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春秋左氏傳校本


 春秋《左氏傳》(宣公上、下)

春秋左氏傳
(隱公 桓公莊公閔公)(僖公上、中、下 )(文公上、下 )(宣公上、下 )(成公上、下 )
(襄公一、二、三) (四、五、六 )(昭公一、二、三、四) (五、六、七)(定公上、下)(哀公上、下)(序杜預略傳 ・後序)

春秋左氏傳校本第十

宣公 起元年盡十一年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

宣公 名倭。一名接。又作委。文公子。母敬嬴。謚法、善問周達曰宣。
【読み】
宣公 名は倭。一名は接。又委に作る。文公の子。母は敬嬴。謚法に、善問周達するを宣と曰う、と。

〔經〕
元年、春、王正月、公卽位。無傳。
【読み】
〔經〕元年、春、王の正月、公位に卽く。傳無し。

公子遂如齊逆女。不譏喪娶者、不待貶責而自明也。卿爲君逆例在文四年。
【読み】
公子遂齊に如きて女を逆[むか]う。喪娶を譏らざるは、貶責を待たずして自明なればなり。卿君の爲に逆う例は文四年に在り。

三月、遂以夫人婦姜至自齊。稱婦、有姑之辭。不書氏、史闕文。
【読み】
三月、遂夫人婦姜を以[い]て齊より至る。婦と稱するは、姑有るの辭。氏を書さざるは、史の闕文なり。

夏、季孫行父如齊。晉放其大夫胥甲父于衛。放者、受罪黜免、宥之以遠。
【読み】
夏、季孫行父齊に如く。晉其の大夫胥甲父を衛に放つ。放つとは、罪を受けて黜免して、之を宥むるに遠を以てするなり。

公會齊侯于平州。平州、齊地。在泰山牟縣西。
【読み】
公齊侯に平州に會す。平州は、齊の地。泰山牟縣の西に在り。

公子遂如齊。六月、齊人取濟西田。魯以賂齊、齊人不用師徒。故曰取。
【読み】
公子遂齊に如く。六月、齊人濟西の田を取る。魯以て齊に賂いて、齊人師徒を用いず。故に取ると曰う。

秋、邾子來朝。無傳。
【読み】
秋、邾子[ちゅし]來朝す。傳無し。

楚子・鄭人侵陳、遂侵宋。晉趙盾帥師救陳。傳言救陳・宋、經無宋字、蓋闕。○盾、徒本反。
【読み】
楚子・鄭人陳を侵し、遂に宋を侵す。晉の趙盾[ちょうとん]師を帥いて陳を救う。傳には陳・宋を救うと言い、經に宋の字無きは、蓋し闕けたるならん。○盾は、徒本反。

宋公・陳侯・衛侯・曹伯會晉師于棐林伐鄭。晉師救陳・宋、四國君往會之、共伐鄭也。不言會趙盾、取於兵會、非好會也。棐林、鄭地。滎陽宛陵縣東南有林郷。○棐、芳尾反。
【読み】
宋公・陳侯・衛侯・曹伯晉の師に棐林[ひりん]に會して鄭を伐つ。晉の師陳・宋を救い、四國の君往きて之に會して、共に鄭を伐つなり。趙盾に會すと言わざるは、兵會に取りて、好會に非ざるなり。棐林は、鄭の地。滎陽宛陵縣の東南に林郷有り。○棐は、芳尾反。

冬、晉趙穿帥師侵崇。晉人・宋人伐鄭。
【読み】
冬、晉の趙穿師を帥いて崇を侵す。晉人・宋人鄭を伐つ。

〔傳〕元年、春、王正月、公子遂如齊逆女、尊君命也。諸侯之卿、出入稱名氏、所以尊君命也。傳於此發者、與還文不同。故釋之。
【読み】
〔傳〕元年、春、王の正月、公子遂齊に如きて女を逆うとは、君命を尊ぶなり。諸侯の卿、出入名氏を稱するは、君命を尊ぶ所以なり。傳此に於て發するは、還る文と同じからず。故に之を釋くなり。

三月、遂以夫人婦姜至自齊、尊夫人也。遂不言公子、替其尊稱、所以成小君之尊也。公子、當時之寵號、非族也。故傳不言舍族。釋例論之備矣。
【読み】
三月、遂夫人婦姜を以て齊より至るとは、夫人を尊ぶなり。遂公子と言わずして、其の尊稱を替[す]つるは、小君の尊を成す所以なり。公子とは、當時の寵號にして、族に非ざるなり。故に傳族を舍つると言わず。釋例之を論ずること備なり。

夏、季文子如齊、納賂以請會。宣公簒立、未列於會。故以賂請之。
【読み】
夏、季文子齊に如き、賂を納れて以て會を請う。宣公簒立して、未だ會に列ならず。故に賂を以て之を請う。

晉人討不用命者、放胥甲父于衛、胥甲、下軍佐。文十二年、戰河曲不肯薄秦於險。
【読み】
晉人命を用いざる者を討じて、胥甲父を衛に放ちて、胥甲は、下軍の佐。文十二年、河曲に戰いしとき秦に險に薄[せま]ることを肯[うけが]わず。

而立胥克。克、甲之子。
【読み】
胥克を立つ。克は、甲の子。

先辛奔齊。辛、甲之屬大夫。
【読み】
先辛齊に奔る。辛は、甲の屬大夫。

會于平州、以定公位。簒立者、諸侯旣與之會、則不得復討。臣子殺之、與弑君同。故公與齊會而位定。
【読み】
平州に會して、以て公の位を定む。簒立する者、諸侯旣に之と會すれば、則ち復討ずることを得ず。臣子之を殺せば、君を弑すると同じ。故に公齊と會して位定まる。

東門襄仲如齊拜成。謝得會也。
【読み】
東門襄仲齊に如きて成[たい]らぎを拜す。會を得ることを謝すなり。

六月、齊人取濟西之田、爲立公故、以賂齊也。濟西、故曹地。僖三十一年、晉文以分魯。
【読み】
六月、齊人濟西の田を取るは、公を立つる爲の故に、以て齊に賂えるなり。濟西は、故の曹の地。僖三十一年、晉文以て魯に分かてり。

宋人之弑昭公也、在文十六年。
【読み】
宋人の昭公を弑するや、文十六年に在り。

晉荀林父以諸侯之師伐宋、宋及晉平、宋文公受盟于晉。又會諸侯于扈、將爲魯討齊。皆取賂而還。文十五年、十七年、二扈之盟、皆受賂。
【読み】
晉の荀林父諸侯の師を以[い]て宋を伐ち、宋と晉と平らぎ、宋の文公盟を晉に受けぬ。又諸侯を扈[こ]に會して、將に魯の爲に齊を討ぜんとす。皆賂を取りて還れり。文十五年、十七年、二扈の盟に、皆賂を受く。

鄭穆公曰、晉不足與也。遂受盟于楚。陳共公之卒、楚人不禮焉、卒、在文十三年。
【読み】
鄭の穆公曰く、晉は與するに足らず、と。遂に盟を楚に受く。陳の共公の卒するに、楚人禮せざりしかば、卒するは、文十三年に在り。

陳靈公受盟于晉。
【読み】
陳の靈公盟を晉に受く。

秋、楚子侵陳、遂侵宋。晉趙盾帥師救陳・宋、會于棐林、以伐鄭也。楚蔿賈救鄭、遇于北林、與晉師相遇。滎陽中牟縣西南有林亭、在鄭北。
【読み】
秋、楚子陳を侵し、遂に宋を侵す。晉の趙盾師を帥いて陳・宋を救い、棐林に會して、以て鄭を伐つなり。楚の蔿賈[いか]鄭を救いて、北林に遇い、晉の師と相遇う。滎陽中牟縣の西南に林亭有り、鄭の北に在り。

囚晉解揚。晉人乃還。解揚、晉大夫。
【読み】
晉の解揚を囚う。晉人乃ち還る。解揚は、晉の大夫。

晉欲求成於秦。趙穿曰、我侵崇、秦急崇、必救之。崇、秦之與國。
【読み】
晉成らぎを秦に求めんと欲す。趙穿曰く、我れ崇を侵さば、秦崇を急にすれば、必ず之を救わん。崇は、秦の與國。

吾以求成焉。冬、趙穿侵崇。秦弗與成。
【読み】
吾れ以て成らぎを求めん、と。冬、趙穿崇を侵す。秦與に成らがず。

晉人伐鄭、以報北林之役。報囚解揚。
【読み】
晉人鄭を伐つは、以て北林の役に報ゆるなり。解揚を囚うるに報ゆ。

於是晉侯侈。趙宣子爲政、驟諫而不入。故不競於楚。競、强也。爲明年、鄭伐宋張本。
【読み】
是に於て晉侯侈れり。趙宣子政を爲して、驟[しば]々諫むれども入れず。故に楚に競[こわ]からず。競は、强きなり。明年、鄭宋を伐つ爲の張本なり。


〔經〕二年、春、王二月、壬子、宋華元帥師、及鄭公子歸生帥師、戰于大棘。宋師敗績。獲宋華元。得大夫、生死皆曰獲。例在昭二十三年。棘、在陳留襄邑縣南。
【読み】
〔經〕二年、春、王の二月、壬子[みずのえ・ね]、宋の華元師を帥いて、鄭の公子歸生が師を帥いたると、大棘[たいきょく]に戰う。宋の師敗績す。宋の華元を獲たり。大夫を得るには、生死皆獲と曰う。例は昭二十三年に在り。棘は、陳留襄邑縣の南に在り。

秦師伐晉。夏、晉人・宋人・衛人・陳人侵鄭。鄭爲楚伐宋、獲其大夫。晉趙盾興諸侯之師、將爲宋報恥、畏楚而還、失霸者之義。故貶稱人。
【読み】
秦の師晉を伐つ。夏、晉人・宋人・衛人・陳人鄭を侵す。鄭楚の爲に宋を伐ち、其の大夫を獲。晉の趙盾諸侯の師を興して、將に宋の爲に恥を報いんとし、楚を畏れて還り、霸者の義を失う。故に貶して人と稱す。

秋、九月、乙丑、晉趙盾弑其君夷皐。靈公不君。而稱臣以弑者、以示良史之法、深責執政之臣。例在四年。○皐、古刀反。
【読み】
秋、九月、乙丑[きのと・うし]、晉の趙盾其の君夷皐を弑す。靈公不君なり。而るを臣を稱して以て弑するは、以て良史の法を示して、深く執政の臣を責むるなり。例は四年に在り。○皐は、古刀反。

冬、十月、乙亥、天王崩。無傳。
【読み】
冬、十月、乙亥[きのと・い]、天王崩ず。傳無し。

〔傳〕二年、春、鄭公子歸生受命于楚伐宋。受楚命也。
【読み】
〔傳〕二年、春、鄭の公子歸生命を楚に受けて宋を伐つ。楚の命を受くるなり。

宋華元・樂呂御之。二月、壬子、戰于大棘。宋師敗績。囚華元、獲樂呂。樂呂、司寇。獲不書、非元帥也。獲、生死通名。經言獲華元。故傳特護之曰囚、以明其生獲、故得贖而還。
【読み】
宋の華元・樂呂之を御[ふせ]ぐ。二月、壬子、大棘に戰う。宋の師敗績す。華元を囚え、樂呂を獲。樂呂は、司寇。獲ると書さざるは、元帥に非ざればなり。獲は、生死の通名。經に華元を獲ると言う。故に傳特に之を護して囚うと曰いて、以て其の生獲せらる、故に贖[あがな]われて還るを得ることを明かすなり。

及甲車四百六十乘、俘二百五十人、馘百人。
【読み】
及び甲車四百六十乘、俘二百五十人、馘[かく]百人をさへ。

狂狡輅鄭人。鄭人入于井。狂狡、宋大夫。輅、迎也。○馘、古獲反。輅、五嫁反。
【読み】
狂狡鄭人を輅[むか]う。鄭人井に入る。狂狡は、宋の大夫。輅は、迎うなり。○馘は、古獲反。輅は、五嫁反。

倒戟而出之。獲狂狡。
【読み】
戟を倒[さかさま]にして之を出だす。狂狡を獲たり。

君子曰、失禮違命。宜其爲禽也。戎昭果毅以聽之。之謂禮。聽、謂常存於耳、著於心、想聞其政令。○倒、丁老反。毅、魚旣反。著、直略反。
【読み】
君子曰く、禮を失い命に違えり。宜なり其の禽と爲ること。戎は果毅を昭らかにして以て之を聽く。之を禮と謂う。聽くとは、常に耳に存し、心に著け、其の政令を聞かんことを想うを謂う。○倒は、丁老反。毅は、魚旣反。著は、直略反。

殺敵爲果、致果爲毅。易之戮也。易、反易。
【読み】
敵を殺すを果と爲し、果を致すを毅と爲す。之を易うるは戮なり、と。易は、反易なり。

將戰、華元殺羊食士。其御羊斟不與。及戰、曰、疇昔之羊、子爲政。疇昔、猶前日也。○食、音嗣。斟、之金反。與、音預。
【読み】
將に戰わんとせしとき、華元羊を殺して士に食わしむ。其の御羊斟與らざりき。戰に及びて、曰く、疇昔の羊は、子政を爲せり。疇昔は、猶前日のごとし。○食は、音嗣。斟は、之金反。與は、音預。

今日之事、我爲政。與入鄭師。故敗。
【読み】
今日の事は、我れ政を爲さん、と。與に鄭の師に入る。故に敗れたり。

君子謂、羊斟非人也。以其私憾敗國殄民。憾、恨也。殄、盡也。○敗、必邁反。又如字。
【読み】
君子謂えらく、羊斟は人に非ざるなり。其の私憾を以て國を敗り民を殄[つ]くす。憾は、恨むなり。殄[てん]は、盡くすなり。○敗は、必邁反。又字の如し。

於是刑孰大焉。詩所謂人之無良者、詩、小雅。義取不良之人、相怨以亡。
【読み】
是に於て刑孰れか焉より大ならん。詩に所謂人の無良とは、詩は、小雅。義不良の人、相怨みて以て亡ぶるに取る。

其羊斟之謂乎。殘民以逞。
【読み】
其れ羊斟の謂か。民を殘[そこな]いて以て逞[たくま]しくせり、と。

宋人以兵車百乘、文馬百駟、畫馬爲文。四百匹。○逞、勑領反。
【読み】
宋人兵車百乘、文馬百駟を以て、馬に畫きて文を爲せるなり。四百匹なり。○逞は、勑領反。

以贖華元于鄭。半入、華元逃歸。
【読み】
以て華元を鄭に贖[あがな]う。半ば入るとき、華元逃げ歸る。

立于門外、告而入。告宋城門而後入。言不苟。
【読み】
門外に立ち、告げて入る。宋の城門に告げて而して後に入る。苟もせざるを言う。

見叔牂曰、子之馬然也。叔牂、羊斟也。卑賤得先歸。華元見而慰之。○牂、子郎反。
【読み】
叔牂[しゅくそう]を見て曰く、子の馬然るなり、と。叔牂は、羊斟なり。卑賤にして先に歸ることを得たり。華元見て之を慰む。○牂は、子郎反。

對曰、非馬也。其人也。叔牂知前言以顯。故不敢讓罪。
【読み】
對えて曰く、馬に非ざるなり。其れ人なり、と。叔牂前言の以[すで]に顯るを知る。故に敢えて罪を讓らず。

旣合而來奔。叔牂言畢、遂奔魯。合、猶答也。
【読み】
旣に合わせて來奔す。叔牂言畢りて、遂に魯に奔る。合は、猶答うるのごとし。

宋城。華元爲植、巡功。植、將主也。○植、直吏反。將、子匠反。
【読み】
宋城く。華元植[ち]と爲り、功を巡る。植は、將主なり。○植は、直吏反。將は、子匠反。

城者謳曰、睅其目、皤其腹、棄甲而復。睅、出目。皤、大腹。棄甲、謂亡師。○睅、戶板反。大目也。皤、音婆。
【読み】
城く者謳[うた]いて曰く、睅[かん]たる其の目、皤[は]たる其の腹、甲を棄てて復れり。睅は、出目。皤は、大腹。甲を棄つるとは、師を亡うを謂う。○睅は、戶板反。大目なり。皤は、音婆。

于思于思、棄甲復來。于思、多鬚之貌。○思、如字。又西才反。來、力知反。又如字。復、扶又反。
【読み】
于思[うし]于思、甲を棄てて復來れり、と。于思は、多鬚の貌。○思は、字の如し。又西才反。來は、力知反。又字の如し。復は、扶又反。

使其驂乘謂之曰、牛則有皮。犀兕尙多。棄甲則那。那、猶何也。○犀、音西。兕、徐里反。那、乃多反。
【読み】
其の驂乘をして之に謂わしめて曰く、牛には則ち皮有り。犀兕[さいじ]も尙多し。甲を棄つるも則ち那[なに]かあらん、と。那は、猶何のごとし。○犀は、音西。兕は、徐里反。那は、乃多反。

役人曰、從其有皮、丹漆若何。華元曰、去之。夫其口衆我寡。傳言華元不吝其咎、寬而容衆。
【読み】
役人をして曰く、從[たと]い其れ皮有りとも、丹漆を若何、と。華元曰く、之を去れ。夫[かれ]は其れ口衆く我は寡し、と。傳華元其の咎を吝[おし]まずして、寬にして衆を容るるを言う。

秦師伐晉、以報崇也。伐崇、在元年。
【読み】
秦の師晉を伐つは、以て崇に報ゆるなり。崇を伐つは、元年に在り。

遂圍焦。焦、晉河外邑。
【読み】
遂に焦を圍む。焦は、晉の河外の邑。

夏、晉趙盾救焦、遂自陰地及諸侯之師侵鄭、陰地、晉河南山北、自上洛以東、至陸渾。○渾、戶昏反。
【読み】
夏、晉の趙盾焦を救い、遂に陰地より諸侯の師と鄭を侵して、陰地は、晉の河南山北、上洛より以東、陸渾に至るまでなり。○渾は、戶昏反。

以報大棘之役。楚鬭椒救鄭。曰、能欲諸侯而惡其難乎。遂次于鄭、以待晉師。趙盾曰、彼宗競于楚。殆將斃矣。競、强也。鬭椒、若敖之族。自子文以來、世爲令尹。○惡・難、皆去聲。
【読み】
以て大棘の役に報ゆ。楚の鬭椒鄭を救う。曰く、能く諸侯を欲して其の難を惡まんや、と。遂に鄭に次[やど]りて、以て晉の師を待つ。趙盾曰く、彼の宗楚に競[こわ]し。殆ど將に斃れんとす。競は、强きなり。鬭椒は、若敖の族。子文より以來、世々令尹爲り。○惡・難は、皆去聲。

姑益其疾。乃去之。欲示弱以驕之。傳言趙盾所以稱人。且爲四年、楚滅若敖氏張本。
【読み】
姑く其の疾を益さん、と。乃ち之を去る。弱きを示して以て之を驕らせんと欲す。傳趙盾を人と稱する所以を言う。且四年、楚若敖氏を滅ぼす爲の張本なり。

晉靈公不君。失君道也。以明於例應稱國以弑。
【読み】
晉の靈公不君なり。君道を失うなり。以て例に於て應に國を稱して以て弑すべきを明らかにす。

厚斂以彫牆、彫、畫也。
【読み】
厚斂して以て牆に彫り、彫は、畫くなり。

從臺上彈人、而觀其辟丸也。宰夫胹熊蹯不熟。殺之、寘諸畚、使婦人載以過朝。畚、以草索爲之。筥屬。○彈、徒丹反。胹、音而。煮也。蹯、扶元反。畚、音本。
【読み】
臺上より人を彈して、其の丸を辟くるを觀る。宰夫熊蹯[ゆうはん]を胹[に]て熟せず。之を殺し、諸を畚[ほん]に寘[お]きて、婦人をして載せて以て朝を過[よぎ]らしむ。畚は、草索を以て之を爲る。筥の屬。○彈は、徒丹反。胹[じ]は、音而。煮るなり。蹯は、扶元反。畚は、音本。

趙盾・士季見其手、問其故而患之、將諫。士季曰、諫而不入、則莫之繼也。會請先。不入、則子繼之。三進及溜、而後視之、士季、隨會也。三進三伏、公不省而又前也。公知欲諫。故佯不視。○溜、力救反。屋霤也。
【読み】
趙盾・士季其の手を見、其の故を問いて之を患え、將に諫めんとす。士季曰く、諫めて入らずんば、則ち之を繼ぐこと莫けん。會請う、先んぜん。入らずんば、則ち子之を繼げ、と。三たび進みて溜に及びて、而して後に之を視て、士季は、隨會なり。三たび進み三たび伏すも、公省みずして又前[すす]むなり。公諫むることを欲するを知る。故に佯[いつわ]りて視ず。○溜は、力救反。屋霤[おくりゅう]なり。

曰、吾知所過矣。將改之。稽首而對曰、人誰無過。過而能改、善莫大焉。詩曰、靡不有初。鮮克有終。詩、大雅也。○鮮、息淺反。少也。
【読み】
曰く、吾れ過つ所を知れり。將に之を改めんとす、と。稽首して對えて曰く、人誰か過ち無けん。過ちて能く改むるは、善焉より大なるは莫し。詩に曰く、初め有らざること靡し。克く終わり有ること鮮し、と。詩は、大雅なり。○鮮は、息淺反。少なきなり。

夫如是、則能補過者鮮矣。君能有終、則社稷之固也。豈惟羣臣賴之。又曰、袞職有闕、惟仲山甫補之、能補過也。詩、大雅也。袞、君之上服。闕、過也。言服袞者有過、則仲山甫能補之。
【読み】
夫れ是の如きは、則ち能く過ちを補う者は鮮し。君能く終わり有らば、則ち社稷の固めなり。豈惟羣臣のみ之に賴るならんや。又曰く、袞職闕くる有れば、惟仲山甫之を補うとは、能く過ちを補うなり。詩は、大雅なり。袞は、君の上服。闕は、過つなり。言うこころは、袞を服する者過ち有れば、則ち仲山甫能く之を補う。

君能補過、袞不廢矣。常服袞也。
【読み】
君能く過ちを補わば、袞廢れざらん、と。常に袞を服するなり。

猶不改。宣子驟諫。公患之。使鉏麑賊之。鉏麑、晉力士。○鉏、仕倶反。麑、音迷。一五兮反。
【読み】
猶改めず。宣子驟[しば]々諫む。公之を患う。鉏麑[しょげい]をして之を賊せしめんとす。鉏麑は、晉の力士。○鉏は、仕倶反。麑は、音迷。一に五兮反。

晨往、寢門闢矣。盛服將朝、尙早。坐而假寐。不解衣冠而睡。○闢、婢亦反。盛、音成。
【読み】
晨に往けば、寢門闢けたり。盛服して將に朝せんとし、尙早し。坐して假寐す。衣冠を解かずして睡る。○闢は、婢亦反。盛は、音成。

麑退、歎而言曰、不忘恭敬、民之主也。賊民之主、不忠。棄君之命、不信。有一於此、不如死也。觸槐而死。槐、趙盾庭樹。○槐、音懷。又音囘。
【読み】
麑退き、歎じて言いて曰く、恭敬を忘れざるは、民の主なり。民の主を賊するは、不忠なり。君の命を棄つるは、不信なり。此に一有らんは、死するに如かず、と。槐に觸れて死す。槐は、趙盾の庭樹。○槐は、音懷。又音囘。

秋、九月、晉侯飮趙盾酒。伏甲將攻之。其右提彌明知之。右、車右。○飮、於鴆反。提、上支反。彌、面支反。
【読み】
秋、九月、晉侯趙盾に酒を飮ましむ。甲を伏せて將に之を攻めんとす。其の右提彌明[しびめい]之を知る。右は、車右。○飮は、於鴆反。提は、上支反。彌は、面支反。

趨登曰、臣侍君宴、過三爵、非禮也。遂扶以下。公嗾夫獒焉。明搏而殺之。獒、猛犬也。○嗾、素口反。說文云、使犬也。夫、音扶。獒、五羔反。搏、音博。
【読み】
趨り登りて曰く、臣君の宴に侍りて、三爵に過ぐるは、禮に非ず、と。遂に扶けて以[い]て下る。公夫の獒[ごう]に嗾[そう]せしむ。明搏[う]ちて之を殺す。獒は、猛犬なり。○嗾は、素口反。說文に云う、犬を使うなり。夫は、音扶。獒は、五羔反。搏は、音博。

盾曰、棄人用犬。雖猛何爲。責公不養士、而更以犬爲己用。
【読み】
盾曰く、人を棄てて犬を用ゆ。猛しと雖も何をかせん、と。公の士を養わずして、更に犬を以て己が用と爲すを責む。

鬭且出。提彌明死之。
【読み】
鬭い且つ出づ。提彌明之に死す。

初、宣子田於首山、舍于翳桑、田、獵也。翳桑、桑之多蔭翳者。首山、在河東蒲坂縣東南。○翳、於計反。
【読み】
初め、宣子首山に田[かり]して、翳桑に舍り、田は、獵なり。翳桑は、桑の蔭翳多き者。首山は、河東蒲坂縣の東南に在り。○翳は、於計反。

見靈輒餓、問其病。靈輒、晉人。
【読み】
靈輒が餓ゆるを見て、其の病を問う。靈輒は、晉人。

曰、不食三日矣。食之。舍其半。問之。曰、宦三年矣。宦、學也。○食之、音嗣。下同。舍、音捨。
【読み】
曰く、食わざること三日なり、と。之に食わしむ。其の半ばを舍く。之を問う。曰く、宦すること三年なり。宦は、學ぶなり。○食之は、音嗣。下も同じ。舍は、音捨。

未知母之存否。今近焉。去家近。
【読み】
未だ母の存否を知らず。今近し。家を去ること近し。

請以遺之。使盡之、而爲之簞食與肉、簞、笥也。○遺、唯季反。笥、思嗣反。
【読み】
請う以て之に遺らん、と。之を盡くさしめて、之が簞食と肉とを爲り、簞は、笥なり。○遺は、唯季反。笥は、思嗣反。

寘諸橐以與之。旣而與爲公介。靈輒爲公甲士。○橐、他洛反。而與、音預。
【読み】
諸を橐[たく]に寘[お]きて以て之に與う。旣にして公の介爲るに與れり。靈輒公の甲士と爲る。○橐は、他洛反。而與は、音預。

倒戟以禦公徒而免之。問何故。對曰、翳桑之餓人也。問其名居。問所居。
【読み】
戟を倒にして以て公の徒を禦ぎて之を免れしむ。何の故ぞと問う。對えて曰く、翳桑の餓人なり、と。其の名居を問う。所居を問う。

不告而退、不望報也。
【読み】
告げずして退き、報を望まざるなり。

遂自亡也。輒亦去。
【読み】
遂に自ら亡ぐ。輒も亦去る。

乙丑、趙穿攻靈公於桃園。穿、趙盾之從父昆弟子。乙丑、九月二十七日。
【読み】
乙丑、趙穿靈公を桃園に攻む。穿は、趙盾の從父昆弟の子。乙丑は、九月二十七日。

宣子未出山而復。晉竟之山也。盾出奔、聞公弑而還。
【読み】
宣子未だ山を出でずして復る。晉の竟の山なり。盾出奔し、公弑せらると聞きて還る。

大史書曰、趙盾弑其君。以示於朝。宣子曰、不然。對曰、子爲正卿、亡不越竟、反不討賊。非子而誰。宣子曰、嗚呼、我之懷矣、自伊慼、其我之謂矣。逸詩也。言人多所懷戀、則自遺憂。
【読み】
大史書して曰く、趙盾其の君を弑す、と。以て朝に示す。宣子曰く、然らず、と。對えて曰く、子正卿と爲して、亡げて竟を越えず、反りて賊を討ぜず。子に非ずして誰ぞ、と。宣子曰く、嗚呼、我の懷[おも]いて、自ら伊[こ]の慼[うれ]えを[おく]れりとは、其れ我を謂うなり、と。逸詩なり。言うこころは、人懷戀する所多ければ、則ち自ら憂えを遺る。
*「貽」は、漢籍國字解全書では「詒[のこ]す」である。

孔子曰、董狐、古之良史也。書法不隱。不隱盾之罪。
【読み】
孔子曰く、董狐は、古の良史なり。法を書して隱さず。盾の罪を隱さず。

趙宣子、古之良大夫也。爲法受惡。善其爲法受屈。○爲、于僞反。
【読み】
趙宣子は、古の良大夫なり。法の爲に惡を受けり。其の法の爲に屈を受くるを善す。○爲は、于僞反。

惜也、越竟乃免。越竟則君臣之義絕、可以不討賊。
【読み】
惜しいかな、竟を越ゆれば乃ち免れん、と。竟を越ゆれば則ち君臣の義絕えて、以て賊を討ぜざる可し。

宣子使趙穿逆公子黑臀于周、而立之。黑臀、晉文公子。○臀、徒門反。
【読み】
宣子趙穿をして公子黑臀[こくとん]を周より逆[むか]えしめて、之を立つ。黑臀は、晉の文公の子。○臀は、徒門反。

壬申、朝于武宮。壬申、十月五日。旣有日而無月、冬又在壬申下。明傳文無較例。○較、音角。
【読み】
壬申[みずのえ・さる]、武宮に朝す。壬申は、十月五日。旣に日有りて月無く、冬又壬申の下に在り。明けし、傳文較例無きこと。○較は、音角。

初、麗姬之亂、詛無畜羣公子。詛、盟誓。○麗、力知反。
【読み】
初め、麗姬の亂に、羣公子を畜うこと無からんと詛[ちか]えり。詛は、盟誓。○麗は、力知反。

自是晉無公族。無公子。故廢公族之官。
【読み】
是より晉に公族無し。公子無し。故に公族の官を廢す。

及成公卽位、乃宦卿之適、而爲之田、以爲公族。宦、仕也。爲置田邑、以爲公族大夫。○適、丁歷反。爲置、于僞反。
【読み】
成公が位に卽くに及びて、乃ち卿の適を宦にして、之が田を爲りて、以て公族と爲す。宦は、仕なり。爲に田邑を置きて、以て公族大夫とす。○適は、丁歷反。爲置は、于僞反。

又宦其餘子、亦爲餘子。餘子、適子之母弟也。亦治餘子之政。
【読み】
又其の餘子を宦にして、亦餘子と爲す。餘子は、適子の母弟なり。亦餘子の政を治む。

其庶子爲公行。庶子、妾子也。掌率公戎行。○行、戶郎反。
【読み】
其の庶子を公行と爲す。庶子は、妾の子なり。公の戎行を率ゆることを掌る。○行は、戶郎反。

晉於是有公族・餘子・公行。皆官名。
【読み】
晉是に於て公族・餘子・公行有り。皆官の名。

趙盾請以括爲公族。括、趙盾異母弟、趙姬之中子屛季也。○中、如字。又丁仲反。屛、步丁反。
【読み】
趙盾括を以て公族と爲さんと請う。括は、趙盾の異母弟、趙姬の中子屛季なり。○中は、字の如し。又丁仲反。屛は、步丁反。

曰、君姬氏之愛子也。趙姬、文公女、成公姊也。
【読み】
曰く、君姬氏の愛子なり。趙姬は、文公の女、成公の姊なり。

微君姬氏、則臣狄人也。公許之。盾、狄外孫也。姬氏逆之以爲適。事見僖二十四年。
【読み】
君姬氏微[な]かりせば、則ち臣は狄人なり、と。公之を許す。盾は、狄の外孫なり。姬氏之を逆えて以て適とす。事は僖二十四年に見ゆ。

冬、趙盾爲旄車之族、旄車、公行之官。盾、本卿適。其子當爲公族。辟屛季。故更掌旄車。
【読み】
冬、趙盾旄車[ぼうしゃ]の族と爲り、旄車は、公行の官。盾は、本卿の適なり。其の子當に公族と爲るべし。屛季を辟く。故に更に旄車を掌る。

使屛季以其故族、爲公族大夫。盾以其故官屬與屛季、使爲衰之適。○衰、初危反。嫡下、一有子字。爲公族、爲或訓治、非。下同。原同長。而使括者、以姬氏愛子。
【読み】
屛季をして其の故族を以て、公族大夫と爲らしむ。盾其の故官屬を以て屛季に與えて、衰の適爲らしむ。○衰は、初危反。嫡の下、一に子の字有り。爲公族の、爲或は治むと訓ずるは、非なり。下も同じ。原同じく長なり。而るを括をしむるは、姬氏の愛子を以てなり。


〔經〕三年、春、王正月、郊牛之口傷。改卜牛。牛死。乃不郊。牛不稱牲、未卜日。
【読み】
〔經〕三年、春、王の正月、郊牛の口傷る。牛を改め卜す。牛死す。乃ち郊せず。牛牲と稱せざるは、未だ日を卜せざればなり。

猶三望。葬匡王。無傳。四月而葬。速。
【読み】
猶三望す。匡王を葬る。傳無し。四月にして葬る。速きなり。

楚子伐陸渾之戎。夏、楚人侵鄭。秋、赤狄侵齊。無傳。
【読み】
楚子陸渾の戎を伐つ。夏、楚人鄭を侵す。秋、赤狄齊を侵す。傳無し。

宋師圍曹。冬、十月、丙戌、鄭伯蘭卒。再與文同盟。
【読み】
宋の師曹を圍む。冬、十月、丙戌[ひのえ・いぬ]、鄭伯蘭卒す。再び文と同盟す。

葬鄭穆公。無傳。
【読み】
鄭の穆公を葬る。傳無し。

〔傳〕三年、春、不郊而望。皆非禮也。言牛雖傷死、當更改卜、取其吉者。郊不可廢也。前年冬、天王崩。未葬而郊者、不以王事廢天事。禮記曾子問、天子崩、未殯、五祀不行、旣殯而祭。自啓至于反哭、五祀之祭不行。已葬而祭。
【読み】
〔傳〕三年、春、郊せずして望す。皆禮に非ざるなり。言うこころは、牛傷死すと雖も、當に更に改め卜して、其の吉なる者を取るべし。郊は廢す可からざるなり。前年の冬、天王崩ず。未だ葬らずして郊するは、王事を以て天事を廢せざるなり。禮記の曾子問に、天子崩じて、未だ殯せざれば、五祀行わず、旣に殯して祭る。啓より反哭に至るまで、五祀の祭行わず。已に葬りて祭る、と。

望、郊之屬也。不郊、亦無望可也。已有例、在僖三十一年。復發傳者、嫌牛死與卜不從異。
【読み】
望は、郊の屬なり。郊せざれば、亦望すること無くして可なり。已に例有り、僖三十一年に在り。復傳を發するは、牛死すると卜して從わざると異なるに嫌あればなり。

晉侯伐鄭、及郔。鄭及晉平。士會入盟。郔、鄭地。爲夏、楚侵鄭傳。○郔、音延。
【読み】
晉侯鄭を伐ち、郔[えん]に及ぶ。鄭晉と平らぐ。士會入りて盟う。郔は、鄭の地。夏、楚鄭を侵す爲の傳なり。○郔は、音延。

楚子伐陸渾之戎。遂至于雒、觀兵于周疆。雒水、出上雒冢領山、至河南鞏縣入河。
【読み】
楚子陸渾の戎を伐つ。遂に雒に至り、兵を周の疆に觀[しめ]す。雒水は、上雒の冢領山に出でて、河南の鞏縣に至り河に入る。

定王使王孫滿勞楚子。王孫滿、周大夫。○勞、力報反。
【読み】
定王王孫滿をして楚子を勞わしむ。王孫滿は、周の大夫。○勞は、力報反。

楚子問鼎之大小輕重焉。示欲偪周取天下。
【読み】
楚子鼎の大小輕重を問う。周に偪りて天下を取らんと欲するを示す。

對曰、在德不在鼎。昔夏之方有德也、禹之世。
【読み】
對えて曰く、德に在りて鼎に在らず。昔夏の方に德有りしや、禹の世。

遠方圖物、圖畫山川奇異之物而獻之。
【読み】
遠方物を圖[えが]きしかば、山川奇異の物を圖畫して之を獻ず。

貢金九牧、使九州之牧貢金。
【読み】
金を九牧に貢せしめ、九州の牧をして金を貢せしむ。

鑄鼎象物、象所圖物、著之於鼎。○鑄、之樹反。著、張慮反。
【読み】
鼎を鑄て物に象り、圖する所の物に象りて、之を鼎に著す。○鑄は、之樹反。著は、張慮反。

百物而爲之備、使民知神姦。圖鬼神百物之形、使民逆備之。
【読み】
百物にして之が備えを爲して、民をして神姦を知らしめり。鬼神百物の形を圖して、民をして逆[あらかじ]め之に備えしむ。

故民入川澤山林、不逢不若、若、順也。
【読み】
故に民川澤山林に入りて、不若に逢わず、若は、順なり。

螭魅罔兩、螭、山神・獸形。魅、怪物。罔兩、水神。○螭、勑知反。魅、亡備反。
【読み】
螭魅罔兩、螭は、山神・獸の形。魅は、怪物。罔兩は、水神。○螭は、勑知反。魅は、亡備反。

莫能逢之、逢、遇也。
【読み】
能く之に逢うこと莫く、逢は、遇うなり。

用能協于上下、以承天休。民無災害、則上下和、而受天祐。
【読み】
用[もっ]て能く上下を協えて、以て天休を承けり。民災害無ければ、則ち上下和して、天祐を受く。

桀有昏德、鼎遷于商。載祀六百。載祀、皆年。○載祀、商曰祀、唐虞曰載。
【読み】
桀昏德有りしかば、鼎商に遷りぬ。載祀六百なり。載祀は、皆年。○載祀は、商は祀と曰い、唐虞は載と曰う。

商紂暴虐、鼎遷于周。德之休明、雖小重也。不可遷。
【読み】
商紂暴虐なりしかば、鼎周に遷りぬ。德の休明なれば、小なりと雖も重し。遷す可からず。

其姦回昏亂、雖大輕也。言可移。
【読み】
其の姦回昏亂なれば、大なりと雖も輕し。言うこころは、移す可からず。

天祚明德、有所止。、致也。
【読み】
天の明德に祚[さいわい]するは、[いた]し止まる所有り。は、致すなり。
*「底」は、漢籍國字解全書では「厎」。

成王定鼎于郟鄏、郟鄏、今河南也。武王遷之、成王定之。○郟、古洽反。鄏、音辱。
【読み】
成王鼎を郟鄏[こうじょく]に定めて、郟鄏は、今の河南なり。武王之を遷し、成王之を定む。○郟は、古洽反。鄏は、音辱。

卜世三十、卜年七百。天所命也。
【読み】
世を卜するに三十、年を卜するに七百なり。天の命ずる所なり。

周德雖衰、天命未改。鼎之輕重、未可問也。
【読み】
周德衰えたりと雖も、天命未だ改まらず。鼎の輕重、未だ問う可からざるなり、と。

夏、楚人侵鄭、鄭卽晉故也。
【読み】
夏、楚人鄭を侵すは、鄭晉に卽く故なり。

宋文公卽位三年、殺母弟須及昭公子、武氏之謀也。武氏謀奉母弟須及昭公子以作亂。事在文十八年。
【読み】
宋の文公位に卽くの三年、母弟須と昭公の子とを殺せしは、武氏が謀ればなり。武氏母弟須と昭公の子とを奉じて以て亂を作さんことを謀る。事は文十八年に在り。

使戴桓之族、攻武氏於司馬子伯之館、盡逐武・穆之族、武・穆之族、以曹師伐宋。秋、宋師圍曹、報武氏之亂也。
【読み】
戴桓の族をして、武氏を司馬子伯の館に攻めて、盡く武・穆の族を逐わしめしかば、武・穆の族、曹の師を以[い]て宋を伐てり。秋、宋の師曹を圍むは、武氏の亂に報ゆるなり。

冬、鄭穆公卒。
【読み】
冬、鄭の穆公卒す。

初、鄭文公有賤妾、曰燕姞。姞、南燕姓。○姞、其乙反。
【読み】
初め、鄭の文公賤妾有り、燕姞[えんきつ]と曰う。姞は、南燕の姓。○姞は、其乙反。

夢天使與己蘭、蘭、香草。
【読み】
夢みらく、天己に蘭を與えしめて、蘭は、香草。

曰、余爲伯鯈。余而祖也。伯鯈、南燕祖。○鯈、直留反。
【読み】
曰く、余を伯鯈[はくちゅう]と爲す。余は而[なんじ]の祖なり。伯鯈は、南燕の祖。○鯈は、直留反。

以是爲而子。以蘭爲女子名。○女、音汝。
【読み】
是を以て而の子とせん。蘭を以て女の子の名とせん。○女は、音汝。

以蘭有國香、人服媚之如是。媚、愛也。欲令人愛之如蘭。
【読み】
蘭に國香有るを以て、人之に服媚すること是の如くならん、と。媚は、愛するなり。人をして之を愛すること蘭の如くならしめんと欲す。

旣而文公見之、與之蘭而御之。辭曰、妾不才。幸而有子、將不信。敢徵蘭乎。懼將不見信。故欲計所賜蘭、爲懷子月數。
【読み】
旣にして文公之を見、之に蘭を與えて之を御[お]らしむ。辭[つ]げて曰く、妾不才なり。幸いにして子有りとも、將に信ぜられざらんとす。敢えて蘭を徵とせんか、と。懼れらくは將に信ぜられざらんとす。故に賜う所の蘭を計えて、子を懷く月數と爲さんと欲す。

公曰、諾。生穆公。名之曰蘭。
【読み】
公曰く、諾、と。穆公を生む。之を名づけて蘭と曰う。

文公報鄭子之妃。曰陳嬀。鄭子、文公叔父、子儀也。漢律、淫季父之妻曰報。○嬀、九危反。
【読み】
文公鄭子の妃に報ず。陳嬀[ちんき]と曰う。鄭子は、文公の叔父、子儀なり。漢律に、季父の妻に淫するを報と曰う、と。○嬀は、九危反。

生子華・子臧。子臧得罪而出。出奔宋。
【読み】
子華・子臧を生む。子臧罪を得て出づ。出でて宋に奔る。

誘子華而殺之南里、在僖十六年。南里、鄭地。
【読み】
子華を誘きて之を南里に殺し、僖十六年に在り。南里は、鄭の地。

使盜殺子臧於陳・宋之閒。在僖二十四年。
【読み】
盜をして子臧を陳・宋の閒に殺さしむ。僖二十四年に在り。

又娶于江。生公子士。朝于楚。楚人酖之。及葉而死。葉、楚地。今南陽葉縣。○酖、直蔭反。葉、式涉反。
【読み】
又江に娶る。公子士を生む。楚に朝す。楚人之を酖す。葉に及びて死す。葉は、楚の地。今の南陽の葉縣。○酖は、直蔭反。葉は、式涉反。

又娶于蘇。生子瑕・子兪彌。兪彌早卒。洩駕惡瑕。文公亦惡之。故不立也。洩駕、鄭大夫。
【読み】
又蘇に娶る。子瑕・子兪彌を生む。兪彌早く卒す。洩駕[せつが]瑕を惡む。文公も亦之を惡む。故に立てざるなり。洩駕は、鄭の大夫。

公逐羣公子。公子蘭奔晉、從晉文公伐鄭。在僖三十年。○從、才用反。又如字。
【読み】
公羣公子を逐う。公子蘭晉に奔り、晉の文公の鄭を伐つに從う。僖三十年に在り。○從は、才用反。又字の如し。

石癸曰、吾聞姬・姞耦、其子孫必蕃。姞姓宜爲姬配耦。
【読み】
石癸曰く、吾れ聞く、姬・姞耦すれば、其の子孫必ず蕃[しげ]らん、と。姞姓は宜しく姬の配耦と爲すべし。

姞、吉人也。后稷之元妃也。姞姓之女、爲后稷妃、周是以興。故曰吉人。
【読み】
姞は、吉人なり。后稷の元妃なり。姞姓の女、后稷の妃と爲りて、周是を以て興れり。故に吉人と曰う。

今公子蘭、姞甥也。天或啓之、必將爲君。其後必蕃。先納之、可以亢寵。亢、極也。○亢、苦浪反。
【読み】
今公子蘭は、姞の甥なり。天或は之を啓かば、必ず將に君と爲らんとす。其の後必ず蕃らん。先ず之を納れば、以て寵を亢[きわ]む可し、と。亢は、極むなり。○亢は、苦浪反。

與孔將鉏・侯宣多納之、盟于大宮而立之、大宮、鄭祖廟。○大、音泰。
【読み】
孔將鉏・侯宣多と之を納れ、大宮に盟いて之を立て、大宮は、鄭の祖廟。○大は、音泰。

以與晉平。
【読み】
以て晉と平らぐ。

穆公有疾、曰、蘭死、吾其死乎。吾所以生也。刈蘭而卒。傳言穆氏所以大興於鄭、天所啓也。
【読み】
穆公疾有り、曰く、蘭死[か]れば、吾れ其れ死なん。吾が生ぜし所以なり、と。蘭を刈りて卒す。傳穆氏の大いに鄭に興る所以は、天の啓く所なるを言うなり。


〔經〕四年、春、王正月、公及齊侯平莒及郯。莒人不肯。公伐莒、取向。莒・郯二國相怨。故公與齊侯共平之。向、莒邑。東海承縣東南有向城。遠疑也。○向、舒亮反。承、之甑反。又音拯。
【読み】
〔經〕四年、春、王の正月、公齊侯と莒と郯[たん]とを平らげんとす。莒人肯[うけが]わず。公莒を伐ちて、向[しょう]を取る。莒・郯二國相怨む。故に公齊侯と共に之を平らげんとす。向は、莒の邑。東海承縣の東南に向城有り。遠ければ疑わし。○向は、舒亮反。承は、之甑反。又音拯。

秦伯稻卒。無傳。未同盟。
【読み】
秦伯稻卒す。傳無し。未だ同盟せず。

夏、六月、乙酉、鄭公子歸生弑其君夷。傳例曰、稱臣、臣之罪也。子公實弑、而書子家、罪其權不足也。
【読み】
夏、六月、乙酉[きのと・とり]、鄭の公子歸生其の君夷を弑す。傳例に曰く、臣を稱するは、臣の罪なり、と。子公實に弑して、子家を書すは、其の權の足らざるを罪するなり。

赤狄侵齊。無傳。
【読み】
赤狄齊を侵す。傳無し。

秋、公如齊。無傳。
【読み】
秋、公齊に如く。傳無し。

公至自齊。無傳。告于廟。例在桓二年。
【読み】
公齊より至る。傳無し。廟に告ぐ。例は桓二年に在り。

冬、楚子伐鄭。
【読み】
冬、楚子鄭を伐つ。

〔傳〕四年、春、公及齊侯平莒及郯。莒人不肯。公伐莒、取向、非禮也。
【読み】
〔傳〕四年、春、公齊侯と莒と郯とを平らげんとす。莒人肯わず。公莒を伐ち、向を取るは、禮に非ざるなり。

平國以禮、不以亂。伐而不治、亂也。責公不先以禮治之而用伐。
【読み】
國を平らぐるは禮を以てして、亂を以てせず。伐ちて治めざるは、亂なり。公不先ず禮を以て之を治めずして伐を用ゆるを責む。

以亂平亂。何治之有。無治、何以行禮。
【読み】
亂を以て亂を平らげんとす。何の治まること之れ有らん。治まること無くば、何を以て禮を行わん。

楚人獻黿於鄭靈公。穆公大子、夷也。○黿、音元。
【読み】
楚人黿[げん]を鄭の靈公に獻ず。穆公の大子、夷なり。○黿は、音元。

公子宋與子家將見。宋、子公也。子家、歸生。○見、賢遍反。
【読み】
公子宋子家と將に見えんとす。宋は、子公なり。子家は、歸生。○見は、賢遍反。

子公之食指動。第二指也。
【読み】
子公の食指動く。第二指なり。

以示子家、曰、他日我如此、必嘗異味。及入、宰夫將解黿。相視而笑。公問之。問所笑。○解、如字。
【読み】
以て子家に示して、曰く、他日我れ此の如くなれば、必ず異味を嘗む、と。入るに及びて、宰夫將に黿を解かんとす。相視て笑う。公之を問う。笑う所を問う。○解は、字の如し。

子家以告。及食大夫黿、召子公而弗與也。欲使指動無效。○食、音嗣。
【読み】
子家以て告ぐ。大夫に黿を食わしむるに及びて、子公を召して與えず。指の動くをして效無からしめんと欲す。○食は、音嗣。

子公怒。染指於鼎、嘗之而出。公怒。欲殺子公。子公與子家謀先。先公爲難。○染、如琰反。先公、悉薦反。
【読み】
子公怒る。指を鼎に染めて、之を嘗めて出づ。公怒る。子公を殺さんと欲す。子公子家と先んぜんことを謀る。公に先んじて難を爲さんとす。○染は、如琰反。先公は、悉薦反。

子家曰、畜老猶憚殺之。六畜。○畜、許又反。又許六反。
【読み】
子家曰く、畜の老いたるも猶之を殺すことを憚る。六畜。○畜は、許又反。又許六反。

而況君乎。反譖子家。子家懼而從之。譖子家於公。
【読み】
而るを況んや君をや、と。反って子家を譖す。子家懼れて之に從う。子家を公に譖す。

夏、弑靈公。
【読み】
夏、靈公を弑す。

書曰鄭公子歸生弑其君夷、權不足也。子家權不足以禦亂、懼譖而從弑君。故書以首惡。
【読み】
書して鄭の公子歸生其の君夷を弑すと曰うは、權足らざればなり。子家權以て亂を禦ぐに足らず、譖を懼れて君を弑するに從う。故に書すに首惡を以てす。

君子曰、仁而不武、無能達也。初稱畜老、仁也。不討子公、是不武也。故不能自通於仁道、陷弑君之罪。
【読み】
君子曰く、仁なれども武ならざれば、能く達すること無し、と。初め畜老を稱するは、仁なり。子公を討ぜざるは、是れ不武なり。故に自ら仁道に通ずること能わずして、君を弑するの罪に陷れり。

凡弑君、稱君、君無道也。稱臣、臣之罪也。稱君、謂唯書君名、而稱國以弑。言衆所共絕也。稱臣者、謂書弑者之名、以示來世、終爲不義。改殺稱弑、辟其惡名、取有漸也。書弑之義、釋例論之備矣。
【読み】
凡そ君を弑するに、君を稱するは、君の無道なり。臣を稱するは、臣の罪なり。君を稱するは、唯君の名を書して、國を稱して以て弑するを謂う。言うこころは、衆の共に絕つ所なり。臣を稱するは、弑者の名を書して、以て來世に示して、終に不義と爲すを謂う。殺を改めて弑と稱するは、其の惡名を辟けて、漸有るに取るなり。弑と書すの義、釋例之を論ずること備なり。

鄭人立子良。穆公庶子。
【読み】
鄭人子良を立てんとす。穆公の庶子。

辭曰、以賢則去疾不足、去疾、子良名。○去、上聲。下皆同。
【読み】
辭して曰く、賢を以てすれば則ち去疾足らず、去疾は、子良の名。○去は、上聲。下も皆同じ。

以順則公子堅長。乃立襄公。襄公、堅也。
【読み】
順を以てすれば則ち公子堅長ぜり、と。乃ち襄公を立つ。襄公は、堅なり。

襄公將去穆氏、逐羣兄弟。
【読み】
襄公將に穆氏を去てて、羣兄弟を逐う。

而舍子良。以其讓己。○舍、音赦。下同。
【読み】
子良を舍かんとす。其の己に讓るを以てなり。○舍は、音赦。下も同じ。

子良不可。曰、穆氏宜存、則固願也。若將亡之、則亦皆亡。去疾何爲。何爲獨留。
【読み】
子良可[き]かず。曰く、穆氏宜しく存すべきは、則ち固より願いなり。若し將に之を亡ぼさんとすれば、則ち亦皆亡けん。去疾何ぞせん、と。何ぞ獨り留ることをせん。

乃舍之。皆爲大夫。
【読み】
乃ち之を舍く。皆大夫と爲す。

初、楚司馬子良生子越椒。子文曰、必殺之。子文、子良之兄。
【読み】
初め、楚の司馬子良子越椒を生む。子文曰く、必ず之を殺せ。子文は、子良の兄。

是子也、熊虎之狀、而豺狼之聲。弗殺、必滅若敖氏矣。諺曰、狼子野心。是乃狼也。其可畜乎。子良不可。子文以爲大慼。及將死、聚其族曰、椒也知政、乃速行矣。無及於難。且泣曰、鬼猶求食、若敖氏之鬼、不其餒而。而、語助。言必餒。○難、乃旦反。
【読み】
是の子や、熊虎の狀にして、豺狼の聲なり。殺さずんば、必ず若敖氏を滅ぼさん。諺に曰く、狼子は野心なり、と。是れ乃ち狼なり。其れ畜う可けんや、と。子良可かず。子文以て大慼と爲す。將に死なんとするに及びて、其の族を聚めて曰く、椒や政を知らば、乃ち速やかに行[さ]れ。難に及ぶこと無かれ、と。且つ泣きて曰く、鬼猶食を求めば、若敖氏の鬼、其れ餒[う]えざらんや、と。而は、語助。言うこころは、必ず餒えん。○難は、乃旦反。

及令尹子文卒、鬭般爲令尹、般、子文之子、子揚。○般、音班。
【読み】
令尹子文が卒するに及びて、鬭般令尹と爲り、般は、子文の子、子揚。○般は、音班。

子越爲司馬、蔿賈爲工正。譖子揚而殺之、子越爲令尹、己爲司馬。賈爲椒譖子揚、而己得椒處。○蔿、于委反。
【読み】
子越司馬と爲り、蔿賈[いか]工正と爲る。子揚を譖して之を殺し、子越令尹と爲り、己司馬と爲る。賈椒の爲に子揚を譖して、而して己椒が處を得。○蔿は、于委反。

子越又惡之、惡賈。○惡、烏路反。
【読み】
子越又之を惡み、賈を惡む。○惡は、烏路反。

乃以若敖氏之族、圄伯嬴於轑陽而殺之。圄、囚也。伯嬴、蔿賈也。轑陽、楚邑。○圄、魚呂反。轑、音遼。
【読み】
乃ち若敖氏の族を以て、伯嬴[はくえい]を轑陽[りょうよう]に圄[とら]えて之を殺す。圄[ぎょ]は、囚うるなり。伯嬴は、蔿賈なり。轑陽は、楚の邑。○圄は、魚呂反。轑は、音遼。

遂處烝野、將攻王。王以三王之子爲質焉。弗受。烝野、楚邑。三王、文・成・穆。○質、音致。
【読み】
遂に烝野に處り、將に王を攻めんとす。王三王の子を以て質と爲さんとす。受けず。烝野は、楚の邑。三王は、文・成・穆。○質は、音致。

師于漳澨。漳澨、漳水邊。○漳、音章。澨、市制反。
【読み】
漳の澨[ほとり]に師す。漳澨[しょうせい]は、漳水の邊。○漳は、音章。澨は、市制反。

秋、七月、戊戌、楚子與若敖氏戰于皐滸。皐滸、楚地。○滸、呼五反。
【読み】
秋、七月、戊戌[つちのえ・いぬ]、楚子若敖氏と皐滸に戰う。皐滸は、楚の地。○滸は、呼五反。

伯棼射王。汰輈及鼓跗、著於丁寧。伯棼、越椒也。輈、車轅。汰、過也。箭過車轅上。丁寧、鉦也。○棼、扶云反。射、食亦反。汰、他未反。輈、陟留反。跗、芳扶反。著、直略反。鉦、音征。
【読み】
伯棼[はくふん]王を射る。輈[ちゅう]を汰[す]ぎて鼓跗に及び、丁寧に著く。伯棼は、越椒なり。輈は、車轅。汰[た]は、過ぐるなり。箭車轅の上を過ぐるなり。丁寧は、鉦[せい]なり。○棼は、扶云反。射は、食亦反。汰は、他未反。輈は、陟留反。跗は、芳扶反。著は、直略反。鉦は、音征。

又射。汰輈以貫笠轂。兵車、無蓋。尊者則邊人執笠、依轂而立、以禦寒暑。名曰笠轂。此言箭過車轅、及王之蓋。○轂、古木反。
【読み】
又射る。輈を汰ぎて以て笠轂を貫く。兵車は、蓋無し。尊者は則ち邊人笠を執り、轂に依りて立ちて、以て寒暑を禦ぐ。名づけて笠轂と曰う。此は箭車轅を過ぎて、王の蓋に及ぶを言うなり。○轂は、古木反。

師懼、退。王使巡師曰、吾先君文王克息、獲三矢焉。伯棼竊其二、盡於是矣。鼓而進之、遂滅若敖氏。
【読み】
師懼れて、退く。王師を巡らしめて曰く、吾が先君文王息に克ちて、三矢を獲たり。伯棼其の二を竊みしに、是に盡きたり、と。鼓ちて之を進め、遂に若敖氏を滅ぼす。

初、若敖娶於鄖、鄖、國名。○鄖、音云。
【読み】
初め、若敖鄖[うん]に娶り、鄖は、國の名。○鄖は、音云。

生鬭伯比。若敖卒、從其母畜於鄖。畜、養也。○畜、許六反。
【読み】
鬭伯比を生む。若敖卒して、其の母に從いて鄖に畜[やしな]わる。畜は、養うなり。○畜は、許六反。

淫於鄖子之女、生子文焉。鄖夫人使棄諸夢中。夢、澤名。江夏安陸縣城東南有雲夢城。○夢、音蒙。又亡貢反。
【読み】
鄖子の女に淫して、子文を生む。鄖夫人諸を夢中に棄てしむ。夢は、澤の名。江夏安陸縣の城の東南に雲夢城有り。○夢は、音蒙。又亡貢反。

虎乳之。鄖子田、見之、懼而歸。夫人以告。告女私通所生。○乳、如主反。
【読み】
虎之に乳のます。鄖子田[かり]して、之を見、懼れて歸る。夫人以て告ぐ。女の私通して生む所なることを告ぐ。○乳は、如主反。

遂使收之。楚人謂乳穀、謂虎於菟。故命之曰鬭穀於菟。以其女妻伯比。伯比所淫者。○穀、奴口反。於、音烏。菟、音徒。妻、七計反。
【読み】
遂に之を收めしむ。楚人乳を穀[どう]と謂い、虎を於菟と謂う。故に之を命[な]づけて鬭穀於菟[とうどうおと]と曰う。其の女を以て伯比に妻す。伯比の淫する所の者。○穀は、奴口反。於は、音烏。菟は、音徒。妻は、七計反。

實爲令尹子文。鬭氏始自子文爲令尹。
【読み】
實に令尹子文爲り。鬭氏子文より始めて令尹と爲る。

其孫箴尹克黃、箴尹、官名。克黃、子揚之子。○箴、之金反。
【読み】
其の孫箴尹克黃、箴尹は、官の名。克黃は、子揚の子。○箴は、之金反。

使於齊、還及宋、聞亂。其人曰、不可以入矣。箴尹曰、棄君之命、獨誰受之。君、天也。天可逃乎。遂歸復命、而自拘於司敗。王思子文之治楚國也、曰、子文無後、何以勸善。使復其所、改命曰生。易其名也。
【読み】
齊に使いして、還りて宋に及び、亂を聞く。其の人曰く、以て入る可からず、と。箴尹曰く、君の命を棄てば、獨り誰か之を受けん。君は、天なり。天逃る可けんや、と。遂に歸りて復命して、自ら司敗に拘わる。王子文の楚國を治めんことを思いて、曰く、子文にして後無くば、何を以て善を勸めん、と。其の所に復らしめ、改め命じて生と曰う。其の名を易うるなり。

冬、楚子伐鄭、鄭未服也。前年、楚侵鄭、不獲成。故曰未服。
【読み】
冬、楚子鄭を伐つは、鄭未だ服せざればなり。前年、楚鄭を侵して、成[たい]らぎを獲ず。故に未だ服せずと曰う。


〔經〕五年、春、公如齊。夏、公至自齊。秋、九月、齊高固來逆叔姬。高固、齊大夫。不書女歸、降於諸侯。
【読み】
〔經〕五年、春、公齊に如く。夏、公齊より至る。秋、九月、齊の高固來りて叔姬を逆[むか]う。高固は、齊の大夫。女の歸[とつ]ぐを書さざるは、諸侯より降ればなり。

叔孫得臣卒。無傳。不書日、公不與小斂。○與、音預。
【読み】
叔孫得臣卒す。傳無し。日を書さざるは、公小斂に與らざればなり。○與は、音預。

冬、齊高固及子叔姬來。叔姬寧、固反馬。
【読み】
冬、齊の高固子叔姬と來る。叔姬は寧し、固は馬を反す。

楚人伐鄭。
【読み】
楚人鄭を伐つ。

〔傳〕五年、春、公如齊。高固使齊侯止公、請叔姬焉。留公强成昏。○强、其丈反。
【読み】
〔傳〕五年、春、公齊に如く。高固齊侯をして公を止めしめて、叔姬を請う。公を留めて强いて昏を成す。○强は、其丈反。

夏、公至自齊、書過也。公旣見止、連昏於鄰國之臣、厭尊毀列、累其先君。而於廟行飮至之禮。故書以示過。○厭、於涉反。累、劣僞反。
【読み】
夏、公齊より至るとは、過ちを書すなり。公旣に止められて、昏を鄰國の臣に連ね、尊を厭[おと]され列を毀り、其の先君を累わす。而るに廟に於て飮至の禮を行う。故に書して以て過ちを示す。○厭は、於涉反。累は、劣僞反。

秋、九月、齊高固來逆女、自爲也。故書曰逆叔姬、卿自逆也。適諸侯稱女、適大夫稱字。所以別尊卑也。此春秋新例。故稱書曰而不言凡也。不於莊二十七年發例者、嫌見逼而成昏、因明之。○爲、于僞反。別、彼列反。
【読み】
秋、九月、齊の高固來りて女を逆うるは、自ら爲にするなり。故に書して叔姬を逆うと曰うは、卿自ら逆うるなり。諸侯に適くは女と稱し、大夫に適くは字を稱す。尊卑を別つ所以なり。此れ春秋の新例。故に書して曰うと稱して凡そと言わざるなり。莊二十七年に於て例を發せざるは、逼られて昏を成すに嫌あり、因りて之を明かすなり。○爲は、于僞反。別は、彼列反。

冬、來、反馬也。禮、送女留其送馬、謙不敢自安。三月廟見、遣使反馬。高固遂與叔姬倶寧。故經・傳具見以示譏。
【読み】
冬、來るは、馬を反すなり。禮に、女を送りて其の送馬を留むるは、謙して敢えて自ら安んぜざるなり。三月廟見して、使を遣わして馬を反すなり、と。高固遂に叔姬と倶に寧す。故に經・傳具に見して以て譏るを示す。

楚子伐鄭。陳及楚平。晉荀林父救鄭、伐陳。爲明年、晉・衛侵陳傳。
【読み】
楚子鄭を伐つ。陳楚と平らぐ。晉の荀林父鄭を救い、陳を伐つ。明年、晉・衛陳を侵す爲の傳なり。


經〕六年、春、晉趙盾・衛孫免侵陳。夏、四月。秋、八月、螽。無傳。
【読み】
〔經〕六年、春、晉の趙盾[ちょうとん]・衛の孫免陳を侵す。夏、四月。秋、八月、螽[しゅう]あり。傳無し。

冬、十月。
【読み】
冬、十月。

〔傳〕六年、春、晉・衛侵陳、陳卽楚故也。
【読み】
〔傳〕六年、春、晉・衛陳を侵すは、陳楚に卽く故なり。

夏、定王使子服求后于齊。子服、周大夫。
【読み】
夏、定王子服をして后を齊に求めしむ。子服は、周の大夫。

秋、赤狄伐晉、圍懷及邢丘。邢丘、今河内平皐縣。
【読み】
秋、赤狄晉を伐ちて、懷と邢丘とを圍む。邢丘は、今の河内平皐縣。

晉侯欲伐之。中行桓子曰、使疾其民、驕則數戰、爲民所疾。
【読み】
晉侯之を伐たんと欲す。中行桓子曰く、其の民を疾ましめ、驕れば則ち數々戰い、民の爲に疾まる。

以盈其貫、將可殪也。殪、盡也。貫、猶習也。○貫、古患反。殪、於計反。
【読み】
以て盈たせて其れ貫[なら]わせば、將に殪[つ]くす可からんとす。殪[えい]は、盡くすなり。貫は、猶習うのごとし。○貫は、古患反。殪は、於計反。

周書曰、殪戎殷、周書、康誥也。義取周武王以兵伐殷、盡滅之。
【読み】
周書に曰く、殷を殪戎[えいじゅう]すとは、周書は、康誥なり。義周の武王兵を以て殷を伐ちて、盡く之を滅ぼすに取る。

此類之謂也。爲十五年、晉滅狄傳。
【読み】
此の類を謂うなり、と。十五年、晉狄を滅ぼす爲の傳なり。

冬、召桓公逆王后于齊。召桓公、王卿士。事不關魯。故不書。爲成二年、王甥舅張本。○召、上照反。
【読み】
冬、召桓公王后を齊に逆う。召桓公は、王の卿士。事魯に關らず。故に書さず。成二年、王の甥舅という爲の張本なり。○召は、上照反。

楚人伐鄭、取成而還。九年・十一年傳、所稱厲之役、蓋在此。
【読み】
楚人鄭を伐ち、成[たい]らぎを取りて還る。九年・十一年の傳に、稱する所の厲の役は、蓋し此に在るならん。

鄭公子曼滿與王子伯廖語、欲爲卿。二子、鄭大夫。○曼、音萬。廖、力彫反。
【読み】
鄭の公子曼滿王子伯廖[はくりょう]と語り、卿爲らんと欲す。二子は、鄭の大夫。○曼は、音萬。廖は、力彫反。

伯廖告人曰、無德而貪、其在周易、豐 離下震上、豐。
【読み】
伯廖人に告げて曰く、德無くして貪るは、其れ周易に在りて、豐 離下震上は、豐。

之離豐上六變而爲純離也。周易論變。故雖不筮、必以變言其義。豐上六曰、豐其屋、蔀其家。闚其戶、闃其無人、三歲不覿。凶。義取無德而大其屋、不過三歲必滅亡。○蔀、步口反。闚、苦規反。闃、苦鵙反。
【読み】
の離に之くなり。豐の上六變じて純離と爲るなり。周易は變を論ず。故に筮せずと雖も、必ず變を以て其の義を言う。豐の上六に曰く、其の屋を豐[おお]いにし、其の家に蔀[ほう]す。其の戶を闚[うかが]えば、闃[げき]として其れ人無く、三歲まで覿[み]ず。凶なり、と。義德無くして其の屋を大いにするは、三歲を過ぎずして必ず滅亡するに取る。○蔀は、步口反。闚は、苦規反。闃は、苦鵙反。

弗過之矣。不過三年。
【読み】
之に過ぎざらん、と。三年を過ぎず。

閒一歲、鄭人殺之。
【読み】
一歲を閒てて、鄭人之を殺す。


〔經〕七年、春、衛侯使孫良夫來盟。夏、公會齊侯伐萊。傳例曰、不與謀也。萊國、今東萊黃縣。
【読み】
〔經〕七年、春、衛侯孫良夫をして來盟せしむ。夏、公齊侯に會して萊を伐つ。傳例に曰く、謀に與らざるなり、と。萊國は、今の東萊黃縣。

秋、公至自伐萊。無傳。
【読み】
秋、公萊を伐ちてより至る。傳無し。

大旱。無傳。書旱而不書雩、雩無功、或不雩。
【読み】
大旱す。傳無し。旱を書して雩[う]を書さざるは、雩して功無きか、或は雩せざるならん。

冬、公會晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯于黑壤。
【読み】
冬、公晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯に黑壤に會す。

〔傳〕七年、春、衛孫桓子來盟、始通、且謀會晉也。公卽位、衛始脩好。
【読み】
〔傳〕七年、春、衛の孫桓子來盟するは、始めて通じ、且晉に會せんことを謀るなり。公位に卽きて、衛始めて好を脩む。

夏、公會齊侯伐萊、不與謀也。
【読み】
夏、公齊侯に會して萊を伐つとは、謀に與らざるなり。

凡師出、與謀曰及、不與謀曰會。與謀者、謂同志之國相與講議利害、計成而行之。故以相連及爲文。若不獲已應命而出、則以外合爲文。皆據魯而言。師者、國之大事、存亡之所由。故詳其舉動、以例別之。○與、音預。下同。
【読み】
凡そ師の出づる、謀に與るを及と曰い、謀に與らざるを會と曰う。謀に與るとは、同志の國相與に利害を講議し、計成りて之を行うを謂う。故に相連及するを以て文を爲す。若し已むことを獲ずして命に應じて出でば、則ち外合を以て文を爲す。皆魯に據りて言うなり。師は、國の大事、存亡の由る所なり。故に其の舉動を詳らかにして、例を以て之を別つなり。○與は、音預。下も同じ。

赤狄侵晉、取向陰之禾。此無秋字、蓋闕文。晉用桓子謀。故縱狄。○向、舒亮反。
【読み】
赤狄晉を侵して、向陰[しょういん]の禾[か]を取る。此に秋の字無きは、蓋し闕文ならん。晉桓子の謀を用ゆ。故に狄を縱[ゆる]すなり。○向は、舒亮反。

鄭及晉平。公子宋之謀也。故相鄭伯以會。
【読み】
鄭晉と平らぐ。公子宋の謀なり。故に鄭伯を相けて以て會す。

冬、盟于黑壤。王叔桓公臨之、以謀不睦。王叔桓公、周卿士。銜天子之命、以監臨諸侯。不同歃者、尊卑之別也。
【読み】
冬、黑壤に盟う。王叔桓公之に臨みて、以て不睦を謀る。王叔桓公は、周の卿士。天子の命を銜[ふく]みて、以て諸侯に監臨す。同じく歃[すす]らざるは、尊卑の別なり。

晉侯之立也、在二年。
【読み】
晉侯の立つや、二年に在り。

公不朝焉。又不使大夫聘。晉人止公于會。盟于黃父、公不與盟。以賂免。黃父、卽黑壤。
【読み】
公朝せず。又大夫をして聘せしめず。晉人公を會に止む。黃父に盟うも、公盟に與らず。賂を以て免る。黃父は、卽ち黑壤。

故黑壤之盟不書、諱之也。慢盟主、以取執止之辱。故諱之。
【読み】
故に黑壤の盟書さざるは、之を諱みてなり。盟主を慢りて、以て執止の辱を取る。故に之を諱む。


〔經〕八年、春、公至自會。無傳。義與五年書過同。
【読み】
〔經〕八年、春、公會より至る。傳無し。義五年過ちを書すと同じ。

夏、六月、公子遂如齊。至黃乃復。無傳。蓋有疾而還。大夫受命而出、雖死以尸將事。遂以疾還、非禮也。
【読み】
夏、六月、公子遂齊に如く。黃に至りて乃ち復る。傳無し。蓋し疾有りて還るならん。大夫命を受けて出づれば、死すと雖も尸を以て事を將[おこな]う。遂疾を以て還るは、禮に非ざるなり。

辛巳、有事于大廟。仲遂卒于垂。有事、祭也。仲遂卒、與祭同日。略書有事、爲繹張本。不言公子、因上行還、閒無異事、省文。從可知也。稱字、時君所嘉、無義例也。垂、齊地。非魯竟。故書地。
【読み】
辛巳[かのと・み]、大廟に事有り。仲遂垂に卒す。事有りとは、祭なり。仲遂の卒するは、祭と同日なり。事有りと略書するは、繹の爲の張本なり。公子と言わざるは、上の行き還る、閒に異事無きに因りて、文を省くなり。從りて知る可ければなり。字を稱するは、時君の嘉する所、義例無し。垂は、齊の地。魯の竟に非ず。故に地を書す。

壬午、猶繹。萬入、去籥。繹、又祭。陳昨日之禮。所以賓尸。萬、舞名。籥、管也。猶者、可止之辭。魯人知卿佐之喪、不宜作樂、而不知廢繹。故内舞去籥。惡其聲聞。○去、起呂反。
【読み】
壬午[みずのえ・うま]、猶繹す。萬入りて、籥[やく]を去[す]つ。繹は、又祭なり。昨日の禮を陳ぬ。尸を賓する所以なり。萬は、舞の名。籥は、管なり。猶とは、止む可きの辭なり。魯人卿佐の喪には、宜しく樂を作すべからざるを知りて、繹を廢することを知らず。故に舞を内[い]れて籥を去つ。其の聲聞を惡みてなり。○去は、起呂反。

戊子、夫人嬴氏薨。無傳。宣公母也。
【読み】
戊子[つちのえ・ね]、夫人嬴氏[えいし]薨ず。傳無し。宣公の母なり。

晉師白狄伐秦。楚人滅舒・蓼。秋、七月、甲子、日有食之。旣。無傳。月三十日食。
【読み】
晉の師白狄秦を伐つ。楚人舒・蓼[りょう]を滅ぼす。秋、七月、甲子[きのえ・ね]、日之を食する有り。旣[つ]く。傳無し。月の三十日に食す。

冬、十月、己丑、葬我小君敬嬴。敬、謚。嬴、姓也。反哭成喪。故稱葬小君。
【読み】
冬、十月、己丑[つちのと・うし]、我が小君敬嬴を葬る。敬は、謚。嬴は、姓なり。反哭して喪を成す。故に小君を葬ると稱す。

雨不克葬。庚寅、日中而克葬。克、成也。
【読み】
雨ふりて葬を克[な]さず。庚寅[かのえ・とら]、日中にして葬を克す。克は、成すなり。

城平陽。今泰山有平陽縣。
【読み】
平陽に城く。今の泰山に平陽縣有り。

楚師伐陳。
【読み】
楚の師陳を伐つ。

〔傳〕八年、春、白狄及晉平。
【読み】
〔傳〕八年、春、白狄晉と平らぐ。

夏、會晉伐秦。經在仲遂卒下。從赴。
【読み】
夏、晉に會して秦を伐つ。經には仲遂卒するの下に在り。赴[つ]ぐるに從うなり。

晉人獲秦諜、殺諸絳市。六日而蘇。蓋記異也。
【読み】
晉人秦の諜を獲、諸を絳の市に殺す。六日にして蘇る。蓋し異を記すならん。

有事于大廟、襄仲卒、而繹。非禮也。
【読み】
大廟に事有り、襄仲卒して、繹す。禮に非ざるなり。

楚爲衆舒叛故、伐舒・蓼、滅之。舒・蓼、二國名。○爲、于僞反。
【読み】
楚衆舒の叛く爲の故に、舒・蓼を伐ちて、之を滅ぼす。舒・蓼は、二國の名。○爲は、于僞反。

楚子疆之、正其界也。
【読み】
楚子之を疆して、其の界を正すなり。

及滑汭、滑、水名也。○滑、干八反。
【読み】
滑汭に及び、滑は、水の名なり。○滑は、干八反。

盟吳・越而還。吳國、今吳郡。越國、今會稽山陰縣也。傳言楚彊吳・越服從。○會、古外反。
【読み】
吳・越に盟いて還る。吳國は、今の吳郡。越國は、今の會稽山陰縣なり。傳楚の彊くして吳・越服從するを言う。○會は、古外反。

晉胥克有蠱疾。惑以喪志。○蠱、音古。
【読み】
晉の胥克蠱疾有り。惑いて以て志を喪う。○蠱は、音古。

郤缺爲政。代趙盾。
【読み】
郤缺[げきけつ]政を爲す。趙盾に代わる。

秋、廢胥克、使趙朔佐下軍。朔、盾之子。代胥克。爲成十七年、胥童怨郤氏張本。
【読み】
秋、胥克を廢して、趙朔をして下軍に佐たらしむ。朔は、盾の子。胥克に代わる。成十七年、胥童郤氏を怨む爲の張本なり。

冬、葬敬嬴。旱無麻。始用葛茀。記禮變之所由。茀、所以引柩。殯則有之以備火、葬則以下柩。○茀、方勿反。引棺索也。
【読み】
冬、敬嬴を葬る。旱して麻無し。始めて葛茀[かつふつ]を用ゆ。禮變の由る所を記す。茀は、柩を引く所以。殯には則ち之れ有りて以て火に備え、葬には則ち以て柩を下す。○茀は、方勿反。棺を引く索なり。

雨不克葬、禮也。
【読み】
雨りて葬を克さざるは、禮なり。

禮、卜葬先遠日、辟不懷也。懷、思也。
【読み】
禮、葬を卜するに遠日を先にするは、懷[おも]わざるを辟くるなり。懷は、思うなり。

城平陽、書時也。
【読み】
平陽に城くは、時なるを書すなり。

陳及晉平。楚師伐陳。取成而還。言晉・楚爭强。
【読み】
陳晉と平らぐ。楚の師陳を伐つ。成らぎを取りて還る。晉・楚强を爭うを言う。


〔經〕九年、春、王正月、公如齊。無傳。
【読み】
〔經〕九年、春、王の正月、公齊に如く。傳無し。

公至自齊。無傳。
【読み】
公齊より至る。傳無し。

夏、仲孫蔑如京師。齊侯伐萊。無傳。
【読み】
夏、仲孫蔑京師に如く。齊侯萊を伐つ。傳無し。

秋、取根牟。根牟、東夷國也。今琅邪陽都縣東有牟郷。
【読み】
秋、根牟を取る。根牟は、東夷の國なり。今の琅邪陽都縣の東に牟郷有り。

八月、滕子卒。未同盟。
【読み】
八月、滕子卒す。未だ同盟せず。

九月、晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯會于扈。晉荀林父帥師伐陳。辛酉、晉侯黑臀卒于扈。卒於竟外。故書地。四與文同盟。九月無辛酉。日誤。
【読み】
九月、晉侯・宋公・衛侯・鄭伯・曹伯扈[こ]に會す。晉の荀林父師を帥いて陳を伐つ。辛酉[かのと・とり]、晉侯黑臀[こくとん]扈に卒す。竟外に卒す。故に地を書す。四たび文と同盟す。九月に辛酉無し。日の誤りなり。

冬、十月、癸酉、衛侯鄭卒。無傳。三與文同盟。
【読み】
冬、十月、癸酉[みずのと・とり]、衛侯鄭卒す。傳無し。三たび文と同盟す。

宋人圍滕。楚子伐鄭。晉郤缺帥師救鄭。陳殺其大夫洩冶。洩冶直諫於淫亂之朝、以取死。故不爲春秋所貴而書名。○洩、息列反。冶、音也。
【読み】
宋人滕を圍む。楚子鄭を伐つ。晉の郤缺師を帥いて鄭を救う。陳其の大夫洩冶[せつや]を殺す。洩冶淫亂の朝に直諫して、以て死を取る。故に春秋の爲に貴ばれずして名を書さる。○洩は、息列反。冶は、音也。

〔傳〕九年、春、王使來徵聘。徵、召也。言周徵也。徵聘不書、微加諷諭、不指斥。
【読み】
〔傳〕九年、春、王來りて聘を徵[め]さしむ。徵は、召すなり。周の徵すを言うなり。聘を徵すこと書さざるは、微[すこ]しく諷諭を加えて、指斥せざればなり。

夏、孟獻子聘於周。王以爲有禮。厚賄之。
【読み】
夏、孟獻子周に聘す。王以て禮有りと爲す。厚く之に賄う。

秋、取根牟、言易也。○易、以豉反。
【読み】
秋、根牟を取るとは、易きを言うなり。○易は、以豉反。

滕昭公卒。爲宋圍滕傳。
【読み】
滕の昭公卒す。宋滕を圍む爲の傳なり。

會于扈、討不睦也。謀齊・陳。
【読み】
扈に會するは、不睦を討ずるなり。齊・陳を謀るなり。

陳侯不會。前年與楚成故。
【読み】
陳侯會せず。前年楚と成らぐ故なり。

晉荀林父以諸侯之師伐陳。不書諸侯師、林父帥之、無將帥。
【読み】
晉の荀林父諸侯の師を以[い]て陳を伐つ。諸侯の師を書さざるは、林父之を帥いて、將帥無ければなり。

晉侯卒于扈。乃還。
【読み】
晉侯扈に卒す。乃ち還る。

冬、宋人圍滕、因其喪也。
【読み】
冬、宋人滕を圍むは、其の喪に因れるなり。

陳靈公與孔寧・儀行父通於夏姬。皆衷其衵服、以戲于朝。二子、陳卿。夏姬、鄭穆公女、陳大夫御叔妻。衷、懷也。衵服、近身衣。○夏、戶雅反。衷、音忠。又丁仲反。衵、女乙反。一汝栗反。御、如字。一魚呂反。
【読み】
陳の靈公孔寧・儀行父と與に夏姬に通ず。皆其の衵服[じつふく]を衷[うち]にして、以て朝に戲る。二子は、陳の卿。夏姬は、鄭の穆公の女、陳の大夫御叔の妻。衷は、懷くなり。衵服は、身に近き衣。○夏は、戶雅反。衷は、音忠。又丁仲反。衵は、女乙反。一に汝栗反。御は、字の如し。一に魚呂反。

洩冶諫曰、公卿宣淫、民無效焉。宣、示也。
【読み】
洩冶諫めて曰く、公卿淫を宣[しめ]さば、民效うこと無からんや。宣は、示すなり。

且聞不令。君其納之。納、藏衵服。
【読み】
且聞こえて不令なり。君其れ之を納めよ、と。納は、衵服を藏むるなり。

公曰、吾能改矣。公告二子。二子請殺之。公弗禁。遂殺洩冶。孔子曰、詩云、民之多辟、無自立辟、其洩冶之謂乎。辟、邪也。辟、法也。詩、大雅。言邪辟之世、不可立法。國無道、危行言孫。○多辟、匹亦反。立辟、婢亦反。
【読み】
公曰く、吾れ能く改めん、と。公二子に告ぐ。二子之を殺さんと請う。公禁ぜず。遂に洩冶を殺す。孔子曰く、詩に云う、民の辟[よこしま]多きに、自ら辟[のり]を立つること無かれとは、其れ洩冶を謂うか、と。辟は、邪なり。辟は、法なり。詩は、大雅。言うこころは、邪辟の世には、法を立つ可からず。國道無ければ、行を危[たか]くし言は孫[したが]う。○多辟は、匹亦反。立辟は、婢亦反。

楚子爲厲之役故、伐鄭。六年、楚伐鄭、取成於厲。旣成、鄭伯逃歸。事見十一年。○爲、去聲。
【読み】
楚子厲の役の爲の故に、鄭を伐つ。六年、楚鄭を伐ち、成らぎを厲に取る。旣に成らぎて、鄭伯逃げ歸る。事は十一年に見ゆ。○爲は、去聲。

晉郤缺救鄭。鄭伯敗楚師于柳棼。柳棼、鄭地。○棼、扶云反。
【読み】
晉の郤缺鄭を救う。鄭伯楚の師を柳棼に敗る。柳棼は、鄭の地。○棼は、扶云反。

國人皆喜。唯子良憂曰、是國之災也。吾死無日矣。自是晉・楚交兵伐鄭、十二年、卒有楚子入鄭之禍。
【読み】
國人皆喜ぶ。唯子良のみ憂えて曰く、是れ國の災いなり。吾れ死なんこと日無けん、と。是より晉・楚兵を交えて鄭を伐ち、十二年、卒に楚子鄭に入るの禍有り。


〔經〕十年、春、公如齊。公至自齊。無傳。
【読み】
〔經〕十年、春、公齊に如く。公齊より至る。傳無し。

齊人歸我濟西田。元年以賂齊也。不言來、公如齊、因受之。
【読み】
齊人我が濟西の田を歸す。元年以て齊に賂うなり。來ると言わざるは、公齊に如き、因りて之を受くればなり。

夏、四月、丙辰、日有食之。無傳。不書朔、官失之。
【読み】
夏、四月、丙辰[ひのえ・たつ]、日之を食する有り。傳無し。朔を書さざるは、官之を失えり。

己巳、齊侯元卒。未同盟、而赴以名。
【読み】
己巳[つちのと・み]、齊侯元卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。

齊崔氏出奔衛。齊略見舉族出。因其告辭、以見無罪。
【読み】
齊の崔氏出でて衛に奔る。齊略して舉族出づるを見す。其の告辭に因りて、以て罪無きを見す。

公如齊。五月、公至自齊。無傳。
【読み】
公齊に如く。五月、公齊より至る。傳無し。

癸巳、陳夏徵舒弑其君平國。徵舒、陳大夫也。靈公惡不加民。故稱臣以弑。
【読み】
癸巳[みずのと・み]、陳の夏徵舒其の君平國を弑す。徵舒は、陳の大夫なり。靈公惡民に加わらず。故に臣を稱して以て弑す。

六月、宋師伐滕。公孫歸父如齊。葬齊惠公。無傳。歸父、襄仲之子。
【読み】
六月、宋の師滕を伐つ。公孫歸父齊に如く。齊の惠公を葬る。傳無し。歸父は、襄仲の子。

晉人・宋人・衛人・曹人伐鄭。鄭及楚平故。
【読み】
晉人・宋人・衛人・曹人鄭を伐つ。鄭楚と平らぐ故なり。

秋、天王使王季子來聘。王季子者、公羊以爲天王之母弟。然則字季子。天子大夫稱字。
【読み】
秋、天王王季子をして來聘せしむ。王季子は、公羊に以爲えらく、天王の母弟なり、と。然らば則ち字は季子なり。天子の大夫には字を稱す。

公孫歸父帥師伐邾、取繹。繹、邾邑。魯國鄒縣北有繹山。
【読み】
公孫歸父師を帥いて邾[ちゅ]を伐ち、繹を取る。繹は、邾の邑。魯國鄒縣の北に繹山有り。

大水。無傳。
【読み】
大水あり。傳無し。

季孫行父如齊。冬、公孫歸父如齊。齊侯使國佐來聘。旣葬成君。故稱君命使也。
【読み】
季孫行父齊に如く。冬、公孫歸父齊に如く。齊侯國佐をして來聘せしむ。旣葬りて君と成る。故に君命じて使むと稱す。

饑。無傳。有水災、嘉穀不成。
【読み】
饑ゆ。傳無し。水災有りて、嘉穀成らず。

楚子伐鄭。
【読み】
楚子鄭を伐つ。

〔傳〕十年、春、公如齊。齊侯以我服故、歸濟西之田。公比年朝齊故。
【読み】
〔傳〕十年、春、公齊に如く。齊侯我が服するを以ての故に、濟西の田を歸す。公比年齊に朝する故なり。

夏、齊惠公卒。崔杼有寵於惠公、高・國畏其偪也、高・國二家、齊正卿。○杼、直呂反。偪、音逼。
【読み】
夏、齊の惠公卒す。崔杼[さいじょ]惠公に寵有り、高・國其の偪らんことを畏るるや、高・國二家は、齊の正卿。○杼は、直呂反。偪は、音逼。

公卒而逐之。奔衛。
【読み】
公卒して之を逐う。衛に奔る。

書曰崔氏、非其罪也。且告以族、不以名。典策之法、告者皆當書以名。今齊特以族告。夫子因而存之、以示無罪。又言且告以族不以名者、明春秋有因而用之、不皆改舊史。
【読み】
書して崔氏と曰うは、其の罪に非ざればなり。且告ぐるに族を以てして、名を以てせざればなり。典策の法、告ぐる者皆當に書すに名を以てすべし。今齊特に族を以て告ぐ。夫子因りて之を存して、以て罪無きを示す。又且告ぐるに族を以てして名を以てせずと言うは、春秋因りて之を用ゆること有りて、皆舊史を改めざることを明かすなり。

凡諸侯之大夫違、違、奔放也。
【読み】
凡そ諸侯の大夫の違[さ]る、違は、奔放なり。

告於諸侯曰、某氏之守臣某、上某氏者姓。下某名。○守、音狩。
【読み】
諸侯に告げて曰く、某氏の守臣某、上の某氏は姓。下の某は名。○守は、音狩。

失守宗廟。敢告。所有玉帛之使者則告。玉帛之使、謂聘。
【読み】
宗廟を守ることを失う。敢えて告ぐ、と。玉帛の使い有りし所の者は則ち告ぐ。玉帛の使いとは、聘を謂うなり。

不然則否。恩好不接。故亦不告。
【読み】
然らざれば則ち否せず。恩好接わらず。故に亦告げず。

公如齊奔喪。公親奔喪、非禮也。公出朝會、奔喪、會葬、皆書如。不言其事、史之常也。
【読み】
公齊に如くは喪に奔るなり。公親ら喪に奔るは、禮に非ざるなり。公出でて朝會し、奔喪し、會葬するは、皆如くと書す。其の事を言わざるは、史の常なり。

陳靈公與孔寧・儀行父飮酒於夏氏。公謂行父曰、徵舒似女。對曰、亦似君。徵舒病之。靈公卽位、於今十五年。徵舒已爲卿年大。無嫌是公子。蓋以夏姬淫放、故謂其子多似、以爲戲。○女、音汝。
【読み】
陳の靈公孔寧・儀行父と酒を夏氏に飮む。公行父に謂いて曰く、徵舒女に似たり、と。對えて曰く、亦君に似たり、と。徵舒之を病む。靈公位に卽き、今に於て十五年なり。徵舒已に卿と爲りて年大いなり。是れ公の子なるに嫌い無し。蓋し夏姬淫放なるを以て、故に其の子多く似たるを謂いて、以て戲れと爲すならん。○女は、音汝。

公出。自其廏射而殺之。二子奔楚。○射、音石。
【読み】
公出づ。其の廏より射て之を殺す。二子楚に奔る。○射は、音石。

滕人恃晉而不事宋。六月、宋師伐滕。
【読み】
滕人晉を恃みて宋に事えず。六月、宋の師滕を伐つ。

鄭及楚平。前年敗楚師、恐楚深怨。故與之平。
【読み】
鄭楚と平らぐ。前年楚の師を敗り、楚の深く怨むを恐る。故に之と平らぐなり。

諸侯之師伐鄭、取成而還。
【読み】
諸侯の師鄭を伐ち、成[たい]らぎを取りて還る。

秋、劉康公來報聘。報孟獻子之聘。卽王季子也。其後食采於劉。
【読み】
秋、劉康公來りて報聘す。孟獻子の聘に報ずるなり。卽ち王季子なり。其の後劉に食采す。

師伐邾、取繹。爲子家如齊傳。
【読み】
師邾を伐ち、繹を取る。子家齊に如く爲の傳なり。

季文子初聘于齊。齊侯初卽位。
【読み】
季文子初めて齊に聘す。齊侯初めて位に卽く。

冬、子家如齊、伐邾故也。魯侵小。恐爲齊所討。故往謝。
【読み】
冬、子家齊に如くは、邾を伐てる故なり。魯小を侵す。齊の爲に討せられんことを恐る。故に往きて謝す。

國武子來報聘。報文子也。
【読み】
國武子來りて報聘す。文子に報ずるなり。

楚子伐鄭。晉士會救鄭、逐楚師于潁北。潁水、出河南陽城、至下蔡入淮。
【読み】
楚子鄭を伐つ。晉の士會鄭を救い、楚の師を潁北に逐う。潁水は、河南陽城より出でて、下蔡に至り淮に入る。

諸侯之師戍鄭。
【読み】
諸侯の師鄭を戍る。

鄭子家卒。鄭人討幽公之亂、斲子家之棺、而逐其族、以四年、弑君故也。斲薄其棺、不使從卿禮。○斲、竹角反。
【読み】
鄭の子家卒す。鄭人幽公の亂を討じて、子家の棺を斲[けず]りて、其の族を逐い、四年、君を弑するを以ての故なり。其の棺を斲り薄くして、卿の禮に從わしめず。○斲[たく]は、竹角反。

改葬幽公、諡之曰靈。
【読み】
幽公を改め葬り、之に諡して靈と曰う。


〔經〕十有一年、春、王正月。夏、楚子・陳侯・鄭伯盟于辰陵。楚復伐鄭。故受盟也。辰陵、陳地。潁川長平縣東南有辰亭。
【読み】
〔經〕十有一年、春、王の正月。夏、楚子・陳侯・鄭伯辰陵に盟う。楚復鄭を伐つ。故に盟を受くるなり。辰陵は、陳の地。潁川長平縣の東南に辰亭有り。

公孫歸父會齊人伐莒。無傳。
【読み】
公孫歸父齊人に會して莒を伐つ。傳無し。

秋、晉侯會狄于欑函。晉侯往會之。故以狄爲會主。欑函、狄地。○欑、才端反。函、音咸。
【読み】
秋、晉侯狄に欑函[さんかん]に會す。晉侯往きて之に會す。故に狄を以て會主と爲すなり。欑函は、狄の地。○欑は、才端反。函は、音咸。

冬、十月、楚人殺陳夏徵舒。不言楚子而稱人、討賊辭也。
【読み】
冬、十月、楚人陳の夏徵舒を殺す。楚子と言わずして人と稱するは、賊を討ずる辭なり。

丁亥、楚子入陳、楚子先殺徵舒、而欲縣陳。後得申叔時諫、乃復封陳、不有其地。故書入在殺徵舒之後。
【読み】
丁亥[ひのと・い]、楚子陳に入り、楚子先ず徵舒を殺して、陳を縣にせんと欲す。後申叔時が諫めを得て、乃ち復陳を封じて、其の地を有たず。故に入るを書すこと徵舒を殺すの後に在り。

納公孫寧・儀行父于陳。二子淫昏亂人也。君弑之後、能外託楚、以求報君之讎、内結强援於國。故楚莊得平步而討陳、除弑君之賊。於時陳成公播蕩於晉。定亡君之嗣、靈公成喪、賊討國復。功足以補過。故君子善楚復之。
【読み】
公孫寧・儀行父を陳に納れぬ。二子は淫昏の亂人なり。君弑せらるの後、能く外は楚に託して、以て君の讎を報いんことを求め、内は强援を國に結ぶ。故に楚莊平步して陳を討じ、君を弑するの賊を除くことを得。時に於て陳の成公晉に播蕩す。亡君の嗣を定め、靈公喪を成し、賊討じ國復す。功以て過ちを補うに足れり。故に君子楚の之を復せんことを善す。

〔傳〕十一年、春、楚子伐鄭、及櫟。子良曰、晉・楚不務德而兵爭。與其來者可也。晉・楚無信。我焉得有信。乃從楚。夏、楚盟于辰陵、陳・鄭服也。傳言楚與晉狎主盟。○櫟、音歷。
【読み】
〔傳〕十一年、春、楚子鄭を伐ち、櫟[れき]に及ぶ。子良曰く、晉・楚德を務めずして兵爭す。其の來る者に與して可なり。晉・楚信無し。我れ焉ぞ信有ることを得ん、と。乃ち楚に從う。夏、楚辰陵に盟うは、陳・鄭服すればなり。傳楚と晉と狎[かわるがわ]る盟を主ることを言う。○櫟は、音歷。

楚左尹子重侵宋。子重、公子嬰齊。莊王弟。
【読み】
楚の左尹子重宋を侵す。子重は、公子嬰齊。莊王の弟。

王待諸郔。郔、楚地。○郔、音延。
【読み】
王諸を郔[えん]に待つ。郔は、楚の地。○郔は、音延。

令尹蔿艾獵城沂。艾獵、孫叔敖也。沂、楚邑。○蔿、羽委反。
【読み】
令尹蔿艾獵[いがいりょう]沂[き]に城く。艾獵は、孫叔敖なり。沂は、楚の邑。○蔿は、羽委反。

使封人慮事、封人、其時主築城者。慮事、無慮計功。○慮、如字。一音力於反。廣雅云、無慮、都凡也。
【読み】
封人をして事を慮らしめて、封人は、其の時築城を主る者。事を慮るとは、無慮して功を計るなり。○慮は、字の如し。一に音力於反。廣雅に云う、無慮は、都凡、と。
*頭注に、「按無慮或作謀慮、誤也。」とある。

以授司徒。司徒、掌役。
【読み】
以て司徒に授く。司徒は、役を掌る。

量功命日、命作日數。
【読み】
功を量りて日を命じ、作る日數を命ず。

分財用、財用、築作具。
【読み】
財用を分かち、財用は、築作の具。

平板榦、榦、楨也。
【読み】
板榦を平らかにし、榦は、楨なり。

稱畚築、量輕重。畚、盛土器。○畚、音本。
【読み】
畚築[ほんちく]を稱[はか]り、輕重を量るなり。畚は、土を盛る器。○畚は、音本。

程土物、爲作程限。
【読み】
土物を程[はか]り、爲に程限を作す。

議遠邇、均勞逸。
【読み】
遠邇を議[はか]り、勞逸を均しくす。

略基趾、趾、城足。略、行也。○行、去聲。
【読み】
基の趾を略[めぐ]り、趾は、城足。略は、行るなり。○行は、去聲。

具餱糧、餱、乾食也。
【読み】
餱糧を具え、餱は、乾食なり。

度有司。謀監主。○度、待洛反。
【読み】
有司を度る。監主を謀る。○度は、待洛反。

事三旬而成。十日爲旬。
【読み】
事三旬にして成る。十日を旬とす。

不愆于素。不過素所慮之期也。傳言叔敖之能使民。
【読み】
素に愆[あやま]らず。素慮る所の期を過らざるなり。傳叔敖の能く民を使うを言う。

晉郤成子求成于衆狄。衆狄疾赤狄之役、遂服于晉。赤狄、潞氏最强。故服役衆狄。
【読み】
晉の郤成子成[たい]らぎを衆狄に求む。衆狄赤狄の役を疾[にく]みて、遂に晉に服す。赤狄は、潞氏最も强し。故に衆狄を服役す。

秋、會于欑函、衆狄服也。
【読み】
秋、欑函に會するは、衆狄服すればなり。

是行也、諸大夫欲召狄。郤成子曰、吾聞之、非德莫如勤。非勤何以求人。能勤有繼。其從之也。勤則功繼之。
【読み】
是の行や、諸大夫狄を召さんと欲す。郤成子曰く、吾れ之を聞く、德に非ざれば勤むるに如くは莫し。勤むるに非ざれば何を以て人を求めん。能く勤むれば繼ぐこと有り。其れ之に從わん。勤むれば則ち功之に繼ぐ。

詩曰、文王旣勤止。詩、頌。文王勤以創業。
【読み】
詩に曰く、文王旣に勤めり、と。詩は、頌。文王勤めて以て業を創む。

文王猶勤。況寡德乎。
【読み】
文王も猶勤めたり。況んや寡德をや、と。

冬、楚子爲陳夏氏亂故、伐陳。十年、夏徵舒弑君。
【読み】
冬、楚子陳の夏氏の亂の爲の故に、陳を伐つ。十年、夏徵舒君を弑す。

謂陳人、無動。將討於少西氏。少西、徵舒之祖、子夏之名。
【読み】
陳人に謂えらく、動くこと無かれ。將に少西氏を討ぜんとす、と。少西は、徵舒の祖、子夏の名。

遂入陳、殺夏徵舒、轘諸栗門、轘、車裂也。栗門、陳城門。○轘、音患。
【読み】
遂に陳に入り、夏徵舒を殺して、諸を栗門に轘にし、轘は、車裂なり。栗門は、陳の城門。○轘は、音患。

因縣陳。滅陳以爲楚縣。
【読み】
因りて陳を縣にす。陳を滅ぼして以て楚の縣とす。

陳侯在晉。靈公子、成公午。
【読み】
陳侯晉に在り。靈公の子、成公午。

申叔時使於齊反、復命而退。王使讓之曰、夏徵舒爲不道、弑其君。寡人以諸侯討而戮之、諸侯・縣公皆慶寡人。楚縣大夫、皆僭稱公。
【読み】
申叔時齊に使いして反り、復命して退く。王之を讓[せ]めしめて曰く、夏徵舒不道を爲して、其の君を弑す。寡人諸侯を以[い]て討じて之を戮せしかば、諸侯・縣公皆寡人を慶せり。楚の縣大夫、皆僭して公と稱す。

女獨不慶寡人。何故。對曰、猶可辭乎。王曰、可哉。曰、夏徵舒弑其君、其罪大矣。討而戮之、君之義也。抑人亦有言曰、牽牛以蹊人之田、抑、辭也。蹊、徑也。○蹊、音兮。
【読み】
女獨り寡人を慶せず。何の故ぞ、と。對えて曰く、猶辭す可けんや、と。王曰く、可なるかな、と。曰く、夏徵舒其の君を弑せしは、其の罪大なり。討じて之を戮せしは、君の義なり。抑々人亦言えること有り曰く、牛を牽きて以て人の田を蹊[わた]れば、抑は、辭なり。蹊は、徑るなり。○蹊は、音兮。

而奪之牛。牽牛以蹊者、信有罪矣。而奪之牛、罰已重矣。諸侯之從也、曰討有罪也。今縣陳、貪其富也。以討召諸侯、而以貪歸之、無乃不可乎。王曰、善哉。吾未之聞也。反之可乎。對曰、可哉。吾儕小人。所謂取諸其懷而與之也。叔時謙言、小人意淺。謂譬如取人物懷而還之、爲愈於不還。○儕、仕皆反。
【読み】
之が牛を奪えり、と。牛を牽きて以て蹊る者は、信に罪有り。而るを之が牛を奪うは、罰已[はなは]だ重し。諸侯の從うや、有罪を討ずと曰えばなり。今陳を縣にするは、其の富を貪るなり。討を以て諸侯を召して、貪を以て歸らば、乃ち不可なること無からんや、と。王曰く、善いかな。吾れ未だ之を聞かざりき。之を反さば可ならんか、と。對えて曰く、可ならんかな。吾儕は小人なり。所謂諸を其の懷に取りて之を與うるなり、と。叔時謙して言う、小人は意淺し、と。譬えば人の物を懷に取りて之を還すは、還さざるに愈[まさ]れりと爲すが如しと謂う。○儕は、仕皆反。

乃復封陳、郷取一人焉以歸。謂之夏州。州、郷族。示討夏氏所獲也。○復、扶又反。
【読み】
乃ち復陳を封じ、郷ごとに一人を取りて以て歸る。之を夏州と謂う。州は、郷の族。夏氏を討じて獲たる所なるを示すなり。○復は、扶又反。

故書曰楚子入陳、納公孫寧・儀行父于陳、書有禮也。沒其縣陳本意、全以討亂存國爲文、善其得禮。
【読み】
故に書して楚子陳に入り、公孫寧・儀行父を陳に納ると曰うは、禮有るを書すなり。其の陳を縣にせん本意を沒して、全く亂を討じ國を存するを以て文を爲すは、其の禮を得るを善するなり。

厲之役、鄭伯逃歸。蓋在六年。
【読み】
厲の役に、鄭伯逃げ歸る。蓋し六年に在るならん。

自是楚未得志焉。鄭旣受盟于辰陵、又徼事于晉。爲明年、楚圍鄭傳。十年、鄭及楚平。旣無其事。辰陵盟後、鄭徼事晉、又無端跡。傳皆特發以明經也。自厲之役、鄭南北兩屬。故未得志。九年、楚子伐鄭、不以黑壤興伐、遠稱厲之役者、志恨在厲役。此皆傳上下相包通之義也。○徼、古堯反。
【読み】
是より楚未だ志を得ず。鄭旣に盟を辰陵に受け、又晉に事えんことを徼[もと]めり。明年、楚鄭を圍む爲の傳なり。十年、鄭楚と平らぐ。旣に其の事無し。辰陵の盟の後、鄭晉に事えんことを徼むるも、又端跡無し。傳皆特に發して以て經を明かすなり。厲の役より、鄭南北に兩屬す。故に未だ志を得ず。九年、楚子の鄭を伐つ、黑壤を以て伐を興さずして、遠く厲の役を稱するは、志恨厲の役に在ればなり。此は皆傳上下相包通するの義なり。○徼は、古堯反。



經元年。喪取。七喩反。本亦作娶。○今本亦娶。卿爲。于僞反。宥之。音又。牟縣。亡侯反。非好。呼報反。
傳。尊稱。尺證反。舍族。音捨。簒立。初患反。得復。扶又反。爲立。于僞反。下同。陳共。音恭。解揚。音蟹。侯侈。昌氏尸氏二反。驟諫。仕救反。
經二年。鄭爲。于僞反。下同。
傳。元帥。所類反。見贖。食欲反。十乘。繩證反。下皆同。俘二。芳夫反。狂狡。古卯反。宜其禽也。一本作宜其爲禽也。○今本亦同。私感。戶暗反。本又作憾。注同。○今本亦憾。殄民。大典反。謳曰。烏侯反。睅。蘇林云、寢視不安貌。孟康云、猶分然也。驂乘。七南反。丹漆。音七。不吝。力刃反。其咎。其九反。將斃。婢世反。國以殺。申志反。○今本弑。厚斂。力驗反。彫牆。本亦作雕。下在良反。寘諸。之豉反。草索。素各反。之筥。九呂反。見其手。一本作首。袞職。古本反。盛服。本或作成。而睡。垂僞反。祗、本又作提。遂扶以下。舊本皆作扶。房孚反。服虔作跣。今杜注本往往有跣者。獒。尙書傳曰、大犬也。說文云、犬知人心可使者。多蔭。音陰。又於鴆反。簞食。音丹。公介。音界。以禦。魚呂反。趙穿攻。如字。本或作弑。竟之。音境。下及注同。聞公弑。申志反。大史。音泰。詛無。側慮反。之適。本又作嫡。下注同。以括。古活反。見僖。賢遍反。旄車。音毛。一本作軞。
經三年。
傳。復發。扶又反。周疆。居良反。昔夏。戶雅反。著之。舊直略反。魅。本又作鬽。罔。亡丈反。兩。本又作蜽。音同。說文云、山川之精物也。天休。許虯反。下同。天祐。音又。商紂。直九反。天祚。才故反。燕姞。一其吉反。人服媚。亡冀反。欲令。力呈反。子臧。作郎反。子兪。音楡。惡瑕。烏路反。下同。石癸。居揆反。必蕃。音煩。下同。將鉏。仕倶反。刈蘭。魚廢反。
經四年。及郯。音談。稻卒。徒老反。
傳。不治。直吏反。將解。一音蟹。爲難。乃旦反。憚。徒旦反。難也。御亂。魚呂反。○今本禦。堅長。丁丈反。餒。奴罪反。餓也。賈爲。于僞反。椒處。昌慮反。伯嬴。音盈。烝野。之承反。鼓跗。芳扶反。著於。直略反。以貫。古亂反。笠。音立。使於。所吏反。自拘。音倶。
經五年。小斂。力驗反。
傳。廟見。賢遍反。下同。遣使。所吏反。
經六年。
傳。數戰。所角反。爲。于僞反。蔀。一普口反。覿。徒歷反。閒一。閒厠之閒。
經七年。萊。音來。壤。如丈反。
傳。脩好。呼報反。應命。應對之應。例別。彼列反。故相。息亮反。以監。古銜反。同歃。所洽反。又所甲反。
經八年。大廟。音泰。傳同。爲繹。于僞反。省文。所景反。魯竟。音境。籥。羊略反。管也。音館。惡其。烏路反。聲聞。音問。又如字。
傳。絳市。古巷反。疆之。居良反。汭。如銳反。一音如悅反。稽。古兮反。楚彊。其良反。喪志。息浪反。引柩。其又反。
經九年。竟外。音境。
傳。加諷。芳鳳反。厚賄。呼罪反。字林、音悔。無將。子匠反。帥。所類反。衵。說文、仁一反。近身。附近之近。無傚。戶敎反。且聞。如字。一音問。弗禁。居鴆反。又音金。辟邪。似嗟反。下同。危行。下孟反。言孫。音遜。爲厲。于僞反。事見。賢遍反。柳。力手反。
經十年。濟西。子禮反。略見。賢遍反。下同。陳夏。戶雅反。取繹。音亦。
傳。其偪。彼力反。之使。所吏反。注同。恩好。呼報反。夏氏。戶雅反。其廐。居又反。
經十一年。楚復。扶又反。下復封陳同。播蕩。補賀反。下如字。
傳。兵爭。爭鬭之爭。我焉。於虔反。夏楚盟。本或作楚子。艾獵。五蓋反。下力涉反。城沂。魚依反。楨也。音貞。盛土。音成。基趾。音止。糧。音良。監主。古銜反。不愆。起虔反。潞氏。音路。以創。初亮反。爲陳。于僞反。少西。詩照反。使於。所吏反。皆僭。子念反。女獨。音汝。徑也。古定反。夏州。戶雅反。三年將鉏、仕倶反。襄二十四年作仕居反。

春秋左氏傳校本第十一

宣公 起十二年盡十八年
            晉        杜氏            集解
            唐        陸氏            音義
            尾張    秦    鼎        校本

〔經〕
十有二年、春、葬陳靈公。無傳。賊討國復、二十一月、然後得葬。
【読み】
〔經〕十有二年、春、陳の靈公を葬る。傳無し。賊討じ國復し、二十一月にして、然して後に葬ることを得たり。

楚子圍鄭。前年盟辰陵、而又徼事晉故。
【読み】
楚子鄭を圍む。前年辰陵に盟いて、又晉に事えんことを徼[もと]むる故なり。

夏、六月、乙卯、晉荀林父帥師及楚子戰于邲。晉師敗績。晉上軍成陳。故書戰。邲、鄭地。○邲、扶必反。一音弼。
【読み】
夏、六月、乙卯[きのと・う]、晉の荀林父師を帥いて楚子と邲[ひつ]に戰う。晉の師敗績す。晉の上軍陳を成す。故に戰を書す。邲は、鄭の地。○邲は、扶必反。一に音弼。

秋、七月。冬、十有二月、戊寅、楚子滅蕭。蕭、宋附庸國。十二月無戊寅。戊寅、十一月九日。
【読み】
秋、七月。冬、十有二月、戊寅[つちのえ・とら]、楚子蕭[しょう]を滅ぼす。蕭は、宋の附庸の國。十二月に戊寅無し。戊寅は、十一月九日。

晉人・宋人・衛人・曹人同盟于淸丘。晉・衛背盟。故大夫稱人。宋華椒承羣僞之言、以誤其國。宋雖有守信之善、而椒猶不免譏。淸丘、衛地。今在濮陽縣東南。
【読み】
晉人・宋人・衛人・曹人淸丘に同盟す。晉・衛盟に背く。故に大夫人と稱す。宋の華椒羣僞の言を承けて、以て其の國を誤る。宋信を守るの善有りと雖も、而れども椒猶譏りを免れず。淸丘は、衛の地。今濮陽縣の東南に在り。

宋師伐陳。衛人救陳。背淸丘之盟。
【読み】
宋の師陳を伐つ。衛人陳を救う。淸丘の盟に背く。

〔傳〕十二年、春、楚子圍鄭、旬有七日、鄭人卜行成。不吉。卜臨于大宮、臨、哭也。大宮、鄭祖廟。○臨、力鴆反。大、音泰。
【読み】
〔傳〕十二年、春、楚子鄭を圍むこと、旬有七日、鄭人成[たい]らぎを行わんことを卜す。不吉なり。大宮に臨し、臨は、哭すなり。大宮は、鄭の祖廟。○臨は、力鴆反。大は、音泰。

且巷出車卜。吉。出車於巷、示將見遷、不得安居。
【読み】
且巷に車を出ださんことを卜す。吉なり。車を巷に出だすは、將に遷されんとして、安居を得ざるを示すなり。

國人大臨、守陴者皆哭。陴、城上僻倪。皆哭、所以告楚窮也。○陴、音皮。僻、普計反。倪、音詣。
【読み】
國人大いに臨し、陴[ひ]を守る者皆哭す。陴は、城上の僻倪。皆哭するは、楚に窮まるを告ぐる所以なり。○陴は、音皮。僻は、普計反。倪は、音詣。

楚子退師。鄭人脩城。進復圍之、三月、克之。哀其窮哭。故爲退師。而猶不服。故復圍之九十日。○復、扶又反。
【読み】
楚子師を退く。鄭人城を脩む。進みて復之を圍み、三月にして、之に克つ。其の窮哭を哀れむ。故に爲に師を退く。而るに猶服せず。故に復之を圍むこと九十日。○復は、扶又反。

入自皇門、至于逵路。塗方九軌曰逵。
【読み】
皇門より入り、逵路[きろ]に至る。塗[みち]九軌を方[なら]ぶるを逵と曰う。

鄭伯肉袒牽羊以逆、肉袒牽羊、示服爲臣僕。
【読み】
鄭伯肉袒して羊を牽きて以て逆[むか]えて、肉袒して羊を牽くは、服して臣僕爲るを示すなり。

曰、孤不天、不爲天所祐。
【読み】
曰く、孤不天にして、天の爲に祐けられず。

不能事君、使君懷怒以及敝邑。孤之罪也。敢不唯命是聽。其俘諸江南、以實海濱、亦唯命。其翦以賜諸侯、使臣妾之、亦唯命。翦、削也。
【読み】
君に事うること能わずして、君をして怒りを懷きて以て敝邑に及ばしめり。孤の罪なり。敢えて唯命是れ聽かざらんや。其れ諸を江南に俘にして、以て海濱に實つとも、亦唯命のままなり。其れ翦[けず]りて以て諸侯に賜い、之に臣妾たらしむとも、亦唯命のままなり。翦は、削るなり。

若惠顧前好、楚・鄭世有盟誓之好。
【読み】
若し前好を惠顧し、楚・鄭世々盟誓の好有り。

徼福於厲・宣・桓・武、不泯其社稷、周厲王・宣王、鄭之所自出也。鄭桓公・武公、始封之賢君也。願楚要福于此四君、使社稷不滅。泯、猶滅也。○泯、彌忍反。
【読み】
福を厲・宣・桓・武に徼[もと]めんとして、其の社稷を泯[ほろ]ぼさずして、周の厲王・宣王は、鄭の自りて出づる所なり。鄭の桓公・武公は、始封の賢君なり。楚の福を此の四君に要めて、社稷をして滅ぼさざらしめんことを願う。泯は、猶滅ぼすのごとし。○泯は、彌忍反。

使改事君、夷於九縣、楚滅九國、以爲縣。願得比之。○九縣、莊十四年滅息、十六年滅鄧、僖五年滅弦、十二年滅黃、二十六年滅夔、文四年滅江、五年滅六、滅蓼、十六年滅庸。
【読み】
改めて君に事えしめて、九縣に夷[ひと]しくせば、楚九國を滅ぼして、以て縣とす。之に比することを得んことを願う。○九縣は、莊十四年息を滅ぼし、十六年鄧を滅ぼし、僖五年弦を滅ぼし、十二年黃を滅ぼし、二十六年夔を滅ぼし、文四年江を滅ぼし、五年六を滅ぼし、蓼を滅ぼし、十六年庸を滅ぼす。

君之惠也。孤之願也。非所敢望也。敢布腹心。君實圖之。
【読み】
君の惠みなり。孤の願いなり。敢えて望む所に非ざるなり。敢えて腹心を布く。君實に之を圖れ、と。

左右曰、不可許也。得國無赦。王曰、其君能下人。必能信用其民矣。庸可幾乎。
【読み】
左右曰く、許す可からざるなり。國を得て赦すこと無かれ、と。王曰く、其の君能く人に下る。必ず能く其の民を信用せん。庸[もっ]て幾[こいねが]う可けんや、と。

退三十里、而許之平。退一舍以禮鄭。○下、遐嫁反。幾、音冀。
【読み】
退くこと三十里にして、之に平らぎを許す。一舍を退きて以て鄭を禮す。○下は、遐嫁反。幾は、音冀。

潘尫入盟、子良出質。潘尫、楚大夫。子良、鄭伯弟。○尫、烏黃反。質、音致。
【読み】
潘尫[はんおう]入りて盟い、子良出でて質たり。潘尫は、楚の大夫。子良は、鄭伯の弟。○尫は、烏黃反。質は、音致。

夏、六月、晉師救鄭。荀林父將中軍。代郤缺。
【読み】
夏、六月、晉の師鄭を救う。荀林父中軍に將たり。郤缺に代わる。

先縠佐之。彘季代林父。
【読み】
先縠[せんこく]之に佐たり。彘季[ていき]林父に代わる。

士會將上軍。河曲之役、郤缺將上軍。宣八年、代趙盾爲政、將中軍。士會代將上軍。
【読み】
士會上軍に將たり。河曲の役に、郤缺上軍に將たり。宣八年に、趙盾に代わりて政を爲し、中軍に將たり。士會代わりて上軍に將たり。

郤克佐之。郤缺之子。代臾騈。○臾、羊朱反。騈、蒲邊反。
【読み】
郤克之に佐たり。郤缺の子。臾騈に代わる。○臾は、羊朱反。騈は、蒲邊反。

趙朔將下軍。代欒盾。
【読み】
趙朔下軍に將たり。欒盾に代わる。

欒書佐之。欒盾之子。代趙朔。
【読み】
欒書[らんしょ]之に佐たり。欒盾の子。趙朔に代わる。

趙括・趙嬰齊爲中軍大夫。括・嬰齊、皆趙盾異母弟。
【読み】
趙括・趙嬰齊中軍大夫爲り。括・嬰齊は、皆趙盾の異母弟。

鞏朔・韓穿爲上軍大夫。荀首・趙同爲下軍大夫。荀首、林父弟。同、趙嬰兄。○鞏、九勇反。
【読み】
鞏朔[きょうさく]・韓穿上軍大夫爲り。荀首・趙同下軍大夫爲り。荀首は、林父の弟。同は、趙嬰の兄。○鞏は、九勇反。

韓厥爲司馬。韓萬玄孫。
【読み】
韓厥司馬爲り。韓萬の玄孫。

及河、聞鄭旣及楚平、桓子欲還。曰、無及於鄭而勦民、焉用之。桓子、林父。勦、勞也。○勦、初交反。又子小反。
【読み】
河に及び、鄭旣に楚と平らぐと聞き、桓子還らんと欲す。曰く、鄭に及ぶこと無くして民を勦[つか]らさんこと、焉ぞ之を用いん。桓子は、林父。勦[そう]は、勞るるなり。○勦は、初交反。又子小反。

楚歸而動、不後。動兵伐鄭。
【読み】
楚歸りて動くとも、後れじ、と。兵を動かして鄭を伐つ。

隨武子曰、善。武子、士會。
【読み】
隨武子曰く、善し。武子は、士會。

會聞用師觀釁而動。釁、罪也。
【読み】
會聞く、師を用ゆるは釁[きん]を觀て動く。釁は、罪なり。

德刑政事典禮不易、不可敵也。不爲是征。言征伐爲有罪、不爲有禮。○爲、去聲。
【読み】
德刑政事典禮易わらざるには、敵す可からず。是が爲に征せず、と。言うこころは、征伐は有罪の爲にして、有禮の爲ならず。○爲は、去聲。

楚軍討鄭、怒其貳而哀其卑、叛而伐之、服而舍之。德刑成矣。伐叛、刑也。柔服、德也。二者立矣。
【読み】
楚軍の鄭を討ずる、其の貳を怒りて其の卑を哀れみ、叛きて之を伐ち、服して之を舍[ゆる]す。德刑成れり。叛を伐つは、刑なり。服を柔[やす]んずるは、德なり。二つの者立てり。

昔歲入陳、討徵舒。
【読み】
昔歲陳に入り、徵舒を討ず。

今茲入鄭、民不罷勞、君無怨讟、讟、謗也。○罷、音皮。讟、徒木反。
【読み】
今茲[ことし]鄭に入れども、民罷勞せず、君に怨讟[えんとく]無きは、讟は、謗りなり。○罷は、音皮。讟は、徒木反。

政有經矣。經、常也。
【読み】
政經有るなり。經は、常なり。

荆尸而舉、荆、楚也。尸、陳也。楚武王始更爲此陳法、遂以爲名。○此陳、直覲反。
【読み】
荆尸して舉し、荆は、楚なり。尸は、陳なり。楚の武王始めて更めて此の陳法を爲して、遂に以て名とす。○此陳は、直覲反。

商農工賈、不敗其業、而卒乘輯睦、步曰卒、車曰乘。○賈、音古。輯、音集。又七入反。
【読み】
商農工賈、其の業を敗らずして、卒乘輯睦するは、步を卒と曰い、車を乘と曰う。○賈は、音古。輯は、音集。又七入反。

事不奸矣。奸、犯也。
【読み】
事奸さざるなり。奸は、犯すなり。

蔿敖爲宰、擇楚國之令典、宰、令尹。蔿敖、孫叔敖。○蔿、于委反。
【読み】
蔿敖[いごう]宰と爲りて、楚國の令典を擇び、宰は、令尹。蔿敖は、孫叔敖。○蔿は、于委反。

軍行、右轅、左追蓐、在車右者、挾轅爲戰備、在左者、追求草蓐爲宿備。傳曰、令尹南轅。又曰、改乘轅。楚陳以轅爲主。○蓐、音辱。挾、胡牒反。又古洽反。
【読み】
軍行に、右は轅[えん]して、左は蓐[じょく]を追い、車の右に在る者は、轅を挾みて戰備を爲し、左に在る者は、草蓐を追求して宿の備えを爲す。傳に曰く、令尹轅を南にす、と。又曰く、乘轅を改む、と。楚の陳は轅を以て主とするなり。○蓐は、音辱。挾は、胡牒反。又古洽反。

前茅慮無、慮無、如今軍行、前有斥候蹋伏。皆持以絳及白爲幡、見騎賊舉絳幡、見步賊舉白幡、備慮有無也。茅、明也。或曰、時楚以茅爲旌識。○蹋、徒臘反。識、申志反。一音志。
【読み】
前は茅[あき]らかに無きに慮り、無きに慮るとは、今の軍行、前に斥候蹋伏[とうふく]有るが如し。皆持つに絳と白とを以て幡と爲し、騎賊を見れば絳幡を舉げ、步賊を見れば白幡を舉げて、有無に備慮するなり。茅は、明らかなり。或は曰く、時に楚茅を以て旌識と爲す、と。○蹋は、徒臘反。識は、申志反。一に音志。

中權、後勁、中軍制謀、後以精兵爲殿。○殿、丁練反。
【読み】
中は權して、後は勁[けい]をし、中軍は謀を制し、後は精兵を以て殿とす。○殿は、丁練反。

百官象物而動、軍政不戒而備、物、猶類也。戒、勑令。
【読み】
百官物に象りて動き、軍政戒めずして備わるは、物は、猶類のごとし。戒は、勑令。

能用典矣。
【読み】
能く典を用ゆるなり。

其君之舉也、内姓選於親、外姓選於舊。言親疎竝用。
【読み】
其の君の舉ぐるや、内姓は親に選び、外姓は舊に選ぶ。言うこころは、親疎竝び用ゆるなり。

舉不失德、賞不失勞、老有加惠、賜老則不計勞。
【読み】
舉德を失わず、賞勞を失わず、老に加惠有り、老に賜うは則ち勞を計らず。

旅有施舍、旅客來者、施之以惠、舍不勞役。
【読み】
旅に施舍有り、旅客の來る者、之に施すに惠を以てして、舍[ゆる]して勞役せしめず。

君子小人、物有服章、尊卑別也。
【読み】
君子小人、物服章有り、尊卑別る。

貴有常尊、賤有等威、威儀有等差。
【読み】
貴常尊有り、賤等威有るは、威儀等差有り。

禮不逆矣。
【読み】
禮逆わざるなり。

德立刑行、政成事時、典從禮順。若之何敵之。見可而進、知難而退、軍之善政也。兼弱攻昧、武之善經也。昧、昏亂。經、法也。
【読み】
德立ち刑行われ、政成り事時あり、典從い禮順う。之を若何ぞ之に敵せん。可を見て進み、難を知りて退くは、軍の善政なり。弱を兼ね昧を攻むるは、武の善經なり。昧は、昏亂。經は、法なり。

子姑整軍而經武乎。姑、且也。
【読み】
子姑く軍を整えて武を經せんか。姑は、且くなり。

猶有弱而昧者。何必楚。仲虺有言曰、取亂侮亡、兼弱也。仲虺、湯左相、薛之祖、奚仲之後。○虺、音卉。
【読み】
猶弱にして昧なる者有らん。何ぞ必ずしも楚のみならん。仲虺[ちゅうき]言えること有り曰く、亂を取り亡を侮るとは、弱を兼ぬるなり。仲虺は、湯の左相、薛の祖、奚仲の後。○虺は、音卉。

汋曰、於鑠王師、遵養時晦、汋、詩頌篇名。鑠、美也。言美武王能遵天之道、須暗昧者惡積而後取之。○汋、音酌。於、音烏。鑠、舒若反。
【読み】
汋[しゃく]に曰く、於[ああ]鑠[うつく]しきかな王の師、遵いて時[こ]の晦きを養うとは、汋は、詩の頌の篇の名。鑠は、美しきなり。言うこころは、武王能く天の道に遵い、暗昧なる者の惡積むを須ちて而して後に之を取るを美す。○汋は、音酌。於は、音烏。鑠は、舒若反。

耆昧也。耆、致也。致討於昧。○耆、音旨。
【読み】
昧に耆[いた]すなり。耆は、致すなり。討を昧に致す。○耆は、音旨。

武曰、無競惟烈。武、詩頌篇名。烈、業也。言武王兼弱取昧。故成無疆之業。
【読み】
武に曰く、競[かぎ]り無き惟れ烈、と。武は、詩の頌の篇の名。烈は、業なり。武王弱を兼ね昧を取る。故に無疆の業を成すを言う。

撫弱耆昧、以務烈所、可也。言當務從武王之功業、撫而取之。○烈所、絕句。
【読み】
弱を撫で昧に耆して、以て烈の所を務めんこと、可なり、と。言うこころは、當に務めて武王の功業に從いて、撫でて之を取るべし。○烈所は、絕句。

彘子曰、不可。彘子、先縠。
【読み】
彘子[ていし]曰く、不可なり。彘子は、先縠。

晉所以霸、師武臣力也。今失諸侯、不可謂力。有敵而不從、不可謂武。由我失霸、不如死。且成師以出、聞敵彊而退、非夫也。非丈夫。
【読み】
晉の霸たる所以は、師武に臣力むればなり。今諸侯を失わば、力むと謂う可からず。敵有りて從[お]わざれば、武と謂う可からず。我より霸を失わば、死するに如かず。且つ師を成して以て出でて、敵の彊きを聞きて退くは、夫に非ざるなり。丈夫に非ず。

命爲軍師、而卒以非夫、唯羣子能。我弗爲也。以中軍佐濟。佐、彘子所帥也。濟、渡河。
【読み】
命ぜられて軍師と爲りて、卒うるに非夫を以てせんこと、唯羣子は能くせん。我は爲さず、と。中軍の佐を以[い]て濟[わた]る。佐は、彘子が帥いる所なり。濟は、河を渡るなり。

知莊子曰、此師殆哉。莊子、荀首。○知、音智。
【読み】
知莊子曰く、此の師殆きかな。莊子は、荀首。○知は、音智。

周易有之、在師 坎下坤上、師。
【読み】
周易に之れ有り、師 坎下坤上は、師。

之臨兌下坤上、臨。師初六變而之臨。
【読み】
に之くに在りて、兌下坤上は、臨。師の初六變じて臨に之く。

曰、師出以律。否臧凶。此師卦初六爻辭。律、法。否、不也。○否、部鄙反。又方九反。
【読み】
曰く、師出だすに律を以てす。臧に否[あら]ざれば凶なり、と。此れ師卦の初六の爻辭。律は、法。否は、不なり。○否は、部鄙反。又方九反。

執事順成爲臧、逆爲否。今彘子逆命不順成。故應不臧之凶。
【読み】
事を執ること順成を臧と爲し、逆を否と爲す。今彘子命に逆いて順成ならず。故に不臧の凶に應ず。

衆散爲弱、坎爲衆。今變爲兌。兌、柔弱。
【読み】
衆散じて弱と爲り、坎を衆と爲す。今變じて兌と爲る。兌は、柔弱。

川壅爲澤。坎爲川。今變爲兌。兌爲澤。是川見壅。
【読み】
川壅[ふさ]がりて澤と爲る。坎を川と爲す。今變じて兌と爲る。兌を澤と爲す。是れ川壅がる。

有律以如己也。如、從也。法行則人從法。法敗則法從人。坎爲法象。今爲衆則散、爲川則壅。是失法之用、從人之象。
【読み】
律有れば以て己に如[したが]うなり。如は、從うなり。法行わるれば則ち人法に從う。法敗るれば則ち法人に從う。坎を法の象と爲す。今衆とすれば則ち散じ、川とすれば則ち壅がる。是れ法の用を失いて、人に從うの象なり。

故曰律。否臧且律竭也。竭、敗也。坎變爲兌。是法敗。
【読み】
故に律と曰う。臧に否ざれば且[まさ]に律竭[やぶ]れんとす。竭は、敗るなり。坎變じて兌と爲る。是れ法敗るるなり。

盈而以竭、夭且不整、所以凶也。水遇夭塞、不得整流、則竭涸也。○夭、於表反。
【読み】
盈ちて以て竭れ、夭[ふさ]がりて且整[とお]らざるは、凶なる所以なり。水夭塞に遇いて、整流するを得ざれば、則ち竭涸す。○夭は、於表反。

不行之謂臨。水變爲澤、乃成臨卦。澤不行之物。
【読み】
行かざる之を臨と謂う。水變じて澤と爲れば、乃ち臨の卦と成る。澤は行かざるの物なり。

有帥而不從、臨孰甚焉。此之謂矣。譬彘子之違命、亦不可行。
【読み】
帥有れども從わず、臨孰れか焉より甚だしからん。此を謂うなり。彘子の命に違うは、亦行く可からざるに譬う。

果遇必敗。遇敵。
【読み】
果たして遇わば必ず敗れん。敵に遇うなり。

彘子尸之。主此禍。
【読み】
彘子之を尸[つかさど]れり。此の禍を主る。

雖免而歸、必有大咎。爲明年、晉殺先縠傳。
【読み】
免れて歸ると雖も、必ず大咎有らん、と。明年、晉先縠を殺す爲の傳なり。

韓獻子謂桓子、獻子、韓厥。
【読み】
韓獻子桓子に謂いて、獻子は、韓厥。

曰、彘子以偏師陷、子罪大矣。子爲元帥。師不用命、誰之罪也。失屬亡師、爲罪已重。不如進也。令鄭屬楚。故曰失屬。彘子以偏師陷。故曰亡師。
【読み】
曰く、彘子偏師を以[い]て陷らば、子の罪大なり。子元帥爲り。師命を用いざるは、誰が罪ぞや。屬を失い師を亡[うしな]わば、罪爲ること已[はなは]だ重し。進むに如かざるなり。鄭をして楚に屬せしむ。故に屬を失うと曰う。彘子偏師を以て陷る。故に師を亡うと曰う。

事之不捷、惡有所分。捷、成也。
【読み】
事の捷[な]らざるも、惡分かる所有らん。捷は、成すなり。

與其專罪、六人同之、不猶愈乎。三軍皆敗、則六卿同罪、不得獨責元帥。
【読み】
其の罪を專らにせんよりは、六人之を同じくせんは、猶愈らざるや、と。三軍皆敗れば、則ち六卿罪を同じくして、獨り元帥を責むることを得ず。

師遂濟。
【読み】
師遂に濟る。

楚子北師次於郔。郔、鄭北地。
【読み】
楚子師を北にして郔[えん]に次[やど]る。郔は、鄭の北の地。

沈尹將中軍。沈或作寢。寢、縣也。今汝陰固始縣。
【読み】
沈尹中軍に將たり。沈或は寢に作る。寢は、縣なり。今の汝陰の固始縣。

子重將左。子反將右。將飮馬於河而歸。子反、公子側。○飮、於鴆反。
【読み】
子重左に將たり。子反右に將たり。將に馬に河に飮[みずか]いて歸らんとす。子反は、公子側。○飮は、於鴆反。

聞晉師旣濟、王欲還。嬖人伍參欲戰。參、伍奢之祖父。○參、七南反。
【読み】
晉の師旣に濟ると聞き、王還らんと欲す。嬖人伍參戰わんと欲す。參は、伍奢の祖父。○參は、七南反。

令尹孫叔敖弗欲、曰、昔歲入陳、今茲入鄭。不無事矣。戰而不捷、參之肉、其足食乎。參曰、若事之捷、孫叔爲無謀矣。不捷、參之肉、將在晉軍。可得食乎。令尹南轅反旆。回車南郷。旆、軍前大旗。○旆、蒲貝反。郷、許亮反。
【読み】
令尹孫叔敖欲せずして、曰く、昔歲陳に入り、今茲[ことし]鄭に入る。事無しとせず。戰いて捷らずんば、參が肉、其れ食うに足らんや、と。參曰く、若し事の捷らば、孫叔は謀無しとせん。捷らずんば、參が肉は、將に晉軍に在らんとす。食うことを得可けんや、と。令尹轅を南にして旆を反す。車を回して南に郷[む]かう。旆は、軍前の大旗。○旆は、蒲貝反。郷は、許亮反。

伍參言於王曰、晉之從政者新、未能行令。其佐先縠、剛愎不仁、未肯用命。愎、很也。○愎、皮逼反。很、胡墾反。
【読み】
伍參王に言いて曰く、晉の政に從う者新たにして、未だ令を行うこと能わず。其の佐先縠、剛愎[ごうひょく]不仁にして、未だ肯えて命を用いず。愎は、很[もと]るなり。○愎は、皮逼反。很は、胡墾反。

其三帥者、專行不獲、欲專其所行而不得。
【読み】
其の三帥の者、行いを專らにせんとして獲ず、其の行う所を專らにせんと欲して得ず。

聽而無上。衆誰適從。聽彘子・趙同・趙括、則爲軍無上令。衆不知所從。○適、丁歷反。
【読み】
聽けば上無しとす。衆誰にか適從せん。彘子・趙同・趙括に聽けば、則ち軍上令無しとす。衆從う所を知らず。○適は、丁歷反。

此行也、晉師必敗。且君而逃臣、若社稷何。王病之。告令尹、改乘轅而北之、次于管以待之。
【読み】
此の行や、晉の師必ず敗れん。且つ君にして臣に逃げば、社稷を若何、と。王之を病[うれ]う。令尹に告げて、乘轅を改めて之を北にし、管に次りて以て之を待つ。

晉師在敖・鄗之閒。滎陽京縣東北有管城。敖・鄗二山、在滎陽縣西北。○乘、繩證反。敖、五刀反。鄗、苦交反。
【読み】
晉の師敖・鄗[こう]の閒に在り。滎陽京縣の東北に管城有り。敖・鄗の二山は、滎陽縣の西北に在り。○乘は、繩證反。敖は、五刀反。鄗は、苦交反。

鄭皇戌使如晉師、曰、鄭之從楚、社稷之故也。未有貳心。楚師驟勝而驕、其師老矣。而不設備。子擊之。鄭師爲承、承、繼也。○戌、雖律反。
【読み】
鄭の皇戌[こうじゅつ]使いして晉の師に如きて、曰く、鄭の楚に從うは、社稷の故なり。未だ貳心有らず。楚の師驟[しば]々勝ちて驕り、其の師老[つか]れたり。而して備えを設けず。子之を擊て。鄭の師承を爲さば、承は、繼ぐなり。○戌は、雖律反。

楚師必敗。彘子曰、敗楚服鄭、於此在矣。必許之。
【読み】
楚の師必ず敗れん、と。彘子曰く、楚を敗り鄭を服せんこと、此に於て在り。必ず之を許せ、と。

欒武子曰、武子、欒書。○敗、必邁反。
【読み】
欒武子曰く、武子は、欒書。○敗は、必邁反。

楚自克庸以來、在文十六年。
【読み】
楚庸に克ちしより以來、文十六年に在り。

其君無日不討國人而訓之。討、治也。
【読み】
其の君日として國人を討[おさ]めて之を訓えざること無し。討は、治むるなり。

于民生之不易。禍至之無日。戒懼之不可以怠。于、曰也。○易、以豉反。
【読み】
于[いわ]く、民の生は易からず。禍の至るは日無し。戒懼して以て怠る可からず、と。于は、曰くなり。○易は、以豉反。

在軍、無日不討軍實而申儆之。軍實、軍器。○儆、敬領反。
【読み】
軍に在るときは、日として軍實を討めて之を申儆せざること無し。軍實は、軍器。○儆は、敬領反。

于勝之不可保。紂之百克、而卒無後。訓之以若敖・蚡冒篳路藍縷、以啓山林、若敖・蚡冒、皆楚之先君。篳路、柴車。藍縷、敝衣。言此二君勤儉以啓土。○蚡、扶粉反。篳、音必。藍、力甘反。
【読み】
于く、勝ちは保[たの]む可からず。紂は百たび克ちて、卒に後無かりき、と。之に訓うるに若敖・蚡冒が篳路[ひつろ]藍縷[らんる]にして、以て山林を啓きしを以てして、若敖・蚡冒は、皆楚の先君なり。篳路は、柴車。藍縷は、敝衣。此の二君勤儉にして以て土を啓くを言う。○蚡は、扶粉反。篳は、音必。藍は、力甘反。

箴之曰、民生在勤。勤則不匱。不可謂驕。箴、誡。
【読み】
之を箴[いまし]めて曰く、民生は勤に在り。勤むれば則ち匱[とぼ]しからず、と。驕ると謂う可からず。箴は、誡む。

先大夫子犯有言曰、師直爲壯、曲爲老。我則不德、而徼怨于楚。我曲楚直。不可謂老。不德、謂以力爭諸侯。徼、要也。
【読み】
先大夫子犯言えること有りて曰く、師は直きを壯と爲し、曲れるを老ゆると爲す、と。我れ則ち不德にして、怨みを楚に徼む。我は曲り楚は直し。老ゆると謂う可からず。不德とは、力を以て諸侯を爭うを謂う。徼は、要むるなり。

其君之戎、分爲二廣、君之親兵。○廣、古曠反。下同。
【読み】
其の君の戎、分けて二廣と爲し、君の親兵。○廣は、古曠反。下も同じ。

廣有一卒、卒偏之兩。十五乘爲一廣。司馬法、百人爲卒、二十五人爲兩、車十五乘爲大偏。今廣十五乘、亦用舊偏法、復以二十五人爲承副。
【読み】
廣に一卒有り、卒ごとに偏の兩あり。十五乘を一廣とす。司馬法に、百人を卒とし、二十五人を兩とし、車十五乘を大偏とす、と。今の廣も十五乘なれば、亦舊偏法を用ゆるに、復二十五人を以て承副とす。

右廣初駕、數及日中、左則受之、以至于昏。内官序當其夜、内官、近官。序、次也。
【読み】
右廣初めて駕して、數えて日中に及べば、左則ち之を受けて、以て昏に至る。内官序でて其の夜に當たり、内官は、近官。序は、次なり。

以待不虞。不可謂無備。
【読み】
以て不虞を待つ。備え無しと謂う可からず。

子良、鄭之良也。師叔、楚之崇也。師叔、潘尫。爲楚人所崇貴。
【読み】
子良は、鄭の良なり。師叔は、楚の崇なり。師叔は、潘尫。楚人の爲に崇貴せらる。

師叔入盟、子良在楚。楚・鄭親矣。來勸我戰、我克則來。不克遂往。以我卜也。鄭不可從。
【読み】
師叔入りて盟い、子良楚に在り。楚・鄭親し。來りて我に戰を勸むるは、我れ克たば則ち來らん。克たずんば遂に往かん。我を以て卜するなり。鄭には從う可からず、と。

趙括・趙同曰、率師以來、唯敵是求。克敵得屬、又何俟。必從彘子。得屬、服鄭。
【読み】
趙括・趙同曰く、師を率いて以て來るは、唯敵を是れ求めんとなり。敵に克ち屬を得んに、又何をか俟たん。必ず彘子に從わん、と。屬を得るとは、鄭を服するなり。

知季曰、原・屛、咎之徒也。知季、莊子也。原、趙同。屛、趙括。徒、黨也。○知、音智。荀首後爲知氏。屛、步丁反。
【読み】
知季曰く、原・屛は、咎の徒なり、と。知季は、莊子なり。原は、趙同。屛は、趙括。徒は、黨なり。○知は、音智。荀首後に知氏と爲る。屛は、步丁反。

趙莊子曰、欒伯善哉。莊子、趙朔。欒伯、武子。
【読み】
趙莊子曰く、欒伯善いかな。莊子は、趙朔。欒伯は、武子。

實其言、必長晉國。實、猶充也。言欒書之身行、能充此言、則當執晉國之政也。○長、丁丈反。行、下孟反。
【読み】
其の言を實[み]てば、必ず晉國に長たらん、と。實は、猶充つるのごとし。言うこころは、欒書の身行、能く此の言を充てば、則ち當に晉國の政を執るべし。○長は、丁丈反。行は、下孟反。

楚少宰如晉師、少宰、官名。
【読み】
楚の少宰晉の師に如きて、少宰は、官の名。

曰、寡君少遭閔凶、不能文。閔、憂也。
【読み】
曰く、寡君少[わか]くして閔凶に遭いて、文なること能わず。閔は、憂えなり。

聞二先君之出入此行也、二先君、楚成王・穆王。
【読み】
二先君の此の行に出入することを聞き、二先君は、楚の成王・穆王。

將鄭是訓定。豈敢求罪于晉。二三子無淹久。淹、留也。
【読み】
將に鄭を是れ訓定せんとするなり。豈敢えて罪を晉に求めんや。二三子淹久すること無かれ、と。淹は、留むるなり。

隨季對曰、昔平王命我先君文侯曰、與鄭夾輔周室、毋廢王命。今鄭不率。率、遵也。
【読み】
隨季對えて曰く、昔平王我が先君文侯に命じて曰く、鄭と周室を夾輔して、王命を廢つること毋かれ、と。今鄭率わず。率は、遵うなり。

寡君使羣臣問諸鄭。豈敢辱候人。候人、謂伺候望敵者。○伺、音司。一息嗣反。
【読み】
寡君羣臣をして諸を鄭に問わしむるのみ。豈敢えて候人を辱くせんや。候人は、伺候して敵を望む者を謂う。○伺は、音司。一に息嗣反。

敢拜君命之辱。彘子以爲諂、使趙括從而更之曰、行人失辭。言誤對。
【読み】
敢えて君命の辱きを拜す、と。彘子以て諂えりと爲して、趙括をして從[お]いて之を更めしめて曰く、行人辭を失えり。誤對を言う。

寡君使羣臣遷大國之跡於鄭。遷、徙也。
【読み】
寡君羣臣をして大國の跡を鄭より遷さしめんとす。遷は、徙[うつ]るなり。

曰、無辟敵。羣臣無所逃命。
【読み】
曰く、敵を辟くること無かれ、と。羣臣命を逃る所無し、と。

楚子又使求成于晉。晉人許之。
【読み】
楚子又成らぎを晉に求めしむ。晉人之を許す。

盟有日矣。有期日。
【読み】
盟日有り。期日有り。

楚許伯御樂伯、攝叔爲右、以致晉師。單車挑戰、又示不欲崇和、以疑晉之羣帥。○單、音丹。挑、徒了反。
【読み】
楚の許伯樂伯に御となり、攝叔右と爲りて、以て晉の師に致す。單車戰を挑むは、又和を崇ぶことを欲せざるを示して、以て晉の羣帥を疑わすなり。○單は、音丹。挑は、徒了反。

許伯曰、吾聞致師者、御靡旌、摩壘而還。靡旌、驅疾也。摩、近也。○摩、末多反。壘、力軌反。
【読み】
許伯曰く、吾れ聞く、師に致す者は、御は旌を靡[なび]かし、壘に摩して還る、と。旌を靡かすは、驅くるの疾きなり。摩は、近づくなり。○摩は、末多反。壘は、力軌反。

樂伯曰、吾聞致師者、左射以菆、左、車左也。菆、矢之善者。○射、食亦反。下同。菆、側留反。
【読み】
樂伯曰く、吾れ聞く、師に致す者は、左は射るに菆[しゅう]を以てし、左は、車左なり。菆は、矢の善き者。○射は、食亦反。下も同じ。菆は、側留反。

代御執轡、御下兩馬、掉鞅而還。兩、飾也。掉、正也。示閒暇。○兩、力掌反。或音亮。掉、徒弔反。又乃較反。鞅、於丈反。
【読み】
御に代わりて轡を執れば、御下りて馬を兩[かざ]り、鞅[おう]を掉[ただ]して還る、と。兩は、飾るなり。掉は、正すなり。閒暇を示すなり。○兩は、力掌反。或は音亮。掉は、徒弔反。又乃較反。鞅は、於丈反。

攝叔曰、吾聞致師者、右入壘、折馘、折馘、斷耳。○折、之設反。馘、古獲反。斷、音短。
【読み】
攝叔曰く、吾れ聞く、師に致す者は、右は壘に入りて、折馘[せっかく]し、折馘は、耳を斷つなり。○折は、之設反。馘は、古獲反。斷は、音短。

執俘而還。皆行其所聞而復。
【読み】
俘を執えて還る、と。皆其の聞く所を行いて復れり。

晉人逐之、左右角之。張兩角、從旁夾攻之。
【読み】
晉人之を逐い、左右之を角す。兩角を張り、旁より之を夾み攻む。

樂伯左射馬而右射人。角不能進。矢一而已。麋興於前。射麋麗龜。麗、著也。龜、背之隆高當心者。○麋、亡悲反。著、直略反。
【読み】
樂伯左に馬を射て右に人を射る。角進むこと能わず。矢一つのみ。麋[び]前に興る。麋を射て龜に麗[つ]く。麗は、著くなり。龜は、背の隆高にして心に當たる者。○麋は、亡悲反。著は、直略反。

晉鮑癸當其後。使攝叔奉麋獻焉、曰、以歲之非時、獻禽之未至。敢膳諸從者。鮑癸止之曰、其左善射。其右有辭。君子也。
【読み】
晉の鮑癸其の後に當たる。攝叔をして麋を奉じて獻ぜしめて、曰く、以[おも]うに、歲の時に非ざれば、獻禽の未だ至らざらんことを。敢えて諸を從者に膳す、と。鮑癸之を止めて曰く、其の左は善く射る。其の右は辭有り。君子なり、と。

旣免。止不復逐。
【読み】
旣に免[ゆる]す。止めて復逐わず。

晉魏錡求公族未得、錡、魏犫子。欲爲公族大夫。○錡、魚綺反。犫、尺周反。
【読み】
晉の魏錡公族を求めて未だ得ずして、錡は、魏犫[ぎしゅう]の子。公族大夫爲らんことを欲す。○錡は、魚綺反。犫は、尺周反。

而怒。欲敗晉師、請致師。弗許。請使。許之。遂往、請戰而還。楚潘黨逐之。及滎澤。見六麋、射一麋以顧獻、曰、子有軍事。獸人無乃不給於鮮。敢獻於從者。滎澤、在滎陽縣東。新殺爲鮮。見六得一、言其不如楚。○敗、必邁反。又如字。射、食亦反。
【読み】
怒る。晉の師を敗らんことを欲し、師に致さんと請う。許さず。使せんと請う。之を許す。遂に往き、戰を請いて還る。楚の潘黨之を逐う。滎澤に及ぶ。六麋を見、一麋を射て以て顧りみて獻じて、曰く、子軍事有り。獸人乃ち鮮を給せざること無からんか。敢えて從者に獻ず、と。滎澤は、滎陽縣の東に在り。新殺を鮮と爲す。六を見て一を得るは、其の楚に如かざるを言うなり。○敗は、必邁反。又字の如し。射は、食亦反。

叔黨命去之。叔黨、潘黨。潘尫之子。
【読み】
叔黨命じて之を去らしむ。叔黨は、潘黨。潘尫の子。

趙旃求卿未得、旃、趙穿子。
【読み】
趙旃[ちょうせん]卿を求むれども未だ得ず、旃は、趙穿の子。

且怒於失楚之致師者。請挑戰。弗許。請召盟。許之。與魏錡皆命而往。郤獻子曰、二憾往矣。獻子、郤克。
【読み】
且楚の師に致す者を失いしを怒る。戰を挑まんと請う。許さず。召して盟わんと請う。之を許す。魏錡と皆命ぜられて往く。郤獻子曰く、二憾往けり。獻子は、郤克。

弗備必敗。彘子曰、鄭人勸戰、弗敢從也。楚人求成、弗能好也。師無成命。多備何爲。士季曰、備之善。若二子怒楚、楚人乘我、喪師無日矣。乘、猶登也。
【読み】
備えずんば必ず敗れん、と。彘子曰く、鄭人戰を勸むれども、敢えて從わず。楚人成らぎを求むれども、好すること能わず。師成命無し。多く備うとも何をかせん、と。士季曰く、之に備うるは善し。若し二子楚を怒らせて、楚人我に乘らば、師を喪わんこと日無けん。乘は、猶登るのごとし。

不如備之。楚之無惡、除備而盟、何損於好。若以惡來、有備不敗。且雖諸侯相見、軍衛不徹、警也。徹、去也。
【読み】
之に備えんに如かず。楚の惡無くんば、備えを除きて盟わんも、何ぞ好に損せん。若し惡を以て來るも、備え有らば敗れじ。且つ諸侯相見ゆと雖も、軍衛徹[さ]らざるは、警なり、と。徹は、去るなり。

彘子不可。不肯設備。
【読み】
彘子可[き]かず。備えを設くるを肯わず。

士季使鞏朔・韓穿帥七覆于敖前。帥、將也。覆、爲伏兵七處。○覆、扶又反。將、如字。
【読み】
士季鞏朔・韓穿をして帥いて敖の前に七覆せしむ。帥は、將いるなり。覆は、伏兵を七處に爲すなり。○覆は、扶又反。將は、字の如し。

故上軍不敗。趙嬰齊使其徒先具舟于河。故敗而先濟。
【読み】
故に上軍敗れず。趙嬰齊其の徒をして先ず舟を河に具えしむ。故に敗れて先ず濟りぬ。

潘黨旣逐魏錡。言魏錡見逐而退。
【読み】
潘黨旣に魏錡を逐う。魏錡逐われて退くを言う。

趙旃夜至於楚軍、二人雖倶受命、而行不相隨。趙旃在後至。
【読み】
趙旃夜楚の軍に至り、二人倶に命を受くと雖も、行相隨わず。趙旃後に在りて至る。

席於軍門之外、使其徒入之。布席坐、示無所畏也。
【読み】
軍門の外に席して、其の徒をして之に入らしむ。席を布きて坐すは、畏るる所無きを示すなり。

楚子爲乘廣三十乘、分爲左右、右廣雞鳴而駕、日中而說、說、舍也。○說、舒銳反。下同。
【読み】
楚子乘廣三十乘を爲し、分けて左右と爲し、右廣雞鳴にして駕し、日中にして說[やど]れば、說は、舍るなり。○說は、舒銳反。下も同じ。

左則受之、日入而說。許偃御右廣。養由基爲右。彭名御左廣。屈蕩爲右。楚王更迭載之。故各有御右。○屈、居勿反。
【読み】
左則ち之を受け、日入りて說る。許偃右廣に御たり。養由基右爲り。彭名左廣に御たり。屈蕩右爲り。楚王更[かわるがわ]る迭[たが]いに之に載る。故に各々御右有り。○屈は、居勿反。

乙卯、王乘左廣、以逐趙旃。趙旃棄車而走林。屈蕩搏之、得其甲裳。下曰裳。○搏、音博。
【読み】
乙卯、王左廣に乘りて、以て趙旃を逐う。趙旃車を棄てて林に走る。屈蕩之を搏ちて、其の甲裳を得。下を裳と曰う。○搏は、音博。

晉人懼二子之怒楚師也、使軘車逆之。軘車、兵車名。○軘、徒溫反。
【読み】
晉人二子の楚の師を怒らさんことを懼るるや、軘車[とんしゃ]をして之を逆えしむ。軘車は、兵車の名。○軘は、徒溫反。

潘黨望其塵、使騁而告曰、晉師至矣。楚人亦懼王之入晉軍也、遂出陳。孫叔曰、進之。寧我薄人、無人薄我。詩云、元戎十乘、以先啓行、先人也。元戎、戎車在前也。詩、小雅。言王者軍行、必有戎車十乘、在前開道、先人爲備。○騁、勑景反。陳、直覲反。先人、去聲。下同。
【読み】
潘黨其の塵を望み、騁[は]せて告げしめて曰く、晉の師至れり、と。楚人も亦王の晉の軍に入らんことを懼るるや、遂に出でて陳す。孫叔曰く、之を進めよ。寧ろ我れ人に薄[せま]るも、人をして我に薄らすこと無かれ。詩に云う、元戎十乘、以て先ず行を啓くとは、人に先だつなり。元戎は、戎車の前に在るなり。詩は、小雅。王者の軍行、必ず戎車十乘有り、前に在りて道を開き、人に先だちて備えを爲すを言う。○騁[てい]は、勑景反。陳は、直覲反。先人は、去聲。下も同じ。

軍志曰、先人有奪人之心、薄之也。奪敵戰心。
【読み】
軍志に曰く、人に先だてば人の心を奪うこと有りとは、之に薄るなり、と。敵の戰心を奪う。

遂疾進師、車馳卒奔、乘晉軍。桓子不知所爲、鼓於軍中曰、先濟者有賞。中軍・下軍爭舟、舟中之指可掬也。兩手曰掬。
【読み】
遂に疾く師を進め、車馳せ卒奔り、晉の軍に乘ず。桓子爲さん所を知らず、軍中に鼓ちて曰く、先ず濟らん者は賞有らん、と。中軍・下軍舟を爭い、舟中の指掬[きく]す可し。兩手を掬と曰う。

晉師右移、上軍未動。言餘軍皆移去。惟上軍在。經所以書戰。言猶有陳。
【読み】
晉の師右は移れども、上軍は未だ動かず。言うこころは、餘軍皆移り去る。惟上軍のみ在り。經に戰を書す所以なり。猶陳有るを言うなり。

工尹齊將右拒卒、以逐下軍。工尹齊、楚大夫。右拒、陳名。○拒、音矩。下同。
【読み】
工尹齊右拒の卒を將いて、以て下軍を逐う。工尹齊は、楚の大夫。右拒は、陳の名。○拒は、音矩。下も同じ。

楚子使唐狡與蔡鳩居、告唐惠侯、二子、楚大夫。唐、屬楚之小國。義陽安昌縣東南有上唐郷。○狡、古卯反。
【読み】
楚子唐狡と蔡鳩居とをして、唐の惠侯に告げしめて、二子は、楚の大夫。唐は、楚に屬するの小國。義陽安昌縣の東南に上唐郷有り。○狡は、古卯反。

曰、不穀不德而貪、以遇大敵。不穀之罪也。然楚不克、君之羞也。敢藉君靈、以濟楚師。藉、猶假借也。
【読み】
曰く、不穀不德にして貪りて、以て大敵に遇えり。不穀の罪なり。然れども楚克たざるは、君の羞なり。敢えて君の靈を藉[か]りて、以て楚の師を濟[な]さん、と。藉は、猶假借のごとし。

使潘黨率游闕四十乘、游車補闕者。
【読み】
潘黨をして游闕四十乘を率いて、游車の闕を補う者。

從唐侯以爲左拒、以從上軍。駒伯曰、待諸乎。駒伯、郤克。上軍佐也。
【読み】
唐侯に從いて以て左拒爲らしめて、以て上軍を從[お]う。駒伯曰く、諸を待たんか、と。駒伯は、郤克。上軍の佐なり。

隨季曰、楚師方壯。若萃於我、吾師必盡。萃、集也。
【読み】
隨季曰く、楚の師方に壯なり。若し我に萃[あつ]まらば、吾が師必ず盡きん。萃は、集まるなり。

不如收而去之。分謗生民、不亦可乎。同奔爲分謗。不戰爲生民。
【読み】
如かじ、收めて之を去らんには。謗を分かち民を生かせんこと、亦可ならざるや、と。同じく奔るを謗を分かつとす。戰わざるを民を生かすとす。

殿其卒而退。不敗。以其所將卒、爲軍後殿。○殿、多練反。
【読み】
其の卒を殿にして退く。敗れず。其の將いる所の卒を以て、軍の後殿とす。○殿は、多練反。

王見右廣、將從之乘。屈蕩之曰、君以此始。亦必以終。戶、止。軍中易乘、則恐軍人惑。
【読み】
王右廣を見、將に之に從いて乘らんとす。屈蕩之を戶[とど]めて曰く、君此を以て始めり。亦必ず以て終われ、と。戶は、止む。軍中乘を易うれば、則ち軍人の惑わんことを恐るるなり。
*頭注に「按戶、或作尸、誤也。」とある。

自是楚之乘廣先左。以乘左得勝故。
【読み】
是れより楚の乘廣左を先にす。左に乘じて勝を得るを以ての故なり。

晉人或以廣隊、不能進。廣、兵車。○隊、直類反。
【読み】
晉人或は廣の隊[お]つるを以て、進むこと能わず。廣は、兵車。○隊は、直類反。

楚人惎之脫扃。惎、敎也。扃、車上兵闌。○惎、其器反。扃、古熒反。服云、扃、橫木校輪閒。一曰、車前橫木。西京賦云、旗不脫扃。薛綜云、扃、所以止旗也。
【読み】
楚人之に惎[おし]えて扃[けい]を脫さしむ。惎[き]は、敎ゆるなり。扃は、車上の兵闌。○惎は、其器反。扃は、古熒反。服云う、扃は、橫木輪閒を校ず、と。一に曰く、車前の橫木、と。西京賦云う、旗扃を脫せず、と。薛綜云う、扃は、旗を止むる所以、と。

少進、馬還。又惎之拔旆投衡。乃出。還、便旋不進。旆、大旗也。拔旗投衡上、使不帆風、差輕。○帆、凡劒反。本作帊。音怕。
【読み】
少しく進みて、馬還す。又之に惎えて旆を拔きて衡に投げしむ。乃ち出づ。還は、便旋して進まざるなり。旆は、大旗なり。旗を拔きて衡の上に投げ、風に帆せざらしめて、差[やや]輕し。○帆は、凡劒反。本帊[は]に作る。音怕。

顧曰、吾不如大國之數奔也。
【読み】
顧みて曰く、吾れ大國の數々奔るに如かざるなり、と。

趙旃以其良馬二、濟其兄與叔父、以他馬反。遇敵不能去、棄車而走林。逢大夫與其二子乘。逢、氏。○數、音朔。逢、音龐。蜀本作逄。
【読み】
趙旃其の良馬二を以て、其の兄と叔父とを濟し、他馬を以て反る。敵に遇いて去ること能わず、車を棄てて林に走る。逢大夫其の二子と乘る。逢は、氏。○數は、音朔。逢は、音龐[ほう]。蜀本逄[ほう]に作る。

謂其二子無顧。不欲見趙旃。
【読み】
其の二子に謂えらく、顧みること無かれ、と。趙旃を見んことを欲せず。

顧曰、趙傁在後。傁、老稱也。○傁、音叟。
【読み】
顧みて曰く、趙傁[ちょうそう]後に在り、と。傁は、老稱なり。○傁は、音叟。

怒之、使下。指木曰、尸女於是。授趙旃綏以免。明日以表尸之、表所指木、取其尸。○女、音汝。
【読み】
之を怒りて、下らしむ。木を指して曰く、女を是に尸せん、と。趙旃に綏を授けて以て免れしむ。明日表を以て之を尸すれば、指す所の木を表して、其の尸を取る。○女は、音汝。

皆重獲在木下。兄弟累尸而死。○重、平聲。
【読み】
皆重獲せられて木下に在り。兄弟尸を累ねて死す。○重は、平聲。

楚熊負羈囚知罃。知莊子以其族反之。負羈、楚大夫。知罃、知莊子之子。族、家兵。反、還戰。○罃、於耕反。還、音環。
【読み】
楚の熊負羈知罃[ちおう]を囚にす。知莊子其の族を以て之に反る。負羈は、楚の大夫。知罃は、知莊子の子。族は、家兵。反は、還りて戰うなり。○罃は、於耕反。還は、音環。

廚武子御。武子、魏錡。
【読み】
廚武子御たり。武子は、魏錡。

下軍之士多從之。知莊子、下軍大夫故。
【読み】
下軍の士多く之に從えり。知莊子は、下軍の大夫の故なり。

每射抽矢菆、納諸廚子之房。抽、擢也。菆、好箭。房、箭舍。○射、食夜反。又食亦反。菆、側留反。
【読み】
射る每に矢菆を抽[ぬ]き、諸を廚子の房に納る。抽は、擢[ぬ]くなり。菆は、好箭。房は、箭舍。○射は、食夜反。又食亦反。菆は、側留反。

廚子怒曰、非子之求、而蒲之愛。蒲、楊柳。可以爲箭。
【読み】
廚子怒りて曰く、子を之れ求むるに非ずして、蒲を之れ愛[おし]む。蒲は、楊柳。以て箭に爲る可し。

董澤之蒲、可勝旣乎。董澤、澤名。河東聞喜縣東北有董池陂。旣、盡也。○勝、音升。
【読み】
董澤の蒲、勝げて旣くす可けんや、と。董澤は、澤の名。河東聞喜縣の東北に董池陂有り。旣は、盡くすなり。○勝は、音升。

知季曰、不以人子、吾子其可得乎。吾不可以苟射故也。射連尹襄老、獲之、遂載其尸、射公子穀臣、囚之、以二者還。穀臣、楚王子。○射、食亦反。
【読み】
知季曰く、人の子を以てせざれば、吾が子其れ得可けんや。吾は以て苟も射る可からざる故なり。連尹襄老を射て、之を獲、遂に其の尸を載せ、公子穀臣を射て、之を囚え、二りの者を以[い]て還る。穀臣は、楚王の子。○射は、食亦反。

及昏、楚師軍於邲。晉之餘師不能軍。不能成營屯。
【読み】
昏に及びて、楚の師邲に軍す。晉の餘師軍すること能わず。營屯を成すこと能わず。

宵濟。亦終夜有聲。言其兵衆、將不能用。○將、子匠反。
【読み】
宵濟る。亦終夜聲有り。其の兵衆きとも、將用ゆること能わざるを言う。○將は、子匠反。

丙辰、楚重至於邲、重、輜重也。○重、直勇反。又直用反。輜、則其反。
【読み】
丙辰[ひのえ・たつ]、楚の重邲に至り、重は、輜重なり。○重は、直勇反。又直用反。輜は、則其反。

遂次于衡雍。潘黨曰、君盍築武軍、築軍營以彰武功。○雍、於用反。
【読み】
遂に衡雍に次る。潘黨曰く、君盍ぞ武軍を築きて、軍營を築きて以て武功を彰すなり。○雍は、於用反。

而收晉尸以爲京觀。積尸封土其上、謂之京觀。○觀、古亂反。下京觀同。
【読み】
晉の尸を收めて以て京觀を爲らざる。尸を積みて土を其の上に封ずる、之を京觀と謂う。○觀は、古亂反。下の京觀も同じ。

臣聞克敵、必示子孫、以無忘武功。楚子曰、非爾所知也。夫文、止戈爲武。文、字。
【読み】
臣聞く、敵に克てば、必ず子孫に示して、以て武功を忘るること無からしむ、と。楚子曰く、爾が知る所に非ざるなり。夫れ文に、戈を止むるを武と爲す。文は、字なり。

武王克商、作頌曰、載戢干戈、載櫜弓矢。戢、藏也。櫜、韜也。詩、美武王能誅滅暴亂而息兵。○戢、側立反。櫜、古刀反。
【読み】
武王商に克ち、頌を作りて曰く、載[すなわ]ち干戈を戢[おさ]め、載ち弓矢を櫜[つつ]む。戢[しゅう]は、藏むるなり。櫜[こう]は、韜[つつ]むなり。詩は、武王能く暴亂を誅滅して兵を息[とど]むるを美む。○戢は、側立反。櫜は、古刀反。

我求懿德、肆于時夏。允王保之。肆、遂也。夏、大也。言武王旣息兵、又能求美德。故遂大、而信王保天下。○夏、戶雅反。
【読み】
我れ懿德を求めて、肆[つい]に時[ここ]に于て夏[おお]いなり。允に王として之を保てり、と。肆は、遂になり。夏は、大いなり。武王旣に兵を息め、又能く美德を求む。故に遂に大いにして、信に王として天下を保てるを言う。○夏は、戶雅反。

又作武。其卒章曰、耆定爾功。武、頌篇名。耆、致也。言武王誅紂、致定其功。○耆、音旨。
【読み】
又武を作る。其の卒章に曰く、爾の功を定むることを耆[いた]す、と。武は、頌の篇の名。耆は、致すなり。武王紂を誅して、其の功を定むることを致すを言う。○耆は、音旨。

其三曰、鋪時繹思、我徂維求定。其三、三篇。鋪、布也。繹、陳也。時、是也。思、辭也。頌美武王能布政陳敎、使天下歸往求安定。
【読み】
其の三に曰く、鋪[し]きて時[こ]れ繹[つら]ぬれば、我れ徂[ゆ]きて維れ定まらんことを求む、と。其の三は、三篇。鋪は、布くなり。繹は、陳ぬるなり。時は、是れなり。思は、辭なり。武王能く政を布き敎えを陳ね、天下をして歸往して安定を求めしむるを頌美す。

其六曰、綏萬邦、屢豐年。其六、六篇。綏、安也。屢、數也。言武王旣安天下、數致豐年。此三六之數、與今詩頌篇次不同。蓋楚樂歌之次第。
【読み】
其の六に曰く、萬邦を綏[やす]んじて、屢[しば]々豐年なり、と。其の六は、六篇。綏は、安んずるなり。屢は、數々なり。武王旣に天下を安んじて、數々豐年を致すを言う。此の三六の數は、今の詩頌の篇次と同じからず。蓋し楚の樂歌の次第ならん。

夫武、禁暴、戢兵、保大、定功、安民、和衆、豐財者也。此武七德。
【読み】
夫れ武は、暴を禁じ、兵を戢め、大を保ち、功を定め、民を安んじ、衆を和らげ、財を豐かにする者なり。此れ武の七德。

故使子孫無忘其章。著之篇章、使子孫不忘。
【読み】
故に子孫をして其の章を忘るること無からしむ。之を篇章に著して、子孫をして忘れざらしむ。

今我使二國暴骨、暴矣。觀兵以威諸侯、兵不戢矣。暴而不戢。安能保大。猶有晉在。焉得定功。所違民欲猶多。民何安焉。無德而强爭諸侯。何以和衆。利人之幾、幾、危也。○暴骨、蒲卜反。焉得、於虔反。强、其丈反。
【読み】
今我れ二國をして骨を暴さしむるは、暴なり。兵を觀[しめ]して以て諸侯を威[おど]すは、兵戢まらざるなり。暴にして戢まらず。安ぞ能く大を保たん。猶晉の在る有り。焉ぞ功を定むることを得ん。民の欲に違う所猶多し。民何ぞ安んぜん。德無くして諸侯を强爭す。何を以て衆を和らげん。人の幾[あや]うきを利とし、幾は、危うきなり。○暴骨は、蒲卜反。焉得は、於虔反。强は、其丈反。

而安人之亂、以爲己榮。何以豐財。兵動則年荒。
【読み】
人の亂を安んじて、以て己が榮と爲す。何を以て財を豐かにせん。兵動けば則ち年荒る。

武有七德、我無一焉。何以示子孫。其爲先君宮、告成事而已。祀先君、告戰勝。
【読み】
武に七德有りて、我は一も無し。何を以て子孫に示さん。其れ先君の宮を爲り、成事を告げんのみ。先君を祀りて、戰勝を告ぐ。

武非吾功也。
【読み】
武は吾が功に非ざるなり。

古者明王伐不敬、取其鯨鯢而封之、以爲大戮。於是乎有京觀、以懲淫慝。鯨鯢、大魚名。以喩不義之人、呑食小國。○鯨、其京反。鯢、五兮反。
【読み】
古は明王不敬を伐てば、其の鯨鯢[けいげい]を取りて之を封じて、以て大戮と爲す。是に於て京觀有りて、以て淫慝を懲らす。鯨鯢は、大魚の名。以て不義の人、小國を呑食するに喩う。○鯨は、其京反。鯢は、五兮反。

今罪無所、晉罪無所犯也。
【読み】
今罪所無く、晉の罪犯す所無し。

而民皆盡忠、以死君命。又可以爲京觀乎。
【読み】
民皆忠を盡くして、以て君命に死せり。又以て京觀を爲す可けんや、と。

祀于河、作先君宮、告成事而還。傳言楚莊有禮、所以遂興。
【読み】
河を祀り、先君の宮を作り、成事を告げて還る。傳楚莊禮有り、遂に興る所以を言う。

是役也、鄭石制實入楚師。將以分鄭而立公子魚臣。辛未、鄭殺僕叔及子服。僕叔、魚臣也。子服、石制也。
【読み】
是の役や、鄭の石制實に楚の師を入れたり。將に以て鄭を分けて公子魚臣を立てんとす。辛未[かのと・ひつじ]、鄭僕叔と子服とを殺す。僕叔は、魚臣なり。子服は、石制なり。

君子曰、史佚所謂毋怙亂者、謂是類也。言恃人之亂以要利。○佚、音逸。怙、音戶。要、平聲。
【読み】
君子曰く、史佚が所謂亂を怙[たの]むこと毋かれとは、是の類を謂うなり。人の亂を恃みて以て利を要むるを言う。○佚は、音逸。怙は、音戶。要は、平聲。

詩曰、亂離瘼矣、爰其適歸。詩、小雅。離、憂也。瘼、病也。爰、於也。言禍亂憂病、於何所歸乎。歎之。○瘼、音莫。
【読み】
詩に曰く、亂離して瘼[や]まば、爰[いずく]に其れ適歸せんや、と。詩は、小雅。離は、憂えなり。瘼[ばく]は、病むなり。爰は、於なり。言うこころは、禍亂憂病は、何れの所に於て歸せんや。之を歎ずるなり。○瘼は、音莫。

歸於怙亂者也夫。恃亂則禍歸之。○夫、音扶。
【読み】
亂を怙む者に歸せんか、と。亂を恃めば則ち禍之に歸す。○夫は、音扶。

鄭伯・許男如楚。爲十四年、晉伐鄭傳。
【読み】
鄭伯・許男楚に如く。十四年、晉鄭を伐つ爲の傳なり。

秋、晉師歸。桓子請死。晉侯欲許之。士貞子諫曰、不可。貞子、士渥濁。○渥、於角反。
【読み】
秋、晉の師歸る。桓子死を請う。晉侯之を許さんと欲す。士貞子諫めて曰く、不可なり。貞子は、士渥濁。○渥は、於角反。

城濮之役、晉師三日穀、在僖二十八年。
【読み】
城濮の役に、晉の師三日穀せしに、僖二十八年に在り。

文公猶有憂色。左右曰、有喜而憂、如有憂而喜乎。言憂喜失時。
【読み】
文公猶憂色有り。左右曰く、喜び有りて憂えば、如し憂え有らば喜ばんか、と。憂喜時を失うを言う。

公曰、得臣猶在。憂未歇也。歇、盡也。○歇、許謁反。
【読み】
公曰く、得臣猶在り。憂え未だ歇[つ]きざるなり。歇[けつ]は、盡くすなり。○歇は、許謁反。

困獸猶鬭。況國相乎。及楚殺子玉、子玉、得臣。
【読み】
困獸も猶鬭う。況んや國相をや、と。楚の子玉を殺すに及びて、子玉は、得臣。

公喜而後可知也。喜見於顏色。○見、賢遍反。
【読み】
公の喜び而して後に知る可し。喜び顏色に見る。○見は、賢遍反。

曰、莫余毒也已。是晉再克、而楚再敗也。楚是以再世不競。成王至穆王。
【読み】
曰く、余を毒すること莫からんのみ、と。是れ晉は再び克ちて、楚は再び敗れたるなり。楚是を以て再世競わざりき。成王より穆王に至る。

今天或者大警晉也。警、戒也。
【読み】
今天或は大いに晉を警[いまし]むるならん。警は、戒むなり。

而又殺林父以重楚勝、其無乃久不競乎。林父之事君也、進思盡忠、退思補過。社稷之衛也。若之何殺之。夫其敗也、如日月之食焉。何損於明。晉侯使復其位。言晉景所以不失霸。○重、直用反。
【読み】
而るを又林父を殺して以て楚の勝を重ねば、其れ乃ち久しく競わざること無からんや。林父の君に事うるや、進みては忠を盡くさんことを思い、退きては過ちを補わんことを思う。社稷の衛りなり。之を若何ぞ之を殺さん。夫れ其の敗や、日月の食の如し。何ぞ明を損せん、と。晉侯其の位に復らしむ。晉景霸を失わざる所以を言う。○重は、直用反。

冬、楚子伐蕭。宋華椒以蔡人救蕭。蕭人囚熊相宜僚及公子丙。王曰、勿殺。吾退。蕭人殺之。王怒。遂圍蕭。蕭潰。
【読み】
冬、楚子蕭を伐つ。宋の華椒蔡人を以[い]て蕭を救う。蕭人熊相宜僚と公子丙とを囚う。王曰く、殺すこと勿かれ。吾れ退かん、と。蕭人之を殺す。王怒る。遂に蕭を圍む。蕭潰ゆ。

申公巫臣曰、師人多寒。王巡三軍、拊而勉之。拊撫慰勉之。○潰、戶内反。拊、芳甫反。
【読み】
申公巫臣曰く、師人多く寒[こご]えたり、と。王三軍を巡り、拊[な]でて之を勉む。之を拊撫慰勉す。○潰は、戶内反。拊は、芳甫反。

三軍之士、皆如挾纊。纊、綿也。言說以忘寒。○挾、戶牒反。纊、音曠。
【読み】
三軍の士、皆纊[わた]を挾むが如し。纊は、綿なり。說びて以て寒を忘るるを言う。○挾は、戶牒反。纊は、音曠。

遂傅於蕭。
【読み】
遂に蕭に傅[つ]く。

還無社與司馬卯言、號申叔展。還無社、蕭大夫。司馬卯・申叔展、皆楚大夫也。無社素識叔展。故因卯呼之。○傅、音附。還、音旋。號、戶到反。一戶刀反。
【読み】
還無社[せんむしゃ]と司馬卯[ぼう]と言[かた]り、申叔展を號[よ]ぶ。還無社は、蕭の大夫。司馬卯・申叔展は、皆楚の大夫なり。無社素叔展を識る。故に卯に因りて之を呼ぶ。○傅は、音附。還は、音旋。號は、戶到反。一に戶刀反。

叔展曰、有麥麴乎。曰、無。有山鞠窮乎。曰、無。麥麴・鞠窮、所以禦濕。欲使無社逃泥水中。無社不解。故曰無。軍中不敢正言。故謬誤。○麴、去六反。鞠、起弓反。
【読み】
叔展曰く、麥麴有りや、と。曰く、無し、と。山鞠窮有りや、と。曰く、無し、と。麥麴・鞠窮は、濕を禦ぐ所以なり。無社をして泥水中に逃げしめんと欲す。無社解せず。故に無しと曰う。軍中敢えて正言せず。故に謬誤す。○麴は、去六反。鞠は、起弓反。

河魚、腹疾柰何。叔展言、無禦濕藥將病。
【読み】
河魚たらば、腹疾を柰何せん。叔展言う、濕を禦ぐ藥無くば將に病まんとす、と。

曰、目於眢井而拯之。無社意解。欲入井。故使叔展視虛廢井、而求拯己。出溺爲拯。○眢、烏丸反。廢井也。字林云、井無水也。
【読み】
曰く、眢井[わんせい]を目[み]て之を拯[すく]え、と。無社意解す。井に入らんと欲す。故に叔展をして虛廢井を視せしめて、己を拯わんことを求む。溺を出だすを拯と爲す。○眢は、烏丸反。廢井なり。字林に云う、井水無きなり。

若爲茅絰。哭井則己。叔展又敎結茅以表井、須哭乃應、以爲信。○絰、直結反。己、音紀。舊音以。
【読み】
若[なんじ]茅絰を爲せ。井に哭せば則ち己なり。叔展又茅を結びて以て井に表し、哭を須ちて乃ち應じて、以て信と爲せよと敎ゆ。○絰は、直結反。己は、音紀。舊音以。

明日蕭潰。申叔視其井、則茅絰存焉。號而出之。號、哭也。傳言蕭人無守心。○號、戶刀反。
【読み】
明日蕭潰ゆ。申叔其の井を視れば、則ち茅絰存せり。號びて之を出だせり。號は、哭すなり。傳蕭人守心無きを言う。○號は、戶刀反。

晉原縠・宋華椒・衛孔達・曹人同盟于淸丘。原縠、先縠。
【読み】
晉の原縠・宋の華椒・衛の孔達・曹人淸丘に同盟す。原縠は、先縠。

曰、恤病討貳。於是卿不書、不實其言也。宋伐陳、衛救之、不討貳也。楚伐宋、晉不救、不恤病也。
【読み】
曰く、病めるを恤え貳あるを討ぜん、と。是に於て卿書さざるは、其の言を實にせざればなり。宋陳を伐ち、衛之を救うは、貳あるを討ぜざるなり。楚宋を伐ちて、晉救わざるは、病めるを恤えざるなり。

宋爲盟故伐陳。陳貳於楚故。
【読み】
宋盟の爲の故に陳を伐つ。陳楚に貳ある故なり。

衛人救之。孔達曰、先君有約言焉。若大國討、我則死之。衛成公與陳共公有舊好。故孔達欲背盟救陳、而以死謝晉。爲十四年、衛殺孔達傳。○約、於妙反。又如字。
【読み】
衛人之を救う。孔達曰く、先君約言有り。若し大國討ぜば、我れ則ち之に死なん、と。衛の成公陳の共公と舊好有り。故に孔達盟を背き陳を救いて、死を以て晉に謝せんと欲す。十四年、衛孔達を殺す爲の傳なり。○約は、於妙反。又字の如し。


〔經〕十有三年、春、齊師伐莒。夏、楚子伐宋。秋、螽。無傳。爲災故書。
【読み】
〔經〕十有三年、春、齊の師莒を伐つ。夏、楚子宋を伐つ。秋、螽[しゅう]あり。傳無し。災いを爲す故に書す。

冬、晉殺其大夫先縠。書名、以罪討。
【読み】
冬、晉其の大夫先縠を殺す。名を書すは、罪を以て討ずればなり。

〔傳〕十三年、春、齊師伐莒、莒恃晉而不事齊故也。
【読み】
〔傳〕十三年、春、齊の師莒を伐つは、莒晉を恃みて齊に事えざる故なり。

夏、楚子伐宋、以其救蕭也。救蕭、在前年。
【読み】
夏、楚子宋を伐つは、其の蕭[しょう]を救うを以てなり。蕭を救うは、前年に在り。

君子曰、淸丘之盟、唯宋可以免焉。宋討陳之貳、今宋見伐、晉・衛不顧盟以恤宋。而經同貶宋大夫。傳嫌華椒之罪、累及其國。故曰唯宋可以免。
【読み】
君子曰く、淸丘の盟は、唯宋のみ以て免る可し、と。宋陳の貳あるを討ぜしに、今宋伐たれて、晉・衛盟を顧みて以て宋を恤えず。而るを經に同じく宋の大夫を貶す。傳華椒の罪、其の國に累及するに嫌あり。故に唯宋のみ以て免る可しと曰う。

秋、赤狄伐晉、及淸。先縠召之也。邲戰不得志。故召狄欲爲變。淸、一名淸原。
【読み】
秋、赤狄晉を伐ちて、淸に及ぶ。先縠が之を召[まね]けるなり。邲[ひつ]の戰に志を得ず。故に狄を召して變を爲さんと欲す。淸、一名は淸原。

冬、晉人討邲之敗與淸之師、歸罪於先縠而殺之、盡滅其族。
【読み】
冬、晉人邲[ひつ]の敗と淸の師とを討じて、罪を先縠に歸して之を殺し、盡く其の族を滅ぼす。

君子曰、惡之來也、己則取之、其先縠之謂乎。盡滅其族、爲誅已甚。故曰惡之來也。
【読み】
君子曰く、惡の來るや、己則ち之を取るとは、其れ先縠を謂うか、と。盡く其の族を滅ぼすは、誅爲ること已甚だし。故に惡の來ると曰うなり。

淸丘之盟、晉以衛之救陳也討焉。尋淸丘之盟以責衛。
【読み】
淸丘の盟もって、晉衛の陳を救うを以て討ず。淸丘の盟を尋[かさ]ねて以て衛を責む。

使人弗去、曰、罪無所歸、將加而師。孔達曰、苟利社稷、請以我說。欲自殺以說晉。○說、如字。又音悅。以說、音悅。又如字。
【読み】
使人去らずして、曰く、罪歸する所無くば、將に而[なんじ]に師を加えんとす、と。孔達曰く、苟も社稷に利あらば、請う我を以て說け。自殺して以て晉に說かんと欲す。○說は、字の如し。又音悅。以說は、音悅。又字の如し。

罪我之由。我則爲政、而亢大國之討。將以誰任。亢、禦也。謂禦宋討陳也。○任、音壬。
【読み】
罪は我に由れり。我れ則ち政を爲して、大國の討を亢[ふせ]げり。將誰を以て任ぜん。亢は、禦ぐなり。宋の陳を討ずるを禦ぐを謂うなり。○任は、音壬。

我則死之。爲明年、殺孔達傳。
【読み】
我れ則ち之に死なん、と。明年、孔達を殺す爲の傳なり。


〔經〕十有四年、春、衛殺其大夫孔達。書名、背盟于大國、罪之。
【読み】
〔經〕十有四年、春、衛其の大夫孔達を殺す。名を書すは、盟に大國に背くは、之を罪するなり。

夏、五月、壬申、曹伯壽卒。無傳。文十四年、盟新城。
【読み】
夏、五月、壬申[みずのえ・さる]、曹伯壽卒す。傳無し。文十四年、新城に盟う。

晉侯伐鄭。秋、九月、楚子圍宋。葬曹文公。無傳。
【読み】
晉侯鄭を伐つ。秋、九月、楚子宋を圍む。曹の文公を葬る。傳無し。

冬、公孫歸父會齊侯于穀。
【読み】
冬、公孫歸父齊侯に穀に會す。

〔傳〕十四年、春、孔達縊而死。衛人以說于晉而免。以殺告。故免于伐。○縊、一賜反。
【読み】
〔傳〕十四年、春、孔達縊れて死す。衛人以て晉に說きて免る。殺すを以て告ぐ。故に伐たるるを免る。○縊は、一賜反。

遂告于諸侯曰、寡君有不令之臣達、構我敝邑于大國。旣伏其罪矣。敢告。諸殺大夫亦皆告。
【読み】
遂に諸侯に告げて曰く、寡君不令の臣達という有り、我が敝邑を大國に構えり。旣に其の罪に伏せり。敢えて告ぐ、と。諸々大夫を殺すも亦皆告ぐ。

衛人以爲成勞、復室其子、以有平國之功、故以女妻之。○復、扶又反。
【読み】
衛人以て成勞ありと爲して、復其の子を室[めあ]わせ、國を平らぐるの功有るを以て、故に女を以て之に妻す。○復は、扶又反。

使復其位。襲父祿位。
【読み】
其の位に復らしむ。父の祿位を襲ぐ。

夏、晉侯伐鄭、爲邲故也。晉敗於邲、鄭遂屬楚。
【読み】
夏、晉侯鄭を伐つは、邲[ひつ]の爲の故なり。晉邲に敗れて、鄭遂に楚に屬す。

告於諸侯、蒐焉而還。蒐、簡閱車馬。○蒐、所留反。
【読み】
諸侯に告げて、蒐して還る。蒐は、車馬を簡閱するなり。○蒐は、所留反。

中行桓子之謀也。曰、示之以整、使謀而來。鄭人懼、使子張代子良于楚。十二年、子良質於楚。子張、穆公孫。○行、音杭。質、音致。
【読み】
中行桓子の謀なり。曰く、之に示すに整を以てして、謀りて來らしめん、と。鄭人懼れ、子張をして子良に楚に代わらしむ。十二年、子良楚に質たり。子張は、穆公の孫。○行は、音杭。質は、音致。

鄭伯如楚。謀晉故也。
【読み】
鄭伯楚に如く。晉の故を謀るなり。

鄭以子良爲有禮。故召之。有讓國之禮。
【読み】
鄭子良を以て禮有りと爲す。故に之を召す。國を讓るの禮有り。

楚子使申舟聘于齊。曰、無假道于宋。申舟、無畏。
【読み】
楚子申舟をして齊に聘せしむ。曰く、道を宋に假ること無かれ、と。申舟は、無畏。

亦使公子馮聘于晉、不假道于鄭。申舟以孟諸之役惡宋。文十年、楚子田孟諸、無畏抶宋公僕。○馮、皮氷反。惡、去聲。抶、勑乙反。
【読み】
亦公子馮をして晉に聘せしめ、道を鄭に假らざれという。申舟孟諸の役を以て宋に惡まる。文十年、楚子孟諸に田せしとき、無畏宋公の僕を抶[う]てり。○馮は、皮氷反。惡は、去聲。抶[ちつ]は、勑乙反。

曰、鄭昭、宋聾。昭、明也。聾、闇也。
【読み】
曰く、鄭は昭、宋は聾なり。昭は、明らかなり。聾は、闇きなり。

晉使不害。我則必死。王曰、殺女、我伐之。見犀而行。犀、申舟子。以子託王、示必死。○使、所吏反。
【読み】
晉の使いは害あらじ。我は則ち必ず死なん、と。王曰く、女を殺さば、我れ之を伐たん。犀を見えしめて行く。犀は、申舟の子。子を以て王に託して、必死を示す。○使は、所吏反。

及宋。宋人止之。華元曰、過我而不假道、鄙我也。鄙我、亡也。以我比其邊鄙、是與亡國同。○過、如字。又平聲。
【読み】
宋に及ぶ。宋人之を止む。華元曰く、我を過ぎて道を假らざるは、我を鄙にするなり。我を鄙にするは、亡びたるなり。我を以て其の邊鄙に比ぶるは、是れ國を亡ぶと同じ。○過は、字を如し。又平聲。

殺其使者、必伐我。伐我、亦亡也。亡一也。乃殺之。
【読み】
其の使者を殺さば、必ず我を伐たん。我を伐つも、亦亡びん。亡ぶるは一なり、と。乃ち之を殺す。

楚子聞之、投袂而起。投、振也。袂、袖也。
【読み】
楚子之を聞きて、袂を投じて起つ。投は、振るなり。袂は、袖なり。

屨及於窒皇、窒皇、寢門闕。○窒、直結反。
【読み】
屨[く]は窒皇[てっこう]に及び、窒皇は、寢門の闕。○窒は、直結反。

劒及於寢門之外、車及於蒲胥之市。
【読み】
劒は寢門の外に及び、車は蒲胥の市に及ぶ。

秋、九月、楚子圍宋。
【読み】
秋、九月、楚子宋を圍む。

冬、公孫歸父會齊侯于穀。見晏桓子與之言魯樂。桓子告高宣子、桓子、晏嬰父。宣子、高固。○樂、音洛。
【読み】
冬、公孫歸父齊侯に穀に會す。晏桓子を見て之と魯の樂しきを言う。桓子高宣子に告げて、桓子は、晏嬰の父。宣子は、高固。○樂は、音洛。

曰、子家其亡乎。懷於魯矣。子家、歸父字。懷、思也。
【読み】
曰く、子家は其れ亡びんか。魯を懷[おも]えり。子家は、歸父の字。懷は、思うなり。

懷必貪。貪必謀人。謀人、人亦謀己。一國謀之、何以不亡。爲十八年、歸父奔齊傳。
【読み】
懷えば必ず貪る。貪れば必ず人を謀る。人を謀れば、人も亦己を謀る。一國之を謀らば、何を以て亡びざらん、と。十八年、歸父齊に奔る爲の傳なり。

孟獻子言於公曰、臣聞小國之免於大國也、聘而獻物、物、玉帛皮幣也。
【読み】
孟獻子公に言いて曰く、臣聞く、小國の大國に免るるや、聘して物を獻ずれば、物は、玉帛皮幣なり。

於是有庭實旅百。主人亦設籩豆百品、實於庭以答賓。
【読み】
是に於て庭實旅百有り。主人も亦籩豆百品を設け、庭に實てて以て賓に答う。

朝而獻功、獻其治國、若征伐之功於牧伯。
【読み】
朝して功を獻ずれば、其の治國、若しくは征伐の功を牧伯に獻ずるなり。

於是有容貌・采章・嘉淑、而有加貨。容貌、威儀容顏也。采章、車服文章也。嘉淑、令辭稱讚也。加貨、命宥幣帛也。言往共則來報亦備。
【読み】
是に於て容貌・采章・嘉淑有りて、加貨有り。容貌は、威儀容顏なり。采章は、車服文章なり。嘉淑は、令辭稱讚なり。加貨は、命宥の幣帛なり。往くに共なれば則ち來報も亦備わるを言う。

謀其不免也。誅而薦賄、則無及也。薦、進也。言責而往、則不足解罪。
【読み】
其の免れざらんことを謀りてなり。誅[せ]められて賄を薦むれば、則ち及ぶこと無けん。薦は、進むなり。責められて往けば、則ち罪を解くに足らざるを言う。

今楚在宋。君其圖之。公說。爲明年、歸父會楚子傳。
【読み】
今楚宋に在り。君其れ之を圖れ、と。公說ぶ。明年、歸父楚子に會する爲の傳なり。


〔經〕十有五年、春、公孫歸父會楚子于宋。夏、五月、宋人及楚人平。平者、總言二國和。故不書其人。
【読み】
〔經〕十有五年、春、公孫歸父楚子に宋に會す。夏、五月、宋人楚人と平らぐ。平らぐとは、二國の和するを總べて言う。故に其の人を書さず。

六月、癸卯、晉師滅赤狄潞氏。以潞子嬰兒歸。潞、赤狄之別種。潞氏國。故稱氏。子、爵也。林父稱師、從告。
【読み】
六月、癸卯[みずのと・う]、晉の師赤狄潞氏を滅ぼす。潞子嬰兒を以[い]て歸る。潞は、赤狄の別種。潞は國を氏とす。故に氏を稱す。子は、爵なり。林父師と稱するは、告ぐるに從うなり。

秦人伐晉。無傳。
【読み】
秦人晉を伐つ。傳無し。

王札子殺召伯・毛伯。稱殺者名、兩下相殺之辭。兩下相殺、則殺者有罪。王札子、王子札也。蓋經文倒札字。○札、側八反。召、上照反。
【読み】
王札子召伯・毛伯を殺す。殺す者の名を稱するは、兩下相殺すの辭なり。兩下相殺すは、則ち殺す者罪有り。王札子は、王子札なり。蓋し經文札の字を倒ずるならん。○札は、側八反。召は、上照反。

秋螽。無傳。
【読み】
秋螽[しゅう]あり。傳無し。

仲孫蔑會齊高固于無婁。無傳。無婁、杞邑。
【読み】
仲孫蔑齊の高固に無婁に會す。傳無し。無婁は、杞の邑。

初稅畝。公田之法、十取其一。今又履其餘畝、復十收其一。故哀公曰、二吾猶不足。遂以爲常。故曰初。
【読み】
初めて畝に稅す。公田の法、十に其の一を取る。今又其の餘畝を履みて、復十に其の一を收む。故に哀公曰く、二にして吾れ猶足らず、と。遂に以て常とす。故に初めてと曰う。

冬、蝝生。螽子以冬生、遇寒而死。故不成螽。○蝝、悅全反。字林、尹絹反。
【読み】
冬、蝝[えん]生ず。螽子冬を以て生まれ、寒に遇いて死す。故に螽と成らず。○蝝は、悅全反。字林に、尹絹反。

饑。風雨不和、五稼不豐。
【読み】
饑ゆ。風雨和せず、五稼豐かならず。

〔傳〕十五年、春、公孫歸父會楚子于宋。終前年傳。
【読み】
〔傳〕十五年、春、公孫歸父楚子に宋に會す。前年の傳を終える。

宋人使樂嬰齊告急于晉。晉侯欲救之。伯宗曰、不可。伯宗、晉大夫。
【読み】
宋人樂嬰齊をして急を晉に告げしむ。晉侯之を救わんと欲す。伯宗曰く、不可なり。伯宗は、晉の大夫。

古人有言曰、雖鞭之長、不及馬腹。言非所擊。
【読み】
古人言えること有り曰く、鞭の長きと雖も、馬腹に及ぼさず、と。言うこころは、擊つ所に非ず。

天方授楚。未可與爭。雖晉之彊、能違天乎。諺曰、高下在心。度時制宜。
【読み】
天方に楚に授く。未だ與に爭う可からず。晉の彊きと雖も、能く天に違わんや。諺に曰く、高下心に在り。時を度りて宜を制す。

川澤納汙、受汙濁。○汙、音烏。
【読み】
川澤汙を納れ、汙濁を受く。○汙は、音烏。

山藪藏疾、山之有林藪、毒害者居之。
【読み】
山藪疾を藏[かく]し、山の林藪有る、毒害の者之に居る。

瑾瑜匿瑕、匿、亦藏也。雖美玉之質、亦或居藏瑕穢。○瑾、其靳反。瑜、羊朱反。
【読み】
瑾瑜[きんゆ]瑕を匿[かく]し、匿も、亦藏すなり。美玉の質と雖も、亦或は瑕穢を居藏す。○瑾は、其靳反。瑜は、羊朱反。

國君含垢。忍垢恥。
【読み】
國君垢[はじ]を含む、と。垢恥を忍ぶ。

天之道也。晉侯恥不救宋。故伯宗爲說小惡不損大德之喩。
【読み】
天の道なり。晉侯宋を救わざるを恥ず。故に伯宗爲に小惡は大德を損せざるの喩えを說く。

君其待之。待楚衰。
【読み】
君其れ之を待て、と。楚の衰うるを待つなり。

乃止。
【読み】
乃ち止む。

使解揚如宋、使無降楚。曰、晉師悉起。將至矣。鄭人囚而獻諸楚。楚子厚賂之、使反其言。反言晉不救。
【読み】
解揚をして宋に如かしめ、楚に降ること無からしむ。曰く、晉の師悉く起これり。將に至らんとす、と。鄭人囚えて諸を楚に獻ず。楚子厚く之に賂いて、其の言を反せしむ。晉救わずと反言せしむ。

不許。三而許之。登諸樓車、使呼宋人而告之。樓車、車上望櫓。
【読み】
許さず。三たびにして之を許す。諸を樓車に登せ、宋人を呼びて之を告げしむ。樓車は、車上の望櫓。

遂致其君命。楚子將殺之。使與之言曰、爾旣許不穀、而反之。何故。非我無信。女則棄之。速卽爾刑。對曰、臣聞之、君能制命爲義、臣能承命爲信、信載義而行之爲利。謀不失利、以衛社稷、民之主也。義無二信、欲爲義者、不行兩信。
【読み】
遂に其の君命を致す。楚子將に之を殺さんとす。之と言わしめて曰く、爾旣に不穀に許して、之を反す。何の故ぞ。我が信無きに非ず。女則ち之を棄てたり。速やかに爾の刑に卽け、と。對えて曰く、臣之を聞く、君能く命を制するを義と爲し、臣能く命を承くるを信と爲し、信義を載せて之を行うを利と爲す。謀利を失わずして、以て社稷を衛るは、民の主なり、と。義には二信無く、義を爲さんと欲する者は、兩信を行わず。

信無二命。欲行信者、不受二命。
【読み】
信には二命無し。信を行わんと欲する者は、二命を受けず。

君之賂臣、不知命也。受命以出、有死無霣。霣、廢隊也。○霣、于敏反。
【読み】
君の臣に賂うは、命を知らざるなり。命を受けて以て出づれば、死すること有るも霣[おと]すこと無し。霣[いん]は、廢隊なり。○霣は、于敏反。

又可賂乎。臣之許君、以成命也。成其君命。
【読み】
又賂う可けんや。臣の君に許せしは、以て命を成さんとなり。其の君命を成す。

死而成命、臣之祿也。寡君有信臣、己不廢命。
【読み】
死して命を成すは、臣の祿なり。寡君信臣有り、己命を廢てず。

下臣獲考、考、成也。
【読み】
下臣考[な]すことを獲ば、考は、成すなり。

死又何求。楚子舍之以歸。
【読み】
死して又何をか求めん。楚子之を舍[ゆる]して以て歸る。

夏、五月、楚師將去宋。在宋積九月、不能服宋故。
【読み】
夏、五月、楚の師將に宋を去らんとす。宋に在りて九月を積めども、宋を服すること能わざる故なり。

申犀稽首於王之馬前曰、無畏知死、而不敢廢王命。王棄言焉。王不能答。未服宋而去。故曰棄言。
【読み】
申犀王の馬前に稽首して曰く、無畏は死を知りて、而れども敢えて王命を廢せず。王は言を棄つ、と。王答うること能わず。未だ宋を服せずして去る。故に言を棄つと曰う。

申叔時僕。僕、御也。
【読み】
申叔時僕たり。僕は、御なり。

曰、築室反耕者、宋必聽命。從之。築室於宋、分兵歸田、示無去志。王從其言。
【読み】
曰く、室を築き耕者を反さば、宋必ず命を聽かん、と。之に從う。室を宋に築き、兵を分かちて田に歸すは、去志無きを示すなり。王其の言に從う。

宋人懼、使華元夜入楚師。登子反之牀、起之曰、寡君使元以病告。兵法、因其郷人而用之、必先知其守將・左右・謁者・門者・舍人之姓名、因而利道之。華元蓋用此術、得以自通。
【読み】
宋人懼れ、華元をして夜楚の師に入らしむ。子反の牀に登り、之を起こして曰く、寡君元をして病めるを以て告げしむ。兵法に、其の郷人に因りて之を用ゆれば、必ず先ず其の守將・左右・謁者・門者・舍人の姓名を知り、因りて之を利道す、と。華元蓋し此の術を用いて、以て自ら通ずることを得るならん。

曰、敝邑易子而食、析骸以爨。爨、炊也。○析、思歷反。骸、戶皆反。
【読み】
曰く、敝邑子を易えて食い、骸を析きて以て爨[かし]ぐ。爨[さん]は、炊ぐなり。○析は、思歷反。骸は、戶皆反。

雖然、城下之盟、有以國斃、不能從也。寧以國斃、不從城下盟。
【読み】
然りと雖も、城下の盟は、國を以て斃るること有りとも、從うこと能わざるなり。寧ろ國を以て斃るとも、城下の盟に從うことあらず。

去我三十里、唯命是聽。子反懼、與之盟而告王、退三十里。宋及楚平。華元爲質、盟曰、我無爾詐。爾無我虞。楚不詐宋。宋不備楚。盟不書、不告。○質、音致。
【読み】
我を去ること三十里ならば、唯命是を聽かん、と。子反懼れ、之と盟いて王に告げ、三十里を退く。宋楚と平らぐ。華元質と爲り、盟いて曰く、我れ爾を詐ること無けん。爾我を虞ること無かれ、と。楚宋を詐らず。宋楚に備えず。盟書さざるは、告げざればなり。○質は、音致。

潞子嬰兒之夫人、晉景公之姊也。酆舒爲政而殺之、又傷潞子之目。酆舒、潞相。
【読み】
潞子嬰兒の夫人は、晉の景公の姊なり。酆舒[ほうじょ]政を爲して之を殺し、又潞子の目を傷れり。酆舒は、潞の相。

晉侯將伐之。諸大夫皆曰、不可。酆舒有三雋才。雋、絕異也。言有才藝勝人者三。○雋、音俊。
【読み】
晉侯將に之を伐たんとす。諸大夫皆曰く、不可なり。酆舒に三雋才[しゅんさい]有り。雋は、絕異なり。才藝人に勝る者三つ有るを言う。○雋は、音俊。

不如待後之人。伯宗曰、必伐之。狄有五罪。雋才雖多、何補焉。不祀。一也。耆酒。二也。棄仲章而奪黎氏地。三也。仲章、潞賢人也。黎氏、黎侯國。上黨壺關縣有黎亭。○耆、市志反。
【読み】
後の人を待たんに如かず、と。伯宗曰く、必ず之を伐て。狄に五罪有り。雋才多しと雖も、何の補いあらん。祀らざる。一なり。酒を耆[この]む。二なり。仲章を棄てて黎氏の地を奪う。三なり。仲章は、潞の賢人なり。黎氏は、黎侯の國。上黨壺關縣に黎亭有り。○耆は、市志反。

虐我伯姬。四也。傷其君目。五也。怙其雋才、而不以茂德。茲益罪也。後之人、或者將敬奉德義以事神人、而申固其命。審其政令。
【読み】
我が伯姬を虐ぐ。四なり。其の君の目を傷る。五なり。其の雋才を怙みて、以て德を茂[つと]めず。茲れ罪を益すなり。後の人、或は將に德義を敬奉して以て神人に事えて、其の命を申固にせんとす。其の政令を審らかにす。

若之何待之。不討有罪、曰將待後。後有辭而討焉、毋乃不可乎。夫恃才與衆、亡之道也。商紂由之。故滅。由、用也。
【読み】
之を若何ぞ之を待たん。有罪を討ぜずして、將に後を待たんとすと曰う。後辭有りて討ぜば、乃ち不可なること毋からんや。夫れ才と衆とを恃むは、亡ぶるの道なり。商紂之を由[もち]いぬ。故に滅びたり。由は、用ゆるなり。

天反時爲災、寒暑易節。
【読み】
天時に反するを災と爲し、寒暑節を易う。

地反物爲妖、羣物失性。
【読み】
地物に反するを妖と爲し、羣物性を失う。

民反德爲亂。亂則妖災生。故文、反正爲乏。文、字。
【読み】
民德に反するを亂と爲す。亂るときは則ち妖災生ず。故に文に、正に反するを乏と爲す。文は、字なり。

盡在狄矣。
【読み】
盡く狄に在り、と。

晉侯從之。六月、癸卯、晉荀林父敗赤狄于曲梁。辛亥、滅潞。曲梁、今廣平曲梁縣也。書癸卯、從赴。
【読み】
晉侯之に從う。六月、癸卯、晉の荀林父赤狄を曲梁に敗る。辛亥[かのと・い]、潞を滅ぼす。曲梁は、今の廣平曲梁縣なり。癸卯と書すは、赴[つ]ぐるに從うなり。

酆舒奔衛。衛人歸諸晉。晉人殺之。
【読み】
酆舒衛に奔る。衛人諸を晉に歸[おく]る。晉人之を殺す。

王孫蘇與召氏・毛氏爭政、三人、皆王卿士。
【読み】
王孫蘇召氏・毛氏と政を爭い、三人は、皆王の卿士。

使王子捷殺召戴公及毛伯衛。王子捷、卽王札子。
【読み】
王子捷をして召戴公と毛伯衛とを殺さしむ。王子捷は、卽ち王札子。

卒立召襄。襄、召戴公之子。
【読み】
卒に召襄を立つ。襄は、召戴公の子。

秋、七月、秦桓公伐晉、次于輔氏。晉地。
【読み】
秋、七月、秦の桓公晉を伐ち、輔氏に次[やど]る。晉の地。

壬午、晉侯治兵于稷、以略狄土。略、取也。稷、晉地。河東聞喜縣西有稷山。壬午、七月二十九日。晉時新破狄、土地未安。權秦師之弱、故別遣魏顆距秦、而東行定狄地。
【読み】
壬午[みずのえ・うま]、晉侯稷に治兵して、以て狄の土を略[と]る。略は、取るなり。稷は、晉の地。河東聞喜縣の西に稷山有り。壬午は、七月二十九日。晉時に新たに狄を破り、土地未だ安んぜず。秦の師の弱きを權り、故に別に魏顆をして秦を距[ふせ]がしめて、東行して狄の地を定むるなり。

立黎侯而還。狄奪其地。故晉復立之。
【読み】
黎侯を立てて還る。狄其の地を奪う。故に晉復之を立つ。

及雒、魏顆敗秦師于輔氏、晉侯還、及雒也。雒、晉地。
【読み】
雒に及ぶとき、魏顆秦の師を輔氏に敗り、晉侯還りて、雒に及ぶなり。雒は、晉の地。

獲杜回。秦之力人也。
【読み】
杜回を獲たり。秦の力人なり。

初、魏武子有嬖妾、無子。武子疾。命顆曰、必嫁是。武子、魏犫。顆之父。
【読み】
初め、魏武子嬖妾有りて、子無し。武子疾む。顆に命じて曰く、必ず是を嫁せよ、と。武子は、魏犫[ぎしゅう]。顆の父。

疾病則曰、必以爲殉。及卒、顆嫁之曰、疾病則亂。吾從其治也。
【読み】
疾病なるときは則ち曰く、必ず以て殉とせよ、と。卒するに及びて、顆之を嫁がしめて曰く、疾病なれば則ち亂る。吾は其の治に從わん、と。

及輔氏之役、顆見老人結草以亢杜回。亢、禦也。
【読み】
輔氏の役に及びて、顆老人の草を結びて以て杜回を亢[ふせ]ぐを見る。亢は、禦ぐなり。

杜回躓而顚。故獲之。夜夢之、曰、余、而所嫁婦人之父也。而、女也。○躓、陟吏反。又丁四反。
【読み】
杜回躓きて顚る。故に之を獲たり。夜之を夢みらく、曰く、余は、而[なんじ]の嫁せし所の婦人の父なり。而は、女なり。○躓は、陟吏反。又丁四反。

爾用先人之治命。余是以報。傳舉此以示敎。
【読み】
爾先人の治命を用ゆ。余是を以て報ゆ、と。傳此を舉げて以て敎えを示す。

晉侯賞桓子狄臣千室。千家。
【読み】
晉侯桓子に狄の臣の千室を賞す。千家。

亦賞士伯以瓜衍之縣。士伯、士貞子。
【読み】
亦士伯を賞するに瓜衍[かえん]の縣を以てす。士伯は、士貞子。

曰、吾獲狄土、子之功也。微子、吾喪伯氏矣。伯、桓子字。邲之敗、晉侯將殺林父、士伯諫而止。
【読み】
曰く、吾れ狄の土を獲たるは、子の功なり。子微かりせば、吾れ伯氏を喪わん、と。伯は、桓子の字。邲の敗に、晉侯將に林父を殺さんとし、士伯諫めて止む。

羊舌職說是賞也、職、叔向父。○說、音悅。
【読み】
羊舌職是の賞を說びて、職は、叔向の父。○說は、音悅。

曰、周書所謂庸庸祗祗者、謂此物也夫。周書、康誥。庸、用也。祗、敬也。物、事也。言文王能用可用、敬可敬。
【読み】
曰く、周書に所謂庸[もち]うべきを庸い祗[つつし]むべきを祗むとは、此の物を謂うか。周書は、康誥。庸は、用ゆるなり。祗は、敬むなり。物は、事なり。文王能く用う可きを用い、敬む可きを敬むを言う。

士伯庸中行伯、言中行伯可用。
【読み】
士伯中行伯を庸いしめ、中行伯が用ゆ可きを言う。

君信之、亦庸士伯。此之謂明德矣。文王所以造周、不是過也。故詩曰、陳錫周、能施也。錫、賜也。詩、大雅。言文王布陳大利、以賜天下。故能載行周道、福流子孫。○施、式豉反。
【読み】
君之を信じて、亦士伯を庸ゆ。此を之れ明德と謂う。文王の周を造りし所以も、是に過ぎざるなり。故に詩に曰く、陳錫して周を載すとは、能く施せるなり。錫は、賜うなり。詩は、大雅。文王大利を布陳して、以て天下に賜う。故に能く周道を載行して、福子孫に流るるを言う。○施は、式豉反。
*「載」について、頭注に「宋本、載作哉。」とある。「陳錫哉周」は「周に陳錫す」と読む。

率是道也、其何不濟。
【読み】
是の道に率わば、其れ何か濟[な]らざらん、と。

晉侯使趙同獻狄俘于周。不敬。劉康公曰、不及十年。原叔必有大咎。劉康公、王季子也。原叔、趙同也。
【読み】
晉侯趙同をして狄の俘を周に獻ぜしむ。不敬なり。劉康公曰く、十年に及ばずして。原叔必ず大咎有らん。劉康公は、王季子なり。原叔は、趙同なり。

天奪之魄矣。心之精爽、是謂魂魄。爲成八年、晉殺趙同傳。
【読み】
天之が魄を奪えり、と。心の精爽、是を魂魄と謂う。成八年、晉趙同を殺す爲の傳なり。

初稅畝。非禮也。穀出不過藉、周法、民耕百畝、公田十畝、借民力而治之、稅不過此。
【読み】
初めて畝に稅す。禮に非ざるなり。穀の出だすは藉に過ぎず、周法に、民百畝を耕して、公田十畝、民力を借りて之を治めば、稅此に過ぎず。

以豐財也。
【読み】
以て財を豐かにするなり。

冬、蝝生。饑、幸之也。蝝未爲災。而書之者、幸其冬生不爲物害。時歲雖饑、猶喜而書之。
【読み】
冬、蝝生ず。饑ゆるも、之を幸いとするなり。蝝未だ災を爲さず。而るを之を書すは、其の冬生じて物の害を爲さざるを幸いとす。時に歲饑ゆと雖も、猶喜びて之を書す。


〔經〕十有六年、春、王正月、晉人滅赤狄甲氏及留吁。甲氏・留吁、赤狄別種。晉旣滅潞氏、今又幷盡其餘黨。士會稱人、從告。
【読み】
〔經〕十有六年、春、王の正月、晉人赤狄の甲氏と留吁[りゅうく]とを滅ぼす。甲氏・留吁は、赤狄の別種。晉旣に潞氏を滅ぼし、今又其の餘黨を幷せ盡くす。士會人と稱するは、告ぐるに從うなり。

夏、成周宣榭火。傳例曰、人火之也。成周、洛陽。宣榭、講武屋。別在洛陽者。爾雅曰、無室曰榭。謂屋歇前。
【読み】
夏、成周の宣榭[せんしゃ]に火あり。傳例に曰く、人之を火[や]くなり、と。成周は、洛陽。宣榭は、武を講ずる屋。別に洛陽に在る者。爾雅に曰く、室無きを榭と曰う。屋前を歇[も]らすを謂う。

秋、郯伯姬來歸。冬、大有年。無傳。○郯、音談。
【読み】
秋、郯[たん]の伯姬來歸す。冬、大いに年有り。傳無し。○郯は、音談。

〔傳〕十六年、春、晉士會帥師滅赤狄甲氏及留吁・鐸辰。鐸辰不書、留吁之屬。
【読み】
〔傳〕十六年、春、晉の士會師を帥いて赤狄の甲氏と留吁・鐸辰とを滅ぼす。鐸辰書さざるは、留吁の屬なればなり。

三月、獻狄俘。獻于王也。
【読み】
三月、狄の俘を獻ず。王に獻ずるなり。

晉侯請于王、戊申、以黻冕命士會將中軍、且爲大傅。代林父將中軍、且加以大傅之官。黻冕、命卿之服。大傅、孤卿。
【読み】
晉侯王に請いて、戊申[つちのえ・さる]、黻冕[ふつべん]を以て士會に命じて中軍に將とし、且大傅と爲す。林父に代えて中軍に將とし、且加うるに大傅の官を以てす。黻冕は、命卿の服なり。大傅は、孤卿なり。

於是晉國之盜、逃奔于秦。羊舌職曰、吾聞之、禹稱善人、稱、舉也。
【読み】
是に於て晉國の盜、秦に逃奔す。羊舌職曰く、吾れ之を聞く、禹善人を稱[あ]げて、稱は、舉ぐるなり。

不善人遠。此之謂也夫。詩曰、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄冰、善人在上也。言善人居位、則無不戒懼。○遠、于萬反。
【読み】
不善人遠ざかる、と。此を謂うか。詩に曰く、戰戰兢兢として、深淵に臨むが如く、薄冰を履むが如しとは、善人上に在ればなり。善人位に居れば、則ち戒懼せざること無きを言う。○遠は、于萬反。

善人在上、則國無幸民。諺曰、民之多幸、國之不幸也。是無善人之謂也。
【読み】
善人上に在れば、則ち國に幸民無し。諺に曰く、民の多幸は、國の不幸なり、と。是れ善人無きを謂うなり、と。

夏、成周宣榭火、人火之也。凡火、人火曰火、天火曰災。
【読み】
夏、成周の宣榭に火あるは、人之を火[や]くなり。凡そ火、人火を火と曰い、天火を災と曰う。

秋、郯伯姬來歸、出也。
【読み】
秋、郯の伯姬來歸するは、出だされたるなり。

爲毛・召之難故、王室復亂。毛・召難、在前年。○爲、于僞反。
【読み】
毛・召の難の爲の故に、王室復亂る。毛・召の難は、前年に在り。○爲は、于僞反。

王孫蘇奔晉。晉人復之。毛・召之黨欲討蘇氏。故出奔。
【読み】
王孫蘇晉に奔る。晉人之を復す。毛・召の黨蘇氏を討ぜんと欲す。故に出奔す。

冬、晉侯使士會平王室。定王享之。原襄公相禮。原襄公、周大夫。相、佐也。○相、息亮反。
【読み】
冬、晉侯士會をして王室を平らげしむ。定王之を享す。原襄公禮を相[たす]く。原襄公は、周の大夫。相は、佐くなり。○相は、息亮反。

殽烝。烝、升也。升殽於俎。
【読み】
殽烝[こうじょう]あり。烝は、升すなり。殽を俎に升すなり。

武子私問其故。享當體薦。而殽烝。故怪問之。武、士會謚。季、其字。
【読み】
武子私かに其の故を問う。享は當に體薦なるべし。而して殽烝す。故に怪しみて之を問う。武は、士會の謚。季は、其の字。

王聞之、召武子曰、季氏而弗聞乎。王享有體薦。享則半解其體而薦之。所以示共儉。
【読み】
王之を聞きて、武子を召して曰く、季氏にして聞かざるか。王は享に體薦有り。享は則ち其の體を半解して之を薦む。共儉を示す所以なり。

宴有折俎。體解節折、升之於俎。物皆可食。所以示慈惠也。○折、之設反。
【読み】
宴に折俎有り。體解節折して、之を俎に升す。物皆食う可し。慈惠を示す所以なり。○折は、之設反。

公當享、卿當宴。王室之禮也。公謂諸侯。
【読み】
公は享に當たり、卿は宴に當たる。王室の禮なり、と。公は諸侯を謂う。

武子歸而講求典禮、以脩晉國之法。傳言典禮之廢久。
【読み】
武子歸りて典禮を講求して、以て晉國の法を脩めり。傳典禮の廢すること久しきを言う。


〔經〕十有七年、春、王正月、庚子、許男錫我卒。無傳。再與文同盟。○錫、星歷反。
【読み】
〔經〕十有七年、春、王の正月、庚子[かのえ・ね]、許男錫我[せきが]卒す。傳無し。再び文と同盟す。○錫は、星歷反。

丁未、蔡侯申卒。無傳。未同盟、而赴以名。丁未、二月四日。
【読み】
丁未[ひのと・ひつじ]、蔡侯申卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。丁未は、二月四日。

夏、葬許昭公。無傳。
【読み】
夏、許の昭公を葬る。傳無し。

葬蔡文公。無傳。
【読み】
蔡の文公を葬る。傳無し。

六月、癸卯、日有食之。無傳。不書朔、官失之。
【読み】
六月、癸卯[みずのと・う]、日之を食する有り。傳無し。朔を書さざるは、官之を失うなり。

己未、公會晉侯・衛侯・曹伯・邾子同盟于斷道。斷道、晉地。○斷、直管反。又音短。
【読み】
己未[つちのと・ひつじ]、公晉侯・衛侯・曹伯・邾子[ちゅし]に會して斷道に同盟す。斷道は、晉の地。○斷は、直管反。又音短。

秋、公至自會。無傳。
【読み】
秋、公會より至る。傳無し。

冬、十有一月、壬午、公弟叔肸卒。傳例曰、公母弟。○肸、許乙反。
【読み】
冬、十有一月、壬午[みずのえ・うま]、公の弟叔肸[しゅくきつ]卒す。傳例に曰く、公の母弟なり、と。○肸は、許乙反。

〔傳〕十七年、春、晉侯使郤克徵會于齊。徵、召也。欲爲斷道會。
【読み】
〔傳〕十七年、春、晉侯郤克をして會を齊に徵[め]さしむ。徵は、召すなり。斷道の會を爲さんと欲す。

齊頃公帷婦人使觀之。郤子登。婦人笑於房。跛而登階。故笑之。○頃、音傾。
【読み】
齊の頃公[けいこう]婦人に帷して之を觀せしむ。郤子登る。婦人房に笑う。跛して階を登る。故に之を笑う。○頃は、音傾。

獻子怒。出而誓曰、所不此報、無能涉河。不復渡河而東。
【読み】
獻子怒る。出でて誓いて曰く、此を報いざる所あらば、能く河を涉ること無からん、と。復河を渡りて東せじ。

獻子先歸、使欒京廬待命于齊、曰、不得齊事、無復命矣。欒京廬、郤克之介。使得齊之罪、乃復命。○廬、音盧。又音閭。
【読み】
獻子先ず歸り、欒京廬をして命を齊に待たしめて、曰く、齊の事を得ずんば、復命すること無かれ、と。欒京廬は、郤克の介。齊の罪を得て、乃ち復命せしむ。○廬は、音盧。又音閭。

郤子至、請伐齊。晉侯弗許。請以其私屬。又弗許。私屬、家衆也。爲成二年、戰于鞌傳。○鞌、音安。
【読み】
郤子至り、齊を伐たんと請う。晉侯許さず。其の私屬を以てせんと請う。又許さず。私屬は、家衆なり。成二年、鞌[あん]に戰う爲の傳なり。○鞌は、音安。

齊侯使高固・晏弱・蔡朝・南郭偃會。晏弱、桓子。○朝、如字。
【読み】
齊侯高固・晏弱・蔡朝・南郭偃をして會せしむ。晏弱は、桓子。○朝は、字の如し。

及斂盂、高固逃歸。聞郤克怒故。○斂、音廉。又力漸反。
【読み】
斂盂に及び、高固逃げ歸る。郤克が怒りを聞く故なり。○斂は、音廉。又力漸反。

夏、會于斷道、討貳也。盟于卷楚、卷楚、卽斷道。○卷、音權。又音捲。
【読み】
夏、斷道に會するは、貳あるを討ずるなり。卷楚に盟い、卷楚は、卽ち斷道なり。○卷は、音權。又音捲。

辭齊人。
【読み】
齊人を辭す。

晉人執晏弱于野王、執蔡朝于原、執南郭偃于溫。執三子、不書、非卿。野王縣、今屬河内。
【読み】
晉人晏弱を野王に執え、蔡朝を原に執え、南郭偃を溫に執う。三子を執ること、書さざるは、卿に非ざればなり。野王縣は、今河内に屬す。

苗賁皇使、見晏桓子。賁皇、楚鬭椒之子。楚滅鬭氏、而奔晉、食邑于苗地。晏弱時在野王。故因使而見之。○賁、扶云反。使、所吏反。
【読み】
苗賁皇[びょうふんこう]使いして、晏桓子を見る。賁皇は、楚の鬭椒の子。楚鬭氏を滅ぼして、晉に奔り、苗の地に食邑す。晏弱時に野王に在り。故に使いするに因りて之を見る。○賁は、扶云反。使は、所吏反。

歸。言於晉侯曰、夫晏子何罪。昔者諸侯事吾先君、皆如不逮。言汲汲也。○逮、音代。或大計反。
【読み】
歸る。晉侯に言いて曰く、夫の晏子何の罪ある。昔者[むかし]諸侯吾が先君に事えしは、皆逮ばざるが如くなりき。汲汲たるを言うなり。○逮は、音代。或は大計反。

舉言羣臣不信。諸侯皆有貳志。舉、亦皆也。
【読み】
舉[みな]言う、羣臣信あらず、と。諸侯皆貳志有り。舉も、亦皆なり。

齊君恐不得禮。不見禮待。
【読み】
齊君禮を得ざらんことを恐る。禮待せられず。

故不出、而使四子來。左右或沮之、沮、止也。○沮、在呂反。
【読み】
故に出でずして、四子をして來らしむ。左右或は之を沮[とど]めて、沮は、止むるなり。○沮は、在呂反。

曰、君不出、必執吾使。故高子及斂盂而逃。夫三子者曰、若絕君好、寧歸死焉。爲是犯難而來。吾若善逆彼、彼、齊三人。
【読み】
曰わん、君出でざれば、必ず吾が使を執えん、と。故に高子斂盂に及びて逃げぬ。夫の三子の者は曰く、若し君の好を絕たんより、寧ろ死に歸せん、と。是が爲に難を犯して來れり。吾れ若し善く彼を逆[むか]えば、彼は、齊の三人。

以懷來者。吾又執之、以信齊沮、吾不旣過矣乎。過而不改、而又久之、以成其悔、何利之有焉。使反者得辭、反者、高固。謂得不當來之辭。
【読み】
以て來る者を懷けん。吾れ又之を執えて、以て齊の沮むるを信にするは、吾れ旣に過たずや。過ちて改めずして、又之を久しくして、以て其の悔いを成さしめば、何の利か之れ有らん。反る者をして辭を得せしめて、反る者は、高固なり。當に來るべからざるの辭を得るを謂う。

而害來者、以懼諸侯。將焉用之。
【読み】
來る者を害して、以て諸侯を懼れしむ。將[はた]焉ぞ之を用いん、と。

晉人緩之。逸。緩、不拘執、使得逃去也。傳言晉不能脩禮、諸侯所以貳。
【読み】
晉人之を緩くす。逸る。緩は、拘執せずして、逃げ去ることを得せしむるなり。傳晉禮を脩むること能わず、諸侯貳ある所以を言う。

秋、八月、晉師還。
【読み】
秋、八月、晉の師還る。

范武子將老。老、致仕。初受隨。故曰隨武子。後更受范、復爲范武子。
【読み】
范武子將に老せんとす。老は、仕を致すなり。初め隨を受く。故に隨武子と曰う。後更めて范を受け、復范武子と爲る。

召文子曰、燮乎、吾聞之、喜怒以類者鮮、文子、士會之子。燮、其名。○燮、素協反。
【読み】
文子を召して曰く、燮[しょう]や、吾れ之を聞く、喜怒類を以てする者は鮮く、文子は、士會の子。燮は、其の名。○燮は、素協反。

易者實多。易、遷怒也。
【読み】
易うる者は實に多し、と。易は、怒りを遷すなり。

詩曰、君子如怒、亂庶遄沮。君子如祉、亂庶遄已。詩、小雅也。遄、速也。沮、止也。祉、福也。○遄、市專反。
【読み】
詩に曰く、君子如し怒らば、亂庶わくは遄[すみ]やかに沮[や]まん。君子如し祉[さいわい]せば、亂庶わくは遄やかに已まん、と。詩は、小雅なり。遄[せん]は、速やかなり。沮は、止むなり。祉は、福なり。○遄は、市專反。

君子之喜怒、以已亂也。弗已者、必益之。郤子其或者欲已亂於齊乎。不然、余懼其益之也。余將老。使郤子逞其志、庶有豸乎。豸、解也。欲使郤子從政、快志以止亂。○豸、直是反。或居牛反、非。
【読み】
君子の喜怒は、以て亂を已むるなり。已めざる者は、必ず之を益す。郤子其れ或は亂を齊に已めんと欲するか。然らずんば、余懼れらくは其れ之を益さんことを。余將に老せんとす。郤子をして其の志を逞しくせしめば、庶わくは豸[と]くること有らんか。豸[ち]は、解くなり。郤子をして政に從い、志を快くして以て亂を止めしめんと欲す。○豸は、直是反。或は居牛反とは、非なり。

爾從二三子、唯敬。二三子、晉諸大夫。
【読み】
爾二三子に從いて、唯敬せよ、と。二三子は、晉の諸大夫。

乃請老。郤獻子爲政。
【読み】
乃ち老を請う。郤獻子政を爲す。

冬、公弟叔肸卒。公母弟也。
【読み】
冬、公の弟叔肸卒す。公の母弟なり。

凡大子之母弟、公在曰公子、不在曰弟。以兄爲尊。
【読み】
凡そ大子の母弟、公在せば公子と曰い、在さざれば弟と曰う。兄を以て尊しと爲す。

凡稱弟、皆母弟也。此策書之通例也。庶弟不得稱公弟、而母弟或稱公子。若嘉好之事、則仍舊史之文。惟相殺害、然後據例以示義。所以篤親親之恩、崇友于之好。釋例論之備矣。
【読み】
凡そ弟と稱するは、皆母弟なり。此れ策書の通例なり。庶弟は公の弟と稱することを得ずして、母弟或は公子と稱す。嘉好の事の若きは、則ち舊史の文に仍る。惟相殺害すれば、然して後に例に據りて以て義を示す。親親の恩を篤くして、友于の好を崇ぶ所以なり。釋例之を論ずること備われり。


〔經〕十有八年、春、晉侯・衛世子臧伐齊。公伐杞。無傳。
【読み】
〔經〕十有八年、春、晉侯・衛の世子臧齊を伐つ。公杞を伐つ。傳無し。

夏、四月。秋、七月、邾人戕鄫子于鄫。傳例曰、自外曰戕。邾大夫就鄫殺鄫子。○戕、在良反。又在精反。鄫、才陵反。
【読み】
夏、四月。秋、七月、邾人[ちゅひと]鄫子[しょうし]を鄫に戕[そこな]う。傳例に曰く、外よりするを戕[しょう]と曰う。邾の大夫鄫に就きて鄫子を殺す。○戕は、在良反。又在精反。鄫は、才陵反。

甲戌、楚子旅卒。未同盟、而赴以名。吳・楚之葬、僭而不典。故絕而不書。同之夷蠻、以懲求名之僞。
【読み】
甲戌[きのえ・いぬ]、楚子旅卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。吳・楚の葬、僭にして典あらず。故に絕ちて書さず。之を夷蠻に同じくして、以て名を求むるの僞を懲らす。

公孫歸父如晉。冬、十月、壬戌、公薨于路寢。歸父還自晉、至笙。遂奔齊。大夫還、不書、春秋之常也。今書歸父還奔、善其能以禮退。不書族者、非常所及、今特書略之。笙、魯竟外。故不言出。○笙、音生。又勑貞反。案後音是依二傳文。
【読み】
公孫歸父晉に如く。冬、十月、壬戌[みずのえ・いぬ]、公路寢に薨ず。歸父晉より還り、笙[しょう]に至る。遂に齊に奔る。大夫の還るは、書さざるは、春秋の常なり。今歸父が還奔を書すは、其の能く禮を以て退くを善するなり。族を書さざるは、常の及ぶ所に非ざれば、今特に書すも之を略するなり。笙は、魯の竟外。故に出づると言わず。○笙は、音生。又勑貞反。案ずるに後の音は是れ二傳の文に依れり。

〔傳〕十八年、春、晉侯・衛大子臧伐齊、至于陽穀。齊侯會晉侯盟于繒。以公子彊爲質于晉。晉師還。蔡朝・南郭偃逃歸。晉旣與齊盟、守者解緩。故得逃。○繒、才陵反。
【読み】
〔傳〕十八年、春、晉侯・衛の大子臧齊を伐ち、陽穀に至る。齊侯晉侯に會して繒[しょう]に盟う。公子彊を以て晉に質と爲す。晉の師還る。蔡朝・南郭偃逃げ歸る。晉旣に齊と盟い、守者解緩す。故に逃ぐることを得たり。○繒は、才陵反。

夏、公使如楚乞師、欲以伐齊。公不事齊、齊與晉盟。故懼而乞師于楚。不書、微者行。
【読み】
夏、公楚に如きて師を乞わしめ、以て齊を伐たんと欲す。公齊に事えずして、齊晉と盟う。故に懼れて師を楚に乞う。書さざるは、微者行けばなり。

秋、邾人戕鄫子于鄫。
【読み】
秋、邾人鄫子を鄫に戕う。

凡自虐其君曰弑、自外曰戕。弑・戕、皆殺也。所以別内外之名。弑者、積微而起。所以相測量、非一朝一夕之漸。戕者、卒暴之名。
【読み】
凡そ自ら其の君を虐するを弑すと曰い、外よりするを戕うと曰う。弑・戕は、皆殺すなり。内外の名を別つ所以なり。弑は、微を積みて起こる。相測量する所以、一朝一夕の漸に非ず。戕は、卒暴の名。

楚莊王卒。
【読み】
楚の莊王卒す。

楚師不出。旣而用晉師、成二年、戰于鞌。是。
【読み】
楚の師出でず。旣にして晉の師を用いしかば、成二年、鞌[あん]に戰う。是れなり。

楚於是乎有蜀之役。在成二年冬。蜀、魯地。泰山博縣西北有蜀亭。
【読み】
楚是に於て蜀の役有りき。成二年冬に在り。蜀は、魯の地。泰山博縣の西北に蜀亭有り。

公孫歸父以襄仲之立公也、有寵。歸父、襄仲子。
【読み】
公孫歸父襄仲の公を立てんを以て、寵有り。歸父は、襄仲の子。

欲去三桓、以張公室。時三桓强、公室弱。故欲去之以張大公室。○去、起呂反。張、如字。一陟亮反。
【読み】
三桓を去てて、以て公室を張らんと欲す。時に三桓强く、公室弱し。故に之を去てて以て公室を張大にせんと欲す。○去は、起呂反。張は、字の如し。一に陟亮反。

與公謀而聘晉、欲以晉人去之。
【読み】
公と謀りて晉に聘し、晉人を以て之を去らんと欲す。
*「聘晉」は、漢籍國字解全書には「聘于晉」とある。

冬、公薨。季文子言於朝曰、使我殺適立庶、以失大援者、仲也夫。適、謂子惡。齊外甥。襄仲殺之而立宣公、南通於楚。旣不能固、又不能堅事齊・晉。故云失大援也。○適、丁歷反。
【読み】
冬、公薨ず。季文子朝に言いて曰く、我をして適を殺して庶を立て、以て大援を失わしむる者は、仲なるかな、と。適は、子惡を謂う。齊の外甥なり。襄仲之を殺して宣公を立て、南楚に通ず。旣に固きこと能わず、又齊・晉に堅事すること能わず。故に大援を失うと云うなり。○適は、丁歷反。

臧宣叔怒曰、當其時不能治也、後之人何罪。子欲去之、許請去之。宣叔、文仲子。武仲父。許、其名也。時爲司寇。主行刑。言子自以歸父害己、欲去者、許請爲子去之。
【読み】
臧宣叔怒りて曰く、其の時に當たりて治むること能わずして、後の人何の罪ある。子之を去らんと欲せば、許請う、之を去らん、と。宣叔は、文仲の子。武仲の父。許は、其の名なり。時に司寇爲り。刑を行うことを主る。子自ら歸父が己を害するを以て、去らんと欲する者ならば、許請う、子の爲に之を去らんとするを言う。

遂逐東門氏。襄仲居東門。故曰東門氏。
【読み】
遂に東門氏を逐う。襄仲東門に居る。故に東門氏と曰う。

子家還、及笙、子家、歸父字。
【読み】
子家還り、笙に及び、子家は、歸父の字。

壇帷、復命於介。除地爲壇、而張帷。介、副也。將去、使介反命於君。○壇、音善。
【読み】
壇帷し、介に復命す。地を除[はら]いて壇を爲りて、帷を張る。介は、副なり。將に去らんとして、介をして君に反命せしむ。○壇は、音善。

旣復命、袒括髮、以麻約髮。
【読み】
旣に復命して、袒括髮し、麻を以て髮を約す。

卽位哭、三踊而出。依在國喪禮、設哭位、公薨故。
【読み】
位に卽きて哭し、三踊して出づ。國に在るの喪禮に依りて、哭位を設くるは、公薨ずる故なり。

遂奔齊。
【読み】
遂に齊に奔る。

書曰歸父還自晉、善之也。
【読み】
書して歸父晉より還ると曰うは、之を善してなり。



經十二年。儌。古堯反。○今本徼。成陳。直覲反。背盟。蒲對反。下注同。
傳。陴。徐扶移反。倪。五計反。故爲。于僞反。逵。求龜反。爾雅云、九達謂之逵。肉袒。徒旱反。所祐。音又。俘。芳夫反。囚也。海濱。音賓。翦。子淺反。前好。呼報反。注同。厲宣。鄭桓公友。周厲王之子。宣王之母弟。桓武。鄭武公。名滑突。桓公之子。不泯。徐亡軫反。要福。於遙反。將中。子匠反。下及注竝同。下沈尹將・將左・將右皆放此。先縠。戶木反。本又作穀。音同。焉用。於虔反。釁。許靳反。服云、閒也。而卒。子忽反。注同。乘。繩證反。注皆同。奸。音干。挾轅。一音古協反。幡。芳元反。見騎。其寄反。勁。吉政反。別也。彼列反。等差。初佳反。又初宜反。攻昧。音妹。侮亡。亡呂反。左相。息亮反。耆昧也。徐其夷反。老也。注及下同。無疆。居良反。軍帥。所類反。下及注有帥・元帥・三帥同。否臧。子郎反。故應。應對之應。壅。於勇反。本又作雍。注皆同。大咎。其九反。令鄭。力呈反。郔。音延。沈尹。音審。嬖。必計反。徐甫詣反。字林、方豉反。南郷。本又作嚮同。管。古緩反。陽管城。管叔所封也。本或作菅、古顏反、非也。使如。所吏反。驟。仕救反。紂。直九反。冒。莫報反。縷。力主反。箴。章金反。匱。其位反。要也。一遙反。一卒。子忽反。注同。五乘。繩證反。下同。復以。扶又反。下不復逐同。序當其次。一本作序當其夜。○今本亦同。小宰。詩照反。注及下同。夾輔。古洽反。舊古協反。毋廢。音無。候人。戶豆反。諂。勅檢反。羣帥。所類反。摩近。附近之近。示閒。音閑。從者。才用反。下從者同。請使。所吏反。及熒。戶扃反。○今本滎。於鮮。音仙。注同。二感。胡暗反。○今本憾。能好。呼報反。下同。喪師。息浪反。警。音景。徹去。起呂反。帥將。一音子匠反。七處。昌慮反。爲乘。繩證反。下三十乘・元戒十乘、幷注皆同。楚王更。音庚。迭。直結反。卒奔。子忽反。下及注同。掬。九六反。右拒。本亦作矩。四十乘。繩證反。下從之乘、幷注易乘同。萃。似醉反。脫扃。徐公冥反。不帆。本又作帊。普霸反。差輕。初賣反。二十乘。繩證反。老稱。尺證反。廚武。直誅反。擢。直角反。陂。彼宜反。將不。子匠反。重也。直用反。君盍。戶臘反。韜也。他刀反。鋪時。普吳反。徐音敷。繹。音亦。屢豐。力注反。注同。屢數。所角反。下數致同。暴骨。本或作曝。懲。直升反。慝。他得反。毋怙。音無。濮。音卜。國相。息亮反。下熊相同。下競。其敬反。宜僚。了彫反。言說。音悅。司馬卯。馬鮑反。以禦。魚呂反。下同。不解。音蟹。下同。眢井。字林、一皮反。拯。拯救之拯。注同。乃應。應對之應。無守。手又反。宋爲。于僞反。陳共。音恭。舊好。呼報反。欲背。音佩。十四年經注同。
經十三年。
傳。
累及。劣僞反。使人。所吏反。而亢。苦浪反。禦也。
經十四年。
傳。
以妻。七計反。爲邲。于僞反。閱。音悅。惡宋。一音烏洛反。聾。力工反。殺女。音汝。見犀。賢遍反。袂。面世反。袖。徐又反。屨。九具反。窒皇。門閾。賄。呼罪反。公說。音悅。
經十五年。潞。音路。別種。章勇反。王札子。徐側乙反。倒札。丁老反。螽。音終。稅。始銳反。復十。扶又反。
傳。度時。待洛反。藪。素口反。匿瑕。女力反。含垢。古口反。本或作詬。徐云、亦音垢。爲說。于僞反。解揚。音蟹。無降。戶江反。櫓。音魯。女則。音汝。下注而女也同。廢隊。直類反。其守。手又反。將。子匠反。利道。音導。骸。本又作骨。公羊傳作骸。何休注云、骸骨也。爨。七亂反。斃。婢世反。酆。芳忠反。潞相。息亮反。耆酒。市志反。黎。禮兮反。顆。苦果反。復立。扶又反。雒。音洛。嬖。必計反。心以徇。似俊反。本或作必以爲殉。○今本亦同。其治。直吏反。下治命同。以亢。苦浪反。以瓜。古華反。衍。以善反。吾喪。息浪反。叔向。香丈反。也夫。音扶。俘。芳夫反。不敬。一本作而敖。魄。普白反。
經十六年。留吁。況于反。別種。章勇反。又幷。必政反。一音如字。宣謝。本又作榭。音同。○今本亦榭。
傳。鐸辰。待洛反。黻。音弗。將中。子匠反。大傅。音泰。注同。也夫。音扶。兢兢。居陵反。本亦作矜。諺。音彥。之難。乃旦反。注同。復亂。扶又反。殽。戶交反。烝。之承反。
經十七年。
傳。
跛而。波可反。不復。扶又反。下同。欒京廬。一音刀於反。盂。音于。卷楚。一音居免反。汲汲。音急。君好。呼報反。爲是。于僞反。犯難。乃旦反。將焉。於虔反。不拘。九于反。復爲。扶又反。者鮮。息淺反。如祉。音恥。鳩乎。本又作豸。注同。○今本亦豸。下鳩解同。鳩解。音蟹。此訓見方言。嘉好。呼報反。下同。
經十八年。子臧。子郎反。僭而。子念反。此徵。如字。明也。本又作懲。直升反。止也。○今本亦懲。魯竟也。音境。○今本也作外。
傳。爲質。音致。解緩。佳賣反。曰弑。音試。注同。弑字從式、殺字從殳。他皆放此。以別。彼列反。一朝。如字。卒暴。寸忽反。大援。于眷反。也夫。音扶。請爲。于僞反。介。音界。袒。音但。括髮。古活反。


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(引用文献)


江守孝三(Emori Kozo)