂乎。善向戌能知其過。
【読み】
向戌の謂うか、と。向戌能く其の過ちを知るを善す。
齊崔杼生成及彊而寡。偏喪曰寡。寡、特也。○喪、息浪反。
【読み】
齊の崔杼成と彊とを生みて寡なり。偏喪を寡と曰う。寡は、特[ひとり]なり。○喪は、息浪反。
娶東郭姜、生明。東郭姜以孤入。曰棠無咎。無咎、棠公之子。
【読み】
東郭姜を娶りて、明を生む。東郭姜孤を以[い]て入る。棠無咎と曰う。無咎は、棠公の子。
與東郭偃相崔氏。東郭偃、姜之弟。○相、去聲。
【読み】
東郭偃と與に崔氏を相く。東郭偃は、姜の弟。○相は、去聲。
崔成有病而廢之、有惡疾也。
【読み】
崔成病有りて之を廢して、惡疾有るなり。
而立明。成請老于崔。濟南東朝陽縣西北有崔氏城。成欲居崔邑以終老。
【読み】
明を立つ。成崔に老せんと請う。濟南の東朝陽縣の西北に崔氏城有り。成崔邑に居りて以て老を終えんと欲す。
崔子許之。偃與無咎弗予、曰、崔宗邑也。必在宗主。宗邑、宗廟所在。宗主、謂崔明。
【読み】
崔子之を許す。偃と無咎と予えずして、曰く、崔は宗邑なり。必ず宗主に在らん、と。宗邑は、宗廟の在る所なり。宗主は、崔明を謂う。
成與彊怒。將殺之。告慶封曰、夫子之身、亦子所知也。唯無咎與偃是從、父兄莫得進矣。大恐害夫子。敢以告。夫子、謂崔杼。
【読み】
成と彊と怒る。將に之を殺さんとす。慶封に告げて曰く、夫子の身も、亦子の知れる所なり。唯無咎と偃とに是れ從いて、父兄進むことを得ること莫し。大いに恐れらくは夫子に害あらんことを。敢えて以て告ぐ、と。夫子は、崔杼を謂う。
慶封曰、子姑退。吾圖之。告盧蒲嫳。嫳、慶封屬大夫。封以成・彊之言告嫳。○嫳、普結反。
【読み】
慶封曰く、子姑く退け。吾れ之を圖らん、と。盧蒲嫳[ろほへつ]に告ぐ。嫳は、慶封の屬大夫。封成・彊の言を以て嫳に告ぐ。○嫳は、普結反。
盧蒲嫳曰、彼君之讎也。天或者將弃彼矣。彼實家亂。子何病焉。君、謂齊莊公。爲崔杼所弑。
【読み】
盧蒲嫳曰く、彼は君の讎なり。天或は將に彼を弃てんとす。彼れ實に家亂る。子何ぞ病[うれ]えん。君は、齊の莊公を謂う。崔杼の爲に弑せらる。
崔之薄、慶之厚也。崔敗則慶專權。
【読み】
崔の薄きは、慶の厚きなり。崔敗るれば則ち慶權を專にす。
他日又告。成・彊復告。
【読み】
他日又告ぐ。成・彊復告ぐ。
慶封曰、苟利夫子、必去之。難吾助女。
【読み】
慶封曰く、苟も夫子に利あらば、必ず之を去れ。難あらば吾れ女を助けん、と。
九月、庚辰、崔成・崔彊殺東郭偃・棠無咎於崔氏之朝。崔子怒而出。其衆皆逃。求人使駕。不得。使圉人駕、寺人御而出。圉人、養馬者。寺人、奄士。
【読み】
九月、庚辰、崔成・崔彊東郭偃・棠無咎を崔氏の朝に殺す。崔子怒りて出づ。其の衆皆逃ぐ。人を求めて駕せしめんとす。得ず。圉人をして駕せしめ、寺人御して出づ。圉人は、馬を養う者。寺人は、奄士。
且曰、崔氏有福、止余猶可。恐滅家禍不止其身。
【読み】
且曰く、崔氏福有りて、余に止まらば猶可なり、と。家を滅ぼして禍の其の身に止まらざらんことを恐る。
遂見慶封。慶封曰、崔・慶一也。言如一家。
【読み】
遂に慶封を見る。慶封曰く、崔・慶は一なり。言うこころは、一家の如し。
是何敢然。請爲子討之。使盧蒲嫳帥甲以攻崔氏。崔氏堞其宮而守之。堞、短垣。使其衆居短垣内以守。○堞、音牒。
【読み】
是れ何ぞ敢えて然れる。請う、子の爲に之を討ぜん、と。盧蒲嫳をして甲を帥いて以て崔氏を攻めしむ。崔氏其の宮に堞[かき]して之を守る。堞は、短垣。其の衆をして短垣の内に居て以て守らしむ。○堞は、音牒。
弗克。使國人助之。遂滅崔氏、殺成與彊、而盡俘其家。其妻縊。妻、東郭姜。
【読み】
克たず。國人をして之を助けしむ。遂に崔氏を滅ぼし、成と彊とを殺して、盡く其の家を俘にす。其の妻縊る。妻は、東郭姜。
嫳復命於崔子、且御而歸之。嫳爲崔子御。
【読み】
嫳崔子に復命し、且御して之に歸る。嫳崔子の御と爲る。
至則無歸矣。乃縊。終入於其宮、不見其妻、凶。
【読み】
至れば則ち歸すべき無し。乃ち縊る。其の宮に入りて、其の妻を見ず、凶なりというを終わる。
崔明夜辟諸大墓。開先人之冢以藏之。○辟、婢亦反。亦甫亦反。
【読み】
崔明夜諸を大墓に辟す。先人の冢を開きて以て之を藏む。○辟は、婢亦反。亦甫亦反。
辛巳、崔明來奔。慶封當國。當國、秉政。
【読み】
辛巳、崔明來奔す。慶封國に當たる。國に當たるとは、政を秉るなり。
楚薳罷如晉涖盟。罷、令尹子蕩。報荀盈也。○罷、音皮。
【読み】
楚の薳罷[いひ]晉に如きて涖みて盟う。罷は、令尹子蕩。荀盈に報ゆるなり。○罷は、音皮。
晉侯享之。將出、賦旣醉。旣醉、詩大雅。曰、旣醉以酒、旣飽以德。君子萬年、介爾景福。以美晉侯、比之大平君臣也。
【読み】
晉侯之を享す。將に出でんとして、旣醉を賦す。旣醉は、詩の大雅。曰く、旣に醉うに酒を以てし、旣に飽くに德を以てす。君子萬年、爾の景福を介[おお]いにす、と。以て晉侯を美めて、之を大平の君臣に比す。
叔向曰、薳氏之有後於楚國也宜哉。承君命、不忘敏。子蕩將知政矣。敏以事君、必能養民。政其焉往。言政必歸之。
【読み】
叔向曰く、薳氏の楚國に後有るや宜なるかな。君命を承けて、敏を忘れず。子蕩將に政を知らんとす。敏にして以て君に事えば、必ず能く民を養わん。政其れ焉に往かん、と。言うこころは、政必ず之に歸せん。
崔氏之亂、在二十五年。
【読み】
崔氏の亂に、二十五年に在り。
申鮮虞來奔、僕賃於野、以喪莊公。爲齊莊公服喪。○賃、女鴆反。喪、如字。又息浪反。
【読み】
申鮮虞來奔し、野に僕賃して、以て莊公に喪す。齊の莊公の爲に喪を服す。○賃は、女鴆反。喪は、字の如し。又息浪反。
冬、楚人召之。遂如楚、爲右尹。傳言楚能用賢。
【読み】
冬、楚人之を召ぶ。遂に楚に如き、右尹と爲る。傳楚の能く賢を用ゆるを言う。
十一月、乙亥、朔、日有食之。辰在申。司歷過也。再失閏矣。謂斗建指申。周十一月、今之九月。斗當建戌、而在申。故知再失閏也。文十一年三月甲子至今年、七十一歲、應有二十六閏。今長歷推、得二十四閏。通計少再閏。釋例言之詳矣。
【読み】
十一月、乙亥[きのと・い]、朔、日之を食する有り。辰申に在り。司歷の過ちなり。再び閏を失えるなり。斗建申を指すを謂う。周の十一月は、今の九月なり。斗當に戌に建[さ]すべくして、申に在り。故に再び閏を失えるを知るなり。文十一年三月甲子より今年に至るまで、七十一歲なれば、應に二十六閏有るべし。今長歷もて推せば、二十四閏を得。通計再閏を少[か]く。釋例に之を言うこと詳らかなり。
〔經〕二十有八年、春、無冰。前年知其再失閏。頓置兩閏、以應天正。故此年正月建子、得以無冰爲災而書。
【読み】
〔經〕二十有八年、春、冰無し。前年其の再び閏を失えることを知る。頓[にわか]に兩閏を置きて、以て天正に應ずるなり。故に此の年の正月は建子なれば、冰無きを以て災いと爲して書すことを得。
夏、衛石惡出奔晉。甯喜之黨。書名、惡之。○惡之、烏路反。
【読み】
夏、衛の石惡出でて晉に奔る。甯喜の黨。名を書すは、之を惡みてなり。○惡之は、烏路反。
邾子來朝。秋、八月、大雩。仲孫羯如晉。告將朝楚。○羯、居謁反。
【読み】
邾子[ちゅし]來朝す。秋、八月、大いに雩[う]す。仲孫羯[ちゅうそんけつ]晉に如く。將に楚に朝せんとするを告ぐるなり。○羯は、居謁反。
冬、齊慶封來奔。崔杼之黨。耆酒荒淫而出。書名、罪之。自魯奔吳不書、以絕位不爲卿。○耆、市志反。
【読み】
冬、齊の慶封來奔す。崔杼の黨。酒を耆[この]み荒淫して出づ。名を書すは、之を罪するなり。魯より吳に奔ること書さざるは、位を絕ちて卿爲らざるを以てなり。○耆[し]は、市志反。
十有一月、公如楚。爲宋之盟故朝楚。
【読み】
十有一月、公楚に如く。宋の盟の爲の故に楚に朝す。
十有二月、甲寅、天王崩。靈王也。
【読み】
十有二月、甲寅[きのえ・とら]、天王崩ず。靈王なり。
乙未、楚子昭卒。康王也。十二月無乙未。日誤。
【読み】
乙未[きのと・ひつじ]、楚子昭卒す。康王なり。十二月に乙未無し。日の誤りなり。
〔傳〕二十八年、春、無冰。
【読み】
〔傳〕二十八年、春、冰無し。
梓愼曰、今茲宋・鄭其饑乎。梓愼、魯大夫。今年鄭游吉・宋向戌言之、明年饑甚。傳乃詳其事。
【読み】
梓愼曰く、今茲[ことし]宋・鄭其れ饑えんか。梓愼は、魯の大夫。今年鄭の游吉・宋の向戌之を言い、明年饑甚だし。傳乃ち其の事を詳らかにするなり。
歲在星紀。而淫於玄枵、歲、歲星也。星紀在丑。斗牛之次。玄枵在子。虛危之次。十八年、晉董叔曰、天道多在西北。是歲歲星在亥。至此年、十一歲。故在星紀。明年乃當在玄枵、今已在玄枵、淫行失次。
【読み】
歲星紀に在り。而るに玄枵[げんきょう]に淫して、歲は、歲星なり。星紀は丑に在り。斗牛の次なり。玄枵は子に在り。虛危の次なり。十八年、晉の董叔曰く、天道多く西北に在り、と。是の歲歲星亥に在りき。此の年に至りて、十一歲なり。故に星紀に在り。明年乃ち當に玄枵に在るべきに、今已に玄枵に在るは、淫行して次を失えるなり。
以有時菑。陰不堪陽。時菑、無冰也。盛陰用事而溫無冰。是陰不勝陽、地氣發洩。○菑、音災。洩、息列反。
【読み】
以て時菑[じさい]有り。陰陽に堪えざるなり。時菑は、冰無きなり。盛陰事を用いて溫かにして冰無し。是れ陰陽に勝たずして、地氣發洩するなり。○菑は、音災。洩は、息列反。
蛇乘龍。蛇、玄武之宿。虛危之星。龍、歲星。歲星、木也。木爲靑龍。失次出虛危下、爲蛇所乘。
【読み】
蛇龍に乘る。蛇は、玄武の宿。虛危の星なり。龍は、歲星。歲星は、木なり。木を靑龍と爲す。次を失いて虛危の下に出でて、蛇の爲に乘せらる。
龍、宋・鄭之星也。歲星本位在東方。東方房心爲宋、角亢爲鄭。故以龍爲宋・鄭之星。○亢、音剛。又苦浪反。
【読み】
龍は、宋・鄭の星なり。歲星の本位は東方に在り。東方房心を宋と爲し、角亢を鄭と爲す。故に龍を以て宋・鄭の星と爲す。○亢は、音剛。又苦浪反。
宋・鄭必饑。玄枵虛中也。玄枵三宿、虛星在其中。
【読み】
宋・鄭必ず饑えん。玄枵は中を虛にするなり。玄枵の三宿、虛星其の中に在り。
枵、耗名也。土虛而民耗。不饑何爲。歲爲宋・鄭之星。今失常淫入虛耗之次。時復無冰、地氣發洩。故曰土虛民耗。
【読み】
枵は、耗[こう]の名なり。土虛して民耗す。饑えずして何をか爲さん、と。歲は宋・鄭の星爲り。今常を失いて淫して虛耗の次に入る。時に復冰無く、地氣發洩す。故に土虛して民耗すと曰う。
夏、齊侯・陳侯・蔡侯・北燕伯・杞伯・胡子・沈子・白狄朝于晉。宋之盟故也。陳侯・蔡侯・胡子・沈子、楚屬也。宋盟曰、晉・楚之從、交相見。故朝晉。燕國、今薊縣。○薊、音計。
【読み】
夏、齊侯・陳侯・蔡侯・北燕伯・杞伯・胡子・沈子・白狄晉に朝す。宋の盟の故なり。陳侯・蔡侯・胡子・沈子は、楚の屬なり。宋の盟に曰く、晉・楚の從は、交々相見えん、と。故に晉に朝するなり。燕國は、今の薊縣。○薊は、音計。
齊侯將行。慶封曰、我不與盟。何爲於晉。以宋盟釋齊・秦。
【読み】
齊侯將に行かんとす。慶封曰く、我は盟に與らず。晉に何をか爲さん、と。宋の盟に齊・秦を釋[お]くというを以てなり。
陳文子曰、先事後賄、禮也。事大國、當先從其政事、而後薦賄以副己心。
【読み】
陳文子曰く、事を先にして賄を後にするは、禮なり。大國に事うるは、當に先ず其の政事に從いて、而して後に賄を薦めて以て己が心に副う。
小事大、未獲事焉、從之如志、禮也。言當從大國請事、以順其志。
【読み】
小の大に事うるは、未だ事を獲ざれば、之に從いて志の如くするは、禮なり。言うこころは、當に大國に從いて事を請いて、以て其の志に順うべし。
雖不與盟、敢叛晉乎。重丘之盟、未可忘也。子其勸行。重丘盟、在二十五年。○重、直龍反。
【読み】
盟に與らずと雖も、敢えて晉に叛かんや。重丘の盟、未だ忘る可からざるなり。子其れ行を勸めよ、と。重丘の盟は、二十五年に在り。○重は、直龍反。
衛人討甯氏之黨。故石惡出奔晉。衛人立其從子圃、以守石氏之祀。禮也。石惡之先石碏有大功於衛國、惡之罪不及不祀。故曰禮。○從、才用反。碏、七略反。
【読み】
衛人甯氏の黨を討ず。故に石惡出でて晉に奔る。衛人其の從子圃を立て、以て石氏の祀を守らしむ。禮なり。石惡の先石碏衛國に大功有り、惡の罪祀らざるに及ばず。故に禮と曰う。○從は、才用反。碏は、七略反。
邾悼公來朝、時事也。傳言來朝非宋盟、宋盟唯施於朝晉・楚。
【読み】
邾の悼公來朝するは、時の事なり。傳來朝は宋の盟に非ず、宋の盟は唯晉・楚に朝するに施するを言う。
秋、八月、大雩、旱也。
【読み】
秋、八月、大いに雩するは、旱すればなり。
蔡侯歸自晉、入于鄭。鄭伯享之。不敬。子產曰、蔡侯其不免乎。不免禍。
【読み】
蔡侯晉より歸り、鄭に入る。鄭伯之を享す。不敬なり。子產曰く、蔡侯は其れ免れざらんか。禍を免れじ。
日其過此也、往日至晉時。○過、古禾古臥二反。
【読み】
日[さき]に其の此を過ぎしや、往日晉に至る時。○過は、古禾古臥二反。
君使子展迋勞於東門之外。而傲。迋、往也。○迋、于況反。後同。
【読み】
君子展をして迋[ゆ]きて東門の外に勞わしむ。而るに傲れり。迋[きょう]は、往くなり。○迋は、于況反。後も同じ。
吾曰、猶將更之。今還、受享而惰。乃其心也。君小國、事大國、而惰傲以爲己心、將得死乎。若不免、必由其子。其爲君也、淫而不父。通大子般之妻。
【読み】
吾れ曰えり、猶將に之を更めんとす、と。今還るに、享を受けて惰る。乃ち其の心なり。小國に君とし、大國に事えて、惰傲以て己が心を爲せば、將[はた]死することを得んや。若し免れずば、必ず其の子に由らん。其の君爲るや、淫にして父たらず。大子般の妻に通ず。
僑聞之、如是者、恆有子禍。爲三十年、蔡世子般弑其君傳。
【読み】
僑之を聞く、是の如き者は、恆に子の禍有り、と。三十年、蔡の世子般其の君を弑する爲の傳なり。
孟孝伯如晉、告將爲宋之盟故如楚也。魯、晉屬。故告晉而行。
【読み】
孟孝伯晉に如くは、將に宋の盟の爲の故に楚に如かんとするを告ぐるなり。魯は、晉の屬。故に晉に告げて行く。
蔡侯之如晉也、鄭伯使游吉如楚。及漢。楚人還之、曰、宋之盟、君實親辱。君、謂鄭伯。○還、音環。
【読み】
蔡侯の晉に如くや、鄭伯游吉をして楚に如かしむ。漢に及ぶ。楚人之を還して、曰く、宋の盟に、君實に親ら辱くせり。君は、鄭伯を謂う。○還は、音環。
今吾子來。寡君謂吾子姑還。吾將使馹奔問諸晉而以告。問鄭君應來朝否。○馹、人實反。
【読み】
今吾子來る。寡君吾子に謂えらく、姑く還れ。吾れ將に馹[じつ]をして奔りて諸を晉に問わしめて以て告げんとす、と。鄭君來朝す應きや否やを問うなり。○馹は、人實反。
子大叔曰、宋之盟、君命將利小國、而亦使安定其社稷、鎭撫其民人、以禮承天之休。休、福祿也。
【読み】
子大叔曰く、宋の盟に、君命ずらく、將に小國を利して、亦其の社稷を安定し、其の民人を鎭撫して、禮を以て天の休[さいわい]を承けしめんとす、と。休は、福祿なり。
此君之憲令、而小國之望也。憲、法也。
【読み】
此れ君の憲令にして、小國の望みなり。憲は、法なり。
寡君是故使吉奉其皮幣、聘用乘皮束帛。
【読み】
寡君是の故に吉をして其の皮幣を奉ぜしめ、聘には乘皮束帛を用ゆ。
以歲之不易、聘於下執事。言歲有饑荒之難。故鄭伯不得自朝楚。○易、以豉反。
【読み】
歲の易からざるを以て、下執事に聘せり。言うこころは、歲饑荒の難有り。故に鄭伯自ら楚に朝することを得ず。○易は、以豉反。
今執事有命曰、女何與政令之有。必使而君棄而封守、跋涉山川、蒙犯霜露、以逞君心。小國將君是望。敢不唯命是聽。無乃非盟載之言、以闕君德、而執事有不利焉。小國是懼。不然、其何勞之敢憚。
【読み】
今執事命有りて曰く、女何ぞ政令に與ることか之れ有らん。必ず而[なんじ]の君をして而の封守を棄てて、山川を跋涉し、霜露を蒙犯して、以て君の心を逞くせしめよ、と。小國は將に君を是れ望まんとす。敢えて唯命是れ聽かざらんや。乃ち盟載の言に非ずして、以て君の德を闕きて、執事不利有ること無からんや。小國是れ懼る。然らずんば、其れ何ぞ勞を敢えて憚らん、と。
子大叔歸、復命、告子展曰、楚子將死矣。不脩其政德、而貪昧於諸侯、以逞其願。欲久得乎。周易有之、在復 震下坤上、復。
【読み】
子大叔歸りて、復命し、子展に告げて曰く、楚子は將に死せんとす。其の政德を脩めずして、諸侯を貪昧して、以て其の願いを逞くせんとす。久しからんことを欲すとも得んや。周易に之れ有り、復の
震下坤上は、復。
之頤。震下艮上、頤。復上六變得頤。
【読み】
頤[い]に之くに在り。震下艮上は、頤。復の上六變じて頤を得。
曰、迷復、凶。復上六爻辭也。復、反也。極陰反陽之卦。上處極位、迷而復反、失道已遠、遠而無應。故凶。
【読み】
曰く、迷いて復らんとす、凶なり、と。復の上六の爻の辭なり。復は、反るなり。極陰陽に反るの卦。上極位に處りて、迷いて復反するも、道を失うこと已に遠く、遠くして應無し。故に凶なり。
其楚子之謂乎。欲復其願、謂欲得鄭朝以復其願。
【読み】
其れ楚子を謂うか。其の願いに復らんことを欲して、鄭の朝を得て以て其の願いに復らんことを欲するを謂う。
而棄其本。不脩德。
【読み】
其の本を棄つ。德を脩めず。
復歸無所。是謂迷復。失道已遠、又無所歸。
【読み】
復歸せんとするに所無し。是を迷復と謂う。道を失うこと已に遠く、又歸する所無し。
能無凶乎。君其往也。送葬而歸、以快楚心。言楚子必死。君往、當送其葬。
【読み】
能く凶無からんや。君其れ往け。葬を送りて歸りて、以て楚の心を快くせしめよ。言うこころは、楚子必ず死せん。君往かば、當に其の葬を送るべし。
楚不幾十年、未能恤諸侯也。幾、近也。言失道遠者、復之復難。
【読み】
楚十年に幾からずんば、未だ諸侯を恤うること能わじ。幾は、近きなり。言うこころは、道を失うこと遠き者は、復るも復難し。
吾乃休吾民矣。休、息也。言楚不能復爲害。
【読み】
吾れ乃ち吾が民を休めん、と。休は、息むなり。言うこころは、楚復害を爲すこと能わず。
裨竈曰、今茲周王及楚子皆將死。裨竈、鄭大夫。
【読み】
裨竈[ひそう]曰く、今茲[ことし]周王と楚子と皆將に死せんとす。裨竈は、鄭の大夫。
歲棄其次、而旅於明年之次、以害鳥帑。周・楚惡之。旅、客處也。歲星棄星紀之次、客在玄枵。歲星所在、其國有福。失次於北、禍衝在南。南爲朱鳥、鳥尾曰帑。鶉火・鶉尾、周・楚之分。故周王・楚子受其咎。倶論歲星過次、梓愼則曰宋・鄭饑、裨竈則曰周・楚王死。傳故備舉以示卜占惟人所在。○帑、音奴。惡、如字。一烏路反。
【読み】
歲其の次を棄てて、明年の次に旅して、以て鳥帑を害す。周・楚之に惡し、と。旅は、客處なり。歲星星紀の次を棄てて、玄枵に客在す。歲星の在る所は、其の國福有り。次を北に失いて、禍衝南に在り。南を朱鳥と爲し、鳥尾を帑と曰う。鶉火・鶉尾は、周・楚の分なり。故に周王・楚子其の咎を受くるなり。倶に歲星の次を過ぐるを論じて、梓愼は則ち宋・鄭饑ゆと曰い、裨竈は則ち周・楚の王死すと曰う。傳故に備に舉して以て卜占は惟人に在る所なるを示すなり。○帑は、音奴。惡は、字の如し。一に烏路反。
九月、鄭游吉如晉、告將朝于楚、以從宋之盟。子產相鄭伯以如楚。舍不爲壇。至敵國郊、除地封土、爲壇以受郊勞。
【読み】
九月、鄭の游吉晉に如きて、將に楚に朝して、以て宋の盟に從わんとすと告ぐ。子產鄭伯を相けて以て楚に如く。舍[やど]りて壇を爲さず。敵國の郊に至れば、地を除い土を封じ、壇を爲して以て郊勞を受く。
外僕言曰、昔先大夫相先君適四國、未嘗不爲壇。外僕、掌次舍者。
【読み】
外僕言いて曰く、昔先大夫先君を相けて四國に適けば、未だ嘗て壇を爲さずんばあらず。外僕は、次舍を掌る者。
自是至今、亦皆循之。今子草舍。無乃不可乎。子產曰、大適小則爲壇、小適大苟舍而已。焉用壇。
【読み】
是より今に至るまで、亦皆之に循えり。今子は草舍す。乃ち不可なること無からんや、と。子產曰く、大小に適くときは則ち壇を爲し、小大に適くときは苟も舍るのみ。焉ぞ壇を用いん。
僑聞之。大適小有五美。宥其罪戾、赦其過失、救其菑患、賞其德刑、刑、法也。
【読み】
僑之を聞く。大の小に適くは五美有り。其の罪戾を宥して、其の過失を赦し、其の菑患を救い、其の德刑を賞し、刑は、法なり。
敎其不及、小國不困、懷服如歸。是故作壇以昭其功、宣告後人、無怠於德。怠、解也。
【読み】
其の及ばざるを敎え、小國困しまず、懷服すること歸るが如し。是の故に壇を作りて以て其の功を昭らかにし、後人に宣告して、德に怠ること無からしむ。怠は、解[おこた]るなり。
小適大有五惡。說其罪戾、自解說也。
【読み】
小の大に適くは五惡有り。其の罪戾を說き、自ら解說するなり。
請其不足、行其政事、奉行大國之政。
【読み】
其の足らざるを請い、其の政事を行い、大國の政を奉行す。
共其職貢、從其時命。從朝會之命。
【読み】
其の職貢に共し、其の時命に從うなり。朝會の命に從う。
不然則重其幣帛、以賀其福而弔其凶。皆小國之禍也。焉用作壇以昭其禍。所以告子孫、無昭禍焉可也。無昭禍以告子孫。
【読み】
然らずんば則ち其の幣帛を重ねて、以て其の福を賀して其の凶を弔うなり。皆小國の禍なり。焉ぞ壇を作りて以て其の禍を昭らかにすることを用いん。子孫に告ぐる所以は、禍を昭らかにすること無くして可なり、と。禍を昭らかにして以て子孫に告ぐること無し。
齊慶封好田而耆酒。與慶舍政、舍、慶封子。慶封當國、不自爲政、以付舍。○耆、市志反。
【読み】
齊の慶封田[かり]を好みて酒を耆[この]む。慶舍に政を與え、舍は、慶封の子。慶封國に當たり、自ら政を爲さずして、以て舍に付す。○耆は、市志反。
則以其内實遷于盧蒲嫳氏、易内而飮酒。内實、寶物妻妾也。移而居嫳家。
【読み】
則ち其の内實を以て盧蒲嫳氏に遷り、内を易えて酒を飮む。内實は、寶物妻妾なり。移りて嫳の家に居る。
數日、國遷朝焉。就於盧蒲氏朝見封。
【読み】
數日、國遷りて朝す。盧蒲氏に就きて封に朝見す。
使諸亡人得賊者以告而反之。亡人、辟崔氏難出奔者。
【読み】
諸々亡人の賊を得たる者をして以て告げしめて之を反す。亡人は、崔氏の難を辟けて出奔する者。
故反盧蒲癸。癸臣子之。子之、慶舍。
【読み】
故に盧蒲癸を反す。癸子之に臣たり。子之は、慶舍。
有寵。妻之。子之以其女妻癸。○妻、七計反。
【読み】
寵有り。之に妻す。子之其の女を以て癸に妻す。○妻は、七計反。
慶舍之士謂盧蒲癸曰、男女辨姓。子不辟宗、何也。辨、別也。別姓而後可相取。慶氏・盧蒲氏皆姜姓。
【読み】
慶舍の士盧蒲癸に謂いて曰く、男女は姓を辨つ。子宗を辟けざるは、何ぞや、と。辨は、別つなり。姓を別けて而して後に相取る可し。慶氏・盧蒲氏は皆姜姓。
曰、宗不余辟。言舍欲妻己。
【読み】
曰く、宗余を辟けず。言うこころは、舍己に妻せんと欲す。
余獨焉辟之。賦詩斷章。余取所求焉。惡識宗。言己苟欲有求於慶氏。不能復顧禮。譬如賦詩者取其一章而已。○斷、音短。惡、音烏。注同。
【読み】
余獨り焉ぞ之を辟けん。詩を賦するには章を斷つ。余求むる所を取らんとす。惡ぞ宗を識らん、と。言うこころは、己苟も慶氏に求め有らんと欲す。復禮を顧みること能わず。譬えば詩を賦する者の其の一章を取るが如きのみ。○斷は、音短。惡は、音烏。注も同じ。
癸言王何而反之。二人皆嬖。二子、皆莊公黨。二十五年、崔氏弑莊公。癸・何出奔。今還、求寵於慶氏、欲爲莊公報讎。
【読み】
癸王何を言いて之を反す。二人皆嬖せらる。二子は、皆莊公の黨。二十五年、崔氏莊公を弑す。癸・何出奔す。今還りて、寵を慶氏に求め、莊公の爲に讎を報いんことを欲す。
使執寢戈而先後之。寢戈、親近兵杖。○先、悉薦反。後、戶豆反。
【読み】
寢戈を執りて之を先後せしむ。寢戈は、親近の兵杖。○先は、悉薦反。後は、戶豆反。
公膳、日雙雞。卿大夫之膳食。
【読み】
公膳は、日々に雙雞なり。卿大夫の膳食。
饔人竊更之以鶩。御者知之、則去其肉、而以其洎饋。御、進食者。饔人・御者、欲使諸大夫怨慶氏、減其膳。蓋盧蒲癸・王何之謀。○鶩、音木。鴨也。去、起呂反。藏也。洎、其器反。肉汁也。
【読み】
饔人[ようじん]竊かに之を更うるに鶩[ぼく]を以てす。御者之を知り、則ち其の肉を去[おさ]めて、其の洎[しる]を以て饋[おく]る。御は、食を進むる者なり。饔人・御者、諸大夫をして慶氏を怨ましめんことを欲して、其の膳を減らす。蓋し盧蒲癸・王何の謀ならん。○鶩は、音木。鴨なり。去は、起呂反。藏むるなり。洎[き]は、其器反。肉汁なり。
子雅・子尾怒。二子、皆惠公孫。
【読み】
子雅・子尾怒る。二子は、皆惠公の孫。
慶封告盧蒲嫳。以二子怒告嫳。
【読み】
慶封盧蒲嫳に告ぐ。二子の怒れるを以て嫳に告ぐ。
盧蒲嫳曰、譬之如禽獸。吾寢處之矣。言能殺而席其皮。
【読み】
盧蒲嫳曰く、之を譬えば禽獸の如し。吾れ之に寢處せん、と。言うこころは、能く殺して其の皮を席にす。
使析歸父告晏平仲。欲與共謀子雅・子尾。
【読み】
析歸父をして晏平仲に告げしむ。與に共に子雅・子尾を謀らんことを欲す。
平仲曰、嬰之衆不足用也。知無能謀也。言弗敢出。不敢洩謀。○知、音智。
【読み】
平仲曰く、嬰の衆は用ゆるに足らず。知は能く謀ること無し。言敢えて出ださず。敢えて謀を洩らさず。○知は、音智。
有盟可也。子家曰、子之言云。子家、析歸父。
【読み】
盟有らんこと可なり、と。子家曰く、子の言に云う。子家は、析歸父。
又焉用盟。告北郭子車。子車、齊大夫。
【読み】
又焉ぞ盟を用いん、と。北郭子車に告ぐ。子車は、齊の大夫。
子車曰、人各有以事君。非佐之所能也。佐、子車名。
【読み】
子車曰く、人各々以て君に事うること有り。佐が能くする所に非ざるなり、と。佐は、子車の名。
陳文子謂桓子、桓子、文子之子、無宇。
【読み】
陳文子桓子に謂いて、桓子は、文子の子、無宇。
曰、禍將作矣。吾其何得。對曰、得慶氏之木百車於莊。慶封時有此木、積於六軌之道。
【読み】
曰く、禍將に作らんとす。吾れ其れ何をか得ん、と。對えて曰く、慶氏の木百車を莊に得ん、と。慶封時に此の木有りて、六軌の道に積む。
文子曰、可愼守也已。善其不志於貨財。
【読み】
文子曰く、愼み守る可きのみ、と。其の貨財に志さざるを善す。
盧蒲癸・王何卜攻慶氏、示子之兆、龜兆。
【読み】
盧蒲癸・王何慶氏を攻めんことを卜し、子之に兆を示して、龜兆。
曰、或卜攻讎。敢獻其兆。子之曰、克。見血。
【読み】
曰く、或ひと讎を攻めんことを卜す。敢えて其の兆を獻ず、と。子之曰く、克たん。血を見ん、と。
冬、十月、慶封田于萊。陳無宇從。丙辰、文子使召之。請曰、無宇之母疾病。請歸。慶季卜之、季、慶封。○萊、音來。從、去聲。
【読み】
冬、十月、慶封萊に田す。陳無宇從う。丙辰[ひのえ・たつ]、文子之を召ばしむ。請いて曰く、無宇の母疾病なり。請う、歸らん、と。慶季之を卜し、季は、慶封。○萊は、音來。從は、去聲。
示之兆、曰、死。奉龜而泣。無宇泣。○奉、芳勇反。
【読み】
之に兆を示して、曰く、死せん、と。龜を奉じて泣く。無宇泣く。○奉は、芳勇反。
乃使歸。慶嗣聞之、嗣、慶封之族。
【読み】
乃ち歸らしむ。慶嗣之を聞きて、嗣は、慶封の族。
曰、禍將作矣。謂子家速歸。子家、慶封字。
【読み】
曰く、禍將に作らんとす。子家に謂えらく、速やかに歸れ。子家は、慶封の字。
禍作、必於嘗。嘗、秋祭。
【読み】
禍の作らんは、必ず嘗に於てせん。嘗は、秋祭。
歸、猶可及也。子家弗聽。亦無悛志。悛、改寤也。○悛、七全反。
【読み】
歸らば、猶及ぶ可し、と。子家聽かず。亦悛むる志無し。悛は、改寤なり。○悛は、七全反。
子息曰、亡矣。幸而獲在吳・越。子息、慶嗣。
【読み】
子息曰く、亡びん。幸いにして吳・越に在ることを獲ん、と。子息は、慶嗣。
陳無宇濟水、而戕舟發梁。戕、殘壞也。不欲慶封得救難。○戕、在羊反。
【読み】
陳無宇水を濟りて、舟を戕[そこな]い梁を發[あば]く。戕[しょう]は、殘壞なり。慶封が難を救うことを得んことを欲せず。○戕、在羊反。
盧蒲姜謂癸曰、有事而不告我、必不捷矣。姜、癸妻。慶舍女。
【読み】
盧蒲姜癸に謂いて曰く、事有りて我に告げずんば、必ず捷たじ、と。姜は、癸の妻。慶舍の女。
癸告之。告欲殺慶舍。
【読み】
癸之を告ぐ。慶舍を殺さんことを欲するを告ぐ。
姜曰、夫子愎。莫之止、將不出。我請止之。夫子、謂慶舍。○愎、皮逼反。
【読み】
姜曰く、夫子は愎[もと]れり。之を止むること莫くば、將に出でざらんとす。我れ請う、之を止めん、と。夫子は、慶舍を謂う。○愎は、皮逼反。
癸曰、諾。十一月、乙亥、嘗于大公之廟。慶舍涖事。臨祭事。
【読み】
癸曰く、諾、と。十一月、乙亥[きのと・い]、大公の廟に嘗す。慶舍事に涖まんとす。祭事に臨む。
盧蒲姜告之、且止之。弗聽。曰、誰敢者。遂如公。至公所。
【読み】
盧蒲姜之を告げ、且つ之を止む。聽かず。曰く、誰か敢えてせん者ぞ、と。遂に公に如く。公所に至る。
麻嬰爲尸、爲祭尸。
【読み】
麻嬰尸と爲り、祭尸と爲る。
慶奊爲上獻。上獻、先獻者。○奊、戶結反。
【読み】
慶奊[けいけつ]上獻と爲る。上獻は、先ず獻ずる者。○奊は、戶結反。
盧蒲癸・王何執寢戈、慶氏以其甲環公宮。廟在宮内。○環、如字。又音患。
【読み】
盧蒲癸・王何寢戈を執り、慶氏其の甲を以て公宮を環らす。廟は宮内に在り。○環は、字の如し。又音患。
陳氏・鮑氏之圉人爲優。優、俳。
【読み】
陳氏・鮑氏の圉人優を爲す。優は、俳なり。
慶氏之馬善驚。士皆釋甲束馬、束絆之也。
【読み】
慶氏の馬は善く驚く。士皆甲を釋きて馬を束ねて、之を束絆するなり。
而飮酒、且觀優、至於魚里。魚里、里名。優在魚里。就觀之。
【読み】
酒を飮み、且優を觀んとして、魚里に至る。魚里は、里の名。優魚里に在り。就きて之を觀る。
欒・高・陳・鮑之徒、介慶氏之甲、欒、子雅。高、子尾。陳、陳須無。鮑、鮑國。
【読み】
欒・高・陳・鮑の徒、慶氏の甲を介し、欒は、子雅。高は、子尾。陳は、陳須無。鮑は、鮑國。
子尾抽桷擊扉三。桷、椽也。扉、門闔也。以桷擊扉爲期。○桷、音角。
【読み】
子尾桷を抽きて扉を擊つこと三たび。桷は、椽なり。扉は、門闔なり。桷を以て扉を擊ちて期を爲す。○桷は、音角。
盧蒲癸自後刺子之。王何以戈擊之、解其左肩。猶援廟桷動於甍、甍、屋棟。○刺、七亦反。甍、亡耕反。
【読み】
盧蒲癸後より子之を刺す。王何戈を以て之を擊ち、其の左肩を解く。猶廟桷を援[と]りて甍を動かし、甍は、屋棟。○刺は、七亦反。甍は、亡耕反。
以俎壺投殺人而後死。言其多力。
【読み】
俎壺を以て投げて人を殺して後に死せり。其の多力を言う。
遂殺慶繩・麻嬰。慶繩、慶奊。
【読み】
遂に慶繩[けいじょう]・麻嬰を殺す。慶繩は、慶奊。
公懼。鮑國曰、羣臣爲君故也。言欲尊公室。非爲亂。
【読み】
公懼る。鮑國曰く、羣臣は君の爲の故なり、と。言うこころは、公室を尊ばんことを欲す。亂を爲さんとには非ず。
陳須無以公歸、稅服而如内宮。言公懼於外難。○稅、吐活反。一如字。
【読み】
陳須無公を以[い]て歸り、服を稅[ぬ]ぎて内宮に如く。公外難を懼るるを言う。○稅は、吐活反。一に字の如し。
慶封歸。遇告亂者。丁亥、伐西門。弗克。還伐北門。克之。入伐内宮。陳・鮑在公所故。
【読み】
慶封歸る。亂を告ぐる者に遇う。丁亥[ひのと・い]、西門を伐つ。克たず。還りて北門を伐つ。之に克つ。入りて内宮を伐つ。陳・鮑公所に在る故なり。
弗克。反陳于嶽、嶽、里名。○陳、直覲反。
【読み】
克たず。反りて嶽に陳し、嶽は、里の名。○陳は、直覲反。
請戰。弗許。遂來奔。
【読み】
戰わんと請う。許さず。遂に來奔す。
獻車於季武子。美。澤可以鑑。光鑑形也。
【読み】
車を季武子に獻ず。美なり。澤にして以て鑑む可し。光形を鑑むなり。
展莊叔見之、魯大夫。
【読み】
展莊叔之を見て、魯の大夫。
曰、車甚澤、人必瘁。宜其亡也。叔孫穆子食慶封。慶封氾祭。禮食有祭、示有所先也。氾祭、遠散所祭不共。○氾、芳劒反。
【読み】
曰く、車甚だ澤なれば、人必ず瘁[かじ]くという。宜なり其の亡びしこと、と。叔孫穆子慶封に食わしむ。慶封氾祭す。禮に食するとき祭ること有るは、先とする所有るを示すなり。氾祭は、祭る所を遠く散じて不共なるなり。○氾は、芳劒反。
穆子不說。使工爲之誦茅鴟。工、樂師。茅鴟、逸詩。刺不敬。○說、音悅。
【読み】
穆子說ばず。工をして之が爲に茅鴟[ぼうし]を誦せしむ。工は、樂師。茅鴟は、逸詩。不敬を刺る。○說は、音悅。
亦不知。旣而齊人來讓。讓魯受慶封。
【読み】
亦知らず。旣にして齊人來り讓[せ]む。魯の慶封を受くるを讓む。
奔吳。吳句餘予之朱方。句餘、吳子夷末也。朱方、吳邑。○句、古侯反。
【読み】
吳に奔る。吳の句餘之に朱方を予う。句餘は、吳子夷末なり。朱方は、吳の邑。○句は、古侯反。
聚其族焉而居之。富於其舊。子服惠伯謂叔孫曰、天殆富淫人。慶封又富矣。穆子曰、善人富謂之賞、淫人富謂之殃。天其殃之也。其將聚而殲旃。殲、盡也。旃、之也。爲昭四年、殺慶封傳。○殲、子潛反。
【読み】
其の族を聚めて之に居る。其の舊より富めり。子服惠伯叔孫に謂いて曰く、天殆ど淫人を富まさんとす。慶封又富めり、と。穆子曰く、善人の富める之を賞と謂い、淫人の富める之を殃と謂う。天其れ之に殃[わざわい]するならん。其れ將に聚めて旃[これ]を殲[つ]くさんとするならん、と。殲は、盡くすなり。旃は、之なり。昭四年、慶封を殺す爲の傳なり。○殲は、子潛反。
癸巳、天王崩。未來赴。亦未書。禮也。嫌時已聞喪當書。故發例。
【読み】
癸巳[みずのと・み]、天王崩ず。未だ來り赴[つ]げず。亦未だ書さず。禮なり。時已に喪を聞けば當に書すべきに嫌あり。故に例を發せり。
崔氏之亂、喪羣公子。故鉏在魯、叔孫還在燕、賈在句瀆之丘。在襄二十五年。
【読み】
崔氏の亂に、羣公子を喪えり。故に鉏魯に在り、叔孫還燕に在り、賈句瀆[こうとう]の丘に在り。襄二十五年に在り。
及慶氏亡、皆召之、具其器用、而反其邑焉。反、還也。
【読み】
慶氏が亡ぶるに及びて、皆之を召し、其の器用を具えて、其の邑を反す。反は、還るなり。
與晏子邶殿其鄙六十。邶殿、齊別都。以邶殿邊鄙六十邑與晏嬰。○邶、蒲對反。殿、多薦反。亦如字。
【読み】
晏子に邶殿[はいでん]の其の鄙六十を與う。邶殿は、齊の別都。邶殿の邊鄙六十邑を以て晏嬰に與う。○邶は、蒲對反。殿は、多薦反。亦字の如し。
弗受。子尾曰、富、人之所欲也。何獨弗欲。對曰、慶氏之邑足欲。故亡。吾邑不足欲也。益之以邶殿、乃足欲。足欲、亡無日矣。在外、不得宰吾一邑。不受邶殿、非惡富也。恐失富也。且夫富、如布帛之有幅焉、爲之制度、使無遷也。遷、移也。○惡、去聲。夫、音扶。
【読み】
受けず。子尾曰く、富は、人の欲する所なり。何ぞ獨り欲せざる、と。對えて曰く、慶氏の邑は欲するに足れり。故に亡びたり。吾が邑は欲するに足らざるなり。之を益すに邶殿を以てせば、乃ち欲するに足らん。欲するに足らば、亡びんこと日無けん。外に在らば、吾が一邑だも宰することを得じ。邶殿を受けざるは、富を惡むに非ざるなり。富を失わんことを恐れてなり。且つ夫れ富は、布帛の幅有るが如くして、之が制度を爲して、遷ること無からしめんとす。遷は、移るなり。○惡は、去聲。夫は、音扶。
夫民、生厚而用利。於是乎正德以幅之、言厚利皆人之所欲。唯正德可以爲之幅。
【読み】
夫れ民は、生厚くして用利あらんとす。是に於て正德以て之に幅して、言うこころは、厚利は皆人の欲する所。唯正德以て之が幅と爲す可し。
使無黜嫚、黜、猶放也。
【読み】
黜嫚[ちゅつまん]すること無からしむる、黜は、猶放のごとし。
謂之幅利。利過則爲敗。吾不敢貪多、所謂幅也。
【読み】
之を利に幅すと謂う。利過ぐれば則ち敗れを爲す。吾が敢えて多きを貪らざるは、所謂幅なり、と。
與北郭佐邑六十。受之。與子雅邑。辭多受少。與子尾邑。受而稍致之。致、還公。
【読み】
北郭佐に邑六十を與う。之を受く。子雅に邑を與う。多きを辭して少なきを受く。子尾に邑を與う。受けて稍[ようや]く之を致す。致すとは、公に還すなり。
公以爲忠。故有寵。
【読み】
公以て忠なりと爲す。故に寵有り。
釋盧蒲嫳于北竟。釋、放也。
【読み】
盧蒲嫳を北竟に釋[はな]つ。釋は、放つなり。
求崔杼之尸將戮之。不得。叔孫穆子曰、必得之。武王有亂臣十人。亂、治也。○治、直吏反。
【読み】
崔杼の尸を求めて將に之を戮せんとす。得られず。叔孫穆子曰く、必ず之を得ん。武王は亂臣十人有り。亂は、治むるなり。○治は、直吏反。
崔杼其有乎。不十人、不足以葬。葬必須十人。崔氏不能令十人同心。故必得。
【読み】
崔杼は其れ有らんや。十人ならざれば、以て葬るに足らず、と。葬は必ず十人を須ゆ。崔氏十人をして同心ならしむること能わず。故に必ず得ん。
旣崔氏之臣曰、與我其拱璧、崔氏大璧。
【読み】
旣にして崔氏の臣曰く、我に其の拱璧を與えば、崔氏の大璧。
吾獻其柩。於是得之。十二月、乙亥、朔、齊人遷莊公殯于大寢、更殯之於路寢也。十二月戊戌朔。乙亥誤。○柩、其救反。
【読み】
吾れ其の柩を獻ぜん、と。是に於て之を得たり。十二月、乙亥、朔、齊人莊公の殯を大寢に遷し、更に之を路寢に殯するなり。十二月戊戌朔。乙亥は誤りなり。○柩は、其救反。
以其棺尸崔杼於市。崔氏弑莊公、又葬不如禮。故以莊公棺著崔杼尸邊、以章其罪。○著、丁略反。
【読み】
其の棺を以て崔杼を市に尸す。崔氏莊公を弑し、又葬ること禮の如くならず。故に莊公の棺を以て崔杼の尸の邊に著けて、以て其の罪を章すなり。○著は、丁略反。
國人猶知之、皆曰、崔子也。始求崔杼之尸不得。故傳云、國皆知之。
【読み】
國人猶之を知り、皆曰く、崔子なり、と。始め崔杼の尸を求めて得ず。故に傳に云う、國皆之を知れり、と。
爲宋之盟故、公及宋公・陳侯・鄭伯・許男如楚。公過鄭。鄭伯不在。已在楚。
【読み】
宋の盟の爲の故に、公宋公・陳侯・鄭伯・許男と楚に如く。公鄭を過ぐ。鄭伯在らず。已に楚に在り。
伯有迋勞於黃崖。不敬。滎陽宛陵縣西有黃水、西南至新鄭城、西入洧。○迋、音旺。勞、力報反。
【読み】
伯有迋[ゆ]きて黃崖に勞う。不敬なり。滎陽宛陵縣の西に黃水有り、西南して新鄭城に至り、西して洧に入る。○迋は、音旺。勞は、力報反。
穆叔曰、伯有無戾於鄭、鄭必有大咎。伯有不受戮、必還爲鄭國害。
【読み】
穆叔曰く、伯有鄭に戾[つみ]無くば、鄭必ず大咎有らん。伯有戮を受けずんば、必ず還って鄭國の害を爲さん。
敬、民之主也。而棄之。何以承守。言無以承先祖守其家。
【読み】
敬は、民の主なり。而るを之を棄つ。何を以て承守せん。言うこころは、以て先祖に承けて其の家を守ること無し。
鄭人不討、必受其辜。濟澤之阿、言薄土。○濟、子禮反。
【読み】
鄭人討ぜずんば、必ず其の辜を受けん。濟澤の阿の、薄土を言う。○濟は、子禮反。
行潦之蘋藻、言賤菜。
【読み】
行潦の蘋藻も、賤菜を言う。
寘諸宗室、薦宗廟。
【読み】
諸を宗室に寘き、宗廟に薦む。
季蘭尸之、敬也。言取蘋藻之菜於阿澤之中、使服蘭之女而爲之主、神猶享之。以其敬也。
【読み】
季蘭之を尸[つかさど]るは、敬なり。言うこころは、蘋藻の菜を阿澤の中に取りて、蘭を服するの女をして之が主爲らしむれば、神猶之を享く。其の敬するを以てなり。
敬可棄乎。爲三十年、鄭殺良霄傳。
【読み】
敬棄つ可けんや、と。三十年、鄭良霄を殺す爲の傳なり。
及漢。楚康王卒。公欲反。叔仲昭伯曰、我楚國之爲。豈爲一人行也。昭伯、叔仲帶。○爲、于僞反。
【読み】
漢に及ぶ。楚の康王卒す。公反らんことを欲す。叔仲昭伯曰く、我は楚國の爲なり。豈一人の爲に行かんや、と。昭伯は、叔仲帶。○爲は、于僞反。
子服惠伯曰、君子有遠慮、小人從邇。邇、近也。
【読み】
子服惠伯曰く、君子は遠慮有り、小人は邇きに從う。邇は、近きなり。
飢寒之不恤、誰遑其後。遑、暇也。
【読み】
飢寒も恤えずして、誰か其の後に遑あらん。遑は、暇なり。
不如姑歸也。叔孫穆子曰、叔仲子專之矣。言足專任。
【読み】
姑く歸らんに如かざるなり、と。叔孫穆子曰く、叔仲子は之を專らにせらる。言うこころは、專任するに足れり。
子服子始學者也。言未識遠。
【読み】
子服子は始めて學べる者なり、と。言うこころは、未だ遠きを識らず。
榮成伯曰、遠圖者忠也。成伯、榮駕鵞。○駕、音加。鵞、五河反。
【読み】
榮成伯曰く、遠圖する者は忠なり、と。成伯は、榮駕鵞。○駕は、音加。鵞は、五河反。
公遂行。從昭伯謀。
【読み】
公遂に行く。昭伯の謀に從う。
宋向戌曰、我一人之爲。非爲楚也。飢寒之不恤、誰能恤楚。姑歸而息民、待其立君而爲之備。宋公遂反。
【読み】
宋の向戌曰く、我は一人の爲なり。楚の爲には非ざるなり。飢寒を恤えずして、誰か能く楚を恤えん。姑く歸りて民を息え、其の立君を待ちて之が備えを爲さん、と。宋公遂に反る。
楚屈建卒。趙文子喪之如同盟。禮也。宋盟有衷甲之隙。不以此廢好。故曰禮。○喪、如字。又息浪反。
【読み】
楚の屈建卒す。趙文子之に喪すること同盟の如くす。禮なり。宋の盟に衷甲の隙有り。此を以て好を廢てず。故に禮と曰う。○喪は、字の如し。又息浪反。
王人來告喪。問崩日、以甲寅告。故書之。以徵過也。徵、審也。此緩告非有事宜。直臣子怠慢。故於此發例。○徵、張陵反。
【読み】
王人來りて喪を告ぐる。崩日を問えば、甲寅を以て告ぐ。故に之を書す。以て過ちを徵[あき]らかにするなり。徵は、審らかにするなり。此の緩告は事宜有るに非ず。直に臣子の怠慢なり。故に此に於て例を發せり。○徵は、張陵反。
襄
傳。別二十。彼列反。涖盟。音利。又音類。伯車。音居。傳爲。于僞反。特跳。直彫反。傳寫。直專反。
經二十六年。背國。音佩。
傳。不應。應對之應。暴骨。徐扶沃反。道二國。音導。拂衣。芳弗反。騫裳。起虔反。本或作褰。音雖同義非也。說文云、褰、袴也。○今本亦褰。於治。直吏反。而力爭。爭鬭之爭。已侈。一音尸氏反。敬娰。音似。蘧伯玉。其居反。瑗。徐于萬反。今殺。申志反。○今本弑。誰畜。一音勑六反。遂見。賢遍反。一音如字。淹恤。於廉反。徐於嚴反。孫襄居守。手又反。復攻。扶又反。下復愬同。頷之。本又作顉。易生。以豉反。大叔。音泰。朝夕。如字。負羈。居宜反。紲。○今本絏。牧圉。魚呂反。下同。復愬。悉路反。先輅。音路。本亦作路。○今本亦路。先八邑。一音如字。見經。賢遍反。人爲。于僞反。及雩。音于。徐況于反。如淳同。韋昭音虛。或一呼反。婁。如淳音樓。易。以豉反。別識。彼列反。上其手。時掌反。下注同。介弟。音界。道囚。音導。抽戈。勑留反。印。一刃反。菫父。音謹。以爲請。一音如字。更遣使。所吏反。疆戚。居良反。注同。不得與。音預。爲衛侯故。于僞反。下爲臣・注爲林父・爲臣同。相齊。息亮反。下同。大平。音泰。緇衣。側其反。粲兮。七旦反。違遠。于萬反。宗祧。他彫反。見周書。賢遍反。諸隄。徐丁兮反。沈直兮反。○今本堤。共姬。音恭。而婉。紆阮反。惠廧。音牆。或作牆。○今本亦牆。伊戾。力計反。復發。扶又反。敢近。附近之近。有共。音恭。本又作供。下同。盟處。昌慮反。聒而。古活反。下同。使饋。其位反。左師令。力呈反。使者。所吏反。下文通使同。左師諛。羊朱反。使夏。戶雅反。先下。遐嫁反。娶於。七住反。子牟。亡侯反。爲申公。如字。舊于僞反。爲國。于僞反。杞梓。徐上音起。下音子。不僭。子念反。下皆同。不濫。力暫反。殄。徒典反。瘁。在醉反。怠解。佳賣反。爲之。于僞反。下爲之不舉同。則飫。於據反。饜。本亦作厭。於豔反。下同。饌。仕眷反。朝夕。如字。救療。力召反。析公。星歷反。人寘。之豉反。將遁。徒困反。易震。以豉反。鈞聲。音均。徐居旬反。宵潰。戶内反。桑隧。音遂。復侵。扶又反。華夏。戶雅反。蒐。所留反。乘。繩證反。閱也。音悅。○今本無也字。秣馬。音末。蓐食。音辱。之邢。音刑。事見。賢遍反。精卒。子忽反。欲令。力呈反。下同。不復。扶又反。下復仕同。四萃。在醉反。娶於。本又作取。七住反。女實。音汝。爲許。于僞反。下爲國同。昧於。音妹。貪冒。亡報反。又亡北反。不禦。魚呂反。于氾。徐扶嚴反。廩丘。力甚反。所治。直吏反。介于。音界。於比。必利反。
經二十七年。不與。音預。下同。晉歃。所洽反。又所甲反。復患。扶又反。倚順。於綺反。
傳。爲賦。于僞反。注同。相鼠。息亮反。注同。復攻。扶又反。欲斂。力驗反。内我。音納。本又作納。○今本亦納。以沮。在呂反。止使者。所吏反。誰愬。悉路反。公喪。一音息浪反。繐衰。七雷反。本亦作縗。○今本亦縗。一乘。繩證反。少師。詩照反。欲弭。徐武婢反。之■(蠹の石の下に木が加わる)。本又作蠹。丁故反。○今本亦蠹。我焉。於虔反。下將焉用之・焉用有信・焉能害我同。爲介。音戒。後注同。折。之設反。注同。徐又音制。俎。莊呂反。使舉是禮也。沈云、舉、謂記錄之也。黑肱。古弘反。更相。音庚。子晢。星歷反。得復。扶又反。以藩。方元反。楚氛。徐扶云反。斃。婢世反。一坐。才臥反。飮大夫。於鴆反。而重。直用反。下二字同。聞於。音問。又如字。事治。直吏反。無媿。九位反。○今本作愧。之好。呼報反。草蟲。直忠反。召南。上照反。下同。覯。古豆反。踰閾。音域。徐況逼反。非使。所吏反。注同。簀。音責。其樂。音洛。下注及文至樂以安民竝同。蔓。音萬。邂。戶賣反。逅。戶豆反。印段。一刃反。蟋蟀。所律反。大康。音泰。其居。音據。好樂。呼報反。下同。瞿瞿。倶付反。受天之祜。音戶。焉往。於虔反。下政其焉往同。倡賦。昌亮反。已侈。字林、充豉反。皆數。所主反。蔽諸侯。必世反。徐甫世反。服虔・王肅・董遇竝作弊。婢世反。無厭。徐於廉反。娶東。七住反。无咎。音無。本亦作無。下其九反。○今本亦無。朝陽。如字。一音直遙反。盧蒲嫳。徐敷結反。復告。扶又反。難。乃旦反。吾助女。音汝。圉人。魚呂反。請爲。于僞反。下注嫳爲・爲齊莊同。堞其。徐養涉反。
經二十八年。以應。應對之應。爲宋。于僞反。
傳。梓愼。音子。玄枵。許驕反。發泄。○今本洩。耗名。呼報反。時復。扶又反。北燕。烏賢反。不與。音預。下同。後賄。呼罪反。圃。布五反。日其。人實反。勞于。力報反。○今本于作於。而傲。五報反。下同。而惰。徒臥反。君小國事大國。古本無小字。將爲。于僞反。之休。許虯反。注同。乘皮。繩證反。之難。乃旦反。曰女。音汝。何與。音預。跋涉。白末反。敢憚。徒旦反。之頤。以之反。無應。應對之應。不幾。居依反。又音祈。不能復。扶又反。下復顧同。裨竈。避支反。禍衝。尺容反。之分。扶問反。相鄭。息亮反。下同。爲壇。徒丹反。郊勞。力報反。焉用。於虔反。下焉用作壇・焉避之・焉用盟同。宥其。音又。其菑。音災。怠解。佳賣反。共其。音恭。好田。呼報反。數日。所主反。見封。賢遍反。之難。乃旦反。○今本無之字。辨別。彼列反。下同。相取。七住反。本亦作娶。惡識。安也。皆嬖。必計反。下同。欲爲。于僞反。親近。附近之近。兵杖。直亮反。膳。市戰反。饋。其位反。改寤。五故反。救難。乃旦反。下外難同。大公。音泰。優俳。皮皆反。絆之。音半。介慶。音界。擊扉。音非。門扇也。椽也。直專反。門闔。戶臘反。猶援。音爰。於甍。字林、亡成反。爲君。于僞反。下爲之誦同。于嶽。五角反。以鑑。古暫反。必瘁。在醉反。本或作萃。食慶。音嗣。茅。亡交反。鴟。尺之反。刺不敬。七賜反。喪羣。息浪反。故鉏。仕居反。公子鉏也。本或作故公鉏者非。句瀆。音豆。有幅。音福。無黜。勑律反。嫚。徐音慢。北竟。音境。能令。力呈反。拱璧。居勇反。徐音恭。爲宋。于僞反。過鄭。古禾反。黃崖。本又作涯。魚佳反。行潦。音老。之蘋。音頻。藻。音早。寘諸。之豉反。之隙。去逆反。本或作郤。廢好。呼報反。徵過。本或作懲誤。