春秋左氏傳校本第十一
宣公 起十二年盡十八年
晉 杜氏 集解
唐 陸氏 音義
尾張 秦 鼎 校本
〔經〕十有二年、春、葬陳靈公。無傳。賊討國復、二十一月、然後得葬。
【読み】
〔經〕十有二年、春、陳の靈公を葬る。傳無し。賊討じ國復し、二十一月にして、然して後に葬ることを得たり。
楚子圍鄭。前年盟辰陵、而又徼事晉故。
【読み】
楚子鄭を圍む。前年辰陵に盟いて、又晉に事えんことを徼[もと]むる故なり。
夏、六月、乙卯、晉荀林父帥師及楚子戰于邲。晉師敗績。晉上軍成陳。故書戰。邲、鄭地。○邲、扶必反。一音弼。
【読み】
夏、六月、乙卯[きのと・う]、晉の荀林父師を帥いて楚子と邲[ひつ]に戰う。晉の師敗績す。晉の上軍陳を成す。故に戰を書す。邲は、鄭の地。○邲は、扶必反。一に音弼。
秋、七月。冬、十有二月、戊寅、楚子滅蕭。蕭、宋附庸國。十二月無戊寅。戊寅、十一月九日。
【読み】
秋、七月。冬、十有二月、戊寅[つちのえ・とら]、楚子蕭[しょう]を滅ぼす。蕭は、宋の附庸の國。十二月に戊寅無し。戊寅は、十一月九日。
晉人・宋人・衛人・曹人同盟于淸丘。晉・衛背盟。故大夫稱人。宋華椒承羣僞之言、以誤其國。宋雖有守信之善、而椒猶不免譏。淸丘、衛地。今在濮陽縣東南。
【読み】
晉人・宋人・衛人・曹人淸丘に同盟す。晉・衛盟に背く。故に大夫人と稱す。宋の華椒羣僞の言を承けて、以て其の國を誤る。宋信を守るの善有りと雖も、而れども椒猶譏りを免れず。淸丘は、衛の地。今濮陽縣の東南に在り。
宋師伐陳。衛人救陳。背淸丘之盟。
【読み】
宋の師陳を伐つ。衛人陳を救う。淸丘の盟に背く。
〔傳〕十二年、春、楚子圍鄭、旬有七日、鄭人卜行成。不吉。卜臨于大宮、臨、哭也。大宮、鄭祖廟。○臨、力鴆反。大、音泰。
【読み】
〔傳〕十二年、春、楚子鄭を圍むこと、旬有七日、鄭人成[たい]らぎを行わんことを卜す。不吉なり。大宮に臨し、臨は、哭すなり。大宮は、鄭の祖廟。○臨は、力鴆反。大は、音泰。
且巷出車卜。吉。出車於巷、示將見遷、不得安居。
【読み】
且巷に車を出ださんことを卜す。吉なり。車を巷に出だすは、將に遷されんとして、安居を得ざるを示すなり。
國人大臨、守陴者皆哭。陴、城上僻倪。皆哭、所以告楚窮也。○陴、音皮。僻、普計反。倪、音詣。
【読み】
國人大いに臨し、陴[ひ]を守る者皆哭す。陴は、城上の僻倪。皆哭するは、楚に窮まるを告ぐる所以なり。○陴は、音皮。僻は、普計反。倪は、音詣。
楚子退師。鄭人脩城。進復圍之、三月、克之。哀其窮哭。故爲退師。而猶不服。故復圍之九十日。○復、扶又反。
【読み】
楚子師を退く。鄭人城を脩む。進みて復之を圍み、三月にして、之に克つ。其の窮哭を哀れむ。故に爲に師を退く。而るに猶服せず。故に復之を圍むこと九十日。○復は、扶又反。
入自皇門、至于逵路。塗方九軌曰逵。
【読み】
皇門より入り、逵路[きろ]に至る。塗[みち]九軌を方[なら]ぶるを逵と曰う。
鄭伯肉袒牽羊以逆、肉袒牽羊、示服爲臣僕。
【読み】
鄭伯肉袒して羊を牽きて以て逆[むか]えて、肉袒して羊を牽くは、服して臣僕爲るを示すなり。
曰、孤不天、不爲天所祐。
【読み】
曰く、孤不天にして、天の爲に祐けられず。
不能事君、使君懷怒以及敝邑。孤之罪也。敢不唯命是聽。其俘諸江南、以實海濱、亦唯命。其翦以賜諸侯、使臣妾之、亦唯命。翦、削也。
【読み】
君に事うること能わずして、君をして怒りを懷きて以て敝邑に及ばしめり。孤の罪なり。敢えて唯命是れ聽かざらんや。其れ諸を江南に俘にして、以て海濱に實つとも、亦唯命のままなり。其れ翦[けず]りて以て諸侯に賜い、之に臣妾たらしむとも、亦唯命のままなり。翦は、削るなり。
若惠顧前好、楚・鄭世有盟誓之好。
【読み】
若し前好を惠顧し、楚・鄭世々盟誓の好有り。
徼福於厲・宣・桓・武、不泯其社稷、周厲王・宣王、鄭之所自出也。鄭桓公・武公、始封之賢君也。願楚要福于此四君、使社稷不滅。泯、猶滅也。○泯、彌忍反。
【読み】
福を厲・宣・桓・武に徼[もと]めんとして、其の社稷を泯[ほろ]ぼさずして、周の厲王・宣王は、鄭の自りて出づる所なり。鄭の桓公・武公は、始封の賢君なり。楚の福を此の四君に要めて、社稷をして滅ぼさざらしめんことを願う。泯は、猶滅ぼすのごとし。○泯は、彌忍反。
使改事君、夷於九縣、楚滅九國、以爲縣。願得比之。○九縣、莊十四年滅息、十六年滅鄧、僖五年滅弦、十二年滅黃、二十六年滅夔、文四年滅江、五年滅六、滅蓼、十六年滅庸。
【読み】
改めて君に事えしめて、九縣に夷[ひと]しくせば、楚九國を滅ぼして、以て縣とす。之に比することを得んことを願う。○九縣は、莊十四年息を滅ぼし、十六年鄧を滅ぼし、僖五年弦を滅ぼし、十二年黃を滅ぼし、二十六年夔を滅ぼし、文四年江を滅ぼし、五年六を滅ぼし、蓼を滅ぼし、十六年庸を滅ぼす。
君之惠也。孤之願也。非所敢望也。敢布腹心。君實圖之。
【読み】
君の惠みなり。孤の願いなり。敢えて望む所に非ざるなり。敢えて腹心を布く。君實に之を圖れ、と。
左右曰、不可許也。得國無赦。王曰、其君能下人。必能信用其民矣。庸可幾乎。
【読み】
左右曰く、許す可からざるなり。國を得て赦すこと無かれ、と。王曰く、其の君能く人に下る。必ず能く其の民を信用せん。庸[もっ]て幾[こいねが]う可けんや、と。
退三十里、而許之平。退一舍以禮鄭。○下、遐嫁反。幾、音冀。
【読み】
退くこと三十里にして、之に平らぎを許す。一舍を退きて以て鄭を禮す。○下は、遐嫁反。幾は、音冀。
潘尫入盟、子良出質。潘尫、楚大夫。子良、鄭伯弟。○尫、烏黃反。質、音致。
【読み】
潘尫[はんおう]入りて盟い、子良出でて質たり。潘尫は、楚の大夫。子良は、鄭伯の弟。○尫は、烏黃反。質は、音致。
夏、六月、晉師救鄭。荀林父將中軍。代郤缺。
【読み】
夏、六月、晉の師鄭を救う。荀林父中軍に將たり。郤缺に代わる。
先縠佐之。彘季代林父。
【読み】
先縠[せんこく]之に佐たり。彘季[ていき]林父に代わる。
士會將上軍。河曲之役、郤缺將上軍。宣八年、代趙盾爲政、將中軍。士會代將上軍。
【読み】
士會上軍に將たり。河曲の役に、郤缺上軍に將たり。宣八年に、趙盾に代わりて政を爲し、中軍に將たり。士會代わりて上軍に將たり。
郤克佐之。郤缺之子。代臾騈。○臾、羊朱反。騈、蒲邊反。
【読み】
郤克之に佐たり。郤缺の子。臾騈に代わる。○臾は、羊朱反。騈は、蒲邊反。
趙朔將下軍。代欒盾。
【読み】
趙朔下軍に將たり。欒盾に代わる。
欒書佐之。欒盾之子。代趙朔。
【読み】
欒書[らんしょ]之に佐たり。欒盾の子。趙朔に代わる。
趙括・趙嬰齊爲中軍大夫。括・嬰齊、皆趙盾異母弟。
【読み】
趙括・趙嬰齊中軍大夫爲り。括・嬰齊は、皆趙盾の異母弟。
鞏朔・韓穿爲上軍大夫。荀首・趙同爲下軍大夫。荀首、林父弟。同、趙嬰兄。○鞏、九勇反。
【読み】
鞏朔[きょうさく]・韓穿上軍大夫爲り。荀首・趙同下軍大夫爲り。荀首は、林父の弟。同は、趙嬰の兄。○鞏は、九勇反。
韓厥爲司馬。韓萬玄孫。
【読み】
韓厥司馬爲り。韓萬の玄孫。
及河、聞鄭旣及楚平、桓子欲還。曰、無及於鄭而勦民、焉用之。桓子、林父。勦、勞也。○勦、初交反。又子小反。
【読み】
河に及び、鄭旣に楚と平らぐと聞き、桓子還らんと欲す。曰く、鄭に及ぶこと無くして民を勦[つか]らさんこと、焉ぞ之を用いん。桓子は、林父。勦[そう]は、勞るるなり。○勦は、初交反。又子小反。
楚歸而動、不後。動兵伐鄭。
【読み】
楚歸りて動くとも、後れじ、と。兵を動かして鄭を伐つ。
隨武子曰、善。武子、士會。
【読み】
隨武子曰く、善し。武子は、士會。
會聞用師觀釁而動。釁、罪也。
【読み】
會聞く、師を用ゆるは釁[きん]を觀て動く。釁は、罪なり。
德刑政事典禮不易、不可敵也。不爲是征。言征伐爲有罪、不爲有禮。○爲、去聲。
【読み】
德刑政事典禮易わらざるには、敵す可からず。是が爲に征せず、と。言うこころは、征伐は有罪の爲にして、有禮の爲ならず。○爲は、去聲。
楚軍討鄭、怒其貳而哀其卑、叛而伐之、服而舍之。德刑成矣。伐叛、刑也。柔服、德也。二者立矣。
【読み】
楚軍の鄭を討ずる、其の貳を怒りて其の卑を哀れみ、叛きて之を伐ち、服して之を舍[ゆる]す。德刑成れり。叛を伐つは、刑なり。服を柔[やす]んずるは、德なり。二つの者立てり。
昔歲入陳、討徵舒。
【読み】
昔歲陳に入り、徵舒を討ず。
今茲入鄭、民不罷勞、君無怨讟、讟、謗也。○罷、音皮。讟、徒木反。
【読み】
今茲[ことし]鄭に入れども、民罷勞せず、君に怨讟[えんとく]無きは、讟は、謗りなり。○罷は、音皮。讟は、徒木反。
政有經矣。經、常也。
【読み】
政經有るなり。經は、常なり。
荆尸而舉、荆、楚也。尸、陳也。楚武王始更爲此陳法、遂以爲名。○此陳、直覲反。
【読み】
荆尸して舉し、荆は、楚なり。尸は、陳なり。楚の武王始めて更めて此の陳法を爲して、遂に以て名とす。○此陳は、直覲反。
商農工賈、不敗其業、而卒乘輯睦、步曰卒、車曰乘。○賈、音古。輯、音集。又七入反。
【読み】
商農工賈、其の業を敗らずして、卒乘輯睦するは、步を卒と曰い、車を乘と曰う。○賈は、音古。輯は、音集。又七入反。
事不奸矣。奸、犯也。
【読み】
事奸さざるなり。奸は、犯すなり。
蔿敖爲宰、擇楚國之令典、宰、令尹。蔿敖、孫叔敖。○蔿、于委反。
【読み】
蔿敖[いごう]宰と爲りて、楚國の令典を擇び、宰は、令尹。蔿敖は、孫叔敖。○蔿は、于委反。
軍行、右轅、左追蓐、在車右者、挾轅爲戰備、在左者、追求草蓐爲宿備。傳曰、令尹南轅。又曰、改乘轅。楚陳以轅爲主。○蓐、音辱。挾、胡牒反。又古洽反。
【読み】
軍行に、右は轅[えん]して、左は蓐[じょく]を追い、車の右に在る者は、轅を挾みて戰備を爲し、左に在る者は、草蓐を追求して宿の備えを爲す。傳に曰く、令尹轅を南にす、と。又曰く、乘轅を改む、と。楚の陳は轅を以て主とするなり。○蓐は、音辱。挾は、胡牒反。又古洽反。
前茅慮無、慮無、如今軍行、前有斥候蹋伏。皆持以絳及白爲幡、見騎賊舉絳幡、見步賊舉白幡、備慮有無也。茅、明也。或曰、時楚以茅爲旌識。○蹋、徒臘反。識、申志反。一音志。
【読み】
前は茅[あき]らかに無きに慮り、無きに慮るとは、今の軍行、前に斥候蹋伏[とうふく]有るが如し。皆持つに絳と白とを以て幡と爲し、騎賊を見れば絳幡を舉げ、步賊を見れば白幡を舉げて、有無に備慮するなり。茅は、明らかなり。或は曰く、時に楚茅を以て旌識と爲す、と。○蹋は、徒臘反。識は、申志反。一に音志。
中權、後勁、中軍制謀、後以精兵爲殿。○殿、丁練反。
【読み】
中は權して、後は勁[けい]をし、中軍は謀を制し、後は精兵を以て殿とす。○殿は、丁練反。
百官象物而動、軍政不戒而備、物、猶類也。戒、勑令。
【読み】
百官物に象りて動き、軍政戒めずして備わるは、物は、猶類のごとし。戒は、勑令。
能用典矣。
【読み】
能く典を用ゆるなり。
其君之舉也、内姓選於親、外姓選於舊。言親疎竝用。
【読み】
其の君の舉ぐるや、内姓は親に選び、外姓は舊に選ぶ。言うこころは、親疎竝び用ゆるなり。
舉不失德、賞不失勞、老有加惠、賜老則不計勞。
【読み】
舉德を失わず、賞勞を失わず、老に加惠有り、老に賜うは則ち勞を計らず。
旅有施舍、旅客來者、施之以惠、舍不勞役。
【読み】
旅に施舍有り、旅客の來る者、之に施すに惠を以てして、舍[ゆる]して勞役せしめず。
君子小人、物有服章、尊卑別也。
【読み】
君子小人、物服章有り、尊卑別る。
貴有常尊、賤有等威、威儀有等差。
【読み】
貴常尊有り、賤等威有るは、威儀等差有り。
禮不逆矣。
【読み】
禮逆わざるなり。
德立刑行、政成事時、典從禮順。若之何敵之。見可而進、知難而退、軍之善政也。兼弱攻昧、武之善經也。昧、昏亂。經、法也。
【読み】
德立ち刑行われ、政成り事時あり、典從い禮順う。之を若何ぞ之に敵せん。可を見て進み、難を知りて退くは、軍の善政なり。弱を兼ね昧を攻むるは、武の善經なり。昧は、昏亂。經は、法なり。
子姑整軍而經武乎。姑、且也。
【読み】
子姑く軍を整えて武を經せんか。姑は、且くなり。
猶有弱而昧者。何必楚。仲虺有言曰、取亂侮亡、兼弱也。仲虺、湯左相、薛之祖、奚仲之後。○虺、音卉。
【読み】
猶弱にして昧なる者有らん。何ぞ必ずしも楚のみならん。仲虺[ちゅうき]言えること有り曰く、亂を取り亡を侮るとは、弱を兼ぬるなり。仲虺は、湯の左相、薛の祖、奚仲の後。○虺は、音卉。
汋曰、於鑠王師、遵養時晦、汋、詩頌篇名。鑠、美也。言美武王能遵天之道、須暗昧者惡積而後取之。○汋、音酌。於、音烏。鑠、舒若反。
【読み】
汋[しゃく]に曰く、於[ああ]鑠[うつく]しきかな王の師、遵いて時[こ]の晦きを養うとは、汋は、詩の頌の篇の名。鑠は、美しきなり。言うこころは、武王能く天の道に遵い、暗昧なる者の惡積むを須ちて而して後に之を取るを美す。○汋は、音酌。於は、音烏。鑠は、舒若反。
耆昧也。耆、致也。致討於昧。○耆、音旨。
【読み】
昧に耆[いた]すなり。耆は、致すなり。討を昧に致す。○耆は、音旨。
武曰、無競惟烈。武、詩頌篇名。烈、業也。言武王兼弱取昧。故成無疆之業。
【読み】
武に曰く、競[かぎ]り無き惟れ烈、と。武は、詩の頌の篇の名。烈は、業なり。武王弱を兼ね昧を取る。故に無疆の業を成すを言う。
撫弱耆昧、以務烈所、可也。言當務從武王之功業、撫而取之。○烈所、絕句。
【読み】
弱を撫で昧に耆して、以て烈の所を務めんこと、可なり、と。言うこころは、當に務めて武王の功業に從いて、撫でて之を取るべし。○烈所は、絕句。
彘子曰、不可。彘子、先縠。
【読み】
彘子[ていし]曰く、不可なり。彘子は、先縠。
晉所以霸、師武臣力也。今失諸侯、不可謂力。有敵而不從、不可謂武。由我失霸、不如死。且成師以出、聞敵彊而退、非夫也。非丈夫。
【読み】
晉の霸たる所以は、師武に臣力むればなり。今諸侯を失わば、力むと謂う可からず。敵有りて從[お]わざれば、武と謂う可からず。我より霸を失わば、死するに如かず。且つ師を成して以て出でて、敵の彊きを聞きて退くは、夫に非ざるなり。丈夫に非ず。
命爲軍師、而卒以非夫、唯羣子能。我弗爲也。以中軍佐濟。佐、彘子所帥也。濟、渡河。
【読み】
命ぜられて軍師と爲りて、卒うるに非夫を以てせんこと、唯羣子は能くせん。我は爲さず、と。中軍の佐を以[い]て濟[わた]る。佐は、彘子が帥いる所なり。濟は、河を渡るなり。
知莊子曰、此師殆哉。莊子、荀首。○知、音智。
【読み】
知莊子曰く、此の師殆きかな。莊子は、荀首。○知は、音智。
周易有之、在師 坎下坤上、師。
【読み】
周易に之れ有り、師の 坎下坤上は、師。
之臨、兌下坤上、臨。師初六變而之臨。
【読み】
臨に之くに在りて、兌下坤上は、臨。師の初六變じて臨に之く。
曰、師出以律。否臧凶。此師卦初六爻辭。律、法。否、不也。○否、部鄙反。又方九反。
【読み】
曰く、師出だすに律を以てす。臧に否[あら]ざれば凶なり、と。此れ師卦の初六の爻辭。律は、法。否は、不なり。○否は、部鄙反。又方九反。
執事順成爲臧、逆爲否。今彘子逆命不順成。故應不臧之凶。
【読み】
事を執ること順成を臧と爲し、逆を否と爲す。今彘子命に逆いて順成ならず。故に不臧の凶に應ず。
衆散爲弱、坎爲衆。今變爲兌。兌、柔弱。
【読み】
衆散じて弱と爲り、坎を衆と爲す。今變じて兌と爲る。兌は、柔弱。
川壅爲澤。坎爲川。今變爲兌。兌爲澤。是川見壅。
【読み】
川壅[ふさ]がりて澤と爲る。坎を川と爲す。今變じて兌と爲る。兌を澤と爲す。是れ川壅がる。
有律以如己也。如、從也。法行則人從法。法敗則法從人。坎爲法象。今爲衆則散、爲川則壅。是失法之用、從人之象。
【読み】
律有れば以て己に如[したが]うなり。如は、從うなり。法行わるれば則ち人法に從う。法敗るれば則ち法人に從う。坎を法の象と爲す。今衆とすれば則ち散じ、川とすれば則ち壅がる。是れ法の用を失いて、人に從うの象なり。
故曰律。否臧且律竭也。竭、敗也。坎變爲兌。是法敗。
【読み】
故に律と曰う。臧に否ざれば且[まさ]に律竭[やぶ]れんとす。竭は、敗るなり。坎變じて兌と爲る。是れ法敗るるなり。
盈而以竭、夭且不整、所以凶也。水遇夭塞、不得整流、則竭涸也。○夭、於表反。
【読み】
盈ちて以て竭れ、夭[ふさ]がりて且整[とお]らざるは、凶なる所以なり。水夭塞に遇いて、整流するを得ざれば、則ち竭涸す。○夭は、於表反。
不行之謂臨。水變爲澤、乃成臨卦。澤不行之物。
【読み】
行かざる之を臨と謂う。水變じて澤と爲れば、乃ち臨の卦と成る。澤は行かざるの物なり。
有帥而不從、臨孰甚焉。此之謂矣。譬彘子之違命、亦不可行。
【読み】
帥有れども從わず、臨孰れか焉より甚だしからん。此を謂うなり。彘子の命に違うは、亦行く可からざるに譬う。
果遇必敗。遇敵。
【読み】
果たして遇わば必ず敗れん。敵に遇うなり。
彘子尸之。主此禍。
【読み】
彘子之を尸[つかさど]れり。此の禍を主る。
雖免而歸、必有大咎。爲明年、晉殺先縠傳。
【読み】
免れて歸ると雖も、必ず大咎有らん、と。明年、晉先縠を殺す爲の傳なり。
韓獻子謂桓子、獻子、韓厥。
【読み】
韓獻子桓子に謂いて、獻子は、韓厥。
曰、彘子以偏師陷、子罪大矣。子爲元帥。師不用命、誰之罪也。失屬亡師、爲罪已重。不如進也。令鄭屬楚。故曰失屬。彘子以偏師陷。故曰亡師。
【読み】
曰く、彘子偏師を以[い]て陷らば、子の罪大なり。子元帥爲り。師命を用いざるは、誰が罪ぞや。屬を失い師を亡[うしな]わば、罪爲ること已[はなは]だ重し。進むに如かざるなり。鄭をして楚に屬せしむ。故に屬を失うと曰う。彘子偏師を以て陷る。故に師を亡うと曰う。
事之不捷、惡有所分。捷、成也。
【読み】
事の捷[な]らざるも、惡分かる所有らん。捷は、成すなり。
與其專罪、六人同之、不猶愈乎。三軍皆敗、則六卿同罪、不得獨責元帥。
【読み】
其の罪を專らにせんよりは、六人之を同じくせんは、猶愈らざるや、と。三軍皆敗れば、則ち六卿罪を同じくして、獨り元帥を責むることを得ず。
師遂濟。
【読み】
師遂に濟る。
楚子北師次於郔。郔、鄭北地。
【読み】
楚子師を北にして郔[えん]に次[やど]る。郔は、鄭の北の地。
沈尹將中軍。沈或作寢。寢、縣也。今汝陰固始縣。
【読み】
沈尹中軍に將たり。沈或は寢に作る。寢は、縣なり。今の汝陰の固始縣。
子重將左。子反將右。將飮馬於河而歸。子反、公子側。○飮、於鴆反。
【読み】
子重左に將たり。子反右に將たり。將に馬に河に飮[みずか]いて歸らんとす。子反は、公子側。○飮は、於鴆反。
聞晉師旣濟、王欲還。嬖人伍參欲戰。參、伍奢之祖父。○參、七南反。
【読み】
晉の師旣に濟ると聞き、王還らんと欲す。嬖人伍參戰わんと欲す。參は、伍奢の祖父。○參は、七南反。
令尹孫叔敖弗欲、曰、昔歲入陳、今茲入鄭。不無事矣。戰而不捷、參之肉、其足食乎。參曰、若事之捷、孫叔爲無謀矣。不捷、參之肉、將在晉軍。可得食乎。令尹南轅反旆。回車南郷。旆、軍前大旗。○旆、蒲貝反。郷、許亮反。
【読み】
令尹孫叔敖欲せずして、曰く、昔歲陳に入り、今茲[ことし]鄭に入る。事無しとせず。戰いて捷らずんば、參が肉、其れ食うに足らんや、と。參曰く、若し事の捷らば、孫叔は謀無しとせん。捷らずんば、參が肉は、將に晉軍に在らんとす。食うことを得可けんや、と。令尹轅を南にして旆を反す。車を回して南に郷[む]かう。旆は、軍前の大旗。○旆は、蒲貝反。郷は、許亮反。
伍參言於王曰、晉之從政者新、未能行令。其佐先縠、剛愎不仁、未肯用命。愎、很也。○愎、皮逼反。很、胡墾反。
【読み】
伍參王に言いて曰く、晉の政に從う者新たにして、未だ令を行うこと能わず。其の佐先縠、剛愎[ごうひょく]不仁にして、未だ肯えて命を用いず。愎は、很[もと]るなり。○愎は、皮逼反。很は、胡墾反。
其三帥者、專行不獲、欲專其所行而不得。
【読み】
其の三帥の者、行いを專らにせんとして獲ず、其の行う所を專らにせんと欲して得ず。
聽而無上。衆誰適從。聽彘子・趙同・趙括、則爲軍無上令。衆不知所從。○適、丁歷反。
【読み】
聽けば上無しとす。衆誰にか適從せん。彘子・趙同・趙括に聽けば、則ち軍上令無しとす。衆從う所を知らず。○適は、丁歷反。
此行也、晉師必敗。且君而逃臣、若社稷何。王病之。告令尹、改乘轅而北之、次于管以待之。
【読み】
此の行や、晉の師必ず敗れん。且つ君にして臣に逃げば、社稷を若何、と。王之を病[うれ]う。令尹に告げて、乘轅を改めて之を北にし、管に次りて以て之を待つ。
晉師在敖・鄗之閒。滎陽京縣東北有管城。敖・鄗二山、在滎陽縣西北。○乘、繩證反。敖、五刀反。鄗、苦交反。
【読み】
晉の師敖・鄗[こう]の閒に在り。滎陽京縣の東北に管城有り。敖・鄗の二山は、滎陽縣の西北に在り。○乘は、繩證反。敖は、五刀反。鄗は、苦交反。
鄭皇戌使如晉師、曰、鄭之從楚、社稷之故也。未有貳心。楚師驟勝而驕、其師老矣。而不設備。子擊之。鄭師爲承、承、繼也。○戌、雖律反。
【読み】
鄭の皇戌[こうじゅつ]使いして晉の師に如きて、曰く、鄭の楚に從うは、社稷の故なり。未だ貳心有らず。楚の師驟[しば]々勝ちて驕り、其の師老[つか]れたり。而して備えを設けず。子之を擊て。鄭の師承を爲さば、承は、繼ぐなり。○戌は、雖律反。
楚師必敗。彘子曰、敗楚服鄭、於此在矣。必許之。
【読み】
楚の師必ず敗れん、と。彘子曰く、楚を敗り鄭を服せんこと、此に於て在り。必ず之を許せ、と。
欒武子曰、武子、欒書。○敗、必邁反。
【読み】
欒武子曰く、武子は、欒書。○敗は、必邁反。
楚自克庸以來、在文十六年。
【読み】
楚庸に克ちしより以來、文十六年に在り。
其君無日不討國人而訓之。討、治也。
【読み】
其の君日として國人を討[おさ]めて之を訓えざること無し。討は、治むるなり。
于民生之不易。禍至之無日。戒懼之不可以怠。于、曰也。○易、以豉反。
【読み】
于[いわ]く、民の生は易からず。禍の至るは日無し。戒懼して以て怠る可からず、と。于は、曰くなり。○易は、以豉反。
在軍、無日不討軍實而申儆之。軍實、軍器。○儆、敬領反。
【読み】
軍に在るときは、日として軍實を討めて之を申儆せざること無し。軍實は、軍器。○儆は、敬領反。
于勝之不可保。紂之百克、而卒無後。訓之以若敖・蚡冒篳路藍縷、以啓山林、若敖・蚡冒、皆楚之先君。篳路、柴車。藍縷、敝衣。言此二君勤儉以啓土。○蚡、扶粉反。篳、音必。藍、力甘反。
【読み】
于く、勝ちは保[たの]む可からず。紂は百たび克ちて、卒に後無かりき、と。之に訓うるに若敖・蚡冒が篳路[ひつろ]藍縷[らんる]にして、以て山林を啓きしを以てして、若敖・蚡冒は、皆楚の先君なり。篳路は、柴車。藍縷は、敝衣。此の二君勤儉にして以て土を啓くを言う。○蚡は、扶粉反。篳は、音必。藍は、力甘反。
箴之曰、民生在勤。勤則不匱。不可謂驕。箴、誡。
【読み】
之を箴[いまし]めて曰く、民生は勤に在り。勤むれば則ち匱[とぼ]しからず、と。驕ると謂う可からず。箴は、誡む。
先大夫子犯有言曰、師直爲壯、曲爲老。我則不德、而徼怨于楚。我曲楚直。不可謂老。不德、謂以力爭諸侯。徼、要也。
【読み】
先大夫子犯言えること有りて曰く、師は直きを壯と爲し、曲れるを老ゆると爲す、と。我れ則ち不德にして、怨みを楚に徼む。我は曲り楚は直し。老ゆると謂う可からず。不德とは、力を以て諸侯を爭うを謂う。徼は、要むるなり。
其君之戎、分爲二廣、君之親兵。○廣、古曠反。下同。
【読み】
其の君の戎、分けて二廣と爲し、君の親兵。○廣は、古曠反。下も同じ。
廣有一卒、卒偏之兩。十五乘爲一廣。司馬法、百人爲卒、二十五人爲兩、車十五乘爲大偏。今廣十五乘、亦用舊偏法、復以二十五人爲承副。
【読み】
廣に一卒有り、卒ごとに偏の兩あり。十五乘を一廣とす。司馬法に、百人を卒とし、二十五人を兩とし、車十五乘を大偏とす、と。今の廣も十五乘なれば、亦舊偏法を用ゆるに、復二十五人を以て承副とす。
右廣初駕、數及日中、左則受之、以至于昏。内官序當其夜、内官、近官。序、次也。
【読み】
右廣初めて駕して、數えて日中に及べば、左則ち之を受けて、以て昏に至る。内官序でて其の夜に當たり、内官は、近官。序は、次なり。
以待不虞。不可謂無備。
【読み】
以て不虞を待つ。備え無しと謂う可からず。
子良、鄭之良也。師叔、楚之崇也。師叔、潘尫。爲楚人所崇貴。
【読み】
子良は、鄭の良なり。師叔は、楚の崇なり。師叔は、潘尫。楚人の爲に崇貴せらる。
師叔入盟、子良在楚。楚・鄭親矣。來勸我戰、我克則來。不克遂往。以我卜也。鄭不可從。
【読み】
師叔入りて盟い、子良楚に在り。楚・鄭親し。來りて我に戰を勸むるは、我れ克たば則ち來らん。克たずんば遂に往かん。我を以て卜するなり。鄭には從う可からず、と。
趙括・趙同曰、率師以來、唯敵是求。克敵得屬、又何俟。必從彘子。得屬、服鄭。
【読み】
趙括・趙同曰く、師を率いて以て來るは、唯敵を是れ求めんとなり。敵に克ち屬を得んに、又何をか俟たん。必ず彘子に從わん、と。屬を得るとは、鄭を服するなり。
知季曰、原・屛、咎之徒也。知季、莊子也。原、趙同。屛、趙括。徒、黨也。○知、音智。荀首後爲知氏。屛、步丁反。
【読み】
知季曰く、原・屛は、咎の徒なり、と。知季は、莊子なり。原は、趙同。屛は、趙括。徒は、黨なり。○知は、音智。荀首後に知氏と爲る。屛は、步丁反。
趙莊子曰、欒伯善哉。莊子、趙朔。欒伯、武子。
【読み】
趙莊子曰く、欒伯善いかな。莊子は、趙朔。欒伯は、武子。
實其言、必長晉國。實、猶充也。言欒書之身行、能充此言、則當執晉國之政也。○長、丁丈反。行、下孟反。
【読み】
其の言を實[み]てば、必ず晉國に長たらん、と。實は、猶充つるのごとし。言うこころは、欒書の身行、能く此の言を充てば、則ち當に晉國の政を執るべし。○長は、丁丈反。行は、下孟反。
楚少宰如晉師、少宰、官名。
【読み】
楚の少宰晉の師に如きて、少宰は、官の名。
曰、寡君少遭閔凶、不能文。閔、憂也。
【読み】
曰く、寡君少[わか]くして閔凶に遭いて、文なること能わず。閔は、憂えなり。
聞二先君之出入此行也、二先君、楚成王・穆王。
【読み】
二先君の此の行に出入することを聞き、二先君は、楚の成王・穆王。
將鄭是訓定。豈敢求罪于晉。二三子無淹久。淹、留也。
【読み】
將に鄭を是れ訓定せんとするなり。豈敢えて罪を晉に求めんや。二三子淹久すること無かれ、と。淹は、留むるなり。
隨季對曰、昔平王命我先君文侯曰、與鄭夾輔周室、毋廢王命。今鄭不率。率、遵也。
【読み】
隨季對えて曰く、昔平王我が先君文侯に命じて曰く、鄭と周室を夾輔して、王命を廢つること毋かれ、と。今鄭率わず。率は、遵うなり。
寡君使羣臣問諸鄭。豈敢辱候人。候人、謂伺候望敵者。○伺、音司。一息嗣反。
【読み】
寡君羣臣をして諸を鄭に問わしむるのみ。豈敢えて候人を辱くせんや。候人は、伺候して敵を望む者を謂う。○伺は、音司。一に息嗣反。
敢拜君命之辱。彘子以爲諂、使趙括從而更之曰、行人失辭。言誤對。
【読み】
敢えて君命の辱きを拜す、と。彘子以て諂えりと爲して、趙括をして從[お]いて之を更めしめて曰く、行人辭を失えり。誤對を言う。
寡君使羣臣遷大國之跡於鄭。遷、徙也。
【読み】
寡君羣臣をして大國の跡を鄭より遷さしめんとす。遷は、徙[うつ]るなり。
曰、無辟敵。羣臣無所逃命。
【読み】
曰く、敵を辟くること無かれ、と。羣臣命を逃る所無し、と。
楚子又使求成于晉。晉人許之。
【読み】
楚子又成らぎを晉に求めしむ。晉人之を許す。
盟有日矣。有期日。
【読み】
盟日有り。期日有り。
楚許伯御樂伯、攝叔爲右、以致晉師。單車挑戰、又示不欲崇和、以疑晉之羣帥。○單、音丹。挑、徒了反。
【読み】
楚の許伯樂伯に御となり、攝叔右と爲りて、以て晉の師に致す。單車戰を挑むは、又和を崇ぶことを欲せざるを示して、以て晉の羣帥を疑わすなり。○單は、音丹。挑は、徒了反。
許伯曰、吾聞致師者、御靡旌、摩壘而還。靡旌、驅疾也。摩、近也。○摩、末多反。壘、力軌反。
【読み】
許伯曰く、吾れ聞く、師に致す者は、御は旌を靡[なび]かし、壘に摩して還る、と。旌を靡かすは、驅くるの疾きなり。摩は、近づくなり。○摩は、末多反。壘は、力軌反。
樂伯曰、吾聞致師者、左射以菆、左、車左也。菆、矢之善者。○射、食亦反。下同。菆、側留反。
【読み】
樂伯曰く、吾れ聞く、師に致す者は、左は射るに菆[しゅう]を以てし、左は、車左なり。菆は、矢の善き者。○射は、食亦反。下も同じ。菆は、側留反。
代御執轡、御下兩馬、掉鞅而還。兩、飾也。掉、正也。示閒暇。○兩、力掌反。或音亮。掉、徒弔反。又乃較反。鞅、於丈反。
【読み】
御に代わりて轡を執れば、御下りて馬を兩[かざ]り、鞅[おう]を掉[ただ]して還る、と。兩は、飾るなり。掉は、正すなり。閒暇を示すなり。○兩は、力掌反。或は音亮。掉は、徒弔反。又乃較反。鞅は、於丈反。
攝叔曰、吾聞致師者、右入壘、折馘、折馘、斷耳。○折、之設反。馘、古獲反。斷、音短。
【読み】
攝叔曰く、吾れ聞く、師に致す者は、右は壘に入りて、折馘[せっかく]し、折馘は、耳を斷つなり。○折は、之設反。馘は、古獲反。斷は、音短。
執俘而還。皆行其所聞而復。
【読み】
俘を執えて還る、と。皆其の聞く所を行いて復れり。
晉人逐之、左右角之。張兩角、從旁夾攻之。
【読み】
晉人之を逐い、左右之を角す。兩角を張り、旁より之を夾み攻む。
樂伯左射馬而右射人。角不能進。矢一而已。麋興於前。射麋麗龜。麗、著也。龜、背之隆高當心者。○麋、亡悲反。著、直略反。
【読み】
樂伯左に馬を射て右に人を射る。角進むこと能わず。矢一つのみ。麋[び]前に興る。麋を射て龜に麗[つ]く。麗は、著くなり。龜は、背の隆高にして心に當たる者。○麋は、亡悲反。著は、直略反。
晉鮑癸當其後。使攝叔奉麋獻焉、曰、以歲之非時、獻禽之未至。敢膳諸從者。鮑癸止之曰、其左善射。其右有辭。君子也。
【読み】
晉の鮑癸其の後に當たる。攝叔をして麋を奉じて獻ぜしめて、曰く、以[おも]うに、歲の時に非ざれば、獻禽の未だ至らざらんことを。敢えて諸を從者に膳す、と。鮑癸之を止めて曰く、其の左は善く射る。其の右は辭有り。君子なり、と。
旣免。止不復逐。
【読み】
旣に免[ゆる]す。止めて復逐わず。
晉魏錡求公族未得、錡、魏犫子。欲爲公族大夫。○錡、魚綺反。犫、尺周反。
【読み】
晉の魏錡公族を求めて未だ得ずして、錡は、魏犫[ぎしゅう]の子。公族大夫爲らんことを欲す。○錡は、魚綺反。犫は、尺周反。
而怒。欲敗晉師、請致師。弗許。請使。許之。遂往、請戰而還。楚潘黨逐之。及滎澤。見六麋、射一麋以顧獻、曰、子有軍事。獸人無乃不給於鮮。敢獻於從者。滎澤、在滎陽縣東。新殺爲鮮。見六得一、言其不如楚。○敗、必邁反。又如字。射、食亦反。
【読み】
怒る。晉の師を敗らんことを欲し、師に致さんと請う。許さず。使せんと請う。之を許す。遂に往き、戰を請いて還る。楚の潘黨之を逐う。滎澤に及ぶ。六麋を見、一麋を射て以て顧りみて獻じて、曰く、子軍事有り。獸人乃ち鮮を給せざること無からんか。敢えて從者に獻ず、と。滎澤は、滎陽縣の東に在り。新殺を鮮と爲す。六を見て一を得るは、其の楚に如かざるを言うなり。○敗は、必邁反。又字の如し。射は、食亦反。
叔黨命去之。叔黨、潘黨。潘尫之子。
【読み】
叔黨命じて之を去らしむ。叔黨は、潘黨。潘尫の子。
趙旃求卿未得、旃、趙穿子。
【読み】
趙旃[ちょうせん]卿を求むれども未だ得ず、旃は、趙穿の子。
且怒於失楚之致師者。請挑戰。弗許。請召盟。許之。與魏錡皆命而往。郤獻子曰、二憾往矣。獻子、郤克。
【読み】
且楚の師に致す者を失いしを怒る。戰を挑まんと請う。許さず。召して盟わんと請う。之を許す。魏錡と皆命ぜられて往く。郤獻子曰く、二憾往けり。獻子は、郤克。
弗備必敗。彘子曰、鄭人勸戰、弗敢從也。楚人求成、弗能好也。師無成命。多備何爲。士季曰、備之善。若二子怒楚、楚人乘我、喪師無日矣。乘、猶登也。
【読み】
備えずんば必ず敗れん、と。彘子曰く、鄭人戰を勸むれども、敢えて從わず。楚人成らぎを求むれども、好すること能わず。師成命無し。多く備うとも何をかせん、と。士季曰く、之に備うるは善し。若し二子楚を怒らせて、楚人我に乘らば、師を喪わんこと日無けん。乘は、猶登るのごとし。
不如備之。楚之無惡、除備而盟、何損於好。若以惡來、有備不敗。且雖諸侯相見、軍衛不徹、警也。徹、去也。
【読み】
之に備えんに如かず。楚の惡無くんば、備えを除きて盟わんも、何ぞ好に損せん。若し惡を以て來るも、備え有らば敗れじ。且つ諸侯相見ゆと雖も、軍衛徹[さ]らざるは、警なり、と。徹は、去るなり。
彘子不可。不肯設備。
【読み】
彘子可[き]かず。備えを設くるを肯わず。
士季使鞏朔・韓穿帥七覆于敖前。帥、將也。覆、爲伏兵七處。○覆、扶又反。將、如字。
【読み】
士季鞏朔・韓穿をして帥いて敖の前に七覆せしむ。帥は、將いるなり。覆は、伏兵を七處に爲すなり。○覆は、扶又反。將は、字の如し。
故上軍不敗。趙嬰齊使其徒先具舟于河。故敗而先濟。
【読み】
故に上軍敗れず。趙嬰齊其の徒をして先ず舟を河に具えしむ。故に敗れて先ず濟りぬ。
潘黨旣逐魏錡。言魏錡見逐而退。
【読み】
潘黨旣に魏錡を逐う。魏錡逐われて退くを言う。
趙旃夜至於楚軍、二人雖倶受命、而行不相隨。趙旃在後至。
【読み】
趙旃夜楚の軍に至り、二人倶に命を受くと雖も、行相隨わず。趙旃後に在りて至る。
席於軍門之外、使其徒入之。布席坐、示無所畏也。
【読み】
軍門の外に席して、其の徒をして之に入らしむ。席を布きて坐すは、畏るる所無きを示すなり。
楚子爲乘廣三十乘、分爲左右、右廣雞鳴而駕、日中而說、說、舍也。○說、舒銳反。下同。
【読み】
楚子乘廣三十乘を爲し、分けて左右と爲し、右廣雞鳴にして駕し、日中にして說[やど]れば、說は、舍るなり。○說は、舒銳反。下も同じ。
左則受之、日入而說。許偃御右廣。養由基爲右。彭名御左廣。屈蕩爲右。楚王更迭載之。故各有御右。○屈、居勿反。
【読み】
左則ち之を受け、日入りて說る。許偃右廣に御たり。養由基右爲り。彭名左廣に御たり。屈蕩右爲り。楚王更[かわるがわ]る迭[たが]いに之に載る。故に各々御右有り。○屈は、居勿反。
乙卯、王乘左廣、以逐趙旃。趙旃棄車而走林。屈蕩搏之、得其甲裳。下曰裳。○搏、音博。
【読み】
乙卯、王左廣に乘りて、以て趙旃を逐う。趙旃車を棄てて林に走る。屈蕩之を搏ちて、其の甲裳を得。下を裳と曰う。○搏は、音博。
晉人懼二子之怒楚師也、使軘車逆之。軘車、兵車名。○軘、徒溫反。
【読み】
晉人二子の楚の師を怒らさんことを懼るるや、軘車[とんしゃ]をして之を逆えしむ。軘車は、兵車の名。○軘は、徒溫反。
潘黨望其塵、使騁而告曰、晉師至矣。楚人亦懼王之入晉軍也、遂出陳。孫叔曰、進之。寧我薄人、無人薄我。詩云、元戎十乘、以先啓行、先人也。元戎、戎車在前也。詩、小雅。言王者軍行、必有戎車十乘、在前開道、先人爲備。○騁、勑景反。陳、直覲反。先人、去聲。下同。
【読み】
潘黨其の塵を望み、騁[は]せて告げしめて曰く、晉の師至れり、と。楚人も亦王の晉の軍に入らんことを懼るるや、遂に出でて陳す。孫叔曰く、之を進めよ。寧ろ我れ人に薄[せま]るも、人をして我に薄らすこと無かれ。詩に云う、元戎十乘、以て先ず行を啓くとは、人に先だつなり。元戎は、戎車の前に在るなり。詩は、小雅。王者の軍行、必ず戎車十乘有り、前に在りて道を開き、人に先だちて備えを爲すを言う。○騁[てい]は、勑景反。陳は、直覲反。先人は、去聲。下も同じ。
軍志曰、先人有奪人之心、薄之也。奪敵戰心。
【読み】
軍志に曰く、人に先だてば人の心を奪うこと有りとは、之に薄るなり、と。敵の戰心を奪う。
遂疾進師、車馳卒奔、乘晉軍。桓子不知所爲、鼓於軍中曰、先濟者有賞。中軍・下軍爭舟、舟中之指可掬也。兩手曰掬。
【読み】
遂に疾く師を進め、車馳せ卒奔り、晉の軍に乘ず。桓子爲さん所を知らず、軍中に鼓ちて曰く、先ず濟らん者は賞有らん、と。中軍・下軍舟を爭い、舟中の指掬[きく]す可し。兩手を掬と曰う。
晉師右移、上軍未動。言餘軍皆移去。惟上軍在。經所以書戰。言猶有陳。
【読み】
晉の師右は移れども、上軍は未だ動かず。言うこころは、餘軍皆移り去る。惟上軍のみ在り。經に戰を書す所以なり。猶陳有るを言うなり。
工尹齊將右拒卒、以逐下軍。工尹齊、楚大夫。右拒、陳名。○拒、音矩。下同。
【読み】
工尹齊右拒の卒を將いて、以て下軍を逐う。工尹齊は、楚の大夫。右拒は、陳の名。○拒は、音矩。下も同じ。
楚子使唐狡與蔡鳩居、告唐惠侯、二子、楚大夫。唐、屬楚之小國。義陽安昌縣東南有上唐郷。○狡、古卯反。
【読み】
楚子唐狡と蔡鳩居とをして、唐の惠侯に告げしめて、二子は、楚の大夫。唐は、楚に屬するの小國。義陽安昌縣の東南に上唐郷有り。○狡は、古卯反。
曰、不穀不德而貪、以遇大敵。不穀之罪也。然楚不克、君之羞也。敢藉君靈、以濟楚師。藉、猶假借也。
【読み】
曰く、不穀不德にして貪りて、以て大敵に遇えり。不穀の罪なり。然れども楚克たざるは、君の羞なり。敢えて君の靈を藉[か]りて、以て楚の師を濟[な]さん、と。藉は、猶假借のごとし。
使潘黨率游闕四十乘、游車補闕者。
【読み】
潘黨をして游闕四十乘を率いて、游車の闕を補う者。
從唐侯以爲左拒、以從上軍。駒伯曰、待諸乎。駒伯、郤克。上軍佐也。
【読み】
唐侯に從いて以て左拒爲らしめて、以て上軍を從[お]う。駒伯曰く、諸を待たんか、と。駒伯は、郤克。上軍の佐なり。
隨季曰、楚師方壯。若萃於我、吾師必盡。萃、集也。
【読み】
隨季曰く、楚の師方に壯なり。若し我に萃[あつ]まらば、吾が師必ず盡きん。萃は、集まるなり。
不如收而去之。分謗生民、不亦可乎。同奔爲分謗。不戰爲生民。
【読み】
如かじ、收めて之を去らんには。謗を分かち民を生かせんこと、亦可ならざるや、と。同じく奔るを謗を分かつとす。戰わざるを民を生かすとす。
殿其卒而退。不敗。以其所將卒、爲軍後殿。○殿、多練反。
【読み】
其の卒を殿にして退く。敗れず。其の將いる所の卒を以て、軍の後殿とす。○殿は、多練反。
王見右廣、將從之乘。屈蕩戶之曰、君以此始。亦必以終。戶、止。軍中易乘、則恐軍人惑。
【読み】
王右廣を見、將に之に從いて乘らんとす。屈蕩之を戶[とど]めて曰く、君此を以て始めり。亦必ず以て終われ、と。戶は、止む。軍中乘を易うれば、則ち軍人の惑わんことを恐るるなり。
*頭注に「按戶、或作尸、誤也。」とある。
自是楚之乘廣先左。以乘左得勝故。
【読み】
是れより楚の乘廣左を先にす。左に乘じて勝を得るを以ての故なり。
晉人或以廣隊、不能進。廣、兵車。○隊、直類反。
【読み】
晉人或は廣の隊[お]つるを以て、進むこと能わず。廣は、兵車。○隊は、直類反。
楚人惎之脫扃。惎、敎也。扃、車上兵闌。○惎、其器反。扃、古熒反。服云、扃、橫木校輪閒。一曰、車前橫木。西京賦云、旗不脫扃。薛綜云、扃、所以止旗也。
【読み】
楚人之に惎[おし]えて扃[けい]を脫さしむ。惎[き]は、敎ゆるなり。扃は、車上の兵闌。○惎は、其器反。扃は、古熒反。服云う、扃は、橫木輪閒を校ず、と。一に曰く、車前の橫木、と。西京賦云う、旗扃を脫せず、と。薛綜云う、扃は、旗を止むる所以、と。
少進、馬還。又惎之拔旆投衡。乃出。還、便旋不進。旆、大旗也。拔旗投衡上、使不帆風、差輕。○帆、凡劒反。本作帊。音怕。
【読み】
少しく進みて、馬還す。又之に惎えて旆を拔きて衡に投げしむ。乃ち出づ。還は、便旋して進まざるなり。旆は、大旗なり。旗を拔きて衡の上に投げ、風に帆せざらしめて、差[やや]輕し。○帆は、凡劒反。本帊[は]に作る。音怕。
顧曰、吾不如大國之數奔也。
【読み】
顧みて曰く、吾れ大國の數々奔るに如かざるなり、と。
趙旃以其良馬二、濟其兄與叔父、以他馬反。遇敵不能去、棄車而走林。逢大夫與其二子乘。逢、氏。○數、音朔。逢、音龐。蜀本作逄。
【読み】
趙旃其の良馬二を以て、其の兄と叔父とを濟し、他馬を以て反る。敵に遇いて去ること能わず、車を棄てて林に走る。逢大夫其の二子と乘る。逢は、氏。○數は、音朔。逢は、音龐[ほう]。蜀本逄[ほう]に作る。
謂其二子無顧。不欲見趙旃。
【読み】
其の二子に謂えらく、顧みること無かれ、と。趙旃を見んことを欲せず。
顧曰、趙傁在後。傁、老稱也。○傁、音叟。
【読み】
顧みて曰く、趙傁[ちょうそう]後に在り、と。傁は、老稱なり。○傁は、音叟。
怒之、使下。指木曰、尸女於是。授趙旃綏以免。明日以表尸之、表所指木、取其尸。○女、音汝。
【読み】
之を怒りて、下らしむ。木を指して曰く、女を是に尸せん、と。趙旃に綏を授けて以て免れしむ。明日表を以て之を尸すれば、指す所の木を表して、其の尸を取る。○女は、音汝。
皆重獲在木下。兄弟累尸而死。○重、平聲。
【読み】
皆重獲せられて木下に在り。兄弟尸を累ねて死す。○重は、平聲。
楚熊負羈囚知罃。知莊子以其族反之。負羈、楚大夫。知罃、知莊子之子。族、家兵。反、還戰。○罃、於耕反。還、音環。
【読み】
楚の熊負羈知罃[ちおう]を囚にす。知莊子其の族を以て之に反る。負羈は、楚の大夫。知罃は、知莊子の子。族は、家兵。反は、還りて戰うなり。○罃は、於耕反。還は、音環。
廚武子御。武子、魏錡。
【読み】
廚武子御たり。武子は、魏錡。
下軍之士多從之。知莊子、下軍大夫故。
【読み】
下軍の士多く之に從えり。知莊子は、下軍の大夫の故なり。
每射抽矢菆、納諸廚子之房。抽、擢也。菆、好箭。房、箭舍。○射、食夜反。又食亦反。菆、側留反。
【読み】
射る每に矢菆を抽[ぬ]き、諸を廚子の房に納る。抽は、擢[ぬ]くなり。菆は、好箭。房は、箭舍。○射は、食夜反。又食亦反。菆は、側留反。
廚子怒曰、非子之求、而蒲之愛。蒲、楊柳。可以爲箭。
【読み】
廚子怒りて曰く、子を之れ求むるに非ずして、蒲を之れ愛[おし]む。蒲は、楊柳。以て箭に爲る可し。
董澤之蒲、可勝旣乎。董澤、澤名。河東聞喜縣東北有董池陂。旣、盡也。○勝、音升。
【読み】
董澤の蒲、勝げて旣くす可けんや、と。董澤は、澤の名。河東聞喜縣の東北に董池陂有り。旣は、盡くすなり。○勝は、音升。
知季曰、不以人子、吾子其可得乎。吾不可以苟射故也。射連尹襄老、獲之、遂載其尸、射公子穀臣、囚之、以二者還。穀臣、楚王子。○射、食亦反。
【読み】
知季曰く、人の子を以てせざれば、吾が子其れ得可けんや。吾は以て苟も射る可からざる故なり。連尹襄老を射て、之を獲、遂に其の尸を載せ、公子穀臣を射て、之を囚え、二りの者を以[い]て還る。穀臣は、楚王の子。○射は、食亦反。
及昏、楚師軍於邲。晉之餘師不能軍。不能成營屯。
【読み】
昏に及びて、楚の師邲に軍す。晉の餘師軍すること能わず。營屯を成すこと能わず。
宵濟。亦終夜有聲。言其兵衆、將不能用。○將、子匠反。
【読み】
宵濟る。亦終夜聲有り。其の兵衆きとも、將用ゆること能わざるを言う。○將は、子匠反。
丙辰、楚重至於邲、重、輜重也。○重、直勇反。又直用反。輜、則其反。
【読み】
丙辰[ひのえ・たつ]、楚の重邲に至り、重は、輜重なり。○重は、直勇反。又直用反。輜は、則其反。
遂次于衡雍。潘黨曰、君盍築武軍、築軍營以彰武功。○雍、於用反。
【読み】
遂に衡雍に次る。潘黨曰く、君盍ぞ武軍を築きて、軍營を築きて以て武功を彰すなり。○雍は、於用反。
而收晉尸以爲京觀。積尸封土其上、謂之京觀。○觀、古亂反。下京觀同。
【読み】
晉の尸を收めて以て京觀を爲らざる。尸を積みて土を其の上に封ずる、之を京觀と謂う。○觀は、古亂反。下の京觀も同じ。
臣聞克敵、必示子孫、以無忘武功。楚子曰、非爾所知也。夫文、止戈爲武。文、字。
【読み】
臣聞く、敵に克てば、必ず子孫に示して、以て武功を忘るること無からしむ、と。楚子曰く、爾が知る所に非ざるなり。夫れ文に、戈を止むるを武と爲す。文は、字なり。
武王克商、作頌曰、載戢干戈、載櫜弓矢。戢、藏也。櫜、韜也。詩、美武王能誅滅暴亂而息兵。○戢、側立反。櫜、古刀反。
【読み】
武王商に克ち、頌を作りて曰く、載[すなわ]ち干戈を戢[おさ]め、載ち弓矢を櫜[つつ]む。戢[しゅう]は、藏むるなり。櫜[こう]は、韜[つつ]むなり。詩は、武王能く暴亂を誅滅して兵を息[とど]むるを美む。○戢は、側立反。櫜は、古刀反。
我求懿德、肆于時夏。允王保之。肆、遂也。夏、大也。言武王旣息兵、又能求美德。故遂大、而信王保天下。○夏、戶雅反。
【読み】
我れ懿德を求めて、肆[つい]に時[ここ]に于て夏[おお]いなり。允に王として之を保てり、と。肆は、遂になり。夏は、大いなり。武王旣に兵を息め、又能く美德を求む。故に遂に大いにして、信に王として天下を保てるを言う。○夏は、戶雅反。
又作武。其卒章曰、耆定爾功。武、頌篇名。耆、致也。言武王誅紂、致定其功。○耆、音旨。
【読み】
又武を作る。其の卒章に曰く、爾の功を定むることを耆[いた]す、と。武は、頌の篇の名。耆は、致すなり。武王紂を誅して、其の功を定むることを致すを言う。○耆は、音旨。
其三曰、鋪時繹思、我徂維求定。其三、三篇。鋪、布也。繹、陳也。時、是也。思、辭也。頌美武王能布政陳敎、使天下歸往求安定。
【読み】
其の三に曰く、鋪[し]きて時[こ]れ繹[つら]ぬれば、我れ徂[ゆ]きて維れ定まらんことを求む、と。其の三は、三篇。鋪は、布くなり。繹は、陳ぬるなり。時は、是れなり。思は、辭なり。武王能く政を布き敎えを陳ね、天下をして歸往して安定を求めしむるを頌美す。
其六曰、綏萬邦、屢豐年。其六、六篇。綏、安也。屢、數也。言武王旣安天下、數致豐年。此三六之數、與今詩頌篇次不同。蓋楚樂歌之次第。
【読み】
其の六に曰く、萬邦を綏[やす]んじて、屢[しば]々豐年なり、と。其の六は、六篇。綏は、安んずるなり。屢は、數々なり。武王旣に天下を安んじて、數々豐年を致すを言う。此の三六の數は、今の詩頌の篇次と同じからず。蓋し楚の樂歌の次第ならん。
夫武、禁暴、戢兵、保大、定功、安民、和衆、豐財者也。此武七德。
【読み】
夫れ武は、暴を禁じ、兵を戢め、大を保ち、功を定め、民を安んじ、衆を和らげ、財を豐かにする者なり。此れ武の七德。
故使子孫無忘其章。著之篇章、使子孫不忘。
【読み】
故に子孫をして其の章を忘るること無からしむ。之を篇章に著して、子孫をして忘れざらしむ。
今我使二國暴骨、暴矣。觀兵以威諸侯、兵不戢矣。暴而不戢。安能保大。猶有晉在。焉得定功。所違民欲猶多。民何安焉。無德而强爭諸侯。何以和衆。利人之幾、幾、危也。○暴骨、蒲卜反。焉得、於虔反。强、其丈反。
【読み】
今我れ二國をして骨を暴さしむるは、暴なり。兵を觀[しめ]して以て諸侯を威[おど]すは、兵戢まらざるなり。暴にして戢まらず。安ぞ能く大を保たん。猶晉の在る有り。焉ぞ功を定むることを得ん。民の欲に違う所猶多し。民何ぞ安んぜん。德無くして諸侯を强爭す。何を以て衆を和らげん。人の幾[あや]うきを利とし、幾は、危うきなり。○暴骨は、蒲卜反。焉得は、於虔反。强は、其丈反。
而安人之亂、以爲己榮。何以豐財。兵動則年荒。
【読み】
人の亂を安んじて、以て己が榮と爲す。何を以て財を豐かにせん。兵動けば則ち年荒る。
武有七德、我無一焉。何以示子孫。其爲先君宮、告成事而已。祀先君、告戰勝。
【読み】
武に七德有りて、我は一も無し。何を以て子孫に示さん。其れ先君の宮を爲り、成事を告げんのみ。先君を祀りて、戰勝を告ぐ。
武非吾功也。
【読み】
武は吾が功に非ざるなり。
古者明王伐不敬、取其鯨鯢而封之、以爲大戮。於是乎有京觀、以懲淫慝。鯨鯢、大魚名。以喩不義之人、呑食小國。○鯨、其京反。鯢、五兮反。
【読み】
古は明王不敬を伐てば、其の鯨鯢[けいげい]を取りて之を封じて、以て大戮と爲す。是に於て京觀有りて、以て淫慝を懲らす。鯨鯢は、大魚の名。以て不義の人、小國を呑食するに喩う。○鯨は、其京反。鯢は、五兮反。
今罪無所、晉罪無所犯也。
【読み】
今罪所無く、晉の罪犯す所無し。
而民皆盡忠、以死君命。又可以爲京觀乎。
【読み】
民皆忠を盡くして、以て君命に死せり。又以て京觀を爲す可けんや、と。
祀于河、作先君宮、告成事而還。傳言楚莊有禮、所以遂興。
【読み】
河を祀り、先君の宮を作り、成事を告げて還る。傳楚莊禮有り、遂に興る所以を言う。
是役也、鄭石制實入楚師。將以分鄭而立公子魚臣。辛未、鄭殺僕叔及子服。僕叔、魚臣也。子服、石制也。
【読み】
是の役や、鄭の石制實に楚の師を入れたり。將に以て鄭を分けて公子魚臣を立てんとす。辛未[かのと・ひつじ]、鄭僕叔と子服とを殺す。僕叔は、魚臣なり。子服は、石制なり。
君子曰、史佚所謂毋怙亂者、謂是類也。言恃人之亂以要利。○佚、音逸。怙、音戶。要、平聲。
【読み】
君子曰く、史佚が所謂亂を怙[たの]むこと毋かれとは、是の類を謂うなり。人の亂を恃みて以て利を要むるを言う。○佚は、音逸。怙は、音戶。要は、平聲。
詩曰、亂離瘼矣、爰其適歸。詩、小雅。離、憂也。瘼、病也。爰、於也。言禍亂憂病、於何所歸乎。歎之。○瘼、音莫。
【読み】
詩に曰く、亂離して瘼[や]まば、爰[いずく]に其れ適歸せんや、と。詩は、小雅。離は、憂えなり。瘼[ばく]は、病むなり。爰は、於なり。言うこころは、禍亂憂病は、何れの所に於て歸せんや。之を歎ずるなり。○瘼は、音莫。
歸於怙亂者也夫。恃亂則禍歸之。○夫、音扶。
【読み】
亂を怙む者に歸せんか、と。亂を恃めば則ち禍之に歸す。○夫は、音扶。
鄭伯・許男如楚。爲十四年、晉伐鄭傳。
【読み】
鄭伯・許男楚に如く。十四年、晉鄭を伐つ爲の傳なり。
秋、晉師歸。桓子請死。晉侯欲許之。士貞子諫曰、不可。貞子、士渥濁。○渥、於角反。
【読み】
秋、晉の師歸る。桓子死を請う。晉侯之を許さんと欲す。士貞子諫めて曰く、不可なり。貞子は、士渥濁。○渥は、於角反。
城濮之役、晉師三日穀、在僖二十八年。
【読み】
城濮の役に、晉の師三日穀せしに、僖二十八年に在り。
文公猶有憂色。左右曰、有喜而憂、如有憂而喜乎。言憂喜失時。
【読み】
文公猶憂色有り。左右曰く、喜び有りて憂えば、如し憂え有らば喜ばんか、と。憂喜時を失うを言う。
公曰、得臣猶在。憂未歇也。歇、盡也。○歇、許謁反。
【読み】
公曰く、得臣猶在り。憂え未だ歇[つ]きざるなり。歇[けつ]は、盡くすなり。○歇は、許謁反。
困獸猶鬭。況國相乎。及楚殺子玉、子玉、得臣。
【読み】
困獸も猶鬭う。況んや國相をや、と。楚の子玉を殺すに及びて、子玉は、得臣。
公喜而後可知也。喜見於顏色。○見、賢遍反。
【読み】
公の喜び而して後に知る可し。喜び顏色に見る。○見は、賢遍反。
曰、莫余毒也已。是晉再克、而楚再敗也。楚是以再世不競。成王至穆王。
【読み】
曰く、余を毒すること莫からんのみ、と。是れ晉は再び克ちて、楚は再び敗れたるなり。楚是を以て再世競わざりき。成王より穆王に至る。
今天或者大警晉也。警、戒也。
【読み】
今天或は大いに晉を警[いまし]むるならん。警は、戒むなり。
而又殺林父以重楚勝、其無乃久不競乎。林父之事君也、進思盡忠、退思補過。社稷之衛也。若之何殺之。夫其敗也、如日月之食焉。何損於明。晉侯使復其位。言晉景所以不失霸。○重、直用反。
【読み】
而るを又林父を殺して以て楚の勝を重ねば、其れ乃ち久しく競わざること無からんや。林父の君に事うるや、進みては忠を盡くさんことを思い、退きては過ちを補わんことを思う。社稷の衛りなり。之を若何ぞ之を殺さん。夫れ其の敗や、日月の食の如し。何ぞ明を損せん、と。晉侯其の位に復らしむ。晉景霸を失わざる所以を言う。○重は、直用反。
冬、楚子伐蕭。宋華椒以蔡人救蕭。蕭人囚熊相宜僚及公子丙。王曰、勿殺。吾退。蕭人殺之。王怒。遂圍蕭。蕭潰。
【読み】
冬、楚子蕭を伐つ。宋の華椒蔡人を以[い]て蕭を救う。蕭人熊相宜僚と公子丙とを囚う。王曰く、殺すこと勿かれ。吾れ退かん、と。蕭人之を殺す。王怒る。遂に蕭を圍む。蕭潰ゆ。
申公巫臣曰、師人多寒。王巡三軍、拊而勉之。拊撫慰勉之。○潰、戶内反。拊、芳甫反。
【読み】
申公巫臣曰く、師人多く寒[こご]えたり、と。王三軍を巡り、拊[な]でて之を勉む。之を拊撫慰勉す。○潰は、戶内反。拊は、芳甫反。
三軍之士、皆如挾纊。纊、綿也。言說以忘寒。○挾、戶牒反。纊、音曠。
【読み】
三軍の士、皆纊[わた]を挾むが如し。纊は、綿なり。說びて以て寒を忘るるを言う。○挾は、戶牒反。纊は、音曠。
遂傅於蕭。
【読み】
遂に蕭に傅[つ]く。
還無社與司馬卯言、號申叔展。還無社、蕭大夫。司馬卯・申叔展、皆楚大夫也。無社素識叔展。故因卯呼之。○傅、音附。還、音旋。號、戶到反。一戶刀反。
【読み】
還無社[せんむしゃ]と司馬卯[ぼう]と言[かた]り、申叔展を號[よ]ぶ。還無社は、蕭の大夫。司馬卯・申叔展は、皆楚の大夫なり。無社素叔展を識る。故に卯に因りて之を呼ぶ。○傅は、音附。還は、音旋。號は、戶到反。一に戶刀反。
叔展曰、有麥麴乎。曰、無。有山鞠窮乎。曰、無。麥麴・鞠窮、所以禦濕。欲使無社逃泥水中。無社不解。故曰無。軍中不敢正言。故謬誤。○麴、去六反。鞠、起弓反。
【読み】
叔展曰く、麥麴有りや、と。曰く、無し、と。山鞠窮有りや、と。曰く、無し、と。麥麴・鞠窮は、濕を禦ぐ所以なり。無社をして泥水中に逃げしめんと欲す。無社解せず。故に無しと曰う。軍中敢えて正言せず。故に謬誤す。○麴は、去六反。鞠は、起弓反。
河魚、腹疾柰何。叔展言、無禦濕藥將病。
【読み】
河魚たらば、腹疾を柰何せん。叔展言う、濕を禦ぐ藥無くば將に病まんとす、と。
曰、目於眢井而拯之。無社意解。欲入井。故使叔展視虛廢井、而求拯己。出溺爲拯。○眢、烏丸反。廢井也。字林云、井無水也。
【読み】
曰く、眢井[わんせい]を目[み]て之を拯[すく]え、と。無社意解す。井に入らんと欲す。故に叔展をして虛廢井を視せしめて、己を拯わんことを求む。溺を出だすを拯と爲す。○眢は、烏丸反。廢井なり。字林に云う、井水無きなり。
若爲茅絰。哭井則己。叔展又敎結茅以表井、須哭乃應、以爲信。○絰、直結反。己、音紀。舊音以。
【読み】
若[なんじ]茅絰を爲せ。井に哭せば則ち己なり。叔展又茅を結びて以て井に表し、哭を須ちて乃ち應じて、以て信と爲せよと敎ゆ。○絰は、直結反。己は、音紀。舊音以。
明日蕭潰。申叔視其井、則茅絰存焉。號而出之。號、哭也。傳言蕭人無守心。○號、戶刀反。
【読み】
明日蕭潰ゆ。申叔其の井を視れば、則ち茅絰存せり。號びて之を出だせり。號は、哭すなり。傳蕭人守心無きを言う。○號は、戶刀反。
晉原縠・宋華椒・衛孔達・曹人同盟于淸丘。原縠、先縠。
【読み】
晉の原縠・宋の華椒・衛の孔達・曹人淸丘に同盟す。原縠は、先縠。
曰、恤病討貳。於是卿不書、不實其言也。宋伐陳、衛救之、不討貳也。楚伐宋、晉不救、不恤病也。
【読み】
曰く、病めるを恤え貳あるを討ぜん、と。是に於て卿書さざるは、其の言を實にせざればなり。宋陳を伐ち、衛之を救うは、貳あるを討ぜざるなり。楚宋を伐ちて、晉救わざるは、病めるを恤えざるなり。
宋爲盟故伐陳。陳貳於楚故。
【読み】
宋盟の爲の故に陳を伐つ。陳楚に貳ある故なり。
衛人救之。孔達曰、先君有約言焉。若大國討、我則死之。衛成公與陳共公有舊好。故孔達欲背盟救陳、而以死謝晉。爲十四年、衛殺孔達傳。○約、於妙反。又如字。
【読み】
衛人之を救う。孔達曰く、先君約言有り。若し大國討ぜば、我れ則ち之に死なん、と。衛の成公陳の共公と舊好有り。故に孔達盟を背き陳を救いて、死を以て晉に謝せんと欲す。十四年、衛孔達を殺す爲の傳なり。○約は、於妙反。又字の如し。
〔經〕十有三年、春、齊師伐莒。夏、楚子伐宋。秋、螽。無傳。爲災故書。
【読み】
〔經〕十有三年、春、齊の師莒を伐つ。夏、楚子宋を伐つ。秋、螽[しゅう]あり。傳無し。災いを爲す故に書す。
冬、晉殺其大夫先縠。書名、以罪討。
【読み】
冬、晉其の大夫先縠を殺す。名を書すは、罪を以て討ずればなり。
〔傳〕十三年、春、齊師伐莒、莒恃晉而不事齊故也。
【読み】
〔傳〕十三年、春、齊の師莒を伐つは、莒晉を恃みて齊に事えざる故なり。
夏、楚子伐宋、以其救蕭也。救蕭、在前年。
【読み】
夏、楚子宋を伐つは、其の蕭[しょう]を救うを以てなり。蕭を救うは、前年に在り。
君子曰、淸丘之盟、唯宋可以免焉。宋討陳之貳、今宋見伐、晉・衛不顧盟以恤宋。而經同貶宋大夫。傳嫌華椒之罪、累及其國。故曰唯宋可以免。
【読み】
君子曰く、淸丘の盟は、唯宋のみ以て免る可し、と。宋陳の貳あるを討ぜしに、今宋伐たれて、晉・衛盟を顧みて以て宋を恤えず。而るを經に同じく宋の大夫を貶す。傳華椒の罪、其の國に累及するに嫌あり。故に唯宋のみ以て免る可しと曰う。
秋、赤狄伐晉、及淸。先縠召之也。邲戰不得志。故召狄欲爲變。淸、一名淸原。
【読み】
秋、赤狄晉を伐ちて、淸に及ぶ。先縠が之を召[まね]けるなり。邲[ひつ]の戰に志を得ず。故に狄を召して變を爲さんと欲す。淸、一名は淸原。
冬、晉人討邲之敗與淸之師、歸罪於先縠而殺之、盡滅其族。
【読み】
冬、晉人邲[ひつ]の敗と淸の師とを討じて、罪を先縠に歸して之を殺し、盡く其の族を滅ぼす。
君子曰、惡之來也、己則取之、其先縠之謂乎。盡滅其族、爲誅已甚。故曰惡之來也。
【読み】
君子曰く、惡の來るや、己則ち之を取るとは、其れ先縠を謂うか、と。盡く其の族を滅ぼすは、誅爲ること已甚だし。故に惡の來ると曰うなり。
淸丘之盟、晉以衛之救陳也討焉。尋淸丘之盟以責衛。
【読み】
淸丘の盟もって、晉衛の陳を救うを以て討ず。淸丘の盟を尋[かさ]ねて以て衛を責む。
使人弗去、曰、罪無所歸、將加而師。孔達曰、苟利社稷、請以我說。欲自殺以說晉。○說、如字。又音悅。以說、音悅。又如字。
【読み】
使人去らずして、曰く、罪歸する所無くば、將に而[なんじ]に師を加えんとす、と。孔達曰く、苟も社稷に利あらば、請う我を以て說け。自殺して以て晉に說かんと欲す。○說は、字の如し。又音悅。以說は、音悅。又字の如し。
罪我之由。我則爲政、而亢大國之討。將以誰任。亢、禦也。謂禦宋討陳也。○任、音壬。
【読み】
罪は我に由れり。我れ則ち政を爲して、大國の討を亢[ふせ]げり。將誰を以て任ぜん。亢は、禦ぐなり。宋の陳を討ずるを禦ぐを謂うなり。○任は、音壬。
我則死之。爲明年、殺孔達傳。
【読み】
我れ則ち之に死なん、と。明年、孔達を殺す爲の傳なり。
〔經〕十有四年、春、衛殺其大夫孔達。書名、背盟于大國、罪之。
【読み】
〔經〕十有四年、春、衛其の大夫孔達を殺す。名を書すは、盟に大國に背くは、之を罪するなり。
夏、五月、壬申、曹伯壽卒。無傳。文十四年、盟新城。
【読み】
夏、五月、壬申[みずのえ・さる]、曹伯壽卒す。傳無し。文十四年、新城に盟う。
晉侯伐鄭。秋、九月、楚子圍宋。葬曹文公。無傳。
【読み】
晉侯鄭を伐つ。秋、九月、楚子宋を圍む。曹の文公を葬る。傳無し。
冬、公孫歸父會齊侯于穀。
【読み】
冬、公孫歸父齊侯に穀に會す。
〔傳〕十四年、春、孔達縊而死。衛人以說于晉而免。以殺告。故免于伐。○縊、一賜反。
【読み】
〔傳〕十四年、春、孔達縊れて死す。衛人以て晉に說きて免る。殺すを以て告ぐ。故に伐たるるを免る。○縊は、一賜反。
遂告于諸侯曰、寡君有不令之臣達、構我敝邑于大國。旣伏其罪矣。敢告。諸殺大夫亦皆告。
【読み】
遂に諸侯に告げて曰く、寡君不令の臣達という有り、我が敝邑を大國に構えり。旣に其の罪に伏せり。敢えて告ぐ、と。諸々大夫を殺すも亦皆告ぐ。
衛人以爲成勞、復室其子、以有平國之功、故以女妻之。○復、扶又反。
【読み】
衛人以て成勞ありと爲して、復其の子を室[めあ]わせ、國を平らぐるの功有るを以て、故に女を以て之に妻す。○復は、扶又反。
使復其位。襲父祿位。
【読み】
其の位に復らしむ。父の祿位を襲ぐ。
夏、晉侯伐鄭、爲邲故也。晉敗於邲、鄭遂屬楚。
【読み】
夏、晉侯鄭を伐つは、邲[ひつ]の爲の故なり。晉邲に敗れて、鄭遂に楚に屬す。
告於諸侯、蒐焉而還。蒐、簡閱車馬。○蒐、所留反。
【読み】
諸侯に告げて、蒐して還る。蒐は、車馬を簡閱するなり。○蒐は、所留反。
中行桓子之謀也。曰、示之以整、使謀而來。鄭人懼、使子張代子良于楚。十二年、子良質於楚。子張、穆公孫。○行、音杭。質、音致。
【読み】
中行桓子の謀なり。曰く、之に示すに整を以てして、謀りて來らしめん、と。鄭人懼れ、子張をして子良に楚に代わらしむ。十二年、子良楚に質たり。子張は、穆公の孫。○行は、音杭。質は、音致。
鄭伯如楚。謀晉故也。
【読み】
鄭伯楚に如く。晉の故を謀るなり。
鄭以子良爲有禮。故召之。有讓國之禮。
【読み】
鄭子良を以て禮有りと爲す。故に之を召す。國を讓るの禮有り。
楚子使申舟聘于齊。曰、無假道于宋。申舟、無畏。
【読み】
楚子申舟をして齊に聘せしむ。曰く、道を宋に假ること無かれ、と。申舟は、無畏。
亦使公子馮聘于晉、不假道于鄭。申舟以孟諸之役惡宋。文十年、楚子田孟諸、無畏抶宋公僕。○馮、皮氷反。惡、去聲。抶、勑乙反。
【読み】
亦公子馮をして晉に聘せしめ、道を鄭に假らざれという。申舟孟諸の役を以て宋に惡まる。文十年、楚子孟諸に田せしとき、無畏宋公の僕を抶[う]てり。○馮は、皮氷反。惡は、去聲。抶[ちつ]は、勑乙反。
曰、鄭昭、宋聾。昭、明也。聾、闇也。
【読み】
曰く、鄭は昭、宋は聾なり。昭は、明らかなり。聾は、闇きなり。
晉使不害。我則必死。王曰、殺女、我伐之。見犀而行。犀、申舟子。以子託王、示必死。○使、所吏反。
【読み】
晉の使いは害あらじ。我は則ち必ず死なん、と。王曰く、女を殺さば、我れ之を伐たん。犀を見えしめて行く。犀は、申舟の子。子を以て王に託して、必死を示す。○使は、所吏反。
及宋。宋人止之。華元曰、過我而不假道、鄙我也。鄙我、亡也。以我比其邊鄙、是與亡國同。○過、如字。又平聲。
【読み】
宋に及ぶ。宋人之を止む。華元曰く、我を過ぎて道を假らざるは、我を鄙にするなり。我を鄙にするは、亡びたるなり。我を以て其の邊鄙に比ぶるは、是れ國を亡ぶと同じ。○過は、字を如し。又平聲。
殺其使者、必伐我。伐我、亦亡也。亡一也。乃殺之。
【読み】
其の使者を殺さば、必ず我を伐たん。我を伐つも、亦亡びん。亡ぶるは一なり、と。乃ち之を殺す。
楚子聞之、投袂而起。投、振也。袂、袖也。
【読み】
楚子之を聞きて、袂を投じて起つ。投は、振るなり。袂は、袖なり。
屨及於窒皇、窒皇、寢門闕。○窒、直結反。
【読み】
屨[く]は窒皇[てっこう]に及び、窒皇は、寢門の闕。○窒は、直結反。
劒及於寢門之外、車及於蒲胥之市。
【読み】
劒は寢門の外に及び、車は蒲胥の市に及ぶ。
秋、九月、楚子圍宋。
【読み】
秋、九月、楚子宋を圍む。
冬、公孫歸父會齊侯于穀。見晏桓子與之言魯樂。桓子告高宣子、桓子、晏嬰父。宣子、高固。○樂、音洛。
【読み】
冬、公孫歸父齊侯に穀に會す。晏桓子を見て之と魯の樂しきを言う。桓子高宣子に告げて、桓子は、晏嬰の父。宣子は、高固。○樂は、音洛。
曰、子家其亡乎。懷於魯矣。子家、歸父字。懷、思也。
【読み】
曰く、子家は其れ亡びんか。魯を懷[おも]えり。子家は、歸父の字。懷は、思うなり。
懷必貪。貪必謀人。謀人、人亦謀己。一國謀之、何以不亡。爲十八年、歸父奔齊傳。
【読み】
懷えば必ず貪る。貪れば必ず人を謀る。人を謀れば、人も亦己を謀る。一國之を謀らば、何を以て亡びざらん、と。十八年、歸父齊に奔る爲の傳なり。
孟獻子言於公曰、臣聞小國之免於大國也、聘而獻物、物、玉帛皮幣也。
【読み】
孟獻子公に言いて曰く、臣聞く、小國の大國に免るるや、聘して物を獻ずれば、物は、玉帛皮幣なり。
於是有庭實旅百。主人亦設籩豆百品、實於庭以答賓。
【読み】
是に於て庭實旅百有り。主人も亦籩豆百品を設け、庭に實てて以て賓に答う。
朝而獻功、獻其治國、若征伐之功於牧伯。
【読み】
朝して功を獻ずれば、其の治國、若しくは征伐の功を牧伯に獻ずるなり。
於是有容貌・采章・嘉淑、而有加貨。容貌、威儀容顏也。采章、車服文章也。嘉淑、令辭稱讚也。加貨、命宥幣帛也。言往共則來報亦備。
【読み】
是に於て容貌・采章・嘉淑有りて、加貨有り。容貌は、威儀容顏なり。采章は、車服文章なり。嘉淑は、令辭稱讚なり。加貨は、命宥の幣帛なり。往くに共なれば則ち來報も亦備わるを言う。
謀其不免也。誅而薦賄、則無及也。薦、進也。言責而往、則不足解罪。
【読み】
其の免れざらんことを謀りてなり。誅[せ]められて賄を薦むれば、則ち及ぶこと無けん。薦は、進むなり。責められて往けば、則ち罪を解くに足らざるを言う。
今楚在宋。君其圖之。公說。爲明年、歸父會楚子傳。
【読み】
今楚宋に在り。君其れ之を圖れ、と。公說ぶ。明年、歸父楚子に會する爲の傳なり。
〔經〕十有五年、春、公孫歸父會楚子于宋。夏、五月、宋人及楚人平。平者、總言二國和。故不書其人。
【読み】
〔經〕十有五年、春、公孫歸父楚子に宋に會す。夏、五月、宋人楚人と平らぐ。平らぐとは、二國の和するを總べて言う。故に其の人を書さず。
六月、癸卯、晉師滅赤狄潞氏。以潞子嬰兒歸。潞、赤狄之別種。潞氏國。故稱氏。子、爵也。林父稱師、從告。
【読み】
六月、癸卯[みずのと・う]、晉の師赤狄潞氏を滅ぼす。潞子嬰兒を以[い]て歸る。潞は、赤狄の別種。潞は國を氏とす。故に氏を稱す。子は、爵なり。林父師と稱するは、告ぐるに從うなり。
秦人伐晉。無傳。
【読み】
秦人晉を伐つ。傳無し。
王札子殺召伯・毛伯。稱殺者名、兩下相殺之辭。兩下相殺、則殺者有罪。王札子、王子札也。蓋經文倒札字。○札、側八反。召、上照反。
【読み】
王札子召伯・毛伯を殺す。殺す者の名を稱するは、兩下相殺すの辭なり。兩下相殺すは、則ち殺す者罪有り。王札子は、王子札なり。蓋し經文札の字を倒ずるならん。○札は、側八反。召は、上照反。
秋螽。無傳。
【読み】
秋螽[しゅう]あり。傳無し。
仲孫蔑會齊高固于無婁。無傳。無婁、杞邑。
【読み】
仲孫蔑齊の高固に無婁に會す。傳無し。無婁は、杞の邑。
初稅畝。公田之法、十取其一。今又履其餘畝、復十收其一。故哀公曰、二吾猶不足。遂以爲常。故曰初。
【読み】
初めて畝に稅す。公田の法、十に其の一を取る。今又其の餘畝を履みて、復十に其の一を收む。故に哀公曰く、二にして吾れ猶足らず、と。遂に以て常とす。故に初めてと曰う。
冬、蝝生。螽子以冬生、遇寒而死。故不成螽。○蝝、悅全反。字林、尹絹反。
【読み】
冬、蝝[えん]生ず。螽子冬を以て生まれ、寒に遇いて死す。故に螽と成らず。○蝝は、悅全反。字林に、尹絹反。
饑。風雨不和、五稼不豐。
【読み】
饑ゆ。風雨和せず、五稼豐かならず。
〔傳〕十五年、春、公孫歸父會楚子于宋。終前年傳。
【読み】
〔傳〕十五年、春、公孫歸父楚子に宋に會す。前年の傳を終える。
宋人使樂嬰齊告急于晉。晉侯欲救之。伯宗曰、不可。伯宗、晉大夫。
【読み】
宋人樂嬰齊をして急を晉に告げしむ。晉侯之を救わんと欲す。伯宗曰く、不可なり。伯宗は、晉の大夫。
古人有言曰、雖鞭之長、不及馬腹。言非所擊。
【読み】
古人言えること有り曰く、鞭の長きと雖も、馬腹に及ぼさず、と。言うこころは、擊つ所に非ず。
天方授楚。未可與爭。雖晉之彊、能違天乎。諺曰、高下在心。度時制宜。
【読み】
天方に楚に授く。未だ與に爭う可からず。晉の彊きと雖も、能く天に違わんや。諺に曰く、高下心に在り。時を度りて宜を制す。
川澤納汙、受汙濁。○汙、音烏。
【読み】
川澤汙を納れ、汙濁を受く。○汙は、音烏。
山藪藏疾、山之有林藪、毒害者居之。
【読み】
山藪疾を藏[かく]し、山の林藪有る、毒害の者之に居る。
瑾瑜匿瑕、匿、亦藏也。雖美玉之質、亦或居藏瑕穢。○瑾、其靳反。瑜、羊朱反。
【読み】
瑾瑜[きんゆ]瑕を匿[かく]し、匿も、亦藏すなり。美玉の質と雖も、亦或は瑕穢を居藏す。○瑾は、其靳反。瑜は、羊朱反。
國君含垢。忍垢恥。
【読み】
國君垢[はじ]を含む、と。垢恥を忍ぶ。
天之道也。晉侯恥不救宋。故伯宗爲說小惡不損大德之喩。
【読み】
天の道なり。晉侯宋を救わざるを恥ず。故に伯宗爲に小惡は大德を損せざるの喩えを說く。
君其待之。待楚衰。
【読み】
君其れ之を待て、と。楚の衰うるを待つなり。
乃止。
【読み】
乃ち止む。
使解揚如宋、使無降楚。曰、晉師悉起。將至矣。鄭人囚而獻諸楚。楚子厚賂之、使反其言。反言晉不救。
【読み】
解揚をして宋に如かしめ、楚に降ること無からしむ。曰く、晉の師悉く起これり。將に至らんとす、と。鄭人囚えて諸を楚に獻ず。楚子厚く之に賂いて、其の言を反せしむ。晉救わずと反言せしむ。
不許。三而許之。登諸樓車、使呼宋人而告之。樓車、車上望櫓。
【読み】
許さず。三たびにして之を許す。諸を樓車に登せ、宋人を呼びて之を告げしむ。樓車は、車上の望櫓。
遂致其君命。楚子將殺之。使與之言曰、爾旣許不穀、而反之。何故。非我無信。女則棄之。速卽爾刑。對曰、臣聞之、君能制命爲義、臣能承命爲信、信載義而行之爲利。謀不失利、以衛社稷、民之主也。義無二信、欲爲義者、不行兩信。
【読み】
遂に其の君命を致す。楚子將に之を殺さんとす。之と言わしめて曰く、爾旣に不穀に許して、之を反す。何の故ぞ。我が信無きに非ず。女則ち之を棄てたり。速やかに爾の刑に卽け、と。對えて曰く、臣之を聞く、君能く命を制するを義と爲し、臣能く命を承くるを信と爲し、信義を載せて之を行うを利と爲す。謀利を失わずして、以て社稷を衛るは、民の主なり、と。義には二信無く、義を爲さんと欲する者は、兩信を行わず。
信無二命。欲行信者、不受二命。
【読み】
信には二命無し。信を行わんと欲する者は、二命を受けず。
君之賂臣、不知命也。受命以出、有死無霣。霣、廢隊也。○霣、于敏反。
【読み】
君の臣に賂うは、命を知らざるなり。命を受けて以て出づれば、死すること有るも霣[おと]すこと無し。霣[いん]は、廢隊なり。○霣は、于敏反。
又可賂乎。臣之許君、以成命也。成其君命。
【読み】
又賂う可けんや。臣の君に許せしは、以て命を成さんとなり。其の君命を成す。
死而成命、臣之祿也。寡君有信臣、己不廢命。
【読み】
死して命を成すは、臣の祿なり。寡君信臣有り、己命を廢てず。
下臣獲考、考、成也。
【読み】
下臣考[な]すことを獲ば、考は、成すなり。
死又何求。楚子舍之以歸。
【読み】
死して又何をか求めん。楚子之を舍[ゆる]して以て歸る。
夏、五月、楚師將去宋。在宋積九月、不能服宋故。
【読み】
夏、五月、楚の師將に宋を去らんとす。宋に在りて九月を積めども、宋を服すること能わざる故なり。
申犀稽首於王之馬前曰、無畏知死、而不敢廢王命。王棄言焉。王不能答。未服宋而去。故曰棄言。
【読み】
申犀王の馬前に稽首して曰く、無畏は死を知りて、而れども敢えて王命を廢せず。王は言を棄つ、と。王答うること能わず。未だ宋を服せずして去る。故に言を棄つと曰う。
申叔時僕。僕、御也。
【読み】
申叔時僕たり。僕は、御なり。
曰、築室反耕者、宋必聽命。從之。築室於宋、分兵歸田、示無去志。王從其言。
【読み】
曰く、室を築き耕者を反さば、宋必ず命を聽かん、と。之に從う。室を宋に築き、兵を分かちて田に歸すは、去志無きを示すなり。王其の言に從う。
宋人懼、使華元夜入楚師。登子反之牀、起之曰、寡君使元以病告。兵法、因其郷人而用之、必先知其守將・左右・謁者・門者・舍人之姓名、因而利道之。華元蓋用此術、得以自通。
【読み】
宋人懼れ、華元をして夜楚の師に入らしむ。子反の牀に登り、之を起こして曰く、寡君元をして病めるを以て告げしむ。兵法に、其の郷人に因りて之を用ゆれば、必ず先ず其の守將・左右・謁者・門者・舍人の姓名を知り、因りて之を利道す、と。華元蓋し此の術を用いて、以て自ら通ずることを得るならん。
曰、敝邑易子而食、析骸以爨。爨、炊也。○析、思歷反。骸、戶皆反。
【読み】
曰く、敝邑子を易えて食い、骸を析きて以て爨[かし]ぐ。爨[さん]は、炊ぐなり。○析は、思歷反。骸は、戶皆反。
雖然、城下之盟、有以國斃、不能從也。寧以國斃、不從城下盟。
【読み】
然りと雖も、城下の盟は、國を以て斃るること有りとも、從うこと能わざるなり。寧ろ國を以て斃るとも、城下の盟に從うことあらず。
去我三十里、唯命是聽。子反懼、與之盟而告王、退三十里。宋及楚平。華元爲質、盟曰、我無爾詐。爾無我虞。楚不詐宋。宋不備楚。盟不書、不告。○質、音致。
【読み】
我を去ること三十里ならば、唯命是を聽かん、と。子反懼れ、之と盟いて王に告げ、三十里を退く。宋楚と平らぐ。華元質と爲り、盟いて曰く、我れ爾を詐ること無けん。爾我を虞ること無かれ、と。楚宋を詐らず。宋楚に備えず。盟書さざるは、告げざればなり。○質は、音致。
潞子嬰兒之夫人、晉景公之姊也。酆舒爲政而殺之、又傷潞子之目。酆舒、潞相。
【読み】
潞子嬰兒の夫人は、晉の景公の姊なり。酆舒[ほうじょ]政を爲して之を殺し、又潞子の目を傷れり。酆舒は、潞の相。
晉侯將伐之。諸大夫皆曰、不可。酆舒有三雋才。雋、絕異也。言有才藝勝人者三。○雋、音俊。
【読み】
晉侯將に之を伐たんとす。諸大夫皆曰く、不可なり。酆舒に三雋才[しゅんさい]有り。雋は、絕異なり。才藝人に勝る者三つ有るを言う。○雋は、音俊。
不如待後之人。伯宗曰、必伐之。狄有五罪。雋才雖多、何補焉。不祀。一也。耆酒。二也。棄仲章而奪黎氏地。三也。仲章、潞賢人也。黎氏、黎侯國。上黨壺關縣有黎亭。○耆、市志反。
【読み】
後の人を待たんに如かず、と。伯宗曰く、必ず之を伐て。狄に五罪有り。雋才多しと雖も、何の補いあらん。祀らざる。一なり。酒を耆[この]む。二なり。仲章を棄てて黎氏の地を奪う。三なり。仲章は、潞の賢人なり。黎氏は、黎侯の國。上黨壺關縣に黎亭有り。○耆は、市志反。
虐我伯姬。四也。傷其君目。五也。怙其雋才、而不以茂德。茲益罪也。後之人、或者將敬奉德義以事神人、而申固其命。審其政令。
【読み】
我が伯姬を虐ぐ。四なり。其の君の目を傷る。五なり。其の雋才を怙みて、以て德を茂[つと]めず。茲れ罪を益すなり。後の人、或は將に德義を敬奉して以て神人に事えて、其の命を申固にせんとす。其の政令を審らかにす。
若之何待之。不討有罪、曰將待後。後有辭而討焉、毋乃不可乎。夫恃才與衆、亡之道也。商紂由之。故滅。由、用也。
【読み】
之を若何ぞ之を待たん。有罪を討ぜずして、將に後を待たんとすと曰う。後辭有りて討ぜば、乃ち不可なること毋からんや。夫れ才と衆とを恃むは、亡ぶるの道なり。商紂之を由[もち]いぬ。故に滅びたり。由は、用ゆるなり。
天反時爲災、寒暑易節。
【読み】
天時に反するを災と爲し、寒暑節を易う。
地反物爲妖、羣物失性。
【読み】
地物に反するを妖と爲し、羣物性を失う。
民反德爲亂。亂則妖災生。故文、反正爲乏。文、字。
【読み】
民德に反するを亂と爲す。亂るときは則ち妖災生ず。故に文に、正に反するを乏と爲す。文は、字なり。
盡在狄矣。
【読み】
盡く狄に在り、と。
晉侯從之。六月、癸卯、晉荀林父敗赤狄于曲梁。辛亥、滅潞。曲梁、今廣平曲梁縣也。書癸卯、從赴。
【読み】
晉侯之に從う。六月、癸卯、晉の荀林父赤狄を曲梁に敗る。辛亥[かのと・い]、潞を滅ぼす。曲梁は、今の廣平曲梁縣なり。癸卯と書すは、赴[つ]ぐるに從うなり。
酆舒奔衛。衛人歸諸晉。晉人殺之。
【読み】
酆舒衛に奔る。衛人諸を晉に歸[おく]る。晉人之を殺す。
王孫蘇與召氏・毛氏爭政、三人、皆王卿士。
【読み】
王孫蘇召氏・毛氏と政を爭い、三人は、皆王の卿士。
使王子捷殺召戴公及毛伯衛。王子捷、卽王札子。
【読み】
王子捷をして召戴公と毛伯衛とを殺さしむ。王子捷は、卽ち王札子。
卒立召襄。襄、召戴公之子。
【読み】
卒に召襄を立つ。襄は、召戴公の子。
秋、七月、秦桓公伐晉、次于輔氏。晉地。
【読み】
秋、七月、秦の桓公晉を伐ち、輔氏に次[やど]る。晉の地。
壬午、晉侯治兵于稷、以略狄土。略、取也。稷、晉地。河東聞喜縣西有稷山。壬午、七月二十九日。晉時新破狄、土地未安。權秦師之弱、故別遣魏顆距秦、而東行定狄地。
【読み】
壬午[みずのえ・うま]、晉侯稷に治兵して、以て狄の土を略[と]る。略は、取るなり。稷は、晉の地。河東聞喜縣の西に稷山有り。壬午は、七月二十九日。晉時に新たに狄を破り、土地未だ安んぜず。秦の師の弱きを權り、故に別に魏顆をして秦を距[ふせ]がしめて、東行して狄の地を定むるなり。
立黎侯而還。狄奪其地。故晉復立之。
【読み】
黎侯を立てて還る。狄其の地を奪う。故に晉復之を立つ。
及雒、魏顆敗秦師于輔氏、晉侯還、及雒也。雒、晉地。
【読み】
雒に及ぶとき、魏顆秦の師を輔氏に敗り、晉侯還りて、雒に及ぶなり。雒は、晉の地。
獲杜回。秦之力人也。
【読み】
杜回を獲たり。秦の力人なり。
初、魏武子有嬖妾、無子。武子疾。命顆曰、必嫁是。武子、魏犫。顆之父。
【読み】
初め、魏武子嬖妾有りて、子無し。武子疾む。顆に命じて曰く、必ず是を嫁せよ、と。武子は、魏犫[ぎしゅう]。顆の父。
疾病則曰、必以爲殉。及卒、顆嫁之曰、疾病則亂。吾從其治也。
【読み】
疾病なるときは則ち曰く、必ず以て殉とせよ、と。卒するに及びて、顆之を嫁がしめて曰く、疾病なれば則ち亂る。吾は其の治に從わん、と。
及輔氏之役、顆見老人結草以亢杜回。亢、禦也。
【読み】
輔氏の役に及びて、顆老人の草を結びて以て杜回を亢[ふせ]ぐを見る。亢は、禦ぐなり。
杜回躓而顚。故獲之。夜夢之、曰、余、而所嫁婦人之父也。而、女也。○躓、陟吏反。又丁四反。
【読み】
杜回躓きて顚る。故に之を獲たり。夜之を夢みらく、曰く、余は、而[なんじ]の嫁せし所の婦人の父なり。而は、女なり。○躓は、陟吏反。又丁四反。
爾用先人之治命。余是以報。傳舉此以示敎。
【読み】
爾先人の治命を用ゆ。余是を以て報ゆ、と。傳此を舉げて以て敎えを示す。
晉侯賞桓子狄臣千室。千家。
【読み】
晉侯桓子に狄の臣の千室を賞す。千家。
亦賞士伯以瓜衍之縣。士伯、士貞子。
【読み】
亦士伯を賞するに瓜衍[かえん]の縣を以てす。士伯は、士貞子。
曰、吾獲狄土、子之功也。微子、吾喪伯氏矣。伯、桓子字。邲之敗、晉侯將殺林父、士伯諫而止。
【読み】
曰く、吾れ狄の土を獲たるは、子の功なり。子微かりせば、吾れ伯氏を喪わん、と。伯は、桓子の字。邲の敗に、晉侯將に林父を殺さんとし、士伯諫めて止む。
羊舌職說是賞也、職、叔向父。○說、音悅。
【読み】
羊舌職是の賞を說びて、職は、叔向の父。○說は、音悅。
曰、周書所謂庸庸祗祗者、謂此物也夫。周書、康誥。庸、用也。祗、敬也。物、事也。言文王能用可用、敬可敬。
【読み】
曰く、周書に所謂庸[もち]うべきを庸い祗[つつし]むべきを祗むとは、此の物を謂うか。周書は、康誥。庸は、用ゆるなり。祗は、敬むなり。物は、事なり。文王能く用う可きを用い、敬む可きを敬むを言う。
士伯庸中行伯、言中行伯可用。
【読み】
士伯中行伯を庸いしめ、中行伯が用ゆ可きを言う。
君信之、亦庸士伯。此之謂明德矣。文王所以造周、不是過也。故詩曰、陳錫載周、能施也。錫、賜也。詩、大雅。言文王布陳大利、以賜天下。故能載行周道、福流子孫。○施、式豉反。
【読み】
君之を信じて、亦士伯を庸ゆ。此を之れ明德と謂う。文王の周を造りし所以も、是に過ぎざるなり。故に詩に曰く、陳錫して周を載すとは、能く施せるなり。錫は、賜うなり。詩は、大雅。文王大利を布陳して、以て天下に賜う。故に能く周道を載行して、福子孫に流るるを言う。○施は、式豉反。
*「載」について、頭注に「宋本、載作哉。」とある。「陳錫哉周」は「周に陳錫す」と読む。
率是道也、其何不濟。
【読み】
是の道に率わば、其れ何か濟[な]らざらん、と。
晉侯使趙同獻狄俘于周。不敬。劉康公曰、不及十年。原叔必有大咎。劉康公、王季子也。原叔、趙同也。
【読み】
晉侯趙同をして狄の俘を周に獻ぜしむ。不敬なり。劉康公曰く、十年に及ばずして。原叔必ず大咎有らん。劉康公は、王季子なり。原叔は、趙同なり。
天奪之魄矣。心之精爽、是謂魂魄。爲成八年、晉殺趙同傳。
【読み】
天之が魄を奪えり、と。心の精爽、是を魂魄と謂う。成八年、晉趙同を殺す爲の傳なり。
初稅畝。非禮也。穀出不過藉、周法、民耕百畝、公田十畝、借民力而治之、稅不過此。
【読み】
初めて畝に稅す。禮に非ざるなり。穀の出だすは藉に過ぎず、周法に、民百畝を耕して、公田十畝、民力を借りて之を治めば、稅此に過ぎず。
以豐財也。
【読み】
以て財を豐かにするなり。
冬、蝝生。饑、幸之也。蝝未爲災。而書之者、幸其冬生不爲物害。時歲雖饑、猶喜而書之。
【読み】
冬、蝝生ず。饑ゆるも、之を幸いとするなり。蝝未だ災を爲さず。而るを之を書すは、其の冬生じて物の害を爲さざるを幸いとす。時に歲饑ゆと雖も、猶喜びて之を書す。
〔經〕十有六年、春、王正月、晉人滅赤狄甲氏及留吁。甲氏・留吁、赤狄別種。晉旣滅潞氏、今又幷盡其餘黨。士會稱人、從告。
【読み】
〔經〕十有六年、春、王の正月、晉人赤狄の甲氏と留吁[りゅうく]とを滅ぼす。甲氏・留吁は、赤狄の別種。晉旣に潞氏を滅ぼし、今又其の餘黨を幷せ盡くす。士會人と稱するは、告ぐるに從うなり。
夏、成周宣榭火。傳例曰、人火之也。成周、洛陽。宣榭、講武屋。別在洛陽者。爾雅曰、無室曰榭。謂屋歇前。
【読み】
夏、成周の宣榭[せんしゃ]に火あり。傳例に曰く、人之を火[や]くなり、と。成周は、洛陽。宣榭は、武を講ずる屋。別に洛陽に在る者。爾雅に曰く、室無きを榭と曰う。屋前を歇[も]らすを謂う。
秋、郯伯姬來歸。冬、大有年。無傳。○郯、音談。
【読み】
秋、郯[たん]の伯姬來歸す。冬、大いに年有り。傳無し。○郯は、音談。
〔傳〕十六年、春、晉士會帥師滅赤狄甲氏及留吁・鐸辰。鐸辰不書、留吁之屬。
【読み】
〔傳〕十六年、春、晉の士會師を帥いて赤狄の甲氏と留吁・鐸辰とを滅ぼす。鐸辰書さざるは、留吁の屬なればなり。
三月、獻狄俘。獻于王也。
【読み】
三月、狄の俘を獻ず。王に獻ずるなり。
晉侯請于王、戊申、以黻冕命士會將中軍、且爲大傅。代林父將中軍、且加以大傅之官。黻冕、命卿之服。大傅、孤卿。
【読み】
晉侯王に請いて、戊申[つちのえ・さる]、黻冕[ふつべん]を以て士會に命じて中軍に將とし、且大傅と爲す。林父に代えて中軍に將とし、且加うるに大傅の官を以てす。黻冕は、命卿の服なり。大傅は、孤卿なり。
於是晉國之盜、逃奔于秦。羊舌職曰、吾聞之、禹稱善人、稱、舉也。
【読み】
是に於て晉國の盜、秦に逃奔す。羊舌職曰く、吾れ之を聞く、禹善人を稱[あ]げて、稱は、舉ぐるなり。
不善人遠。此之謂也夫。詩曰、戰戰兢兢、如臨深淵、如履薄冰、善人在上也。言善人居位、則無不戒懼。○遠、于萬反。
【読み】
不善人遠ざかる、と。此を謂うか。詩に曰く、戰戰兢兢として、深淵に臨むが如く、薄冰を履むが如しとは、善人上に在ればなり。善人位に居れば、則ち戒懼せざること無きを言う。○遠は、于萬反。
善人在上、則國無幸民。諺曰、民之多幸、國之不幸也。是無善人之謂也。
【読み】
善人上に在れば、則ち國に幸民無し。諺に曰く、民の多幸は、國の不幸なり、と。是れ善人無きを謂うなり、と。
夏、成周宣榭火、人火之也。凡火、人火曰火、天火曰災。
【読み】
夏、成周の宣榭に火あるは、人之を火[や]くなり。凡そ火、人火を火と曰い、天火を災と曰う。
秋、郯伯姬來歸、出也。
【読み】
秋、郯の伯姬來歸するは、出だされたるなり。
爲毛・召之難故、王室復亂。毛・召難、在前年。○爲、于僞反。
【読み】
毛・召の難の爲の故に、王室復亂る。毛・召の難は、前年に在り。○爲は、于僞反。
王孫蘇奔晉。晉人復之。毛・召之黨欲討蘇氏。故出奔。
【読み】
王孫蘇晉に奔る。晉人之を復す。毛・召の黨蘇氏を討ぜんと欲す。故に出奔す。
冬、晉侯使士會平王室。定王享之。原襄公相禮。原襄公、周大夫。相、佐也。○相、息亮反。
【読み】
冬、晉侯士會をして王室を平らげしむ。定王之を享す。原襄公禮を相[たす]く。原襄公は、周の大夫。相は、佐くなり。○相は、息亮反。
殽烝。烝、升也。升殽於俎。
【読み】
殽烝[こうじょう]あり。烝は、升すなり。殽を俎に升すなり。
武子私問其故。享當體薦。而殽烝。故怪問之。武、士會謚。季、其字。
【読み】
武子私かに其の故を問う。享は當に體薦なるべし。而して殽烝す。故に怪しみて之を問う。武は、士會の謚。季は、其の字。
王聞之、召武子曰、季氏而弗聞乎。王享有體薦。享則半解其體而薦之。所以示共儉。
【読み】
王之を聞きて、武子を召して曰く、季氏にして聞かざるか。王は享に體薦有り。享は則ち其の體を半解して之を薦む。共儉を示す所以なり。
宴有折俎。體解節折、升之於俎。物皆可食。所以示慈惠也。○折、之設反。
【読み】
宴に折俎有り。體解節折して、之を俎に升す。物皆食う可し。慈惠を示す所以なり。○折は、之設反。
公當享、卿當宴。王室之禮也。公謂諸侯。
【読み】
公は享に當たり、卿は宴に當たる。王室の禮なり、と。公は諸侯を謂う。
武子歸而講求典禮、以脩晉國之法。傳言典禮之廢久。
【読み】
武子歸りて典禮を講求して、以て晉國の法を脩めり。傳典禮の廢すること久しきを言う。
〔經〕十有七年、春、王正月、庚子、許男錫我卒。無傳。再與文同盟。○錫、星歷反。
【読み】
〔經〕十有七年、春、王の正月、庚子[かのえ・ね]、許男錫我[せきが]卒す。傳無し。再び文と同盟す。○錫は、星歷反。
丁未、蔡侯申卒。無傳。未同盟、而赴以名。丁未、二月四日。
【読み】
丁未[ひのと・ひつじ]、蔡侯申卒す。傳無し。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。丁未は、二月四日。
夏、葬許昭公。無傳。
【読み】
夏、許の昭公を葬る。傳無し。
葬蔡文公。無傳。
【読み】
蔡の文公を葬る。傳無し。
六月、癸卯、日有食之。無傳。不書朔、官失之。
【読み】
六月、癸卯[みずのと・う]、日之を食する有り。傳無し。朔を書さざるは、官之を失うなり。
己未、公會晉侯・衛侯・曹伯・邾子同盟于斷道。斷道、晉地。○斷、直管反。又音短。
【読み】
己未[つちのと・ひつじ]、公晉侯・衛侯・曹伯・邾子[ちゅし]に會して斷道に同盟す。斷道は、晉の地。○斷は、直管反。又音短。
秋、公至自會。無傳。
【読み】
秋、公會より至る。傳無し。
冬、十有一月、壬午、公弟叔肸卒。傳例曰、公母弟。○肸、許乙反。
【読み】
冬、十有一月、壬午[みずのえ・うま]、公の弟叔肸[しゅくきつ]卒す。傳例に曰く、公の母弟なり、と。○肸は、許乙反。
〔傳〕十七年、春、晉侯使郤克徵會于齊。徵、召也。欲爲斷道會。
【読み】
〔傳〕十七年、春、晉侯郤克をして會を齊に徵[め]さしむ。徵は、召すなり。斷道の會を爲さんと欲す。
齊頃公帷婦人使觀之。郤子登。婦人笑於房。跛而登階。故笑之。○頃、音傾。
【読み】
齊の頃公[けいこう]婦人に帷して之を觀せしむ。郤子登る。婦人房に笑う。跛して階を登る。故に之を笑う。○頃は、音傾。
獻子怒。出而誓曰、所不此報、無能涉河。不復渡河而東。
【読み】
獻子怒る。出でて誓いて曰く、此を報いざる所あらば、能く河を涉ること無からん、と。復河を渡りて東せじ。
獻子先歸、使欒京廬待命于齊、曰、不得齊事、無復命矣。欒京廬、郤克之介。使得齊之罪、乃復命。○廬、音盧。又音閭。
【読み】
獻子先ず歸り、欒京廬をして命を齊に待たしめて、曰く、齊の事を得ずんば、復命すること無かれ、と。欒京廬は、郤克の介。齊の罪を得て、乃ち復命せしむ。○廬は、音盧。又音閭。
郤子至、請伐齊。晉侯弗許。請以其私屬。又弗許。私屬、家衆也。爲成二年、戰于鞌傳。○鞌、音安。
【読み】
郤子至り、齊を伐たんと請う。晉侯許さず。其の私屬を以てせんと請う。又許さず。私屬は、家衆なり。成二年、鞌[あん]に戰う爲の傳なり。○鞌は、音安。
齊侯使高固・晏弱・蔡朝・南郭偃會。晏弱、桓子。○朝、如字。
【読み】
齊侯高固・晏弱・蔡朝・南郭偃をして會せしむ。晏弱は、桓子。○朝は、字の如し。
及斂盂、高固逃歸。聞郤克怒故。○斂、音廉。又力漸反。
【読み】
斂盂に及び、高固逃げ歸る。郤克が怒りを聞く故なり。○斂は、音廉。又力漸反。
夏、會于斷道、討貳也。盟于卷楚、卷楚、卽斷道。○卷、音權。又音捲。
【読み】
夏、斷道に會するは、貳あるを討ずるなり。卷楚に盟い、卷楚は、卽ち斷道なり。○卷は、音權。又音捲。
辭齊人。
【読み】
齊人を辭す。
晉人執晏弱于野王、執蔡朝于原、執南郭偃于溫。執三子、不書、非卿。野王縣、今屬河内。
【読み】
晉人晏弱を野王に執え、蔡朝を原に執え、南郭偃を溫に執う。三子を執ること、書さざるは、卿に非ざればなり。野王縣は、今河内に屬す。
苗賁皇使、見晏桓子。賁皇、楚鬭椒之子。楚滅鬭氏、而奔晉、食邑于苗地。晏弱時在野王。故因使而見之。○賁、扶云反。使、所吏反。
【読み】
苗賁皇[びょうふんこう]使いして、晏桓子を見る。賁皇は、楚の鬭椒の子。楚鬭氏を滅ぼして、晉に奔り、苗の地に食邑す。晏弱時に野王に在り。故に使いするに因りて之を見る。○賁は、扶云反。使は、所吏反。
歸。言於晉侯曰、夫晏子何罪。昔者諸侯事吾先君、皆如不逮。言汲汲也。○逮、音代。或大計反。
【読み】
歸る。晉侯に言いて曰く、夫の晏子何の罪ある。昔者[むかし]諸侯吾が先君に事えしは、皆逮ばざるが如くなりき。汲汲たるを言うなり。○逮は、音代。或は大計反。
舉言羣臣不信。諸侯皆有貳志。舉、亦皆也。
【読み】
舉[みな]言う、羣臣信あらず、と。諸侯皆貳志有り。舉も、亦皆なり。
齊君恐不得禮。不見禮待。
【読み】
齊君禮を得ざらんことを恐る。禮待せられず。
故不出、而使四子來。左右或沮之、沮、止也。○沮、在呂反。
【読み】
故に出でずして、四子をして來らしむ。左右或は之を沮[とど]めて、沮は、止むるなり。○沮は、在呂反。
曰、君不出、必執吾使。故高子及斂盂而逃。夫三子者曰、若絕君好、寧歸死焉。爲是犯難而來。吾若善逆彼、彼、齊三人。
【読み】
曰わん、君出でざれば、必ず吾が使を執えん、と。故に高子斂盂に及びて逃げぬ。夫の三子の者は曰く、若し君の好を絕たんより、寧ろ死に歸せん、と。是が爲に難を犯して來れり。吾れ若し善く彼を逆[むか]えば、彼は、齊の三人。
以懷來者。吾又執之、以信齊沮、吾不旣過矣乎。過而不改、而又久之、以成其悔、何利之有焉。使反者得辭、反者、高固。謂得不當來之辭。
【読み】
以て來る者を懷けん。吾れ又之を執えて、以て齊の沮むるを信にするは、吾れ旣に過たずや。過ちて改めずして、又之を久しくして、以て其の悔いを成さしめば、何の利か之れ有らん。反る者をして辭を得せしめて、反る者は、高固なり。當に來るべからざるの辭を得るを謂う。
而害來者、以懼諸侯。將焉用之。
【読み】
來る者を害して、以て諸侯を懼れしむ。將[はた]焉ぞ之を用いん、と。
晉人緩之。逸。緩、不拘執、使得逃去也。傳言晉不能脩禮、諸侯所以貳。
【読み】
晉人之を緩くす。逸る。緩は、拘執せずして、逃げ去ることを得せしむるなり。傳晉禮を脩むること能わず、諸侯貳ある所以を言う。
秋、八月、晉師還。
【読み】
秋、八月、晉の師還る。
范武子將老。老、致仕。初受隨。故曰隨武子。後更受范、復爲范武子。
【読み】
范武子將に老せんとす。老は、仕を致すなり。初め隨を受く。故に隨武子と曰う。後更めて范を受け、復范武子と爲る。
召文子曰、燮乎、吾聞之、喜怒以類者鮮、文子、士會之子。燮、其名。○燮、素協反。
【読み】
文子を召して曰く、燮[しょう]や、吾れ之を聞く、喜怒類を以てする者は鮮く、文子は、士會の子。燮は、其の名。○燮は、素協反。
易者實多。易、遷怒也。
【読み】
易うる者は實に多し、と。易は、怒りを遷すなり。
詩曰、君子如怒、亂庶遄沮。君子如祉、亂庶遄已。詩、小雅也。遄、速也。沮、止也。祉、福也。○遄、市專反。
【読み】
詩に曰く、君子如し怒らば、亂庶わくは遄[すみ]やかに沮[や]まん。君子如し祉[さいわい]せば、亂庶わくは遄やかに已まん、と。詩は、小雅なり。遄[せん]は、速やかなり。沮は、止むなり。祉は、福なり。○遄は、市專反。
君子之喜怒、以已亂也。弗已者、必益之。郤子其或者欲已亂於齊乎。不然、余懼其益之也。余將老。使郤子逞其志、庶有豸乎。豸、解也。欲使郤子從政、快志以止亂。○豸、直是反。或居牛反、非。
【読み】
君子の喜怒は、以て亂を已むるなり。已めざる者は、必ず之を益す。郤子其れ或は亂を齊に已めんと欲するか。然らずんば、余懼れらくは其れ之を益さんことを。余將に老せんとす。郤子をして其の志を逞しくせしめば、庶わくは豸[と]くること有らんか。豸[ち]は、解くなり。郤子をして政に從い、志を快くして以て亂を止めしめんと欲す。○豸は、直是反。或は居牛反とは、非なり。
爾從二三子、唯敬。二三子、晉諸大夫。
【読み】
爾二三子に從いて、唯敬せよ、と。二三子は、晉の諸大夫。
乃請老。郤獻子爲政。
【読み】
乃ち老を請う。郤獻子政を爲す。
冬、公弟叔肸卒。公母弟也。
【読み】
冬、公の弟叔肸卒す。公の母弟なり。
凡大子之母弟、公在曰公子、不在曰弟。以兄爲尊。
【読み】
凡そ大子の母弟、公在せば公子と曰い、在さざれば弟と曰う。兄を以て尊しと爲す。
凡稱弟、皆母弟也。此策書之通例也。庶弟不得稱公弟、而母弟或稱公子。若嘉好之事、則仍舊史之文。惟相殺害、然後據例以示義。所以篤親親之恩、崇友于之好。釋例論之備矣。
【読み】
凡そ弟と稱するは、皆母弟なり。此れ策書の通例なり。庶弟は公の弟と稱することを得ずして、母弟或は公子と稱す。嘉好の事の若きは、則ち舊史の文に仍る。惟相殺害すれば、然して後に例に據りて以て義を示す。親親の恩を篤くして、友于の好を崇ぶ所以なり。釋例之を論ずること備われり。
〔經〕十有八年、春、晉侯・衛世子臧伐齊。公伐杞。無傳。
【読み】
〔經〕十有八年、春、晉侯・衛の世子臧齊を伐つ。公杞を伐つ。傳無し。
夏、四月。秋、七月、邾人戕鄫子于鄫。傳例曰、自外曰戕。邾大夫就鄫殺鄫子。○戕、在良反。又在精反。鄫、才陵反。
【読み】
夏、四月。秋、七月、邾人[ちゅひと]鄫子[しょうし]を鄫に戕[そこな]う。傳例に曰く、外よりするを戕[しょう]と曰う。邾の大夫鄫に就きて鄫子を殺す。○戕は、在良反。又在精反。鄫は、才陵反。
甲戌、楚子旅卒。未同盟、而赴以名。吳・楚之葬、僭而不典。故絕而不書。同之夷蠻、以懲求名之僞。
【読み】
甲戌[きのえ・いぬ]、楚子旅卒す。未だ同盟せずして、赴[つ]ぐるに名を以てす。吳・楚の葬、僭にして典あらず。故に絕ちて書さず。之を夷蠻に同じくして、以て名を求むるの僞を懲らす。
公孫歸父如晉。冬、十月、壬戌、公薨于路寢。歸父還自晉、至笙。遂奔齊。大夫還、不書、春秋之常也。今書歸父還奔、善其能以禮退。不書族者、非常所及、今特書略之。笙、魯竟外。故不言出。○笙、音生。又勑貞反。案後音是依二傳文。
【読み】
公孫歸父晉に如く。冬、十月、壬戌[みずのえ・いぬ]、公路寢に薨ず。歸父晉より還り、笙[しょう]に至る。遂に齊に奔る。大夫の還るは、書さざるは、春秋の常なり。今歸父が還奔を書すは、其の能く禮を以て退くを善するなり。族を書さざるは、常の及ぶ所に非ざれば、今特に書すも之を略するなり。笙は、魯の竟外。故に出づると言わず。○笙は、音生。又勑貞反。案ずるに後の音は是れ二傳の文に依れり。
〔傳〕十八年、春、晉侯・衛大子臧伐齊、至于陽穀。齊侯會晉侯盟于繒。以公子彊爲質于晉。晉師還。蔡朝・南郭偃逃歸。晉旣與齊盟、守者解緩。故得逃。○繒、才陵反。
【読み】
〔傳〕十八年、春、晉侯・衛の大子臧齊を伐ち、陽穀に至る。齊侯晉侯に會して繒[しょう]に盟う。公子彊を以て晉に質と爲す。晉の師還る。蔡朝・南郭偃逃げ歸る。晉旣に齊と盟い、守者解緩す。故に逃ぐることを得たり。○繒は、才陵反。
夏、公使如楚乞師、欲以伐齊。公不事齊、齊與晉盟。故懼而乞師于楚。不書、微者行。
【読み】
夏、公楚に如きて師を乞わしめ、以て齊を伐たんと欲す。公齊に事えずして、齊晉と盟う。故に懼れて師を楚に乞う。書さざるは、微者行けばなり。
秋、邾人戕鄫子于鄫。
【読み】
秋、邾人鄫子を鄫に戕う。
凡自虐其君曰弑、自外曰戕。弑・戕、皆殺也。所以別内外之名。弑者、積微而起。所以相測量、非一朝一夕之漸。戕者、卒暴之名。
【読み】
凡そ自ら其の君を虐するを弑すと曰い、外よりするを戕うと曰う。弑・戕は、皆殺すなり。内外の名を別つ所以なり。弑は、微を積みて起こる。相測量する所以、一朝一夕の漸に非ず。戕は、卒暴の名。
楚莊王卒。
【読み】
楚の莊王卒す。
楚師不出。旣而用晉師、成二年、戰于鞌。是。
【読み】
楚の師出でず。旣にして晉の師を用いしかば、成二年、鞌[あん]に戰う。是れなり。
楚於是乎有蜀之役。在成二年冬。蜀、魯地。泰山博縣西北有蜀亭。
【読み】
楚是に於て蜀の役有りき。成二年冬に在り。蜀は、魯の地。泰山博縣の西北に蜀亭有り。
公孫歸父以襄仲之立公也、有寵。歸父、襄仲子。
【読み】
公孫歸父襄仲の公を立てんを以て、寵有り。歸父は、襄仲の子。
欲去三桓、以張公室。時三桓强、公室弱。故欲去之以張大公室。○去、起呂反。張、如字。一陟亮反。
【読み】
三桓を去てて、以て公室を張らんと欲す。時に三桓强く、公室弱し。故に之を去てて以て公室を張大にせんと欲す。○去は、起呂反。張は、字の如し。一に陟亮反。
與公謀而聘晉、欲以晉人去之。
【読み】
公と謀りて晉に聘し、晉人を以て之を去らんと欲す。
*「聘晉」は、漢籍國字解全書には「聘于晉」とある。
冬、公薨。季文子言於朝曰、使我殺適立庶、以失大援者、仲也夫。適、謂子惡。齊外甥。襄仲殺之而立宣公、南通於楚。旣不能固、又不能堅事齊・晉。故云失大援也。○適、丁歷反。
【読み】
冬、公薨ず。季文子朝に言いて曰く、我をして適を殺して庶を立て、以て大援を失わしむる者は、仲なるかな、と。適は、子惡を謂う。齊の外甥なり。襄仲之を殺して宣公を立て、南楚に通ず。旣に固きこと能わず、又齊・晉に堅事すること能わず。故に大援を失うと云うなり。○適は、丁歷反。
臧宣叔怒曰、當其時不能治也、後之人何罪。子欲去之、許請去之。宣叔、文仲子。武仲父。許、其名也。時爲司寇。主行刑。言子自以歸父害己、欲去者、許請爲子去之。
【読み】
臧宣叔怒りて曰く、其の時に當たりて治むること能わずして、後の人何の罪ある。子之を去らんと欲せば、許請う、之を去らん、と。宣叔は、文仲の子。武仲の父。許は、其の名なり。時に司寇爲り。刑を行うことを主る。子自ら歸父が己を害するを以て、去らんと欲する者ならば、許請う、子の爲に之を去らんとするを言う。
遂逐東門氏。襄仲居東門。故曰東門氏。
【読み】
遂に東門氏を逐う。襄仲東門に居る。故に東門氏と曰う。
子家還、及笙、子家、歸父字。
【読み】
子家還り、笙に及び、子家は、歸父の字。
壇帷、復命於介。除地爲壇、而張帷。介、副也。將去、使介反命於君。○壇、音善。
【読み】
壇帷し、介に復命す。地を除[はら]いて壇を爲りて、帷を張る。介は、副なり。將に去らんとして、介をして君に反命せしむ。○壇は、音善。
旣復命、袒括髮、以麻約髮。
【読み】
旣に復命して、袒括髮し、麻を以て髮を約す。
卽位哭、三踊而出。依在國喪禮、設哭位、公薨故。
【読み】
位に卽きて哭し、三踊して出づ。國に在るの喪禮に依りて、哭位を設くるは、公薨ずる故なり。
遂奔齊。
【読み】
遂に齊に奔る。
書曰歸父還自晉、善之也。
【読み】
書して歸父晉より還ると曰うは、之を善してなり。
宣
經十二年。儌。古堯反。○今本徼。成陳。直覲反。背盟。蒲對反。下注同。
傳。陴。徐扶移反。倪。五計反。故爲。于僞反。逵。求龜反。爾雅云、九達謂之逵。肉袒。徒旱反。所祐。音又。俘。芳夫反。囚也。海濱。音賓。翦。子淺反。前好。呼報反。注同。厲宣。鄭桓公友。周厲王之子。宣王之母弟。桓武。鄭武公。名滑突。桓公之子。不泯。徐亡軫反。要福。於遙反。將中。子匠反。下及注竝同。下沈尹將・將左・將右皆放此。先縠。戶木反。本又作穀。音同。焉用。於虔反。釁。許靳反。服云、閒也。而卒。子忽反。注同。乘。繩證反。注皆同。奸。音干。挾轅。一音古協反。幡。芳元反。見騎。其寄反。勁。吉政反。別也。彼列反。等差。初佳反。又初宜反。攻昧。音妹。侮亡。亡呂反。左相。息亮反。耆昧也。徐其夷反。老也。注及下同。無疆。居良反。軍帥。所類反。下及注有帥・元帥・三帥同。否臧。子郎反。故應。應對之應。壅。於勇反。本又作雍。注皆同。大咎。其九反。令鄭。力呈反。郔。音延。沈尹。音審。嬖。必計反。徐甫詣反。字林、方豉反。南郷。本又作嚮同。管。古緩反。滎陽管城。管叔所封也。本或作菅、古顏反、非也。使如。所吏反。驟。仕救反。紂。直九反。冒。莫報反。縷。力主反。箴。章金反。匱。其位反。要也。一遙反。一卒。子忽反。注同。五乘。繩證反。下同。復以。扶又反。下不復逐同。序當其次。一本作序當其夜。○今本亦同。小宰。詩照反。注及下同。夾輔。古洽反。舊古協反。毋廢。音無。候人。戶豆反。諂。勅檢反。羣帥。所類反。摩近。附近之近。示閒。音閑。從者。才用反。下從者同。請使。所吏反。及熒。戶扃反。○今本滎。於鮮。音仙。注同。二感。胡暗反。○今本憾。能好。呼報反。下同。喪師。息浪反。警。音景。徹去。起呂反。帥將。一音子匠反。七處。昌慮反。爲乘。繩證反。下三十乘・元戒十乘、幷注皆同。楚王更。音庚。迭。直結反。卒奔。子忽反。下及注同。掬。九六反。右拒。本亦作矩。四十乘。繩證反。下從之乘、幷注易乘同。萃。似醉反。脫扃。徐公冥反。不帆。本又作帊。普霸反。差輕。初賣反。二十乘。繩證反。老稱。尺證反。廚武。直誅反。擢。直角反。陂。彼宜反。將不。子匠反。重也。直用反。君盍。戶臘反。韜也。他刀反。鋪時。普吳反。徐音敷。繹。音亦。屢豐。力注反。注同。屢數。所角反。下數致同。暴骨。本或作曝。懲。直升反。慝。他得反。毋怙。音無。濮。音卜。國相。息亮反。下熊相同。下競。其敬反。宜僚。了彫反。言說。音悅。司馬卯。馬鮑反。以禦。魚呂反。下同。不解。音蟹。下同。眢井。字林、一皮反。拯。拯救之拯。注同。乃應。應對之應。無守。手又反。宋爲。于僞反。陳共。音恭。舊好。呼報反。欲背。音佩。十四年經注同。
經十三年。
傳。累及。劣僞反。使人。所吏反。而亢。苦浪反。禦也。
經十四年。
傳。以妻。七計反。爲邲。于僞反。閱。音悅。惡宋。一音烏洛反。聾。力工反。殺女。音汝。見犀。賢遍反。袂。面世反。袖。徐又反。屨。九具反。窒皇。門閾。賄。呼罪反。公說。音悅。
經十五年。潞。音路。別種。章勇反。王札子。徐側乙反。倒札。丁老反。螽。音終。稅。始銳反。復十。扶又反。
傳。度時。待洛反。藪。素口反。匿瑕。女力反。含垢。古口反。本或作詬。徐云、亦音垢。爲說。于僞反。解揚。音蟹。無降。戶江反。櫓。音魯。女則。音汝。下注而女也同。廢隊。直類反。其守。手又反。將。子匠反。利道。音導。骸。本又作骨。公羊傳作骸。何休注云、骸骨也。爨。七亂反。斃。婢世反。酆。芳忠反。潞相。息亮反。耆酒。市志反。黎。禮兮反。顆。苦果反。復立。扶又反。雒。音洛。嬖。必計反。心以徇。似俊反。本或作必以爲殉。○今本亦同。其治。直吏反。下治命同。以亢。苦浪反。以瓜。古華反。衍。以善反。吾喪。息浪反。叔向。香丈反。也夫。音扶。俘。芳夫反。不敬。一本作而敖。魄。普白反。
經十六年。留吁。況于反。別種。章勇反。又幷。必政反。一音如字。宣謝。本又作榭。音同。○今本亦榭。
傳。鐸辰。待洛反。黻。音弗。將中。子匠反。大傅。音泰。注同。也夫。音扶。兢兢。居陵反。本亦作矜。諺。音彥。之難。乃旦反。注同。復亂。扶又反。殽。戶交反。烝。之承反。
經十七年。
傳。跛而。波可反。不復。扶又反。下同。欒京廬。一音刀於反。盂。音于。卷楚。一音居免反。汲汲。音急。君好。呼報反。爲是。于僞反。犯難。乃旦反。將焉。於虔反。不拘。九于反。復爲。扶又反。者鮮。息淺反。如祉。音恥。鳩乎。本又作豸。注同。○今本亦豸。下鳩解同。鳩解。音蟹。此訓見方言。嘉好。呼報反。下同。
經十八年。子臧。子郎反。僭而。子念反。此徵。如字。明也。本又作懲。直升反。止也。○今本亦懲。魯竟也。音境。○今本也作外。
傳。爲質。音致。解緩。佳賣反。曰弑。音試。注同。弑字從式、殺字從殳。他皆放此。以別。彼列反。一朝。如字。卒暴。寸忽反。大援。于眷反。也夫。音扶。請爲。于僞反。介。音界。袒。音但。括髮。古活反。